説明

TTF−1mRNAの測定方法

【課題】再現性が良好で、多数検体処理に適し、検査コストを低減でき、その上増幅核酸の二次汚染を招き難い、TTF−1 mRNAの測定方法を提供する。
【解決手段】TTF−1 mRNA中の一部と相同的な配列を有する第一のプライマー、相補的な配列を有する第二のプライマー(第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端にプロモーター配列が付加されている)からなるオリゴヌクレオチドの組み合わせを用い、逆転写酵素により、プロモーター配列を含む2本鎖DNAを生成し、該2本鎖DNAを鋳型としてRNAポリメラーゼによりRNA転写産物を生成し、該RNA転写産物が引き続き前記逆転写酵素によるDNA合成の鋳型となって前記2本鎖DNAを生成する工程からなるRNA増幅工程において、増幅されたRNA産物量を、増幅されたRNAと相補的2本鎖を形成するとシグナル特性が変化するように設計されたオリゴヌクレオチドプローブで経時的に測定することによる、TTF−1 mRNAの測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅法を利用したサイロイド・トランスクリプション・ファクター1(Thyroid Transcription Factor−1、以下「TTF−1」と略記する)mRNAの測定方法に関する。より詳細に本発明は、40から60℃の範囲内で、一定温度(好ましくは43℃)でTTF−1mRNAの増幅・検出を行う方法と、かかる方法に好適に用いることができるオリゴヌクレオチド等に関するものである。本発明の方法及びオリゴヌクレオチド等は、分子生物学、生化学、医学分野などにおけるTTF−1mRNAの研究や診療に有用である。
【背景技術】
【0002】
NKx2ファミリーに属する転写因子であるTTF−1は、癌のマーカータンパク質の一つとして利用されている。TTF−1は、肺における初期形態形成や上皮細胞におけるサーファクタントタンパク質の発現に必須とされるタンパク質であるが、その発現場所が甲状腺、肺及び間脳に特異的であることによる。TTF−1は腫瘍組織はもとより正常組織でも発現しており、腫瘍特異的マーカーではないが、上記の通り、臓器特異性が非常に高いタンパク質であるため、腫瘍組織におけるTTF−1の発現を調べることで、その腫瘍細胞の系統に関する情報を得ることが出来る。すなわち、腫瘍組織においてTTF−1の発現が認められれば、その腫瘍細胞は甲状腺癌、肺癌又はそれらの癌が転移したものと考えることができる。
【0003】
TTF−1を検出して癌の診断を行う手法として、免疫組織染色等の病理組織的診断が多用されてきたが、近年では、実施に際しての習熟が不要で、診断に供するサンプルの状態によらず安定した結果を期待し得る遺伝子検査(核酸増幅法)によりTTF−1を検出することが提案され、一部では実用化の試みがなされている。核酸増幅法が高感度であることはすでに知られており、特定の遺伝子を増幅するため高い特異性を得ることも可能である。一般に、核酸増幅法を利用した腫瘍マーカー遺伝子mRNAの検出の際には、RT−PCR(Reverse Transcription−Polymerase Chain Reaction)法が広く用いられており、TTF−1 mRNAに対する適用も報告されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5及び非特許文献6参照)。
【0004】
前記RT−PCR法とは異なり、一定温度でRNAのみを増幅するNASBA法(特許文献1、特許文献2)やTMA法(特許文献3)等も知られている。これらRNA増幅方法では、増幅されるべきRNAに対し、プロモーター配列を含むプライマー、逆転写酵素及び必要に応じてリボヌクレアーゼH(RNase H)を用いることで、プロモーター配列を含む2本鎖DNAを合成し、この2本鎖DNAを鋳型としてRNAポリメラーゼによって当該RNA由来の特定塩基配列を含むRNAを生成するものである。この生成するRNAは、引き続きプロモーター配列を含む2本鎖DNA合成の鋳型となるため、連鎖反応が生じる。そして、RNA増幅後、電気泳動や検出可能な標識を結合させた核酸プローブを用いたハイブリダイゼーション法などにより、生成(増幅)されたRNAを検出する。
【0005】
一定温度でRNAのみを増幅する方法の中でも、いわゆるTRC法(特許文献4及び非特許文献7)は、簡便にRNAを増幅し測定できる優れた方法である。この方法では、インターカレーター性蛍光色素で標識され、かつ標的核酸と相補的に2本鎖を形成するとインターカレーター性蛍光色素部分が前記2本鎖部分にインターカレートすることによって蛍光特性が変更するように設計されたオリゴヌクレオチドプローブ存在下、RNAの増幅を行い、蛍光特性の変化を測定するもので、一定温度、一段階かつ密閉容器内でRNA増幅及び測定を、同時かつ迅速、簡便に実施することが可能である。この方法では、増幅された核酸に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを使用するため、増幅された核酸を直接的に検出でき、また、複数のインターカレーター性蛍光色素を使用することで、複数の核酸を増幅後、個々に検出することができる。具体的には、測定されるべきRNAに存在し、当該RNAを他のRNAから区別し得る配列(特定塩基配列)に対して、(a)当該特定塩基配列の3’末端側に相補的なDNAプライマーとRNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)を用い、当該RNAを鋳型として特定配列と相補的なDNAを生成し、(b)(a)の逆転写反応によって生じるRNA−DNA2本鎖に対して、リボヌクレアーゼH活性を有する酵素を作用させてRNAを分解して1本鎖DNAを生成させ、(c)(b)で生成した1本鎖DNAの3’末端に相補的で、かつ、それ自身がその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列を有するDNAプライマーと、DNA依存性DNAポリメラーゼを用い、前記プロモーター配列を含む2本鎖DNAを合成し、(d)(c)で生成した2本鎖DNAにRNAポリメラーゼを作用させて転写産物(特定塩基配列のRNA)を生成させる、というものである。なお、(d)で生成したRNA転写産物は特定塩基配列に由来するRNAであるため、前記(a)の反応における鋳型となり、前記(a)の反応で用いるDNAプライマーと結合し、(a)から(d)の反応が進行することでRNA増幅の連鎖反応が起きる。
【0006】
TRC法は、PCR法のように反応液の温度を昇降させる必要がなく、またRNAの逆転写と、その後のDNA増幅反応を分けて実施することがない、という特徴を有する。またさらに、増幅されたRNA転写産物に対して特異的に結合可能な、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブを反応液に共存させ、特定塩基配列または当該塩基配列に相補的な配列の増幅と同時に、当該増幅の様子を直接的に検出(モニタリング)することができるという特徴を有する。したがって、PCR法や通常のRNA増幅法のように、増幅産物について別個にハイブリダイゼーション検出などを行なう必要がないため、結果を得るまでの時間を大幅に短縮可能であるという特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2650159号公報
【特許文献2】特許第3152927号公報
【特許文献3】特許第3241717号公報
【特許文献4】特開2000−014400号公報
【特許文献5】特開平7−59572号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Jiang B.et al.,Diagnostic Cytopathology,36,849−854(2007)
【非特許文献2】Kolla V.et al.,American Jounal of Respiratory Cell and Molecular Biology,36,213−225(2007)
【非特許文献3】Takano T.et al.,Oncology Reports,18,715−720(2007)
【非特許文献4】Akagi T.et al.,British Journal of Cancer,99,781−788(2008)
【非特許文献5】Miasaki FY.et al.,Journal of Endocrinological Investigation,31,724−730(2008)
【非特許文献6】Kondo T.et al.,Laboratory Investigation,89,791−799(2009)
【非特許文献7】Ishiguro,T.et al.,Analytical Biochemistry,314,1247−1252(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
RT−PCR法は、例えば、腫瘍組織からRNAを抽出後、(a)抽出したRNAから逆転写酵素によりcDNAを合成する工程、及び、(b)当該cDNAをPCRで増幅し検出する工程、という二段階の工程(場合によってはさらに検出工程を別個に実施する必要がある)が必要であるため、操作の煩雑性や二次汚染の可能性がある。また、この二段階の工程を実施するのに通常2時間以上必要であり、複数の工程の実施による再現性不良、多数検体処理や検査コストの低減という面でも解決すべき課題がある。反応時間短縮のため、前記二工程を同時に行なうOneSTEP RT−PCR法も開発されているが、各工程を別個に行なうRT−PCR法に比べて検出感度の低下や非特異的な増幅産物が産生されやすいという課題が指摘されている。さらに、PCR法による増幅では2本鎖DNAが増幅されるため、増幅対象サンプルに混入する染色体DNAも増幅する可能性がある。このような懸念を払拭して厳密にRNAを増幅するためには、事前にDNaseなどによる消化を行ない、染色体DNAを除いておく必要があり、操作の更なる煩雑化や再現性不良という課題を生じる。さらに、PCR法は急激に反応温度を昇降させる必要があり、かかる操作が自動化の際の反応装置の省力化や低コスト化のための障壁となる。
【0010】
RNAのみを増幅する方法は、一定温度、一段階でRNAのみを増幅することから簡便なRNA測定に適しているが、NASBA法やTMA法ではハイブリダイゼーション法などによる煩雑な検出操作を必要とするため、多数検体処理や自動化に不適であり、再現性不良や増幅核酸の二次汚染を招きやすいという課題がある。NASBA法やTMA法では、結果が出るまでに通常90分以上必要であり、迅速性という面で課題がある。さらに、増幅工程は一定温度であるものの、場合によっては増幅工程前に予備加温(例えば、65℃)が必要となる場合があるという課題もある。
【0011】
TRC法においては、前述した種々の特徴から、RT−PCR法、NASBA法又はTMA法に比較して、簡便な操作により、良好な再現性を維持しつつ、迅速に実施可能で、しかもその自動化に際しては反応装置の省力化や低コスト化が容易に可能であるという特徴を有する。しかしながら、TTF−1 mRNAをTRC法にて増幅するためのプライマー配列についてはこれまで報告されていない。なお、反応の開始時に増幅工程を実施する一定の温度よりも高温にし、測定されるべきRNAの高次構造を変性させる工程を実施するPCR法、NASBA法又はTMA法などの核酸増幅法と異なり、TRC法では、増幅反応を通じ、比較的低温の一定温度(40から60℃、好ましくは43℃)条件下でTTF−1 mRNAを増幅し検出するため、RT−PCR法のために開発されたプライマー等をTRC法で使用することはできない。つまり、一般にmRNAのような1本鎖RNAは高次構造を形成しやすいことが知られており、TRC法のような反応条件下では、測定されるべきmRNAが高次構造を形成し、プライマー等との結合が阻害されると考えられるため、TTF−1の高次構造フリー領域に結合するよう設計されたプライマー等がその実施には必要となる。加えて、TRC法のように比較的低温で実施する核酸増幅法では、PCR法のように高温で実施する増幅法と比較して、プライマーダイマーといった非特異産物が生産しやすいために、非特異産物の生成を低減できるように設計されたプライマー等が必須となる。このように、一定温度RNA増幅し検出するTRC法によってTTF−1 mRNAを迅速、簡便、高感度に検出するためには、一定温度(40から60℃、好ましくは43℃)条件下においても結合効率が低下せず、かつTTF−1 mRNAの増幅、検出が可能なプライマー(オリゴヌクレオチド)等が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、試料中のTTF−1 mRNAの測定方法において、前記測定方法が、TTF−1 mRNA内の特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマー、及び特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマーを用いた、下記の工程からなる測定方法であり、ここで第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されたプライマーである:
(1)RNAを鋳型とする、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素によるRNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)1本鎖DNAを鋳型とする、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、特定塩基配列、あるいは特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、
(5)該RNA転写産物が、前記(1)の反応におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程、
(6)前記RNA転写産物量を測定する工程、
かつ、前記第一及び第二のプライマーが、以下のいずれかであることを特徴とする、前記測定方法:
(i)前記第一のプライマーが配列番号16で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第二のプライマーが配列番号31で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドである、
(ii)前記第一のプライマーが配列番号26で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第二のプライマーが配列番号42で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドである、というものである。
【0013】
また本発明は、TTF−1 mRNAを特異的に増幅または検出するためのオリゴヌクレオチドであって、配列番号16、26、31、42、47及び52に示されたいずれかの塩基配列中または当該相補配列中の、少なくとも連続する15塩基からなるオリゴヌクレオチド含むことを特徴とするものである。そして本発明は、かかるオリゴヌクレオチドを少なくとも一つ含むことを特徴とする、TTF−1 mRNAの測定試薬である。以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明でTTF−1 mRNAを増幅、検出する対象となる試料は、RNAを含む核酸試料を意味する。本発明は、ヒト細胞、ヒト組織、体液、血液、尿、便、リンパ液、乳管液又は腹腔や胸腔の洗浄液等を材料として、例えば特許文献5(特開平7−59572号)等に記載された方法に従って調製した試料を使用し、当該試料を直接的に測定することで、当該試料の由来元であるヒト細胞や組織などに含まれるTTF−1 mRNAの測定を行なうものである。
【0015】
本発明の特定塩基配列とは、TTF−1 mRNAのうち、後述する第一のプライマーとの相同領域の5’末端から後述する第二のプライマーとの相補領域の3’末端までの塩基配列に相同な塩基配列をいう。すなわち、TTF−1 mRNA上で、第一のプライマーは特定塩基配列の5’末端から3’方向に少なくとも連続する15塩基以上と相同的であり、第二のプライマーは特定塩基配列の3’末端から5’方向に少なくとも連続する15塩基以上と相補的である。よって、本発明では前記特定塩基配列に由来するRNA転写産物が増幅されることになる。なお第一のプライマーとの相同領域の5’末端部位とは、特定塩基配列内で該相同領域の5’末端を含む部分配列からなり、当該部位は後述する切断用オリゴヌクレオチドとの相補領域と第一のプライマーとの相同領域が重複する部位である。
【0016】
本発明のプロモーターとは、RNAポリメラーゼが結合して転写を開始する部位である。種々のRNAポリメラーゼに特異的なプロモーター配列が知られており、本発明においてはこれら種々のプロモーターが制限なく使用できるが、分子生物学的実験などで通常用いられているT7プロモーター、SP6プロモーター又はT3プロモーターが好ましい。また前記配列に転写効率に関わる付加配列を含んでいてもよい。
【0017】
本発明の相補的な配列とは、高ストリンジェントな条件において対象となる塩基配列に対してハイブリダイゼーション可能な配列をいう。高ストリンジェントな条件の一例として、本発明の実施例に記載したような、核酸増幅反応液組成をあげることができる。また、本発明中の相同的な配列とは、高ストリンジェントな条件において対象となる塩基配列の完全相補配列に対してハイブリダイゼーション可能な配列をいう。したがって、本発明でいう相補的あるいは相同的な配列は、高ストリンジェントな条件においてハイブリダイゼーションの特異性及び効率に影響を与えない範囲内であれば長さなどを任意に設定することが可能である。さらに、ハイブリダイゼーションの特異性及び効率に影響を与えない範囲で、1から数塩基の置換・欠失・挿入がなされた塩基配列を用いてもよい。
【0018】
本発明のヌクレオチドもしくは核酸とは、天然に存在する塩基、糖及び糖間結合からなるヌクレオチドまたはヌクレオシドをいい、RNA及びDNAの双方とそれらのオリゴマー(オリゴヌクレオチド、例えば、2から100塩基程度)、更にはそれらのポリマー(ポリヌクレオチド、例えば、100塩基以上)を含む総称である。なお本発明のヌクレオチド又は核酸は、前記したものに対し、同様に機能する非天然のモノマー、蛍光分子又は放射性同位体等で標識された天然又は非天然のモノマー、又は、これら天然又は非天然のモノマーを含むオリゴマーまたはポリマーなどが付加されたものをも含む。
【0019】
本発明のプライマーとは、核酸増幅反応において、鋳型となるDNAやRNAとハイブリダイズし、核酸増幅反応を開始するのに必要なヌクレオチドのことをいい、TRC法において測定されるべきRNAを念頭に、鎖長又は配列において特異的な生成物が得られるように、好ましくはプライマー自身がその鋳型に特異的な配列を含むよう設計する。プライマーの長さは、通常15から100塩基、好ましくは15から35塩基の鎖長を有するように設計されるが、当該鎖長に限られるものではない。
本発明の第一及び第二のプライマーは、本願発明に記載する塩基配列の範囲内で、少なくとも連続する15塩基以上の任意の配列の中から選定することができる。すなわち、本発明におけるTTF−1 mRNA検出のための第一のプライマーは、配列番号16で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド、より好ましくは、配列番号16で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列番号17から25に示されたオリゴヌクレオチド、を例示することができる。また本発明におけるTTF−1 mRNA検出のための第一のプライマーは、配列番号26で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド、より好ましくは、配列番号26で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列番号27から30に示されたオリゴヌクレオチド、を例示することができる。
【0020】
本発明におけるTTF−1 mRNA検出のための第二のプライマーは、配列番号31で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド、より好ましくは、配列番号31で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列番号32から41に示されたオリゴヌクレオチド、を例示することができる。また本発明におけるTTF−1 mRNA検出のための第二のプライマーは、配列番号42で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチド、より好ましくは、配列番号42で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列番号43から46に示されたオリゴヌクレオチド、を例示することができる。
【0021】
本発明はTRC法によりTTF−1 mRNAを増幅する増幅法であるが、かかる増幅において使用する第一及び第二のプライマーの組み合わせとして、以下の組み合わせを例示することができる。
(i)第一のプライマーが配列番号16で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーが配列番号31で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
(ii)第一のプライマーが配列番号26で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーが配列番号42で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
【0022】
本発明におけるTTF−1 mRNA検出のための第一及び第二のプライマーのより好ましい組み合わせは、以下の通りである。
(i)第一のプライマーが配列番号17から25で示されたいずれかの塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーが配列番号32から41で示されたいずれかの塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
(ii)第一のプライマーが配列番号27から30で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーが配列番号43から46で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
【0023】
本発明のTTF−1 mRNAの測定方法では、好ましくは、cDNA合成の鋳型となる前に該RNA内の特定核酸配列の5’末端部位で切断する。特定核酸配列の5’末端部位で切断することで、cDNA合成後に、cDNAにハイブリダイズした第一のプライマーのプロモーター配列に相補的なDNA鎖を、前記cDNAの3’末端を伸長することにより効率的に合成することができ、結果として機能的な2本鎖DNAプロモーター構造を形成する。このような切断方法として、TTF−1 mRNA内の特定塩基配列の5’末端部位(該特定塩基配列内の5’末端部位を含む部分配列)に重複し、かつ5’方向に隣接する領域に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、切断用オリゴヌクレオチドとする)を添加することによって形成されたRNA−DNA2本鎖のRNA部分をリボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素などにより切断する方法が例示できる。なお、該切断用オリゴヌクレオチドの3’末端にある水酸基は伸長反応を防止するために適当な修飾を施されたもの、例えばアミノ化等されているものを使用することが好ましい。そしてこのような目的で使用する切断用オリゴヌクレオチドとして、TTF−1 mRNAの一部に相補的な配列番号2から14に示される配列に対して相同的なオリゴヌクレオチドが例示できる。
【0024】
標的RNAとは、TTF−1 mRNAをTRC法によって増幅した場合のRNA転写産物上の特定塩基配列のうち、前記プライマーとの相同あるいは相補領域以外の配列を示し、後述するインターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブとの相補的結合が可能である配列である。よって、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブは、本発明中の特定塩基配列の一部と相補的又は相同的な配列である。インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブとして、TTF−1 mRNAの一部に相補的な配列番号47又は52に記載の配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列に対して相同的又は相補的な配列のオリゴヌクレオチドを含むプローブが例示できる。中でも、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブとしては、TTF−1 mRNAの一部に相補的な配列番号48、49、50、51、53、54又は55のいずれかに示される配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列に対して相同的又は相補的な配列のオリゴヌクレオチドを含むプローブが好ましい。
【0025】
以上に述べた、本発明のTTF−1 mRNA測定方法における第一のプライマー、第二のプライマー、切断用オリゴヌクレオチド及びインターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブの組み合わせとして、以下のものが例示できる(インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブの相補配列と、第一のプライマーの相同配列及び第二のプライマーの相補配列とは重複しないように設計する)。
(i)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号2から10に記載のいずれかの配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列に対して相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド、第一のプライマーが配列番号16に記載の配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列に対して相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有し、かつ特定核酸配列中の当該プライマーとの相同領域の5’末端部位は配列番号2から10に記載の配列の相補領域と重複する)、第二のプライマーが配列番号31に記載の配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列に対して相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド、そしてインターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号47に記載の配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列に対して相同的な配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプローブ、という組み合わせ。
(ii)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号11から14に記載のいずれかの配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列に対して相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド、第一のプライマーが配列番号26に記載の配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列に対して相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有し、かつ特定核酸配列中の当該プライマーとの相同領域の5’末端部位は配列番号11から14に記載の配列の相補領域と重複する)、第二のプライマーが配列番号42に記載の配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列に対して相同的な配列からなるオリゴヌクレオチド、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号52に記載の配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列に対して相同的な配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプローブ、という組み合わせ。
【0026】
本発明のTTF−1 mRNA測定方法における第一のプライマー、第二のプライマー、切断用オリゴヌクレオチド及びインターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブのより好ましい組み合わせとして、以下のものが例示できる(インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブの相補配列と、第一のプライマーの相同配列及び第二のプライマーの相補配列とは重複しないように設計する)。
(i)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号2に示された配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号17に示された配列からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号32から41に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号48、49、50、51及び53に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
(ii)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号3に示された配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号18に示された配列からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号32から41に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号49、50、51及び53に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
(iii)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号4に示された配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号19に示された配列からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号32から41に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号49、50、51及び53に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
(iv)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号5に示された配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号20に示された配列からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号32から41に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号49、50、51及び53に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
(v)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号6に示された配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号21に示された配列からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号32から41に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号49、50、51及び53に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
(vi)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号7に示された記載の配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号22に示された配列からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号32から41に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号49、50、51及び53に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
(vii)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号8に示された配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号23に示された配列からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号32から41に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号50、51及び53に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
(viii)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号9に示された配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号24に示された配列からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号32から41に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号50、51及び53に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
(ix)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号10に示された配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号25に示された配列からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号32から41に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号50、51及び53に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
(x)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号11に示された配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号27に示された配列からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号43から46に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号53から55に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
(xi)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号12に示された配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号28に示された配列からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号43から46に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号53から55に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
(xii)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号13に示された配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号29に示された配列からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号43から46に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号53から55に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
(xiii)切断用オリゴヌクレオチドが配列番号14に示された配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第一のプライマーが配列番号30に示された配列からなるオリゴヌクレオチド(なお、第一のプライマーはその5’末端にプロモーター配列を有する)であり、第二のプライマーが配列番号43から46に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドであり、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号53から55に示された配列より選ばれる一種のオリゴヌクレオチドである、組み合わせ。
【0027】
本発明のTTF−1 mRNAの測定方法では、種々の酵素を使用する。具体的には、一本鎖RNAを鋳型とするRNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素(逆転写酵素)、RNase H活性を有する酵素、一本鎖DNAを鋳型とするDNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素及びRNAポリメラーゼ活性を有する酵素である。酵素としては、それぞれの活性を持つ複数の酵素を使用しても良いが、いくつかの活性を合わせ持つ酵素を使用することで、使用する酵素の種類を減らすこともできる。例えば、一鎖RNAを鋳型とするRNA依存DNAポリメラーゼ活性、RNase H活性及び一本鎖DNAを鋳型とするDNA依存DNAポリメラーゼ活性の三つの活性を有する逆転写酵素である、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素又はこれら酵素の誘導体を使用することが例示できる。このような酵素を使用する場合には、他にバクテリオファージ由来のT7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、SP6 RNAポリメラーゼ又はこれらの誘導体を使用するのみで、TTF−1 mRNAの測定を実施し得る。もっとも、このような酵素を使用する場合であっても、必要に応じてRNase H活性等を有する他の酵素を添加することができる。
【0028】
本発明のTTF−1 mRNAの測定方法では、好ましくは試料に切断用オリゴヌクレオチドを添加し、逆転写酵素のRNase H活性により特定塩基配列の5’末端部位で前記RNAを切断する。切断された前記RNAを鋳型として第一及び第二のプライマーの存在下で逆転写酵素による逆転写反応を実施すると、第二のプライマーがTTF−1 mRNA内の特定塩基配列に結合し、逆転写酵素のRNA依存DNAポリメラーゼ活性によりcDNA合成が行なわれる。得られたRNA−DNA2本鎖は逆転写酵素のRNase H活性によってRNA部分が分解され、cDNA部分が解離することによって第一のプライマーが当該cDNAに結合する。引き続き、逆転写酵素のDNA依存DNAポリメラーゼ活性により特定塩基配列由来で、かつ5’末端にプロモーター配列を有する2本鎖DNAが生成される。当該2本鎖DNAは、プロモーター配列下流に特定塩基配列を含み、RNAポリメラーゼにより特定塩基配列に由来するRNA転写産物を生産する。該RNA転写産物は、第一及び第二のプライマーによる前記2本鎖DNA合成のための鋳型となって、一連の反応が連鎖的に進行し、RNA転写産物が増幅されていく。
【0029】
本発明においては、上記のような連鎖的なRNAの増幅反応のために、前記各酵素が活性を発現するために必要な緩衝剤、マグネシウム塩、カリウム塩、ヌクレオシド−三リン酸及びリボヌクレオシド−三リン酸等を使用する。また反応効率を調節するための添加剤として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジチオスレイトール(DTT)、ウシ血清アルブミン(BSA)又は糖などを添加することもできる。また本発明は、上記のような酵素が活性を発現し得る、一定の温度で実施することができる。例えば、AMV逆転写酵素及びT7 RNAポリメラーゼを用いる場合、35から65℃の範囲で反応温度を設定すれば良い。中でも40から60℃の範囲で設定することが好ましく、さらには43℃に設定することが好ましい。
【0030】
増幅されたRNA転写産物の量は、電気泳動法、液体クロマトグラフィーを用いた方法又は検出可能な標識で標識された核酸プローブによるハイブリダイゼーション法等の既知の測定法により測定することが可能である。しかし、これら方法では、特に増幅産物を反応容器等から取り出して測定することが必要であるため、二次汚染の原因となる増幅産物の環境への飛散の可能性を増加してしまう。そこで、本発明では、測定されるべき核酸と相補結合することによって蛍光特性が変化するように設計したインターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブを用いることが好ましい。インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブは、RNA転写産物上の標的RNAに対して相補的なオリゴヌクレオチドで、末端、リン酸ジエステル部又は塩基部分に適当なリンカーを介してインターカレーター性蛍光色素が結合されており、3’末端の水酸基からの伸長を防止する目的で該3’末端の水酸基にグリコール酸やビオチンを付加する等の修飾をすることが特に好ましい(特許文献4及び非特許文献7参照)。インターカレーター性蛍光色素としては特に限定されないが、オキサゾールイエロー、チアゾールオレンジ、エチジウムブロマイド及びこれらの誘導体などが汎用されている。そして蛍光特性の変化としては蛍光強度の変化があげられ、例えばオキサゾールイエローの場合、2本鎖DNAにインターカレートすることによって510nmの蛍光(励起波長490nm)が顕著に増加する。なお、オリゴヌクレオチドへのインターカレーター性蛍光色素の標識は、既知の方法でオリゴヌクレオチドに官能基を導入し、インターカレーター性蛍光色素を結合させる等といった手法を採用することが可能である(特許文献4及び非特許文献7参照)。前記官能基の導入方法としても、例えば市販されているLabel−ON Reagents(商品名、Clontech社製)等を用いれば良い。
【0031】
本発明の一例として、5’末端にT7プロモーター配列(配列番号56)を有する第一のプライマー、第二のプライマー、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブ、切断用オリゴヌクレオチド、AMV逆転写酵素、T7RNAポリメラーゼ、緩衝剤、マグネシウム塩、カリウム塩、ヌクレオシド−三リン酸、リボヌクレオシド−三リン酸及びジメチルスルホキシド(DMSO)を含む増幅試薬に試料を添加し、43℃の一定温度で反応させると同時に反応液の蛍光強度を経時的に測定する方法が例示できる。この具体例では、蛍光強度を経時的に測定し、有意な蛍光増加が認められた任意の時間で測定を終了することが可能であり、核酸増幅及び測定をあわせて30分以内に試料中のTTF−1 mRNAの測定を完了することが可能である。また一例として、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが特定塩基配列と結合して発する蛍光信号を蛍光検出器によって経時的に測定し、そのプロファイルから得られる情報(例えば蛍光色素が発する蛍光の強度が一定の強度に達するまでに要した反応時間等)を既知量の標準RNAに関するプロファイルから得られる情報と比較することにより、試料中に存在した特定塩基配列の量、即ち試料中のTTF−1 mRNAのコピー数を算出することが可能である。
【0032】
本発明は、試料と測定のために必要な全試薬を単一の容器に封入可能である。即ち、一定量の試料をかかる単一容器に分注するという操作さえ実施すれば、その後は自動的にTTF−1 mRNAを測定することができる。この容器は、例えば蛍光色素が発する信号を外部から測定可能なように、少なくともその一部分が透明な材料で構成されてさえいればよく、試料を分注した後に密閉することが可能であるから、二次汚染等を引き起こす可能性を極めて低くできる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、比較的低温かつ一定温度(40から60℃、好ましくは43℃)条件下で、TTF−1 mRNAを1段階の操作で特異的で、かつ迅速・高感度に増幅し、また増幅産物を直接的に検出することができる。
【0034】
本発明では、試料中の標的RNA(TTF−1遺伝子のmRNA)をもとにして、DNA依存性RNAポリメラーゼのプロモーター領域を5’末端を有する2本鎖DNAが合成され、前記DNAを鋳型に多量の1本鎖RNAが生成され、さらに生成された1本鎖RNA量は飛躍的に増大し、インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブが、生成した1本鎖RNAと相補結合することにより蛍光増加を測定する工程において、蛍光強度が増加する過程を解析することにより、簡便、かつ迅速に初期RNA量を決定することが可能である。本発明のTTF−1 mRNA測定方法は、核酸増幅及び測定の時間が30分以内であり、これは既存のRT−PCR法(通常2時間以上)、NASBA法(90分以上)、TMA法(90分以上)による測定よりも同等以上の迅速性を有する。
【0035】
さらに、1段階操作でTTF−1遺伝子のmRNAを増幅・検出するためのオリゴヌクレオチドを提供すること、すなわちTTF−1 mRNAを増幅するためのオリゴヌクレオチド、及びTTF−1 mRNAを検出するためのオリゴヌクレオチドを提供することで、それを利用した簡便、迅速かつ高感度なTTF−1 mRNA発現細胞の測定方法、ならびに定量試薬を生化学・分子生物学・医療分野などに提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】TTF−1 RNAの検量線を示す。(a)表1のオリゴヌクレオチドの組み合わせ[22]、(b)組み合わせ[48]、(c)組み合わせ[60]、(d)組み合わせ[64]、(e)組み合わせ[87]、(f)組み合わせ[98]、(g)組み合わせ[100]。縦軸は蛍光強度比が1.2を超えた時間(検出時間、分)であり、横軸は測定に用いた初期の標準RNA量(コピー数)をlogで表したものである。また、各点から求めた線形一次曲線の式及びRの値を記載してある。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらは一例であり、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
実施例 1
後述の実施例で使用したTTF−1 RNA(以降、標準RNAと表記)は(1)から(2)に示す方法で行なった。
(1)GenBankに登録されているTTF−1の塩基配列(GenBank Accession No.NM_003317、2352塩基)のうち、374から1457番目の塩基(1084塩基)の2本鎖DNAをクローニングした。
(2)(1)で調製した2本鎖DNAを鋳型として、インビトロ転写を実施した。引き続きDNase I処理によりその2本鎖DNAを完全消化した後、RNAを精製して調製した。当該RNAは、260nmにおける吸光度を測定して定量した。
実施例 2
インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを作製した。配列番号48に記載の配列の5’末端から11番目のC、配列番号49に記載の配列の5’末端から11番目のG、配列番号50に記載の配列の5’末端から11番目のG、配列番号51に記載の配列の5’末端から10番目のG、配列番号53に記載の配列の5’末端から9番目のG、配列番号54に記載の配列の5’末端から11番目のG、配列番号55に記載の配列の5’末端から11番目のTの位置にLabel−ON Reagents(Clontech社製)を用いてアミノ基を導入し、さらに3’末端をビオチンで修飾した。前記アミノ基にインターカレーター性蛍光色素であるオキサゾールイエローを標識し、オキサゾールイエロー標識オリゴヌクレオチドプローブ(配列番号54から57、及び59から61)を調製した(非特許文献7参照)。
実施例 3
表1に示す組み合わせのうち[1]から[109]に示す、切断用オリゴヌクレオチド、第一のプライマー、第二のプライマー、インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブ(以降INAFプローブと表記)を用いて、(1)から(4)に示す方法で、標準RNAの測定を行なった。なお表1のうち、配列番号17から25は配列番号16の部分配列、配列番号27から30は配列番号26の部分配列、配列番号32から41は配列番号31の部分配列、配列番号43から46は配列番号42の部分配列、配列番号48から51、及び53は配列番号47の部分配列、配列番号53から55は配列番号52の部分配列である。
【0039】
【表1】

【0040】
(1)実施例1で調製した標準RNAをRNA希釈液(10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、0.1mM EDTA、0.5U/μL リボヌクレアーゼインヒビター、5.0mM DTT)を用い、10コピー/5μLになるように希釈し、これをRNA試料として使用した。
(2)以下の組成の反応液20.0μLを0.5mL容PCR用チューブ(Individual PCR tube with dome cap、SSI製)に分注し、これに前記RNA試料5μLを添加した。
【0041】
反応液の組成(濃度は酵素溶液添加後(30μL中)の最終濃度)
60.0mM Tris−塩酸緩衝液(pH8.6)
18.0mM 塩化マグネシウム
100mM 塩化カリウム
1.0mM DTT
各0.25mM dATP,dCTP,dGTP,dTTP
各3.0mM ATP、CTP、UTP、GTP
3.6mM ITP
1.0μM 第一のプライマー(当該プライマーには、各配列番号記載の塩基配列の5’末端にT7プロモーター配列(配列番号56)が付加されている。)
1.0μM 第二のプライマー
0.16μM 切断用オリゴヌクレオチド(当該オリゴヌクレオチドの3’末端の
水酸基はアミノ化されている。)
20.0nM INAFプローブ
6.0U リボヌクレアーゼ インヒビター(タカラバイオ社製)
13.0% DMSO
容量調整用蒸留水
(3)上記の反応液を、43℃で5分間保温後、以下の組成で、予め43℃で2分間保温した酵素液5.0μLを添加した。
【0042】
酵素液の組成(反応時(30μL中)の最終濃度)
2.0% ソルビトール
6.4U AMV逆転写酵素(ライフサイエンス社製)
142U T7 RNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)
3.6μg 牛血清アルブミン(タカラバイオ社製)
容量調整用蒸留水
(4)引き続きPCRチューブを直接測定可能な温調機能付き蛍光分光光度計を用い、43℃で反応させると同時に反応溶液の蛍光強度(励起波長470nm、蛍光波長510nm)を経時的に30分間測定した。
【0043】
酵素添加時の時刻を0分として、反応液の蛍光強度比(所定時刻の蛍光強度値÷バックグランドの蛍光強度値)が1.2を超えた場合を陽性判定とし、その時の時間を検出時間とした結果を表2に示した。
【0044】
【表2】

【0045】
表1の組み合わせのうち、
(i)第一のプライマーが配列番号16の部分配列からなり、第二のプライマーが配列番号31の部分配列からなる組み合わせ(組み合わせ[6]から[14]、[17]から[23]、[29]から[55]、[58]から[75]、)、
(ii)第一のプライマーが配列番号26の部分配列からなり、第二のプライマーが配列番号42の部分配列からなる組み合わせ(組み合わせ[76]から[80]、[84]から[89]、[94]から[100]、[105]及び[106])、
では、いずれも10コピー/5μLの標準RNAを30分以内に検出した。なお、コントロール試験区(標準RNAの代わりにRNA希釈液を反応液に添加して測定)では、反応開始から30分後においても蛍光強度比1.2を超えることはなかった。さらには、上記(i)あるいは(ii)以外の組み合わせ(組み合わせ[1]から[5]、[15]及び[16]、[24]から[28]、[56]及び[57]、[81]から[83]、[90]から[93]、[101]から[104]、[107]から[109])では、反応開始から30分後においても蛍光強度比1.2を超えることはなかった。
当該結果より、
(i)第一のプライマーが配列番号16に示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーが配列番号31に示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドである組み合わせ、
(ii)第一のプライマーが配列番号26に示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーが配列番号42に示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドである組み合わせ、
のいずれかを用いてRNA増幅反応を行なうことにより、従来技術で最も汎用されるRT−PCR法によるTTF−1 mRNAの検出方法(通常2時間以上)と比較してTTF−1 RNAを迅速に検出することが示された。
実施例 4
本発明のオリゴヌクレオチドの組み合わせを用いて、実施例3よりも低濃度の標準RNAを測定した。
【0046】
(1)実験方法
オリゴヌクレオチドの組み合わせ、及びRNA試料を下記内容に変更した他は、実施例3と同様の方法で実施した。
【0047】
オリゴヌクレオチドの組み合わせ:
表1に示す組み合わせのうち、組み合わせ[13]、[20]から[22]、[46]、
[48]、[60]、[64]、[77]、[79]、[84]、[87]、[89]、[98]、
及び[100]を使用。
【0048】
RNA試料:
実施例1で調製した標準RNAを、実施例3(1)で使用のRNA希釈液を用い、
50コピー/5μL、10コピー/5μL、及び10コピー/5μLに希釈
したものを使用。
【0049】
(2)実験結果
酵素添加時の時刻を0分として、反応液の蛍光強度比(所定時刻の蛍光強度値÷バックグラウンドの蛍光強度値)が1.2を超えた場合を陽性判定とし、そのときの時間を検出時間とした結果を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
今回検討した全てのオリゴヌクレオチドの組み合わせにおいて、50コピー/5μLの標準RNAを30分以内に検出した。以上より、本発明のオリゴヌクレオチドの組み合わせを用いてCK19 RNAを増幅させることで、50コピー/5μLといった低濃度のCK19 RNAであっても迅速に検出できることが示された。
実施例 5
本発明のオリゴヌクレオチドの組み合わせを用いて、様々な濃度の標準RNAを測定し、検出時間と初期標準RNAとの関係を確認した。
【0052】
(1)実験方法
オリゴヌクレオチドの組み合わせ、RNA試料を下記内容に変更した他は、実施例3と同様の方法で測定した。
【0053】
オリゴヌクレオチドの組み合わせ:
表1に示す組み合わせのうち、[22]、[48]、[60]、[64]、[87]、
[98]、及び[100]を使用。
【0054】
RNA試料:
実施例1で調製した標準RNAを、実施例3(1)で使用のRNA希釈液を用い、
10コピー/5μL、10コピー/5μL、10コピー/5μL、及び
10コピー/5μLに希釈したものを使用。
【0055】
(2)実験結果
酵素添加時の時刻を0分として、反応液の蛍光強度比(所定時刻の蛍光強度値÷バックグランドの蛍光強度値)が1.2を超えた場合を陽性判定とし、そのときの時間を検出時間とした結果を表4に、表4の結果を基に検量線を作成した結果を図1に示す。また、10コピー/5μLのRNA試料を測定したときの反応開始後20分後における蛍光強度比も合わせて表4に記載した。
【0056】
【表4】

【0057】
今回検討した全てのオリゴヌクレオチドの組み合わせにおいて、酵素添加後15分以内に測定した全ての濃度の標準RNAを検出した。また、検出時間を縦軸に、初期の標準RNA濃度量(コピー数をlogで表したもの)を横軸にしてプロットしたところ、今回検討した全ての組み合わせにおいて、10コピーの低コピー領域から検出時間は初期RNA量依存的であり、検量線は線形一次曲線で近似することができた。すなわち、未知試料について、本発明のTTF−1 mRNAの測定を行ない、得られた検出時間を図1に示す検量線に当てはめることで、未知試料に含まれるTTF−1 mRNAの量を推測可能であることが示された。
実施例 6
本発明のオリゴヌクレオチドの組み合わせを用いて、ヒトの肺腺癌由来の培養細胞抽出物中のTTF−1 mRNAの定量を行なった。
【0058】
(1)培養細胞の入手
ヒト肺腺癌由来培養細胞(PC−3)は、Health Science Research Resources Bank(HSRRB)より入手した(HSRRB No.JCRB0077)。
【0059】
(2)培養細胞の培養
PC−3細胞の培養は、HSRRBのホームページ(http://cellbank.nibio.go.jp/celldata/jcrb0077.htm)に記載の培地、培養条件に従い培養した。
【0060】
(3)RNAの抽出
培養したPC−3細胞は、細胞数を計測し、5cells、50cells、5×10cells、5×10cellsになるように調製し、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)にて、キット付属のマニュアルに従い、RNAの抽出を行なった。なお、RNA抽出試料の量は50μLである。
【0061】
(4)TTF−1 RNAの測定
オリゴヌクレオチドの組み合わせ、RNA試料を下記内容に変更した他は、実施例3を同様の方法で測定した。
【0062】
オリゴヌクレオチドの組み合わせ:
表1に示す組み合わせのうち、組み合わせ[22]、[48]、[60]、[64]、
[87]、[98]、及び[100]を使用。
【0063】
RNA試料:
本実施例の(3)に記載のRNA抽出試料を、実施例3(1)記載のRNA希釈液
を用いて10倍希釈後、そのうちの5μLを使用した。
【0064】
(5)実験結果
酵素添加時の時刻を0分として、反応液の蛍光強度比(所定時刻の蛍光強度値÷バックグランドの蛍光強度値)が1.2を超えた場合を陽性判定とし、そのときの時間を検出時間とした結果を表5(PC−3細胞からのRNA抽出試料)に、また表5の検出時間と、実施例5で得られた検量線(図1)を基に各RNA試料中に含まれるTTF−1 RNA量を計算した結果を表6(PC−3細胞からのRNA抽出試料)に示す。
【0065】
【表5】

【0066】
【表6】

【0067】
検量線から求められた各RNA試料中のTTF−1 mRNA量は、使用した培養PC−3細胞の細胞数にほぼ比例しており、本発明のオリゴヌクレオチドを用いたTTF−1 RNAの増幅検出法が濃度依存的であることが示された。
実施例 7
以下のようにして、甲状腺、肺抽出物を対象としてTTF−1 mRNAの測定を実施した。
【0068】
(1)抽出物の入手
正常甲状腺・正常肺・肺癌組織抽出物は、Ambion社から購入した。
【0069】
(2)TTF−1 RNAの測定
オリゴヌクレオチドの組み合わせ、RNA試料を下記内容に変更した他は、実施例3を同様の方法で測定した。
【0070】
オリゴヌクレオチドの組み合わせ:
表1に示す組み合わせのうち、組み合わせ[22]、[48]、[60]、[64]、
[87]、[98]、及び[100]を使用。
【0071】
RNA試料:
本実施例の(3)に記載のRNA抽出試料を、実施例3(1)記載のRNA希釈液
を用いて1テストあたり100ngのトータルRNAが含まれるように希釈した。
【0072】
(5)実験結果
全てのオリゴヌクレオチドの組み合わせで、TTF−1 mRNAを検出した。また、健常人の血液(全血)を採取し、Ficoll−Paque PLUS(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて単離を行ったリンパ球から抽出したRNA試料(5×10cell)を測定した場合は、いずれのオリゴヌクレオチドの組み合わせでも測定開始後30分以内に検出すものはなかった。
【0073】
TTF−1が特異的に発現しているとされる甲状腺・肺組織における発現が確認できた。また、上記以外のサンプル(血液)で発現していないことを確認した。
実施例 8
実施例6及び7で得られた核酸増幅反応後の試料に含まれる2本鎖DNAの塩基配列解析を実施した。塩基配列解析の結果、全ての試料において、使用したオリゴヌクレオチドの組み合わせによってTTF−1 mRNAの増幅が起きたときに相当する塩基配列を確認した。
【0074】
つまり、本発明において増幅検出しているのはTTF−1 RNAであり、他の非特異的なRNAは増幅検出していないことを示している。実施例6及び7に示したRNA抽出物には、TTF−1 RNAの他に雑多なRNAが混入しているが、本発明の測定方法はTTF−1 RNAのみを増幅検出しており、非常に特異性が高く、正確性に優れた測定方法といえる。
【0075】
以上より、本発明のTTF−1 mRNAの測定方法は、未知試料中に含まれるTTF−1 mRNAを特異的に、かつ迅速、高感度に測定可能であり、さらには、検量線を用いることで、定量を行なうことも可能であることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のTTF−1 mRNAの測定方法において、前記測定方法が、TTF−1 mRNA内の特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマー、及び特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマーを用いた、下記の工程からなる測定方法であり、ここで第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されたプライマーである:
(1)RNAを鋳型とする、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素によるRNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)1本鎖DNAを鋳型とする、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、特定塩基配列、あるいは特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、
(5)該RNA転写産物が、前記(1)の反応におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程、及び
(6)前記RNA転写産物量を測定する工程、からなり、かつ、
前記第一及び第二のプライマーが、以下のいずれかであることを特徴とする、前記測定方法:
(i)前記第一のプライマーが配列番号16で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第二のプライマーが配列番号31で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドである、又は、
(ii)前記第一のプライマーが配列番号26で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第二のプライマーが配列番号42で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドである。
【請求項2】
前記第一及び第二のプライマーが、以下のいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載のTTF−1 mRNAの測定方法:
(i)前記第一のプライマーが配列番号17から25で示されたいずれかの塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第二のプライマーが配列番号32から41で示されたいずれかの塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドである、又は
(ii)前記第一のプライマーが配列番号27から30で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第二のプライマーが配列番号43から46で示された塩基配列中の少なくとも連続した15塩基からなるオリゴヌクレオチドである。
【請求項3】
前記(6)の工程(RNA転写産物量を測定する工程)が、標的RNAと相補的な2本鎖を形成すると蛍光特性が変化するように設計された蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブ共存下で前記蛍光特性の変化を測定することによってなされることを特徴とする、請求項1に記載の測定方法。
【請求項4】
前記インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号47又は52に示される配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列に対して相同的又は相補的な配列のオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする、請求項3に記載の測定方法。
【請求項5】
前記インターカレーター性蛍光色素標識オリゴヌクレオチドプローブが配列番号48、49、50、51、53、54及び55に示されるいずれかの配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列に対して相同的又は相補的な配列のオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする、請求項3に記載の測定方法。
【請求項6】
前記(1)の工程(RNAを鋳型とする、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素によって特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程)の前に、TTF−1 mRNA中の特定塩基配列を鋳型とし、
(i)前記特定塩基配列中の、第一のプライマーとの相同領域の5’末端部位と重複した領域、及び当該部位から5’側に隣接する領域に対し相補的な配列を有する、切断用オリゴヌクレオチド、
及び、
(ii)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素、
を用いて、前記特定塩基配列の5’末端部位で前記RNAを切断する工程を行なうことを特徴とする、請求項1から5に記載のTTF−1 mRNAの測定方法。
【請求項7】
前記切断用オリゴヌクレオチドが配列番号2から14で示されるいずれかの配列からなるオリゴヌクレオチドであることを特徴とする、請求項6に記載の測定方法。
【請求項8】
TTF−1 mRNAを特異的に増幅または検出するためのオリゴヌクレオチドであって、配列番号16、26、31、42、47又は52のいずれかに示される配列中の少なくとも連続した15塩基からなる配列に対して相同的又は相補的な配列のオリゴヌクレオチド。
【請求項9】
請求項8に記載のオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする、TTF−1 mRNAの測定試薬。

【図1】
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【公開番号】特開2011−135822(P2011−135822A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298061(P2009−298061)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】