説明

TNFリガンド

【課題】TNFリガンド及びそれを含有する薬学的組成物。
【解決手段】TNF/NGFレセプターファミリーのメンバーに対するリガンドが得られる。リガンドはこのようなレセプターのC−末端システィンループの領域に結合する。リガンドを含む製剤学的組成物ならびにリガンドの調製に関するプロセスも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腫瘍壊死因子レセプター(TNF−Rs)に対するリガンドに関するものである。このようなリガンドはTNFの作用を阻害するがTNF−Rsへの結合は阻害しない。また本発明はTNF/NGF系の他のレセプターと相互作用をするリガンドにも関するものである。
【背景技術】
【0002】
腫瘍壊死因子(TNF)は多面性のサイトカインであり、多くの細胞種、主として活性化されたマクロファージによって産生される。TNFは免疫及び炎症性反応の主要なメディエータの1つである。TNFがエンドトキシンショックや大脳マラリヤ、移植片対宿主反応などの広範囲な病態の病因に関与している証拠があることから、近年その機能に対する興味がかなり持たれている。TNFの多くの作用が生体にとって有害であることから、TNFの宿主細胞に対する作用を阻止する方法を見いだすことはかなり興味あることである。このような介入の標的は明らかにTNFがその作用を発現するために結合する分子、すなわちTNF−Rsである。これらの分子は細胞に結合した形で存在するばかりでなく、レセプターそのものの切断された細胞外ドメインからなる可溶性の状態(Nophar et al.EMBO Journal,(10):3269〜78,1990)でも存在する。この可溶性レセプターはTNFに結合する能力を維持しており、したがって細胞表面のレセプターと拮抗してTNFの作用を阻止する能力を持っている。細胞結合分子と拮抗する原理に基づいたもう1つのTNF作用を阻止する方法は、TNFレセプターを認識してリガンドの結合を妨害する抗体を使用する方法である。
【0003】
細胞表面TNF−Rsは体内の殆んどすべての細胞に発現している。TNFの種々の作用すなわち細胞毒性、増殖促進その他の作用は、TNFがレセプターへ結合することによってTNFレセプターから伝えられる。これらのレセプターには分子量の異なる2種類があり、55キロダルトン及び75キロダルトンと記載されており、ここではそれぞれP55TNF−R及びP75TNF−Rと呼ぶ。しかしこれらのレセプターをまたP60及びP80と呼んでいる報告もあることに注意する必要がある。
【0004】
TNF−Rsは他の重要な生物学的過程に関与するレセプターの系統群に属する。これらレセプターの例として低親和性NGFレセプターがある。これは神経細胞の増殖、分化の制御に重要な役割を演じている。その他のいくつかのレセプターはCDW40やその他いくつかのリンパ球の増殖制御に関与している。この系統群のもう1つのレセプターはAPOとも呼ばれるFASレセプターであり、このレセプターは細胞消滅の伝達に関与しており、またこの機能の不完全なマウスを用いた研究から、狼瘡様疾患の病因に重要な役割を演じていると思われる。ここでは、この系統群のレセプターを“TNF/NGFレセプター群”と呼ぶ。
【0005】
いくつかの疾患の病因に関与していると考えられる他のサイトカインと比較して、TNFの最も顕著な特徴の1つは細胞の死を誘導する能力である。TNFのこの殺細胞活性はP55レセプターによって誘導されるものと考えられる。しかしながら、このP55レセプター活性はP75レセプターによって助長されるが、そのメカニズムは不明である。
【0006】
ヨーロッパ特許公告番号0,398,327及び0,412,486は可溶性TNF−Rsに対する抗体を開示している。これらの抗体は可溶性TNF−Rsを認識し、TNFが細胞表面上のTNF−Rsに結合するのを阻止することが認められた。完全な抗体はTNFの細胞毒性作用に似ていることが認められているのに、1価のF(ab)フラグメントはTNF作用を阻止した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はTNF/NGFレセプター系統群の1つのメンバーに対して1つのリガンドを提供するものであり、そのリガンドはこのようなレセプターのC末端のシスティンループの領域に結合する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
好ましくはこの領域はP75TNF−R中のアミノ酸配列cys−163〜thr−179又はTNF/NGF系統群の他のレセプターにおける相当する領域を含む。
【0009】
好ましくはこのレセプターはTNF−R、特にP75TNF−Rである。
【0010】
1個のこのようなリガンドは図11に示すモノクローナル抗体No.32の重鎖のCDR領域のアミノ酸配列及び/又は図12に示すこの抗体の軽鎖CDR領域のアミノ酸配列を含む。
【0011】
もう1つのこのようなリガンドは図11に示すモノクローナル抗体No.70の重鎖のCDR領域のアミノ酸配列を含む。
【0012】
なおもう1つのこのようなリガンドは図11に示すモノクローナル抗体No.57の重鎖のCDR領域のアミノ酸配列を含む。
【0013】
上記抗体をここでは簡単のため“グループ32”抗体と呼ぶ。
【0014】
本発明の他の態様において、このリガンドはグループ32抗体のscFvを含む。
【0015】
リガンドは例えば蛋白質、ペプチド、イムノアドヘジン、抗体あるいは他の有機化合物を含む。
【0016】
蛋白質は例えば他の蛋白質とリガンドがペプチドリンカーによって随意に連結された融合蛋白質を含む。このような融合蛋白質はリガンドの体内における滞留時間を長くし、したがってリガンド−蛋白複合体は潜在因子あるいはワクチンとして使用される。
【0017】
蛋白質という言葉は、突然変異蛋白質、融合蛋白質、それらの塩、機能性誘導体及び活性フラクションを含む。
【0018】
このペプチドには、ペプチド結合置換体及び/又はペプチド模倣体、すなわちこの技術分野において知られているプソイドペプチド(例えばG,Jung,E.Bayeを編集:第20回ヨーロッパペプチドシンポジウム議事録、P.289〜336、及びその参考文献を参照)、ならびにその塩及び特定の適応療法にしたがって、経口投与、局所投与、鼻孔撒布、目による肺投与、静脈投与、あるいは皮下投与に適した生物活性ペプチドとするための製剤調製物及び/又は製剤処方などが含まれる。このような塩、処方、アミノ酸置換体及びプソイドペプチド構造は安定性、処方性、投与性を高めるために(例えば徐放製剤、プロドラッグ)、あるいは生産の経済性を改善するために、ペプチドの生物活性を損なわない限り、必要で望ましいものである。
【0019】
血中、組織その他に存在するプロティナーゼ及びペプチダーゼによる分解の危険はあるが、レセプターに結合する生物活性ペプチドを設計する時、置換体以外に、ペプチド模倣体及び/又は特定の関連を有する類似体構造の3つの特定の型が挙げられ、次の例によって説明される:第一は、バックボーンキラル中心のD−アミノ酸残基構造への転化、特にN−末端での転化は、活性を損うことなく、蛋白加水分解に対する安定性を上昇させる。その1例は“TritriatedD−ala′−Peptidl T Binding”、Smith C.S.ら、Drug Development Res.15,pp371〜379(1988)に報告されている。第二は、NからCへの鎖間イミドやラクタムのような安定性を有する環状構造である(Ede et al.in Smith
and Rivier(Eds.)“Peptides:Chemistry
and Biology”,Escom,Leiden(1991),p268〜270)、また環状類似体を形成することによってレセプター結合が高められることもある。その1例は“構造的に制限されたチモペンチン様化合物”、米国特許4,457,489(1985),Goldstein,G.et al.に示されている。第三は、ペプチド結合を置換するためにケトメチレン、メチルスルフィド又はレトロインバース結合を導入することである。すなわちCO部分とNH部分の交換は安定性と効力の両者を高めるようである。このタイプの1例が“チモペンチの生物学的に活性なレトロインバース類似体”、Sisto A.ら、Rivier,J.E.,Marshall,G.R.(編集)“Peptides,Chemistry,Structure and Biology”、Escom,Leiden(1990)p.722−773、に示されている。
【0020】
本発明のペプチドは理論上知られている種々の方法によって合成することができる。すなわち化学的カップリング法(参照;Wunsch,E:“Methoden der organischen Chemie”,Volume15,Band 1+2,Synthese von Peptider,thime Verlag,Stuttgart(1974),及びBarrany,G.;Marrifield,R.B.:“The Peptides”,eds.E.Gross,J.Meienhofer,Volume2,Chapter 1,p.1〜284,Academic Press(1980))、又は酵素的カップリング法(参照;Widmer,F.Johansen,J.T.,Carlsberg Res.Commun.,Vol.44,p.37〜46(1979),及びKullmann,W.:Enzymatic Peptide Synthesis”CRC Press Inc.Boca Raton,Fl.(1987)、及びWidmer,F.,Johansen,J.T.in“Synthetic Peptides in Biology and Medicines:,eds.Alitalo,K.,Partanen,P.,Vatieri,A.,p.79〜86,Elsevier,Amsterdam(1985))、あるいは化学的方法と酵素的方法の併用が工程設計及び経済的に有利であるならばこの方法によって合成することができる。
【0021】
システィン残基がペプチドのアミノ末端とカルボキシ末端の両方に付加され、これがジスルフィド結合を形成することによってペプチドの環状化が起こる。
【0022】
本発明のペプチドを生物学的活性を減少させないで修飾する方法はすべて本発明の範囲内に入る。
【0023】
ある抗原に対する抗イデオタイプ抗体(anti−Id Abs)が動物細胞や細胞成分との相互作用においてその抗原のように機能する能力を説明する例は多く存在する。したがって、ペプチドホルモン抗原に対するanti−Id Absはホルモン様活性を有し、レセプターと同じ方法でメディエータと特異的に相互作用する。(これらの性質についての総説は次のものを参照:Gaulton,G.N.,Greane,M.I.1986.生物学的レセプターのイデオタイプ模擬体、Ann.Rev.Immunol.Vol.4,p.253〜280;Sege K.,Peterson,P.A.,1978,抗イデオタイプ抗体の細胞表面レセプタープローブとしての利用、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,Vol.75,p.2443〜2447)。
【0024】
anti−Id Abと抗原の機能的類似性から、抗原の内部像を有するanti−Id Absはこのような抗原に対する免疫を誘導し得ることが期待される。(Hiernaux,J.R.,1988,イデオタイプワクチンと感染性疾患、Infect.Immun.,Vol.56,p.1407〜1413の総説を参照)。
【0025】
したがって本発明のペプチドに対する抗体で、同じような生物学的活性を有する抗イデオタイプ抗体を産生することが可能である。
【0026】
したがって本発明はまた本発明のペプチドに対する抗イデオタイプ抗体を提供するものであり、この抗イデオタイプ抗体はTNFの毒性を阻害することができるが、そのレセプターへの結合は阻害しない。
【0027】
抗体の個々の特異性は抗体の可変ドメインの相補決定領域(CDRs)を構成するペプチドループの構造に存在する。一般にanti−Id AbのCDRペプチドのアミノ酸配列は、元来それが誘導されたペプチド抗原のアミノ酸配列と同一でもなければ類似もしていないので、当然の結果としてアミノ酸配列が全く似ていないペプチド類がある環境において極めて類似した3次元構造をとることができる。Geysonによって“機能的に同等の配列”またはミモトープと名付けられたこのタイプのペプチドの概念は既知である。(Geyson,H.M.ら、1987、ペプチド合成を利用するエピトープ分析の戦略.,J.Immun.Methods,Vol.102,p.259〜274)。
【0028】
さらに、生物学的に活性なペプチドの3次元構造及び機能は他の化合物によって模倣することができる。これら化合物のいくつかは性質において全くペプチド的でないけれども、このようなペプチドの活性によく似ている。この分野はGoodman,M.(1990)の総説に総括されている。(ペプチド研究における合成、分光学およびコンピューターシミュレーション、第11回アメリカペプチドシンポジウム、Peptides−Chemistry,Structure and Biology,p.3−29;Eds.Rivier,J.E.and Marshall,G.R.Publisher Escom).
【0029】
本発明のペプチドと同じ3次元構造を有するペプチド及び非ペプチド化合物を作ることは可能である。これらの“機能的に同等の構造”又は“ペプチド模倣体”は本発明のペプチドに対する抗体と反応し、そしてまたTNF毒性を阻害することができる。
【0030】
したがって本発明の実施態様はさらに、薬物団として本発明のペプチドの3次元構造に類似した3次元構造を有する化合物を提供するものであり、その化合物の特徴は、本発明のペプチドに対する抗体と反応することであり、そしてTNFの毒性を阻止することができることである。
【0031】
薬物団についてのさらに詳細については、Smith and Rivier編集、“Peptides:Chemistry and Biology”Escom,Leiden発行(1991)の、Bolinら,p.150,Polinskyら,p.287,Smithら,p485に記載されている。
【0032】
すべての分子(蛋白質、ペプチド等)はここで述べた従来の化学的方法又は組換えDNAによって生産することができる。
【0033】
本発明はまた本発明によるリガンドをコードするDNA分子、それらを含むベクター及びそのベクターを含みそして本発明にしたがってリガンドを発現することができる宿主細胞を提供するものである。
【0034】
宿主細胞は原核細胞でも真核細胞でもよい。
【0035】
さらに本発明は上記DNA分子に対合し、同じ活性を有するリガンドをコードするDNA分子を提供するものである。
【0036】
本発明はまた上記リガンドを含み、内因的に生成された又は外因的に投与されたTNFの作用により誘導又は引き起こされた疾患の治療に有効な医薬組成物を提供するものである。
【0037】
上述のようにTNFは1種のサイトカインであり、細胞表面の2つの特異的レセプター:P55レセプター及びP75レセプターと結合することによって細胞機能への作用を開始する。これらレセプターの細胞外ドメインへの抗体の結合はその作用を妨げることができる。しかしながら、多くの研究において示されているごとく、レセプターの細胞外ドメインへの抗体の結合はまた、P55レセプター及びP75レセプターの凝集を誘導することによってTNFの作用を誘発することができる。(Engelmann.ら,J.Biol.Chem.,Vol.265,No.24,p.14497〜14504,1990;及び未発表データ)。
【0038】
P75レセプターにおける1つの特定領域に結合するある種の抗体は、このレセプターによる細胞致死作用の伝達に対して模倣的ではなくむしろ阻害的であることを我々は発見した。この領域に結合する時、これらの抗体はTNFの結合を阻止せずむしろある程度それを増加させるという事実があるにもかかわらずである。
【0039】
本発明は、我々が32グループと呼ぶこれらの抗体によって認識されるこの領域はP75レセプターの細胞外ドメインにおける2個のC末端システィン間プラス1個のアミノ酸、スレオニン179、が付加した範囲に広がっている領域である。この明細書においてはこの領域を簡単のため“システィンループ”と呼ぶ。
【0040】
本発明はまたこのグループに属する3種の抗体、すなわち抗体32、57及び70の重鎖のCDRにおけるヌクレオチド配列及び演繹アミノ酸配列を提供するものである。抗体32と70の重鎖のCDRにおけるアミノ酸配列間に顕著な類似性が見いだされたが、これは抗原への結合に最も必要なものに近いことを示すものである。さらに、本発明は抗体32の軽鎖のヌクレオチド配列及び演繹アミノ配列をも提供するものである。これらの配列に基づいて、P75レセプターの機能を阻害する低分子量化合物、ペプチドあるいは模倣化合物は限定される。
【0041】
このような低分子化合物が実際これを達成できるという証拠、および抗体はレセプターを凝集することができることが知られているが、凝集の必要がないという証拠から、32グループの抗体の1価のF(ab)フラグメントもまた、毒性がTNFによって誘発される時P75レセプターによる毒性の伝達を阻害するということが発見された。
【0042】
これらの所見ならびにこの特定の系統群に属するレセプターの緊密な類似性から見て、本発明はまたTNF/NGFレセプター群に属する他の種々のレセプターの細胞外ドメインのC末端システィンループに結合して、TNF機能の調節と同様に、他のレセプターの機能を調節する因子にも関する。このレセプター系統群においては、細胞外ドメインにおけるシスティンの局在と空間は高度に維持されている。この系統群中のあるレセプター、例えばCDw40はP75レセプターに特に高い類似性を示している。特にこのようなレセプターにおいては、これらの領域に結合する因子は、32抗体のP75レセプターに対する作用と類似した作用を有することが期待される。
【0043】
上述したように、本発明によるリガンドは蛋白質、ペプチド、イムノアドヘシン、抗体又は他の有機化合物を含む。
【0044】
蛋白質は、例えば、実質的に上記ストレッチに相当するアミノ酸配列を有する分子をリガンドとして用いるリガンドアフィニティ精製によって細胞抽出液から単離される。
【0045】
ペプチドは、本発明に従がってTNFの作用を阻害するリガンドを結合することが認められているTNF−Rのアミノ酸ストレッチに相当する目的ペプチドを最初に合成することによって調製する。その後、それに結合する他のリガンドをペプチドライブラリーから選択する。これらの領域に結合するペプチドをさらにスクリーニングしてTNF−Rにも結合するものを選択する。最後に目的ペプチドとTNF−Rの両者に強くアフィニティ結合するペプチドをスクリーニングして期待する生物学的活性を発揮する能力のあるペプチドを選択する。
【0046】
同様にして、他の適応症が知られている薬剤も含めて各種の有機分子について、TNFの作用を阻害するのに極めて重要であることが認められたアミノ酸ストレッチに結合する能力があるかどうかについてスクリーニングを行う。
【0047】
有機分子に加えて、細菌培養生産物、真菌培養生産物、真核生物培養生産物、および粗サイトカイン調製物のような生物学的物質のブロスも上述のアミノ酸ターゲットペプチドでスクリーニングをする。このスクリーニングで得られた分子をさらに期待する生物学的機能を遂行する能力の有無についてスクリーニングを行う。
【0048】
あるいはまたレセプター中のアミノ酸ストレッチの4次構造に空間的に適合する分子を設計する。
【0049】
上述の方法で得られる活性な分子は、それらが生物学的物質である限りにおいては、生物工学的方法によっても調製することができる。この方法では、これらの分子の大量生産が可能であろう。ペプチド類は既知のペプチド合成法あるいはそれらをコードしているDNA配列を含有している発現ベクターを用いても生産することができる。他の分子もそれが酵素的方法で生産されるならば、適当な培養細胞中に含まれるその酵素を生産することによって作ることができる。
【0050】
本発明のリガンドを含む薬剤組成物は哺乳動物においてTNF作用の拮抗剤として使用される。
【0051】
かかる組成物は有効成分として本発明によるリガンドを含む。この薬剤組成物は敗血症ショック、悪液質、移植片対宿主反応、慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患、その他同種類の疾患等の症状に適用される。またTNFの過量投与を中和するために処方される。
【0052】
本発明による薬剤組成物は治療すべき病状によって投与可能な方法で投与される。例えば敗血症ショックの例では静脈内投与が好ましい。該薬物組成物は連続的にすなわち輸液法によって投与してもよいし、あるいは経口的に投与してもよい。処方及び投与量は治療状態、投与経路、及び治療すべき患者の状態、体重によって異なる。正確な投与量は主治医によって決定される。
【0053】
本発明による薬剤組成物は通常の方法、例えば、有効成分を場合場合で製剤学的及び生理学的に利用可能な担体及び/又は安定剤及び/又は添加剤と混合して調製し、例えば投与バイアル中で凍結乾燥して剤型に調製する。
【0054】
ここで用いられている“突然変異蛋白質”という語は、結合していることが知られている蛋白質中の1個以上のアミノ酸残基が、異なったアミノ酸残基で置換されているか又は除去されているか、あるいは1個以上のアミノ酸残基が原配列に添加されていて、しかもその結果生じた生成物の活性が著しく変化していない蛋白質、ペプチドその他同種類のものの類似体を指す。これらの突然変異蛋白質は既知の合成法及び/又は位置指定突然変異誘発法、あるいはそれに適した何らかの他の既知の方法によって調製される。
【0055】
“融合蛋白質”という語は体液中で長い滞留時間を有する他の蛋白質と融合したリガンド又はリガンドの突然変異蛋白質を含有するポリペプチドを指す。このようにリガンドは他の蛋白質、ポリペプチドあるいは他の同種類のもの、例えば免疫グロブリン又はそのフラグメントと融合されてもよい。
【0056】
ここでの“塩”という語は、リガンド、突然変異蛋白質及びそれらの融合蛋白質のカルボキシル基の塩及びアミノ基の酸付加塩を指す。カルボキシル基の塩は技術上周知の方法で作られ、例えば、Na、Ca、NH4 、Fe(III)又はZn塩などの無機塩、及びトリエタノールアミン、アルギニン又はリジン、ピペリジン、プロカインなどのアミンで生成されるような有機塩基を持つ塩を含む。酸付加塩は、例えば、塩酸あるいは硫酸のような鉱酸を持つ塩、及び例えば酢酸あるいは蓚酸のような有機酸を持つ塩を含む。
【0057】
ここで用いられている“機能性誘導体”は、残基の側鎖として存在する官能基、又はN末端あるいはC末端基から技術上周知の方法で調製されるリガンド及びそれらの融合蛋白質および突然変異蛋白質の誘導体を含み、そしてそれらが製剤的に使用可能である限り、すなわち、それらがリガンドの活性を破壊せず、またそれを含む組成物に毒性を付与しない限り機能性誘導体は本発明に含まれる。これらの誘導体は例えば抗原部位をマスクし、リガンドの体液中での滞留を長びかせると思われるポリエチレングリコールの側鎖を含んでもよい。他の誘導体はカルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニアあるいは第一級又は第二級アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド、アシル部分(例えばアルカノイル基又はカルボサイクリックアロイル基)で生成されるアミノ酸残基の遊離アミノ基のN−アシル誘導体、あるいはアシル部分で生成される遊離ヒドロキシル基(例えばセリン又はスレオニン残基の遊離ヒドロキシル基)のO−アシル誘導体を含む。
【0058】
以下本発明を実施例より説明するが本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0059】
本発明を以下の非制限実施例によって示す:
例1:グループ32抗体によって認識されるP75レセプターの領域の決定
主な適用の例5において、大腸菌中の発現によっていくつかの構築物を調製し、アミノ酸125−182の間の抗体no.32マップによってエピトープが認識されることが結論された。
【0060】
われわれは今ではさらなる構築物を調製してそれらの完全なリストをしらべ、同時に可溶性P75Rの構造に対するそれらの相関関係を図1に示してある。グループ32の抗体により認識される構築物を太字の数字で表示し実線で示した。これらの抗体と反応しない構築物は細字の数字で表示し破線で示した。すべての構築物をそれらのN−およびC−末端アミノ酸残基で同定した。
【0061】
図1は、構築物の図による表示の上に、P75TNF−Rのアミノ酸配列部分を示しており、これらの領域はレセプターの可溶型に対応する領域およびボックスされたトランスメンブラン領域に対応する。ヒトとマウスで保存されているアミノ酸残基には下線を付けてある。
【0062】
図2に示したグループ32抗体の、図1に示した構築物のあるものへの結合のウェスターンブロット分析を主要適用の例5と同じように実施した。
【0063】
例2:グループ32抗体と合成ペプチドの間のP75TNF−Rの細胞外ドメインへの結合に対する競合
いくつかの合成ペプチドで、それらの配列がグループ32エピトープを疑わせるTNF−R上の領域の種々の部分に対応しているものを合成した(残基160−179,162−179,163−179,165−179および167−179)。それらのペプチドをグループ32の抗体への結合に対する競合の能力についてELISAテストでしらべた。
【0064】
P75TNF−R(図3のP75構築物)のアミノ酸3から180に対応する細菌によって産生された構築物を抗体32でプレコートしたPVCプレートに指定濃度で適用し、そのあとTBP−II(P75可溶性TNF−R)にウサギ抗血清を適用した。プレートに結合したウサギ抗血清の量をウサギ免疫グロブリンに対するヤギ抗血清を適用することにより測定し、西洋ワサビペルオキシダーゼおよびプレートに結合したヤギ免疫グロブリン量の評価と組み合わせた。図3はアミノ酸残基163から179に対応する合成ペプチドが結合に関して競合することがわかった実験のデータを示す。
【0065】
図4はある1つの実験のデータを示すが、そこではマルトース結合蛋白質(MBP)とP75レセプターの125から192に拡がるアミノ酸の配列との融合蛋白質を用いて10μg/mlの濃度でPVCプレートをコートするのに用い、ついでNo.32McAbを以下に示す種々のペプチドの指示濃度と共に2μg/mlの濃度で適用した:
DW16−アミノ酸165−179
DW18−アミノ酸163−179
DW19−アミノ酸162−179
DW21−アミノ酸160−179
【0066】
したがって、西洋ワサビペルオキシダーゼに結合したヤギ抗−マウスを加えることによって反応を展開させた。図4に示すように、モノクローナル抗体No.32による融合蛋白質認識の顕著な阻害は全エピトープをカバーする3つのペプチドについてのみ観察された。
【0067】
例3:32エピトープの突然変異的研究
アミノ酸3から181に対応する配列をもつ組換えペプチド中のシスティン178をアラニンで置換すると、この蛋白質はグループ32抗体によって認識されなくなる。この知見から示唆されることは、これらの抗体で認識されるためには、グループ32エピトープ領域中の2つのシスティンは互いに自由に相互作用できなければならない;すなわち、抗体で認識される構造はループであるということである。この考え方を支持するものとして、われわれは以下のことを見出した:すなわちSDS PAGEとウェスターンブロット分析の前にジチオスレイトールでペプチドを還元するとグループ32抗体によるペプチドの認識の効率がいくらか減少し、ジチオスレイトールによる還元のあとにヨードアセトアミドでアルキル化すると抗体による認識は完全に失われる。
【0068】
例4:TNF毒性に対する種々の抗体およびそのフラグメントの作用
(a)グループ32抗体の機能を比較するために、32エピトープ領域に対する上流のレセプターに結合する抗体(抗−TBP−II抗体の大半が期待されるように)のみならず、そのエピトープ領域に対する下流のレセプターに結合する抗体に対しても、われわれはMBPに連結した32エピトープ(アミノ酸181から235;“スタルク”領域)に対する下流に拡がる領域に対応するキメラ構築物でマウスを免疫化した。ウサギはキメラに結合する抗体を産生し、無傷のP55TNFレセプターに対するのと同じようにそのキメラによって免疫化される。これらの抗体はキメラ蛋白質への結合によってアフィニティカラム法で精製されてAffi−gel 10カラムに連結し、TNF機能と結合への作用に関してテストされた(アフィニティカラムで精製した抗体調製物を“318”と名付けた)。
【0069】
(b)アフィニティカラム精製のアンチスタルク抗体と同じようにすべてのモノクローナル抗−TBP−II抗体を、P75受容体を過剰発現するように作られた上皮様HeLa細胞のクローン中でのTNF毒性に対する作用に関してテストした(それらをP75レセプターのcDNAでトランスフェクトすることによって。ここで示した実験で用いた特別に過剰発現したクローンをHeLa P75.3と呼ぶことにする)。TNF機能を阻害することがわかった抗体だけがグループ32エピトープの抗体であった;それらは阻害しないという事実にもかかわらず、レセプターに対するTNF結合をいくらか増大させる(図8と9)。他の抗−TBP−II抗体(図6および9のNo.67およびNo.81)のうちの2つはレセプターへのTNF結合またはTNF毒性に対してごく僅かの作用しかなかった。他のすべてのモノクローナル抗−TBP−II抗体はTNF結合と競合するにもかかわらず、TNFの細胞致死作用をいくらか強化させた(たとえば図6および9の抗体36)。“抗−スタルク”抗体はTNF結合または機能に対してごく僅かの作用しかなかった(図6および9)。抗−スタルク抗体を32グループの抗体と一緒に細胞に適用したところTNF機能に対する後者の阻害作用に対して妨害しなかった。
【0070】
(c)同じ登録簿中の抗体についてTNFによる骨髄球U937の殺傷作用に関してテストした。HeLa細胞中の抗−TNFレセプター抗体の擬症効果に対立するものとして、実施された実験条件下では、抗−P55、抗−75レセプター抗体いずれもU937細胞に対するTNFの致死作用への擬症効果は示さなかった。TNFの作用に対して似た作用をする能力はもってはいないが、P75レセプター(たとえば図9の抗体14、31および36)またはP55レセプター(たとえば図7の抗体番号18)へのTNF結合に対して競合するすべてのモノクローナル抗体はTNF作用に対して阻害的である。レセプター(たとえば図9の番号67)へのTNF結合に対してなんの影響も与えない抗体はTNF機能に対して何の作用も有しない(図6)。グループ32抗体はTNF結合に対してなんらの阻害作用も有しないのに、この細胞中でTNF機能を阻害する能力を有する点でユニークであった。実際にこれら抗体はHeLa P75.3細胞中におけるよりもはるかにこれらの細胞中でTNFの結合を高めた(図8)。グループ32抗体の阻害作用はP55レセプターへのTNFの結合を遮断する抗体のそれと相加的であった(たとえば図7の組合せ18/32)。
【0071】
例5:TNF−RsからのTNFの分離に対するグループ32抗体およびそれらの1価フラグメントの作用
グループ32抗体がTNF結合における増大をひき起こす作用機序を探究するために、これら抗体の存在および非存在におけるHeLa75.3細胞からのTNFの分離速度を比較した。
【0072】
放射標識したTNFをHeLa P75.3密集細胞に添加して細胞を氷上で2時間インキュベートした。非結合リガンドを洗い流し、冷TNF500ng/mlを含む結合緩衝液1mlを氷上で指定の時間の間4重の井穴中に加えた。その後、井穴を冷PBSでもう一度洗滌し、残余リガンドの量をPBS/EDTA溶液とのインキュベーションによりプレートから引き離された細胞の放射能を測定することによって決定した。抗体は定量の間中10μg/mlの濃度で供給した。
【0073】
図10に示すように、これら抗体とそれらのF(ab)1価フラグメントの両者いずれもレセプターからのTNF分離の速度を減少させる。TNFのそのレセプターへの結合にこれらの抗体が影響を与えるそのやり方についての考えられる解釈を与えるだけでなく、この知見はこの作用に対するもう一つの応用を示唆している。グループ32抗体によるのと同じようなコンホメーション変化がその内部で起こるような、P75TNF−RsまたはP55レセプターまたはTNF/BGFレセプター系統群のいずれか他のメンバーの可溶型はそれぞれの作動薬のより良い阻害剤として働らくであろう。
【0074】
例6:モノクローナル抗体32,57および70(グループ32抗体)の重鎖のCDR中および抗体32の軽(Kappa)鎖のCDR中のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列の決定
抗体32,57および70の重鎖のCDRのヌクレオチド配列を決定するために、プロメガプロトコールにより全RNAをグアニジニウムチオイソシアネートを用いてそれぞれのハイブリドーマ細胞から分離した。このRNA上での第1鎖cDNA合成をAMV逆転写およびプライマーとしてオリゴ(dT)15−18またはネズミIgGの重鎖の定常部に相補的なオリゴヌクレオチドを用いて実施した。cDNAをPCRのための鋳型として使用し、部分的に縮重した5′−プライマーを適用した。40サイクルのPCRを行なった。約350bpの大きさのPCR産物を電気泳動法を用いて精製し、ブルースクリプトベクター中でクローン化した。正しい大きさの挿入断片を有するクローンの塩基配列決定を行なった。抗体no.32の軽鎖のCDR領域の二重鎖のcDNAを同じようにして合成した。
【0075】
ジデオキシ鎖終結法により得られたヌクレオチド配列、およびそれから推定されたアミノ酸配列を図11および12に示す。CDR1,2および3領域には下線を施してある。
【0076】
例7:グループ32抗体のscFvの調製
グループ32のモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖のクローン化した種々の領域を15個のアミノ酸の長さのリンカーと連結し、市販の発現ベクター中に導入した。そのベクターはたとえばlacのようなプロモーター、pel−Bのようなリーダー配列と同時に、小さなペプチド(“tag”ペプチド)をコードする配列で、それに対するモノクローナル抗体が市販品として入手できるようなものを含んでいる。現在ではプラスミドは大腸菌中に導入され細菌はO.D. 0.5−1.0にまで増殖させている。scFvの発現はIPTGの添加により誘導し増殖をさらに6−24時間継続させる。ついで可溶性のscFv−tag複合体をtagに対するモノクローナル抗体を用い免疫アフィニティ精製法により培養培地から分離し、そのあと金属アフィニティカラム上で精製した。
【0077】
細菌中に蓄積したscFvはどんなものも封入体を分離し、くり返し洗滌することによって精製し、ひき続いてたとえば尿素またはグアニジニウムで可溶化し、そのあと再生する。
【0078】
代わりの可能性はtagとしてオリゴヒスチジンを使用し、lacの代わりにより強力なプロモーター、すなわちT7を用いて、リーダー配列なしのベクターを構築するか、または無関係な配列の“tail”をコードする配列をscFvの5′末端位のベクトル中に導入することである。この“tail”は生物学的に活性であってはならない、というのはそれの唯一の目的は天然のscFvよりも長い分子をつくることであり、これによって体内での保持時間をより長くすることができるからである。
【0079】
例8:図13は2つのTNF−Rsの細胞外ドメイン中の内部システィンリッチ繰返し体とそれらと相同なヒトFAS、神経成長因子(NGF)およびCDW40ならびに同じくラットOx40の細胞外ドメイン中の繰返し体とを並べて示したものである。アミノ酸配列(一文字記号)を最高相同に関して配列してある。レセプター中のアミノ酸の位置を左側縁に示した。
【0080】
例9:活性ペプチドおよびその他の分子をコードするヌクレオチド配列を含む組換えDNA分子の創製とそれらの発現
ペプチドおよびその他の分子もまた遺伝子工学的方法で調製することができ、それらの調製には遺伝子工学的方法で用いられるすべての道具が用いられる。こうしてこれらペプチドおよびその他の生物学的分子に関してコードするヌクレオチド配列を含むDNA分子が供給される。これらのDNA分子はゲノムDNA、cDNA、合成DNAおよびそれらの組み合わせとなりうる。
【0081】
このようなペプチドおよび分子をコードするDNA分子の創製は、これらのペプチドおよびその他の分子のアミノ酸配列が一旦決定されれば通常の方法は実施される。
【0082】
組換え蛋白質の発現は適当な発現ベクターを用いて真核細胞、細菌または酵母中で実現させることができる。技術的に知られている方法はどんなものでも使われるかもしれない。
【0083】
たとえば、上述の方法で得られたペプチドまたはその他の分子をコードするDNA分子は技術的によく知られた方法(Maniatis,T.他,Molecular Cloning:A haboratory Manual,Cold Spring Harbor haboratory,Cold Spring Harbor(1982))によって適当に構築された発現ベクター中へ挿入される。二重鎖cDNAはホモポリメリックテーリングまたは合成DNAリンカーまたは平滑末端連結技法の使用を含む制限連結によってプラスミドベクターに連結される。DNA分子を配位子結合させるのにはDNAリガーゼを用い、アルカリフォスファターゼによる処理によって好ましくない連結を避ける。
【0084】
望みの生物学的物質、すなわちペプチドまたは蛋白質(以後簡単のために“蛋白質”とする)の発現を可能にするために、発現ベクターは遺伝子発現と蛋白質の産生が可能なように望みの蛋白質をコードするDNAに連結した転写および翻訳調節情報を含む特定のヌクレオチド配列を含まなければならない。第1に、遺伝子が転写されるためには、その前にDNAポリメラーゼによって認識され得るプロモーターが存在しなければならず、ポリメラーゼはこれに結合して転写のプロセスが始まる。使用に供されているこのようなプロモーターにはいろいろのものがあり、働らく効率も異なっている(強および弱プロモーター)。それらは原核細胞と真核細胞では異なっている。
【0085】
本発明で使用可能なプロモーターは構成的なもの、たとえばバクテリオファージλのintプロモーター、pBR322のβ−ラクトマーゼ、およびpPR325のクロランフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子のCATプロモーターなどか、あるいは以下に示すような誘導的なものになるかもしれない:バクテリオファージλ(PL およびPR )、大腸菌のtrprecAlacZlacIompFおよびgalプロモーターなど(Glick,B.R.(1987)J.Ind.Microbiol.,:277−282)。
【0086】
原核細胞中で高レベルの遺伝子発現を実現するためには、大量のmRNAを作り出す強力なプロモーターの使用のほかに、mRNAが効率良く翻訳されることを保証するためにリボソーム−結合部位を使用することも必要である。1つの例はShine−Dalgarno(SD)配列で、開始コドンから適当な位置にありかつ16S RNAの3′−末端配列に相補的である。
【0087】
真核宿主については、宿主の性質に応じて異なる転写および翻訳調節配列が用いられる。それらはウィルス起原のもので、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス、シミアンウィルス、または同じようなものがあり、そこでの調節シグナルは高レベルの発現を有する特定の遺伝子と関連している。例としてはヘルペスウィルスのTKプロモーター、SV40早期プロモーター、酵母gal 4遺伝子プロモーター等がある。転写開始調節シグナルは抑制と活性化が可能で、それによって遺伝子の発現が調節できるものが選択される。
【0088】
本発明のペプチドまたはその他の分子をコードするヌクレオチド配列を含み、実施可能なように転写および翻訳シグナルを連結したDNAを、宿主細胞染色体中へ望みの遺伝子を組み込むことができるベクター中へ挿入する。導入されたDNAを染色体中へ安定に組み込んだ細胞は、発現ベクターを含む宿主細胞を選択できる1つまたはそれ以上のマーカーを導入することによっても選択することができる。プロトトロフィーに関してマーカーは栄養要求性宿主に対して生物致死剤、たとえば抗生物質または銅やその類似体などの重金属を提供するであろう。選択可能なマーカー遺伝子は発現されるべきDNA遺伝子配列に直接連結し得るか、あるいは同時トランスフェクションによって同じ細胞中へ導入される。単鎖結合蛋白質mRNAの最適合成のためには付加的要素もまた必要となる。これらの要素は転写プロモーター、エンハンサーおよび終結シグナルと同様にスプライスシグナルを含むであろう。このような要素を組み込んだcDNA発現ベクターはOkayama,H.,(1983)Mol.Cell Biol.,:280によって記載されたようなものを含んでいる。
【0089】
好ましい態様では、導入DNA分子は受容宿主中で自律的複製ができるプラスミドまたはウィルスベクター中へ取り込まれるであろう。特定のプラスミドまたはウィルスベクターを選択するにあたっての重要な因子として以下のものが含まれる:ベクターを含む受容細胞が認識できてベクターを含まない細胞からの選択が容易であること;特定の宿主中で要求されるベクターのコピー数;および異なる種の宿主細胞間で“シャトル”できることが望ましいかどうかということなどである。
【0090】
好ましい原核生物のベクターには以下のものが含まれる:大腸菌中で複製できるプラスミド、たとえばpBR322,ColE1,pSC101,pACYC184,など(Maniatis他,(1982)op.cit.);pC194,pC221,pT127など(Gryczan,T.,The Molecular Biology of the Bacilli,Academic Press,NY(1982);pIJ101を含むストレプトミセスプラスミド(Kendall,K.J.他,(1987)J.Bacteriol.169:4177−83);φC31のようなストレプトミセスバクテリオファージ(Chater,K.F.他,in:Sixth International Symposium on Actinomycetales Biology(1986),およびシュードモナスプラスミド(John,J.F.他(1986)Rev.Infect.Dis.:693−704;and Izaki,K.(1978)Jpn.J.Bacteriol.,33:729−742)。
【0091】
好ましい真核生物プラスミドはBPV、ワクシニア、SV40、2−ミクロンサークルなど、またはそれらの誘導体を含む。このようなプラスミドは技術的によく知られている(Botstein,D.他(1982)Miami Wint.Symp.19,pp.265−274;Broach,J.R.in:The Moleculat Biology of the Yeast Saccharomyces:Life cycle and Inheritance,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY,pp.445−470(1981);Broach,J.R.,(1982)Cell,28:203−204;Bollon,D.P.他(1980)J.Clin.Hematol.Oncol.,10:39−48;Maniatis,T.in:Cell Biology:A Comprehensive Treatise,Vol.3:Gene Expression,Academic Press,NY,pp.563−608(1980))。
【0092】
構築物を含むベクターまたはDNA配列が発現のために一旦調製されると、DNA構築物は適合した種々の方法のいずれかによって適当な宿主細胞中へ導入される:形質転換、トランスフェクション、接合、原形質体融合、エレクトロポレーション、燐酸カルシウム沈澱、直接ミクロインジェクションなど。
【0093】
本発明で使用されるべき宿主細胞は原核生物のものかあるいは真核生物のものとなるだろう。好ましい原核生物宿主に含まれるのは大腸菌、バチルス属、ストレプトミセス属、シュードモナス属、サルモネラ属、セラチア属などの細菌である。最も好ましい原核生物宿主は大腸菌である。特別に興味のある細菌宿主には大腸菌K12株294(ATCC31446)、大腸菌X1776(ATCC31537)、大腸菌W3110(F- ,λ- ,プロトロピック(ATCC27325))、およびネズミチフス菌または霊菌のような腸内細菌および種々のシュードモナス種がある。このような条件下では蛋白質は糖化されないだろう。原核生物宿主は発現プラスミド中のレプリコンおよび制御配列と適合しなければならない。
【0094】
好ましい真核生物宿主はたとえばヒト、サル、マウスおよびチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの哺乳動物細胞である、というのはそれらは正しい折りたたみまたは正しい部位での糖化を含む蛋白質分子への翻訳後修飾を与えるからである。また酵母細胞は糖化を含む翻訳後ペプチド修飾を行うことができる。いくつかの組換えDNA戦略があり、それによると強力なプロモーター配列および酵母中で望みの蛋白質の産生のために使用しうるプラスミドを用いる。酵母はクローン化した哺乳動物遺伝子産物上のリーダー配列を認識してリーダー配列を有するペプチド(すなわちプレ−ペプチド)を分泌する。
【0095】
ベクター導入後、宿主細胞を選択培地中で増殖させ、これによってベクター含有細胞の増殖が選択される。クローン化遺伝子配列が発現するとその結果望みの蛋白質が産生する。
【0096】
組換え蛋白質の精製はこの目的のために知られている方法のいずれか1つによって行われる。
【0097】
寄託について
ハイブリドーマTBP−II 70−2をCollection National de Cultures de Microorganismes,Institut Pasteur(CNCM)に1990年3月12日に寄託し、受託番号No.I−928が付与された。
ハイブリドーマTBP−II 32−5は、1993年9月1日にCNCMに寄託され、受託番号No.I−1358が付与された。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】グループ32の抗体が結合しており、配列の決定に使用されるバクテリア構築物を図式的に説明したものである。
【図2】図1に示した構築物への抗体の結合を決定するウェスタンブロッティング分析法の1例を示したものである。
【図3】32グループ又はその1部のモノクローナル抗体によって認識されるエピトープの領域を配列中に含む合成ペプチドと、このグループの抗体との構築物に対する結合の拮抗を示したものである。この構築物にはエピトープが存在するTBP−IIの1部が含まれている。
【図4】32グループ又はその1部のモノクローナル抗体によって認識されるエピトースの領域を配列中に含む合成ペプチドと、このグループの抗体との構築物に対する結合の拮抗を示したものである。この構築物にはエピトープが存在するTBP−IIの1部が含まれている。
【図5】P75レセプターのヌクレオチド及び演繹されたアミノ酸配列を示したものである。TBP−II及びトランスメンブランドメインは線で囲み斜線が付けてある。グループ32によって認識される領域は下線が付けてある。
【図6】P75TNF−R及びそのフラグメントに対する種々のモノクローナル抗体によるHeLa p75.3細胞(後で定義する)のTNF細胞毒性からの防御パターンを示したものである。
【図7】TNFによるU937細胞の殺細胞度への、TBP−Iに対するモノクローナル抗体及びTBP−IIに対する数個のモノクローナル抗体の影響を示したものである。
【図8】モノクローナル抗体70及びそのFabフラグメントのTNF結合に対する影響であって、AはP75.3細胞への結合に対しての図、BはU937細胞への結合に対しての図である。
【図9】HeLa P75.3細胞へのTNFの結合に対する抗体32の影響をP75TNF−Rに対する他の抗体と比較したものである。
【図10】抗体No.70及びその1価Fabフラグメントの存在下及び非存在下におけるHeLa P75.3細胞からのTNFの解離を示したものである。
【図11】32グループの3種モノクローナル抗体の重鎖のCDR領域に対するヌクレオチド配列及び演繹されたアミノ酸配列を示したものである。
【図12】モノクローナル抗体No.32の軽鎖のCDR領域に対するヌクレオチド配列及び演繹されたアミノ酸配列を示したものである。
【図13】図はTNF/NGFレセプター系統群の幾つかのメンバー間の配列の相同性を示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p75TNF−Rに対する抗体又はそのフラグメントであって、p75TNF−Rの細胞を殺す効果のためのシグナリングを阻害することはできるがp75TNF−Rに対するTNFの結合は阻害しない抗体又はフラグメントであり、
当該抗体又はフラグメントは、p75TNF−RのC−末端システインループであってp75TNF−Rのアミノ酸配列Cys−163からThr−179よりなるループの領域に結合する抗体の抗原結合部分を含み、
但し、当該抗体又はフラグメントは、CNCM受託番号No.I−1358又はCNCM受託番号No.I−928としてそれぞれ寄託された継代株クローン32又は70由来のモノクローナル抗体ではない、
上記抗体又はフラグメント。
【請求項2】
以下に示したモノクローナル抗体No.32の重鎖の少なくとも1つのCDR領域に対するアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列中の1個以上のアミノ酸残基が、異なったアミノ酸残基で置換されているか及び/又は除去されているか、及び/又は1個以上のアミノ酸残基が当該アミノ酸配列に付加されている変異アミノ酸配列を含み、p75TNF−Rのアミノ酸配列Cys−163からThr−179よりなるループの領域に結合することを維持し、p75TNF−Rの細胞を殺す効果のためのシグナリングを阻害することはできるがp75TNF−Rに対するTNFの結合は阻害しないままである請求項1記載の抗体又はフラグメント。

【請求項3】
以下に示したモノクローナル抗体No.32の軽鎖の少なくとも1つのCDR領域に対するアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列中の1個以上のアミノ酸残基が、異なったアミノ酸残基で置換されているか及び/又は除去されているか、及び/又は1個以上のアミノ酸残基が当該アミノ酸配列に付加されている変異アミノ酸配列を含み、p75TNF−Rのアミノ酸配列Cys−163からThr−179よりなるループの領域に結合することを維持し、p75TNF−Rの細胞を殺す効果のためのシグナリングを阻害することはできるがp75TNF−Rに対するTNFの結合は阻害しないままである請求項1記載の抗体又はフラグメント。

【請求項4】
以下に示したモノクローナル抗体No.70の重鎖の少なくとも1つのCDR領域に対するアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列中の1個以上のアミノ酸残基が、異なったアミノ酸残基で置換されているか及び/又は除去されているか、及び/又は1個以上のアミノ酸残基が当該アミノ酸配列に付加されている変異アミノ酸配列を含み、p75TNF−Rのアミノ酸配列Cys−163からThr−179よりなるループの領域に結合することを維持し、p75TNF−Rの細胞を殺す効果のためのシグナリングを阻害することはできるがp75TNF−Rに対するTNFの結合は阻害しないままである請求項1記載の抗体又はフラグメント。

【請求項5】
以下に示したモノクローナル抗体No.57の重鎖の少なくとも1つのCDR領域に対するアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列中の1個以上のアミノ酸残基が、異なったアミノ酸残基で置換されているか及び/又は除去されているか、及び/又は1個以上のアミノ酸残基が当該アミノ酸配列に付加されている変異アミノ酸配列を含み、p75TNF−Rのアミノ酸配列Cys−163からThr−179よりなるループの領域に結合することを維持し、p75TNF−Rの細胞を殺す効果のためのシグナリングを阻害することはできるがp75TNF−Rに対するTNFの結合は阻害しないままである請求項1記載の抗体又はフラグメント。

【請求項6】
以下に示したモノクローナル抗体No.57の重鎖のCDR領域に対するアミノ酸配列を含む請求項1記載の抗体又はフラグメント。

【請求項7】
グループ32抗体のscFvを含む請求項1記載の抗体又はフラグメント。
【請求項8】
以下からなる群から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つをコードするDNA分子:
i)以下に示したモノクローナル抗体No.32の重鎖の3つのCDR領域に対する3つのアミノ酸配列;


ii)以下に示したモノクローナル抗体No.32の軽鎖の3つのCDR領域に対する3つのアミノ酸配列;


iii)以下に示したモノクローナル抗体No.70の重鎖の3つのCDR領域に対する3つのアミノ酸配列;


iv)以下に示したモノクローナル抗体No.57の重鎖の2つのCDR領域に対する2つのアミノ酸配列;

【請求項9】
a)以下からなる群から選択されるポリペプチドのいずれかを含む、p75TNF−Rの細胞を殺す効果のためのシグナリングを阻害することはできるがp75TNF−Rに対するTNFの結合は阻害しないポリペプチド:
i)以下に示したモノクローナル抗体No.32の重鎖のCDR領域のいずれかのアミノ酸配列を有するポリペプチド;


ii)以下に示したモノクローナル抗体No.32の軽鎖のCDR領域のいずれかのアミノ酸配列を有するポリペプチド;


iii)以下に示したモノクローナル抗体No.70の重鎖のCDR領域のいずれかのアミノ酸配列を有するポリペプチド;


iv)以下に示したモノクローナル抗体No.57の重鎖のCDR領域のいずれかのアミノ酸配列を有するポリペプチド;


b)上記i)〜iv)に定義されたアミノ酸配列において1個以上のアミノ酸の置換、欠失又は付加によってa)のポリペプチドから誘導されるポリペプチド、
をコードするDNA分子。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗体又はフラグメントに対する抗−イディオタイプ抗体であって、TNFの作用を阻害することはできるがp75TNF−Rに対するTNFの結合は阻害しない抗−イディオタイプ抗体。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗体又はフラグメント或いは請求項10記載の抗−イディオタイプ抗体を含む融合蛋白質。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗体又はフラグメント、請求項11記載の融合蛋白質の機能誘導体であって、そのアミノ酸残基に側鎖として存在する官能基、及び/又は、そのN末端残基及び/又はC末端残基に官能基を有し、
p75TNF−RのC−末端システインループ領域に結合することを維持し、p75TNF−Rの細胞を殺す効果のためのシグナリング、又は、TNFの効果を阻害することはできるがp75TNF−Rに対するTNFの結合は阻害しないままである請求項10記載の抗−イディオタイプ抗体に対して、阻害活性を維持する、
上記機能誘導体。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−14742(P2006−14742A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235253(P2005−235253)
【出願日】平成17年8月15日(2005.8.15)
【分割の表示】特願2004−126924(P2004−126924)の分割
【原出願日】平成5年9月3日(1993.9.3)
【出願人】(591015175)イエダ リサーチ アンド デベロツプメント カンパニー リミテツド (2)
【Fターム(参考)】