SPRセンサとSPRセンサを搭載する検査システム
【課題】検査システムに搭載される金属グレーティング構造体を有するセンサは、半導体製造プロセスが不可欠であり、構造的に開口部から共鳴する入射光が基板に透過するため共鳴度合いに影響を与えており、さらに共鳴度合いの大きいセンサが要望されている。
【解決手段】検査システムは、光電変換素子の受光面上に光を透過するレジスト材料を用いて間隔を空けてストライプ状にパターン形成された表面プラズモンを誘起させるグレーティング構造体と、グレーティング構造体を含み波状に覆い被膜する光が不透過な導電体と、光電変換素子からの電圧信号を出力する出力電極と、で構成された光束の入射角度又は入射位置により出力値を変化するセンサからなるSPRセンサを搭載する。
【解決手段】検査システムは、光電変換素子の受光面上に光を透過するレジスト材料を用いて間隔を空けてストライプ状にパターン形成された表面プラズモンを誘起させるグレーティング構造体と、グレーティング構造体を含み波状に覆い被膜する光が不透過な導電体と、光電変換素子からの電圧信号を出力する出力電極と、で構成された光束の入射角度又は入射位置により出力値を変化するセンサからなるSPRセンサを搭載する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)を利用するSPRセンサとSPRセンサを搭載する検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表面プラズモン共鳴(SPR)を利用するセンサが知られている。このSPRは、屈折率の変化に対し敏感に反応するため、ガスセンサ等のケミカルセンサに応用されている。例えば、非特許文献1には、この原理を利用したガスセンサ装置が提案されている。
【0003】
このガスセンサ装置は、入射光源、ガスチャンバ、SPR変化を検出するSPRセンサ部、ステージ及び、反射光測定用フォトディテクタにより構成されている。SPRセンサ部は、金属でグレーティング構造体を形成しており、入射光を近接場化する。その近接場が形成する波数k1、金属内部の自由電子の振動(プラズモン)が寄与する波数k2、及び、グレーティングピッチが寄与する波数k3とすると、
【数1】
において、k1+k3=k2となった場合、プラズモンと近接場との共鳴が発生する。ここで、εmは媒体の誘電率、εMetal(ω)は金属の誘電率、ωは入射光の角振動数、cは光速及び、Lはグレーティングのピッチ(図1ではpと記載)、θは入射光の入射角度である。
【0004】
この共鳴状態では、反射光と共鳴している(つまり、グレーティング構造体の周辺においては、近接場共鳴光が発生している)ため、図14のθ=38[deg]付近に見られるように、反射光強度が一時、低い状態となり、これを共鳴状態の変化として検出する。SPRセンサ周辺のガス媒体が変化(即ち、屈折率が変化)すると、k1及びk2の項が変化して、ガス媒体変化をこの反射光強度変化として検出可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−273832号公報
【非特許文献1】Sensors and Actuators, P.S Vukusic, et al. 8(1992)155-160
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した従来のSPRセンサ部において、共鳴状態の変化を検出するには、一次光の反射光強度変化を検出する必要がある。これは装置構成の規模が大きくなることを意味している。そこで小型化を図るために、SPRセンサ自体に、その共鳴状態変化を検出する機能を付与することにより解決することができる。例えば、フォトディテクタ上に、金属線を等間隔に並べた金属グレーティング構造体により、開口部を通じて近接場共鳴光をフォトディテクタにて検出することができる。
【0007】
この金属グレーティング構造体を作製するためには、真空下のプラズマエッチング等の高度な半導体製造プロセスを用いているため、製造コストに影響を与えており、低コスト化が望まれている。加えて、このSPRセンサを種々の検出に用いるためには、さらに共鳴度合い(反射光を測定する検出系統では、共鳴していないときの反射光強度と、共鳴しているときの反射光強度との差又は、その急峻さ)の大きいセンサが要望されている。
【0008】
そこで本発明は、反射光測定が不要であり、表面プラズモン共鳴を高い感度で測定可能なSPRセンサ及びSPRセンサを搭載する検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に従う実施形態のセンサは、外部から予め設定された入射角度で入射した光束を電気信号に変換し出力する受光面を有する光電変換素子と、光を透過するレジスト材料により前記受光面上に間隔を空けてストライプ状にパターン形成され、前記光束の照射を受けて表面プラズモンを誘起させるグレーティング構造体と、前記グレーティング構造体及び露呈する前記受光面を覆うように形成し、前記受光面に透過する光束を抑制する導電体と、前記光電変換素子により生成された電圧信号を出力する出力電極とを有する。
【0010】
さらに、本発明に従う実施形態による検査システムは、光束を照射する光源と、入射された前記光束を電気信号に変換し出力する受光面を有する光電変換素子と、光を透過するレジスト材料により前記受光面上に間隔を空けてストライプ状にパターン形成され、前記光束の照射を受けて表面プラズモンを誘起させるグレーティング構造体と、前記グレーティング構造体及び露呈する前記受光面を覆うように形成し、前記受光面に透過する光束を抑制する導電体と、前記光電変換素子により生成された電圧信号を出力する出力電極と、で構成されるセンサと、前記出力電極から出力された前記受光面に照射された前記光束の入射角度又は入射位置のいずれかに応じて変化する出力値を出力する検出部と、を具備する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、反射光測定が不要であり、表面プラズモン共鳴を高い感度で測定可能なセンサを搭載する検査システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の検査システムに搭載するSPRセンサにおけるセンサの構成例を示す断面図である。
【図2】図2(a)乃至図2(d)は、センサの製造工程について説明するための工程図である。
【図3】図3は、センサにおける回転角度に対する、0次反射光強度及び開放電圧との関係を示す特性図である。
【図4】図4は、第1の実施形態における本発明のセンサをガス検出に応用した検査システムの概念的な構成を示す図である。
【図5】図5は、入射角度と開放電圧との関係によるアセトン量変化に対するSPR応答の入射角度依存特性を示す図である。
【図6】図6は、アセトン量変化に対する入射角度における開放電圧のピーク角度の特性を示す図である。
【図7】図7は、第2の実施形態における本発明のセンサを力学的変位の検出に応用した検査システムの概念的な構成を示す図である。
【図8】図8(a)乃至図8(f)は、変位センサの製造工程について説明するための工程図である。
【図9】図9(a)は、変位センサに引っ張りが無い状態を示す図であり、図9(b)は、変位センサに引っ張りがある状態を示す図である。
【図10】図10は、変位センサにおける光束の入射角度と出力(開放電圧Voc)との関係を示す特性図である。
【図11】図11は、図10に示す入射角度と出力の関係に基づく、変位変化ΔLに対する出力変化ΔVの関係を示す特性図である。
【図12】図12は、第3の実施形態として、角度変化を検出する角度センサを搭載する検査システムの概念的な構成を示している。
【図13】図13(a)乃至図13(e)は、第3の実施形態の角度センサであるカンチレバーの製造工程について説明するための工程図である。
【図14】表面プラズモン共鳴(SPR)について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
まず、発明の検査システムに搭載する表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)センサの基本的な構成について説明する。
【0014】
図1は、SPRセンサの構成例を示す断面図である。
SPRセンサ1は、SPRを誘起させる構造を有し、後述する種々の検査対象に対応するセンサシステムに搭載する基本的な構成である。このSPRセンサ1は、光電変換機能を有する基板2と、基板2上に光を透過するレジスト材料から成り、等間隔のピッチによるストライプ形状に配置されるグレーティング構造体3と、グレーティング構造体3を覆うように形成される光をある程度不透過な導電体膜、例えば金属膜4と、一対の出力電極5(5a,5b)とで構成される。
【0015】
さらに、検査システムとしては、SPRセンサ1の金属膜4(グレーティング構造体3)に光束を照射する光源6と、SPRセンサ1の出力電極5から出力された信号(電圧信号)を取り込み、この信号に基づく検出処理を行う検出部7が備えられる。この金属膜4の表面をセンサ受光面とする。検出部7は、例えば、ノイズ除去及び信号増幅処理等を施す検出処理を行う。
【0016】
この構成において、基板2には、フォトディテクタ(PD)等の光を受けて電気を生成する光電変換素子が形成された半導体基板を用いている。グレーティング構造体3は、フォトリソグラフィ技術を用いて製造するが、他にも、プリント技術を用いても実施することができる。また、グレーティング構造体3における高さ、幅及びグレーティングピッチpと、金属膜4の膜厚Tは、適用されるセンサの構成や性能等に応じて設計時に適宜設定されている。出力電極5は、基板側に設けられた出力電極5a及び、金属膜4側に設けられた出力電極5bにより構成され、光電変換素子により生成された電圧を出力する。
【0017】
金属膜4は、略均一な厚さでストライプ形状のグレーティング構造体3を覆うように波状に形成されている。製造方法としては、蒸着技術、メッキ技術又は、スプレー技術を用いることができる。
【0018】
この金属膜4は、少なくともクレーティング構造体3が形成されずに露呈する基板2の表面を覆うように形成されていればよく、必ずしも凸部分の膜厚と、基板2上の膜厚とを一致させる必要はない。金属膜4の不透過さ加減は、基板2の受光面(PD面)に透過する光を抑制(又は遮光)するものであり、検出対象や求める性能に応じて所望する数値で透過を抑制(又は遮光)するように適宜、設定される事項である。これらの加減は、経験的、例えば、シミュレーション、実験又は、試作により適正な設定を行うことができる。
【0019】
また、本実施形態では、専用の光源6を設けた構成であったが、これに限定されるものではなく、例えば、SPRを発生させる波長を含む帯域の光を照射し、光学フィルタをSPRセンサ1の受光面前に配置して、SPRを発生させる波長の光のみを取り出して、SPRセンサ1に導く構成であってもよい。
【0020】
本実施形態のSPRセンサ1について説明する。
通常に利用されている結晶シリコン系太陽電池のIPCE(Incident Photon to Current conversion Efficiency:入射したフォトンがどの程度電流へ変換したのかを示す値)は、例えば、λ=900[nm]近辺で最大値をとり、λ=980[nm]より単調に減少する。それは、近赤外光領域(NIR領域)における光強度(光吸収)が低いことに起因する。そこで、本実施形態のSPRセンサ1は、受光した光を、SPRを用いることにより、NIR領域における光強度を高めて、電流変換に導く構成である。このため、SPRを誘起させる部位を光吸収層に近接すること、即ち、グレーティング構造体3及び金属膜4をセンサ受光面に近接させることが望ましい。
【0021】
このようなSPRセンサ1は、以下の効果を有している。
1)波状形状を成す金属膜4は、グレーティング機能を有しているため、SPRを誘起させることができる。
2)不透明な金属膜4は、共鳴する入射光が基板へ透過することを防止しているため、共鳴時と非共鳴時における反射光強度の差を小さくする1つの要因を排除している。つまり、従来のセンサの構造において、グレーティング構造体が形成されていない光電変換素子の受光面には共鳴する入射光が入り込まないことが望ましい。入射光により生じた電流が上述した反射光強度の差の変化の急峻さを鈍化させる可能性がある懸念がある。
【0022】
3)レジスト材料からなるグレーティング構造体3を基板上に直接、固着するように形成し、さらに金属膜4で被覆したままの構成であるため、金属膜4に対してプラズマエッチング等の高コストな真空下の半導体プロセスを用いずに、MEMSデバイス技術を用いて作成することができる。
【0023】
本実施形態のSPRセンサ1は、SPRを誘起させる構成が、間隔(ストライプ)を空けて形成したレジスト層と、その上を均一の厚さで覆った金属膜により実現される。これらは半導体技術(特に、プラズマを用いたエッチング)を用いずに実現でき、特に金属膜は、均一に成膜するだけで、エッチングの必要なくSPRの効果を得ることができる。また、グレーティング構造体3上の金属膜は、表面に波状の起伏があったとしても、CMP等の研磨やエッチバック処理による表面の平坦化を行う必要もない。
【0024】
次に、このセンサ1におけるSPRの検出及びシミュレーション(RCWA)による共鳴度合いについて説明する。
まず、SPRセンサ1を以下の説明する手順で作成し、SPRの検出について説明する。測定に用いる構成例は、金属膜4で起きているSPRを、その下部に設けたフォトディテクタにより検出する構成である。前述したように、SPRが生じると、反射光強度が低い状態となる、即ち、出力された開放電圧の電圧値が高い状態となる変化を共鳴状態の変化として検出する。
【0025】
図2(a)乃至(d)を参照して、SPRセンサ1の製造工程について説明する。
図2(a)の工程において、n型シリコン基板(ρ=10[Ωcm],<100>)11に対して、イオン注入法を用いて、BF2をイオンとして注入して、表層にp+層12を形成する。ここでは、アクセプタ不純物濃度NA:5.70×1018[cm−2]としている。
【0026】
図2(b)の工程において、レジスト塗布装置によるスピンコートにより、基板11のp+層12上に均一な厚さのレジスト層を形成する。さらに、例えば、電子ビーム描画装置を用いた電子線直接描画にて、レジストパターンからなるグレーティング構造体3を形成する。この例では、グレーティングピッチp:1330[nm]、膜厚TAU:50[nm]、アクセプタ不純物濃度NA:5.70×1018[cm−2]としている。パターン形成においては、他にも、露光及び現像によるフォトリソグラフィ技術を用いてもよい。
【0027】
図2(c)の工程において、グレーティング構造体3を含む基板11の全面上に、蒸着装置を用いて金(Au)膜4を成膜する。本実施形態では、耐腐食性を考慮して、金属膜に金を使用したが、これに限定されるものではなく、SPRセンサ1の仕様又は用途に応じて、アルミニウムなどの他の金属を適宜、使用することができる。また金属膜の成膜方法としては他にも、メッキ方法、印刷方法、スパッタリング方法又は、CVD(Chemical Vapor Deposition)方法などの公知な成膜方法も用いることが可能である。
【0028】
図2(d)の工程において、基板11の裏面上及び金膜4上にそれぞれに出力電極5a,5bを形成する。これらの電極は、マスク(レジストマスク等)を利用した上記成膜方法を用いて形成することができる。
上述した製造工程では、グレーティング構造体にレジストパターンを利用して、従来における金属材料を用いていないため、これまで半導体製造工程の1つとして必要であった金属膜のエッチングプロセスを利用していない特徴がある。
【0029】
このように形成されたSPRセンサ1による測定には、光源として、レーザ発光ダイオード(波長:675[nm])、ポーラライザーと、レーザパワーを測定するパワーメータと、電圧、電流、抵抗や温度等を測定するマルチメータと、センサを回転させるためのステージにより構成される測定装置(図示せず)を用いている。
【0030】
図3は、測定によるセンサ1における光束の入射角度(又は、受光面の傾き角度)[deg]に対する、0次反射光強度(R)[μW]及び開放電圧(Voc)[mV]との関係を示す図である。
図3において、光束の入射角度(又は、受光面の傾き角度)と反射光強度との関係におけるSPRのディップ角度(θ1=28.3[deg]及び、θ2=33.0[deg])が検出されている。その角度は、波数分散式から見積もられた値と同等である。但し、θ1はn=−3,θ2はn=1に対応する。図3によれば、反射光強度Rが小さくなるにつれ、開放電圧Vが増加している。つまり、このようなSPRセンサ1の構造において、SPRを検出できることを明確に示唆している。
【0031】
[第1の実施形態]
次に、第1の実施形態として、上述したSPRセンサを用いたガスを検出するガスセンサに応用した検査システムについて説明する。尚、本実施形態の構成部位において、前述したSPRセンサにおける構成部位と同等の部位には、同じ参照符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0032】
図4に示すように、この検査システムは、SPRセンサ1と、チャンバ21と、ステージ機構22と、ガス導入口24及びガス排出口25と、光源6と、検出部7と、システム全体の制御及び検出信号等の演算処理を行う制御部23と、で構成される。
SPRセンサ1は、ステージ機構22に固定される。SPRセンサ1の出力電極対は、チャンバ外部に配置される検出部7に配線等により接続され、センサ信号を出力する。
【0033】
ガス導入口24及びガス排出口25は、図示しないガス導入排出機構に接続される。即ち、ガス導入口24は、図示しない公知なガス導入機構(例えば、ガスボンベ、レギュレータ及びガス流量計等)に接続され、ガス排出口25は、図示しない公知な排出機構(例えば、排気用ポンプ及びガス処理機器)にそれぞれ接続されており、設定する流量の任意又は所望のガスをチャンバ21内に導入し、ガス濃度を可変することができるガス雰囲気を生成することができる。尚、SPRセンサをガスセンサとして現実的に使用する場合には、検出目的の特定のガスに強く影響を受けるように設計する場合もある。
【0034】
ステージ機構22は、ステージ部22aと、ステージ移動機構22bとで構成される。ステージ部22aは、平坦な載置面を有し、SPRセンサ1を露呈する状態で固着している。又は、ステージ部22aにSPRセンサ1を載置面に交換可能に保持する保持機構を備えてもよい。
【0035】
ステージ移動機構22bは、少なくともステージ部22aを傾斜するように揺動するための揺動部28と、揺動部28を駆動させるためのステッピングモータ等からなる駆動部29、制御部23の指示に従い駆動部29を制御する駆動制御部27と、で構成される。このステージ移動機構22bにより、ステージ部22aは、光源6からの光束の入射角度に対して、少なくとも垂直状態(入射角度0°)から水平状態(入射角度90°)までを傾斜させることができる。この揺動部28は、ギヤ等を用いた公知な構成でよい。尚、この揺動部28には、角度センサ(又は、位置センサ)30が設けられており、ステージ部22aの傾斜角度を計測し、この計測角度と同期して、SPRセンサ1の出力(開放電圧変化)が取得される。
【0036】
チャンバ21は、例えば、ガラス製からなり、気密な箱形状に形成されている。本実施形態では、ガラス材料を用いたが、検査ガスによる腐食やそのガス成分に影響を与えない部材であれば、限定されるものではない。但し、図4に示すように、チャンバ21の外側に光源を配置した構成であれば、光源6からチャンバ21内に光束(例えば、レーザ光)を入射するために、その入射窓は少なくとも透明部材により形成される。
【0037】
さらに、チャンバ21には、ステージ部22a上のSPRセンサ1に導入された検査対象となる気体(以下、検査ガスと称する)が向かうように、ガス導入口24及びガス排出口25が設けられている。
光源6は、発光ダイオード又は、レーザーダイオード等のある径で光束を出射する光学部品が好適する。その光束の波長は、グレーティングピッチと共鳴角度との兼ね合いで決定される。
【0038】
駆動制御部27は、ステージ機構22を駆動して、光源6から照射される光束におけるSPRセンサ1への入射角度を制御する。制御部23は、検出部7(SPRセンサ1)からの出力を受けて、その電圧値に基づき、予め定めた電圧値と比較条件(ここでは、ガスによる出力値の変化)との関係から、ガスの有無及び、その濃度変化を算出する。
【0039】
また、本実施形態のガスを検出するためのSPRセンサ1は、外寸法が例えば、幅(W):4[cm]、奥行き(L):5[cm]、高さ(h):4[cm]のサイズの箱形状である。また、グレーティングピッチ:1300[nm]、金属膜厚:90[nm]、グレーティング構造体の高さ:50[nm]としている。尚、SPRセンサ1は、検査ガスを検査したことにより、金属膜の表面が汚れるが、本実施形態では、金属膜に耐腐食性のある金(Au)膜を用いているため、簡易なクリーニング処理(拭き取り、又は洗浄)を行うことで、センサ性能を低下させることなく、継続的に使用することができる。
【0040】
次に、この検査システムを用いた、ガスに対する共鳴変化による検出について説明する。以下では、検査対象をアセトンガスとする一例について説明する。尚、アセトンガスの導入方法としては、ガス化したアセトンをガス導入口24から導入してもよいが、この例では、チャンバ21内にアセトン溶液(10,20,30[μl])が充填されたシャーレを搬入し、ガス導入口24及びガス排出口25を密閉し気密状態とした後、蒸発させる方法としている。
【0041】
まず、チャンバ21内を大気状態のまま、SPRセンサ1に対して光源6から光束を照射する。この時、ステージ移動機構22bにより、ステージ部22aに傾きを与えて、SPRセンサ1に入射する光束の入射角度を20°〜40°間で変化させて、多数の測定点における開放電圧値V1を測定する。
【0042】
次に、10[μl]のアセトン溶液が充填されたシャーレをチャンバ21内へ搬入し、チャンバ21内をアセトンガスで充満させる。同様に、SPRセンサ1に入射する光束の入射角度を20°〜40°間で変化させて、多数の測定点における開放電圧値V2を測定する。以降、同様に、20,30[μl]のアセトン溶液が充填されたシャーレをチャンバ21内へ搬入し、入射角度を20°〜40°間で変化させて、予め定めた間隔による多数の測定点における開放電圧値V3,V4を測定する。
【0043】
これらの測定結果として、図5には、入射角度と開放電圧との関係によるアセトン量変化に対するSPR応答の入射角度依存特性を示す。また、図6には、アセトン量変化に対する入射角度における開放電圧のピーク角度(共鳴角度)特性を示す。
この結果、アセトンガス雰囲気下で取得されたデータに関しては、SPRセンサ1付近の屈折率がアセトンの濃度変化により開放電圧が変化することが示唆されている。つまり、グレーティング界面に接するガス濃度の変化により、屈折率が変化し、SPR応答が変化するので、アセトンの濃度変化を検出することができる。
【0044】
ガスの検査システムに用いる場合の具体的な検出法としては、例えば、入射角度20〜30[deg]の範囲内で、ピーク電圧時の入射角度を共鳴角度と設定し、その共鳴角度変化を検出すればよい。
以上のように、本実施形態によれば、SPRセンサをガス検出に用いることにより、反射光を測定する従来のシステム構成に比べて、簡易な構成でガスの検査システムを実現することができる。
【0045】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態について説明する。
図7には、第2の実施形態として、上述したSPRセンサ1を利用して力学的変位を検出する変位センサ31に応用した検査システムの概念的な構成を示している。尚、本実施形態の構成部位において、前述したSPRセンサにおける構成部位と同等の部位には、同じ参照符号を付して、詳細な説明は省略する。
この検査システムは、変位センサ31と、取り付け治具32と、光源33と、検出部7と、演算処理部34と、で構成される。
【0046】
演算処理部34は、検出部7から出力されたセンサ信号から変位量(又は、移動距離)を演算処理による生成する変位検出を行う。演算処理部34は、別体として、配線接続してもよいし、変位センサ31と一体的に構成してもよい。また、演算処理部34は、別体でよければ、専用に作製しなくとも、例えば、パーソナルコンピュータを利用してもよい。また、少なくとも変位センサ31と取り付け治具32と光源3とは1つのユニットとして構成されている。この変位センサ31は、前述したSPRセンサ1と基本的な構造は同じであり、後述する電極対が導電体の金膜と同じ高さ(同一面)であることと、グレーティング構造体のピッチが異なること以外は同等である。
【0047】
変位センサ31は、センサ受光面のみを露呈し、以外の受光面周辺を含む周囲(側面及び底面)を外装部材35により、センサ本体を嵌入又は包含する構成である。外装部材35は、例えばPDMS(ポリジメチルシロキサン)等のシリコン系弾性体(シリコンエラストマー)の弾性体材料が好適する。
【0048】
前述したSPRセンサ1に形成されるグレーティング構造体3のグレーティングピッチpは、等間隔に形成されていた。これに対して、本実施形態の変位センサ31が用いているグレーティング構造体3aは、ストライプ幅方向におけるセンサの一端(以下、基準端と称する)から他端に向かう方向でグレーティングピッチpの間隔が徐々に広く又は、狭くなる(以下、グラディエーション化と表現する)ように形成される。
【0049】
このピッチの増加(又は減少)は、線型的、例えば直線的に変化を行う。但し、あくまでも基準位置からのずれ(移動量)が一対一に特定できればよいため、直線的な増減変化に限定されるものではなく、2次曲線的に変化しても可能である。また本実施形態におけるピッチの増減は、グレーティング構造体3aの或る極小範囲(ストライプ数本分)毎にステップ的に増加又は減少している。変位センサ31の基準端には、上下面に一対の出力電極41a,41bが形成されている。これらの出力電極41a,41bの出力信号線は、センサ外部に引き出され、検出部7に接続されている。
【0050】
変位センサ取り付け治具32は、保持板36a,36bと、可動軸37と、固定軸38とで構成される。保持板36a,36bは、金属や硬質な樹脂材料からなるプレートであり、例えば、変位センサ31の対向する二辺の上下両面から挟持して、面で接着して固定されている。可動軸37は、基準端の保持板36aと外装部材35を貫通して設けられ、変位により、外装部材35が引っ張られて、変位センサ31と一体的で基準端とは離間せずに、移動する。また、固定軸38は、基準端とは反対側の保持板36bと外装部材35を貫通して設けられ、変位により、外装部材35が引っ張られて延伸、変位センサ31の端と離間して離れるように移動する。
【0051】
光源6は、発光ダイオード又は、レーザーダイオード等のある径で光束を出射する光学部品である。本実施形態では、光源6から出射される光束は、センサ受光面の金属膜42に対して、ピッチ変化に対して最も大きい開放電圧の変化が得られる入射角度で入射するように固定されている。光束の径は、グレーティング構造体3aの大きさにより決定され、光束の波長は、グレーティングピッチと共鳴角度との兼ね合いで決定される。
【0052】
ここで、図8(a)乃至(f)に示す工程図を参照して、SPRセンサ1を利用した変位センサ31の製造工程について説明する。尚、以下に説明する図8(a)乃至(c)の製造工程においては、前述した図2(a)乃至(d)における製造工程とほぼ同一であり、その説明を簡略化する。まず、変位センサ31を形成する。
図8(a)に示す工程において、n型シリコン基板11に対して、イオン注入法を用いて、BF2をイオン注入し、表層にp+層12を形成する。
【0053】
図8(b)の工程において、基板11のp+層12上にレジスト層(図示せず)を形成し、電子線直接描画により、ストライプのレジストパターンからなるグレーティング構造体3aを形成する。このグレーティング構造体3aは、前述したようにグレーティングピッチがグラディエーション化するように設けられている。この例では、グレーティング構造体3aの幅を5000μmとして、ピッチをL=100[μm]幅毎に徐々に線型的に大きくなるようにピッチ変化を加えてグラディエーション化した形状である。
【0054】
図8(c)の工程において、グレーティング構造体3aを含む基板11の全面上に、蒸着装置を用いて、金属層となる金(Au)膜14を略同じ膜厚で成膜する。さらに、基板11の裏面上及び金膜14に電気的に繋がるように、それぞれに出力電極41a,41bを形成する。
図8(d)の工程において、外装部材35から変位センサ31を嵌め込むための嵌め込みスペースを切削して除去する。この時、そのスペースに嵌め込まれた変位センサ31が外れ出ないように2箇所の縁を抑えるキャップ部材43,44を用意する。
【0055】
図8(e)の工程において、外装部材35の嵌め込みスペースの内壁に公知な化学蒸着法等を用いて、パリレン薄膜45を被膜する。併せて、可動軸38側において、変位センサ31を押さえるキャップ部材43における変位センサ31との当接面側にも同様に、パリレン薄膜45を被膜する。このパリレン薄膜45を設けることにより、外装部材35であるPDMSと変位センサ31との間の滑り抵抗を低く抑えた滑り構造を持たせることができる。
【0056】
図8(f)の工程において、センサ31を外装部材35の嵌め込むスペース内に嵌め込んだ後、キャップ部材43,44を固着する。さらに、変位センサ取り付け治具32、即ち、保持板36a,36bと、固定軸37と、可動軸38とを取り付ける。
【0057】
このように構成した力学的変位を検出する検査システムにおける変位検出について説明する。
ここでは、測定に際して、変位センサ31の固定軸37と可動軸38とを保持して、互いに軸が離れる方向にΔLを引っ張る検査用装置を用いている。測定においては、変位センサ31における初期照射位置Lを1300[nm]として、引っ張りによる最終照射位置がL=1340[nm]となっている。
【0058】
この引っ張り変化に対して、図9(a)に示すように、引っ張りの無い状態(ΔL=0)の場合と、図9(b)に示す引っ張りのある状態(変位変化ΔL=50%)の場合において、図10に示す光束の入射角度と出力(開放電圧Voc)との関係を取得した。図11は、これらの関係に基づく、変位変化ΔLに対する出力変化ΔVの関係を示す図である。図11にて、光束の入射角度はL=1340[nm]のときの共鳴角度(29.8[deg])と設定している。
【0059】
変位変化ΔLは、例えば、10(mm)の幅Lを持つセンサ中に、幅5(mm)を有するグレーティング構造体が設けられていると想定する。ここに、5(mm)の変位、即ち、50%の変化を与えることにより、光束の照射位置は、グレーティング構造体の端から端へ5(mm)の距離を移動する。この移動により、SPRの共鳴状態が変化する。従って、変位変化ΔLが50%というのは、幅Lに対して変化した形状情報をもとに得られる変化分である。
【0060】
本実施形態の変位を検出するSPRセンサは、外装部位に変位を与えることにより、センサの受光面における光照射位置が変化する。このため、光照射位置が異なるグレーティングピッチを持つ箇所に移動して照射することとなり、図11に示すように、変位変化に応じて線型的に出力値(電圧値)が変化する。
【0061】
その出力値を、予め関連づけられた比較条件(ここでは、グレーティング構造体43の各照射位置(又は移動距離)における出力値)との関係から、センサの出力値の変化から移動距離即ち、変位量を検出することができる。
【0062】
以上のことから、SPRセンサを用いて、用意加工性により、出力変化を力学的変位として検出することができる変位センサとして実現することができる。尚、変位センサとして使用する場合、任意の光照射位置Lにて、SPRを起こす共鳴角度を計算し、その角度で固定して入射するように設定する。
【0063】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態について説明する。
図12には、第3の実施形態として、上述したSPRセンサを利用して角度変化を検出す角度センサを搭載する検査システムの概念的な構成を示している。図13(a)乃至(e)は、本実施形態の角度を検出するSPRセンサの製造工程について説明するための工程図である。
【0064】
本実施形態では、図13(e)に示すように、MEMSデバイス技術を用いて、SPRセンサを片持ち形のカンチレバー型プローブに搭載し、変位(角度)を検出する検査システムを提案する。図13(e)に示すSPRセンサ1を利用した角度センサ51は、そのプローブ62に設けられた場合、その梁の傾斜状態を電磁気効果や容量効果を通じて、電気的信号に変換することによりセンシングを行っている。
【0065】
まず、図13(a)乃至(e)に示す工程図を参照して、センサの製造工程について説明する。尚、本実施形態のセンサの製造工程においては、前述した図2(a)乃至(d)における製造工程とほぼ同一であり、簡略化して説明する。
【0066】
図13(a)の工程において、本実施形態の角度センサ51を備えるカンチレバー型プローブ62を作製するに当たり、公知なSOI(Silicon On Insulator)基板を用いる。このSOI基板の代表的な作成技術は、シリコン基板に酸素イオンを注入して、基板内部に埋め込み酸化膜を形成するSIMOX(Separation by implanted oxygen)製造方法がある。他の方法としては、表面を酸化したボンドシリコンウエハと、ベースシリコンウエハとを貼り合わせて結合熱処理で一体的に結合させた後、ボンドシリコンウエハ側を平面研磨により薄膜化を図る、貼り合わせ製造方法等がある。
【0067】
図13(a)の工程において、SOI基板52は、トップシリコン層(膜厚1000nm)53、埋め込み酸化膜(膜厚400nm)54、シリコン基板(厚さ300μm)55である。SOI基板52のトップシリコン層53の極性はP型であり、ρ=40[Ωcm]、<100>の特性を有している。
【0068】
図13(b)の工程において、トップシリコン層53にマスクを形成し、覆われずに露呈する領域にイオン注入を行い、選択的にn+ドープ層56を形成する。本実施形態では、カンチレバーの梁となる部分の上面にn+ドープ層56が形成されている。
【0069】
図13(c)の工程において、n+ドープ層56上に、均一な厚さのレジスト層(図示せず)を形成する。さらに、電子ビーム描画装置を用いた電子線直接描画にて、ストライプのレジストパターンからなるグレーティング構造体57を形成する。その後、グレーティング構造体57を含むトップシリコン層53の全面上に、蒸着装置を用いて金(Au)膜58を成膜する。さらに、フォトリソグラフィ技術及びウェットエッチング法を用いて、アイランドパターンニング処理により、不要な金膜を除去して、グレーティング構造体を覆う金膜(第1の出力電極59aを含む)58aと、これと電気的に分離された第2の出力電極58bとを形成する。
【0070】
図13(d)の工程において、マスクとの組み合わせたRIE等のドライエッチング技術により、カンチレバーの支柱部分を残すように、シリコン基板55(底面側)の表面からトップシリコン層53が露呈するまで選択除去する。
図13(e)の工程において、露呈するトップシリコン層53を、所定の膜厚となるように、さらにエッチングする。そのトップシリコン層53の自由端の近傍に公知な手法を用いて探針60を作製する。作製方法は、選択的なドライエッチ法や、触媒法による他の材料の成長などを用いればよい。
【0071】
このように構成されたプローブ62は、梁部分50の金膜58a(グレーティング構造体)に光束がある入射角度で照射されている状態で駆動された際に、探針60に対して力学的な変位が加わると、梁部分50に反り又は曲がりが発生する。
従って、グレーティング構造体57が反る又は曲がることとなり、光束の入射角度が変化し、出力電極59a,59bに出力される電圧に変化が生じる。この時のカンチレバーの変位量と出力電圧は、比較条件として予め関連づけられて設定されているため、電圧変化に応じた角度センサ51の変位量を算出することができる。
【0072】
図12に示す上述した角度センサ51を搭載する検査システムによる角度変化の検出について説明する。本実施形態の検査システム61は、上述した角度センサ51を用いたプローブ62を採用する一例として、非接触型原子間力顕微鏡装置を示している。
本検査システムの変位検出法としては、振幅検出(AM検出)又は、周波数検出(FM検出)のいずれも適用することができる。以下の説明においては、本実施形態の検査システムをAM検出法に応用した例について説明する。
【0073】
本実施形態の検査システム60は、角度センサ51を搭載するプローブ62と、プローブ62に所定振動を与えるアクチュエータ63と、角度センサ51の金膜58aに光束を照射する光源64と、検査対象となるサンプル65を載置するテーブルを備えX−Y方向(2軸方向)に移動可能なXYスキャナ66と、XYスキャナ66を制御するコントローラ67と、XYスキャナ66をZ方向に移動するスタックピエゾ素子68と、スタックピエゾ素子68を駆動するサーボ回路69と、制御部70と、で構成される。ここでは、X,Y,Z方向を3軸方向とする。
【0074】
制御部70は、振動しているカンチレバー型プローブ62が検査対象物の形状に沿って昇降した変位(変位量)を検出する変位検出部71と、AM検出及びアクチュエータ63とサーボ回路69のフィードバック制御を行う復調部72とで構成される。
この検査システムでは、圧電セラミックスからなるアクチュエータ63と、前述した角度センサ51によるカンチレバー型プローブ62を組み合わせて使用する。この構成において、振動系の鋭さを示唆するQ値は、大気中では400、共振周波数は10KHzである。
【0075】
光源64における光束の入射角度は、角度センサ51のグレーティングピッチより、見積もられる波数分散式から得られる共鳴角度に設定する。復調部72は、AM検出器で構成されている。カンチレバー62の出力信号よりAM検出を行い、測定対象の表面形状を類推し、且つアクチュエータ63及びサーボ回路69にフィードバック制御を行うための制御信号を生成する。
【0076】
復調部72であるAM検出器には、変位検出部71からの出力(開放電圧)が入力されAM検出では、例えば、プローブ62の共振点をそれぞれの共振点(f1=10KHz)より△f(△f1=25Hz)だけずらした点(f1+△f1)で加振した時のその加振周波数における各プローブ62の振幅を検出し、サンプル65とプローブ62との物理的相互作用による共振点の変化を、信号の強度変化△Aとして検出する。△Aの変化から、サンプル65の表面形状を類推することができる。
【0077】
以上のように、本実施形態の検査システムの構成においては、反射光を受ける受光素子は不要であるため、複数本のカンチレバーを備えるマルチプローブに変更することは容易である。本実施形態では、第1の実施形態と同様に、予め定めた比較条件、即ち、サンプル65とプローブ62との物理的相互作用による共振点の変化を信号の強度変化として関係づけることにより、表面形状を類推することができる。
【0078】
本実施形態の検査システムは、以下の従来の原子間力顕微鏡装置に生じる課題を解決することができる。
光てこ法を採用している従来のカンチレバーは、梁部分の背面に反射面を設けて、レーザ光を照射し、カンチレバーの変動に従う反射光の変化をフォトダイオードにより検出する構成である。この検出方法は、精度の高い測定が実現できる反面、受光素子やその処理回路等を必要とするため、構造が複雑化及び検出部の規模が大きくなっている。これに対して、本実施形態のカンチレバーは、反射光を受光する受光素子は不要であり、構成の簡素化や検出部の小型化が実現できる。
【0079】
他の手法であるカンチレバーに設けたピエゾ抵抗素子を利用して、その変化から位置を検出する方法(ピエゾ抵抗法)は、電流印加により発生するジュール熱が検出結果に影響を与える虞がある。これに対して、本実施形態では、グレーティング構造体を利用した出力電圧の変化を検出しているため、ジュール熱は影響が生じる程発生しない。
【0080】
さらに、精度の高い測定方法としてブラッググレーティング反射式のセンサが知られている。これは、反射光(回折光)の強度を計測することにより、角度を計測するものである。この検出方法も、反射光を検出しているため、光てこ法と同様に、検査システムの構成が煩雑になる可能性がある。これらの反射光を検出する方式においては、複数の角度センサを用いるマルチセンサシステムを構築する場合、角度センサと対で光源と光検出器が必要となるため、構成がより煩雑になる。
【0081】
これに対して、本実施形態の検査システムの構成においては、前述した光てこ法のカンチレバーと同様に、構成が簡素化される。さらに、反射光を受ける受光素子は不要であるため、複数本のカンチレバーを備えるマルチプローブに変更することは容易である。
【0082】
本発明の検査システムは、以下の要旨を含む。
1)外部から設定された入射角度で入射した光束を電気信号に変換し出力する受光面を有する光電変換素子と、
前記光束を透過するレジスト材料により前記受光面上に間隔を空けてストライプ状にパターン形成されたグレーティング構造体と、
前記グレーティング構造体を含むことにより波状に覆い被膜する導電体と、
前記光電変換素子により生成された電圧信号を出力する出力電極と、
を有し、
前記光束の入射角度又は入射位置により出力値を変化することを特徴とするセンサ。
【0083】
2)光束を照射する光源と、
基板上に一体的に形成され、前記光源から予め設定された入射角度で入射した光を電気信号に変換し出力する受光面を有する光電変換素子と、光を透過するレジスト材料により前記受光面上に間隔を空けてストライプ状にパターン形成されたグレーティング構造体と、前記グレーティング構造体を含み波状に起伏をしながら覆い被膜する導電体と、前記光電変換素子により生成された電圧信号を出力する出力電極と、で構成され、前記光束の入射角度又は入射位置により出力値を変化するセンサと、
前記出力電極より出力された出力値を取得し、予め設定された比較条件との比較により、その比較条件により定められた検出結果を出力する制御部と、を具備し、
前記センサが前記光束に照射を受けて、前記グレーティング構造体が表面プラズモンを誘起させ、且つ前記グレーティング構造体上を光不透過の前記導電体で被膜されていることを特徴とする検査システム。
【符号の説明】
【0084】
1…SPRセンサ、2…基板、3…グレーティング構造体、4,14…金属膜、5,5a,5b…出力電極、6…光源、7…検出部、11…n型シリコン基板、12…p+層、13…レジストパターン、21,30,50…センサ、21…チャンバ、22…ステージ機構、22a…ステージ部、22b…ステージ移動機構、23…制御部、24…ガス導入口、25…ガス排出口、27…駆動制御部、28…揺動部、29…駆動部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)を利用するSPRセンサとSPRセンサを搭載する検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表面プラズモン共鳴(SPR)を利用するセンサが知られている。このSPRは、屈折率の変化に対し敏感に反応するため、ガスセンサ等のケミカルセンサに応用されている。例えば、非特許文献1には、この原理を利用したガスセンサ装置が提案されている。
【0003】
このガスセンサ装置は、入射光源、ガスチャンバ、SPR変化を検出するSPRセンサ部、ステージ及び、反射光測定用フォトディテクタにより構成されている。SPRセンサ部は、金属でグレーティング構造体を形成しており、入射光を近接場化する。その近接場が形成する波数k1、金属内部の自由電子の振動(プラズモン)が寄与する波数k2、及び、グレーティングピッチが寄与する波数k3とすると、
【数1】
において、k1+k3=k2となった場合、プラズモンと近接場との共鳴が発生する。ここで、εmは媒体の誘電率、εMetal(ω)は金属の誘電率、ωは入射光の角振動数、cは光速及び、Lはグレーティングのピッチ(図1ではpと記載)、θは入射光の入射角度である。
【0004】
この共鳴状態では、反射光と共鳴している(つまり、グレーティング構造体の周辺においては、近接場共鳴光が発生している)ため、図14のθ=38[deg]付近に見られるように、反射光強度が一時、低い状態となり、これを共鳴状態の変化として検出する。SPRセンサ周辺のガス媒体が変化(即ち、屈折率が変化)すると、k1及びk2の項が変化して、ガス媒体変化をこの反射光強度変化として検出可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−273832号公報
【非特許文献1】Sensors and Actuators, P.S Vukusic, et al. 8(1992)155-160
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した従来のSPRセンサ部において、共鳴状態の変化を検出するには、一次光の反射光強度変化を検出する必要がある。これは装置構成の規模が大きくなることを意味している。そこで小型化を図るために、SPRセンサ自体に、その共鳴状態変化を検出する機能を付与することにより解決することができる。例えば、フォトディテクタ上に、金属線を等間隔に並べた金属グレーティング構造体により、開口部を通じて近接場共鳴光をフォトディテクタにて検出することができる。
【0007】
この金属グレーティング構造体を作製するためには、真空下のプラズマエッチング等の高度な半導体製造プロセスを用いているため、製造コストに影響を与えており、低コスト化が望まれている。加えて、このSPRセンサを種々の検出に用いるためには、さらに共鳴度合い(反射光を測定する検出系統では、共鳴していないときの反射光強度と、共鳴しているときの反射光強度との差又は、その急峻さ)の大きいセンサが要望されている。
【0008】
そこで本発明は、反射光測定が不要であり、表面プラズモン共鳴を高い感度で測定可能なSPRセンサ及びSPRセンサを搭載する検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に従う実施形態のセンサは、外部から予め設定された入射角度で入射した光束を電気信号に変換し出力する受光面を有する光電変換素子と、光を透過するレジスト材料により前記受光面上に間隔を空けてストライプ状にパターン形成され、前記光束の照射を受けて表面プラズモンを誘起させるグレーティング構造体と、前記グレーティング構造体及び露呈する前記受光面を覆うように形成し、前記受光面に透過する光束を抑制する導電体と、前記光電変換素子により生成された電圧信号を出力する出力電極とを有する。
【0010】
さらに、本発明に従う実施形態による検査システムは、光束を照射する光源と、入射された前記光束を電気信号に変換し出力する受光面を有する光電変換素子と、光を透過するレジスト材料により前記受光面上に間隔を空けてストライプ状にパターン形成され、前記光束の照射を受けて表面プラズモンを誘起させるグレーティング構造体と、前記グレーティング構造体及び露呈する前記受光面を覆うように形成し、前記受光面に透過する光束を抑制する導電体と、前記光電変換素子により生成された電圧信号を出力する出力電極と、で構成されるセンサと、前記出力電極から出力された前記受光面に照射された前記光束の入射角度又は入射位置のいずれかに応じて変化する出力値を出力する検出部と、を具備する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、反射光測定が不要であり、表面プラズモン共鳴を高い感度で測定可能なセンサを搭載する検査システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の検査システムに搭載するSPRセンサにおけるセンサの構成例を示す断面図である。
【図2】図2(a)乃至図2(d)は、センサの製造工程について説明するための工程図である。
【図3】図3は、センサにおける回転角度に対する、0次反射光強度及び開放電圧との関係を示す特性図である。
【図4】図4は、第1の実施形態における本発明のセンサをガス検出に応用した検査システムの概念的な構成を示す図である。
【図5】図5は、入射角度と開放電圧との関係によるアセトン量変化に対するSPR応答の入射角度依存特性を示す図である。
【図6】図6は、アセトン量変化に対する入射角度における開放電圧のピーク角度の特性を示す図である。
【図7】図7は、第2の実施形態における本発明のセンサを力学的変位の検出に応用した検査システムの概念的な構成を示す図である。
【図8】図8(a)乃至図8(f)は、変位センサの製造工程について説明するための工程図である。
【図9】図9(a)は、変位センサに引っ張りが無い状態を示す図であり、図9(b)は、変位センサに引っ張りがある状態を示す図である。
【図10】図10は、変位センサにおける光束の入射角度と出力(開放電圧Voc)との関係を示す特性図である。
【図11】図11は、図10に示す入射角度と出力の関係に基づく、変位変化ΔLに対する出力変化ΔVの関係を示す特性図である。
【図12】図12は、第3の実施形態として、角度変化を検出する角度センサを搭載する検査システムの概念的な構成を示している。
【図13】図13(a)乃至図13(e)は、第3の実施形態の角度センサであるカンチレバーの製造工程について説明するための工程図である。
【図14】表面プラズモン共鳴(SPR)について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
まず、発明の検査システムに搭載する表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)センサの基本的な構成について説明する。
【0014】
図1は、SPRセンサの構成例を示す断面図である。
SPRセンサ1は、SPRを誘起させる構造を有し、後述する種々の検査対象に対応するセンサシステムに搭載する基本的な構成である。このSPRセンサ1は、光電変換機能を有する基板2と、基板2上に光を透過するレジスト材料から成り、等間隔のピッチによるストライプ形状に配置されるグレーティング構造体3と、グレーティング構造体3を覆うように形成される光をある程度不透過な導電体膜、例えば金属膜4と、一対の出力電極5(5a,5b)とで構成される。
【0015】
さらに、検査システムとしては、SPRセンサ1の金属膜4(グレーティング構造体3)に光束を照射する光源6と、SPRセンサ1の出力電極5から出力された信号(電圧信号)を取り込み、この信号に基づく検出処理を行う検出部7が備えられる。この金属膜4の表面をセンサ受光面とする。検出部7は、例えば、ノイズ除去及び信号増幅処理等を施す検出処理を行う。
【0016】
この構成において、基板2には、フォトディテクタ(PD)等の光を受けて電気を生成する光電変換素子が形成された半導体基板を用いている。グレーティング構造体3は、フォトリソグラフィ技術を用いて製造するが、他にも、プリント技術を用いても実施することができる。また、グレーティング構造体3における高さ、幅及びグレーティングピッチpと、金属膜4の膜厚Tは、適用されるセンサの構成や性能等に応じて設計時に適宜設定されている。出力電極5は、基板側に設けられた出力電極5a及び、金属膜4側に設けられた出力電極5bにより構成され、光電変換素子により生成された電圧を出力する。
【0017】
金属膜4は、略均一な厚さでストライプ形状のグレーティング構造体3を覆うように波状に形成されている。製造方法としては、蒸着技術、メッキ技術又は、スプレー技術を用いることができる。
【0018】
この金属膜4は、少なくともクレーティング構造体3が形成されずに露呈する基板2の表面を覆うように形成されていればよく、必ずしも凸部分の膜厚と、基板2上の膜厚とを一致させる必要はない。金属膜4の不透過さ加減は、基板2の受光面(PD面)に透過する光を抑制(又は遮光)するものであり、検出対象や求める性能に応じて所望する数値で透過を抑制(又は遮光)するように適宜、設定される事項である。これらの加減は、経験的、例えば、シミュレーション、実験又は、試作により適正な設定を行うことができる。
【0019】
また、本実施形態では、専用の光源6を設けた構成であったが、これに限定されるものではなく、例えば、SPRを発生させる波長を含む帯域の光を照射し、光学フィルタをSPRセンサ1の受光面前に配置して、SPRを発生させる波長の光のみを取り出して、SPRセンサ1に導く構成であってもよい。
【0020】
本実施形態のSPRセンサ1について説明する。
通常に利用されている結晶シリコン系太陽電池のIPCE(Incident Photon to Current conversion Efficiency:入射したフォトンがどの程度電流へ変換したのかを示す値)は、例えば、λ=900[nm]近辺で最大値をとり、λ=980[nm]より単調に減少する。それは、近赤外光領域(NIR領域)における光強度(光吸収)が低いことに起因する。そこで、本実施形態のSPRセンサ1は、受光した光を、SPRを用いることにより、NIR領域における光強度を高めて、電流変換に導く構成である。このため、SPRを誘起させる部位を光吸収層に近接すること、即ち、グレーティング構造体3及び金属膜4をセンサ受光面に近接させることが望ましい。
【0021】
このようなSPRセンサ1は、以下の効果を有している。
1)波状形状を成す金属膜4は、グレーティング機能を有しているため、SPRを誘起させることができる。
2)不透明な金属膜4は、共鳴する入射光が基板へ透過することを防止しているため、共鳴時と非共鳴時における反射光強度の差を小さくする1つの要因を排除している。つまり、従来のセンサの構造において、グレーティング構造体が形成されていない光電変換素子の受光面には共鳴する入射光が入り込まないことが望ましい。入射光により生じた電流が上述した反射光強度の差の変化の急峻さを鈍化させる可能性がある懸念がある。
【0022】
3)レジスト材料からなるグレーティング構造体3を基板上に直接、固着するように形成し、さらに金属膜4で被覆したままの構成であるため、金属膜4に対してプラズマエッチング等の高コストな真空下の半導体プロセスを用いずに、MEMSデバイス技術を用いて作成することができる。
【0023】
本実施形態のSPRセンサ1は、SPRを誘起させる構成が、間隔(ストライプ)を空けて形成したレジスト層と、その上を均一の厚さで覆った金属膜により実現される。これらは半導体技術(特に、プラズマを用いたエッチング)を用いずに実現でき、特に金属膜は、均一に成膜するだけで、エッチングの必要なくSPRの効果を得ることができる。また、グレーティング構造体3上の金属膜は、表面に波状の起伏があったとしても、CMP等の研磨やエッチバック処理による表面の平坦化を行う必要もない。
【0024】
次に、このセンサ1におけるSPRの検出及びシミュレーション(RCWA)による共鳴度合いについて説明する。
まず、SPRセンサ1を以下の説明する手順で作成し、SPRの検出について説明する。測定に用いる構成例は、金属膜4で起きているSPRを、その下部に設けたフォトディテクタにより検出する構成である。前述したように、SPRが生じると、反射光強度が低い状態となる、即ち、出力された開放電圧の電圧値が高い状態となる変化を共鳴状態の変化として検出する。
【0025】
図2(a)乃至(d)を参照して、SPRセンサ1の製造工程について説明する。
図2(a)の工程において、n型シリコン基板(ρ=10[Ωcm],<100>)11に対して、イオン注入法を用いて、BF2をイオンとして注入して、表層にp+層12を形成する。ここでは、アクセプタ不純物濃度NA:5.70×1018[cm−2]としている。
【0026】
図2(b)の工程において、レジスト塗布装置によるスピンコートにより、基板11のp+層12上に均一な厚さのレジスト層を形成する。さらに、例えば、電子ビーム描画装置を用いた電子線直接描画にて、レジストパターンからなるグレーティング構造体3を形成する。この例では、グレーティングピッチp:1330[nm]、膜厚TAU:50[nm]、アクセプタ不純物濃度NA:5.70×1018[cm−2]としている。パターン形成においては、他にも、露光及び現像によるフォトリソグラフィ技術を用いてもよい。
【0027】
図2(c)の工程において、グレーティング構造体3を含む基板11の全面上に、蒸着装置を用いて金(Au)膜4を成膜する。本実施形態では、耐腐食性を考慮して、金属膜に金を使用したが、これに限定されるものではなく、SPRセンサ1の仕様又は用途に応じて、アルミニウムなどの他の金属を適宜、使用することができる。また金属膜の成膜方法としては他にも、メッキ方法、印刷方法、スパッタリング方法又は、CVD(Chemical Vapor Deposition)方法などの公知な成膜方法も用いることが可能である。
【0028】
図2(d)の工程において、基板11の裏面上及び金膜4上にそれぞれに出力電極5a,5bを形成する。これらの電極は、マスク(レジストマスク等)を利用した上記成膜方法を用いて形成することができる。
上述した製造工程では、グレーティング構造体にレジストパターンを利用して、従来における金属材料を用いていないため、これまで半導体製造工程の1つとして必要であった金属膜のエッチングプロセスを利用していない特徴がある。
【0029】
このように形成されたSPRセンサ1による測定には、光源として、レーザ発光ダイオード(波長:675[nm])、ポーラライザーと、レーザパワーを測定するパワーメータと、電圧、電流、抵抗や温度等を測定するマルチメータと、センサを回転させるためのステージにより構成される測定装置(図示せず)を用いている。
【0030】
図3は、測定によるセンサ1における光束の入射角度(又は、受光面の傾き角度)[deg]に対する、0次反射光強度(R)[μW]及び開放電圧(Voc)[mV]との関係を示す図である。
図3において、光束の入射角度(又は、受光面の傾き角度)と反射光強度との関係におけるSPRのディップ角度(θ1=28.3[deg]及び、θ2=33.0[deg])が検出されている。その角度は、波数分散式から見積もられた値と同等である。但し、θ1はn=−3,θ2はn=1に対応する。図3によれば、反射光強度Rが小さくなるにつれ、開放電圧Vが増加している。つまり、このようなSPRセンサ1の構造において、SPRを検出できることを明確に示唆している。
【0031】
[第1の実施形態]
次に、第1の実施形態として、上述したSPRセンサを用いたガスを検出するガスセンサに応用した検査システムについて説明する。尚、本実施形態の構成部位において、前述したSPRセンサにおける構成部位と同等の部位には、同じ参照符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0032】
図4に示すように、この検査システムは、SPRセンサ1と、チャンバ21と、ステージ機構22と、ガス導入口24及びガス排出口25と、光源6と、検出部7と、システム全体の制御及び検出信号等の演算処理を行う制御部23と、で構成される。
SPRセンサ1は、ステージ機構22に固定される。SPRセンサ1の出力電極対は、チャンバ外部に配置される検出部7に配線等により接続され、センサ信号を出力する。
【0033】
ガス導入口24及びガス排出口25は、図示しないガス導入排出機構に接続される。即ち、ガス導入口24は、図示しない公知なガス導入機構(例えば、ガスボンベ、レギュレータ及びガス流量計等)に接続され、ガス排出口25は、図示しない公知な排出機構(例えば、排気用ポンプ及びガス処理機器)にそれぞれ接続されており、設定する流量の任意又は所望のガスをチャンバ21内に導入し、ガス濃度を可変することができるガス雰囲気を生成することができる。尚、SPRセンサをガスセンサとして現実的に使用する場合には、検出目的の特定のガスに強く影響を受けるように設計する場合もある。
【0034】
ステージ機構22は、ステージ部22aと、ステージ移動機構22bとで構成される。ステージ部22aは、平坦な載置面を有し、SPRセンサ1を露呈する状態で固着している。又は、ステージ部22aにSPRセンサ1を載置面に交換可能に保持する保持機構を備えてもよい。
【0035】
ステージ移動機構22bは、少なくともステージ部22aを傾斜するように揺動するための揺動部28と、揺動部28を駆動させるためのステッピングモータ等からなる駆動部29、制御部23の指示に従い駆動部29を制御する駆動制御部27と、で構成される。このステージ移動機構22bにより、ステージ部22aは、光源6からの光束の入射角度に対して、少なくとも垂直状態(入射角度0°)から水平状態(入射角度90°)までを傾斜させることができる。この揺動部28は、ギヤ等を用いた公知な構成でよい。尚、この揺動部28には、角度センサ(又は、位置センサ)30が設けられており、ステージ部22aの傾斜角度を計測し、この計測角度と同期して、SPRセンサ1の出力(開放電圧変化)が取得される。
【0036】
チャンバ21は、例えば、ガラス製からなり、気密な箱形状に形成されている。本実施形態では、ガラス材料を用いたが、検査ガスによる腐食やそのガス成分に影響を与えない部材であれば、限定されるものではない。但し、図4に示すように、チャンバ21の外側に光源を配置した構成であれば、光源6からチャンバ21内に光束(例えば、レーザ光)を入射するために、その入射窓は少なくとも透明部材により形成される。
【0037】
さらに、チャンバ21には、ステージ部22a上のSPRセンサ1に導入された検査対象となる気体(以下、検査ガスと称する)が向かうように、ガス導入口24及びガス排出口25が設けられている。
光源6は、発光ダイオード又は、レーザーダイオード等のある径で光束を出射する光学部品が好適する。その光束の波長は、グレーティングピッチと共鳴角度との兼ね合いで決定される。
【0038】
駆動制御部27は、ステージ機構22を駆動して、光源6から照射される光束におけるSPRセンサ1への入射角度を制御する。制御部23は、検出部7(SPRセンサ1)からの出力を受けて、その電圧値に基づき、予め定めた電圧値と比較条件(ここでは、ガスによる出力値の変化)との関係から、ガスの有無及び、その濃度変化を算出する。
【0039】
また、本実施形態のガスを検出するためのSPRセンサ1は、外寸法が例えば、幅(W):4[cm]、奥行き(L):5[cm]、高さ(h):4[cm]のサイズの箱形状である。また、グレーティングピッチ:1300[nm]、金属膜厚:90[nm]、グレーティング構造体の高さ:50[nm]としている。尚、SPRセンサ1は、検査ガスを検査したことにより、金属膜の表面が汚れるが、本実施形態では、金属膜に耐腐食性のある金(Au)膜を用いているため、簡易なクリーニング処理(拭き取り、又は洗浄)を行うことで、センサ性能を低下させることなく、継続的に使用することができる。
【0040】
次に、この検査システムを用いた、ガスに対する共鳴変化による検出について説明する。以下では、検査対象をアセトンガスとする一例について説明する。尚、アセトンガスの導入方法としては、ガス化したアセトンをガス導入口24から導入してもよいが、この例では、チャンバ21内にアセトン溶液(10,20,30[μl])が充填されたシャーレを搬入し、ガス導入口24及びガス排出口25を密閉し気密状態とした後、蒸発させる方法としている。
【0041】
まず、チャンバ21内を大気状態のまま、SPRセンサ1に対して光源6から光束を照射する。この時、ステージ移動機構22bにより、ステージ部22aに傾きを与えて、SPRセンサ1に入射する光束の入射角度を20°〜40°間で変化させて、多数の測定点における開放電圧値V1を測定する。
【0042】
次に、10[μl]のアセトン溶液が充填されたシャーレをチャンバ21内へ搬入し、チャンバ21内をアセトンガスで充満させる。同様に、SPRセンサ1に入射する光束の入射角度を20°〜40°間で変化させて、多数の測定点における開放電圧値V2を測定する。以降、同様に、20,30[μl]のアセトン溶液が充填されたシャーレをチャンバ21内へ搬入し、入射角度を20°〜40°間で変化させて、予め定めた間隔による多数の測定点における開放電圧値V3,V4を測定する。
【0043】
これらの測定結果として、図5には、入射角度と開放電圧との関係によるアセトン量変化に対するSPR応答の入射角度依存特性を示す。また、図6には、アセトン量変化に対する入射角度における開放電圧のピーク角度(共鳴角度)特性を示す。
この結果、アセトンガス雰囲気下で取得されたデータに関しては、SPRセンサ1付近の屈折率がアセトンの濃度変化により開放電圧が変化することが示唆されている。つまり、グレーティング界面に接するガス濃度の変化により、屈折率が変化し、SPR応答が変化するので、アセトンの濃度変化を検出することができる。
【0044】
ガスの検査システムに用いる場合の具体的な検出法としては、例えば、入射角度20〜30[deg]の範囲内で、ピーク電圧時の入射角度を共鳴角度と設定し、その共鳴角度変化を検出すればよい。
以上のように、本実施形態によれば、SPRセンサをガス検出に用いることにより、反射光を測定する従来のシステム構成に比べて、簡易な構成でガスの検査システムを実現することができる。
【0045】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態について説明する。
図7には、第2の実施形態として、上述したSPRセンサ1を利用して力学的変位を検出する変位センサ31に応用した検査システムの概念的な構成を示している。尚、本実施形態の構成部位において、前述したSPRセンサにおける構成部位と同等の部位には、同じ参照符号を付して、詳細な説明は省略する。
この検査システムは、変位センサ31と、取り付け治具32と、光源33と、検出部7と、演算処理部34と、で構成される。
【0046】
演算処理部34は、検出部7から出力されたセンサ信号から変位量(又は、移動距離)を演算処理による生成する変位検出を行う。演算処理部34は、別体として、配線接続してもよいし、変位センサ31と一体的に構成してもよい。また、演算処理部34は、別体でよければ、専用に作製しなくとも、例えば、パーソナルコンピュータを利用してもよい。また、少なくとも変位センサ31と取り付け治具32と光源3とは1つのユニットとして構成されている。この変位センサ31は、前述したSPRセンサ1と基本的な構造は同じであり、後述する電極対が導電体の金膜と同じ高さ(同一面)であることと、グレーティング構造体のピッチが異なること以外は同等である。
【0047】
変位センサ31は、センサ受光面のみを露呈し、以外の受光面周辺を含む周囲(側面及び底面)を外装部材35により、センサ本体を嵌入又は包含する構成である。外装部材35は、例えばPDMS(ポリジメチルシロキサン)等のシリコン系弾性体(シリコンエラストマー)の弾性体材料が好適する。
【0048】
前述したSPRセンサ1に形成されるグレーティング構造体3のグレーティングピッチpは、等間隔に形成されていた。これに対して、本実施形態の変位センサ31が用いているグレーティング構造体3aは、ストライプ幅方向におけるセンサの一端(以下、基準端と称する)から他端に向かう方向でグレーティングピッチpの間隔が徐々に広く又は、狭くなる(以下、グラディエーション化と表現する)ように形成される。
【0049】
このピッチの増加(又は減少)は、線型的、例えば直線的に変化を行う。但し、あくまでも基準位置からのずれ(移動量)が一対一に特定できればよいため、直線的な増減変化に限定されるものではなく、2次曲線的に変化しても可能である。また本実施形態におけるピッチの増減は、グレーティング構造体3aの或る極小範囲(ストライプ数本分)毎にステップ的に増加又は減少している。変位センサ31の基準端には、上下面に一対の出力電極41a,41bが形成されている。これらの出力電極41a,41bの出力信号線は、センサ外部に引き出され、検出部7に接続されている。
【0050】
変位センサ取り付け治具32は、保持板36a,36bと、可動軸37と、固定軸38とで構成される。保持板36a,36bは、金属や硬質な樹脂材料からなるプレートであり、例えば、変位センサ31の対向する二辺の上下両面から挟持して、面で接着して固定されている。可動軸37は、基準端の保持板36aと外装部材35を貫通して設けられ、変位により、外装部材35が引っ張られて、変位センサ31と一体的で基準端とは離間せずに、移動する。また、固定軸38は、基準端とは反対側の保持板36bと外装部材35を貫通して設けられ、変位により、外装部材35が引っ張られて延伸、変位センサ31の端と離間して離れるように移動する。
【0051】
光源6は、発光ダイオード又は、レーザーダイオード等のある径で光束を出射する光学部品である。本実施形態では、光源6から出射される光束は、センサ受光面の金属膜42に対して、ピッチ変化に対して最も大きい開放電圧の変化が得られる入射角度で入射するように固定されている。光束の径は、グレーティング構造体3aの大きさにより決定され、光束の波長は、グレーティングピッチと共鳴角度との兼ね合いで決定される。
【0052】
ここで、図8(a)乃至(f)に示す工程図を参照して、SPRセンサ1を利用した変位センサ31の製造工程について説明する。尚、以下に説明する図8(a)乃至(c)の製造工程においては、前述した図2(a)乃至(d)における製造工程とほぼ同一であり、その説明を簡略化する。まず、変位センサ31を形成する。
図8(a)に示す工程において、n型シリコン基板11に対して、イオン注入法を用いて、BF2をイオン注入し、表層にp+層12を形成する。
【0053】
図8(b)の工程において、基板11のp+層12上にレジスト層(図示せず)を形成し、電子線直接描画により、ストライプのレジストパターンからなるグレーティング構造体3aを形成する。このグレーティング構造体3aは、前述したようにグレーティングピッチがグラディエーション化するように設けられている。この例では、グレーティング構造体3aの幅を5000μmとして、ピッチをL=100[μm]幅毎に徐々に線型的に大きくなるようにピッチ変化を加えてグラディエーション化した形状である。
【0054】
図8(c)の工程において、グレーティング構造体3aを含む基板11の全面上に、蒸着装置を用いて、金属層となる金(Au)膜14を略同じ膜厚で成膜する。さらに、基板11の裏面上及び金膜14に電気的に繋がるように、それぞれに出力電極41a,41bを形成する。
図8(d)の工程において、外装部材35から変位センサ31を嵌め込むための嵌め込みスペースを切削して除去する。この時、そのスペースに嵌め込まれた変位センサ31が外れ出ないように2箇所の縁を抑えるキャップ部材43,44を用意する。
【0055】
図8(e)の工程において、外装部材35の嵌め込みスペースの内壁に公知な化学蒸着法等を用いて、パリレン薄膜45を被膜する。併せて、可動軸38側において、変位センサ31を押さえるキャップ部材43における変位センサ31との当接面側にも同様に、パリレン薄膜45を被膜する。このパリレン薄膜45を設けることにより、外装部材35であるPDMSと変位センサ31との間の滑り抵抗を低く抑えた滑り構造を持たせることができる。
【0056】
図8(f)の工程において、センサ31を外装部材35の嵌め込むスペース内に嵌め込んだ後、キャップ部材43,44を固着する。さらに、変位センサ取り付け治具32、即ち、保持板36a,36bと、固定軸37と、可動軸38とを取り付ける。
【0057】
このように構成した力学的変位を検出する検査システムにおける変位検出について説明する。
ここでは、測定に際して、変位センサ31の固定軸37と可動軸38とを保持して、互いに軸が離れる方向にΔLを引っ張る検査用装置を用いている。測定においては、変位センサ31における初期照射位置Lを1300[nm]として、引っ張りによる最終照射位置がL=1340[nm]となっている。
【0058】
この引っ張り変化に対して、図9(a)に示すように、引っ張りの無い状態(ΔL=0)の場合と、図9(b)に示す引っ張りのある状態(変位変化ΔL=50%)の場合において、図10に示す光束の入射角度と出力(開放電圧Voc)との関係を取得した。図11は、これらの関係に基づく、変位変化ΔLに対する出力変化ΔVの関係を示す図である。図11にて、光束の入射角度はL=1340[nm]のときの共鳴角度(29.8[deg])と設定している。
【0059】
変位変化ΔLは、例えば、10(mm)の幅Lを持つセンサ中に、幅5(mm)を有するグレーティング構造体が設けられていると想定する。ここに、5(mm)の変位、即ち、50%の変化を与えることにより、光束の照射位置は、グレーティング構造体の端から端へ5(mm)の距離を移動する。この移動により、SPRの共鳴状態が変化する。従って、変位変化ΔLが50%というのは、幅Lに対して変化した形状情報をもとに得られる変化分である。
【0060】
本実施形態の変位を検出するSPRセンサは、外装部位に変位を与えることにより、センサの受光面における光照射位置が変化する。このため、光照射位置が異なるグレーティングピッチを持つ箇所に移動して照射することとなり、図11に示すように、変位変化に応じて線型的に出力値(電圧値)が変化する。
【0061】
その出力値を、予め関連づけられた比較条件(ここでは、グレーティング構造体43の各照射位置(又は移動距離)における出力値)との関係から、センサの出力値の変化から移動距離即ち、変位量を検出することができる。
【0062】
以上のことから、SPRセンサを用いて、用意加工性により、出力変化を力学的変位として検出することができる変位センサとして実現することができる。尚、変位センサとして使用する場合、任意の光照射位置Lにて、SPRを起こす共鳴角度を計算し、その角度で固定して入射するように設定する。
【0063】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態について説明する。
図12には、第3の実施形態として、上述したSPRセンサを利用して角度変化を検出す角度センサを搭載する検査システムの概念的な構成を示している。図13(a)乃至(e)は、本実施形態の角度を検出するSPRセンサの製造工程について説明するための工程図である。
【0064】
本実施形態では、図13(e)に示すように、MEMSデバイス技術を用いて、SPRセンサを片持ち形のカンチレバー型プローブに搭載し、変位(角度)を検出する検査システムを提案する。図13(e)に示すSPRセンサ1を利用した角度センサ51は、そのプローブ62に設けられた場合、その梁の傾斜状態を電磁気効果や容量効果を通じて、電気的信号に変換することによりセンシングを行っている。
【0065】
まず、図13(a)乃至(e)に示す工程図を参照して、センサの製造工程について説明する。尚、本実施形態のセンサの製造工程においては、前述した図2(a)乃至(d)における製造工程とほぼ同一であり、簡略化して説明する。
【0066】
図13(a)の工程において、本実施形態の角度センサ51を備えるカンチレバー型プローブ62を作製するに当たり、公知なSOI(Silicon On Insulator)基板を用いる。このSOI基板の代表的な作成技術は、シリコン基板に酸素イオンを注入して、基板内部に埋め込み酸化膜を形成するSIMOX(Separation by implanted oxygen)製造方法がある。他の方法としては、表面を酸化したボンドシリコンウエハと、ベースシリコンウエハとを貼り合わせて結合熱処理で一体的に結合させた後、ボンドシリコンウエハ側を平面研磨により薄膜化を図る、貼り合わせ製造方法等がある。
【0067】
図13(a)の工程において、SOI基板52は、トップシリコン層(膜厚1000nm)53、埋め込み酸化膜(膜厚400nm)54、シリコン基板(厚さ300μm)55である。SOI基板52のトップシリコン層53の極性はP型であり、ρ=40[Ωcm]、<100>の特性を有している。
【0068】
図13(b)の工程において、トップシリコン層53にマスクを形成し、覆われずに露呈する領域にイオン注入を行い、選択的にn+ドープ層56を形成する。本実施形態では、カンチレバーの梁となる部分の上面にn+ドープ層56が形成されている。
【0069】
図13(c)の工程において、n+ドープ層56上に、均一な厚さのレジスト層(図示せず)を形成する。さらに、電子ビーム描画装置を用いた電子線直接描画にて、ストライプのレジストパターンからなるグレーティング構造体57を形成する。その後、グレーティング構造体57を含むトップシリコン層53の全面上に、蒸着装置を用いて金(Au)膜58を成膜する。さらに、フォトリソグラフィ技術及びウェットエッチング法を用いて、アイランドパターンニング処理により、不要な金膜を除去して、グレーティング構造体を覆う金膜(第1の出力電極59aを含む)58aと、これと電気的に分離された第2の出力電極58bとを形成する。
【0070】
図13(d)の工程において、マスクとの組み合わせたRIE等のドライエッチング技術により、カンチレバーの支柱部分を残すように、シリコン基板55(底面側)の表面からトップシリコン層53が露呈するまで選択除去する。
図13(e)の工程において、露呈するトップシリコン層53を、所定の膜厚となるように、さらにエッチングする。そのトップシリコン層53の自由端の近傍に公知な手法を用いて探針60を作製する。作製方法は、選択的なドライエッチ法や、触媒法による他の材料の成長などを用いればよい。
【0071】
このように構成されたプローブ62は、梁部分50の金膜58a(グレーティング構造体)に光束がある入射角度で照射されている状態で駆動された際に、探針60に対して力学的な変位が加わると、梁部分50に反り又は曲がりが発生する。
従って、グレーティング構造体57が反る又は曲がることとなり、光束の入射角度が変化し、出力電極59a,59bに出力される電圧に変化が生じる。この時のカンチレバーの変位量と出力電圧は、比較条件として予め関連づけられて設定されているため、電圧変化に応じた角度センサ51の変位量を算出することができる。
【0072】
図12に示す上述した角度センサ51を搭載する検査システムによる角度変化の検出について説明する。本実施形態の検査システム61は、上述した角度センサ51を用いたプローブ62を採用する一例として、非接触型原子間力顕微鏡装置を示している。
本検査システムの変位検出法としては、振幅検出(AM検出)又は、周波数検出(FM検出)のいずれも適用することができる。以下の説明においては、本実施形態の検査システムをAM検出法に応用した例について説明する。
【0073】
本実施形態の検査システム60は、角度センサ51を搭載するプローブ62と、プローブ62に所定振動を与えるアクチュエータ63と、角度センサ51の金膜58aに光束を照射する光源64と、検査対象となるサンプル65を載置するテーブルを備えX−Y方向(2軸方向)に移動可能なXYスキャナ66と、XYスキャナ66を制御するコントローラ67と、XYスキャナ66をZ方向に移動するスタックピエゾ素子68と、スタックピエゾ素子68を駆動するサーボ回路69と、制御部70と、で構成される。ここでは、X,Y,Z方向を3軸方向とする。
【0074】
制御部70は、振動しているカンチレバー型プローブ62が検査対象物の形状に沿って昇降した変位(変位量)を検出する変位検出部71と、AM検出及びアクチュエータ63とサーボ回路69のフィードバック制御を行う復調部72とで構成される。
この検査システムでは、圧電セラミックスからなるアクチュエータ63と、前述した角度センサ51によるカンチレバー型プローブ62を組み合わせて使用する。この構成において、振動系の鋭さを示唆するQ値は、大気中では400、共振周波数は10KHzである。
【0075】
光源64における光束の入射角度は、角度センサ51のグレーティングピッチより、見積もられる波数分散式から得られる共鳴角度に設定する。復調部72は、AM検出器で構成されている。カンチレバー62の出力信号よりAM検出を行い、測定対象の表面形状を類推し、且つアクチュエータ63及びサーボ回路69にフィードバック制御を行うための制御信号を生成する。
【0076】
復調部72であるAM検出器には、変位検出部71からの出力(開放電圧)が入力されAM検出では、例えば、プローブ62の共振点をそれぞれの共振点(f1=10KHz)より△f(△f1=25Hz)だけずらした点(f1+△f1)で加振した時のその加振周波数における各プローブ62の振幅を検出し、サンプル65とプローブ62との物理的相互作用による共振点の変化を、信号の強度変化△Aとして検出する。△Aの変化から、サンプル65の表面形状を類推することができる。
【0077】
以上のように、本実施形態の検査システムの構成においては、反射光を受ける受光素子は不要であるため、複数本のカンチレバーを備えるマルチプローブに変更することは容易である。本実施形態では、第1の実施形態と同様に、予め定めた比較条件、即ち、サンプル65とプローブ62との物理的相互作用による共振点の変化を信号の強度変化として関係づけることにより、表面形状を類推することができる。
【0078】
本実施形態の検査システムは、以下の従来の原子間力顕微鏡装置に生じる課題を解決することができる。
光てこ法を採用している従来のカンチレバーは、梁部分の背面に反射面を設けて、レーザ光を照射し、カンチレバーの変動に従う反射光の変化をフォトダイオードにより検出する構成である。この検出方法は、精度の高い測定が実現できる反面、受光素子やその処理回路等を必要とするため、構造が複雑化及び検出部の規模が大きくなっている。これに対して、本実施形態のカンチレバーは、反射光を受光する受光素子は不要であり、構成の簡素化や検出部の小型化が実現できる。
【0079】
他の手法であるカンチレバーに設けたピエゾ抵抗素子を利用して、その変化から位置を検出する方法(ピエゾ抵抗法)は、電流印加により発生するジュール熱が検出結果に影響を与える虞がある。これに対して、本実施形態では、グレーティング構造体を利用した出力電圧の変化を検出しているため、ジュール熱は影響が生じる程発生しない。
【0080】
さらに、精度の高い測定方法としてブラッググレーティング反射式のセンサが知られている。これは、反射光(回折光)の強度を計測することにより、角度を計測するものである。この検出方法も、反射光を検出しているため、光てこ法と同様に、検査システムの構成が煩雑になる可能性がある。これらの反射光を検出する方式においては、複数の角度センサを用いるマルチセンサシステムを構築する場合、角度センサと対で光源と光検出器が必要となるため、構成がより煩雑になる。
【0081】
これに対して、本実施形態の検査システムの構成においては、前述した光てこ法のカンチレバーと同様に、構成が簡素化される。さらに、反射光を受ける受光素子は不要であるため、複数本のカンチレバーを備えるマルチプローブに変更することは容易である。
【0082】
本発明の検査システムは、以下の要旨を含む。
1)外部から設定された入射角度で入射した光束を電気信号に変換し出力する受光面を有する光電変換素子と、
前記光束を透過するレジスト材料により前記受光面上に間隔を空けてストライプ状にパターン形成されたグレーティング構造体と、
前記グレーティング構造体を含むことにより波状に覆い被膜する導電体と、
前記光電変換素子により生成された電圧信号を出力する出力電極と、
を有し、
前記光束の入射角度又は入射位置により出力値を変化することを特徴とするセンサ。
【0083】
2)光束を照射する光源と、
基板上に一体的に形成され、前記光源から予め設定された入射角度で入射した光を電気信号に変換し出力する受光面を有する光電変換素子と、光を透過するレジスト材料により前記受光面上に間隔を空けてストライプ状にパターン形成されたグレーティング構造体と、前記グレーティング構造体を含み波状に起伏をしながら覆い被膜する導電体と、前記光電変換素子により生成された電圧信号を出力する出力電極と、で構成され、前記光束の入射角度又は入射位置により出力値を変化するセンサと、
前記出力電極より出力された出力値を取得し、予め設定された比較条件との比較により、その比較条件により定められた検出結果を出力する制御部と、を具備し、
前記センサが前記光束に照射を受けて、前記グレーティング構造体が表面プラズモンを誘起させ、且つ前記グレーティング構造体上を光不透過の前記導電体で被膜されていることを特徴とする検査システム。
【符号の説明】
【0084】
1…SPRセンサ、2…基板、3…グレーティング構造体、4,14…金属膜、5,5a,5b…出力電極、6…光源、7…検出部、11…n型シリコン基板、12…p+層、13…レジストパターン、21,30,50…センサ、21…チャンバ、22…ステージ機構、22a…ステージ部、22b…ステージ移動機構、23…制御部、24…ガス導入口、25…ガス排出口、27…駆動制御部、28…揺動部、29…駆動部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射された光束を電気信号に変換し出力する受光面を有する光電変換素子と、
光を透過するレジスト材料により前記受光面上に間隔を空けてストライプ状にパターン形成され、前記光束の照射を受けて表面プラズモンを誘起させるグレーティング構造体と、
前記グレーティング構造体及び露呈する前記受光面を覆うように形成し、前記受光面に透過する光束を抑制する導電体と、
前記光電変換素子により生成された電圧信号を出力する出力電極と、
を有するセンサ。
【請求項2】
光束を照射する光源と、
入射された前記光束を電気信号に変換し出力する受光面を有する光電変換素子と、光を透過するレジスト材料により前記受光面上に間隔を空けてストライプ状にパターン形成され、前記光束の照射を受けて表面プラズモンを誘起させるグレーティング構造体と、前記グレーティング構造体及び露呈する前記受光面を覆うように形成し、前記受光面に透過する光束を抑制する導電体と、前記光電変換素子により生成された電圧信号を出力する出力電極と、で構成されるセンサと、
前記出力電極から出力された前記受光面に照射された前記光束の入射角度又は入射位置のいずれかに応じて変化する出力値を出力する検出部と、
を具備することを特徴とする検査システム。
【請求項3】
請求項2に記載の検査システムにおいて、さらに、
前記センサを固定するステージを備え、前記受光面を予め定められた角度範囲内で傾斜するように前記ステージを揺動する移動機構と、
前記光源の照射する光束を前記センサの前記受光面に照射させるように前記ステージを収容し、気密保持するチャンバと、
前記チャンバ内に任意のガスを導入して、ガス雰囲気を生成するガス導入排出機構と、
前記検出部より出力された前記角度範囲内で傾斜する前記受光面から出力された出力値の変化と、予め検出対象として設定されたガスにおける出力値による比較条件とを比較して、少なくとも検査対象の前記ガスの有無及びその濃度を検出する制御部と、
を具備することを特徴とする検査システム。
【請求項4】
請求項2に記載の検査システムにおいて、さらに、
前記センサを嵌入し、該センサの前記端側の一端と固着する弾性体材料からなる外装部材と、
前記外装部材の前記一端側と、該一端と対向する他端側にそれぞれに取り付けられた取り付け治具と、を具備し、
矩形形状を成す前記センサの前記グレーティング構造体が前記受光面上において、端側から徐々に拡がる間隔又は徐々に狭まる間隔となるストライプ状にパターン形成され、
前記光源が前記グレーティング構造体の任意に定めた照射位置に、固定された入射角度で前記光束を照射し、
前記センサに光が入射した状態で前記取り付け治具に力が加わった際に、移動した前記センサの出力変化から移動距離を検出することを特徴とする検査システム。
【請求項5】
請求項4に記載の検査システムにおいて、
前記センサの出力は、前記取り付け治具の間隔が延伸する力が加わった際に、前記センサが前記固着する一端側に引かれて移動し、該移動に伴う前記照射位置の変位による前記受光面から出力された出力値の変化と、予め設定された前記照射位置上における出力値による比較条件とを比較して、前記受光面から出力された出力値から検出されることを特徴とする検査システム。
【請求項6】
請求項2に記載の検査システムは、さらに、
検査対象物を載置して、3軸方向に移動可能なスキャナ部と、
前記センサを梁部上面に配置するカンチレバーと、
前記カンチレバーを振動させるアクチュエータと、を具備し、
前記カンチレバーに加えられた曲がりによる前記センサから出力された電圧変化から前記カンチレバーの変位量を検出することを特徴とする検査システム。
【請求項7】
請求項6に記載の前記カンチレバーの変位量は、前記カンチレバーの曲がりによる前記光束の入射角度の変化に基づく前記センサから出力された電圧変化と、予め関係づけられた前記カンチレバーの変位時における出力値による比較条件とを比較して検出されることを特徴とする検査システム。
【請求項8】
半導体基板に不純物導入を行い、光電変換素子領域を作成する光電変換素子形成工程と、
光を透過するレジスト材料により前記光電変換素子領域上に、間隔を空けてストライプ状パターンからなるグレーティング構造体を形成するグレーティング形成工程と、
前記グレーティング構造体を含む前記受光面を覆うように形成する光を遮光又は抑制する光不透過の導電体を形成する導電体被膜工程と、
前記光電変換素子により生成された電圧信号を出力する出力電極を形成する電極形成工程と、
を具備することを特徴とするセンサの製造方法。
【請求項1】
入射された光束を電気信号に変換し出力する受光面を有する光電変換素子と、
光を透過するレジスト材料により前記受光面上に間隔を空けてストライプ状にパターン形成され、前記光束の照射を受けて表面プラズモンを誘起させるグレーティング構造体と、
前記グレーティング構造体及び露呈する前記受光面を覆うように形成し、前記受光面に透過する光束を抑制する導電体と、
前記光電変換素子により生成された電圧信号を出力する出力電極と、
を有するセンサ。
【請求項2】
光束を照射する光源と、
入射された前記光束を電気信号に変換し出力する受光面を有する光電変換素子と、光を透過するレジスト材料により前記受光面上に間隔を空けてストライプ状にパターン形成され、前記光束の照射を受けて表面プラズモンを誘起させるグレーティング構造体と、前記グレーティング構造体及び露呈する前記受光面を覆うように形成し、前記受光面に透過する光束を抑制する導電体と、前記光電変換素子により生成された電圧信号を出力する出力電極と、で構成されるセンサと、
前記出力電極から出力された前記受光面に照射された前記光束の入射角度又は入射位置のいずれかに応じて変化する出力値を出力する検出部と、
を具備することを特徴とする検査システム。
【請求項3】
請求項2に記載の検査システムにおいて、さらに、
前記センサを固定するステージを備え、前記受光面を予め定められた角度範囲内で傾斜するように前記ステージを揺動する移動機構と、
前記光源の照射する光束を前記センサの前記受光面に照射させるように前記ステージを収容し、気密保持するチャンバと、
前記チャンバ内に任意のガスを導入して、ガス雰囲気を生成するガス導入排出機構と、
前記検出部より出力された前記角度範囲内で傾斜する前記受光面から出力された出力値の変化と、予め検出対象として設定されたガスにおける出力値による比較条件とを比較して、少なくとも検査対象の前記ガスの有無及びその濃度を検出する制御部と、
を具備することを特徴とする検査システム。
【請求項4】
請求項2に記載の検査システムにおいて、さらに、
前記センサを嵌入し、該センサの前記端側の一端と固着する弾性体材料からなる外装部材と、
前記外装部材の前記一端側と、該一端と対向する他端側にそれぞれに取り付けられた取り付け治具と、を具備し、
矩形形状を成す前記センサの前記グレーティング構造体が前記受光面上において、端側から徐々に拡がる間隔又は徐々に狭まる間隔となるストライプ状にパターン形成され、
前記光源が前記グレーティング構造体の任意に定めた照射位置に、固定された入射角度で前記光束を照射し、
前記センサに光が入射した状態で前記取り付け治具に力が加わった際に、移動した前記センサの出力変化から移動距離を検出することを特徴とする検査システム。
【請求項5】
請求項4に記載の検査システムにおいて、
前記センサの出力は、前記取り付け治具の間隔が延伸する力が加わった際に、前記センサが前記固着する一端側に引かれて移動し、該移動に伴う前記照射位置の変位による前記受光面から出力された出力値の変化と、予め設定された前記照射位置上における出力値による比較条件とを比較して、前記受光面から出力された出力値から検出されることを特徴とする検査システム。
【請求項6】
請求項2に記載の検査システムは、さらに、
検査対象物を載置して、3軸方向に移動可能なスキャナ部と、
前記センサを梁部上面に配置するカンチレバーと、
前記カンチレバーを振動させるアクチュエータと、を具備し、
前記カンチレバーに加えられた曲がりによる前記センサから出力された電圧変化から前記カンチレバーの変位量を検出することを特徴とする検査システム。
【請求項7】
請求項6に記載の前記カンチレバーの変位量は、前記カンチレバーの曲がりによる前記光束の入射角度の変化に基づく前記センサから出力された電圧変化と、予め関係づけられた前記カンチレバーの変位時における出力値による比較条件とを比較して検出されることを特徴とする検査システム。
【請求項8】
半導体基板に不純物導入を行い、光電変換素子領域を作成する光電変換素子形成工程と、
光を透過するレジスト材料により前記光電変換素子領域上に、間隔を空けてストライプ状パターンからなるグレーティング構造体を形成するグレーティング形成工程と、
前記グレーティング構造体を含む前記受光面を覆うように形成する光を遮光又は抑制する光不透過の導電体を形成する導電体被膜工程と、
前記光電変換素子により生成された電圧信号を出力する出力電極を形成する電極形成工程と、
を具備することを特徴とするセンサの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−233779(P2012−233779A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102188(P2011−102188)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]