説明

Pt−CNT複合めっき構造体

【課題】CNT(カーボンナノチューブ)の脱落を防止でき、また、Ptそのものの表面積を増大させることができるPt−CNT複合めっき構造体を提供する。
【解決手段】Pt−CNT複合めっき構造体は、Ptめっき皮膜中に複数のCNTが、一部がめっき皮膜から突出するようにして取り込まれ、めっき皮膜から突出しているCNTの部位に複数のPtめっき粒子が付着していて、単純なPtめっき皮膜に比して表面積が増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材や触媒材として好適なPt−CNT複合めっき構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白金は代表的な電極材料であり、触媒材料としても広く使用されている。比表面積の大きな白金電極は効率的に電気化学反応を進行できるため、例えば電気化学センサー等に利用した場合、検出感度を向上できる等のメリットがあり、さまざまな用途への利用が考えられる。
従来の白金電極は比表面積が小さく、表面を機械的に粗化してもあまり大きな比表面積の増大は得られない。最近、カーボンナノチューブ(CNT)自身を電極とすることにより比表面積の大きな電極が得られ、センサー等の検出感度を増大できる等の技術も報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】パーソナルQOLシステムのためのCNT超高感度生体分子センサーの研究開発 平成17年度 松本和彦 大阪大学 産業科学研究所
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に示される電極は、電極の表面積を増大させるために、白金電極上に単層カーボンナノチューブをバルク的に形成したもので、約100倍もの測定感度が得られるとしている。
しかしながら、非特許文献1に示される電極では、CNTを白金電極上に固定する方法に問題があり、白金電極上からCNTが脱落してしまうという課題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、CNTをPtめっき皮膜中に良好に取り込むことができ、CNTの脱落を防止でき、また、Ptそのものの表面積を増大させることができるPt−CNT複合めっき構造体を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るPt−CNT複合めっき構造体は、Ptめっき皮膜中に複数のCNTが、一部がめっき皮膜から突出するようにして取り込まれ、めっき皮膜から突出しているCNTの部位に複数のPtめっき粒子が付着していて、単純なPtめっき皮膜に比して表面積が増大していることを特徴とする。
単純なPtめっき皮膜に対して表面積を3〜3.5倍に増大させることができる。
【0007】
本発明に係るPt−CNT複合めっき構造体は、各種電極材や触媒材として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、Ptめっき皮膜中に複数のCNTが、一部がめっき皮膜から突出するようにして取り込まれているので、CNTがめっき皮膜から脱落することがなく、また、めっき皮膜から突出しているCNTの部位に複数のPtめっき粒子が付着していることから、Ptそのものの表面積が増大し、電極材や触媒材として用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1(A)、(B)は、めっき液の温度50℃、めっき時間75分でPt−CNT複合めっきを行ったサンプルCの表面のSEM写真である。
【図2】図2(A)、(B)は、めっき液の温度70℃、めっき時間60分でPt−CNT複合めっきを行ったサンプルBの表面のSEM写真である。
【図3】図3(A)、(B)は、めっき液の温度95℃、めっき時間45分でPt−CNT複合めっきを行ったサンプルAの表面のSEM写真である。
【図4】サンプルA、B、C、およびCNTの混入しないPtめっきを行ったサンプル(比較例:Pt)を作用極に用いたサイクリックボルタンメトリー試験のCV曲線を示す。
【図5】サンプルC、サンプルd、サンプルPtを作用極に用いたサイクリックボルタンメトリー試験のCV曲線を示す。
【図6】サンプルB、C、Ptを用いて水素過電圧を見たCV曲線を示す。
【図7】サンプルA、B、C、Ptを用いて酸素過電圧を見たCV曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
以下にPt−CNT複合めっき液の組成例を示す。なお、これに限定されるものではない。
白金濃度 4〜6 g/l
硝酸アンモニウム 100 g/l
亜硝酸ナトリウム 10 g/l
水酸化アンモニウム 55 ml/l
CNT(VGCF) 2 g/l
分散剤
pH 9〜13
めっき条件
温度 50〜95℃
電流密度 1A/dm
電流効率 80〜90%
【0011】
CNTの分散剤としては、カチオン系界面活性剤を有効に用いることができる。CNTの分散剤の添加量は特に限定されないが、CNTの添加量に応じて適宜増減すればよい。
もちろんCNTの添加量も上記に限定されない。
また、CNTとしてはVGCF(登録商標)に限定されるものではなく、各種のMWCNTやSWCNT、カップスタック型CNTなどを用いることができる。
【0012】
上記めっき条件で、A:めっき液の温度95℃、めっき時間45分、B:めっき液の温度70℃、めっき時間60分、C:めっき液の温度50℃、めっき時間75分の3種類のめっきを行って電極材のサンプルを作製した。
図1に、めっき液の温度50℃、めっき時間75分でPt−CNT複合めっきを行ったサンプルCの表面のSEM写真を示す。
図2に、めっき液の温度70℃、めっき時間60分でPt−CNT複合めっきを行ったサンプルBの表面のSEM写真を示す。
図3に、めっき液の温度95℃、めっき時間45分でPt−CNT複合めっきを行ったサンプルAの表面のSEM写真を示す。
【0013】
図1〜図3に示されるように、めっき液の温度が低い方がめっき膜中にCNTが多く取り込まれていることがわかる。
また、いずれもPtめっき皮膜中に複数のCNTが、一部がめっき皮膜から突出するようにして取り込まれ、めっき皮膜から突出しているCNTの部位に複数のPtめっき粒子が付着していて、単純なPtめっき皮膜に比して表面積が増大していることがわかる。
【0014】
図4に、上記サンプルA、B、C、およびCNTの混入しないPtめっきを行ったサンプル(比較例:Pt)を作用極に用いたサイクリックボルタンメトリー試験のCV曲線を示す。
なお、サイクリックボルタンメトリー試験の条件は次のとおり。
使用溶液:2mMフェリシアンカリウム溶液+リン酸溶液(pH6.8)
(リン酸溶液:0.5Mリン酸二水素カリウム+0.5Mリン酸二水素ナトリウム)
参照極:Ag/AgCl
対照極:Pt(スプリングタイプ)
なお、作用極に用いた上記各サンプル片は、見かけ上の表面積を同じにするため、同一大きさのサンプル片に形成した。
図4から明らかなように、CNTの混入量の多い順(C、B、A)に大きなピーク電流が得られている。CNTの混入していないPtめっき皮膜のみのものは最も小さなピーク電流となっている。ピーク電流の大きい方が比表面積が大きい。
【0015】
表1に図4のCV曲線から得られる各種データを示す。
【表1】

【0016】
比表面積は次の式により求めた。
【0017】
【数1】


よって
【数2】

なお、A:電極表面積、D:電解液の拡散係数、v:電位掃引速度、C:電解液の濃度である。比表面積は、Ptめっき皮膜のみの場合を1.0として比例計算をした。
【0018】
表1から明らかなように、50℃でめっきしたサンプルCのものは、Ptめっき皮膜のみのサンプルPtの3.4倍の表面積が得られている。
以上のように、本実施の形態におけるPt−CNTめっき材は大きな比表面積が得られることから、バイオセンサーなどにおける電極材として好適であると共に、露出したCNTにPtめっき粒子が数珠状に付着することにより、Pt自体の表面積が大きくなることから、各種触媒材としても好適である。
【0019】
図5に、上記サンプルC(50℃でのめっき)、比較例として、CNT(VGCF)の代わりにピッチ系のカーボンファイバー(CF)をPtめっき液に分散しためっき液により50℃、75分でPt−CF複合めっきを行ったサンプルD、およびCNTの混入しないPtめっきを行ったサンプルPtを作用極に用いたサイクリックボルタンメトリー試験のCV曲線を示す。
図5に示すように、サンプルCのものが最も大きいピーク電流を示した。
【0020】
また、表2に、図5のCV曲線から得られる各種データを示す。
【表2】

【0021】
表2に示されるように、この実施例においても、サンプルCのものが、Ptめっき皮膜のもののみの場合の2.9倍もの大きな比表面積が得られている。
なお、ピッチ系のカーボンファイバーとの複合めっきのサンプルDよりも、CNT(VGCF)との複合めっきのサンプルCの方が大きな比表面積が得られている。
以上のように本実施の形態におけるPt−CNT複合めっき材は、サンプルPtに対して3〜3.5倍程度の大きな比表面積を得ることができる。
【0022】
図6は上記のサンプルB、C、Ptを用いて水素過電圧を見たCV曲線、図7は上記のサンプルA、B、C、Ptを用いて酸素過電圧を見たCV曲線を示す。
図6に示されるように、CNTの析出量が多い方が水素過電圧が低く、また、図7に示されるように、CNTの析出量が多い方が酸素過電圧が低いことから、本実施の形態におけるPt−CNT複合めっき材が電極材として好適であることがわかる。
なお、上記におけるリニアスイープ(RS)条件は次のとおり。
使用溶液:0.1M塩化カリウム溶液
参照極:Ag/AgCl
対照極:Pt(スプリングタイプ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ptめっき皮膜中に複数のCNTが、一部がめっき皮膜から突出するようにして取り込まれ、めっき皮膜から突出しているCNTの部位に複数のPtめっき粒子が付着していて、単純なPtめっき皮膜に比して表面積が増大していることを特徴とするPt−CNT複合めっき構造体。
【請求項2】
単純なPtめっき皮膜に対して表面積が3〜3.5倍に増大していることを特徴とする請求項1記載のPt−CNT複合めっき構造体。
【請求項3】
電極材であることを特徴とする請求項1または2記載のPt−CNT複合めっき構造体。
【請求項4】
触媒材であることを特徴とする請求項1または2記載のPt−CNT複合めっき構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−94177(P2011−94177A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248159(P2009−248159)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(309033714)株式会社カワジュンインダストリー (2)
【Fターム(参考)】