説明

RFID装置およびRFID装置システム

【課題】パワーセービング機能を持ち、他装置との干渉がより少ないRFID装置を提供する。
【解決手段】リーダ3は、複数のアンテナ5〜8とこのアンテナをアレー化し、更に各アンテナからの信号に位相差を設けて合成するバトラーマトリックス1からの複数の出力信号を切り替えスイッチ制御によって選択できる。このRFID装置はアレーアンテナの高利得化によってパーセービング機能をもつ。また、リーダ3がキャリアセンスを行い、電磁波を放射できないときには、すぐに切り替えスイッチを切り替えることにより、他装置との干渉がより少ないシステムになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICタグからID番号等を読んだり、ICタグにID番号等を書いたりするRFID装置およびRFID装置をネットワーク化したRFID装置システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
RFID装置の一例として、その構成図を図6に示す。図6でRFID装置は、送受信用アンテナ81、同軸ケーブル85、リーダ82、コンピュータ84、そして通信ケーブル83から構成されている。
【0003】
リーダ82は内部に無線用高周波送受信回路、変復調回路、制御回路等を持ち、アンテナ81を介して、ICタグに電磁波を送信して、ICタグからの電磁波を受信する。そのとき受信信号にはICタグのID番号(ICタグ識別番号)等の情報が含まれる。
【0004】
コンピュータ84はリーダ82を制御していて、ICタグにID番号等の読み書き開始命令を出したり、使用周波数チャネル、送信信号パワー、受信方式等のパラメータが設定できる。
【0005】
リーダとICタグの送受信範囲はアンテナから放射される電磁波のあるレベルにおける到達範囲によって決まり、詳細にはリーダの送信パワー、受信感度、アンテナの指向性によって決定される。
【0006】
実際に室内等で用いる場合には、送受信範囲は床面、壁面等からの反射などの影響を受け、電波暗室で測定されるようなアンテナ指向性とは異なる形をしている。しかしながら、送受信範囲とアンテナ指向性には強い相関があり、例えば高利得アンテナほど送受信範囲は長い。
【0007】
また使用周波数やリーダの送信パワー、アンテナ利得などは法律で規定されており、特に送信パワーとアンテナ利得はその和がある値以下でなければならず、例えば高い利得のアンテナを使う場合は、その分送信パワーを下げなければならない。
【0008】
また、リーダは電波を送信する前に、他のRFID装置からの電波がどれくらいの電界強度で放射されているかを調べなければならない場合もあり、この電界強度がある値以上だと、電波を出すことができない場合がある。
【0009】
そして、リーダが電波を出し続けられる時間もある一定の長さを超えることができず、他のRFID装置のリーダがそのときに電波を出すことが可能である。これをLBT(リッスン ビフォーア トーク)またはキャリアセンスといい、他のRFID装置との干渉を回避する技術である。
【0010】
リーダを複数のアンテナと接続する場合には、アンテナスイッチでアンテナを自動的に切り替える方法がある。このときのアンテナスイッチの切り替えアルゴリズムには様々なものがあり、一定時間毎に切り替えるものや検出されるタグの割合でアンテナを選択する時間に重み付けを行うものなどがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題はRFID装置などにおいて、他のRFID装置などとの干渉が問題になることである。RFID装置は単独で用いられることは少なく、複数で存在する場合が多い。その場合、隣接したRFID装置との間で干渉が発生し、読み取りができなくなったり、読み取り速度が落ちる場合がある。特に大規模RFID装置ではより一層問題は深刻である。
【0012】
これは特に複数のRFID装置が同じ周波数チャネルを使った場合顕著であるが、近い周波数チャネルでも影響がでる。使用できる周波数チャネルが比較的少ない場合には、隣接したRFID装置で異なる周波数チャネルを割り当てても、結局は同じ周波数チャネルを繰り返し使うことは避けられないので、干渉は大変問題である。
【0013】
前述のキャリアセンス技術も干渉回避技術の一つで、干渉を避けるために、電波が出ていないことを検出してから、電波を出すものである。しかしながら、同じ周波数チャネルの他のRFID装置が電磁波を出している場合、電波を出す時間が遅そくなり、その結果読み取り速度が遅くなる。複数のRFID装置をネットワークでつないだ大規模なRFID装置システムの場合、システムとして機能しなくなる場合もある。
【0014】
また、リーダのパワーが1W程になると、その消費電力も多くなる。複数台のリーダが設置される場合は特にその傾向は顕著である。本発明を用いると、その消費電力を大幅に削減しても、例えば1/4ほどにしても、その性能は落ちることは、ほとんどない。
【0015】
本発明は、この干渉低減と送信パワー低減を同時に実現する発明であり、その用途は多岐にわたる。また本発明はキャリアセンス技術をより有効に活用できる技術でもあり、本技術によってキャリアセンスの性能は格段に向上する。また、アンテナ切り替えスイッチを使うため、リーダの動作アルゴリズムによっては、読み取り速度の向上、干渉のより一層の低減が可能である。
【0016】
また、本発明によると、複数のRFID装置をネットワーク化し、上位のコンピュータによって一元管理できるので、複数のRFID装置のビームを選択するときに、システム全体の干渉が小さくなるようなアルゴリズムで管理できる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に記載された発明に係るRFID装置は、アンテナと電磁波を利用してICタグのID番号等の情報を読み取るためのリーダと制御用コンピュータを備えたRFID装置であって、アレー化された複数のアンテナとこの複数のアンテナからの高周波信号を同軸ケーブルで接続し、更に各アンテナからの高周波信号に位相差を設けて合成するバトラーマトリックス回路とこのバトラーマトリックス回路からの複数の高周波信号を各同軸ケーブルで接続し、この各同軸ケーブルの高周波信号から1つを選択し、リーダから制御される切り替えスイッチと上記選択された信号を伝送するために、この切り替えスイッチと同軸ケーブルで接続されるリーダとこのリーダを制御するコンピュータを備えたことを特徴とするものである。
【0018】
請求項2に記載された発明に係るRFID装置は、請求項1記載のRFID装置において、上記リーダが内部に上記切り替えスイッチを内蔵し、外部には切り替えスイッチを持たないことを特徴とするものである。
【0019】
請求項3に記載された発明に係るRFID装置は、請求項1または請求項2記載のRFID装置において、上記リーダがICタグへのID番号等の書き込み機能を備えることを特徴とするものである。
【0020】
請求項4に記載された発明に係るRFID装置は、請求項1、請求項2または請求項3に記載のRFID装置において、上記リーダがキャリアセンスを行い、電磁波を放射できないときには、すぐに切り替えスイッチを切り替えることを特徴とするものである。
【0021】
請求項5に記載された発明に係るRFID装置は、請求項1、請求項2、請求項3または請求項4に記載のRFID装置において、上記リーダがICタグの読み取り状態を監視して、読み取り可能な新しいICタグがないときには、すぐに切り替えスイッチを切り替えることを特徴とするものである。
【0022】
請求項6に記載された発明に係るRFID装置システムは、アンテナと電磁波を利用してICタグのID番号等の情報を読み取るためのリーダと制御用コンピュータを備えたRFID装置の複数個をネットワーク化したRFID装置システムであって、アレー化された複数のアンテナとこの複数のアンテナからの高周波信号を同軸ケーブルで接続し、更に各アンテナからの高周波信号に位相差を設けて合成するバトラーマトリックス回路とこのバトラーマトリックス回路からの複数の高周波信号を各同軸ケーブルで接続し、この各同軸ケーブルの高周波信号から1つを選択し、リーダから制御される切り替えスイッチと上記選択された信号を伝送するために、この切り替えスイッチと同軸ケーブルで接続されたリーダとこのリーダを制御するコンピュータを備えたことを特徴とするRFID装置の複数個をネットワークでシステムコンピュータに接続し、各RFID装置の切り替えスイッチを各RFID装置間干渉が低減するように上記システムコンピュータで一元管理することを特徴とするものである。
【0023】
請求項7に記載された発明に係るRFID装置システムは、請求項6記載のRFID装置システムにおいて、上記リーダの一部または全部が内部に上記切り替えスイッチを内蔵し、外部には切り替えスイッチを持たないことを特徴とするものである。
【0024】
請求項8に記載された発明に係るRFID装置システムは、請求項6または請求項7記載のRFID装置システムにおいて、上記リーダがICタグへのID番号等の書き込み機能を備えることを特徴とするものである。
【0025】
請求項9に記載された発明に係るRFID装置システムは、請求項6、請求項7または請求項8記載のRFID装置システムにおいて、上記RFID装置のコンピュータをなくし、その機能を上記システムコンピュータに持たせることを特徴とするものである。
【0026】
請求項10に記載された発明に係るRFID装置システムは、請求項6、請求項7、請求項8または請求項9記載のRFID装置システムにおいて、上記RFID装置の切り替えスイッチの選択アルゴリズムで、任意のRFID装置の任意の切り替えスイッチの選択を基準にして、他のRFID装置の選択する切り替えスイッチを決めることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、高利得アンテナを使うため、RFID読取装置のパワーセービング効果があり、また同時に、通常のアンテナよりも細いビームを方向を切り替えて使うため、干渉低減効果もある。
【0028】
また、LBTを使用して送信できない場合にも、異なる方向のビームに切り替えて、すぐにまたLBTができるので、時間的損失がより少なく、読み取り速度の向上が望める。これはLBTの弱点を補うと共に、より一層の高度化を実現する。
【0029】
また、本発明によると、複数のRFID装置をネットワーク化し、上位のコンピュータによって一元管理できるので、複数のRFID装置のビームを選択するときに、システム全体の干渉が小さくなるようなアルゴリズムで管理できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1に本発明の第1の実施例を示す。この図において1はバトラーマトリックス回路である。この回路については後程説明する。3はリーダであり、ICタグへID番号等の読み書きを行う。このリーダについても後ほど詳しく説明する。2は切り替えスイッチであり、バトラーマトリックス回路からの4本の高周波信号のうち1つを選択して、リーダに入力させる働きをする。9,10,11,12,13,20,21,22,23は同軸ケーブルであり、高周波信号を伝送する。14は制御ラインであり、切り替えスイッチがどの同軸ケーブルからの高周波信号を選択するかの制御を行う。5,6,7,8はそれぞれアンテナであり、本実施例ではこの4つのアンテナで4素子リニアアレーアンテナを構成する。15は通信ケーブルで、リーダ3とコンピュータ4を接続する。コンピュータはリーダの制御を行う。
【0031】
ここでまずバトラーマトリックス回路について説明する。図2にバトラーマトリックス回路の内部について示す。図2で31,32,33,34はそれぞれハイブリッド回路である。35,36は移相器で45度位相を遅らせる。37から50まではそれぞれ伝送線路で高周波信号が伝送する。通常は回路の性質上、特性インピーダンス50オームの伝送線路で、同軸ケーブルやマイクロストリップラインで構成される。
【0032】
ここでハイブリッド回路について説明する。図3にハイブリッド回路を示す。ハイブリッド回路31は通常マイクロストリップラインなどで構成される。ここでハイブリッド回路は、伝送線路37,39,45,48から高周波信号が入出力される。ここでは伝送線路45からの高周波入力信号の動作について説明する。その他の伝送信号37,39,48からの高周波入力信号もハイブリッド回路が左右、上下対称なので、全く同様に考えられる。
【0033】
伝送線路45からの高周波入力信号は伝送線路37,39へ2分割されて出力する。ただし、伝送線路39へ出力する高周波信号は伝送線路37へ出力する高周波信号より位相が90度遅れている。また伝送線路45からの高周波入力信号は伝送線路48へは出力されない。
【0034】
そこで図2でバトラーマトリックス回路への伝送線路41からの高周波入力信号は、ひとつの移相器と三つのハイブリッド回路を通るので、それぞれある位相差を持って伝送線路37,38,39,40に出力される。ここでこの位相差とは伝送線路41から伝送線路37,38,39,40に至る4つの伝送線路において、ハイブリッド回路の速い方の信号の位相を0度、遅い方の信号の位相を−90度とし、4経路の伝送線路の長さをすべて同じとして0度と考え、更に−45度移相器の位相を−45度としたときのすべての位相を足したものである。
【0035】
伝送線路41から高周波信号が入力されたとすると、伝送線路37,38,39,40のこの位相差はそれぞれ(−45度、−90度、−135度,−180度)である。また、伝送線路42から高周波信号が入力されたとすると、伝送線路37,38,39,40の位相差はそれぞれ(−135度、0度、−225度、−90度)である。伝送線路43から高周波信号が入力されたとすると、伝送線路37,38,39,40の位相差はそれぞれ(−90度、−225度、0度、−135度)である。伝送線路44から高周波信号が入力されたとすると、伝送線路37,38,39,40の位相差はそれぞれ(−180度、−135度、−90度,−45度)である。
【0036】
このように、バトラーマトリックス回路は伝送線路41,42,43,44からの高周波入力信号が上記の位相差をもって、伝送線路37,38,39,40に出力される性質をもつ。
【0037】
次にアレーアンテナのビームの向く方向について説明する。バトラーマトリックス回路に図1の9の伝送線路から高周波信号を入力すると、バトラーマトリックス回路の出力は(−45度、−90度、−135度、−180度)となるため、4素子アレーアンテナは隣り合った各アンテナ間の位相差が−45度となるため、アレーアンテナのビームは18の方向を向くことになる。
【0038】
バトラーマトリックス回路に図1の10の伝送線路から高周波信号を入力すると、バトラーマトリックス回路の出力は(−135度、0度、−225度、−90度)となるため、4素子アレーアンテナは隣り合った各アンテナ間の位相差が135度となるため、アレーアンテナのビームは16方向を向くことになる。
【0039】
バトラーマトリックス回路に図1の11の伝送線路から高周波信号を入力すると、バトラーマトリックス回路の出力は(−90度、−225度、0度、−135度)となるため、4素子アレーアンテナ隣り合った各アンテナ間の位相差が−135度となるため、アレーアンテナのビームは19の方向を向くことになる。
【0040】
バトラーマトリックス回路に図1の12の伝送線路から高周波信号を入力すると、バトラーマトリックス回路の出力は(−180度、−135度、−90度、−45度)となるため、4素子アレーアンテナは隣り合った各アンテナ間の位相差が45度となるため、アレーアンテナのビームは17の方向を向くことになる。
【0041】
このようにバトラーマトリックス回路の入力する伝送線路を選択することにより、4素子アレーアンテナのビームの方向を変更することができる。
【0042】
この例ではアンテナからの送信について説明した。しかしながらバトラーマトリックス回路は入出力を入れ替えても、その動作原理は全く同様であり、またアレーアンテナも送受信に関して、アンテナの原理より同等とみなせるので、このビーム選択の原理はアレーアンテナへの受信に関しても同様である。
【0043】
図1で切り替えスイッチ2では、伝送線路9,10,11,12と伝送線路13の間の切り替えを行っており、リーダは、この切り替えスイッチを制御することにより、バトラーマトリックス回路の任意の入力を選択できる。
【0044】
そして次に、リーダについて説明する。本発明のリーダの動作をフローチャートに基づいて説明する。図4に本発明におけるリーダの動作の一実施例を示す。
【0045】
51でリーダに読み取りの指示が出されると、パラメータn=1に設定される。次に52では図1の切り替えスイッチ2を制御線14で制御して、スイッチnを選択する。ここではスイッチ1に設定する。このフローチャートにおけるスイッチ1,2,3,4はそれぞれ図1において伝送線路9,10,11,12を選択するスイッチとする。すなわち、このスイッチを選択することにより、リーダ入力は伝送線路9,10,11,12の中の任意の伝送線路を選択できる。上記で説明したように、伝送線路9,10,11,12を選択することにより、指向性パターン16,17,18,19の中の任意の指向性を選択することができる。そのためスイッチ2を切り替えることにより、リーダはある任意の指向性を選択可能になる。
【0046】
53では、まず周波数fを設定し、その受信電界強度をある特定時間t受信する。周波数fは、RFIDの場合、法律等で決められている。周波数は複数の中から選択する。特定時間t受信するのは、ある一定期間受信電界強度を測定することによって、そのチャネルを使っている他の装置がないであろうことを確認するためである。
【0047】
54ではその受診電界強度がある閾値h以上であるか判定する。もしある閾値h以上の場合は(54Y)、そのチャネルを使っている他の装置があるので、その周波数でのタグ読み取りを断念して、62へ進む。62ではスイッチ番号を1増やして、52へ戻る。スイッチは4つなので、スイッチ番号は1,2,3,4しかなく、4の次は1へ戻る。
【0048】
この53,54の動作はLBT(リッスン ビフォーア トーク)あるいはキャリアセンスと呼ばれる技術である。本発明ではこのLBTを指向性可変アンテナと組み合わせて、例えある指向性でタグの読み取りができなくても、他の指向性でタグの読みとりを試みるものである。
【0049】
これは指向性が変われば、タグが読み取れる可能性があり、更に干渉する対象の装置にも指向性可変アンテナが使われている場合は、その可能性は増える。本発明の指向性アンテナはビームが通常のアンテナより狭く、相手の干渉源となる確率が少ないためである。
【0050】
本発明のアンテナは通常の複数素子のアレーアンテナとほぼ同じビーム幅をもち、これは1つのアンテナよりも高利得な分だけ狭い。またお互いにビームの角度が変わるため、例えば2つの装置が正対していても、お互いにビームが正対する確率は通常の可変しないアンテナより確実に低くなり、2つの装置で同時にタグが読み取り可能となる。通常のアンテナではビームが常に正対するので、同時には読み取りができず、LBTにより時間的に分割することになる。
【0051】
LBTにより、他の装置がその周波数で読み取りを行っていないと判断した場合には(54N)、読み取りを開始する。これは55で電波を放射し、56でICタグからの電波を受信することによって行われる。新しいICタグが検出された場合には(57Y)、一定時間が来るまで読み取りを続ける(58N)。新しいタグが検出されない場合には(57N)、62へ戻り、前述の動作説明のように、異なった方向のビームでまたLBTを行う。
【0052】
これは、本発明では全ての読み取り領域をカバーするために、時分割して異なる指向性でタグ読み取りを行うため、タグの読み取り速度を上げるためである。これはタグの存在する密度の濃い指向性の読み取り時間をより多くすることによって可能である。
【0053】
58である角度の指向性での読み取りが一定時間経過した場合、読み取り終了指示がきているかどうか(59)確認して、そうでない場合は(59N)、62に戻る。59で読み取り終了指示がきている場合(59Y)、終了する。このとき読み取り終了指示は、図1のパーソナルコンピュータ15から出される。
【0054】
次に本発明を利用した場合のパワー低減の仕組みを説明する。アンテナ利得を高くすれば、その分リーダの送信出力を抑えることが可能である。例えばアンテナ利得6dBi、送信出力1Wのとき、同じ距離だけ飛ばすのにアンテナ利得12dBi、送信出力0.25WのRFID装置で実現できる。高利得アンテナの場合、それだけ送信出力を抑えることが可能である。
【0055】
但し、ビームが細くなって読み取り範囲が狭くなるので、本発明ではバトラーマトリックス回路を用いて、ビームを4方向に可変することにより、この欠点をカバーしている。本発明を用いると、リーダの送信出力を抑えながら、従来と同じ範囲を読むことが可能である。
【0056】
また本発明では干渉を抑える効果もある。バトラーマトリックス回路は、細いビームを4方向に切り替えながら操作するため、同時に空間に放射されるエネルギーは従来のものに比べ1/4である。これはリーダの送信パワーが1/4になっていることからも説明できる。このことから、本発明はリーダの送信パワーを低減できる省エネ型のRFID装置を構築できるとともに、干渉低減効果もある。
【0057】
そして、本発明では指向性を切り替えて使うビーム操作をLBT(リッスン ビフォーアトーク)やタグの存在するビームに重み付けを行うアルゴリズムと組み合わせているため、従来技術の単なる組み合わせでなく、全く新しい考え方によるRFID装置の構築が可能である。
【0058】
このことについてもう少し詳しく説明する。ビームを4方向に切り替えて使うと、一つのビームでLBTを使うよりも、ビームを出さないで待つ時間が短縮される傾向がある。これは、干渉源が本発明のRFID装置である場合、すなわち干渉源が細いビームを持つRFID装置である場合、より一層効果がある。
【0059】
また、欠点としてビームを切り替えて使用するため、全体の読み取り時間がひとつのビームを使う場合よりも長くかかる傾向があるが、これをカバーするためタグの存在するビームに重み付けを行っている。
【0060】
ビーム切り替え操作によって作られるビームは、それらが全く違った方向に放射されるため、LBTの効果をより一層増大させることが可能である。これは本発明を用いたRFID装置のあるビームに対して干渉源となるRFID装置が存在する場合でも、本発明のRFID装置の他のビームでは干渉源とはならない場合があることから、明らかである。
【0061】
本発明の実施例ではバトラーマトリックス回路は4入力、4出力としたが、本発明はこれに限らず、2入力、2出力、あるいは8入力、8出力でも効果が得られる。
【0062】
2入力、2出力の場合にバトラーマトリックス回路は1個のハイブリッド回路で構成され、非常に単純な構成で実現できる。この場合2方向の切り替えになり、効果は幾分少なくなるが、切り替えスイッチが2入力になり、応用面からは有用である。
【0063】
8入力、8出力のバトラーマトリックス回路の場合は本発明の効果は増大する。それはこのバトラーマトリックス回路が4入力、4出力のものと比べて更に高利得化されるため、リーダのパワーセービング効果が更に大きいからである。但し8個の切り替え方向になるため、1個のビームが8時分割されて運用される。またこれと共にアンテナの面積が大きくなるのは、欠点である。
【0064】
本発明の実施例では電子式スイッチをリーダの外部に設けたが、切り替えスイッチはリーダ内部に内蔵して、内部で制御を行っても、全く同様の効果が得られる。この場合、リーダへの高周波信号の入力ポートは4本になるが、構成がすっきりする利点があり、有用である。
【0065】
また、本発明の実施例ではICタグの読み取りについて説明したが、書き込み機能があっても、何ら問題はない。書き込み機能の場合には、切り替えスイッチを順番に切り替えて書き込めばよい。
【0066】
次に本発明の第2の実施例について図5に示す。71は例えばLANケーブルなどの通信ケーブルである。これはコンピュータ76と各RFID装置1〜4をネットワーク化している。72〜75がそれぞれRFID装置1〜4である。
【0067】
各RFID装置は前述した本発明の装置で4つのアンテナと4入力、4出力バトラーマトリックス回路とリーダとパソコンで構成される。尚本実施例では、各RFID装置1〜4にコンピュータが含まれる必要は必ずしもない。それは、コンピュータ76がネットワークを通じて、各RFID装置1〜4を制御できるからである。本実施例では各RFID装置1〜4はパソコンを含まない場合について説明する。
【0068】
各RFID装置1〜4は上記で説明したように4つの異なる方向へのアンテナ指向性ビームを持つ。ここでは、アンテナアレイからのアンテナ指向性ビームを単にビームと表現する。図ではこのビームを77〜80の各A,B,C,Dで示す。これは各RFID装置内の制御によって任意に選択できる。したがってコンピュータ76は、各RFID装置の放射する任意のビームを設定できる。ここで各RFID装置のアンテナ切り替えタイミングを同一として、それぞれ4回切り替えて、また始めに戻ることとする。
【0069】
以上の条件で考えると、RFID装置1とRFID装置2のビームの組み合わせは、以下のとき比較的干渉が少ない。(77A,78C)(77B、78D)(77C、78A)(77D、78B)。これらは隣同士のRFID装置のビームがなるべく正対しないように選んだ。
【0070】
ここでRFID装置1とRFID装置2のビームが(77B、78D)を例にとって説明する。RFID装置1からの電波はビーム77BによってRFID装置2の方に向かって放射される。このときRFID装置2のビームが78Bだったら、RFID装置2のアンテナの感度がRFID装置1の方に向いているのでこの2つのRFID装置の干渉の度合いは大きい。しかしながら、本実施例ではRFID装置2の感度は78Dの方を向いているので、RFID装置1からの干渉波の影響はより少ない。
【0071】
このことから、RFID装置1とRFID装置2のビームの組み合わせが、上記のとき干渉が少ないことが説明できる。
【0072】
またRFID装置1とRFID装置3のビームの組み合わせは、以下のとき比較的干渉が少ない。(77A、79A)(77B、79B)(77C、79C)(77D、79D)。これらは隣同士のRFID装置のビームがなるべく影響がないように選んだ。
【0073】
これらの組み合わせから、RFID装置1とRFID装置2とRFID装置3とRFID装置4のビームの組み合わせは、以下のとき比較的干渉が少ない。(77A、78C、79A、80C)(77B、78D、79B、80D)(77C、78A、79C、80A)(77D、78B、79D、80B)。
【0074】
今はRFID装置1とRFID装置2、そしてRFID装置1とRFID装置3の干渉を考えての設計だったが、設計するときの考え方は他にもあり、それは様々である。
【0075】
本発明を用いたRFID装置を複数個使うRFID装置システムの場合、その全体のビームを一元管理して切り替えることによって、RFID装置間の干渉を大幅に減ずることが可能である。
【0076】
また、本発明を用いたRFID装置を複数個使うRFID装置システムの場合、その全体のビームを一元管理して切り替えるときに、ある任意のシステムのある任意のビームを基準として考えるとシステムがスムーズに動作する。
【0077】
本発明の第2の実施例では、RFID装置1のビーム77Aを基準にして考えている。しかしながら、基準はこの他の任意のRFID装置の任意のビームについて設定できるので、より一層柔軟なRFID装置システムの構築が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の第1の実施例を示す構成図
【図2】バトラーマトリックスの回路図
【図3】ハイブリッド回路の構成図
【図4】リーダの動作原理を説明するためのフローチャート
【図5】本発明の第2の実施例を示す構成図
【図6】従来例の構成図
【符号の説明】
【0079】
1 バトラーマトリックス回路
2 切り替えスイッチ
3 リーダ
4 コンピュータ
5〜8 アンテナ
9〜13 同軸ケーブル
14 制御ライン
15 通信ケーブル
21〜24 ハイブリッド回路
25,16 移相器
27〜40 高周波伝送線路
51〜60、62 フローチャートを説明するための処理を表す図
71 通信ケーブル
72〜75 RFID装置
76 コンピュータ
77A〜77D RFID装置1のアンテナ指向性
78A〜78D RFID装置2のアンテナ指向性
79A〜79D RFID装置3のアンテナ指向性
80A〜80D RFID装置4のアンテナ指向性
81 アンテナ
82 リーダ
83 通信ケーブル
84 コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナと電磁波を利用してICタグのID番号等の情報を読み取るためのリーダと制御用コンピュータを備えたRFID装置であって、アレー化された複数のアンテナとこの複数のアンテナからの高周波信号を伝送線路で接続し、更に各アンテナからの高周波信号に位相差を設けて合成するバトラーマトリックス回路とこのバトラーマトリックス回路からの複数の高周波信号を各伝送線路で接続し、この各伝送線路の高周波信号から1つを選択し、リーダから制御される切り替えスイッチと上記選択された信号を伝送するために、この切り替えスイッチと伝送線路で接続されるリーダとこのリーダを制御するコンピュータを備えたことを特徴とするRFID装置。
【請求項2】
請求項1記載のRFID装置において、上記リーダが内部に上記切り替えスイッチを内蔵し、外部には切り替えスイッチを持たないことを特徴としたRFID装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のRFID装置において、上記リーダがICタグへのID番号等の書き込み機能を備えることを特徴としたRFID装置。
【請求項4】
請求項1、請求項2または請求項3に記載のRFID装置において、上記リーダがキャリアセンスを行い、電磁波を放射できないときには、すぐに切り替えスイッチを切り替えることを特徴としたRFID装置。
【請求項5】
請求項1、請求項2、請求項3または請求項4に記載のRFID装置において、上記リーダがICタグの読み取り状態を監視して、読み取り可能な新しいICタグがないときには、すぐに切り替えスイッチを切り替えることを特徴としたRFID装置。
【請求項6】
アンテナと電磁波を利用してICタグのID番号等の情報を読み取るためのリーダと制御用コンピュータを備えたRFID装置の複数個をネットワーク化したRFID装置システムであって、アレー化された複数のアンテナとこの複数のアンテナからの高周波信号を伝送線路で接続し、更に各アンテナからの高周波信号に位相差を設けて合成するバトラーマトリックス回路とこのバトラーマトリックス回路からの複数の高周波信号を各伝送線路で接続し、この各伝送線路の高周波信号から1つを選択し、リーダから制御される切り替えスイッチと上記選択された信号を伝送するために、この切り替えスイッチと伝送線路で接続されたリーダとこのリーダを制御するコンピュータを備えたことを特徴とするRFID装置の複数個をネットワークでシステムコンピュータに接続し、各RFID装置の切り替えスイッチを各RFID装置間干渉が低減するように上記システムコンピュータで一元管理することを特徴とするRFID装置システム。
【請求項7】
請求項6記載のRFID装置システムにおいて、上記リーダの一部または全部が内部に上記切り替えスイッチを内蔵し、外部には切り替えスイッチを持たないことを特徴としたRFID装置システム。
【請求項8】
請求項6または請求項7記載のRFID装置システムにおいて、上記リーダがICタグへのID番号等の書き込み機能を備えることを特徴としたRFID装置システム。
【請求項9】
請求項6、請求項7または請求項8記載のRFID装置システムにおいて、上記RFID装置のコンピュータをなくし、その機能を上記システムコンピュータに持たせることを特徴としたRFID装置システム。
【請求項10】
請求項6、請求項7、請求項8または請求項9記載のRFID装置システムにおいて、上記RFID装置の切り替えスイッチの選択アルゴリズムで、任意のRFID装置の任意の切り替えスイッチの選択を基準にして、他のRFID装置の選択する切り替えスイッチを決めることを特徴としたRFID装置システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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