説明

TOF型質量分析装置

【課題】イオンビームを曲げる電極板の間隔および配設位置の精度を維持しつつ、軽く、しかも安価なTOF型質量分析装置を実現する。
【解決手段】扇形電極部1〜4を、薄い板状の内側金属板42および外側金属板43を挟み込む様にして取り付け、固定する一対の第1のプレート30から構成し、イオン光学系8を、扇形電極部1〜4の対をなす第1のプレート30を挟み込む対をなす第2のプレート32から構成し、一対の第1のプレート30を貫通し、第2のプレート32に取り付けて固定される複数のロッド12により、第1のプレート30を第2のプレート32に対して固定することとしているので、内側金属板42および外側金属板43の間隔および扇形電極部1〜4のイオン光学系8内での位置精度を維持したまま、イオン光学系8を軽量なものとし、ひいては安価なものにすることを実現させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、周回軌道を描くイオンビームの質量分析を行うTOF型質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飛行時間型質量分析装置(以下、TOF型質量分析装置と略称する)は、高い分解能でイオンのエネルギーを測定できることから、質量分析に広く用いられている。TOF型質量分析装置は、イオンの飛行時間からイオンの速度、ひいてはエネルギーを求める。この際、イオンの飛行距離が長い程、高い分解能が得られる。
【0003】
ここで、TOF型質量分析装置は、高い分解能を維持し、かつ大きさをコンパクトなものにする為に、イオンに周回軌道を描かせ、小さな容積のままイオンの飛行距離を長くする。この際、TOF型質量分析装置には、イオンの軌道を曲げる複数の電極板が配設される。そして、この電極板は、一様な電界をイオンの軌道上に形成し、イオンが周回軌道を飛行する様にする(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
一方、イオンを検出する検出器は、数cm程度の大きさであるのに対して、イオンの総飛行距離は10m程度の長さにもおよぶ。これらイオンを、イオン源から検出器まで、曲がった軌道を描きつつ少ない損失で導く為に、電極板により形成される静電界強度および配設される電極板の相互位置は、高い精度のものとされる。
【非特許文献1】日本ジャーナルオブマススペクトラム協会(J.Mass Spectrom.Soc.Jpn.)、第51巻、第2号(Vol.51、N0.2)、2003年、p.349〜353
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記背景技術によれば、電極板および電極板を配設する筐体は、重たく、しかもコストの高いものとなる。すなわち、静電界を形成する電極板間隔は、数十μm程度の精度を要し、複数の電極板の相互位置は、数百μm程度の精度が必要とされる。この精度を外部からの衝撃等にかかわらず維持するために、電極板は、高い強度を有するものとされ、かつこれら電極板は、強度のある筐体で囲まれて支持される。
【0006】
ところが、電極板および筐体に高い強度を持たせることは、電極板および筐体を固い材質からなる厚いものとし、重量と同時にコストが嵩む原因となる。例えば、電極板および筐体を含む重量は、200kg程度のものとなり、材料費だけでも数百万円のものとなる。
【0007】
これらのことから、イオンビームを曲げる電極板の間隔および配設位置の精度を維持しつつ、軽く、しかも安価なTOF型質量分析装置をいかに実現するかが重要となる。
この発明は、上述した背景技術による課題を解決するためになされたものであり、イオンビームを曲げる電極板の間隔および配設位置の精度を維持しつつ、軽く、しかも安価なTOF型質量分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載の発明にかかるTOF型質量分析装置は、イオンビームの軌道を曲げる静電界を形成する扇形電極部と、複数の前記扇形電極部を前記軌道の途中に配設し、前記軌道を周回軌道とするイオン光学系と、を備えるTOF型質量分析装置であって、前記扇形電極部は、直交する2辺の一方の辺が湾曲しつつ対向する2つ矩形状金属板および、前記2つ矩形状金属板を、前記2辺のもう一方の辺の方向から挟み込んで固定する対をなす板状の第1のプレートを有し、前記イオン光学系は、前記複数の扇形電極部を、対をなす前記第1のプレートの配列方向が前記周回軌道の軌道面と直交して並列する並列配置とし、前記並列配置される前記複数の対をなす第1のプレートを、前記配列方向から挟み込む位置に配置される対をなす第2のプレートおよび対をなす前記第1のプレートを貫通し、対をなす前記第2のプレートに固定される棒状のロッドを有することを特徴とする。
【0009】
この請求項1に記載の発明では、扇形電極部は、直交する2辺の一方の辺が湾曲しつつ対向する2つ矩形状金属板および、この2つ矩形状金属板を、前記2辺のもう一方の辺の方向から挟み込んで固定する対をなす板状の第1のプレートを有し、イオン光学系は、複数の扇形電極部を、対をなす前記第1のプレートの配列方向が周回軌道の軌道面と直交して並列する並列配置とし、この並列配置される複数の対をなす第1のプレートを、配列方向から挟み込む位置に配置される対をなす第2のプレートおよび対をなす第1のプレートを貫通し、対をなす第2のプレートに固定される棒状のロッドを有する。
【0010】
また、請求項2に記載の発明にかかるTOF型質量分析装置は、請求項1に記載のTOF型質量分析装置において、前記イオン光学系が、前記扇形電極部ごとに、2本の前記ロッドを備えることを特徴とする。
【0011】
この請求項2に記載の発明では、イオン光学系に対して扇形電極部が回転することを防止する。
また、請求項3に記載の発明にかかるTOF型質量分析装置は、請求項1または2に記載のTOF型質量分析装置において、前記扇形電極部が、前記配列方向の前記矩形状金属板および前記第1のプレートの間に絶縁体を備えることを特徴とする。
【0012】
この請求項3に記載の発明では、絶縁体により、配列方向の矩形状金属板および第1のプレートの間を絶縁状態にする。
また、請求項4に記載の発明にかかるTOF型質量分析装置は、請求項1ないし3のいずれか1つに記載のTOF型質量分析装置において、前記イオン光学系が、前記配列方向の前記第1のプレートおよび前記第2のプレートの間にスペーサを備えることを特徴とする。
【0013】
この請求項4に記載の発明では、スペーサの長さにより、第2のプレートの間の第1のプレートの位置を変化させる。
また、請求項5に記載の発明にかかるTOF型質量分析装置は、請求項1ないし4のいずれか1つに記載のTOF型質量分析装置において、前記イオン光学系が、同一形状の複数の前記扇形電極部を備えることを特徴とする。
【0014】
この請求項5に記載の発明では、扇形電極部の製造工数を、軽減する。
また、請求項6に記載の発明にかかるTOF型質量分析装置は、請求項1ないし5のいずれか1つに記載のTOF型質量分析装置において、前記イオン光学系が、4個の前記扇形電極部を備えることを特徴とする。
【0015】
この請求項6に記載の発明では、周回軌道を、効率的に達成する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、2つ矩形状金属板の間隔精度を板状の第1のプレートへの取り付け位置精度で決まるようにし、イオン光学系内での、対をなす第1のプレートの位置精度をロッドおよびロッドの第2のプレートへの取り付け位置精度で決まるようにしているので、2つの矩形状金属板の間隔精度およびイオン光学系内での位置精度を維持したまま、イオン光学系の重量を矩形状金属板、第1のプレート、第2のプレートおよびロッドで決まる軽量なものとし、ひいては材料費の削減により低いコストのものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかるTOF型質量分析装置を実施するための最良の形態について説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
まず、本実施の形態にかかるTOF型質量分析装置10の構成について、図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態にかかるTOF型質量分析装置10の構成を示す断面図である。TOF型質量分析装置10は、イオン光学系8、イオン源20および筐体9を含む。ここで、筐体9およびイオン源20は、真空容器をなし、内部は高真空状態とされる。
【0018】
イオン源20は、試料をイオン化された気体とし、この気体が収束および加速されたイオンビーム22を形成し、イオン光学系8に注入する。イオン光学系8は、4つの扇形電極部1〜4および検出部17等を含むもので、後に詳述する。扇形電極部1〜4は、イオンビーム22に図1中の点線で示す8の字型の軌道を描いて飛行させ、イオンビーム22に含まれる異なる質量の元素を分離検出する。なお、イオンビーム22は、図1中に示すxyz座標軸のxz軸面に8の字型の軌道を描いて周回する一方で、周回ごとにxz軸面と直交するy軸方向に移動しスパイラル状の軌道を描く。
【0019】
検出部17は、マイクロチャンネルプレート等が用いられ、イオンビーム22を検出する。なお、検出部17は、イオン源20とはy軸方向位置が異なり、8に字型の軌道をスパイラル状に多重周回したイオンビーム22を検出する。なお、図1に描かれているxyz座標軸は、後述する図に示されるxyz座標軸と同一のものであり、図面相互の位置関係を示している。
【0020】
図2は、イオン光学系8を、斜め方向から見た斜視図である。イオン光学系8は、4つの扇形電極部1〜4、一対の第2のプレート32、8本のロッド12、並びに、6個のスペーサ51〜53および62〜64を含む。なお、図示されないロッド12およびスペーサ62〜64については、後に図示する。対をなす板状の第2のプレート32は、y軸方向に板面が対向する様に配置される。そして、4つの扇形電極部1〜4は、スペーサ51〜53および62〜64を介して、対をなす板状の第2のプレート32間に並列配置される。
【0021】
ここで、扇形電極部1〜4は、イオンビーム22が軌道を曲げる第2のプレート32の四隅に、y軸方向位置が若干のずれを持って配置される。なお、スペーサ51〜53および62〜64は、扇形電極部1〜4ごとに、このずれの大きさだけy軸方向の長さが異なる。
【0022】
対をなす第2のプレート32間には、各扇形電極部1〜4ごとに、平行する2本のロッド12が張られている。そして、これらロッド12は、扇形電極部1〜4、並びに、スペーサ51〜53および62〜64に設けられた、ロッド穴を貫通し、対をなす第2のプレート32に固定される。また、対をなす第2のプレート32は、筐体9に固定され、ひいては対をなす第2のプレート32に固定される扇形電極部1〜4、並びに、スペーサ51〜53および62〜64も、筐体9に対して固定された配置となる。
【0023】
図3は、扇形電極部1を、斜め方向から見た斜視図である。なお、扇形電極部1〜4は、全く同様の構造を有するので、代表例として扇形電極部1の構造のみを示す。扇形電極部1は、対をなす第1のプレート30、矩形状金属板である内側金属板42および外側金属板43、シャント34並びにスペーサ35を含む。なお、矩形状金属板である内側金属板42および外側金属板43の間には、図示しないマツダプレートが存在する。マツダプレートについては、後に断面図を用いて説明する。ここで、内側金属板42および外側金属板43は、xz断面が扇形をなすように、板状の金属板を湾曲させた円筒形状の構造を有する。そして、内側金属板42および外側金属板43間には、電圧が印加され、この間に入力されたイオンビーム22を、所定の角度だけ軌道変更させて出力する。
【0024】
なお、イオンビーム22は、この軌道変更において、xz面内の軌道変更のみならず、z軸方向にも移動を行い、図1に示した様なxz面内の8の字型の周回軌道を、軌道面をy軸方向にずらしながら、スパイラル状の軌道を描いて移動する。
【0025】
y軸方向に対向する板状の第1のプレート30は、その対向する空間内に、ガラス等からなる絶縁体のスペーサ35を介して、矩形状金属板である内側金属板42および外側金属板43を、ねじ止め等により固定する。この際、内側金属板42および外側金属板43の対向する面の間隔は、第1のプレート30に設けられる取り付け位置、例えばねじ穴位置等により、高い精度で一定のものとされる。なお、内側金属板42および外側金属板43間のイオンビーム22が入出力する端部には、シャント34が存在し、y軸方向位置が異なる軌道上のイオンビーム22が、相互に混入することを防止している。
【0026】
また、第1のプレート30は、複数のロッド穴13を有する。ロッド穴13は、対向する2つの第1のプレート30のxz軸面内の同一位置に存在し、上述したロッド12の短軸方向断面と同一断面形状を有する。そして、ロッド穴13は、ロッド12を、y軸方向に貫通させると共に、ロッド12、対をなす第1のプレート30の相対位置が、xz面内で固定された状態とする。なお、ロッド12は、第2のプレート32にねじ止め等により固定されるので、第1のプレート30は、ロッド12により、第2のプレート32に固定配置される。
【0027】
また、ロッド12の短軸方向断面およびロッド穴13の穴断面が円形である場合には、一本のロッド12のみでは、y軸方向周りの回転による、ロッド12並びに第1のプレート30の相対位置の変化が生じうる。この回転を防止する為に、2本もしくは2本以上のロッド12を用いて回転による相対位置の変化を防止する。なお、図3には、予備も含めて第1のプレート30に、各4つのロッド穴13が設けられている。
【0028】
図4は、図3に示す扇形電極部1のCC′断面を示す断面図である。矩形状金属板である内側金属板42および外側金属板43は、扇形の断面を有し、これら金属板に挟まれる空間に静電界を形成する。そして、内側金属板42および外側金属板43間に入射したイオンビーム22は、静電界による力の影響で、扇形の面に沿って軌道を曲げられ、もう一方の端面から出力される。なお、第2のプレート32、並びに、扇形電極部1〜4の第1のプレート30には、軽量化のため、強度的に問題の無い範囲で打ち抜かれた円筒形の穴が存在する。
【0029】
図5は、図3に示す、扇形電極部1のDD′断面を示す断面図である。y軸方向に伸びる内側金属板42および外側金属板43間には、所定の間隔を置いてマツダプレート36が配置される。マツダプレート36は、y軸方向へのイオンビーム22の拡散を防ぐと共に、イオンビーム22をy軸方向に移動させる。なお、y軸方向に繰り返し配列されるマツダプレート36の中間位置には、イオンビーム22が位置する。ここで、y軸方向に並ぶスポット状のイオンビーム22は、xz面内で8の字型の周回軌道を描きつつ、スパイラル状にy軸方向に移動するイオンビーム22の通過位置を示している。
【0030】
図6は、図2に示す、扇形電極部1〜4を組み合わせたイオン光学系8のAA′断面を示す断面図である。各扇形電極部1〜4は、2本のロッド12により、対をなす第2のプレート32に固定される。扇形電極部2〜4と第2のプレート32間には、図中に隠れ線(点線)で示されるスペーサ62〜64が配置され、各スペーサ62〜64には、2本のロッド12が貫通させられる。扇形電極部1は、第2のプレート32との間にスペーサを配置せず、直接接続される。
【0031】
ここで、図2および6に示されているスペーサ51〜53および62〜64は、y軸方向の長さが異なる。スペーサ51は、扇形電極部1が存在する対をなす第2のプレート32間に入れられ,スペーサ52および62は、扇形電極部2が存在する対をなす第2のプレート32間に入れられ、スペーサ53および63は、扇形電極部3が存在する対をなす第2のプレート32間に入れられ、スペーサ64は、扇形電極部4が存在する対をなす第2のプレート32間に入れられる。スペーサのy軸方向長さは、スペーサ51単独のもの、スペーサ52および62を加算したもの、スペーサ53および63を加算したもの、並びに、スペーサ64単独のもの、各々が等しくなるようにされる。そして、対をなす第2のプレート32間に存在する扇形電極部1〜4のy軸方向位置が、y軸方向にスパイラル状に移動するイオンビーム22の移動距離に相当する長さだけ、互いに位置ずれした配置とされる。なお、第2のプレート32には、軽量化のため、強度的に問題の無い範囲で打ち抜かれた円筒形の穴が存在する。
【0032】
図7は、図2に示す、扇形電極部1〜4を組み合わせたイオン光学系8のBB′断面を示す断面図である。図7には、扇形電極部1、扇形電極部4、対をなす第2のプレート32、スペーサ51および64の断面が図示されている。さらに、扇形電極部1および扇形電極部4では、対をなす第1のプレート30、ロッド12、内側金属板42、外側金属板43およびマツダプレート36の断面が図示されている。また、図7には、スパイラル状にy軸方向へ移動するイオンビーム22の軌道、並びに、扇形電極部1および4のy軸方向位置が示されている。扇形電極部1および4のy軸方向位置は、y軸方向の異なる位置に挿入されるスペーサ51およびスペーサ64により、概ねイオンビーム22の一周期の移動距離に合致する長さだけ異なる。
【0033】
また、図7には、扇形電極部1を固定する2本のロッド12が、対をなす第1のプレート30のロッド穴13およびスペーサ51を貫通し、対をなす第2のプレート32に固定される様子および扇形電極部4を固定する2本のロッド12が、対をなす第1のプレート30のロッド穴13およびスペーサ64を貫通し、対をなす第2のプレート32に固定される様子が図示されている。
【0034】
つぎに、本実施の形態にかかるイオン光学系8の機能および動作について説明する。イオン光学系8は、イオンビーム22にスパイラル状に移動する8の字型の軌道を描かせる。この際、イオンビーム22の軌道を決定する、内側金属板42および外側金属板43の間隔および取り付け位置は、高精度なものとされる。
【0035】
矩形状金属板である内側金属板42および外側金属板43は、図3に示す様に、対向する平板状の第1のプレート30に装着される。内側金属板42および外側金属板43の第1のプレート30近傍の間隔は、第1のプレート30への取り付け位置のみで決まり、数十μm程度の誤差内に納めることができる。
【0036】
しかし、内側金属板42および外側金属板43は、軽量化のために厚みが薄くされ、ねじれに対して強度的に弱いものとなっている。従って、対向する2つの第1のプレート30は、対向するxz軸面内で相対位置にずれを生じ、ゆがみを生じる可能性がある。また、内側金属板42および外側金属板43を含む扇形電極部1〜4は、図2に示す様に、xz軸面に配列され、相対位置の精度を高いものとする必要がある。
【0037】
ここで、対向する2つの第1のプレート30は、対向する同一のロッド穴13を貫通する2本のロッド12を有する。これにより、対向する2つの第1のプレート30は、xz軸面の相対位置が、ロッド穴13の穴位置が同一となる位置に固定される。また、ロッド12は、対向する2つの第2のプレート32にまで伸び、対向する2つの第2のプレート32の取り付け位置に固定される。これにより、第2のプレート32上に配列される第1のプレート30は、xz軸面内の相対位置が、ロッド12を固定する取り付け位置で決まる精度の高いものとされ、ひいては第1のプレート30に装着される内側金属板42および外側金属板43も位置精度の高いものとされる。なお、xz軸面内に配列される第1のプレート30の相対位置は、100〜200μm程度の誤差内に納めることができる。
【0038】
一方、内側金属板42、外側金属板43、第1のプレート30、第2のプレート32、並びに、ロッド12からなるイオン光学系8は、内側金属板42および外側金属板43の間隔および取り付け位置精度を保ちつつ、軽量化を計ることができる。矩形状金属板である内側金属板42および外側金属板43は、金属板の厚みを薄くし、第1のプレート30は、内側金属板42および外側金属板43の取り付け位置精度を保ちつつ、板状のプレートの厚みを薄くかつ円筒形の打ち抜き穴を設けることにより、第2のプレート32は、第1のプレート30の取り付け位置精度を保ちつつ、板状のプレートの厚みを薄くかつ円筒形の打ち抜き穴を設けることにより、またロッド12は、直径を小さなものとすることにより行われる。
【0039】
なお、ロッド12の直径を小さなものとすることにより、y軸方向に対をなす第1のプレート30、あるいは、対をなす第2のプレート32間で、xz軸面内の相対位置の回転あるいはねじれが生じやすくなる。しかし、この位置ずれは、y軸方向に対をなす第1のプレート30間、あるいは、対をなす第2のプレート32間のy軸方向の中心位置に集中する。従って, この位置ずれにより、内側金属板42および外側金属板43の間隔および取り付け位置精度は変化しにくく、スパイラル状に移動しつつ8の字型をなすイオンビーム22の軌道への影響は、中心位置に限定された小さなものとなる。
【0040】
上述してきたように、本実施の形態では、扇形電極部1〜4を、薄い板状の内側金属板42および外側金属板43を挟み込む様にして取り付け、固定する一対の第1のプレート30から構成し、イオン光学系8を、扇形電極部1〜4の対をなす第1のプレート30を挟み込む対をなす第2のプレート32から構成し、一対の第1のプレート30を貫通し、第2のプレート32に取り付けて固定される複数のロッド12により、第1のプレート30を第2のプレート32に対して固定することとしているので、内側金属板42および外側金属板43の間隔および扇形電極部1〜4のイオン光学系8内での位置精度を維持したまま、イオン光学系8を軽量なものとし、ひいては安価なものにすることができる。
【0041】
また、本実施の形態では、イオンビーム22の軌道を曲げる扇形電極部は、4つの扇形電極部1〜4からなることとしたが、2以上の任意の個数の扇形電極部で構成することもできる。
【0042】
また、本実施の形態では、イオンビーム22は、xz軸面内で8の字型の周回軌道を描くこととしたが、この軌道を円形に近い周回軌道とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】TOF型質量分析装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】実施の形態のイオン光学系を、斜め方向から見た斜視図である。
【図3】実施の形態の扇形電極部を、斜め方向から見た斜視図である。
【図4】扇形電極部のCC′断面を示す断面図である。
【図5】扇形電極部のDD′断面を示す断面図である。
【図6】イオン光学系のAA′断面を示す断面図である。
【図7】イオン光学系のBB′断面を示す断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1〜4 扇形電極部
8 イオン光学系
9 筐体
10 TOF型質量分析装置
12 ロッド
13 ロッド穴
17 検出部
20 イオン源
22 イオンビーム
30 第1のプレート
32 第2のプレート
34 シャント
35 スペーサ
36 マツダプレート
42 内側金属板
43 外側金属板
51〜53、62〜64 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームの軌道を曲げる静電界を形成する扇形電極部と、
複数の前記扇形電極部を前記軌道の途中に配設し、前記軌道を周回軌道とするイオン光学系と、
を備えるTOF型質量分析装置であって、
前記扇形電極部は、直交する2辺の一方の辺が湾曲しつつ対向する2つ矩形状金属板および、前記2つ矩形状金属板を、前記2辺のもう一方の辺の方向から挟み込んで固定する対をなす板状の第1のプレートを有し、
前記イオン光学系は、前記複数の扇形電極部を、対をなす前記第1のプレートの配列方向が前記周回軌道の軌道面と直交して並列する並列配置とし、前記並列配置される前記複数の対をなす第1のプレートを、前記配列方向から挟み込む位置に配置される対をなす第2のプレートおよび対をなす前記第1のプレートを貫通し、対をなす前記第2のプレートに固定される棒状のロッドを有すること、
を特徴とするTOF型質量分析装置。
【請求項2】
前記イオン光学系は、前記扇形電極部ごとに、2本の前記ロッドを備えることを特徴とする請求項1に記載のTOF型質量分析装置。
【請求項3】
前記扇形電極部は、前記配列方向の前記矩形状金属板および前記第1のプレートの間に絶縁体を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のTOF型質量分析装置。
【請求項4】
前記イオン光学系は、前記配列方向の前記第1のプレートおよび前記第2のプレートの間にスペーサを備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のTOF型質量分析装置。
【請求項5】
前記イオン光学系は、同一形状の複数の前記扇形電極部を備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載のTOF型質量分析装置。
【請求項6】
前記イオン光学系は、4個の前記扇形電極部を備えることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載のTOF型質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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