説明

T細胞の不応答性を調節する方法

【課題】細胞表面受容体CD2を介して不応答性T細胞を阻害または刺激することを含む抗原特異的T細胞不応答性を調節する方法を得る。
【解決手段】臓器または骨髄移植および自己免疫疾患における抗原に対する免疫反応を阻害することが望ましい状況において治療的に有用なCD2表面受容体を介する不応答性T細胞の刺激を阻害する物質、および抗原に対する免疫反応を刺激するのに治療的に有用なCD2表面受容体を介してT細胞を刺激する物質とT細胞を接触させることによってT細胞の不応答性を逆転させる方法を開発する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗原特異的T細胞の不応答性を調節する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗原特異的T細胞応答には、T細胞の細胞表面受容体と抗原提示細胞のリガンドとの間の多重相互作用が必要である。その第一の相互作用は、T細胞リセプター(受容体)/CD3複合体と主要組織適合性遺伝子複合体分子との間の相互作用であり、これは、T細胞受容体に抗原ペプチドを提示してT細胞中に抗原特異的シグナルをトリガー(誘発)する。この抗原特異的シグナルに加えて、T細胞応答には第二の共刺激シグナル(costimulatory signal)が必要である。共刺激シグナルは、細胞表面受容体CD28を通じてT細胞を刺激することによってT細胞中に生成させることができる(Harding、F.A.、Nature、356巻、607〜609頁、1992年)。CD28に対するリガンドは抗原提示細胞(APC)上に確認されている。CD28のリガンドとしては、B7−1およびB7−2などのB7ファミリーのタンパク質のメンバーがある(Freedman、A.S.ら、J.Immunol.、137巻、3260〜3267頁、1987年;Freeman、G.J.ら、J.Immunol.、143巻、2714〜2722頁、1989年;Freeman、G.J.ら、J.Exp.Med.、174巻、625〜631頁、1991年;Freeman、G.J.ら、Science、262巻、909〜911頁、1993年;Azuma、M.ら、Nature、366巻、76〜79頁、1993年;Freeman、G.J.ら、J.Exp.Med.、178巻、2185〜2192頁、1993年)。またこれらB7タンパク質類は、CD28に類縁のCTLA4と呼称される、T細胞上の他の表面受容体と結合することも報告されているが、共刺激におけるCTLA4の役割はまだ明らかになっていない(Linsley、P.S.、J.Exp.Med.、174巻、561〜569頁、1991年)。
【0003】
共刺激シグナルがない場合に抗原特異的シグナルがT細胞に送達されてもT細胞応答を誘導することなくT細胞アネルギーと呼ばれる不応答の状態を誘導することが実証されている(Schwartz、R.H.、Science、248巻、1349頁、1990年;およびJenkins、M.K.ら、J.Immunol.、140巻、3324頁、1988年参照)。この現象に基づいて、抗原に対するT細胞の不応答を誘導する治療法すなわちT細胞における共刺激シグナルを遮断する方法が提案されている。例えばCTLA4Ig融合タンパク質は、B7−1とB7−2の両者に結合してこれらのCD28との相互作用を遮断するが、同種異系移植片および異種移植片に対する拒絶反応を抑制するのに使用されている(例えばTurka、L.A.ら、Proc.Natl.Acad.Sci. USA、89巻、11102〜11105頁、1992年;およびLenschow、D.J.ら、Science、257巻、789〜792頁、1992年参照)。あるいは、細胞(例えば腫瘍細胞)上の抗原に対するT細胞応答を刺激する治療法も提案されている。例えば、その表面にCD28リガンドのB7−1を発現するよう修飾された腫瘍細胞は、T細胞内の共刺激シグナルをトリガーすることが見出されている(例えば、Chen、L.ら、Cell、71巻、1093〜1102頁、1992年;Townsend、S.E.およびAllison、J.P.、Science、259巻、368〜370頁、1993年;ならびにBaskar、S.ら、Proc.Natl.Acad.Sci. USA、90巻、5687〜5690頁、1993年参照)。
【0004】
抗原特異的相互作用と共刺激相互作用に加えて、T細胞の他の多くの細胞表面受容体は、T細胞の活性化においてアクセサリー機能をはたすと考えられている(Clark、E.A.およびLedbetter、J.A.、Nature、367巻、425〜428頁、1994年に総説が記載されている)。このような細胞表面受容体の例としては、MHCクラスII抗原と相互作用するCD4;MHCクラスI抗原と相互作用するCD8;CD40L(gp39)と相互作用するCD40;LFA−1と相互作用するICAM−1;およびLFA−3(CD58としても知られている)と相互作用するCD2(Selvaraj、P.ら、Nature、326巻、400〜403頁、1987年)がある。またCD2は、CD48およびCD59とも相互作用を行うが、ヒトのLFA−3との相互作用よりアフィニティが小さい(Arulanandam、A.R.ら、J.Exp.Med.、177巻、1439〜1450頁、1993年;およびSandrin、M.S.ら、J.Immunol.、151巻、4606〜4613頁、1993年)。
CD2は、胸腺細胞と成熟T細胞で発現される相対分子質量が50,000〜58,000の糖タンパク質である。CD2はヒツジの赤血球に結合し、これはT細胞Eロゼット形成の現象をもたらす特性である。T細胞のCD2とAPCのLFA−3との間の相互作用によって、T細胞の抗原認識が容易になり、その結果、抗原特異的T細胞応答が刺激される(例えば、Bierer、B.ら、J.Exp.Med.、168巻、1145頁、1988年;Moingeon、P.ら、Nature、339巻、312頁、1989年;Koyasu、S.らProc.Natl.Acad.Sci. USA、87巻、2603頁、1990年;Selvaraj、P.ら、Nature、326巻、400頁、1987年;およびBierer、B.ら、J.Immunol.、140巻、3358頁、1988年参照)。
この作用は、CD2/LFA−3相互作用によって仲介される、T細胞とAPC間の接着の強化に少なくとも一部は関与している。さらに、APCなしで抗CD2抗体類の適当な組合わせを用いて、in vitroでT細胞を刺激してT細胞を増殖させIL−2を分泌させることができることが実証されている[例えば、Meuer、S.ら、Cell、36巻、897頁、1984年;Feterson、A.ら、Nature、329巻、842頁、1987年;Yang、Y.S.ら、J.Immunol.、137巻、1097頁、1986年;およびW.Knappら編集(Oxford、1989年)「Leucocyte Typing IV, White cell differentiation antigens」270頁のS.C.Meuerの報告参照]。例えば、T細胞は、抗CD2抗体T11.3と、他の2種の抗CD2抗体のうちの1種すなわちT11.2またはT11.1との組合わせを用いて活性化することができる。T11.3エピトープは「ネオ−エピトープ(neo-epitope)」であり、静止T細胞のCD2上には現れず、T細胞が活性化されるとCD2上には現れる(Meuer、S.ら、Cell、36巻、897頁、1984年)。CD2を用いるin vitro培養試験は、この表面受容体がT細胞−APCの接着とT細胞の活性化に関与していることを示したが、CD2のどんな生理学的役割が、抗原に対するT細胞の応答に役立っているかは、これらの試験からは分からない。
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,816,397号
【特許文献2】ヨーロッパ特許願公開第EP171496号
【特許文献3】ヨーロッパ特許願公開第0173494号
【特許文献4】英国特許第GB2177096B号
【特許文献5】PCT特許願公開第WO92/06193号
【特許文献6】EP第0239400号
【特許文献7】米国特許第5,116,964号
【特許文献8】国際特許願公開第WO89/10938号
【特許文献9】国際特許願公開第WO90/08187号
【特許文献10】国際特許願公開第WO92/16622号
【特許文献11】米国特許第4,816,567号
【非特許文献1】Harding、F.A.、Nature、356巻、607〜609頁、1992年
【非特許文献2】Freedman、A.S.ら、J.Immunol.、137巻、3260〜3267頁、1987年
【非特許文献3】Freeman、G.J.ら、J.Immunol.、143巻、2714〜2722頁、1989年
【非特許文献4】Freeman、G.J.ら、J.Exp.Med.、174巻、625〜631頁、1991年
【非特許文献5】Freeman、G.J.ら、Science、262巻、909〜911頁、1993年
【非特許文献6】Azuma、M.ら、Nature、366巻、76〜79頁、1993年
【非特許文献7】Freeman、G.J.ら、J.Exp.Med.、178巻、2185〜2192頁、1993年
【非特許文献8】Linsley、P.S.ら、J.Exp.Med.、174巻、561〜569頁、1991年
【非特許文献9】Schwartz、R.H.ら、Science、248巻、1349頁、1990年
【非特許文献10】Jenkins、M.K.ら、J.Immunol.、140巻、3324頁、1988年
【非特許文献11】Turka、L.A.ら、Proc.Natl.Acad.Sci. USA、89巻、11102〜11105頁、1992年
【非特許文献12】Lenschow、D.J.ら、Science、257巻、789〜792頁、1992年
【非特許文献13】Chen、L.ら、Cell、71巻、1093〜1102頁、1992年;Townsend、S.E.およびAllison、J.P.、Science、259巻、368〜370頁、1993年
【非特許文献14】Baskar、S.ら、Proc.Natl.Acad.Sci. USA、90巻、5687〜5690頁、1993年
【非特許文献15】Clark、E.A.およびLedbetter、J.A.、Nature、367巻、425〜428頁、1994年
【非特許文献16】Arulanandam、A.R.ら、J.Exp.Med.、177巻、1439〜1450頁、1993年
【非特許文献17】Sandrin、M.S.ら、J.Immunol.、151巻、4606〜4613頁、1993年
【非特許文献18】Bierer、B.ら、J.Exp.Med.、168巻、1145頁、1988年
【非特許文献19】Moingeon、P.ら、Nature、339巻、312頁、1989年
【非特許文献20】Koyasu、S.らProc.Natl.Acad.Sci. USA、87巻、2603頁、1990年
【非特許文献21】Selvaraj、P.ら、Nature、326巻、400頁、1987年
【非特許文献22】Bierer、B.ら、J.Immunol.、140巻、3358頁、1988年
【非特許文献23】W.Knappら編集(Oxford、1989年)「Leucocyte Typing IV, White cell differentiation antigens」270頁のS.C.Meuerの報告
【非特許文献24】Sanchez-Madrid、F.、Proc.Natl.Acad.Sci. USA、79巻、7489頁、1982
【非特許文献25】Kato、K.ら、Eur.J.Immunol.、23巻、1412頁、1993年
【非特許文献26】Deckert、M.ら、Eur.J.Immunol.、22巻、2943〜2947頁、1992年
【非特許文献27】Kozbarら、Immunol. Today、4巻、72頁、1983年
【非特許文献28】Allen R.編集、Bliss Inc.発行の「Cancer Therapy」、77〜96頁のColeらの報告(1985年)「Monoclonal Antibodies」
【非特許文献29】Wardら、Nature、341巻、544〜546頁、1989年
【非特許文献30】Huseら、Science、246巻、1275〜1281頁、1989年
【非特許文献31】McCaffertyら、Nature、348巻、552〜554頁、1990年
【非特許文献32】Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci. USA、81巻、6851頁、1985年
【非特許文献33】Takedaら、Nature、314巻、452頁、1985年
【非特許文献34】Tengら、Proc.Natl.Acad.Sci. USA、80巻、7308〜7312頁、1983年
【非特許文献35】Kozborら、Immunology Today、4巻、7279頁、1983年
【非特許文献36】Olssonら、Meth. Enzymol.、92巻、3〜16頁、1982年
【非特許文献37】Tanら、Proc.Natl.Acad.Sci. USA、87巻、162〜166頁、1990年
【非特許文献38】DuncanおよびWinter、Nature、332巻、738〜740頁、1988年
【非特許文献39】Canfield、S.M.およびS.L.Morrison、J.Exp.Med.、173巻、1483〜1491頁、1991年
【非特許文献40】Lund、J.ら、J.Immunol.、147巻、2657〜2662頁、1991年
【非特許文献41】Pepinsky、R.B.ら、J.Biol.Chem.、266巻、18244〜18249頁、1991年
【非特許文献42】Seed、B.およびAruffo、A.、Proc.Natul.Acad.Sci. USA、84巻、3365〜3369頁、1987年
【非特許文献43】Wallner、B.P.ら、J.Exp.Med.、166巻、923〜932頁、1987年
【非特許文献44】Seed、B.、Nature、329巻、840〜842頁、1987年
【非特許文献45】Korinek、Vら、Immunogenetics、33巻、108〜112頁、1991年
【非特許文献46】Sawada、R.ら、DNA Cell.Biol.、9巻、213〜220頁、1990年
【非特許文献47】Capon、D.J.ら、Nature、337巻、525〜531頁、1989年
【非特許文献48】Howard、F.D.ら、J.Exp.Med.、176巻、139〜145頁、1992年
【非特許文献49】Strejanら、J.Neuroimmunol.、7巻、27頁、1984年
【非特許文献50】Damle、N.K.ら、Proc.Natl.Acad.Sci. USA、78巻、5096〜5100頁、1981年
【非特許文献51】Hathcock、K.S.、Science、262巻、905〜907頁、1993年
【非特許文献52】Linsleyら、J.Exp.Med.、173巻、721〜730頁、1991年
【非特許文献53】Aruffo、A.およびSeed、B.、Proc.Natul.Acad.Sci. USA、84巻、8573〜8577頁、1987年
【非特許文献54】Dariavach、P.ら、Eur.J.Immunol.、18巻、1901〜1905頁、1988年
【非特許文献55】Sambrookらの、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)
【非特許文献56】Eglitis,M.A.ら(1985)、Science 23:1395-1398
【非特許文献57】Danos,O.およびMulligan,R.(1988)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:6460-6464
【非特許文献58】Markowitz,D.ら(1988)、J.Virol.62:1120-1124
【非特許文献59】Rosenfeld,M.A.ら(1992)、Cell 68:143-155
【非特許文献60】Tratschin,J.D.ら(1985)、Mol.Cell.Biol.5:3251-3260
【非特許文献61】Kanfmanら、EMBO 6,187-195(1987)
【非特許文献62】Meuer,S.C.ら(1984)、Cell 36:897-906
【非特許文献63】Yang,S.Y.ら(1986)、J.Immunol.137:1097-1100
【非特許文献64】J.Goronzyら(1987)、Methods Enzymol.150:333
【非特許文献65】C.D.Gimmiら(1993)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6586
【非特許文献66】R.I.Toddら、Hum.Immunol.10:23(1984)
【非特許文献67】E.Clarkら、Leukocyte Typing中、A.Bernardら編、(Springer-Verlang,Berlin Heidelberg,1984、339頁
【非特許文献68】C.S.Abramsonら(1981)、J.Immunol.126:83
【非特許文献69】B.Dorkenら、Leucocyte Typing IV White cell differentiation antigens, W.Knappら編(Oxford,1989)、99頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は抗原特異的T細胞の不応答性を調節する方法に関する。本発明には、細胞表面受容体を通じて不応答性T細胞を阻害または刺激することによって、T細胞の不応答性を維持または逆転させる方法が含まれる。抗原に対し不応答性にされた抗原特異的T細胞は、CD2などの細胞表面受容体を通じて刺激することによって、抗原に対する応答能を回復できることが発見されたのである。したがって、本発明は、抗原特異的T細胞不応答性(T細胞アネルギーとも呼称される)を逆転させる際のCD2の機能的役割を開示するものである。
【0007】
本発明の一実施態様では、アネルギー化されたT細胞(anergized T cell)を、CD2を介してT細胞の刺激を阻害する因子と接触させることによってT細胞アネルギーが維持される。CD2阻害因子としては、CD2とCD2リガンド(例えばLFA−3、CD48またはCD59)の間の相互作用を阻害する因子がある。このような因子としては、阻止抗体類、可溶型のCD2とCD2リガンド類、ペプチド類および小分子類がある。あるいは、CD2阻害因子は細胞内で作用して、CD2を通じてT細胞内でトリガーされる細胞内シグナルを阻害する。本発明の他の実施態様では、アネルギー化されたT細胞を、CD2を通じてT細胞を刺激する因子と接触させることによってT細胞アネルギーが逆転される。CD2刺激因子としては、その表面にCD2リガンド(例えばLFA−3、CD48またはCD59)を発現する細胞、多価型のCD2リガンドおよび刺激性抗CD2抗体がある。あるいは、CD2刺激因子は細胞内で作用してCD2を通じてシグナルをトリガーしてもよい。
【0008】
本発明の方法は、例えば、抗原特異的T細胞不応答性を維持するかまたは抗原特異的T細胞不応答性を回復して抗原特異的免疫応答を調節することが望ましい状況の場合の治療に有用である。例えば、臓器または骨髄の移植を受けた被験者には、CD2を介する刺激を阻害することによって、T細胞不応答性を維持して移植片拒絶反応を阻害することが必要である。さらに、T細胞の不応答性は、自己免疫疾患が見られる被験者におけるCD2刺激を遮断することによって維持され、自己免疫疾患の症状を軽減することができる。これらの症例では、CD2阻害因子は、T細胞不応答性を維持するのに充分な量でかつ充分な期間にわたって被験者に投与される。あるいは、腫瘍をもっている被験者には腫瘍特異的T細胞応答を刺激するために、またはワクチンを受けている被験者にはそのワクチンの効力を高めるために、T細胞不応答性を逆転させることができる。例えば、細胞(例えば腫瘍細胞)はCD2リガンドを発現するよう修飾することができ、またはCD2刺激因子を、腫瘍をもっている被験者もしくは腫瘍の再発を防止するため外科手術で腫瘍を除去した被験者に投与することができる。さらに、抗原特異的応答性は、CD2を通じてT細胞を刺激することによって、アネルギー化T細胞をin vitroで回復させることができる。この場合、in vitroで生成された応答性T細胞を被験者に投与することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は抗原特異的T細胞の不応答性の調節方法に関する。「T細胞不応答性」という用語は、本明細書で使用する場合、T細胞が不応答性になった抗原(または抗原部分)に対してT細胞が暴露されたときのT細胞の増殖、リンホカインの分泌またはT細胞によるエフェクター機能の誘導の低下もしくは欠除を意味する。「T細胞不応答性」と「T細胞アネルギー」の用語は本明細書では相互に交換可能に使用される。本発明の方法は、in vitroまたはin vivoで抗原に対するT細胞の不応答性を維持または逆転させる手段を提供するものである。不応答性T細胞は、例えば共刺激シグナルなしで抗原に暴露されることによってT細胞不応答性またはT細胞アネルギーが誘導された細胞である。T細胞不応答性の誘導はT細胞アネルギーの状態の初期樹立を意味する。T細胞アネルギーは、例えば、共刺激シグナルなしで、例えば抗原提示細胞のMHC関連抗原ペプチドで、T細胞内に抗原特異的シグナルをトリガーすることによって誘導することができる。したがって、本発明の方法は、アネルギーT細胞(すなわち、不応答性またはアネルギーがすでに誘導されているか樹立されている細胞)の抗原特異的T細胞不応答性を調節するのに特に有用である。「調節」という用語は、不応答状態の維持(すなわち継続しているT細胞アネルギー)および不応答状態の逆転(すなわちT細胞応答性の回復)の両者の維持を含むものとする。
【0010】
本発明の方法は、アネルギー化T細胞を阻害または刺激する因子を使用してT細胞のアネルギーを維持するかまたは逆転させる。本発明は、少なくともその発明の一部は、例えば共刺激シグナルなしで抗原特異的シグナルを受けることによって抗原に対し不応答性になったT細胞を刺激して、抗原に対して応答する性能を回復させることができるという発見に基づいている。アネルギー化T細胞の抗原特異的応答性は、該T細胞を、抗原の存在下、CD2などの表面受容体を通じて刺激することによって回復させることができる。したがって本発明の一実施態様では、T細胞の不応答性は、アネルギー化T細胞を、CD2を介するT細胞の刺激を阻害する因子と接触させることによって維持される。これとは対照的に、T細胞不応答性を逆転させる方法では、アネルギー化T細胞を、CD2を通じてT細胞を刺激する因子と接触させる。これらの方法は各々、以下の文節で詳細に考察する。
I.T細胞の不応答性を維持する方法
【0011】
本発明の一態様は、T細胞アネルギーが誘導されそして抗原に対する不応答性状態を保持することが望ましいという治療状況に特に有用なT細胞不応答性を維持する方法に関する。このような治療状況の例としては、臓器および骨髄の移植片などの同種異系または異種の細胞または組織の受容者(レシピエント)および自己免疫疾患が見られる被験者がある。これらの状況の場合、治療計画は、治療すべき被験者に抗原特異的T細胞不応答性の状態を誘導することであった。例えば因子CTLA4Igを用いて、T細胞内の共刺激シグナルを阻害することによって、抗原特異的T細胞不応答性を被験者に誘導することができる(例えば、Turka、L.A.ら、Proc.Natl.Acad.Sci. USA、89巻、11102〜11105頁、1992年;およびLenschow、D.J.ら、Science、257巻、789〜792頁、1992年参照)。
【0012】
本発明のこの実施態様では、抗原に対するT細胞の不応答性は、T細胞を、CD2表面受容体を介してT細胞の刺激を阻害する因子と接触させることによって維持される。CD2表面受容体を介してT細胞の刺激を阻害する因子は、前記定義のようなT細胞不応答性が維持される限り、CD2を介してT細胞の刺激を完全に遮断することもあり、またはCD2を介してT細胞の刺激を部分的に阻害することもある。一実施態様では、CD2表面受容体を介してT細胞の刺激を阻害する因子(本明細書ではCD2阻害因子と呼ぶ)は、CD2表面受容体とCD2リガンドとの相互作用を遮断することによって作用する。その因子は、CD2とそのリガンドすなわちLFA−3(CD58)との相互作用を阻害することが好ましい。あるいはその因子は、CD2と他のリガンド例えばCD48またはCD59との相互作用を阻害する。CD2とCD2リガンドの間の相互作用を遮断または阻害するのに使用できる因子としては、CD2またはCD2リガンドに結合する抗体類(例えば阻止抗体類);CD2リガンドとの結合能を保持している可溶型のCD2(例えばトランスメンブラン(貫膜)ドメインと細胞質ドメインを欠いている先端切断形の分子、または可溶型の融合タンパク質、例えば免疫グロブリン融合タンパク質);CD2との結合能を保持している可溶型のCD2リガンド(例えばトランスメンブランドメインと細胞質ドメインを欠いている先端切断形の分子または可溶性融合タンパク質例えば免疫グロブリン融合タンパク質);CD2とCD2リガンドの相互作用を阻害するペプチド類;ならびにCD2とCD2リガンドの相互作用を阻害する低分子がある。あるいは、CD2阻害因子は、細胞内で作用して、CD2経由でトリガーされる細胞内シグナルを阻害してもよい。これらのCD2阻害因子は各々、以下に詳細に説明する。
A.阻止抗体類
【0013】
一実施態様で、CD2阻害因子は、CD2に結合する抗体(すなわち抗CD2抗体)またはCD2リガンドに結合する抗体(すなわち抗CD2リガンド抗体)であり、これら抗体はCD2とCD2リガンド間の相互作用を実質的に遮断または阻害する(すなわち阻止抗体)。抗CD2阻止抗体は当該技術分野で報告されており(例えばTS2/18;例えばSanchez-Madrid、F.、Proc.Natl.Acad.Sci. USA、79巻、7489頁、1982年参照)かつ市販されている(例えば米国カリフォルニア州マウンテン・ビュー所在のBecton Dickinson社から入手できるanti-Leu5)。
抗CD2リガンド抗体類としては、抗LFA−3抗体類、抗CD48抗体類および抗CD59抗体類がある。CD2とLFA−3の相互作用を実質的に遮断または阻害するために使用できる抗LFA−3抗体類は当該技術分野で公知である(例えばTS2/9がある。例えばSanchez-Madrid、F.、Proc.Natl.Acad.Sci. USA、79巻、7489頁、1982年参照)。抗CD48阻止抗体類(例えばSandrin、M.S.、J.Immunol.、151巻、4606頁、1993年;およびKato、K.ら、Eur.J.Immunol.、23巻、1412頁、1993年参照)および抗CD59阻止抗体類(例えばDeckert、M.ら、Eur.J.Immunol.、22巻、2943〜2947頁、1992年参照)も当該技術分野で公知である。
【0014】
さらに、CD2またはCD2リガンド(例えばLFA−3)に対する抗体類は通常の方法で製造することができる。抗体類はポリクローナル抗体でもよいがむしろモノクローナル抗体の方が好ましい。ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体は当該技術分野で公知の標準的方法で製造することができる。例えば哺乳類(例えばマウス、ハムスターまたはウサギ)は、抗原(例えばCD2またはCD2リガンド)によって免疫することができ、例えば精製タンパク質、組換えタンパク質もしくはそのペプチドフラグメント、またはその抗原を発現して(例えば細胞表面にCD2もしくはCD2リガンドを発現して)その哺乳類に抗原に対する抗体反応を引き起こす細胞で免疫することができる。あるいは、抗原を発現する組織または全臓器も抗体を誘導するのに使用できる。免疫化の経過は、血漿中または血清中の抗体価を検出することによって監視することができる。標準的ELISA法やその他の免疫検定法を抗原とともに用いて抗体のレベルを評価することができる。免疫後、抗血清を得、次に所望によりその血清からポリクローナル抗体を単離することができる。モノクローナル抗体を製造するためには、抗体産生細胞(リンパ球)を免疫化動物から採取し、次いで標準の体細胞融合法で骨髄腫細胞と融合させ、次にこれら細胞を不死化してハイブリドーマ細胞を得る。このような技術は当該技術分野で公知である。例えばKohlerとMilsteinが最初に開発したハイブリドーマ法(Nature、256巻、495〜497頁、1975年)と、その外の方法、例えばヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozbarら、Immunol. Today、4巻、72頁、1983年)およびヒトモノクローナル抗体類を製造するEBV−ハイブリドーマ法[Allen R.編集、Bliss Inc.発行の「Cancer Therapy」、77〜96頁のColeらの報告(1985年)「Monoclonal Antibodies」]を使用することができる。ハイブリドーマ細胞を、免疫化学的に抗原と特異的に反応する抗体の産生についてスクリーニングし、次いでモノクローナル抗体を単離することができる。
【0015】
CD2またはCD2リガンドに反応する特異的抗体類または抗体フラグメント類の他の製造方法は、細菌中に発現される免疫グロブリン遺伝子またはその一部をコードする発現ライブラリーを抗原(またはその一部)によってスクリーニングする方法である。例えば、完全Fabフラグメント類、V領域類、F領域類および一本鎖抗体類は、ファージ発現ライブラリーを用いて細菌中に発現させることができる(例えばWardら、Nature、341巻、544〜546頁、1989年;Huseら、Science、246巻、1275〜1281頁、1989年;およびMcCaffertyら、Nature、348巻、552〜554頁、1990年参照)。あるいは、抗体またはそのフラグメントを製造するため、SCID−huマウスを用いることができる。
【0016】
「抗体」という用語は、本明細書で用いる場合、所望の機能特性、例えばCD2とCD2リガンドとの相互作用を阻害する性能を保持する抗体のフラグメントを含むものとする。抗体類は通常の方法を用いてフラグメントにすることができ、これらのフラグメントは、完全な抗体について先に述べたのと同じ方法で、その有用性についてスクリーニングすることができる。例えば、F(ab')フラグメントは抗体をペプシンで処理することによって製造することができる。得られたF(ab')フラグメントは、処理してジスルフィド架橋を還元し、Fab'フラグメントを産生することができる。
【0017】
用語「抗体」はさらに、所望の機能特性、例えばCD2とCD2リガンド間の相互作用を阻害する性能を保持する抗体の誘導体を含むものとする。抗体誘導体としては、キメラ分子類、ヒト化分子類、エフェクター機能を低下させた分子類および二重特異性分子類がある。ヒト以外の動物で産生した抗体またはそのフラグメントは、ヒト被験者に投与すると、種々の程度で外来物として認識される可能性があり、そのヒト被験者中にその抗体に対する免疫応答が生成する。この問題を最小にするか、なくする一つの方法は、キメラまたはヒト化の抗体誘導体すなわち非ヒト抗体由来の部分およびヒト抗体由来の部分を含んでなる抗体分子を製造する方法である。キメラ抗体分子は、例えばマウス、ラットなどの種の抗体由来の可変領域をヒトの定常領域とともに含有していてもよい。キメラ抗体の各種製造方法は報告されている(例えば、Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci. USA、81巻、6851頁、1985年;Takedaら、Nature、314巻、452頁、1985年;Cabillyらの米国特許第4,816,567号;Bossらの米国特許第4,816,397号;Tanaguchiらのヨーロッパ特許願公開第EP171496号、同第0173494号および英国特許第GB2177096B号参照)。さらなる変形例では、ヒト化抗体は、非ヒト起源の可変領域の超可変領域だけを有し、その抗体の可変領域の残りの部分、特に抗原結合領域の保存フレームワーク領域はヒト起源のものである。このようなヒト化抗体は当該技術分野で公知のいくつもの方法のいずれかで製造することができ(例えば、Tengら、Proc.Natl.Acad.Sci. USA、80巻、7308〜7312頁、1983年;Kozborら、Immunology Today、4巻、7279頁、1983年;Olssonら、Meth. Enzymol.、92巻、3〜16頁、1982年参照)、好ましくはPCT特許願公開第WO92/06193号またはEP第0239400号の教示にしたがって製造される。ヒト化抗体は、例えば英国ミドルセックス州ツイッケンハム、ホリーロード2に所在のScotgen Limited社が商業的に製造している。
【0018】
治療に用いる場合、抗体の製剤は補体と結合できず、かつ他のエフェクター機能も誘導できないことが好ましい。補体結合は、補体を結合できない抗体アイソタイプを用いるか、または余り好ましくはないが補体結合を阻害する薬剤とともに補体結合抗体を用いるなどして、抗体のF部分を欠落させることにより防止することができる。あるいは、補体を活性化するのに重要なF領域内のアミノ酸残基(例えば、Tanら、Proc.Natl.Acad.Sci. USA、87巻、162〜166頁、1990年;ならびにDuncanおよびWinter、Nature、332巻、738〜740頁、1988年を参照)を変異させて完全な抗体の補体活性化能を低下させるかまたは除去することができる。同様に、完全抗体を使用する場合、F領域がF受容体に結合するのに重要なF領域内のアミノ酸残基(例えば、Canfield、S.M.およびS.L.Morrison、J.Exp.Med.、173巻、1483〜1491頁、1991年;およびLund、J.ら、J.Immunol.、147巻、2657〜2662頁、1991年参照)も変異させて、F受容体の結合を減少させるかまたは除去することができる。
【0019】
CD2またはCD2リガンドに結合する抗体の遮断活性または阻害活性は通常の方法によって評価することができる。例えば、活性化T細胞の増殖および/または活性化T細胞によるリンホカインの分泌、を阻害する上記抗体の性能は、in vitroのT細胞培養系で測定することができる(例えばSanchez-Madrid、F.、Proc.Natul.Acad.Sci. USA、79巻、7489頁、1982年参照)。あるいは、T細胞Eロゼット形成検定法を用いて、CD2のヒツジ赤血球との結合の阻害を評価することができる(適切な検定法は、Pepinsky、R.B.ら、J.Biol.Chem.、266巻、18244〜18249頁、1991年に記載されている)。
B.可溶型の受容体類とリガンド類
【0020】
本発明の他の方法では、その結合特異性を保持している可溶型のCD2またはCD2リガンドであるCD2阻害因子が用いられる。可溶型のCD2またはCD2リガンドを用いて、細胞の表面におけるCD2とCD2リガンド間の相互作用を競合的に阻害することができる。可溶型のCD2リガンド例えばCD48、CD59または好ましくはLFA−3(CD58)を用いて、CD2を介してT細胞刺激を阻害することができる。
【0021】
一つの実施態様では、可溶型のCD2またはCD2リガンドは、先端切断型の分子であり、その分子の細胞外領域またはその機能部分を含有している。CD2リガンドとの結合能を保持しているCD2の細胞外領域の一部分を使用することができる。同様に、CD2に結合する性能を保持しているCD2リガンドの細胞外領域の一部分も使用できる。可溶性の先端切断型のCD2またはCD2リガンドは標準の組換えDNA法を用いて得ることができる。例えば、分子の細胞外領域またはその機能部分をコードするヌクレオチド配列を含有する組換え発現ベクターを、宿主細胞が該細胞外領域を発現し分泌するのに適した形態で宿主細胞中に導入し、次に培養培地から細胞外領域(またはその一部)を単離することによって得ることができる。
【0022】
組換え先端切断型のCD2またはCD2リガンドは、このタンパク質をコードするヌクレオチド配列に基づいて、標準の方法によって設計することができる。ヒトCD2をコードするヌクレオチド配列は、Seed、B.およびAruffo、A.、Proc.Natul.Acad.Sci. USA、84巻、3365〜3369頁、1987年に開示されている。二つの型のLFA−3分子が、典型的なトランスメンブランタンパク質を含めて報告されている。トランスメンブラン型のLFA−3をコードするヌクレオチド配列は、Wallner、B.P.ら、J.Exp.Med.、166巻、923〜932頁、1987年に記載されている。第二の形態は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)連結タンパク質である。この型のLFA−3をコードするヌクレオチド配列は、Seed、B.、Nature、329巻、840〜842頁、1987年に開示されている。上記GPI連結型のLFA−3は、リン脂質のテール(尾部)によって細胞膜に固定されている。したがって可溶型のLFA−3は、例えばこのタンパク質の細胞外領域を組換え発現させるか、またはGPI連結型のリン脂質テールを(例えばホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼCを用いて)この連結型のLFA−3を発現する細胞の表面から切断して可溶型のLFAを放出させることによって得ることができる。他のCD2リガンドであるCD48は典型的なトランスメンブランタンパク質である。CD48をコードするヌクレオチド配列は、Korinek、Vら、Immunogenetics、33巻、108〜112頁、1991年に記載されている。GPI連結型のLFA−3と同様に、他のCD2リガンドであるCD59は、ホスファチジルイノシトールで固定されたメンブランタンパク質である。したがってCD59は、ホスホリパーゼで処理することによって、このリガンドを発現する細胞の表面から切り取り可溶型のCD59を得ることができる。あるいは、CD59の細胞外領域は組換え法によって発現させることもできる。ヒトCD59をコードするヌクレオチド配列は、Sawada、R.ら、DNA Cell.Biol.、9巻、213〜220頁、1990年に開示されている。
【0023】
本発明の方法に用いる他の可溶型のCD2またはCD2リガンドは融合タンパク質である。用語「融合タンパク質」は、本明細書で用いる場合、連続アミノ酸配列の第一タンパク質由来の第一ポリペプチドと、第二タンパク質由来の第二ポリペプチドとで構成されたタンパク質を意味する。融合タンパク質は、第一ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を、第二ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列にインフレーム(読み取り枠内)で結合し、次いでこれらヌクレオチド配列を(例えば宿主細胞中に導入する組換え発現ベクターを用いて)発現させて融合タンパク質を産生する標準的組換えDNA法で製造することができる。好ましい融合タンパク質は、免疫グロブリンの重鎖の定常部(例えばIgG1などのヒト免疫グロブリンのヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域)に連結されたCD2またはCD2リガンドの細胞外領域または機能部分を含有する免疫グロブリン融合タンパク質である。免疫グロブリン融合タンパク質は、例えばCapon、D.J.ら、Nature、337巻、525〜531頁、1989年およびCapronとLaskyの米国特許第5,116,964号の教示にしたがって製造することができる。
【0024】
本明細書に記載の方法に用いる他の可溶型のCD2リガンドとしてはミセルに組込まれたGPI連結CD2リガンドがある。メンブランに固定するためホスファチジルイノシトールの脂質テールを含有するCD2リガンド(例えばLFA−3またはCD59)はGPI連結型として単離してミセル中に組込むことができる。したがってLFA−3またはCD59を含有するミセルは、CD2とCD2リガンド間の相互作用を阻害するのに用いることができる。LFA−3またはCD59を含有するミセルは国際特許願公開第WO89/10938号に記載されているようにして製造することができる。
【0025】
本発明の他の実施態様では、可溶型のCD2リガンドは多価型のリガンドであり例えば二量体(ダイマー)、三量体(トリマー)または四量体(テトラマー)である。LFA−3の多量体(マルチマー)は、T細胞Eロゼット形成検定法で、LFA−3/CD2相互作用を遮断または阻害する活性が高いことが報告されている(Pepinsky、R.B.ら、J.Biol.Chem.、266巻、18244〜18249頁、1991年参照)。またCD2リガンドのモノマーも、Pepinskyらの前掲文献に記載されているようにして化学的に架橋させて多量体を製造することができる。
C.ペプチド類と低分子類
【0026】
T細胞の不応答性を維持するのに用いるCD2阻害因子としてはさらに、CD2とCD2リガンドの相互作用を阻害または実質的に遮断するペプチド類と低分子類がある。例えば、受容体またはリガンドとの結合能を保持し、かつメンブラン結合受容体とリガンドとの相互作用を阻害する、CD2またはCD2リガンドのペプチドフラグメントは本発明の方法に使用することができる。LFA−3結合領域を含有するCD2のペプチドフラグメントは国際特許願公開第WO90/08187号に開示されている。あるいは、国際特許願公開第WO92/16622号に開示されているようなCD2結合領域を含有するLFA−3のペプチドフラグメントも使用できる。他の適切なペプチドを製造し、そのペプチドの、例えばin vitroT細胞培養系における活性化T細胞の増殖および/または活性化T細胞によるリンホカインの分泌を阻害するペプチドの性能について、またはペプチドがT細胞Eロゼット形成を阻害する性能について調べることにより、CD2/CD2リガンド相互作用を阻害する性能を検定することができる。
【0027】
また本発明には、CD2とCD2リガンド間の相互作用を阻害してT細胞の不応答性を維持する低分子類の使用が含まれる。例えば、CD2のLFA−3結合領域またはLFA−3のCD2結合領域(既述)を含有するペプチドの構造によく似た低分子類が使用できる。ペプチドのアミノ酸配列に基づいてこのような「ペプチド様物質」を設計する方法は当該技術分野で公知である。あるいは、in vitroT細胞培養系またはT細胞Eロゼット形成検定法を用いてCD2/CD2リガンド相互作用を阻害する低分子類を選別することができる。
D.細胞内CD2阻害因子類
【0028】
細胞外で作用してCD2とCD2リガンド間の相互作用を阻害する因子の代わりに、CD2阻害因子は、細胞内で作用して、CD2表面受容体を通じてT細胞内でトリガーされる細胞内シグナルを阻害するものであってもよい。T細胞のCD2表面受容体を経由する細胞内シグナリングは、CD3複合体を通じて特にCD3ゼータ鎖(CD3 zeta chain)によって仲介される(Howard、F.D.ら、J.Exp.Med.、176巻、139〜145頁、1992年参照)。このシグナルトランスダクション経路によって誘導される細胞内シグナルとしては、プロテイントリプシンキナーゼ活性、プロテインキナーゼC活性および細胞内の細胞質ゾル遊離カルシウムの増大がある。したがって、CD2を通じてT細胞を刺激することによって誘導されるこれら細胞内シグナルの一つ以上を阻害する因子は、CD2阻害因子として使用してT細胞不応答性を維持することができる。
【0029】
さらに、CD2を介する刺激によってT細胞アネルギーを逆転させると、トリプシンキナーゼJAK−3とCD2の結合およびJAK−3キナーゼのリン酸化が付随して起こる(実施例6参照)。したがってT細胞アネルギーを保持するため、JAK−3活性を阻害してもよい。したがって、CD2阻害因子には、JAK−3キナードの細胞内活性を阻害する因子でもよく、例えばJAK−3キナーゼとCD2の結合を阻害しおよび/またはJAK−3キナーゼのリン酸化を阻害する因子がある。
E.T11.3ネオ−エピトープの露出の阻害
【0030】
以上述べた、T細胞の不応答性を維持する方法において、CD2表面受容体のT11.3ネオ−エピトープの露出を阻害することも必要であろう。「T11.3ネオ−エピトープ」は、CD2分子上のエピトープであり、T11.3抗体によって認識される(すなわちこの抗体が結合する)。T細胞アネルギーの誘導は、アネルギー化T細胞のCD2上のT11.3ネオ−エピトープのダウンモジュレーション(すなわち発現の低下または欠除)が関連していることが見出された。同様にT細胞アネルギーの逆転は、CD2のT11.3エピトープの再露出に関連していることも見出された(実施例5参照)。T細胞の不応答性を維持するには、T細胞のCD2内のT11.3ネオ−エピトープの露出を阻害することが必要であろう。アネルギー化T細胞のT11.3ネオ−エピトープの露出を刺激することが見出された因子はIL−2などのT細胞成長因子である。したがってT細胞の不応答性を維持するために、T細胞成長因子の産生または機能を阻害する因子を用いることができる。T細胞のアネルギーを維持するのに用いる好ましい因子はIL−2の産生または機能を阻害する。したがって、CD2を介してT細胞の刺激を阻害する第一因子とともに、IL−2の機能を阻害する第二因子、例えば抗IL−2抗体または抗IL−2受容体抗体をT細胞に接触させることが必要である。
F.CD2阻害因子(物質)の使用
【0031】
CD2阻害因子は、臓器または骨髄の移植に対する拒絶反応を抑制し、骨髄移植時の移植片対宿主病を抑制し、または被験者の自己免疫疾患を治療するなどの治療目的のため被験者に投与することができる。したがって、本発明は、CD2表面受容体を介してT細胞の刺激を阻害する因子を被験者に投与する、抗原に対するT細胞不応答性を被験者に維持する方法を提供するものである。「被験者(対象)」という用語には、免疫応答を起こすことができる生きている生物例えば哺乳類が含まれるものとする。被験者の例としては、ヒト、サル類、イヌ類、ネコ類、マウス類、ラット類およびこれらの遺伝子導入(トランスジェニック)種がある。
【0032】
CD2阻害因子は、被験者にT細胞不応答性を維持するのに充分な量と時間でin vivoで医薬として投与するのに適した生物学的に適合した形態で被験者に投与される。「in vivoで投与するのに適した生物学的に適合した形態」という用語は、CD2阻害因子の治療作用が毒作用よりまさった状態で投与される該因子の形態を意味する。本明細書で述べるCD2阻害因子の投与は、治療上有効な量の因子を単独でまたは医薬として許容される担体中に含有する医薬形態で行う投与である。CD2阻害因子の治療上有効な量の投与とは、所望の効果(例えばT細胞不応答性の維持)を達成するのに必要な投与と期間における有効量と定義する。例えば、CD2阻害因子の治療上有効な量は、個体の病状、年齢、性別および体重のような要因ならびに個体に所望の応答を起こす因子の性能によって変化することがある。投与計画は最適の治療応答を提供するため調節することができる。例えば、いくつかの分割した投与量を毎日投与してもよく、または治療状態の緊急性によって指示されるように比例して投与量を減らしてもよい。
【0033】
CD2阻害因子は便利な方法で投与することができ、便利な投与方法は、例えば注射(皮下、静脈内など)、経口投与、吸入、経皮塗布または直腸投与による方法である。投与経路によって、活性化合物は、その化合物を不活性にすることがある酵素、酸および他の自然条件の作用から保護するためある種の物質でコーティングしてもよい。
【0034】
非経口投与以外の方法でCD2阻害因子を投与するには、該因子の不活性化を防止するためある種の物質で該因子をコーティングするかまたはその物質を該因子とともに投与することが必要な場合がある。例えば、CD2阻害因子は、適当な担体または希釈剤中に入れて個体に投与してもよく、酵素阻害剤とともに投与してもよく、またはリポソームのような適当な担体中に入れて投与してもよい。医薬として許容される希釈剤としては食塩水と緩衝水溶液がある。酵素阻害剤としては、膵臓トリプシンインヒビター、ジイソプロピルフルオロリン酸(DEP)およびトラジロール(trasylol)がある。リポソームとしては、通常のリポソームのみならず水中油中水型エマルジョンがある(Strejanら、J.Neuroimmunol.、7巻、27頁、1984年)。
【0035】
また活性化合物は非経口または腹腔内で投与してもよい。また分散液は、グリセリン、液状ポリエチレングリコール類およびその混合物ならびに油で製造することができる。貯蔵と使用の通常の条件下で、これらの製剤は微生物の増殖を防止するため保存剤を含有していてもよい。
【0036】
注射用に適した医薬組成物としては、滅菌水溶液(水溶性の場合)もしくは滅菌水性分散液、および滅菌された注射用の溶液、または分散液を必要に応じて調製するのに用いる滅菌粉末がある。いずれの場合も医薬組成物は、滅菌されていなければならずかつ容易に注射できる程度に流体でなければならない。この医薬組成物は製造と貯蔵の条件下で安定でなければならずかつ細菌および真菌のような微生物の汚染作用に対して保護されねばならない。担体は溶媒または分散媒体でもよく、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセリン、プロピレングリコールおよび液状ポリエチレングリコールなど)およびこれらの適切な混合物が挙げられる。例えば、レシチンのようなコーティングを用いることにより、分散液の場合には必要な粒径を維持することにより、および界面活性剤を使用することによって適正な流動性を維持することができる。微生物の作用は、各種の抗菌剤と抗真菌剤、例えばパラベン類、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって防止することができる。多くの場合、上記組成物は、等張剤を含有していることが好ましく、例えば糖類、マンニトールとソルビトールのような多価アルコール類、塩化ナトリウムが挙げられる。注射用組成物の吸収期間は、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンのような吸収を遅らせる薬剤を組成物に含有させることによって延長することができる。
【0037】
滅菌注射溶液は、必要量の活性化合物(例えばCD2阻害因子)を、適当な溶媒中で、必要に応じて上記成分の一つまたはこれら成分の混合物と混合し次いでろ過滅菌を行うことによって製造することができる。一般に分散液は、ベイシック分散媒体(basic dispersion medium)と上記成分の中の必要な他の成分を混合することによって製造される。滅菌注射溶液を調製するのに用いる滅菌粉末の場合、好ましい製造方法は、活性成分(例えばCD2阻害因子)+所望の追加成分の粉末が、その予め滅菌ろ過された溶液から得られる減圧乾燥法と凍結乾燥法である。
【0038】
活性化合物が上記のように適切に保護されている場合、薬剤は、例えば不活性希釈剤または吸収可能な食用担体とともに経口投与することができる。「医薬として許容される担体」という用語には、本明細書で使用する場合、すべての溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗菌剤と抗真菌剤、等張剤と吸収遅延剤などが含まれる。医薬として活性な物質に対してこのような媒体と薬剤を用いることは当該技術分野で公知である。通常の媒体または薬剤が活性化合物と非相容性である場合を除いて、治療組成物にこれら媒体または薬剤を使用することが検討される。補助活性化合物も医薬組成物に混合できる。
【0039】
投与が容易で投与量が均一であるように、投与単位剤形(dosage unit form)で非経口組成物を配合することが特に有利である。投与単位剤形という用語は本明細書で使用する場合、治療すべき哺乳類の被検体に対して一回投与量として適切な物理的に区分された単位を意味し、各単位は、必要な医薬担体とともに所望の治療効果を生じるよう計算して予め決定された量の活性化合物を含有している。本発明の投与単位剤形の処方は、(a)活性化合物の特有の特性と達成すべき特別な治療効果および(b)個体の感受性を治療するための、このような活性化合物を配合する当該技術分野に固有の制限によって指示、決定される。
【0040】
CD2阻害因子の投与のタイミングは、被験者に対する他の治療剤の投与と整合させることができる。例えば、被験者のT細胞共刺激シグナルを阻害する因子(例えばCTLA4Ig)を被験者に投与することによってT細胞不応答性が誘導された被験者に、CD2阻害因子を、T細胞共刺激シグナルを阻害する因子と同時にまたはT細胞共刺激シグナルを阻害する因子に続いて投与することができる。さらに、CD2阻害因子がin vivoで有効レベルで維持される場合、CD2阻害因子は、T細胞共刺激シグナルを阻害する因子を投与する前に投与してもよい。あるいは、CD2阻害因子は、抗原に対する免疫応答を阻害するために使用される、他の通常の治療処置に対する補助剤として投与することができる。例えばCD2阻害因子は、サイクロスポリンAまたはFK506などの免疫抑制剤の投与を含む治療計画の一部分として投与することができる。
【0041】
本発明の一実施態様では、T細胞不応答性は同種異系細胞または異種細胞上の抗原に対して維持される。したがって、本発明の方法は、同種異系細胞または異種細胞の受容者、例えば臓器移植受容者または骨髄移植受容者である被験者を治療するのに用いることができる。したがって本発明の方法は、移植された組織に対する拒絶反応を抑制し、被験者の移植片対宿主病を抑制するのに有用である。
【0042】
本発明の他の実施態様では、T細胞不応答性が自己抗原に対して維持される。したがって本発明の方法は、自己免疫疾患または不適当なもしくは異常な免疫応答に関連する障害がみられる被験者を治療するのに用いることができる。自己免疫疾患または不適当なもしくは異常な免疫応答に関連する障害の例としては、リウマチ様関節炎、若年性関節リウマチ、乾せん性関節炎、乾せん、らい反転反応、紅斑結節らい(erythema nodosam leprasum)、自己免疫ぶどう膜炎、多発性硬化症、アレルギー性脳脊髄炎、全身性エリテマトーデス、急性壊死性出血性脳障害、特発性両側進行性感音難聴(idiopathic bilateral progressive sensorineural hearing loss)、再生不良性貧血、真性赤血球性貧血、特発性血小板減少性、多発性軟骨炎、強皮症、ヴェーゲナー肉芽腫症、慢性活動性肝炎、重症筋無力症、スティヴンス・ジョンソン症候群、特発性スプルー、扁平苔せん、クローン病、グレーヴス眼症、サルコイドーシス、原発性胆汁性肝硬変、原発性若年型糖尿病、シェーグレン症候群関連のドライアイ、後部ぶどう膜炎および間質性肺線維症(interstitial lung fibrosis)がある。したがって本発明の方法は、自己免疫疾患および不適当なもしくは異常な免疫応答に関連する障害の症状を軽減するのに有用である。
II.T細胞不応答性を誘導し維持する方法
【0043】
別の実施態様で、本発明はT細胞不応答性を誘導し維持する方法を提供する。この実施態様では、T細胞に、CD28またはCTLA4を介するT細胞刺激を阻害する第一因子およびCD2を介するT細胞刺激を阻害する第二因子を接触させる。第一因子は、T細胞の共刺激シグナルを阻害しその結果T細胞アネルギーを誘導するために与えられる。第二因子は、不応答性T細胞中にT細胞アネルギーを維持するために与えられる。CD2を介する刺激を阻害するために使用できる因子(すなわち第二因子)としては先に述べたCD2阻害因子がある。T細胞不応答性を誘導するために使用できる因子(すなわち第一因子、本明細書ではCD28/CTLA4阻害因子と呼ぶ)としては、CD28またはCTLA4とCD28リガンドまたはCTLA4リガンドとの相互作用を実質的に遮断または阻害する因子が挙げられる。適切なCD28/CTLA4阻害因子の例としては、CD28、CTLA4、CD28リガンドまたはCTLA4リガンドに結合する阻止抗体(例えばB7−1またはB7−2);可溶型のCD28、CTLA4、CD28リガンドまたはCTLA4リガンド;およびCD28/CTLA4とCD28リガンドもしくはCTLA4リガンドとの間の相互作用を阻害する低分子類がある。あるいは、CD28/CTLA4阻害因子は、細胞内で作用して、CD28またはCTLA4経由でT細胞内でトリガーされる細胞内シグナルを阻害することができる。
【0044】
T細胞不応答性を誘導するのに用いるCD28/CTLA4阻害因子は、CD2阻害因子について先に述べたのと同様にして製造することができる。CD28、B7−1またはB7−2に結合する阻止抗体は当該技術分野で報告されており(例えばDamle、N.K.ら、Proc.Natl.Acad.Sci. USA、78巻、5096〜5100頁、1981年;Freedman、A.S.、J.Immunol.、137巻、3260〜3267頁、1987年;およびHathcock、K.S.、Science、262巻、905〜907頁、1993年参照)、既述した標準法によって製造することができる。可溶型のCD28、CTLA4とB7−1も当該技術分野で報告されており(例えばLinsleyら、J.Exp.Med.、173巻、721〜730頁、1991年;およびLinsley、P.S.ら、J.Exp.Med.、174巻、561〜569頁、1991年参照)、既述した標準法で製造することができる。ヒトのCD28、CTLA4、B7−1およびB7−2のヌクレオチド配列は当該技術分野で利用可能である(CD28:Aruffo、A.およびSeed、B.、Proc.Natul.Acad.Sci. USA、84巻、8573〜8577頁、1987年;CTLA4:Dariavach、P.ら、Eur.J.Immunol.、18巻、1901〜1905頁、1988年;B7−1:Freeman、G.L.ら、J.Immunol.、143巻、2714〜2722頁、1989年;B7−2:Freeman、G.J.ら、Science、262巻、909〜911頁、1993年およびAzuma、M.ら、Nature、366巻、76〜79頁、1993年)。好ましいCD28/CTLA4阻害因子は、Linsley、P.S.ら、J.Exp.Med.、174巻、561〜569頁、1991年に記載されているようなCTLA4Igの融合タンパク質である。
【0045】
T細胞の不応答性を誘導し維持するため、T細胞を、CD28/CTLA4阻害因子とCD2阻害因子に同時にまたは順次接触させてもよい。順次接触させる場合は、T細胞をまずCD28/CTLA4阻害因子に接触させ次いでCD2阻害因子に接触させることが好ましい。
【0046】
またこの方法は、例えば臓器移植、骨髄移植および自己免疫疾患などの場合に抗原特異的免疫応答を阻害することが望ましい場合、治療的に有用である。治療を目的とする場合、CD28/CTLA4阻害因子およびCD2阻害因子を患者に投与してT細胞の不応答性を誘導させ維持する。これらの因子は同時にまたは続けて患者に投与することができる。投与経路、投与する医薬組成物、投与のタイミングと量および投与などに関して配慮すべき事項は、CD2阻害因子について先に述べたのと同様である。
III.T細胞の応答性を復活する方法
【0047】
本発明はさらに、アネルギー化T細胞の抗原に対する応答性を復活する方法(すなわちアネルギーを逆転する方法)を提供するものである。この方法により処理された、アネルギー化T細胞は、その後の抗原および共刺激分子による刺激に対する応答能(例えば増殖とIL−2分泌の性能)が回復する。この方法は、アネルギー化T細胞による、抗原に対する免疫応答を促進することが望ましい治療状態の場合に有用である。この状態の例は、腫瘍が存在することによってT細胞が腫瘍抗原に対して不応答性になった担腫瘍患者である。
【0048】
一実施態様では、抗原に対するT細胞の応答性は、抗原の存在下、アネルギー化T細胞を、CD2表面受容体を介してT細胞を刺激する因子と接触させることによって回復する。この方法は、T細胞の応答性を(アネルギー化される前のT細胞の応答性に比べて)充分にまたは一部分回復させ、T細胞に抗原および共刺激分子によるその後の刺激に対して応答させる(すなわち増殖とIL−2の分泌)手段を提供するものである。CD2表面受容体を介してT細胞を刺激する因子は本明細書ではCD2刺激因子と呼称する。T細胞の応答性を回復させるためには、CD2刺激因子はその表面にCD2リガンドを発現する細胞でもよい。あるいは、CD2刺激因子は可溶性刺激型のCD2リガンド(例えば多価型またはミセル型)でもよい。さらに、CD2刺激因子は、少なくとも1個の抗CD2抗体またはその組合わせでもよい。また本発明の方法に有用なCD2刺激因子は、細胞内で作用して、CD2でトリガーされる細胞内シグナルを刺激する因子でもよい。
A.CD2リガンド発現細胞
【0049】
抗原に対するT細胞の応答性を回復させる方法において、CD2刺激物質の1つの具体例は細胞表面にCD2リガンドを発現している細胞である。好ましくは、CD2リガンドはLFA−3(CD58)である。あるいはまた、CD2リガンドはCD48またはCD59でもよい。すなわち、不応答性T細胞を、細胞表面にCD2リガンド(例えば、LFA−3)と抗原とを発現している細胞と接触させることにより、抗原に対するT細胞の応答性を回復させることができる。天然にCD2リガンドを発現していない細胞を修飾してCD2リガンドを発現させることができる。例えば、構成的に腫瘍抗原を発現しているがLFA−3を発現していない腫瘍細胞を修飾してLFA−3を発現させることができる。腫瘍細胞を修飾してCD48またはCD59を発現させることもできる。あるいはまた、細胞は、T細胞アネルギーを逆転させるには不十分な量のCD2リガンドをその表面に発現している場合がある。そのような場合、細胞表面上のCD2リガンドの発現レベルを増加させてもよい。細胞表面上にCD2リガンドが発現されるような方法で、細胞を「CD2リガンドを発現するように修飾する」。修飾前に、細胞は、CD2リガンドを発現することができなくてもよく、CD2リガンドを発現することができるが発現していなくてもよく、また不十分な量のCD2リガンドを発現していてもよい。したがって、多くの技術のいずれか、例えば、CDリガンドをコードする核酸を細胞に導入するか、CD2リガンドを細胞表面にカップリングさせるか、または細胞表面におけるCD2リガンドの発現を刺激(促進)することによって、細胞を修飾し、CD2リガンドを発現させることができる。
【0050】
CD2リガンドを発現させるための好ましい細胞修飾法は、細胞表面上にCD2リガンドを発現させるのに適した形の、LFA−3のようなCD2リガンドをコードする核酸を細胞内に導入するものである。エレクトロポーレーション(電気穿孔法)、カルシウム−ホスフェート沈降法、DEAE−デキストラン処理、リポフェクション、マイクロインジェクション、およびウイルスベクターによる感染を含む、核酸を哺乳動物細胞中に導入するのに有用な種々の技術(一般にはトランスフェクションと呼ばれる)の1つによって、CD2リガンドをコードする核酸(例えば、組換え発現ベクター)を宿主細胞中に導入することができる。適切な哺乳動物細胞のトランスフェクション法はSambrookらの、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)や他の実験書に記載されている。導入される核酸としては、例えば、CD2リガンドをコードする遺伝子を含むDNA、CD2リガンドをコードするセンス鎖RNA、またはCD2リガンドをコードするcDNAを含む組換え発現ベクターが考えられる。用いるcDNAとしては、ヒトLFA−3の貫膜形(Wallner,B.P.ら(1987)の、 J.Exp.Med.166:923-932に開示)およびヒトLFA−3のGPI連結型(Seed,B.(1987)の、Nature 329:840-842に開示)のcDNAが好ましい。あるいはまた、ヒトCD48(Korinek,V.ら(1991)の、Immunogenetics 33:108-112に開示)およびヒトCD59(Sawada,R.ら(1990)の、DNA Cell Biol.9:213-220に開示)のcDNAも使用することができる。さらに、細胞を修飾して複数のCD2リガンドを発現させることができる。細胞上に発現させることができるLFA−3(両方の形)、CD48、およびCD59の種々の組み合せは当業者には明らかであろう。
【0051】
細胞内に導入されるCD2リガンドをコードする核酸は、細胞表面上にCD2リガンドを発現させるのに適した形をしている。この核酸は、必要なコード配列、およびプロモーター、エンハンサー、ならびにポリアデニル化シグナルを含み得る遺伝子の転写と翻訳に必要な調節配列、およびN−末端シグナル配列を包含する、腫瘍細胞表面に該分子を移動させるのに必要な配列を含んでいる。この核酸が組換え発現ベクター中のcDNAである場合は、cDNAの転写および/または翻訳の調節機能はウイルス配列によって提供されることが多い。普通に用いられるウイルスプロモーターの例には、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルスならびにシミアンウイルス40、およびレトロウイルスLTR由来のものが含まれる。cDNAに結合させる調節配列は、例えば、金属チオネインプロモーターまたはグルココルチコイド応答性プロモーターのような誘導プロモーターを用いることにより、構成的または誘導的な転写を生じるように選択する。
【0052】
細胞(例えば、腫瘍細胞)中にCD2リガンドをコードする核酸を導入するための好ましいアプローチでは、CD2リガンドをコードする核酸(例えば、cDNA)を含むウイルスベクターを用いる。使用可能なウイルスベクターの例には、レトロウイルスベクター(Eglitis,M.A.ら(1985)の、 Science 23:1395-1398;Danos,O.およびMulligan,R.(1988)の、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:6460-6464;およびMarkowitz,D.ら(1988)の、J.Virol.62:1120-1124)、アデノウイルスベクター(Rosenfeld,M.A.ら(1992)の、Cell 68:143-155)、およびアデノ関連ウイルスベクター(Tratschin,J.D.ら(1985)の、Mol.Cell.Biol.5:3251-3260)が含まれる。腫瘍細胞のウイルスベクターによる感染では、大部分の細胞が核酸を受け取るため、核酸を受け取った細胞を選別する必要がなく、また、例えば、ウイルスベクター中に含まれるcDNAによって、ウイルスベクター中にコードされている分子が、ウイルスベクター核酸を取り込んでいる細胞内に効率的に発現する。
【0053】
あるいはまた、CD2リガンドは、CD2リガンドをコードする核酸(例えば、cDNA)を含むプラスミド発現ベクターを用いて、細胞上に発現させることができる。適切なプラスミド発現ベクターにはCDM8(Seed,B.の、Nature 329,840(1984)およびpMT2PC(Kanfmanらの、EMBO 6,187-195(1987))が含まれる。通常、ほんのわずかな細胞(約10個中約1個)しか、そのゲノム中にトランスフェトされたプラスミドDNAを組み込まないので、トランスフェトされた細胞を選別するために、選択マーカーをコードする核酸を、目的とする核酸と共に細胞内にトランスフェクトするのが有利である。好ましい選択マーカーには、G418、ハイグロマイシンやメトトレキセートのような薬剤に対する耐性をもたらすものが含まれる。選択マーカーは目的とする遺伝子と同じプラスミドに導入してもよく、別のプラスミドに導入してもよい。適切な選択マーカーを用いてトランスフェクション細胞を選択した後、細胞を免疫蛍光染色することによって細胞表面における共刺激分子の発現を確認することができる。例えば、CD2リガンド応答性の蛍光標識モノクローナル抗体かまたはCD2リガンドと結合する蛍光標識可溶性受容体(例えば、可溶性CD2)を用いて細胞を染色してもよい。LFA−3を検出するのに使用できる抗体は、Sanchez-Madrid,F.(1982)の、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:7489(例えば、TS2/9)に開示されており、CD48抗体を検出するのに使用できる抗体はSandrin,M.S.(1993)の、J.Immunol.151:4606およびKatoら(1993)の、Eur.J.Immunol. 23:1412に開示されており、また、CD59を検出するのに使用できる抗体はDeckert,M.ら(1992)の、Eur.J.Immunol.22:2943-2947に開示されている。
【0054】
細胞(例えば、腫瘍細胞)のトランスフェクションにより、大きな割合の細胞が修飾され、細胞表面上のCD2リガンドの効率的な発現が達成される場合、例えば、ウイルス発現ベクターを用いた場合には、さらに単離やサブクローニングを行うことなく細胞を使用してもよい。あるいはまた、トランスフェクション細胞の均一なポピュレーションは、限界希釈によって単一のトランスフェクション細胞を単離し、次いで標準技術によってこの単一細胞を膨張させて細胞のクローナルポピュレーションとすることによって製造することができる。
【0055】
CD2リガンドをコードする核酸を細胞中に導入する代わりに、細胞表面のCD2リガンドの発現を誘導したり、発現レベルを増大させるように細胞を修飾することもできる。CD2リガンドの発現を刺激する物質を用いて、細胞表面のCD2リガンドの発現を誘導するかまたは増大させることができる。例えば、in vitroの培養培地中でこの物質と細胞を接触させることができる。CD2リガンドの発現を刺激する物質は、例えば、CD2リガンド遺伝子の転写を増大させるか、CD2リガンドmRNAの翻訳を増大させるか、またはCD2リガンドの細胞表面への移動もしくは安定性を増すことによって作用してもよい。腫瘍細胞表面のCD2リガンドの発現を誘導するかまたは増大させるのに使用できる別の物質は、CD2リガンドをコードする遺伝子の転写をアップレギュレーション(促進的調節)する転写因子をコードする核酸である。この核酸を既述のごとく細胞内にトランスフェクトすることにより、CD2リガンド遺伝子の転写を増大させ、CD2リガンドの細胞表面レベルを増大させることができる。
【0056】
あるいはまた、細胞表面にCD2リガンドをカップリングさせることによって細胞(例えば、腫瘍細胞)を修飾し、CD2リガンドを発現させることができる。例えば、CD2リガンド蛋白を生産し単離することができる発現系と標準的組換えDNA技術を用いて、CD2リガンドを得ることができる。あるいはまた、CD2リガンドは、標準的蛋白精製技術を用いてCD2リガンドを発現する細胞から単離することができる。次いで、単離したCD2リガンドを細胞表面にカップリングさせる。用語「カップリングされた」または「カップリング」とは、CD2リガンドが細胞表面に存在し、T細胞におけるCD2を介するシグナルを誘発し得るようにCD2リガンドを細胞と結合させる化学的、酵素的、もしくは他の方法をいう。例えば、市販の架橋試薬(例えば、Pierce、Rockford IL)を用いて、CD2リガンドを細胞表面に化学的に架橋させることができる。別のアプローチとして、LFA−3やCD59のようなCD2リガンドのGPI連結型の脂質末尾を細胞膜内に挿入することによって、該分子を細胞表面にカップリングさせることができる。さらなる別のアプローチには、細胞上の、CD2リガンドと細胞表面分子の両方に結合する二特異抗体を介してCD2リガンドを細胞にカップリングさせることが含まれる。細胞表面にカップリングしたときにT細胞におけるCD2を介するシグナルを誘発する能力を保持しているCD2リガンドのフラグメント、突然変異体または変異体を使用することもできる。
B.可溶性の刺激型のCD2リガンド
【0057】
本発明の他の態様において、T細胞の応答性を回復するのに用いるCD2刺激物質は可溶性の刺激型のCD2リガンドである。可溶性のCD2リガンドは、適切な抗CD2抗体と一緒になって、CD2を介してシグナルを誘発することが示されている。ある態様において、可溶性の刺激型のCD2リガンドは、CD2リガンドの多価形、例えば、ダイマー、トリマー、またはテトラマーである。LFA−3のマルチマーは、適切な抗CD2抗体(例えば、T11.3抗体)と一緒になってin vitroにおけるT細胞の活性化を誘発することが示されている(Pepinsky,R.B.ら(1991)の、J.Biol.Chem.266:18244-18249参照)。したがって、CD2を介してT細胞の活性化を刺激するCD2リガンドのマルチマーをCD2刺激物質として用いることができる。好ましくは、CD2リガンドの多価形は、T11.3エピトープと結合する抗CD2抗体(例えば、T11.3抗体)と組み合わせて使用される。Pepinskyら(既述)の記載の従って、CD2リガンドのモノマーを化学的に架橋し、マルチマーを形成させることができる。
【0058】
さらに別の態様において、可溶性の刺激型のCD2リガンドは、ミセル中に取り込まれたGPI連結CD2リガンドである。膜中に固定するためのホスファチジルイノシトール脂質末尾を含むCD2リガンド(例えば、LFA−3またはCD59)をGPI連結型として分離し、ミセル中に取り込ませることができる。LFA−3またはCD59を含有するミセルはWO89/10938の記載に従って製造することができる。適切な抗CD2抗体(例えば、T11.3抗体)と結合したCD2リガンドのミセル形を用いて、CD2を介してT細胞を刺激することができる(WO89/10938参照)。
C.刺激型の抗CD2抗体
【0059】
CD2表面受容体を介してT細胞を刺激する物質の別の具体例は少なくとも1つの抗CD2抗体である。刺激型の抗CD2抗体は当該技術分野で開示されている。好ましくは、抗CD2抗体によるCD2を介する刺激は、少なくとも2つの異なる抗CD2抗体を組み合わせて用いることによって達成される。既に報告されている抗CD2抗体の刺激性混合物には以下のものが含まれる:T11.1またはT11.2抗体と組み合わせたT11.3抗体(Meuer,S.C.ら(1984)の、Cell 36:897-906)、および9−1抗体と組み合わせた9.6抗体(T11.1と同じエピトープを認識する)(Yang,S.Y.ら(1986)の、J.Immunol.137:1097-1100)。これらの抗体と同じエピトープに結合する他の抗体を使用することもできる。さらなる刺激型抗CD2抗体または抗体混合物は標準的技術によって製造し、確認することができる。例えば、刺激型抗体または抗体混合物は、in vitroのT細胞培養系において抗原提示細胞の非存在下でT細胞の増殖を刺激する抗体(単一または複数)の能力に基づいて確認することができる。
D.細胞内CD2刺激物質
【0060】
細胞外で作用し、CD2を介してT細胞を刺激する物質に代わって、ある種のCD2刺激物質は細胞内で作用し、CD2表面受容体を介してT細胞中に誘発された細胞内シグナルを刺激することができる。既述したように、T細胞上のCD2表面受容体を介した細胞内シグナリングにはCD3コンプレックスが関与するが、このシグナリングはプロテインチロシンキナーゼ活性、プロテインキナーゼC活性を誘導し、細胞内のサイトゾル遊離カルシウムを生じさせる。したがって、CD2を介してT細胞を刺激することによって誘導された1つまたはそれ以上のこの細胞内シグナルを刺激する物質は、T細胞の応答性を回復するためのCD2刺激物質として用いることができる。
【0061】
さらに、既述したように、T細胞アネルギーの逆転には、チロシンキナーゼJAK−3とCD2の会合およびJAK−3キナーゼのリン酸化が伴う(実施例6参照)。したがって、細胞内CD2刺激物質は、JAK−3キナーゼの細胞内活性を刺激する物質、例えば、JAK−3キナーゼとCD2との会合を刺激し、そして/またはJAK−3キナーゼのリン酸化を刺激する物質であり得る。
E.不応答性T細胞のプライミング
【0062】
アネルギー化T細胞をCD2刺激物質と接触させるのに加えて、T細胞の抗原特異的応答性を回復するにはCD2を介して刺激するためにT細胞を「プライム」する必要があろう。本明細書において、T細胞を「プライムする」なる用語は、T細胞に、次の刺激(例えば、CD2を介する)に対する準備をさせる、T細胞の処理を表す。したがって、CD2表面受容体を介して刺激するために、まず最初にアネルギー化T細胞を、T細胞をプライムする物質と接触させることができる。CD2を介する刺激に対してT細胞をプライムする物質の具体例はT細胞成長因子、好ましくはIL−2である。アネルギー化T細胞をプライムするのに使用できる他のT細胞成長因子にはIL−4およびIL−7が含まれる。これら3種類のリンホカイン(IL−2、IL−4、およびIL−7)のそれぞれの受容体は、共通のシグナリングサブユニット、IL−2 γ鎖を利用し、したがって、類似した細胞内シグナルを誘発する。細胞内シグナリングにIL−2受容体γ鎖を利用する受容体と結合する他のサイトカイン、または細胞内で作用してIL−2受容体γ鎖シグナリング経路を刺激する物質を用いてT細胞をプライムすることができる。
【0063】
あるいはまた、不応答性T細胞をプライムする物質は、T細胞のCD2表面受容体上へのT11.3ネオ−エピトープの露出を刺激する物質である。したがって、CD2上のT11.3エピトープの露出はT細胞プライミングを評価するのに用いることができる。T細胞のCD2表面受容体上のT11.3エピトープの露出は、T細胞に結合するT11.3抗体の能力を測定することによって(例えば、フローサイトメトリーによって)評価することができる。CD2上のT11.3ネオ−エピトープを露出するのに使用することができる好ましい物質はIL−2である。 本発明のこの態様によれば、不応答性T細胞を、CD2刺激物質と接触させる前にT細胞をプライムする物質と接触させることができる。例えば、T細胞をIL−2中で培養し、CD2を介する刺激に対してT細胞をプライムし、次いでCD2リガンドを発現している細胞かまたは刺激型抗CD2抗体で刺激することができる。
F.CD2刺激物質の使用
【0064】
抗原に対するT細胞の応答性を回復するための本発明の方法は、治療目的に用いることができる。例えば、この抗原は腫瘍細胞上に発現した抗原であり得るし、また、この方法は抗腫瘍応答性を増強するのに使用することができる。あるいはまた、この方法を用いて、ウイルス、細菌、寄生虫、およびカビのような病原物質に対する応答性を増強するか、またはそのような病原性物質に対するワクチンの効力を増強することができる。例えば、CD2刺激物質は、病原性物質に感染した対象に投与するか、またはワクチン抗原に対するT細胞の応答性を増強するためにワクチンと一緒に投与することができる。T細胞はin vitroの培養において抗原に対して不応答性になる傾向があるため、in vitroのT細胞培養を含む治療的処理の補助としてこの方法を用いることができる。したがって、本発明の方法を用いて、治療的に用いられるin vitro培養T細胞の抗原応答性を増大させることができる。
【0065】
アネルギー化T細胞の抗原特異的応答性は、in vivoまたはex vivo(生体外)のいずれかにおいてアネルギー化T細胞をCD2刺激物質と接触させることによって回復させることができる。抗原特異的T細胞を、好ましくは抗原存在下でCD2刺激物質と接触させる。例えば、in vitroにおいて、抗原発現細胞の存在下で培養中、T細胞をCD2刺激物質と接触させるか、または抗原が内在性に存在するかまたは抗原がCD2刺激物質と一緒に投与されるin vivoにおいて、T細胞をCD2刺激物質と接触させる。さらにin vitroまたはin vivoのいずれかでCD2を介して刺激するために、T細胞をプライムする物質とT細胞を接触させることができる。例えば、T細胞をin vitroでIL−2とインキュベーションするか、またはIL−2を、対象に対して全身投与することができる。
【0066】
CD2刺激物質の投与経路、投与するための医薬組成物、投与のタイミングと用量、および投与のための他の考慮すべき事項は、CD2阻害物質に関して既述した通りであるか、またはそれらを容易に変更することができる。CD2阻害物質について既述した組成物に加えて、さらにCD2刺激物質をアジュバントと投与することができる。アジュバントはその最も広い意味で使用され、インターフェロンのようなあらゆる免疫刺激化合物が含まれる。本発明において予定されているアジュバントには、ポリオキシエチレンオレイルエーテルおよびn−ヘキサデシルポリエチレンエーテルのような非イオン性界面活性剤、レソルシノールが含まれる。CD2刺激物質を別の治療剤(例えばワクチン)と一緒に投与する場合は、両治療剤の最大の効力を得るために、CD2刺激物質のタイミングと用量を、他の物質を投与するタイミングと用量と調和させることができる。
IV.抗原に対するT細胞の応答を回復させる方法
【0067】
本発明の方法に従ってCD2を介して刺激される抗原特異的なアネルギー化T細胞は、共刺激シグナルを誘発する刺激と共に抗原にばく露されると、抗原応答能を回復する。したがって、本発明はさらに、抗原の存在下で、T細胞を、CD2表面受容体を介してT細胞を刺激する第一物質と接触させることにより、抗原不応答性T細胞の、抗原に対する応答を回復させる方法を提供するものである。さらに、T細胞を、CD28またはCTLA4表面受容体を介してT細胞を刺激する第二物質と接触させる。この方法を治療的に用いて腫瘍を保有する対象における抗腫瘍反応を増強させることができる。あるいはまた、抗原に対する応答を回復させる方法を、病原性物質(例えば、細菌、ウイルス、寄生虫、またはカビ)に対する免疫反応を刺激し、病原性物質に対するワクチンの効力を刺激するような治療目的に用いることができる。
【0068】
この方法に用いる第一物質の例としては、先に詳述したCD2刺激物質がある。この方法に用いる第二物質の例には、CD28またはCTLA4リガンドを発現している細胞(例えば、CD2リガンドにおいて既述したCD28またはCTLA4リガンドを発現するように修飾された細胞)、CD28またはCTLA4リガンドの刺激形(例えば、多価形)、またはCD28またはCTLA4と結合する刺激抗体(例えば、Harding,F.A.(1992)の、Nature 356:607-609に記載の刺激抗CD28抗体)が含まれる。
【0069】
好ましい態様においては、第一物質は細胞表面上のCD2リガンドであり、第二物質は同じかまたは別の細胞表面上のCD28またはCTLA4リガンドである。好ましいCD2リガンドはLFA−3である。あるいはまた、CD2リガンドはCD48またはCD59であり得る。好ましいCD28またはCTLA4リガンドは、B7−1およびB7−2である。既述の方法によって細胞を修飾し、CD2リガンドおよび/またはCD28/CTLA4リガンドを発現させることができる。例えば、CD2リガンドおよび/またはCD28/CTLA4リガンドをコードする核酸を、細胞表面上にリガンド(単一または複数)を発現させるのに適切な形で細胞中に導入することができる。あるいはまた、CD2および/またはCD28/CTLA4リガンドを細胞上に誘導するか、または細胞表面にカップリングさせることができる。
【0070】
抗原に対するT細胞の応答性を回復させるには、CD2を介して刺激するためにT細胞をプライムする第三物質とT細胞を接触させる必要があろう。T細胞をプライムするための物質は既述の通りである。T細胞をプライムし、T細胞上のCD2のT11.3ネオ−エピトープの露出を刺激するための好ましい物質はIL−2である。CD2を介して刺激するためにT細胞をプライムする物質とT細胞を接触させ、次いで、T細胞を、CD2を介してT細胞を刺激する物質と接触させる。in vitroまたはin vivoのいずれかでCD2を介する刺激に対してT細胞をプライムする物質とT細胞を接触させる。例えば、T細胞を対象から得、in vitroでIL−2中で培養し、次いでこれを対象に再投与するか、または対象にIL−2を全身投与することができる。
【0071】
本発明の好ましい態様は、CD2リガンドおよびCD28またはCTLA4リガンドを発現するように腫瘍細胞を修飾することを特徴とする、腫瘍を有する対象の腫瘍特異的T細胞応答を回復させる方法を提供することである。好ましくは、腫瘍細胞表面にCD2リガンドおよびCD28またはCTLA4リガンドを発現させるのに適した形の、CD2リガンドおよびCD28またはCTLA4リガンドをコードする少なくとも1つの核酸を腫瘍細胞中に導入することによって、CD2リガンドおよびCD28またはCTLA4リガンドを発現するようにT細胞を修飾することができる。腫瘍細胞はin vivoまたはex vivoで修飾することができる。例えば、腫瘍細胞表面にCD2リガンドを発現するように腫瘍細胞を修飾するのに適した形のCD2リガンドをコードする組換え型ウイルスに腫瘍細胞を感染させることによって、in vivoでCD2リガンドを発現させることができる。あるいはまた、腫瘍細胞を対象から取り出し、ex vivoで修飾してCD2リガンドを発現させ、次いで対象に再投与することができる。ex vivoで修飾する場合、両リガンド(すなわち、CD2リガンドおよびCD28またはCTLA4リガンド)を発現するようにT細胞試料を修飾するか、あるいはまた、CD2リガンドを発現するようにある腫瘍細胞試料を修飾し、次いでCD28またはCTLA4リガンドを発現するように第二腫瘍細胞試料を修飾することができる。次に、この2つの腫瘍細胞試料を、同時にかまたは連続的に対象に投与することができる。CD2リガンドを発現している腫瘍細胞試料を最初に投与して腫瘍特異的応答性を回復させ、次いでCD28またはCTLA4リガンドを発現している腫瘍細胞試料を投与して腫瘍特異的T細胞応答を刺激することは有利であろう。
【0072】
腫瘍特異的T細胞はin vivoまたはex vivoのいずれかで刺激することもできる。例えば、T細胞は、in vivoで腫瘍細胞を修飾するか、または修飾した腫瘍細胞(または他のCD2刺激物質)を対象に投与することによってin vivoで刺激することができる。あるいはまた、T細胞を対象から得、ex vivoで刺激し(例えば、LFA−3保持腫瘍細胞かまたは腫瘍細胞と抗CD2抗体を用いて)、次いで、対象に再投与することができる。in vitroで刺激したT細胞を最初にin vitroでIL−2と培養してT細胞をプライムするか、またはIL−2を対象に全身投与し、CD2を介する刺激に対してT細胞をプライムすることができる。
【0073】
したがって、本発明は、修飾される前はCD2リガンドを発現していない腫瘍細胞であって、修飾によってCD2リガンドを発現する腫瘍細胞をも提供するものである。好ましくは、腫瘍細胞はLFA−3を発現するように修飾される。本発明は、修飾される前はCD2リガンドおよびCD28またはCTLA4リガンドを発現していない腫瘍細胞であって、修飾によってCD2リガンドおよびCD28またはCTLA4リガンドを発現する腫瘍細胞をも提供する。修飾によってLFA−3およびB7−1またはB7−2を発現するT細胞が好ましい。既述のごとく、CD2リガンド、および所望によりCD28またはCTLA4リガンドを発現するようにT細胞を修飾することができる。修飾された腫瘍細胞は、医薬として投与するのに適した組成物中に取り込ませることができる。例えば、腫瘍細胞を、医薬的に許容される担体または希釈剤(例えば、滅菌生理食塩水溶液)に入れて、投与することができる。腫瘍細胞は、腫瘍細胞を所望の部位に輸送する適切な経路、例えば、静脈内、筋肉内、または腹腔内注射によって投与することができる。
【0074】
以下の実施例において、本発明をさらに説明するが、これによって本発明が限定されると解釈すべきではない。本明細書中に引用された全ての引用文献、および公開された特許ならびに特許出願の内容は本明細書の一部を構成する。
【実施例】
【0075】
実施例1:T細胞における共刺激シグナル阻害によるT細胞の不応答性の誘導
実施例において、アロ抗原のHLA−DR7に特異的な2種類のヘルパーT細胞クローン(TC−1、TC−2)を使用した。これらのクローンは、CD4CD8CD28であり、標準的方法(J.Goronzyら(1987)の、Methods Enzymol.150:333に記載)を用いて作製した。ある実験では、これらT細胞クローンを、トランスフェクションによってHLA−DR7および/または他の細胞表面分子を発現しているNIH−3T3またはCOS細胞で刺激した。本明細書では、これらのトランスフェクトされた細胞を、人工的アロ抗原提示細胞(アロ−APC)と呼ぶ。トランスフェクション前には、これら細胞はT細胞の増殖やIL−2の産生を刺激することはできない。トランスフェクタントは以下のようにその表面に発現している分子によって表され、HLA−DR7のみを発現している細胞はt−DR7と、HLA−DR7とB7−1の両方を発現している細胞はt−DR7/B7−1と、また、HLA−DR7とICAM−1を発現している細胞はt−DR7/ICAM−1などというように呼ばれる。他の実験では、HLA−DR7、B7−1(CD80)、B7−2、ICAM−1(CD54)、およびLFA−3(CD58)を一緒に発現するHLA−DR7ホモ接合体のリンパ芽球様細胞系でT細胞クローンを刺激する。この細胞系はLBL−DR7と呼ばれる。T細胞の応答は、標準的技術によってT細胞の増殖またはIL−2の産生を測定することによってアッセイされた。この2クローンの結果は本質的に同等であった。TC−1の結果のみを示す。
【0076】
最初の一連の実験において、TC−1は、t−DR7、t−DR7/B7−1またはLBL−DR7のいずれかと72時間一緒に培養した。TC−1とアロ−APCまたはLBL−DR7は1:1の最適比で培養された(2.5×10個/ウェル)。72時間の一次培養後、TC−1細胞を、人工的アロ−APCからパーコールグラジエント遠心によって、およびLBL−DR7からフィコール分離によって分離し、徹底的に洗浄し、IL−2を含まない培地中で24時間培養した。次いで各ポピュレーションを、二次刺激物質の人工的アロ−APC(t−DR7、t−DR7/B7、t−DR7/ICAM−1)、LBL−DR7細胞、またはIL−2によって再チャレンジした。人工的アロ−APCおよびLBL−DR7細胞を、37℃で2時間20μg/mLのマイトマイシン−C(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)で処理し、徹底的に洗浄した。ある実験では、LBL−DR7細胞を9600radで照射した。ある培養(図1に示す)には、抗B7−1(133)mAbとCTLA−Ig融合蛋白を10μg/mLで加えた。組換え型ヒトIL−2(Collaborative Biomedical Products, Bedford,MA)を100IU/mLで用いた。増殖は、72時間のインキュベーションの最後の16時間における[H]チミジン(1μCi)(DuPont,Boston,MA)の取り込みによって測定した。IL−2の蓄積は、培養開始後24時間で採取した上清において、酵素免疫測定法(Biosource,Camarillo,CA)によって測定した。結果は7回の実験の結果を表している。結果を図1に示す。なお、黒棒は人工的アロ−APCに対するTC−1細胞の応答を示し、斜線の棒はLBL−DR7に対する応答を示し、白抜きの棒は外因性組換え型ヒトIL−2に対する応答を示す。
【0077】
TC−1のt−DR7との一次培養によって、TC−1がアロ−APCまたはLBL−DR7による再チャレンジに応答しないことによって示される、T細胞の不応答性(すなわち、アネルギー)が誘導された(図1、A参照)。この実験から、共刺激シグナルの非存在下(例えば、B7−1に対する結合の非存在下)のTC−1における抗原刺激シグナルの刺激によってT細胞の不応答性が誘導されることが確認された。これに対して、t−DR7/B7−1またはLBL−DR7のいずれかを用いる一次培養は、有意な二次増殖反応とIL−2の蓄積をもたらした(図1、BおよびC参照)。一次培養中のLBL−DR7細胞に対する抗B7−1 mAb(A.S.Freedmanら(1987)の、J.Immunol.137:3260に記載)の添加は、増殖とIL−2の蓄積を低下させたが、再チャレンジに対する不応答性は誘導しなかった(図1、D参照)。これは、抗B7−1抗体が、他のB7ファミリーのメンバー(例えば、B7−2)とT細胞上のその受容体(例えば、CD28および/またはCTLA4)との相互作用を阻害することができないことによる。しかしながら、CTLA4−Ig存在下におけるLBL−DR7との一次培養(C.D.Gimmiら(1993)の、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6586)はアネルギーをもたらした(図1、E参照)。これは、CTLA4Igが、すべてのB7ファミリーのメンバーとT細胞上のその受容体との相互作用を阻害することができることによる。すべての場合において、アネルギー化細胞と非アネルギー化細胞は外因性IL−2と同様に応答した。CTLA4−IgによってブロックされないLBL−DR7細胞上に発現される他のすべての表面分子はCTLA4Ig存在下でアネルギーの誘導を防止できなかったことから、これらの結果は、アロ抗原特異的アネルギーを誘導するには、B7ファミリーの共刺激分子をブロックすることが必要十分であることを示している。さらに、アネルギー誘導後に、LBL−DR7細胞上に発現したB7ファミリーのメンバーと他の非B7共刺激分子はいずれもこの状態を逆転させることができないようである。
実施例2:B7−1またはICAM−1によるT細胞の刺激はT細胞の不応答性を逆転させない
【0078】
二番目の一連の実験において、アネルギー化TC−1細胞をIL−2中で3〜21日間培養し、IL−2が特異的アロ抗原に対する応答性を回復させることができるかどうかを検討した。TC−1細胞を最初にt−DR7と共に一次培養してアネルギー化し(実施例1の記載に従って)、次いでIL−2で3〜21日間インキュベーションした。IL−2でインキュベーションした後、TC−1細胞をアロ−APCまたはLBL−DR7で再チャレンジした(図2に示した時間間隔で)。図2に示す結果は、5回の実験の代表例である。IL−2でインキュベーションした後21日までのどの時点においても、t−DR7、t−DR7/B7−1、またはt−DR7/ICAM−1による再チャレンジを、広範囲の刺激物質:反応体比で行っても、応答性の回復はみられなかった(図2参照)。これに対して、少なくとも7日間のIL−2培養後において、LBL−DR7による再チャレンジによってIL−2の有意な蓄積と関連する増殖反応が誘導された(図2参照)。これらの実験は、持続的なIL−2培養後に、LBL−DR7と培養することによってTC−1のアロ抗原特異的応答性を回復することができるが、B7−1とICAM−1(アロ−APC上)はいずれも共刺激をもたらすには十分ではないようであることを示している。コントロール実験において、TC−1応答は抗DR mAbによって阻害され(R.I.Toddら(1984)の、Hum.Immunol.10:23(1984)に記載)、また、T細胞の増殖またはIL−2の蓄積は、異なるDRハプロタイプとそれぞれホモ接合体である2つの他のLBL(LBL−DR1およびLBL−DR8)によって誘導されなかったことから、このTC−1反応がアロ抗原特異的であることが示された。
実施例3:CD2/LFA−3相互作用のブロックによるT細胞不応答性の維持
【0079】
第3の一連の実験において、LBL−DR7細胞の、TC−1のアロ抗原特異的応答性を回復する能力について検討した。LBL−DR7培養上清の存在下でt−DR7/B7−1またはt−DR7/ICAM−1で再チャレンジしても応答性は回復しなかったことから、LBL−DR7の効果に対する分泌された可溶性因子関与はみられなかった。これに対して、パラホルムアルデヒド固定細胞、マイトマイシン−C処理細胞、または照射LBL−DR7細胞は同じ増殖反応を誘導し、観察されたLBL−DR7細胞によるアネルギーの逆転に細胞表面分子が関与したことが示唆された。APC上に発現した種々の細胞表面分子に対するmAbまたは融合蛋白のブロッキングによって、既知の細胞表面分子がLBL−DR7細胞による応答性の回復をもたらすかどうかについて検討した。t−DR7アロ−APCによるアネルギー誘導後にIL−2中で少なくとも7日間培養し、単独でかまたは以下のmAbまたは融合蛋白のそれぞれ1つの存在下で、LBL−DR7でTC−1細胞を再チャレンジした:抗DR(9−49)(R.I.Toddら(1984)の、Hum.Immunol.10:23に記載)、抗LFA−1(TS1/22)(F.Sanchez-Madridら(1982)の、Proc.Natl.Acad.Sci USA 79:7489に記載)、抗LFA−3(TS2/9)(F.Sanchez-Madridら(1982)の、Proc.Natl.Acad.Sci USA 79:7489に記載)、抗B7−1(133)(A.S.Freedmanら(1987)の、Immunol.137:3260に記載)、BB−1(E.Clarkらの、Leukocyte Typing中、A.Bernardら編、(Springer-Verlang,Berlin Heidelberg,1984)、339頁に記載)、CTLA4−Ig(C.D.Gimmiら(1993)の、Proc.Natl.Acad.Sci USA 90:6586に記載)、抗CD24(BA−1、1:100腹水)(C.S.Abramsonら(1981)の、J.Immunol.126:83)、抗CD40(JRG12)、および抗CD72(J3−109,BU−40、1:100腹水)(B.Dorkenらの、Leucocyte Typing IV White cell differentiation antigens, W.Knappら編(Oxford,1989)、99頁に記載)。すべての(精製)mAbと融合蛋白は10μg/mLで使用した。増殖は実施例1の記載に従って測定した。結果を図3に示すが、これは4回の実験を代表するものである。
【0080】
3つのmAb、すなわち、抗DR、抗LFA−1、および抗LFA−3のみがT細胞の不応答性を逆転させるLBL−DR7の能力を阻害した(すなわち、T細胞の不応答性の維持)(図3参照)。B7ファミリーのメンバー、およびCD24、CD40ならびにCD72を含む他の細胞表面分子はいずれも、これら分子と結合するmAbまたは融合蛋白に増殖反応を阻害する能力がないことから明らかなように、アネルギーを逆転させるのに重要でないようである。観察されたLBL−DR7介在性増殖の抗DRによる阻害は、T細胞による抗原認識の阻害による。T細胞の不応答性は、抗原提示細胞上のLFA−3とアネルギー化T細胞の相互作用が阻害される時に維持されるため(例えば、抗LFA−3抗体を用いてブロックすることによって)、観察された抗LFA−3によるLBL−DR7介在性増殖の阻害は、LFA−3がアネルギーの逆転に関与することと一致している。観察された抗LFA−1 mAbによるLBL−DR7介在性増殖の阻害は、LFA−1リガンドもアネルギーの逆転に関与し得ることを示唆している。t−DR7/ICAM−1細胞は持続的なIL−2培養後のアネルギー化細胞の増殖を回復させないことから、ICAM−1はアネルギーの逆転に関与するLFA−3リガンドではないようである。しかしながら、ICAM−2およびICAM−3を含む他のLFA−1リガンド、CD2/LFA−3相互作用に加えて、アネルギーの逆転に関与することも考えられる。
実施例4:LFA−3を用いる刺激によるT細胞の不応答性の逆転
【0081】
LFA−3およびアロ抗原が樹立されたアロ抗原特異的クローン性アネルギー状態を逆転させることができるかどうかを直接試験するために、COS細胞をトランスフェクトさせ、DR7のみ(COS−DR7)、B7−1およびB7−2単独(COS−B7−1/B7−2)、またはLFA−3のみ(COS−LFA−3)を発現させるか、または1つまたはそれ以上のこれら分子と一緒にDR7を発現させた(COS−DR7/B7−1/B7−2、COS−DR7/LFA−3、およびCOS−DR7/LFA−3/B7−1/B7−2)。HLA−DRαおよびDR7β(DRB1*0701)鎖(COS−DR7)、B7−1およびB7−2(COS−B7−1/B7−2)、HLA−DRαおよびDR7β、B7−1およびB7−2(COS−DR7/B7−1/B7−2)、LFA−3(COS−LFA−3)、HLA−DRαおよびDR7βおよびLFA−3(COS−DR7/LFA−3)、HLA−DRαおよびDR7β、LFA−3、B7−1およびB7−2(COS−DR7/LFA−3/B7−1/B7−2)、またはpCDNAIベクターのみ(COS−mock)のいずれかをコードするcDNAでCOS細胞をトランスフェクトした。DR7およびLFA−3の発現は、それぞれ9−49およびTS2/9mAbと、次いでFITC結合ヤギ抗マウスIgを用いて評価し、B7−1とB7−2の発現はビオチニル化CTLA4−Ig、次いでフィコエリスリン結合ストレプトアビジンを用いて評価した。LFA−3とDR7の共発現はTS2/9、次いでFITC標識ヤギ抗マウスIgおよびフィコエリスリン結合9−49を用いて評価し、トランスフェクトされた細胞の50〜72%に検出可能であった。DR7とB7−1/B7−2の共発現は、FITC結合9−49とビオチニル化CTLA4−Ig、次いでフィコエリスリン結合ストレプトアビジンを用いて評価し、トランスフェクトされた細胞の40〜50%に検出可能であった。使用前に、トランスフェクトされたCOSは実施例1の記載に従ってマイトマイシン−Cで処理された。t−DR7でアネルギーを誘発し、次いで組換え型ヒトIL−2中で培養した後、TC−1細胞(2.5×10 細胞/ウェル)を、2×10 個/ウェルの各タイプのCOS−トランスフェクタントで再チャレンジした。増殖およびIL−2の蓄積は実施例1の記載に従って測定した。結果を図4に示すが、これはCOS−DR7/LFA−3、COS−DR7/B7−1/B7−2、およびCOS−mockを用いた3回の実験と、COS−DR7、COS−LFA−3、COS−B7−1/B7−2、およびCOS−DR7/LFA−3/B7−1/B7−2トランスフェクタントを用いた2回の実験の結果を表している。COS−DR7、COS−B7−1/B7−2、COS−LFA−3、およびCOS−DR7/B7−1/B7−2によるチャレンジは増殖やIL−2の蓄積を誘導しなかった。これに対して、DR7とLFA−3を共発現するトランスフェクタント(COS−DR7/LFA−3、およびCOS−DR7/LFA−3/B7−1/B7−2)は増殖とIL−2の蓄積を同レベルで誘導し、LFA−3共刺激の存在下でアロ抗原に対する応答性が回復することを示した。
【0082】
LFA−3による刺激がアネルギーを逆転させ、アロ抗原特異的応答性を完全に回復させるかどうかを検討するため、TC−1細胞をアネルギー化し、IL−2中で培養し、LBL−DR7、COS−DR7/LFA−3、またはCOS−DR7/B7−1/B7−2のいずれかと72時間一緒に培養した。次いで、これをLBL−DR7からフィコール分離によって、およびCOSトランスフェクタントからパーコールグラジエント遠心によって分離し、示した刺激物質で再チャレンジした。図5に示した結果は、LBL−DR7刺激物質で再チャレンジしたときの5回の実験と、COSトランスフェクタントを刺激物質として再チャレンジしたときの3回の実験の結果を表している。IL−2およびLBL−DR7またはCOS−DR7/LFA−3で連続的に培養した後にあらかじめアネルギー化されたTC−1細胞はt−DR7/B7−1、t−DR7/ICAM−1、およびLBL−DR7と反応した(図5、上段と中段参照)。これに対して、IL−2培養後にCOS−DR7/B7−1/B7−2を使用しても再チャレンジに対する応答はみられなかった(図5、下段参照)。すべての例において、TC−1細胞は外因性IL−2に対して同様の増殖を示した(図5)。このことは、IL−2中で少なくとも7日間アネルギー化TC−1を培養た後のLFA−3による刺激とアロ抗原の提示は、あらかじめ与えた不十分な共刺激シグナルの存在下でアロ抗原への応答性を回復させ、アロ抗原特異的アネルギーを逆転させるに十分であることを示している。
実施例5:IL−2中の培養によるアネルギー化T細胞上のCD2ネオ−エピトープT11.3の再発現
【0083】
TC−1によるCD2エピトープT11.1およびT11.2(CD2)、およびT11.3(CD2R)の発現は、種々の培養条件下で、フローサイトメトリーによって試験した。アネルギー誘導の前後、および7日間のIL−2との培養後のTC−1細胞を、CD2分子のT11.1、T11.2、またはT11.3エピトープに対する抗体、またはアイソタイプが一致した適切なコントロールで染色し、フローサイトメトリー分析(EPICS Elite Flow cytometer;Coulter)によって分析した。結果を図6に示す。図中、黒のピークはアイソタイプの一致したmAbを用いた染色を示し、白いピークはT11.1、T11.2、またはT11.3エピトープのいずれかに対するmAbを用いた染色を示す。データは3回の実験の結果を表している。応答状態において、TC−1細胞はT11.1、T11.2、およびT11.3エピトープを発現する。t−DR7との培養によりTC−1にアネルギーを誘発した(実施例1の記載に従って)後も、TC−1細胞はまだT11.1とT11.2を発現しているが、T11.3(CD2R)の発現はもはや検出されない。IL−2と7日間の培養した後、明確にTC−1細胞がアロ抗原とLFA−3の共刺激に対する応答性を回復した時に、T11.3エピトープが再び発現する(図6参照)。さらに、非アネルギーTC−1細胞はT11.1またはT11.2mAbとT11.3とのマイトジェニックな(細胞分裂促進性の)組み合せによって増殖するが、アネルギー化TC−1細胞は増殖しない。7日間のIL−2培養後、T11.3エピトープの再発現に伴って、エネルギーTC−1細胞は抗CD2 mAbのマイトジェニックな組み合せ(例えば、T11.1またはT11.2mAbのいずれかとT11.3)に対する応答性を回復する。アネルギー誘導後にTC−1細胞に検出可能なT11.3エピトープがみられないことは、単にT細胞増殖がみられないことによるものではなく、アネルギーの誘導に直接関与していた。
実施例6:T細胞のアネルギーの逆転におけるCD2とJAK−3キナーゼとの関連
【0084】
t−DR7/B7−1またはLBL−DR7細胞のいずれかで非アネルギー化TC−1細胞を刺激することによって、チロシンキナーゼJAK−1およびJAK−3のチロシンリン酸化が生じた。T細胞アネルギーの逆転におけるJAKキナーゼの役割について試験するため、あらかじめアネルギー化したTC−1細胞を種々の刺激物質でチャレンジし、次いでJAKキナーゼによるリン酸化、およびCD2との関連について試験した。非アネルギー化T細胞とは反対に、あらかじめアネルギー化したT細胞は、t−DR7/B7−1またはLBL−DR7のいずれかでチャレンジしてもJAK−1またはJAK−3キナーゼのチロシンリン酸化を示さなかった。しかしながら、T細胞をIL−2中で7日間培養した後に細胞をLBL−DR7で再チャレンジすると、JAK−1およびJAK−3キナーゼの有意なリン酸化を生じた。IL−2培養後のこの期間は、T細胞がアロ抗原およびLFA−3刺激に対する応答性を回復する時間と一致する。この時点でCD2にJAKキナーゼファミリーのメンバーのいずれかとの関連がみられるかを検討するため、TC−1細胞溶解物をCD2に対するモノクローナル抗体T11.1、T11.2、またはT11.3で免疫沈降させ、免疫沈降物細胞を標準SDS−PAGEゲルにて電気泳動した。ゲル上の蛋白をフィルターに移し、次いで共通抗JAKキナーゼ抗血清(R80)またはJAK−3特異的抗血清を用いて免疫ブロティングを行った。この免疫ブロティング実験の結果を図7に示す。この実験によって、T細胞アネルギーの逆転において、CD2のT11.3発現形と116kDのJAKキナーゼには関連があることが明らかとなった(図7、左欄参照)。さらに、この116kDのJAKキナーゼはJAK−3キナーゼに特異的な抗血清を用いる免疫ブロッティングによってJAKキナーゼであることが確認された(図7、右欄参照)。
等価物
【0085】
当業者は、本明細書に記載の発明の特定の態様に対する多くの等価物は、認識するかまたはごく普通の実験法を用いるだけで確認することができるであろう。そのような等価物は以下の特許請求の範囲に包含されるよう意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】一次刺激を受けた後、人工抗原提示細胞またはリンパ芽球様細胞系による再チャレンジ(攻撃)に応答して起こるT細胞の増殖とIL−2の産生を示す一連の棒グラフである。
【図2】IL−2中での培養および人工抗原提示細胞またはリンパ芽球様細胞系による刺激で起こる、アネルギー化T細胞の増殖を示すグラフである。
【図3】IL−2中での培養、およびリンパ芽球様細胞系の細胞表面分子に対する抗体の存在下でのリンパ芽球様細胞系による刺激で起こる、アネルギー化T細胞の増殖を示す棒グラフである。
【図4】IL−2中での培養および人工抗原提示細胞による刺激で起こる、アネルギー化T細胞の増殖とアネルギー化T細胞によるIL−2産生とを示す棒グラフである。
【図5】一次刺激、IL−2内での増殖、二次刺激および人工抗原提示細胞もしくはリンパ芽球様細胞系による再チャレンジで起こる、T細胞の増殖とIL−2産生を示す一連の棒グラフである。
【図6】TC−1細胞、アネルギー化TC−1細胞、およびIL−2内で培養された後のアネルギー化TC−1細胞でのCD2エピトープ類すなわちT11.1、T11.2およびT11.3の発現を示す一連のグラフである。
【図7】抗CD2抗体(T11.1、T11.2またはT11.3)で免疫沈澱させ次いでJAKキナーゼ特異的抗血清(R80)(左側パネル)またはJAK−3キナーゼ特異的抗血清(右側パネル)で免疫ブロットさせたT細胞タンパク質の免疫ブロットフィルターの写真であり、T11.3発現型のCD2とJAK−3キナーゼの会合を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD2表面受容体を介するT細胞の刺激を阻害する物質とT細胞を接触させることを特徴とする抗原に対するT細胞の不応答性を維持する方法。
【請求項2】
CD2表面受容体を介するT細胞刺激を阻害する物質がCD2表面受容体とCD2リガンドの相互作用をブロックするものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
CD2リガンドがLFA−3である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
CD2表面受容体とCD2リガンドとの相互作用をブロックする物質が抗CD2抗体および抗CD2リガンド抗体からなる群から選ばれる請求項2に記載の方法。
【請求項5】
CD2表面受容体とCD2リガンドとの相互作用をブロックする物質が可溶性のCD2蛋白および可溶性のCD2リガンド蛋白からなる群から選ばれる請求項2に記載の方法。
【請求項6】
CD2表面受容体を介するT細胞の活性化を阻害する物質が細胞内で作用し、CD2表面受容体を介してT細胞中に誘発される細胞内シグナルを阻害するものである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
物質が細胞内で作用し、チロシンキナーゼ、JAK−3の活性を阻害するものである請求項6の方法。
【請求項8】
CD2表面受容体を介するT細胞活性を阻害する物質を対象に投与することを特徴とする対象の抗原に対するT細胞の不応答性を維持する方法。
【請求項9】
CD2表面受容体を介するT細胞刺激を阻害する物質がCD2表面受容体とCD2リガンドとの相互作用をブロックするものである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
CD2リガンドがLFA−3である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
CD2表面受容体とCD2リガンドとの相互作用をブロックする物質が抗CD2抗体および抗CD2リガンド抗体からなる群から選ばれる請求項9に記載の方法。
【請求項12】
CD2表面受容体とCD2リガンドとの相互作用をブロックする物質が可溶性のCD2蛋白および可溶性のCD2リガンド蛋白からなる群から選ばれる請求項9に記載の方法。
【請求項13】
CD2表面受容体を介するT細胞刺激を阻害するCD2表面受容体を介してT細胞中に誘発される細胞内シグナルを阻害するものである請求項8に記載の方法。
【請求項14】
物質が細胞内で作用し、チロシンキナーゼ、JAK−3の活性を阻害するものである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
さらにT細胞のCD2表面受容体上のT11.3ネオ−エピトープの露出を阻害する第二物質を対象に投与することを含む請求項8に記載の方法。
【請求項16】
第二物質がT細胞成長因子の産生または機能を阻害する請求項15に記載の方法。
【請求項17】
T細胞成長因子がIL−2である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
対象がアロジェネイック(同種異系)またはゼノジェネイック(異種)な細胞のレシピエントであり、抗原が同種異系または異種細胞表面上に存在している請求項8に記載の方法。
【請求項19】
対象が、自己免疫疾患または不適切であるかまたは異常な免疫応答が関与している障害に罹患している請求項8に記載の方法。
【請求項20】
CD28またはCTLA4表面受容体を介するT細胞刺激を阻害する第一物質と、CD2表面受容体を介するT細胞刺激を阻害する第二物質を対象に投与することを特徴とする、対象の抗原に対するT細胞の不応答性を誘導し、維持する方法。
【請求項21】
第一物質がCD28またはCTLA4表面受容体とCD28またはCTLA4リガンドとの相互作用をブロックするものである請求項20に記載の方法。
【請求項22】
CD28またはCTLA4リガンドがB7−1およびB7−2からなる群から選ばれる請求項21に記載の方法。
【請求項23】
第一物質が抗CD28抗体、抗CTLA4抗体、抗B7−1抗体、および抗B7−2抗体からなる群から選ばれる請求項21に記載の方法。
【請求項24】
第一物質が可溶性のCD28蛋白、可溶性のCTLA4蛋白、可溶性のB7−1蛋白、および可溶性のB7−2蛋白からなる群から選ばれる請求項21に記載の方法。
【請求項25】
第一物質がCTLA4Ig融合蛋白である請求項24に記載の方法。
【請求項26】
CD2表面受容体を介するT細胞刺激を阻害する第二物質がCD2表面受容体とCD2リガンドとの相互作用をブロックするものである請求項20に記載の方法。
【請求項27】
CD2リガンドがLFA−3である請求項26に記載の方法。
【請求項28】
第二物質が抗CD2抗体および抗CD2リガンド抗体からなる群から選ばれる請求項26に記載の方法。
【請求項29】
第二物質が可溶性のCD2蛋白および可溶性のCD2リガンド蛋白からなる群から選ばれる請求項26に記載の方法。
【請求項30】
第二物質がCD2表面受容体を介してT細胞中に誘発される細胞内シグナルを阻害するものである請求項20に記載の方法。
【請求項31】
第二物質が細胞内で作用し、チロシンキナーゼ、JAK−3の活性を阻害するものである請求項30の方法。
【請求項32】
さらに、T細胞のCD2表面受容体上のT11.3ネオ−エピトープの露出を阻害する第三物質を対象に投与することを含む請求項20に記載の方法。
【請求項33】
第三物質がT細胞成長因子の産生または機能を阻害するものである請求項32に記載の方法。
【請求項34】
T細胞成長因子がIL−2である請求項33に記載の方法。
【請求項35】
抗原が同種異系または異種細胞表面上に存在しており、対象が同種または異種細胞のレシピエントである請求項20に記載の方法。
【請求項36】
抗原が自己抗原である請求項20に記載の方法。
【請求項37】
抗原存在下で、CD2表面受容体を介してT細胞を刺激する物質とT細胞を接触させることを特徴とする抗原に対して不応答性のT細胞の抗原に対する不応答性を回復させる方法。
【請求項38】
CD2表面受容体を介してT細胞を刺激する物質がCD2リガンドである請求項37に記載の方法。
【請求項39】
CD2リガンドが抗原を発現している細胞表面上に存在する請求項38に記載の方法。
【請求項40】
CD2リガンドがLFA−3である請求項39に記載の方法。
【請求項41】
細胞表面上にCD2リガンドを発現するのに適した形のCD2リガンドをコードする核酸分子を細胞中に導入することによって、CD2リガンドを細胞表面上に発現させる請求項39に記載の方法。
【請求項42】
細胞が腫瘍細胞である請求項41に記載の方法。
【請求項43】
CD2表面受容体を介してT細胞を刺激する物質が少なくとも1つの抗CD2抗体である請求項37に記載の方法。
【請求項44】
少なくとも1つの抗CD2抗体がCD2表面受容体上のT11.3ネオ−エピトープに結合する請求項43に記載の方法。
【請求項45】
さらに、T細胞のCD2表面受容体上のT11.3ネオ−エピトープの露出を刺激する第二物質とT細胞を接触させることを特徴とする請求項37に記載の方法。
【請求項46】
第二物質がIL−2またはIL−4である請求項45に記載の方法。
【請求項47】
T細胞が第一物質と接触する前にIL−2またはIL−4と接触する請求項46に記載の方法。
【請求項48】
CD2表面受容体を介してT細胞を刺激する第一物質、およびCD28またはCTLA4表面受容体を介してT細胞を刺激する第二物質を、抗原の存在下でT細胞と接触させることを特徴とする、抗原に対して不応答性のT細胞の抗原に対する応答を回復させる方法。
【請求項49】
CD2表面受容体を介してT細胞を刺激する第一物質がCD2リガンドである請求項48に記載の方法。
【請求項50】
CD2リガンドが抗原を発現している細胞表面上にある請求項49に記載の方法。
【請求項51】
CD2リガンドがLFA−3である請求項50に記載の方法。
【請求項52】
細胞表面上にCD2リガンドを発現するのに適した形のCD2リガンドをコードする核酸分子を細胞中に導入することによって、CD2リガンドを細胞表面上に発現させる請求項50に記載の方法。
【請求項53】
細胞が腫瘍細胞である請求項52に記載の方法。
【請求項54】
CD2表面受容体を介してT細胞を刺激する第一物質が少なくとも1つの抗CD2抗体である請求項48に記載の方法。
【請求項55】
少なくとも1つの抗CD2抗体がCD2表面受容体上のT11.3ネオ−エピトープと結合する請求項54に記載の方法。
【請求項56】
CD28またはCTLA4表面受容体を介してT細胞を刺激する第二物質がCD28またはCTLA4リガンドである請求項48に記載の方法。
【請求項57】
CD28またはCTLA4リガンドが抗原を発現している細胞表面上に存在する請求項56に記載の方法。
【請求項58】
CD28またはCTLA4リガンドがB7−1またはB7−2である請求項56に記載の方法。
【請求項59】
細胞表面上にCD28またはCTLA4リガンドを発現するのに適した形のCD28またはCTLA4リガンドをコードする核酸分子を細胞中に導入することによって、CD28またはCTLA4リガンドを細胞表面上に発現させる請求項57に記載の方法。
【請求項60】
細胞が腫瘍細胞である請求項59に記載の方法。
【請求項61】
さらに、CD2表面受容体を介する刺激に対してT細胞をプライムする第三物質とT細胞を接触させることを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項62】
CD2表面受容体を介する刺激に対してT細胞をプライムする第三物質がT細胞のCD2表面受容体上のT11.3ネオ−エピトープの露出を刺激するものである請求項61に記載の方法。
【請求項63】
第三物質がIL−2またはIL−4である請求項62に記載の方法。
【請求項64】
T細胞を、第一物質と接触させる前に、IL−2またはIL−4と接触させる請求項63に記載の方法。
【請求項65】
CD2リガンドとCD28またはCTLA4リガンドを発現するように腫瘍細胞を修飾することを特徴とする腫瘍を有する対象のT細胞の腫瘍細胞に対する応答を刺激する方法。
【請求項66】
腫瘍細胞表面上にCD2リガンドおよびCD28もしくはCTLA4リガンドを発現するのに適した形のCD2リガンドおよびCD28もしくはCTLA4リガンドをコードする少なくとも1つの核酸分子を腫瘍細胞中に導入することによって腫瘍細胞を修飾し、CD2リガンドおよびCD28あるいはCTLA4リガンドを発現させる請求項65に記載の方法。
【請求項67】
腫瘍細胞を対象から得、ex vivoで修飾して修飾された腫瘍細胞を形成し、さらに修飾された腫瘍細胞を対象に投与することを含む請求項66に記載の方法。
【請求項68】
腫瘍細胞の第一試料を、CD2リガンドを発現させるように修飾して、修飾された腫瘍細胞の第一試料を形成させ、腫瘍細胞の第二試料を、CD28またはCTLA4リガンドを発現させるように修飾して、修飾された腫瘍細胞の第二試料を形成させる請求項66に記載の方法。
【請求項69】
修飾された腫瘍細胞の第一および第二試料を同時に対象に投与する請求項68に記載の方法。
【請求項70】
修飾された腫瘍細胞の第一および第二試料を同時に対象に投与する請求項66に記載の方法。
【請求項71】
さらに、T細胞のCD2表面受容体上のT11.3ネオ−エピトープの露出を刺激する物質と対象のT細胞を接触させることを含む請求項65に記載の方法。
【請求項72】
該物質がIL−2またはIL−4である請求項71に記載の方法。
【請求項73】
T細胞を対象から得、ex vivoでIL−2またはIL−4と接触させ、対象にT細胞を再投与することを含む請求項72に記載の方法。
【請求項74】
修飾前にはCD2リガンドを発現しておらず、修飾されてCD2リガンドを発現する腫瘍細胞。
【請求項75】
CD2リガンドがLFA−3である請求項74に記載の腫瘍細胞。
【請求項76】
修飾前にはCD2リガンドまたは少なくとも1つのCD28またはCTLA4リガンドを発現しておらず、修飾されてCD2リガンドまたは少なくとも1つのCD28またはCTLA4リガンドを発現する腫瘍細胞。
【請求項77】
CD2リガンドがLFA−3であり、少なくとも1つのCD28またはCTLA4リガンドがB7−1またはB7−2である請求項76に記載の方法。
【請求項78】
CD2表面受容体を介するT細胞の刺激を阻害する物質を対象に投与することを含む、対象の同種または異種細胞に対するT細胞の不応答性を維持する方法。
【請求項79】
CD2表面受容体を介するT細胞刺激を阻害する物質がCD2表面受容体とCD2リガンドの相互作用をブロックするものである請求項78に記載の方法。
【請求項80】
CD2リガンドがLFA−3である請求項79に記載の方法。
【請求項81】
CD2表面受容体とCD2リガンドとの相互作用をブロックする物質が抗CD2抗体および抗CD2リガンド抗体からなる群から選ばれる請求項79に記載の方法。
【請求項82】
CD2表面受容体とCD2リガンドの相互作用をブロックする物質が可溶性のCD2蛋白および可溶性のCD2リガンド蛋白からなる群から選ばれる請求項79に記載の方法。
【請求項83】
CD2表面受容体を介するT細胞活性化を阻害する物質が細胞内で作用することにより、CD2表面受容体を介してT細胞中に誘発される細胞内シグナルを阻害する請求項78に記載の方法。
【請求項84】
対象が骨髄移植のレシピエントである請求項78に記載の方法。
【請求項85】
さらに、レシピエント中に移植される前に、CD2表面受容体を介するT細胞の刺激を阻害する物質と骨髄細胞を接触させることを特徴とする請求項84に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−126481(P2007−126481A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28947(P2007−28947)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【分割の表示】特願平7−523630の分割
【原出願日】平成7年3月8日(1995.3.8)
【出願人】(591183991)ダナ−ファーバー キャンサー インスティテュート,インコーポレイテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】DANA−FARBER CANCER INSTITUTE, INCORPORATED
【Fターム(参考)】