説明

T細胞受容体機能調節剤及びそのスクリーニング方法

【課題】本発明は、T細胞の活性化及び発生分化を調節するメカニズムを解析し、それを担う因子を同定すること、及び獲得免疫系における新たな機序の医薬やそのスクリーニング方法等を提供することを課題とする。
【解決手段】MEKK3の発現又は機能を調節する物質を有効成分として含有してなる、T細胞受容体機能調節剤や獲得免疫系の異常により引き起こされる疾患の予防・治療剤等、MEKK3の発現又は機能を調節し得るか否かを評価することを含むT細胞受容体機能を調節し得る物質のスクリーニング方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はT細胞受容体機能調節剤、T細胞受容体機能を調節し得る物質のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)(例えば、ERK、JNK及びp38)は、哺乳動物において、ユビキタスに発現し、そして広範で多様な機能(免疫調節及び免疫活性化が挙げられる)を調節する(非特許文献1、2)。MAPK活性の異常は、種々の免疫媒介性病理学的状態(例えば、慢性関節リウマチ及び炎症性腸疾患)と関連していることが知られている(非特許文献3、4)。MAPKは、MAPKキナーゼ(MAPKK)、及びMAPKKキナーゼ(MAP3K)を介した、保存されたカスケードにより、活性化される。MAP3Kファミリーの多くのメンバー(MEKK1、MEKK2、MEKK3、MEKK4、ASK1、TAK1及びTpl2が挙げられる)が同定されている(非特許文献5)。しかし、特定のシグナル伝達経路及び生理学的プロセスにおけるこれらの具体的な機能は、十分には解明されていない。
【0003】
一部のMAP3Kは、自然免疫細胞のToll様レセプター(TLR)刺激に対する応答及び炎症性サイトカインに対する応答を、IκBキナーゼ(IKK)活性及びJNK活性を制御することにより、調節することが知られている(非特許文献6、7)。例えば、TAK1は、TNFα、IL−1及びLPS刺激後に、IKK及びJNKを活性化することが報告されている(非特許文献8〜10)。しかし、NF−κB及びJNKのTLR8による活性化は、TAK1非依存性であり(非特許文献11)、そしてIL−1によるIKK活性化は、TAK1欠損細胞では完全には阻害されなかった(非特許文献9、10)。このことは、IKK及びJNK活性化の、TAK1非依存性のメカニズムの存在を示唆している。これは、他のMAP3K(例えば、MEKK2又はMEKK3)により媒介され得る。実際、MEKK3欠損MEF(mouse embryo fibroblast)細胞では、TNF−α、IL−1及びLPS刺激によるNF−κB及びJNKの活性化に遅延がある(非特許文献12、13)。さらに、MEKK2ノックダウンMEFは、TNF−α及びIL−1刺激後にNF−κB活性化の遅延相(late phase)を誘導できなかった(非特許文献14)。
炎症性応答及び自然免疫応答におけるMEKK2及びMEKK3の、確証されたこのような役割とは対照的に、獲得免疫におけるこれらの役割は、それほど明らかではなく、そして幾分議論の的となっている。
【0004】
T細胞受容体(TCR)は、獲得免疫応答の最も中枢に位置する。TCRによる抗原認識は、複数の細胞内シグナル伝達経路(カスケード)を誘導する。そのうちの一つは、IKKを介して転写因子NF−κBを活性化する。転写因子NF−κBの活性化は、獲得免疫応答におけるT細胞の増殖や分化に重要である。プロテインキナーゼCθ(PKCθ)、足場蛋白であるCARMA1(CARD11とも称される)、CARD(caspase recruitment domain)をもつ蛋白Bcl10、およびパラカスパーゼ(カスパーゼ関連プロテアーゼ)であるMALT1が関与しているシグナル伝達経路は、TCRとIKK複合体を結びつける必須の中間経路であることが明らかにされつつある(非特許文献15)。しかし、シグナル伝達経路の活性化を開始するTCR近傍の現象はほとんど明らかにされていない。このシグナル伝達経路の態様をさらに解明することにより、免疫調節薬開発等のための新たなターゲット分子を提供することが切望されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dong, C., Davis, R. J., and Flavell, R. A. (2002). MAP kinases in the immune response. Annu. Rev. Immunol. 20, 55-72.
【非特許文献2】Raman, M., Chen, W., and Cobb, M. H. (2007). Differential regulation and properties of MAPKs. Oncogene 26, 3100-3112.
【非特許文献3】Hollenbach, E., Neumann, M., Vieth, M., Roessner, A., Malfertheiner, P., and Naumann, M. (2004). Inhibition of p38 MAP kinase- and RICK/NF-kB-signaling suppresses inflammatory bowel disease. FASEB J. 18, 1550-1552.
【非特許文献4】Johnson, G. L., and Lapadat, R. (2002). Mitogen-activated protein kinase pathways mediated by ERK, JNK, and p38 protein kinases. Science 298, 1911-1912.
【非特許文献5】Cuevas, B. D., Abell, A. N., and Johnson, G. L. (2007). Role of mitogen-activated protein kinase kinase kinases in signal integration. Oncogene 26, 3159-3171.
【非特許文献6】Hacker, H., and Karin, M. (2006). Regulation and function of IKK and IKK-related kinases. Sci. STKE 2006, re13.
【非特許文献7】Schulze-Luehrmann, J., and Ghosh, S. (2006). Antigen-receptor signaling to nuclear factor k B. Immunity 25, 701-715.
【非特許文献8】Adhikari, A., Xu, M., and Chen, Z. J. (2007). Ubiquitin-mediated activation of TAK1 and IKK. Oncogene 26, 3214-3226.
【非特許文献9】Sato, S., Sanjo, H., Takeda, K., Ninomiya-Tsuji, J., Yamamoto, M., Kawai, T., Matsumoto, K., Takeuchi, O., and Akira, S. (2005). Essential function for the kinase TAK1 in innate and adaptive immune responses. Nat. Immunol. 6, 1087-1095.
【非特許文献10】Shim, J. H., Xiao, C., Paschal, A. E., Bailey, S. T., Rao, P., Hayden, M. S., Lee, K. Y., Bussey, C., Steckel, M., Tanaka, N., et al. (2005). TAK1, but not TAB1 or TAB2, plays an essential role in multiple signaling pathways in vivo. Genes Dev. 19, 2668-2681.
【非特許文献11】Qin, J., Yao, J., Cui, G., Xiao, H., Kim, T. W., Fraczek, J., Wightman, P., Sato, S., Akira, S., Puel, A., et al. (2006). TLR8-mediated NF-kB and JNK activation are TAK1-independent and MEKK3-dependent. J. Biol. Chem. 281, 21013-21021.
【非特許文献12】Huang, Q., Yang, J., Lin, Y., Walker, C., Cheng, J., Liu, Z. G., and Su, B. (2004). Differential regulation of interleukin 1 receptor and Toll-like receptor signaling by MEKK3. Nat. Immunol. 5, 98-103.
【非特許文献13】Yang, J., Boerm, M., McCarty, M., Bucana, C., Fidler, I. J., Zhuang, Y., and Su, B. (2000). Mekk3 is essential for early embryonic cardiovascular development. Nat. Genet. 24, 309-313.
【非特許文献14】Schmidt, C., Peng, B., Li, Z., Sclabas, G. M., Fujioka, S., Niu, J., Schmidt-Supprian, M., Evans, D. B., Abbruzzese, J. L., and Chiao, P. J. (2003). Mechanisms of proinflammatory cytokine-induced biphasic NF-kB activation. Mol. Cell 12, 1287-1300.
【非特許文献15】Thome M, (2004) CARMA1, BCL-10 and MALT1 in lymphocyte development and activation. Nature reviews. Immunology 348-359.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、獲得免疫系において、T細胞の活性化及び発生分化を調節するメカニズムをさらに解析し、このメカニズムを担う因子を同定すること、並びに得られた知見に基づいて新たな機序の医薬やそのスクリーニング方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、MEKK3のコンディショナルノックアウトマウスにおいてT細胞の発生分化や機能が著しく障害され、獲得免疫応答が不全であることを見出した。さらにMEKK3が、CARMA1、Bcl10およびMALT1からなるマクロ分子複合体、特にCARMA1と効率的に相互作用すること等から、MEKK3がT細胞受容体媒介シグナル伝達に欠くことができない分子であり、T細胞の発生分化及び機能を調節し得ること、免疫調節薬開発等のための新たなターゲット分子として有用であること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の発明等を提供する。
[1]MEKK3の発現又は機能を調節する物質を有効成分として含有してなる、T細胞受容体機能調節剤。
[2]MEKK3の発現又は機能を調節する物質が、MEKK3の発現又は機能を促進する物質である、上記[1]記載の剤。
[3]MEKK3の発現又は機能を調節する物質が、MEKK3の発現又は機能を抑制する物質である、上記[1]記載の剤。
[4]医薬である、上記[1]記載の剤。
[5]獲得免疫の異常により引き起こされる疾患の予防・治療剤である、上記[4]記載の剤。
[6]T細胞受容体機能の低下に伴う疾患の予防・治療剤である、上記[4]記載の剤。
[7]T細胞受容体機能の低下に伴う疾患が、免疫不全症候群(複合免疫不全症、もしくはこれに伴う重篤な感染症など)からなる群より選択される、上記[6]記載の剤。
[8]T細胞受容体機能の亢進に伴う疾患の予防・治療剤である、上記[4]記載の剤。
[9]T細胞受容体機能の亢進に伴う疾患が、T細胞リンパ腫、T細胞白血病、自己免疫疾患(慢性関節リウマチ・多発性硬化症・多発性筋炎・重症筋無力症、ギランバレー症候群、全身性エリテマトーデス等)からなる群より選択される、上記[8]記載の剤。
[10]被検物質がMEKK3の発現又は機能を調節し得るか否かを評価することを含む、T細胞受容体機能を調節し得る物質のスクリーニング方法。
[11]以下の工程を含む、上記[10]記載の方法:
(a)被検物質がMEKK3の発現又は機能を促進し得るか否かを評価する工程;
(b)MEKK3の発現又は機能を促進し得る物質を、T細胞受容体機能を亢進し得る物質として選択する工程。
[12]以下の工程を含む、上記[10]記載の方法:
(a)被検物質がMEKK3の発現又は機能を抑制し得るか否かを評価する工程;
(b)MEKK3の発現又は機能を抑制し得る物質を、T細胞受容体機能を抑制し得る物質として選択する工程。
[13]生体試料におけるMEKK3の発現量又は機能を測定することを含む、T細胞受容体機能の異常に伴う疾患の発症リスクの判定方法。
[14]MEKK3の発現量又は機能の測定用試薬を含む、T細胞受容体機能の異常に伴う疾患の発症リスクの診断薬。
[15]MEKK3とCARMA1との相互作用を調節する物質を有効成分として含有してなる、T細胞受容体機能調節剤。
[16]MEKK3とCARMA1との相互作用を調節し得るか否かを評価することを含む、T細胞受容体機能を調節し得る物質のスクリーニング方法。
[17]生体試料における、MEKK3とCARMA1との相互作用を測定することを含む、T細胞受容体機能の異常に伴う疾患の発症リスクの判定方法。
[18]被検物質がMEKK3遺伝子の機能的欠損を有するT細胞におけるT細胞受容体機能を調節し得るか否かを評価することを含む、T細胞受容体機能を調節し得る物質のスクリーニング方法。
[19]MEKK3のコンディショナルノックアウト非ヒト動物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のT細胞受容体機能調節剤(以下、TCR機能調節剤とも称する)は、MEKK3の発現又は機能を調節し、新たなメカニズムの免疫疾患予防・治療剤等として有用である。また、本発明のスクリーニング方法を用いれば、新たなメカニズムでT細胞受容体の機能を調節し得る物質を得ることができるので、免疫調節薬等の医薬品の開発や免疫学の研究等に有用である。
本発明の動物は、T細胞受容体の機能の解析、T細胞受容体機能の異常により引き起こされる各種疾患の予防・治療剤の開発等に有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、MEKK3のT細胞特異的遺伝子ターゲティングを説明する模式図である。(A)コンディショナルターゲティングベクターの構築。MEKK3遺伝子のエキソン11及び12を含むゲノム断片を欠失させた。エキソン11は、キナーゼ活性に必要不可欠なATP結合部位(K391)をコードする。1つのloxP部位を、イントロン10の中に導入し、ネオマイシン耐性遺伝子カセットに隣接する2つのloxP部位をイントロン12の中に導入した。(B)MEKK3遺伝子型を、以下のプライマー対:P1−CTCCTGGGTCAAGGTGCCTTCGGCAGGGTCTACTTGTGCT(配列番号8)及びP2−AACTGGATCTCACACTCCAGAGCACTCACCTCCTAGAGA(配列番号9)(floxアレルに関して)、又はP3−TCAGAATGATCTAATGTTTGTGAGCAGCTT(配列番号10)及びP4−TCACTATGCTGACCAGCTGGCCTCACAGTGCACAGA(配列番号11)(Δ−アレルに関して)、を用いたPCRにより解析した。ゲノムDNAを、全胸腺細胞(Thy)、CD5ポジティブ脾細胞(Spl)、CD4ポジティブ(CD4)、又はCD8ポジティブ(CD8)脾細胞より単離した。(C)Lck−Cre/野生型(wt)マウス及びLck−Cre/MEKK3Flox/Flox(T−KO)マウスのCD4 SP胸腺細胞由来のMEKK3タンパク質のウエスタンブロット解析。
【図2】図2は、MEKK3が、正常なT細胞の発生分化に必要不可欠なことを示した図である。(A)Lck−Cre/野生型(wt)及びLck−Cre/MEKK3Flox/Flox(T−KO)の胸腺(Thy)、脾臓(Spl)、及び末梢血(PB)由来のリンパ球のフローサイトメトリーの結果。各ボックスの数は、集団の割合を示す。(B)胸腺細胞(Thy)又は脾細胞(Spl)の細胞数。Pは、細胞数の有意差を示す(n=8)。
【図3】図3は、T−KOマウス由来の末梢T細胞(MEKK3欠損を有する末梢T細胞)が活性化された表現型を有することを説明する図である。(A)Lck−Cre/野生型(wt)マウス及びLck−Cre/MEKK3Flox/Flox(T−KO)マウス由来の脾臓CD4T細胞(Spl CD4)でのCD44及びCD62L発現についてフローサイトメトリーを行なった結果。典型的な2つのデータを示す。各ボックスにおける数は、集団の割合を示す。(B)細胞を24時間、所定濃度の抗CD3 Ab又は抗CD3 Abと抗CD28 Abで刺激した後のCD4脾細胞のサイトカイン産生を測定した結果。有意差を、P値として示す(n=4)。(C)脾臓CD4T細胞上のCD25発現についてフローサイトメトリーを行なった結果。(D)PI染色後に、自発的細胞死を、フローサイトメトリーにより評価した。胸腺(Thy)、CD4脾細胞(Spl CD4)、又はCD8脾細胞(Spl CD8)由来の細胞を、所定時間、刺激することなく培養した。これらの実験では、有意差は観察されなかった(n=4)。(E)Con.A及びCon.A阻害剤であるα−メチル−D−マンノシドを用いて、活性化によって誘導される細胞死を測定した。精製したCD4脾臓T細胞を用いた。これらの実験では、有意差は観察されなかった(n=4)。
【図4】図4は、MEKK3がTCR媒介性の細胞応答に必要であることを説明する図である。(A及びB)TCR刺激により誘導される細胞増殖(A)及びサイトカイン産生(B)。Lck−Cre/野生型(wt)マウス及びLck−Cre/MEKK3Flox/Flox(T−KO)マウス由来のCD4 SP胸腺細胞を、所定濃度(μg/ml)の抗CD3 Abでコーティングしたプレート中で、2μg/mlの抗CD28 Abあり(CD3/CD28)又はなし(CD3)で、48時間培養した。IL−2又はIFN−γのレベルを、24時間培養した後の培養上清を用いる酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)により、決定した。データを、三連の培養物の平均±標準偏差として示す(n=3)。有意差を、P値として示す。(C)活性化マーカーとしてのCD25発現のフローサイトメトリー解析の結果。精製したCD4 SP胸腺細胞を、抗CD3 Ab(10μg/ml)プラス抗CD28 Ab(2μg/ml)で、処理しなかったか(−)又は48時間刺激し(+)、CD25に対するAbで染色した。
【図5】図5は、MEKK3が末梢T細胞におけるTCR媒介性の細胞応答に必要であることを説明する図である。(A及びB)Lck−Cre/野生型(wt)マウス及びLck−Cre/MEKK3Flox/Flox(T−KO)マウス由来の精製したCD4CD44CD62L脾臓T細胞の、細胞増殖(A)及びサイトカイン産生(B)について調べた結果を示す。細胞を、CD4、CD62L及びCD44の抗体を用いてそれぞれ染色した後に直接的に選別し、そして10μg/mlの抗CD3 Abコーティングプレート中で、2μg/mlの抗CD28 Abとともに(CD3/CD28)又は100ngのPMA及び2μg/mlの抗CD28 Abをプラスして(PMA/CD28)、48時間培養した。IL−2又はIFN−γのレベルを、24時間培養した上清を用いるELISAにより決定した。データを、三連の培養物の平均±標準偏差として示す(n=10)。有意差を、P値として示す。(C及びD)エフェクターT細胞を解析した結果。MEKK3Flox/Floxマウス由来の脾細胞を、Cre及びIRES−EGFP(Cre)又は単にIRES−EGFP(mock;偽感染)をコードするレトロウイルスを用いて、後述の(材料及び方法)に記載のようにしてトランスインフェクトした。細胞増殖(C)及びサイトカイン産生(D)を、それぞれ(A)及び(B)と同様に解析した。データは、2つの実験のうちの代表の三連の培養物からの結果である。(E)エフェクターT細胞のサイトカイン応答を調べた結果。細胞を、(C、D)と同様に調製した。刺激物質としてのサイトカイン(IL−2、IL−7)は、20ng/mlの濃度で用いた。
【図6】図6は、MEKK3が、TCR刺激により誘導される、NF−κB、JNK、及びp38の活性化(MAPK活性化)に必要であることを説明する図である。(A)MAPKのイムノブロット解析の結果。Lck−Cre/野生型(wt)マウス及びLck−Cre/MEKK3Flox/Flox(T−KO)マウス由来の精製したCD4 SP胸腺細胞を、5分間刺激した。(B)未刺激の(ナイーブな)CD4 SP胸腺細胞(野生型マウス由来、T−KOマウス由来)のNF−κB活性を、EMSAにより解析した結果。(C)TCR刺激に応答するIκBαリン酸化について調べた結果。
【図7】図7は、MEKK3が、TCR媒介シグナル伝達において、ポジティブにTAK1及びその後のNF−κB活性化を調節することを説明する図である。(A)インビトロMEKK3キナーゼアッセイの結果。細胞溶解物(2×10)を、所定の遺伝子型のCD4脾臓T細胞から調製した。リン酸化状態を、抗ホスホ−セリン及びスレオニン(P−ST)Abにより検出した。基質として、MKK6又はMEKK3それ自体を用いた。(B)MEKK3とCARMA1との誘導可能な相互作用を調べた結果。(A)における細胞溶解物と同一の細胞溶解物を、抗MEKK3 mAbにより免疫沈降し、抗CARMA1 Abにより検出した。(C)shRNAのMEKK3タンパク質発現に対する影響を調べた結果。MEKK3−ノックダウン(MEKK3−kd)及びコントロール(ctl−kd)について調べた。(D)MEKK3ノックダウン細胞におけるTCR誘導IκBαリン酸化及びIKK活性化について調べた結果。全細胞溶解物(WCL)中のIκBαリン酸化を、抗ホスホIκBαにより検出した。IKKキナーゼ活性に関して、IKKを免疫沈降し、そのキナーゼ活性を、基質としてのIKKβ Ab又はIκBα−GSTのリン酸化により評価し、それぞれ抗ホスホIKKβ Ab又は抗ホスホIκBα Abにより検出した。(E)MEKK3ノックダウンのCARMA1、Bcl10、及びTAK1の複合体の形成に対する影響を調べた結果。細胞溶解物(2×10)を抗CARMA1 Abにより免疫沈降し、抗CARMA1 Ab、抗MEKK3 mAb、抗TAK1 Ab、抗MALT1 mAb、及び抗Bcl10 mAbにより検出した。下側パネルは、全細胞溶解物(WCL)のブロット像である。(F)TAK1キナーゼアッセイの結果を示す。TCR刺激により誘導されるTAK1活性化を、基質としてのIKKβ−GST又はTAK1それ自体に対するインビトロリン酸化活性により決定し、抗ホスホIKKβ Ab又は抗ホスホ−セリン及びスレオニン(P−ST)Abにより検出した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。本明細書に記載されたものと同様又は同等の任意の方法及び材料は、本発明の実施又は試験において使用することができるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。本明細書で言及したすべての刊行物及び特許は、例えば、記載された発明に関連して使用されうる刊行物に記載されている、構築物及び方法論を記載及び開示する目的で、参照として本明細書に組み入れられる。
【0012】
(TCR機能調節剤)
本発明はMEKK3の発現又は機能を調節する物質を有効成分として含有してなる、TCR機能調節剤を提供する。
MEKK3の発現とは、MEKK3遺伝子から転写、翻訳を経て蛋白質が生成される過程を意味し、該蛋白質は、機能的な状態でその作用部位に局在する。
【0013】
MEKK3の機能とは、MEKK3(蛋白質)が有する生物学的機能(活性)をいい、例えば、MEKK3が有する蛋白質キナーゼ活性(セリン/スレオニンキナーゼ活性)や、T細胞受容体媒介シグナル伝達(TCR媒介シグナル伝達)に関与する他の分子(例えば、後述するが、アダプター分子であるCARMA1等)との相互作用、等をいう。「相互作用」とは分子同士の直接的な結合、又は他の分子を介する間接的な結合をいう。該結合は共有結合又は非共有結合であり得るが、非共有結合が好ましい。非共有結合としては、水素結合、静電結合、ファン・デル・ワールス力、疎水結合等が挙げられる。
【0014】
T細胞受容体機能(TCR機能)とは、T細胞受容体からの刺激を細胞内へ伝達し、T細胞の機能的変化を誘導し得る作用、或いはその誘導過程に存在する種々の反応を誘導し得る作用をいう。一連の誘導過程をシグナル伝達、あるいはシグナルカスケードとも称する。T細胞受容体からの刺激としては、抗原や抗原ミミック等による刺激が挙げられる。抗原(ペプチド、脂質等)は、通常MHC分子(MHCクラスI、MHCクラスII)上に提示され、抗原とMHC分子との複合体がT細胞受容体により認識される。また抗原ミミックとしては、T細胞受容体やT細胞受容体複合体を構成する分子(CD3ε鎖、CD3ζ鎖等)に対する抗体等が挙げられるが、これに限定されない。T細胞の機能的変化としては、T細胞の活性化(細胞増殖、サイトカイン(IL−2、IL−4、インターフェロンγ等)産生、細胞障害活性)、発生分化、アポトーシス、アナジー等が挙げられる。T細胞の機能的変化を誘導する過程の反応としては、T細胞受容体からのシグナル伝達に関与する分子の修飾(リン酸化、脱リン酸化、アセチル化、分解等)、分子間相互作用、細胞内局在の変化(核内移行、RAFTへの局在化、細胞内濃度変化等)、遺伝子発現の変化等が挙げられる。
【0015】
T細胞受容体からのシグナル伝達には、NF−ATの活性化へ至る経路と、NF−κBの活性化へ至る経路があり、活性化されたこれらの転写因子が標的遺伝子の発現をコントロールする。PKCθはCARMA−1/Bcl10/MALT1のマクロ分子複合体と協調して、NF−κBの活性化へ関与する(非特許文献15)。
【0016】
後述の実施例等で示されるように、TCR媒介シグナル伝達後にMEKK3がアダプター分子であるCARMA−1と相互作用し、そしてポジティブにキナーゼTAK1を調節し、IKKを活性化し、続いてNF−κBの活性化を引き起こす。
【0017】
本発明のTCR機能調節剤の一実施態様では、該調節剤に含められる、MEKK3の発現又は機能を調節する物質は、MEKK3の発現又は機能を促進する物質であり得る。
MEKK3の発現を促進する物質は、MEKK3遺伝子の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化及び蛋白質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。なお、本明細書で使用される場合、MEKK3の発現の促進としては、MEKK3自体の補充をも含むものとする。
【0018】
MEKK3の機能を促進する物質は、MEKK3に結合し、該蛋白質を修飾(リン酸化等)し、或いは該蛋白質の安定性を増加させること等により、上述のMEKK3の機能(例えば、他の分子との相互作用、蛋白質キナーゼ活性等)を促進する作用を有する化合物をいう。
【0019】
MEKK3の発現又は機能を促進する物質としては、例えば以下の(i)、(ii)等を挙げることが出来る。
(i)MEKK3;
(ii)MEKK3をコードする核酸。
【0020】
本発明の剤に含められる、MEKK3としては、任意の哺乳動物のMEKK3を用いることが出来る。
【0021】
哺乳動物としては、具体的にはヒトをはじめウシ、ウマ、イヌ、モルモット、マウス、ラット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、サル、オランウータン、チンパンジー等の霊長類を挙げることが出来る。
【0022】
哺乳動物のMEKK3としては野生型のMEKK3が好ましく、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるMEKK3等が挙げられる。MEKK3は、哺乳動物の種類等によってそのアミノ酸配列が異なる場合があり、本発明においてはそのようなMEKK3もまた本発明の剤に含めることができる。用いるMEKK3の由来は、本発明の剤や医薬、スクリーニング方法の対象となる動物の種類に応じて適宜選択される。
さらに、野生型MEKK3と実質的に同一のアミノ酸配列からなるMEKK3も本発明の範囲内である。「実質的に同一のアミノ酸配列を有するMEKK3」としては、野生型MEKK3のアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、野生型MEKK3と実質的に同質の活性を有するMEKK3等が挙げられる。ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)等の同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換は蛋白質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247: 1306-1310 (1990)を参照)。
【0023】
アミノ酸配列の相同性を決定するためのアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら, J. Mol. Biol., 48:444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0024】
「実質的に同質の活性」とは、例えば、MEKK3の機能(活性)が性質的に野生型MEKK3と同質であることを示す。したがって、その機能(活性)の程度や蛋白質の分子量等の量的要素は異なっていてもよい。ここにいうMEKK3の機能(活性)としては、上述の機能(他の分子との相互作用、蛋白質キナーゼ活性等)のほか、T細胞受容体を介したT細胞の機能的変化(上述)が挙げられる。該機能の測定は、例えば、MEKK3遺伝子の機能的欠損を有するT細胞にMEKK3を強制発現させ、該細胞のT細胞受容体からの刺激に対する応答(細胞増殖、サイトカイン産生等)の変化を測定することにより行うことができる。
【0025】
また、本発明において用いられるMEKK3は、野生型MEKK3のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、野生型MEKK3と実質的に同質の活性を有する蛋白質をも含む。該蛋白質としては、野生型MEKK3のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列に、更に1または2個以上(例えば1〜500個、好ましくは1〜250個程度、より好ましくは1〜100個程度)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列からなり、野生型MEKK3と実質的に同質の活性を有する蛋白質が挙げられる。付加されるアミノ酸配列は特に限定されないが、例えば蛋白質の検出や精製等を容易にならしめるためのタグや、蛋白質の細胞内への導入を容易にならしめるためのProtein Transduction Domain(PTD)等のアミノ酸配列を挙げることが出来る。より具体的には、タグとしては、Flagタグ、ヒスチジンタグ、c−Mycタグ、HAタグ、AU1タグ、GSTタグ、MBPタグ、蛍光蛋白質タグ(例えばGFP、YFP、RFP、CFP、BFP等)、イムノグロブリンFcタグ等を挙げることが出来る。また、PTDとしては、ANTENNAPEDIA、HIV/TAT、HSV/VP−22等の細胞通過ドメイン、7〜11個のポリアルギニン等を挙げることが出来る。アミノ酸が付加される位置は、当該蛋白質の活性を損なわない限り特に限定されないが、好ましくは、野生型MEKK3のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列の末端(N末端又はC末端)である。
【0026】
本発明で用いられるMEKK3は必要に応じて修飾されていてもよい。該修飾としては、リン酸化(セリン残基、スレオニン残基、チロシン残基等におけるリン酸化)、アセチル化、糖鎖の付加(Nグリコシル化、Oグリコシル化)等を挙げることが出来る。
【0027】
MEKK3は所望により自体公知の方法によって塩として用いることができる。塩としては、生理学的に許容される酸(例:無機酸、有機酸)や塩基(例:アルカリ金属塩)等との塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩等が挙げられる。
【0028】
MEKK3は、該MEKK3を発現する細胞から回収され得る蛋白質、又は組換え蛋白質であり得る。MEKK3は、自体公知の方法により調製でき、例えば、a)天然のMEKK3発現細胞(例、マクロファージ、樹状細胞、線維芽細胞、T細胞、B細胞等)からMEKK3を回収してもよく、b)宿主細胞(例、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞)にMEKK3発現ベクター(後述)を導入することにより形質転換体を作製し、該形質転換体により産生されるMEKK3を回収してもよく、c)ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセート等を用いる無細胞系によりMEKK3を合成してもよい。MEKK3は、塩析や溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、及びSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法等の主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィー等の荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィー、MEKK3抗体の使用等の特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィー等の疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法等の等電点の差を利用する方法;これらを組合せた方法等により適宜精製される。
【0029】
MEKK3は、公知のペプチド合成法に従って製造することもできる。ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。MEKK3を構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とするポリペプチド(蛋白質)を製造することができる。
【0030】
MEKK3発現ベクターを導入して得られる形質転換体よりMEKK3を産生・回収する方法としては、例えば以下のようにして実施される。
MEKK3発現ベクターはMEKK3をコードする核酸を含有する。MEKK3をコードする核酸としては、MEKK3をコードするcDNA、mRNA、染色体DNA等が挙げられ、より具体的には、例えば配列番号1で表されるヌクレオチド配列を有する核酸等が挙げられる。MEKK3をコードする核酸は、哺乳動物の種類等によってその配列が異なる場合があり、本発明においてはそのような核酸もまた用いることができる。用いるMEKK3をコードする核酸の由来は、取得を所望するMEKK3の種類に応じて適宜選択される。該核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNA又はDNA:RNAのハイブリッドでもよい。MEKK3をコードする核酸は、該核酸の一部分を有する合成プライマーと、該核酸を有する染色体DNA、mRNA、cDNA等を含む鋳型を用い、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)又はReverse Transcriptase-PCR(以下、「RT−PCR法」と略称する)により増幅することにより得ることが出来る。
【0031】
MEKK3をコードする核酸を含有する発現ベクターは、クローン化された該核酸を、適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に機能的に連結することにより製造することができる。発現ベクターとしては、用いる宿主に応じて適切なベクター(プラスミドベクター、ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、アデノウイルスベクター等)を選択することが出来る。また、プロモーターも、用いる宿主に対応して、適切なものを選択することが出来る。
【0032】
宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌(エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等)、バチルス属菌(バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)等)、酵母(サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等)、昆虫細胞(夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)等)、昆虫(カイコの幼虫等)、哺乳動物細胞(サル細胞(COS−7等)、チャイニーズハムスター細胞(CHO細胞等)等)等が用いられる。
【0033】
MEKK3をコードする核酸を含有する発現ベクターを、自体公知の方法に従って宿主へ導入することにより、MEKK3を発現可能な形質転換体を製造することが出来る。
【0034】
形質転換体の培養は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができ、形質転換体の細胞内又は細胞外にMEKK3を生成させることができる。更に、前記形質転換体を培養して得られる培養物から、MEKK3を自体公知の方法に従って分離精製することができる。
【0035】
MEKK3の発現又は機能を促進する物質としてMEKK3をコードする核酸を用いる場合、該核酸としては上述と同様のものを用いることが出来る。
【0036】
MEKK3をコードする核酸は、適切な発現ベクターに含まれた態様で用いられることが好ましい。即ち、該核酸は適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に機能的に連結され得る。
【0037】
また、T細胞受容体機能を効果的に調節するため、該発現ベクターは適用対象である哺乳動物の細胞(T細胞等)内で機能可能なものが用いられる。該発現ベクターとしては、プラスミドベクター、ウイルスベクター等が挙げられるが、ヒト等の哺乳動物のT細胞への適用に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、エプスタイン・バー・ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0038】
使用されるプロモーターとしては、適用対象である哺乳動物の細胞(T細胞等)内でプロモーター活性を発揮し得る限り特に限定されず、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター;β−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター;Lckプロモーター、CD2プロモーター等のT細胞特異的プロモーター等が挙げられる。
【0039】
該発現ベクターは、好ましくはMEKK3をコードする領域の下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子、蛍光蛋白質をコードする遺伝子等)をさらに含有することもできる。
【0040】
本発明のTCR機能調節剤の一実施態様では、該調節剤に含められる、MEKK3の発現又は機能を調節する物質は、MEKK3の発現又は機能を抑制する物質であり得る。
MEKK3の発現を抑制する物質は、MEKK3遺伝子の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化及び蛋白質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。
【0041】
MEKK3の機能を抑制する物質は、MEKK3に結合したり、該蛋白質を修飾したり、或いは該蛋白質の安定性を低下させたりすること等により、上述のMEKK3の機能(例えば、他の分子との相互作用、蛋白質キナーゼ活性等)を抑制する作用を有する化合物をいう。
【0042】
MEKK3の発現又は機能を抑制する物質としては、例えば以下の(i)、(ii)等を挙げることが出来る。
(i)MEKK3をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又はその一部を有する核酸;
(ii)MEKK3を特異的に認識する抗体、又はMEKK3のドミナントネガティブ変異体、或いはこれらをコードする核酸。
【0043】
目的核酸の標的領域と相補的なヌクレオチド配列を有する核酸、即ち、目的核酸とハイブリダイズすることができる核酸は、該目的核酸に対して「アンチセンス」であるということができる。ここで「相補的である」とは、ヌクレオチド配列間で約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、更に好ましくは約95%以上、最も好ましくは100%の相補性を有することをいう。
【0044】
MEKK3をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又はその一部を有する核酸(以下、「アンチセンスMEKK3」ともいう)は、クローン化された、あるいは決定されたMEKK3をコードするヌクレオチド配列情報に基づき設計し、合成しうる。そうした核酸はMEKK3遺伝子の複製または発現を阻害することができる。即ち、アンチセンスMEKK3は、MEKK3をコードする遺伝子から転写されるRNAとハイブリダイズすることができ、mRNAの合成(プロセッシング)または機能(蛋白質への翻訳)を阻害することができる。
【0045】
アンチセンスMEKK3の標的領域は、アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、結果としてMEKK3への翻訳が阻害されるものであればその長さに特に制限はなく、該蛋白質をコードするmRNAまたは初期転写産物の全配列であっても部分配列であってもよく、短いもので約15塩基程度、長いものでmRNAまたは初期転写産物の全配列が挙げられる。合成の容易さや抗原性の問題を考慮すれば、約15〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが好ましいがそれに限定されない。具体的には、例えば、MEKK3をコードする核酸(例えばmRNA又は初期転写産物)の5’端ヘアピンループ、5’端6−ベースペア・リピート、5’端非翻訳領域、翻訳開始コドン、蛋白質コード領域、翻訳終止コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域、および3’端ヘアピンループが標的領域として選択されうるが、MEKK3をコードする遺伝子内の如何なる領域も標的として選択しうる。例えば、MEKK3遺伝子のイントロン部分を標的領域とすることもできる。
さらに、アンチセンスMEKK3は、MEKK3をコードするmRNAもしくは初期転写産物とハイブリダイズしてポリペプチドへの翻訳を阻害するだけでなく、MEKK3をコードする二本鎖DNAと結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、RNAの転写を阻害し得るものであってもよい。
【0046】
アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。また、天然型のアンチセンス核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、アンチセンス核酸は、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’−O−メチル型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成もできる。アンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性及び細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用する等の剤形の工夫によっても克服できる。
【0047】
MEKK3をコードするmRNAもしくは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得るリボザイムもまた、アンチセンスMEKK3に包含され得る。「リボザイム」とは核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位のヌクレオチド配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本明細書では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
【0048】
MEKK3をコードするmRNAもしくは初期転写産物のコード領域内の部分配列(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相補的なヌクレオチド配列を有する二本鎖オリゴRNA(siRNA)もまた、アンチセンスMEKK3に包含され得る。短い二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAの一方の鎖に相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、この現象が哺乳動物細胞でも起こることが確認されて以来[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として広く利用されている。siRNAの大きさは、RNAiを誘導し得る限り特に限定されないが、例えば、15bp以上、好ましくは20bp以上であり得る。RNAi活性を有するsiRNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中で、例えば、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。
【0049】
上述のMEKK3をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又はその一部を有する核酸を発現し得る発現ベクターも、MEKK3遺伝子の発現又は機能を抑制する物質として好ましい。該発現ベクターは、適用対象である哺乳動物の細胞(T細胞等)内で機能可能な発現ベクターであることが好ましく、該ベクター中の適切なプロモーター(例えば適用対象である哺乳動物の細胞(T細胞等)内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーター)の下流に、MEKK3をコードするヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列又はその一部を有する核酸が機能的に連結された態様で提供され得る。
【0050】
MEKK3を特異的に認識する抗体は、MEKK3に結合することにより、MEKK3の機能(例えば、他の分子との相互作用、蛋白質キナーゼ活性等)を抑制し得る。該抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製できる。また、該抗体は、抗体の結合性フラグメント(例えば、Fab、F(ab’))、組換え抗体(例えば、単鎖抗体)であってもよい。
【0051】
例えば、ポリクローナル抗体は、MEKK3あるいはそのフラグメント(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリア蛋白質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバント(例えば、完全または不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスター等の哺乳動物が挙げられる。
【0052】
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例えば、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん―基礎と臨床―」、第2−14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作成することができる。例えば、マウスにMEKK3あるいはそのフラグメントを市販のアジュバントと共に2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例えば、NS−1,P3X63Ag8等)を細胞融合してMEKK3を特異的に認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J. Immunol. Methods,81(2): 223-228 (1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma, 7(6): 627-633 (1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、好ましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清又は動物の腹水から取得できる。
【0053】
しかしながら、ヒトにおける治療効果と安全性を考慮すると、上記抗体は、キメラ抗体、ヒト化又はヒト型抗体であってもよい。キメラ抗体は、例えば「実験医学(臨時増刊号), Vol.6, No.10, 1988」、特公平3−73280号公報等を、ヒト化抗体は、例えば特表平4−506458号公報、特開昭62−296890号公報等を、ヒト抗体は、例えば「Nature Genetics, Vol.15, p.146-156, 1997」、「Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994」、特表平4−504365号公報、国際出願公開WO94/25585号公報、「日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年」、「Nature, Vol.368, p.856-859, 1994」、特表平6−500233号公報等を参考にそれぞれ作製することができる。
【0054】
MEKK3を特異的に認識する抗体は、より効果的にMEKK3の機能を抑制するために、MEKK3の機能性部位(他の蛋白質との相互作用に関与する部位、キナーゼ活性部位等)を特異的に認識し、当該部位が担う機能の低下をもたらすような抗体が選択され得る。
【0055】
MEKK3のドミナントネガティブ変異体とは、MEKK3に対する変異の導入によりその機能(活性)が低減したものをいう。該ドミナントネガティブ変異体は、MEKK3と競合することで間接的にその機能(活性)を阻害することができる。該ドミナントネガティブ変異体は、MEKK3をコードする核酸に変異を導入することによって作製することができる。変異としては、例えば、機能性部位(他の分子との相互作用に関与する部位、キナーゼ活性部位等)における、当該部位が担う機能の低下をもたらすようなアミノ酸の変異(例えば、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加)が挙げられる。ドミナントネガティブ変異体は、PCRや公知の変異導入試薬を用いる自体公知の方法により作製できる。
【0056】
上述のMEKK3を特異的に認識する抗体や、MEKK3のドミナントネガティブ変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸も、MEKK3の発現又は機能を抑制する物質として好ましい。該核酸は、適切な発現ベクター(例えば、適用対象である哺乳動物の細胞(T細胞等)内で機能可能な発現ベクター)中の適切なプロモーター(例えば適用対象である哺乳動物の細胞(T細胞等)でプロモーター活性を発揮し得るプロモーター)の下流に機能的に連結された態様で提供され得る。
【0057】
本発明の剤は、MEKK3の発現又は機能を調節する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックス等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0058】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤又は錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤、あるいは散剤、顆粒剤等である。
【0059】
非経口的な投与(例、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入等)に好適な製剤としては、水性及び非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性及び非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分及び医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解又は懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0060】
MEKK3の発現又は機能を調節する物質が核酸である場合、該核酸の細胞内への導入を促進するために、本発明の剤は更に核酸導入用試薬を含むことができる。該核酸がウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターに組み込まれている場合には、遺伝子導入試薬としてはレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることができる。また、該核酸がプラスミドベクターに組み込まれている場合は、リポフェクチン、リポフェクタミン、DOGS(トランスフェクタム;ジオクトアデシルアミドグリシルスペルミン)、DOPE(1,2−ジオールエオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン)、DOTAP(1,2−ジオールエオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン)、DDAB(ジメチルジオクトアデシルアンモニウム臭化物)、DHDEAB(N,N−ジ−n−ヘキサアデシル−N,N−ジヒドロキシエチルアンモニウム臭化物)、HDEAB(N−n−ヘキサアデシル−N,N−ジヒドロキシエチルアンモニウム臭化物)、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質を用いることが出来る。
【0061】
また、MEKK3の発現又は機能を調節する物質が蛋白質である場合、該蛋白質の細胞内への導入効率を高めるために、本発明の組成物は更にポリペプチド導入用試薬を含むことができる。該試薬としては、プロフェクト(ナカライテスク社製)、プロベクチン(IMGENEX社製)等を用いることが出来る。
【0062】
実施例で後述するが、本発明ではMEKK3と相互作用し得るTCR媒介シグナル伝達に関与する他の分子としてCARMA1が同定された。MEKK3はCARMA1との相互作用を介してBcl10及びMALT1と協調してNF−κBの活性化に寄与し得る。従ってMEKK3とCARMA1との相互作用を調節する物質はTCR機能調節剤として有用である。
【0063】
本発明の剤の適用量は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、適用対象となる動物種、適用対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として0.0001〜約5000mg/kgである。
【0064】
本発明の剤は、例えば、医薬または研究用試薬として有用である。例えば、T細胞受容体機能の異常に伴う疾患の予防・治療剤として、あるいは当該疾患の研究用試薬として使用され得る。
T細胞受容体機能の異常に伴う疾患としては、例えば獲得免疫の異常により引き起こされる疾患が挙げられる。
【0065】
詳細には、本発明の剤が、有効成分としてMEKK3の発現または機能を促進する物質を含有する場合、ならびに有効成分としてMEKK3とCARMA1との相互作用を亢進する物質を含有する場合、該物質は、T細胞受容体シグナルカスケードにおけるMEKK3より下流の経路(例えばNF−κB活性化)を増強し得るので、本発明は、例えば、T細胞受容体機能の低下に伴う疾患の予防・治療に使用され得る。T細胞受容体機能の低下に伴う疾患としては、例えば、T細胞の不活化(抗原に対するT細胞応答の低下、T細胞数の低下等)により引き起こされる免疫不全疾患であり得る。該疾患としては、原発性免疫不全症(例えば、重症複合免疫不全症、Bloom症候群、DiGeirge症候群、ataxia-telangiectasia、PNP欠損症、Wiskott-Aldrich症候群、突発性CD4T細胞減少症、ADA欠損症、慢性皮膚粘膜カンジダ症、Duncan症候群(EBウイルスに対する特異的免疫不全)等)、続発性免疫不全状態(後天性免疫不全症候群(AIDS)、アナジー(T細胞不応答)、感染症(麻疹、結核)サルコイドーシス、リンパ系悪性腫瘍、薬剤(副腎皮質ホルモン、サイクロスポリンA、アザチオプリン等)老化、栄養障害等)等が挙げられる。
【0066】
また、本発明の剤が、有効成分としてMEKK3の発現または機能を抑制する物質を含有する場合、ならびに有効成分としてMEKK3とCARMA1との相互作用を抑制する物質を含有する場合、該物質は、T細胞受容体シグナルカスケードにおけるMEKK3より下流の経路(例えばNF−κB活性化)を抑制し得るので、本発明は、例えば、T細胞受容体機能の亢進に伴う疾患の予防・治療に使用され得る。T細胞受容体機能の亢進に伴う疾患としては、例えば、T細胞の異常な活性化(抗原に対するT細胞応答の上昇、T細胞数の上昇等)により引き起こされる免疫不全疾患であり得る。該疾患としては、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、強直性脊椎炎、多発性硬化症、自己免疫性甲状腺炎、橋本病、自己免疫性溶血性貧血、悪性貧血、自己免疫性血小板減少症、自己免疫性血球減少症、重症筋無力症、強皮症、多発性筋炎、続発性アディソン病、不妊症、自己免疫性糸球体腎炎、シェーグレン病、脈管炎、自己免疫性脊髄炎、I型糖尿病、潰瘍性大腸炎、クローン病等)、アレルギー疾患(例えばI型アレルギー疾患(例えば、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、じんま疹、アトピー性皮膚炎)、II型アレルギー疾患(例えば、グッドパスチャー症候群、溶血性血小板紫斑症)、III型アレルギー疾患(例えば、全身性血管炎、クリオグロブリン血症、血清症、ウイルス性肝炎、アレルギー性肺胞炎)、IV型アレルギー疾患(例えば、接触性皮膚炎、臓器移植拒絶反応、結核病変、サルコイドーシス、薬疹)等)、移植片対宿主症(GVHD)、乾癬(炎症性角化症)、円形脱毛症、扁平苔癬、Tリンパ腫(皮膚T細胞リンパ腫白斑等)等が挙げられる。
【0067】
獲得免疫の異常により引き起こされる疾患としては、上記TCR機能の低下に伴う疾患あるいはTCR機能の亢進に伴う疾患として例示された各種疾患が挙げられる。
【0068】
さらに、本発明の剤が研究用試薬である場合、例えば、実験動物におけるT細胞受容体機能の異常に伴う疾患の誘発剤として使用され得る。詳細には、本発明の研究用試薬が、有効成分としてMEKK3の発現または機能を促進する物質を含有する場合、例えば、T細胞受容体機能の亢進に伴う疾患の誘発に使用され得る。本発明の研究用試薬が、有効成分としてMEKK3の発現または機能を抑制する物質を含有する場合、例えば、T細胞受容体機能の低下に伴う疾患の誘発に使用され得る。
【0069】
(T細胞受容体機能を調節し得る物質のスクリーニング方法)
上述のように、MEKK3の発現又は機能を調節し得る物質は、T細胞受容体機能を調節し得る。従って、本発明は、被検物質がMEKK3の発現又は機能を調節し得るか否かを評価することを含む、T細胞受容体機能を調節し得る物質のスクリーニング方法、当該スクリーニング方法により得られる物質、及び当該物質を有効成分として含有してなる剤を提供する。
【0070】
スクリーニング方法に供される被検物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸(例、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)、糖質(例、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)、脂質(例、飽和又は不飽和の直鎖、分岐鎖及び/又は環を含む脂肪酸)、アミノ酸、蛋白質(例、オリゴペプチド、ポリペプチド)、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
【0071】
本発明のスクリーニング方法は、被検物質がMEKK3の発現又は機能を調節し得るか否かを評価可能である限り、如何なる形態でも行なわれ得る。
一実施形態では、本発明のスクリーニング方法は、以下の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被検物質がMEKK3の発現又は機能を調節(促進又は抑制)し得るか否かを評価する工程;
(b)MEKK3の発現又は機能を調節(促進又は抑制)し得る被検物質を選択する工程;
(c)MEKK3の発現又は機能を促進し得る物質を、T細胞受容体機能を亢進し得る物質として得、或いはMEKK3の発現又は機能を抑制し得る物質を、T細胞受容体機能を抑制し得る物質として得る工程。
【0072】
MEKK3の発現を調節し得る物質を選択する場合、上記方法の工程(a)では、被検物質とMEKK3の発現を測定可能な細胞とを接触させ、被検物質を接触させた細胞におけるMEKK3の発現量を測定し、該発現量を被検物質を接触させない対照細胞におけるMEKK3の発現量と比較する。
【0073】
MEKK3の発現を測定可能な細胞とは、MEKK3遺伝子の産物(例、転写産物、翻訳産物)の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。MEKK3遺伝子の産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、MEKK3を天然に発現可能な細胞であり得、一方、MEKK3遺伝子の産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞は、MEKK3遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞であり得る。MEKK3の発現を測定可能な細胞は、上述した動物細胞、好ましくは上述の哺乳動物の細胞であり得る。
【0074】
MEKK3を天然に発現可能な細胞は、MEKK3遺伝子を潜在的に発現するものである限り特に限定されない。かかる細胞は、当業者であれば容易に同定でき、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株等を使用できる。MEKK3発現細胞としてはT細胞、B細胞、樹状細胞等のリンパ球等が挙げられるが、T細胞受容体機能を調節し得る物質を得るという目的より、T細胞及びT細胞由来の細胞株を用いることが好ましい。
【0075】
MEKK3遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、MEKK3遺伝子転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。MEKK3遺伝子転写調節領域、レポーター遺伝子は、発現ベクター中に挿入され得る。MEKK3遺伝子転写調節領域は、MEKK3遺伝子の発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、例えば、転写開始点から上流約2kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つMEKK3遺伝子の転写を制御する能力を有する領域等が挙げられる。レポーター遺伝子は、検出可能な蛋白質又は検出可能な物質を生成する酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光蛋白質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。
【0076】
MEKK3遺伝子転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、MEKK3遺伝子転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、MEKK3遺伝子に対する生理的な転写調節因子を発現し、MEKK3遺伝子の発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、MEKK3を天然に発現可能な細胞が好ましい。また、T細胞受容体機能を調節し得る物質を得るという目的より、T細胞及びT細胞由来の細胞株を用いることがより好ましい。
【0077】
MEKK3の発現を測定可能な細胞に対する被検物質の接触は、適切な培養培地中で行われ得る。当該培養培地は、用いられる細胞の種類等に応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地等である。培養条件もまた、用いられる細胞の種類等に応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
【0078】
具体的な手順は以下のとおりである。
先ず、被検物質を接触させた細胞におけるMEKK3の発現量が測定される。発現量の測定は、用いた細胞の種類等を考慮し、自体公知の方法により行われ得る。例えば、MEKK3の発現を測定可能な細胞として、MEKK3を天然に発現可能な細胞を用いた場合、発現量は、MEKK3遺伝子の産物、例えば、転写産物(mRNA)又は翻訳産物(ポリペプチド)を対象として自体公知の方法により測定できる。例えば、転写産物の発現量は、細胞からtotal RNAを調製し、RT−PCR、ノザンブロッティング等により測定され得る。また、翻訳産物の発現量は、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により測定され得る。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、蛍光抗体法、ウェスタンブロッティング法等が使用できる。一方、MEKK3の発現を測定可能な細胞として、MEKK3遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。
【0079】
次いで、被検物質を接触させた細胞におけるMEKK3の発現量が、被検物質を接触させない対照細胞におけるMEKK3の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被検物質を接触させない対照細胞におけるMEKK3の発現量は、被検物質を接触させた細胞におけるMEKK3の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0080】
上記方法の工程(b)では、工程(a)の結果に基づき、MEKK3の発現を調節(促進又は抑制)し得る被検物質が選択される。
【0081】
MEKK3の機能を調節し得る物質を選択する場合、上記方法の工程(a)では、被検物質の存在下でMEKK3の機能(活性)を測定し、該機能(活性)を被検物質の不在下におけるMEKK3の機能(活性)と比較する。
【0082】
MEKK3の機能として、MEKK3とTCR媒介シグナル伝達に関与する他の分子(例えばアダプター分子であるCARMA1等の蛋白質、以下、単に結合対とも称する)との相互作用を測定する場合、本発明のスクリーニング方法は、被検物質がMEKK3及びその結合対(例、CARMA1)と相互作用し得るか否かを評価することにより行なわれ得る。このようなスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a1)〜(c1)を含み得る:
(a1)被検物質、ならびにMEKK3及びその結合対を接触させる工程;
(b1)被検物質を接触させた場合におけるMEKK3及びその結合対を含む複合体量を測定し、該複合体量を被検物質を接触させない場合の複合体量と比較する工程;
(c1)上記(b1)の比較結果に基づいて、MEKK3及びその結合対を含む複合体量を調節する被検物質を選択する工程。
【0083】
上記方法の工程(a1)では、MEKK3及びその結合対を含む複合体の形成が可能であるアッセイ系において、被検物質、MEKK3及びその結合対が接触される。その結合対としては、CARMA1、Bcl10、MALT1、TAK1、IKK等が挙げられ、CARMA1が好ましい。なお、MEKK3及びその結合対の一方又は双方は、それらの複合体の検出を容易にするため標識されていてもよい。標識としては、例えば、標識用物質(例、FITC、FAM等の蛍光物質、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質、H、14C、32P、35S、123I等の放射性同位体、ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質)による標識の他、レポーター遺伝子によりコードされ得る蛋白質との融合が挙げられる。また、本アッセイ系では、MEKK3及び/又はその結合対等を含む細胞ホモジネート(例、MEKK3発現ベクター及び/又はMEKK3結合対の発現ベクターをトランスフェクトした細胞のホモジネート)も使用することができる。
【0084】
上記方法の工程(b1)では、先ず、被検物質を接触させた場合における複合体量が測定される。複合体量の測定は、自体公知の方法により行うことができ、例えば、免疫学的手法(例、免疫沈降法、ELISA)、表面プラズモン共鳴を利用する相互作用解析法(例、BiacoreTMの使用)が挙げられる。
【0085】
次いで、被検物質を接触させた場合の複合体量が、被検物質を接触させない場合の複合体量と比較される。複合体量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被検物質を接触させない場合の複合体量は、被検物質を接触させた場合の複合体量の測定に対し、事前に測定した複合体量であっても、同時に測定した複合体量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した複合体量であることが好ましい。
【0086】
上記方法の工程(c1)では、複合体量を調節する被検物質が選択される。例えば、MEKK3及びその結合対を含む複合体量を増加させる(複合体の形成を促進する)被検物質は、T細胞受容体機能の亢進が所望される疾患の予防・治療等に有用であり、MEKK3及びその結合対を含む複合体量を減少させる(複合体の形成を抑制する)被検物質は、T細胞受容体機能の抑制が所望される疾患の予防・治療等に有用である。
【0087】
また、MEKK3の機能を調節し得る物質を選択するためのスクリーニングを細胞内で行なうこともできる。この場合のスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a2)〜(c2)を含み得る:
(a2)被検物質とMEKK3発現細胞とを接触させる工程;
(b2)被検物質を接触させた細胞におけるMEKK3の機能レベルを測定し、該機能レベルを、被検物質を接触させない対照細胞における機能レベルと比較する工程;
(c2)上記(b2)の比較結果に基づいて、MEKK3の機能レベルを調節する被検物質を選択する工程。
ここで、MEKK3の機能とは、例えば、TCR媒介シグナル伝達に関与する他の分子(即ち結合対、例えばCARMA1)との相互作用する能力、MEKK3が有するタンパク質キナーゼ活性が挙げられる。
【0088】
MEKK3の機能として、結合対と相互作用する能力に基づいたスクリーニングは例えば以下のようにして行なう。
【0089】
上記方法の工程(a2)及び(b2)において被検物質を接触させるMEKK3発現細胞は、MEKK3と結合対との相互作用が測定可能な細胞であって、該細胞と被検物質とを接触させ、被検物質を接触させた細胞における相互作用を測定し、これを被検物質を接触させない対照細胞における相互作用と比較する。
【0090】
用いられる細胞としては、目的とする相互作用を測定可能な細胞であれば特に限定されず、MEKK3及び結合対を機能可能な態様で発現する細胞等を挙げることが出来る。該細胞は、MEKK3及びその相互作用対象分子を、天然に発現しているものであっても遺伝子導入により強制的に発現しているものであってもよい。該相互作用を測定可能な細胞は、動物細胞、例えば上述の哺乳動物の細胞であり得る。
【0091】
MEKK3と結合対との相互作用を測定可能な細胞としては、上述のMEKK3を天然で発現している細胞と同様の細胞を用いることが出来るが、T細胞受容体機能を調節し得る物質を得るという目的より、T細胞及びT細胞由来の細胞株を用いることが好ましい。MEKK3と結合対との相互作用が細胞の活性化等に依存する場合は、細胞を適切に処理することにより活性化させてもよい。例えば、T細胞を用いる場合、抗原や抗原ミミックにより該細胞は刺激され得る。
【0092】
MEKK3と結合対との相互作用を測定可能な細胞に対する被検物質の接触は、上述と同様に適切な培養培地(例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地)中で行われ得る。培養条件は、用いられる細胞や、測定される相互作用の種類等に応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約1分間〜約72時間である。
【0093】
次に先ず、被検物質を接触させた細胞におけるMEKK3と結合対との相互作用が測定される。相互作用の測定は、用いた細胞や結合対の種類等を考慮し、自体公知の方法により行われ得る。例えば、MEKK3に対する抗体等により細胞の抽出液からMEKK3が免疫沈降され、MEKK3と共に沈殿した結合対が、自体公知の方法(例えばウェスタンブロッティング法、マススペクトル法等)により定量される。
【0094】
次いで、被検物質を接触させた細胞におけるMEKK3と結合対との相互作用が、被検物質を接触させない対照細胞における該相互作用と比較される。相互作用の程度の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被検物質を接触させない対照細胞におけるMEKK3と結合対との相互作用は、被検物質を接触させた細胞におけるMEKK3と結合対との相互作用の測定に対し、事前に測定した相互作用であっても、同時に測定した相互作用であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した相互作用であることが好ましい。
【0095】
結合対としては、CARMA1、Bcl10、MALT1、TAK1、IKK等が挙げられ、CARMA1が好ましい。即ち、本発明のTCR機能を調節し得る物質のスクリーニング方法の好ましい一実施態様はMEKK3とCARMA1との相互作用を調節し得るか否かを評価することを含む。
【0096】
MEKK3の機能として、MEKK3のタンパク質キナーゼ活性を測定する場合、MEKK3を適切な基質(例えばMKK6、MKK6、IKKβ等)と反応させて、キナーゼ活性が直接測定され得る。この場合、当該キナーゼ活性に関与し得る部位(例えばキナーゼドメイン)を含むMEKK3のフラグメントを用いてもよい。
【0097】
工程(b)では、工程(a)の結果に基づき、MEKK3の機能を調節(促進又は抑制)し得る被検物質が選択される。
【0098】
工程(c)では、工程(b)で選択されたMEKK3の発現又は機能を促進し得る物質がT細胞受容体機能を亢進し得る物質として、或いはMEKK3の発現又は機能を抑制し得る物質がT細胞受容体機能を抑制し得る物質として獲得される。
【0099】
MEKK3の発現量を増加させる(発現を促進する)被検物質は、T細胞受容体機能の抑制が所望される疾患の予防・治療等に有用であり、MEKK3の発現量を減少させる(発現を抑制する)被検物質は、T細胞受容体機能の亢進が所望される疾患の予防・治療等に有用である。
【0100】
更に工程(b)と(c)の間に、工程(b’)として工程(b)で選択された物質がT細胞受容体機能を調節し得るか確認し、該効果が確認された物質を工程(c)においてT細胞受容体機能を調節し得る物質として得ることも出来る。これにより、より高い効率で目的とする物質を獲得することが出来る。
【0101】
工程(b’)においては、例えば、工程(b)で選択された物質(候補物質)とT細胞(T細胞由来の細胞株を含む)とを接触させ、候補物質を接触させたT細胞におけるT細胞受容体機能を測定し、該機能を候補物質を接触させない対照細胞におけるT細胞受容体機能と比較する。
【0102】
T細胞に対する候補物質の接触は、上述と同様に適切な培養培地(例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地)中で行われ得る。培養条件は、測定されるT細胞受容体機能の種類等に応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約1分間〜約72時間である。このとき、T細胞は抗原や抗原ミミックにより適宜刺激され得る。
【0103】
次に先ず、候補物質を接触させたT細胞におけるT細胞受容体機能が測定される。T細胞受容体機能として、T細胞受容体からの刺激により誘導されるT細胞の機能的変化やその誘導過程の反応が測定される。T細胞の機能的変化としては、T細胞の活性化(細胞増殖、サイトカイン(IL−2、IL−4、IFN−γ等)産生、細胞障害活性、分化)、アポトーシス、アナジー等が挙げられる。T細胞の機能的変化を誘導する過程の反応としては、T細胞受容体からのシグナルカスケードに関与する分子(タンパク質等)の修飾(リン酸化、脱リン酸化、アセチル化、分解等)、分子間相互作用、細胞内局在の変化(核内移行、RAFTへの局在化、細胞内濃度変化等)、遺伝子発現の変化等が挙げられる。
【0104】
上述のように、MEKK3はT細胞受容体からのシグナルカスケードにおいて、TAK1やIKKの上流で機能し、NF−κBの活性化に関与し得る。従って、候補物質がT細胞受容体からのシグナルカスケードにおけるMEKK3の機能を選択的に調節し得ることを確認する目的で、T細胞受容体からのシグナルカスケードにおいてMEKK3より下流で機能する分子(例えば、TAK1、IKK、CARMA1、Bcl10、MALT1、NF−κB、IκB等)の修飾、分子間相互作用、細胞内局在の変化等を測定してもよい。或いは、NF−κBの標的遺伝子の発現の変化を測定してもよい。
【0105】
T細胞受容体機能の測定は、自体公知の方法により行うことが可能である。例えば、細胞増殖はH−サイミジンの取り込み等により、サイトカイン産生はELISA法等により、細胞障害活性は51Cr放出アッセイ等により、T細胞分化(例えばTh1やTh2への分化)はサイトカイン遺伝子発現パターン変化の測定により、アポトーシスは染色体DNAの断片化の測定により、タンパク質のリン酸化/脱リン酸化はウェスタンブロッティング法等により、タンパク質の分解はウェスタンブロッティング法等により、分子間相互作用は免疫沈降法等により、細胞内局在の変化は免疫染色により、RAFTへの局在化は密度勾配遠心法及びウェスタンブロッティング法等により、遺伝子発現の変化はRT−PCRやフローサイトメトリー等により、それぞれ測定することが出来る。
【0106】
次いで、候補物質を接触させたT細胞におけるT細胞受容体機能が、候補物質を接触させない対照細胞におけるT細胞受容体機能と比較される。T細胞受容体機能の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。候補物質を接触させない対照細胞におけるT細胞受容体機能は、候補物質を接触させたT細胞におけるT細胞受容体機能の測定に対し、事前に測定したものであっても、同時に測定したものであってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定したものであることが好ましい。比較結果に基づき、候補物質によるT細胞受容体機能の調節作用が確認される。
【0107】
本発明のスクリーニング方法はまた、被検物質の動物への投与により行われ得る。該動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等の哺乳動物が挙げられる。動物を用いて本発明のスクリーニング方法が行われる場合、例えば、MEKK3の発現量又は機能を調節する被検物質が選択され得る。
【0108】
MEKK3の発現又は機能を促進し得る物質はT細胞受容体機能を亢進し得るので、T細胞受容体機能の低下に伴う疾患の予防・治療薬となり得る。また、MEKK3の発現又は機能を抑制し得る物質はT細胞受容体機能を抑制し得るので、T細胞受容体機能の亢進に伴う疾患の予防・治療薬となり得る。従って、MEKK3の発現又は機能を指標として、種々の免疫疾患の予防・治療剤等の医薬、又は研究用試薬のための候補物質を選択することが可能となる。
【0109】
(TCR機能の異常に伴う疾患の発症または発症リスクの判定方法)
上述の様に、MEKK3はT細胞受容体からのシグナルカスケードに深く関与し、TCR機能を調節している。従って、本発明は、動物由来の生体試料におけるMEKK3の発現量又は機能を測定することを含む、TCR機能の異常に伴う疾患の発症リスクの判定方法を提供する。
【0110】
一実施形態では、本発明の判定方法は、以下の工程(a)、(b)を含む:
(a)動物由来の生体試料におけるMEKK3の発現量又は機能を測定する工程;
(b)MEKK3の発現量又は機能に基づきTCR機能の異常に伴う疾患の発症リスクを評価する工程。
【0111】
上記方法の工程(a)では、生体試料におけるMEKK3の発現量又は機能が測定される。生体試料は動物、好ましくは哺乳動物由来であれば特に限定されないが、ヒトが由来の試料が最も好ましい。生体試料は、MEKK3を発現している組織又は細胞(例えば、T細胞)を含む試料(例えば、血液)、あるいは該試料から分離された細胞であり得るが、T細胞受容体機能の異常に伴う疾患の発症リスクを判定する目的より、生体試料は、T細胞またはそれを含む試料が好ましい。また、MEKK3の発現量又は機能の測定は、上述のスクリーニング方法と同様に行われ得る。
【0112】
測定されるMEKK3の機能としては、TCR媒介シグナル伝達に関与する他の分子(即ち結合対、例えばCARMA1)と相互作用する能力が挙げられる。即ち、TCR機能の異常に伴う疾患の発症または発症リスクの判定方法の好ましい一実施態様は、MEKK3とCARMA1との相互作用を測定することを含む。
【0113】
工程(b)では、MEKK3の発現量又は機能に基づき、生体試料が由来する動物がTCR機能の異常に伴う疾患に罹患しているか否か、あるいは将来的に罹患する可能性が高いか低いかが評価される。
詳細には、先ず、測定されたMEKK3の発現量又は機能が、TCR機能の異常に伴う疾患に罹患していない動物(例えば、正常動物)由来の生体試料におけるMEKK3の発現量又は機能と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。
【0114】
次いで、MEKK3の発現量又は機能の比較結果より、生体試料が由来する動物がTCR機能の異常に伴う疾患に罹患している可能性があるか否か、あるいは将来的に罹患する可能性が高いか低いかが判断される。特定の疾患を発症した動物では、当該疾患に関連する遺伝子の発現又は機能の変化がしばしば観察されることが知られている。また、特定の疾患の発症前に、特定の遺伝子の発現又は機能の変化がしばしば観察されることが知られている。実際に、後述の実施例に示すように、MEKK3の機能的欠損を有する動物においては、胸腺細胞及び末梢T細胞の数の減少が確認された。従って、MEKK3の発現又は機能が低下している場合には、TCR機能の低下に伴う疾患に罹患している可能性、又は将来的に罹患する可能性が相対的に高いと考えられる。また、本明細書中に開示された知見より、MEKK3の発現又は機能が亢進している場合には、TCR機能の亢進に伴う疾患に罹患している可能性、又は将来的に罹患する可能性が相対的に高いと考えられる。
【0115】
本発明はまた、MEKK3の発現量又は機能の測定用試薬を含む、TCR機能の異常に伴う疾患の発症リスクの診断剤を提供する。本発明の診断剤を用いれば、上記判定方法により、TCR機能の異常に伴う疾患の発症リスクを容易に判定することが出来る。
【0116】
MEKK3の発現量の測定用試薬は、MEKK3の発現を測定可能である限り特に限定されないが、例えば、MEKK3を特異的に認識する抗体、MEKK3遺伝子転写産物に対する核酸プローブ、またはMEKK3遺伝子転写産物を増幅可能な複数のプライマーを含むものであり得る。これらは、標識用物質で標識されていても標識されていなくともよい。標識用物質で標識されていない場合、本発明の診断剤は、該標識用物質をさらに含むこともできる。標識用物質としては、例えば、FITC、FAM等の蛍光物質、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質、H、14C、32P、35S、125I等の放射性同位体、ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質等が挙げられる。
【0117】
MEKK3遺伝子転写産物に対する核酸プローブは、DNA、RNAのいずれでもよいが、安定性等を考慮するとDNAが好ましい。また、該プローブは、1本鎖又は2本鎖のいずれであってもよい。該プローブのサイズは、MEKK3遺伝子の転写産物を検出可能である限り特に限定されないが、好ましくは約15〜1000bp、より好ましくは約50〜500bpである。該プローブは、マイクロアレイのように基板上に固定された形態で提供されてもよい。
【0118】
MEKK3遺伝子を増幅可能な複数のプライマー(例えば、プライマー対)は、検出可能なサイズのヌクレオチド断片が増幅されるように選択される。検出可能なサイズのヌクレオチド断片は、例えば約100bp以上、好ましくは約200bp以上、より好ましくは約400bp以上の長さを有し得る。プライマーのサイズは、IRAK−4遺伝子を増幅可能な限り特に限定されないが、好ましくは約15〜100bp、より好ましくは約18〜50bp、さらにより好ましくは約20〜30bpであり得る。MEKK3遺伝子転写産物を定量可能な試薬がプライマーである場合、本発明の診断薬は、逆転写酵素をさらに含むことができる。
【0119】
MEKK3の機能の測定用試薬は、MEKK3の機能を測定可能である限り特に限定されない。例えば、免疫沈降法及びウエスタンブロット法によりMEKK3とその結合対との相互作用を測定する場合、該試薬として、MEKK3を特異的に認識する抗体及び相互作用対象分子を特異的に認識する抗体、プロテインA結合ビーズ等を挙げることが出来る。また、MEKK3のタンパク質キナーゼ活性を測定する場合、該試薬として、該キナーゼの基質(例えばMKK6、MKK6、IKKβ等)を挙げることが出来る。
【0120】
本発明の上記判定方法及び診断剤は、TCR機能の異常に伴う疾患の有無、あるいは該疾患に罹患する可能性の判定を可能とする。従って、本発明は、例えば、TCR機能の異常に伴う疾患の容易且つ早期の発見等に有用である。
【0121】
(MEKK3遺伝子の機能的欠損を有するT細胞を用いる、TCR機能を調節し得る物質のスクリーニング方法)
上述のように、MEKK3はCARMA1と相互作用し、T細胞受容体からのシグナルカスケードにおいて、IKKやTAK1の上流で機能し、NF−κBの活性化に関与し得る。従って、被検物質がMEKK3の機能的欠損を有する動物又は細胞におけるTCR機能を調節(例えば亢進)し得るか否かを評価することにより、MEKK3の機能的欠損を補うこと等により、TCR機能を調節(例えば亢進)し得る物質をスクリーニングすることが出来る。
【0122】
MEKK3遺伝子の機能的欠損とは、MEKK3遺伝子が本来有する正常な機能が十分に発揮できない状態をいい、例えば、MEKK3遺伝子が全く発現していない状態、またはMEKK3遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にその発現量が低下している状態、あるいはMEKK3遺伝子産物の機能が完全に喪失した状態、または遺伝子変異等によりMEKK3遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にMEKK3遺伝子産物の機能が低下した状態が挙げられる。
【0123】
MEKK3遺伝子の機能的欠損を有するT細胞は、例えば、MEKK3遺伝子の機能的欠損を有する動物からT細胞を単離する事により得ることが可能である。MEKK3の無発現変異は、ほぼ胎生期(E)11日で死に至ることが報告されている(Yang, J., et al., (2000). Mekk3 is essential for early embryonic cardiovascular development. Nat. Genet. 24, 309-313.)ので、MEKK3遺伝子の機能的欠損を有する動物としてMEKK3のコンディショナルノックアウト非ヒト動物を用いることができる。
【0124】
本発明の動物の種は、ヒトを除く動物である限り特に限定されないが、哺乳動物および鳥類が好ましい。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、サル、オランウータン、チンパンジー等の霊長類が挙げられる。鳥類としては、例えばニワトリが挙げられる。
【0125】
本発明のコンディショナルノックアウト非ヒト動物は、例えば下記の工程(a)〜(d)を含む方法により製造できる。
(a)MEKK3遺伝子の機能的欠損を含む胚性幹細胞を提供する工程;
(b)前記胚性幹細胞を胚に導入し、キメラ胚を得る工程;
(c)前記キメラ胚を動物に移植し、キメラ動物を得る工程;
(d)前記キメラ動物を交配させ、MEKK3遺伝子欠損ヘテロ接合体を得る工程。
【0126】
前記工程(a)において、MEKK3遺伝子の機能的欠損を含む胚性幹細胞(ES細胞)は、例えば、MEKK3遺伝子の相同組換えを誘導し得るターゲティングベクターを胚性幹細胞に導入して得られる。
【0127】
ターゲティングベクターを胚性幹細胞に導入する方法としては、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法/リポソーム法、エレクトロポレーション法などがあげられる。ターゲティングベクターが胚性幹細胞中に導入されると、当該細胞中でMEKK3遺伝子を含むゲノムDNAの相同組換えが生じる。
【0128】
ターゲティングベクターが導入される胚性幹細胞としては、任意の動物の胚盤胞から分離した内部細胞塊をフィーダー細胞上で培養することにより樹立してもよいが、市販または所定の機関より既存の胚性幹細胞を入手できる。既存のマウス胚性幹細胞としては、例えば、ES−D3細胞、ES−E14TG2a細胞、Bruce−4 ES細胞、SCC−PSA1細胞、TT2細胞、AB−1細胞、J1細胞、R1細胞、E14細胞、RW−4細胞、Bruce−4 ES細胞などがあげられる。また、胚性幹細胞としては、マウス胚性幹細胞以外に、ミンク、ハムスター、ブタ、ウシ、マーモセット、アカゲザル等の哺乳動物由来のものなどが樹立されているので、これらを用いることもできる。
【0129】
MEKK3遺伝子を含むゲノムDNAで相同組換えが生じた動物細胞を選別するため、ターゲティングベクター導入後の動物細胞がスクリーニングされる。例えば、ポジティブ選別、ネガティブ選別等により選別を行った後に、遺伝子型に基づくスクリーニング(例えば、PCR法、サザンブロット法)を行う。
【0130】
胚性幹細胞を用いる場合には、好ましくは、組換え胚性幹細胞の核型分析がさらに行なわれる。核型分析では、選別された組換え胚性幹細胞において染色体異常がないことが確認される。核型分析は、自体公知の方法により行うことができる。なお、胚性幹細胞の核型は、ターゲティングベクターの導入前に予め確認しておくことが好ましい。
【0131】
本発明で用いられるターゲティングベクターは、2以上のリコンビナーゼ標的配列を含むことが好ましい。2以上のリコンビナーゼ標的配列は、同一または反対の配向性 (orientation)で配置することができる。
【0132】
リコンビナーゼ標的配列としては、当該分野で公知の配列、例えば、バクテリオファージP1由来のCre/loxPシステムで用いられるloxP配列、酵母由来のFLP/FRTシステムで用いられるFRT配列を使用することができる。
【0133】
Cre−loxP系を利用する好ましいターゲティングベクターの例は、MEKK3遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチドおよび第二のポリヌクレオチド、および選択マーカーを含み、Cre認識配列(例えば、flox)を少なくとも3箇所に含む。Cre認識配列は、コンディショナルノックアウトで欠失させる部位を両側から挟む態様で配置される。
【0134】
第一および第二のポリヌクレオチドは、MEKK3遺伝子を含むゲノムDNAに対して、相同組換えを生じるのに十分な程度の配列同一性および長さを有するポリヌクレオチドである。第一および第二のポリヌクレオチドはそれぞれ、MEKK3遺伝子を含むゲノムDNAの異なる領域に対応する。
【0135】
また、第一または第二のポリヌクレオチドは、コンディショナルノックアウトにより、MEKK3遺伝子の機能的欠損を引き起こすように選択される。かかる領域は、当業者であれば適宜決定できるが、例えば、第一および第二のポリヌクレオチドは、1以上のエキソン、またはプロモーター領域もしくはエンハンサー領域の少なくとも一部を欠失するよう選択される。
【0136】
第一および第二のポリヌクレオチドの長さは、ゲノムDNAの相同組換えが生じる長さである限り特に限定されない。一般論として、ターゲティングベクターによってゲノムDNAの相同組換えが効率よく起こるためには、相同領域が長いほどよい。一方、ターゲティングベクターの種類によって、挿入可能なDNAの長さは一定に制限される。したがって、これらを考慮すると、第一および第二のポリヌクレオチドの長さは、例えば0.5kb〜20kb、好ましくは1kb〜10kbである。
【0137】
一実施形態では、MEKK3遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチドと、第二のポリヌクレオチドとの間(換言すれば、内側)に選択マーカーが含まれる。この場合、選択マーカーとしては、ポジティブ選択マーカーが好ましい。ポジティブ選択マーカーは、その遺伝子を有する細胞のみを所定の条件下で生存および/又は増殖可能にする産物をコードする遺伝子であり、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(BPH)遺伝子、ブラスティシジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子などがあげられる。
【0138】
別の実施形態では、MEKK3遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチドと、第二のポリヌクレオチドとの外側に選択マーカーが含まれる。この場合、選択マーカーとしては、ネガティブ選択マーカーが好ましい。ネガティブ選択マーカーは、非ターゲティング染色体部位に組み込まれたDNA挿入物を有する細胞に対して毒性に作用する遺伝子であり、例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼ(tk)遺伝子、ジフテリア毒素Aフラグメント(DTA)遺伝子などがあげられる。
【0139】
本発明で用いられるターゲティングベクターは、ポジティブ選択マーカー、ネガティブ選択マーカーのいずれか一方、または両方を含むことができる。
【0140】
ターゲティングベクターの基本骨格となるベクターは特に限定されず、形質転換を行う細胞(例えば、大腸菌)中で自己複製可能なものであればよい。例えば、市販のpBluscript (Stratagene社製)、pZErO 1.1 (Invitrogen社)、pGEM-1 (Promega社)等が使用可能である。
【0141】
本発明のターゲティングベクターは、自体公知の方法により製造できる。例えば、本発明のターゲティングベクターは、MEKK3遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチドおよび第二のポリヌクレオチドならびに該選択マーカーをベクターに挿入することにより製造できる。なお、このようなターゲティングベクターを作製するにあたっては、最初に、MEKK3遺伝子を含むゲノムDNA断片を単離する必要があるが、ゲノムDNA断片は、相同組換えの際に効率良く組換えが生じるよう、作製しようとするES細胞が由来する動物種と同一の動物種から単離することが好ましい。また、相同組換えの効率をさらに上げるために、ES細胞が由来する同一種の動物のうち同じ系統の動物から、ゲノムDNAを単離することがより好ましい。
【0142】
前記工程(b)において、胚が由来する動物種は、本発明のノックアウト動物種と同様であり得、また、導入される胚性幹細胞が由来する動物種と同一であることが好ましい。胚としては、例えば胚盤胞、8細胞期胚などがあげられる。胚はホルモン剤(例えばFSH様作用を有するPMSGおよびLH作用を有するhCGを使用)等により過排卵処理を施した雌動物を、雄動物と交配させること等により得ることができる。胚性幹細胞を胚に導入する方法としては、マイクロマニピュレーション法、凝集法などがあげられる。
【0143】
前記工程(c)において、キメラ胚が動物の子宮に移入され得る。キメラ胚が移植される動物は好ましくは偽妊娠動物である。偽妊娠動物は、正常性周期の雌動物を、精管結紮等により去勢した雄動物と交配することにより得ることができる。キメラ胚が導入された動物は、妊娠し、キメラ動物を出産する。
【0144】
次いで、出生した動物がキメラ動物か否かが確認される。出生した動物がキメラ動物であるか否かは自体公知の方法により確認でき、例えば、体色や被毛色で判別できる。また、判別のために、体の一部からDNAを抽出し、サザンブロット法やPCR法を行ってもよい。
【0145】
前記工程(d)において、工程(c)で得られたキメラ動物を成熟した後にT細胞においてリコンビナーゼを発現するトランスジェニック動物と交配させる。T細胞特異的にリコンビナーゼを発現トランスジェニック動物としては、例えば、T細胞特異的Lckプロモーターの制御下でCreリコンビナーゼを発現するLck−Creトランスジェニックマウスが報告されている(Takahama, Y., et al., (1998). Functional competence of T cells in the absence of glycosylphosphatidylinositol-anchored proteins caused by T cell-specific disruption of the Pig-a gene. Eur. J. Immunol. 28, 2159-2166.)。
工程(d)で得られたMEKK3遺伝子欠損へテロ接合体同士を交配させることによりコンディショナルにMEKK3遺伝子欠損を有するホモ接合体を得ることができる。
【0146】
得られたトランスジェニックマウスのMEKK3遺伝子における欠失は、自体公知の方法により確認できる。例えば、体の一部からDNAを抽出し、サザンブロット法やPCR法を行ってもよい。
【0147】
本発明のノックアウト動物、胚性幹細胞、ターゲティングベクターの作製の詳細については、例えば、下記文献を参照のこと。
1.別冊 実験医学 ザ・プロトコールシリーズ 「ジーンターデティングの最新技術」(2000年、羊土社)コンディショナルターゲティング法p.115-120
2.バイオマニュアルシリーズ8 「ジーンターゲティング」−ES細胞を用いた変異マウスの作製(1995年、羊土社)p.71-77
3.Sambrookら, Molecular Cloning: A LABORATORY MANUAL, 第3版, COLD SPRING HARBOR LABORATORY PRESS, 2001年, 4.82-4.85
4.Robertson E. J. in Teratocarcinomas and embryonic stem cells-a practical approach, ed. Robertson, E. J. (IRL Press, Oxford), 1987: pp.108-112
5.Dynecki, S. M.ら, Gene Targeting -a practical approach, 2nd edition, ed. Joyner, A.L. (Oxford Univ. Press), 2000: pp.68-73
6.Dynecki, S. M. ら, Gene Targeting -a practical approach, 2nd edition, ed. Joyner, A. L. (Oxford Univ. Press), 2000: pp.75-81
【0148】
かくして作製されたMEKK3のコンディショナルノックアウト非ヒト動物から自体公知の方法によってT細胞が単離され得る。得られたT細胞は、MEKK3の機能的欠損を有する。
MEKK3の機能的欠損を有するT細胞を用いる本発明のスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)及び(b)を含み得る:
(a)被検物質がMEKK3遺伝子の機能的欠損を有するT細胞におけるT細胞受容体機能を調節(亢進等)し得るか否かを評価する工程;
(b)MEKK3遺伝子の機能的欠損を有するT細胞におけるTCR機能を調節(亢進等)し得る物質を選択する工程;
【0149】
例えば工程(a)において、被検物質とMEKK3遺伝子の機能的欠損を有するT細胞とを接触させ、被検物質を接触させた細胞におけるTCR機能を測定し、該機能を被検物質を接触させない対照細胞におけるTCR機能と比較する。
【0150】
T細胞に対する被検物質の接触は、上述と同様に適切な培養培地(例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地)中で行われ得る。培養条件は、測定されるT細胞受容体機能の種類等に応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約1分間〜約72時間である。T細胞は抗原や抗原ミミックにより適宜刺激され得る。
【0151】
次に先ず、被検物質を接触させたT細胞におけるTCR機能が測定される。ここでTCR機能として、T細胞受容体からの刺激により誘導されるT細胞の機能的変化やその誘導過程の反応が測定される。T細胞の機能的変化としては、T細胞の活性化(細胞増殖、サイトカイン(IL−2、IL−4、IFN−γ等)産生、細胞障害活性、分化)、アポトーシス、アナジー等が挙げられる。T細胞の機能的変化を誘導する過程の反応としては、T細胞受容体からのシグナルカスケードに関与する分子(タンパク質等)の修飾(リン酸化、脱リン酸化、アセチル化、分解等)、分子間相互作用、細胞内局在の変化(核内移行、RAFTへの局在化、細胞内濃度変化等)、遺伝子発現の変化等が挙げられる。
【0152】
上述のように、MEKK3はT細胞受容体からのシグナルカスケードにおいて、TAK1やIKKの上流で機能し、NF−κBの活性化に関与し得る。従って、被検物質がT細胞受容体からのシグナルカスケードにおけるMEKK3の機能を選択的に調節し得ることを確認する目的で、T細胞受容体からのシグナルカスケードにおいてMEKK3より下流で機能する分子(例えば、PKCθ、CARMA1、Bcl10、MALT1、NF−κB、IκB等)の修飾、分子間相互作用、細胞内局在の変化等を測定してもよい。或いは、NF−κBの標的遺伝子の発現の変化を測定してもよい。
【0153】
T細胞受容体機能の測定は、自体公知の方法により行うことが可能である。例えば、細胞増殖はH−サイミジンの取り込み等により、サイトカイン産生はELISA法等により、細胞障害活性は51Cr放出アッセイ等により、分化はサイトカイン遺伝子発現パターン変化の測定により、アポトーシスは染色体DNAの断片化の測定により、タンパク質のリン酸化/脱リン酸化はウェスタンブロッティング法等により、タンパク質の分解はウェスタンブロッティング法等により、分子間相互作用は免疫沈降法等により、細胞内局在の変化は免疫染色により、RAFTへの局在化は密度勾配遠心法及びウェスタンブロッティング法等により、遺伝子発現の変化はRT−PCRやフローサイトメトリー等により、それぞれ測定することが出来る。
【0154】
次いで、被検物質を接触させたT細胞におけるT細胞受容体機能が、被検物質を接触させない対照細胞におけるT細胞受容体機能と比較される。T細胞受容体機能の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被検物質を接触させない対照細胞におけるT細胞受容体機能は、被検物質を接触させたT細胞におけるT細胞受容体機能の測定に対し、事前に測定したものであっても、同時に測定したものであってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定したものであることが好ましい。比較結果に基づき、被検物質によるT細胞受容体機能を調節作用が確認される。
【0155】
上記方法の工程(b)では、(a)の結果に基づき、MEKK3遺伝子の機能的欠損を有するT細胞におけるT細胞受容体機能を調節(促進等)し得る物質が選択される。
【0156】
MEKK3はT細胞受容体からのシグナルカスケードにおいて、TAK1やIKKの上流で機能し、NF−κBの活性化に関与し得るので、本発明のスクリーニング方法により得られるT細胞受容体機能を促進し得る物質は、例えばT細胞受容体からのシグナルカスケードのうち、特にNF−κBの活性化に至る経路においてMEKK3よりも下流において作用する等して、MEKK3の機能的欠損を迂回してT細胞受容体シグナリングを活性化させる物質であり得る。
【0157】
本発明のスクリーニング方法により得られるT細胞受容体機能を調節(促進等)し得る物質はT細胞受容体機能の低下に伴う疾患の予防・治療薬となり得る。当該予防・治療薬は、T細胞受容体機能の低下がMEKK3遺伝子の機能的欠損によるものである場合に、特に有効であり得る。
【実施例】
【0158】
以下、実施例にそって本発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、本発明において使用する試薬や装置、材料は特に言及されない限り、商業的に入手可能である。
【0159】
(方法・材料)
1.試薬
ERK、JNK、p38、IκBα、及びBcl10に対する抗体(Ab)を、Santa Cruzより購入し、抗ホスホERK Ab、抗ホスホJNK Ab、抗ホスホp38 Ab、抗ホスホIKKβ Ab、抗ホスホIκBα Ab、及び抗TAK1 Abを、Cell Signaling Technologyより、抗GAPDH Ab、抗CARMA1 Ab及び抗IKKβ Abを、Abcamより、MEKK3のN末端に対するモノクローナル抗体(mAb)(抗MEKK3 mAb)をBDより、そして抗HisX6 mAbをQIAGENより入手した。免疫沈降用の抗CARMA1 Abを、既報に従って調製した(Shinohara, H. et al., (2005). PKC β regulates BCR-mediated IKK activation by facilitating the interaction between TAK1 and CARMA1. J. Exp. Med. 202, 1423-1431.)。Jurkat細胞のTCR刺激には、既報(Yamasaki, S. et al., (2001). Docking protein Gab2 is phosphorylated by ZAP-70 and negatively regulates T cell receptor signaling by recruitment of inhibitory molecules. J. Biol. Chem. 276, 45175-45183.)と同様、C305(抗TCR mAb)及びOKT3(抗CD3ε mAb)を用いた。
【0160】
2.フローサイトメトリー
リンパ球を、5週齢〜8週齢のマウスの胸腺、脾臓、及び末梢血より分離した。フローサイトメトリー用のAbを、eBioscienceより購入した。染色した細胞を、FACSCalibur(BD)で解析した。細胞生存を、ヨウ化プロピジウム(PI)染色により評価した。
【0161】
3.細胞培養
T細胞を、10%FBS及び1%ペニシリン−ストレプトマイシンを補充したIscove’s Modified Dulbecco’s Medium(IMDM)で培養した。CD8細胞を磁気ビーズでAutoMACS(Miltenyi Biotec)を用いて除去した後、CD4シングルポジティブ(SP)胸腺細胞又はCD4脾臓細胞を、抗CD4磁気ビーズにより精製した。CD4CD44CD62L脾臓細胞を、CD4、CD44及びCD62L染色後に、FACSVantage(BD)により直接選別した。単離したT細胞を、BD Bioscience製の10μg/mlの固相化抗CD3 Ab(2C11)及び2μg/mlの抗CD28 Ab(37.51)で、100ng/mlのPMA(SIGMA)及び2μg/mlの抗CD28 Abで、又は20ng/mlの組換えマウス(rm)IL−2若しくはrmIL−7(Peprotech)で刺激した。T細胞増殖を、Cell Counting Kit−8 (Dojindo Labs)により、製造元により記載されたようにして決定し、450nmでの吸光度をマイクロプレートリーダー(Bio-Rad)で測定した。IL−2及びIFN−γ産生を、酵素結合免疫吸着アッセイを利用したBD-Pharmingen社のキットを用いて、製造元のプロトコールに従って解析した。
【0162】
4.レトロウイルストランスインフェクション
Creリコンビナーゼをコードする遺伝子を、pMX−IRES−EGFPレトロウイルスベクター(東京大学、T. Kitamura氏から供与)にクローン化した。パッケージング細胞EcoPack2(BD Biosciences)を、FuGENE6により、製造元(Roche)のプロトコールに従ってトランスフェクトした。レトロウイルスを含む培養上清を、トランスフェクションの48時間後に回収した。10μg/mlの2C11(抗CD3 mAb)及び5μg/mlの抗CD28 Abで刺激して24時間後に単離したCD4脾細胞に、上記パッケージングにより得られたレトロウイルスを、スピン感染(3000rpmで2時間遠心分離)により感染させた。感染したGFP細胞を選別しエフェクターT細胞として用いた。該細胞を更に2日間〜3日間、rmIL−2を含有する培養液で培養した(Wan, Y. et al., (2006). The kinase TAK1 integrates antigen and cytokine receptor signaling for T cell development, survival and function. Nat. Immunol. 7, 851-858.)。
【0163】
5.活性化によって誘導される細胞死
CD4脾細胞を、5μg/mlのコンカナバリンA(Con.A;SIGMA)とともに、48時間培養した。Con.AはT細胞活性化作用を有している。Con.Aの活性を阻害するために、細胞を、α−メチル−D−マンノシド(10mg/mlの濃度)で1時間処理した。死細胞を、Lympholyte−M (Cedarlane)を用いる密度遠心分離により除去した後、細胞を、2ng/mlのrmIL−2を含有するフレッシュな培地中に再懸濁し、そして2C11コーティングプレート中で培養した。細胞の生存率を、PIでの染色後にFACSCaliburで確かめた。
【0164】
6.生化学的解析
イムノブロッティング及びキナーゼアッセイを、既報の標準的なプロトコール(Shinoharaら、2005、上述)を用いて行った。簡単に言えば、細胞を、10μg/mlの2C11とともに20分間氷上でインキュベートし、次いで、50μg/mlのヤギ抗ハムスターIgG(Cappel)で、5分間、37℃にて刺激した。刺激後、細胞を、1%NP−40溶解緩衝液中で溶解し、清澄な細胞溶解物を、5×SDSサンプル緩衝液と共に煮沸した。5×10個−2×10個の細胞に相当するサンプルを、電気泳動的にPVDF膜に移し、適切なAbでブロットした。IκBαリン酸化に関して、細胞を5μg/mlのCon.A又は抗CD3(データは示さず)で18時間、MAPキナーゼアッセイ(Sun, Z. et al., (2000). PKC-θ is required for TCR-induced NF-κB activation in mature but not immature T lymphocytes. Nature 404, 402-407.)と同様にして処理した後、CD4 SP胸腺細胞を調製して、2%FBSとともに5時間培養した。MEKK3キナーゼアッセイに関して、2×10個のCD4脾細胞を、1%NP−40溶解緩衝液中で溶解した。清澄化したライセートを、1μg抗MEKK3 mAbで免疫沈降し、続いて40μlのプロテインG−セファロースと共にインキュベートした。ビーズを溶解緩衝液で3回洗浄し、キナーゼ緩衝液で2回洗浄した。免疫沈降物を、100μM ATPを含有するキナーゼ緩衝液中に再懸濁した。Hisタグ化MKK6(全長)を、製造元(QIAGEN)の取扱説明書通りに精製し、キナーゼ反応混合物に基質として添加した。30℃で30分インキュベートした後、この反応を、SDSサンプル緩衝液を添加し、続いて5分間煮沸することにより終了させた。電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)に関して、NF−κBのDNA結合活性を、既報通りに解析した(Shinoharaら、2005、上述)。簡単に言えば、T細胞(2×10)の核抽出物を精製し、NF−κB DNA結合部位に対して特異的なプローブ又はOct−1に対して特異的なプローブ(5’-tgtcgaatgcaaatcactagaa-3’;配列番号3)と共にインキュベートし、電気泳動し、そしてオートラジオグラフィーにより可視化した。
【0165】
7.低分子ヘアピン型RNA(shRNA)設計及びベクター
レトロベクターpSINsi−hU6及び設計したオリゴヌクレオチドを、TAKARAから入手した。
hu−MEKK3標的部位554の低分子ヘアピン型RNAをコードする挿入二本鎖DNAオリゴヌクレオチドを以下のように設計した;
F−gatccgcaacctcttgatctacatttagtgctcctggttgaatgtagatcaagaggttgcttttttat(配列番号4)、
R−cgataaaaaagcaacctcttgatctacattcaaccaggagcactaaatgtagatcaagaggttgcg(配列番号5)、
ネガティブコントロールに対するshRNAをコードするオリゴヌクレオチド;
F−gatccgtcttaatcgcgtataaggctagtgctcctggttggccttatacgcgattaagacttttttat(配列番号6)、
R−cgataaaaaagtcttaatcgcgtataaggccaaccaggagcactagccttatacgcgattaagacg(配列番号7)。
レトロウイルスを、汎親和性パッケージング細胞GP2(Clontech)へのトランスフェクションにより生成した。安定なサイレンシングのために、感染したJurkat細胞を、2mg/mlの濃度のネオマイシンで5日間培養した。
【0166】
8.統計解析
データは、平均±標準偏差として示す。統計解析は、Student’s t検定を用いて行い、そしてMicrosoft Excel Softwareを用いて解析した。
【0167】
実施例1 ノックアウトマウスの作成
MEKK3の無発現変異は、ほぼ胎生期(E)11日で死に至る。従って、T細胞におけるMEKK3の本質的な機能を調査するために、図1Aに示されたようにCreリコンビナーゼによりATP結合部位(K391)を欠失させるように設計したターゲティングベクターを構築した。
ターゲティングベクターを、C57BL/6由来のBruce−4 ES細胞(Harvard Medical School, CBR Institute for Biomedical Research, K. Rajewsky氏により提供された)中にエレクトロポレーションにより導入した。プローブ(図1Aに図示)を用いたサザンブロットにより相同組換えされたことを確認し、ネオマイシン耐性クローンをスクリーニングした。正確にターゲティングされたクローンに、一過的にpMC1−Cre(K. Rajewsky, the CBR Institute for Biomedical Research, Harvard Medical School)をトランスフェクトし、loxP隣接ネオマイシン耐性遺伝子カセットを欠失させた。ネオマイシンに対して感受性になった子孫クローンを、サザンブロット解析に供し、2つのloxP部位が隣接したエキソン11及び12を保持するもの(floxアレル)を検出した。標的化されたクローンを、サザンブロット解析により同定し、そしてC57BL/6ブラストシストにマイクロインジェクションし、キメラを作出した。キメラ雄マウスとC57BL/6雌マウスとを交配すると、生殖系列にfloxアレルが伝達された。Flox遺伝子型を有するマウスを、CreトランスジーンをLckプロモーターの制御下で保有するトランスジェニックマウス系統(Lck−Creトランスジェニックマウス;C57BL6/Jバックグラウンド)と繁殖させた(Takahama, Y., et al., (1998). Functional competence of T cells in the absence of glycosylphosphatidylinositol-anchored proteins caused by T cell-specific disruption of the Pig-a gene. Eur. J. Immunol. 28, 2159-2166.)。次いで、これを交雑させてT細胞特異的MEKK3−欠損マウス(Lck−Cre−MEKK3flox/floxマウス;本明細書では、T−KOマウスと呼ばれる)を作出した。得られたマウスはSPF条件下で飼育した。全ての実験は、RIKENの動物研究委員会によるガイドラインを遵守して行った。
ゲノムPCRにより、胸腺細胞及び脾臓T細胞において、loxP部位に隣接するMEKK3のエキソン11及び12を含むfloxアレルが、効率的に欠失したことが示された(図1B)。MEKK3の欠失を、MEKK3のN末端に対するモノクローナル抗体を用いて、ウエスタンブロットによりさらに確認した。MEKK3タンパク質は、実質的に検出されなかった(図1C)。
【0168】
実施例2 T細胞の発生分化におけるMEKK3の役割
T細胞発生分化におけるMEKK3の役割を調べるために、先ずT−KOマウスにおけるT細胞集団のFACS解析を行った。Lck−Cre−MEKK3+/+由来のT細胞とLCK−Cre−MEKK3flox/+マウスとの間に、表現型の差異はなかったので(データは示さず)、Lck−Cre−MEKK3+/+マウスを、野生型(wt)コントロールマウスとして使用した。T−KOマウスは、野生型コントロールマウスと比べて、CD4及びCD8ダブルネガティブ(DN)胸腺細胞の割合の増加及びダブルポジティブ(DP)胸腺細胞の割合の減少を示した(図2A)。T−KOにおける全胸腺細胞、DP、CD4シングルポジティブ(SP)、及びCD8 SP胸腺細胞の数は、それぞれ野生型に比べて40%〜60%にまで有意に減少した(図2B)。しかし、胸腺細胞の成熟度を示すマーカー(CD5、CD69及びCD24が挙げられる)の発現は、T−KOマウス由来のDP又はCD4 SP胸腺細胞において、根本的には変化しなかった(データは示さず)。T−KOマウスの脾臓においては、CD4のT細胞の数及びCD8のT細胞の数は、コントロールマウスと比較して、約50%及び60%減少した(図2A及び図2B)。T−KOマウスの血液中のT細胞の割合は、顕著に減少した(図2A)。
【0169】
実施例3 T−KOマウス由来の末梢T細胞(MEKK3欠損を有する末梢T細胞)
T−KOの末梢T細胞の数は減少したが、多少のCD4T細胞が出現した。MEKK3欠損が末梢T細胞の恒常性状態に影響するかを決定するために、表面マーカーCD44及びCD62Lの脾臓CD4T細胞からの発現を解析した。CD44はT細胞の活性化に伴いその発現量が増加し、CD62LはT細胞の活性化に伴いダウンレギュレートされる。図3Aに示されるように、活性化された表現型の細胞(CD44の発現がより高くCD62Lの発現がより低い)の割合は、野生型脾臓CD4細胞と比較して、T−KO末梢CD4T細胞において、再現可能に高かった(図3A)。抗CD3 Ab(抗CD28 Ab共存下又は非存在下)により誘導されるIL−2及びIFN−γの産生も、T−KOマウス由来のCD4細胞の方が、野生型由来のものより高かった(図3B)。
T細胞においてTAK1を欠くマウスでは、活性化表現型を有する末梢CD4T細胞の割合が増加していることが報告されている(Wanら、2006、上述)。これらのTAK1欠損マウスは、天然に生ずる調節性T細胞(「nTreg細胞」)の発生分化にも重大な欠損を有するので、この活性化された表現型は、nTreg細胞によるT細胞抑制の損失に起因していた。T−KOマウスの場合において観察された活性化表現型がTAK1欠損マウス同様nTreg細胞によるT細胞抑制の損失に起因するものであるのか否かを調べる為、Treg細胞の表面マーカーとしてのCD25の発現を解析した。CD25細胞の頻度は、野生型由来又はT−KOマウス由来のCD4T細胞試料では、有意に変化しなかった(図3C)。
SP胸腺細胞及び末梢T細胞の数の減少は、これらの変異体T細胞における生存欠損に由来し得る。しかし、図3Dに示されるように、胸腺細胞及び脾臓T細胞の培養液中での生存能力は、野生型とT−KOマウス(MEKK3欠損)との間で有意差はなかった。さらに、T−KOマウス由来のCD4脾臓T細胞における活性化により誘導された細胞死においても、野生型との有意差はなかった(図3E)。
【0170】
実施例4 TCR媒介性の細胞応答に対するMEKK3の役割
成熟CD4 SP胸腺細胞において、T−KO由来の細胞は、抗CD3 Ab(抗CD28 Ab共存下又は非共存下)刺激による細胞増殖及びサイトカイン産生(IL−2及びIFN−γ)の減少を示した(図4A及び図4B)。更に、T−KOマウス由来のCD4 SP胸腺細胞では、抗CD3 Ab刺激しても、野生型由来の細胞におけるほど、CD25(活性化されたT細胞の表面マーカー)の発現が誘導されなかった(図4C)。
T−KO CD4 SP胸腺細胞の応答性の低減を示すこれらのデータは、脾臓CD4T細胞を用いた実施例3のデータ(図3B)と矛盾するように考えられる。活性化されたCD44CD62L末梢T細胞は、ナイーブなT細胞(CD44CD62L)と比較して、より多くのサイトカインを産生することが知られているので(Sallusto, F., et al., (2004). Central memory and effector memory T cell subsets: function, generation, and maintenance. Annu. Rev. Immunol. 22, 745-763.)、T−KOマウス由来の脾臓CD4T細胞におけるサイトカイン産生の増強は、これらの変異体マウスにおけるCD44CD62LT細胞の割合の増加を反映しているものと考えられた。この可能性を調べるために、2つのアプローチをとった。第一に、CD4CD44CD62LナイーブT細胞を、野生型及びT−KOマウスより選別し、抗CD3 Ab/抗CD28 Ab、又はPMA/抗CD28 Abでの刺激後のサイトカイン産生を測定した。T−KO CD4CD44CD62LT細胞は、増殖及びサイトカイン産生(IL−2及びIFN−γ)の低減を示した(図5A及び図5B)。第二に、成熟末梢T細胞がMEKK3の非存在下では正常に発生分化し得ないという障害を避けるために、MEKK3を、MEKK3flox/floxマウス由来の活性化した末梢T細胞中で、レトロウイルス媒介性Cre発現により、欠損させた。抗CD3 Ab/抗CD28 Ab刺激後の細胞増殖及びサイトカイン産生は、Cre発現エフェクターCD4T細胞において有意に低減した(図5C及び図5D)。従って、MEKK3が、TCR媒介性の増殖並びにIL−2及びIFN−γの産生をポジティブに調節すると結論した。
【0171】
実施例5 T細胞サイトカイン応答におけるMEKK3の役割
サイトカイン(例えば、IL−2)は、T細胞増殖及びエフェクターT細胞の生存を促進し得る(Vella, A. T., et al., (1998). Cytokine-induced survival of activated T cells in vitro and in vivo. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 95, 3810-3815.)。末梢T細胞のサイトカイン応答においてMEKK3が必要であることを評価するために、IL−2又はIL−7に応答するT細胞増殖を調べた。IL−2又はIL−7に応答するMEKK3flox/floxマウス由来のCre発現細胞の増殖が、偽感染エフェクターCD4T細胞と比較して、有意に低減した(図5E)。これらの結果は、MEKK3が、TCR媒介性の応答のみならず、末梢CD4T細胞におけるサイトカイン誘導性の応答にも寄与することを示唆する。
【0172】
実施例6 胸腺細胞におけるTCR刺激により誘導される、NF−κB、JNK、及びp38活性化におけるMEKK3の役割
MEKK3は、TCR媒介性の細胞応答に必要であることが実証されたので、更に、MEKK3を欠損することがTCR媒介性のシグナル伝達にどのような影響を与えるのかを調べた。ERK、JNK及びp38の活性化を、CD4 SP胸腺細胞におけるリン酸化状態により評価した(図6A)。抗CD3 Ab刺激の後、ERKではなくJNK及びp38の活性化がT−KOマウス由来のCD4 SP胸腺細胞において欠如していた。次に、本発明者らは、NF−κB活性を、CD4 SP胸腺細胞でのDNA結合活性を測定することにより調べた。既報(Liu, H. H., et al., (2006). Essential role of TAK1 in thymocyte development and activation. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 103, 11677-11682.)、NF−κBは、野生型マウス由来のCD4 SP胸腺細胞において活性であった。対照的に、この活性は、T−KOマウス由来のCD4 SP胸腺細胞では大幅に減少した(図6B)。更に、野生型マウス由来の細胞では、TCR刺激は、IκBαリン酸化を誘導する一方、T−KOマウス由来の細胞では、誘導されたホスホ−IκBαは検出不能であった(図6C)。従って、MEKK3は、CD4 SP胸腺細胞におけるNF−κB、JNK及びp38を活性化するTCR媒介シグナル伝達を調節することが示された。
【0173】
実施例7 TCR媒介シグナル伝達におけるTAK1及びこれに続くNF−κB活性化におけるMEKK3の役割
MEKK3がTCR媒介シグナル伝達にどのように関与するかを述べる前に、内因性MEKK3が、抗CD3 Ab刺激の後、一次T細胞において実際に活性化されるかを調べた。脾臓CD4T細胞において、MEKK3を免疫沈降し、免疫沈降物のインビトロのキナーゼ活性を測定した。基質として、MKK6又はMEKK3それ自体を用いた。図7Aに示されるように、MEKK3は、TCR刺激に応答して活性化された。
PMAは、直接的にPKCの活性化を誘導するので、T−KOマウス由来のCD4CD44CD62末梢T細胞におけるPMA/CD28媒介細胞応答の欠如は、MEKK3が、PKCの下流で作用し得ることを示唆する(図5A及び図5B)。アダプタータンパク質CARMA1は、TCR媒介NF−κB及びJNK活性化経路におけるPKCの直接的な下流標的であることが公知である。CARMA1は、TCR刺激の後のIKK及びJNKの活性化を可能にするマクロ分子複合体のオーガナイザーとして機能すると考えられている(Thome, M. (2004). CARMA1, BCL-10 and MALT1 in lymphocyte development and activation. Nat. Rev. Immunol. 4, 348-359.)。従って、まず、MEKK3が、このマクロ分子複合体と会合するのかを調べた。図7Bに示されるように、一次T細胞における内因性MEKK3とCARMA1との間の効率的な相互作用が、TCR刺激の後に観察された。このことは、MEKK3が、マクロ分子複合体に動員され、これにより、TCR媒介シグナル伝達を背景にIKK及びJNK活性化に関与し得ることを示唆する。
MEKK3がTCR媒介NF−κB活性化を調節するメカニズムに対する洞察を更に得るために、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)を設計し、Jurkat T細胞においてMEKK3発現をノックダウンした(MEKK3−kd)。MEKK3タンパク質発現は、効率的にかつ安定に抑制された(図7C)。MEKK3をノックダウンすることがTCR媒介性のNF−κB活性化にどのような影響を与えるのかを調べるために、この細胞を抗CD3 Abで刺激した。IKK活性化は、MEKK3−kdにおいて著しく減少した。このことは、MEKK3が、TCR媒介性のNF−κB活性化に必要であることが、Jurkatモデル系において再現されたことを示す(図7D)。
【0174】
Bcl10及びTAK1は、TCR刺激の後、直接的にであれ間接的にであれ、CARMA1と会合することが公知である(Sun, L., et al., (2004). The TRAF6 ubiquitin ligase and TAK1 kinase mediate IKK activation by BCL10 and MALT1 in T lymphocytes. Mol. Cell 14, 289-301.;Thome, M., and Weil, R. (2007). Post-translational modifications regulate distinct functions of CARMA1 and BCL10. Trends. Immunol. 28, 281-288.)。これらの会合は、NF−κBのTCR誘導性活性化に必要であると考えられるので(Sun, L.ら、2004、上述;Thome, M., 及びWeil, R.、2007、上述)、Jurkatモデル系を用いて、CARMA1とBcl10及びTAK1との会合が、MEKK3ノックダウンにより影響されるかを試験した。図7Eに示されるように、Bcl10及びTAK1とCARMA1との誘導可能な会合は、MEKK3−kd細胞において実質的に減少した。このことは、MEKK3が、直接的にであれ間接的にであれ、マクロ分子複合体の形成に関与していることを示唆する。更に、MEKK3のノックダウンにより、TAK1活性化が減じた(図7F)。TAK1がIKKをリン酸化する直接的な原因キナーゼであると考えられるので、TAK1活性化欠如により、部分的に、MEKK3の非存在下でのNF−κBの活性化欠如が説明され得る。
[配列表フリーテキスト]
配列番号1:マウスのMEKK3遺伝子
配列番号2:マウスのMEKK3蛋白質
配列番号3:Oct−1に対する特異的プローブ
配列番号4:shRNA(hu−MEKK3)
配列番号5:shRNA(hu−MEKK3)
配列番号6:shRNA(ネガティブコントロール)
配列番号7:shRNA(ネガティブコントロール)
配列番号8:PCRプライマー(floxアレル用)
配列番号9:PCRプライマー(floxアレル用)
配列番号10:PCRプライマー(Δ−アレル用)
配列番号11:PCRプライマー(Δ−アレル用)
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明のT細胞受容体機能調節剤(以下、TCR機能調節剤とも称する)は、MEKK3の発現又は機能を調節し、新たなメカニズムの免疫疾患予防・治療剤等として有用である。また、本発明のスクリーニング方法を用いれば、新たなメカニズムでT細胞受容体の機能を調節し得る物質を得ることができるので、免疫調節薬等の医薬品の開発や免疫学の研究等に有用である。
本発明の動物は、T細胞受容体の機能の解析、T細胞受容体機能の異常により引き起こされる各種疾患の予防・治療剤の開発等に有用であり得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MEKK3の発現又は機能を調節する物質を有効成分として含有してなる、T細胞受容体機能調節剤。
【請求項2】
MEKK3の発現又は機能を調節する物質が、MEKK3の発現又は機能を促進する物質である、請求項1記載の剤。
【請求項3】
MEKK3の発現又は機能を調節する物質が、MEKK3の発現又は機能を抑制する物質である、請求項1記載の剤。
【請求項4】
医薬である、請求項1記載の剤。
【請求項5】
獲得免疫の異常により引き起こされる疾患の予防・治療剤である、請求項4記載の剤。
【請求項6】
T細胞受容体機能の低下に伴う疾患の予防・治療剤である、請求項4記載の剤。
【請求項7】
T細胞受容体機能の低下に伴う疾患が免疫不全症候群である、請求項6記載の剤。
【請求項8】
T細胞受容体機能の亢進に伴う疾患の予防・治療剤である、請求項4記載の剤。
【請求項9】
T細胞受容体機能の亢進に伴う疾患が、T細胞リンパ腫、T細胞白血病、自己免疫疾患からなる群より選択される、請求項8記載の剤。
【請求項10】
被検物質がMEKK3の発現又は機能を調節し得るか否かを評価することを含む、T細胞受容体機能を調節し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項11】
以下の工程を含む、請求項10記載の方法:
(a)被検物質がMEKK3の発現又は機能を促進し得るか否かを評価する工程;
(b)MEKK3の発現又は機能を促進し得る物質を、T細胞受容体機能を亢進し得る物質として選択する工程。
【請求項12】
以下の工程を含む、請求項10記載の方法:
(a)被検物質がMEKK3の発現又は機能を抑制し得るか否かを評価する工程;
(b)MEKK3の発現又は機能を抑制し得る物質を、T細胞受容体機能を抑制し得る物質として選択する工程。
【請求項13】
生体試料におけるMEKK3の発現量又は機能を測定することを含む、T細胞受容体機能の異常に伴う疾患の発症リスクの判定方法。
【請求項14】
MEKK3の発現量又は機能の測定用試薬を含む、T細胞受容体機能の異常に伴う疾患の発症リスクの診断薬。
【請求項15】
MEKK3とCARMA1との相互作用を調節する物質を有効成分として含有してなる、T細胞受容体機能調節剤。
【請求項16】
MEKK3とCARMA1との相互作用を調節し得るか否かを評価することを含む、T細胞受容体機能を調節し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項17】
生体試料における、MEKK3とCARMA1との相互作用を測定することを含む、T細胞受容体機能の異常に伴う疾患の発症リスクの判定方法。
【請求項18】
被検物質がMEKK3遺伝子の機能的欠損を有するT細胞におけるT細胞受容体機能を調節し得るか否かを評価することを含む、T細胞受容体機能を調節し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項19】
MEKK3のコンディショナルノックアウト非ヒト動物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−208954(P2010−208954A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53968(P2009−53968)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年2月17日http://intimm.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/dxp007v1を通じて発表
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】