説明

RNAiに基づく選択システム

本発明は、発現ベクターを取り込んだ宿主細胞を選択するための新規なRNAiに基づく選択システムを提供する。選択を可能とするため、発現ベクターは、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子の産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の産物の機能的等価物である産物をコードする、組換えポリヌクレオチドを含む。ある実施態様によれば、目的産物、特にポリペプチドを産生するための方法が提供され、この方法は目的産物の発現を可能とする条件下での本発明の教示に従って選択される宿主細胞を培養することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、RNAi選択可能マーカー遺伝子を含む発現ベクターを含む宿主細胞を選択するために好適な新規の選択システムに関する。本発明は、好適な発現ベクター、宿主細胞、および各発現ベクターを含む宿主細胞の選択方法を提供する。さらに、本発明は、RNAiレスキュー実験を行うための方法と共に、目的のポリペプチドを産生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
RNA干渉(RNAi)は、脊椎動物および無脊椎動物における機能的ゲノム研究のツールとして広く使用されるようになった。RNAiは、RNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)によって対応するmRNAの破壊を引き起こす、相同性の低分子干渉dsRNA(例えば、siRNA)を介して遺伝子をサイレンシングすることによってはたらく。遺伝子発現に対するRNAiの選択的かつ強固な効果は、それを、細胞培養物および生きている生物の両方における貴重な研究手段としている。細胞に導入された合成dsRNAは、目的の具体的な遺伝子の抑制を誘導することができる。細胞の表現型に対するこれらの遺伝子の効果は、その後、遺伝子サイレンシングの効果を研究することによって解析され得る。また、RNAiは、細胞における各遺伝子を系統的にシャットダウンする大規模スクリーニングについて使用されてもよく、それは、特定の細胞プロセスや例えば細胞分裂等の事象に必要な構成成分の同定に役立つことができる。
【0003】
その利点のため、特にsiRNA介在型RNAiは、機能的ゲノム研究における欠くことのできない手段となっている。ヒト、マウスおよびラットゲノムの各遺伝子を標的とする化学的に合成されたsiRNA試薬は、in vitroにおける簡便な送達のため利用可能である。RNAi実験から得られたデータは、遺伝子がどのように機能するのかに関する重要な結論を支持するために使用される。
【0004】
上記理由のため、RNA干渉経路は、しばしば、細胞培養物における遺伝子の機能およびモデル生物におけるin vivoでの遺伝子の機能を研究するための実験的生物学において活用される。二本鎖RNAは、目的の遺伝子の標的配列に相補的な配列を用いて合成され、通常、18〜30merであり、細胞または生物内へ導入されると、外因性遺伝子物質として認識され、RNAi経路を活性化する。このメカニズムを使用して、研究者は、標的とされた遺伝子発現の大幅な減少を引き起こすことができる。この減少の効果を研究することにより、各標的とされた遺伝子産物の生理学的役割を示すことができる。RNAiは必ずしも遺伝子の発現を全面的に消滅し得る訳ではないことから、この技術は、時に、例えば標的遺伝子、従ってそのDNA中にノックアウト変異を導入することによって遺伝子発現は完全に排除する「ノックアウト」手法と区別するために「ノックダウン」と呼ばれる。
【0005】
簡便性、迅速性および費用対効果は、RNAiを遺伝子機能の喪失の研究に関して選択される方法とした。しかしながら、RNAiが貴重な手段であるにもかかわらず、出力される(outlet)表現型の特異性の決定において新たな1組の問題を生じた。RNAi実験から導かれる結論が正確であることを確実にするため、各RNAi実験においてふさわしいコントロールを包含することが重要である。そのようなコントロールは、導かれた結論を強固なものとし、行われた発現調節実験が、結果として所望のサイレンシングを生じることを確実にする。適切な実験コントロールは、従って、生み出されるデータの価値を最大限にするために最も重要である。
【0006】
近年の出版物は、標的とされた遺伝子に加え、RNAおよびタンパク質レベルの両方に対する他の遺伝子発現の変化を導くRNAi誘導化合物のオフターゲット効果を報告した。また、数人の著者は、IFN応答機構(IFN response machinery)に関与する遺伝子の誘導、機能喪失研究におけるRNAiの信頼性へのさらなる挑戦を報告した。これらの問題のため、従って、対照実験はRNAi表現型の特異性を確認するために最も重要である。機能喪失表現型の特異性を確実とするための信頼できる方法は、レスキュー実験である。レスキュー実験は、RNAi介在化合物(例えば、siRNA)への不応の形態における標的遺伝子の発現に依存する。従って、再導入されたレスキュー遺伝子は、RNAi介在化合物に対して耐性であるべきである。理想的には、このレスキュー遺伝子は、また、生理学的範囲内で発現されるべきである。酵母等の重要なモデル生物について、レスキュー実験は、相同組換えを用いることによって容易に達成されることが可能であり、それによって、レスキューコンストラクトの生理学的発現を確実にする。しかしながら、哺乳類細胞におけるレスキュー実験は、しばしば、特定の問題を生じる。レスキュー遺伝子をRNAi介在化合物に対して不応にするため、1以上のサイレント第3コドン点変異を標的とされた領域に導入することができるが、偶然の(fortuitous)mRNAに対するコントロールが望まれる。翻訳効果は、プラスミド/ベクターからのレスキュー発現に対して非必須である3’非翻訳領域(UTR)に対して標的とされたsiRNAを利用することにより回避され得る。
【0007】
従って、RNAiレスキュー実験は、RNAi実験における不可避のコントロールとして使用される。それにより、野生型表現型が回復されるかどうか、従って、RNAi介在化合物が標的遺伝子に対して特異的であるかどうか、従って、観察されたRNAi表現型が対応する標的遺伝子のサイレンシングに起因し得るかどうかを解析することができる。しかしながら、siRNAの特異性を確認するために各レスキュー実験をする際、siRNAの同時形質移入および対応する組換えで発現されたプラスミド由来タンパク質が必要である。siRNAのみによって形質移入された細胞集団は、しばしば、プラスミドおよびsiRNAの両方で形質移入されたものよりもプラスミド形質移入率が高いことから、低いプラスミド形質移入率は、レスキュー表現型の解析を複雑化している。この事実より、復帰した表現型の計測は、幾分、高性能の細胞系(cell based)アッセイを使用せず、またはプラスミド形質移入細胞を富化する技術を使用せずには不可能である。
【0008】
従って、本発明の1つの目的は、存在するRNAiレスキュー実験を改良することである。
【0009】
さらに、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを取り込んだ宿主細胞の選択は、いくつかの適用、特に、(例えば、実験的または工業的規模における)目的産物の発現に重要である。組換えペプチドおよび組換えタンパク質等の目的産物のクローン化する能力および発現する能力は、ますます重要となっている。高レベルのタンパク質を精製する能力は、ヒトの薬学的および生物工学的分野(例えば、タンパク質医薬の産生のため)と共に基礎的な研究設定において(例えば、タンパク質の三次元構造の決定を可能とするタンパク質の結晶化のため)重要である。あるいは多量に得ることが困難であるタンパク質を、宿主細胞において過剰発現させ、その後単離し、精製することができる。
【0010】
組換えタンパク質の産生のための発現システムの選択は、細胞成長特性、発現レベル、細胞内および細胞外発現、翻訳後改変および目的タンパク質の生物活性と共に、治療的タンパク質の産生における規制問題および経済的配慮を包含する多数の因子に依存する。細菌または酵母等の他の発現システムに対する哺乳類細胞の重要な利点は、ふさわしいタンパク質フォールディング、複合N−結合型グルコシル化および標準の(authentic)O−結合型グリコシル化と共に、広いスペクトルの他の翻訳後改変を行う能力である。記述された利点のため、真核生物細胞および特に哺乳類細胞は、現在のところ、モノクローナル抗体等の複雑な治療タンパク質の産生のために選択される発現システムである。
【0011】
発現宿主細胞を得るための最も一般的なアプローチは、第一工程として、目的産物を発現する適切な発現ベクターを作出する。発現ベクターは、宿主細胞で目的産物をコードするポリヌクレオチドの発現を駆動し(drive)、組換え細胞株を作出するための少なくとも1種の選択可能マーカーを提供する。哺乳類発現ベクターの重要な要素は、通常、強固な転写活性が可能な構成的かつ誘導性のプロモーター;通常コザック配列を含む最適化されたmRNAプロセシングシグナルおよび転写シグナル、翻訳終結コドン、mRNA開裂シグナルおよびポリアデニル化シグナル、転写終結因子および安定な細胞株の調製のための選択可能マーカーを含み、遺伝子増幅のために必要な場合には、さらに、細菌におけるベクター増殖(propagation)のための、原核生物起源の複製マーカーおよび選択可能マーカーが、上記発現ベクターによって提供され得る。
【0012】
近年、開発の焦点は、宿主、特に哺乳類細胞における遺伝子発現のための改良されたベクターの設計に集中していた。しかしながら、入手可能なベクターは豊富に存在するにもかかわらず、高収率の頑健なポリペプチド/タンパク質産生はいまだ困難であるがやりがいがある。
【0013】
高収率で目的産物を発現する宿主細胞を得るために、選択可能マーカーおよび選択システムが、遺伝子工学、組換えDNA技術および組換え産物の産生において広く使用されている。また、それぞれのシステムは、安定にまたは一時的に形質移入されたクローンを作出および同定するために有用である。各選択可能マーカーおよび選択システムを使用することの主な目的は、選択的成長条件に曝された際、発現ベクターを取り込んだ細胞の同定を可能とし、従って目的の組換え産物の産生が可能な、選択可能遺伝子を導入することである。いくつかの選択システム/選択可能マーカーが公知であって、真核生物について、その下で、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)またはグルタミン合成酵素(GS)、ネオマイシン、ハイグロマイシン等が用いられている。また、DHFR等のこれらのマーカーのうちいくつかは、選択的培養条件に曝された場合、その遺伝子の増幅を可能とする。そのような選択圧を提供する目的は、選択可能マーカーを発現する細胞を単離し、従って、目的産物を高収率で単離することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、公知の選択システムは欠点も有する。選択条件(例えば、抗葉酸剤(DHFRの場合MTX等)を使用する場合)は宿主細胞にとってある程度毒性であり、例えば、宿主細胞のゲノムを改変する可能性がある。また、抗生物質に基づく発現システムも欠点を有する。
【0015】
従って、発現ベクターを取り込んだ宿主細胞を選択するための代替的な選択システムを提供すると共に、好適な発現ベクターおよび宿主細胞を提供することもまた、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の要旨
本発明は、発現ベクターにより首尾よく形質移入された宿主細胞を選択するために好適な新規の選択システムに関する。
【0017】
1つの実施態様によれば、導入された発現ベクターを含む宿主細胞の選択方法が提供され、前記方法は以下の工程を含む:
a)宿主細胞集団を提供すること(前記宿主細胞は少なくとも1種の細胞の生存に必須の遺伝子を内因性に発現する);
b)前記宿主細胞に発現ベクターを導入すること(ここで、前記発現ベクターは、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子によってコードされる産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子によってコードされる産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子によってコードされる産物の機能的等価物である産物をコードする、少なくとも1種の組換えポリヌクレオチドを含む)
c)該宿主細胞を選択条件下で培養すること(ここで、該選択条件は、少なくとも、前記宿主細胞への少なくとも1種のRNAi誘導化合物の導入を含み、ここで、前記RNAi導入化合物は、少なくとも、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子を標的とする)。
【0018】
選択を可能とするため、発現ベクターは、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子の産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の産物の機能的等価物である産物をコードする、組換えポリヌクレオチドを含む。前記発現ベクターを取り込んだ宿主細胞は、適用される選択培養条件に耐性であり、ここで、少なくとも、前記宿主細によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子を標的とする少なくとも1種のRNAi誘導化合物が該宿主細胞へ導入される。首尾よく形質移入された宿主細胞は、前記発現ベクターを含み、前記組換えポリヌクレオチドを発現する。従って、それらは、選択に使用されるRNAi誘導化合物によってノックダウンされる細胞の生存に必須の前記内因性に発現される遺伝子の機能を引き継ぐ、細胞の生存に必須の前記内因性に発現される遺伝子の産物に対応する産物をコードする、および/または該内因性に発現される遺伝子の産物の機能的変異体である産物もしくは該内因性に発現される遺伝子の産物の機能的等価物である産物をコードする前記組換えポリヌクレオチドのように、選択的培養条件を生存することができる。前記組換えポリヌクレオチドの発現は、基本的に、選択的RNA誘導化合物によってノックダウンされた内因性に発現される必須遺伝子の機能を回復する。発現ベクターによって首尾よく形質移入されなかった宿主細胞は、細胞の生存に必須の内因性に発現される遺伝子が選択的RNAi誘導化合物によってノックダウンされるので、選択的培養条件下で生存/増殖することができず、それにより、好ましくは、形質移入されていない宿主細胞におけるアポトーシスを誘導し、従って培養物から排除される。従って、発現ベクターを取り込んだ宿主細胞の同定のための新規のRNAiに基づく選択システムが、本発明の教示によって提供される。
【0019】
さらなる実施態様によれば、目的産物、特にポリペプチドを産生するための方法が提供され、この方法は目的産物の発現を可能とする条件下での本発明の教示に従って選択される宿主細胞を培養することを含む。
【0020】
さらなる実施態様によれば、RNAi実験を行う方法が提供され、前記方法は以下の工程を含む:
a)細胞の生存に必須の遺伝子を内因性に発現する宿主細胞へ発現ベクターを導入すること(ここで、前記発現ベクターが、少なくとも以下の工程を含む)。
i)前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子の産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の産物の機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチド;
ii)前記宿主細胞によって発現される目的の標的遺伝子の産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の産物の変異体である産物もしくは該遺伝子の産物の等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチド;
b)前記宿主細胞によって発現される目的の前記標的遺伝子の発現を標的とする、RNAi誘導化合物を該宿主細胞へ導入すること;
c)選択条件下で前記宿主細胞を培養すること(ここで、該選択条件が、少なくとも1種のRNAi誘導化合物の導入を少なくとも含み、ここで該RNAi誘導化合物が、少なくとも、該宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子を標的とする)。
【0021】
また、本発明の教示によりキットが提供され、ここで、前記キットは少なくとも以下を含む:
a)宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチドを含む該宿主細胞へ導入される発現ベクター;
b)前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子を標的とするRNAi誘導化合物。
【0022】
本出願の他の目的、特性、利点および側面は、以下の記述および添付の特許請求の範囲から当業者に明白になる。しかしながら、以下の記述、添付の特許請求の範囲および具体的な実施例は、本出願の好ましい実施態様を示す一方、実例としてのみ提示されることが理解されるべきである。以下を読むことにより、当業者にとって、本開示される発明の精神および範囲内での様々な変更および改変が、容易に明らかになる。
【0023】
以下の図面は、本発明の範囲を制限することなく、本発明を解説するために提示される。特に、図は、本発明の好ましい実施態様に関する:
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1a】図1は、本発明による方法が、発現ベクターを取り込み、従って目的産物(例えば、ポリペプチド)を発現する宿主細胞を選択するために目的のポリペプチドを産生するための方法において使用される実施態様を示す。図1aは、形質移入に際し、宿主細胞が本発明による発現ベクターを取り込まなかった場合のシナリオを示す。記載された実施態様において、選択的RNAi誘導化合物が、ここでは、細胞の生存に必須の遺伝子の例としてのplk1遺伝子を標的とするsiRNAが使用される。図1aに見られるように、siRNAはplk1転写物の3’UTRを標的とし、それによって、内因性に発現したplk1遺伝子のサイレンシングを効率的に誘導する。plk1遺伝子のRNAi誘導性ノックダウンにより、発現ベクターを取り込まなかったがplk1転写物に対して向けられたsiRNAのみを取り込んだ宿主細胞は、アポトーシスを経て、従って培養物から排除される。
【図1b】図1は、本発明による方法が、発現ベクターを取り込み、従って目的産物(例えば、ポリペプチド)を発現する宿主細胞を選択するために目的のポリペプチドを産生するための方法において使用される実施態様を示す。図1bは、宿主細胞が本発明による発現ベクターを首尾よく取り込んだ場合のシナリオを示す。提示される実施態様より、ベクターは、核内に位置するが、細胞質中にも位置する。発現ベクターは、plk1遺伝子に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の機能的等価物である産物をコードする回復ポリヌクレオチド(それゆえに、宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子)を含む。図1bにおいて、前記回復ポリヌクレオチドをQIA遺伝子(QIAGene)plk1と呼ぶ。さらに、発現ベクターは、宿主細胞によって発現/産生されると考えられる提示された実施態様に従う目的産物をコードする組換えポリヌクレオチドを含む。前記ポリヌクレオチドは、遺伝子Xと呼ばれる。発現ベクターに組み込まれた組換えポリヌクレオチドは、そこから発現され、対応する転写物が示される。選択の間、選択的RNAi誘導化合物、ここではplk1を標的とするsiRNAが、宿主細胞によって内因性に発現されるplk1遺伝子由来のplk1転写物を標的とし、それにより、内因性plk1遺伝子の発現をノックダウンする。しかしながら、前記選択的RNAi誘導化合物は、QIA遺伝子plk1(従って、発現ベクターから得られる回復ポリヌクレオチド/転写物)を標的としない。回復産物は、ノックダウンされた内因性plk1遺伝子の機能を回復することができ、従って、ここで発現ベクターを組み込んだ宿主細胞が選択条件を生存することを可能とする。
【0025】
従って、効率的な選択システムが、発現ベクターを組み込んだ宿主細胞の選択のために提供され、提示された実施態様に従い、目的産物(ここでは遺伝子Xからのポリペプチド)を発現/産生する。QIA遺伝子plk1はRNAi選択可能マーカー遺伝子として機能する。
【図2a】図2は、本発明による方法が、発現ベクターを取り込み、従って、野生型表現型を回復するためのレスキュー遺伝子を発現する宿主細胞を選択するためのRNAiレスキュー実験において使用された場合の実施態様を示す。提示された実施態様により、2つの異なるRNAi誘導化合物が使用される。1つのRNAi誘導化合物(実験的RNAi誘導化合物)は、宿主細胞によって発現される目的の標的遺伝子(ここでは、遺伝子Xと呼ばれる)を標的とする。導入された実験的RNAi誘導化合物(ここでは、siRNA)は、遺伝子Xの転写物の3’UTRを標的とし、それによりその発現を低下させる。それぞれのノックダウンは、観察され/解析され得る表現型を誘導する。観察される表現型が内因性に発現される標的遺伝子のノックダウン起因性であり、オフターゲット効果に起因するものではないことを確実にするため、コントロールとして通常並行して実施される、示されたRNAiレスキュー実験は、レスキューポリヌクレオチドQIA遺伝子Xを含むレスキュー発現ベクターを導入することによって、各表現型を回復することを目的とする。図2aにおいて、宿主細胞はレスキュー発現ベクターを組み込まず、従って、回復された表現型の測定を可能とするために好適ではない。選択的RNAi誘導化合物(ここでもsiNRA)が、宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子(ここではplk1)をノックダウンするように、選択条件下において、レスキュー発現ベクターを組み込まなかった宿主細胞は死滅し、従って、排除される。また、各siRNAはplk1の3’UTRを標的とする。
【図2b】図2は、本発明による方法が、発現ベクターを取り込み、従って、野生型表現型を回復するためのレスキュー遺伝子を発現する宿主細胞を選択するためのRNAiレスキュー実験において使用された場合の実施態様を示す。提示された実施態様により、2つの異なるRNAi誘導化合物が使用される。1つのRNAi誘導化合物(実験的RNAi誘導化合物)は、宿主細胞によって発現される目的の標的遺伝子(ここでは、遺伝子Xと呼ばれる)を標的とする。導入された実験的RNAi誘導化合物(ここでは、siRNA)は、遺伝子Xの転写物の3’UTRを標的とし、それによりその発現を低下させる。それぞれのノックダウンは、観察され/解析され得る表現型を誘導する。観察される表現型が内因性に発現される標的遺伝子のノックダウン起因性であり、オフターゲット効果に起因するものではないことを確実にするため、コントロールとして通常並行して実施される、示されたRNAiレスキュー実験は、レスキューポリヌクレオチドQIA遺伝子Xを含むレスキュー発現ベクターを導入することによって、各表現型を回復することを目的とする。図2bにおいて、宿主細胞は成功裏にレスキュー発現ベクターを取り込み、さらに示される実施例において核内に組み込んだ。さらに、レスキュー発現ベクターは、細胞の生存に必須の遺伝子(ここではplk1)の産物に対応する、および/または機能的変異体もしくは機能的等価物である産物をコードする回復ポリヌクレオチドを含む。各回復ポリヌクレオチドは、QIA遺伝子plk1と呼ばれる。RNAi選択可能マーカー遺伝子としてのQIA遺伝子plk1の発現は、宿主細胞が、内因性plk1遺伝子の発現を標的とする選択的RNAi誘導化合物が使用される選択的成長条件(上記参照)を生存することを可能とする。さらに、レスキュー発現ベクターは、評価のもと、実験的RNAi誘導化合物によって攻撃される標的遺伝子によってコードされる産物に対応する、および/または機能的変異体もしくは機能的等価物である産物をコードするQIA遺伝子Xを含む。各目的のレスキューポリヌクレオチドは、発現ベクターから発現され、従って、ノックダウンされた内因性に発現する標的遺伝子Xの発現の補償を回復することができる。それにより、内因性に発現される遺伝子Xのノックダウンは発現ベクターの取り込みによって回復され、それぞれの成功したRNAiレスキュー実験において、目的Xの遺伝子を標的とするために使用されたRNAi誘導化合物が、各標的遺伝子に特異的であるかどうかが解析され得る。本来の表現型が得られた場合、この通りである。発現ベクターの取り込みによってそれぞれの野生型表現型が回復出来なかった場合、これは、使用されたRNAi誘導化合物がオフターゲット効果を誘導し、遺伝子発現のノックダウンに際し観察される実験的表現型が各遺伝子のノックダウンに特異的に起因し得るものではないことの指標である。
【0026】
それにより、非常に価値のある、好適なRNAiレスキュー実験/コントロールが本発明の教示によって提供される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
本発明の1つの側面によれば、導入された発現ベクターを含む宿主細胞を選択する方法が提供され、前記方法は少なくとも以下の工程を含む:
a)宿主細胞集団を提供すること(ここで、前記宿主細胞は内因性に少なくとも1種の細胞の生存に必須の遺伝子を発現する);
b)前記宿主細胞に発現ベクターを導入すること(ここで、前記発現ベクターは、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子によってコードされる産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子によってコードされる産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子によってコードされる産物の機能的等価物である産物をコードする、少なくとも1種の組換えポリヌクレオチドを含む)
c)前記宿主細胞を選択条件下で培養すること(ここで、該選択条件は、少なくとも、該宿主細胞への少なくとも1種のRNAi誘導化合物の導入を含み、ここで、該RNAi導入化合物は、少なくとも、該宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子を標的とする)。
【0028】
本発明による「発現ベクター」は、特に、少なくとも1つの組換えポリヌクレオチドを運ぶことが可能なポリヌクレオチドを指す。ベクターは、宿主細胞にポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを送達する、分子キャリアのように機能する。それは、そこに取り込まれるポリヌクレオチドを正しく発現するための調節配列を含む、少なくとも1つの発現カセットを含んでもよい。細胞に導入される(例えば、目的産物または選択可能マーカーをコードする)ポリヌクレオチドは、そこから発現されるように、ベクターの発現カセットに挿入されてもよい。本発明によるベクターは、環状または鎖状(鎖状化)形態で存在してもよく、用語「ベクター」はベクターフラグメントならびに、人工染色体または外来核酸フラグメントの輸送を可能とする同様の各ポリヌクレオチドも含む。
【0029】
「ポリヌクレオチド」は、特に、通常1つのデオキシリボースまたはリボースから他に連結されたヌクレオチドのポリマーを指し、その内容によって、DNAと同様RNAを指す。用語「ポリヌクレオチド」は、いかなるサイズ制限も含まず、改変、特に改変されたヌクレオチドを含むポリヌクレオチドをも包含する。
【0030】
「組換えポリヌクレオチド」は、特に、例えば、形質移入および/または形質転換等の組換え技術の使用により宿主細胞に導入されたまたは導入されることが意図されるポリヌクレオチドを指す。用語「形質移入」および「形質転換」は、本明細書において同義に用いられる。実施態様によって、宿主細胞は、組換えポリヌクレオチドに対応する内因性ポリヌクレオチド、組換えポリヌクレオチドとそれぞれ同一の内因性ポリヌクレオチドを含んでもよく、含まなくてもよい。導入は、例えば、宿主細胞のゲノムに組み込まれ得る好適なベクターを形質移入することにより(安定的形質移入)達成されてもよい。宿主細胞へのポリヌクレオチドの導入を可能とする好適なベクターは、以下に詳細に記載され、また、先行技術において公知である。導入されたポリヌクレオチドがゲノムに挿入されない場合、それは一過性の形質移入とも呼ばれる。一過性の形質移入が行われた場合、導入されたポリヌクレオチドは、後の段階(例えば、細胞が有糸分裂を経る際)に失われ得る。しかしながら、好適なベクターは、また、例えばエピソーム複製によって、ゲノムに取り込まれることなく宿主細胞に維持され得る。また、他の技術が、宿主細胞にポリヌクレオチドを導入するために先行技術において公知であり、また、それらのいくつかは以下にさらに詳細に記載される。
【0031】
「細胞の生存に必須の遺伝子」は、特に、細胞の必須のプロセスに関与し、特に、細胞代謝に関与する遺伝子を指す。細胞の生存に必須の遺伝子は、特に、少なくとも特定の培養/成長条件下における細胞生存率の適切な維持に必須の、それぞれ関連のある遺伝子である。特に、前記用語は、細胞周期、アポトーシス、細胞分裂、DNA転写、複製および修復または細胞分化および発生に関与する遺伝子を包含するが、これらに限定されない。RNAiによる細胞の生存に必須の各遺伝子の下方制御、サイレンシングはそれぞれ、細胞死(特にアポトーシス)を誘導し、生起または促進し、および/または細胞成長/細胞増殖を阻害する。それぞれの遺伝子は、前記宿主細胞によって内因性に発現される。また、用語「遺伝子」は、遺伝子の機能的変異体またはフラグメントも包含する。細胞の生存に必須の遺伝子の好適な例は、以下に詳細に記載される。
【0032】
用語「内因性に発現される」は、特に、宿主細胞より発現される遺伝子と、本発明による発現ベクターから発現される遺伝子やポリヌクレオチドとをそれぞれ区別するために使用される。各々の内因性に発現される遺伝子は、好ましくは、前記宿主細胞により天然に発現されるが、多くは、例えばベクターを用いて、組換え技術によって前記宿主細胞に導入されている。内因性に発現する遺伝子の決定的な特徴は、本発明による発現ベクターから発現されないことである。
【0033】
用語「前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子の産物に対応する産物、および/または前記遺伝子の産物の機能的変異体である産物もしくは前記遺伝子の産物の機能的等価物である産物」は、特に、前記遺伝子が本発明の教示に従ってノックダウンされる場合、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子の産物の機能を回復することができる産物を指す。以下、本発明者らは、前記産物を「回復産物」とも呼ぶ。それは、発現ベクターに含まれた組換えポリヌクレオチドによってコードされる。以下、本発明者らは、前記組換えポリヌクレオチドを「回復ポリヌクレオチド」とも呼ぶ。前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子の産物に対応する前記産物、および/または前記遺伝子の産物の機能的変異体である前記産物もしくは前記遺伝子の産物の機能的等価物である前記産物(回復産物)の発現は、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子が標的とされ、従って、選択のために使用されたRNAi誘導化合物によって下方制御される場合、宿主細胞の細胞生存率を回復および/または維持することが可能である。従って、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子の産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の産物の機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチド(回復ポリヌクレオチド)は、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子を標的とするRNAi誘導化合物による選択に対して、宿主細胞を保護する。従って、基本的に、回復ポリヌクレオチドは、首尾よく発現ベクターを取り込んだこれらの細胞を、選択条件に対して保護し、従って発現ベクターを含むそれらの宿主細胞の選択を可能とするRNAi選択可能マーカー遺伝子のように機能する。回復ポリヌクレオチドの例は、細胞の生存に必須の内因性に発現される遺伝子と同一のコーディング配列を含むポリヌクレオチド、異なる種由来の同じかまたは相同性の産物をコードするポリヌクレオチドならびに、前述の機能的変異体および/または等価物(これは、1以上のアミノ酸変異、置換、欠失および/または付加を含む産物をコードするポリヌクレオチドならびに機能的融合産物を包含するがこれらに限定されない)を包含するが、これらに限定されない。決定的な特徴は、前記回復ポリヌクレオチドが、選択の間に前記遺伝子がノックダウンされる場合、細胞の生存に必須の内因性に発現される遺伝子の機能を回復することが可能であることである。
【0034】
用語「選択条件」または「選択的培養条件」は、互換的に、特に、宿主細胞に選択圧が及ぼされる培養条件を指す。発現ベクターを含む宿主細胞が回復ポリヌクレオチドの発現により選択的利点を有するので、選択的培養条件は、本発明による発現ベクターを取り込んだ宿主細胞の生存に役立つ。本発明の教示によれば、選択条件は、少なくとも1種のRNAi誘導化合物の宿主細胞への導入を少なくとも含み、ここで、前記RNAi誘導化合物は、少なくとも前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子を標的とし、それによって宿主細胞に選択圧を及ぼす。
【0035】
本発明は、首尾よく発現ベクターによって形質移入された宿主細胞の選択に好適な新規のRNAiに基づく選択システムに関する。前記宿主細胞は、細胞の生存に必須の遺伝子を内因性に発現する。選択を可能とするため、発現ベクターは、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子の産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の産物の機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチドを含む。前記発現ベクターを取り込んだ宿主細胞は、含まれる回復ポリヌクレオチドにより、適用される選択的培養条件に耐性である。選択のため、少なくとも前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子を標的とする、少なくとも1種のRNAi誘導化合物を、宿主細胞へ導入する。従って、内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子は、導入されたRNAi誘導化合物によってノックダウンされる。首尾よく形質移入された宿主細胞は、前記発現ベクターを含み、従って、回復ポリヌクレオチドを発現し、RNAi誘導化合物によってノックダウンされる、前記内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子の機能を、コードされる産物が引き継ぐことから、選択的培養条件を生き抜くことができる。
【0036】
従って、内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子のRNAi誘導性のノックダウンは、発現ベクターに含まれる回復ポリヌクレオチドによって補償され、それにより、選択的培養条件下で宿主細胞が生存および好ましくは増殖することを可能とする。しかしながら、発現ベクターによって首尾よく形質移入されなかった宿主細胞は、RNAi誘導化合物によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子がノックダウンされるため選択的培養条件下で生存/増殖することができず、それにより、好ましくは形質移入されていない宿主細胞を排除する。従って、前記内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子の産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の産物の機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチドは、基本的に、選択的培養条件下で発現ベクターを組み込んだ宿主細胞の選択を可能とするRNAi選択可能マーカー遺伝子として機能する。従って、発現ベクターを組み込んだ宿主細胞を同定および選択するための新規なRNAiに基づく選択システムは、本発明の教示によって提供される。
【0037】
本発明による選択システムは、例えば、宿主細胞を変化させる特定のリスクを有する抗葉酸剤(antifolate)または抗生物質等の毒性物質を選択に使用しないという、いくつかの利点を有する。選択圧は、内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子を標的とし、従ってノックダウンするRNAi誘導化合物の使用により作り出される。前記ノックダウンは、RNAi誘導化合物が除去される/それ以上宿主細胞へ導入されなければ、直ちに可逆的となる。さらに、本発明による選択システムは、所望であれば野生型宿主細胞の使用も可能とする。
【0038】
1つの実施態様によれば、選択的成長条件を生き抜く少なくとも1種の宿主細胞が選択される。また、さらなる使用のため、選択的成長条件を生き抜く宿主細胞集団を選択することも可能である。さらなる使用は、例えば、例えば、表現型の解析、例えば、RNAiレスキュー実験においておよび/または目的産物を生産するためそれぞれ選択された宿主細胞の使用を包含する。また、数回の選択の繰り返しを行うことも、本発明の範囲内である。
【0039】
「目的産物」は、特に、前記発現ベクターから発現される産物を指す。目的産物は、例えば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド(例えば、RNA等)であってもよい。好ましくは、目的産物は、ポリペプチドである。さらなる例が以下に記載される。
【0040】
好ましくは、発現ベクターを効率的に取り込まなかった宿主細胞は、選択的培養条件を生き抜かず、例えばアポトーシスを受ける。形質移入方法/システムにより、例えば、成功した一過性または安定な形質移入は、少なくとも、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子によってコードされる産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子によってコードされる産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子によってコードされる産物の機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチドが、選択的成長条件を生き抜くために宿主細胞によって十分な収量で発現されることを確実にすることが必要である。これらの基準を満たさない宿主細胞は、好ましくは、選択的成長条件下で死滅する。この実施態様は、首尾よく発現ベクターを取り込んだそれらの宿主細胞のみが成長し、従って培養物中に存在するという利点を有する。従って、例えばRNAiレスキュー実験(上記および下記を参照)を行う場合、および/または目的産物を発現し、従って目的産物を産生する宿主細胞を選択するための選択手技を行う場合、宿主細胞に首尾よく発現ベクターが導入されたかどうかを本発明によるRNAiに基づく選択システムを用いることによって容易に決定され得る。
【0041】
細胞死の誘導は、発現ベクターを取り込まなかった宿主細胞の排除において効率的である。この点について、本発明による選択システムは、抗葉酸剤または抗生物質等の毒性物質の使用に基づく従来の選択システムと類似する。しかしながら、通常、内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子を下方制御するRNAi誘導化合物が培養媒体から除去されるとすぐに正常な細胞機能が回復されるので、RNAi誘導化合物が選択圧を与えるために使用される場合、首尾よく形質移入された宿主細胞の永続的で、不可逆的な損傷のリスクをそれぞれ相当に低減する(上記も参照)。さらに、アポトーシス/細胞死は、例えば、顕微鏡的技術により相当容易に決定される表現型である。特に、接着細胞の場合、死滅しつつある(アポトーシスまたはネクローシス)細胞は、それが集まり、それらが付着していた表面から離れる時に、非常に特徴的なやり方でそれらの形態を変化させる。従って、望ましい場合、宿主細胞が発現ベクターを取り込んだかどうか、容易に視覚的に決定することも可能である。
【0042】
さらに選択圧を増加するため、選択条件は、これもまた前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の2番目の遺伝子(second gene)を標的とする、少なくとも1種のさらなる選択的RNAi誘導化合物の導入を含んでもよい。この実施態様において、発現ベクターは、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記2番目の遺伝子の産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の産物の機能的等価物である産物をコードするさらなる組換えポリヌクレオチドを含む。この実施態様は、細胞の生存に必須の少なくとも2種の遺伝子の標的化により、選択圧が増加され、それにより、非常にストリンジェントな選択条件を提供するという利点を有する。従って、形質移入されていない細胞は、より迅速に殺傷され、それにより選択に要する時間を減少させる。
【0043】
1つの実施態様によれば、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチド(回復ポリヌクレオチド)は、RNAi選択可能マーカー遺伝子である。RNAi選択可能マーカー遺伝子は、特に、宿主細胞に導入されるRNAi誘導化合物に対する耐性を提供し、選択条件下において発現ベクターを取り込んだ宿主細胞の選択を可能とする遺伝子を指す。従って、選択的培養条件下において、前記RNAi選択可能マーカー遺伝子は、本発明による発現ベクターを取り込んだ宿主細胞の細胞の生存を促進する/細胞の生存に役立つ。
【0044】
さらなる実施態様により、発現ベクターは、目的産物をコードするポリヌクレオチドを含む。この実施態様は、本発明によるRNAiに基づく選択システムのいくつかの適用/使用について有利である。例えば、RNAiレスキュー実験を行う場合、目的産物をコードするポリヌクレオチドは、RNAi発現実験において下方制御される内因性に発現される標的遺伝子の機能を回復し得るレスキュー遺伝子であってもよい。RNAiレスキュー実験において、本発明による発現ベクターからの目的産物の発現は、RNAi実験を行うために使用されたRNAi誘導化合物が各標的遺伝子に対して十分特異的である場合、本来の/野生型表現型の回復を目的とする。それにより、RNAi実験を行うために非常に価値のあるコントロールが提供され、細胞の生存に必須の細胞を標的とするRNAiに基づく選択システムにより、レスキューされた/回復された表現型について解析される宿主細胞が各コントロールの実施に必須の発現ベクターを取り込んだことも保証される。従って、本発明による選択方法は、RNAiレスキュー実験に対する改良されたコントロールである。
【0045】
さらなる実施態様によれば、発現ベクターは、例えば、前記目的産物の実験的または産業的産生のため、宿主細胞から発現されると思われる目的産物をコードする組換えポリヌクレオチドを含む。導入部分で記述されたように、目的産物、特にポリペプチドの発現および、特に過剰発現は、いくつかの適用(例えば、科学および/または産業において使用/解析され得るポリペプチド、例えば、治療的ポリペプチドを産生するため)について特有の関心事である。細胞の生存に必須の内因性に発現される遺伝子によってコードされる産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子によってコードされる産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子によってコードされる産物の機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチドをRNAi選択可能マーカー遺伝子として含み、目的産物(例えばポリペプチド)をコードする組換えポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、RNAi機構に基づいて選択され得る、価値のある新規な発現ベクターを提供する。
【0046】
取り込まれたポリヌクレオチドを発現するために使用される発現ベクターは、通常、前記ポリヌクレオチドの転写を駆動するために好適な転写調節エレメントを含有する。各転写調節エレメントは、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写休止シグナルまたは転写終結シグナルを包含するが、これらに限定されない。各エレメントは、しばしば、発現カセットの一部を形成する。所望の産物がポリペプチドである場合、好適な転写調節エレメントは、好ましくは、例えば、リボソームを補充する(recruiting)ために好適な5’キャップ構造へ導く5’非翻訳領域および翻訳プロセスを終結させる停止コドン等を包含する。また、取り込まれたポリヌクレオチドの発現の正しい駆動が可能な機能的発現単位も、本明細書において「発現カセット」と呼ばれる。発現ベクターの組換えポリヌクレオチド(複数可)は、好ましくは、発現カセットに含まれる。いくつかの実施態様は、例えば、好適な、異なる発現カセットに含まれ得る各ポリヌクレオチドである。しかしながら、少なくとも2種の各ポリヌクレオチドが1つの発現カセットに含まれることも、本発明の範囲内である。従って、本発明は、モノシストロニックのみならず、バイシストロニックな実施態様も含む。
【0047】
本発明による発現ベクターは、発現カセットのエレメントとして少なくとも1つのプロモーターおよび/またはエンハンサーエレメントを含んでもよい。これら2つのコントロールエレメントの間の物理的な境界は常に明確ではないが、用語「プロモーター」は、通常、RNAポリメラーゼおよび/または関連する因子が結合し、転写が開始される核酸分子の部位を指す。エンハンサーは、一時的にプロモーター活性を増強するとともに空間的(spatially)に増強する。多くのプロモーターが広範囲の細胞タイプにおいて転写的に活性である。プロモーターは、構成的に機能し、誘導または抑制解除によって調節される2つのクラスに分割され得る。哺乳類細胞においてポリペプチドの産生のために使用されるプロモーターは、強力であるべきであり、好ましくは広範囲の細胞タイプにおいて活性であるべきである。回復ポリヌクレオチドが選択の間のみ発現される場合、選択的成長条件下で誘導され、従って活性な誘導性プロモーターを使用することが好ましい。
【0048】
多くの細胞タイプにおいて発現を駆動する強力な構成的プロモーターは、アデノウイルス主要後期プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーター、β−アクチンプロモーター、SV40およびラウス肉腫ウイルスプロモーター、ならびに、マウス3−ホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター、EF1aを包含するが、これらに限定されない。プロモーターおよび/またはエンハンサーがCMV、β−アクチンおよび/またはSV40のいずれかから得られる場合、本発明の発現ベクターによって良好な結果が達成される。転写プロモーターは、SV40プロモーター、CMVプロモーター、EF1アルファプロモーター、RSVプロモーター、BROAD3プロモーター、マウスrosa26プロモーター、pCEFLプロモーターおよびβ−アクチンプロモーターからなる群より選択され得る。
【0049】
1つの実施態様により、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子によってコードされる産物に対応する、および/または機能的変異体もしくは機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチド、目的産物をコードするポリヌクレオチド、および/または前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の2番目の遺伝子によってコードされる産物に対応する、および/または機能的変異体もしくは機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチドは、同一の転写プロモーターの制御下にある。好適なプロモーターは上記に記載される。この実施態様において、前記転写プロモーターの制御下にある各発現カセットから1つの長い転写物が得られる。1つの実施態様によれば、少なくとも1つのIRES因子が機能的に組換えポリヌクレオチド間に配置される。それにより、別々の翻訳産物が、前記転写物から得られることを保証する。しかしながら、好ましくは、個々のポリヌクレオチドが、別々の発現カセットから発現される。
【0050】
さらに、発現ベクターは、発現カセットのエレメントとして適切な転写終結部位を含んでもよい。これは、第2の転写単位を介する上流プロモーターからの継続される転写のように、プロモーター閉塞または転写干渉として知られる現象である、下流のプロモーターの機能を阻害する可能性がある。この事象は、原核生物および真核生物の両方において記載されている。2つの転写単位/発現カセット間の転写終結シグナルのふさわしい配置が、プロモーター閉塞を防ぐことができる。転写終結部位は、よく特徴づけられ、それらの発現ベクター中への取り込みは、遺伝子発現に対する複数の有利な効果を有することが示されてきた。
【0051】
真核生物の最も初期のmRNAは、一次転写産物の開裂に関与する複雑なプロセスおよび共役した(coupled)ポリアデニル化反応の間に付加される3’末端のポリAテイルを有する。ポリAテイルは、mRNAの安定性および転写性(transferability)に関して有利である。それゆえに、本発明によるベクターの発現カセットは、通常、ポリアデニル化部位を含む。哺乳類発現ベクターにおいて使用され得るいくつかの効率的なポリAシグナルが存在し、ウシ成長ホルモン(bgh)、マウスベータグロビン、SV40初期転写単位および単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子由来のものを包含する。しかしながら、合成ポリアデニル化部位も公知である。ポリアデニル化部位は、SV40後期および初期ポリA部位等のSV40ポリA部位(例えば、Subramaniら,1981,Mol.Cell.Biol.854−864に記載のプラスミドpSV2−DHFRを参照)、合成ポリA部位およびbghポリA部位(ウシ成長ホルモン)からなる群より選択され得る。
【0052】
さらに、(例えば、目的産物または回復ポリヌクレオチドをコードする)組換えポリヌクレオチドを含む発現カセットは、少なくとも1つのイントロンを含んでもよい。この実施態様は、真核生物、特に哺乳類宿主細胞が目的産物の発現に使用される場合、特に好適である。より高等な真核生物由来のほとんどの遺伝子は、RNAプロセッシングの間に除去されるイントロンを含有する。各コンストラクトは、イントロンを欠く同一のコンストラクトよりも、トランスジェニックシステムにおいてより効率的に発現される。通常、イントロンはオープンリーディングフレームの5’末端に位置されるが、3’末端に位置されてもよい。従って、イントロンは、発現率を高めるために発現カセット(複数可)に含まれてもよい。前記イントロンは、プロモーターおよびまたはプロモーター/エンハンサーエレメント(複数可)と、発現されるポリヌクレオチドのオープンリーディングフレームの5’末端との間に位置されてもよい。いくつかの好適なイントロンは、本発明と併せて使用され得ることが当該技術において公知である。
【0053】
発現ベクターが培養媒体から採取されると思われる目的産物の発現に使用される場合、発現カセットは、発現された目的産物を培養媒体へ誘導する分泌リーダー配列を含んでもよい。いくつかの好適なリーダー配列が先行技術において公知である。
【0054】
原核生物および/または真核生物中の発現ベクターの複製を可能とするため、発現ベクターは、適切な複製起点(複数可)を含んでもよい。
【0055】
さらに、本発明による発現ベクターは、1以上の追加の選択可能マーカーをコードする1以上のさらなるポリヌクレオチドをさらに含んでもよい。本発明の1つの実施態様において、1以上の異なる選択システムと共に本発明のシステムを利用する共選択(co−selection)(例えば、neo/G418もしくはDHFR/抗葉酸剤またはグルタミン合成酵素システム)を、さらに性能を向上するために適用することができる。追加の選択可能マーカーは、「真核生物選択可能マーカー」であってもよく、従って、特に、適切な選択条件下で真核生物の宿主細胞の選択を可能にする選択可能マーカーであってもよく、すなわち、前記マーカーは、抗生物質によって選択可能であってもよい。また、前記真核生物選択可能マーカーは、増幅可能マーカーであってもよい。好適なシステムは、先行技術において公知である。また、さらなる真核生物選択可能マーカーの他に、原核生物選択可能マーカーを使用することも可能である。「原核生物選択可能マーカー」は、適切な選択条件下で原核生物の宿主細胞の選択を可能とする選択可能マーカーである。各原核生物選択可能マーカーの例は、例えば、アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリンおよび/またはクロラムフェニコール等の抗生物質に対する耐性を提供するマーカーであり、また先行技術において公知である。
【0056】
本発明による発現ベクターは、その環状または鎖状(鎖状化)形態で宿主細胞へ形質移入され得る。
【0057】
上述のように、RNAi誘導化合物は、形質移入された宿主細胞に選択圧を与えるために使用される(本明細書において、「選択的RNAi誘導化合物」とも呼ばれる)。選択的培養条件に対して使用されるRNAi誘導化合物は、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子を標的とする。上述のように、好ましくは宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の異なる遺伝子を標的とする、少なくとも2以上のRNAi誘導化合物を使用することも可能である。異なる必須遺伝子を標的とすることにより、選択圧は相当高められる。上述のように、発現ベクターはその後、2種の対応する回復ポリヌクレオチドを含む。さらに、同一の必須遺伝子を標的とするが、例えば、前記遺伝子のノックダウンを効率的に誘導するために異なる標的部位を使用する、少なくとも2種の異なるRNAi誘導化合物が使用されることも可能である。
【0058】
好ましくは、選択に使用されるRNAi誘導化合物は、発現ベクターに含まれた対応する回復ポリヌクレオチドの転写物を標的としない。この好ましい実施態様によれば、選択圧を与えるために使用される各RNAi誘導化合物は、宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子を標的とするのみで、発現ベクターに含まれる対応する回復遺伝子を標的としない。それゆえに、好ましい実施態様によれば、回復ポリヌクレオチドは、選択に使用されるRNAi誘導化合物に耐性であり、従って、前記化合物によって標的とされない。そのような選択的標的プロファイルを得るいくつかの方法が存在する。1つの実施態様によれば、回復ポリヌクレオチドの対応する標的配列においてミスマッチが提供され、回復ポリヌクレオチドを選択的RNAi誘導化合物に対して不応とする。好適な方法は、先行技術において公知である(導入部分も参照してください)。
【0059】
さらに、細胞の生存に必須の前記遺伝子の機能的等価物(例えば、異なる種由来)を、選択的RNAi誘導化合物による回復ポリヌクレオチドの発現のノックダウンを可能とする内因性に発現される遺伝子の標的配列において十分な相同性を示さない回復ポリヌクレオチドとして使用することができる。
【0060】
さらなる実施態様によれば、選択のために使用される前記RNAi誘導化合物は、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子の発現産物の非翻訳領域(UTR)、好ましくは転写物の3’UTRを標的とする。内因性に発現される遺伝子の選択的な標的化を可能とするため、前記RNAi誘導化合物は前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子の非翻訳領域を標的としてもよい。好ましくは、前記非翻訳領域は、対応する回復ポリヌクレオチド(従って、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチド)には存在しない。それにより、回復ポリヌクレオチドは不応になり、従って、選択条件に対して耐性となる。各設定は、発現ベクターを適切に設計することにより容易に達成され得る。
【0061】
本発明の教示に従って使用され得るRNAi誘導化合物の例は、低分子干渉核酸(siNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)および低分子ヘアピンRNA(shRNA)ならびに、細胞において実際のRNAi誘導化合物へと加工されるそれらの前駆体を包含するが、これらに限定されない。好ましくは、前記化合物はsiRNAである。siRNAのように、前記化合物は、好ましくは3’オーバーハングを各鎖に有する二本鎖分子である。前記siRNA化合物は、デオキシ(desoxy-)リボヌクレオチドならびにリボヌクレオチドを含んでもよく、さらに、改変されたヌクレオチドを含んでもよい。siRNA化合物のいくつかの実施態様およびバリエーションが先行技術において公知であり、本発明と併せて使用され得る。前記siRNAの長さは、通常、18〜35ntの間、好ましくは19〜27ntの間である。各末端上に3’オーバーハングが存在する場合、好ましくは2nt長であるが、平滑末端分子もまた使用されてもよい。サイレンシングを効率的に誘導するため、siRNA誘導化合物として使用されるsiRNAは、RNA干渉によって前記標的転写物の発現を阻害するために、標的遺伝子転写物の一部に実質的に相補的である。標的遺伝子のRNAレベルで選択/同定された標的配列を標的とする好適なsiRNAは、特定の設計アルゴリズムを適用するふさわしい計算法(computational method)を用いて同定され得る。いくつかの方法が公知であり、好適なsiRNAを提供するために本発明と併せて使用され得る。
【0062】
標的転写物に対する上記構造のsiRNAを得るため、二本鎖分子を直接細胞に形質移入することができる。あるいは、この構造は、長いdsRNAまたは低分子ヘアピンRNA(shRNA)のいずれかをsiRNAへと変換する酵素であるダイサーによって加工されることにより結果として生じ得る(上記を参照)。これらの前駆体または最終siRNA分子は、外因性(人工的)に産生され、その後、アポトーシスに関与する標的遺伝子の特異的ノックダウンを解析するため、様々な形質移入方法によって解析される細胞へと導入され得る。
【0063】
さらなる実施態様によれば、RNAi誘導化合物はベクターによって発現される。この実施態様は、例えば、外因性siRNAの形質移入が時に問題がある可能性があり、特に迅速に分裂している細胞において、遺伝子ノックダウン効果が一時的のみであることから、有利である。この課題を解消する1つの方法は、RNAi誘導化合物を、例えばプラスミドのような適切なベクターによって発現されることを可能とするような方法で改変することである。siRNAについて、これは、2本鎖間へのループの導入により行われ、従って、その後細胞で機能的siRNAへと加工され得る単一の転写物を産生する。そのような転写カセットは、典型的には、通常低分子核RNA(shRNA)の転写を導くRNAポリメラーゼ3プロモーター(例えば、U6またはH1)を使用する(U6は遺伝子の配置(gene’s placing)に関与する;H1はヒトRNAse pのRNAサブコンポーネントである)。ベクターから結果として生じるshRNA転写物は、その後ダイサーによって加工され、それにより、好ましくは特徴的な3’オーバーハングを有する二本鎖siRNA分子を産生すると推測される。
【0064】
宿主細胞は、RNA干渉に感受性の細胞であり、従って、好ましくは真核生物の宿主細胞である。前記真核生物細胞は、好ましくは、哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞および菌類細胞からなる群より選択される。好ましくは、宿主細胞は昆虫細胞または哺乳類細胞である。哺乳類細胞は、好ましくは、げっ歯類細胞、ヒト細胞又はサル細胞等の霊長類細胞からなる群より選択される。特に好ましくはげっ歯類細胞であり、好ましくは、CHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、マウス3T3線維芽細胞、およびSP2/0細胞からなる群より選択される。また、ヒト細胞が好ましく、好ましくは、HEK293細胞、MCF−7細胞、PerC6細胞、およびHeLa細胞からなる群より選択される。さらに好ましくはサル細胞であり、好ましくは、COS−1、COS−7細胞およびVero細胞からなる群より選択される。
【0065】
ポリヌクレオチド、従って発現ベクターを宿主細胞へ導入すること関し、先行技術において公知のいくつかの適切な方法が存在する。各方法は、リン酸カルシウム形質移入、エレクトロポレーション、リポフェクション、カチオン性脂質、遺伝子銃およびポリマーを介した輸送等の形質移入試薬の使用を包含するが、これらに限定されない。安定な形質移入の場合、伝統的なランダムな組込みに基づく方法の他に、組換えを介するアプローチもまた、宿主細胞ゲノムへ発現ベクターを輸送するために使用され得る。そのような組換え方法は、導入遺伝子の指示された挿入を介することが可能である、Cre、FlpまたはFC31のような部位特異的リコンビナーゼ(例えば、Oumardら,Cytotechnology(2006)50:93−108を参照)の使用を包含してもよい。あるいは、相同組換えのメカニズムを、前記ポリヌクレオチドを挿入するために使用してもよい(Sorrellら,Biotechnology Advances 23(2005)431−469において総説される)。組換えに基づく遺伝子挿入は、宿主細胞へ輸送/導入される異種性の核酸に包含される要素の数を最小にすることを可能とする。本発明による好適な発現ベクターの実施態様または発現ベクターの組み合わせは、好適な宿主と共に、上記に詳細に記載され、すなわち、本発明者らは、上記開示を参照する。さらに、安定な形質移入システムの他に、特に、RNAi実験用のコントロールとして本選択システムを使用する場合、一過性の発現システムを使用することもできる。
【0066】
また、RNAi誘導化合物(複数可)は、各方法によって宿主細胞へ導入され得る。RNAi誘導化合物(複数可)および発現ベクターの導入を並行して行うことができ、従って、同時または連続して行うこともできる。また、それらは、混合物の形態でも形質移入され得る。
【0067】
1つの実施態様によれば、宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子のノックダウンは、細胞死、特にアポトーシスを誘導または促進する。上述のように、アポトーシスの表現型は、形質移入されていない細胞が細胞集団から効率的に排除されるという利点を有し、さらに、アポトーシスの表現型は、宿主細胞の変化した形態によって容易に視覚的に決定され得る。それぞれのアポトーシスの表現型を迅速に得るためおよび/または細胞死を効率的に誘導するため、上記のような宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の少なくとも2種の遺伝子を標的とする少なくとも複数の選択ストラテジーを使用することは、本発明の範囲内である。
【0068】
さらなる実施態様によれば、細胞の生存に必須の遺伝子のノックダウンは、細胞周期を妨げ、それにより、形質移入されていない宿主細胞の成長を阻害する。
【0069】
好ましい実施態様によれば、細胞の生存に必須の遺伝子は、以下の群より選択される:
【0070】
【表1】

ユビキチンは、全ての真核生物細胞に生じる低分子のタンパク質である。それは、標的タンパク質の広範囲への連結により無数の機能を果たす。様々な異なる修飾を生じることができる。ユビキチンタンパク質は、真核生物種間で高度に保存されている。タンパク質は、一連の工程によってユビキチンで標識(ユビキチン化(ubiquitylation)またはユビキチン化(ubiquitination))される。単一のユビキチン部分のタンパク質基質への付加(モノユビキチン化)に続き、さらなるユビキチン分子が、その最初のもの(the first)へ付加され、ポリユビキチン鎖を生じる。ユビキチン化システムは、アポトーシス、細胞周期および分裂、DNA転写および修復、ならびに分化および発生を包含する、多様な中心的細胞プロセスにおいて機能する。ユビキチン遺伝子、特にユビキチンBのノックダウンは、宿主細胞におけるアポトーシスを誘導する。
【0071】
ユビキチンに関する好ましい標的配列は、以下の標的配列を包含するが、これらに限定されない。
【0072】
【表2】


対応するmRNA転写物に結合するsiNA等の適切なRNAi誘導化合物は、先行技術において周知であって、十分に確立されている方法に従って選択された標的配列に基づいて設計され得る。RNAi誘導化合物による対応する転写物の標的化は、効率的な遺伝子サイレンシングを結果として生じる。記載された標的配列は、内因性に発現される遺伝子の転写物の3’UTRに位置される。
【0073】
中心的な代謝経路に関与する遺伝子のさらなる例は、plk1遺伝子(ポロキナーゼ1)である。plk1は、ATPとタンパク質のADPとリンタンパク質への化学反応を触媒する酵素である。従って、この酵素の2つの基質はATPおよびタンパク質である一方、その2つの産物はADPおよびリンタンパク質である。この酵素は、トランスフェラーゼファミリー、具体的には、タンパク質中のセリンまたはトレオンニン残基の側鎖酸素原子へリン酸基を輸送するもの(タンパク質−セリン/トレオニンキナーゼ)に属する。この酵素は、特に、いくつかの代謝経路(その下で、細胞周期)に関与する。また、plk1遺伝子のノックダウンも、宿主細胞におけるアポトーシスを誘導する。
【0074】
細胞の生存に必須の異なる遺伝子を標的とするRNAi誘導化合物の組み合わせが選択のために使用される場合、前記RNAi誘導化合物は、(例えば、(2つのRNAi誘導化合物が使用される場合)両方のRNAi誘導化合物を含む形質移入組成物を使用することにより細胞へ同時に形質移入されてもよく、または細胞へRNAi誘導化合物を連続的に導入することによって細胞へ形質移入され得る。また、RNAi実験において、異なる遺伝子(例えば評価中の標的遺伝子)を標的とするさらなるRNAi誘導化合物を使用することも、本発明の範囲内である(下記を参照)。また、それぞれの実験的RNAi誘導化合物も、発現ベクターを取り込んだ宿主細胞を選択するために使用されるRNAi誘導化合物と共にまたは別々に形質移入され得る。また、上述のように、本発明による発現ベクターは、RNAi誘導化合物(複数可)と共に同時形質移入され得る。
【0075】
選択に使用されるRNAi誘導化合物またはRNAi誘導化合物の組み合わせによって誘導されるアポトーシス/細胞死の程度は、好ましくは10%〜100%、25%〜100%、50%〜100%または75%〜100%の間である。
【0076】
1つの実施態様によれば、選択に使用されるRNAi誘導化合物および/またはそのそれぞれの組み合わせは、少なくとも5nM、少なくとも10nM、少なくとも25nMおよび少なくとも50nMからなる群より選択される濃度で形質移入のため効率的に使用され得る。
【0077】
本発明による選択方法は、導入された発現ベクターを含む少なくとも1種の宿主細胞を選択する工程を付加的に含んでもよい。
【0078】
本発明の選択手法の結果得られた細胞は、一般的に、単離され、本来の細胞集団の非選択細胞から富化されてもよい。それらは、個別の細胞として単離され、培養することができる。また、それらを、1以上の追加の繰り返しの選択(round of selection)において使用でき、必要に応じて、追加の定性的もしくは定量的解析に使用でき、または例えば、タンパク質産生のための細胞株の開発において使用することができる。1つの実施態様によれば、上述のように選択された産生宿主細胞の富化集団は、良好な収率を伴う目的のポリペプチドの産生用集団として直接に使用される。
【0079】
また、本発明の教示に従って選択された宿主細胞を、目的産物の発現を可能とする条件下で培養することを含む、目的産物を産生するための方法が提供される。
【0080】
目的産物(特に、ポリペプチド)を産生するために本発明に従って選択された宿主細胞を使用することは、効率的でストリンジェントな選択システムも提供されるので良好な収率で目的産物を産生することができるという利点を有する。従って、本発明は、本発明によるRNAiに基づくアプローチを使用することにより、選択手法が原因で宿主細胞を変化させまたは損傷させるリスクが低減されるように改良された目的産物の産生方法をも提供する。好適な宿主細胞および選択手法および発現ベクターの詳細は、上述の通りであり、本発明者らは上記開示を参照する。
【0081】
発現された目的産物は、宿主細胞を破壊することによって得られてもよい。また、ポリペプチドも発現され、例えば、培養媒体に分泌されて、そこから得ることができる。また、それぞれの方法の組み合わせも可能である。それにより、産物、特にポリペプチドを産生することができ、高収率で効率的に得る/単離することができる。また、得られた産物は、例えば、所望の品質で目的産物を生産するため、精製および/または改変工程等のさらなる処理工程に供されてもよい。
【0082】
目的産物を産生する方法は、以下の少なくとも1つの工程を含む:
―目的産物を前記細胞培養媒体からおよび/または前記宿主細胞から単離すること;および/または
―単離された目的産物を処理すること。
【0083】
本発明により産生された目的産物(例えば、ポリペプチド)は、当該分野において公知の方法により回復され、さらに精製され、単離されおよび/または改変されてもよい。例えば、産物は、遠心分離、濾過、限外濾過、抽出または沈殿を包含するがこれらに限定されない従来の手法によって栄養媒体から回復されてもよい。精製は、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、疎水性、クロマトフォーカシングおよびサイズ排除)、電気泳動的手法(例えば、分取用等電点電気泳動)、溶解度差(differential solubility)(例えば、硫酸アンモニウム沈殿)または抽出を包含するが、これらに限定されない当該分野において公知の多様な手法により行われてもよい。
【0084】
目的産物は、前記ポリヌクレオチドによってコードされる遺伝的情報の転写、翻訳または他のあらゆる発現の事象によって産生されることが可能なあらゆる生物学的産物であり得る。この点で、産物は、発現産物である。目的産物は、ポリペプチド、核酸、特にRNAからなる群より選択されてもよい。産物は、薬学的もしくは治療的に活性な化合物、またはアッセイ等に利用される研究手段であってもよい。特に好ましい実施態様において、産物はポリペプチド、好ましくは薬学的もしくは治療的に活性なポリペプチド、または診断もしくは他のアッセイ等に利用される研究手段である。ポリペプチドは、従って、いかなる特定のタンパク質またはタンパク質群にも限定されないが、これに反して、本明細書に記載される方法によって選択および/または発現することを所望する、あらゆるサイズ、機能もしくは起源のあらゆるタンパク質であってもよい。従って、いくつかの異なる目的のポリペプチドが発現/産生されてもよい。用語ポリペプチドは、ペプチド結合(複数可)によって互いに連結されたアミノ酸のポリマーを含む分子を指す。ポリペプチドは、タンパク質(例えば、50個より多いアミノ酸を有する)およびペプチド(例えば、2〜49個アミノ酸を有する)を包含する、あらゆる長さのポリペプチドを包含する。ポリペプチドは、例えば、酵素タンパク質もしくはペプチド(例えば、プロテアーゼ、キナーゼ、フォスファターゼ)、受容体タンパク質もしくはペプチド、輸送タンパク質もしくはペプチド、殺菌性タンパク質および/またはエンドトキシン結合タンパク質、構造タンパク質もしくはペプチド、免疫ポリペプチド、トキシン、抗生物質、ホルモン、成長因子、ワクチン等のような生物活性ポリペプチドを包含する、あらゆる活性もしくは生物活性のタンパク質および/またはペプチドを包含する。前記ポリペプチドは、ペプチドホルモン、インターロイキン、組織プラスミノーゲンアクチベーター、サイトカイン、免疫グロブリン、特に抗体もしくは機能的抗体フラグメントまたはそれらの変異体からなる群より選択されてもよい。最も好ましい実施態様において、ポリペプチドは、免疫グロブリン分子もしくは抗体、またはそれらの機能的変異体(例えば、キメラ)、または一部もしくは全部がヒト化された抗体である。そのような抗体は、診断用抗体、または薬学的もしくは治療的に活性な抗体であり得る。
【0085】
また、上記および特許請求の範囲に定義されるような本発明による方法によって得られた産物が提供される。前記産物は、好ましくはポリペプチドである。
【0086】
また、以下の工程を含むRNAi実験を行う方法が提供される:
a)細胞の生存に必須の遺伝子を内因性に発現する宿主細胞へ発現ベクターを導入すること(ここで、前記発現ベクターが、少なくとも以下を含む)。
i)前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子の産物に対応する、および/または機能的変異体もしくは機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチド;
ii)前記宿主細胞によって発現される目的の標的遺伝子の産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の産物の変異体である産物もしくは該遺伝子の産物の等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチド;
b)前記宿主細胞によって発現される目的の前記標的遺伝子の発現を標的とする、RNAi誘導化合物を該宿主細胞へ導入すること;
c)選択条件下で前記宿主細胞を培養すること(ここで、該選択条件が、少なくとも1種のRNAi誘導化合物の導入を少なくとも含み、ここで、該RNAi誘導化合物が、少なくとも、該宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子を標的とする)。
【0087】
記載されたRNAi実験は、RNAi分析についての価値のあるコントロールを提供する。基本的に、RNAiレスキュー実験が行われる。コントロールの宿主細胞(RNAiレスキュー実験)がレスキュー実験のために使用される発現ベクターを取り込み、従って信頼性のある結果を提供し得ることを保証するため、基本的に、本発明による選択処理が行われる。この実施態様の教示に従い、発現ベクターは、少なくとも発現ベクターを取り込んだ宿主細胞を選択するために使用される組換えポリヌクレオチド(すなわち、回復ポリヌクレオチド)を含む。前記回復ポリヌクレオチドは、宿主細胞によって発現される、細胞の生存に必須の遺伝子に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の機能的等価物である産物をコードする。上述のように、細胞の生存に必須の前記遺伝子を標的とする選択的RNAi誘導化合物を用いる選択的培養条件下における、回復ポリヌクレオチドの発現は、発現ベクターを組み込んだ宿主細胞が選択的培養条件下で生存することを可能とする。発現ベクターを組み込まなかった宿主細胞は、選択条件下で死滅する(上記を参照)。
【0088】
さらに、発現ベクターは、宿主細胞によっても発現される目的の標的遺伝子に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチドを含む。このポリヌクレオチドは、目的のポリヌクレオチドの1例であり、また、本明細書において、レスキューポリヌクレオチドとも呼ばれる。RNAi実験の間、例えば、ノックダウンの結果得られた宿主細胞の表現型を解析することにより、標的遺伝子の役割/機能を解析するため、siRNA等の実験的RNAi誘導化合物の使用によって、標的遺伝子がノックダウンされる。目的の標的遺伝子に対して使用された実験的RNAi誘導化合物の特異性を解析するため、実験的RNAi誘導化合物によって標的とされた目的の前記遺伝子に対応する、および/または機能的変異体もしくは機能的等価物である産物をコードする前記組換えレスキューポリヌクレオチドを導入することによって、本来の表現型が回復され得るかどうかを解析することが重要である。また、前記レスキューポリヌクレオチドは、本発明の教示による発現ベクターに含まれる。目的の遺伝子を標的とするために使用される実験的RNAi誘導化合物と同様、選択のために使用されるRNAi誘導化合物の適用により、観察されるレスキューされた表現型が、発現ベクターを、そして従って、RNAi実験において解析される目的の標的遺伝子に対する回復産物をコードする組換えポリヌクレオチドを取り込んだ宿主細胞に帰せられる、ことを確実にする、信頼性のあるRNAiレスキュー実験を行うことが可能である。
【0089】
従って、本発明の教示により価値のあるコントロールが提供される。
【0090】
少なくとも2つまたは全ての工程a、bおよびcは、並行してまたは連続的に行われてもよい。また、発現ベクターおよび/またはRNAi誘導化合物は、混合物としても導入されてもよい。
【0091】
本発明による発現ベクター、従ってレスキューベクターを取り込んだ宿主細胞を選択するため、好ましくは上記に詳述されたように選択方法が行われる。前記方法、発現ベクターおよびその要素に関する詳細、RNAi誘導化合物および選択的培養条件は、上記に詳細に記載される。本発明者らは、ここにも適用される上記開示を参照する。
【0092】
また、キットが提供され、前記キットは少なくとも以下を含む:
a)宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチドを含む、該宿主細胞へ導入される発現ベクター;
b)前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子を標的とするRNAi誘導化合物。
【0093】
記載されたキットの構成成分は、記載された発現ベクターを取り込んだ宿主細胞の選択を可能とする。それぞれのキットは、例えば、目的産物の発現のために使用され、特に、RNAi実験を行うために使用され得る。意図される用途により、好ましくは、記載された発現ベクターは、例えば、発現/産生されると考えられる目的産物をコードする、および/またはRNAi実験において解析される標的遺伝子に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチド(レスキューポリヌクレオチド)を含む/取り込むことが可能なように設計される。目的産物の発現および/またはRNAiレスキュー実験のための各キットの可能な適用/使用は、上記に詳細に記載され、下記実施例においても記載される。それぞれの開示を参照してください。
【0094】
1つの実施態様によれば、発現ベクターは、さらなる組換えポリヌクレオチドを挿入するための発現カセットを含む。前記組換えポリヌクレオチドは、例えば、目的産物(例えば、RNAi実験において解析される標的遺伝子に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の機能的等価物である産物)をコードしてもよい。ここで、本発明者らは、これに関して目的のポリヌクレオチドとも呼ぶ。従って、本発明による発現ベクターは、目的のポリヌクレオチドを挿入するための挿入部位を含んでもよいが、まだ目的のポリヌクレオチドを含んでいない。それぞれの「空」発現ベクターは、目的のポリヌクレオチド(例えば、発現される産物、および/またはRNAiレスキュー実験の場合、表現型を回復するための産物)を挿入するために顧客(customer)によって使用されることができ、それにより、形質移入に使用され得る既製の発現ベクターを得る。
【0095】
目的の組換えポリヌクレオチドの取り込みは、適切なクローニング方法を使用することにより、例えば、目的産物をコードするポリヌクレオチドを挿入するため、制限酵素を使用することにより、達成され得る。この目的のため、発現ベクターは、例えば、全てのリーディングフレーム(reading frame)において使用され得る、例えば複数のクローニング部位(MCS)を含んでもよい。挿入部位の例としてのそれぞれの複数のクローニング部位は、発現カセット内に位置されてもよい。発現ベクターは、例えば、目的の所望の産物をコードするポリヌクレオチドを挿入することによって、意図された用途に容易に適合され得るので、それぞれの「空」発現ベクターは、異なる目的産物を発現するための有用な手段を提供する。
【0096】
発現ベクターおよびRNAi誘導化合物のさらなる詳細は、上記に詳述される。本発明者らは上記開示を参照する。
【0097】
本明細書において言及される本文の全内容および文献は、参照によってここに組み込まれ、従って本開示の一部を形成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、導入された発現ベクターを含む宿主細胞を選択するための方法:
a)宿主細胞集団を提供すること(ここで、該宿主細胞は少なくとも1種の、細胞の生存に必須の遺伝子を内因性に発現する);
b)前記宿主細胞に発現ベクターを導入すること(ここで、該発現ベクターは、該宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子によってコードされる産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子によってコードされる産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子によってコードされる産物の機能的等価物である産物をコードする、少なくとも1種の組換えポリヌクレオチドを含む);
c)前記宿主細胞を選択条件下で培養すること(ここで、該選択条件は、少なくとも、該宿主細胞への少なくとも1種のRNAi誘導化合物の導入を含み、ここで、該RNAi導入化合物は、少なくとも、該宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子を標的とする)。
【請求項2】
前記方法が、以下の特徴のうち少なくとも1つを有する、請求項1に記載の方法:
a)選択的成長条件を生存する少なくとも1種の宿主細胞を選択する;および/または
b)効率的に前記発現ベクターを取り込まなかった宿主は、前記選択的培養条件下で生存しない;および/または
c)前記選択的培養条件が、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の2番目の遺伝子を標的とする少なくとも1種のさらなるRNAi誘導化合物の導入を含む。
【請求項3】
前記発現ベクターが以下の特徴の少なくとも1つを有する、請求項1または2に記載の方法:
a)前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子によってコードされる産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子によってコードされる産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子によってコードされる産物の機能的等価物である産物をコードする前記組換えポリヌクレオチドが、RNAi選択可能マーカー遺伝子である;および/または
b)前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記2番目の遺伝子の産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の産物の機能的等価物である産物をコードするさらなる組換えポリヌクレオチドを含む;および/または
c)さらなる目的産物をコードする組換えポリヌクレオチドを含む;および/または
d)少なくとも1種の組換えポリヌクレオチドが、発現カセットに含まれる;および/または
e)少なくとも1種の組換えポリヌクレオチドが発現カセットに含まれ、ここで、該発現カセットが少なくとも1つの以下の要素を含む:
i.前記宿主細胞で機能的なプロモーターおよび/またはエンハンサー配列;
ii.転写終結シグナル;
iii.ポリA部位;
iv.イントロン;
v.分泌リーダー配列;
および/または
f)少なくとも1つの複製起点を含む;および/または
g)少なくとも1種の追加の選択可能マーカー遺伝子を含む;および/または
h)前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子によってコードされる産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子によってコードされる産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子によってコードされる産物の機能的等価物である産物をコードする前記組換えポリヌクレオチドが、選択に使用される前記RNAi誘導化合物に耐性である。
【請求項4】
前記RNAi誘導化合物が以下の1以上の特徴を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法:
a)前記RNAi誘導化合物が、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子によってコードされる産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子によってコードされる産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子によってコードされる産物の機能的等価物である産物をコードする前記組換えポリヌクレオチドの転写物を標的としない;および/または
b)前記RNAi誘導化合物が、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子の非翻訳領域を標的とする;および/または
c)前記RNAi誘導化合物が、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子によってコードされる産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子によってコードされる産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子によってコードされる産物の機能的等価物である産物をコードする前記組換えポリヌクレオチドに存在しない、該宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の該遺伝子の非翻訳領域を標的とする;および/または
d)前記RNAi誘導化合物が、以下
i.siRNA、miRNAまたはshRNAである;および/または
ii.好ましくは18〜30ntのsiRNA二本鎖分子である;および/または
iii.ベクターによって発現される
からなる群より選択される。
【請求項5】
前記宿主細胞が、以下の少なくとも1つの特徴を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法:
a)真核生物宿主細胞である;
b)昆虫細胞である;
c)哺乳類細胞である。
【請求項6】
前記宿主細胞によって内因性に発現する、細胞の生存に必須の前記遺伝子が、以下の特徴の少なくとも1つを有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法:
a)そのノックダウンがアポトーシスを誘導または促進する;および/または
b)そのノックダウンが細胞周期を妨げる;および/または
c)前記遺伝子が以下からなる群より選択される。
【化1】

【請求項7】
目的産物を産生する方法であって、請求項1〜6のいずれか1項に従って選択された宿主細胞を、該目的産物の発現を可能とする条件下で培養することを含む方法。
【請求項8】
以下の工程の少なくとも1つを含む、請求項7に記載の方法:
―前記細胞培養媒体からおよび/または前記宿主細胞から目的産物を単離する工程;および/または
―前記単離された目的産物を処理する工程。
【請求項9】
以下の工程を含むRNAi実験を行う方法:
a)細胞の生存に必須の遺伝子を内因性に発現する宿主細胞へ発現ベクターを導入する工程(ここで、該発現ベクターが、少なくとも以下を含む)。
i)前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子の産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の産物の機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチド;
ii)前記宿主細胞によって発現される目的の標的遺伝子の産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の産物の変異体である産物もしくは該遺伝子の産物の等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチド;
b)前記宿主細胞によって発現される目的の前記標的遺伝子の発現を標的とする、RNAi誘導化合物を該宿主細胞へ導入する工程;
c)選択条件下で前記宿主細胞を培養する工程(ここで、該選択条件が、少なくとも1種のRNAi誘導化合物の導入を少なくとも含み、ここで、該RNAi誘導化合物が、少なくとも、該宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子を標的とする)。
【請求項10】
工程a、bおよびcのうちの少なくとも2つまたは全てが並行してまたは連続的に行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項2〜6のうちの少なくとも1項に記載の選択方法が行われる、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも以下を含むキット:
a)宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の遺伝子に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチドを含む、該宿主細胞へ導入される発現ベクター;
b)前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子を標的とするRNAi誘導化合物。
【請求項13】
前記発現ベクターが以下の特徴の少なくとも1つを有する、請求項12に記載のキット:
a)目的の組換えポリヌクレオチドを挿入するための発現カセットを含む;および/または
b)目的の組換えポリヌクレオチドを含む;および/または
c)前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子によってコードされる産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子によってコードされる産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子によってコードされる産物の機能的等価物である産物をコードする前記組換えポリヌクレオチドが、RNAi選択可能マーカー遺伝子である;および/または
d)前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記2番目の遺伝子の産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子の産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子の産物の機能的等価物である産物をコードするさらなる組換えポリヌクレオチドを含む;および/または
e)少なくとも1種の組換えポリヌクレオチドが発現カセットに含まれる;および/または
f)少なくとも1種の組換えポリヌクレオチドが発現カセットに含まれ、ここで、該発現カセットが以下の要素の少なくとも1つを含む:
i.前記宿主細胞で機能的なプロモーター配列および/またはエンハンサー配列;
ii.転写終結シグナル;
iii.ポリA部位;
iv.イントロン;
v.分泌リーダー配列;
および/または
g)少なくとも1つの複製起点を含む;および/または
h)少なくとも1種の追加の選択マーカー遺伝子を含む;および/または
i)前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子によってコードされる産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子によってコードされる産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子によってコードされる産物の機能的等価物である産物をコードする前記組換えポリヌクレオチドが、選択に使用される前記RNAi誘導化合物に耐性である。
【請求項14】
前記RNAi誘導化合物が以下の1以上の特徴を有する、請求項12または13に記載のキット:
a)前記RNAi誘導化合物が、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子によってコードされる産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子によってコードされる産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子によってコードされる産物の機能的等価物である産物をコードする前記組換えポリヌクレオチドの転写物を標的としない;および/または
b)前記RNAi誘導化合物が、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子の非翻訳領域を標的とする;および/または
c)前記RNAi誘導化合物が、前記宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の前記遺伝子によってコードされる産物に対応する産物をコードする、および/または該遺伝子によってコードされる産物の機能的変異体である産物もしくは該遺伝子によってコードされる産物の機能的等価物である産物をコードする組換えポリヌクレオチドに存在しない、該宿主細胞によって内因性に発現される、細胞の生存に必須の該遺伝子の非翻訳領域を標的とする;および/または
d)前記宿主細胞によって内因性に発現する、細胞の生存に必須の前記遺伝子が、以下の特徴の少なくとも1つを有する:
i.そのノックダウンがアポトーシスを誘導または促進する;および/または
ii.そのノックダウンが細胞周期を妨げる;および/または
iii.前記遺伝子が以下からなる群より選択される
【化2】

および/または
e)前記RNAi誘導化合物が、以下からなる群より選択される:
i.siRNA、miRNAまたはshRNAである;および/または
ii.好ましくは18〜30ntのsiRNA二本鎖分子である;および/または
iii.ベクターによって発現される。

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate


【公表番号】特表2012−517230(P2012−517230A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549475(P2011−549475)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【国際出願番号】PCT/EP2010/000788
【国際公開番号】WO2010/091837
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(507214038)キアゲン ゲーエムベーハー (16)
【Fターム(参考)】