説明

RPC計算装置

【課題】RPC計算装置において、フィッティングに用いる地表面上の対応点の取り方、点数を、衛星の姿勢情報、軌道情報および撮像モードによって最適化することで、高精度のRPCモデルを高速に計算する。
【解決手段】RPC計算装置は、人工衛星で撮像した衛星画像に対して、RPCモデルの係数を算出するとともに、上記衛星画像を取得した時の各画素に対応した衛星の撮像条件により地表面上の対応点のサンプリング条件を決定するサンプリング条件設定部と、上記衛星画像の各画素におけるセンサの視軸を計算する視軸ベクトル計算部と、上記サンプリング条件設定部および上記視軸ベクトル計算部からのデータにより地表上の対応点を計算する地表対応点計算部と、フィッティングにより上記RPCモデルの係数を決定する関数モデルフィッティング部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、撮像画像の歪みを補正するためのRPCモデルを計算するRPC計算装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工衛星から地表を撮像した場合、光学系の非線形性、衛星の揺動の影響、また、三次元の地表面を二次元の画像データにすることから、地表面と衛星の像面が非線形な結像関係となり、撮像画像に歪みを生じる。従って正確な画像データを得るためには上記影響を補正する必要があり、地表面上の任意の点と衛星の画像座標を結びつける関数モデルとしてRPC(Rational Polynominal Coefficients)モデルが一般に用いられる。RPCモデルでは地表面から像面への射影関係を80項の有理多項式で表しており、衛星の軌道情報やカメラモデルからRPCモデル計算するために、地表面上の対応点を用いたフィッティングが用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Jacek Grodecki,「IKONOS STEREO FEATURE EXTRACTION−RPC APPROACH」,Procceedings of ASPRS Annual meeting,2001,ASPRS,April 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
RPCモデルの係数を計算する場合、用いる地表面上の対応点の取り方および点数はRPCモデルの精度や計算時間に大きな影響を与える。このため、対応点の取り方・点数の最適化が非常に重要となるが、従来のRPC計算装置では、衛星の姿勢や軌道等の状態の違いに対し上記条件が最適化されていないと精度が低下し、精度の良いRPC出力が得られないという課題があった。
また、RPCモデルの精度低下を抑制するために多くの対応点を用いた場合、必要数以上の対応点でフィッティングすることになり、計算時間が増加するという課題があった。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、RPC計算装置において、フィッティングに用いる地表面上の対応点の取り方、点数を、衛星の姿勢情報、軌道情報および撮像モードによって最適化することで、高精度のRPCモデルを高速に計算することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るRPC計算装置は、人工衛星で撮像した衛星画像に対して、RPC(Rational Polynominal Coefficients)モデルの係数を算出するものであり、上記衛星画像を取得した時の各画素に対応した衛星の撮像条件により地表面上の対応点のサンプリング条件を決定するサンプリング条件設定部と、上記衛星画像の各画素におけるセンサの視軸を計算する視軸ベクトル計算部と、上記サンプリング条件設定部および上記視軸ベクトル計算部からのデータにより地表上の対応点を計算する地表対応点計算部と、フィッティングにより上記RPCモデルの係数を決定する関数モデルフィッティング部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係るRPC計算装置は、サンプリング条件設定部において、衛星画像データを取得した時の各画素に対応した衛星姿勢情報データ、衛星軌道情報データおよび撮像モードデータにより、z軸方向に関しては4層以上、x軸方向に関しては参照点数を5点以上、y軸方向に関してはRPCモデルで決まる精度に収束する参照点以上で分割するようにサンプリング条件を決定し、決定したサンプリング条件に基づき地表対応点計算部および関数モデルフィッティング部でRPCモデルの係数を算出することで、RPCモデルとして最大の精度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施形態1に係るRPC計算装置の構成を示す構成図である。
【図2】RPCモデルを説明するための図である。
【図3】人工衛星に生じる揺動の強度を説明するための図である。
【図4】z軸方向の分割数に対するRPCの計算精度を示した図である。
【図5】x軸方向の分割数に対するRPCの計算精度を示した図である。
【図6】y軸方向の分割数に対するRPCの計算精度を示した図である。
【図7】人工衛星の姿勢に対するRPCの計算精度を示した図である。
【図8】この発明の実施形態2に係るRPC計算装置の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のRPC計算装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
図1は、この発明の実施の形態1に係るRPC計算装置の構成を示す構成図である。
この発明の実施の形態1に係るRPC計算装置1は、図1に示すように、衛星画像データ6、衛星画像データ6を取得した時の各画素に対応した衛星姿勢情報データ7、衛星軌道情報データ8および撮像モードデータ9が入力され、これらのデータを用いてRPCモデル10を算出し出力する。
【0010】
そして、RPC計算装置1は、入力された衛星姿勢情報データ7、衛星軌道情報データ8および撮像モードデータ9を用いて地表面上の対応点のサンプリング条件を決定するサンプリング条件設定部2と、衛星姿勢情報データ7および衛星軌道情報データ8を用いて衛星画像データ6の画素毎にセンサの視軸を計算する視軸ベクトル計算部3と、サンプリング条件設定部2および視軸ベクトル計算部3からのデータを用いて地表上の対応点を計算する地表対応点計算部4と、フィッティングによりRPCモデルの係数を決定し、RPCモデル10を出力する関数モデルフィッティング部5と、を有する。
【0011】
次に、この発明の実施の形態1に係るRPC計算装置1の動作について説明する。
RPC計算装置1では、まず、衛星画像データ6を取得した時の各画素に対応した衛星姿勢情報データ7、衛星軌道情報データ8および撮像モードデータ9がサンプリング条件設定部2に入力され、入力されたこれらのデータを用いて最適な地表面上の対応点のサンプリング条件を設定する。
【0012】
視軸ベクトル計算部3は、入力された衛星姿勢情報データ7および衛星軌道情報データ8を用いて衛星画像データ6の画素毎にセンサの視軸ベクトルを計算する。
【0013】
人工衛星によっては、例えば衛星の軌道に拠らず地表の一領域を時間をかけて撮影する撮像モード(積分撮像モード、TDI(Time Delay Integration)撮像モード)を備えるものがあり、このときの最適なサンプリング条件は通常の撮像モードの場合とは異なる。よって撮像モードデータ9とは、撮像モードによって適したサンプリング条件に切り替えるためのデータである。
【0014】
サンプリング条件設定部2で決定されるサンプリング条件については、図2に示すRPCモデルの模式図の通り、衛星の走査方向の垂直方向(CT方向)を地表面のx軸方向、衛星の走査方向(AT方向)を地表面のy軸方向、地表面の高さ方向をz軸方向として説明する。また、本実施の形態では地表面の対応点は必ず4隅の点を含み、x軸方向、y軸方向、z軸方向共に等間隔に設定することとする。
【0015】
人工衛星に生じる揺動の強度は、図3に示す通り、一般的に周波数の増加に伴い減少する。そこで人工衛星に対し図3に示した強度分布の揺動を与えた場合における、地表面の高さ方向(z軸方向)の層数に対するRPC精度のシミュレーション結果の一例を図4に示す。
図4からも分かるようにz軸方向の分割数が4層未満では精度が著しく低下する。また、4層以上に層数を増やしても精度の変化はあまり見られない。
人工衛星の姿勢、高度、地上分解能(GSD)、撮像領域および分割する地表面の高度(z軸方向の高度)等を変化させても同様の傾向が見られることから、z軸方向に関しては4層以上で分割するようにサンプリング条件を決定することで、RPCモデルの係数を高精度に計算可能なRPC計算装置1が得られる。また、計算時間を考慮するとRPC精度が得られる最小分割数である4層が望ましい。
【0016】
次に、人工衛星に対して周波数に応じた強度分布の揺動を与えた場合の、x軸方向の参照点数に対するRPC精度のシミュレーション結果の一例を図5に示す。
x軸方向およびy軸方向に関しては、z軸方向のように自ら地表面の高度と層数を決定するのではなく、例えば1000×1000画素からなるような衛星の撮像画像から、サンプリングする点を間引いて参照点数を決定する。図5から分かるようにx軸方向の参照点を5点未満として分割した場合は精度が著しく低下する。また、参照点を5点以上に増やしても精度の変化はあまり見られない。
z軸方向と同様に、人工衛星の撮像条件を変化させても上記傾向は変化しないことから、x軸方向に関しては5点以上の参照点で分割するようにサンプリング条件を決定することで、RPCモデルの係数を高精度に計算可能なRPC計算装置1が得られる。また、計算時間を考慮するとRPC精度が得られる最小参照点数である5点での分割が望ましい。
【0017】
最後に、人工衛星に対して周波数に応じた強度分布の揺動を与えた場合の、y軸方向の参照点数に対するRPC精度のシミュレーション結果の一例を図6に示す。図6より、y軸方向では使用する参照点数の増加に比例してRPCの精度が向上し、最終的に衛星の姿勢や軌道等の条件により決定されるRPCモデルで決まる精度に収束する。これはRPCモデルの関数モデルが3次関数で表されるため、RPCモデルにより補正される誤差は主に低周波成分となり、高周波成分の誤差はそのままRPCモデルの誤差として残り、いくら参照点数を増やしても上記誤差は改善されず最終的にRPCモデルで決定される精度に収束するためである。従って、y軸方向では、RPCモデルで決まる精度に収束する参照点数以上で分割するようにサンプリング条件を決定することで、高精度にRPCモデルの係数を計算可能なRPC計算装置1が得られる。また、計算時間を考慮するとRPCモデルで決まる精度に収束する最小の参照点数で分割することが望ましい。
【0018】
上記RPCモデルで決まる精度は一般的に人工衛星の姿勢および軌道により影響を受ける。図2に示したAT軸の回転方向をロール角、CT軸の回転方向をピッチ角とし、RPCモデルで決まる計算精度のロール角及びピッチ角に対する依存性を図7に示す。図7から分かるように、RPCモデルで決まる精度はロール角の影響を受けず、ピッチ角の影響を受けることが分かる。また、RPCモデルで決まる計算精度は当然ながら人工衛星の高度に影響し、衛星の高度が2倍であれば、衛星に同様の揺動が生じた場合には誤差も2倍となる。
従って人工衛星の揺動の高周波成分により生じるRPCモデルの誤差のRMSをΔ1(f)(rad)、衛星の高度をh(m)、衛星のピッチ角をθpitchにより生じる誤差をΔ2(θpitch)(rad)とするとRPCモデルで決まる精度Δrpcは式(1)で表される。
【0019】
【数1】

【0020】
ここで、地表面の対応点は必ず4隅の点を含み、x軸方向、y軸方向、z軸方向共に等間隔とし、z軸方向は4層以上、x軸方向の参照点数は5点以上で分割すれば、RPCモデルの精度はy軸方向の分割数でほぼ決まる。
y軸方向の分割数に対するRPC精度のサンプリング結果の平均値(例えば、10回以上のサンプリング結果の平均値)を表す関数をΔave(y)とすると、式(2)が成り立つy軸方向の分割数にすることで、RPCモデルとして最大の精度が得られる。
【0021】
【数2】

【0022】
以上のように、RPC計算装置1のサンプリング条件設定部2において、衛星画像データ6を取得した時の各画素に対応した衛星姿勢情報データ7、衛星軌道情報データ8および撮像モードデータ9により、z軸方向に関しては4層以上、x軸方向に関しては参照点数を5点以上、y軸方向に関してはRPCモデルで決まる精度に収束する参照点以上で分割するようにサンプリング条件を決定し、決定したサンプリング条件に基づき地表対応点計算部4および関数モデルフィッティング部5でRPCモデルの係数を算出することで、RPCモデルとして最大の精度が得られる。
また、z軸方向の分割数を4層、x軸方向の参照点数を5点、y軸方向の参照点数をRPCモデルで決まる精度に収束する最小の参照点数と3軸方向ともに精度が得られる最小の分割数にサンプリング条件を決定することで、精度の良いRPCモデルの計算を最短時間で行うことが可能となる。
【0023】
実施の形態2.
図8は、この発明の実施の形態2に係るRPC計算装置の構成を示す構成図である。
この発明の実施の形態2に係るRPC計算装置1Bは、この発明の実施の形態1に係るRPC計算装置1に視軸ベクトル補正部11を追加したことが異なり、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記し説明は簡略化する。
視軸ベクトル補正部11は、衛星画像データ6とともに地表位置情報データ12が入力される。
【0024】
次に、この発明の実施の形態2に係るRPC計算装置1Bの動作について説明する。
実施の形態1では、視軸ベクトル計算部3に入力された衛星姿勢情報データ7および衛星軌道情報データ8を用いて衛星画像データ6の画素毎にセンサの視軸ベクトルを計算しているが、衛星姿勢情報データ7および衛星軌道情報データ8の精度によっては、視軸ベクトル計算部3により計算された視軸ベクトルには無視できない誤差が生じる可能性がある。このため精度の良いRPCモデルを得るためには視軸ベクトルの誤差を補正する必要がある。
【0025】
そこで実施の形態2では、衛星画像データ6、および衛星画像データ6中に存在する地表面の正確な地表位置情報データ(例えば、緯度経度などの水平位置および高度が正確な値で判明している特長的な地形の基準点であるGCP(Ground Control Point)を含む地図データ、または事前に撮像された位置情報が正確である衛星画像等)を視軸ベクトル補正部11に入力し、双方のGCPの位置の比較に基づいて視軸ベクトルの誤差量を算出する。
そして、算出した視軸ベクトルの誤差量データにより、衛星画像データ6の位置補正を行い、位置補正衛星画像データに変換して地表対応点計算部4に入力することで、衛星軌道の誤差を補正した更に高精度のRPCモデルが算出可能となる。
また、視軸ベクトルの誤差量データは視軸ベクトル計算部3にもフィードバックされ、RPCモデルの対応点を決定するための視軸ベクトルは、補正後の視軸ベクトルを用いて算出する。
以上のように、正確な位置情報データにより視軸ベクトルの誤差を補正しているので、より正確なRPCモデルの算出が可能となる。
【符号の説明】
【0026】
1、1B RPC計算装置、2 サンプリング条件設定部、3 視軸ベクトル計算部、4 地表対応点計算部、5 関数モデルフィッティング部、6 衛星画像データ、7 衛星姿勢情報データ、8 衛星軌道情報データ、9 撮像モードデータ、10 RPCモデル、11 視軸ベクトル補正部、12 地表位置情報データ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工衛星で撮像した衛星画像に対して、RPC(Rational Polynominal Coefficients)モデルの係数を算出するRPC計算装置において、
上記衛星画像を取得した時の各画素に対応した衛星の撮像条件により地表面上の対応点のサンプリング条件を決定するサンプリング条件設定部と、
上記衛星画像の各画素におけるセンサの視軸を計算する視軸ベクトル計算部と、
上記サンプリング条件設定部および上記視軸ベクトル計算部からのデータにより地表上の対応点を計算する地表対応点計算部と、
フィッティングにより上記RPCモデルの係数を決定する関数モデルフィッティング部と、
を備えることを特徴とするRPC計算装置。
【請求項2】
上記サンプリング条件設定部は、衛星の姿勢情報データ、衛星の軌道情報データまたは撮像モードデータのいずれか、および上記画像情報データの組み合わせにより地表面上の対応点のサンプリング条件を決定することを特徴とする請求項1に記載のRPC計算装置。
【請求項3】
上記サンプリング条件設定部は、地表面の対応点は必ず4隅の点を含む条件で等間隔に設定し、地表の高度方向を4層以上で分割し、また、衛星の走査方向の垂直方向(CT方向)の参照点を5点以上として分割するようにサンプリング条件を決定することを特徴とする請求項1または2に記載のRPC計算装置。
【請求項4】
上記サンプリング条件設定部は、衛星の走査方向(AT方向)を、RPCモデルで決まる精度に収束する参照点数以上で分割するようにサンプリング条件を決定することを特徴とする請求項3に記載のRPC計算装置。
【請求項5】
人工衛星で取得した衛星画像データと、衛星画像データ中に存在する地表面の正確な位置情報データを含むデータを入力し、双方の位置情報データの比較に基づき視軸ベクトルを補正する視軸ベクトル補正部を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のRPC計算装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−128784(P2011−128784A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285297(P2009−285297)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】