説明

RFID用カード収容具およびRFID用通信補助シート

【課題】複数のRFIDタグを収納可能で、RFIDリーダから磁界を印加されたとき、所望の1つのRFIDタグのみを起動させて読取り可能としつつ、その他のRFIDについては読取りを不能とすることのできるRFID用カード収容具およびRFID用通信補助シートを提供する。
【解決手段】磁性体層と、導電体層と、間隙層とを備えた板状部材を用いて、RFID用カード収容具およびRFID用通信補助シートを作製する。このRFID用カード収容具および通信補助シートにおいて、板状部材は第1のRFIDタグと第2のRFIDタグとの間に配置されるよう用いられる。すると、第1のRFIDタグ側に位置するRFIDリーダから磁界を印加されたとき、第1のRFIDタグは起動されるので、RFIDリーダへの返信が行われる。一方、第2のRFIDタグは、導電体層で発生した渦電流によって反磁界が生じることにより起動されないので、返信は行われない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はRFID用カード収容具およびRFID用通信補助シートに係り、より詳細には、複数の非接触ICカード等のRFIDタグを収納し、そのうち所望の1つのRFIDタグのみを読取り可能とする財布等のカード収容具と、複数のRFIDタグとあわせて保持するとき、そのうちの所望の1つのRFIDタグとリーダとの間における通信の安定化および他のRFIDタグとリーダとの間における通信の阻止を同時に行うことのできる通信補助シートとに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クレジットカードやキャッシュカード、公共交通機関の乗車券等、日常の様々な場面で非接触ICカード等のRFID(Radio Frequency Identification)技術を利用したサービスが提供されるようになってきている。以下、非接触ICカードを例として、その動作を図1(a)および(b)を参照して端的に説明する。
【0003】
非接触ICカード10をリーダ20にかざしたとき、リーダ20が非接触ICカード10に対して磁界Aを発生する。磁界Aが非接触ICカード10に内蔵されているコイルを通過すると、コイルでは磁束が電流に変換され、ICの電源として利用される。そして、リーダ20からの磁界とは逆向きの磁界Bが発生し、リクエストコマンド信号に対する返信が行われる。これにより、リーダ20はICカード10に記録されている情報を読取ることができる。
【0004】
非接触ICカードはこのようにリーダにかざすだけで使用できるため、手軽で便利である。しかしその反面、カードに記録された情報が所持者の知らない間に不正に読取られてしまうという事態も発生している。そこで、スキミングと呼ばれるこうした不正な読取りを防止することを目的として、本発明者は特許文献1に記載の非接触ICカード用スキミング防止機能を備えたカードを開発した。
【0005】
特許文献1に記載のスキミング防止機能を備えたカードは、金、銀、銅、アルミニウムのうちいずれかよりなる金属薄板と、この金属薄板をPET(ポリエチレンテレフタレート)またはPVC(ポリ塩化ビニル)によりラミネート加工した化粧板とから構成される。
【0006】
図2(a)および(b)に示すように、このスキミング防止機能を備えたカードと非接触ICカード10とを近接して配置することにより、リーダ20からの磁界Aを受けたとき、スキミング防止機能を備えたカードの金属薄板に発生する渦電流によってリーダ20からの磁界Aを打消す反磁界が生じ、非接触ICカード10は起動されない。したがって、非接触ICカードに記録されている情報がリーダに読取られることはない。
【0007】
しかし、特許文献1に記載のカードによれば、スキミングを効果的に防止することができる反面、通常のリーダによる読取りも防止してしまうという問題がある。したがって、特許文献1に記載のカードとあわせて携帯している場合、非接触ICカードはいちいち単独で取り出してリーダにかざさなければならず、利便性が大きく低下してしまう。
【0008】
また、近時では多くの消費者が複数の非接触ICカードを所持するようになっており、これらはしばしば財布等に一緒に収納される。ところが、こうした財布をそのままリーダにかざすと、所望の1枚だけではなく、収納された各カードがそれぞれリーダに対して返信を行うので、混信による読取りエラーが発生してしまう。したがってこの場合も、所望の1枚の非接触ICカードのみを単独で取り出してリーダにかざさなければならない。
【0009】
このような問題を解決し、非接触ICカードをより便利に使用するために、例えば特許文献2に記載の非接触型ICカードホルダーや、特許文献3に記載のICカード用ホルダーを利用することができる。
【0010】
特許文献2に記載の非接触型ICカードホルダーは、複数のICカードをそれぞれ収納する複数のカード収納部を備えており、磁性体部と導電体部とから構成した隔壁部を設けることにより、各カード収納部に収納されたICカードのうち所望のカードのみに対してデータの読取りや書込みを行うことができるようにしたものである。
【0011】
また、特許文献3に記載のICカード用ホルダーは、2枚の非接触ICカード間に導電性シートと磁性シートとから構成される干渉防止体を介装することによって、各非接触ICカードの通信機能を確保するものである。
【0012】
こうしたカードホルダーによれば、複数の非接触ICカードのうち所望の1枚のみを、カードホルダーに収納した状態のままで利用することが可能である。
【特許文献1】特許第3836496号公報
【特許文献2】特許第3630006号公報
【特許文献3】特開2005−11044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献2および3からもわかるように、導電体と磁性体とを利用して、複数の非接触ICカードのうち所望の1枚の非接触ICカードのみの起動を可能とすることについては、当業者には知られているところである。そこで、本発明者は、具体的にはどのような導電体と磁性体とを用いるのが最も効果的であるのかを見出すため、導電体と磁性体とから構成した板状部材について研究を進めた。その結果、次のような問題点が明らかになった。
【0014】
図3(a)〜(c)に示すのは、導電体のみ、および導電体と磁性体とを組み合わせて構成した板状部材である。ここでは、導電体としては厚さが35μmの銅箔を用い、磁性体としては厚さが150μm、比透磁率が20のフェライト片を用いている。各板状部材のうち、Aは銅箔30のみ、Bは銅箔30とフェライト片40とを組み合わせた板状部材、Cは第1のフェライト片401と第2のフェライト片402との間に銅箔30を介在させた板状部材である。
【0015】
これらの板状部材A〜CについてKEC法により磁界強度減衰率を測定したところ、表1に示すような結果を得た。
【0016】
【表1】

【0017】
表1によれば、磁界強度減衰率は板状部材A、B、Cの順に低くなっている。すなわち、この順に板状部材の遮蔽性が悪化することがわかった。これは、2片の磁性体の間に導電体を介在させる構造の板状部材は、複数の非接触ICカードのうち1枚のみを起動させようとするとき、高い確実性を提供できないことを意味している。
【0018】
そこで、本発明は、このような問題を解消し、複数のRFIDタグを所持している場合において、所望の1つのRFIDタグのみを確実に起動させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
こうした課題を解決するために本発明が提供するのは、単一の第1のRFIDタグを収納する第1収納部と、単一または複数の第2のRFIDタグを収納する第2収納部とを備えたRFID用カード収容具である。このRFID用カード収容具において、第1収納部と第2収納部との間には、磁性体層と、第1の間隙層と、導電体層と、第2の間隙層とを順に積層して構成された板状部材が介在される。この板状部材は、第1収納部に収納された第1のRFIDタグに記録された情報の読取りのために周波数13.56MHzの磁界が印加されたとき所定の磁界強度減衰率を有し、第1のRFIDタグを起動させつつ第2収納部に収納された第2のRFIDタグの起動は阻止する。
【0020】
また、本発明が提供するのは、単一の第1のRFIDタグを収納する第1収納部と、単一の第2のRFIDタグを収納する第2収納部とを備えたRFID用カード収容具である。このRFID用カード収容具において、第1収納部と第2収納部との間には、第1の磁性体層と、第1の間隙層と、第1の導電体層と、第2の間隙層と、第2の導電体層と、第3の間隙層と、第2の磁性体層とを順に積層して構成された板状部材が介在される。この板状部材は、第1収納部に収納された第1のRFIDタグに記録された情報の読取りのために周波数13.56MHzの磁界が印加されたとき所定の磁界強度減衰率を有し、第1のRFIDタグを起動させつつ第2収納部に収納された第2のRFIDタグの起動は阻止するか、または、第2のRFIDタグを起動させつつ第1のRFIDタグの起動は阻止する。
【0021】
また、本発明がさらに提供するのは、単一の第1のRFIDタグを収納する第1収納部と、単一の第2のRFIDタグを収納する第2収納部とを備えたRFID用カード収容具である。このRFID用カード収容具において、第1収納部と第2収納部との間には、第1の磁性体層と、第1の導電体層と、間隙層と、第2の導電体層と、第2の磁性体層とを順に積層して構成された板状部材が介在される。この板状部材は、第1収納部に収納された第1のRFIDタグに記録された情報の読取りのために周波数13.56MHzの磁界が印加されたとき所定の磁界強度減衰率を有し、第1のRFIDタグを起動させつつ第2収納部に収納された第2のRFIDタグの起動は阻止するか、または、第2のRFIDタグを起動させつつ第1のRFIDタグの起動は阻止する。
【0022】
これらのRFID用カード収容具において、導電体層は厚さが35μmの銅であり、磁性体層は周波数13.56MHzの磁界が印加されたとき1より高い比透磁率を有し、間隙層は紙または樹脂により形成される。また、間隙層には孔が形成されてもよい。
【0023】
前述の課題を解決するために本発明がさらに提供するのは、単一の第1のRFIDタグと単一または複数の第2のRFIDタグとの間に配置され、RFIDリーダと第1のRFIDタグとの間における通信を安定化し、且つ、RFIDと第2のRFIDタグとの間における通信を阻止するRFID用通信補助シートである。このRFID用通信補助シートは、磁性体層と、第1の間隙層と、導電体層と、第2の間隙層とを順に積層して構成され、RFIDリーダから第1のRFIDタグに記録された情報の読取りのために周波数13.56MHzの磁界が印加されたとき所定の磁界強度減衰率を有し、第1のRFIDタグを起動させつつ第2のRFIDタグの起動は阻止する。
【0024】
また、本発明が提供するのは、単一の第1のRFIDタグと単一の第2のRFIDタグとの間に配置され、RFIDリーダと第1のRFIDタグとの間における通信を安定化し、且つ、RFIDリーダと第2のRFIDタグとの間における通信を阻止するか、または、RFIDリーダと第2のRFIDタグとの間における通信を安定化し、且つ、RFIDリーダと第1のRFIDタグとの間における通信を阻止するRFID用通信補助シートである。このRFID用通信補助シートは、第1の磁性体と、第1の間隙層と、第1の導電体層と、第2の間隙層と、第2の導電体層と、第3の間隙層と、第2の磁性体層とを順に積層して構成され、RFIDリーダから第1のRFIDタグまたは第2のRFIDタグに記録された情報の読み取りのために周波数13.56MHzの磁界が印加されたとき所定の磁界強度減衰率を有し、第1のRFIDタグを起動させつつ第2のRFIDタグの起動は阻止するか、または第2のRFIDタグを起動させつつ第1のRFIDタグの起動は阻止する。
【0025】
また、本発明がさらに提供するのは、単一の第1のRFIDタグと単一の第2のRFIDタグとの間に配置され、RFIDリーダと第1のRFIDタグとの間における通信を安定化し、且つ、RFIDリーダと第2のRFIDタグとの間における通信を阻止するか、または、RFIDリーダと第2のRFIDタグとの間における通信を安定化し、且つ、RFIDリーダと第1のRFIDタグとの間における通信を阻止するRFID用通信補助シートである。このRFID用通信補助シートは、第1の磁性体層と、第1の導電体層と、間隙層と、第2の導電体層と、第2の磁性体層とを順に積層して構成され、RFIDリーダから第1のRFIDタグまたは第2のRFIDタグに記録された情報の読取りのために周波数13.56MHzの磁界が印加されたとき所定の磁界強度減衰率を有し、第1のRFIDタグを起動させつつ第2のRFIDタグの起動は阻止するか、または第2のRFIDタグを起動させつつ第1のRFIDタグの起動は阻止する。
【0026】
これらのRFID用通信補助シートにおいて、導電体層は厚さが35μmの銅であり、磁性体層は周波数13.56MHzの磁界が印加されたとき1より高い比透磁率を有し、間隙層は紙または樹脂により形成される。また、間隙層には孔が形成されてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明のRFID用カード収容具によれば、複数の非接触ICカード等のRFIDタグを収納したままの状態でリーダにかざしても、読取りエラーを発生させることなく所望の1つのRFIDタグのみを起動させることができ、且つ、他のRFIDタグについては読取りを防止することができる。
【0028】
また、本発明のRFID用通信補助シートによれば、2枚の非接触ICカード等のRFIDタグとあわせて保持することにより、所望の一方のRFIDタグのみを起動させ、且つ、他方のRFIDタグについては読取りを防止することができる。
【0029】
したがって、例えば頻繁に使用する非接触ICカードについては読取りを容易に行うことができるようにし、同時に、その他の非接触ICカードについてはスキミングを防止することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
【0031】
なお、以降において、「表側」とは相対的にリーダに近い位置、「裏側」とは相対的にリーダから遠い位置を意味する。したがって、例えば、磁性体および導電体からなる板状部材を非接触ICカードの「表側」に配置する、とは、リーダと非接触ICカードとの間に板状部材を配置することを表す。また、板状部材を非接触ICカードの「裏側」に配置する、とは、リーダと板状部材との間に非接触ICカードを配置することを表す。
【0032】
さらに、板状部材を非接触ICカードの表側および裏側のいずれに配置する場合であっても、板状部材を構成する磁性体および導電体のうち、磁性体が常にリーダ側に配置されるものとする。
【0033】
本発明者は、特許文献1に記載のスキミング防止機能を備えたカードの開発過程において、磁性体であるフェライトについて測定を行い、フェライトが次のような性質を持つことを見出した。
【0034】
第一に、フェライト片を非接触ICカードの表側に配置した場合、フェライト片はリーダからの磁界を打消し、非接触ICカードを起動させない。第二に、フェライト片を非接触ICカードの裏側に配置した場合、フェライト片はリーダからの磁界を増幅し、非接触ICカードに記録された情報の読取りを助長する。
【0035】
ここで、このような性質を備えた磁性体と導電体とからなる板状部材を非接触ICカードの裏側に配置した場合、非接触ICカードが起動されることはわかっているが、これを実現できる磁性体および導電体の詳細については明らかではない。また、板状部材が適切な磁性体および導電体から構成されていないと、次のような問題が発生することがある。
【0036】
例えば、図4(a)および(b)の模式図に示すように、リーダ20からの磁界Aにより、第1の非接触ICカード101のみを起動させることを目的としているにもかかわらず、第1の非接触ICカード101および第2の非接触ICカード102がともに起動されてそれぞれ返信B1およびB2を行ってしまい、混信が起こる。
【0037】
あるいは、図5(a)および(b)の模式図に示すように、リーダ20からの磁界Aを受けて導電体30で発生した渦電流により、強い反磁界Cが生じ、第1の非接触ICカード101および第2の非接触ICカード102がいずれも起動されず、返信が行われない。
【0038】
こうした問題が発生しないようにするためには、非接触ICカードの規格を考慮すると、リーダから周波数13.56MHzの磁界を印加されたとき、所定の磁界強度減衰率を得ることのできる板状部材を用いるのが望ましい。ここで、所定の磁界強度減衰率の理論値としては−9.54dBが規定されており、この値は、KEC法での測定値とは一致しない。
【0039】
すなわち、KEC法による測定で得られた−22dBでは理論値−9.54dBに達せず、KEC法で測定した場合には少なくとも−30dBの値が必要である。磁性体および導電体を用いてそのような板状部材を構成し、2枚の非接触ICカードの間に介在させれば、図6(a)および(b)に示すように、リーダ20から磁界Aが印加されたとき、磁性体40および導電体30の表側にある第1の非接触ICカード101は起動されて返信Bを行い、且つ裏側に位置する第2の非接触ICカード102は反磁界Cの作用により起動されず、混信の問題は発生しないと考えられる。
【0040】
そうすると、そのような板状部材を応用して、磁性体と磁性体との間に導電体を介在させた構成、すなわち磁性体と導電体とからなる2つの板状部材を接着させた構成の板状部材によれば、その表裏に配置した2枚の非接触ICカードのうち一方を起動させ、且つ他方を起動させずに使用できるのではないかと推測される。
【0041】
しかしながら、既に述べたように、導電体として銅箔を用い、磁性体としてフェライト片を用いた場合、2つのフェライト片間に銅箔を介在させて構成した板状部材では、銅箔のみおよびフェライト片と銅箔とから構成した板状部材と比較して高い磁界強度減衰率が得られない。
【0042】
この現象の原因を明らかにするため、本発明者はまず、フェライト片間に介在させる銅箔の厚さに着目し、銅箔の厚さの変更により磁界強度減衰率がどのように変化するかを調べるための測定を行った。ここでは、厚さが150μm、比透磁率が20の第1および第2のフェライト片401および402の間に、図7(a)および(b)に示すように、厚さが35μmおよび70μmの銅箔30を介在させ、それぞれについてKEC法により磁界強度減衰率を測定した。表2に測定の結果を示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2より、銅箔の厚さを2倍にしても、磁界強度減衰率にはほとんど変化が見られないことがわかった。したがって、フェライト片間に介在させる銅箔の厚さを変更しても、エラーの発生を防止する手立てとはならないと考えられる。
【0045】
次に、本発明者は板状部材の構成に着目した。すなわち、リーダからの磁界を受けたとき、2つのフェライト片と銅箔とが密着していると、銅箔に渦電流が流れ難くなるために十分な磁界強度減衰率が得られないのではないかと考えた。そこで、これを確かめるため、次のような板状部材を用意した。
【0046】
図8に示すのは、フェライト片40、紙片701、銅箔30、紙片702を順に積層して構成した板状部材Dである。ここで、紙片701は、フェライト片40と銅箔30との間に間隙を設けるために挿入されたものである。
【0047】
また、同様にフェライト片と銅箔との間に間隙を設けた構成として、図9に示す板状部材Eについても測定を行った。ここで、板状部材Eは第1のフェライト片401、紙片701、第1の銅箔301、紙片702、第2の銅箔302、紙片703、第2のフェライト片402を順に積層して構成したものである。
【0048】
さらに、図10に示す板状部材Fについても測定を行った。板状部材Fは第1のフェライト片401、第1の銅箔301、紙片70、第2の銅箔302、第2のフェライト片402を順に積層したものである。第1のフェライト片401と第1の銅箔301との間、および第2のフェライト片402と第2の銅箔302との間には間隙がないが、積層の中央にあたる第1の銅箔301と第2の銅箔302との間に紙片70が挟まれることにより間隙が設けられている。
【0049】
図8〜10に示す各板状部材D〜Fにおいて、銅箔は厚さが35μmのものを用い、フェライト片は厚さ150μm、比透磁率が20のものを使用した。また、紙片の厚さは150μm、比誘電率は2.6である。これらの板状部材を用いてKEC法により磁界強度減衰率を測定した結果を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
ここで、表1に示したように、フェライト片間に銅箔を介在させた板状部材Cにおける磁界強度減衰率は−22dBであったのに対し、表3に示す板状部材D、E、Fは、いずれも板状部材Cに比べて高い磁界強度減衰率を示している。板状部材D〜Fのうち最も磁界強度減衰率の低い板状部材Fであっても、板状部材Cより約10dB高い遮蔽効果を得られることがわかった。
【0052】
このように、フェライト片と銅箔との間、すなわち磁性体と導電体との間に間隙を設けるか、あるいは2つのフェライト片の間に介在させる2つの銅箔の間に間隙を設けることにより、導電体における渦電流の発生が妨げられなくなるものと考えられる。そのため、板状部材Dを用いれば、表側に配置された非接触ICカードのみを起動させ、裏側に配置された非接触ICカードは起動させないようにすることができる。また、板状部材EまたはFを用いれば、表側および裏側にそれぞれ配置された非接触ICカードのうち、いずれか一方の非接触ICカードのみを起動させ、他方の非接触ICカードは起動させないようにすることができる。
【0053】
そこで、D、E、Fのような板状部材を利用して、例えば次のようなカード収容具を作製することができる。
【0054】
図11、12および13に示すのは、本発明の一実施例による財布である。この財布50は、図11に示すように、内側に複数のカードおよび紙幣を収納するための内ポケットを備える。内ポケットに収納する複数のカード102a〜102fは、非接触ICカードや磁気式あるいは紙製のカード等である。
【0055】
財布50は、破線Xで折畳んだ状態で携帯する。図12(a)および(b)に折畳んだ状態の財布50を示す。同図においては折り目Xが上側にあたる。図示するように、財布50は1つの外ポケット601を備え、ここには非接触ICカード101を1枚のみ収納する。なお、外ポケット601は、財布50の内ポケットのうち、例えばカード102fを収納する内ポケット602と重なる位置に設けられる。
【0056】
このような財布50は全体として、例えば牛革等の皮革により作製される。そして、少なくとも外ポケット601および内ポケット602が配置される部分には、外側の皮革501と内側の皮革502との間に、前述した板状部材Dが挟み込まれる。これを図13に示す。
【0057】
板状部材Dは、外ポケット601および外側の皮革501の側から内側の皮革502および内ポケット602の側に向かって順に、フェライト層40、紙片701、銅箔30、紙片702が位置するように、財布50に内蔵される。板状部材は、外側の皮革501と内側の皮革502との間の全面にわたって広がる大きさでもよいが、例えば外ポケット601と重なる部分にだけフェライト層40を設け、その他の部分には紙片701、銅箔30、紙片702のみを積層させることも可能である。
【0058】
板状部材Dが内蔵されることにより、財布50に複数の非接触ICカードが収納されているとき、リーダからの磁界を受けると、外ポケット601に収納した非接触ICカード101のみが起動される。このとき、財布の内側すなわち内ポケット602等に収納された非接触ICカードは起動されない。
【0059】
本発明の別の実施例においては、前述の板状部材EあるいはFを用いて、2枚の非接触ICカードをそれぞれ起動可能とする、図示しないカードケース等を作製することが可能である。その構成および機能を模式的に説明したのが図14である。
【0060】
図14では、板状部材Eの表裏にそれぞれ第1の非接触ICカード101と、第2の非接触ICカード102とが配置されている。ここで、第1の非接触ICカード101がリーダ201から磁界A1を印加されたとき、導電体層301に発生した渦電流によって生じた反磁界C1の作用により、第1の非接触ICカード101のみが返信B1を行い、第2の非接触ICカード102は起動されない。
【0061】
逆に、第2の非接触ICカード102がリーダ202から磁界A2を印加されたときには、導電体層302に発生した渦電流によって生じた反磁界C2の作用により、第2の非接触ICカード102のみが返信B2を行い、第1の非接触ICカード101は起動されない。
【0062】
なお、この実施例においては板状部材Eを用いたが、板状部材Fを用いた場合であっても同様の機能を提供することができる。
【0063】
また、板状部材D、E、Fは、単に複数の非接触ICカードとあわせて保持することにより、所望の非接触ICカードについては読取りを可能とし、その他の非接触ICカードについては読取りができないようにする通信補助シートとして利用することも可能である。ただしその際、非接触ICカードと板状部材D、E、Fとの位置関係は、前述の2つの実施例と同様にしなければならない。
【0064】
さらに、板状部材D、E、Fについて、導電体として銅箔以外のものを用いること、ならびに磁性体としてフェライト以外のものを用いることが可能であることは明らかである。また、前述した実施例においては、2つの層の間に間隙を設けるために紙片を使用したが、紙片の代わりに例えばポリエチレンテレフタレート(PET)や塩化ビニル等の樹脂を用いてもよい。こうした紙片や樹脂に孔をあけたりスリットを入れたりすることにより、間隙層の比誘電率を1に近づけ、渦電流の発生を大きくすることも可能である。
【0065】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はこれらの実施例に限られず、他にも定期乗車券入れやバッグ等、様々に実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】(a)および(b)は非接触ICカードの動作を説明する模式図。
【図2】(a)および(b)はスキミング防止機能を備えたカードを使用した場合の非接触ICカードの動作を説明する模式図。
【図3】(a)は銅箔のみ、(b)はフェライト片と銅箔、(c)は2つのフェライト片と銅箔から構成される板状部材を示す図。
【図4】(a)および(b)は第1の非接触ICカードと第2の非接触ICカードとの間に板状部材を介在させた場合における通信エラーの一例を示す図。
【図5】(a)および(b)は第1の非接触ICカードと第2の非接触ICカードとの間に板状部材を介在させた場合における通信エラーの一例を示す図。
【図6】(a)および(b)は第1の非接触ICカードと第2の非接触ICカードとの間に板状部材を介在させた場合における理想的な通信の一例を示す図。
【図7】(a)および(b)は第1の非接触ICカードと第2の非接触ICカードとの間に磁性体および厚さの異なる導電体を介在させた場合を示す図。
【図8】第1の非接触ICカードと第2の非接触ICカードとの間に介在させる板状部材の構成の一例を示す図。
【図9】第1の非接触ICカードと第2の非接触ICカードとの間に介在させる板状部材の構成の一例を示す図。
【図10】第1の非接触ICカードと第2の非接触ICカードとの間に介在させる板状部材の構成の一例を示す図。
【図11】本発明の一実施例による財布を説明する図。
【図12】本発明の一実施例による財布を説明する図。
【図13】本発明の一実施例による財布を説明する図。
【図14】第1の非接触ICカードと第2の非接触ICカードとの間に本発明の一実施例による通信補助シートを介在させた場合における通信を説明する図。
【符号の説明】
【0067】
10 非接触ICカード
101 第1の非接触ICカード
102,102a〜102f 第2の非接触ICカード
20,201,202 リーダ
30 導電体/銅箔
40、401,402 磁性体/フェライト片
50 財布
501 外側の皮革
502 内側の皮革
601 外ポケット
602 内ポケット
701,702,703 紙片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の第1のRFIDタグを収納する第1収納部と、単一または複数の第2のRFIDタグを収納する第2収納部とを備えたRFID用カード収容具であって、
前記第1収納部と前記第2収納部との間には、磁性体層と、第1の間隙層と、導電体層と、第2の間隙層とを順に積層して構成された板状部材が介在され、
前記板状部材は、前記第1収納部に収納された前記第1のRFIDタグに記録された情報の読取りのために周波数13.56MHzの磁界が印加されたとき所定の磁界強度減衰率を有し、前記第1のRFIDタグを起動させつつ前記第2収納部に収納された前記第2のRFIDタグの起動は阻止することを特徴とするRFID用カード収容具。
【請求項2】
単一の第1のRFIDタグを収納する第1収納部と、単一の第2のRFIDタグを収納する第2収納部とを備えたRFID用カード収容具であって、
前記第1収納部と前記第2収納部との間には、第1の磁性体層と、第1の間隙層と、第1の導電体層と、第2の間隙層と、第2の導電体層と、第3の間隙層と、第2の磁性体層とを順に積層して構成された板状部材が介在され、
前記板状部材は、前記第1収納部に収納された前記第1のRFIDタグに記録された情報の読取りのために周波数13.56MHzの磁界が印加されたとき所定の磁界強度減衰率を有し、前記第1のRFIDタグを起動させつつ前記第2収納部に収納された前記第2のRFIDタグの起動は阻止するか、または、前記第2のRFIDタグを起動させつつ前記第1のRFIDタグの起動は阻止することを特徴とするRFID用カード収容具。
【請求項3】
単一の第1のRFIDタグを収納する第1収納部と、単一の第2のRFIDタグを収納する第2収納部とを備えたRFID用カード収容具であって、
前記第1収納部と前記第2収納部との間には、第1の磁性体層と、第1の導電体層と、間隙層と、第2の導電体層と、第2の磁性体層とを順に積層して構成された板状部材が介在され、
前記板状部材は、前記第1収納部に収納された前記第1のRFIDタグに記録された情報の読取りのために周波数13.56MHzの磁界が印加されたとき所定の磁界強度減衰率を有し、前記第1のRFIDタグを起動させつつ前記第2収納部に収納された前記第2のRFIDタグの起動は阻止するか、または、前記第2のRFIDタグを起動させつつ前記第1のRFIDタグの起動は阻止することを特徴とするRFID用カード収容具。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のRFID用カード収容具において、
前記導電体層は、厚さが35μmの銅であり、
前記磁性体層は、周波数13.56MHzの磁界が印加されたとき1より高い比透磁率を有し、
前記間隙層は、紙または樹脂により形成されることを特徴とするRFID用カード収容具。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のRFID用カード収容具において、
前記間隙層には孔が形成されることを特徴とするRFID用カード収容具。
【請求項6】
単一の第1のRFIDタグと単一または複数の第2のRFIDタグとの間に配置され、RFIDリーダと前記第1のRFIDタグとの間における通信を安定化し、且つ、前記RFIDリーダと前記第2のRFIDタグとの間における通信を阻止するRFID用通信補助シートであって、
磁性体層と、第1の間隙層と、導電体層と、第2の間隙層とを順に積層して構成され、前記RFIDリーダから前記第1のRFIDタグに記録された情報の読取りのために周波数13.56MHzの磁界が印加されたとき所定の磁界強度減衰率を有し、前記第1のRFIDタグを起動させつつ前記第2のRFIDタグの起動は阻止することを特徴とするRFID用通信補助シート。
【請求項7】
単一の第1のRFIDタグと単一の第2のRFIDタグとの間に配置され、RFIDリーダと前記第1のRFIDタグとの間における通信を安定化し、且つ、前記RFIDリーダと前記第2のRFIDタグとの間における通信を阻止するか、または、前記RFIDリーダと前記第2のRFIDタグとの間における通信を安定化し、且つ、前記RFIDリーダと前記第1のRFIDタグとの間における通信を阻止するRFID用通信補助シートであって、
第1の磁性体層と、第1の間隙層と、第1の導電体層と、第2の間隙層と、第2の導電体層と、第3の間隙層と、第2の磁性体層とを順に積層して構成され、前記RFIDリーダから前記第1のRFIDタグまたは前記第2のRFIDタグに記録された情報の読取りのために周波数13.56MHzの磁界が印加されたとき所定の磁界強度減衰率を有し、前記第1のRFIDタグを起動させつつ前記第2のRFIDタグの起動は阻止するか、または前記第2のRFIDタグを起動させつつ前記第1のRFIDタグの起動は阻止することを特徴とするRFID用通信補助シート。
【請求項8】
単一の第1のRFIDタグと単一の第2のRFIDタグとの間に配置され、RFIDリーダと前記第1のRFIDタグとの間における通信を安定化し、且つ、前記RFIDリーダと前記第2のRFIDタグとの間における通信を阻止するか、または、前記RFIDリーダと前記第2のRFIDタグとの間における通信を安定化し、且つ、前記RFIDリーダと前記第1のRFIDタグとの間における通信を阻止するRFID用通信補助シートであって、
第1の磁性体層と、第1の導電体層と、間隙層と、第2の導電体層と、第2の磁性体層とを順に積層して構成され、前記RFIDリーダから前記第1のRFIDタグまたは前記第2のRFIDタグに記録された情報の読取りのために周波数13.56MHzの磁界が印加されたとき所定の磁界強度減衰率を有し、前記第1のRFIDタグを起動させつつ前記第2のRFIDタグの起動は阻止するか、または前記第2のRFIDタグを起動させつつ前記第1のRFIDタグの起動は阻止することを特徴とするRFID用通信補助シート。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれかに記載のRFID用通信補助シートにおいて、
前記導電体層は厚さが35μmの銅であり、
前記磁性体層は、周波数13.56MHzの磁界が印加されたとき1より高い比透磁率を有し、
前記間隙層は、紙または樹脂により形成されることを特徴とするRFID用通信補助シート。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれかに記載のRFID用通信補助シートにおいて、
前記間隙層には孔が形成されることを特徴とする通信補助シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2008−197818(P2008−197818A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30918(P2007−30918)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【特許番号】特許第4012937号(P4012937)
【特許公報発行日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(591030488)株式会社大洋 (11)
【Fターム(参考)】