説明

SMA作動装置

SMA作動装置は、たとえば光学画像の安定化を図るために、SMAアクチュエータワイヤを使用して、支持構造体上に支持された可動要素を動かす。8本のSMAアクチュエータワイヤが、仮想主軸に対して傾いて配置され、その主軸周りの4つの側面上それぞれに1対のSMAアクチュエータワイヤが存在する。4本のSMAアクチュエータワイヤの2つのグループが収縮すると、主軸に沿って対向する方向の成分を有する力を発生するように、SMAアクチュエータが連結され、その結果、それらグループは、主軸に沿う運動を実現することができる。各グループのSMAアクチュエータワイヤは主軸周りに2回回転対称であり、その結果、横方向運動または傾動を実現することができる互いに対抗するSMAアクチュエータワイヤが存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持構造体上に支持された可動要素の位置制御を行うためのSMA(shape memory alloy:形状記憶合金)アクチュエータワイヤの使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
可動要素の位置制御を行うことが望ましい様々なタイプの装置が存在する。SMAワイヤは、特にその高エネルギー密度により、その種装置のアクチュエータとして利点があり、その高エネルギー密度は、所与の力を加えるのに必要とされるSMAアクチュエータが比較的小型であることを意味する。
【0003】
SMAワイヤがアクチュエータとして使用されていることが知られている装置の1つのタイプがカメラ、特に小型カメラである。一例として、国際公開第2007/113478号は、たとえばカメラのレンズ要素によって画像センサ上に形成される画像を合焦させる目的で、光軸に沿うカメラのレンズ要素の運動を駆動するためにSMAアクチュエータワイヤが使用されるSMA作動装置を開示している。別の例として、国際公開第2010/029316号および国際公開第2010/089529号はそれぞれ、カメラのレンズ要素および画像センサを含むカメラユニットの傾動を駆動することによってカメラの光学画像の安定化(OIS:optical image stabilisation)を図るように駆動するためにSMAアクチュエータワイヤが使用されるSMA作動装置を開示している。傾動は、カメラのレンズ要素によって画像センサ上に形成される画像を振動に対して安定させるように制御される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様によれば、
支持構造体と、
支持構造体に対して運動することが可能なように支持構造体上に支持されている可動要素と、
仮想的な主軸に対して傾き、主軸周りの4つの側面上それぞれに1対のSMAアクチュエータワイヤが存在する8本のSMAアクチュエータワイヤであって、4本のSMAアクチュエータワイヤの2つのグループが収縮すると、主軸に沿って対向する方向の成分を有する力を可動要素に及ぼすように、SMAアクチュエータが、可動要素と支持構造体との間に連結され、各グループのSMAアクチュエータワイヤが、主軸周りに2回回転対称に配置されている、8本のSMAアクチュエータワイヤと
を備えるSMA作動装置が提供される。
【0005】
このように、SMA作動装置は、多自由度によって可動要素の位置制御を行うことができるように構成された8本のSMAアクチュエータワイヤを使用する。各SMAアクチュエータワイヤが独立に駆動される最も一般的な場合には、位置制御は、以下の全ての自由度で可動要素を動かせるように形成することができる。すなわち、主軸に沿う運動、主軸に横向きのあらゆる任意の方向の運動、あらゆる任意の方向の傾動である。いくつかの実施形態では、任意選択で、より制約した方式で駆動を実施することができるが、一般的に言えば、SMA作動装置は、SMAアクチュエータワイヤの様々な組合せを選択的に作動させることによって、多様な位置制御を実現する。
【0006】
位置制御の自由度は、以下のように、SMAアクチュエータワイヤの構成から生じる。4本のSMAアクチュエータワイヤの2つのグループが、対向する方向の成分を有する力を可動要素に及ぼし、それにより、こられグループを共通に作動させると、主軸に沿う運動が駆動される。配置が対称なため、各グループ内のSMAアクチュエータワイヤの対に差違のある作動をさせると、傾動運動が駆動される。さらに、配置が対称なため、主軸に横方向の成分を有する力を発生するSMAアクチュエータワイヤの対がある。したがって、それぞれの対を共通に作動させることによって、それら横方向の運動が駆動される。その結果、SMAアクチュエータワイヤのこれら組合せの選択的な作動を組み合わせて様々な運動を駆動することができる。
【0007】
一般に、SMA作動装置は、支持構造体上に支持された広範囲のタイプの可動要素の位置制御を行うために用いることができる。カメラ装置内の非限定的ないくつかの例が、次いで、説明される。
【0008】
一例では、SMA作動装置は、画像センサと、画像センサ上に画像を合焦するように配置されたカメラレンズ要素とを備えるカメラユニットの運動を駆動することによって、OISを有するカメラを形成するために使用することができる。この場合には、主軸が、カメラレンズ要素の主軸である。SMA作動装置は、国際公開第2010/029316号および国際公開第2010/089529号に開示されたのと同じ方式でカメラユニットの傾動を駆動するために使用することができる。さらに、SMA作動装置は、光軸に横方向にカメラユニットの運動を駆動するために使用することができる。傾動は、光軸に直交する傾斜によって生じるぼけに対して安定化を図る。光軸周りの傾斜によって生じるぼけに対して安定化を図るために、横向きの運動をさらに使用することができることが認められている。この追加のOISは、小型カメラに適合されたとき特に利点を有し、その場合、比較的広角の画像は、光軸周りのそのような傾斜によって生じるぼけを特に受けやすい。
【0009】
別の例では、SMA作動装置は、OISを有し、たとえば合焦のために、光軸に沿うカメラレンズ要素の運動を有するカメラを形成するために使用することができる。この例では、SMA作動装置は、支持構造体に固定された画像センサをさらに備えるカメラ装置であり、可動要素は、画像センサ上に画像を合焦するように配置されたカメラレンズ要素を備える。主軸は、カメラレンズ要素の光軸である。SMA作動装置は、光軸に横向きのカメラ要素の運動によるOIS、ならびに光軸に沿うカメラレンズ要素の運動を実施することができる。これは、OISの実施と、光軸に沿うカメラレンズ要素の運動の実施とに別々の作動機構が用いられるカメラに比較して、全体の大きさを減少させるので、有利である。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、独立に制御される複数のSMAワイヤを使用する、小型カメラ用の光学画像安定化装置であって、各ワイヤに印加される電力が制御され、各ワイヤの電気抵抗が、制御を可能にするために監視され、ワイヤがさらに、基礎励起(基部励振又は励弧(base excitation))によってカメラモジュールに加えられる傾斜を感知するために、協調して作用し、SMAワイヤシステム上に懸架されているカメラモジュールの実効共振周波数を低下させるようにワイヤを制御することによって、ワイヤが、ジャイロスコープセンサなしでOIS機能を達成するように制御される、光学画像安定化装置が提供される。
【0011】
より良い理解を可能にするために、次いで、本発明の実施形態が、添付図面を参照して非限定的例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】SMA作動装置の第1の配置の図である。
【図2】SMA作動装置の第2の配置の図である。
【図3】SMA作動装置の第3の配置の図である。
【図4】SMA作動装置の第4の配置の図である。
【図5】SMA作動装置の第5の配置の図である。
【図6】SMA作動ワイヤの制御回路の構成図である。
【図7】制御回路の駆動回路の構成図である。
【図8】OISを行うカメラ装置であるSMA作動装置の概略断面図である。
【図9】図8または図10のカメラ装置用に適合された制御回路の構成図である。
【図10】OISおよびレンズの運動を行うカメラ装置であるSMA作動装置の概略断面図である。
【図11】SMA作動装置の第1の構造の透視図である。
【図12】図11の支持構造体の透視図である。
【図13】図11の可動要素の透視図である。
【図14】SMA作動装置の第2の構造の透視図である。
【図15】図14の支持構造体の透視図である。
【図16】図14の可動要素の透視図である。
【図17】図14のサブアセンブリの透視図である。
【図18】図14のサブアセンブリの透視図である。
【図19】図17のサブアセンブリの組立ての透視図である。
【図20】図18のサブアセンブリの組立ての透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
SMA作動装置10のいくつかの異なる配置が、図1〜5に示されており、次いで、説明される。各事例では、可動要素11が、8つのSMAアクチュエータワイヤ1〜8によって支持構造体12上に支持されている。SMAアクチュエータワイヤ1〜8の配置は変化しているが、共通の要素は共通の参照番号を有する。
【0014】
可動要素11は、一般にいかなるタイプの要素でもよい。可動要素11は、主軸Pに沿って視ると正方形を有するが、より一般にはいかなる形状をも有し得る。支持構造体12は、概略的に図示されているが、一般には、可動要素11を支持するのに適したいかなるタイプの要素でもよい。支持構造体12は、可動要素11が支持構造体に対して運動することができるように可動要素を支持する。図1〜5の配置では、可動要素11は、SMAアクチュエータワイヤ1〜8のみによって支持構造体12に支持されているが、原理的に、SMA作動装置10は、可動要素11を支持構造体12にさらに懸架する懸架システムを備えてもよい。
【0015】
各SMAアクチュエータワイヤ1〜8は、場合によっては中間構成要素を介して、可動要素11および支持構造体12のそれぞれ1つに両端で連結される1本のSMAワイヤを備える。機械的連結を行う任意の適切な手段を使用することができ、たとえば任意選択で接着剤を使用することによって補強されたクリンピング部材を使用してもよい。さらに、SMAアクチュエータワイヤ1〜8に対する電気的接続が、たとえばクリンピング部材が使用されればそれによって、行われる。
【0016】
各SMAアクチュエータワイヤ1〜8は、主軸Pの側面に沿って、主軸Pに関し放射状の仮想線に対して垂直に、主軸に対して傾いて延在する。各SMAアクチュエータワイヤ1〜8は、引張状態に保持され、それによって、主軸Pに沿う方向の力成分および主軸Pに垂直な横方向の力成分を及ぼす。
【0017】
SMA材は、加熱すると、SMA材を収縮させる固体相変化を生じる特性を有する。低温では、SMA材はマルテンサイト相に移行する。高温では、SMAは、SMA材に収縮を生じさせる変形を起こすオーステナイト相に移行する。相変化は、SMA結晶構造の転移温度の統計的分布による温度範囲全体を通じて生じる。このように、SMAアクチュエータワイヤ1〜8を加熱することによって、それらワイヤの長さが減少する。SMAアクチュエータワイヤ1〜8は、任意の適切なSMA材、たとえばニチノールまたは別のチタニウム合金SMA材から製作することができる。有利には、SMAアクチュエータワイヤ1〜8の材料成分および前処理は、通常作動中の予想環境温度より上の、位置制御の範囲を最大限にするような可能な限り広い温度範囲に亘って相変化を行うように選択される。
【0018】
SMAアクチュエータワイヤ1〜8の1本を加熱すると、その応力が増加し、そのSMAアクチュエータワイヤが収縮する。これが、可動要素11を運動させる。運動の範囲は、マルテンサイト相からオーステナイト相へのSMA材の転移が生じる温度の範囲を通してSMAの温度が増加するにつれて広がる。逆に、SMAアクチュエータワイヤ1〜8の1本をその応力が減少するように冷却すると、そのSMAアクチュエータワイヤが、SMAアクチュエータワイヤ1〜8の対抗するワイヤからの力を受けて伸長する。これにより、可動要素11を反対方向に動かすことができる。
【0019】
光軸Oに沿った、支持構造体12に対する可動要素11の位置が、SMAアクチュエータワイヤ1〜8の温度を変化させることによって制御される。これは、抵抗加熱を生じる駆動電流をSMAアクチュエータワイヤ1〜8に通すことによって達成される。加熱は、駆動電流によって直接行われる。冷却は、駆動電流を減少または停止して可動要素11をその周囲への熱伝導によって冷却させることによって行われる。
【0020】
図1に示されるSMA作動装置10の第1の配置は以下の通りである。
【0021】
2本のSMAアクチュエータワイヤ1〜8が、主軸Pの周りの4つの側面のそれぞれに配置されている。各側面上の2本のSMAアクチュエータワイヤ1〜8、たとえばSMAアクチュエータワイヤ1および2は、主軸Pから垂直方向に視て互いに反対方向に傾き、互いに交差している。SMAアクチュエータワイヤ1〜8が配置されている4つの側面は、主軸Pの周りを一周して延在する。この例では、側面同士は直交し、その結果、主軸Pに沿って視ると正方形を形成するが、その代わりに、側面同士は違う4辺形を取ることもできる。この例では、SMAアクチュエータワイヤ1〜8は、SMA作動装置10を好都合に実装する可動要素11の外面に平行であるが、必須ではない。
【0022】
各側面上の2本のSMAアクチュエータワイヤ1〜8は、主軸Pに沿う同じ方向の成分を有する力を可動要素11に及ぼすように可動要素11および支持構造体12に連結され、これが、隣り合う側面に互い違いに起こる。それにより、対向する側面上のSMAアクチュエータワイヤ1〜4が、一方の方向(図1では下向き)の力を発生するグループを形成し、別の対向する側面上のSMAアクチュエータワイヤ5〜8が、反対方向(図1では上向き)の力を発生するグループを形成する。
【0023】
SMAアクチュエータワイヤ1〜8は、長さおよび傾斜角が同じである対称な配置を有し、その結果、SMAアクチュエータワイヤ1〜4のグループおよびSMAアクチュエータワイヤ5〜8のグループの両方が、それぞれ主軸Pの周りに2回回転対称に配置されている(すなわち、SMAアクチュエータワイヤ1〜8および可動要素11の正方形の面に垂直に)。SMAアクチュエータワイヤ1〜4およびSMAアクチュエータワイヤ5〜8のグループは、主軸Pに沿って同じ位置に設けられている。
【0024】
この対称配置の結果、SMAアクチュエータワイヤ1〜8の様々な組合せを選択的に作動させると、以下の通り、可動要素11の運動を多数の自由度で駆動することができる。
【0025】
SMAアクチュエータワイヤ1〜4のグループおよびSMAアクチュエータワイヤ5〜8のグループに共通の作動をさせると、主軸Pに沿った運動を駆動する。
【0026】
各グループ内で、対向する側面上のSMAアクチュエータワイヤ(たとえば、一方でSMAアクチュエータワイヤ1〜2、他方でSMAアクチュエータワイヤ3〜4)に差違のある作動をさせると、主軸Pに垂直な横軸周りの傾動を駆動する。あらゆる任意の方向の傾動を、2つの横軸周りの傾斜の線型組合せとして実現することができる。
【0027】
各グループ内で、平行な2本のSMAアクチュエータワイヤ(たとえば、一方でSMAアクチュエータワイヤ1および4、他方でSMAアクチュエータワイヤ2および3)に共通の作動をさせると、主軸Pに垂直な横軸に沿った運動を駆動する。主軸Pに垂直なあらゆる任意の方向の運動を、2つの横軸に沿った運動の線型組合せとして実現することができる。
【0028】
図2に示されるSMA作動装置10の第2の配置は以下の通り行われている。SMAアクチュエータワイヤ1〜8は、第1の配置と同じ構成を有する。ただし、SMA作動装置10は、可動要素の各側面上に配置された枢動部材13をさらに備える。各側面上の2本のSMAアクチュエータワイヤ、たとえばSMAアクチュエータワイヤ1〜2が、それぞれ枢動部材13に連結され、その結果、それらSMAアクチュエータワイヤは、可動要素11に間接的に連結されている。枢動部材13はそれぞれ、2本のSMAアクチュエータワイヤ1〜8が枢動部材に連結されている間の中途位置で可動要素11に枢動的に連結されている。したがって、枢動部材13は、2本のSMAワイヤ1〜8と可動要素11との間の枢動を可能にし、それによって、一方のグループのSMAアクチュエータワイヤ1〜4(または5〜8)が、他方のグループのSMAアクチュエータワイヤ5〜8(または1〜4)からの干渉なしに可動要素11の傾動を駆動することを可能にする。
【0029】
SMA作動装置10の第2の配置は、第1の配置と同様に作動する。
【0030】
主軸Pに沿った運動を駆動する2つのグループそれぞれが、主軸P周りに2回回転対称であるSMAアクチュエータワイヤ1〜8の別の配置を実現することが、たとえば以下のように可能である。
【0031】
図3に示されるSMA作動装置10の第3の配置は、SMAアクチュエータワイヤ1〜4のグループとSMAアクチュエータワイヤ5〜8のグループとが主軸に沿って別々の位置に設けられている以外は、第1の配置と同じである。SMA作動装置10の第3の配置は、第1の配置と同様に作動する。
【0032】
図4に示されるSMA作動装置10の第4の配置は以下のように行われる。
【0033】
第4の配置は、主軸Pの4つの垂直側面のそれぞれの上に、第1の配置と本質的に同じ位置に配置されているが、可動要素11および支持構造体に異なる連結をされたSMAアクチュエータワイヤ1〜8を備える。それによって、各側面上のSMAアクチュエータワイヤ1〜8の1本が、主軸Pに沿って同じ方向の力を可動要素11に及ぼす。詳細には、SMAアクチュエータワイヤ1、3、5、7が一方の方向(図4では上向き)の力を発生するグループを形成し、他のSMAアクチュエータワイヤ2、4、6、8が、反対方向(図4では下向き)の力を発生するグループを形成する。
【0034】
SMAアクチュエータワイヤ1〜8は、長さおよび傾斜角が同じである対称な配置を有し、その結果、SMAアクチュエータワイヤ1、3、5、7のグループおよびSMAアクチュエータワイヤ2、4、6、8のグループの両方が、それぞれ主軸Pの周りに2回回転対称に配置されている(すなわち、隣接する側面上のSMAアクチュエータワイヤ1〜8間の角度を2等分し、可動要素の正方形の対角線に交差して)。
【0035】
この対称配置の結果、SMAアクチュエータワイヤ1〜8の様々な組合せを選択的に作動させると、以下の通り、可動要素11の運動を多数の自由度で駆動することができる。
【0036】
SMAアクチュエータワイヤ1、3、5、7のグループおよびSMAアクチュエータワイヤ2、4、6、8のグループに共通の作動をさせると、主軸Pに沿った運動を駆動する。
【0037】
各グループ内で、SMAアクチュエータワイヤの隣接する対(たとえば、一方でSMAアクチュエータワイヤ1、7、および他方でSMAアクチュエータワイヤ3、5)に差違のある作動をさせると、主軸Pに垂直な横軸周りの傾動を駆動する。あらゆる任意の方向の傾動を、2つの横軸周りの傾斜の線型組合せとして実現することができる。
【0038】
各グループから2本のSMAアクチュエータワイヤを含む4本のSMAアクチュエータワイヤのセット(たとえば、一方でSMAアクチュエータワイヤ1、2、7、8、他方でSMAアクチュエータワイヤ3〜6)に共通の作動をさせると、主軸Pに垂直な横軸に沿った運動を駆動する。主軸Pに垂直なあらゆる任意の方向の運動を、2つの横軸に沿った運動の線型組合せとして実現することができる。
【0039】
図5に示されるSMA作動装置10の第5の配置は以下のように行われる。
【0040】
第5の配置は、各側面上の1方のSMAアクチュエータワイヤ1〜8、すなわちSMAアクチュエータワイヤ2、4、6、8の傾きが逆向きであり、その結果、それらSMAアクチュエータワイヤが、同じ側面上の他方のSMAアクチュエータワイヤ1〜8、すなわちSMAアクチュエータワイヤ1、3、5、7に平行であることを除いては、第4の配置と同様である。
【0041】
したがって、第5の配置は、SMAアクチュエータワイヤの同じグループ、すなわち、第4の配置のように、共通に作動させると主軸Pに沿う方向の力を発生し、差違のある作動をさせると傾斜を発生するSMAアクチュエータワイヤ1、3、5、7のグループおよびSMAアクチュエータワイヤ2、4、6、8のグループを備える。同様に、各グループから2本のSMAアクチュエータワイヤを含む4本のSMAアクチュエータワイヤのセット(たとえば、一方でSMAアクチュエータワイヤ1、4、6、7、他方でSMAアクチュエータワイヤ2、3、5、8)に共通の作動をさせると、主軸Pに垂直な横軸に沿った運動を駆動する。主軸Pに垂直なあらゆる任意の方向の運動を、2つの横軸に沿った運動の線型組合せとして実現することができる。
【0042】
次いで、SMAアクチュエータワイヤ1〜8の制御がさらに論じられる。
【0043】
図6に示される制御回路20が、SMAアクチュエータワイヤ1〜8のそれぞれに対する駆動信号を生成する。制御回路20は、運動信号21によって表される所望の運動から駆動信号を導出する。1つの運動信号は、主軸Pに沿う所望の運動xを表す。別の運動信号は、主軸Pに垂直な横軸に沿う所望の運動y、zを表す。別の運動信号は所望の傾斜θ1、θ2を表す。
【0044】
運動信号21は、プロセッサまたはハードウェアに実装することができるマトリックスコントローラ22に入力される。マトリックスコントローラ22は、運動信号22に基づいてSMAアクチュエータワイヤ1〜8のそれぞれに対して制御信号を生成する。これには、それぞれの自由度による運動を達成するために各SMAアクチュエータワイヤ1〜8に必要な収縮に関するマトリックス計算を用いる。したがって、マトリックス計算は、SMA作動装置10のSMAアクチュエータワイヤ1〜8の実際の構成を表し、上記の第1から第5の配置のそれぞれに対して異なる。
【0045】
第1から第5の配置のそれぞれに関して上記に詳述したように、それぞれの自由度による運動に対して、収縮すると反対方向に運動を駆動するSMAアクチュエータワイヤ1〜8のセットが存在する。制御信号は、それぞれの運動信号21に対して、それらセットに差違のある収縮を行わせる。したがって、運動信号21の1つによって表されるいかなる自由度においても、2セットの対抗するSMAアクチュエータワイヤに対する制御信号が、その自由度での、差違のある変位を実現するように生成される。実際に、これは、それらセットに対する制御信号が、その自由度による要求された運動を表す、差違のある成分を有することを意味する。
【0046】
様々な運動信号21によって表される様々な自由度による運動から生じる、SMAアクチュエータ1〜8の様々なセットの差違のある収縮を表す差違のある成分は、線型に加算することができる。このようにして、いかなる自由度を含むいかなる運動も、SMAアクチュエータワイヤ1〜8の適切な組合せを選択的に作動させる制御信号に変換することができる。
【0047】
これら差違のある成分は、SMA材のヒステリシスなどの非線型作用を補正するために、様々な補正アルゴリズムによって修正することができる。
【0048】
さらに、制御信号は、SMAアクチュエータ1〜8の所望の応力を表す共通成分を含む。それぞれのSMAアクチュエータワイヤ1〜8が互いに応力を掛けるので、この応力を、SMAアクチュエータワイヤ1〜8の加熱を変化させることによって制御することができる。これによって、SMAアクチュエータワイヤ1〜8の応力サイクルの能動的制御が可能になる。SMA作動装置10は、最小限にその応力の範囲を抑えながら、SMAアクチュエータワイヤ1〜8に比較的高応力を発生するように構成される。高応力は、SMA材の応力が収縮を生じさせるのに十分になるまで温度を上昇させる。したがって、共通成分は、環境温度に応答して変化され得、環境温度自体は、温度センサ(図示せず)または環境温度が増加すると増加するSMAアクチュエータ1〜8の測定電気パラメータから求められる。逆に、歪の大きな変化に対して応力の範囲を小さく保つと、疲労作用を最小限に抑える利点を有する。応力範囲を最小限に抑えると、SMA材の相を変化させそれを収縮させるのに必要な駆動電力を最小限に抑える効果も有する。
【0049】
各SMAアクチュエータワイヤ1〜8は、マトリックスコントローラ22によって該当SMAアクチュエータワイヤ1〜8に関する制御信号が入力されるそれぞれの駆動回路23に接続されている。駆動回路23は、制御信号に従って駆動信号を生成し、その駆動信号をSMAアクチュエータワイヤ1〜8に入力する。各駆動回路23は、単独のSMAアクチュエータワイヤ1について図7に示されたのと同一の配置を有する。
【0050】
駆動回路23は、マトリックスコントローラ22から制御信号が入力され、抵抗フィードバックを用いてドライバ25を制御する駆動コントローラ24を備える。駆動コントローラ24は、プロセッサに実装することができる。マトリックスコントローラ22および駆動コントローラ24は、理解を容易にするために別々の構成要素として図示されているが、それらを共通のプロセッサに実装することもできる。
【0051】
ドライバ25は、SMAアクチュエータワイヤ1に駆動電流を供給するように接続されている。ドライバ25は、定電圧電源でも定電流電源でもよい。たとえば、後者の場合、定電流は120mA程度であり得る。
【0052】
駆動回路23は、SMAアクチュエータワイヤ1の抵抗を検出するために配置された検出回路26をさらに備える。ドライバ25が定電流電源である場合、検出回路26は、SMAアクチュエータワイヤ1の抵抗値の尺度であるSMAアクチュエータワイヤ1両端間の電圧を検出するように作動可能な電圧検出回路でもよい。ドライバ25が定電圧電源である場合、検出回路26は電流検出回路でもよい。より高度な精度のために、検出回路26は、SMAアクチュエータ両端間の電圧およびそれを通る電流の両方を検出し、それらの比率として抵抗の測定値を導出するように作動可能な、電圧検出回路と電流検出回路とを備えてもよい。
【0053】
駆動コントローラ24は、パルス幅変調電流を供給するドライバ25を制御するように配置されている。駆動コントローラ24は、検出回路26によって測定された抵抗値を受け取り、ドライバ26のPWMデューティサイクルを制御するための閉ループアルゴリズムにおけるフィードバック信号としてそれを使用して、全体制御信号によって表される要求値に従ってSMAアクチュエータ31を作動させる。その閉ループは比例型でもよい。
【0054】
SMAアクチュエータワイヤ1の電気抵抗を位置に関するフィードバックパラメータとして使用することによって、機能的運動範囲全体に亘って、SMA材の収縮および伸長は、その電気抵抗とほぼ線型になる。ヒステリシスおよびクリープを含めて、非線型性がある程度生じる。これらを無視することもできるが、より良好な線型性のために、閉ループ制御アルゴリズムにおいてこれらを補正することもできる。
【0055】
SMA作動装置10は、広範囲のタイプの可動要素11の位置制御を実現するために使用することができるが、SMA作動装置がカメラ装置であるいくつかの非限定的例が、次いで説明される。
【0056】
第1の例では、SMA作動装置10は、断面図である図8に概略的に示された、OISを実行するように配置されたカメラ装置であり、断面は、カメラ装置の光軸である主軸Pに沿って取られている。そのカメラ装置は、携帯電話機、メディアプレイヤまたは携帯情報端末などの携帯電子装置に組み込まれる。したがって、小型化が重要な設計基準である。
【0057】
可動要素11は、機能上のカメラであるカメラユニットであり、画像センサ30およびカメラレンズ要素31を備え、支持構造体12は、制御回路20が実装されているIC(integrated circuit:集積回路)チップ34がその上に存在するカメラ支持体である。
【0058】
可動要素11は、画像センサ30が装着され接続されているプリント回路基板(PCB:printed circuit board)32をその底面に有する。カメラレンズ要素31は、PCB32に向けて筐体33によって支持されており、画像センサ30上に画像を集束するように配置されている。画像センサ30は、画像を捕捉し、いかなる適切なタイプのもの、たとえばCCD(charge−coupled device:電荷結合素子)またはCMOS(complimentary metal−oxide−semiconductor:相補型金属酸化物半導体)素子でもよい。カメラユニットは、直径が最大10mmの1つまたは複数のレンズをカメラレンズ要素31が有する小型カメラである。
【0059】
さらに以下に説明するように、OISは、可動要素11全体を運動させることによって実現され、カメラユニットの内部構造がこの目的に対応しなくて済む利点を有する。したがって、カメラユニットは、機能的に標準的カメラでよく、OIS機能に拘わらず、所望の光学性能を実現するためにいかなる所望の構造をも有し得、たとえば、単一レンズまたは複数のレンズを備え、固定焦点式または可変焦点式である。
【0060】
この例では、OISは、可動要素11を傾動することによって行われるが、光軸である主軸Pに垂直な横軸に沿って可動要素11を動かすことによっても行われる。したがって、SMA作動装置は、傾動のみによってOISを行うカメラに勝る利点を提供する。これは、小型カメラ用のOISシステムは、より大型のデジタルスチールカメラに用いられるものとは異なる形で使用されるという認識に基づいている。この所見は、現時点では市場が認識していないと思われる。主として、デジタルスチールカメラ用のOISシステムは、カメラから遠い対象の望遠画像を撮るときの画像のぶれに対処するために使用される。そのような状況では、光軸に直交する軸周りのカメラの傾斜が、画像のぶれの主な原因である。
【0061】
しかし、小型カメラに関し、光学ズームは現時点では使用されていず、画像は広角である(たとえば典型的には60度視野を有する)。そのような状況では、画像が広角であるほど、光軸に直交する傾斜に加えて、光軸周りの傾斜によって起きるぼけを生じやすい。小型カメラ用のOISは、より良好な室内、低光量画像を可能にするより長い露出時間を許容する利点を有する。これは小型カメラに関して、画素およびレンズが小さいので、比較的少しの光子しかカメラに入らず画素によって感知されないので、特に重要である。したがって、OISシステムは、低光量状態での画質を改善する効果を有し、小型カメラを「より大型」に見せかけることを可能にする。カメラのビデオモードでのぶれを減少させるためにOISシステムを使用することもある。
【0062】
したがって、通常の2つではなく、直交する3つの軸(光軸を含めて)での傾斜を補正することが極めて有利である。この知見は、現時点では顧客仕様書に反映されていない。しかし、SMA作動装置10は、この知見を利用して、直交3軸におけるカメラの動的傾斜を積極的に補正することを可能にするアクチュエータ配置を提供する。
【0063】
マクロ画像に関しては、カメラの横ぶれ(傾斜に対して)によって生じる画像のぼけもまた著しい場合があることにも留意すべきである。これに対処するにはいくつかの方策があり、その1つは、この横ぶれを加速度計によって感知し、次いで、傾斜を誘起することによってそれを補正することであり、その誘起傾斜は、カメラからの撮影距離に関する情報を提供するカメラの自動焦点状態に依存する。これは、横ぶれを補正するために必要な傾斜は、カメラからの撮影距離に依存するからである。
【0064】
別法は、これら誘発線型運動を補正するために、カメラを横方向に変位させる追加の自由度を実現することがさらにできる作動機構を試行し準備することである。SMA作動装置10は、これら追加の自由度を可能にする。
【0065】
SMA作動装置10の制御回路20は、OIS機能を実現するために図9に示すように適合される。
【0066】
制御回路20は、可動要素11の角速度を表す信号を出力し、それによって、SMA作動装置10が受けている振動を検出する振動センサとして作動するジャイロスコープセンサ27をさらに備える。ジャイロスコープセンサ27は、通常、互いに垂直でかつ光軸に垂直な2軸周り、ならびに光軸周りの振動を検出する1対の小型ジャイロスコープであるが、一般に、より多くの数のジャイロスコープまたは他のタイプの振動センサを使用することもできる。
【0067】
ジャイロスコープセンサ27からの出力信号は、プロセッサに実装することができるOISコントローラ28に入力される。マトリックスコントローラ22およびOISコントローラ28は、理解を容易にするために別々の構成要素として図示されているが、それらを共通のプロセッサに実装することもできる。OISコントローラ28は、SMA作動装置10全体としての運動を補正するために必要な可動要素11の運動を表す運動信号21を導出する。これは、所望の傾斜θ1、θ2、および主軸Pに垂直な横軸に沿う所望の運動y、zを表す運動信号21を含む。この例では、主軸Pに沿う運動は必要なく、それ故、主軸Pに沿う所望の運動xを表す運動信号21は事実上固定されまたは使用されなくてもよい。
【0068】
ジャイロスコープセンサ27は、支持構造体12上に装着されているので、出力信号は支持構造体12の振動を表す。上記の振動は常に存在し、OISは、可動要素11をそれに対抗して傾動させることによって達成される。したがって、OISコントローラ28は、ジャイロスコープセンサ27によって測定された実際の傾斜とは逆の所望の運動を実現する運動信号21を生成する。
【0069】
第2の例では、SMA作動装置10は、断面図である図10に概略的に示された、OISと光軸に沿うレンズ要素の運動とを実行するように配置されたカメラ装置であり、断面は、光軸である主軸Pに沿って取られている。そのカメラ装置は、携帯電話機、メディアプレイヤまたは携帯情報端末などの携帯電子装置に組み込まれる。したがって、小型化が重要な設計基準である。
【0070】
支持構造体12は、画像センサ40を支持するカメラ支持体であり、制御回路20が実装されているIC(集積回路)チップ42がその上に存在する。可動要素11は、画像センサ40上に画像を合焦するように配置されたカメラレンズ要素41を備える。画像センサ40は、画像を捕捉し、いかなる適切なタイプのもの、たとえばCCD(電荷結合素子)またはCMOS(相補型金属酸化物半導体)素子でもよい。カメラ装置は、直径が最大10mmの1つまたは複数のレンズをカメラレンズ要素41が有する小型カメラである。
【0071】
この例では、OISは、カメラレンズ要素41を光軸に横向きに動かすことによって行われる。さらに、カメラレンズ要素41は、たとえば合焦を行うために光軸に沿って動かすことができる。このように、OIS機能と運動機能とがSMA作動装置10において組み合わされている。
【0072】
たとえば国際公開第2010/029316号および国際公開第2010/089529号に開示されているような、OIS機能を果たすためにSMAアクチュエータワイヤを用いる多くの既知の配置では、レンズ要素および画像センサを含めてカメラ全体を、実質的に剛体として傾動させることによって行われる。小型カメラではレンズ要素を画像センサに整合させることが難しく、製造公差が極めて厳しいので、使用者の手ぶれを補正するこの方法は、原則として最良のOIS性能をもたらす。さらに、補正される使用者の手ぶれは原則としてカメラの傾斜であり、その補正にはやはりカメラを傾斜させればよいことは直感的に理解できる。しかし、この例では、OISは、他のいくつかの問題を緩和するために、異なる実現がなされる。
【0073】
第1に、小型カメラは、通常、携帯電話機などの多機能製品内に使用される。そのような最新の電話機では、迫真性および遊戯性の増強を含めて、様々な機能を果たすために、ジャイロスコープおよび加速度計を電話機に組み入れることが益々一般的になっている。製品に1つのジャイロパッケージを使用することによって、OIS感知機能を含めて複数の機能を果たすことが高度に望ましい。このようにすると、コストが削減される。通常、現時点では、そのようなジャイロは約$2掛かり、他方、OISアクチュエータ機構は、おそらくこれより安くなる。したがって、ジャイロをカメラに組み入れずに、装置10のマザーボードに装着し、それによって、他の機能にもそのジャイロを使用できるようにすることが極めて有利である。これにより、カメラのOIS機能の事実上の付加コストが削減される。
【0074】
第2は、この第1の点に関連して、組み入れることを回避することによって、電話のジャイロはカメラを小さくし、正方形の設置領域を有することを可能にすることである。これにより、弾力的な電話機アーキテクチャにおいて、OISなしのカメラをOIS付きのカメラと交換することが容易になる。ジャイロを「カメラ以外に」組み入れるのが市場的に好ましいとの結論を得て、その結果の1つは、カメラ傾斜への単純な閉ループフィードバックが失われたことである。これは、OIS性能を劣化させもするが、OIS機能を発揮するのに使用することができるアクチュエータアーキテクチャの可能性を広げもする。
【0075】
本発明が緩和すると見られる、カメラ傾動アーキテクチャに関するさらに3つの問題がある。
【0076】
第1の問題は、「カメラ傾斜」方法では、固定されたカメラ構造体に対して画像センサが動くことである。これは、画像センサからカメラの固定構造体および携帯電話機のマザーボードへの電気的接続配線が極めて困難であることを表す。これに対する解決策は、フレキシブルプリント基板(FPC:flexible printed circuit)から配線への接続周りに集中するが、FPC設計にも、接点の数が多くデータ転送速度が高いために問題が残っている。したがって、画像センサが静止し固定されたままであることが極めて望ましい。
【0077】
第2の問題は、カメラ傾斜方法は、最小限としてレンズおよび画像センサを備え、周囲の支持構造体の内側で傾斜する必要がある支持構造体を有するカメラ構造体が存在することを要することである。カメラは有限の占有領域を有するので、カメラの傾斜は、OISカメラのカメラ厚さ(高さ)が、OISなしの同等のカメラに対するより大きい必要があることを意味する。携帯電話機では、カメラの高さを最小限にすることが極めて望ましい。
【0078】
第3の問題は、カメラ全体を傾動させることによって、OISなしのカメラのそれを超えてカメラ占有領域を増加させることなしに傾動アクチュエータを組み入れることが困難であることである。
【0079】
したがって、この例では、「レンズ変位」と言うと、レンズ要素は、光軸に共に直交する2つの直交方向に線型に動かされる。その結果生じる画像補正は、使用者の手ぶれの影響を完全には打ち消さないが、上記の制約を考慮すれば、その達成度は十分に良好と見られる。さらに、それは、同じSMA作動装置によって、光軸に沿うレンズの運動を達成することを可能にする。これは、OISと光軸に沿う運動とに別々の機構を使用することに比較して、大きさを減少させる。
【0080】
SMA作動装置10の制御回路20は、図10に示されるこの例、ならびに図8に示される例のためのOIS機能を実現するために、図9に示すように適合される。ただし、この事例では、作動は以下の通りである。
【0081】
制御回路20は、可動要素11の角速度を表す信号を出力し、それによって、SMA作動装置10が受けている振動を検出する振動センサとして作動するジャイロスコープセンサ27をさらに備える。ジャイロスコープセンサ27は、通常、互いに垂直でかつ光軸に垂直な2軸周りの振動を検出する1対の小型ジャイロスコープであるが、一般に、より多くの数のジャイロスコープまたは他のタイプの振動センサを使用することもできる。
【0082】
ジャイロスコープセンサ27からの出力信号は、プロセッサに実装することができるOISコントローラ28に入力される。マトリックスコントローラ22およびOISコントローラ28は、理解を容易にするために別々の構成要素として図示されているが、共通のプロセッサに実装することもできる。OISコントローラ28は、SMA作動装置10全体としての運動を補正するために必要な可動要素11の運動を表す運動信号21を導出する。これは、主軸Pに垂直な横軸に沿う所望の運動y、zを表す運動信号21を含む。OISコントローラ28はまた、光軸、すなわち主軸Pに沿う所望の運動を表す運動信号も生成する。レンズ要素41の構成に応じて、この信号は、合焦を行うことができ、視野を変化させることができる。この所望の運動は、利用者の入力によって選択することができる。あるいは、所望の運動は、たとえば画像センサ40の出力に基づいて、自動合焦アルゴリズムによって駆動することができる。この例では、傾動運動は必要とされず、それ故、所望の傾斜θ1、θ2を表す運動信号21は、事実上固定され、または使用しなくてよい。
【0083】
ジャイロスコープセンサ27は、支持構造体12上に装着されているので、出力信号は支持構造体2の振動を表す。上記の振動は常に存在し、OISは、カメラレンズ要素41をそれに対抗して運動させることによって達成される。したがって、OISコントローラ28は、ジャイロスコープセンサ27によって測定された実際の傾斜とは逆の所望の運動を実現する運動信号21を生成する。
【0084】
図8および10の第1および第2の例両方共に、SMAアクチュエータワイヤ1〜8は、OISを行うために十分な応答速度を実現することができる。通常、各SMAアクチュエータワイヤ1〜8は、10Hzまで、20Hzまで、または30Hzまでの周波数帯域全体に亘って、位置を制御するために比例的に駆動される。アクチュエータとしてのSMAの考えられる欠点はその低応答時間である。SMA材は温度で駆動されるので、応答時間は、熱伝導率、比熱容量、および熱質量に関連する達成可能な温度変化によって制約される。
【0085】
SMAアクチュエータワイヤ1〜8の加熱は、駆動電流の電力を増加させることによって強化することができるが、冷却は、SMAアクチュエータワイヤ1〜8の厚さに依存する。この厚さは、冷却中に所望の応答時間が得られるように選択される。たとえば、SMAアクチュエータワイヤ1〜8が厚さ25μmである場合、現時点で入手可能な最も薄い市販材であるが、熱応答は、4Hzでロールオフを始める。OIS機能の解析に基づくと、機能上の要求は、30Hzまでの帯域全体に亘って運動補正を実現することである。ただし、必要な応答の振幅は作動帯域を通じて著しく低下し、したがって、より少ない運動しか必要なくなる(たとえば20Hzより上で10μm未満)。驚いたことに、4Hzより上でのSMAワイヤ応答のロールオフにも拘らず、SMAアクチュエータワイヤ1〜8は、30Hzでもまだ変位要求値を達成することができ、それ故、小型カメラ用のOISの作動要件を十分に満足することができる。
【0086】
この第2の例に従うSMA作動装置10のいくつかの特定の構造が以下に説明される。これら構造のそれぞれでは、SMAワイヤ1〜8は、図1に示されるように配置されている。
【0087】
第1の構造が図11〜13に示される。
【0088】
図11は、支持構造体12と、カメラレンズ要素41をその中にねじ止めすることができるレンズ担体である可動要素11とを備えるSMA作動装置10全体を示し、それら要素がそれぞれ図12および13に示されている。
【0089】
SMA作動ワイヤ1〜8が、SMA作動ワイヤ1〜8をクリンプし、支持構造体12および可動要素11の1つに固定されているクリンピング部材50によって、支持構造体12と可動要素11との間に連結されている。SMA作動ワイヤ1〜8は、可動要素11を支持構造体12上に懸架する唯一の構成要素である。支持構造体12と可動要素11との間のそれぞれの連結経路に、可動要素11が直交する3つの線型方向に動くことを可能にするためのさらに別の撓曲部または他の構成要素は存在せず、1つの運動方向にそれぞれ対処するジンバルおよび入れ子式支持構造体を必要としない。
【0090】
この第2の例では、傾動運動は必要ないので、可動要素11の対向する側面上で互いに平行であるSMAアクチュエータワイヤ1〜8の対が、クリンプ50間に延在する相互接続部51によって電気的に直列に接続されている。これは、この例では傾動は必要とされず、それ故、これらワイヤは常に共通の駆動信号によって駆動されるので、可能である。これは、制御回路20から駆動信号を入力するのに必要な全ての電気接続部を、可動要素11上に電気接続部を追加することなく、支持構造体12上に置くことができる利点を有する。
【0091】
SMAアクチュエータワイヤ1〜8のそれぞれの対が、電気的に直列に接続され、それにより、単一の電圧信号を印加することによって合わせて作動するので、別法は、8本ではなく4本のワイヤを使用することであるが、これは、2区間の能動ワイヤを連結する非使用ワイヤの区間が制御上の問題、ならびに機械的組立ておよび寿命上の問題を呈するので、現時点では好ましくない。
【0092】
第2の構造が図14〜20に示される。
【0093】
図14は、支持構造体12と、カメラレンズ要素41をその中にねじ止めすることができるレンズ担体である可動要素11とを備えるSMA作動装置10全体を示し、それら要素がそれぞれ図15および16に示されている。
【0094】
第2の構造は、クリンピング部材50の配置が、その比較的複雑な構造の製造を単純化するように適合されていることを除いて、第1の構造と同様である。詳細には、SMAアクチュエータワイヤ1〜8およびクリンピング部材50は、図17および18に示されるように、2つの別々のサブアセンブリ53および54内に配置される。各サブアセンブリ53および54のクリンピング部材50が、互いに適切に位置決めされるように配置され、次いで、SMAアクチュエータワイヤ1〜8が、適切な対のクリンピング部材50間にクリンプされる。クリンピング部材50は、クリンピング処理中、それらの適切な位置に指示されている。これは、クリンピング部材50と同じ材料から形成された1つまたは複数のフレット(fret)の補助によって達成することができ、そのフレットは、次いで引き続き、後に組立工程において取り外される。あるいは、それは、クリンピング部材50を位置決めする組立治具を用いることによって達成することができる。
【0095】
サブアセンブリ53および54は支えられてはいるが、その配列は、SMAアクチュエータワイヤ1〜8がそれにクリンプされた後に、各サブアセンブリ53および54を単一の構成要素として扱いSMAアクチュエータ装置上に配置することを可能にする。詳細には、図19が、可動要素11および支持構造体12上に組み立てられている第1のサブアセンブリ53を示す。その後、第1のサブアセンブリ53のクリンピング部材50が、可動要素11および支持構造体12に結合される。図20は、引き続き組み立てられている第2のサブアセンブリ54を示し、その配置が、第1のサブアセンブリ53と干渉することを防止する。その後、第2のサブアセンブリ53のクリンピング部材50が、可動要素11および支持構造体12に結合される。この組立て中、可動要素11および支持構造体12は、たとえば冶具(図示せず)によって支持されている。
【0096】
様々な傾斜および振動を感知することに関する本発明の別の態様がある。現在のシステムは、惹起されたカメラぶれを感知するために2軸ジャイロスコープを採用する。さらに、光軸周りの傾斜もまた補正する場合、3軸ジャイロスコープが必要になることを理解することができる。そのようなジャイロスコープは比較的費用が掛かり、かなりのスペースを占める。したがって、そのようなジャイロスコープの必要性をなくすことが極めて望ましい。以前の出願において考えられた1つの選択肢は、電気抵抗およびSMAワイヤに印加される電力を監視することによってSMAワイヤの位置および張力の両方を推定することが可能であるので、SMAワイヤおよびカメラを使用してそれ自体の傾斜センサを形成することである。
【0097】
思考実験として、要求されていることは、支持構造体は基礎励起を受けているのに、カメラは静止したままであることを考えられたい。したがって、システムの1つの考え方は振動絶縁装置のようなものである。これは、台座上のカメラの共振周波数が様々な自由度で極めて低くなるように、極めて柔な台座にカメラを取り付けることによって達成することができる。1Hz(たとえば)未満の周波数に対しては、カメラを回してパン撮りできるように、そのシステムは比較的剛であるべきであるが、より高い周波数に対しては柔であるべきである。
【0098】
通常、SMAアクチュエータワイヤ1〜8の1本が長さを維持することを要求された場合、いかなる外力がそれを引き伸ばそうとしても、コントローラは、より大きな電力を印加してそのSMAワイヤを収縮させることによってそれに対処し、それにより、電気抵抗および長さを維持する。
【0099】
それに代えて、コントローラを、その反応が遅くなるように構成すると、その結果、1Hz未満の励振に対してはSMAワイヤは「剛」のままに見えるが、より高い周波数に対しては、事実上、一定の電力が印加されているように見え、SMAワイヤは、より高い周波数でより剛性が低く見えることは理解されよう。
【0100】
そのような構成は、満足な性能を有するOISシステムを形成しそうもない。しかし、コントローラが、ワイヤを引き伸ばす励振に応答して能動的に電力を減少させるように構成され、その正のフィードバックが周波数に依存して行われれば、SMA OISシステムが、別途ジャイロスコープセンサを必要とせずに振動抑制性能を達成することができることが理解されよう。
【0101】
そのようなシステムの別の考え方は、SMAワイヤを、擬似一定力装置を実現するように作動させることである。そのようなシステムは、効果的に一定の力に制御するために、各ワイヤ上に個々の高度に正確な力センサを必要とするか、または、抵抗および各ワイヤに印加された電力の高度に正確な測定値を必要とする。
【符号の説明】
【0102】
1 SMAアクチュエータワイヤ
2 SMAアクチュエータワイヤ
3 SMAアクチュエータワイヤ
4 SMAアクチュエータワイヤ
5 SMAアクチュエータワイヤ
6 SMAアクチュエータワイヤ
7 SMAアクチュエータワイヤ
8 SMAアクチュエータワイヤ
10 SMA作動装置
11 可動要素
12 支持構造体
13 枢動部材
20 制御回路
21 運動信号
22 マトリックスコントローラ
23 駆動回路
24 駆動コントローラ
25 ドライバ
26 検出回路
27 ジャイロスコープセンサ
28 OISコントローラ
30 画像センサ
31 カメラレンズ要素
32 プリント回路基板(PCB)
33 筐体
34 ICチップ
40 画像センサ
41 カメラレンズ要素
42 ICチップ
50 クリンピング部材
51 相互接続部
53 第1のサブアセンブリ
54 第2のサブアセンブリ
O 光軸
P 主軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持構造体と、
前記支持構造体に対して運動することが可能なように前記支持構造体上に支持されている可動要素と、
仮想的な主軸に対して傾き、前記主軸周りの4つの側面上それぞれに2本ずつのSMAアクチュエータワイヤを備える8本のSMAアクチュエータワイヤであって、4本のSMAアクチュエータワイヤの2つのグループが収縮すると、前記主軸に沿って対向する方向の成分を有する力を前記可動要素に及ぼすように、前記SMAアクチュエータが、前記可動要素と前記支持構造体との間に連結され、各グループの前記SMAアクチュエータワイヤが、前記主軸周りに2回回転対称に配置されている、8本のSMAアクチュエータワイヤと
を備えるSMA作動装置。
【請求項2】
前記可動要素が、画像センサと、前記画像センサ上に画像を合焦するように配置されたカメラレンズ要素とを備えるカメラユニットであり、前記主軸が、前記カメラレンズ要素の光軸である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記SMA作動装置が、前記支持構造体に固定された画像センサをさらに備えるカメラ装置であり、前記可動要素が、前記画像センサ上に画像を合焦するように配置されたカメラレンズ要素を備え、前記主軸が、前記カメラレンズ要素の光軸である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記8本のSMAアクチュエータワイヤが、独立した駆動信号を前記SMAアクチュエータワイヤのそれぞれが受け取ることができる電気的接続を有する、前記請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
駆動信号を前記SMAアクチュエータワイヤに入力するために、前記SMAアクチュエータワイヤに電気的に接続された制御回路をさらに備える、前記請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記制御回路が、前記SMAアクチュエータワイヤのそれぞれに独立した駆動信号を入力するように配置されている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記装置の振動を表す出力信号を生成するように配置された振動センサをさらに備え、前記制御回路が、前記画像センサによって感知される前記画像を安定化させるために、振動センサの出力信号に応答して前記駆動信号を生成するように配置されている、請求項5または6に記載の装置。
【請求項8】
前記制御回路が、前記画像センサによって感知される前記画像を安定化させるために、前記カメラユニットを傾斜させ、前記光軸に対して横向きに動かす駆動信号を生成するように配置されている、請求項2に従属するときの請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記制御回路が、前記可動要素を、前記画像センサによって感知される前記画像を安定化させるために前記光軸に対して横向きに動かし、前記画像の焦点を変化させるために前記光軸に沿って動かす駆動信号を生成するように配置されている、請求項3に従属するときの請求項7に記載の装置。
【請求項10】
4本のSMAアクチュエータワイヤの各グループが、対向する側面上に2対のSMAアクチュエータワイヤを備える、前記請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記可動要素の各側面上に、前記可動要素に枢動的に連結された枢動部材をさらに備え、各側面上の前記2本のSMAアクチュエータワイヤが前記枢動部材に連結されている、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
4本のSMAアクチュエータワイヤの各グループが、各側面上に1本のSMAアクチュエータワイヤを備える、請求項1〜9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記制御回路が、対向する側面上の互いに平行である前記SMAアクチュエータワイヤに共通の駆動信号を入力するように配置されている、請求項5に従属するときの請求項12に記載の装置。
【請求項14】
各側面上で、2本の前記SMAアクチュエータワイヤが、互いに平行であるか、または互いに反対方向に傾きかつ交差する、前記請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
各側面上に存在する2本の前記SMAアクチュエータワイヤが、前記主軸に垂直な同じ仮想横軸に対してそれぞれ垂直である、前記請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記可動要素が、前記SMAアクチュエータワイヤのみによって前記支持構造体上に支持されている、前記請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記可動要素が、直径が最大10mmである1つまたは複数のレンズを有するカメラレンズ要素を備える、前記請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
独立に制御される複数のSMAワイヤを使用する、小型カメラ用の光学画像安定化装置であって、各ワイヤに印加される電力が制御され、各ワイヤの電気抵抗が、制御を可能にするために監視され、前記ワイヤがさらに、基礎励起によって前記カメラモジュールに加えられる傾斜を感知するために、協調して作用し、前記SMAワイヤシステム上に懸架されている前記カメラモジュールの実効共振周波数を低下させるように前記ワイヤを制御することによって、前記ワイヤが、ジャイロスコープセンサなしでOIS機能を達成するように制御される、光学画像安定化装置。
【請求項19】
前記SMAワイヤが、前記基礎励起が加えられているとき、一定の力を前記カメラに実質的に及ぼすように制御される、請求項18に記載の光学画像安定化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2013−520701(P2013−520701A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554410(P2012−554410)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【国際出願番号】PCT/GB2011/000272
【国際公開番号】WO2011/104518
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(509227089)ケンブリッジ メカトロニクス リミテッド (8)
【Fターム(参考)】