説明

Si含有冷延鋼板の製造方法及び装置

【課題】スラッジの生成を最低限に抑え、ランニングコストを削減しつつ低温度化された化成処理液を用いる場合にも化成処理性に優れるSi含有冷延鋼板の製造方法及び装置を提供する。
【解決手段】Siを0.5〜3.0mass%含有した鋼を、冷間圧延した後、連続焼鈍し、さらにその後、該連続焼鈍した冷延鋼板の表面を酸洗する工程10と、該酸洗後の鋼板表面を更に非酸化性の酸を用いて再酸洗する工程12とを有し、再酸洗液のサンプリングを連続または周期的に行い、サンプリングした液の酸濃度を測定30し、再酸洗液の酸濃度を所定濃度範囲に常時制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si含有冷延鋼板の製造方法及び装置に係り、特に、濃度変化が激しい再酸洗時の酸濃度を高精度に管理して、化成処理性に優れたSi含有冷延鋼板を安定的に製造することが可能な、Si含有冷延鋼板の製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全という観点から自動車の燃費改善が求められている一方で、衝突時における乗員保護という観点から自動車の安全性向上も求められている。そのため、自動車車体には軽量化と高強度化の両立が必要とされており、最近では自動車部品の薄肉化と高強度化が促進されている。
【0003】
ここで、自動車部品の多くは鋼板をプレス成形して製造されることから、自動車部品に用いられる鋼板には、優れたプレス成形性と高い強度とが強く求められている。そして、プレス成形性を大きく損なわずに高い強度を有する鋼板を得る方法としては、Si添加による固溶強化法が知られている。
【0004】
しかし、固溶強化法では、冷延鋼板に多量、特に0.5mass%以上のSiを含有させた場合には、焼鈍時にSiO2(シリカ)やSiMnO3(マンガンシリケート)などのSiを含有する酸化物が鋼板表面に形成されてしまう。そして、これらのSi系の酸化物は、鋼板の電着塗装の下地処理として行われるリン酸亜鉛処理(化成処理)において、鋼板表面のエッチングを阻害して健全な化成処理皮膜の形成を阻害する。そのため、こうしたSi含有量の多い高強度冷延鋼板は、電着塗装後に塩温水浸漬試験や、湿潤−乾燥を繰り返す複合サイクル腐食試験のような過酷な環境に曝されると、通常の鋼板に比べて塗膜がはがれ易く、塗装後耐食性が低下し易い。
【0005】
Si含有鋼板、特に0.5mass%以上の高いSiを含有する鋼板の化成処理性を改善する方法については、従来から多くの提案がなされている。
【0006】
特許文献1では、Mn/Siの比を1.2以上に制御することにより、表面に生成する不活性なSi酸化物を抑え、活性であるMn酸化物の生成を促すことにより、高Si鋼の箱焼鈍においても良好な化成処理性が得られる技術が提案されている。
【0007】
特許文献2では、その理由が完全に解明されていないが、充分に清浄な冷延鋼板の表面に20〜1500mg/m2の鉄を付着させることにより、良好な化成処理性が得られる技術を提案している。
【0008】
特許文献3では、連続焼鈍中の露点を0℃〜−20℃に制御し、かつ連続焼鈍後に濃塩酸または濃硫酸で表層のSi酸化物を除去することにより、Si酸化物による鋼板表面被覆率およびSi酸化物の大きさを制御し、化成処理性を改善する技術が提案されている。
【0009】
特許文献4では、酸洗により鋼板表面を片面当たり1μm以上除去することにより、鋼中に存在する酸化物を全て取り除くことで優れた化成処理性が得られる技術を提案している。
【0010】
特許文献5では、焼鈍時に鋼板表面に形成されたSi酸化物を酸洗により除去し、その直後に鋼板とS化合物とを接触によりリン酸亜鉛結晶核の数を増加させて、リン酸亜鉛結晶の微細化、緻密化を図り化成処理性を改善する方法が提案されている。
【0011】
一方、これらの化成処理を行う前には、通常鋼板表面を酸により酸洗し、連続焼鈍後に鋼板表面に存在する酸化物層を除去することが行われる。この酸洗を連続的に行う場合には、酸が消費され酸洗液中の酸の濃度が減少するので、酸洗能力は低下する。このため、酸洗液の酸洗能力低下を防ぎ、一定水準の酸洗能力を確保するために、酸洗液中の酸濃度を定期的に測定し、酸洗液に酸を追加補充する必要がある。
【0012】
また酸洗液中の酸濃度を定期的に測定する方法としては、従来から、以下の分析方法が知られている。例えば、硝酸及び弗酸の混合酸における硝酸濃度を求めるには、まず、中和滴定法により酸洗液の全酸濃度を求め、その後、全酸濃度から弗酸濃度を引くことにより求める方法が、主たる方法として知られている。後者の弗酸濃度の分析方法としては、例えば特許文献6には、鉄アセチルアセトン錯体退色吸光度法が、又、特許文献7には、イオン電極法による分析方法が、それぞれ記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公平06−104878号公報
【特許文献2】特開平5−320952号公報
【特許文献3】特許第4319559号公報
【特許文献4】特開2009−221586号公報
【特許文献5】特開2007−126747号公報
【特許文献6】特許第3321289号公報
【特許文献7】特許第3046132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
近年では、産業廃棄物の低減(スラッジの生成抑制)およびランニングコストの削減を目的として、化成処理液の低温度化が進んでおり、従来の化成処理条件に比較して、鋼板に対する化成処理液の反応性が大きく低下してきている。
【0015】
このため、スラッジの生成を最低限に抑え、ランニングコストを削減しつつ、安定した化成処理性を得るためには、酸洗時の酸濃度の管理を非常に狭い濃度範囲内で管理することが求められていた。そのためには迅速且つ高精度な分析をする必要であった。
【0016】
優れた化成処理性を達成するために特許文献1〜5が開示されているが、これらのどの技術においても酸洗により鋼板表面の酸化層を除去することが不可欠であった。しかしながら、特許文献6や7に記載された従来技術では、大量の鋼帯の酸洗処理を連続的に行なう場合等、酸の消費が大きい場合には、酸濃度測定に時間がかかり、そのため、迅速且つ適切に酸洗液の調整を行なうことができず、各酸濃度が管理範囲の下限を外れ、酸洗不良を起こすという問題があった。
【0017】
又、酸洗能力が管理範囲の下限以下にならないように過剰に酸を加えることがあるため、逆に過剰な酸洗になる場合もあり、コスト高の原因にもなっていた。
【0018】
更に、鉄鋼生産分野における工程分析では、酸濃度の正確な値は必ずしも必要でない場合もあり、分析値と酸濃度との一定の相関が明確であれば十分であるが、特許文献7等に記載されたイオン電極法では、酸洗液中の含有金属の量により相関関係がずれる可能性が大きい。
【0019】
又、特許文献7に記載の技術では、弗酸濃度の分析はイオン電極法を用いているため迅速であるが、硝酸濃度の分析には中和滴定法を用いているため、結果として硝酸濃度及び弗酸濃度の両者の値を得るのに時間がかかり、迅速性に劣るという問題があった。
【0020】
更に、イオン電極法は中和滴定法や鉄アセチルアセトン錯体退色吸光度法に比較して迅速性には優れるが、例えば鉄鋼の酸洗ラインでは、酸洗液中に大量に存在するFeを始めとする様々な金属イオンの影響により、分析精度が悪くなるという問題もあった。
【0021】
更に、強酸洗後に再酸洗槽へ鋼板が移行する際、鋼板に付着している酸が乾燥すると、鋼板が錆びて変色するため、鋼板に水を噴霧することにより鋼板の乾燥を防ぐことが行われる。しかし鋼板に噴霧された水の内、鋼板の乾燥を防ぐのに使われる水以外の多くの水は、再酸洗槽に滴下してしまうため、再酸洗槽の酸濃度を下げる原因になる。さらに鋼板の酸洗によっても再酸洗槽の酸が消費され酸濃度が低下するため、再酸洗槽においては酸の濃度低下が非常に速くなる。
【0022】
実際の工程において酸を調整することなしに鋼板を通板して連続で再酸洗を行うと、例えば、再酸洗槽中の酸濃度の低下が早い場合には30分で1g/Lの酸が減少する。一方、強酸洗においては、強酸洗槽中の酸の減少は早い場合には30分で2g/Lと、再酸洗槽の場合より若干速い。一方、強酸洗槽では単に酸化層を除去するのが目的なので、鋼種毎に厳密に管理する必要はないため、酸濃度の管理は目標値に対して±15g/L程度までの管理範囲が許される。このため強酸洗槽では酸の減少と管理幅を考慮すると、目標値からの酸濃度の減少によって管理幅を外れないようにするためには3時間ぐらいに1回の分析で酸濃度調整で対応が可能である。
【0023】
しかしながら、再酸洗槽では化成処理性に直結する最終の酸洗であるため、鋼種毎に管理する必要があり、酸濃度の管理幅が強酸洗槽と比較して非常に狭くなり、例えば塩酸を用いる場合には目標値に対して±1g/Lとなる。再酸洗槽では速い場合では30分で1g/L程度の速さで酸が減少することから、目標値から30分で管理範囲を外れることになる。このため分析後に酸の投入等にかかる時間を考えると少なくとも20分程度で分析を行わなければならない。
【0024】
このように、酸濃度の減少速度と酸濃度の管理幅を考慮すると、化成処理性を長時間、安定的に確保するためには、再酸洗槽では、強酸洗槽と比較してより短い周期で再酸洗槽の酸濃度を分析し、酸の調整を行うことが必要であることが初めて明らかになった。
【0025】
本発明は、Siを多量に含有している冷延鋼板を製造する上で抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、スラッジの生成を最低限に抑え、ランニングコストを削減しつつ低温度化された化成処理液を用いる場合にも化成処理性に優れるSi含有冷延鋼板の製造方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者等は、鋼板表面と化成処理液との反応性を高める方法について鋭意研究を重ねた結果、連続焼鈍した鋼板表面を強酸洗し、焼鈍時に鋼板表層に形成されたSi含有酸化物層を完全に除去するとともに、上記強酸洗によって鋼板表層に生成される鉄系酸化物をさらに再酸洗により除去することが極めて重要であること、更に、工程的に化成処理性を安定的に達成するための方法について鋭意研究を重ねた結果、強酸洗および再酸洗において安定的に酸化物層を除去し、ランニングコストの削減を達成するためには、特に再酸洗での酸濃度迅速に測定しつつ、狭い濃度範囲で制御することが極めて重要であることを見出し、本発明をするに至った。
【0027】
本発明は、Si含有冷延鋼板の製造方法において、Siを0.5〜3.0mass%含有した鋼を、冷間圧延した後、連続焼鈍し、さらにその後、該連続焼鈍した冷延鋼板の表面を酸洗する工程と、該酸洗後の鋼板表面を更に非酸化性の酸を用いて再酸洗する工程とを有し、再酸洗液のサンプリングを連続または周期的に行い、サンプリングした液の酸濃度を測定し、再酸洗液の酸濃度を所定濃度範囲に常時制御することにより、前記課題を解決したものである。
【0028】
ここで、前記再酸洗液の酸濃度を近赤外分光分析法、ガラス電極法、電磁誘導法のいずれかにより測定することができる。
【0029】
又、前記再酸洗液の酸濃度を、フィルターを通過させて固形浮遊分を除去した後の液を用いて測定することができる。
【0030】
本発明は、又、冷間圧延後、連続焼鈍した冷延鋼板の表面を酸洗するための酸洗槽と、該酸洗後の鋼板表面を更に非酸化性の酸を用いて再酸洗するための再酸洗槽と、再酸洗液のサンプリングを連続または周期的に行い、サンプリングした液の酸濃度を測定するための測定手段と、測定結果を用いて、再酸洗槽の酸濃度を所定濃度範囲に常時制御するための手段と、を備えたことを特徴とする化成処理性に優れたSi含有冷延鋼板の製造装置を提供するものである。
【0031】
ここで、前記測定手段は、近赤外分光分析法、ガラス電極法、電磁誘導法のいずれかを備えるものとすることができる。
【0032】
又、前記測定手段は、前記サンプリングした液の酸濃度を測定する前に浮遊固形分の除去を行うフィルターを備えることができる。
【0033】
又、前記フィルターの孔径を、20μm以上30μm以下とすることができる。
【0034】
又、前記再酸洗の酸として、塩酸、硫酸、リン酸、ピロリン酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、フッ酸、シュウ酸およびこれらの2種以上を混合した酸のいずれかを用いることができる。
【0035】
又、前記再酸洗の酸として、濃度が0.1〜50g/Lの塩酸、0.1〜150g/Lの硫酸、および、0.1〜20g/Lの塩酸と0.1〜60g/Lの硫酸を混合した酸のいずれかを用いることができる。
【0036】
又、前記再酸洗を、再酸洗液の温度を20〜70℃とし、再酸洗時間を1〜30秒として行うことができる。
【0037】
又、最初の酸洗を、硝酸濃度が50g/L超え200g/L以下で、塩酸濃度が1g/L超え200g/L以下である硝酸と塩酸を混合した酸、または硝酸濃度が50g/L超え200g/L以下で、フッ酸濃度が1g/L超え200g/L以下である硝酸とフッ酸を混合した酸を酸洗液に用いて行うことができる。
【0038】
又、最初の酸洗液の酸濃度を、再酸洗液の酸濃度より低い精度及び/又は長い間隔で測定することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、再酸洗液の酸濃度を迅速且つ高精度に測定することが可能になり、再酸洗液の濃度調整を迅速に行って、狭い濃度範囲での管理が可能となる。これにより再酸洗濃度の管理範囲外れを大幅に低減し、スラッジの生成を最低限に抑え、かつランニングコストを削減した上で優れた化成処理性を有するSi含有冷延鋼板の製造が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態の製造工程を示す図
【図2】前記実施形態で用いられる分析装置の基本的な構成を示す図
【図3】実施例における近赤外分光分析法で表2の鋼板を製造した時の再酸洗液の酸濃度のトレンドを示すタイムチャート
【図4】従来例における滴定法で表3の鋼板を製造した時の再酸洗液の酸濃度のトレンドを示すタイムチャート
【図5】実施例におけるガラス電極法で表4の鋼板を製造した時の再酸洗液の酸濃度のトレンドを示すタイムチャート
【図6】実施例における電磁誘電法で表5の鋼板を製造した時の再酸洗液の酸濃度のトレンドを示すタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0042】
連続焼鈍後の鋼板表層には、SiO2やSi−Mn系複合酸化物等のSi含有酸化物が多量に生成されており、このままでは化成処理性や塗装後耐食性が著しく低下する。そこで、本発明の製造方法では、焼鈍後の冷延鋼板を、硝酸等を用いて強酸洗し、鋼板表面のSi含有酸化物層を地鉄ごと除去する。
【0043】
Si含有酸化物のうち、Si−Mn系複合酸化物は酸に容易に溶解するが、SiO2は酸に対して難溶性を示す。したがって、SiO2を含めてSi含有酸化物を完全に除去するには、強酸洗して鋼板の地鉄ごと酸化物層を取り除く必要がある。上記強酸洗に用いることができる酸としては、強酸化性の酸である硝酸を好適に用いることができるが、Si含有酸化物層を除去することができれば沸酸や塩酸、硫酸等でもよく、酸の種類は特に問わない。また、上記酸に酸洗促進剤を添加したり、電解処理を併用したりして地鉄の溶解を促進することも有効である。
【0044】
本発明のSi含有冷延鋼板の製造では、図1に示す如く、Siを0.5〜3.0mass%含有した鋼素材(スラブ)を加熱後、熱間圧延し、冷間圧延し、連続焼鈍した鋼板に対して、硝酸等を用いた強酸洗槽10を通過させることにより、鋼板表層部分のSi含有酸化物層を完全に除去する。
【0045】
連続焼鈍後の鋼板表層のSi含有酸化物層を除去し、なおかつ、後述する再酸洗の負荷を軽減するためには、連続焼鈍後再酸洗前の強酸洗により鋼板表面に生成する鉄系酸化物量を抑制することが好ましく、そのためには、硝酸濃度を50g/L超え200g/L以下の範囲とし、さらに、酸化皮膜破壊効果のある塩酸を塩酸濃度が1g/L超え200g/L以下である硝酸と塩酸を混合した強酸洗液、または硝酸濃度が50g/L超え200g/L以下で、フッ酸濃度が1g/L超え200g/L以下である硝酸とフッ酸を混合した酸を酸洗液を用いて酸洗することが好ましい。
【0046】
また、上記の強酸洗液を用いる場合には、上記強酸洗液の温度を20〜70℃とし、酸洗時間を3〜30秒として行うのが好ましい。
【0047】
しかしながら、上記のような硝酸と塩酸、あるいは硝酸と弗酸を混合した強酸洗液を用いて酸洗するだけでは、鋼板表面にまだ鉄系酸化物が生成するため、さらに非酸化性の酸で再酸洗して鉄系酸化物を溶解・除去することとした。
【0048】
この時、強酸洗槽10における酸洗により鉄系酸化物が鋼板表層に生成するが、強酸洗槽10を出た鋼板は、再酸洗槽12に入るまでの乾燥を防ぐため、強酸洗槽10を出たところで水がかけられ、そして塩酸等を用いた再酸洗槽12において再酸洗される。この再酸洗により、強酸洗槽10での酸洗により生成した鉄系酸化物を除去する。
【0049】
上記再酸洗に用いることのできる非酸化性の酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、ピロリン酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、弗酸、シュウ酸あるいはこれらを2種以上混合した酸等があり、いずれを用いてもよいが、製鉄業で一般的に用いられている塩酸や硫酸であれば、好ましく用いることができる。中でも塩酸は、揮発性の酸であるため、硫酸のように水洗後の鋼板表面に硫酸根などの残留物が残存し難いこと、および、塩化物イオンによる酸化物破壊効果が大きいことなどから、好適である。また、塩酸と硫酸を混合した酸を用いてもよい。
【0050】
上記再酸洗槽12での再酸洗の酸洗液として、塩酸を用いる場合には、塩酸濃度を0.1〜50g/Lとして、また、硫酸を用いる場合には、硫酸濃度を0.1〜150g/Lとして用いるのが好ましく、また、塩酸と硫酸を混合した酸を再酸洗に用いる場合は、塩酸濃度を0.1〜20g/L、硫酸濃度を0.1〜60g/Lとして混合した酸を用いるのが好ましい。
【0051】
また、本発明における再酸洗は、上記のいずれの再酸洗液を用いる場合でも、再酸洗液の温度は20〜70℃の範囲とし、処理時間を1〜30秒として行うのが好ましい。
【0052】
再酸洗液の濃度が上記下限以上で、かつ液温が20℃以上、処理時間が1秒以上であれば、鋼板表面に残存する鉄系酸化物の除去が十分であり、一方、再酸洗液の濃度が上記上限濃度以下、かつ温度が70℃以下、処理時間が30秒以下であれば、鋼板表面の溶解が過剰とならず、新たな表面酸化膜を生成させてしまうことがないからである。
【0053】
ここで、再酸洗液の酸濃度は、図1に示す如く、酸原液タンク20からポンプ22により循環タンク24に供給され、ポンプ26により再酸洗槽12と循環タンク24間で循環している酸を、フィルター28を用いて液中の浮遊固形分を除去したサンプリング液を分析装置30に導入して測定することができる。
【0054】
分析装置30としては、特許文献6や7の手法より高精度の分析が可能な手法、例えば図2に例示する如く、(A)近赤外分光分析法、(B)ガラス電極法、(C)電磁誘導法のいずれかによる分析装置を用いることが望ましい。
【0055】
強酸洗においては、単に酸化層を除去するのが目的であるため、鋼種毎に厳密に管理する必要はないため酸濃度の管理は目標に対して±15g/L程度までの許容範囲が許されるが、再酸洗では化成処理性に直結する最終の酸洗であるため、鋼種毎に管理する必要があり、酸濃度の管理幅が強酸洗と比較して非常に狭くなり、例えば塩酸を用いる場合には目標に対して±1g/Lとなる。
【0056】
更に、再酸洗槽では速い場合では30分で1g/L程度の速さで酸が減少するため、±1g/Lの管理幅で酸濃度を調整するためには分析後に酸の投入等にかかる時間を考えると少なくとも20分程度で分析を行わなければならない。
【0057】
従来、一般的に工程分析で用いられる自動中和滴定装置では、分析に少なくとも約30分を要するため、自動中和滴定装置では再酸洗槽の酸濃度の管理は困難であった。このため、酸濃度の分析が10分以内で測定可能な近赤外分光分析法、ガラス電極法、電磁誘導法のいずれかによる分析装置を用いることが望ましい。
【0058】
図2(A)に示す近赤外分光分析法において、32は光源、34は測定セル、36は受光器、38は濃度演算器である。通常、光源32から照射される0.7〜2.5μmの波長を有する近赤外領域の光は、測定セル34の中の分析液により吸収され、透過した光は検出器36によって透過後の吸収スペクトルが測定される。また濃度演算器38は、あらかじめ標準溶液等での吸収スペクトルから作成された検量線を有しており、測定された吸収スペクトルから検量線により濃度が算出される。この近赤外分光分析法については、上記機能を満たしていれば、公知のものを利用できる。
【0059】
また図2(B)に示すガラス電極法では、ガラス電極60と参照電極61を用い、溶液62に両電極を浸漬した時に生じるガラス電極60と参照電極61の電位差Vを検知する。この電位差Vをあらかじめ標準液等で作成したpH値と電位の関係の検量線によりpHに換算し、溶液62のpH値を求める。そしてこのpH値を用いてpH=−logM(Mは水素のモル濃度)の関係から水素濃度を求め、溶液の酸濃度を算出する。このガラス電極法については、上記機能を満たしていれば、いわゆるpH計と言われる公知のものを利用できる。
【0060】
また、図2(C)に示す電磁誘導法では、コイル71、コイル72を用い、これを溶液に浸漬すると、溶液が2つのコイル71、72に対して、その各々と交わる閉回路74が形成される。コイル71に交流電圧73を印加すると閉回路74に溶液の電気伝導率に比例した誘導電流75が流れる。この時、コイル72には誘導電流に比例した誘導起電力76が生じる。この誘導起電力76から溶液の電気伝導率が求められ、あらかじめ標準溶液等で作成した電気伝導率と濃度の関係を表す検量線から、溶液の濃度を求める。この電磁誘導法では、いわゆる電磁濃度計と言われる公知のものを利用できる。
【0061】
なお、変動の少ない強酸洗槽10の酸濃度は、例えば特許文献6や7の手法により、オペレータが手作業で分析したり、再酸洗槽12の酸濃度と同様の分析装置を用いて分析することもできる。
【0062】
ここで、強酸洗槽10の酸濃度は、強酸洗槽10の管理幅である±15g/Lと広く、酸濃度の減少も大きくて30分で2g/L程度であるため、工程分析的には3時間程度までの間隔での測定が可能である。このため、分析へのオペレータの負荷が小さいため、特許文献6や7にある中和滴定法やイオン電極法や、吸光光度計などにより手動ですることも可能である。さらには分析時間が30分程度必要な自動中和滴定装置を用いても酸濃度の管理が十分可能である。
【0063】
前記フィルター28は、再酸洗槽12の液を通過させスラッジなどの浮遊固形分を除去するために、設けておくのが望ましい。このフィルター28は、分析する酸により腐食や溶解が起こらなければどのような材質でも良く、公知・公用のものが利用できる。また、このフィルター28を設ける場所は、サンプリングした再酸洗液の酸濃度を分析装置30で測定する前に浮遊固形分の除去を行えれば何処でもよい。
【0064】
具体的には、循環タンク24と分析装置30との間であればよいが、浮遊固形物による目詰まりを極力防ぐ為には、循環タンク24と再酸洗槽12との配管25から、分析装置30へ分岐した配管27の途中に設けることが望ましい。
【0065】
また、前記フィルター28の孔径としては20μm以上で30μmであることが望ましい。20μm以下では小さな固形浮遊分を取り除くために、すぐにフィルターが目詰まりを起こすからである。また30μm以上では通過した固形浮遊分が分析に影響を与え正確な測定ができないからである。
【0066】
分析装置30の分析結果に応じて、制御部40によりポンプ22がフィードバック制御され、酸原液タンク20から循環タンク24へ酸が追加されることにより再酸洗槽12の酸濃度が狭い範囲に制御される。
【0067】
図1において、14は、再酸洗後の鋼板を洗浄するためのリンス槽である。
【0068】
なお、本発明に適したSi含有冷延鋼板のSi以外の組成は、以下の成分を有するものが望ましい。
【0069】
C:0.01〜0.30mass%
Cは、鋼を高強度化するのに有効な元素であり、さらに、TRIP(変態誘起塑性:Transformation Induced Plasticity)効果を有する残留オーステナイトや、ベイナイト、マルテンサイトを生成させるのにも有効な元素である。Cが0.01mass%以上であれば上記効果が得られ、一方、Cが0.30mass%以下であれば、溶接性の低下が生じない。よって、Cは0.01〜0.30mass%の範囲で含有させるのが好ましく、0.10〜0.20mass%の範囲で含有させるのがより好ましい。
【0070】
Mn:1.0〜7.5mass%
Mnは、鋼を固溶強化して高強度化するとともに、焼入性を高め、残留オーステナイトやベイナイト、マルテンサイトの生成を促進する作用を有する元素である。このような効果は、1.0mass%以上の含有量で発現する。一方、Mnが7.5mass%以下であれば、コストの上昇を招かずに上記効果が得られる。よって、Mnは1.0〜7.5mass%の範囲で含有させるのが好ましく、2.0〜5.0mass%の範囲で含有させるのがより好ましい。
【0071】
P:0.05mass%以下
Pは、固溶強化能の大きい割に絞り性を害さない元素であり、高強度化を達成するのに有効な元素であるため、0.005mass%以上含有させることが好ましい。ただし、Pは、スポット溶接性を害する元素であるが、0.05mass%以下であれば問題は生じない。よって、Pは0.05mass%以下が好ましく、0.02mass%以下とするのがより好ましい。
【0072】
S:0.005mass%以下
Sは、不可避的に混入してくる不純物元素であり、鋼中にMnSとして析出し、鋼板の伸びフランジ性を低下させる有害な成分である。伸びフランジ性を低下させないためには、Sは0.005mass%以下が好ましい。より好ましくは0.003mass%以下である。
【0073】
Al:0.06mass%以下
Alは、製鋼工程で脱酸剤として用いられる元素であり、また、伸びフランジ性を低下させる非金属介在物をスラグとして分離するのに有効な元素であるので、0.01mass%以上含有させるのが好ましい。Alが0.06mass%以下であれば、原料コストの上昇を招かず、上記効果を得ることができる。よって、Alは0.06mass%以下とするのが好ましい。より好ましくは0.02〜0.06mass%の範囲である。
【0074】
上記した成分元素以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。ただし本発明の作用効果を害しない範囲であれば、以下の元素を以下の理由で、個別にあるいは同時に含有させることができる。Ti、NbおよびVは、炭化物や窒化物を形成し、焼鈍時の加熱段階でフェライトの成長を抑制して組織を細分化させ、成形性、特に伸びフランジ性を向上させる元素であるため、Ti:0.005〜0.3mass%、Nb:0.005〜0.3mass%およびV:0.005〜0.3mass%の範囲内で1種または2種以上を添加しても良い。また、Moは鋼の焼入れ性を向上し、ベイナイトやマルテンサイトの生成を促進する元素であるため、0.005〜0.3mass%の範囲で添加しても良い。さらに、CaおよびREMは、硫化物系介在物の形態を制御し、鋼板の伸びフランジ性を向上させる元素であるので、Ca:0.001〜0.1mass%、REM:0.001〜0.1mass%のうちから選ばれる1種または2種を添加しても良い。
【0075】
本発明に係る製造方法においては、上記の成分組成を含有する鋼を、転炉や電気炉などで溶製し、RHで二次精錬した後、造塊-分塊圧延法や連続鋳造法で鋼スラブとする。スラブ内の偏析を防止し、材質を安定させる観点からは、連続鋳造法で製造するのが好ましい。
【0076】
続く熱間圧延は、一旦室温まで冷却したスラブを加熱炉で1000℃以上の温度に再加熱してから行うのが通常であるが、スラブ鋳造後(連続鋳造後)、再加熱することなく直ちに圧延する直送圧延(直接圧延)する方法や、室温まで冷却することなく温片状態で加熱炉に挿入し、軽加熱もしくは保温を行ってから圧延してもよい。上記スラブを加熱する場合、スラブ加熱温度は1000℃以上とするのが望ましい。上限は特に限定されないが、1300℃を超えると酸化重量の増加に伴いスケールロスが増大したり、表面欠陥が発生したりする原因となることから、1300℃を上限とするのが望ましい。また、温片状態で加熱炉に装入する場合もスラブ温度は1000℃以上とするのが望ましい。
【0077】
また、熱間圧延は、必要に応じて粗圧延を行った後、仕上圧延終了温度を800℃以上とする仕上圧延を行い熱延板とするのが望ましい。仕上圧延終了温度が800℃を下回ると、鋼板組織が不均一となり、加工性を低下させる。一方、仕上圧延終了温度の上限は、特に限定されないが、過度に高い温度で圧延すると、スケール痕などの表面欠陥の原因となるので、1000℃以下とするのが望ましい。熱間圧延後は650℃以下の温度で巻き取るのが好ましい。巻取温度が650℃を超えると、巻き取り後に多量のスケールが発生し、冷間圧延前の酸洗不可が大きくなる。
【0078】
次いで、上記のようにして得た熱延板は、酸洗、ショットブラストあるいはブラシ研削などで脱スケール後、冷間圧延する。この冷間圧延は、所望の寸法・形状の冷延版を得ることができれば特に限定されないが、表面の平坦度や組織の均一性の観点からは、圧下率20%以上の圧延を施すことが望ましい。なお、冷間圧延前の酸洗は、熱延板の表面スケールが極めて薄い場合には、省くこともできる。
【0079】
冷間圧延後の冷延板は、その後、所望の強度と加工性を付与するために連続焼鈍ラインで焼鈍を施す。この連続焼鈍における焼鈍は、750〜900℃の温度域に加熱保持することが望ましい。加熱保持温度が750℃未満では、十分に再結晶が起こらず、加工性が低下する。一方、900℃超えでは組織が粗大化し、強度−延性バランスが低下する。また、上記温度に保持する時間は、30秒以上が好ましく、鋼板の材質を均一化するためには、60秒以上であることが好ましい。さらに好ましくは、120秒以上である。
【0080】
また、本発明では、上記連続焼鈍における加熱保持中の露点は−20℃以下とすることが好ましい。露点が−20℃を超えると、鋼板表層における脱炭が顕著になり、材質に悪影響を及ぼす。より好ましくは−25℃以下である。
【実施例1】
【0081】
C:0.125mass%、Si:1.5mass%、Mn:2.6mass%、P:0.019mass%、S:0.005mass%およびAl:0.040mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を、転炉、脱ガス処理等を経る通常の精練プロセスで溶製し、連続鋳造して鋼素材(スラブ)とした。次いで、このスラブを、1150〜1170℃の温度に再加熱した後、仕上圧延終了温度を850〜880℃とする熱間圧延し、500〜550℃の温度でコイルに巻き取り、板厚が3〜4mmの熱延鋼板とした。その後、これらの熱延鋼板を酸洗し、スケールを除去した後、冷間圧延し、板厚が1.8mmの冷延鋼板とし、次いで、これらの冷延鋼板を、750〜780℃の均熱温度に加熱し、40〜50秒間保持した後、上記均熱温度から350〜400℃の冷却停止温度までを20〜30℃/秒で冷却し、上記冷却停止温度範囲に100〜120秒間保持する連続焼鈍を施した後、表1中に示した条件で鋼板表面を強酸洗し、さらに再酸洗し、水洗し、乾燥した後、伸び率0.7%の調質圧延を施して、表1に示す冷延鋼板を得た。
【0082】
【表1】

【0083】
また、この鋼板製造時の連続焼鈍・強酸洗後の再酸洗槽12での酸濃度の管理は、次の手順により行われた。
【0084】
まず制御部40の命令により酸洗液が分析装置30に導入されるように切替弁50を開き、酸洗液をフィルター28を通過させ、スラッジ等の浮遊固形分を取り除く。この時のフィルター径は30μmのものを用いた。そして固形浮遊分が取り除かれた再酸洗液は分析装置30に導入され、近赤外分光分析法により濃度測定が行われた。次に、求められた濃度情報は制御部40に転送され、その濃度に応じてポンプ22を稼働することにより、新しい酸が備蓄されている酸原液タンク20から循環タンク24に酸を供給する。そして循環タンク24と再酸洗槽12間で酸洗液を循環することにより酸濃度の調整を行う。
【0085】
この時、再酸洗液の分析は10分間隔で行われ、これら工程は制御部40を介して全て自動的に行われる。
【0086】
このようにして得られた、各冷延鋼板から試験片を採取し、下記条件で化成処理と塗装処理を施した後、塩温水浸漬試験、塩水噴霧試験および複合サイクル腐食試験の3種の腐食試験に供して、塗装後耐食性を評価した。
【実施例2】
【0087】
再酸洗液の分析方法としてガラス電極法により濃度測定を行なった以外は、実施例1と同様に試験片を作製し、実施例1と同じ評価を行なった。
【実施例3】
【0088】
再酸洗液の分析方法として電磁誘導法により濃度測定を行なった以外は、実施例1と同様に試験片を作製し、実施例1と同じ評価を行なった。
【0089】
(1)化成処理条件
上記各冷延鋼板から採取した試験片に、日本パーカライジング社製の脱脂剤:FC−E2011、表面調整剤:PL−Xおよび化成処理剤:パルボンドPB−L3065を用いて、下記の標準条件および化成処理液の温度を下げて低温度化した比較条件の2条件で、化成処理皮膜付着量が1.7〜3.0g/m2となるよう化成処理を施した。
<標準条件>
・脱脂工程:処理温度40°C、処理時間120秒
・スプレー脱脂、表面調整工程:pH9.5、処理温度室温、処理時間20秒
・化成処理工程:化成処理液の温度35℃、処理時間120秒
<低温度化条件>
上記標準条件における化成処理液の温度を33℃に低下した条件
【0090】
(2)腐食試験
上記化成処理を施した試験片の表面に、日本ペイント社製の電着塗料:V−50を用いて、膜厚が25μmとなるように電着塗装を施し、下記3種類の腐食試験に供した。
<塩温水浸漬試験>
化成処理および電着塗装を施した上記試験片(n=1)の表面に、カッターで長さ45mmのクロスカット疵を付与した後、この試験片を、5mass%NaCl溶液(60℃)に360時間浸漬し、その後、水洗し、乾燥し、カット疵部に粘着テープを貼り付けた後、引き剥がすテープ剥離試験を行い、カット疵部左右を合わせた最大剥離全幅を測定した。この最大剥離全幅が5.0mm以下であれば、耐塩温水浸漬試験における耐食性は良好と評価することができる。
<塩水噴霧試験(SST)>
化成処理、電着塗装を施した上記試験片(n=1)の表面に、カッターで長さ45mmのクロスカット疵を付与した後、この試験片を、5mass%NaCl水溶液を使用して、JIS Z2371:2000に規定される中性塩水噴霧試験に準拠して1200時間の塩水噴霧試験を行った後、クロスカット疵部についてテープ剥離試験し、カット疵部左右を合わせた最大剥離全幅を測定した。この最大剥離全幅が4.0mm以下であれば、塩水噴霧試験における耐食性は良好と評価することができる。
<複合サイクル腐食試験(CCT)>
化成処理、電着塗装を施した上記試験片(n=1)の表面に、カッターで長さ45mmのクロスカット疵を付与した後、この試験片を、塩水噴霧(5mass%NaCl水溶液:35℃、相対湿度:98%)×2時間→乾燥(60℃、相対湿度:30%)×2時間→湿潤(50℃、相対湿度:95%)×2時間、を1サイクルとして、これを120サイクル繰り返す腐食試験後、水洗し、乾燥した後、カット疵部についてテープ剥離試験し、カット疵部左右を合わせた最大剥離全幅を測定した。この最大剥離全幅が6.0mm以下であれば、複合サイクル腐食試験での耐食性は良好と評価できる。
【0091】
上記試験の結果を、表1を併記して、近赤外分光分析法の結果を表2に、従来法である滴定法の結果を表3に、ガラス電極法の結果を表4に、電磁誘導法の結果を表5にそれぞれ示す。
【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
この表2、表4、表5の結果から、連続焼鈍後、本発明に適合する条件で強酸洗し、再酸洗した発明例の鋼板は、塩温水浸漬試験、塩水噴霧試験および複合サイクル腐食試験のいずれにおいても最大剥離全幅が小さく、良好な塗装後耐食性を示していることがわかる。
【0097】
また、表2、表4、表5の塩酸10g/Lの再酸洗条件および硫酸100g/Lの再酸洗条件で鋼板を製造した時の再酸洗槽12の酸濃度のトレンドをそれぞれ図3、図5、図6に示す。再酸洗槽12での塩酸濃度は目標10g/Lに対して管理範囲が9〜11g/Lであり、硫酸濃度は目標100g/Lに対して管理範囲が98〜102g/Lであるが、図3、図5、図6共に、塩酸、硫酸共に管理範囲を外れることなく、下限近くで安定している。
【0098】
一方、表3の滴定法においても概ね塗装後耐食性は良好な結果であったが、再酸洗条件が塩酸10g/L、温度40℃、処理時間10秒の時、塩酸10g/L、温度70℃、処理時間30秒の時、硫酸100g/L、温度40℃、処理時間10秒の時の3条件においては、酸濃度、温度、処理時間が本発明条件を満たしているにもかかわらず塗装後耐食性は不良であった。
【0099】
また、表3の塩酸10g/Lの再酸洗条件および硫酸100g/Lの再酸洗条件で鋼板を製造した時の再酸洗槽12の酸濃度のトレンドをそれぞれ図4に示す。再酸洗槽12での塩酸濃度は目標10g/Lに対して管理範囲が9〜11g/Lであり、硫酸濃度は目標100g/Lに対して管理範囲が98〜102g/Lであるが、図4においては塩酸、硫酸共に管理範囲を外れている。
【0100】
表3において塗装後耐食性不良であった3条件での製造時刻を、図4での酸のトレンドと照らし合わせたところ、塗装後耐食性不良であった3条件の製造時は、図4での酸の下限値はずれの時に製造していることが判明した。
【0101】
このように滴定法では酸濃度の測定間隔が長くなるので、酸濃度のコントロールが困難で、しばしば管理範囲を外すことが発生していた。このため、化成処理性の不良を発生させ、さらに酸の過剰投入によりランニングコストが高くなっていた。
【0102】
以上のように、本発明により再酸洗液の濃度を管理範囲内において低レベルに保持することが可能になったため、スラッジの生成を最低限に抑え、過剰な酸の消費をすることがなくなり、ランニングコストを削減しつつ、低温化成処理液を用いる場合にも化成処理性の優れるSi含有冷延鋼板の製造が可能になった。
【符号の説明】
【0103】
10…強酸洗槽
12…再酸洗槽
20…酸原液タンク
22、26…ポンプ
24…循環タンク
28…フィルター
30…分析装置
40…制御部
50…切替弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを0.5〜3.0mass%含有した鋼を、冷間圧延した後、連続焼鈍し、さらにその後、該連続焼鈍した冷延鋼板の表面を酸洗する工程と、
該酸洗後の鋼板表面を更に非酸化性の酸を用いて再酸洗する工程とを有し、
再酸洗液のサンプリングを連続または周期的に行い、サンプリングした液の酸濃度を測定し、再酸洗液の酸濃度を所定濃度範囲に常時制御することを特徴とする化成処理性に優れたSi含有冷延鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記再酸洗液の酸濃度を近赤外分光分析法、ガラス電極法、電磁誘導法のいずれかにより測定することを特徴とする請求項1に記載のSi含有冷延鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記再酸洗液の酸濃度を、フィルターを通過させた後の液を用いて測定することを特徴とする請求項1または2に記載のSi含有冷延鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記フィルターの孔径が20μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項3に記載のSi含有冷延鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記再酸洗の酸として、塩酸、硫酸、リン酸、ピロリン酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、フッ酸、シュウ酸およびこれらの2種以上を混合した酸のいずれかを用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のSi含有冷延鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記再酸洗の酸として、濃度が0.1〜50g/Lの塩酸、0.1〜150g/Lの硫酸、および、0.1〜20g/Lの塩酸と0.1〜60g/Lの硫酸を混合した酸のいずれかを用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のSi含有冷延鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記再酸洗を、再酸洗液の温度を20〜70℃とし、再酸洗時間を1〜30秒として行うことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のSi含有冷延鋼板の製造方法。
【請求項8】
最初の酸洗を、硝酸濃度が50g/L超え200g/L以下で、塩酸濃度が1g/L超え200g/L以下である硝酸と塩酸を混合した酸、または硝酸濃度が50g/L超え200g/L以下で、フッ酸濃度が1g/L超え200g/L以下である硝酸とフッ酸を混合した酸を酸洗液に用いて行うことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のSi含有冷延鋼板の製造方法。
【請求項9】
最初の酸洗液の酸濃度を、再酸洗液の酸濃度より低い精度及び/又は長い間隔で測定することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のSi含有冷延鋼板の製造方法。
【請求項10】
冷間圧延後、連続焼鈍した冷延鋼板の表面を酸洗するための酸洗槽と、
該酸洗後の鋼板表面を更に非酸化性の酸を用いて再酸洗するための再酸洗槽と、
再酸洗液のサンプリングを連続または周期的に行い、サンプリングした液の酸濃度を測定するための測定手段と、
測定結果を用いて、再酸洗槽の酸濃度を所定濃度範囲に常時制御するための手段と、
を備えたことを特徴とする化成処理性に優れたSi含有冷延鋼板の製造装置。
【請求項11】
前記測定手段が、近赤外分光分析法、ガラス電極法、電磁誘導法のいずれかを備えるものであることを特徴とする請求項10に記載のSi含有冷延鋼板の製造装置。
【請求項12】
前記測定手段が、前記サンプリングした液の酸濃度を測定する前に浮遊固形分の除去を行うフィルターを備えることを特徴とする請求項10または11に記載のSi含有冷延鋼板の製造装置。
【請求項13】
前記フィルターの孔径が20μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項12に記載のSi含有冷延鋼板の製造装置。
【請求項14】
前記再酸洗の酸として、塩酸、硫酸、リン酸、ピロリン酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、フッ酸、シュウ酸およびこれらの2種以上を混合した酸のいずれかを用いることを特徴とする請求項10乃至13のいずれかに記載のSi含有冷延鋼板の製造装置。
【請求項15】
前記再酸洗の酸として、濃度が0.1〜50g/Lの塩酸、0.1〜150g/Lの硫酸、および、0.1〜20g/Lの塩酸と0.1〜60g/Lの硫酸を混合した酸のいずれかを用いることを特徴とする請求項10乃至13のいずれかに記載のSi含有冷延鋼板の製造装置。
【請求項16】
前記再酸洗を、再酸洗液の温度を20〜70℃とし、再酸洗時間を1〜30秒として行うことを特徴とする請求項10乃至15のいずれかに記載のSi含有冷延鋼板の製造装置。
【請求項17】
最初の酸洗を、硝酸濃度が50g/L超え200g/L以下で、塩酸濃度が1g/L超え200g/L以下である硝酸と塩酸を混合した酸、または硝酸濃度が50g/L超え200g/L以下で、フッ酸濃度が1g/L超え200g/L以下である硝酸とフッ酸を混合した酸を酸洗液に用いて行うことを特徴とする請求項10乃至16のいずれかに記載のSi含有冷延鋼板の製造装置。
【請求項18】
最初の酸洗液の酸濃度を、再酸洗液の酸濃度より低い精度及び/又は長い間隔で測定することを特徴とする請求項10乃至17のいずれかに記載のSi含有冷延鋼板の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−214883(P2012−214883A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−61063(P2012−61063)
【出願日】平成24年3月16日(2012.3.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】