説明

Ru−Rh精製工程の効率的操業方法

【課題】 Rh 及びRuを含有する原料を、石英製炉芯管を有する管状炉で塩化揮発処理し、次に得られた塩化処理揮発残渣を、石英製炉芯管を有する管状炉で塩化焙焼処理する方法において、塩化揮発処理を行った管状炉の炉芯管に起こる付着物を効率的に除去する。
【解決手段】 塩化揮発処理を行った環状炉において塩化焙焼処理塩化焙焼を行い、石英製炉芯管の内壁に付着した付着物を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロジウム(Rh)及びルテニウム(Ru)の精製工程の操業方法に関するものであり、さらに詳しく述べるならば、石英製炉芯管をもつ揮発炉及び焙焼炉を用いRh、Ruを精製する操業の効率を改善する方法である。
【背景技術】
【0002】
本出願人の特許文献1:特許第3943564号明細書によると、Se,Te及び白金族元素を含む原料を塩素雰囲気中で塩化揮発処理を行いSe,Teを除去し、処理物に塩化ナトリウム及び炭素粉を添加して塩素雰囲気中で塩化焙焼処理を行い、さらにSe, Teを除去し、白金族金属を可溶性塩とし、白金族金属を浸出・回収する方法が公知である。塩化揮発処理は、石英製炉芯管を有する管状炉内で塩素を流しながら行い、石英製ボートに装入された原料を最高温度で700℃に加熱することにより行う。なお、昇温も含めた全加熱時間は約10時間である。
次に、塩化焙焼処理は、石英製炉芯管を有する管状炉中で、石英製ボートに、NaCl及び炭素粉とともに装入された原料を最高温度で850℃に加熱することにより行う。この結果、Ru、RhはそれぞれNa3RuC6、Na3RhCl6で表される水可溶性塩化物に転換される。
【0003】
本出願人の特許文献2:特許第4313361号明細書では、塩化焙焼処理を塩素雰囲気中で520 〜570℃で保持した後、 700〜 800℃で保持することを提案している。
【0004】
本出願人の佐賀関製錬所は、特許文献1及び2の方法を次のような工程フローで実施している。
(1)銅電解精製殿物から金、セレン、テルルを回収除去した浸出残渣を原料とする。
(2)石英製炉芯管を有する管状揮発炉において、日中の通常の勤務時間内で塩化揮発処理を実施し、作業終了後に管状揮発炉の電源を切り、夜間に放冷し、翌日の朝の作業開始時にほぼ常温に冷却された塩化揮発残渣を管状揮発炉から取出す。即ち、24時間1バッチの操業を行う。したがって、翌日の作業開始には、新しいバッチの硫酸浸出残渣を管状揮発炉に装入して、塩化揮発処理を行う。
(3)上記のとおりの操作で得られた塩化揮発残渣を、別の環状炉である焙焼炉を用いて塩化焙焼処理し、塩化焙焼残渣を得る。放冷を含む操業は24時間1バッチである。したがって、次のバッチの作業開始に当たっては、ほぼ常温まで冷却された塩化焙焼残渣を焙焼炉から取出し、前日に処理された塩化揮発残渣を焙焼炉に装入する。
(4)塩化焙焼残渣を湿式処理することで不純物を除去し、製品化工程で乾式炉で焼成処理し、目的物である金属ロジウム及びルテニウムを得る。
【0005】
図1には本出願人が使用している塩化揮発処理炉又は塩化焙焼処理炉の長さ方向断面概略構造を示す。図中、1は管状炉、2は耐火・断熱材からなる炉体、3はヒーター、5は炉芯管である。管状炉1は主要部1aが横型であり、その内部を石英製炉芯管5aが炉軸方向に貫通しており、その先端部は閉鎖されている。石英製炉芯管5aの先端部近傍から分岐部5bが下向きに分岐し、管状炉1の付属管状部1bに突入している。石英製炉芯管水平部5aには図示されないボートが装入されており、原料を処理する。ヒーター3は、3ゾーンのヒーター3a,b,cを備えており、中央部のヒータが所望の最高温度に昇温される。かくして発生した揮発分などは炉芯管分岐部5bに導かれ、ここでもヒーター3dにより適切な温度に加熱されて、炉外に排出される。なお、付着物が最も付着し易く、割れが発生し易い箇所を7で示す。これら箇所では温度変化及び/又は流速の変化が大きくなっていると考えられる。
【0006】
塩化揮発炉においては、塩化揮発した物質が炉芯管内壁に付着・堆積し、厚く付着した付着物は炉芯管の破壊などの様々な不具合を引き起こす要因となるから、10日程度の操業で、定期的に付着物を除去するクリーニング作業を実施する必要があった。クリーニングの方法としては操業を停止しての、炉芯管の空焼、薬液によるエッチング、物理的剥離・研磨等である。このようなクリーング処理中には、処理量バランスのために塩化焙焼炉も操業停止していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3943564号明細書
【特許文献2】特許第4313361号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、Rh及びRuを含む原料を塩化揮発処理及び塩化焙焼処理する方法において、
操業を止めることなく付着物の除去を行い、石英製炉芯管が破損し、操業上の不具合の発生を防ぐ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、特定の一つの環状炉におけるRu/Rhが炉芯管に付着する焼成条件と、Ruが炉芯管から除去される焼成条件とを一定回数毎に入れ替えることによって、上記した課題を解決するものである。即ち、本発明は次の方法を提供する。
(1) Rh 及びRuを含有する原料を、石英製炉芯管を有する管状炉で塩化揮発処理し、次に得られた塩化処理揮発残渣を、石英製炉芯管を有する管状炉で塩化焙焼処理する方法において、前記塩化揮発処理を行った管状炉において前記塩化焙焼処理を行うことによって石英製炉芯管の内壁に付着した付着物を除去することを特徴とするRu-Rh精製工程の効率的操業方法。
(2) 最大10回の塩化揮発処理バッチ後、1回の塩化焙焼処理を行うことを特徴とする(1)記載の方法。
(3) 前記管状炉が横型主要部と分岐部を有しており、前記石英製炉芯管が、前記横型主要部を貫通し、末端が閉じられた部分と、前記末端近傍において分岐して管状炉の分岐部内を貫通し、末端が開放された部分とからなる(1)又は(2)記載の方法。
以下、本発明を詳しく説明する。
【0010】
Rh,Ru含有原料の塩化揮発処理条件は、特許文献1の段落番号0017〜0022、特許文献2の段落番号0011に記載されており、また塩化焙焼処理条件は特許文献1段落番号0023〜0030、特許文献2の段落番号0012〜0016に記載されている。これらの処理のうち塩化揮発処理により揮発するSe,Teなどはほとんど石英製炉芯管に付着せずに炉外に排出されており、一方X線回折の結果、石英製炉芯管に付着する主な物質は、意外にもRuO2であることが分かった。
【0011】
塩化焙焼は、上述のように炭素及びNaClの作用によりボート内のRu,Rhを可溶性塩を生成するものであるが、意外にも、塩化揮発処理の結果石英製炉芯管内壁に付着しているRu、Rhを除去する能力があることが分かった。したがって、塩化揮発操業を実施すると、Ruなどが管状炉の石英製炉芯管内壁に付着するが、当該管状炉の処理を塩化焙焼に切替えると、原料の塩化焙焼処理を行うと同時に炉芯管付着物を除去することができる。その後は、塩化揮発処理に戻ってバッチ処理を繰返す(上記(1)の方法)。
【0012】
上記(1)の処理は、操業パターンが、例えば2日以上が1バッチの場合あるいは、半日が1バッチの場合などどのような操業パターンでも実施することができる。即ち、塩化揮発処理を、付着物が炉芯管の割れなどの面から許容される最長限度まで続け、その後、塩化焙焼処理を行うことができる。しかし、現実的な工業生産では1日が1バッチであるので、昇温、最高温度保持及び冷却の1サイクルを1日かけて塩化揮発処理を行い、これを繰返し、その後塩化焙焼処理を行うことが実際的である。
【0013】
本発明においては、1回の塩化焙焼処理の付着物の洗浄効果は10回の塩化揮発処理中に持続することが分かった。したがって、10回の塩化揮発処理バッチで1回だけ塩化焙焼処理に切替えればよい(上記(2)の方法)。これを12日間の操業パターンで示すと次表のとおりであり、表において「揮」及び「焙」はそれぞれ塩化揮発処理及び塩化焙焼処理を意味している。第1環状炉は、従来塩化揮発処理を行っていた炉であるが、10日目には塩化焙焼炉として使用し、塩化焙焼を行うとともに、付着物を除去し、その後再び塩化揮発処理を行う。
【0014】
【表1】

【0015】
第2環状炉は、従来塩化焙焼処理を行っていた炉である、9日目までは従来と同様に塩化焙焼処理を行い、10日目には塩化揮発炉として使用し、9日目の塩化揮発残渣を塩化焙焼処理する。11日目には、第2環状炉は、10日目の当該炉で発生した塩化揮発残渣を塩化焙焼し、12日目には塩化揮発炉で発生した、塩化揮発残渣を処理する。
なお、10日目の第2環状炉で行う塩化揮発処理では、石英製炉芯管に付着物が付着するが、1日だけの操業であるので、付着量は僅かであり、その後の塩化焙焼処理により付着物が除去されることは、これまでの説明から、容易に理解できるであろう。
【0016】
表1に示すサイクルをさらに短くし、2回の塩化揮発処理当たり1回の塩化焙焼処理を行う操業パターンを表2に示す。このパターンでは、従来の塩化揮発処理と塩化焙焼処理は専用炉で行うという操業パターンを根本的に変更し、それぞれの炉で最終製品、即ち段落番号0004(3)の製品であって、(4)の湿式処理の原料を得るようにしている。
【0017】
【表2】

【発明の効果】
【0018】
(1)塩化揮発処理炉の操業中断がなくなり、操業を継続することができる(請求項1)。
(2)本発明による付着物除去効果は、1回の焙焼処理で10回のバッチも継続する。これは従来研磨などで行っていたクリーニング作業と同じ効果をもっているといえる。したがって、本発明による付着物除去効果は満足できるレベルである(請求項2)。
(3)本発明の方法は、通常のストレート管でなく、分岐部を有する複雑な石英製炉芯管においても効果がある(請求項3)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本出願人の製錬所の加熱条件は図1に示す炉において次のとおりである。
塩化揮発処理:最高温度820℃まで2段階で昇温し、820℃で5時間保持、その後放

塩化焙焼処理:最高温度780℃まで2段階で昇温し、780℃で3時間保持、その後放

【0020】
表2に示す操業を行なった。この際炉芯管のクリーニングは一切行なわず操業を続けたが、炉芯管は破損など一切のトラブルがなく、200日以上操業が可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
以上説明したように、石英製炉芯管をもつ管状炉で塩化揮発処理及び塩化焙焼処理を行い、ロジウム及びルテニウムを精製する際に、石英製炉芯管が直面する問題を解決することができるので、生産量増大、コストダウンに寄与する。
また、分岐部を有する石英製炉芯管について説明したが、出口側に排気口を有するストレート管からなる石英製炉芯管を使用して本発明を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本出願人が使用している塩化揮発処理炉又は塩化焙焼処理炉の長さ方向断面概略構造図面である。
【符号の説明】
【0023】
1−管状炉
2−炉体
3−ヒーター
5−炉芯管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rh 及びRuを含有する原料を、石英製炉芯管を有する管状炉で塩化揮発処理し、次に、得られた塩化処理揮発残渣を石英製炉芯管を有する管状炉で塩化焙焼処理する方法において、前記塩化揮発処理を行った管状炉において前記塩化焙焼処理を行うことによって前記石英製炉芯管の内壁に付着した付着物を除去することを特徴とするロジウム及びルテニウム精製工程の効率的操業方法。
【請求項2】
前記管状炉において、最大10回の塩化揮発処理バッチ後、1回の塩化焙焼処理を行うことを特徴とする請求項1記載のロジウム及びルテニウムRu-Rh精製工程の効率的操業方法。
【請求項3】
前記管状炉が横型主要部と分岐部を有しており、前記石英製炉芯管が、前記横型主要部を貫通し、末端が閉じられた部分と、前記末端近傍において分岐して管状炉の前記分岐部内を貫通し、末端が開放された部分と、からなる請求項1又は2記載のロジウム及びルテニウムRu-Rh精製工程の効率的操業方法。


【図1】
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