説明

Si−SiC系複合材料の製造方法

【課題】コストがかからず、高温での強度も十分高いSi−SiC系複合材料を提供する。
【解決手段】Si−SiC系複合材料を以下の手順で製造する。まず、SiC成形体と金属Siとを、金属Siが加熱溶融したあとSiC成形体と接触するように配置し、酸化物の標準生成自由エネルギーの負の絶対値がSiより大きい元素からなる易酸化性金属(例えば金属Al)を含む混合物を共存させた状態で、常圧下、Arガス雰囲気中、1400〜1800℃で加熱処理することにより、溶融した金属Siを前記SiC成形体に含浸させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si−SiC系複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Si−SiC系複合材料は、高い熱伝導率、高温で高い強度、優れた耐酸化性、軽量な材料として知られている。このSi−SiC系複合材料の製造方法としては、大別して下記の3つの方法が開示されている。例えば、SiC粉末を再結晶焼結させたSiC多孔質焼結体に溶融Siを含浸させる方法(特許文献1)、SiCとカーボンブラックとの混合物を焼結させた多孔質焼結体に溶融Siを含浸させる方法(特許文献2)、SiCとカーボンブラックとの混合物からなる成形体に溶融Siを含浸させてSiとカーボンとを反応させてSiCとし、全体としてSiC材料にカーボンと反応しなかったSiを含浸させる方法(特許文献3)などが挙げられる。
【0003】
ここで、SiC粉末の表面にはSiO2層が形成されており、このSiO2層は金属Siとの濡れ性が悪く金属SiがSiC粉末の成形体へ含浸するのを妨げる。特許文献1,2では、SiC粉末の成形体ではなくそれを焼結したSiC焼結体に溶融Siを含浸させているが、焼結と同時にSiO2層が除去されるため、SiC焼結体に溶融Siが含浸しやすくなる。また、特許文献3では、SiCとカーボンとからなる成形体に金属Siを2000℃以上の高温で含浸させることにより、SiO2層を除去している。
【0004】
一方、SiC焼成体にSiとAlとからなる溶融金属を含浸させた材料も開示されている(特許文献4、特に実施例2)。SiCにSiのみを含浸させた場合、溶融Siが凝固する際に体積膨脹するため、焼結体表面からSiが噴出する場合があるが、Alを添加することによりAlは凝固する際に体積収縮するため、溶融金属が噴出することが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭54−10825号公報
【特許文献2】特開2000−103677号公報
【特許文献3】特開昭56−129684号公報
【特許文献4】特表2003−505329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2では、SiC成形体を焼結してSiC焼結体を得たあと、そのSiC焼結体に金属Siを含浸させるため、SiC成形体に金属Siを含浸させる場合に比べて、工数が多く、コストが高くなるという問題があった。また、特許文献3では、SiC成形体に金属Siを含浸させているが、2000℃以上の高温で処理する必要があるため、エネルギー消費量が多く、コストが高くなるという問題があった。更に、特許文献4では、比較的低温で含浸できるため、コストはさほど高くならないが、浸透材として、約50重量%のSiと約50重量%のAlを含むものを用いているため、得られたSi−SiC系複合材料の高温での強度が著しく低下すると考えられる。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、コストがかからず、高温での強度も十分高いSi−SiC系複合材料を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のSi−SiC系複合材料の製造方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0009】
すなわち、本発明のSi−SiC系複合材料の製造方法は、加熱後に溶融したSiがSiC成形体に接触するように金属SiとSiC成形体とを配置し、酸化物の標準生成自由エネルギーの負の絶対値がSiより大きい元素からなる易酸化性金属又はそれを含む混合物を共存させた状態で、常圧下、不活性ガス雰囲気中、1400〜1800℃で加熱処理することにより、溶融した金属SiをSiC成形体に含浸させるものである。
【発明の効果】
【0010】
この製造方法では、常圧下、不活性ガス雰囲気中で加熱処理したとき、SiC成形体を構成しているSiC粉末の表面に形成されているSiO2層が、SiC成形体からSiOガスとして揮発し、そのSiOガスの酸素元素を易酸化性金属が奪い取り、Siと易酸化性金属の酸化物とが生成し、系内のSiOガスが減少したことに伴って、さらにSiC成形体からのSiOガスの揮発が促進されると考えられる。その結果、SiC成形体はSiO2をほとんど含まない状態となるため、金属Siは常圧下でもSiC成形体へ容易に含浸していき、Si−SiC系複合材料が生成する。また、金属Siの表面にもSiO2層が形成されているため、金属Siの表面に形成されているSiO2層も同様に揮発し、金属SiもSiO2をほとんど含まない状態となるため、金属SiがSiC成形体へより含浸しやすくなる。
【0011】
この製造方法によれば、SiC成形体に金属Siを含浸させるため、SiC成形体を焼結してSiC焼結体を得たあと、そのSiC焼結体に金属Siを含浸させる場合に比べて工数が少なく、コストがかからない。また、金属Siの含浸を1400〜1800℃で行うため、2000℃以上で行う場合に比べてエネルギー消費量が少なく、コストがかからない。更に、金属Siを含浸させる際、Si以外の多量の金属成分が含浸することがないため、得られたSi−SiC系複合材料の高温での強度が低下することがない。更にまた、この製造方法はSiC成形体を焼結させることなくSiC成形体に金属Siを含浸するため、SiC成形体を焼結してSiC焼結体を得たあと、そのSiC焼結体に金属Siを含浸させる場合に比べて、SiC成形体の焼結に伴う収縮がない分、SiC成形体からSi−SiC系複合材料への寸法変化が小さい。そのため、多孔質で加工しやすいSiC成形体の段階で最終製品寸法に仕上げておけば、含浸後の、緻密質で硬く加工しにくいSi−SiC系複合材料の段階での仕上げ加工を減らす、もしくは、なくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1におけるSiC成形体等の配置図であり、(a)は平面図、(b)はA−A断面図である。
【図2】実施例3におけるSiC成形体等の配置を表す平面図である。
【図3】実施例8におけるSiC成形体等の配置を表す平面図である。
【図4】比較例1におけるSiC成形体等の配置図であり、(a)は平面図、(b)はB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のSi−SiC系複合材料の製造方法は、加熱後に溶融したSiがSiC成形体に接触するように金属SiとSiC成形体とを配置し、酸化物の標準生成自由エネルギーの負の絶対値がSiより大きい元素からなる易酸化性金属又はそれを含む混合物を共存させた状態で、常圧下、不活性ガス雰囲気中、1400〜1800℃で加熱処理することにより、溶融した金属Siを前記SiC成形体に含浸させるものである。
【0014】
本発明の製造方法において、SiC成形体は、平均粒径の異なる2種類以上のSiC粒子の混合物を成形したものでもよいし、平均粒径が1種類のSiC粒子を成形したものでもよい。平均粒径は例えば2〜500μmの範囲で適宜設定すればよい。また、SiC成形体は、カーボンやバインダーなどを含んでいてもよい。なお、バインダーはこの分野で周知のものを使用可能である。バインダーを含むSiC成形体の脱脂は、窒素雰囲気又は大気雰囲気で行うことが好ましい。こうしたSiC成形体の形状は、特に限定するものではなく、例えば、中の詰まった中実の柱状体、中空の柱状体、筒体、球形、円板、多角形板など種々の形状とすることができる。また、金属Siの含浸のしやすさを考慮すると、多数の穴が形成されていることが好ましく、例えばハニカム構造であることが好ましい。
【0015】
本発明の製造方法において、金属Siは、Siの金属粉を所定形状に成形したものを用いてもよいし、Siのインゴットを用いてもよい。Si金属粉の成形方法は、一軸プレス、CIP、押出などが適用可能で、乾式の一軸プレスや乾式のCIPが好ましい。Siのインゴットは、粉砕してSi金属粉を作る前の塊であり、Si金属粉に比べて表面積が小さく酸化が少ない分、Siの金属粉に比べてSiO2の含有量が少ない。金属Siに含まれるSiO2の量が少ないほど、SiC成形体へ含浸しやすくなることから、金属SiとしてSiのインゴットを用いるのが好ましい。なお、Siのインゴットは酸素含有量が0.1重量%以下のものが好ましい。金属Siの重量は、SiC成形体内部の空隙に充填したい量に応じて設定でき、緻密にする場合は隙間に充填するのに必要な量以上のSiを配置すればよい。金属Siの形状に特に制約はないが、SiC成形体の上に金属Siを接触して配置できる形状がより好ましい。金属Siは、加熱後に溶融したSiがSiC成形体と接触するように配置すればよく、加熱前の段階で必ずしも接触している必要はない。金属SiをSiC成形体の上に直接載せてもよいし、加熱前には金属Siを冶具を用いて浮かしておき、加熱時には溶融したSiがSiC成形体に接触するようにしてもよい。また、SiC成形体の横や下に接触させた状態で金属Siを置いてもよい。
【0016】
本発明の製造方法において、酸化物の標準生成自由エネルギーの負の絶対値がSiより大きい元素は、例えば、Al,Zr,Ti,第2族元素(Be,Mg,Ca,Sr,Baなど)及び希土類元素(Y,Ce,La,Ybなど)からなる群より選ばれた1種以上の元素である。易酸化性金属を共存させずに、常圧下、不活性ガス雰囲気中で加熱処理したときには、SiO2がSiC成形体や金属SiからSiOガスとして揮発するが、揮発量は少量のため、含浸には至らない。易酸化性金属を共存させて加熱処理すると、揮発したSiOガスの酸素元素を易酸化性金属が奪い取り、Siと易酸化性金属の酸化物とが生成し、系内のSiOガスが減少したことに伴って、さらにSiC成形体や金属SiからのSiOガスの揮発が促進される。その結果、SiC成形体や金属SiはSiO2をほとんど含まない状態となるため、金属Siは常圧下でもSiC成形体へ容易に含浸していく。易酸化性金属としては、AlやZr,Ti,Mgが好ましい。ここで、Mgは、加熱処理時の温度において気体となって飛散したり気相反応を起こしたりするおそれがある。Alも、こうしたおそれはあるものの、Mgほどではないため、Mgに比べてAlの方が好ましい。Zr,Tiは、加熱処理時の温度において液体状態を維持しており、Mgのように飛散するおそれがないため、Mgに比べてZr,Tiの方がより好ましい。また、Zr,Tiは、焼結体中へ混入しにくいため、この点でも好ましいが、高価なため、コスト面では好ましいとはいえない。易酸化性金属の量は、Si、SiC原料および雰囲気に含まれる酸素と反応する以上の量が好ましい。易酸化性金属の形態は、粉の方が表面積が大きくSiOガスを奪いやすいため好ましいが、塊状、板状、箔状を用いてもかまわない。また、易酸化性金属のみを配置してもよいし、易酸化性金属を含む混合物を配置してもよい。
【0017】
本発明の製造方法では、金属SiとSiC成形体と易酸化性金属とを共存させる。共存方法として、SiC成形体と易酸化性金属とを同じ炉内に配置すれば本発明の効果が得られる。本発明の効果を高めるためには、同一さや内にSiC成形体と易酸化性金属とを配置し、さやに蓋をする方がより好ましい。密閉した空間の方が外部からの酸素供給が制限され、易酸化性金属がSiC成形体や金属Siから酸素元素をより奪いやすくなるためである。また、SiC成形体の周りを取り囲むように易酸化性金属を配置するほうが更に好ましい。具体的な配置の仕方としては、例えば、SiC成形体の周りの2箇所以上に略等間隔となるように易酸化性金属を配置してもよいし、SiC成形体の周りを取り囲むように易酸化性金属を含むリング状成形体を配置してもよい。SiC成形体の周りの1箇所だけに易酸化性金属を配置した場合、SiC成形体及び金属Siは易酸化性金属に面している箇所からはSiO2が抜け出しやすいが、易酸化性金属に面していない箇所からはSiO2が抜け出しにくいことがある。SiC成形体の周りを取り囲むように易酸化性金属を配置すれば、SiC成形体及び金属Siの全体からSiO2が抜け出しやすくなり、SiC成形体の全体により均一に金属Siが含浸しやすくなる。最良な共存の方法は、同一さや内にSiC成形体とSiC成形体の周りを取り囲むように易酸化性金属を配置し、さやに蓋をすることである。
【0018】
本発明の製造方法において、SiC成形体の周りに易酸化性金属を配置するにあたり、土台(容器でもよい)の上に易酸化性金属又はそれを含む混合物を配置するか、易酸化性金属と骨材とを含む成形体を配置するのが好ましい。易酸化性金属を単独で配置すると、加熱処理時に易酸化性金属が溶融してSiC成形体に向かって流れていきSiC成形体と接触するおそれがある。しかし、土台の上に易酸化性金属又はそれを含む混合物を配置した場合には、土台の上に易酸化性金属の溶湯が留まるため、易酸化性金属の溶湯がSiC成形体と接触するおそれがない。特に、土台として多孔体を用いた場合には、土台に易酸化性金属の溶湯が染みこむため、より好ましい。また、易酸化性金属と骨材とを含む成形体を配置した場合には、骨材が成形体の骨格を維持して易酸化性金属の溶湯が流れ出すのを防止するため、易酸化性金属の溶湯がSiC成形体と接触するおそれがない。なお、土台や骨材の材質としては、例えばカーボンやセラミック(SiCやAl23など)が挙げられる。骨材の平均粒径は、1〜300μmが好ましく、易酸化性金属と骨材とを含む成形体における骨材の割合が体積比で40〜95%となるようにすることが好ましい。
【0019】
本発明の製造方法において、常圧とは、特に減圧も加圧もしないときの圧力をいい、大気圧に等しい圧力(ほぼ1atm)をいう。また、不活性ガスとは、アルゴン、ヘリウムなどの希ガスをいい、窒素ガスは含まない。酸素分圧は一般的に流通し入手可能な不活性ガスの酸素分圧程度(例えば、10-4atm以下)が好ましいが、酸素濃度が多い場合は易酸化性金属を増やせばよい。
【0020】
本発明の製造方法において、易酸化性金属としてAlを用いた場合には、含浸後の圧粉体の周辺にはアルミナ質の反応生成物が形成される。その形状は、ファイバー状、ウイスカ状、板状、塊状など、様々であるが、作業安全面の観点から、ファイバー状やウイスカ状の反応生成物は好ましくない。そこで、Alを用いる場合には、反応生成物の形態を制御する目的で、助剤を添加することが好ましい。助剤を添加することにより、ファイバー状やウイスカ状の反応生成物の形成を抑制し、塊状の生成物が形成されやすくなり、作業の安全性が向上する。助剤を構成する元素は、Al23と反応して低融点になるもので、金属SiやAlと反応しにくいものであればよく、例えばCa,Sr,Baなどのアルカリ土類金属が好ましい。また、助剤としては、扱いやすさの面から、アルカリ土類金属の塩が好ましく、そのうち炭酸塩がより好ましく、特にCaCO3が好ましい。助剤の添加量は、Alに対して重量比で等倍〜3倍が好ましい。
【0021】
本発明の製造方法において、加熱処理時の温度を1400〜1800℃としたのは、この温度範囲であればSiC成形体の焼結と金属Siの含浸とが同時に進行するからである。こうした加熱処理は、例えばさやの中に金属Siを載せたSiC成形体を配置し、その周りに易酸化性金属を配置して蓋を閉め、そのさやを炉材がカーボンからなるカーボン炉や炉材が酸化物からなる酸化物炉(アルミナ炉など)に入れて行われる。さや及び蓋は、例えば酸化物(アルミナなど)で形成されたものを用いる。また、さやの底面には酸化物の粉体(アルミナ粉など)を敷いておくのが好ましい。こうすれば、加熱処理終了後にSi−SiC系複合材料を容易に取り出すことができる。焼成工程は、昇温工程、最高温度保持工程、降温工程の3つの工程を含み、昇温工程において、SiO2除去のため、所定温度で保持する工程を追加してもよい。昇温、降温速度は、使用する炉の能力や炉内温度分布の偏り抑制、使用するさやの割れ防止などに配慮して設定すればよい。最高温度保持工程の温度は1400〜1800℃が好ましく、保持時間は1〜20時間が好ましいが、成形体の大きさや形状、共存させる易酸化性金属の量などに左右されるため、好ましくは予備実験等を適宜行い、設定することが望ましい。
【0022】
本発明の製造方法は、SiCが57〜85重量%、Siが14.4〜43重量%、Alが0.6重量%以下であるSi−SiC系複合材料を得るのに適している。また、開気孔率が0〜5%、熱伝導率が130〜170W/mK、室温強度が200〜250MPa、1000℃での強度が180〜230MPaのSi−SiC系複合材料を得るのに適している。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
平均粒径45μmのSiC粉末70重量%と平均粒径35μmのSiC粉末10重量%と平均粒径5μmのSiC粉末20重量%に、バインダーを外配で4重量%(つまりSiC粉末100重量部に対して4重量部)と水とを混ぜ合わせ、ニーダーを使用して混練して混練物を得た。この混練物を真空土練機に投入し、円柱状の坏土を作製した。次に、押出機に格子状のスリットが形成された口金を装着し、この押出機に円柱状の坏土を入れて、円柱状で複数のセルを持つハニカム成形体を作製した。ハニカム成形体は、全長20mm、外径44mm、外周壁の厚さ2mm、隔壁の厚さ0.3mm、セル密度25セル/cm2であった。これを乾燥した後、窒素雰囲気にて500℃、5時間脱脂を行い、SiC成形体(重量約20g)とした。
【0024】
金属Siの成形体は、SiC成形体の100重量部に対して85重量部となるようにSi粉末(酸素含有量約0.6重量%)を秤量後、1軸プレスにより直径50mmのペレットに成形して作製した。
【0025】
易酸化性金属を含む圧粉体は、重量比でAl:Si=7:3となるようにAl粉末とSi粉末とを秤量して混合した後、1軸プレスにより直径30mmのペレット(重量約8.5g)に成形して作製した。
【0026】
そして、図1に示すように、150mm角、高さ50mmのAl23製の容器であるさや10を用意し、底面に敷き粉12(Al23粉末)を敷いた。この敷き粉12は、焼成後に製品を取り出しやすくするためのものである。そのさや10の中央にSiC成形体14を配置し、その上に金属Siの成形体16を載せ、その周りを取り囲むように、さや10の4隅に易酸化性金属を含む圧粉体18を1つずつ配置した。なお、Al−Si溶融金属がさや10内に広がらないよう、易酸化性金属を含む圧粉体18の下には、SiC粉を1軸プレスにより直径30mmのペレットに成形し、このペレットを土台20として配置した。その後、このさや10にAl23製の蓋をしてカーボン炉に入れ、常圧下、Ar雰囲気中、1450℃で4時間加熱処理を行うことにより、金属SiをSiC成形体に含浸させつつSiC成形体を焼結させて、Si−SiC系複合材料からなるハニカム焼結体を得た。なお、昇温速度は200℃/hとした。
【0027】
得られたハニカム焼結体を切断して金属Siの含浸状態を調べたところ、全体にムラなく含浸していた。また、嵩密度、気孔率、Al含有量、Si含有量、SiC含有量、熱伝導率及び強度を測定した。測定方法は以下の通りである。その測定結果を表1に示す。表1から明らかなように、比較例2(詳しくは後述)並みの熱伝導率をキープしつつ、比較例2よりもAl含有量を減らすことができ、高温での材料強度低下を抑制することができた。
(1)嵩密度:アルキメデス法にて測定した。
(2)気孔率a:試料を研磨して凹凸や傷、汚れを除去したのち、任意の3箇所を倍率50倍にて撮影した。各画像の濃淡ヒストグラムを作成すると、濃い側から順に、気孔、SiC、Al、Siの各ピークが現れるため、気孔とSiCのピーク間の谷の位置を閾値にして気孔部とその他の部分に2値化した。面積比から気孔率をそれぞれ算出、3箇所の平均値を気孔率とした。
(3)気孔率b:アルキメデス法による嵩密度と、試料を粉砕した物を密度計(島津製作所製、乾式自動密度計 アキュピック1330)により測定した真密度とを用いて算出した。
(4)Al、Mg、Ti、Zrの含有量:ICP発光分光分析により測定した(JIS R 1616に準拠)。
(5)Si、SiC含有量:易酸化性金属としてAlを用いた場合、嵩密度と、気孔率と、Al含有量の実測値と、真密度の文献値(Si:2.33g/cc、SiC:3.21g/cc、Al:2.7g/cc)を用い、Si−SiC系複合材料がSi、SiC、Al、気孔のみから構成されると仮定し、Si、SiCの含有量を算出した。易酸化性金属としてMg,Ti又はZrを用いた場合も、これと同様にして算出した。なお、真密度の文献値は、Mg:1.7g/cc、Ti:4.5g/cc、Zr:6.5g/ccである。
(6)熱伝導率:SiC成形体と同一材料を2mm厚以上のプレート状に押出し、実施例と同じ方法で含浸したものをレーザーフラッシュ法で測定した(JIS R 1611に準拠)。
(7)強度:SiC成形体と同一材料を3mm厚以上のプレート状に押出し、実施例と同じ方法で含浸したものを4点曲げ試験で測定した(JIS R 1601およびJIS R 1604に準拠)。
【0028】
[実施例2]
実施例1の易酸化性金属を含む圧粉体及び土台を用いる代わりに、重量比でAl:SiC=1:1となるようAl粉末とSiC粉末とを秤量して混合した後、1軸プレスにより直径30mmのペレット(重量約9.7g)に成形して作製した易酸化性金属を含む圧粉体を用いた。この圧粉体は、Alが溶融したとしてもSiCが成形体の骨格を保ち、Alの溶湯がさや内に広がるのを防止することから、その下に土台となるSiCのペレットを置かなかった。その他の条件は実施例1と同じとした。この場合も、金属Siが全体にムラなく含浸したハニカム焼結体が得られた。また、表1に、実施例1と同様のパラメータの測定結果を示す。表1から明らかなように、比較例2並みの熱伝導率をキープしつつ、比較例2よりもAl含有量を減らすことができ、高温での材料強度低下を抑制することができた。
【0029】
[実施例3]
実施例2の易酸化性金属を含む圧粉体の代わりに、巾17mm×高さ12mm×長さ102mmのAl23ボートに易酸化性金属であるAl粉末(重量約5g)を入れたものを、被含浸用成形体を取り囲むよう2つ配置した。その他の条件は実施例2と同じとした。このときの配置図を図2に示す。なお、図2の符号は、実施例1と同じものを表す。この場合も、金属Siが全体にムラなく含浸したハニカム焼結体が得られた。また、表1に、実施例1と同様のパラメータの測定結果を示す。表1から明らかなように、比較例2並みの熱伝導率をキープしつつ、比較例2よりもAl含有量を減らすことができ、高温での材料強度低下を抑制することができた。
【0030】
[実施例4]
実施例2の金属Siの成形体の代わりに、酸素含有量が0.1重量%以下のSi塊(インゴット)を、SiC成形体100重量部に対して85重量部となるよう秤量したものを用いた。その他の条件は実施例2と同じとした。この場合も、金属Siが全体にムラなく含浸したハニカム焼結体が得られた。また、表1に、実施例1と同様のパラメータの測定結果を示す。表1から明らかなように、比較例2並の熱伝導率をキープしつつ、比較例2よりもAl含有量を減らすことができ、高温での材料強度低下を抑制することができた。
【0031】
[実施例5]
実施例2のハニカム成形体の脱脂を、大気雰囲気にて400℃、4時間という条件で行った。その他の条件は実施例2と同じとした。この場合も、金属Siが全体にムラなく含浸したハニカム焼結体が得られた。また、表1に、実施例1と同様のパラメータの測定結果を示す。表1から明らかなように、脱脂雰囲気条件を窒素から大気に変更しても実施例2と同等の特性を持つ材料が得られた。
【0032】
[実施例6]
実施例2のカーボン炉での加熱処理を、酸化物炉(アルミナ炉)にて常圧下、Ar雰囲気中、1450℃で4hという条件で行った。その他の条件は実施例2と同じとした。この場合も、金属Siが全体にムラなく含浸したハニカム焼結体が得られた。また、表1に、実施例1と同様のパラメータの測定結果を示す。表1から明らかなように、酸化物炉での含浸においても、実施例2と同等の特性を持つ材料が得られた。
【0033】
[実施例7]
平均粒径45μmのSiC粉末87重量%と平均粒径35μmのSiC粉末13重量%に、バインダーを外配で4重量%と水とを調合後、自転公転混合機を用いて自転/公転=600/1800rpmにて約4分間混合した。100℃にて15時間乾燥した後、粉砕し、30μmの篩を通して、原料粉末を作製した。この原料粉末を1軸プレスで成形後、3tonでCIP処理を行い、φ50mmのペレットを作製し、窒素雰囲気にて500℃、5時間脱脂を行い、SiC成形体(重量約32g)とした。易酸化性金属を含む圧粉体は、重量比でMg:Si=77:33となるようMg粉末とSi粉末とを秤量し混合した後、1軸プレスにより直径30mmのペレット(重量約10g)に成形して作製した。そして、150mm角、高さ50mmのAl23製のさやの対角にSiC成形体を1つずつ配置し、その上に実施例1と同様の金属Siの成形体を載せ、さやの残り2隅に易酸化性金属を含む圧粉体を1つずつ配置し、実施例1と同様の条件で加熱処理を行った。この場合も、金属Siが全体にムラなく含浸した焼結体が得られた。また、表1に、実施例1と同様のパラメータの測定結果を示す。表1から明らかなように、易酸化性金属にMgを用いても、易酸化性金属にAlを用いた場合と同等の特性をもつ材料が得られた。
【0034】
なお、実施例7では、SiC成形体としてハニカム状ではなくペレット状のものを用いたが、実施例1で用いたハニカム状のSiC成形体を用いた場合でも、金属Siが全体にムラなく含浸したハニカム焼結体が得られた。
【0035】
[実施例8]
実施例2において、150mm角、高さ50mmのAl23製のさやの1隅にSiC成形体を1つ配置し、その上に金属Siの成形体を載せ、SiC成形体と対角側のさやの隅に重量比でAl:SiC=1:1となるよう成形した圧粉体を1つ配置した。また、別のさやには重量比でMg:Si=77:33となるよう成形した圧粉体を1つ配置し、さやには蓋をしなかった。それ以外は、実施例2と同じ条件で行った。図3に、実施例8の配置図を示す。2つのさやのうち、一方のさや10については、実施例1と同様のため、実施例1と同じ符号を付し、その説明を省略する。もう一方のさや110については、底面に敷き粉112(Al23 粉)を敷き、その中央に圧粉体118を配置した。この場合も、金属Siが全体にムラなく含浸したハニカム焼結体が得られた。表1に、各パラメータの測定結果を示す。
【0036】
[実施例9]
実施例7の圧粉体の代わりに、重量比でTi:SiC=1:4となるようTi粉末とSiC粉末を秤量し混合した後、1軸プレスにより作成した直径30mmのペレットを使用した以外は、実施例7と同様にして加熱処理を行った。この場合も、金属Siが全体にムラなく含浸した焼結体が得られた。表1に、各パラメータの測定結果を示す。
【0037】
[実施例10]
実施例7の圧粉体の代わりに、重量比でZr:SiC=1:4となるようZr粉末とSiC粉末を秤量し混合した後、1軸プレスにより作成した直径30mmのペレットを使用した以外は、実施例7と同様にして加熱処理を行った。この場合も、金属Siが全体にムラなく含浸した焼結体が得られた。表1に、各パラメータの測定結果を示す。
【0038】
[比較例1]
実施例1において、150mm角、高さ50mmのAl23製のさやにSiC成形体を1つ配置し、その上に金属Siの成形体を載せた。易酸化性金属は配置しなかった。それ以外は、実施例1と同じ条件で行った。図4に、比較例1の配置図を示す。符号は実施例1と同様のため、ここでは説明を省略する。この場合には、金属Siが含浸しなかった。
【0039】
[比較例2]
実施例1と同様にして、SiC成形体を作製した。そして、易酸化性金属の圧粉体の代わりに、含浸金属成形体を作製した。すなわち、含浸金属成形体は、重量比Si:Al=9:1となるようAl,Siを秤量し混合した後、SiC成形体100重量部に対して85重量部となるよう、1軸プレスにより直径50mmのペレットに成形して含浸金属成形体を作製した。そして、90mm角、高さ50mmのAl23製のさやの中央にSiC成形体を配置し、その上に含浸金属成形体を載せ、カーボン炉にて常圧下、Ar雰囲気中、1450℃で4hの条件で含浸した。この場合には、SiC成形体の全体に金属が含浸したが、その金属にはAlが約10重量%含まれるため、各実施例の製品に比べて強度が劣った。また、表1に、実施例1と同様のパラメータの測定結果を示す。表1から明らかなように、実施例1〜7に比べ、Al含有量が多く、高温での強度低下が顕著であった。
【0040】
[実施例11]
易酸化性金属としてTiやZrを用いた場合(実施例9,10)、含浸後の圧粉体の周辺にはファイバーは観察されなかったが、易酸化性金属としてAlを用いた場合(実施例1〜6,8)、含浸後の圧粉体の周辺にアルミナ質のファイバーが発生した。こうしたファイバーは、作業安全面の観点から好ましくない。そこで、助剤としてCaCO3を添加し、ファイバーを塊状化する効果があるか否かを検討した。具体的には、実施例1のペレットの代わりに、CaCO3入りペレットを用いた以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼結体を得た。CaCO3入りペレットは、次のようにして作製した。すなわち、重量比でAl:SiC=1:4となるようAl粉末とSiC粉末を秤量し混合した後、そこにCaCO3の粉末を重量比でAl:CaCO3=2:5となるように添加した。添加後、さらに混合し、1軸プレスにより直径30mmのペレット(重量約14g)を作製した。この場合も、助剤が含浸を阻害することなく、金属Siが全体にムラなく含浸した焼結体が得られた。さらに、含浸後の圧粉体の周辺には、アルミナファイバーはほとんど観察されず、アルミナ質の塊状物が生成した。この塊状物は、アルミナファイバーが反応して塊状化したものと考えられる。表1に、各パラメータの測定結果を示す。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の製造方法によって得られるSi−SiC系複合材料は、自動車、半導体製造装置や工作機械、生産設備などの部品に利用可能である。例えば、高熱伝導の特性を活かし、排熱回収および冷却用途の熱交換部品に利用可能であり、自動車分野、産業分野など特に限定されない。自動車分野で使用する場合は、排熱回収用熱交換器やEGRクーラーが一例として考えられ、この場合は、自動車の燃費向上やNOx低減に役立てることができる。また、高温での高い強度、優れた耐酸化性を活かし、窯道具などへの適用も可能である。
【符号の説明】
【0043】
10 さや、12 敷き粉、14 SiC成形体、16 金属Siの成形体、18 易酸化性金属の圧粉体、20 土台、110 さや、112 敷き粉、118 易酸化性金属の圧粉体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱後に溶融したSiがSiC成形体に接触するように金属SiとSiC成形体とを配置し、酸化物の標準生成自由エネルギーの負の絶対値がSiより大きい元素からなる易酸化性金属又はそれを含む混合物を共存させた状態で、常圧下、不活性ガス雰囲気中、1400〜1800℃で加熱処理することにより、溶融した金属SiをSiC成形体に含浸させる、Si−SiC系複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記元素は、Al,Zr,Ti,第2族元素及び希土類元素からなる群より選ばれた1種以上の元素である、請求項1に記載のSi−SiC系複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記元素は、Al,Zr,Ti又はMgである、請求項1又は2に記載のSi−SiC系複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記SiC成形体は、ハニカム構造を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の1項に記載のSi−SiC系複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記金属Siは、Siインゴットである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のSi−SiC系複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記易酸化性金属を含む混合物として、前記易酸化性金属と骨材とを含む成形体を用いる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のSi−SiC系複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記金属Siと前記SiC成形体と前記易酸化性金属又はそれを含む混合物とを共存させるにあたり、同一さや内に前記金属Siと前記SiC成形体と前記易酸化性金属又はそれを含む混合物とを配置してさやに蓋をする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のSi−SiC系複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記SiC成形体と前記易酸化性金属を共存させるにあたり、前記SiC成形体の周りを取り囲むように前記易酸化性金属を配置する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のSi−SiC系複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記混合物として、Alからなる易酸化性金属とアルカリ土類金属の塩とを含むものを用いる、
請求項1〜8のいずれか1項に記載のSi−SiC系複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記アルカリ土類金属の塩は、炭酸塩である、
請求項9に記載のSi−SiC系複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−211071(P2012−211071A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−47927(P2012−47927)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】