説明

Porphyromonasgingivalis感染を診断および治療するための抗原複合体

本発明は、P. gingiralis由来の精製された多量体複合体を提供する。この複合体は、RgpA、KgpおよびHagAのそれぞれからの少なくとも1種のドメインを含み、約300kDaを超える分子量を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Porphyromonas gingivalis由来の多量体タンパク質複合体に関する。本発明はまた、この多量体複合体を得る方法、P. gingivalisに関連する歯周病を検出、予防および治療するための、この複合体およびその成分をベースとする医薬組成物ならびに関連作用物質を提供する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、歯の支持組織の、細菌に関連する炎症性疾患であり、非特異的かつ可逆的な歯肉組織の炎症である比較的軽症型の歯肉炎から、歯の支持構造の破壊を特徴とするより侵襲性の高い歯周炎まで様々である。歯周炎は、特定のグラム陰性菌の集合体(consortium)の歯肉下感染に関連し、この感染は、歯周組織の破壊を引き起こし、公衆衛生上大きな問題である。相当な関心を引いている1つの細菌はP. gingivalisである。というのも、この微生物の成人歯周炎病変からの回収率が歯肉下の嫌気的に培養可能な細菌叢の50%にまで達し得るが、P. gingivalisは健康部位からは稀にしかも少数しか回収されないからである。歯肉下プラーク中のP. gingivalisレベルは、歯周炎の重症度の上昇に関連して比例的に増大し、歯肉下の培養可能な微生物集団からのこの微生物の根絶に伴い疾患が寛解する。ヒト以外の霊長類において、P. gingivalisの歯肉下注入により歯周炎病変が進行することが実証されている。動物およびヒトの両方におけるこうした知見から、成人歯周炎の発症におけるP. gingivalisの主要な役割が示唆される。
【0003】
P. gingivalisは、黒色色素産生性、嫌気性、非糖分解性、タンパク質分解性グラム陰性桿菌であり、特定のアミノ酸の代謝からエネルギーを獲得する。この微生物は、鉄、優先的にはヘムまたはそのFe(III)酸化生成物であるヘミンの形の鉄を増殖の絶対必要条件としており、過剰ヘミン条件下で増殖させると、実験動物において強毒性である。P. gingivalisの病原性に、莢膜、アドヘシン、細胞毒および細胞外加水分解酵素を含めた多数の毒性因子が関与している。特に、プロテアーゼが、構造タンパク質および防御に関与する他のタンパク質を含め、広範囲にわたる宿主タンパク質を分解できることに大きな注目が集まっている。P. gingivalisのタンパク質分解活性の基質であることが示されているタンパク質には、I型およびIV型コラーゲン、フィブロネクチン、フィブリノゲン、ラミニン、補体および血漿凝固カスケードタンパク質、α1アンチトリプシン、α2マクログロブリン、アンチキモトリプシン、アンチトロンビンIII、抗プラスミン、シスタチンC、IgGならびにIgAが含まれる。この生物に関連する主要なタンパク質分解活性は、基質特異性によって定義されているが、「トリプシン様」であり、すなわちアルギニン残基およびリジン残基のカルボキシル側を切断し、コラーゲン分解性である。しかし、他のあまり重要ではない活性も報告されている。
【0004】
P. gingivalisのトリプシン様タンパク質分解活性は、補体を分解して生物活性を有するC5aを生成し、表面受容体を修飾することにより好中球の食細胞機能および他の機能を障害し、またフィブリノゲンの凝固する潜在能力を阻害して血漿凝固時間を延長することが示されている。また、P. gingivalisのトリプシン様タンパク質分解活性は、ヒトIgG1からFcフラグメントを生成して単核細胞からの前炎症性サイトカインの放出を刺激し、またカリクレイン/キニンカスケードの活性化による血管破裂および血管浸透強化に関連する。トリプシン様活性が低下したP. gingivalisの自然突然変異体、ならびにトリプシン様プロテアーゼインヒビターであるN-p-トシル-L-リジンクロロメチルケトンで処理した野生型細胞は、動物モデルにおいて無毒性である。さらに、制御されたヘミン過剰条件下で増殖させたP. gingivalisは、ヘミンを制限したがそれ以外は同一の条件下で増殖させた細胞と比較して、より高いトリプシン様活性およびより低いコラーゲン分解活性を発現し、マウスにおいて毒性が強いことが示された。
【0005】
無細胞培養液からP. gingivalisのトリプシン様プロテアーゼを精製し特徴付けるために相当の努力が尽くされてきた。Chenら、(1992) [J Biol Chem 267:18896〜18901頁]は、P. gingivalis H66の培養液から、Arg-gingipainと称される50kDaのアルギニン特異的チオールプロテアーゼを精製し特徴付けている。類似のアルギニン特異的チオールプロテアーゼがJP07135973で開示されており、そのアミノ酸配列がWO9507286およびKirszbaumら、1995 [Biochem Biophys Res Comm 207:424〜431頁]で開示されている。Pikeら、(1994) [J Biol Chem 269:406〜411頁]は、P. gingivalis H66の培養液から、Lys-gingipainと称される60kDaのリジン特異的システインプロテイナーゼを特徴付け、この酵素の部分的遺伝子配列がWO9511298で開示されており、WO9617936で完全に開示されている。さらに、アドヘシンドメインを含有するアルギニン特異的およびリジン特異的プロテアーゼの両方の300kDaの複合体を含む、P. gingivalisの細胞表面タンパク質複合体がUS 6,511,666で開示されている。
【特許文献1】JP07135973
【特許文献2】WO9507286
【特許文献3】WO9511298
【特許文献4】WO9617936
【特許文献5】US 6,511,666
【特許文献6】PaolettiおよびPanicali、米国特許第4603112号
【特許文献7】Stockerら、米国特許第5210035号
【特許文献8】Stockerら、米国特許第4837151号
【特許文献9】Stockerら、米国特許第4735801号
【特許文献10】WO98/49192
【非特許文献1】Chenら、(1992) [J Biol Chem 267:18896〜18901頁]
【非特許文献2】Kirszbaumら、1995 [Biochem Biophys Res Comm 207:424〜431頁]
【非特許文献3】Pikeら、(1994) [J Biol Chem 269:406〜411頁]
【非特許文献4】Thorpe's Dictionary of Applied Chemistry、第9巻、第4版、510〜511頁
【非特許文献5】CoxおよびCoulter 1992 [In: Wong WK (編) Animals parasite control utilising technology. Bocca Raton; CRC press, 1992; 49〜112頁]
【非特許文献6】Curtissら、1988、Vaccine 6: 155〜160頁
【非特許文献7】Mortzら(1996) [Electrophoresis 17:925〜31頁]
【非特許文献8】Norusis MJ (1993). SPPS for Windows: Base systems user's guide. Release 6.0 Chicago, Il, USA: SPSS Inc
【非特許文献9】Cohen J (1969). Statistical Power Analysis for the Behavioural Sciences. New York: Academic Press
【非特許文献10】Kesavaluら(1992) [Infect Immun 60:1455〜1464頁]
【非特許文献11】O'Brien-Simpson Nら(2000). Infect Immun 68:4055〜4063頁
【非特許文献12】Bakerら1994 [Arch Oral Biol 39:1035〜40頁]
【非特許文献13】O'Brien-Simpsonら(2000) Infect Immun 68: 2704〜2712頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、P. gingivalisから、RgpA、KgpおよびHagAのプロセシングされたドメインからなる多量体複合体を含む細胞表面関連複合体を抽出して、高分子量(>300kDa)のプロテイナーゼ/アドヘシン複合体を形成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、第1の態様において、本発明は、RgpA、KgpおよびHagAのそれぞれからの少なくとも1種のドメインを含み、約300kDaを超える分子量を有する、P. gingivalis由来の精製された多量体複合体に存する。
【0008】
好ましい実施形態において、この複合体は、約500kDaを超える、より好ましくは約800kDaを超える分子量を有する。
【0009】
第2の態様において、本発明は、RgpA、KgpおよびHagAのそれぞれからの少なくとも1種のドメインを含み、約300kDaを超える分子量を有する、P. gingivalis由来の精製された多量体複合体を得る方法を提供し、この方法は、該複合体をPorphyromonas gingivalis全細胞から界面活性剤によって抽出する工程を含む。
【0010】
好ましい実施形態において、この複合体を、イオン交換法または限外ろ過法およびダイアフィルトレーション法を使用してさらなる精製に供する。
【0011】
さらに好ましい実施形態において、界面活性剤はTriton X114である。
【0012】
好ましい実施形態において、Porphyromonas gingivalisは毒性株である。また、P. gingivalisが、高いアルギニンおよび/またはリジンタンパク質分解活性を有することも好ましい。
【0013】
第3の態様において、本発明は、Porphyromonas gingivalisに対する免疫応答を誘導する際に使用する組成物に存し、この組成物は、有効量の本発明の第1の態様に記載の複合体と、適したアジュバントおよび/または許容可能な担体とを含む。
【0014】
第4の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に記載の複合体に対して特異的な抗体を含む抗体調製物に存する。この抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であってよい。
【0015】
第5の態様において、本発明は、Porphyromonas gingivalisの感染を受けた対象を治療する方法に存し、この方法は、ある量の本発明の第4の態様に記載の抗体調製物を対象に投与する工程を含む。
【0016】
当分野の技術者には認識されているように、抗体調製物は、いくつかの任意の周知の経路によって投与することができるが、本明細書では、この調製物は経口投与することが好ましい。
【0017】
第6の態様において、本発明は、Porphyromonas gingivalisに個体が感染する可能性および/または疾患の重症度を低下させる方法に存し、この方法は、個体においてPorphyromonas gingivalisに対する免疫応答を誘導するのに有効な量の本発明の第3の態様に記載の組成物を個体に投与する工程を含む。
【0018】
本発明の第4の態様に記載の抗体は、使用に当たり、練歯磨剤、洗口液、粉歯磨剤、液体歯磨剤などの経口組成物、洗口剤、トローチ剤、チューインガム、歯科用軟膏、歯肉マッサージ用クリーム剤、含嗽用錠剤、乳製品、および他の食料品中に配合してもよい。
【0019】
別の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に記載の複合体または本発明の第4の態様に記載の抗体を使用することを特徴とする、Porphyromonas gingivalisが存在するかどうかを診断する方法を提供する。こうした方法は、例えば、酵素免疫測定法を含めた既知の技法を含む。
【0020】
本発明はまた、本発明の第1の態様に記載の複合体または本発明の第4の態様に記載の抗体を含む診断用キットを提供する。
【0021】
本発明はまた、Porphyromonas gingivalisの感染を受けたヒトおよび/または動物患者を治療する方法を提供し、この方法は、本発明の第3の態様に記載の組成物を前記患者に能動的に接種する工程、および/または本発明の第4の態様に記載の抗体を前記患者に受動的に接種する工程を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
口内細菌Porphyromonas gingivalisは、本明細書でRgpA-Kgp-HagA複合体または抗原複合体と称する、血球凝集素(アドヘシン)を有するArg特異的およびLys特異的チオールエンドペプチダーゼの300kDaを超える多量体タンパク質複合体として主要なトリプシン様プロテイナーゼをその細胞表面上に有している。この抗原複合体はP. gingivalis細胞から、界面活性剤による抽出または超音波処理、それに続く限外ろ過/ダイアフィルトレーションまたは陰イオン交換、およびLysセファロースまたはArgセファロースクロマトグラフィーによって精製することができる。抽出および精製された複合体は、300kDaを超える多量体タンパク質の凝集体である。
【0023】
300kDaを超えるRgpA-Kgp-HagAプロテイナーゼアドヘシン複合体は、本明細書では「抗原複合体」と称する。抗原複合体は、個々のドメインまたはプロセシングされたタンパク質上では現れない独特のエピトープを含有すると考えられている。すでに開示されている上述したアルギニン特異的およびリジン特異的チオールプロテアーゼは、「抗原複合体」の多くの特徴を示さず、現在のところ適用が限定されることが判明している。しかし、現在までに実施された実験において、抗原複合体は、診断用および免疫予防用生成物の開発に必要とされる特徴を示している。したがって、細胞表面から抽出された抗原複合体は、中和抗体を含有する経口組成物を介した受動免疫、およびワクチンの開発による診断法および中和反応のためには特に興味深い。
【0024】
したがって、第1の態様において、本発明は、RgpA、KgpおよびHagAのそれぞれからの少なくとも1種のドメインを含み、約300kDaを超える分子量を有する、P. gingivalis由来の精製された多量体複合体に存する。
【0025】
好ましい実施形態において、この複合体は、約500kDaを超える、より好ましくは約800kDaを超える分子量を有する。
【0026】
RgpAは、ドメインRgpAcat、RgpAA1、RgpAA2およびRgpAA3を含み、Kgpは、ドメインKgpcat、KgpA1およびKgpA2を含み、HagAは、ドメインHagAA1*、HagAA1**、HagAA2およびHagAA3を含む。P. gingivalisの標準株におけるこれらのポリプロテインの配列およびドメインの位置は、以下の通りである。
【0027】
Porphyromonas gingivalis由来のRgpAポリプロテイン
アクセッション番号; AAC18876
RgpAタンパク質ドメイン
【0028】
【表1】

【0029】
RgpAタンパク質配列:
【0030】
【化1】

【0031】
Porphyromonas gingivalis由来のKgpポリプロテイン
アクセッション番号; AAB60809
Kgpタンパク質ドメイン
【0032】
【表2】

【0033】
Kgpタンパク質配列:
【0034】
【化2】

【0035】
Porphyromonas gingivalis由来のHagAポリプロテイン
アクセッション番号; P59915
HagAタンパク質ドメイン
【0036】
【表3】

【0037】
HagAタンパク質配列:
【0038】
【化3】

【0039】
好ましい実施形態において、この複合体中に少なくとも7種のタンパク質が存在する。好ましい実施形態において、こうしたタンパク質は、Kgpcat、RgpAcat、RgpAA1、KgpA1、RgpAA3、KgpA3、HagAA3、HagAA1**、RgpAA2、KgpA2、HagAA2およびHagAA1からなる群から選択される。
【0040】
精製された抗原複合体は通常、酵素活性を有するので、使用のいくつかの場合に、チオールプロテイナーゼを不活性化することが好ましい。これは、いくつかの方法で、例えば、酸化、変異、または低分子量のインヒビターによって達成することができる。本明細書では、酸化による不活性化が好ましい。
【0041】
本明細書では、用語「精製された」は、抗原複合体が、P. gingivalis細胞を実質的に含まないようにその自然環境から取り出されたことを意味する。
【0042】
当分野の技術者に理解されているように、抗原複合体が好ましい分子量を有するために、抗原複合体は、RgpA、KgpAおよびHagAからの様々なドメインの複数コピーで構成されている。抗原複合体は、約223〜約294kDaのコア分子量を有し、300kDaを超える大きな凝集体を形成すると考えられている。
【0043】
抗原複合体を使用して、標準的な技法を用いることにより抗体を作製することができる。抗体の作製に使用される動物は、ウサギ、ヤギ、ニワトリ、ヒツジ、ウマ、ウシなどとすることができる。イムノアッセイにより複合体に対する高い抗体価が検出されると、動物から採血するかまたは卵もしくはミルクを採集し、標準的な技法を使用して血清を調製しかつ/または抗体を精製するか、あるいは標準的な技法を使用して脾臓細胞を骨髄腫細胞と融合することによりモノクローナル抗体を産生する。塩析、ゲルろ過、イオン交換および/またはアフィニティークロマトグラフィーなどにより、培養液もしくは腹水、血清、ミルクまたは卵から抗体(免疫グロブリン画分)を分離することができるが、塩析が好ましい。塩析法では、抗血清またはミルクを硫酸アンモニウムで飽和させて沈殿物を生成し、続いてこの沈殿物を生理食塩水に対して透析して、特異的な抗複合体抗体を有する精製された免疫グロブリン画分を得る。好ましい抗体は、ウマの抗血清ならびにウシの抗血清およびミルクから得られる。本発明において、不活性化した複合体で動物を免疫することによって得られた抗血清およびミルク中に含まれる抗体を経口組成物中に配合する。この場合、抗血清およびミルク、ならびに抗血清およびミルクから分離し精製した抗体を使用することもできる。こうした物質は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することもできる。複合体を中和し、それにより疾患を予防するために、複合体に対する抗体を、練歯磨剤、洗口液などの経口組成物中に使用することができる。抗複合体抗体は、チェアサイド(chair-side)酵素免疫測定法(ELISA)による歯肉下プラーク試料中のP. gingivalisの初期検出に使用することもできる。
【0044】
経口組成物としては、投与される上記抗体の量が0.0001〜50g/kg/日であり、上記抗体の含有量が組成物の0.0002〜10重量%、好ましくは0.002〜5重量%であることが好ましい。上記の血清またはミルク抗体を含有する本発明の経口組成物は、練歯磨剤、粉歯磨剤および液体歯磨剤を含めた歯磨剤、洗口剤、トローチ剤、歯周ポケット洗浄デバイス、チューインガム、歯科用軟膏、歯肉マッサージ用クリーム剤、含嗽用錠剤、乳製品ならびに他の食料品などの口内に適用可能な様々な形態で調製し使用することができる。本発明による経口組成物は、特定の経口組成物の種類および形態に応じて、追加の周知の成分をさらに含有させることもできる。
【0045】
本発明のいくつかの非常に好ましい形態において、経口組成物は、洗口液またはリンス液など、実質的に性状が液体のものであってもよい。このような調製物において、媒体は典型的には、下記の湿潤剤を含むことが望ましい水アルコール混合物である。通常、水対アルコールの重量比は、約1:1〜約20:1の範囲である。この種類の調製物中の水アルコール混合物の総量は典型的には、調製物の約70〜約99.9重量%の範囲である。アルコールは典型的には、エタノールまたはイソプロパノールである。エタノールが好ましい。
【0046】
本発明のこのような液体および他の調製物のpHは通常、約4.5〜約9の範囲であり、典型的には約5.5〜8の範囲である。pHは好ましくは、約6〜約8.0の範囲であり、好ましくは7.4である。pHは、酸(例えば、クエン酸または安息香酸)または塩基(例えば、水酸化ナトリウム)で調整するか、または緩衝化する(クエン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどで)ことができる。
【0047】
本発明の他の望ましい形態である経口組成物は、粉歯磨剤、歯科用錠剤または歯磨剤、すなわち練歯磨剤(歯科用クリーム剤)もしくはゲル歯磨剤など、実質的に性状が固体またはペースト状のものであってもよい。このような固体またはペースト状の経口調製物の媒体は通常、歯科用として許容可能な研磨材を含有する。研磨材の例は、水不溶性メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、リン酸三カルシウム、リン酸カルシウム二水和物、無水リン酸二カルシウム、ピロリン酸カルシウム、オルトリン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、炭酸カルシウム、アルミナ水和物、焼成アルミナ、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、シリカ、ベントナイトおよびこれらの混合物である。他の適当な研磨材には、メラミンホルムアルデヒド、フェノールホルムアルデヒドおよび尿素ホルムアルデヒド、架橋ポリエポキシドおよび架橋ポリエステルなどの粒子状熱硬化性樹脂が含まれる。好ましい研磨材には、約5ミクロン以下の粒子サイズ、約1.1ミクロン以下の平均粒子サイズ、および約50,000cm2/gm以下の表面積を有する結晶シリカ、シリカゲルまたはコロイド状シリカ、および複合非晶質アルカリ金属アルミノケイ酸塩が含まれる。
【0048】
視覚的に透明なゲルを使用する場合、コロイド状シリカの研磨剤、例えば、Syloid 72、Syloid 74など商標SYLOIDとして、またはSantocel 100など商標SANTOCELとして販売されているもの、およびアルカリ金属アルミノケイ酸塩複合体の研磨剤は、一般に歯磨剤に使用されるゲル化剤/液体(水および/または湿潤剤を含む)系の屈折率に近似した屈折率を有するので特に有用である。
【0049】
いわゆる「水不溶性」研磨材の多くは、性状が陰イオン性であり、少量の可溶性物質をも含有する。したがって、不溶性メタリン酸ナトリウムは、Thorpe's Dictionary of Applied Chemistry、第9巻、第4版、510〜511頁で説明されている任意の適当な方法で形成させることもできる。Mardrellの塩およびKurrolの塩として知られている不溶性メタリン酸ナトリウムの形態は、適当な物質のさらなる例である。こうしたメタリン酸塩は、水にわずかな溶解性しかを示さず、したがって不溶性メタリン酸塩(IMP)と一般に称される。この中には、不純物として少量の可溶性リン酸塩物質が、通常4重量%以下など数%存在する。不溶性メタリン酸塩の場合には可溶性トリメタリン酸ナトリウムが含まれると考えられるが、この可溶性リン酸塩物質の量は、必要に応じて水で洗浄することによって低減または削減することができる。不溶性アルカリ金属メタリン酸塩は典型的には、37ミクロンを超える物質が1%以下であるような粒子サイズの粉末形態で使用される。
【0050】
研磨材は通常、固体またはペースト状の組成物中に約10%〜約99%の重量濃度で存在する。好ましくは、練歯磨剤中に約10%〜約75%、および粉歯磨剤中に約70%〜約99%の量で存在する。練歯磨剤中、研磨材がシリカ質である場合、通常、約10〜30重量%の量で存在する。他の研磨材は典型的には、約30〜75重量%の量で存在する。
【0051】
練歯磨剤中で、液体媒体は典型的には、水および湿潤剤を調製物の約10%〜約80重量%の範囲の量で含むことができる。グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトールおよびポリプロピレングリコールが適当な湿潤剤/担体の例である。水、グリセリンおよびソルビトールの液体混合物も有利である。屈折率の考慮が重要である透明ゲル中では、約2.5〜30%w/wの水、0〜約70%w/wのグリセリンおよび約20〜80%w/wのソルビトールを使用することが好ましい。
【0052】
練歯磨剤、クリーム剤およびゲル剤は典型的には、天然もしくは合成の増粘剤またはゲル化剤を約0.1〜約10、好ましくは約0.5〜約5%w/wの割合で含有する。適当な増粘剤は、合成ヘクトライト、すなわち合成コロイド状マグネシウムアルカリ金属ケイ酸塩複合体粘土であり、これは例えば、Laporte Industries Limited社によって市販されているラポナイト(Laponite) (例えば、CP、SP 2002、D)として入手可能である。Laponite Dは、約58.00重量%のSiO2、約25.40重量%のMgO、約3.05重量%のNa2O、約0.98重量%のLi2O、ならびにいくらかの水および微量の金属である。その真比重は2.53であり、水分8%で1.0g/mlの見掛けかさ密度を有する。
【0053】
他の適当な増粘剤には、アイリッシュモス、イオタカラギーナン、トラガカントガム、デンプン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルプロピルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(例えば、Natrosolとして入手可能)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および微粉砕サイロイド(Syloid) (例えば244)などのコロイド状シリカが含まれる。可溶化剤、例えば、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコールなどの湿潤剤ポリオール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ、オリーブ油、ヒマシ油、ワセリンなどの、少なくとも約12個の炭素を直鎖中に含有する植物油およびワックス、ならびに酢酸アミル、酊酸エチル、安息香酸ベンジルなどのエステルを含有させることもできる。
【0054】
経口調製物は、従来通り、適当なラベルを付した包装で販売またはそれ以外で流通されるべきものと理解されよう。したがって、口内リンス液の瓶は、内容物が口内リンス液または洗口液であるという説明がありその用法が記載されたラベルが付される。練歯磨剤、クリーム剤またはゲル剤は通常、内容物が練歯磨剤、ゲル剤または歯科用クリーム剤であるという説明があるラベルが付された、典型的にはアルミニウム、ライニングした鉛もしくはプラスチックの押出しチューブ、または内容物を計り出すための他の絞り出し式、ポンプ式もしくは加圧式のディスペンサに入れられる。
【0055】
有機界面活性剤を本発明の組成物中で使用して、予防作用の増強を達成し、口腔全体への活性剤の十分かつ完全な拡散の達成を助け、当該組成物を美容上より許容され得るものとする。有機界面活性剤物質は好ましくは、陰イオン性、非イオン性または両性であり、本発明の抗体を変性させない。界面活性剤として、抗体を変性させることなく組成物に洗浄および発泡特性を付与する洗浄材料を使用することが好ましい。陰イオン界面活性剤の適当な例は、水素化ココナッツオイル脂肪酸の一硫酸化モノグリセリドのナトリウム塩などの高級脂肪酸モノグリセリド一硫酸の水溶牲塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどの高級硫酸アルキル、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩、高級アルキルスルホアセテート、1,2-ジヒドロキシプロパンスルホネートの高級脂肪酸エステル、および低級脂肪族アミノカルボン酸化合物の実質的に飽和した高級脂肪族アシルアミド、例えば、脂肪酸、アルキル基またはアシル基中に12〜16個の炭素を有するものなどである。最後に記載したアミドの例は、N-ラウロイルサルコシン、ならびにN-ラウロイル、N-ミリストイルまたはN-パルミトイルサルコシンのナトリウム、カリウムおよびエタノールアミン塩であり、セッケンまたは類似の高級脂肪酸物質を実質的に含むべきではない。本発明の経口組成物におけるこうしたサルコナイト化合物の使用は、これらの物質が、酸溶液中での歯エナメルの溶解度をいくらか減少させることに加え、炭水化物分解による口腔内での酸形成の阻害に持続性の著しい効果を示すので特に有利である。抗体と共に使用するのに適した水溶性非イオン界面活性剤の例は、エチレンオキサイドと、疎水性長鎖(例えば、約12〜20個の炭素原子からなる脂肪族鎖)を有するものとも反応し得る様々な反応性水素含有化合物との縮合生成物であり、この縮合生成物(「エトキサマー」)は、例えば、ポリ(エチレンオキサイド)と、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族アミド、多価アルコール(例えばソルビタンモノステアレート)およびポリプロピレンオキサイド(例えばプルロニック(Pluronic)物質)との縮合生成物など、疎水性ポリオキシエチレン部分を含有する。
【0056】
界面活性剤は典型的には、約0.1〜5重量%の量で存在する。注目すべきは、界面活性剤が本発明の抗体の溶解を助け、それにより必要とする可溶化湿潤剤の量を削減できることである。
【0057】
本発明の経口調製物中に、ホワイトニング剤、保存剤、シリコーン、クロロフィル化合物および/または尿素、リン酸二アンモニウムなどのアンモニア化物質、およびこれらの混合物など、他の様々な材料を組み込むことができる。こうしたアジュバントは、存在する場合、所望の性質および特徴に実質的に悪影響を及ぼさない量で調製物中に組み込まれる。
【0058】
任意の適当な香味材または甘味材を使用することもできる。適当な香味成分の例は、例えば、スペアミント、ペパーミント、ヒメコウジ、サッサフラス、チョウジ、セージ、ユーカリ、マヨラナ、シナモン、レモンおよびオレンジのオイルなどの香味油、ならびにサリチル酸メチルである。適当な甘味剤には、スクロース、ラクトース、マルトース、ソルビトール、キシリトール、シクラミン酸ナトリウム、ペリラルチン、AMP (アスパルチルフェニルアラニン、メチルエステル)、サッカリンなどが含まれる。好適には、香味剤および甘味剤はそれぞれまたは一緒に、調製物の約0.1%〜5%以上含むことができる。
【0059】
本発明の好ましい実施において、本発明の組成物を含有する洗口液または歯磨剤などの本発明による経口組成物を歯肉および歯に、pH約4.5〜約9、通常約5.5〜約8、好ましくは約6〜8で、毎日または2日毎もしくは3日毎、あるいは好ましくは1日に1〜3回、少なくとも2週間から8週間まで、またはそれ以上生涯にわたって、規則的に適用することが好ましい。
【0060】
本発明の組成物は、通常の可塑剤または軟化剤、糖類または他の甘味剤、あるいはグルコース、ソルビトールなどと望ましくは一緒に、例えば、例としてジェルトン、ゴムラテックス、ビニライト樹脂などが挙げられる温かいガムベースに撹拌するかまたはガムベースの外部表面をコーティングすることにより、ロゼンジまたはチューインガムまたは他の製品中に組み込むことができる。
【0061】
本発明の組成物には、歯周ポケット洗浄デバイスなどの標的送達媒体、歯周ポケット内に配置されるか、隔膜として使用されるか、または歯根に直接適用される、コラーゲン、エラスチン、合成スポンジ、膜または繊維も含まれる。
【0062】
本発明の別の重要な形態は、鼻腔噴霧、経口または注射によって送達されて、複合体に対して特異的な免疫応答を生じさせ、それによりP. gingivalisのコロニー形成を減少させ、また複合体を中和し、それにより疾患を予防する、不活性化した複合体および適当なアジュバントをベースとするワクチンである。ワクチンは、適切なベクター中に組み込まれ、このベクターを含有する適当な形質転換宿主(例えば、大腸菌(E. coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、酵母(Saccharomyces cerevisiae)、COS細胞、CHO細胞およびHeLa細胞)中で発現される、複合体の組換え成分をベースとすることもできる。P. gingivalis全細胞または線毛または莢膜をベースとするすでに調製されている他の抗原と異なり、複合体は、P. gingivalis関連の歯周病の予防に使用する組成物を調製するための安全かつ有効な抗原である。複合体は、本明細書で例示される組換えDNA法を使用して製造することができ、または本発明で開示されるアミノ酸配列から化学的に合成することができる。したがって、本発明によれば、複合体を使用して、P. gingivalisによって引き起こされる歯周病および感染に対する受動免疫に有用なP. gingivalis抗血清を産生することができる。
【0063】
ワクチン製剤と組み合わせて様々なアジュバントが使用される。アジュバントは、免疫応答をモジュレートすることにより、ワクチン抗原を単独で投与する場合よりも少ないワクチン抗原量または投与回数を使用して、より永続性が高く、より高レベルの免疫を獲得するのに役立つ。アジュバントの例には、不完全フロイントアジュバント(IFA)、アジュバント65 (ピーナツ油、マンナイドモノオレエートおよびアルミニウムモノステアレートを含有)、油エマルジョン、Ribiアジュバント、プルロニックポリオール、ポリアミン、アブリジン(Avridine)、QuilA、サポニン、MPL、QS-21、およびアルミニウム塩などのミネラルゲルが含まれる。他の例には、SAF-1、SAF-0、MF-59、Seppic ISA720などの水中油型エマルジョン、およびISCOM、ISCOMマトリックスなどの他の粒子状アジュバントが含まれる。アジュバントの他の例の完全でないが広範なリストがCoxおよびCoulter 1992 [In: Wong WK (編) Animals parasite control utilising technology. Bocca Raton; CRC press, 1992; 49〜112頁]に掲載されている。ワクチンは、アジュバントに加えて、通常の薬学的に許容される担体、添加剤、充填剤、緩衝剤または賦形剤を必要に応じて含むことができる。歯周炎を予防し、またはすでに存在する歯周炎を治療するために、アジュバントを含有するワクチンを単回または多回用量で投与することができる。
【0064】
別の好ましい組成物において、調製物を粘膜アジュバントと組み合わせ、経口または経鼻経路によって投与する。粘膜アジュバントの例は、コレラ毒素および熱不安定E. coli毒素、これらの毒素の非毒性Bサブユニット、毒性が低減したこれらの毒素の遺伝子変異体である。複合体を経口的または経鼻的に送達するのに使用することができるその他の方法には、マイクロカプセル化により生物分解性ポリマー(アクリレートまたはポリエステルなど)の粒子中に複合体を組み込んで、消化管からのミクロスフェアの摂取を促進し、タンパク質の分解を防止する方法が含まれる。リポソーム、ISCOM、ヒドロゲルは、複合体を粘膜免疫系に送達するために、LTB、CTBまたはレクチン(マンナン、キチンおよびキトサン)などの標的分子を組み込むことによってさらに強化することができる他の可能な方法の例である。ワクチンおよび粘膜アジュバントまたは送達系に加えて、ワクチンは、通常の薬学的に許容される担体、添加剤、充填剤、被覆剤、分散媒、抗菌剤および抗真菌剤、緩衝剤または賦形剤を必要に応じて含むことができる。
【0065】
この実施形態の別の形態は、P. gingivalisによって引き起こされる感染から防御するのに使用される、組換えウイルス生ワクチン、組換え細菌ワクチン、組換え弱毒化細菌ワクチン、または不活化組換えウイルスワクチンのいずれかを提供する。ワクシニアウイルスは、他の生物由来のワクチン抗原を発現するように遺伝子操作された感染性ウイルスの当技術分野で最もよく知られた例である。宿主を免疫するために、弱毒化するかまたは別の方法でそれ自体で疾患を引き起こさないように処理をした組換え生ワクシニアウイルスが使用される。これに続く宿主内での組換えウイルスの複製が、抗原複合体などのワクチン抗原を有する免疫系の継続的な刺激を提供し、それにより長期の免疫が得られる。
【0066】
他の生ワクチンベクターには、アデノウイルス、サイトメガロウイルス、ならびに好ましくはワクシニア(PaolettiおよびPanicali、米国特許第4603112号)などのポックスウイルスおよび弱毒化サルモネラ菌株(Stockerら、米国特許第5210035号;同第4837151号;および同第4735801号;ならびにCurtissら、1988、Vaccine 6: 155〜160頁)が含まれる。生ワクチンは、免疫系を継続的に刺激し、この免疫系が実質的に長期の免疫を与えることができるので、特に有利である。免疫応答が、続くP. gingivalis感染を防御する場合、生ワクチン自体をP. gingivalisに対する防御ワクチン中で使用することができる。特に、生ワクチンは、口腔の共生常在菌である細菌をベースとすることができる。この細菌を組換え不活性化複合体を運ぶベクターで形質転換し、次いでこれを使用して、口腔、特に口内粘膜にコロニーを形成することができる。口内粘膜にコロニーを形成すると、この組換えタンパク質の発現が粘膜関連リンパ系組織を刺激して中和抗体を産生させる。例えば、分子生物学的技法を使用して、複合体をコードする遺伝子を、ワクシニアウイルスのゲノムDNA中の、ワクシニアウイルスベクターの増殖または複製に悪影響を及ぼさずにエピトープの発現を可能にする部位に挿入することもできる。得られた組換えウイルスをワクチン製剤中の免疫原として使用することができる。組換えウイルスを免疫原として使用する前に、例えば、当技術分野で知られている化学的手段により、発現される免疫原の免疫原性に実質的に影響を及ぼさずに不活性化する以外は、同一の方法を使用して、不活化組換えウイルスワクチン製剤を構築することができる。
【0067】
能動免疫の代替法として、免疫化は、受動的、すなわち、複合体に対する抗体を含有する精製免疫グロブリンを投与することを含む免疫化であってもよい。
【0068】
この開示において、用語「アドヘシン」および「血球凝集素」は同義と考えてよい。
【0069】
本明細書を通じで、語「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変形は、記載した1つの要素、完全体(integer)もしくは工程、または要素、完全体もしくは工程の群を包含することを意味し、他のいかなる要素、完全体もしくは工程、または要素、完全体もしくは工程の群も除外することを意味するわけではないことが理解されよう。
【0070】
本明細書に記載する全ての刊行物を参照により本明細書に組み込む。本明細書に包含されている文書、行為、物質、デバイス、物品などのいずれの考察も、本発明の背景を提供することを単に目的とする。それは、これらの事項のいずれかもしくは全てが、従来技術の基礎の部分を形成する、または本出願の各請求項の優先日の前にオーストラリアもしくは他のどこかで存在した、本発明に関連する分野での共通の一般知識であったという認識と解釈すべきではない。
【0071】
当分野の技術者であれば、概述した本発明の趣旨または範囲を逸脱することなく、特定の実施態様で示される本発明に対して多数の変更および/または改変を行うことができると理解されよう。したがって、本発明の実施形態は全ての点で、例示的なものであって限定的なものではないと考慮されるべきである。
【0072】
本発明の性質がさらに明確に理解されるように、ここでその好ましい形態を以下の実施例を参照しながら説明する。
【実施例】
【0073】
(実施例1)
(1)抗原複合体の調製
A. Triton X-114抽出およびアフィニティークロマトグラフィー
Porphyromonas gingivalisを嫌気性チャンバー(MK3嫌気性ワークステーション(anaerobic workstation)、Don Whitley Scientific Ltd.社、英国Shipley)内の10% (v/v)溶解ウマ血液を補充したウマ血液寒天プレート上で37℃で増殖させた。細菌コロニーを使用して、5μg/mlのヘミンおよび0.5μg/mlのシステインを含有するバッチ培養増殖用のブレインハートインフュージョン培地に接種した。分光光度計(Perkin-Elmer製モデル295E)を使用してバッチ培養物増殖を650nmでモニターした。培養物の純度をグラム染色、顕微鏡検査により、また種々の生化学試験を使用して常法に従って確認した。ストックは凍結乾燥培養物として維持した。P. gingivalis細胞(2L)を嫌気性ワークステーションにおいて対数後期まで増殖させ、遠心分離(7500g、30分、4℃)により収集し、PG緩衝液(50mM Tris-HCl、150mM NaCl、5mM CaCl2および5mMシステインHCl (pH8.0))で2回洗浄した。細胞を、0.5%v/v Triton X114を含有する全量60mLのPG緩衝液に再懸濁させ、(a)室温で45分間または(b) 4℃で一晩のいずれかで緩やかに混合した。比較用に、細胞を全量60mLのPG緩衝液に再懸濁させ、Branson sonifier 250を使用して出力制御3および50%デューティサイクルで穏やかな超音波処理にかけた。この細胞抽出物を遠心分離(7500g、30分、4℃)にかけ、回収された上清を遠心分離(40,000g、30分、4℃)にかけた。次いで上清をろ過し(0.2μm)、複合体をアルギニンアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)を室温、流速1.0mL/minで行った。P. gingivalisの細胞上清を、Pharmacia社製GP-250 FPLCシステムに取り付けられたArgセファロースカラム(Hiload XK 16/10 Q、Pharmacia社)のTC50緩衝液(緩衝液A) (50mM Tris/HCl、50mM NaCl、5mM CaCl2 (pH7.4))に流速1mL/minで通した。500mM NaCl、50mM Tris/HCl、5mM CaCl2 (pH7.4)を含有するTC50緩衝液(緩衝液B)が0〜40%になるようにリニアグラジエントをかけ、非特異的に結合したタンパク質を、流速1.0mL/minで溶出した。カラムを緩衝液Aで再平衡化し、結合したタンパク質を、500mMアルギニン(pH7.4)を含有するTC50緩衝液を用いて流速1mL/minで溶出した。溶出液を280nmでモニターした。全ての画分を4℃で回収し、さらなる処理まで-70℃で保存した。図1に複合体の典型的なアフィニティークロマトグラムを示す。アルギニンで溶出したFPLC画分を、Vivaspin 20濃縮機(10,000 MWCO) (Sartorius社、オーストラリアNSW)を使用して3000×g、4℃で15分間の遠心分離により、溶出液がおよそ1mLの量に減少するまで濃縮した。次いで、Vivaspin 20濃縮機のフィルター膜を1mLのTC50緩衝液でリンスした。この操作により、複合体を、精製および酸化によって不活性化させ、次いで、凍結保存し(-70℃)、免疫原として使用する。
【0074】
ベンゾイル-L-Arg-p-ニトロアニリド(Bz-L-Arg-pNA) (Sigma社、オーストラリアNSW) およびベンジルオキシカルボニル-L-Lys-p-ニトロアニリド(z-L-Lys-p-NA) (Novabiochem社、オーストラリアNSW)を使用して、FPLC画分をArgおよびLysタンパク質分解活性についてそれぞれアッセイした。各クロマトグラフィー画分の試料をTC150緩衝液(全量360μL)で希釈し、40μLの100mMシステイン(pH8)と一緒に37℃で10分間インキュベートした。インキュベーション後、400μLのBz-L-Arg-pNAまたはz-L-Lys-p-NA基質[2mM Bz-L-Arg-pNAまたは2mM z-L-Lys-p-NAを3mLのイソプロパン-2-オールに溶解し、7mlの酵素緩衝液(400mM Tris-HCl、100mM NaClおよび20mMシステイン) (pH8)と一緒に混合する]のいずれかを添加し、ダイオードアレイ分光光度計(モデル8452A、Hewlett Packard社、独国)を3分間にわたり使用して410nmでの吸光度を測定することによりタンパク質分解活性を求めた。タンパク質分解活性をUで表し、ここで、Uとは、Uμmolの基質を37℃で1分あたりのものに変換することを意味する。標準物質としてBSAを用いたBradfordタンパク質アッセイ(BioRad社製)を使用して、FPLC画分および精製試料のタンパク質濃度を求めた。表1に、Triton X114法または超音波処理法によって抽出され、アフィニティークロマトグラフィーによって精製された複合体のタンパク質濃度およびタンパク質分解活性を示す。Triton X114による抽出法は、従来からの超音波処理法と比較して、抗原複合体を高収量および高純度で生成する(表1)。
【0075】
【表4】

【0076】
Novex 12%トリスグリシンプレキャストミニゲル(Invitrogen社、オーストラリアNSW)を用いたNovex(商標)電気泳動システム(Novex社、カリフォルニア州San Diego)を使用することにより、FPLC画分についてドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を行った。トリクロロ酢酸(TCA)を終濃度10%v/vまで添加することによりRgpA-Kgp複合体タンパク質試料(20μg)を沈殿させ、4℃で20分間インキュベートした。沈殿したタンパク質を遠心分離(10分間、13,000g)により回収し、20μlの還元試料緩衝液(10%w/v SDS、0.05%w/vブロモフェノールブルー、25%v/vグリセロールおよび0.05%v/v 2-メルカプトエタノール)に再懸濁させ、10μlの1.5M Tris/HCl (pH 8.0)を添加することによりpHを調節し、次いで、100℃で5分間加熱した。試料をゲルにローディングし、30〜50mAの電流および125Vの電位差を使用して電気泳動を行った。電気泳動を完了させた後、ゲルを脱染液(メタノール/水/酢酸(45:45:10、v/v))中で室温で3分間固定した。クーマシーブルー染色のために、ゲルをクーマシーブリリアントブルー(CBB) (0.2%w/v CBB R250、30%v/vエタノール、0.5%v/v酢酸)中に入れ、沸騰するまでマイクロ波で加熱し、次いで、5分間冷却させた。染色液を除去し、脱染液を添加し、沸騰するまでマイクロ波で加熱し、次いで、5分間冷却させた。ゲルをMilli Q水中で一晩リンスすることによりタンパク質バンドを視覚化した。図2に、Triton X114で抽出した複合体の典型的なSDS-PAGEクーマシーブルー染色ゲルを示す。近似の分子量75、62、57、48、45、44、39、37、34、31、27、26、17および15kDaにそれぞれ相当する14個の分離したバンド(1〜14)が見出された。N末端配列決定法およびペプチド質量フィンガープリント法を使用して、こうしたバンド中のタンパク質を同定した。
【0077】
N末端配列分析およびウエスタンブロッティングのために、トランスブロットセル(transblot cell) (Bio-Rad社)を使用してタンパク質をPVDFメンブレン(Problott、Applied Biosystems社)上に転写した。PVDFメンブレンを100%メタノールで湿らせ、転写緩衝液(10mM CAPS、10%v/vメタノール(pH11.5))に浸した。60Vの電位差を使用して転写を90分間行った。N末端配列決定法のために、メンブレンをメタノール/水/酢酸中の0.1%(w/v)クーマシーブリリアントブルーR250で30秒間染色し、50%v/vメタノール中で脱染した。タンパク質バンドを切り出し、Hewlett Packard社製10005Aタンパク質シーケンサーを使用してN末端配列を決定した。ペプチド質量フィンガープリント分析のために、クーマシーブルーで染色したSDS-PAGEのタンパク質バンドを切り出し、ゲル内トリプシン消化および続くペプチド抽出に供した。すでに公開されているMortzら(1996) [Electrophoresis 17:925〜31頁]の通り、クーマシーブルーで染色したSDS-PAGEゲルからタンパク質バンドを切り出し、ゲル片を50mM NH4HCO3/エタノール(1:1)で洗浄し、DTTおよびヨードアセトアミドでそれぞれ還元およびアルキル化し、シークエンシンググレードモディファイドトリプシン(sequencing grade modified trypsin) (Promega社)を用いて消化し、37℃で一晩置いた。次いで、陽イオンおよびリフレクトロンモード(reflectron mode)のUltraflex TOF/TOF計器(Bruker Daltonics社)を用いたMALDI-TOF MSにより、25mM NH4HCO3を含有するペプチド抽出物を分析した。4-ヒドロキシ-α-シアノケイ皮酸(HCCA)の飽和溶液を97:3のv/vアセトン/0.1%v/v TFA水溶液中で調製した。この溶液2μLをピペットで取り、すぐにターゲットプレート(target plate)の600μmアンカーチップ(anchorchip)上に移すことにより薄層を調製した。試料(0.5μL)を2.5μLの0.1%v/v TFA水溶液と共に薄層上に堆積させ、5分間吸着させ、その後この試料溶液を取り出し、薄層を1回、10μLの氷冷0.1%v/v TFA水溶液で1分間洗浄した。標準的なペプチド混合物を使用した精密な外部較正によりスペクトルを較正した。インハウスMascot検索エンジンを使用したP. gingivalisデータベース(www.tigr.orgから利用可能)に対するペプチド質量フィンガープリントによりタンパク質を同定した。表2は、SDS-PAGEにより分離した抗原複合体のタンパク質バンドを同定するのに使用したペプチド配列を示す。複合体のSDS-PAGE (図2)に、N末端配列決定およびペプチド質量フィンガープリントによって同定されたタンパク質の名称で注釈を付した。複合体は、Kgpcat、RgpAcat、RgpAA1、KgpA1、RgpAA3、RgpAA2、KgpA2、HagAA1*、HagAA1**、HagAA3およびHagAA2、ならびに部分的にプロセシングされたKgp (残基1〜700および残基136〜700)からなることが判明した。図3に、RgpA、KgpおよびHagAのプロセシングされたドメインの概略図を示す。
【0078】
サイズ排除クロマトグラフィーにより、Triton X114で抽出した複合体を分析した。サイズ排除クロマトグラフィーは、Waters Delta 600 HPLCシステム(Waters社、オーストラリア)に取り付けられたマクロスフェア(macrosphere) GPC 300Åカラム(7μm、250×4.6mm、排除限界7,500〜1,200,000ダルトン; Alltech社、オーストラリアNSW)を使用して行った。クロマトグラフィーは、0.15M Na2SO4 (pH7.0)を含有する0.05M KH2PO4中で流速0.5mL/minで行った。カラムから溶出した物質は、280nmでの吸光度を求めることによって検出した。分子量ゲルろ過標準物質(Amersham Pharmacia Biotech社、スウェーデンUppsala)を用いた検量線を使用して、溶出画分の分子量を求めた。図4に、精製されたTriton X114抽出複合体の典型的なサイズ排除クロマトグラムを示す。最大のピーク(ピーク1)は、カラムのボイド容量で溶出したものであり(>300kDa、抗原複合体)、第2のピーク(ピーク2)は、223kDaの平均分子量で溶出したものである(223kDaのRgpA-Kgp複合体)。
【0079】
【表5−1】

【0080】
【表5−2】

【0081】
【表5−3】

【0082】
【表5−4】

【0083】
【表5−5】

【0084】
(2)抗体の調製
マウスにおいてO2不活性化複合体で皮下免疫することにより、複合体に対するポリクローナル抗血清を産生させた。マウスを0日目に不完全フロイントアジュバント中の25μgのタンパク質で、30日目に不完全フロイントアジュバント中の25μgのタンパク質で免疫した。免疫感作は、標準的な手順を使用して行った。P. gingivalisに対して高抗体価を有するポリクローナル抗血清を得た。必要に応じて、標準的な手順を使用して、P. gingivalisに対して特異的な抗体を得ることもできる。
【0085】
(実施例2)
抗原複合体に関するワクチン製剤のための方法および化合物
本発明のこの実施形態は、P. gingivalisによって引き起こされる感染を防御または治療するために、能動免疫のための予防用および/または治療用ワクチンにおける免疫原として使用すべき複合体タンパク質を提供することである。ワクチンのためには、細菌タンパク質を含むP. gingivalisの抗原は、免疫原性を有し、また無傷の細菌の表面に曝露された1種または複数のエピトープ(ただし、エピトープがP. gingivalisの菌株間で保存されている)に対する機能性抗体を誘導すべきである。
【0086】
動物モデルにおける抗原複合体での免疫感作の予防効果
抗原複合体の予防効果は、国際的に認められているP. gingivalis感染の2種の動物モデル、すなわち病変モデルおよび歯周炎モデルにおいて評価した。疾患の病変モデルについては、発症した病変の最大サイズを、クラスカルワリスの検定、およびタイプ1エラーのボンフェローニ補正したマンホイットニーのU検定/ウィルコクソンの順位和検定を使用して統計的に解析した[Norusis MJ (1993). SPPS for Windows: Base systems user's guide. Release 6.0 Chicago, Il, USA: SPSS Inc]。歯周炎モデルについては、骨喪失(mm2)データを、一元配置分散分析およびダネットのT3検定を使用して統計的に解析した[Norusis MJ (1993). SPPS for Windows: Base systems user's guide. Release 6.0 Chicago, Il, USA: SPSS Inc]。コーヘンのdとして表される効果サイズは、Evidence-Based Education UKのウェブサイトhttp://www.cemcentre.org/ebeuk/research/effectsize/default.htmからオンラインで提供される効果サイズ計算器(effect size calculator)を使用して計算した。コーヘン[Cohen J (1969). Statistical Power Analysis for the Behavioural Sciences. New York: Academic Press]によれば、小さい効果サイズは0.2≦d<0.5、中等度の効果サイズは0.5≦d<0.8、大きな効果サイズd≧0.8である。
【0087】
(1) P. gingivalis感染のマウス病変モデル
このモデルは、Kesavaluら(1992) [Infect Immun 60:1455〜1464頁]に記載されている方法に大体基づいている。典型的な実験を以下で概説する。マウス病変モデルプロトコールは、メルボルン大学の動物実験倫理委員会(Ethics Committee for Animal Experimentation)によって承認された。6〜8週齢のBALB/cマウス(マウス10匹/群)を、フロイントアジュバント(IFA)中に乳化させた、Triton X114で抽出した25μgの抗原複合体、超音波処理で抽出した25μgのRgpA-Kgp複合体またはリン酸緩衝液(pH 7.4)で皮下免疫(頚部の首筋、100μL)した。30日後、マウスを抗原またはPBSで追加免疫し(皮下注射、IFA中に乳化)、次いで12日後、球後の集網から採血した。採血から2日後、マウスをP. gingivalis菌株ATCC33277の7.5×109個の生細胞を腹部の皮下注射(100μl)により投与し、病変サイズを14日間にわたって測定した。O'Brien-Simpsonらによって記載されている通り[O'Brien-Simpson Nら(2000). Infect Immun 68:4055〜4063頁]、嫌気性ワークステーションにおいてP. gingivalis接種材料をPG緩衝液中で調製した。接種材料中の生細胞の数をウマ血液寒天プレート上で計数することよって確認した。病変サイズは、クラスカルワリスの検定、およびタイプ1エラーのボンフェローニ補正したマンホイットニーのU検定/ウィルコクソンの順位和検定を使用して統計的に解析した。Triton X114または超音波処理によって抽出した抗原複合体で免疫したマウスの平均病変サイズは、PBS/IFA対照群よりも有意に(それぞれp<0.01、p<0.05)小さく、したがって、複合体を用いたマウスの免疫感作がP. gingivalis感染を防御することが示された(図5)。さらに、d=-1.32(95%CI: -2.08、-0.10)よりも大きい効果サイズd=-1.85(99.9%CI: -3.18、-0.32)よって示される通り、Triton X114で抽出した複合体は、P. gingivalisによって誘導される病変からマウスを防御するのにより有効である。Triton X114または超音波処理で抽出した複合体で免疫したマウスの病変サイズに有意な差はないが、Triton X114で抽出した複合体は、ワクチンとして使用する場合、効果サイズがd=-0.42であり(95% CI: -1.37、0.49)、超音波処理で抽出した複合体に比べて、防御を提供するのにより有効であった。さらに、Triton X114によって抽出した複合体で免疫したマウスの50%しかP. gingivalisによって誘導される病変を発症しなかったが、超音波処理によって抽出した複合体で免疫したマウスの70%が病変を発症した。
【0088】
(2) P. gingivalis感染のマウス歯周炎モデル
マウス歯周炎実験は、Bakerら1994 [Arch Oral Biol 39:1035〜40頁]に記載のモデルに基づいており、メルボルン大学の動物実験倫理委員会によって承認された。6〜8週齢のBALB/cマウス(各群10匹のマウス)を、不完全フロイントアジュバント(IFA)中で乳化させた、Triton X114で抽出した25μgの複合体またはリン酸緩衝液(PBS) (pH7.4)のいずれかで皮下免疫した(sc 100μL)。30日後、マウスを抗原で追加免疫し(sc注射、IFA中で乳化)、次いで12日後、球後の集網から採血した。採血後、マウスに、脱イオン水中のカナマイシン(Sigma社、オーストラリアNew South Wales)を1mg/mLで適宜7日間投与した。3日後、抗生物質を処理したマウスに2%wt/volカルボキシメチルセルロース(CMC、Sigma社、オーストラリアNew South Wales)を含有するPG緩衝液中の1×1010個のP. gingivalis W50生細胞(25μL)を2日おきに4回経口接種し、対照群には2%wt/vol CMCのみを含有するPG緩衝液を偽感染させた。2週間後、マウスに2%wt/vol CMCを含有するPG緩衝液中の1×1010個のP. gingivalis W50生細胞(25μL)をさらに4回(2日おき)投与した。各接種材料中の生細胞の数をHB寒天上で計数することよって確認した。28日後、第2の経口投与マウスを屠殺し、上顎を取り出した。
【0089】
上顎を脱イオン水中で煮沸し(1分)、機械的に肉を落とし、2%wt/vol水酸化カリウム中に浸した(16時間、25℃)。次いで、上顎を洗浄し(2×脱イオン水)、3%wt/vol過酸化水素(6時間、25℃)中に浸した。洗浄(2×脱イオン水)後、上顎を0.1%wt/volメチレンブルー水溶液で染色し、頬側のディジタル画像を、解剖顕微鏡に備えられたSound and Visionディジタルカメラ(Scitech Pty. Ltd社、オーストラリアMelbourne)でAdobe Photoshop version 4.0を使用して取り込んで、水平骨喪失を評価した。水平骨喪失は、稜の高さの減少をもたらす、歯槽骨稜と直角の水平面で生じた喪失である。上顎を、頬側および舌側の臼歯咬頭が重なるように並べた。同時に、各画像についての測定値が標準化できるように、上顎と同一面のマイクロメートルスケールをディジタル処理によってイメージングした。Scion Corporation社のウェブサイト(http://www.scioncorp.com/index.htm)からダウンロードしたScion Image Beta 4.02 (Scion Corporation社、メリーランド州Frederick)イメージングソフトウェアを使用して、各歯のセメントエナメル連結(CEJ)から歯槽骨稜(ABC)までの領域を測定した。骨喪失測定値は、2匹の標準化された試験体から無作為盲検プロトコールで2回求めた。図6は、Triton X114で抽出した複合体が、対照感染群と比較して、P. gingivalisによって誘導される骨喪失からの有意な(p<0.001)防御をもたらし、ならびに高い免疫原性を有する非特異的なタンパク質ジフテリアトキソイドと比較して、P. gingivalisによって誘導される歯周炎からの防御をもたらすのに有意に(d=-2.45、99.9%CI: -4.73、-0.93)より有効であることを示す。
【0090】
こうしたデータから、Triton X114法を使用して抽出した抗原複合体が、P. gingivalisによって誘導される病変からの防御をもたらす上で、超音波処理による抽出法よりもはるかに優れており、Triton X114で抽出した複合体が、疾患の動物モデルにおいて骨喪失からの防御をももたらすことが明確に示される。
【0091】
(実施例3)
ワクチン抗原に望ましい特性を有する抗原複合体の一実例において、本明細書の実施例1に記載の方法を使用して、このタンパク質をP. gingivalisから精製した。マウスを、Triton X114および超音波処理で抽出され精製された不活性化複合体(25μg)でアジュバント(IFA)と一緒に4週間間隔で2回免疫した。精製された複合体は、空気酸化によって不活性化された。最後の免疫感作から32日後に、免疫したマウスの血液を採取し、免疫血清をプールした。プールされた免疫血清を酵素免疫測定法(ELISA)およびウエスタンブロッティングにより複合体に対してアッセイした。0.1 Mリン酸緩衝液(PBS) (pH 7.4)中の10μg/mlのP. gingivalis全細胞でコーティングしたポリビニル製平底マイクロタイタープレート(Dynatech laboratories社、バージニア州McLean)のウェルにおいて3連でELISAを4℃で一晩行った。コーティング溶液を除去した後、0.1%(v/v) Tween 20を含有するPBS (pH7.4)中の2%(w/v)脱脂粉乳をウェルに添加して、コーティングされなかったプラスチックを室温で1時間ブロッキングした。0.1%v/v Tween 20を含有するPBS (PBST) (pH7.4)で4回洗浄した後、0.5%v/v脱脂乳を含有するPBS (SK-PBS) (pH 7.4)中のマウス血清の段階希釈物を各ウェルに添加し、室温で16時間インキュベートした。6回洗浄(PBST)した後、マウスIgM、IgA、IgG1、IgG2a、IgG2bまたはIgG3に対するヤギ抗血清(Sigma社、オーストラリアNSW)の2000倍SK-PBS希釈液を添加し、室温で2時間結合させた。プレートを6回洗浄し(PBST)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ウサギ抗ヤギ免疫グロブリンの5,000倍SK-PBS希釈液を各ウェルに添加した。洗浄(6回、PBST)後、80mMクエン酸中の100μlのABTS基質[0.005%(v/v)過酸化水素(pH4.0)を含有する(0.9mM 2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンズ-チアゾリン-6)スルホン酸)]を各ウェルに添加した。BioRad社製マイクロプレートリーダー(BioRad microplate reader、モデル450)を使用して415nmでの光学密度(OD415)を測定した。吸光度がバックグラウンドレベルの2倍である希釈の逆数としてELISA抗体価を求め、各抗体価は3つの値の平均値±標準偏差を表した。図7に示す結果から、Triton X114法を使用して抽出された不活性化複合体での免疫感作が、超音波処理による抽出法と比較して、より力価の高い抗体を誘導することが実証された。Triton X114で抽出した複合体は、超音波処理で抽出した複合体と比較して、より多くのIgG、IgG1、IgG2a、IgG2bおよびIgG3抗体を誘導した。優勢な抗体はIgG1(ヒトにおけるIgG4と同等)であり、これは、防御免疫応答に関与している抗体であることが示されている[O'Brien-Simpsonら(2000). Infect Immun 68:4055〜4063頁、O'Brien-Simpsonら(2000) Infect Immun 68: 2704〜2712頁]。
【0092】
精製されたTriton X114抽出複合体および超音波処理抽出RgpA-Kgp複合体をSDS-PAGEに供し、上記の通り電気泳動によりPVDFメンブレンに転写した。メンブレンを切断後、分子量標準物質を0.1%wt/vol CBB R250で染色した。残りのセクションを、TN緩衝液(50mM Tris-HCl (pH7.4)、100mM NaCl)中の5%wt/volの脱脂粉乳を用いて20℃で1時間ブロッキングした。続いて、セクションをTN緩衝液で50倍希釈した抗複合体(Triton X114抽出)抗血清または抗RgpA-Kgp複合体(超音波処理抽出)抗血清のいずれかと共にインキュベートした。20℃で16時間置いた後、このセクションを洗浄し(0.05%vol/vol Tween 20を含有する4×TN緩衝液、10分)、次いで、マウスIgに対するホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ヤギ免疫グロブリン(Ig) (400倍希釈) (Sigma社、オーストラリアNSW)と共に20℃で1時間インキュベートした。結合した抗体を、洗浄(0.05%vol/vol Tween 20を含有する4×TN緩衝液、10分)後、16.6%vol/volメタノールおよび0.015%wt/vol H2O2を含有するTN緩衝液中の0.05%wt/vol 4-クロロ-1-ナフトールを用いて検出した。メンブレンをMilliQ水でリンスすることにより発色反応を停止させた。抗複合体抗血清(Triton X114抽出)は、抗原複合体タンパク質RgpAA1、KgpA1およびHagAA1*/**に相当する分子量44、39および30kDaのタンパク質に対して強い免疫応答を有していた(図8)。また、抗RgpA-Kgp複合体抗血清(超音波処理抽出)は、抗原複合体タンパク質RgpAA1およびKgpA1に相当する分子量44および39kDaのタンパク質に対して強い免疫応答を有していたが、HagAA1*/**アドヘシンに対して非常に弱い応答を有していた(図8)。免疫反応性の45kDaのタンパク質バンドは、この複合体抗血清が、RgpAプロテイナーゼと97%の配列同一性を有するRgpBプロテイナーゼを認識しなかったので、RgpAcatプロテイナーゼドメインではないことが判明し、したがって、45kDaで検出された免疫反応性のバンドはまた、アドヘシンに由来することが示唆された。こうしたデータから、Triton X114法を使用して抽出された複合体が、RgpA、KgpおよびHagAポリプロテインのA1アドヘシンに対する強い抗体応答を生じさせることが示された。こうしたタンパク質は、高度の配列類似性を有し、それぞれが、以前に記載されている防御ペプチドエピトープABM1、ABM2およびABM3(WO98/49192)を含有する。こうした結果から、P. gingivalis上の大きな細胞表面複合体は、3種全てのポリプロテインRgpA、KgpおよびHagAのプロセシングされた非共有結合ドメインで構成されていることが示唆された。したがって、防御におけるTriton X114で抽出した複合体の優位性は、細胞表面上でのタンパク質の形態に極めて類似しているワクチン抗原と関係付けることができる。
【0093】
抗原複合体の免疫原性を支持するさらなる証拠は、成人歯周炎の43例の患者のうちの86%が、その血清中にこの複合体に対する特異的なIgGを有していたというヒトの免疫応答の研究によってもたらされる。
【0094】
(実施例4)
以下は、提案される抗(複合体)抗体含有練歯磨剤の一例である。
【0095】
【表6】

【0096】
(実施例5)
以下は、提案される練歯磨剤の一例である。
【0097】
【表7】

【0098】
(実施例6)
以下は、提案される練歯磨剤の一例である。
【0099】
【表8】

【0100】
(実施例7)
以下は、提案される練歯磨剤の一例である。
【0101】
【表9】

【0102】
(実施例8)
以下は、提案される液体練歯磨剤の一例である。
【0103】
【表10】

【0104】
(実施例9)
以下は、提案される洗口剤の一例である。
【0105】
【表11】

【0106】
(実施例10)
以下は、提案される洗口剤の一例である。
【0107】
【表12】

【0108】
(実施例11)
以下は、提案されるロゼンジ剤の一例である。
【0109】
【表13】

【0110】
(実施例12)
以下は、提案される歯肉マッサージ用クリーム剤の一例である。
【0111】
【表14】

【0112】
(実施例13)
以下は、提案されるチューインガム剤の一例である。
【0113】
【表15】

【0114】
当分野の技術者であれば、概述した本発明の趣旨または範囲を逸脱することなく、特定の実施態様で示される本発明に対して多数の変更および/または改変を行うことができると理解されよう。したがって、本発明の実施形態は全ての点で、例示的なものであって限定的なものではないと考慮されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】P. gingivalis細胞のTriton X-114抽出物のArgセファロースアフィニティークロマトグラフィーの結果を示す図である。P. gingivalis抽出物をArgセファロースカラムに添加し、非結合タンパク質(ピークA)を流速1mL/minで溶出した。非特異的に結合しているタンパク質(ピークB)を、TC500緩衝液(500mM NaCl、50mM Tris/HCl、5mM CaCl2 (pH7.4))が0〜40%になるようにリニアグラジエントにかけ、流速1.0mL/minで溶出した。複合体(ピークC)を、TC50-Arg緩衝液(500mMアルギニン、50mM NaCl、50mM Tris/HCl、5mM CaCl2 (pH7.4))を用いて流速1ml/minで溶出した。矢印は、各工程のグラジエントの開始点を指す。
【図2】Arg親和性により精製されたP. gingivalisのTriton X114抽出複合体のSDS-PAGEの結果を示す図である。レーン1は、Invitrogen社製の分子量標準物質(kDa)であり、レーン2はTriton X114で抽出した複合体である。ゲルをクーマシーブルーで染色した。それぞれ記載される通り、タンパク質バンド(1〜9)を切り出すか、またはPVDFメンブレンに転写し、ペプチド質量フィンガープリント分析またはN末端配列分析によって同定した。
【図3】プロセシングされたプロテイナーゼ触媒性ドメインおよびアドヘシンドメイン、ならびに各ドメインのN末端配列を示すRgpA、KgpおよびHagAの概略図である。影付きの領域はプロセシングされた成熟ドメインを表す。
【図4】Triton X114で抽出した複合体のサイズ排除クロマトグラフィーの結果を示す図である。アルギニン親和性により精製されたTriton X114抽出複合体をサイズ排除カラム(マクロスフェア300Å、7μm、250×4.6mm、Alltech社、オーストラリア)に加えた。V0は、カラムのボイド容量(200万Daを超えるDextran Blueを使用してボイド容量を求めた)を指す。標準タンパク質A=チログロブリン(667kDa)、B=フェリチン(440kDa)およびC=カタラーゼ(232kDa)の溶出体積に印を付した。
【図5】P. gingivalis感染のマウス病変モデル;超音波処理法またはTriton X-114によって抽出した抗原複合体で免疫したマウスの平均病変サイズを示す図である。BALB/Cマウス(各群10匹のマウス)を、Triton X114および超音波処理によって抽出した複合体で皮下(sc)免疫して第1および第2の免疫感作を行い、第2の免疫感作から12日後に、P. gingivalis ATCC33277(1×109個の生細胞)をsc投与した。マウスを14日間にわたりその病変の発達およびサイズについてモニターした。病変サイズを、クラスカルワリスの検定、およびタイプ1エラーのボンフェローニ補正したマンホイットニーのU検定/ウィルコクソンの順位和検定を使用して統計的に解析した。*、**は、対照(IFA/PBS)群と有意差がある(それぞれp<0.05、p<0.01)ことを示す。
【図6】P. gingivalisによって誘導された水平骨喪失のマウス歯周炎モデル;Triton X114で抽出した複合体、非特異的な免疫原性タンパク質(ジフテリアトキソイド)およびアジュバント単独(対照、FA/PBS)で免疫したマウスまたは免疫されていない経口感染(対照、感染)マウスの水平骨喪失を示す図である。骨喪失の測定値は、左側および右側上顎の両方の各上顎大臼歯の頬側のセメントエナメル連結(CET)から歯槽骨稜(ABC)までのmm2で測定される平均面積である。データは通常、ルビーンの等分散性によって測定して分配し、平均値±SD (n=10)として表し、一元配置分散分析およびダネットのT3検定を使用して解析した。*は、経口感染対照群、およびIFA/PBSまたは非特異的な免疫原性タンパク質ジフテリアトキソイドで免疫した経口感染対照群と有意差がある(p<0.001)ことを示す。
【図7】Triton X114および超音波処理法を使用して抽出した複合体で免疫したマウスの血清抗体サブクラス応答を示す図である。Triton X114 (黒色の棒)および超音波処理(白色の棒)で抽出した複合体で免疫したマウス由来の血清を、吸収抗原としての複合体と一緒にELISAにおいて使用した。抗体応答を、吸光度がバックグラウンドレベルの2倍である希釈の逆数として求められるELISA抗体価OD415として表し、各抗体価は3つの値の平均値±標準偏差を示す。
【図8】抗原複合体またはRgpA-Kgp複合体抗血清でそれぞれプローブされた抗原複合体(Triton X114抽出)およびRgpA-Kgp複合体(超音波処理抽出)のウエスタンブロッティング解析の結果を示す図である。抗原複合体(Triton X114抽出、レーン2)およびRgpA-Kgp複合体(超音波処理抽出、レーン1)をSDS-PAGEによって分離し、PVDFメンブレン上に転写し、抗複合体抗血清(50倍希釈TN緩衝液、レーン2)および抗RgpA-Kgp複合体抗血清(50倍希釈TN緩衝液、レーン1)でプローブした。分子量マーカーをキロダルトンで示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RgpA、KgpおよびHagAのそれぞれからの少なくとも1種のドメインを含み、約300kDaを超える分子量を有することを特徴とする、P. gingivalis由来の精製された多量体複合体。
【請求項2】
約500kDaを超える分子量を有することを特徴とする、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
約800kDaを超える分子量を有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
複合体の酵素活性が不活性化されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項5】
RgpA、KgpおよびHagAのそれぞれからの少なくとも1種のドメインを含み、約300kDaを超える分子量を有する、P. gingivalis由来の精製された多量体複合体を得る方法であって、該複合体をPorphyromonas gingivalis全細胞から界面活性剤によって抽出する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
複合体を、イオン交換法または限外ろ過法およびダイアフィルトレーション法を使用してさらなる精製に供することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
界面活性剤がTriton X114であることを特徴とする、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
Porphyromonas gingivalisが毒性株であることを特徴とする、請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
P. gingivalisが、高いアルギニンおよび/またはリジンタンパク質分解活性を有することを特徴とする、請求項5から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
複合体の酵素活性が不活性化されていることを特徴とする、請求項5から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
不活性化が酸化によることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
Porphyromonas gingivalisに対する免疫応答を誘導する際に使用する組成物であって、有効量の請求項1から4のいずれか一項に記載の複合体と、適したアジュバントおよび/または許容可能な担体とを含むことを特徴とする組成物。
【請求項13】
請求項1から4のいずれか一項に記載の複合体に対する特異的な抗体を含むことを特徴とする抗体調製物。
【請求項14】
Porphyromonas gingivalisの感染を受けた対象を治療する方法であって、ある量の請求項13に記載の抗体調製物を対象に投与する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
Porphyromonas gingivalisに個体が感染する可能性および/または疾患の重症度を低下させる方法であって、個体においてPorphyromonas gingivalisに対する免疫応答を誘導するのに有効な量の請求項12に記載の組成物を個体に投与する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
Porphyromonas gingivalisの感染を受けたヒトおよび/または動物患者を治療する方法であって、請求項12に記載の組成物を前記患者に能動的に接種する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
Porphyromonas gingivalisの感染を受けたヒトおよび/または動物患者を治療する方法であって、請求項13に記載の抗体調製物を前記患者に受動的に接種する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
Porphyromonas gingivalisの感染を治療するための医薬の調製における、請求項13に記載の抗体調製物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−513033(P2008−513033A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532726(P2007−532726)
【出願日】平成17年9月23日(2005.9.23)
【国際出願番号】PCT/AU2005/001463
【国際公開番号】WO2006/032104
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(500240313)ザ・ユニヴァーシティ・オブ・メルボーン (2)
【Fターム(参考)】