説明

R−Fe−B系永久磁石用原料粉末

【目的】 溶解・粉化法及び直接還元拡散法における原料粉末製造時の問題解消並びに該製法による原料粉末を使用したR−Fe−B系永久磁石の品質の向上と、種々の磁石特性に応じた特定組成の合金粉末を、各原料の配合比で容易に対応できる製造方法の提供。
【構成】 直接還元拡散法にてRリッチ相の少ないR2Fe14B相に近い組成で合金粉末を作成し、溶解・粉化法にてRリッチな合金粉末を、Co元素の添加によってR3Co相(但しCoの1部あるいは大部分をFeにて置換できる)を含むR2(Fe,Co)17相等からなる金属間化合物粉末を作成し、両者を混合することで含有酸素量の少ない所定の磁石組成の合金粉末を得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、R(RはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)、Fe、Bを主成分とするR−Fe−B系永久磁石の製造に用いる原料粉末に係り、直接還元拡散法によるほとんどがR2Fe14B相を主相とする主相系合金粉末と、溶解・粉化法によるR3Co相を含むCo又はFeとRとの金属間化合物相(但しCoの1部あるいは大部分をFeにて置換できる)からなり主相系合金粉末より希土類金属含有が多い金属間化合物粉末とを、所要組成の磁石用の合金粉末に配合することにより、含有酸素量を著しく低減したR−Fe−B系永久磁石用原料粉末に関する。
【0002】
【従来の技術】今日、高性能永久磁石として代表的なR−Fe−B系永久磁石(特開昭59−46008号)は、三元系正方晶化合物の主相とRリッチ相を有する組織にて高磁石特性を発現し、iHcが25kOe以上、(BH)maxが45MGOe以上と、従来の高性能希土類コバルト磁石と比較しても格段の高性能を発揮する。また、用途に応じて選定された種々の磁石特性を発揮するよう、種々組成のR−Fe−B系永久磁石が提案されている。
【0003】上記種々の組成のR−Fe−B系焼結永久磁石を製造するには、所要組成の磁石用の合金粉末を製造する必要があり、電解により還元された希土類原料を用いて、溶解して鋳型に鋳造し所要磁石組成の合金塊を作成し、これを粉砕して所要粒度の合金粉末としたり、合金塊を水素吸蔵させて崩壊させたり、前記溶解金属を噴霧して粉末化する溶解・粉化法(特開昭60−63304号、特開昭60−1190701号、特開昭60−189901号)と、希土類酸化物、Fe粉等を用い直接磁石組成合金粉を作成する直接還元拡散法(特開昭59−219404号、特開昭60−77943号)がある。
【0004】溶解・粉化法は、鋳造時にFe初晶が発生し易くRリッチ相が大きく偏析するが、鋳塊の粗粉砕工程で容易に酸化防止が可能な工程で粉砕ができるため、比較的低含有酸素量の合金粉末が得られる。
【0005】直接還元拡散法は、上記の溶解・粉化法と比較して磁石用原料粉末を作成する時に溶解・粗粉砕等の工程を省略することができることが利点であるが、R2Fe14B主相の周囲にRリッチ相がとり囲んだ状態で作成され、また、Rリッチ相の大きさは前者と比較して小さく良く分散されるため、製造時に酸化され易く含有酸素量が多く、磁石組成によっては希土類元素が消耗されて磁石特性のバラツキ等の発生原因となる問題がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上述の如く、直接還元拡散法によるR−Fe−B系永久磁石用原料粉末を使用した永久磁石の製造において、溶解・粗粉砕等の工程を省略でき、生産性が向上するが、原料粉末の特徴としてRリッチ相が小さく良く分散されるので酸化され易く、溶解・粉化法原料と比較して含有酸素量が多く磁石製造工程中によるわずな酸化で磁石特性のバラツキを発生する。
【0007】そこで、CoやNi等の元素を添加することで、Rリッチ相を酸化に対して比較的安定な金属間化合物にすることで酸素量を低減できるが、これらの添加元素を最も有効に所定の組成にするため最適量に添加し制御することは不可能である。
【0008】すなわち、所定の磁石特性を得るためには添加する1種又は複数の希土類元素量をそれぞれ所要値に変化させる必要性があり、例えば、Co元素を添加して、酸素量の低減を図る際、Rリッチ相にのみCo元素を拡散させ所要相とすることは不可能で、添加したCo元素は主相中のFeとも置換されてしまう。また、CoやNi等の元素は、添加量によっては当該磁石の保磁力を低下させる問題もあり、容易に酸素量の低減を図ることができない。
【0009】従来、溶解・粉化法あるいは直接還元拡散法によるR−Fe−B系永久磁石磁石用原料粉末の製造に関しては、溶解時あるいは還元拡散時に要求される磁石特性に応じた目的組成となるよう、予め組成を調整する。
【0010】しかし、溶解・粉化法の場合には、R2Fe14B相以外に初晶としてα−Feが晶出し、組成の均一性が損なわれる。一方、直接還元拡散法によるR−Fe−B系永久磁石用原料粉末の場合、R2Fe14B相の主相の周囲にRリッチ相が存在する組織からなるため、Rリッチ相が原料粉末の製造に際して優先的に酸化して含有酸素量が増加することや、磁石特性に応じた特定の組成に調整するためには特定の元素が主相に入り易いか、Rリッチ相に入り易いかなど合金組成と組成比を常に考慮する必要があり、所要磁石特性を目的とする場合、特定の極狭い範囲の組成を狙って合金粉末を製造しなければならない。
【0011】すなわち、溶解・粉化法あるいは直接還元拡散法のいずれの製法においても、目的とする目標組成になるようにR2Fe14B相及びRリッチ相などの存在比率を調整することは困難であり、しかも溶解・粉化法ではα−Fe相の晶出が避け難く、直接還元拡散法では含有酸素量の増加等の問題を有している。
【0012】この発明は、R−Fe−B系永久磁石の製造に使用する原料粉末のかかる現状に鑑み、溶解・粉化法及び直接還元拡散法における原料粉末製造時の問題解消並びに該製法による原料粉末を使用した本系永久磁石の品質の向上を目的とし、また、要求される種々の磁石特性に応じた合金粉末の製造に際し、各原料の配合比で対応できるR−Fe−B系永久磁石用原料粉末の提供を目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】この発明は、まず直接還元拡散法によるR−Fe−B系永久磁石用原料粉末の含有酸素量の低減を目的に種々検討した結果、主相の周囲のRリッチ相を少なくし、あるいはR2Fe14B主相だけを作成することで含有酸素量を低減できることに着目し、直接還元拡散法にてRリッチ相の少ないR2Fe14B相に近い組成で合金粉末を作成し、かつこのRリッチ相の少ない該合金粉末のみでは種々の磁石特性に応じた組成を得ることはできず、しかもR−Fe−B系永久磁石を通常の粉末冶金的手法で製造することは製造工程中に不可避な原料酸化が生じるため極めて困難なことに鑑み、溶解・粉化法にてRリッチな合金粉末を、Co元素の添加によってR3Co相(但しCoの1部あるいは大部分をFeにて置換できる)を含むR2(Fe,Co)17相等からなる金属間化合物粉末を作成し、両者を混合することで含有酸素量の少ない所定の磁石組成の合金粉末を得ることができ、(BH)maxが20〜45MGOeの種々磁石特性に応じた組成の合金粉末を容易に提供できることを知見しこの発明を完成した。
【0014】すなわち、この発明は、R(但しRはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)11原子%〜13原子%、B4原子%〜12原子%、残部Fe及び不可避的不純物からなり、あるいはさらにFeの一部をCo10原子%以下、Ni3原子%以下の1種または2種で置換し、直接還元拡散法によるR2Fe14B相、あるいはR2(FeCo)14B相又はR2(FeNi)14B相を主相とする合金粉末と、R(但しRはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)13原子%〜45原子%、残部Co(但しCoの1部あるいは大部分をFeにて置換することができる)及び不可避的不純物からなり、溶解・粉化法により、R3Co相を含むCo又はFeとRとの金属間化合物相(但しCoの1部あるいは大部分をFeにて置換できる)からなる金属間化合物粉末とを、R−Fe−B系永久磁石の所要組成に配合したことを特徴とするR−Fe−B系永久磁石用原料粉末である。
【0015】
【作用】この発明は、R−Fe−B系永久磁石の製造に際し、直接還元拡散法にてRリッチ相の少ないR2Fe14B相に近い組成で合金粉末を作成することにより、含有酸素量を低減でき、また溶解・粉化法にて作成したRリッチな金属間化合物粉末を混合することにより、必要とする磁石特性に応じた組成の合金粉末を容易にかつ著しく含有酸素量を低減して製造することができる。
【0016】従って、この発明によるR−Fe−B系永久磁石用原料粉末は、要求される種々の磁石特性に応じた合金粉末の製造に際し、ある程度の汎用が可能で、配合比で対応できる。すなわち、要求される種々の磁石特性に応じて希土類元素の種類とその量を変化させ、複数種の組成からなるR−Fe−B系永久磁石用原料合金粉末を製造するに際し、(1)直接還元拡散法により、R(但しRはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)11原子%〜13原子%、B4原子%〜12原子%、残部Fe及び不可避的不純物からなり、あるいはさらにFeの一部を10原子%以下のCo、3原子%以下のNiの少なくとも1種と置換し、Rリッチ相が4%以下のR2Fe14B相、あるいはR2(FeCo)14B相又はR2(FeNi)14B相を主相とする一種類の合金粉末を作製し、(2)溶解・粉化法によりR(但しRはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)13原子%〜45原子%、残部Co(但しCoの1部あるいは大部分をFeにて置換することができる)及び不可避的不純物からなり、R3Co相を含むCo又はFeとRとの金属間化合物相(但しCoの1部あるいは大部分をFeにて置換できる)からなる金属間化合物粉末を作製する際に、目的組成の希土類元素の種類とその量に応じて、金属間化合物の含有希土類元素比率を変化させた複数の金属間化合物粉末を作製し、(3)前記所要主相からなる合金粉末と金属間化合物粉末を、60〜97:40〜3の比率で配合し、磁石特性に応じた複数種組成の合金粉末を得ることができる。
【0017】好ましい実施態様この発明において、直接還元拡散法による所要主相からなる合金粉末と溶解・粉化法による金属間化合物粉末との配合比を、60〜97:40〜3とするのは、所要主相からなる合金粉末が60%以下、金属間化合物粉末が40%以上では磁石を製造する際に各元素の均一拡散に時間を要し、金属間化合物粉末量が3%以下、所要主相からなる合金粉末が97%以上では焼結時の液相の発現が充分でないためである。
【0018】希土類元素Rこの発明に用いる希土類元素Rは、Yを包含し軽希土類及び重希土類を包含する希土類元素であり、これらのうち少なくとも1種、好ましくはNd、Pr等の軽希土類を主体として、あるいはNd、Pr等との混合物を用いる。すなわち、Rとしては、Nd,Pr,La,Ce,Tb,Dy,Ho,Er,Eu,Sm,Gd,Pm,Tm,Yb,Lu,Yを用いることができる。このRは純希土類元素でなくてもよく、工業上入手可能な範囲で製造上不可避な不純物を含有するものでも差支えない。
【0019】限定理由このR2Fe14B主相からなる合金粉末を得るには、Rが11原子%未満では、R、Bの拡散しない残留鉄部の増加となり、13原子%を超えると、Rリッチ相が増加して含有酸素量が増えるため、Rは11原子%〜13原子%とする。また、Bは、4原子%未満では、高い保磁力(iHc)が得られず、12原子%を超えると、残留磁束密度(Br)が低下するため、すぐれた永久磁石が得られないため、Bは4原子%〜12原子%とする。さらに、残部はFe及び不可避的不純物からなり、Feは75原子%〜85原子%の範囲が好ましい、Feは75原子%未満では相対的に希土類元素がリッチとなり、Rリッチ相が増加し、85原子%を超えると相対的に希土類元素が少なくなり、残留Fe部が増加し不均一な合金粉末となる。主相系合金粉末中のCoとNiは、R2Fe14B主相中のFeと置換されて保磁力を低下させるため、Coは10原子%以下、Niは3原子%以下とする。ただし、上述のCoまたはNiでFeの一部を置換した場合、Feは62原子%〜85原子%の範囲である。直接還元拡散法にて作成するRリッチ相の少ないR2Fe14B主相からなる合金粉末は、含有酸素量の低減のため、Rリッチ相が全くないことが望ましいが、全体の4wt%以下であれば、含有酸素量の低減を大きく損なうことがない。
【0020】溶解・粉化法によりR3Co相を含むCo又はFeとRとの金属間化合物相(但しCoの1部あるいは大部分をFeにて置換できる)からなる金属間化合物粉末、すなわちRリッチな合金粉末は、R3Co相あるいはR3Co相のCoの一部Feで置換された相とからなり、コア部が、RCo5、R2Co7、RCo3、RCo2、R2Co3、R2Fe17、RFe2Nd2Co17、Nd5Co19、Dy6Fe2、DyFe、等のいずれかからなる合金をディスクミルなどの粉砕機により粉砕して得られた粉末である。Rリッチな合金粉末の組成は、前述の如く、目的組成の希土類元素の種類とその量に応じて、金属間化合物の含有希土類元素比率を変化させる。しかし、Rが13原子未満では、主相系原料と配合して磁石を製造する際に、焼結時の液相の発現が十分でなく、また45原子%を超えると含有酸素量の増加を招き好ましくない。また、Coは、Rリッチな金属間化合物粉末において、1原子%以上必要で好ましくは3〜20原子%であり、残部はFeで置換できる。
【0021】合金粉末の製造方法殆どがR2Fe14B相からなる合金粉末を得るには、フェロボロン粉、鉄粉、希土類酸化物粉等からなる少なくとも1種の金属粉及び/または酸化物粉からなる原料粉を所望する原料合金粉末の組成に応じて選定する。例えば、上記原料粉に、金属CaあるいはCaH2を上記希土類酸化物粉の還元に要する化学量論的必要量の1.1〜4.0倍(重量比)混合し、不活性ガス雰囲気中で900℃〜1200℃に加熱し、得られた反応生成物を水中に投入して反応副生成物を除去することにより、粗粉砕が不要な10〜200μmの平均粒度を有する粉末が得られる。Rリッチな合金粉末を得るには、アーク溶解、高周波溶解等によりCo、Fe、Ni、などの合金を、目的組成の希土類元素種類とその量に応じた含有希土類元素比率となるように溶解製造したのち、粉砕することにより2〜200μmの平均粒度の粉末にする。なお、粉砕方法には水素含有崩壊方法を用いることもでき、また直接粉末を得るためにアトマイズ法を用いることができる。
【0022】合金粉末の配合直接還元拡散法による所要主相からなる合金粉末と溶解・粉化法による金属間化合物粉末を、60〜97:40〜3の比率で配合し、磁石特性に応じた複数種組成の合金粉末を得ることができる。この発明によるR−Fe−B系永久磁石用原料粉末は、含有酸素量が2000ppm以下と極めて良好な特性が得られる。得られる粉末をそのまま用いる際に、合金粉末の粒度が大きすぎると永久磁石の磁気特性、とりわけ高い保磁力が得られず、また、平均粒度が1μm未満では、永久磁石の作製工程、すなわち、プレス成形、焼結、時効処理工程における酸化が著しく、すぐれた磁気特性が得られないため、1〜80μmの平均粒度が好ましく、さらに、すぐれた磁気特性を得るには、平均粒度2〜10μmの合金粉末が望ましい。
【0023】また、得られる合金粉末を用いて、高い残留磁束密度と高い保磁力を共に有するすぐれたR−Fe−B系永久磁石を得るためには、配合した原料粉末は、R12原子%〜25原子%、B4原子%〜10原子%、Co0.1原子%〜10原子%、Fe68原子%〜80原子%の組成が好ましい。さらに、配合したR2Fe14B相を主相とする合金粉末および/またはR3Co相を含むCo又はFeとRとの金属間化合物相からなる金属間化合物粉末に、Cu3.5原子%以下、S2.5原子%以下、Ti4.5原子%以下、Si15原子%以下、V9.5原子%以下、Nb12.5原子%以下、Ta10.5原子%以下、Cr8.5原子%以下、Mo9.5原子%以下、W9.5原子%以下、Mn3.5原子%以下、Al9.5原子%以下、Sb2.5原子%以下、Ge7原子%以下、Sn3.5原子%以下、Zr5.5原子%以下、Hf5.5原子%以下、Ca8.5原子%以下、Mg8.5原子%以下、Sr7.0原子%以下、Ba7.0原子%以下、Be7.0原子%以下、のうち少なくとも1種を添加含有させることにより、得られる永久磁石の高保磁力化、高耐食性化、温度特性の改善が可能になる。
【0024】この発明による合金粉末を用いて製造した永久磁石の組成が、R11原子%〜25原子%、B4原子%〜10原子%、Co30原子%以下、Fe66原子%〜82原子%の場合、得られる磁気異方性永久磁石は、保磁力iC≧5kOe、(BH)max≧20MGOe、の磁気特性を示し、さらに、残留磁束密度の温度係数が、0.1%/℃以下となり、すぐれた特性が得られる。また、永久磁石組成のRの主成分がその50%以上を軽希土類金属が占める場合で、R12原子%〜20原子%、B4原子%〜10原子%、Fe66原子%〜82原子%、Co20原子%以下を含有するとき最もすぐれた磁気特性を示し、特に軽希土類金属がNd、Pr、Dyの場合には、(BH)maxはその最大値が40MGOe以上に達する。
【0025】
【実施例】
実施例1主相系の直接還元拡散法での原料は、Nd23(純度99%)を361g、B含有量19.1%のFe−B粉を78.6g、純度99%のFe粉を649gを用いて、これに純度99%の金属Caを193g、無水CaCl2を36.1gとを混合し、ステンレス容器内に装入し、Ar気流中にて1000℃×3時間の条件にてCa還元、拡散を行った。その後、冷却し生成混合物を水洗し不要なCa分を除去した。得られた粉末スラリーをアルコール等で水置換後、真空中で加熱乾燥して約1000gの原料粉末を得た。得られた粉末はNd12.0原子%、Pr0.2原子%、B7.7原子%、残部Feからなる平均粒径約18μmのもので、含有酸素量は1500ppmでEPMA等の観察ではほとんどNd2Fe14B相であった。
【0026】Rリッチな金属間化合物粉末の原料は、Ndメタル(純度99%)を132.3g、Dyメタル(純度99.9%)を24.1g、Coメタル(純度99.9%)を31.5g、純度99%の電解鉄粉を130.4gを用い、Ar雰囲気中で高周波溶解にて得られた合金塊を、ジョークラッシャー・ディスクミルで粉砕し、平均10μmの粉末300gを得た。得られた粉末はNd22.5原子%、Pr0.4原子%、Dy3.7原子%、Co13.7原子%、残部Feからなり、EPMA等の観察結果ではR3Co相(Coの一部がFeで置換)と希土類元素とFe、Coの金属間化合物から成るもので含有酸素量は1000ppmであった。
【0027】この両者の原料粉末を用いて、主相系合金粉末80%、Rリッチな金属間化合物粉末20%の割合で配合混合し、Nd13.7原子%、Pr0.2原子%、Dy0.6原子%、B6.5原子%、Co2.2原子%、残部Feからなる配合原料粉末を磁石の出発原料とした。この原料粉末をジェットミル等の粉砕機で約3μmまで微粉砕し、得られた微粉末を金型に装入し、約10kOeの磁界中で配向し、磁界に直角方向に約2ton/cm2の圧力で成型し、15mm×20mm×8mmの成型体を作成した。この成型体を1090℃×3時間のAr雰囲気中条件で焼結し、500℃×2時間の時効処理を行った。得られた試験片の磁石特性は、Br=12.6kG、(BH)max=38.2MGOe、iHc=16.25kOeであり、含有酸素量は4800ppmであった。
【0028】また、上記原料粉末を用いて、主相系合金粉末84%、Rリッチな金属間化合物粉末16%の割合で配合混合し、Nd13.4原子%、Pr0.2原子%、Dy0.5原子%、B6.7原子%、Co1.8原子%、残部Feからなる配合原料粉末を磁石の出発原料し、先と同じ工程で磁石を作成した。得られた試験片の磁石特性は、Br=12.8kG、(BH)max=39.4MGOe、iHc=15.45kOeであり、含有酸素量は4800ppmであった。
【0029】比較例1直接還元拡散法でNd23(純度99%)を385gDy23(純度99.9%)を18.5gB含有量19.1%のFe−B粉を62.9gCo粉(純度99.9%)を21.4g純度99%のFe粉を603gを用い、これに純度99%の金属Caを215.8g、無水CaCl2を40.7gを混合し、ステンレス容器内に装入し、Ar気流中にて1000℃×3時間の条件にてCa還元、拡散を行った。その後、冷却し生成混合物を水洗し不要なCa分を除去した。得られた粉末スラリーをアルコール等で水置換後、真空中で加熱乾燥して約1000gの原料粉末を得た。
【0030】得られた粉末は、実施例1の主相系合金粉末80%、Rリッチな金属間化合物粉末20%の割合で配合した出発原料粉末と同等のNd13.7原子%、Pr0.2原子%、Dy0.6原子%、B6.5原子%、Co2.2原子%、残部Feからなる平均粒度約20μmのもので、含有酸素量は2500ppmであった。EPMA等の観察では、主相であるR2Fe14B相に一部Coが置換されているのが散見され、また、Rリッチ相ではNd3Co相とNdリッチ相(Nd=約95%)が観察された。この出発原料粉末を用い、実施例1と同工程で磁石を作成して得られた試験片の磁石特性は、Br=12.0kG、(BH)max=33.7MGOe、iHc=14.2kOeであり、実施例1の磁石に比べて磁石特性が劣り、かつ含有酸素量は6200ppmと高かった。
【0031】比較例2電解鉄、フェロボロン合金、Co金属、Nd金属とDy金属を高周波溶解し、Nd13.7原子%、Pr0.3原子%、Dy0.6原子%、B6.5原子%、Co2.2原子%、残部Feからなる合金塊を作製した。EPMA等の観察では、主相であるR2Fe14B相に一部Coが置換されていること、及び軟磁性相のα−Fe相が晶出していることが散見され、また、Rリッチ相ではNd3Co相とNdリッチ相(Nd=約95%)が観察された。
【0032】この合金塊をジョークラッシャー・ディスクミル等で粉砕し、さらにジェット・ミルなどの粉砕機で約3μmまで微粉砕し、その後実施例1と同工程で永久磁石を作成した。得られた試験片の磁石特性は、Br=12.4kG、(BH)max=37.3MGOe、iHc=16.0kOeであり、実施例1の磁石に比べて磁石特性が劣るが、含有酸素量は4850ppmとほぼ同等であった。
【0033】実施例2主相系の直接還元拡散法での原料はNd23(純度98%)を127.8g、Dy23(純度99.9%)を4.3g、B含有量19.1%のFe−B粉を23.8g、Co(純度99.5%)粉を3.9g、純度99%のFe粉を258.9gを用いて、これに純度99%の金属Caを70.5g、無水CaCl2を13.2gとを混合し、ステンレス容器内に挿入し、Ar気流中にて1000℃×3時間の条件にてCa還元拡散を行った。その後、冷却して生成混合物を水洗し、不要なCa分を除去した。得られた粉末スラリーをアルコール等で水置換後、真空中で加熱乾燥とした。得られた粉末は、Nd11.2原子%、Pr0.3原子%、Dy0.4原子%、Co1.1原子%、B6.7原子%、残部Feからなる平均粒径約15μmのもので、含有酸素量は1100ppmでEPMA等の観察ではほとんどR2(Fe,Co)14B相である。
【0034】Rリッチな金属間化合物粉末の原料は、Ndメタル(純度99%)を140.9g、Coメタル(純度99.9%)を34.4g、純度99%の電解鉄粉を144.3gを用い、実施例1と同じ工程で粉末を作製した。得られた粉末は、Nd22.8原子%、Pr0.2原子%、Co14.2原子%、残部Feからなり、平均粒度約10μmの粉末となした。EPMA等での観察結果ではNd3Co相(Coの一部をFeで置換)と、Nd2Fe17相(Feの一部がCoで置換)の2相から成るもので含有酸素量は1000ppmであった。
【0035】この両者の原料粉末を用い、主相系合金粉末80%、Rリッチな金属間化合物粉末20%の割合で配合混合し、Nd13.2原子%、Pr0.3原子%、Dy0.3原子%、Co3.4原子%、B5.5原子%、残部Feからなる配合原料粉末を磁石の出発原料とした。実施例1と同工程で磁石を作成して得られた試験片の磁石特性は、Br=13.3kG、(BH)max=42.7MGOe、iHc=13.05kOeであり、含有酸素量は4100ppmであった。
【0036】実施例3主相系の直接還元拡散法での原料は、実施例1と同一条件で作成し、得られた粉末は、Nd11.2at%、Pr0.3at%、Dy0.4at%、Co1.1at%、B6.8at%、残部Feからなる平均粒径約15μmのもので含有酸素量は1100ppmである。
【0037】Rリッチな金属間化合物粉末の原料はNdメタル(純度99%)を154.0g、Dyメタル(純度99.9%)を22.2g、Coメタル(純度99.9%)を18.6g、Cuメタル(純度99.9%)を1.6g、純度99%の電解鉄粉を124.1gを用い、実施例1と同じ工程で粉末を作成した。得られた粉末は、Nd27.5原子%、Pr0.2原子%、Dy3.6原子%、Co8.4原子%、Cu0.7原子%、残部Feからなる平均粒度10μmのもので含有酸素量は1100ppmであった。
【0038】この両者の原料粉末を用いて、主相系合金粉末80%、Rリッチな金属間化合物粉末20%の割合で配合混合し、Nd13.8原子%、Pr0.3原子%、Dy0.9原子%、Co2.2原子%、Cu0.1原子%、B5.6原子%、残部Feからなる配合原料粉末を磁石の出発原料とした。この原料粉末をボールミル等の粉砕機で約3μmまで微粉砕して得られたスラリー微粉末を金型に装入し、約10kOeの磁界中で配向し磁界に直角方向に約1.5ton/cm2の圧力で成形し15mm×20mm×8mmの成型体を作成した。この成型体を真空中で残存する溶媒を除去し、つづいて1090℃×3時間のAr雰囲気中条件で焼結し、500℃×2時間の時効処理を行った。得られた試験片の磁石特性は、Br=12.2kG、(BH)max=36.3MGOe、iHc=17.48kOeであり、含有酸素量は3500ppmであった。
【0039】
【発明の効果】この発明は、直接還元拡散法にてRリッチ相の少ないR2Fe14B相に近い組成で合金粉末を作成し、また溶解・粉化法により、Rリッチな金属間化合物粉末をCo元素の添加によって合金粒子がR3Co相あるいは前記R3Co相のCoの一部をFeで置換されたR2(FeCo)17相や他の金属間化合物相から成る金属間化合物合金粉末を作成し、両者を混合することにより、含有酸素量の少なく高磁石特性が得られる所定の磁石組成合金粉末を容易に得ることができる。また、この発明は、要求される数種の磁石特性に応じて希土類元素種とその量を変化させ、複数種の組成からなるR−Fe−B系永久磁石用原料合金粉末を製造するに際し、例えば、所要組成の一種類の主相系合金粉末と、目的組成の希土類元素種とその量に応じて、金属間化合物の含有希土類元素比率を変化させて作製した複数種の金属間化合物粉末を配合することにより、要求される磁石特性に応じた複数種組成の合金粉末を容易に得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 R(但しRはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)11原子%〜13原子%、B4原子%〜12原子%、残部Fe及び不可避的不純物からなり、直接還元拡散法によるR2Fe14B相を主相とする合金粉末と、R(但しRはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)13原子%〜45原子%、残部Co(但しCoの1部あるいは大部分をFeにて置換できる)及び不可避的不純物からなり、溶解・粉化法により、R3Co相を含むCo又はFeとRとの金属間化合物相(但しCoの1部あるいは大部分をFeにて置換できる)からなる金属間化合物粉末とを、R−Fe−B系永久磁石の所要組成に配合したことを特徴とするR−Fe−B系永久磁石用原料粉末。
【請求項2】 R(但しRはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)11原子%〜13原子%、B4原子%〜12原子%、Co10原子%以下、Ni3原子%以下の1種または2種、残部Fe及び不可避的不純物からなり、直接還元拡散法によるR2(FeCo)14B相又はR2(FeNi)14B相を主相とする合金粉末と、R(但しRはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)13原子%〜45原子%、残部Co(但しCoの1部あるいは大部分をFeにて置換できる)及び不可避的不純物からなり、溶解・粉化法により、R3Co相を含むCo又はFeとRとの金属間化合物相(但しCoの1部あるいは大部分をFeにて置換できる)からなる金属間化合物粉末とを、R−Fe−B系永久磁石の所要組成に配合したことを特徴とするR−Fe−B系永久磁石用原料粉末。