説明

S−(−)−アムロジピンの製造方法

本発明は、D−(−)−酒石酸に比べてはるかに低コストのL−(+)−酒石酸を使用して、工業的規模で(R,S)−アムロジピンからS−(−)−アムロジピンを製造する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はS−(−)−アムロジピンの製造方法、より詳細にはD−(−)−酒石酸に比べてはるかに低コストのL−(+)−酒石酸を使用して、工業的規模で(R,S)−アムロジピンからS−(−)−アムロジピンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アムロジピンは、その化学名が3−エチル 5−メチル2−[(2−アミノエトキシ)メチル]−4−(2−クロロフェニル)−1,4−ジヒドロ−6−メチルピリジン−3,5−ジカルボキシレートであり、虚血及び高血圧治療剤として有用な、強力かつ長期間にかけて活性を表すカルシウムチャンネル遮断剤である。アムロジピンの2つのエナンチオマーは相異なる薬理学的プロファイルを持つと知られている。S−(−)−異性体がR−(+)−異性体がより強力なカルシウムチャンネル遮断剤である一方、R−(+)−異性体もアテローム性動脈硬化症の治療または予防に活性を表す。
【0003】
J.Med.Chem.(1986)29 1696は、ジアステレオマー性アジドエステルの分離を通じてアムロジピンの2つの異性体を製造する方法を開示しており、ヨーロッパ特許公開EP331,315 A1は、中間体の光学分割のためにシンコニジン塩を使用して窮極的にエナンチオマー的に純粋なアムロジピン異性体を得る方法を開示している。J.Med.Chem.(1992)35 3341は、ジアステレオマー性アミド異性体をクロマトグラフィー的に分離する方法を開示している。
【0004】
また、国際公開第WO95/25722号は、(R)−(+)−アムロジピン及び(S)−(−)−アムロジピンの混合物から(R)−(+)−アムロジピン及び(S)−(−)−アムロジピンを分離する方法として、異性体の混合物をL−(+)−またはD−(−)−酒石酸とジメチルスルホキシド(DMSO)中で反応させて、それぞれ(R)−(+)−アムロジピンのL−酒石酸塩のDMSO溶媒和物または(S)−(−)−アムロジピンのD−酒石酸塩のDMSO溶媒和物を製造する段階を含む製造方法を開示している。
【0005】
より強力なカルシウムチャンネル遮断活性を持つS−(−)−異性体を製造するためには、国際公開第WO95/25722号による方法はD−酒石酸を使用する。しかし、D−(−)−酒石酸は、L−(+)−酒石酸に比べて非常に高コストであるので、(S)−(−)−アムロジピンの工業的量産には適していない。
【0006】
したがって、(S)−(−)−アムロジピンを工業的に量産できる製造方法が要求されてきた。
【特許文献1】ヨーロッパ特許公開EP331,315 A1
【特許文献2】国際公開第WO95/25722
【非特許文献1】J.Med.Chem.(1986)29 1696
【非特許文献2】J.Med.Chem.(1992)35 3341
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、D−(−)−酒石酸に比べてはるかに低コストのL−(+)−酒石酸を使用して、工業的規模で(R,S)−アムロジピンからS−(−)−アムロジピンを製造する方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、S−(−)−アムロジピン製造のための合成中間体を提供する。
【0009】
本発明の一態様として、(i)DMSO中で、(R,S)−アムロジピンをL−(+)−酒石酸と反応させる段階と、(ii)段階(i)で得られた沈殿物をろ過する段階と、(iii)段階(ii)で得られたろ過液に塩化メチレンを加えてS−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物を沈殿させる段階と、(iv)任意に、段階(iii)で得られたS−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物にアルコールを加えて、S−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−一水和物を形成する段階と、(v)段階(iii)で得られたS−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物または段階(iv)で得られたS−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−一水和物を塩基で処理する段階と、を含むS−(−)−アムロジピンの製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明の他の態様として、S−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物またはS−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−一水和物が提供され、それらそれぞれはS−(−)−アムロジピンの製造に有用である。
【0011】
前記本発明の特徴及び長所は、下記添付した図面を参照して例示的かつ非制限的な具現例を詳細に説明することによってさらに明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は高い収率及び光学的純度でS−(−)−アムロジピンを経済的に製造する方法を提供する。本発明の製造方法によって、DMSO中で、(R,S)−アムロジピンをL−(+)−酒石酸と反応させ、得られる沈殿物をろ過して除去する。得られたろ過液に塩化メチレンを加えてS−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物を沈殿させる。任意に、S−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物にアルコールを加えてS−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−一水和物を形成する。S−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物またはS−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−一水和物を塩基で処理する。
【0013】
下記反応式は、本発明の製造方法を説明する。
反応式:
【0014】
【化1】

L−(+)−酒石酸は、D−(−)−酒石酸に比べてはるかに低コストであり、製造コストをはるかに下げることができるので、S−(−)−アムロジピンの工業的量産に非常に適している。望ましくは、L−(+)−酒石酸の量は、(R,S)−アムロジピン1当量に対して約0.5〜0.55当量である。
【0015】
一実施態様で、(R,S)−アムロジピンをDMSO中でL−(+)−酒石酸と反応させて沈殿物、すなわち、R−(+)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物を生成し、それをろ過して除去する。前記DMSOの量はラセミ混合物、すなわち、(R,S)−アムロジピン1gに対して約4〜6倍、望ましくは約5倍の体積(ml)である。過量のDMSOが使われる場合(例えば、(R,S)−アムロジピン1gに対して約10mlのDMSO)、約10%のR−(+)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物がDMSO内に存在し、これは最終生成物、すなわち、S−(−)−アムロジピンの光学的純度を落すことがあって望ましくない。
【0016】
R−(+)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物をろ過して除去するに当っては、通常のろ過方法を、望ましくは減圧下で使用できる。例えば、通常の遠心分離方法を使用でき、この場合、遠心分離により得られた上澄液は次の段階でろ過液として使われる。したがって、本発明の製造方法によるろ過−除去工程は、沈殿物を除去するための適用可能な通常の方法を含むと解釈されねばならない。
【0017】
前記ろ過液に塩化メチレンを加えれば、沈殿物、すなわち、S−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物が生成される。塩化メチレンの量は段階(i)で使われたDMSOの体積に対して約100〜200体積%でありうる。
【0018】
本発明の製造方法はまた、DMSOのないS−(−)−アムロジピンL−酒石酸塩、すなわち、S−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−一水和物を形成する再結晶段階をさらに含むことができる。前記再結晶段階をさらに行うことによってS−(−)−アムロジピンの光学的純度を高めることができる。再結晶は、メタノールを含むアルコールを使用して行える。
【0019】
本発明の製造方法は、S−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物またはS−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−一水和物を塩基で処理して光学的に純粋なS−(−)−アムロジピンを得る段階を含む。前記塩基は金属水酸化物、酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、及びアミドを含むが、これに限定されない。望ましくは、前記塩基は重炭酸ナトリウムである。また、前記塩で処理する工程は有機溶媒、望ましくは塩化メチレン中で行える。
【0020】
本発明は、その範囲内にS−(−)−アムロジピンの製造のための合成中間体を含む。すなわち、本発明はS−(−)−アムロジピンの製造に有用なS−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物またはS−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−一水和物を提供する。S−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物は、1/4−、1/2−(すなわち、ヘミ−)、またはモノ−DMSO−溶媒和物の形態;またはそれらの混合物、例えば1/4−及び1/2−DMSO−溶媒和物の混合物形態でありうる。望ましくは、S−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物は1/4−DMSO溶媒和物、すなわち、S−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−1/4−DMSO−溶媒和物の形態である。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例を通じてさらに詳細に説明するが、本発明の範囲ががそれに限定されるものではない。
【0022】
<実施例1>(R,S)−アムロジピンからの(S)−アムロジピンの製造
(1)(S)−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物
DMSO(25mL)中に(R,S)−アムロジピン(10g、24.46mmole)を溶解させた溶液に、DMSO(25mL)中にL−(+)−酒石酸(1.872g、0.51モル当量)を溶解させた溶液を攪拌しつつ加えた。添加後5分以内に沈殿物が観察され、生成されたスラリを室温で一晩中攪拌した。生成された固体をろ過して除去した。得られたろ過液にCH2Cl2(50mL)を加えて室温で40時間攪拌した。生成されたスラリを5℃に冷却し、2時間攪拌した後にろ過した。得られた固体を50℃で一晩中真空乾燥して下記1H−NMRデータを持つ固体(5.48g)を得た。図1は、前記固体の1H−NMRチャートを示し、これは前記固体が(S)−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−1/4−DMSO−溶媒和物であることを意味する。
【0023】
1H−NMR(CD3OD):7.04−7.41(m,4H),5.40(s,1H),4.72(gq,2H),4.36(s,1H),4.02(m,2H),3.77(m,2H),3.57(s,3H),3.28(m,2H),2.65(s,DMSO),2.31(s,3H),1.15(t,3H)
(2)(S)−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−一水和物
段階(1)で製造した(S)−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物(5.48g)をメタノール(25mL)で還流させて溶液を得た。前記溶液を室温に冷却した。得られたスラリを室温で一晩中攪拌してろ過した。得られた固体を50℃真空中で一晩中乾燥させて下記1H−NMRデータを持つ固体(4.92g)を得た。図2は、前記固体の1H−NMRチャートを示し、これは前記固体が(S)−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−一水和物であることを意味する。
【0024】
1H−NMR(CD3OD):7.04−7.41(m,4H),5.40(s,1H),4.72(gq,2H),4.34(s,1H),4.04(m,2H),3.77(m,2H),3.57(s,3H),3.29(m,2H),2.33(s,3H),1.15(t,3H)
(3)(S)−(−)−アムロジピン
CH2Cl2(44mL)中の段階(2)で製造した(S)−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−一水和物(4.92g)スラリに2N NaHCO3(44mL)を5℃で加えた。反応混合物を20分間攪拌させた後、得られた有機層を水で2回洗浄した後で濃縮した。得られた混合物をn−へキサン及びエチルアセテート(2:1,v/v)の混合溶媒30mlに溶解させた溶液を5℃に冷却してろ過した。得られた固体を50℃真空中で一晩中乾燥させてS−(−)−アムロジピン(3.45g)を得た。
【0025】
収率:69%
融点:108〜110℃
1H−NMR(CD3OD):7.03〜7.41(m,4H),5.39(s,1H),4.67(gq,2H),3.98〜4.06(m,2H),3.55〜3.58(t,2H),3.57(s,3H),2.86(m,2H),2.33(s,3H),1.15(t,3H)
[α]D25=−31.2(c=1,MeOH)
キラルHPLC:97.9%ee
<実施例2>
(S)−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−一水和物の代わりに、実施例1の段階(1)によって製造した(S)−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物(3g)を使用したことを除いては、実施例1の段階(3)を再度行い(S)−(−)−アムロジピン2.1gを得た。
【0026】
[α]D25=−26.4(c=1,MeOH)
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】S−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物の1H−NMRチャートを示す。
【図2】S−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−一水和物の1H−NMRチャートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ジメチルスルホキシド(DMSO)中で、(R,S)−アムロジピンをL−(+)−酒石酸と反応させる段階と、
(ii)段階(i)で得られた沈殿物をろ過する段階と、
(iii)段階(ii)で得られたろ過液に塩化メチレンを加えてS−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物を沈殿させる段階と、
(iv)任意に、段階(iii)で得られたS−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物にアルコールを加えて、S−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−一水和物を形成する段階と、
(v)段階(iii)で得られたS−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物または段階(iv)で得られたS−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−一水和物を塩基で処理する段階と、
を含むS−(−)−アムロジピンの製造方法。
【請求項2】
前記L−(+)−酒石酸の量は(R,S)−アムロジピン1当量に対して約0.5〜0.55当量であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記DMSOの量が(R,S)−アムロジピン1gに対して約4〜6倍の体積(ml)であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
段階(iii)の塩化メチレンの量は段階(i)で使われたDMSOの体積に対して約100〜200体積%であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記アルコールはメタノールであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記塩基は金属水酸化物、酸化物、炭酸塩、重炭酸塩またはアミドであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記塩基は重炭酸ナトリウムであることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記段階(v)は有機溶媒中で行われることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記有機溶媒は塩化メチレンであることを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
S−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−DMSO−溶媒和物。
【請求項11】
S−(−)−アムロジピン−ヘミ−L−酒石酸塩−一水和物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−501264(P2006−501264A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−535251(P2004−535251)
【出願日】平成15年9月8日(2003.9.8)
【国際出願番号】PCT/KR2003/001849
【国際公開番号】WO2004/024689
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(504346709)ハンリム ファーマシューティカル カンパニー リミテッド (2)
【Fターム(参考)】