説明

RNAのバイサルファイト処理

本発明は、RNAをバイサルファイト処理する方法であって、処理済みRNAを形成するように、RNAを、バイサルファイト試薬と50〜90℃で5〜180分間反応させる工程と、処理済みRNAを回収する工程とを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイサルファイトを使用してRNAを処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一本鎖DNAでは、亜硫酸水素ナトリウム(sodium bisulphite)は、5−メチルシトシンのチミンへの極めて遅い速度の脱アミノ化と比較して、優先的にシトシンをウラシルに脱アミノ化することが実証されている(Shapiro, R.、DiFate, V.およびWelcher, M、(1974)J. Am. Chem. Soc. 96: 906-912)。この知見は、Frommerら1992年のバイサルファイトゲノム配列決定プロトコールの開発の根拠として役立った[参照により本明細書に組み込まれる、Frommer M、McDonald LE、Millar DS、Collis CM、Watt F、Grigg GW、Molloy PLおよびPaul CL. PNAS 89: 1827-1831(1992)]。要約すれば、現在実施されているFrommer法は、以下の一般的な工程:DNAのアルカリ変性;亜硫酸水素ナトリウムを使用する脱アミノ化;脱塩による脱スルホン化と、それに続くアルカリ処理および中和を含む。このような条件は、DNAのバイサルファイト処理には適しているが、RNAは、使用される厳しい条件によって完全に破壊されるであろう。したがって、これらの条件下でRNAの亜硫酸水素ナトリウム処理を利用するどんなアッセイも、分解により、臨床環境では役に立たないであろう。
【0003】
出発材料としてDNAを使用した場合でさえも生じる、バイサルファイト修飾手順およびその確立された変法の主な不利点の1つは、この手順が、元の投入DNAの84〜96%の間の分解をもたらすことがわかっていることである(GrunauらNucleic Acids Research 29(13)e65(2001))。この手順に伴う高損失は、少数の細胞をそのメチル化状態についてうまく分析すること、またはDNAがすでに部分的に分解された状態にある古い保存試料をうまく分析することが、事実上、極めて困難であることを意味する。さらに、現行法に伴う特有の分解のために、DNAが断片化され、その結果、膨大な数の配列中の「ギャップ」のために、それをクローニングし、配列決定し、なんらかの意味のある様式で組み立てることができないので、公共のヒトゲノムプロジェクト(International Human Genome Sequencing Consortium, 2001, Nature, 409, 860-921)または民間のCELERA配列決定プロジェクト(J Craig Venterら2001, Science, 291, 1304-1351)によって成功裏に適用されたものと同じ方法で、生物の完全なゲノムを配列決定し、組み立て、そのゲノム全体のメチル化プロフィールを決定することができない。上記の知見から理解できるように、このような条件は、RNAの完全な分解を引き起こし、ひいては、検出のための任意の下流手順を妨げる。
【0004】
現在実施されているバイサルファイト法に伴うさらなる不利点は、一般に、DNAの小さい断片しか増幅できないことである。経験的に、概して、約500塩基対(bp)未満はうまく処理し、増幅できることがわかっている。この技術は、大きな領域の未処理ゲノムDNA、一般に、最大約50kbを増幅することを可能にしている長距離ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの新規分子生物学法に適用できない。目下のところ、哺乳類ゲノム中の多数の遺伝子は、長さ50kbを超えるので、無傷(intact)の遺伝子のメチル化状態を分析することはさらに可能でない。この場合もやはり、上記の事実によって、バイサルファイト処理済みRNAの増幅の場合はさらに困難であろう。
【0005】
比較的小さい遺伝子(<4kb)であっても、メチル化状態を見るには、PCR反応は、注目する遺伝子領域にわたってスタッガード(staggered)でなくてはならなかった(D. S Millar、K. K Ow、C. L. Paul、P. J. Russell、P. L. Molloy、S. J. Clarke、1999, Oncogene, 18(6):1313-24; Millar DS、Paul CL、Molloy PL、Clarke SJ.(2000)J Biol Chem; 275(32): 24893-9)。バイサルファイトDNA処理のために現在使用される方法はまた、骨の折れ、時間のかかるものであった。標準法は、通常、複数の試験管交換、カラム精製、透析、DNAをアガロースビーズに包埋することまたはゲノムDNAの特定の領域の非変換などの問題を低減しようとして反応に添加剤を付加することを必要とする。
【0006】
上記の問題点のために、今日までに開発されたRNAのバイサルファイト処理のための標準法はなかった。Shapiroら(Shapiro R、Cohen BIおよびServis RE, 1970, Nature, 227: 1047-8)は、RNAの構造および機能を研究するためのツールとして、RNAに対するバイサルファイトの使用を最初に記載した。しかし、極めて多量のRNAが使用され(5mg)、バイサルファイト試薬とともに7日間インキュベーションした後でさえ、当該方法は92%しか効果的ではなかった。その他の人も、RNAのバイサルファイト処理を利用して、RNAの三次構造を決定しようとしてきたが(Lowdenら、1976, Nucl. Acids. Res. 76: 3383-96; Goddardら、1978, 89: 531-47; Digweedら、1982, 127: 531-37)、これらの方法は、核酸内のシトシンの、ウラシルへの極めて少ない変換しかもたらさない。続いて、Mellorらは(Mellor EJC、Brown FおよびHarris TJR, 1985, J Gen Virol, 66: 1919-29)、RNAのバイサルファイト変換のための方法を記載したが、完了するのに少なくとも120時間かかり、2.5μgの出発RNAを必要とする複雑な工程でシトシンの60〜80%しか修飾されなかった。
【0007】
本発明者らは、核酸をバイサルファイト処理する方法を先に開発している。このような方法は、DNAのバイサルファイト処理を記載する米国特許第7288373号およびWO2004/096825に開示されており、Methyleasy(商標)のもと、キットの形で市販されている。
【0008】
DNAをサルファイト処理するためのその他の市販のキットは、商品名メチルSEQrバイサルファイト変換キット(Applied Biosystems、カタログ番号4374960)、Methylamp−96DNA修飾キット(Epigentek、カタログ番号P−1008)、EpiTectバイサルファイトキット(Qiagen、カタログ番号59104)およびEZ DNAメチル化ディレクトキット(Zymo Research、カタログ番号D5020)のもとで販売されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、RNAのバイサルファイト処理を行うため、特に、少量の出発材料を探索するために、実質的にRNA分解が生じず、既知のRNA処理に伴う1つまたは複数の問題を克服、または少なくとも低減する、より信頼のおける方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、広範な調査および研究によって、ここで、RNAの最少の分解しかもたらさないか、全く分解をもたらさない、極めて少ないRNA試料のバイサルファイト処理、分析および回収を可能にする、RNAのバイサルファイト処理のためのロバストなアッセイを開発した。
【0011】
本発明は、効率的であり、多数の異なる分子生物学的技術とともに使用するのに適応し、相当な分解を伴わずにRNAの十分な回収を達成できる、RNAをバイサルファイト処理するための改善された方法に関する。
【0012】
第1の態様では、本発明は、RNAをバイサルファイト処理する方法であって、
RNAを、処理済みRNAを形成するように、約50〜90℃で約5〜180分間バイサルファイト試薬と反応させる工程と、
処理済みRNAを回収する工程と
を含む方法を提供する。
【0013】
本発明の一実施形態では、本方法は、回収されたRNAの部分的または完全脱スルホン化を実施する工程をさらに含む。
【0014】
本発明の別の実施形態では、本方法は、反応工程に先立って変性工程をさらに含む。
【0015】
その他の実施形態では、本方法は、RNAが、磁性ビーズなどの固相と結合され得る捕捉工程を含み得る。RNAが、1または複数の工程のために固相と結合している場合は、本方法はまた、固相からRNAを回収するための溶出工程を含み得る。
【0016】
バイサルファイト試薬は、亜硫酸水素ナトリウムまたはメタ重亜硫酸ナトリウムであり得る。バイサルファイト試薬は、メタ重亜硫酸ナトリウムであることが好ましい。反応工程は、バイサルファイト試薬を約1M〜約6Mの濃度で使用して実施することが好ましい。濃度は、約2M〜約4Mであることがより好ましい。特に好ましい実施形態では、バイサルファイト試薬の濃度は、約3Mである。
【0017】
バイサルファイト反応工程は、約5〜180分間実施することが好ましい。好ましい実施形態では、反応工程は、約5〜150分間実施する。別の実施形態では、反応工程は、約5〜120分間実施する。さらなる一実施形態では、反応工程は、約5〜90分間実施する。別の実施形態では、反応工程は、約5〜60分間実施する。別の好ましい実施形態では、反応工程は、約10〜30分間実施する。特に好ましい実施形態では、反応工程は、約20分間実施する。別の好ましい実施形態では、反応工程は、約30分間実施する。さらなる好ましい一実施形態では、反応工程は、約45分間実施する。別の好ましい実施形態では、反応工程は、約60分間実施する。さらなる好ましい一実施形態では、反応工程は、約90分間実施する。別の好ましい実施形態では、反応工程は、約120分間実施する。さらなる好ましい一実施形態では、反応工程は、約150分間実施する。
【0018】
反応工程は、約50℃〜約90℃の温度で実施することが好ましい。別の実施形態では、反応工程は、約65℃〜約85℃の温度で実施する。さらなる一実施形態では、反応工程は、約60℃〜約80℃の温度で実施する。種々の好ましい実施形態では、反応工程は、約60℃、70℃、75℃、80℃または85℃の温度で実施する。特に好ましい実施形態では、反応工程は、約70℃の温度で実施する。
【0019】
好ましい実施形態では、反応工程は、亜硫酸水素ナトリウムまたはメタ重亜硫酸ナトリウムを約3Mの濃度で使用して、約60〜80℃の温度で、約10〜30分間実施する。特に好ましい実施形態では、反応工程は、亜硫酸水素ナトリウムまたはメタ重亜硫酸ナトリウムを約3Mの濃度で使用して、約70℃の温度で、約20分間実施する。
【0020】
反応工程は、バイサルファイト反応を増強できる添加剤の存在下で実施してもよい。添加剤は、ジチオトレイトール(DTT)、キノール、尿素、メトキシアミンまたはそれらの混合物であり得る。
【0021】
本方法は、塩濃度を、核酸沈殿工程または処理済みRNAと固相の結合を実質的に干渉しないレベルに低下させるために、反応工程後に希釈工程をさらに含み得る。希釈工程は、塩濃度を、約1M未満、好ましくは、約0.5M未満に低下するよう、水を使用して実施してもよい。
【0022】
回収工程は、希釈された処理済みRNAを沈殿させること、または結合している処理済みRNAから亜硫酸水素塩をはじめとする塩などの物質を実質的に除去するために、固体支持体を洗浄することを含み得る。RNA沈殿は、アルコール沈殿剤を使用して実施してもよい。アルコール沈殿剤は、イソプロパノール、エタノール、ブタノール、メタノールまたはそれらの混合物であり得る。アルコールは、イソプロパノールであることが好ましい。固体支持体は、磁性ビーズを含み得る。
【0023】
任意選択の変性工程は、上記方法に含まれる場合には、RNAを変性するために、通常、約50℃〜約90℃の温度で熱を使用して実施することが好ましい。変性工程は、RNA試料を約80℃に加熱することによって実施することがより好ましい。
【0024】
回収された処理済みRNAの脱スルホン化は、相当な量のRNA鎖破損を誘導することなく、処理済みRNAに存在するスルホン酸基を除去して、スルホン酸基を実質的に含まないか、またはスルホン酸基の数が減少した、処理済みRNAを得ることを含み得る。任意選択の脱スルホン化工程は、本方法に含まれる場合には、回収されたRNAのpHを、バッファーまたはアルカリ試薬を用いて調整して、処理済みRNAに存在するいくつかのスルホン酸基またはすべてのスルホン酸基を除去することによって実施し、それによって、スルホン酸基を実質的に含まないRNA試料を得てもよい。脱スルホン化工程は、約7.5〜約11.5のアルカリpHで実施することが好ましい。pHは、約8.5〜約11.5であることがより好ましい。好ましい実施形態では、pHは、約8.7である。別の好ましい実施形態では、pHは、約10.5である。さらに好ましい一実施形態では、pHは、約11.5である。
【0025】
脱スルホン化は、約0℃〜約90℃の温度で実施することが好ましい。種々の好ましい実施形態では、温度は、約5℃〜約85℃、約10℃〜約70℃、約20℃〜約60℃または約30〜約50℃から選択される範囲であり得る。好ましい実施形態では、脱スルホン化は、約5℃、約10℃、約20℃、約30℃、約40℃、約50℃、約60℃、約70℃、約75℃、約80℃または約85℃の温度で実施する。
【0026】
脱スルホン化は、約1〜30分間実施することが好ましい。種々の好ましい実施形態では、脱スルホン化は、約5〜25分、または約10〜20分間実施する。特に好ましい実施形態では、脱スルホン化は、約1〜10分、または約5〜10分間実施する。
【0027】
好ましい実施形態では、脱スルホン化は、pH約8.5〜約11.5、約10℃〜85℃で、約1〜20分間実施する。別の好ましい実施形態では、脱スルホン化は、pH約8.5〜約11.5、約20〜75℃で、約5〜15分間実施する。さらなる好ましい一実施形態では、脱スルホン化は、pH約8.5〜約11.5、約20〜60℃で、約5〜15分間実施する。別の好ましい実施形態では、脱スルホン化は、pH約8.5〜11.5、約30〜50℃で、約5〜10分間実施する。特に好ましい実施形態では、脱スルホン化は、pH8.5〜11.5、約40℃で、約5分間実施する。特に好ましい実施形態では、脱スルホン化は、pH約8.7、40℃で5分間、またはpH約11.5、40℃で約5分間実施する。
【0028】
バイサルファイト処理済みRNAの約70%超が回収されることが好ましく、バイサルファイト処理済みRNAの約75%超が回収されることが好ましく、バイサルファイト処理済みRNAがの約80%超回収されることが好ましく、バイサルファイト処理済みRNAの約90%超が回収されることが好ましく、バイサルファイト処理済みRNAの約95%超が回収されることが好ましい。
【0029】
脱スルホン化RNAの約70%超が回収されることが好ましく、脱スルホン化RNAの約75%超が回収されることが好ましく、脱スルホン化RNAの約80%超が回収されることが好ましく、脱スルホン化RNAの約90%超が回収されることが好ましく、脱スルホン化RNAの約95%超が回収されることが好ましい。
【0030】
本方法は、処理済みRNA試料を加工または分析する工程をさらに含み得る。
【0031】
処理されるべき核酸の試料は、RNA、またはDNAおよびRNA両方の組合せを含み得る。試料は、精製された抽出物であっても、粗抽出物であってもよい。
【0032】
試料は、組織、臓器、細胞、微生物、生体試料、または環境試料から調製してもよく、または得てもよい。
【0033】
組織または臓器は、脳、結腸、泌尿生殖器、肺、腎臓、造血、乳房、胸腺、精巣、卵巣、子宮およびそれらの混合物からなる群から選択されることが好ましい。
【0034】
微生物は、細菌、ウイルス、真菌、原虫、ウイロイドおよびそれらの混合物からなる群から選択されることが好ましい。
【0035】
生体試料は、血液、尿、糞便、精液、脳脊髄液、洗浄、唾液、拭き取り検体、脳、結腸、泌尿生殖器、肺、腎臓、造血、乳房、胸腺、精巣、卵巣、子宮などの供給源から得た細胞または組織、胚または胚以外の系統から得た組織、環境試料、植物、細菌、細胞内寄生生物、ウイルス、真菌、原虫およびウイロイドをはじめとする微生物からなる群から選択されることが好ましい。
【0036】
本方法は、反応容器中で実施してよい。反応容器は、試験管、プレート、毛細管、ウェル、遠心分離管、マイクロチューブ、スライド、カバースリップおよび表面からなる群から選択され得る。
【0037】
本発明の方法は、RNA試料の実質的な分解または損失を引き起こすことなく実施できることが有利であり、市販のキットを上回る改善に相当する。
【0038】
DNAを処理するためにバイサルファイトを使用する既知法とは異なり、本方法は、分解を実質的にもたらさないか、RNAの分解を低減し、このことは、十分な無傷の鋳型が残存するので、バイサルファイト処理済みRNAが、PCRなどの下流適用に適していることを意味する。したがって、本発明の方法を、qPCRによる遺伝子発現分析および治療の成功を調べるための薬物療法の間のRNAウイルスのウイルス量モニタリングなどの、試料中に存在するRNA量の正確な測定が必要とされる状況において使用できる。
【0039】
本明細書を通じて、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単語「含む(comprise)」または「含む(comprises)」または「含んでいる(comprising)」などの変形は、記載された要素、整数もしくは工程または要素、整数もしくは工程の群を含むことを意味するが、任意のその他の要素、整数もしくは工程または要素、整数もしくは工程の群を含まないことを意味するものではないと理解されよう。
【0040】
文書、作用、物質、装置、品目または本明細書に含まれている同様のものについての任意の議論は、単に、本発明に状況を提供することを目的とするものである。これらの問題のいずれかまたはすべてが、先行技術の基礎の一部を形成するか、本発明の優先日より前にオーストラリアにおいて存在したような、本発明が関連する技術分野における共通の一般知識であったということの承認ととられるべきではない。
【0041】
本発明との関連で、任意の1つまたは複数の実施形態は、任意のその他の1つまたは複数の実施形態と組み合わせて採用され、すべてのこのような組合せは、本開示内容によって包含される。
【0042】
本発明がより明確に理解され得るよう、好ましい形態を、以下の図面および実施例を参照して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】前立腺癌細胞系統PC−3から単離されたRNAから得たバイサルファイト処理済みRNAの回収の比較を示す図である。RNAは、トリゾール(商標)(Invitrogen)を製造業者の使用説明書に従って使用して単離した。次いで、RNAを、以下の脱スルホン化バッファーに再懸濁した;Tris/HClバッファーpH9.5、10.5、11.5および12。次いで、指定の温度および時間でインキュベートした。インキュベーション後、イソプロパノールを使用してRNAを沈殿させ、プレキャスト(2%)アガロースゲル(Invitrogen)に流した。95℃で30分間、標準的なDNA脱スルホン化を実施したところ、図1からわかるように、RNA試料は完全に分解し、下流に適用できなかった。
【図2】RT−PCRにおいて陽性シグナルを生じさせることができる最も短い脱スルホン化時間を決定するために、種々の脱スルホン化時間を使用し、または脱スルホン化を行わずに、RNAの高投入量およびHIV−1逆転写酵素を使用してバイサルファイト変換されたAcrometrix HCV試料で実施された逆転写PCR(RT-PCR)を示す図である。#1:76℃で0分脱スルホン化;#2:76℃で1分脱スルホン化;#3:76℃で2分脱スルホン化;#4:76℃で5分脱スルホン化;#5:76℃で10分脱スルホン化;#6:76℃で15分脱スルホン化;#7:76℃で15分脱スルホン化(対照逆転写酵素);#8:RT陰性対照;#9:PCR陰性対照。
【図3】種々の逆転写酵素を使用してRT−PCRにおける陽性シグナルを生じさせることができる最も短い脱スルホン化時間を決定するために、種々の脱スルホン化時間を使用し、低投入量のバイサルファイト変換されたAcrometrix HCVを使用して、いくつかの異なる逆転写酵素を使用するRT−PCRを示す図である。
【図4】TEバッファーを用いる脱スルホン化のための最適条件を決定するために、種々のpHおよび温度のこのバッファーを用いる5分の脱スルホン化後の、低投入量のバイサルファイト変換されたAcrometrix HCV RNAでのRT−PCRを示す図である。
【図5】40℃で5分間の異なる組成の2種のバッファーを用いる脱スルホン化後の、可変低投入量のバイサルファイト変換されたAcrometrix HCV RNAでのRT−PCRを示す図である。結果は、一定の範囲のバッファーを使用して、広範なpHで脱スルホン化できることを示す。
【図6】100mM NaHCOを使用する10IUのバイサルファイト変換されたHCV RNAの脱スルホン化に対するpH、時間および温度の効果を示す図である。いくつかのバッファーによって許容され得、同時に、効果的に脱スルホン化する能力を維持する広範な条件を実証する。
【図7】86℃でpH10.5または76℃でpH11.5のいずれかでTEバッファー中で、5、10、15、20、25および30分間バイサルファイト処理されたPC3 RNAから得られたqPCRデータを示す図である。
【図8】76℃で5分間、TEバッファーpH11.5を用いて処理し、次いで、PCR増幅したRNAの希釈系列および増幅反応の効率を、バイサルファイト処理されたプライマーと同じ領域に対する未修飾の野生型プライマーと比較した、示す図である。
【図9】磁性ビーズを効果的に使用してHCV RNAを捕捉でき、そのRNAを支持体と結合させたまま、バイサルファイト処理、回収、脱スルホン化および増幅を効率的に行うことができることを示す図である。
【図10】本発明および市販のキットを使用するHCV RNAのバイサルファイト処理の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
RNAを処理するための実施形態を、以下に、限定されない詳細で記載する。
【0045】
本発明は、RNA試料を処理および分析する方法を提供する。本方法は、RNAの修飾のための、例えば、RNAのメチル化パターンまたはメチル化の変化を調べるために使用できる簡単な、高度に効率的な方法、遺伝子発現の定量化および薬物療法に応じたウイルスコピー数の定量化のために極めて少量のRNAを測定する能力を提供するという点で有利である。本発明の方法は、これまでに可能であると考えられてきたものよりも、高い収率および高分子量RNAを伴い、RNAの完全破壊を伴わず、したがって、少量のRNAの分析を可能にする、簡易化された手順ならびに多数の試料への容易な適用を提供する。
【0046】
本発明は、RNAをバイサルファイト処理する方法であって、
RNAを、処理済みRNAを形成するように、50〜90℃で約5〜180分間バイサルファイト試薬と反応させる工程と、
処理済みRNAを回収する工程と
を含む方法に関する。
【0047】
本明細書に開示される好ましい実施形態は、RNAをバイサルファイト処理する方法であって、
任意選択により、RNAを変性して、RNA中に存在する任意の相当な二次構造を実質的に除去する工程と、
処理済みRNAを形成するように、RNAを、バイサルファイト試薬と反応させ、反応物をインキュベートする工程と、
塩濃度を、核酸沈殿工程または固相への処理済みRNAの結合を実質的に干渉しないレベルに低下させる工程と、
処理済みRNAを回収する工程と、
任意選択により、相当な量のRNA鎖破損を誘導することなく、回収された処理済みRNAの部分的または完全脱スルホン化を実施して、処理済みRNAに存在するスルホン酸基を除去して、スルホン酸基を実質的に含まないか、またはスルホン酸基の数が減少した処理済みRNAを得る工程と
を含む方法に関する。
【0048】
本発明の方法は、RNA試料の分析において特に有用である。
【0049】
本発明の方法は、核酸試料、例えば、RNAの鎖(単数または複数)が、相当な程度には、破壊または剪断されないよう実施できるので有利である。また、本発明の方法によって、極めて少量の、例えば、0.5μg以下、例えば、約0.2μg以下、0.1μg以下、500ng以下、250ng以下、100ng以下、50ng以下、15〜150アトグラム、または60〜120アトグラム(1アトグラム=1×10−18g)程度の少ないRNAの効率的なバイサルファイト処理が可能となる。
【0050】
したがって、本発明は、一実施形態では、RNAを処理する方法を提供する。本発明の種々の実施形態では、本方法は、RNAを変性させる工程、RNAをバイサルファイト試薬とともにインキュベートすることによってヌクレオチドをスルホン酸基で修飾する工程、バイサルファイト処理済みRNAを塩(亜硫酸水素塩を含む)から希釈またはそうでなければ精製する工程、修飾されたRNAを沈殿させるか、または固相から修飾されたRNAを溶出する工程、および修飾されたRNAを反応させて、スルホン酸基を部分的にまたは完全に除去する工程のうちいくつかまたはすべての工程を含み得る。
【0051】
任意選択の変性工程は、例えば、RNAに熱を提供することによって実施できる。任意選択の脱スルホン化工程は、通常、RNAを実質的に分解することなく、バイサルファイト処理済みRNAに存在するスルホン酸基を部分的または完全に除去するよう制御された条件下で実施する。
【0052】
試料は、組織、細胞から調製してよく、または血液、尿、糞便、精液、唾液、拭き取り検体、脳脊髄液、洗浄などの任意の生体試料、脳、結腸、泌尿生殖器、肺、腎臓、造血、乳房、胸腺、精巣、卵巣、子宮などの供給源から得た細胞または組織、胚または胚以外の系統から得た組織、環境試料、植物、細菌、細胞内寄生生物、ウイルス、真菌、原虫およびウイロイドなどをはじめとする微生物であり得る。本発明による処理に適した、最良の記載された哺乳類細胞種は、B.Albertsら,1989年,The Molecular Biology of the Cell,第2版,Garland Publishing Inc New York and London,995−997に要約されている。
【0053】
ヒト、動物、植物、細菌およびウイルス起源の試料から得たRNAの分析は、死後48時間までの受精から得たすべての細胞、組織および臓器における、すべての生活環ステージ、ならびに、顕微鏡スライドなどの組織学的供給源に由来し得る試料、ブロックに包埋された試料、または合成もしくは天然表面から、もしくは液体から抽出された試料に及ぶものとする。
【0054】
分析はまた、細胞外または細胞内様式で、ヒト疾患と関係している、原核生物または真核生物およびウイルス(またはそれらの組合せ)から得たRNAを含む。
【0055】
RNA物質を得るための任意の適した方法を使用してよい。例として、それだけには限らないが、市販のDNA、RNAキットまたは試薬、ワークステーション、プロテアーゼ試薬を含有する標準細胞溶解バッファーおよび有機抽出手順が挙げられ、これらは当業者には周知である。
【0056】
本発明の方法は、反応容器中で実施してもよい。反応容器は、試験管、プレート、毛細管、ウェル、遠心分離管、マイクロチューブ、スライド、カバースリップまたは任意の適した表面など、任意の適した容器であり得る。本方法は、核酸試料の分解または損失の可能性を低減するために、通常、1つの反応容器中で実施する。
【0057】
一般に、変性工程は、熱処理を含むが、その他の適した変性剤を、それらが最初のRNA試料の完全性に影響を与えないという条件で使用してもよい。当業者には当然のことながら、いくつかの状況では、この変性工程は、経験的に決定されるように、必要でない場合もある。
【0058】
一般に、バイサルファイト試薬は、亜硫酸水素ナトリウムまたはメタ重亜硫酸ナトリウムである。バイサルファイト試薬は、メタ重亜硫酸ナトリウムであることが好ましい。バイサルファイト試薬は、シトシン塩基のスルホン化を引き起こして、スルホン酸シトシンを生じ、これに、スルホン酸シトシンのスルホン酸ウラシルへの加水分解脱アミノ化が続く。しかし、当然のことながら、任意のその他の適したバイサルファイト試薬を使用してもよい(Shapiro, R.、DiFate, V.およびWelcher, M、(1974)J. Am. Chem. Soc. 96: 906-912)。
【0059】
スルホン化試薬とのインキュベーションは、7より低いpHで、スルホン酸ウラシル基の形成に有利に働く温度で実施してもよい。7より低いpHは、シトシン塩基をスルホン酸シトシンに、続いて、スルホン酸ウラシルに変換するスルホン化反応を実施するのに最適である。しかし、本発明の方法は、必要に応じて、pH7より上のスルホン化反応を用いて実施してもよい。
【0060】
スルホン化反応は、バイサルファイト反応を増強できる添加剤の存在下で実施してもよい。適した添加剤の例として、それだけには限らないが、DTT、キノール、尿素、メトキシアミンが挙げられる。これらの試薬のうち、キノールは、還元剤である。尿素およびメトキシアミンは、バイサルファイト反応の効率を改良するために加えられる薬剤である。当然のことではあるが、その他の添加剤または薬剤もバイサルファイト反応に役立つよう提供され得る。
【0061】
スルホン化反応の結果、RNA試料中のメチル化シトシンは未変化のまま残り、メチル化されていないシトシンはウラシルに変換される。
【0062】
スルホン化反応は、通常、約50〜90℃の温度で約5〜180分間実施する。種々の好ましい実施形態では、スルホン化反応は、約50〜90℃の温度で約5〜150分間、約50〜90℃で約5〜120分間、約50〜90℃で約5〜90分間または約50〜90℃で約5〜60分間実施する。代替実施形態では、スルホン化反応は、約50〜90℃で、所望のレベルのスルホン化を達成するのに十分な時間、例えば、約5分、10分、15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、60分、70分、80分または約90分実施する。特に好ましい一実施形態では、スルホン化反応は、約70℃で約20分間実施する。
【0063】
通常、バイサルファイト試薬の濃度は、約1M〜約6M、好ましくは、約2M〜約4M、より好ましくは、約3Mである。
【0064】
本発明の種々の実施形態において、特に好適であることがわかった反応条件は、以下のとおりである。処理されるべきRNA、またはその他の核酸は、最大20μlの容量に作製する。次いで、208μlの3Mメタ重亜硫酸ナトリウム(BDH AnalaR番号10356.4D)の新しく調製した溶液pH5.0(pHは、10M水酸化ナトリウム(BDH AnalaR番号10252.4X)の添加によって調整してよい)および12μlの100mMキノール溶液(BDH AnalaR番号103122E)。加えられるキノールの濃度は、実験的に決定される、約10〜500mMの範囲中の何であってもよい。次いで、溶液を、十分に混合し、任意選択により、208μlの鉱油(Sigma分子生物学等級M−5904)で覆うか、または、加熱リッドサーマルサイクラー中で0.2mlの試験管中で実施する。次いで、試料を、十分なバイサルファイト変換を見越した時間、適した温度、例えば、60〜90℃、好ましくは、70℃または別の適した温度で、10分〜約3時間、好ましくは、20分静置する。この反応工程はまた、RNAが固相と結合している間に実施してもよい。当業者には当然であろうが、上記の容積、濃度およびインキュベーション時間および温度は、反応条件が核酸、例えば、RNAのスルホン化に適している限り、変えてもよい。
【0065】
本方法は、その後の反応に対して阻害的である塩が、スルホン化核酸、すなわち、スルホン化RNAと共沈しないように、希釈工程を含み得る。好ましくは、塩濃度は、約1M未満、例えば、約0.5M未満に希釈する。通常、希釈工程は、水またはバッファーを使用して、塩濃度を約1M未満、例えば、約0.5M未満に低下させるよう実施する。例えば、塩濃度は、通常、約1mM〜約1M未満、特に、約0.5M未満、約0.4M未満、約0.3M未満、約0.2M未満、約0.1M未満、約50mM未満、約20mM未満、約10mM未満、または必要に応じて、約1mM未満にさえ希釈する。当業者ならば、核酸との塩析を減少させ、その結果、その後の工程を、核酸試料の最小のさらなる精製または操作しか伴わずに実施できる、適した希釈を容易に決定できる。希釈は、通常、水中で実施するが、バッファーが相当に沈殿しない限り、または塩を核酸とともに相当に沈殿させて、その後の反応を阻害しない限り、任意の適したバッファー、例えば、Tris/EDTAまたはその他の生物学的バッファー中で実施してよい。通常、沈殿は、アルコールなどの沈殿剤を使用して実施する。核酸の沈殿のための例示的アルコールは、イソプロパノール、エタノールまたは任意のその他の適したアルコールから選択できる。
【0066】
代替実施形態では、その後の精製工程のために、試料に結合試薬を加えて、反応したRNAと固相支持体の結合を促進してもよい。次いで、結合しているRNAを洗浄して、塩(例えば、亜硫酸水素塩)および任意のその他の不要な不純物を除去し、次いで、固体支持体から適当な溶出バッファー中に溶出してもよい。これは、固定された固体支持体、例えば、カラムまたは磁性可動性固体支持体、例えば、コーティングされた磁性ビーズに特に適合する。
【0067】
本発明の実施形態に従って、1つまたは複数の工程を固体支持体で実施してもよい。一実施形態では、すべての工程を固体支持体で実施する。好ましい実施形態では、脱スルホン化工程は、固体支持体で実施する。
【0068】
任意選択の脱スルホン化工程は、沈殿している処理済みRNAのpHを約11.5の最大pHまでに調整することによって実施してもよい。しかし、いくつかの実施形態では、RNA分解を最小にするためには、より低いpHが好ましいものであり得る。高度にアルカリ環境、例えば、pH12以上に対する曝露は、RNA分子の完全分解をもたらし得、したがって、アルカリpHに対する曝露処理を最小限にし、鎖の破損を避けるまたは制限する。脱スルホン化工程は、適したバッファーまたはアルカリ試薬を用い、pH約7.0〜11.5で効率的に実施できる。適したバッファーまたはアルカリ試薬の例として、pH7.0〜11.5を有するバッファー、例えば、それだけには限らないが、TE(「Tris-EDTA」)、CAPS(「N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸」)、リン酸、グリシン、メチルアミンおよび炭酸水素ナトリウムが挙げられる。好ましい実施形態では、脱スルホン化は、8.5〜11.5の間のpHで実施してよい。特に好ましい実施形態では、脱スルホン化は、pH8.7、10.5またはpH11.5で実施してよい。特に好ましいバッファーとして、TE、炭酸水素ナトリウムおよびCAPSが挙げられる。当業者には当然であろうが、適したバッファーまたはアルカリ試薬は、利用可能な広範囲の既知バッファーおよびアルカリ試薬から選択してよい。
【0069】
通常、脱スルホン化工程の温度範囲は、0℃以下、最大約90Cであり、処理時間は、使用される条件に応じて、約1分〜約30分またはそれ以上(例えば、最大約45または60分)で変わり得る。本発明の好ましい実施形態では、脱スルホン化は、約30〜50℃の温度で約1〜30分間実施する。特に好ましい実施形態では、脱スルホン化は、約40℃で約2〜20分、より好ましくは、約5〜10分、より好ましくは、約5分間実施する。当業者ならば、脱スルホン化反応を実施するのに適した時間および温度を容易に決定できる。十分な脱スルホン化を可能にするようインキュベーション時間を増大する限り、室温より低い温度も使用してよい。したがって、脱スルホン化工程は、10℃未満、約5℃、約10℃、約20℃、約22℃、約25℃、約30℃、約35℃、約37℃、約40℃、約45℃、約50℃、約55℃、約60℃、約65℃、約70℃、約75℃、約76℃、約80℃、約85℃、約86℃、約90℃で実施してよい。脱スルホン化反応を実施するのに特に有用な温度は、約40〜75℃、好ましくは、約40℃である。
【0070】
一部の実施形態では、例えば、スルホン化RNAをコピーすることが可能な逆転写酵素を使用する場合には、核酸を脱スルホン化することが全く必要でないこともある。脱スルホン化が必要であるかどうか、または望ましいかどうかは、当業者によって実験的に容易に決定できる。
【0071】
本発明の別の利点は、本方法は、メチルSEQrバイサルファイト変換キット(Applied Biosystems、カタログ番号4374960)、Methylamp−96DNA修飾キット(Epigentek、カタログ番号P−1008)、EpiTectバイサルファイトキット(Qiagen、カタログ番号59104)、およびEZ DNAメチル化ディレクトキット(Zymo Research、カタログ番号D5020)などのその他の市販のキットを使用する処理方法よりもかなり短い時間枠で実施できるということである。
【0072】
本発明は、RNAの効率的な特性決定ための方法を提供する。本方法は、RNA試料で、効率的なスルホン化および脱スルホン化工程が実施されるのを可能にする。しかし、スルホン化工程も脱スルホン化工程も完全に実施される必要はなく、本明細書に開示されるように、その後、核酸の有無を特性決定するのに十分なだけであるということは理解される。当業者ならば、所望の分析には、これらの工程がほぼ完全に実施されるべきかどうか、または不完全な反応で十分であるかどうかは容易に決定できる。例えば、少数の細胞または少量のRNAが使用される場合には、通常、より完全な反応が実施されることが望ましい。多量の核酸試料が特性決定されている場合には、あまり完全でないが、RNA試料のその後の分析のために十分な反応生成物は依然として提供する反応が実施されてもよい。本発明の特定の利点として、極めて少量のRNA、例えば、約0.5μg以下、例えば、約0.2μg以下、約0.1μg以下、500ng以下、250ng以下、100ng以下、約15〜150アトグラム、または約60〜120アトグラムという量が処理され、特性決定されるのを可能にするということがある。
【0073】
本明細書に開示されるように、本発明は、RNAを都合よく処理する方法を提供する。本方法は、RNA分子のメチル化状態の分析のために、または遺伝子発現分析の方法のために、または薬物処理に応じたウイルス量モニタリングのための、低レベルのRNAウイルス、例えば、C型肝炎ウイルス(HCV)のモニタリングのために使用してよい。
【0074】
本発明の利点は、塩濃度を希釈することおよび核酸を沈殿させることまたは核酸と固体支持体を結合することによって、脱塩工程が高度に効率的に実施されるということである。希釈工程は、塩濃度を、核酸が沈殿されるか、固体支持体と結合される場合に、脱スルホン化などのその後の工程を干渉する量より低く低下させる。沈殿工程は、高度に効率的であり、任意選択により、核酸沈殿の効率を高める担体を含み得る。カラムまたは磁性ビーズなどの固体支持体の使用によって、最適な回収、結果までの時間の短縮が可能となり、容易に自動化可能である。したがって、本発明の方法は、損失を最小限に抑え、核酸試料の回収率を高める。したがって、本発明の方法は、極めて少量の出発材料が使用され、メチル化、遺伝子発現および病原体の検出に関して効率的に特性決定されるのを可能にするというさらなる利点を提供する。
【0075】
さらに、本方法が、脱スルホン化工程を含む場合には、わずかにアルカリpHのバッファー溶液の使用を用いて、注目するRNAが、実質的に断片化されるようになる可能性を低下させることができる。緩衝溶液のpHを、pH11.5をかなり上回って高めることは、高分子量核酸、特に、RNAの極めて多量の断片化につながり得る。したがって、このような断片化を最小限に抑えることが望まれる場合には、pH約11.5を下回るアルカリpH、例えば、約8.5〜11.5を通常使用する。
【0076】
本発明のさらに別の利点は、反応を、各試料に対して単一の試験管または容器中で実施でき、ひいては、試料の損失を最小限に抑え、多数の試料の処理を可能にすることである。これまでの方法と比較した、本発明の方法のさらなる利点は、RNAを、一度スルホン化すると、Clarkら,1994年によって記載される方法におけるように、標的RNAを完全に破壊する強塩基の添加を必要とするのではなく、むしろ塩基性pHを有するバッファーに再懸濁し、脱スルホン化工程を実施できるということである。
【0077】
本発明の方法を使用して、mRNA、tRNA、rRNA、microRNA、shRNA、siRNAもしくは任意のその他の注目するRNA種、組織または生物にかかわらず、RNA種のメチル化状態を特性決定できる。本発明の方法はまた、ゲノム配列決定法、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Frommerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1827−1831(1992)によって記載されるものとともに使用してもよい。
【0078】
本発明は、試料のメチル化状態を調べる方法、または試料の遺伝子発現プロフィールを数量化する、もしくは患者試料中のウイルスの循環レベルを定量化するための方法をさらに提供する。本方法は、RNAを処理するための本発明の方法を使用して、試料で実施してもよい。試料のメチル化状態を調べる方法は、試料のメチル化状態を、参照試料に対して比較し、調べることができるよう、試験試料および対照試料を用い、並行して実施してよく、これも、やはり、遺伝子発現またはウイルス量モニタリングアッセイに適用できる。例えば、試料を比較し、全般的に、または特定の部位にメチル化の増大または減少があるかどうかを調べることができる。このような判定を使用して、本明細書に論じられるような疾患の予後を診断および/または判定できる。本方法は、例えば、HCVまたはHIVなどのRNAベースのウイルスの存在または定量化などの診断適用では、試料のメチル化状態を報告することをさらに含み得る。
【0079】
本発明の方法の要素は、キットの形態で提供され得るということは理解される。キットは、本発明の方法を実施するための、適当な化学試薬、反応容器、例えば、試験管および使用説明書を含み得る。
【実施例】
【0080】
方法および試薬
化学薬品は、以下のとおりに入手した:BioRad製アガロース(Hercules CA;認定分子生物学等級番号161−3101);BDH製氷酢酸(Kylsyth,Australia; AnalaR 100015N);BDH製エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(AnalaR 10093.5V);Aldrich製エタノール(St.Louis MO;200プルーフE702−3);Sigma製イソプロパノール(St. Louis MO;99%+Sigma I−9516);Sigma製鉱油(M-5904);Sigma製3M酢酸ナトリウム溶液(S-7899);Sigma製塩化ナトリウム(ACS試薬S9888);およびBDH製水酸化ナトリウム(AnalaR番号10252.4X)。
【0081】
酵素/試薬は、以下のとおりに入手した:Promega製PCRマスターミックス(Madison WI;番号M7505);スーパースクリプトIII逆転写酵素(Invitrogen);HIV逆転写酵素(Ambion番号AM2045);iScript逆転写酵素キット(Biorad番号1708897)およびSigma製DNAマーカー(Direct load PCRローラダー100〜1000bp、Sigma D−3687および100〜10Kb、Sigma D−7058)。
【0082】
溶液は、以下のとおりとした:(1)10mM Tris/0.1M EDTA、pH7.0〜12.5;(2)3Mメタバイサルファイト(10N NaOH500μl(BDH AnalaR番号10356.4D)を含む水10ml中、5.6g;(3)100mMキノール(水50ml中、0.55g;BDH AnalaR番号103122E);(4)100mM NaHCO、pH8.0〜11.5(BDH番号10247);(5)10mM CAPS、pH11〜11.5(Sigma番号C6070);(6)50X TAEゲル電気泳動バッファー(Trizma塩基242g、氷酢酸57.1ml、EDTA37.2gおよび1lまでの水);および(7)5X アガロースゲルローディングバッファー(1%ブロモフェノールブルー(Sigma B6131)1ml、キシレンシアノール(Sigma X−4126)1ml、グリセロール(Sigma G6279)3.2ml、0.5M EDTA pH8.0 8μl、50X TAEバッファー200μlおよび10mlまでの水)。
【0083】
組織および細胞系統
RNAは、トリゾール(商標)(Invitrogen)を製造業者のデータシートに指示されるとおりに使用して前立腺癌細胞系統PC3から単離した。
【0084】
HCV RNAは、OptiQual(登録商標)HCV RNA高陽性対照(Acrometrixカタログ番号96−0203)から、QiaAmp UltraSens(Qiagen)ウイルスキットを、製造業者の使用説明書に従って使用して単離し、5,000IU/μlの最終濃度で再懸濁した。
【0085】
RNAのバイサルファイト変換
亜硫酸水素ナトリウム(Sigma 59000 500g;ロット番号116K0761)3.35gを、Xceed試薬1(Methyleasy Xceedキット、Human Genetic Signatures、Sydney, Australia)5mlに溶解した。この試薬を、十分に溶解するまで80℃に加熱し、次いで、放冷した。
【0086】
ヒドロキノン(Merck8.22333.0250;ロット番号K36100033 702)0.11gを、ヌクレアーゼ不含水10mlに溶解した。
【0087】
RNA5μlを、PCR試験管中で、バイサルファイト試薬220μlおよびキノール12μlと混合し、PCR機器中で70℃で20分間インキュベートした。
【0088】
ヌクレアーゼ不含水800μlを、グリコブルー(Ambion AM9515;ロット番号0705003)2μlとともに加え、試料を十分に混合し、次いで、イソプロパノール1mlを加え、試料を4℃で1時間インキュベートした。
【0089】
16000×g、4℃で20分間遠心分離することによってRNAをペレットとした。
【0090】
上清を廃棄し、ペレットを、中程度にボルテックス処理しながら、70%エタノール1mlで洗浄した。試料を16000×g、4℃で7分間再度遠心分離した。
【0091】
上清を廃棄し、ペレットを数分間風乾した。
【0092】
ペレットを、脱スルホン化バッファー(Xceed試薬5、Methyleasy Xceedキット、Human Genetic Signatures、Sydney, Australia)70μlに再懸濁し、PCR機器中で、76℃で0〜15分間脱スルホン化した。
【0093】
RNAを冷却し、次いで、反応液あたり以下を含む2μlのマスターミックスにRNA 11μlを加えた:
10mM dNTPS 1μl
ランダムHプライマー(300ng/μl) 1μl
【0094】
試料を65℃で5分間加熱し、次いで、氷上に、少なくとも1分間置き、その後、反応液あたり以下を含むマスターミックス7μlを加えた:
HIV−RT 対照RT
10×HIV−RTバッファー 2μl 5×FSバッファー 4μl
HIV RT(1U/μl) 1μl 0.1M DTT 1μl
RNアーゼ OUT 1μl スーパースクリプトIII 1μl
水 3μl RNアーゼ OUT 1μl
【0095】
試料を混合し、逆転写を以下のとおりに実施した;25℃で2分、27℃で2分、29℃で2分、31℃で2分、33℃で2分、35℃で2分、37℃で30分、45℃で10分、50℃で10分、70℃で5分、次いで、15℃で浸漬した。
【0096】
反応液あたり以下を含む、PCRによる分析のために、cDNA5μlをとった:
Promegaマスターミックス 37.5μl
F1プライマー(100ng/μl) 1.0μl
R0プライマー(100ng/μl) 1.0μl
水 5.5μl
【0097】
サイクルは以下のとおりとした:
【0098】
【化1】

【0099】
以下の機器を使用した:PCR機は、ThermalHybaid PX2(Sydney, Australia)であり、Gel Documentation Systemは、Kodak UVItec EDAS290(Rochester NY)であり、微量遠心管は、Eppendorf 5415−D(Brinkman Instruments; Westbury NY)とした。
【0100】
RNA分離
2%アガロースプレキャストゲル(Invitrogen)を使用した。注目するRNA試料またはRT−PCR産物を、プレートのウェルに直接ロードし、ゲルをマザー−ベース(mother-base)(Invitrogen)を使用して溶解した。
【0101】
RNAのバイサルファイト処理
本発明のバイサルファイト処理の有効性を実証する例示的プロトコールを以下に示す。このプロトコールは、首尾よく、実質的にすべての処理済みRNAの回収をもたらした。当然のことではあるが、試料または試薬の容積または量は、変わり得る。
【0102】
20μlの最終容量中のRNAを、80℃で2分間加熱し、標的分子内に存在する任意の二次構造を変性させた。50℃を上回る温度でのインキュベーションを使用して、二次構造の変性の効率を改善することができる。高度の二次構造を有すると疑われる分子は、バイサルファイト処理の前にすべての構造を除去するために、より高い温度を必要とする場合がある。処理前に、RNAを加熱変性することは、必ずしも必要ではない場合もある。RNA変性は、約37℃〜約90℃の任意の温度で実施してよく、約5分〜約8時間の長さで変わり得る。
【0103】
インキュベーション後、3Mメタ重亜硫酸ナトリウム(新しく作製した、10N NaOH500μlを含む水10ml中、5.6g;BDH AnalaR番号10356.4D)208μlおよび100mMキノール(新しく作製した、水50ml中、0.55g、BDH AnalR番号103122E)12μlを、連続して加えた。キノールは、還元剤であり、試薬の酸化を低減するのに役立つ。その他の還元剤も使用してよく、例えば、ジチオトレイトール(DTT)は、RNアーゼの作用を阻害することがわかっているので特に有用である。試料を200μlの鉱油で覆うか、または反応を、加熱リッドサーマルサイクラー中の0.2ml PCR試験管中で実施した。鉱油で覆うことは、試薬の蒸発および酸化を妨げるが、必須ではない。次いで、試料を70℃で20分間インキュベートした。一般に、バイサルファイト処理は、約50℃〜約90℃の任意の温度で実施してよく、約5分〜約180分の長さで変わり得る。
【0104】
メタ重亜硫酸ナトリウムで処理した後、オイルを除去し、RNA濃度が低い場合には、または沈殿後にペレットを可視化するのに役立つよう、tRNA(20mg/ml)1μlまたはグリコブルー2μlを加えた。これらの添加剤は、任意選択であり、特にRNAが低濃度で存在する場合には、これらの添加剤を使用して、標的RNAと共沈させることによって得られるRNAの収率を改善できる。核酸の量が<0.5μgである場合には、通常、核酸の、より効率的な沈殿のための担体としての添加剤の使用が望ましい。
【0105】
イソプロパノール精製処理は、以下のとおりに実施した:試料に水800μlを加え、混合し、次いで、イソプロパノール1mlを加えた。水またはバッファーは、反応容器中のバイサルファイト塩の濃度を、塩が、注目する標的核酸とともに沈殿しないレベルに低下させる。通常、希釈は、本明細書に開示されるように、塩濃度が所望の範囲より低く希釈される限り、約1/4〜1/1000である。
【0106】
試料を再度混合し、4℃で最低5分間静置した。沈殿工程は、5分〜数時間の任意の期間、静置してよいが、試料を1時間以下で沈殿させることが好ましい。試料を、微量遠心管中で、10〜15分間回転させ、ペレットを、毎回ボルテックス処理を行いながら、70〜80%エタノールで1回〜2回洗浄した。この洗浄処理によって、核酸とともに沈殿した任意の残存する塩が除去される。
【0107】
ペレットを乾燥させ、次いで、50μlなどの適した容量のTE(10mM Tris/0.1mM EDTA)またはその他のバッファー、pH7.0〜11.5に再懸濁した。TEについて、pH11.5のバッファーは、特に効率的であることがわかったが、その他のバッファーを用いる場合、より低いpHを効果的に使用できる。試料を、核酸を懸濁し、脱スルホン化するための必要に応じて、20℃〜90℃で約1〜30分間インキュベートした。
【0108】
PC3細胞の分析およびPCR増幅の感度
PC3細胞の培養物を、標準条件下で90%コンフルエンスに増殖させた。細胞をトリプシン処理し、洗浄し、次いで、血球計算器を使用してカウントした。次いで、細胞を、必要に応じて希釈した。細胞を、トリゾール(Invitrogen)を、製造業者の使用説明書によって記載されるとおりに使用して溶解し、次いで、RNAを、上記のスルホン化法を使用して修飾した。
【0109】
次いで、RNAを、0.2mlのPCR試験管中で以下のとおりに希釈した;T/E pH8.0、10μl中で、1/100、1/1000、1/10000および1/100000。RNAを、先に記載したとおりに、40サイクルの間増幅した。
【0110】
バイサルファイト処理済みRNAの分解に対するpH、時間および温度の効果
図1からわかるように、温度およびpHが高いほど、RNAが分解される可能性が高い。バイサルファイト処理されたDNAの通常の脱スルホン化温度は、95℃で30分間であり、図1からわかるように、90℃で15分間の処理でさえ、RNAの完全分解をもたらし、これは、材料を、PCRなどの下流適用にとって役に立たないものにする。ウイルス量モニタリングなどの適用のためにRNAの正確な定量化をもたらすために、出発材料の相当な分解は避けなければならない。RNAの分解は、本来は無作為なものであるので、この無作為性が、試料間可変性に影響を及ぼし、ウイルス量の不正確な推定につながり、患者管理体制に対して重大な結果を有し得る。図1からわかるように、70℃でさえ、15分間のインキュベーション後にRNAの相当な分解が観察され得、このことは、RNAに対する損傷を最小限に抑えるよう、この温度で脱スルホン化時間が減少されるべきであるということを示す。60℃では、高pH脱スルホン化バッファー(pH12)を使用する場合を除いて、全経時変化実験にかけて任意の試料の分解が、事実上、観察され得なかった。したがって、これらの結果から、TEを脱スルホン化バッファーとして使用する場合の最適時間/pHおよび温度範囲は、11.5以下のpHを使用して、約60℃〜70℃以下で15分未満であると示唆され得る。
【0111】
HIV RTを使用する、バイサルファイト処理済みRNAのRT−PCR増幅に対する時間および温度の効果
図2および図3は、HIV RTを使用して、比較的多量の出発材料がある限り、バイサルファイト処理済みRNAを、任意の相当な脱スルホン化を伴わずに増幅することが可能であることを示す。しかし、出発材料の量が少ない場合には、この実施例における最適シグナルを得るために、少なくとも1分の脱スルホン化が必要とされる。
【0112】
バイサルファイト処理されたDNAを、少なくとも20分以上の脱スルホン化時間80℃で増幅することは、任意の増幅されたバイサルファイト処理されたDNAを作製するために、よく必要とされるので、データから(図2および図3参照のこと)、特定のRNA逆転写(RT)酵素が、そのDNAポリメラーゼ対応物よりも、かなり「乱雑」であると思われるということも際立っている。しかし、逆転写酵素を用いる場合、標的の濃度がかなり高い限り、脱スルホン化を全く行わずにRNAを増幅してもよい(図2および図3参照のこと)。これは、逆転写酵素は、硫酸基などのRNA分子上のかさ高い障害を迂回する能力を有するが、DNA上の硫酸基は、ポリメラーゼが、障害に達した時点で、処理されたDNAをコピーするのを停止させる妨害物を形成することが明らかであるということを示す。したがって、RT酵素の、この、ここで未知の特性は、いくつかの場合には、脱スルホン化工程を完全に避けることができる可能性を高めるので、バイサルファイト処理済みRNAからDNA鎖をコピーするとなった場合に極めて有利である。図1からわかるように、硫酸基の除去に必要とされる高pHおよび温度のために、バイサルファイト処理済みRNAに最も損傷を引き起こすのは脱スルホン化工程であるので、この工程の除去は、費やされる時間を減少させるだけでなく、RNA分解の低減または防止に大きく役立つ。
【0113】
バイサルファイト処理済みRNAのRT−PCR増幅に対する、時間、温度および脱スルホン化バッファーのpHの効果
図4、5および6は、バイサルファイト変換されたRNA試料の効率的な脱スルホン化は、温度、時間およびバッファーのpHだけでなく、バッファーの組成にも応じて変わることを実証する。したがって、NaHCOおよびCAPSのそれぞれについて、脱スルホン化を40℃で5分間実施する場合には(図5)、種々のバッファーの、同一試料の脱スルホン化のための最適pHは、pH8.7から11.5の間で変わる。TEバッファーについては、温度の増大は、低pHを使用して効率的な脱スルホン化をもたらす(図4)が、100mM NaHCOは、RNAを脱スルホン化するために、広範なpHにわたって効果的に使用できる(図6)。
【0114】
本発明の特定の利点は、非常に少量のバイサルファイト処理済みRNA、例えば、1〜10IUのHCV RNA(約15〜150アトグラムのRNAに相当する)の増幅の実証であり、このようにして、RNAが著しくは分解されていないことが確認される。RNAのバイサルファイト処理およびその後の検出は、これらの低レベル付近ではどこでも、以前は実証されていなかった。したがって、RNA試料および所望の実験計画に応じて、種々のpHのさまざまなバッファーを使用し、種々の時間および温度で脱スルホン化することが可能である。
【0115】
RNAを使用する脱スルホン化反応条件のリアルタイムPCR分析
図7は、低下したpH(10.5)では、高温(86℃)でさえ、逆転写およびPCRの前の少なくとも20分のTEバッファーを用いる脱スルホン化の後にしか最適増幅曲線が作製されないことを示す。しかし、pHを11.5に高め、温度を低下させた場合には、これは、cDNAの増幅効率を劇的に実質的に改善し、わずか5分の脱スルホン化後に、増幅の見掛けの相違はない。
【0116】
結果は、単一ラウンドの一段階逆転写PCRを用いるRNAのバイサルファイト処理を示す。逆転写は、遺伝子特異的プライマーと、それに続く40サイクルのPCR増幅を使用して実施した。蛍光は、反応液にSyto9を組み込むことによって測定した。pH11.5/76℃を使用して、脱スルホン化はわずか5分で実施できるということがわかる。先行技術から、pHの増大は、RNAにとって有害であろうと考えられていたので、これは、驚くべきことである。この実験から得られた結果は、RNAの実際の脱スルホン化は、最適化された条件下では極めて迅速に起こることを示す。
【0117】
図8は、バイサルファイト処理および脱スルホン化のための最適条件を用いると、バイサルファイト処理済みRNAの増幅によって、野生型RNAに相当する増幅シグナルを生じ、このことは、改善されたバイサルファイト手順が、投入RNAの損失を事実上もたらさないことを示す。
【0118】
図8の結果は、投入RNAの希釈系列を使用する単一ラウンドの一段階逆転写PCRを使用するRNAのバイサルファイト処理を示す。逆転写は、遺伝子特異的プライマーと、それに続く40サイクルのPCR増幅を使用して実施した。蛍光は、Syto9を反応液に組み込むことによって測定した。結果は、反応は、脱スルホン化時間がわずか5分に低減される場合に感度の損失を全く被らないことを示す。さらに、希釈研究は、RNAのバイサルファイト処理は未処理のRNAと比較して、感度の大きな損失をもたらさないことを示す。
【0119】
バイサルファイト処理の際の固体支持体の使用
図9は、RNAのバイサルファイト処理の際に種々の固相支持体を使用できることを示す。Acrometrix HCV RNAを、3つの異なる供給業者(Chargeswitch, Invitrogen;Genemag, Chemicell;およびMagmax, Ambion)製の磁性ビーズと結合させ、ビーズと結合しながら、バイサルファイト処理し、洗浄して、過剰のバイサルファイト試薬を除去し、次いで、溶出し、単一工程で脱スルホン化し、その後、iScript逆転写酵素(Biorad)を用いて逆転写し、続いてPCR増幅を行った。3種のビーズ種のうち2種は、この実施例において働き、したがって、バイサルファイト処理と適合し、そのRNA結合能を保持する。カラムなどのその他の適合する支持体も、この手順の間に使用してよい。固相の使用によって、手順の自動化および/または沈殿ベースの方法と比較して、結果までの時間の短縮が可能となる。処理済みRNAは、必要に応じて、必要とされる手順の間の任意の点で固相と結合させても、またはPCR増幅を含む全手順を通じて固相と結合させてもよい。
【0120】
市販のバイサルファイトキットを用いる比較
4種の主要な市販のバイサルファイト変換キットを使用して、HCV RNAのバイサルファイト変換の比較を行い、結果を本発明の方法(「HGS」法と呼ばれる)と比較した。
Acrometrix HCV RNAを精製し、10,000コピー、5,000コピー、1,000コピー、500コピー、100コピー、50コピー、20コピーおよび0コピーを、本明細書に開示されるHGS法、メチルSEQrバイサルファイト変換キット(Applied Biosystems、カタログ番号4374960)、Methylamp−96DNA修飾キット(Epigentek、カタログ番号P−1008)、EpiTectバイサルファイトキット(Qiagen、カタログ番号59104)またはEZ DNAメチル化ディレクトキット(Zymo Research、カタログ番号D5020)のいずれかを、製造業者の使用説明書に従って使用してバイサルファイト変換した(表1)。
【0121】
脱スルホン化および/または溶出に続いて、RNAを、本明細書に開示されるように逆転写した。20μlの総cDNAのうち1μlを、バイサルファイト変換されたHCVを特異的に増幅するよう設計されている2種の異なるプライマーセットを使用してPCR増幅した。したがって、PCRでは、500、100、50、10、5、2.5、1および0コピーのHCV/反応がある。図10から明らかなように、HGS法は、すべてのHCVを効率的に保持するか、HCVの効率的な増幅を可能にする唯一の方法であった。
【0122】
【表1】

【0123】
まとめ
バイサルファイト処理されたDNAを用いる場合、相当量の増幅を生じさせるために、試料は、少なくとも80℃の温度で少なくとも20分間以上スルホン化されることが多い。しかし、これは、標的の濃度がかなり高い限り、脱スルホン化を全く行わずに(図2および図3参照のこと)、または低い出発RNA濃度を用いわずか5分の脱スルホン化を行って(図4、5および6)、RNAを増幅することができる種々の逆転写酵素とは対照をなす。得られたcDNAは、次に、その後の処理を行うことなく、従来法を使用するPCRによってさらに増幅できる。これらの結果から、ある種の逆転写酵素は、バイサルファイト処理された核酸の増幅において、対応するDNAポリメラーゼよりもかなり効率的であるようである。このことは、最適化された変換および脱スルホン化条件と併せて、RNAのバイサルファイト変換が効果的に実施できること、したがって、変換工程の間RNA分子を無傷で維持する能力を相当に改善し、任意のRNAベースのアッセイに良好な感度をもたらすことを意味する。
【0124】
当業者には当然のことながら、特定の実施形態において示される本発明に、広く記載される本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく、多数の変法および/または改変を行うことができる。したがって、本実施形態は、あらゆる点で、例示的と考えられるべきであって、制限的と考えられるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNAをバイサルファイト処理する方法であって、
処理済みRNAを形成するように、RNAを、バイサルファイト試薬と50〜90℃で5〜180分間反応させる工程と、
前記処理済みRNAを回収する工程と
を含む方法。
【請求項2】
RNAを、バイサルファイト試薬と、50〜90℃で5〜120分間反応させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
RNAを、バイサルファイト試薬と、50〜90℃で5〜90分間反応させる工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
RNAを、バイサルファイト試薬と、50〜90℃で5〜60分間反応させる工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
RNAを、バイサルファイト試薬と、70℃で20分間反応させる工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
回収された前記RNAを部分的にまたは完全に脱スルホン化する工程をさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
脱スルホン化を、pH約11.5までのアルカリpHで実施する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
脱スルホン化を、0〜90℃の温度で1〜30分間実施する、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
脱スルホン化を、20〜50℃の温度で5〜20分間実施する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記処理済みRNAの70%超が回収される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記処理済みRNAの80%超が回収される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記処理済みRNAの90%超が回収される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
脱スルホン化RNAの70%超が回収される、請求項6から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
脱スルホン化RNAの80%超が回収される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
脱スルホン化RNAの90%超が回収される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
バイサルファイト試薬が、亜硫酸水素ナトリウムまたはメタ重亜硫酸ナトリウムから選択される、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記回収工程を、RNAの沈殿によって、または固相分離によって実施する、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記回収工程を、RNAの沈殿によって実施する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1つの工程を、固相支持体上で実施する、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記処理工程、回収工程および脱スルホン化工程を、固相支持体上で実施する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記固相支持体が、磁性ビーズまたはカラムを含む、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記脱スルホン化工程を、40℃の温度で実施する、請求項6から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記脱スルホン化工程を、5分間実施する、請求項6から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記脱スルホン化工程を、8.5から11.5の範囲のpHで実施する、請求項3から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記pHが、8.7、10.5または11.5である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
アルカリpHが、炭酸水素ナトリウム、Tris−EDTA(TE)バッファーまたはN−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPS)バッファーを用いて達成される、請求項7に記載の方法。
【請求項27】
処理されるRNAの量が、0.5μg以下である、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
処理されるRNAの量が、少なくとも15〜150アトグラムである、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記反応工程の前に、変性工程をさらに含む、請求項1から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
請求項1から29のいずれか一項に記載の方法を実施するためのキットであって、
希釈液、バイサルファイト試薬およびアルカリから選択される試薬を含有する容器と、該試薬を使用するための使用説明書とを含むキット。

【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−505153(P2011−505153A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536287(P2010−536287)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際出願番号】PCT/AU2008/001796
【国際公開番号】WO2009/070843
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(505188906)ヒューマン ジェネティック シグネチャーズ ピーティーワイ リミテッド (15)
【Fターム(参考)】