T細胞抗原受容体ペプチド
【課題】T細胞受容体(TCR)の機能を妨害する、新規なペプチドを提供する。
【解決手段】TCR−α膜貫通鎖から誘導され、以下の配列:R1−A−B−C−R2[配列中、Aは0〜5個のアミノ酸からなるペプチド配列、Bはシステイン、Cは2〜10個のアミノ酸からなるペプチド配列、R1はNH2であり、そしてR2はCOOHである]を有し、免疫活性、特に自己反応性の炎症性疾患に関与する、TCR機能を抑制するペプチド。
【解決手段】TCR−α膜貫通鎖から誘導され、以下の配列:R1−A−B−C−R2[配列中、Aは0〜5個のアミノ酸からなるペプチド配列、Bはシステイン、Cは2〜10個のアミノ酸からなるペプチド配列、R1はNH2であり、そしてR2はCOOHである]を有し、免疫活性、特に自己反応性の炎症性疾患に関与する、TCR機能を抑制するペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞の機能を干渉するように設計された新規なペプチドに関するものであり、そのため、該新規なペプチドは、様々な炎症性疾患および自己免疫疾患の状態の治療に使用できるようになる。特に、該ペプチドは、T細胞が関与しているかまたはリクルート(recruited;動員、漸増)されている障害の治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
T細胞受容体のアセンブリ
T細胞は、他の免疫細胞型(多形核、好酸球、好塩基球、肥満細胞、B細胞、NK細胞)と共に免疫系の細胞成分を構成する細胞のサブグループである。生理的条件下では、T細胞は免疫監視および外来抗原排除において機能する。しかしながら、病理的条件下では、T細胞が疾患の発生および伝達に大きな役割を果たしているという確固たる証拠がある。これらの障害では、中枢的または末梢的のいずれかのT細胞免疫トレランスの破綻が、自己免疫疾患の発生の基本的な過程となっている。
【0003】
中枢的トレランスには、自己反応性細胞の胸腺除去(負の選択)および自己主要組織適合複合体抗原(MHC)に対して低い親和性を有するT細胞の正の選択が関与している。これに対して、組織特異的自己免疫疾忠の予防に関与している末梢的T細胞トレランスを説明するために提案されている4つの非相互排除仮説(non-mutually exclusive hypotheses)がある。これらには、アネルギー(共刺激シグナルの喪失、T細胞活性化のために重要な受容体のダウンレギュレーション)、反応性T細胞の欠失、免疫系による抗原の非認識、および自己反応性T細胞の抑制が含まれる。一旦誘導されたトレランスは、必ずしも無限に持続するわけではない。これらのメカニズムのいずれかの破綻により、自己免疫疾患が生じることがある。
【0004】
自己免疫疾患および他のT細胞媒介性障害は、炎症部位へのT細胞のリクルートメント(recruitment)により特徴づけられる。この部位のT細胞は、サイトカインを産生し調節してB細胞機能に影響を及ぼす能力を有し、免疫応答を調整し、最終的な臨床結果を形成する。したがって、T細胞抗原の認識およびそれに続く、T細胞の増殖および分化につながるT細胞活性化の過程を理解することは、健康および疾患の両方を考える上で非常に重要である。抗原認識とT細胞活性化とを統合するT細胞抗原受容体のこの複雑な構造−機能関係を妨害することにより、炎症およびT細胞媒介性疾患を治療する手段が得られるかもしれない。
【0005】
TCRは、少なくとも7つの膜貫通タンパク質よりなる1。ジスルフィド結合で連結した(αβ−Ti)ヘテロ二量体がクロノタイプ抗原認識単位を形成し、一方、ε、γ、δおよびζ、η鎖よりなるCD3の非変異鎖は、シグナル伝達経路に該リガンド結合を結び付け、その結果、T細胞活性化および細胞性免疫応答の修飾(elaboration)が生じる。TCR鎖の遺伝子多様性にもかかわらず、2つの構造的特徴がすべての既知サブユニットに共通している。第1に、それらは、単一の膜貫通伸長ドメイン(おそらくα−ヘリックス状)を有する膜貫通タンパク質である。第2に、該TCR鎖のすべては、予想される膜貫通ドメイン内に荷電アミノ酸を有するという独特の特徴を有する。非変異鎖はマウスとヒトとの間で保存されている単一の負電荷を有し、変異鎖は1つの(TCR−β)または2つの(TCR−α)正電荷を有する。以下の表1に、いくつかの種のTCR−αの膜貫通配列を示す。この表より、この領域が高度に保存されていること、および系統発生的に重要な機能的役割を促進し得ることが判る。親水性アミノ酸であるアルギニンおよびリシンを含むオクタペプチド(太字)は種の間で同一である。膜貫通配列の残りの部分で認められるアミノ酸置換は取るに足らないものであり、保存的である。
【表1】
【0006】
TCR−αとCD3−δ、およびTCR−αとCD3−εとの間の安定な相互作用がTCR−αの膜貫通ドメイン内の8つのアミノ酸に局在し、この過程に非常に重要なのは荷電アミノ酸であるアルギニンおよびリシンであることが、Manoliosら2,3,4による多成分TCRのアセンブリ(assembly)に関する研究で示された。この知見は、該膜貫通ドメイン内のアミノ酸がアンカータンパク質に対して作用するだけでなく、サブユニット複合体のアセンブリおよびタンパク質−タンパク質相互作用において重要であるという事実を例示するものである。この複合受容体のアセンブリは、わずか8つのアミノ酸によって決定(hinge on)され得ることが初めて判明した。前記の系は、多数のタンパク質突然変異体をつくる相補鎖DNA(cDNA)の修飾に依存的であった。キメラcDNA分子をCOS細胞中にトランスフェクションして、必要なタンパク質を発現させた。これらのキメラタンパク質の同時発現により相互作用領域を評価した。その技術はcDNA操作、代謝標識、免疫沈降法およびゲル電気泳動を含むものであった。膜貫通ドメインは小さく、この領域を横切るタンパク質は、α−ヘリックス立体配置に拘束される。これらの生物物理学的特徴を、膜貫通荷電基を介したタンパク質−タンパク質相互作用を操作する能力と組合せることにより、TCR機能に介入しそれを潜在的に妨害するための可能な新しいアプローチが示唆された。可能性のあるアセンブリのインヒビターとしてのペプチドの使用、並びにこのペプチドを可能性のある治療剤として認識し適用してT細胞の機能を妨害することは、一般的なことでもなければ自明な範囲(extension)でもなかった。
【0007】
同時係属中の国際特許出願第PCT/AU96/00018号において、本発明者らは、TCR機能を妨害するペプチドを開発した。この出願の開示内容は、相互引用により本明細書中に組み入れるものとする5。
【0008】
炎症性疾患の治療におけるバイオロジクス
過去10年間において、いわゆる「バイオロジクス(Biologics)」により治療薬の新しい時代が始まった。バイオロジクスは、疾患過程の基盤をなすと考えられる免疫学的ネットワークおよびカスケードを妨害するという特別の目的で、特定の個々の細胞および細胞中に存在する分子をターゲッティングすることを目的とする。リウマチ様関節炎の疾患モデルは生物学的薬剤設計の好例であり、多くの様々なアプローチが創案され試験されている6。このモデルから、最初の関節炎形成ペプチド(arthritogenic peptide)が抗原提示細胞(APC)によってT細胞に提示されると、T細胞の活性化並びにサイトカインやプロテアーゼの放出が引き起こされ、これは慢性炎症および関節(joint)の損傷において最高に達することが予想される(図1a)。このモデルに基づいて多数の異なる潜在的治療戦略が創案されており、これらの戦略を用いてTCRとMHCと抗原(三分子複合体)の間の相互作用を干渉し、それによって免疫応答に影響を与える。循環しているリンパ球の数を減少させるという初期の治療の試みとしては、結節への放射線照射7、胸管ドレナージ8およびリンパ球除去9が挙げられる。リンパ球介入の新たなサイトには図1a中で番号付けしてあり(1〜5)、T細胞を排除するかまたはT細胞の機能を調節するためのモノクローナル抗体(MAb)および病原性T細胞に対するT細胞ワクチンの使用、抗原ペプチドと競合させるための類似ペプチドの合成、並びにサイトカイン作用抑制および後続するT細胞の活性化を含む。これらの新らしい免疫調節による治療アプローチは、自然にまたは実験的に誘導された自己免疫疾患の動物モデルに適用されており、有望な結果が得られている。これらのアプローチは現在、ヒトの自己免疫疾忠において使用されつつある6。さらに新しいアプローチでは、抗原とT細胞とMHCとの分解しやすい三分子複合体を干渉することによってT細胞を排除または調節することに注目している。抗原はB細胞および/またはT細胞によって認識され、そして後続の事象はこの相互作用に基づいて起こるという理由から、本発明者らは、初期の抗原認識事象(三分子複合体)を干渉することが、どのような下流の細胞およびサイトカインの事象が起こるのかとは無関係に、疾患の発症に対して大きな効果を有するのではないかと推論した。
【0009】
治療介入部位としての三分子複合体は注目の主題である。何故ならば、該三分子複合体の構成成分の分子特性決定における最近の進歩により、免疫介入のための幾つかのアプローチが得られているからである。治療の目的は、様々な手段によりT細胞の応答を排除、阻止またはダウンレギュレートすることである(図1b)。
【0010】
(i)T細胞抗原に対するMAb。RAの治療におけるMAbの使用は、多数の著者によって概説されている5,10,11。試験したMAbは、以下の範囲の各種抗原に対するものであった:(a)全ての成熟T細胞に存在し、RAの病原(CD5、CDw52)に関与すると思われるもの12,13;(b)T細胞サブセット(CD4)に特異的なMAb(これは、免疫抑制効果が限定されるという利点を有する14,15);および(c)T細胞活性化抗原(IL−2受容体)に対するMAb(これは、抗原に応答して活性化T細胞を特異的に抑制し得る16,17)。用いたMAbは全て齧歯類由来であり、CAMPATH−1Hだけは組換えcDNA法により「ヒト化」しておいた。臨床研究では、これらのMAbが患者の体内で十分に減感作(寛容)され、好ましい臨床的応答を誘導できることが示される。副作用としては、齧歯類抗体に対する免疫反応が含まれ、これにより反復使用が制限される可能性がある。
【0011】
(ii)抗MHC療法。免疫原性の研究により、MHC分子(DR1 DR4、Dw4およびDR4Dw14)がRA感受性にとって重要であることが実証されている16。MHC分子は抗原ペプチドをT細胞に提示するので、免疫介入についての別の標的を提供する。これらの分子の機能は、(抗原結合部位に対する)MAbの使用19またはMHCの溝への競合ペプチドの高親和性結合(後記を参照)のいずれかによって干渉され得る。MHC分子に対するMAbは、幾つかの自己免疫の動物モデル20,21およびヒト22において疾患の開始を干渉する。
【0012】
(iii)ペプチドの競合。抗原のT細胞認識は、MHC分子の抗原結合部位をブロックし、かつT細胞応答を抑制する高親和性MHC結合性ペプチドを用いることにより破壊できる。或る特定のアミノ酸残基を置換することにより、「デザイナー」ペプチドを得ることが可能になる。この「デザイナー」ペプチドは、MHC分子に対して高い親和性を有するが、T細胞を活性化しない23。この療法には特異性という利点があり、全身性免疫抑制を引き起こすことはない。
【0013】
(iv)T細胞ワクチン接種。この形態の療法には、T細胞オリゴクローン性を示す疾患に対して有望である。この概念は、病原性T細胞クローンを得、これらの細胞に対してワクチン接種を行うことであり、これは利用可能なT細胞レパートリーからそれら細胞を排除しようとするものである。さらに改良された別のワクチン接種方法は、抗原の認識に関与するT細胞受容体配列に相当するペプチドを合成することである。そのようなペプチドでワクチン接種した自己免疫動物モデルは、合成ペプチドを用いれば機能性T細胞クローンをブロックすることが可能になる、という見解を支持するものである24,25。これらの抗TCR戦略がリウマチ様疾患に適用できるかどうかは、自己反応性細胞(autoreactive cells)のオリゴクローン性と、該細胞の特定のTCRが利用されるかに依存する。依然として諭争中のことではあるが、特定のTCRレパートリー利用の証拠がRAにおいて報告されている26,27。
【0014】
(v)サイトカイン療法。RAに罹患している忠者の滑液分析を行ったところ、顆粒球−マクロフアージコロニー刺激因子(GM−CSF)、γ−インターフェロン(IFN−γ)、インターロイキン−1(IL−1)および腫瘍壊死因子(TNF−α)を含む多数のサイトカインの存在が示された28。サイトカインは細胞と相互作用し、協調して免疫や炎症の応答に作用する。サイトカインは、プロ炎症性(pro-inflammatory)または抗炎症性のいずれかに分類できる。IL−1およびTNF−αは前者のグループであり、相乗的に作用する。TNF−αはまた、IL−1の発現を調節する主要なサイトカインの1つでもある28。それらのサイトカインは非常に重要であるので、それらの調節または産生を干渉する試みは疾患の結果に対して正の効果を有するかもしれない29,30。関節炎に罹患しているラットおよびマウスにIL−1受容体アンタゴニストを投与することは、関節障害の重篤度を低下させ、ヒトの疾患ではフエーズII(phaseII)の研究段階にある。IL−2受容体に対するMAbの治療目的の使用は一過性の効果がある31。サイトカインの大きなグループに対する受容体がクロ−ニングされ、配列決定されており(DowerおよびSimsにより概説されている)32、現在臨床評価を行っているところである33。もしかすると、サイトカイン受容体の可溶性の形態のものを用いて、リガンド型の相互作用によりサイトカインを封鎖し、それにより炎症を軽減することができるかもしれない。シクロスポリンAは、T細胞のサイトカイン産生を調節するものであり、幾つかの試行に用いたところ、良好な臨床的応答が得られている。しかしながら、それに付随する腎毒性のために、シクロスポリンAの使用は制限を受ける34。
【0015】
(vi)受容体のアセンブリにとって重要なタンパク質配列から誘導されるペプチドの使用により細胞機能を破壊できることは最近になって公表されたにすぎず35、これはバイオロジクスを用いる新しいアプローチである(これは、生物学的作用機構の図式(schema)に含めることができるかもしれない)。すなわち、ペプチドを用いることによって受容体のアセンブリを「混乱させる(disorganising)」ことによる細胞機能の破壊である。意図的に、選択したペプチドは、CD4細胞とCD8細胞の双方に共通の共通膜貫通配列に対応するものとしたが、それ以外のTCR鎖相互作用のユニークな部位は現在研究中である。特に、細胞外ドメインにおける抗原認識鎖間の相互作用は、特定のVα/Vβを用いた場合には、個々の病原性T細胞クローンに対するペプチドの創案に有用となり得る。
【発明の開示】
【0016】
本発明者らは今回、TCRの機能を(おそらくアセンブリを干渉することによって)妨害する更に新規なペプチドを開発した。これらのペプチドは、(i)コアペプチド、(ii)別の鎖アセンブリ領域に対応するペプチド(すなわち、CD3−δ、−ε、−γ鎖);(iii)新たなアセンブリ部位(すなわち、鎖間ジスルフィド結合);および(iv)コアペプチドの下流配列に由来する配列をベースとするものである。本発明者らはまた、これらのペプチドがT細胞媒介性の炎症に効果があることも見出した。投与したペプチドの有効な臨床的発現とは、例えば関節炎のアジュバントモデルにおける関節炎の軽減によって実証されるような炎症の軽減である。
【0017】
したがって、第1の態様において、本発明は、以下の配列:
R1−A−B−A−R2
[配列中、
Aは疎水性アミノ酸または2〜10個のアミノ酸を含む疎水性ペプチド配列であり;
Bは荷電アミノ酸であり;
R1はNH2であり;そして
R2はCOOHである]
を有する、TCR機能を抑制するペプチドを提供する。
【0018】
「疎水性ペプチド配列」とは、少なくとも1個の疎水性アミノ酸を含み、かつ荷電アミノ酸を含まない配列を意昧する。好ましくは、該疎水性ペプチド配列を構成するアミノ酸の少なくとも50%が疎水性アミノ酸である。さらに好ましくは、該疎水性ペプチド配列を構成するアミノ酸の少なくとも80%が疎水性アミノ酸である。
【0019】
本発明の好ましい実施態様において、Aは2〜6個のアミノ酸を含むペプチドである。
【0020】
本発明の1つの好ましい実施態様において、該ペプチド配列は、TCR−α膜貫通鎖から誘導されるものである。この実施態様の1つの好ましい態様では、Bは正に荷電したアミノ酸であり、好ましくはBはリシンまたはアルギニンである。
【0021】
本発明のさらに好ましい実施態様において、該ペプチドは、以下の配列を含む:
NH2-Ile-Leu-Leu-Leu-Lys-Val-Ala-Gly-Phe-COOH、
NH2-Ile-Leu-Leu-Leu-Lys-Val-Ala-Gly-COOH、
NH2-Leu-Arg-Ile-Leu-Leu-Leu-Gly-Val-COOH、
NH2-Leu-Gly-Ile-Leu-Leu-Leu-Lys-Val-COOH、
NH2-Ile-Leu-Leu-Gly-Lys-Ala-Thr-Leu-Tyr-COOH、または
NH2-Met-Gly-Leu-Arg-Ile-Leu-Leu-Leu-COOH。
【0022】
さらに好ましい実施態様において、該ペプチド配列は、TCR−α細胞内鎖から誘導される。この実施態様の好ましい態様では、該ペプチドは、以下の配列を含む:
NH2-Leu-Leu-Met-Thr-Leu-Arg-Leu-Trp-Ser-Ser-COOH。
【0023】
さらに別の実施態様において、該ペプチド配列は、膜貫通CD3−δ、−εまたは−γ鎖の配列から誘導される。この好ましい実施態様では、Bは負に荷電したアミノ酸であり得る。
【0024】
さらに好ましい実施態様では、該ペプチド配列は、CD3−δまたは−ε鎖から誘導される。この好ましい実施態様では、Bはアスパラギン酸であり得る。この実施態様の特に好ましい態様では、該ペプチドは以下の配列を含む:
NH2-Ile-Ile-Val-Thr-Asp-Val-Ile-Ala-Thr-Leu-COOH、または
NH2-Ile-Val-Ile-Val-Asp-Ile-Cys-Ile-Thr-COOH。
【0025】
さらにもう1つの実施態様において、該ペプチド配列は、CD3−γ鎖から誘導される。この好ましい実施態様では、Bはグルタミン酸であり得る。この実施態様の特に好ましい態様では、該ペプチドは以下の配列を含む:
NH2-Phe-Leu-Phe-Ala-Glu-Ile-Val-Ser-Ile-COOH。
【0026】
第2の態様において、本発明は、TCR−α細胞内鎖から誘導され、かつ以下の配列:
NH2-Ala-Gly-Phe-Asn-Leu-Leu-Met-Thr-COOH
を含んでなる、TCR機能を抑制するペプチドを提供する。
【0027】
さらに、TCR−αβ鎖間ジスルフィド結合は、T細胞のアセンブリおよび後続する抗原ペプチドによる活性化において重要な役割を担っていることも判明した。
【0028】
したがって、本発明はさらに、TCR−α鎖とTCR−β鎖との鎖間システイン結合を不安定にし、T細胞の活性化を抑制する新規なペプチドも提供する。
【0029】
したがって、第3の態様において、本発明は、以下の配列:
R1−A−B−C−R2
[配列中、
Aは0〜5個のアミノ酸からなるペプチド配列であり;
Bはシステインであり;
Cは2〜10個のアミノ酸からなるペプチド配列であり;
R1はNH2であり;そして
R2はCOOHである]
を有する、TCRの機能を抑制するペプチドを提供する。
【0030】
本発明の好ましい実施態様において、Aは5個のアミノ酸からなるペプチド配列である。
【0031】
1つの実施態様において、該ペプチドはTCR−β鎖から誘導される。好ましくは、Cは4または5個のアミノ酸からなるペプチド配列であり、かつ少なくとも1個の疎水性アミノ酸を含む。好ましい実施態様において、該ペプチドは、以下の配列を有する:
NH2-Tyr-Gly-Arg-Ala-Asp-Cys-Gly-Ile-Thr-Ser-COOH、
NH2-Trp-Gly-Arg-Ala-Asp-Cys-Gly-Ile-Thr-Ser-COOH、または
NH2-Tyr-Gly-Arg-Ala-Asp-Cys-Ile-Thr-Ser-COOH。
【0032】
もう1つの実施態様において、該ペプチドはTCR−α鎖から誘導される。この実施態様において、該ペプチドは好ましくは以下の配列を有する:
NH2-Ser-Ser-Asp-Val-Pro-Cys-Asp-Ala-Thr-Leu-Thr-COOH。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
当業者であれば、本発明のペプチドに、該ペプチドの生物学的活性に有害な影響を及ぼすことなしに多くの修飾を施すことも可能であることが理解されよう。このような修飾は、ペプチド配列内での保存的または非保存的な挿入や置換などの種々の改変(changes)によって達成できる(但し、そのような改変は該ペプチドの生物学的活性を実質的に低下させないものとする)。
【0034】
本明細書中で意図するペプチドの修飾には、側鎖の修飾、ペプチド合成の際に行われる非天然アミノ酸および/またはそれらの誘導体の組み入れ、架橋剤の使用、並びにペプチドに立体配置上の拘束を課す他の方法が挙げられるが、それらに限定されない。
【0035】
本発明で意図する側鎖の修飾の例としては、例えば、アルデヒドと反応させた後でNaBH4で還元することによる還元的アルキル化;メチルアセトイミダートによるアミド化;無水酢酸によるアシル化;シアナートによるアミノ基のカルバモイル化;2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)によるアミノ基のトリニトロベンジル化;無水コハク酸および無水テトラヒドロフタル酸によるアミノ基のアシル化;並びにピリドキサル−5'−ホスフェートでリシンをピリドキシル化した後でのNaBH4による還元;等によるアミノ基の修飾が挙げられる。
【0036】
アルギニン残基のグアニジン基は、2,3−ブタンジオン、フェニルグリオキサールおよびグリオキサールのような試薬による複素環式縮合生成物の形成により修飾できる。
【0037】
カルボキシル基は、O−アシルイソ尿素形成によりカルボジイミドを活性化した後で、例えば対応するアミドへ誘導することにより修飾できる。
【0038】
トリプトファン残基は、例えば、N−ブロモコハク酸イミドによる酸化または2−ヒドロキシ−5−ニトロベンジルブロミドまたはスルフェニルハライドによるインドール環のアルキル化によって修飾できる。一方、チロシン残基は、テトラニトロメタンによりニトロ化して3−ニトロチロシン誘導体を形成することにより改変できる。
【0039】
ヒスチジン残基のイミダゾール環の修飾は、ヨード酢酸誘導体によるアルキル化またはジエチルピロカーボネートによるN−カルベトキシル化により達成できる。
【0040】
ペプチド合成の際に行われる非天然アミノ酸および誘導体の組み入れの例としては、ノルロイシン、4−アミノ酪酸、4−アミノ−3−ヒドロキシ−5−フェニルペンタン酸、6−アミノヘキサン酸、t−ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、サルコシン、4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−メチルヘプタン酸、2−チエニルアラニンおよび/またはアミノ酸のD異性体の使用が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
本発明のペプチドは、当業者に周知の技術を使用して合成することが可能である。例えば、Nicholson編、Blackwell Scientific Publications出版の「Synthetic Vaccines(合成ワクチン)」と題する刊行物に含まれているAthertonおよびSheppard著「Peptide Synthesis(ペプチド合成)」第9章に記載されているような溶液合成または固相合成を使用してペプチドを合成してもよい。好ましくは固相担体を使用する。この固相担体は、ポリスチレンを少量のジビニルベンゼン(約1%)で架橋させてもよいポリスチレンゲルビーズであってよく、ジクロロメタンまたは極性のさらに高い溶剤(例えば、ジメチルホルムアミド(DMF))等の親油性溶剤でさらに膨潤させる。ポリスチレンはクロロメチル基またはアミノメチル基で官能化させてもよい。あるいは、架橋させた官能化ポリジメチル−アクリルアミドゲルが用いられ、これは、DMFおよび他の双極性非プロトン(dipolaraprolic)溶剤で高度に溶媒和させて膨潤させてもよい。通常不活性なポリスチレンビーズの表面にグラフトもしくは結合させた、ポリエチレングリコールをベースとする他の担体を用いることも可能である。好適な態様では、PAL−PEG、PAK−PEG、KA、KRまたはTGRから選ばれる市販の固体担体または樹脂を使用することができる。
【0042】
固相合成では、α−アミノ基、カルボキシ基または側鎖官能基における望ましくない反応性をマスキングすること、およびアミノ酸およびペプチドの双極特性を破壊して不活化すること、という二つの機能を有する可逆的な保護基(blocking group)を使用する。このような官能基は、t−ブトキシカルボキシルまたはRCO−誘導体として知られる構造RCO−OCMe3−CO−NHRのt−ブチルエステルから選択することができる。構造RCO−OCH2−C6H5を有する対応のベンジルエステルおよびベンジルオキシカルボニルまたはZ−誘導体として知られる構造C6H5CH2OCO−NHRを有するウレタンを使用してもよい。フルオレニルメタノールの誘導体、特にフルオレニル−メトキシ−カルボニルまたはFmoc基を使用してもよい。これらの種類の保護基はそれぞれ、お互いの存在下で独立に開裂することができ、そのため、例えばBOC−ベンジル保護法およびFmoc−第三級ブチル保護法が頻繁に使用される。
【0043】
保護したアミノ酸またはペプチドのアミノ基およびカルボキシ基を連結するため、縮合剤についても言及しなければならない。この連結は、カルボキシ基を活性化して遊離の第一級または第二級アミンと自発的に反応させることにより行うことができる。このためには、p−ニトロフェノールおよびペンタフルオロフェニルから誘導したような活性化エステルを用いることができる。1−ヒドロキシベンゾトリアゾール等の触媒を添加することにより、これらのエステルの反応性を増加させることが可能である。トリアジンDHBTのエステル(上記Nicholsonの参考文献の215〜216頁に述べられている)を使用してもよい。カルボン酸(即ち、Na−保護アミノ酸またはペプチド)を縮合試薬で処理することにより別のアシル化種をin situで形成し、直ちにアミノ成分(カルボキシ保護すなわちC−保護アミノ酸またはペプチド)と反応させる。BOP試薬であるジシクロヘキシルカルボジイミド(Nicholsonの参考文献の216頁を参照)、o−ベンゾトリアゾール−N,N,N’N’−テトラメチル−ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)およびそのテトラフルオロボレート類似体が、頻繁に使用される縮合剤である。
【0044】
一番目のアミノ酸の固相担体への結合は、任意の適切な方法でBOC−アミノ酸を使用して行うことができる。一つの方法では、トリエチルアンモニウム塩をクロロメチル樹脂と加温することによりBOCアミノ酸を該クロロメチル樹脂へ結合させる。Fmoc−アミノ酸は、同様の方法でp−アルコキシベンジルアルコール樹脂へ結合させることができる。あるいは、各種連結剤または「ハンドル」を使用して一番目のアミノ酸を樹脂へ結合させてもよい。この点に関しては、アミノメチルポリスチレンに結合させたp−ヒドロキシメチルフェニル酢酸を使用することが可能である。
【0045】
各種基を本発明のペプチドへ付加して、該ペプチドの生物学的活性を実質的に低下させることなく、効力を増加させたり、またはin vivoでの半減期を延長させたりといった利点を付与することも可能である。生物学的活性を低下させることのない本発明のペプチドに対するこのような修飾は、本発明の範囲内にあるものとする。
【0046】
本発明の別の態様は、本発明の第一、第二または第三態様のペプチドと製剤学上許容される担体とを含んでなる治療用組成物を提供するものである。
【0047】
本発明の別の態様は、T細胞が関与しているまたはリクルート(recruited、動員、漸増)されている障害に罹患した被験者の治療方法であって、本発明の第一、第二または第三態様のペプチドの治療上有効な量を被験者に投与することを含んでなる前記方法を提供するものである。
【0048】
上記治療用組成物は、当業者に認知されるいずれの適当な経路により投与してもよい。このような経路としては、経口、経皮、鼻内、非経口、関節内、眼内などが挙げられる。
【0049】
別の態様では、本発明は化学的部分を細胞へ送達する方法であって、本発明の第一、第二または第三態様のペプチドに結合した化学的部分に細胞をさらすことを含んでなる前記方法からなる。
【0050】
好適な実施態様では、化学的部分をペプチドのカルボキシ末端へ結合させる。
【0051】
T細胞が関与している/リクルートされている障害としては以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない:
アレルギー体質、例えば遅延型過敏症、接触皮膚炎、
自己免疫疾患、例えばSLE、リウマチ様関節炎、多発性硬化症、糖尿病、ギラン−バレー症候群、橋本病、悪性貧血、
胃腸病学的症状、例えば炎症性腸疾患、クローン病、原発性胆汁性肝硬変、活動性慢性肝炎、
皮膚問題、例えば乾癬、尋常性天庖瘡、
感染性疾患、例えばAIDSウイルス、単純/帯状ヘルペス、
呼吸症状、例えばアレルギー性肺胞炎、
心臓血管問題、例えば自己免疫心膜炎、
臓器移植、
炎症症状、例えば筋炎、強直性脊椎炎、
T細胞が関与している/リクルートされている任意の障害。
【0052】
本明細書中で用いる「被験者」なる語は、ヒトおよびヒト以外の動物の両方を包含するものとする。
【0053】
本発明のペプチドは、活性を失うことなくカルボキシ末端を修飾することが可能である。従って、本発明はその範囲内に、本発明のペプチドの「コア」配列に対して追加のアミノ酸を含み、かつT細胞抗原受容体に作用するペプチドを包含するものとする。
【0054】
本発明のペプチドは、細胞へ侵入可能であると考えられる。従って、他の用途は別として、本発明のペプチドを、他の治療薬を細胞へ送達するための「キャリアー」として用いることができると考えられる。このことは、例えば、細胞内へ送達すべき治療薬を本発明のペプチドへ結合させることにより達成することができるであろう。
【0055】
当業者であれば容易に理解できるように、疎水性アミノ酸は、Ala,Val、Leu、Ile、Pro、Phe、TyrおよびMetであり、一方、正に荷電したアミノ酸はLys、Arg、およびHisであり、負に荷電したアミノ酸はAspおよびGluである。
【0056】
本発明の性質の理解がより明確となるように、以下、実施例および図面を参照して本発明の好ましい態様を説明する。
【実施例】
【0057】
実験方法
ペプチド合成
FMOC化学を用いた固相合成により手動でペプチドを合成した。HPLCで評価した純度が75%を超える未保護のペプチドをAuspep(Melbourne,Australia)から購入した。内包された仕様書の例を付録として添付する。細胞培養に使用する0.1%酢酸に溶解したペプチドの最終濃度は、10μM〜200μMとした。in vivo実験用には、ペプチドをスクアラン油(2−,6−,10−,15−,19−,23−ヘキサメチルテトラコサン)に溶解/懸濁した。
【0058】
細胞
以下の細胞系を使用した:細胞表面上に完全な抗原受容体を発現し、かつ抗原認識(シトクロムc)後にIL−2を産生するマウスT細胞ハイブリドーマである2B4.11;従来の生物学的IL−2アッセイに使用されるインターロイキン−2依存性T細胞系(CTLL);および抗原提示細胞として作用するB細胞ハイブリドーマ細胞系LK35.2(LK,I−EK担持)。ハイブリドーマはT細胞用培地(10%ウシ胎児血清(FCS)、ゲンタマイシン(80μg/ml)、グルタミン(2mM)およびメルカプトエタノール(0.002%)を含有するRPMI−1640培地)中で増殖させた。アフリカミドリザル腎繊維芽細胞系(COS)は、10%FCSを補足したダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)中で増殖させた。
【0059】
抗原提示アッセイ35
マウスT細胞2B4.11ハイブリドーマ(2×104個)をマイクロタイターウェル中でLK35.2抗原提示B細胞(2×104個)および50μMハト・シトクロムcと共に培養した。16時間後、50μlのアッセイ上清を採取し、IL−2の有無をアッセイした。この上清を培地で連続2倍希釈し、IL−2依存性T細胞系CTLLと共に培養した。16時間後、CTLL細胞を3H−チミジンで4時間パルスし、IL−2の測定値を求めた(IU/ml)。試験したペプチドは以下の通りである:CP、A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、L、M、N、OおよびP(表2)。ペプチドLは非常に不溶性のためin vitroでは試験しなかった。ペプチドを10μM〜200μMの最終濃度にて抗原提示アッセイで試験した。
【0060】
初回抗原刺激を受けたリンパ節細胞(PLNC)
オスのウィスター系ラットの尾の付け根に、熱不活性化Mycobacterium tuberculosis(マイコバクテリウム−ツベルクローシス)(MTB)1mgを0.2mlのスクアランに懸濁させたものを皮内注射した。急性関節炎が十分に発症したら、10〜16日後にラットを犠牲にして腫脹した膝窩リンパ節を摘出し、無菌条件下で組織を目の細かいメッシュに押し付けて単一細胞懸濁液を調製した。細胞を完全培地で洗浄し、再度懸濁して計数した。2匹のラットから約3.5×108個の生育可能な細胞を得た。使用した培地は、25mMのHepes、ペニシリン(100μg/ml)、ストレプトマイシン(80μg/ml)、2.5×10−5Mの2−メルカプトエタノールおよび2%のプールしておいた正常ラット血清を補足したRPMI1640であった。細胞を平底96ウエルマイクロタイタープレートのウエルへ2×105個/ウェルにてピペットで移し、MTBの懸濁液を添加して最終濃度を100μg/mlとした。ペプチドを20μl容量でウェルへ添加し、最終濃度を100μg/mlぺプチド(または100μM)および0.01%酢酸とし、ウェル当たりの総量を200μlとした。プレートを37℃、5%CO2で3日間加湿インキュベーター内にてインキュベートし、3H−チミジンを含む培地25mlをウェル当たり1μCiでパルスした。さらに一晩インキュベートした後、培養物を自動細胞収集器を用いて回収し、β−シンチレーションスペクトロメーターで計数した。
【0061】
T細胞系
Sedgwickら(1989)37による方法を使用した。MTBで免疫したラット由来のPLNCを1ml当たり5×106個にて75cm2培養フラスコで培養した(総量は50mlであり、100μg/mlのMTBを含有する)。3日後、細胞を遠心して沈澱させ、15mlの遠心管中で2mlの培地に再懸濁し、3mlのフィコール(Ficoll)−ジアトリゾエート(9.9%Ficoll400;9.6%ナトリウム・ジアトリゾエート)に重層し、800gで20分間遠心分離した。T細胞ブラストを界面から回収して2回洗浄し、10%FCSと15%conA刺激脾細胞上清(IL−2源として)とを補足した培地中に1ml当たり2×105個で再懸濁させた。残りの相を4日間培養した後、1ml当たり2×105個のT細胞を、抗原と1ml当たり107個の同系ラットの胸腺細胞(抗原提示細胞として作用)とで再度刺激した。このラット胸腺細胞は、25μg/mlのマイトマイシンCで20分間37℃にてインキュベートすることにより不活化し、3回入念に洗浄しておいた。培養物50mlを75cm2フラスコへ入れ、抗原であるMTBを100μg/mlにて添加した。フラスコを垂直に立てて3日間培養した。再び、T細胞ブラストをフィコール/ジアトリゾエートでの分離によって回収し、このサイクルを繰り返した。2〜4サイクル後、この細胞を、100μg/mlのMTBおよび2%ラット血清を含む培地200mlを入れた96ウェルプレートへ、ウェルおよびマイトマイシンC不活化胸腺細胞106個当たりT細胞が104個となるように入れた。0.1%酢酸に溶解したペプチド20μlをウェルヘ添加した。培養物を3日間インキュベートし、3H−チミジン(1μCi、25mlの培地に溶解)を添加して一晩インキュベーションを続け、その後培養物を回収してβ−カウンターにて計数した。結果を、トリチウム化チミジンの取り込みの1分当たりのカウント(cpm)として示す。抗原刺激Tリンパ球の増殖を抑制する能力について、これらのアッセイで試験したペプチドを表2に示す。
【表2】
【0062】
ラットにおけるアジュバント誘導関節炎
熱不活性化MTBを含む200μlのスクアラン(アジュバント)を尾の付け根に単回皮内注射することにより、ラットに関節炎を誘導した。ペプチド(35mg)は、5mgのMTBを含有する1mlのスクアランに懸濁した。即ち、1mgのMTBと7mgのペプチドを含む0.2mlのスクアランを皮内注射した。28日目まで一定の間隔で動物の体重を測定し、その関節炎の症状を足首の太さと後足の厚み(mm)を測定することで評価し、関節炎に罹患した関節の数を記録した。初回の尾注射の後ラットを標準ケージに収容し、水と固形飼料を無制限に摂取できるようにした。ラットは通常注射後12〜14日で関節炎を発症した。従前の報告と一致して、MTB/スクアランを投与した全てのラットで関節炎が発症したわけではなかった。本発明者らの場合では、MTB注射対照ラットの80%よりも多くに関節炎を発症させることに成功した。29日目に、動物を犠牲にした。
【0063】
結果
(a)in vitro
ラットの初回抗原刺激を受けたリンパ節細胞(PLNC)およびT細胞系におけるT細胞受容体ペプチドおよびその変異体の抗原刺激増殖に対する効果
in vitroでのT細胞機能におけるペプチドの効果の証明を試みた初期実験では、抗原提示アッセイを用いた。タンパク質シトクロムcに特異的なマウスTハイブリドーマ2B4へLK細胞系によって抗原を提示させ、上清のIL−2含量をIL−2依存性細胞系であるCTLLの増殖を測定することによりバイオアッセイした5。ハイブリドーマは表現型としては不安定な可能性があるため、一次T細胞の方が優れたモデルであると考えられ、熱不活性化MTBで免疫したラット由来のリンパ節細胞を使用した。
【0064】
PLNC実験1
本アッセイにより、コアペプチドのT細胞増殖に対する強力な抑制効果が判明し(図2)、カウントがビヒクル対照の約10%まで低下した。抗原の不在下では増殖は無視できる程度であり、カウントは抗原に対するT細胞の応答(即ち、真のT細胞機能)を反映していることが確認された。興昧深いことに、修飾したペプチドでも活性を有するものがあった。ペプチドHはT細胞増殖を低減すると思われる。
【0065】
PLNC実験2
本実験では、抗原を含まないウェルのバックグラウンド・カウントが非常に高かった(10000cpmを超える)(図3)。それにもかからわず、ビヒクル対照が40000cpmと遥かに高かったため、結果を解釈することは可能であった。この実験の目的は、PLNC培養物のさらに丈夫なモデルを使用して、再度ペプチドを単独でおよび組み合わせて試験することであった。異なるペプチドでは、該ペプチドを誘導したT細胞受容体の異なる部分に作用するものと推測されるため(表2)、組み合わせて使用する異なる鎖に由来するペプチドは相乗的に作用するであろう。図3から明らかなように、コアペプチドでは、新しく溶解したものでも4℃で3ヶ月よりも長く保存したものでも、抗原刺激によるT細胞増殖が低減した。ペプチドPも活性を示した。ペプチドMおよびNは増殖を低減させなかった。ペプチドM+CP、CP+P、CP+P+NおよびP+N+Mの組み合わせでは、3H−チミジンが低下して個々の効果の平均にほぼ等しくなり、組み合わせたペプチドの相乗作用は見られなかった。
【0066】
T細胞系実験1
ビヒクル(0.1%酢酸20μl)のみを単独で含む対照では、未処理の陽性対照に比べて顕著にカウントが低下した(50000を超える値から約30000まで低下)(図4)。これは、ビヒクル単独では効果がなかったPLNC実験の場合とは異なっていた。100μg/mlのコアペプチドではカウントがさらに低下して約18000cpmとなり、200μg/mlのコアペプチドではカウントがさらに低下して対照レベルの約25%となった。ペプチドHおよびPも、ビヒクル対照に比べて細胞増殖を50%以上半減させた。本実験では、抗原の不在下ではバックグラウンドが約4000cpmであった。
【0067】
T細胞系実験2
先の実験の通り、T細胞系細胞にビヒクル単独で逆の作用を与え、増殖を反映するカウントを陽性対照値の約半分に低下させた(図5)。しかしながら、抗原の不在下におけるT細胞の非特異的刺激は無視することができる程度であった。コアペプチドでは、100μMの濃度ではカウントがさらに低下してビヒクル対照の約33%となり、200μMでは該対照の16%まで低下した。ペプチドMおよびNのバッファー対照(0.05Mの炭酸ナトリウム、pH9.6(ウェル中5mM))では、0.1%酢酸(ウェル中1.75mM)ほどアッセイに有害ではなく、陽性対照に比べて3H−チミジンの取り込みがわずかに低下した(データは示していない)。しかしながら、ペプチドMおよびN(100μM)はT細胞増殖に対して効果を示さなかった。ペプチドHはカウントを対照の66%まで低下させ、ペプチドPは辛うじて効果を示した。
【0068】
考察
これらの実験では、T細胞受容体ペプチドが、T細胞に初回抗原刺激を与えた特異抗原の攻撃に応答して、このT細胞増殖を抑制できることが判明した。このことは、一次リンパ節培養物と培養で樹立されたT細胞系の両者で認められた。最も意昧のある結果は、増殖を90%低下させたCPによる第一実験におけるものであった。ペプチドHでも酢酸ビヒクル対照に比べて一貫してカウントが低下したが、同程度までは低下しなかった。図2ではペプチドPが最も抑制的であり、図3および4においても有効であった。
【0069】
ペプチドの溶解度は変動しやすかった。保存溶液の濃度(1mg/mlまたは1mM)では、ほとんどのペプチド溶液が透明に見えた。例外はペプチドH、I、O、Pであり、これらは濁っているかまたは溶解しない粒子を含んでいた。従って、培養ウェルにおける溶液中の真のペプチド濃度は、これらの一部溶解するペプチドの場合には指定した濃度よりも低いであろう。コアペプチドは2mg/mlでは溶解可能であったが、5mg/mlでは完全には溶解しなかった。これらの保存溶液20μlをウェルへ添加した場合には、0.2mg/mlのCPは0.1mg/mlよりもさらに抑制的であったが、0.5mg/mlでは添加時にペプチドがウェルへ沈澱したため効果が低かった。MおよびNを除くペプチドのビヒクルは0.1%酢酸とした(ウェル中では0.01%、即ち1.75mM)。HEPES緩衝培地は効率的にこの酸度を緩衝したが、酢酸濃度だけでなく、培地も効率的に濃度が90%まで減少した。このことは、一次リンパ節細胞培養物の抗原刺激増殖には逆の作用を与えなかったが(データは示していない)、T細胞系の培養には顕著な効果を有しており、トリチウム化チミジンの取り込みを50%低減させた。これらの実験では、依然として、ビヒクル対照と比較することでペプチドの効果を測定することができた。ペプチドMおよびNを溶解するのに使用した0.05Mの炭酸ナトリウムバッファーは、酢酸ほどT細胞系に対して有害ではなかった。ペプチドLは極端に不溶性であったため、試験しなかった。興昧深いことに、CP誘導体以外でT細胞増殖を抑制した唯一のペプチドはペプチドPであり、このペプチドもTCRα鎖に由来していた。β鎖、δ鎖およびγ鎖に由来するペプチドK、MおよびNは、それぞれのバッファーに溶解した。
【0070】
要約すると、TCRαの膜貫通ドメインに対応し、2個の荷電アミノ酸を含むコアペプチドが、各実験でPLNCとT細胞系の両方の抗原刺激によるT細胞増殖の抑制に有効であった。抑制の程度は、実験によって50%〜90%の間で変化した。TCR−α鎖の細胞内ドメイン由来のペプチドであるペプチドPも活性を示したが、別のTCR鎖由来のペプチドは、これらのアッセイではT細胞の増殖をはっきりとは抑制しなかった。
【0071】
(b)in vivo
ラットにおけるアジュバント誘導関節炎に対するT細胞受容体ペプチドの効果
ペプチドを、有用性に基づいてグループ分けして試験した。以下のように、結果を4つの節に分けて報告する。
【0072】
(i)ペプチドA、B、HおよびIの試験
方法
第一の実験では、Perth Animal Resource Centre(ARC)より購入しGore Hill Animal House施設で飼育した体重が約190〜210gの12匹のラットを使用した。アジュバント(7mgのMTBを含有する0.6mlのスクアラン)に懸濁したコアペプチド(30mg)、0.6mlのアジュバントに懸濁したコアペプチド・トリス−モノパルミテート(15mg)、コアペプチド・トリス−トリパルミテート20mg(0.6mlのアジュバントあたり)を使用した。PCT/AU96/000185には脂質ペプチドコンジュゲートの方法が記載されている。
【0073】
ラットを、3匹ずつ4群に分けた。第一群には、アジュバントのみ(陽性対照)を、第二群にはアジュバントとコアペプチドを、第三群にはアジュバントに懸濁したコアペプチド・トリス−モノパルミテートを、そして最後の群にはアジュバントに懸濁したコアペプチド・トリス−トリパルミテートをそれぞれ投与した。ラットの尾の付け根に、0.1ml容量の前記化合物を注射した。ラットの体重、足の幅および尾の直径の基準値測定を0日目に行い、次いで4、7、9、14、16、18、21、25および28日目に測定を行った。顕著な腫脹、発赤および明らかな不快感があれば、関節炎を等級付けし、動物を犠牲にした。MTBを投与したすべてのラットが関節炎を発症したわけではなかった。一般に、対照ラットの80%よりも多くが関節炎を発症した。
【0074】
結果
18日後、アジュバントのみを投与した全ての対照動物が関節炎を発症し、犠牲にしなければならなかった。3匹のコアペプチド処理動物のうちの2匹(2/3)は、関節炎の形跡を示さなかった。同様に、コアペプチド・トリス−トリパルミテートを投与した3匹の動物のうちの2匹は、関節炎の形跡を示さなかった。コアペプチド・トリス−モノパルミテートとアジュバントを投与した動物は全て関節炎を発症した。しかしながら、この最後の群における関節炎の徴候および発症は、対照と比べて3〜4日遅れ、臨床的重症度は遥かに減少した(関節数、足腫張、体重減少)。
【0075】
ラットにおけるアジュバント誘導関節炎を用いる実験は、ペプチドおよびその脂質コンジュゲートが、この動物モデルにおける関節炎の誘導に対して防御的効果を有することを示した。いくつかの異なるペプチド(7mg/ラット)および薬物を用いた反復的なその後の実験の結果を、表3にまとめる。
【表3】
【0076】
上記実験の結果より、コアペプチドが炎症に影響を及ぼして、その徴候を遅らせ、重症度を減少させ、そして疾患の徴候を防ぐことが判明した。これらの効果は、シクロスポリンとアジュバントの同時投与で得られたものと同様であった。シクロスポリンは、よく知られ広く使用されている免疫抑制剤である。ペプチド作用の無差別な効果はなかった。コアペプチド、ペプチドBで最良の結果が認められた。これに対して、それぞれ荷電基アミノ酸を有さないかまたは負の荷電基アミノ酸を有するペプチドCまたはEでは効果は認められなかった。アミノ酸をカルボキシ末端の方へ下流に伸長させても、負の効果は生じなかった。この観察は、カルボキシ修飾を行っても生物学的活性が失われないことを証明するものである。従って、これらのペプチドは、他の化学的部分の送達のためのキャリアーペプチドとして使用することができる。
【0077】
(ii)ペプチドJ、K、Oの試験
方法
注射当日(0日)のウィスター系ラットの体重は平均で165gであった。21ゲージの針を用いて、1mgのMTBを含むスクアラン200μlを、この容量に懸濁させた試験ペプチドのうちの1種(7mg)と共にまたは試験ペプチドなしで、各ラットの尾の付け根に皮内注射した。ガラスシリンジを使用した。
【0078】
結果
7日目になるや否や対照ラット(MTBのみ)のうちの2匹に早期症状が観察され、11日目には重度の関節炎のためこれらのラットを犠牲にした。13日目にさらに2匹の対照を犠牲にし、17日目に5匹目を犠牲にした。5匹全ての未処理対照ラットで急性関節炎が発症した。
【0079】
(1)体重
図6に各群当たり5匹のラットの平均体重をまとめる。この図から、対照ではより重症な疾患が発症するのに対し、ペプチド処理ラットではあまり活動性ではない疾患が発症するものと判断できる。ペプチド処理群のうち、ペプチドOは最良であったが、ペプチドKおよびJは防御的(protective)であった。
【0080】
(2)足の厚み
処理および未処理ラットの足の厚みで評価した関節炎症を図7(a−d)に示す。足の腫脹の他に、足首の腫脹と個々の関節の計数を各ラットに行った。結果は、足の厚みと同様の傾向を反映している。上記実験を正確に繰り返し、同様の結果を得た。
【0081】
考察
ペプチドJおよびKの配列はそれぞれ、ジスルフィド結合の領域で、TCR−α鎖およびTCR−β鎖の細胞外ドメインから誘導されたものである。これらは効力の点で同等であり、同様の効果(T細胞による取り込みが同レベルである、他)を有するはずであるとの理論上の予測を裏付けるものである。
【0082】
ペプチドOはコアペプチドを伸長したものであり、細胞内ドメインにおけるTCR−α鎖のカルボキシ末端由来の配列を含む。ペプチドOは、MTB誘導関節炎の発症を改善する際に最も有効であり、細胞機能への影響の点では、コアペプチド由来の他の下流配列が重要である可能性を示唆している。コアペプチドはこれらの配列の最小成分である。
【0083】
(iii)ペプチドN、MおよびPの試験
方法
1mgのMTBを含む0.2mlのスクアランを、ペプチド(7mg)と共にまたはペプチドなしでラットへ投与した。上述したように、単一の部位を使用した。対照MTBラットのうち、2匹は早くに関節炎を発症し、2匹は遅れて発症し、5匹のうちの一匹は健康なままであった。これは、MTB処理ラットの80%が関節炎を発症する実験モデルと一致する。
【0084】
結果
(1)体重
図8は各群の平均体重を示す。
【0085】
(2)足首の太さ
図9(a−d)はこれらの群での足首への影響の程度を示す。足の厚みの結果は足首の太さと同様であった。ペプチドNで処理した5匹のラットは全て、実験期間内では関節炎の症状を示さなかった(図9c)。ペプチドMを投与したラットでは、結局、19日目と21日目(即ち、実験の最後)に群のうち2匹を犠牲にした。1匹のラットは症状を示さないままであった。2匹の別のラットは、中程度の疾患に罹患したが実験中に回復した。ペプチドPで処理した5匹のラットのうち、1匹はいずれの症状も発症しなかったのに対し、残りの4匹は主要ではない症状を発症したが、実験の最後まで現れない症状もあった。症状は急性関節炎と言えるものではなかったため、動物は犠牲にしなかった。足の厚みおよび足首の太さのグラフから、ペプチド処理群では、症状の早期発症が遅くなって重症度が減少したことが明らかに示唆される。
【0086】
考察
未処理対照は活動性の関節炎を発症し、明らかに最悪の群となった。ペプチドM、PおよびNは、程度に差はあるが防御的であった。
【0087】
(iv)ペプチドLを用いた実験
方法
上述と同一。21ゲージの針を用いて、1mgのMTBを含むスクアラン200μlを、この容量に懸濁させたペプチドL(7mg)と共にまたはペプチドなしで、各ラットの尾の付け根に皮内注射した。ガラスシリンジを使用した。
【0088】
結果
(i)体重
全ての対照MTB群が関節炎を発症し、18日目までに犠牲にしなければならなかった(図10)。対照的に、ペプチドL処理群ではいずれのラットも体重が減少しなかった。ラット12は麻酔が原因で死亡した。
【0089】
(ii)関節への影響
足の厚みと足首の太さの両方が対照に比べて有意に減少した(図11(a−d))。
【0090】
要約
MTB感作ラット由来の一次T細胞を使用してペプチドを試験した。この試験は直ちに成功をおさめ、CPは3H−チミジンの取り込みを抑制した。結果は、PLNCまたはin vitroで増殖させたT細胞系のいずれを使用したかにかかわらず一致し、かつ再現可能であった。CPが最も有効であり、次いでペプチドPおよびHが有効であった。in vitroの結果が溶解度の高いペプチドほど有利なように偏っていることを忘れてはならない。
【0091】
アジュバントは関節炎モデルを誘導した。表4は、試験したペプチドの有効性を示すin vivo実験をまとめたものである。ペプチドJ、O、NおよびLは疾患の誘導に非常に有効であった。同様に、ペプチドK、MおよびPでは、疾患誘導の遅れと重症度に対して応答がまちまちであった。
【表4】
【0092】
当業者であれば、広く記載している本発明の概念または範囲から逸脱することなく、具体的な実施態様で示している本発明に対して数多くの変形および/または改変を行うことが可能なことは明らかであろう。従って、本実施態様は、全ての点において、限定的ではなく例示と見なされるべきである。
【0093】
参考文献
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1a】T細胞による抗原認識とそれに続く下流の事象を模式的に表したものである。可能な介入部位としては、三分子複合体、T細胞、T細胞表面分子、サイトカイン、細胞のリクルートメント、および触媒酵素が挙げられる。
【図1b】可能な介入部位を有する三分子複合体。
【図2】初回抗原刺激を受けたリンパ節細胞に対するペプチドの効果。平均および標準誤差を示す(n=4)。ペプチドの最終濃度は100μg/mlとし、20μlの0.1%酢酸を入れたウェルヘ添加した。
【図3】初回抗原刺激を受けたリンパ節細胞に対するペプチドの効果。4個のウェルの平均および標準誤差を示す。コアペプチド(CP)は、新たに溶解したもの(fresh)と溶液状態で少なくとも3ヶ月間4℃に置いたもの(old)のいずれかとした。
【図4】MTBに特異的なラットT細胞系に対するペプチドの効果。4個のウェルの平均および標準誤差を示す。ペプチドはウェル当たり100μMとし、保存溶液は0.1%の酢酸溶液中1mMとした。
【図5】MTB特異的T細胞系に対するペプチドの効果。平均および標準誤差を示す(n=4)。ペプチドの最終濃度は明記したもの以外は100μMとした。0.1mg/mlのコアペプチド(CP)は87μMである。
【図6】処理または未処理ラットの体重。各群につき5匹のラットの平均および標準誤差を示す。
【図7a】未処理ラットの足(paw)の厚み。各点は各ラットの両方の後足の平均を示す。
【図7b】ペプチドJで処理したラットの足の厚み。各点は各ラットの両方の後足の平均を示す。
【図7c】ペプチドOで処理したラットの足の厚み。各点は各ラットの両方の後足の平均を示す。
【図7d】ペプチドKで処理したラットの足の厚み。各点は各ラットの両方の後足の平均を示す。
【図8】未処理ラット(MTBのみ)および処理ラット(ペプチドN、M、P)の体重。各群につき5匹のラットの平均および標準誤差を示す。
【図9a】未処理ラットの足首の太さ。各点は個々の足首関節の太さを示す。
【図9b】ペプチドMで処理したラットの足首の太さ。各点へ個々の足首関節の太さを示す。
【図9c】ペプチドNで処理したラットの足首の太さ。各点は個々の足首関節の太さを示す。
【図9d】ペプチドPで処理したラットの足首の太さ。各点は個々の足首関節の太さを示す。
【図10】ペプチドLで処理したラットおよび未処理ラットの体重。各群につき5匹のラットの平均および標準誤差を示す。
【図11a】未処理ラットの足の厚み。各点は個々の後足の厚みを示す。
【図11b】ペプチドLで処理したラットの足の厚み。各点は個々の後足の厚みを示す。
【図11c】未処理ラットの足首の太さ。各点は個々の足首関節の太さを示す。
【図11d】ペプチドLで処理したラットの足首の太さ。各点は個々の足首関節の太さを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞の機能を干渉するように設計された新規なペプチドに関するものであり、そのため、該新規なペプチドは、様々な炎症性疾患および自己免疫疾患の状態の治療に使用できるようになる。特に、該ペプチドは、T細胞が関与しているかまたはリクルート(recruited;動員、漸増)されている障害の治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
T細胞受容体のアセンブリ
T細胞は、他の免疫細胞型(多形核、好酸球、好塩基球、肥満細胞、B細胞、NK細胞)と共に免疫系の細胞成分を構成する細胞のサブグループである。生理的条件下では、T細胞は免疫監視および外来抗原排除において機能する。しかしながら、病理的条件下では、T細胞が疾患の発生および伝達に大きな役割を果たしているという確固たる証拠がある。これらの障害では、中枢的または末梢的のいずれかのT細胞免疫トレランスの破綻が、自己免疫疾患の発生の基本的な過程となっている。
【0003】
中枢的トレランスには、自己反応性細胞の胸腺除去(負の選択)および自己主要組織適合複合体抗原(MHC)に対して低い親和性を有するT細胞の正の選択が関与している。これに対して、組織特異的自己免疫疾忠の予防に関与している末梢的T細胞トレランスを説明するために提案されている4つの非相互排除仮説(non-mutually exclusive hypotheses)がある。これらには、アネルギー(共刺激シグナルの喪失、T細胞活性化のために重要な受容体のダウンレギュレーション)、反応性T細胞の欠失、免疫系による抗原の非認識、および自己反応性T細胞の抑制が含まれる。一旦誘導されたトレランスは、必ずしも無限に持続するわけではない。これらのメカニズムのいずれかの破綻により、自己免疫疾患が生じることがある。
【0004】
自己免疫疾患および他のT細胞媒介性障害は、炎症部位へのT細胞のリクルートメント(recruitment)により特徴づけられる。この部位のT細胞は、サイトカインを産生し調節してB細胞機能に影響を及ぼす能力を有し、免疫応答を調整し、最終的な臨床結果を形成する。したがって、T細胞抗原の認識およびそれに続く、T細胞の増殖および分化につながるT細胞活性化の過程を理解することは、健康および疾患の両方を考える上で非常に重要である。抗原認識とT細胞活性化とを統合するT細胞抗原受容体のこの複雑な構造−機能関係を妨害することにより、炎症およびT細胞媒介性疾患を治療する手段が得られるかもしれない。
【0005】
TCRは、少なくとも7つの膜貫通タンパク質よりなる1。ジスルフィド結合で連結した(αβ−Ti)ヘテロ二量体がクロノタイプ抗原認識単位を形成し、一方、ε、γ、δおよびζ、η鎖よりなるCD3の非変異鎖は、シグナル伝達経路に該リガンド結合を結び付け、その結果、T細胞活性化および細胞性免疫応答の修飾(elaboration)が生じる。TCR鎖の遺伝子多様性にもかかわらず、2つの構造的特徴がすべての既知サブユニットに共通している。第1に、それらは、単一の膜貫通伸長ドメイン(おそらくα−ヘリックス状)を有する膜貫通タンパク質である。第2に、該TCR鎖のすべては、予想される膜貫通ドメイン内に荷電アミノ酸を有するという独特の特徴を有する。非変異鎖はマウスとヒトとの間で保存されている単一の負電荷を有し、変異鎖は1つの(TCR−β)または2つの(TCR−α)正電荷を有する。以下の表1に、いくつかの種のTCR−αの膜貫通配列を示す。この表より、この領域が高度に保存されていること、および系統発生的に重要な機能的役割を促進し得ることが判る。親水性アミノ酸であるアルギニンおよびリシンを含むオクタペプチド(太字)は種の間で同一である。膜貫通配列の残りの部分で認められるアミノ酸置換は取るに足らないものであり、保存的である。
【表1】
【0006】
TCR−αとCD3−δ、およびTCR−αとCD3−εとの間の安定な相互作用がTCR−αの膜貫通ドメイン内の8つのアミノ酸に局在し、この過程に非常に重要なのは荷電アミノ酸であるアルギニンおよびリシンであることが、Manoliosら2,3,4による多成分TCRのアセンブリ(assembly)に関する研究で示された。この知見は、該膜貫通ドメイン内のアミノ酸がアンカータンパク質に対して作用するだけでなく、サブユニット複合体のアセンブリおよびタンパク質−タンパク質相互作用において重要であるという事実を例示するものである。この複合受容体のアセンブリは、わずか8つのアミノ酸によって決定(hinge on)され得ることが初めて判明した。前記の系は、多数のタンパク質突然変異体をつくる相補鎖DNA(cDNA)の修飾に依存的であった。キメラcDNA分子をCOS細胞中にトランスフェクションして、必要なタンパク質を発現させた。これらのキメラタンパク質の同時発現により相互作用領域を評価した。その技術はcDNA操作、代謝標識、免疫沈降法およびゲル電気泳動を含むものであった。膜貫通ドメインは小さく、この領域を横切るタンパク質は、α−ヘリックス立体配置に拘束される。これらの生物物理学的特徴を、膜貫通荷電基を介したタンパク質−タンパク質相互作用を操作する能力と組合せることにより、TCR機能に介入しそれを潜在的に妨害するための可能な新しいアプローチが示唆された。可能性のあるアセンブリのインヒビターとしてのペプチドの使用、並びにこのペプチドを可能性のある治療剤として認識し適用してT細胞の機能を妨害することは、一般的なことでもなければ自明な範囲(extension)でもなかった。
【0007】
同時係属中の国際特許出願第PCT/AU96/00018号において、本発明者らは、TCR機能を妨害するペプチドを開発した。この出願の開示内容は、相互引用により本明細書中に組み入れるものとする5。
【0008】
炎症性疾患の治療におけるバイオロジクス
過去10年間において、いわゆる「バイオロジクス(Biologics)」により治療薬の新しい時代が始まった。バイオロジクスは、疾患過程の基盤をなすと考えられる免疫学的ネットワークおよびカスケードを妨害するという特別の目的で、特定の個々の細胞および細胞中に存在する分子をターゲッティングすることを目的とする。リウマチ様関節炎の疾患モデルは生物学的薬剤設計の好例であり、多くの様々なアプローチが創案され試験されている6。このモデルから、最初の関節炎形成ペプチド(arthritogenic peptide)が抗原提示細胞(APC)によってT細胞に提示されると、T細胞の活性化並びにサイトカインやプロテアーゼの放出が引き起こされ、これは慢性炎症および関節(joint)の損傷において最高に達することが予想される(図1a)。このモデルに基づいて多数の異なる潜在的治療戦略が創案されており、これらの戦略を用いてTCRとMHCと抗原(三分子複合体)の間の相互作用を干渉し、それによって免疫応答に影響を与える。循環しているリンパ球の数を減少させるという初期の治療の試みとしては、結節への放射線照射7、胸管ドレナージ8およびリンパ球除去9が挙げられる。リンパ球介入の新たなサイトには図1a中で番号付けしてあり(1〜5)、T細胞を排除するかまたはT細胞の機能を調節するためのモノクローナル抗体(MAb)および病原性T細胞に対するT細胞ワクチンの使用、抗原ペプチドと競合させるための類似ペプチドの合成、並びにサイトカイン作用抑制および後続するT細胞の活性化を含む。これらの新らしい免疫調節による治療アプローチは、自然にまたは実験的に誘導された自己免疫疾患の動物モデルに適用されており、有望な結果が得られている。これらのアプローチは現在、ヒトの自己免疫疾忠において使用されつつある6。さらに新しいアプローチでは、抗原とT細胞とMHCとの分解しやすい三分子複合体を干渉することによってT細胞を排除または調節することに注目している。抗原はB細胞および/またはT細胞によって認識され、そして後続の事象はこの相互作用に基づいて起こるという理由から、本発明者らは、初期の抗原認識事象(三分子複合体)を干渉することが、どのような下流の細胞およびサイトカインの事象が起こるのかとは無関係に、疾患の発症に対して大きな効果を有するのではないかと推論した。
【0009】
治療介入部位としての三分子複合体は注目の主題である。何故ならば、該三分子複合体の構成成分の分子特性決定における最近の進歩により、免疫介入のための幾つかのアプローチが得られているからである。治療の目的は、様々な手段によりT細胞の応答を排除、阻止またはダウンレギュレートすることである(図1b)。
【0010】
(i)T細胞抗原に対するMAb。RAの治療におけるMAbの使用は、多数の著者によって概説されている5,10,11。試験したMAbは、以下の範囲の各種抗原に対するものであった:(a)全ての成熟T細胞に存在し、RAの病原(CD5、CDw52)に関与すると思われるもの12,13;(b)T細胞サブセット(CD4)に特異的なMAb(これは、免疫抑制効果が限定されるという利点を有する14,15);および(c)T細胞活性化抗原(IL−2受容体)に対するMAb(これは、抗原に応答して活性化T細胞を特異的に抑制し得る16,17)。用いたMAbは全て齧歯類由来であり、CAMPATH−1Hだけは組換えcDNA法により「ヒト化」しておいた。臨床研究では、これらのMAbが患者の体内で十分に減感作(寛容)され、好ましい臨床的応答を誘導できることが示される。副作用としては、齧歯類抗体に対する免疫反応が含まれ、これにより反復使用が制限される可能性がある。
【0011】
(ii)抗MHC療法。免疫原性の研究により、MHC分子(DR1 DR4、Dw4およびDR4Dw14)がRA感受性にとって重要であることが実証されている16。MHC分子は抗原ペプチドをT細胞に提示するので、免疫介入についての別の標的を提供する。これらの分子の機能は、(抗原結合部位に対する)MAbの使用19またはMHCの溝への競合ペプチドの高親和性結合(後記を参照)のいずれかによって干渉され得る。MHC分子に対するMAbは、幾つかの自己免疫の動物モデル20,21およびヒト22において疾患の開始を干渉する。
【0012】
(iii)ペプチドの競合。抗原のT細胞認識は、MHC分子の抗原結合部位をブロックし、かつT細胞応答を抑制する高親和性MHC結合性ペプチドを用いることにより破壊できる。或る特定のアミノ酸残基を置換することにより、「デザイナー」ペプチドを得ることが可能になる。この「デザイナー」ペプチドは、MHC分子に対して高い親和性を有するが、T細胞を活性化しない23。この療法には特異性という利点があり、全身性免疫抑制を引き起こすことはない。
【0013】
(iv)T細胞ワクチン接種。この形態の療法には、T細胞オリゴクローン性を示す疾患に対して有望である。この概念は、病原性T細胞クローンを得、これらの細胞に対してワクチン接種を行うことであり、これは利用可能なT細胞レパートリーからそれら細胞を排除しようとするものである。さらに改良された別のワクチン接種方法は、抗原の認識に関与するT細胞受容体配列に相当するペプチドを合成することである。そのようなペプチドでワクチン接種した自己免疫動物モデルは、合成ペプチドを用いれば機能性T細胞クローンをブロックすることが可能になる、という見解を支持するものである24,25。これらの抗TCR戦略がリウマチ様疾患に適用できるかどうかは、自己反応性細胞(autoreactive cells)のオリゴクローン性と、該細胞の特定のTCRが利用されるかに依存する。依然として諭争中のことではあるが、特定のTCRレパートリー利用の証拠がRAにおいて報告されている26,27。
【0014】
(v)サイトカイン療法。RAに罹患している忠者の滑液分析を行ったところ、顆粒球−マクロフアージコロニー刺激因子(GM−CSF)、γ−インターフェロン(IFN−γ)、インターロイキン−1(IL−1)および腫瘍壊死因子(TNF−α)を含む多数のサイトカインの存在が示された28。サイトカインは細胞と相互作用し、協調して免疫や炎症の応答に作用する。サイトカインは、プロ炎症性(pro-inflammatory)または抗炎症性のいずれかに分類できる。IL−1およびTNF−αは前者のグループであり、相乗的に作用する。TNF−αはまた、IL−1の発現を調節する主要なサイトカインの1つでもある28。それらのサイトカインは非常に重要であるので、それらの調節または産生を干渉する試みは疾患の結果に対して正の効果を有するかもしれない29,30。関節炎に罹患しているラットおよびマウスにIL−1受容体アンタゴニストを投与することは、関節障害の重篤度を低下させ、ヒトの疾患ではフエーズII(phaseII)の研究段階にある。IL−2受容体に対するMAbの治療目的の使用は一過性の効果がある31。サイトカインの大きなグループに対する受容体がクロ−ニングされ、配列決定されており(DowerおよびSimsにより概説されている)32、現在臨床評価を行っているところである33。もしかすると、サイトカイン受容体の可溶性の形態のものを用いて、リガンド型の相互作用によりサイトカインを封鎖し、それにより炎症を軽減することができるかもしれない。シクロスポリンAは、T細胞のサイトカイン産生を調節するものであり、幾つかの試行に用いたところ、良好な臨床的応答が得られている。しかしながら、それに付随する腎毒性のために、シクロスポリンAの使用は制限を受ける34。
【0015】
(vi)受容体のアセンブリにとって重要なタンパク質配列から誘導されるペプチドの使用により細胞機能を破壊できることは最近になって公表されたにすぎず35、これはバイオロジクスを用いる新しいアプローチである(これは、生物学的作用機構の図式(schema)に含めることができるかもしれない)。すなわち、ペプチドを用いることによって受容体のアセンブリを「混乱させる(disorganising)」ことによる細胞機能の破壊である。意図的に、選択したペプチドは、CD4細胞とCD8細胞の双方に共通の共通膜貫通配列に対応するものとしたが、それ以外のTCR鎖相互作用のユニークな部位は現在研究中である。特に、細胞外ドメインにおける抗原認識鎖間の相互作用は、特定のVα/Vβを用いた場合には、個々の病原性T細胞クローンに対するペプチドの創案に有用となり得る。
【発明の開示】
【0016】
本発明者らは今回、TCRの機能を(おそらくアセンブリを干渉することによって)妨害する更に新規なペプチドを開発した。これらのペプチドは、(i)コアペプチド、(ii)別の鎖アセンブリ領域に対応するペプチド(すなわち、CD3−δ、−ε、−γ鎖);(iii)新たなアセンブリ部位(すなわち、鎖間ジスルフィド結合);および(iv)コアペプチドの下流配列に由来する配列をベースとするものである。本発明者らはまた、これらのペプチドがT細胞媒介性の炎症に効果があることも見出した。投与したペプチドの有効な臨床的発現とは、例えば関節炎のアジュバントモデルにおける関節炎の軽減によって実証されるような炎症の軽減である。
【0017】
したがって、第1の態様において、本発明は、以下の配列:
R1−A−B−A−R2
[配列中、
Aは疎水性アミノ酸または2〜10個のアミノ酸を含む疎水性ペプチド配列であり;
Bは荷電アミノ酸であり;
R1はNH2であり;そして
R2はCOOHである]
を有する、TCR機能を抑制するペプチドを提供する。
【0018】
「疎水性ペプチド配列」とは、少なくとも1個の疎水性アミノ酸を含み、かつ荷電アミノ酸を含まない配列を意昧する。好ましくは、該疎水性ペプチド配列を構成するアミノ酸の少なくとも50%が疎水性アミノ酸である。さらに好ましくは、該疎水性ペプチド配列を構成するアミノ酸の少なくとも80%が疎水性アミノ酸である。
【0019】
本発明の好ましい実施態様において、Aは2〜6個のアミノ酸を含むペプチドである。
【0020】
本発明の1つの好ましい実施態様において、該ペプチド配列は、TCR−α膜貫通鎖から誘導されるものである。この実施態様の1つの好ましい態様では、Bは正に荷電したアミノ酸であり、好ましくはBはリシンまたはアルギニンである。
【0021】
本発明のさらに好ましい実施態様において、該ペプチドは、以下の配列を含む:
NH2-Ile-Leu-Leu-Leu-Lys-Val-Ala-Gly-Phe-COOH、
NH2-Ile-Leu-Leu-Leu-Lys-Val-Ala-Gly-COOH、
NH2-Leu-Arg-Ile-Leu-Leu-Leu-Gly-Val-COOH、
NH2-Leu-Gly-Ile-Leu-Leu-Leu-Lys-Val-COOH、
NH2-Ile-Leu-Leu-Gly-Lys-Ala-Thr-Leu-Tyr-COOH、または
NH2-Met-Gly-Leu-Arg-Ile-Leu-Leu-Leu-COOH。
【0022】
さらに好ましい実施態様において、該ペプチド配列は、TCR−α細胞内鎖から誘導される。この実施態様の好ましい態様では、該ペプチドは、以下の配列を含む:
NH2-Leu-Leu-Met-Thr-Leu-Arg-Leu-Trp-Ser-Ser-COOH。
【0023】
さらに別の実施態様において、該ペプチド配列は、膜貫通CD3−δ、−εまたは−γ鎖の配列から誘導される。この好ましい実施態様では、Bは負に荷電したアミノ酸であり得る。
【0024】
さらに好ましい実施態様では、該ペプチド配列は、CD3−δまたは−ε鎖から誘導される。この好ましい実施態様では、Bはアスパラギン酸であり得る。この実施態様の特に好ましい態様では、該ペプチドは以下の配列を含む:
NH2-Ile-Ile-Val-Thr-Asp-Val-Ile-Ala-Thr-Leu-COOH、または
NH2-Ile-Val-Ile-Val-Asp-Ile-Cys-Ile-Thr-COOH。
【0025】
さらにもう1つの実施態様において、該ペプチド配列は、CD3−γ鎖から誘導される。この好ましい実施態様では、Bはグルタミン酸であり得る。この実施態様の特に好ましい態様では、該ペプチドは以下の配列を含む:
NH2-Phe-Leu-Phe-Ala-Glu-Ile-Val-Ser-Ile-COOH。
【0026】
第2の態様において、本発明は、TCR−α細胞内鎖から誘導され、かつ以下の配列:
NH2-Ala-Gly-Phe-Asn-Leu-Leu-Met-Thr-COOH
を含んでなる、TCR機能を抑制するペプチドを提供する。
【0027】
さらに、TCR−αβ鎖間ジスルフィド結合は、T細胞のアセンブリおよび後続する抗原ペプチドによる活性化において重要な役割を担っていることも判明した。
【0028】
したがって、本発明はさらに、TCR−α鎖とTCR−β鎖との鎖間システイン結合を不安定にし、T細胞の活性化を抑制する新規なペプチドも提供する。
【0029】
したがって、第3の態様において、本発明は、以下の配列:
R1−A−B−C−R2
[配列中、
Aは0〜5個のアミノ酸からなるペプチド配列であり;
Bはシステインであり;
Cは2〜10個のアミノ酸からなるペプチド配列であり;
R1はNH2であり;そして
R2はCOOHである]
を有する、TCRの機能を抑制するペプチドを提供する。
【0030】
本発明の好ましい実施態様において、Aは5個のアミノ酸からなるペプチド配列である。
【0031】
1つの実施態様において、該ペプチドはTCR−β鎖から誘導される。好ましくは、Cは4または5個のアミノ酸からなるペプチド配列であり、かつ少なくとも1個の疎水性アミノ酸を含む。好ましい実施態様において、該ペプチドは、以下の配列を有する:
NH2-Tyr-Gly-Arg-Ala-Asp-Cys-Gly-Ile-Thr-Ser-COOH、
NH2-Trp-Gly-Arg-Ala-Asp-Cys-Gly-Ile-Thr-Ser-COOH、または
NH2-Tyr-Gly-Arg-Ala-Asp-Cys-Ile-Thr-Ser-COOH。
【0032】
もう1つの実施態様において、該ペプチドはTCR−α鎖から誘導される。この実施態様において、該ペプチドは好ましくは以下の配列を有する:
NH2-Ser-Ser-Asp-Val-Pro-Cys-Asp-Ala-Thr-Leu-Thr-COOH。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
当業者であれば、本発明のペプチドに、該ペプチドの生物学的活性に有害な影響を及ぼすことなしに多くの修飾を施すことも可能であることが理解されよう。このような修飾は、ペプチド配列内での保存的または非保存的な挿入や置換などの種々の改変(changes)によって達成できる(但し、そのような改変は該ペプチドの生物学的活性を実質的に低下させないものとする)。
【0034】
本明細書中で意図するペプチドの修飾には、側鎖の修飾、ペプチド合成の際に行われる非天然アミノ酸および/またはそれらの誘導体の組み入れ、架橋剤の使用、並びにペプチドに立体配置上の拘束を課す他の方法が挙げられるが、それらに限定されない。
【0035】
本発明で意図する側鎖の修飾の例としては、例えば、アルデヒドと反応させた後でNaBH4で還元することによる還元的アルキル化;メチルアセトイミダートによるアミド化;無水酢酸によるアシル化;シアナートによるアミノ基のカルバモイル化;2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)によるアミノ基のトリニトロベンジル化;無水コハク酸および無水テトラヒドロフタル酸によるアミノ基のアシル化;並びにピリドキサル−5'−ホスフェートでリシンをピリドキシル化した後でのNaBH4による還元;等によるアミノ基の修飾が挙げられる。
【0036】
アルギニン残基のグアニジン基は、2,3−ブタンジオン、フェニルグリオキサールおよびグリオキサールのような試薬による複素環式縮合生成物の形成により修飾できる。
【0037】
カルボキシル基は、O−アシルイソ尿素形成によりカルボジイミドを活性化した後で、例えば対応するアミドへ誘導することにより修飾できる。
【0038】
トリプトファン残基は、例えば、N−ブロモコハク酸イミドによる酸化または2−ヒドロキシ−5−ニトロベンジルブロミドまたはスルフェニルハライドによるインドール環のアルキル化によって修飾できる。一方、チロシン残基は、テトラニトロメタンによりニトロ化して3−ニトロチロシン誘導体を形成することにより改変できる。
【0039】
ヒスチジン残基のイミダゾール環の修飾は、ヨード酢酸誘導体によるアルキル化またはジエチルピロカーボネートによるN−カルベトキシル化により達成できる。
【0040】
ペプチド合成の際に行われる非天然アミノ酸および誘導体の組み入れの例としては、ノルロイシン、4−アミノ酪酸、4−アミノ−3−ヒドロキシ−5−フェニルペンタン酸、6−アミノヘキサン酸、t−ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、サルコシン、4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−メチルヘプタン酸、2−チエニルアラニンおよび/またはアミノ酸のD異性体の使用が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
本発明のペプチドは、当業者に周知の技術を使用して合成することが可能である。例えば、Nicholson編、Blackwell Scientific Publications出版の「Synthetic Vaccines(合成ワクチン)」と題する刊行物に含まれているAthertonおよびSheppard著「Peptide Synthesis(ペプチド合成)」第9章に記載されているような溶液合成または固相合成を使用してペプチドを合成してもよい。好ましくは固相担体を使用する。この固相担体は、ポリスチレンを少量のジビニルベンゼン(約1%)で架橋させてもよいポリスチレンゲルビーズであってよく、ジクロロメタンまたは極性のさらに高い溶剤(例えば、ジメチルホルムアミド(DMF))等の親油性溶剤でさらに膨潤させる。ポリスチレンはクロロメチル基またはアミノメチル基で官能化させてもよい。あるいは、架橋させた官能化ポリジメチル−アクリルアミドゲルが用いられ、これは、DMFおよび他の双極性非プロトン(dipolaraprolic)溶剤で高度に溶媒和させて膨潤させてもよい。通常不活性なポリスチレンビーズの表面にグラフトもしくは結合させた、ポリエチレングリコールをベースとする他の担体を用いることも可能である。好適な態様では、PAL−PEG、PAK−PEG、KA、KRまたはTGRから選ばれる市販の固体担体または樹脂を使用することができる。
【0042】
固相合成では、α−アミノ基、カルボキシ基または側鎖官能基における望ましくない反応性をマスキングすること、およびアミノ酸およびペプチドの双極特性を破壊して不活化すること、という二つの機能を有する可逆的な保護基(blocking group)を使用する。このような官能基は、t−ブトキシカルボキシルまたはRCO−誘導体として知られる構造RCO−OCMe3−CO−NHRのt−ブチルエステルから選択することができる。構造RCO−OCH2−C6H5を有する対応のベンジルエステルおよびベンジルオキシカルボニルまたはZ−誘導体として知られる構造C6H5CH2OCO−NHRを有するウレタンを使用してもよい。フルオレニルメタノールの誘導体、特にフルオレニル−メトキシ−カルボニルまたはFmoc基を使用してもよい。これらの種類の保護基はそれぞれ、お互いの存在下で独立に開裂することができ、そのため、例えばBOC−ベンジル保護法およびFmoc−第三級ブチル保護法が頻繁に使用される。
【0043】
保護したアミノ酸またはペプチドのアミノ基およびカルボキシ基を連結するため、縮合剤についても言及しなければならない。この連結は、カルボキシ基を活性化して遊離の第一級または第二級アミンと自発的に反応させることにより行うことができる。このためには、p−ニトロフェノールおよびペンタフルオロフェニルから誘導したような活性化エステルを用いることができる。1−ヒドロキシベンゾトリアゾール等の触媒を添加することにより、これらのエステルの反応性を増加させることが可能である。トリアジンDHBTのエステル(上記Nicholsonの参考文献の215〜216頁に述べられている)を使用してもよい。カルボン酸(即ち、Na−保護アミノ酸またはペプチド)を縮合試薬で処理することにより別のアシル化種をin situで形成し、直ちにアミノ成分(カルボキシ保護すなわちC−保護アミノ酸またはペプチド)と反応させる。BOP試薬であるジシクロヘキシルカルボジイミド(Nicholsonの参考文献の216頁を参照)、o−ベンゾトリアゾール−N,N,N’N’−テトラメチル−ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)およびそのテトラフルオロボレート類似体が、頻繁に使用される縮合剤である。
【0044】
一番目のアミノ酸の固相担体への結合は、任意の適切な方法でBOC−アミノ酸を使用して行うことができる。一つの方法では、トリエチルアンモニウム塩をクロロメチル樹脂と加温することによりBOCアミノ酸を該クロロメチル樹脂へ結合させる。Fmoc−アミノ酸は、同様の方法でp−アルコキシベンジルアルコール樹脂へ結合させることができる。あるいは、各種連結剤または「ハンドル」を使用して一番目のアミノ酸を樹脂へ結合させてもよい。この点に関しては、アミノメチルポリスチレンに結合させたp−ヒドロキシメチルフェニル酢酸を使用することが可能である。
【0045】
各種基を本発明のペプチドへ付加して、該ペプチドの生物学的活性を実質的に低下させることなく、効力を増加させたり、またはin vivoでの半減期を延長させたりといった利点を付与することも可能である。生物学的活性を低下させることのない本発明のペプチドに対するこのような修飾は、本発明の範囲内にあるものとする。
【0046】
本発明の別の態様は、本発明の第一、第二または第三態様のペプチドと製剤学上許容される担体とを含んでなる治療用組成物を提供するものである。
【0047】
本発明の別の態様は、T細胞が関与しているまたはリクルート(recruited、動員、漸増)されている障害に罹患した被験者の治療方法であって、本発明の第一、第二または第三態様のペプチドの治療上有効な量を被験者に投与することを含んでなる前記方法を提供するものである。
【0048】
上記治療用組成物は、当業者に認知されるいずれの適当な経路により投与してもよい。このような経路としては、経口、経皮、鼻内、非経口、関節内、眼内などが挙げられる。
【0049】
別の態様では、本発明は化学的部分を細胞へ送達する方法であって、本発明の第一、第二または第三態様のペプチドに結合した化学的部分に細胞をさらすことを含んでなる前記方法からなる。
【0050】
好適な実施態様では、化学的部分をペプチドのカルボキシ末端へ結合させる。
【0051】
T細胞が関与している/リクルートされている障害としては以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない:
アレルギー体質、例えば遅延型過敏症、接触皮膚炎、
自己免疫疾患、例えばSLE、リウマチ様関節炎、多発性硬化症、糖尿病、ギラン−バレー症候群、橋本病、悪性貧血、
胃腸病学的症状、例えば炎症性腸疾患、クローン病、原発性胆汁性肝硬変、活動性慢性肝炎、
皮膚問題、例えば乾癬、尋常性天庖瘡、
感染性疾患、例えばAIDSウイルス、単純/帯状ヘルペス、
呼吸症状、例えばアレルギー性肺胞炎、
心臓血管問題、例えば自己免疫心膜炎、
臓器移植、
炎症症状、例えば筋炎、強直性脊椎炎、
T細胞が関与している/リクルートされている任意の障害。
【0052】
本明細書中で用いる「被験者」なる語は、ヒトおよびヒト以外の動物の両方を包含するものとする。
【0053】
本発明のペプチドは、活性を失うことなくカルボキシ末端を修飾することが可能である。従って、本発明はその範囲内に、本発明のペプチドの「コア」配列に対して追加のアミノ酸を含み、かつT細胞抗原受容体に作用するペプチドを包含するものとする。
【0054】
本発明のペプチドは、細胞へ侵入可能であると考えられる。従って、他の用途は別として、本発明のペプチドを、他の治療薬を細胞へ送達するための「キャリアー」として用いることができると考えられる。このことは、例えば、細胞内へ送達すべき治療薬を本発明のペプチドへ結合させることにより達成することができるであろう。
【0055】
当業者であれば容易に理解できるように、疎水性アミノ酸は、Ala,Val、Leu、Ile、Pro、Phe、TyrおよびMetであり、一方、正に荷電したアミノ酸はLys、Arg、およびHisであり、負に荷電したアミノ酸はAspおよびGluである。
【0056】
本発明の性質の理解がより明確となるように、以下、実施例および図面を参照して本発明の好ましい態様を説明する。
【実施例】
【0057】
実験方法
ペプチド合成
FMOC化学を用いた固相合成により手動でペプチドを合成した。HPLCで評価した純度が75%を超える未保護のペプチドをAuspep(Melbourne,Australia)から購入した。内包された仕様書の例を付録として添付する。細胞培養に使用する0.1%酢酸に溶解したペプチドの最終濃度は、10μM〜200μMとした。in vivo実験用には、ペプチドをスクアラン油(2−,6−,10−,15−,19−,23−ヘキサメチルテトラコサン)に溶解/懸濁した。
【0058】
細胞
以下の細胞系を使用した:細胞表面上に完全な抗原受容体を発現し、かつ抗原認識(シトクロムc)後にIL−2を産生するマウスT細胞ハイブリドーマである2B4.11;従来の生物学的IL−2アッセイに使用されるインターロイキン−2依存性T細胞系(CTLL);および抗原提示細胞として作用するB細胞ハイブリドーマ細胞系LK35.2(LK,I−EK担持)。ハイブリドーマはT細胞用培地(10%ウシ胎児血清(FCS)、ゲンタマイシン(80μg/ml)、グルタミン(2mM)およびメルカプトエタノール(0.002%)を含有するRPMI−1640培地)中で増殖させた。アフリカミドリザル腎繊維芽細胞系(COS)は、10%FCSを補足したダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)中で増殖させた。
【0059】
抗原提示アッセイ35
マウスT細胞2B4.11ハイブリドーマ(2×104個)をマイクロタイターウェル中でLK35.2抗原提示B細胞(2×104個)および50μMハト・シトクロムcと共に培養した。16時間後、50μlのアッセイ上清を採取し、IL−2の有無をアッセイした。この上清を培地で連続2倍希釈し、IL−2依存性T細胞系CTLLと共に培養した。16時間後、CTLL細胞を3H−チミジンで4時間パルスし、IL−2の測定値を求めた(IU/ml)。試験したペプチドは以下の通りである:CP、A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、L、M、N、OおよびP(表2)。ペプチドLは非常に不溶性のためin vitroでは試験しなかった。ペプチドを10μM〜200μMの最終濃度にて抗原提示アッセイで試験した。
【0060】
初回抗原刺激を受けたリンパ節細胞(PLNC)
オスのウィスター系ラットの尾の付け根に、熱不活性化Mycobacterium tuberculosis(マイコバクテリウム−ツベルクローシス)(MTB)1mgを0.2mlのスクアランに懸濁させたものを皮内注射した。急性関節炎が十分に発症したら、10〜16日後にラットを犠牲にして腫脹した膝窩リンパ節を摘出し、無菌条件下で組織を目の細かいメッシュに押し付けて単一細胞懸濁液を調製した。細胞を完全培地で洗浄し、再度懸濁して計数した。2匹のラットから約3.5×108個の生育可能な細胞を得た。使用した培地は、25mMのHepes、ペニシリン(100μg/ml)、ストレプトマイシン(80μg/ml)、2.5×10−5Mの2−メルカプトエタノールおよび2%のプールしておいた正常ラット血清を補足したRPMI1640であった。細胞を平底96ウエルマイクロタイタープレートのウエルへ2×105個/ウェルにてピペットで移し、MTBの懸濁液を添加して最終濃度を100μg/mlとした。ペプチドを20μl容量でウェルへ添加し、最終濃度を100μg/mlぺプチド(または100μM)および0.01%酢酸とし、ウェル当たりの総量を200μlとした。プレートを37℃、5%CO2で3日間加湿インキュベーター内にてインキュベートし、3H−チミジンを含む培地25mlをウェル当たり1μCiでパルスした。さらに一晩インキュベートした後、培養物を自動細胞収集器を用いて回収し、β−シンチレーションスペクトロメーターで計数した。
【0061】
T細胞系
Sedgwickら(1989)37による方法を使用した。MTBで免疫したラット由来のPLNCを1ml当たり5×106個にて75cm2培養フラスコで培養した(総量は50mlであり、100μg/mlのMTBを含有する)。3日後、細胞を遠心して沈澱させ、15mlの遠心管中で2mlの培地に再懸濁し、3mlのフィコール(Ficoll)−ジアトリゾエート(9.9%Ficoll400;9.6%ナトリウム・ジアトリゾエート)に重層し、800gで20分間遠心分離した。T細胞ブラストを界面から回収して2回洗浄し、10%FCSと15%conA刺激脾細胞上清(IL−2源として)とを補足した培地中に1ml当たり2×105個で再懸濁させた。残りの相を4日間培養した後、1ml当たり2×105個のT細胞を、抗原と1ml当たり107個の同系ラットの胸腺細胞(抗原提示細胞として作用)とで再度刺激した。このラット胸腺細胞は、25μg/mlのマイトマイシンCで20分間37℃にてインキュベートすることにより不活化し、3回入念に洗浄しておいた。培養物50mlを75cm2フラスコへ入れ、抗原であるMTBを100μg/mlにて添加した。フラスコを垂直に立てて3日間培養した。再び、T細胞ブラストをフィコール/ジアトリゾエートでの分離によって回収し、このサイクルを繰り返した。2〜4サイクル後、この細胞を、100μg/mlのMTBおよび2%ラット血清を含む培地200mlを入れた96ウェルプレートへ、ウェルおよびマイトマイシンC不活化胸腺細胞106個当たりT細胞が104個となるように入れた。0.1%酢酸に溶解したペプチド20μlをウェルヘ添加した。培養物を3日間インキュベートし、3H−チミジン(1μCi、25mlの培地に溶解)を添加して一晩インキュベーションを続け、その後培養物を回収してβ−カウンターにて計数した。結果を、トリチウム化チミジンの取り込みの1分当たりのカウント(cpm)として示す。抗原刺激Tリンパ球の増殖を抑制する能力について、これらのアッセイで試験したペプチドを表2に示す。
【表2】
【0062】
ラットにおけるアジュバント誘導関節炎
熱不活性化MTBを含む200μlのスクアラン(アジュバント)を尾の付け根に単回皮内注射することにより、ラットに関節炎を誘導した。ペプチド(35mg)は、5mgのMTBを含有する1mlのスクアランに懸濁した。即ち、1mgのMTBと7mgのペプチドを含む0.2mlのスクアランを皮内注射した。28日目まで一定の間隔で動物の体重を測定し、その関節炎の症状を足首の太さと後足の厚み(mm)を測定することで評価し、関節炎に罹患した関節の数を記録した。初回の尾注射の後ラットを標準ケージに収容し、水と固形飼料を無制限に摂取できるようにした。ラットは通常注射後12〜14日で関節炎を発症した。従前の報告と一致して、MTB/スクアランを投与した全てのラットで関節炎が発症したわけではなかった。本発明者らの場合では、MTB注射対照ラットの80%よりも多くに関節炎を発症させることに成功した。29日目に、動物を犠牲にした。
【0063】
結果
(a)in vitro
ラットの初回抗原刺激を受けたリンパ節細胞(PLNC)およびT細胞系におけるT細胞受容体ペプチドおよびその変異体の抗原刺激増殖に対する効果
in vitroでのT細胞機能におけるペプチドの効果の証明を試みた初期実験では、抗原提示アッセイを用いた。タンパク質シトクロムcに特異的なマウスTハイブリドーマ2B4へLK細胞系によって抗原を提示させ、上清のIL−2含量をIL−2依存性細胞系であるCTLLの増殖を測定することによりバイオアッセイした5。ハイブリドーマは表現型としては不安定な可能性があるため、一次T細胞の方が優れたモデルであると考えられ、熱不活性化MTBで免疫したラット由来のリンパ節細胞を使用した。
【0064】
PLNC実験1
本アッセイにより、コアペプチドのT細胞増殖に対する強力な抑制効果が判明し(図2)、カウントがビヒクル対照の約10%まで低下した。抗原の不在下では増殖は無視できる程度であり、カウントは抗原に対するT細胞の応答(即ち、真のT細胞機能)を反映していることが確認された。興昧深いことに、修飾したペプチドでも活性を有するものがあった。ペプチドHはT細胞増殖を低減すると思われる。
【0065】
PLNC実験2
本実験では、抗原を含まないウェルのバックグラウンド・カウントが非常に高かった(10000cpmを超える)(図3)。それにもかからわず、ビヒクル対照が40000cpmと遥かに高かったため、結果を解釈することは可能であった。この実験の目的は、PLNC培養物のさらに丈夫なモデルを使用して、再度ペプチドを単独でおよび組み合わせて試験することであった。異なるペプチドでは、該ペプチドを誘導したT細胞受容体の異なる部分に作用するものと推測されるため(表2)、組み合わせて使用する異なる鎖に由来するペプチドは相乗的に作用するであろう。図3から明らかなように、コアペプチドでは、新しく溶解したものでも4℃で3ヶ月よりも長く保存したものでも、抗原刺激によるT細胞増殖が低減した。ペプチドPも活性を示した。ペプチドMおよびNは増殖を低減させなかった。ペプチドM+CP、CP+P、CP+P+NおよびP+N+Mの組み合わせでは、3H−チミジンが低下して個々の効果の平均にほぼ等しくなり、組み合わせたペプチドの相乗作用は見られなかった。
【0066】
T細胞系実験1
ビヒクル(0.1%酢酸20μl)のみを単独で含む対照では、未処理の陽性対照に比べて顕著にカウントが低下した(50000を超える値から約30000まで低下)(図4)。これは、ビヒクル単独では効果がなかったPLNC実験の場合とは異なっていた。100μg/mlのコアペプチドではカウントがさらに低下して約18000cpmとなり、200μg/mlのコアペプチドではカウントがさらに低下して対照レベルの約25%となった。ペプチドHおよびPも、ビヒクル対照に比べて細胞増殖を50%以上半減させた。本実験では、抗原の不在下ではバックグラウンドが約4000cpmであった。
【0067】
T細胞系実験2
先の実験の通り、T細胞系細胞にビヒクル単独で逆の作用を与え、増殖を反映するカウントを陽性対照値の約半分に低下させた(図5)。しかしながら、抗原の不在下におけるT細胞の非特異的刺激は無視することができる程度であった。コアペプチドでは、100μMの濃度ではカウントがさらに低下してビヒクル対照の約33%となり、200μMでは該対照の16%まで低下した。ペプチドMおよびNのバッファー対照(0.05Mの炭酸ナトリウム、pH9.6(ウェル中5mM))では、0.1%酢酸(ウェル中1.75mM)ほどアッセイに有害ではなく、陽性対照に比べて3H−チミジンの取り込みがわずかに低下した(データは示していない)。しかしながら、ペプチドMおよびN(100μM)はT細胞増殖に対して効果を示さなかった。ペプチドHはカウントを対照の66%まで低下させ、ペプチドPは辛うじて効果を示した。
【0068】
考察
これらの実験では、T細胞受容体ペプチドが、T細胞に初回抗原刺激を与えた特異抗原の攻撃に応答して、このT細胞増殖を抑制できることが判明した。このことは、一次リンパ節培養物と培養で樹立されたT細胞系の両者で認められた。最も意昧のある結果は、増殖を90%低下させたCPによる第一実験におけるものであった。ペプチドHでも酢酸ビヒクル対照に比べて一貫してカウントが低下したが、同程度までは低下しなかった。図2ではペプチドPが最も抑制的であり、図3および4においても有効であった。
【0069】
ペプチドの溶解度は変動しやすかった。保存溶液の濃度(1mg/mlまたは1mM)では、ほとんどのペプチド溶液が透明に見えた。例外はペプチドH、I、O、Pであり、これらは濁っているかまたは溶解しない粒子を含んでいた。従って、培養ウェルにおける溶液中の真のペプチド濃度は、これらの一部溶解するペプチドの場合には指定した濃度よりも低いであろう。コアペプチドは2mg/mlでは溶解可能であったが、5mg/mlでは完全には溶解しなかった。これらの保存溶液20μlをウェルへ添加した場合には、0.2mg/mlのCPは0.1mg/mlよりもさらに抑制的であったが、0.5mg/mlでは添加時にペプチドがウェルへ沈澱したため効果が低かった。MおよびNを除くペプチドのビヒクルは0.1%酢酸とした(ウェル中では0.01%、即ち1.75mM)。HEPES緩衝培地は効率的にこの酸度を緩衝したが、酢酸濃度だけでなく、培地も効率的に濃度が90%まで減少した。このことは、一次リンパ節細胞培養物の抗原刺激増殖には逆の作用を与えなかったが(データは示していない)、T細胞系の培養には顕著な効果を有しており、トリチウム化チミジンの取り込みを50%低減させた。これらの実験では、依然として、ビヒクル対照と比較することでペプチドの効果を測定することができた。ペプチドMおよびNを溶解するのに使用した0.05Mの炭酸ナトリウムバッファーは、酢酸ほどT細胞系に対して有害ではなかった。ペプチドLは極端に不溶性であったため、試験しなかった。興昧深いことに、CP誘導体以外でT細胞増殖を抑制した唯一のペプチドはペプチドPであり、このペプチドもTCRα鎖に由来していた。β鎖、δ鎖およびγ鎖に由来するペプチドK、MおよびNは、それぞれのバッファーに溶解した。
【0070】
要約すると、TCRαの膜貫通ドメインに対応し、2個の荷電アミノ酸を含むコアペプチドが、各実験でPLNCとT細胞系の両方の抗原刺激によるT細胞増殖の抑制に有効であった。抑制の程度は、実験によって50%〜90%の間で変化した。TCR−α鎖の細胞内ドメイン由来のペプチドであるペプチドPも活性を示したが、別のTCR鎖由来のペプチドは、これらのアッセイではT細胞の増殖をはっきりとは抑制しなかった。
【0071】
(b)in vivo
ラットにおけるアジュバント誘導関節炎に対するT細胞受容体ペプチドの効果
ペプチドを、有用性に基づいてグループ分けして試験した。以下のように、結果を4つの節に分けて報告する。
【0072】
(i)ペプチドA、B、HおよびIの試験
方法
第一の実験では、Perth Animal Resource Centre(ARC)より購入しGore Hill Animal House施設で飼育した体重が約190〜210gの12匹のラットを使用した。アジュバント(7mgのMTBを含有する0.6mlのスクアラン)に懸濁したコアペプチド(30mg)、0.6mlのアジュバントに懸濁したコアペプチド・トリス−モノパルミテート(15mg)、コアペプチド・トリス−トリパルミテート20mg(0.6mlのアジュバントあたり)を使用した。PCT/AU96/000185には脂質ペプチドコンジュゲートの方法が記載されている。
【0073】
ラットを、3匹ずつ4群に分けた。第一群には、アジュバントのみ(陽性対照)を、第二群にはアジュバントとコアペプチドを、第三群にはアジュバントに懸濁したコアペプチド・トリス−モノパルミテートを、そして最後の群にはアジュバントに懸濁したコアペプチド・トリス−トリパルミテートをそれぞれ投与した。ラットの尾の付け根に、0.1ml容量の前記化合物を注射した。ラットの体重、足の幅および尾の直径の基準値測定を0日目に行い、次いで4、7、9、14、16、18、21、25および28日目に測定を行った。顕著な腫脹、発赤および明らかな不快感があれば、関節炎を等級付けし、動物を犠牲にした。MTBを投与したすべてのラットが関節炎を発症したわけではなかった。一般に、対照ラットの80%よりも多くが関節炎を発症した。
【0074】
結果
18日後、アジュバントのみを投与した全ての対照動物が関節炎を発症し、犠牲にしなければならなかった。3匹のコアペプチド処理動物のうちの2匹(2/3)は、関節炎の形跡を示さなかった。同様に、コアペプチド・トリス−トリパルミテートを投与した3匹の動物のうちの2匹は、関節炎の形跡を示さなかった。コアペプチド・トリス−モノパルミテートとアジュバントを投与した動物は全て関節炎を発症した。しかしながら、この最後の群における関節炎の徴候および発症は、対照と比べて3〜4日遅れ、臨床的重症度は遥かに減少した(関節数、足腫張、体重減少)。
【0075】
ラットにおけるアジュバント誘導関節炎を用いる実験は、ペプチドおよびその脂質コンジュゲートが、この動物モデルにおける関節炎の誘導に対して防御的効果を有することを示した。いくつかの異なるペプチド(7mg/ラット)および薬物を用いた反復的なその後の実験の結果を、表3にまとめる。
【表3】
【0076】
上記実験の結果より、コアペプチドが炎症に影響を及ぼして、その徴候を遅らせ、重症度を減少させ、そして疾患の徴候を防ぐことが判明した。これらの効果は、シクロスポリンとアジュバントの同時投与で得られたものと同様であった。シクロスポリンは、よく知られ広く使用されている免疫抑制剤である。ペプチド作用の無差別な効果はなかった。コアペプチド、ペプチドBで最良の結果が認められた。これに対して、それぞれ荷電基アミノ酸を有さないかまたは負の荷電基アミノ酸を有するペプチドCまたはEでは効果は認められなかった。アミノ酸をカルボキシ末端の方へ下流に伸長させても、負の効果は生じなかった。この観察は、カルボキシ修飾を行っても生物学的活性が失われないことを証明するものである。従って、これらのペプチドは、他の化学的部分の送達のためのキャリアーペプチドとして使用することができる。
【0077】
(ii)ペプチドJ、K、Oの試験
方法
注射当日(0日)のウィスター系ラットの体重は平均で165gであった。21ゲージの針を用いて、1mgのMTBを含むスクアラン200μlを、この容量に懸濁させた試験ペプチドのうちの1種(7mg)と共にまたは試験ペプチドなしで、各ラットの尾の付け根に皮内注射した。ガラスシリンジを使用した。
【0078】
結果
7日目になるや否や対照ラット(MTBのみ)のうちの2匹に早期症状が観察され、11日目には重度の関節炎のためこれらのラットを犠牲にした。13日目にさらに2匹の対照を犠牲にし、17日目に5匹目を犠牲にした。5匹全ての未処理対照ラットで急性関節炎が発症した。
【0079】
(1)体重
図6に各群当たり5匹のラットの平均体重をまとめる。この図から、対照ではより重症な疾患が発症するのに対し、ペプチド処理ラットではあまり活動性ではない疾患が発症するものと判断できる。ペプチド処理群のうち、ペプチドOは最良であったが、ペプチドKおよびJは防御的(protective)であった。
【0080】
(2)足の厚み
処理および未処理ラットの足の厚みで評価した関節炎症を図7(a−d)に示す。足の腫脹の他に、足首の腫脹と個々の関節の計数を各ラットに行った。結果は、足の厚みと同様の傾向を反映している。上記実験を正確に繰り返し、同様の結果を得た。
【0081】
考察
ペプチドJおよびKの配列はそれぞれ、ジスルフィド結合の領域で、TCR−α鎖およびTCR−β鎖の細胞外ドメインから誘導されたものである。これらは効力の点で同等であり、同様の効果(T細胞による取り込みが同レベルである、他)を有するはずであるとの理論上の予測を裏付けるものである。
【0082】
ペプチドOはコアペプチドを伸長したものであり、細胞内ドメインにおけるTCR−α鎖のカルボキシ末端由来の配列を含む。ペプチドOは、MTB誘導関節炎の発症を改善する際に最も有効であり、細胞機能への影響の点では、コアペプチド由来の他の下流配列が重要である可能性を示唆している。コアペプチドはこれらの配列の最小成分である。
【0083】
(iii)ペプチドN、MおよびPの試験
方法
1mgのMTBを含む0.2mlのスクアランを、ペプチド(7mg)と共にまたはペプチドなしでラットへ投与した。上述したように、単一の部位を使用した。対照MTBラットのうち、2匹は早くに関節炎を発症し、2匹は遅れて発症し、5匹のうちの一匹は健康なままであった。これは、MTB処理ラットの80%が関節炎を発症する実験モデルと一致する。
【0084】
結果
(1)体重
図8は各群の平均体重を示す。
【0085】
(2)足首の太さ
図9(a−d)はこれらの群での足首への影響の程度を示す。足の厚みの結果は足首の太さと同様であった。ペプチドNで処理した5匹のラットは全て、実験期間内では関節炎の症状を示さなかった(図9c)。ペプチドMを投与したラットでは、結局、19日目と21日目(即ち、実験の最後)に群のうち2匹を犠牲にした。1匹のラットは症状を示さないままであった。2匹の別のラットは、中程度の疾患に罹患したが実験中に回復した。ペプチドPで処理した5匹のラットのうち、1匹はいずれの症状も発症しなかったのに対し、残りの4匹は主要ではない症状を発症したが、実験の最後まで現れない症状もあった。症状は急性関節炎と言えるものではなかったため、動物は犠牲にしなかった。足の厚みおよび足首の太さのグラフから、ペプチド処理群では、症状の早期発症が遅くなって重症度が減少したことが明らかに示唆される。
【0086】
考察
未処理対照は活動性の関節炎を発症し、明らかに最悪の群となった。ペプチドM、PおよびNは、程度に差はあるが防御的であった。
【0087】
(iv)ペプチドLを用いた実験
方法
上述と同一。21ゲージの針を用いて、1mgのMTBを含むスクアラン200μlを、この容量に懸濁させたペプチドL(7mg)と共にまたはペプチドなしで、各ラットの尾の付け根に皮内注射した。ガラスシリンジを使用した。
【0088】
結果
(i)体重
全ての対照MTB群が関節炎を発症し、18日目までに犠牲にしなければならなかった(図10)。対照的に、ペプチドL処理群ではいずれのラットも体重が減少しなかった。ラット12は麻酔が原因で死亡した。
【0089】
(ii)関節への影響
足の厚みと足首の太さの両方が対照に比べて有意に減少した(図11(a−d))。
【0090】
要約
MTB感作ラット由来の一次T細胞を使用してペプチドを試験した。この試験は直ちに成功をおさめ、CPは3H−チミジンの取り込みを抑制した。結果は、PLNCまたはin vitroで増殖させたT細胞系のいずれを使用したかにかかわらず一致し、かつ再現可能であった。CPが最も有効であり、次いでペプチドPおよびHが有効であった。in vitroの結果が溶解度の高いペプチドほど有利なように偏っていることを忘れてはならない。
【0091】
アジュバントは関節炎モデルを誘導した。表4は、試験したペプチドの有効性を示すin vivo実験をまとめたものである。ペプチドJ、O、NおよびLは疾患の誘導に非常に有効であった。同様に、ペプチドK、MおよびPでは、疾患誘導の遅れと重症度に対して応答がまちまちであった。
【表4】
【0092】
当業者であれば、広く記載している本発明の概念または範囲から逸脱することなく、具体的な実施態様で示している本発明に対して数多くの変形および/または改変を行うことが可能なことは明らかであろう。従って、本実施態様は、全ての点において、限定的ではなく例示と見なされるべきである。
【0093】
参考文献
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1a】T細胞による抗原認識とそれに続く下流の事象を模式的に表したものである。可能な介入部位としては、三分子複合体、T細胞、T細胞表面分子、サイトカイン、細胞のリクルートメント、および触媒酵素が挙げられる。
【図1b】可能な介入部位を有する三分子複合体。
【図2】初回抗原刺激を受けたリンパ節細胞に対するペプチドの効果。平均および標準誤差を示す(n=4)。ペプチドの最終濃度は100μg/mlとし、20μlの0.1%酢酸を入れたウェルヘ添加した。
【図3】初回抗原刺激を受けたリンパ節細胞に対するペプチドの効果。4個のウェルの平均および標準誤差を示す。コアペプチド(CP)は、新たに溶解したもの(fresh)と溶液状態で少なくとも3ヶ月間4℃に置いたもの(old)のいずれかとした。
【図4】MTBに特異的なラットT細胞系に対するペプチドの効果。4個のウェルの平均および標準誤差を示す。ペプチドはウェル当たり100μMとし、保存溶液は0.1%の酢酸溶液中1mMとした。
【図5】MTB特異的T細胞系に対するペプチドの効果。平均および標準誤差を示す(n=4)。ペプチドの最終濃度は明記したもの以外は100μMとした。0.1mg/mlのコアペプチド(CP)は87μMである。
【図6】処理または未処理ラットの体重。各群につき5匹のラットの平均および標準誤差を示す。
【図7a】未処理ラットの足(paw)の厚み。各点は各ラットの両方の後足の平均を示す。
【図7b】ペプチドJで処理したラットの足の厚み。各点は各ラットの両方の後足の平均を示す。
【図7c】ペプチドOで処理したラットの足の厚み。各点は各ラットの両方の後足の平均を示す。
【図7d】ペプチドKで処理したラットの足の厚み。各点は各ラットの両方の後足の平均を示す。
【図8】未処理ラット(MTBのみ)および処理ラット(ペプチドN、M、P)の体重。各群につき5匹のラットの平均および標準誤差を示す。
【図9a】未処理ラットの足首の太さ。各点は個々の足首関節の太さを示す。
【図9b】ペプチドMで処理したラットの足首の太さ。各点へ個々の足首関節の太さを示す。
【図9c】ペプチドNで処理したラットの足首の太さ。各点は個々の足首関節の太さを示す。
【図9d】ペプチドPで処理したラットの足首の太さ。各点は個々の足首関節の太さを示す。
【図10】ペプチドLで処理したラットおよび未処理ラットの体重。各群につき5匹のラットの平均および標準誤差を示す。
【図11a】未処理ラットの足の厚み。各点は個々の後足の厚みを示す。
【図11b】ペプチドLで処理したラットの足の厚み。各点は個々の後足の厚みを示す。
【図11c】未処理ラットの足首の太さ。各点は個々の足首関節の太さを示す。
【図11d】ペプチドLで処理したラットの足首の太さ。各点は個々の足首関節の太さを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の配列:
R1−A−B−C−R2
[配列中、
Aは、0〜5個のアミノ酸からなるペプチド配列であり;
Bはシステインであり;
Cは2〜10個のアミノ酸からなるペプチド配列であり;
R1はNH2であり;そして
R2はCOOHである]
を有する、TCR機能を抑制するペプチド。
【請求項2】
前記Aが5個のアミノ酸を含むペプチド配列である、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
前記Cが4または5個のアミノ酸からなるペプチド配列であり、かつ少なくとも1個の疎水性アミノ酸を含む、請求項1または2に記載のペプチド。
【請求項4】
以下の配列:
NH2-Tyr-Gly-Arg-Ala-Asp-Cys-Gly-Ile-Thr-Ser-COOH、
NH2-Trp-Gly-Arg-Ala-Asp-Cys-Gly-Ile-Thr-Ser-COOH、
NH2-Tyr-Gly-Arg-Ala-Asp-Cys-Ile-Thr-Ser-COOH、または
NH2-Ser-Ser-Asp-Val-Pro-Cys-Asp-Ala-Thr-Leu-Thr-COOH
を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のペプチドと製薬上許容される担体とを含む治療用組成物。
【請求項6】
T細胞が関与しているかまたはリクルートされている障害に罹患している被験者を治療するための、請求項5に記載の治療用組成物。
【請求項1】
以下の配列:
R1−A−B−C−R2
[配列中、
Aは、0〜5個のアミノ酸からなるペプチド配列であり;
Bはシステインであり;
Cは2〜10個のアミノ酸からなるペプチド配列であり;
R1はNH2であり;そして
R2はCOOHである]
を有する、TCR機能を抑制するペプチド。
【請求項2】
前記Aが5個のアミノ酸を含むペプチド配列である、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
前記Cが4または5個のアミノ酸からなるペプチド配列であり、かつ少なくとも1個の疎水性アミノ酸を含む、請求項1または2に記載のペプチド。
【請求項4】
以下の配列:
NH2-Tyr-Gly-Arg-Ala-Asp-Cys-Gly-Ile-Thr-Ser-COOH、
NH2-Trp-Gly-Arg-Ala-Asp-Cys-Gly-Ile-Thr-Ser-COOH、
NH2-Tyr-Gly-Arg-Ala-Asp-Cys-Ile-Thr-Ser-COOH、または
NH2-Ser-Ser-Asp-Val-Pro-Cys-Asp-Ala-Thr-Leu-Thr-COOH
を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のペプチドと製薬上許容される担体とを含む治療用組成物。
【請求項6】
T細胞が関与しているかまたはリクルートされている障害に罹患している被験者を治療するための、請求項5に記載の治療用組成物。
【図1a】
【図1b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図11d】
【図1b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図11d】
【公開番号】特開2007−145853(P2007−145853A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3411(P2007−3411)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【分割の表示】特願平10−500998の分割
【原出願日】平成9年6月11日(1997.6.11)
【出願人】(505013103)ノーザン シドニー エリア ヘルス サービス (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【分割の表示】特願平10−500998の分割
【原出願日】平成9年6月11日(1997.6.11)
【出願人】(505013103)ノーザン シドニー エリア ヘルス サービス (3)
【Fターム(参考)】
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