説明

SOR用ミラー

【目的】 反射率を向上させる。
【構成】 耐熱性セラミックス基材1の表面に、CVD法によりコーティングされ、上面に研磨を施した所要厚さのSiC膜3,4を、少なくとも2層積層することにより、下層側のSiC膜上面の研磨によって、上層側のSiC膜の結晶の成長や異方性を抑制し、SiC膜全体の厚さが厚くなっても欠陥を少なくする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、SOR(シンクロトロン放射光)用ミラーに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種のSOR用ミラーとしては、黒鉛、SiC(炭化けい素)等の耐熱性セラミックス基材の表面に、連続長時間のあるいは複数回のCVD(化学蒸着)法によりSiC膜を所要厚さ(数百μm)にコーティングし、SiC膜の上面に鏡面研磨を施したものが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来のSOR用ミラーにおいては、SiC膜の膜厚が増加するに従って、粒子の吸蔵(occlusion)による欠陥や結晶粒成長による結晶粒界の欠陥が生じ、反射率が低下する問題がある。
【0004】そこで、本発明は、反射率を向上し得るSOR用ミラーの提供を目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するため、本発明のSOR用ミラーは、耐熱性セラミックス基材の表面に、CVD法によりコーティングされ、上面に研磨を施した所要厚さのSiC膜を、少なくとも2層積層したものである。
【0006】
【作用】上記手段においては、下層側のSiC膜上面の研磨により、上層側のSiC膜の結晶の成長や異方性が抑制され、SiC膜全体の厚さが厚くなっても欠陥が少なくなる。
【0007】各層のSiC膜の厚さは、30〜300μmが好ましい。30μm未満であると、CVD膜が島状構造となり膜をなさなかったり、研磨時に下層表面が露出することとなり、300μmを超えると、結晶の成長や異方性が抑制されず、研磨後に結晶粒界でチッピング等の欠陥の発生率が高くなる。
【0008】
【実施例】以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【0009】図1,図2は本発明の一実施例のSOR用ミラーの断面図、要部の拡大断面図である。
【0010】このSOR用ミラーは、矩形板状(100mm×300mm×20mm)のSiC基材1の全表面に、CVD法により厚さ30〜300μmのSiC膜2をコーティングし、かつ反射面となる一面(図1においては上面)を表面粗さRmsが10〜5000オングストローム以下となるように研磨を施して研磨SiC膜3とし、この研磨SiC膜3の上面に、同様にCVD法により厚さ30〜300μmのSiC膜をコーティングし、かつこのSiC膜の反射面となる上面を表面粗さRmsが3〜20オングストローム以下となるように鏡面研磨を施して研磨SiC膜4とした、いわばSiC基材1の反射面に研磨SiC膜3,4を2層積層した構造とされている。
【0011】この際、中間層となる研磨SiC膜3の表面粗さRmsは、10〜5000オングストロームが好ましい。Rms10オングストローム未満であると加工費がかかりコスト的に採算があわなくなる。一方、Rms5000オングストロームを超えると表面の凹凸が上に積層されるSiC膜4の結晶形態に影響を及ぼし、最終的に反射面に欠陥が発生し易くなる。又、最終的な反射面となる最外側の研磨SiC膜4は、ミラーとしての作用をなすものであるため、Rms3〜10オングストロームの鏡面研磨を施すことが必要である。
【0012】上記構造のSOR用ミラーの製造に際しては、先ず、SiC材を所要の寸法形状に加工して複数のSiC基材1とし、これらを1250℃の温度下でHClガスを用いて洗浄処理した後、図3に示すように、CVD法により処理時間を変えて種々の厚さのSiC膜2を全面にコーティングした。
【0013】CVD条件は、次の通りである。


【0014】次いで、各SiC基材1における反射面となる一面のSiC膜2に、ラッピング、ポリッシング等によりRms10オングストロームとなるような研磨を施し、図4に示すように、研磨SiC膜3とした。表1にこの時のCVD膜厚と表面に観察された欠陥数との関係を示した。
【0015】
【表1】


従って、試料No.2〜4の膜厚のものが、欠陥数の点で優れていることがわかった。
【0016】次に、SiC基材1の全表面に100μmのSiC膜2をコーティングし、フライス、ラッピング、ポリッシング等により、種々の表面粗さを有する研磨SiC膜3を形成した。その後、CVD法により研磨SiC膜3の上に100μmのSiC膜5をコーティングした。
【0017】CVD条件は、次の通りである。
原料ガス:MTCS(トリメチルクロロシラン) 0.24l/min H2 0.70l/min 温 度:1300℃
【0018】次いで、各SiC基材1のSiC膜5にラッピング、ポリッシング等により鏡面研磨を施し、図6に示すように研磨SiC膜4とした後、1250℃の温度下でHClガスを用いて洗浄処理し、SOR用ミラーを得た。
【0019】研磨SiC膜4の表面の欠陥数を観察したところ、表2の結果を得た。
【0020】
【表2】


従って、中間層(境界層)となる研磨SiC膜3の表面粗さRmsは、5000オングストローム以下が好ましいことがわかった。
【0021】又、各SOR用ミラーの表面の欠陥数と反射率との関係を表3に示した。
【0022】
【表3】


従って、各層のSiC膜の膜厚を30〜300μmに設定し、かつ境界層となる研磨SiC膜の表面粗さRmsを10〜5000オングストロームに設定することにより、表面に観察される欠陥数を0.3個/cm2 以下に限定することが可能となり、反射率93〜95%のSOR用ミラーを得ることができ、従来のものの反射率(85%)より大幅に向上できることがわかった。
【0023】なお、上述した実施例においては、1層目と2層目のSiC膜2,5をCVDコーティングする際の原料ガスを異ならせているが、いずれか一方の原料ガスのみを用いてCVDコーティングしてもよい。
【0024】又、基材は、SiCに限らず、黒鉛、Si含浸SiC又はSi単結晶その他を用いてもよい。
【0025】更に、研磨SiC膜は、2層とする場合に限らず、基材との熱膨張率による剥離を生じない範囲で、3層以上積層してもよい。
【0026】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のSOR用ミラーによれば、下層側のSiC膜上面の研磨により、上層側のSiC膜の結晶の成長や異方性が抑制され、SiC膜全体の厚さが厚くなっても欠陥が少なくなるので、従来のものに比して反射率を大幅に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例のSOR用ミラーの断面図である。
【図2】本発明の一実施例のSOR用ミラーの要部の断面図である。
【図3】本発明の一実施例のSOR用ミラーの製造工程1を示す要部の断面図である。
【図4】本発明の一実施例のSOR用ミラーの製造工程2を示す要部の断面図である。
【図5】本発明の一実施例のSOR用ミラーの製造工程3を示す要部の断面図である。
【図6】本発明の一実施例のSOR用ミラーの製造工程4を示す要部の断面図である。
【符号の説明】
1 SiC基材
2 SiC膜
3 研磨SiC膜
4 研磨SiC膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】 耐熱性セラミックス基材の表面に、CVD法によりコーティングされ、上面に研磨を施した所要厚さのSiC膜を、少なくとも2層積層したことを特徴とするSOR用ミラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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