説明

TLR3のグリコシル化部位ムテインおよび使用方法

TLR3のグリコシル化部位ムテイン、該ムテインをコードする核酸、および細胞中のTLR3活性の調節方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TLR3のグリコシル化部位ムテイン、該ムテインをコードする核酸、および細胞中のTLR3活性の調節方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症状態と関連する病理は、医療における重大な課題を表し、そして苦しく、衰弱させ、かつ致死的であり得る。例えば、敗血症および敗血症関連の状態は、28〜50%の死亡率を伴い米国で毎年75万以上の人々を冒し、年間215,000例の死亡をもたらす(非特許文献1;非特許文献2)。炎症性腸疾患(IBD)クローン病および潰瘍性大腸炎のような他の炎症状態は、米国で年あたり百万以上の人々を冒している(非特許文献3)。
【0003】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息および肺感染症のような肺機能を冒す炎症性の肺の状態もまた、米国でかなりの数の人々を冒している。例えばCOPDは推定で一千万の成人の米国人を冒し、そして該罹患率は上昇している(非特許文献4)。これらの炎症状態と関連する病理およびこれらの状態の増悪は、重大な健康および経済的影響を有する。
【0004】
喘息およびCOPDのような肺疾患の増悪は症状の悪化および肺機能の低下を特徴とする。ウイルス感染症は多くの肺疾患の増悪を伴い(非特許文献5;非特許文献6)、そして増悪の主因であると考えられる。ウイルス感染後の肺での炎症前サイトカインの分泌は、多様な肺疾患での炎症応答の促進における決定的に重要な段階を表す(非特許文献7;非特許文献8)。
【0005】
宿主免疫系による微生物抗原の認識は自然免疫受容体により媒介され、その活性化は炎症応答の開始の重要な段階を表す。Toll様受容体(TLR)は、外来抗原に対する免疫応答の媒介において決定的に重要な役割を演じる自然免疫受容体の1ファミリーを表す。例えばTLR3は、二本鎖(ds)RNAならびに合成ds RNAアナログ、ポリリボイノシン−リボシチジン酸(ポリI:C)を認識する哺乳動物パターン認識受容体である(非特許文献9)。さらに、TLR3は壊死細胞から遊離されるmRNAのような内因性リガンドを認識することが示され(非特許文献10)、炎症部位での壊死細胞死がTLR3の活性化に寄与しうることを示す。完全長ヒトTLR3のアミノ酸配列およびコードするポリヌクレオチド配列をそれぞれ配列番号1および配列番号2に示す。
【0006】
dsウイルスRNAアナログポリ(I:C)若しくは内因性mRNAリガンドによるTLR3の活性化は、炎症前サイトカインおよびケモカインの分泌を誘導する(TLR3活性化が感染関連の炎症の間に疾患の転帰を調節することを示す知見)。従って、in vivoでのTLR3連結は、ウイルス感染(非特許文献11)、若しくは炎症と関連する壊死(非特許文献10)の情況で起こると考えられる。全体として、これらのデータは、TLR3の連結が、自然免疫に寄与すると考えられる多数の炎症性サイトカインの産生をもたらすリン酸化および転写活性化事象のカスケードを開始することを示す(非特許文献12により総説される)。さらに、これらのデータは、持続的TLR3活性化が、感染に関連する炎症性疾患の調節で重要な一成分であり得ることを示唆する。公表されたデータは、炎症前サイトカインの過剰産生を、全身性炎症応答症候群、感染に関連する急性サイトカインストーム(非特許文献13により総説される)、ならびに関節リウマチ(非特許文献14により総説される)および炎症性腸疾患(非特許文献15により総説される)のような免疫媒介性の慢性状態と関連付ける知見により示されるとおり、この仮説に裏付けを与える。
【0007】
重要なことに、TLR3活性が、炎症性腸疾患の症状、敗血症、サイトカイン、ケモカインおよび成長因子媒介性の肺の病状、ならびに肺組織への増大された炎症細胞浸潤から生じる肺の炎症状態のような状態でもまた重大な役割を演じていることが明らかになりつつある。しかしながら、TLR3グリコシル化がTLR3活性およびTLR3活性に媒介される状態に対し何の影響(あれば)を有するか不明であった。
【0008】
従って、TLR3活性に対するTLR3グリコシル化の影響を理解し、かつ、TLR3活性を効果的に調節する組成物および方法を開発するのにこの方法を活用する必要性が存在する。
【非特許文献1】Natansonら、Crit.Care Med.26:1927−1931(1998)
【非特許文献2】Angusら、Crit.Care Med.29:1303−1310(2001)
【非特許文献3】Hanauerら、Rev.Gastroenterol.Disord.3:81−92(2003)
【非特許文献4】Mapelら、Manag.Care Interface 17:61−66(2004)
【非特許文献5】Johnston、Am.J.Respir.Crit.Care Med.152:S46−52(1995)
【非特許文献6】Bandiら、FEMS Immunol.Med.Microbiol.37:69−75(2003)
【非特許文献7】Gernら、Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.28:731−737(2003)
【非特許文献8】Panina−Bordignonら、Curr.Opin.Pulm.Med.9:104−110(2003)
【非特許文献9】Alexopoulouら、Nature 413:732−238(2001)
【非特許文献10】Karikoら、J.Biol.Chem.26:12542−12550(2004)
【非特許文献11】Tabetaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101:3516−3521(2004)
【非特許文献12】TakedaとAkira、J.Derm.Sci.34:73−82(2004)
【非特許文献13】Van Amersfoortら、Clin.Microbiol.Rev.16:379−414(2003)
【非特許文献14】Miossecら、Curr.Opin.Rheumatol.16:218−222(2004)
【非特許文献15】OgataとHibi、Curr.Pharm.Des.9:1107−1113(2003)
【発明の開示】
【0009】
[発明の要約]
本発明の一局面は、配列番号6のアミノ酸配列に対する最低75%の同一性をもつアミノ酸配列、およびアミノ酸配列、配列番号6のN221、N226、N387若しくはN636に整列する位置の3アミノ酸残基内の最低1個の突然変異を含んでなるペプチド鎖である。
【0010】
本発明の別の局面は、アミノ酸配列、配列番号6の位置N221、N226、N387若しくはN636の3アミノ酸残基内に最低1個の突然変異を含んでなるペプチド鎖である。
【0011】
本発明の別の局面は、アミノ酸配列、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18若しくは配列番号20を含んでなるペプチド鎖である。
【0012】
本発明の別の局面は、細胞中のTLR3グリコシル化を低下させることを含んでなる、細胞中のTLR3活性の調節方法である。
【0013】
[発明の詳細な記述]
本明細で引用される、限定されるものでないが特許および特許出願を挙げることができる全刊行物は、完全に示されるかのように引用することにより本明細書に組み込まれる。
【0014】
「ホモログ」という用語は、参照配列に対する40%と100%の間の配列同一性を有するタンパク質配列を意味している。hTLR3のホモログは、既知のhTLR3配列に対する40%と100%の間の配列同一性を有する他の種からのペプチド鎖を包含する。「TLR3ホモログ」および「TLR3」という用語は本明細および請求の範囲を通じて互換性に使用する。
【0015】
本明細書で使用されるところの「ペプチド鎖」という用語は、ペプチド結合により連結された最低2個の天然に存在する若しくは存在しないアミノ酸残基を含んでなる分子を意味している。
【0016】
本明細書で使用されるところの「TLR3活性」という用語は、細胞表面TLR3ホモログへのリガンド結合の結果として発生する、または最低1種のTLR3ホモログペプチド鎖により全体として若しくは部分的に媒介されるいかなる活性も指す。
【0017】
本発明の組成物および方法は、in vitroおよびin vivo双方で細胞中のTLR3ホモログの活性の調節において有用である。とりわけ、本発明の組成物および方法は、in vivoのTLR3依存性のシグナリング、ならびに、炎症性腸疾患の症状、敗血症、サイトカイン、ケモカインおよび成長因子媒介性の肺の病状、ならびに肺組織への増大された炎症細胞浸潤から生じる肺の炎症状態のような状態でのTLR3活性と関連する生物学的過程を減弱するのに使用し得る。
【0018】
本発明の一局面は、配列番号6のアミノ酸配列に対する最低75%の同一性をもつアミノ酸配列、およびアミノ酸配列、配列番号6のN221、N226、N387若しくはN636に整列する位置の3アミノ酸残基内の最低1個の突然変異を含んでなるペプチド鎖である。2ペプチド鎖間の同一性パーセントは、低複雑配列のフィルタリング(low complexity filtering)をオフにしたBLASTP 2.2.12[2005年8月7日]アルゴリズムのデフォルトの設定を使用しかつBLASTPクエリ配列として配列番号6を使用するアライメントにより決定し得る。配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18および配列番号20のアミノ酸配列はこうしたペプチド鎖を例示する。こうしたペプチド鎖は、突然変異誘発された成熟形態のECD TLR3ホモログに加えて付加的な配列を含んでもよい。こうした付加的な配列は、例えば、ホモログの天然のシグナルペプチドのようなシグナルペプチド若しくは天然の細胞内および膜貫通ドメインでありうる。当業者は、アフィニティー標識配列、またはTLRの活性、機能若しくは精製を容易にする他の配列のような、他のこうした付加的な配列を認識するであろう。
【0019】
こうしたペプチド鎖は、TLR3ホモログと配列番号6の間の同一性パーセントを上述されたとおり決定すること、配列番号6に対する最低75%の同一性をもつホモログを選択すること、配列番号6のN221、N226、N387若しくはN636に整列する位置を同定すること、および同定された位置の3残基内に最低1個の突然変異を導入することにより容易に作成しうる。重要なことに、中核のコンセンサスグリコシル化部位モチーフは3アミノ酸残基Asn−X−Ser/Thrモチーフである。こうした突然変異は置換、欠失若しくは挿入であることができ、そして当該技術分野で公知のin vitroおよびin vivo突然変異誘発技術を使用して生成し得る。こうしたペプチド鎖は、アミノ酸配列、配列番号6のN221、N226、N387若しくはN636に整列する位置の3アミノ酸残基内に存在しない、TLR3ホモログに組み込まれた付加的な突然変異もまた含みうる。
【0020】
本発明の別の局面は、アミノ酸配列、配列番号6の位置N221、N226、N387若しくはN636の3アミノ酸残基内に最低1個の突然変異を含んでなるペプチド鎖である。配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号16、配列番号18および配列番号20のアミノ酸配列はこうしたペプチド鎖を例示する。こうした突然変異は置換、欠失若しくは挿入であることができ、そして当該技術分野で公知のin vitroおよびin vivo突然変異誘発技術を使用して生成し得る。こうしたペプチド鎖は上で論考されたところの付加的な配列もまた含みうる。
【0021】
本発明の別の局面は、アミノ酸配列、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18若しくは配列番号20を含んでなるペプチド鎖である。こうしたペプチド鎖は上で論考されたところの付加的な配列もまた含みうる。
【0022】
一態様において、本発明は本発明のペプチド鎖をコードする核酸を提供する。
【0023】
別の態様において、本発明は、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17若しくは配列番号19の核酸配列を含んでなる核酸を提供する。
【0024】
本発明の核酸は、当業者により既知のin vivo若しくはin vitro技術を使用して作成しうる。こうした核酸はDNAおよびRNAを含みうる。加えて、こうした核酸は付加的な核酸配列を含みうるか、若しくは別の分類の分子に複合しうる。例えば、こうした核酸は、ベクター核酸に挿入されうるか、または該核酸によりコードされるペプチド鎖の発現を生じさせるために細胞若しくは系に供給されうる。こうした細胞若しくは系は、真核生物細胞、原核生物細胞、古細菌細胞、若しくはin vitro結合転写および翻訳系のような細胞を含まないin vitro系(in vitro coupled transcription and translation systems)でありうる。ペプチド鎖発現、核酸をベクターに導入する、および核酸を細胞に供給するための技術、ならびに核酸によりコードされるペプチド鎖の発現に適する細胞若しくは系は、当業者に公知である。
【0025】
本発明の別の局面は、遺伝子不活性化若しくは転写物ターゲッティング(例えばsiRNA)のような技術を使用して細胞中のTLR3グリコシル化を低下させることを含んでなる、細胞中のTLR3活性の調節方法である。TLR3グリコシル化は、例えば、ツニカマイシンのようなTLR3グリコシル化を阻害する小分子を細胞に提供すること、それがもはやグリコシル化され得ないようにグリコシル化部位が改変されているTLR3ホモログを提供すること、細胞中で解糖酵素を過剰発現すること、および細胞中のグリコシラーゼの発現を低下若しくは不活性化することにより、低下させうる。抗体分子若しくは抗体フラグメントもまたTLR3グリコシル化および活性を低下させるのに使用しうる。こうした抗体分子若しくはフラグメントは、配列番号6の残基N221、N226、N387若しくはN636を含有する細胞表面TLR3の領域に結合することにより、リガンド若しくは受容体の多量体化を阻害しうる。本発明の方法において、TLR3ホモログのN−グリコシル化およびO−グリコシル化双方を、TLR3グリコシル化を低下させるために標的としうる。
【0026】
本発明の一局面は、細胞にツニカマイシンを提供することを含んでなる、細胞中のTLR3活性の調節方法である。ツニカマイシンは、培地(約0.2ないし0.5μg/mlの濃度で)を介してin vitroで、若しくは例えば静脈内注入を介してin vivoで細胞に提供し得る。当業者は、ツニカマイシンをin vitro若しくはin vivoで細胞に提供し得る多くの他の方法および経路を認識するであろう。
【0027】
別の態様において、本発明は、本発明のペプチド鎖を細胞に提供することを含んでなる、細胞中のTLR3活性の調節方法を提供する。ペプチド鎖は、例えば細胞を取り囲む液体若しくは組織に該ペプチド鎖を供給すること、該ペプチド鎖を発現する外因性核酸を細胞に導入すること、該ペプチド鎖の細胞中への微小注入、またはペプチド鎖を含有する第二の細胞若しくは小胞と細胞を融合することにより、細胞に提供しうる。当業者は、ペプチド鎖を細胞に提供する他の手段を認識するであろう。
【0028】
別の態様において、本発明は、本発明の核酸を細胞に提供することを含んでなる、細胞中のTLR3活性の調節方法を提供する。本発明の核酸は、ウイルス、プラスミド、細胞若しくは小胞ベクター、微小注入、天然に存在する核酸の取込みすなわち受容能、細胞に進入することが可能な分子への複合の使用により、または核酸を細胞に導入しうる当業者に既知のいずれかの他の技術により、細胞に提供しうる。
【0029】
本発明の別の態様において、核酸はトランスフェクションにより細胞に提供される。核酸の細胞へのトランスフェクションは、電気穿孔法、化学的ショック、リポフェクション、小胞融合、および当業者により既知の他の技術のような多様な技術により達成しうる。
【0030】
本発明は今や以下の特定の制限しない実施例に関して記述されるであろう。
【実施例1】
【0031】
hTLR3細胞外ドメインのグリコシル化
ヒト(Homo sapiens)由来HEK293細胞(ATCC(R)番号:CRL−1573TM)で組換え発現したhTLR3の精製した可溶性ECDで実施した質量分析は、イオン化hTLR3 ECDフラグメント種間の高程度の電荷の不均一性(図1A)および110kDの平均イオンフラグメント質量を示した。O結合およびN結合グリコシル化に特異的なデグリコシダーゼの混合物での組換え発現したhTLR3 ECDの処理、次いで質量分析は、デグリコシダーゼ処理が平均イオンフラグメント質量を94kDに低下させたことを示した(図1B)。加えて、N−アセチルノイラミン酸(NANアーゼ)、O−グリコシルダーゼDS、ペプチドN−グリコシダーゼF(PNGアーゼF)、若しくはこれらの酵素の全部を含有するカクテルとのhTLR3 ECDのインキュベーションは、SDS−PAGEで分離されたhTLR3 ECDの糖タンパク質特異的染色を減少させた。一緒に、これらの結果は、hTLR3 ECDがNおよびO双方でグリコシル化されることを示す。
【0032】
質量分析および糖タンパク質特異的SDS−PAGE分析のためのhTLR3 ECDは後に続くとおり調製した。最初に、完全長のヒト(Homo sapiens)TLR3タンパク質(配列番号2)をコードしかつ受託番号U88879に同一のcDNA(配列番号1)をpcDNA3.1にクローン化した。次に、hTLR3 ECD(配列番号3)をコードしかつ完全長hTLR3のアミノ酸1−703(配列番号4)よりなるcDNAフラグメントをpcDNA3.1にクローン化した。このcDNAフラグメントは、pcDNA3.1に、インフレームでかつヘキサヒスチジンアフィニティー標識をコードするcDNAの5’側にクローン化した。生じるプラスミドは、C末端ヘキサヒスチジン標識を含んでなる組換えhTLR3 ECDをコードする。
【0033】
このプラスミドによりコードされるhTLR3 ECDを、一過性にトランスフェクトしたHEK293細胞により発現、プロセシングおよび分泌させた。細胞は標準的方法を使用してトランスフェクトしかつ培養した。カルボキシ末端ヘキサヒスチジンアフィニティー標識をもつ組換えhTLR3 ECDを、Ni−NTA樹脂を使用して細胞培養物上清から精製し、そして標準的方法を使用するイオン交換クロマトグラフィーによりさらに精製した。この方法により製造したhTLR3 ECDタンパク質の大部分は、翻訳後タンパク質分解性プロセシングおよび分泌により、最初の26個のアミノ末端シグナルペプチド残基を欠くと予測される。精製されたhTLR3 ECDタンパク質は完全長hTLR3(配列番号2)のアミノ酸残基27ないし703(配列番号6)を含んだ。
【0034】
精製した組換えhTLR3 ECDの質量分析を後に続くとおり実施した。最初に、サンプルをNanosepTM遠心濃縮装置(Pall Corp.、ニューヨーク州イーストヒルズ)で濃縮し、C−18 Zip Tip(Millipore Corp.、マサチューセッツ州ビレリカ)を使用して脱塩し、そして50%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸で溶出した。1μLの各サンプルをその後、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含有するアセトニトリル/水(50:50)中の2,5−ジヒドロキシ安息香酸中のマトリックスと共結晶した。MALDI−TOF実験をその後、標準的方法を使用して実施し、そしてABI Voyager−DETM STR質量分析計を使用して記録した。グリコシル化を検査するため、1μgの精製したhTLR3 ECDタンパク質を、N−グリカナーゼ、O−グリカナーゼおよびシアリダーゼの混合物と37℃で24時間インキュベートした。このインキュベーションの生成物をその後、上述されたところのMALDI−TOF分光法により分析した。
【0035】
SDS−PAGE分離および糖タンパク質特異的可視化のための精製したhTLR3 ECDの調製は後に続くとおり実施した。最初に、組換え発現したhTLR3 ECD単独、N−アセチルノイラミン酸(NANアーゼ)とインキュベートしたhTLR3 ECD、O−グリコシダーゼDS、ペプチドN−グリコシダーゼF(PNGアーゼF)とインキュベートしたhTLR3 ECD、若しくはこれらの酵素の全部およびhTLR3 ECDを含有するカクテルを含有するサンプルを調製した。等量のhTLR3 ECDを含有するサンプルをその後、標準的方法を使用して4〜12%勾配ゲル上でのSDS−PAGEにより分離し、そして、糖タンパク質特異的SYPRO Rubyタンパク質ゲル染色(Invitrogen,Inc.、カリフォルニア州カールズバッド)で糖タンパク質を可視化した。
【実施例2】
【0036】
細胞中のhTLR3シグナル伝達のポリ(I:C)誘発性の活性化に対するN−グリコシル化の影響
これらの実験では、HEK293細胞に標準的方法により一過性にトランスフェクトしたpNF−κB−Luciferase(Stratagene,Inc.、カリフォルニア州カールズバッド)レポーター遺伝子構築物を使用して、TLR3シグナル伝達をアッセイした。このレポーター構築物は、ルシフェラーゼレポーター遺伝子に連結したNF−κB応答DNA配列を含んだ。ポリ(I:C)リガンドによるTLR3の活性化はNF−κB活性を増大させ、そしてルシフェラーゼレポーター遺伝子のようなNF−κB応答性遺伝子の活性化をもたらす。pNF−κB−LuciferaseでトランスフェクトしたHEK293細胞を、ウミシイタケ由来のルシフェラーゼタンパク質を構成的に産生する対照ベクターpHRL−TKと一過性にコトランスフェクトした。完全長hTLR3をコードするcDNAもまた、標準的方法を使用して、ルシフェラーゼレポーター遺伝子でトランスフェクトしたHEK−293細胞に一過性にコトランスフェクトした。
【0037】
トランスフェクション後に、細胞を図2に示されるとおり非毒性用量のツニカマイシンで処理した。ツニカマイシンは、グリコシル化の間にペプチド鎖に結合される最初の糖残基であるN−アセチルグルコサミンの結合を阻害することにより、N結合グリコシル化を阻害する。処理した若しくは対照のHEK293細胞をその後、図2に示されるとおり、10μg/mlのhTLR3リガンド、ポリ(I:C)(PIC)とインキュベートした。
【0038】
処理後、pNF−κB−LuciferaseおよびpHRL−TKから発現されたルシフェラーゼを、標準的方法を使用してアッセイした。データは、pHRL−TKのルシフェラーゼ活性に対し正規化したpNF−κB−Luciferase活性に等しい「ルシフェラーゼ比」として表した。結果は9個の個別のサンプルから収集したデータの散布図として提示し、そして3回の独立に実施した同一の実験を代表する。
【実施例3】
【0039】
細胞中のhTLR3シグナル伝達のポリ(I:C)誘発性の活性化に対するhTLR3 ECDのN−グリコシル化阻害の影響
驚くべきことに、配列番号2のhTLR3配列内の多くの可能な部位の2個の潜在的N−グリコシル化部位、N247およびN413が、hTLR3シグナル伝達で決定的に重要な役割を演じることが見出された(図3C)。加えて、配列番号2中の2個の他の潜在的N−グリコシル化部位、N252およびN662もまたhTLRのシグナル伝達で重要な役割を演じることが見出された(図3Bおよび4)。配列番号2中の位置N247、N252、N413およびN662は、それぞれ、配列番号6のN221、N226、N387およびN636に同等である。
【0040】
hTLR3 ECDは、多様なTLR3ホモログ中のN−グリコシル化モチーフAsn−X−Ser/Thrの存在(図3A)に基づき、数個の潜在的N結合グリコシル化部位を有する。これらの潜在的N結合グリコシル化部位のうち5個のみが、標準的CLUSTALWアライメントにより評価されるとおり、ヒト(Homo sapiens)、チンパンジー(Pan troglodytes)、イヌ(Canis familiaris)、ウシ(Bos taurus)、ラット(Rattus norvegicus)およびハツカネズミ(Mus musculus)のTLR3ホモログの間で保存された(図3A)。配列番号2中の該5個の保存された部位は、N57、N196、N247、N275およびN413であった。配列番号2中の4個の他の潜在的N−グリコシル化部位は、検査した多様なTLR3ホモログ間で変動した(図3A)。これら4個の保存されていないが他の潜在的なN−グリコシル化部位は、配列番号2のN252、N265、N291、N507、N636およびN662であった。
【0041】
hTLR3 ECD中のこれらの潜在的N結合グリコシル化部位内のアスパラギン残基を、標準的方法を使用してアラニン残基に個別に変異させた(図3および図4)。いずれかのTLR3ホモログ中のAsn−X−Ser/ThrのN−グリコシル化モチーフに対する一致を含有しないhTLR3 ECD中に存在する4個の付加的なアスパラギン残基もまた、対照として変異させた。これらの残基は完全長hTLR3(配列番号2)のN70、N124およびN388であった。全部の突然変異誘発は、突然変異誘発させたECDをもつ完全長のプロセシングされかつ分泌されるhTLR3を生じさせるために、完全長hTLR3をコードするcDNAで実施した。配列番号2中の変異させた位置を、アラニン置換の位置の同定により図中で示す(例えば、N70はN70がアラニン残基で置換されたことを意味している)。
【0042】
上述された変異体hTLR3 cDNA構築物をコードしかつ発現するプラスミドをHEK293T細胞に個別にトランスフェクトした。個別の変異体hTLR3分子をコードするプラスミドでトランスフェクトした細胞を、pNF−κB−LuciferaseレポーターおよびpHRL−TKルシフェラーゼ対照ベクターでもまた同時にトランスフェクトした。トランスフェクションおよび細胞培養は標準的方法を使用して実施した。
【0043】
トランスフェクトしたおよび対照のHEK293細胞をその後、示されるとおり10μg/ml(図3Bおよび図4)若しくは2.5μg/ml(図3C)のhTLR3リガンド、ポリ(I:C)(PIC)とインキュベートして、hTLR3シグナル伝達に対する多様なhTLR3突然変異の影響を評価した。処置後、pNF−κB−LuciferaseおよびpHRL−TKから発現されたルシフェラーゼを標準的方法を使用してアッセイした。データは上述されたところの「ルシフェラーゼ比」として表した。結果は6個の個別のサンプルから収集したデータの散布図として提示する。
【0044】
本発明は今や完全に記述されたので、付随する請求の範囲の技術思想若しくは範囲から離れることなく、多くの変更および改変をそれに対しなし得ることが当業者に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図(A)はhTLR3細胞外ドメイン(ECD)のMALDI−TOF質量スペクトルを示し、また、図(B)はデグリコシダーゼで処理したhTLR3 ECDのMALDI−TOF質量スペクトルを示す。
【図2】HEK293細胞中のhTLR3シグナル伝達のポリ(I:C)誘発性の活性化に対するツニカマイシンでのN−グリコシル化の影響を示す。
【図3】細胞中のhTLR3シグナル伝達の活性化に対するhTLR3(配列番号2)中のN247、N252若しくはN413の突然変異誘発によるECDのN−グリコシル化の影響を示す。図(A)は選択したhTLR3ホモログからの可能なN−グリコシル化部位のアライメントであり;図(B)および(C)は、10μg/ml(B)若しくは2.5μg/ml(C)のhTLR3リガンド、ポリ(I:C)で指定されたhTLR3変異体で実施したhTLR3活性化アッセイである。
【図4】細胞中のhTLR3シグナル伝達のポリ(I:C)誘発性の活性化に対する、hTLR(配列番号2)のN247、N252若しくはN662の突然変異誘発によるhTLR3 ECDのN−グリコシル化の影響を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号6のアミノ酸配列に対する最低75%の同一性をもつアミノ酸配列、およびアミノ酸配列、配列番号6のN221、N226、N387若しくはN636に整列する位置の3アミノ酸残基内の最低1個の突然変異を含んでなるペプチド鎖。
【請求項2】
アミノ酸配列、配列番号6の位置N221、N226、N387若しくはN636の3アミノ酸残基内に最低1個の突然変異を含んでなるペプチド鎖。
【請求項3】
アミノ酸配列、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18若しくは配列番号20を含んでなるペプチド鎖。
【請求項4】
請求項1、2若しくは3に記載のペプチド鎖をコードする核酸。
【請求項5】
配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17若しくは配列番号19の核酸配列を含んでなる、請求項4に記載の核酸。
【請求項6】
細胞中でのTLR3グリコシル化を低下させることを含んでなる、細胞中のTLR3活性の調節方法。
【請求項7】
細胞にツニカマイシンを提供することを含んでなる、細胞中のTLR3活性の調節方法。
【請求項8】
細胞の外側のツニカマイシン濃度が約0.2μg/mlないし0.5μg/mlである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1、2若しくは3に記載のペプチド鎖を細胞に提供することを含んでなる、細胞中のTLR3活性の調節方法。
【請求項10】
請求項4に記載の核酸を細胞に提供することを含んでなる、細胞中のTLR3活性の調節方法。
【請求項11】
核酸がトランスフェクションにより細胞に提供される、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−515511(P2009−515511A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538208(P2008−538208)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/060357
【国際公開番号】WO2007/051201
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(503054122)セントカー・インコーポレーテツド (74)
【Fターム(参考)】