説明

S−アデノシルメチオニンの発酵的製造方法

【課題】先行技術と比較して高められたSAM製造を可能にする微生物株を提供する。
【解決手段】S−アデノシルメチオニンを分泌する微生物株において、cmr(mdfA)遺伝子産物の活性を高めることで解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、S−アデノシルメチオニンの発酵的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
S−アデノシルメチオニン(SAM)は、代謝における非常に重要なメチル基供与体であり、そしてこれは鬱病、肝臓の病気及び関節炎の治療において医薬分野で使用されている。SAMの製造のための記載された方法は、前駆物質であるメチオニンの存在下に酵母を培養し(Schlenk及びDePalma、J. Biol. Chem. 229, 1037-1050 (1957)、Schlenk他、Enzymologia 29, 283-298 (1965)、Shiozaki他、J. Biotechnol. 4, 345-354 (1986)、Shiozaki他、Agric. Biol. Chem. 53, 3269-3274 (1989))、そして形成されたSAMを、引き続き細胞溶解物からの抽出後にクロマトグラフィーによる精製を行う(US4562149号)ことを含む。酵母によるSAMの製造に特徴的なことは、SAMが細胞内で産生され、そして蓄積されることである。SAMの更なる後処理を実施するためには、例えばEP162323号(実施例2)又はDE3329218号(実施例1)に記載されるように細胞をまず破砕しなければならない。化学的溶解法の他に、フレンチプレスもしくは高圧均質化による機械的方法又は熱的方法(EP1091001号の実施例1に記載されている)も可能である。
【0003】
酵母によるSAM製造に対して、先行技術において大腸菌(E.コリ)を用いた細菌によるSAM製造方法が記載され、そこでは細菌は産生されたSAMをその細胞から培養培地へと排出する(EP1457569号A1)。前記の発酵的なSAM製造方法は、現存の酵母法に対して明らかな利点を有する。それというのも、該方法は形成されたSAMを培養上清へと選択的に分泌することを説明しており、それにより後の精製法の簡便化が可能となるからである。培養上清中にはごく僅かな物質のみが存在するだけなのは、SAMの分泌が第一の精製段階を担うからであり、これは更なる後処理を明らかに容易にするものである。前記の細胞外でのSAM製造のための方法ではSAM合成酵素が使用される。
【特許文献1】US4562149号
【特許文献2】EP162323号
【特許文献3】DE3329218号
【特許文献4】EP1091001号
【特許文献5】EP1457569号A1
【非特許文献1】Schlenk及びDePalma、J. Biol. Chem. 229, 1037-1050 (1957)
【非特許文献2】Schlenk他、Enzymologia 29, 283-298 (1965)
【非特許文献3】Shiozaki他、J. Biotechnol. 4, 345-354 (1986)
【非特許文献4】Shiozaki他、Agric. Biol. Chem. 53, 3269-3274 (1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、先行技術と比較して高められたSAM製造を可能にする微生物株を提供することである。更なる課題は、本発明による微生物株を用いてSAMを製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
最初に挙げられた課題は、S−アデノシルメチオニンを分泌する微生物株であって、cmr(mdfA)遺伝子産物の活性が高められていることを特徴とする微生物株によって解決される。
【0006】
本発明による微生物株は出発菌株から製造でき、そして該微生物株は出発菌株に対して高められたcmr(mdfA)遺伝子産物の活性を有する。
【0007】
有利には、微生物株が出発菌株に対して高められたcmr(mdfA)遺伝子産物の活性を有する場合とは、その微生物株の細胞がcmr(mdfA)遺伝子産物を有する野生型微生物株の細胞に対して、少なくとも2倍、有利には少なくとも5倍だけ高められたcmr(mdfA)遺伝子産物の活性を有する場合である。cmr(mdfA)遺伝子産物の活性測定のための試験は、科学文献(Edgar及びBibi、J. Bacteriol. 179, 2274-2280)に記載されている。
【0008】
E.コリのcmr(mdfA)遺伝子は1996年にクロラムフェニコール排出タンパク質(Chloramphenicol-Export-Protein)Cmrとして同定された(Nilsen他、J. Bacteriol. 178, 3188-3193)。1997年には、cmr(mdfA)遺伝子は、広い基質スペクトルを有する多剤排出タンパク質MdfAとして説明された(Edgar及びBibi、J. Bacteriol. 179, 2274-2280)。Cmr(MdfA)タンパク質は、MF(S)[メジャーファシリテーター(スーパーファミリー)]輸送体のファミリーに属し、そして例えばクロラムフェニコール又はエリスロマイシンのような親油性の非荷電の基質と同様に、例えば臭化エチジウム、ドキソルビシン又はベンズアルコニウムのような親油性の正に荷電した基質をもHイオンと引き替えに細胞外に排出する(Bibi他によるレビュー、J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 3, 171-177 (2001)を参照のこと)。Cmr(MdfA)タンパク質が広い基質スペクトルを有するとはいえ、当業者には、Cmr(MdfA)がSAM排出タンパク質として機能しうることは驚くべきことである。それというのも、SAMは今までに説明した基質とは構造的な共通点を有さないからである。更に、cmr(mdfA)の核酸配列と同様に、Cmr(MdfA)タンパク質のアミノ酸配列も、従来公知の酵母及びヒト由来のSAM輸送遺伝子及びSAM輸送タンパク質とホモロジーを示さない。ある基質がCmr(MdfA)タンパク質についての基質として機能しうるかどうかは、輸送体のメカニズムが十分に知られていない以上、予想不可能である。更に当業者には、本発明によるSAMを有する微生物株において、強く親水性で正に荷電し、同時に細胞形質の分子が細胞外に輸送されることは全く意想外である。
【0009】
従って本発明は、SAMの製造における排出タンパク質としてのcmr(mdfA)遺伝子産物の使用にも関する。
【0010】
cmr(mdfA)遺伝子とcmr(mdfA)遺伝子産物(Cmr(MdfA)タンパク質)は配列番号1もしくは配列番号2によって特徴付けられている。本発明の範囲では、cmr(mdfA)遺伝子とは、クロラムフェニコール排出活性又は多剤排出活性を有するタンパク質をコードし、かつアルゴリズムBESTFIT(GCG Winsconsin Package、Genetics Computer Group(GCG) ウィンスコンシン州マジソン在)により配列番号1に対して30%より高い配列同一性を有する遺伝子とも解釈されるべきである。配列番号1に対して50%より高い配列同一性が好ましい。配列番号1に対して70%より高い配列同一性が特に好ましい。
【0011】
同様に、Cmr(MdfA)タンパク質とは、クロラムフェニコール排出活性又は多剤排出活性を有し、かつアルゴリズムBESTFIT(GCG Winsconsin Package、Genetics Computer Group(GCG) ウィンスコンシン州マジソン在)により配列番号2に対して15%より高い配列同一性を有するタンパク質と解釈されるべきである。配列番号2に対して30%より高い配列同一性が好ましい。配列番号2に対して60%より高い配列同一性が特に好ましい。
【0012】
従って、cmr(mdfA)遺伝子とは、配列番号1に示される配列からヌクレオチドの欠失、挿入又は置換によって導かれるが、それぞれの遺伝子産物の酵素活性が少なくとも維持されたままでなければならない、cmr(mdfA)遺伝子のアレル変異体、特に機能的変異体をも表す。
【0013】
本発明による微生物は、分子生物学の標準的手法により作成することができる。
【0014】
出発菌株としては、原則的に、SAMに関する生合成経路を有し、組み換え法を利用でき、そして発酵によって培養可能な全ての微生物が適している。かかる微生物は、菌類、酵母又は細菌であってよい。真性細菌の系統発生的群の細菌であることが好ましい。腸内細菌科の微生物、特に大腸菌の種の微生物であることが特に好ましい。
【0015】
本発明による微生物におけるcmr(mdfA)遺伝子産物の活性増大は、例えばcmr(mdfA)遺伝子の発現強化によって達成される。この場合に、cmr(mdfA)遺伝子のコピー数が微生物中で高められも、かつ/又は適当なプロモーターによってcmr(mdfA)遺伝子の発現が増大されていてもよい。発現強化とは、この場合、有利にはcmr(mdfA)遺伝子が出発菌株よりも少なくとも2倍だけ強く発現することを意味する。cmr(mdfA)遺伝子の高められたコピー数とは、有利には、染色体及び/又はプラスミドにコードされるcmr(mdfA)遺伝子のコピーを出発菌株と比較して付加的に少なくとも1コピー使用されることを意味する。
【0016】
微生物におけるcmr(mdfA)遺伝子のコピー数の増加は、当業者に公知の方法で実施することができる。こうして、例えばcmr(mdfA)遺伝子を、1細胞あたりに多コピー数を有するプラスミドベクター(例えばE.コリ用のpUC19、pBR322、pACYC184)中にクローニングして、微生物中に取り込ませることができる。選択的に、cmr(mdfA)遺伝子を微生物の染色体中に多重に組み込むこともできる。組み込み法としては、溶原性バクテリオファージを有する公知のシステム、組み込みプラスミド又は相同組み換えによる組み込みを用いることができる。
【0017】
cmr(mdfA)遺伝子をプラスミドベクター中にプロモーターの制御下にクローニングすることによってコピー数を増加させることが好ましい。cmr(mdfA)遺伝子をpACYC誘導体中にクローニングすることによりE.コリ中のコピー数を増加させることが特に好ましい。
【0018】
プラスミドでコードされるcmr(mdfA)遺伝子の発現のための制御領域としては、遺伝子の本来のプロモーター領域及びオペレーター領域を用いることができる。
【0019】
しかしながらcmr(mdfA)遺伝子の発現強化は別のプロモーターによっても実施可能である。相応のプロモーター系、例えばE.コリにおいては、gapA遺伝子の構成的なGAPDH−プロモーター又は誘導可能なlac−、tac−、trc−、ラムダ−、ara−又はtet−プロモーターは当業者に公知である。かかる構築物は、自体公知のようにプラスミド又は染色体に使用することができる。
【0020】
更に、発現強化は、翻訳開始シグナル、例えばリボソーム結合部位又は遺伝子の開始コドンが、最適化された配列でそれぞれの構築物に存在するか、又はコドン利用頻度に従って、稀なコドンを屡々存在するコドンと交換することによって達成できる。
【0021】
前記の改変を有する微生物株は、本発明の有利な実施態様である。
【0022】
cmr(mdfA)遺伝子のプラスミドベクター中へのクローニングは、例えば、完全なcmr(mdfA)遺伝子を表す特異的なプライマーを使用したポリメラーゼ連鎖反応による特異的増幅と、それに引き続くベクターDNA断片とのライゲーションによって実施される。
【0023】
cmr(mdfA)遺伝子のクローニングに好ましいベクターとしては、既に発現強化用のプロモーター、例えばE.コリのgapA遺伝子の構成的なGAPDH−プロモーターを有するプラスミドが使用される。
【0024】
更に、SAMの生合成強化が使用によりもたらされる遺伝子/アレル、例えばラット肝臓SAM合成酵素(RLSS)アレル、metK遺伝子(EP0647712号A1及びEP1457569号A1に記載される)又は複数のSAM合成酵素からなる組合せを有するベクターが特に好ましい。当然のように、多コピーのSAM合成酵素遺伝子を有するプラスミドを使用してもよい。かかるベクターは、任意の微生物株から、高いSAM過剰産生を伴う本発明による微生物株を直接的に製造することを可能にする。
【0025】
従って、本発明は、SAM合成酵素遺伝子並びにcmr(mdfA)遺伝子をプロモーターの制御下に有するプラスミドにも関する。かかるプラスミドは、様々な生物のSAM合成酵素遺伝子からなる組合せ又は多コピーのSAM合成酵素遺伝子をも有してよい。
【0026】
通常の形質転換法(例えばエレクトロポレーション)によって、cmr(mdfA)含有遺伝子を微生物中に取り込み、そして例えば抗生物質耐性によってプラスミドを有するクローンを選択する。
【0027】
従って本発明は、本発明による微生物株の製造方法において、出発菌株中に本発明によるプラスミドを取り込ませることを特徴とする方法にも関する。
【0028】
本発明によるプラスミドによる形質転換のための菌株としては、同様にSAM産生を促進しうるアレル、例えば
− SAM産生の改善にはたらくアレル、例えばRLSS遺伝子又はmetK遺伝子(例えばEP1457569号A1に記載される)
− 又はメチオニン取り込みの改善にはたらく遺伝子、例えばE.コリ由来のmetNIQオペロン(Merlin他、J. Bacteriol. 184, 5513-5517 (2002);Gal他、J. Bacteriol. 184, 4930-4932 (2002);Zhang他、Arch. Microbiol. 180, 88-100 (2003))
− 又は細胞形質のメチオニン合成の改善を促進する遺伝子、例えば改善されたホモセリン−スクシニル転移酵素遺伝子(JP2000139471号A、DE−A−10247437号、DE−A−10249642号)
を既に有する菌株が特に好ましい。
【0029】
本発明による微生物株を用いたSAMの製造は、発酵槽中で自体公知の方法に従って行われる。
【0030】
従って、本発明は、SAMの製造方法において、本発明による微生物株を発酵培地中で発酵を行わせ、そしてその際に発酵培地中にSAMを分泌させることを特徴とする方法にも関する。有利には、産生されたSAMは発酵混合物から分離される。
【0031】
微生物株の発酵槽中での培養は、連続培養、回分培養又は有利には流加回分培養として行われる。発酵の間に炭素源を連続的に計量供給することが特に好ましい。
【0032】
炭素源としては、有利には糖類、糖アルコール又は有機酸が用いられる。特に有利には、本発明による方法において炭素源としてはグルコース、ラクトース又はグリセリンが使用される。
【0033】
炭素源は、炭素源の含有量が発酵槽中で発酵の間に0.1〜50g/lの範囲に保持されることが保証される形で計量供給することが好ましい。0.5〜10g/lの範囲が特に好ましい。
【0034】
窒素源としては、本発明による方法では、有利にはアンモニア、アンモニウム塩又はタンパク質加水分解物が使用される。アンモニアをpH測定用の校正試薬として使用する場合には、発酵の間に規則的に前記の窒素源を後から計量供給する。
【0035】
更なる培地添加剤として、リン、塩素、ナトリウム、マグネシウム、窒素、カリウム、カルシウム、鉄といった元素の塩と、微量に(つまりμMの濃度で)モリブデン、ホウ素、コバルト、マンガン、亜鉛及びニッケルといった元素の塩を添加することができる。
【0036】
更に、有機酸(例えば酢酸塩、クエン酸塩)、アミノ酸(例えばイソロイシン)及びビタミン(例えばB、B12)を培地に添加することができる。
【0037】
複合栄養源としては、例えば酵母エキス、コーンスティープリカー、大豆粉又は麦芽エキスを使用することができる。
【0038】
更に、培地に、L−メチオニン又はD/L−メチオニンをSAM合成酵素のための特異的な前駆物質として、0.05〜25g/lの濃度で添加することができる。L−メチオニン及び/又はD/L−メチオニンを1〜7g/lの濃度で添加することが好ましい。
【0039】
追加的に、特に有利な本発明による方法では、培地に、L−メチオニン又はD,L−メチオニンを培養の間に連続的に計量供給する。L−メチオニン又はD/L−メチオニンの連続的な計量供給は、1時間あたり0.05g〜10gであることが好ましい。L−メチオニン又はD/L−メチオニンの連続的な計量供給は、1時間あたり0.1g〜2gであることが特に好ましい。
【0040】
中温性微生物のためのインキュベーション温度は、有利には15〜45℃、特に有利には30〜37℃である。
【0041】
発酵は、有利には好気的な増殖条件下に実施される。発酵槽中の酸素化は、圧縮空気又は純粋な酸素によって行われる。
【0042】
発酵培地のpH値は、発酵の間に、5.0〜8.5のpH範囲にあることが好ましく、特に7.0のpH値が好ましい。
【0043】
菌株のインキュベーションは、有利には好気的な培養条件下で、16〜150時間の時間にわたって、それぞれの菌株に至適な増殖温度の範囲で行われる。特に培養時間は20〜48時間であることが好ましい。
【0044】
培養培地からのSAMの分離は、当業者に公知の方法、例えば培地の遠心分離による細胞分離、クロスフロー濾過によるタンパク質の分離、そして引き続いてのクロマトグラフィーによる生成物の精製、濃縮、配合及び錯化に従って行うことができる。
【0045】
本発明による方法で製造されたSAMの検出及び定量化は、例えばクロマトグラフィー(例えばHPLC)によって行われる。
【0046】
以下の実施例を用いて、本発明を更に詳説する。
【実施例】
【0047】
実施例1:プラスミドpFL242の構築
GAPDH−プロモーター−RLSS断片のクローニングのために、プラスミドpKP504を制限エンドヌクレアーゼSspIを用いて直鎖化した。プラスミドpKP504の製造は、特許EP−A−1457569号の実施例4に記載されている。引き続き、直鎖化されたプラスミドの脱リン酸化をアルカリ性ホスファターゼ(ロシュ社、マンハイム在)を用いて行った。引き続き、ライゲーションの前に、直鎖化されたベクターの精製を、QIAquick Nucleotide Removal Kit(キアゲン社、ヒルデン在)を使用して製造元の指示に従って実施した。GAPDH−プロモーター−RLSS断片を、SAM産生プラスミドpMSRLSSk(EP1457569号A1)から制限エンドヌクレアーゼEcl136II及びStuIを用いて単離した。該断片をアガロースゲル電気泳動を介して精製し、引き続きゲル抽出(QIAquick Gel Extraction Kit、キアゲン社、ヒルデン在)した後に、GAPDH−プロモーター−RLSS断片と、SspIで直鎖化されたベクターpKP504とのライゲーションをT4−DNA−リガーゼ(ロシュ社、マンハイム在)を用いて製造元の指示に従って実施した。
【0048】
菌株DH5α(インビトロジェン社、カールスルーエ在)のE.コリ細胞を前記ライゲーション混合物で形質転換することは、エレクトロポレーションによって当業者に公知のように実施した。形質転換混合物を、LB−テトラサイクリン−寒天プレート(10g/lのトリプトン、5g/lの酵母エキス、5g/lのNaCl、15g/lの寒天、20mg/lのテトラサイクリン)に塗布し、37℃で一晩インキュベートした。
【0049】
所望の形質転換体を、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社、ヒルデン在)によるプラスミド単離に従って制限分析によって同定した。前記のようにして得られたプラスミドpFL242(図1)には、今や、E.コリ由来のgapA遺伝子の構成的なGAPDH−プロモーターの制御下に更なる遺伝子をクローニングすることが可能である。本実施例の実施のために使用されたプラスミドpFL242は、2005年2月17日にDSMZ(ドイツ微生物細胞培養コレクション、D−38142 ブラウンシュバイク在)において番号DSM17142としてブタペスト条約に従って寄託された。
【0050】
実施例2:プラスミドpFL274の構築
A. cmr(mdfA)遺伝子の増幅
E.コリ由来のcmr(mdfA)遺伝子を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、Taq−DNA−ポリメラーゼを使用して、当業者に公知の通常の慣習に従って増幅させた。鋳型として、E.コリ野生型菌株W3110(ATCC 27325)の染色体DNAを用いた。プライマーとしては、配列
【0051】
【表1】

を有するオリゴヌクレオチドcmr for(配列番号3)と、配列
【0052】
【表2】

を有するオリゴヌクレオチドcmr rev(配列番号4)とを使用した。
【0053】
PCRで得られた約1.3kb長を有するDNA断片を、引き続きQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社、ヒルデン在)のDNA吸着カラムを用いて製造元の指示に従って精製した。
【0054】
B. cmr(mdfA)遺伝子のベクターpFL242へのクローニング
該PCR断片に、プライマーのcmr forとcmr revとを介して、制限エンドヌクレアーゼStuI及びPacIについての2つの切断部位を挿入した。精製されたPCR断片を、制限エンドヌクレアーゼStuI(ロシュ社、マンハイム在)及びPacI(ニューイングランド・バイオラブス社、フランクフルトアムマイン在)によって、製造元が指示する条件下で切断し、アガロースゲルにより分離し、次いでQIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社、ヒルデン在)を用いて製造元の指示に従ってアガロースゲルから単離した。
【0055】
cmr(mdfA)遺伝子のクローニングのために、ベクターpFL242を、制限酵素StuI及びPacIによって製造元が指示する条件下に切断した。引き続き該プラスミドを、アルカリ性ホスファターゼ(ロシュ社、マンハイム在)での処理によって5′末端において脱リン酸化させ、次いで同様にそのPCR断片をQIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社、ヒルデン在)によって精製した。該PCR断片と、切断され脱リン酸化されたベクターとのライゲーションを、製造元の指示に従ってT4−DNA−リガーゼ(ロシュ社、マンハイム在)を使用して実施した。菌株W3110(ATCC 27325)のE.コリ細胞を前記ライゲーション混合物で形質転換することは、エレクトロポレーションによって当業者に公知のように実施した。形質転換混合物を、LB−テトラサイクリン−寒天プレート(10g/lのトリプトン、5g/lの酵母エキス、5g/lのNaCl、15g/lの寒天、20mg/lのテトラサイクリン)に塗布し、37℃で一晩インキュベートした。
【0056】
所望の形質転換体を、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社、ヒルデン在)によるプラスミド単離に従って制限分析によって同定し、そして欠損がないことを配列解析によって確認した。
【0057】
前記のようにして得られたプラスミドpFL274(図2)においては、cmr(mdfA)遺伝子はGAPDH−プロモーターの制御下にある。
【0058】
実施例3:S−アデノシルメチオニンの生産者の製造
実施例2に記載されたプラスミドpFL274を使用して、CaCl法によってE.コリ菌株W3110(ATCC 27325)の形質転換を行い、そして20mg/lのテトラサイクリンを含有するLB−アガープレート上で選択した後に、該プラスミドを形質転換体のなかから再び単離し、制限エンドヌクレアーゼにより分解して調査した。前記の菌株をW3110/pFL274と呼称し、該菌株はSAMの製造のために適している。
【0059】
実施例4:S−アデノシルメチオニンの発酵的製造
A. SAMの製造
SAMの発酵的製造のために、菌株W3110/pFL274を使用した。比較として、一方でプラスミド不含の野生型菌株W3110(ATCC 27325)を用い、そして他方で菌株W3110/pMSRLSSkを用い、これらを同じ条件下で培養した。W3110/pMSRLSSkは、実施例3と同様にW3110とプラスミドpMSRLSSkから製造した。培養のために以下の培地を使用した:1lの培地につき:CaCl×2HO 0.0147g、MgSO×7HO 0.3g、NaMoO×2HO 0.15mg、HBO 2.5mg、CoCl×6HO 0.7mg、CuSO×5HO 0.25mg、MnCl×4HO 1.6mg、ZnSO×7HO 0.3mg、KHPO 3.0g、KHPO 12.0g、(NHSO 5g、NaCl 0.6g、FeSO×7HO 0.002g、クエン酸三ナトリウム×2HO 1g、グルコース 15g、トリプトン 1g、酵母エキス 0.5g。
【0060】
W3110/pMSRLSSkとW3110/pFL274の培養の場合には、培地に20μg/mlのテトラサイクリンを添加した。更に該培地は0.5g/lのL−メチオニンの添加を含んでいる。製造培養のための前培養として、まず試験管中の3mlの培地にそれぞれの菌株を接種し、そして37℃及び150rpmにおいて16時間振とう器でインキュベートした。前記のようにして準備された細胞を、最終的に、100mlのエルレンマイヤーフラスコ中の同じ培地20mlに0.1のOD600(600nmでの吸光度)になるまで接種した。製造培養のインキュベーションは、37℃及び150rpmにおいて振とう器で48時間まで実施した。24時間後と48時間後に試料を採取し、培養培地の遠心分離によって細胞を分離した。 B. 製造されたSAMの定量化
培養上清中に含まれるSAMをHPLCによって定量化した。その際には、250*4.6mmのDevelosil RP−Aqueous C30カラム(5μm)(フェノメネックス社、アシャッフェンブルク在)を使用して、培養上清10μLを適用し、それを1lのHOあたり3mlの85%HPOからなる溶離剤を用いた定組成溶離によって室温で0.5ml/分の流速で分離し、波長260nmでダイオードアレイ検出器によって定量化した。第1表は、それぞれの培養上清において得られたSAMの含有量を示している。
【0061】
第1表:
【0062】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、プラスミドpFL242を示す
【図2】図2は、プラスミドpFL274を示す

【特許請求の範囲】
【請求項1】
S−アデノシルメチオニンを分泌する微生物株であって、高められたcmr(mdfA)遺伝子産物の活性を有することを特徴とする微生物株。
【請求項2】
請求項1記載の微生物株であって、その菌株の細胞が、cmr(mdfA)遺伝子産物を有する野性型の微生物株の細胞と比較して、少なくとも2倍、有利には少なくとも5倍だけ高められたcmr(mdfA)遺伝子産物の活性を有することを特徴とする微生物株。
【請求項3】
請求項1又は2記載の微生物株であって、cmr(mdfA)遺伝子産物が、配列番号2のアミノ酸配列を有するか、又は配列番号2に対して15%より高い配列同一性を有することを特徴とする微生物株。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載の微生物株であって、その菌株が、腸内細菌科の菌株、有利には大腸菌の種の菌株であることを特徴とする微生物株。
【請求項5】
プラスミドであって、そのプラスミドがSAM合成酵素遺伝子並びにcmr(mdfA)遺伝子とプロモーターとを有することを特徴とするプラスミド。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれか1項記載の微生物株の製造方法において、出発菌株へと請求項5記載のプラスミドを取り込ませることを特徴とする方法。
【請求項7】
SAMの製造方法において、請求項1から4までのいずれか1項記載の微生物株を発酵培地中で発酵を行わせ、そしてその際に発酵培地中にSAMを分泌させることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法において、SAMを発酵培地から分離することを特徴とする方法。
【請求項9】
SAMの製造における排出タンパク質としての、cmr(mdfA)遺伝子産物の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−238883(P2006−238883A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56854(P2006−56854)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(390009003)コンゾルテイウム フユール エレクトロケミツシエ インヅストリー ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (17)
【氏名又は名称原語表記】Consortium fuer elektrochemische Industrie GmbH
【住所又は居所原語表記】Zielstattstrasse 20,D−81379 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】