説明

Th1型免疫疾患予防又は治療用医薬組成物

【課題】Th1型免疫疾患の予防又は治療用医薬組成物の提供。 【解決手段】樹状細胞に発現するNP受容体であるGC−Aに作用してcGMP産生を亢進し、樹状細胞のサイトカイン産生を調節することによりT細胞をTh2型細胞に分化し得る物質を有効成分として含有するTh1型免疫疾患の予防又は治療に供する医薬組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹状細胞に発現するナトリウム利尿ペプチド(NP)受容体であるグアニリル・サイクラーゼA(GC−A)に作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート(cGMP)産生を亢進し得る物質を有効成分とするTh1型免疫疾患の予防又は治療に供する医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
免疫系は本来、外来の異物(微生物等)を認識し排除するための防御機構として進化してきた。そのためには、生体は自己の細胞や組織と外来の異物(非自己)を区別し、自己に対しては反応しないか、反応しても機能を発揮できない状態(免疫寛容)を保持しつつ、非自己を速やかにかつ効率的に排除すべく獲得免疫を発達させてきた。その中心的な役割を担っているのはT細胞である。未分化な末梢ナイーブT細胞(Thp)は、抗原刺激により増殖、分化を開始する。その際、Thpは表面上のT細胞レセプターを介して、マクロファージや樹状細胞等の抗原提示細胞から抗原の提示を受けると同時に活性化関連分子群からのシグナルにより活性化され、IL−2を分泌して増殖する。その後、殆ど全てのサイトカインを産生しうるTh0に分化し、抗原刺激の種類や強さ、抗原提示細胞による刺激シグナル等により最終的な分化の方向が決定され、Th1又はTh2へと成熟して機能が分かれ、それぞれ特異的なサイトカインの産生、さらなる細胞増殖、細胞傷害活性などが誘導される。即ち、インターロイキン−12(IL−12)は細胞性免疫に関与するTh1細胞への分化を誘導し、分化したTh1細胞はインターロイキン−2(IL−2)やインターフェロン−γ(IFN−γ)等のサイトカインを産生し、一方、インターロイキン−4(IL−4)は体液性免疫に関与するTh2細胞への分化を誘導し、インターロイキン−4、10(IL−4、10)等のサイトカインを産生する。両細胞が産生したサイトカインは、Th1又はTh2細胞への分化や両細胞が産生するサイトカインの働きを互いに負に制御し、Th1/Th2バランスの均衡が保たれている。
【0003】
近年、これらTh1/Th2バランスの不均衡が免疫病発症の原因になると考えられている。Th1を中心とした免疫応答(Th1型免疫)に偏った場合、細胞性免疫が増強され癌や感染症に対する免疫反応は亢進されるが、自己の組織傷害が引き起こされ自己免疫疾患発症の原因となる。組織の損傷や感染は引き続き炎症反応、更に組織の線維化、臓器の機能障害をもたらす。
【0004】
また、正常な免疫応答でも臓器移植に伴う拒絶反応や骨髄(造血幹細胞)移植に伴う移植片対宿主病を抑制することが治療上待望されている。これらで誘導される免疫応答は基本的に同一で、Th1型免疫が主体をなしている。
【0005】
Th1型免疫に起因する免疫異常により発症するTh1型免疫疾患としては、例えば移植に対する拒絶反応、骨髄(造血幹細胞)移植による移植片対宿主病、及び自己免疫性肝炎、慢性関節リウマチ、インスリン依存性糖尿病、潰瘍性大腸炎、クローン病、多発性硬化症、自己免疫性心筋炎、乾癬、強皮症、重症筋無力症、多発性筋炎・皮膚筋炎、橋本病、自己免疫血球減少症(赤芽球癆、再生不良性貧血等)、シェーグレン症候群、血管炎症候群、全身性エリテマトーデスなどを含む自己免疫疾患、更にこれらの疾患に起因する組織の損傷や感染に伴って起こる炎症反応、線維化、臓器機能障害等が挙げられる。
【0006】
Th1型免疫に起因する自己免疫疾患や移植免疫、更にそれらに伴う慢性活動性の免疫学的な炎症反応に対する治療にはTh1型免疫の選択的な抑制が望まれている。このような状況下において、現在、T細胞活性化機構のメディエーターの制御による治療が期待されており、シクロスポリンやFK506によるT細胞に対する強力な免疫抑制効果、抗サイトカイン療法、抗接着分子(活性化関連分子)療法、モノクローナル抗体療法等が注目されている。
【0007】
しかし、これらの療法も、従来からのステロイド剤、核酸合成系に作用するある種の免疫抑制剤又はインターフェロン製剤による療法と同様に、Th1型免疫選択的とは言い難く、感染症増悪、糖尿病、血栓、満月様顔貌、腎症、発熱など種々の副作用等の問題が解決されている訳ではなく、より安全性、有効性に優れた薬剤の開発が望まれている。
【0008】
自己免疫疾患は全身性に加えて、ほとんどの臓器においても認められる疾患である。また今後、臓器移植手術や造血幹細胞移植がますます発展するのに伴い、拒絶反応や移植片対宿主病の問題も増大してくる。このように、Th1型免疫が中心的な役割を担っている疾患は多岐に渡るものであり、有効な治療薬の開発が期待されている。実際、Th1型免疫抑制作用を有する薬剤としては、serotonin 1A receptor antagonist(J Immunol 153:489−498,1994)、pentoxifyllin(J Cardiovasc Pharmacol 25 Suppl 2:S75−79,1995)、beta2−adrenergic receptor agonist(J Immunol 158:4200−4210,1997、J Clin Invest 100:1513−1519,1997)、アデニル酸シクラーゼ活性化剤であるiloprost(J Autoimmun 10:519−529,1997)、P38 MAPキナーゼ阻害剤であるpyridinyl imidazole化合物やSB203580(EMBO J 17:2817−2829,1998、Int Immunol 12:253−261,2000)、lisofylline(J Immunol 163:6567−6574,1999)、adenosine A2a receptor agonistであるCGS−21680(J Immunol 164:436−442,2000)、NO−aspirin(Gastroenterology 118:404−421,2000)及び1,25−dihydroxyvitamin D(3)(Eur J Immunol 30:498−508,2000)等が報告されている。しかし、Th1型免疫を選択的に抑制し、副作用が軽減できるような臨床使用可能な医薬品は開発されていない。
【0009】
クローン病は近年Th1型疾患であることが解明され、IL−12やJL−10が治療標的として注目されている(最新医学90:1076−1081,2004)。即ち、IL−12は活性化マクロファージや樹状細胞から分泌され、ナイーブT細胞のTh1細胞への分化における中心的な役割を担っている。モデル動物にて抗IL−12抗体が治療効果を示すことが報告されており、ヒトクローン病の治療標的になりうると考えられている。また、IL−10はTh1細胞からのサイトカイン生成を抑制する分子であり、そのノックアウトマウスではTh1応答が増強され、腸炎を自然発症することから(Clin Invest Med 2001;24:250−257)、IL−10もクローン病の治療標的分子として期待されている。実際に、クローン病に対する遺伝子組み換えヒトIL−10の効果が検討され、改善効果が見られたが、その効力は十分なものではなく、また頭痛、発熱、貧血などの副作用が認められた(Gastroenterology,2000;119:1473−1482)。高濃度のIL−10が血中に持続すると、免疫活性化作用を発現することが示唆されており、より病態局所で、生理的にIL−10産生を亢進させる治療法が望まれている。最近、中等度から重度のクローン病に対してTNFα抗体であるinfliximabが適用され、有効性が確認されているが、高頻度の副作用が報告されており、その使用は制限されている。
【0010】
また、多発性硬化症は自己免疫疾患の中でも特にTh1型免疫優位な疾患であり、再発−寛解型でも寛解時にTh2偏倚が指摘されているなどTh2偏向作用が病態治療につながることが期待されている。現在用いられている多発性硬化症治療薬としては、急性期にはステロイド剤、再発−寛解型にはインターフェロンβ1b、一次進行型には各種免疫抑制剤などがある。これらの薬剤には様々な副作用が指摘されており、また有効性も十分なものではないことから、病状の確実な好転、進行の防止、副作用の軽減が未充足ニーズとなっている。
【0011】
従って、両疾患に対して、Th1型免疫をより選択的に抑制し、副作用が軽減できるような医薬品の開発が期待されるが、現在臨床使用可能なものは存在しない。
【0012】
樹状細胞はリンパ器官T領域においてナイーブT細胞を最も強力に活性化できる唯一の抗原提示細胞であり、生体防御の恒常性の維持において重要な役割を担うことが知られている(Banchereau,J.et al.Nature,Vol.392,p245,1998)。樹状細胞は通常組織でT細胞の活性化能の低い未熟な状態で存在するが、病原体や損傷した組織から放出される炎症性メディエーターにより成熟・活性化刺激を受けると、抗原由来のペプチドをMHC複合体に結合させてナイーブT細胞へ提示する。同時に共刺激分子の発現を増強させ、種々のサイトカインを産生させ、T細胞を呼び寄せ、抗原特異的な細胞を活性化して免疫応答を誘導する(伊豫田智典,稲葉カヨ,蛋白質核酸 酵素,Vol.47,p2133,2002)。また、ヒト樹状細胞には少なくとも2種の前駆細胞が存在する。単球系前駆細胞はGM−CFSとIL−4の刺激で分化し、更に、CD40Lの刺激により産生したIL−12により、ナイーブT細胞をTh1細胞に分化させる。形質細胞系前駆細胞はウイルスやCpGオリゴヌクレオチド、更にはIL−3とCD40Lの刺激によりIL−12を殆ど産生しない樹状細胞に分化し、ナイーブT細胞をTh2細胞に分化させる(樗木俊聡、医学のあゆみ、Vol.205,p57,2003)。即ち、樹状細胞は免疫系におけるTh1/Th2バランス制御の重要な役割を担う細胞である。従って、樹状細胞に特異的に作用し、その活性又はサイトカイン発現を調節して、ナイーブT細胞のTh1細胞への分化増殖を抑制し、Th2型に偏向させうる薬剤を開発できれば、Th1型免疫に起因する免疫異常(特にクローン病又は多発性硬化症)に対してより根源的な治療又は予防薬となりうると期待できる。しかし現在までにそのような作用を持つ有力な薬剤は存在しない。
【0013】
一方、GC−Aに作用して、セカンドメッセンジャーであるcGMP産生を亢進し得る物質としてペプチド性物質、特にナトリウム利尿ペプチドが挙げられるが、当該ペプチドにはANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)及びCNP(C型ナトリウム利尿ペプチド)の3種類があり、当該ペプチドに対するNP受容体としては、GC−A、GC−B(グアニリル・サイクラーゼB)及びNPR−C(NP受容体−C)の3種類がある。GC−A及びGC−Bは膜結合型グアニリル・サイクラーゼ構造をとること、ANP及びBNPはGC−Aの特異的リガンドであること、CNPはGC−Bの特異的リガンドであること、並びにこれらは各々の受容体結合後、細胞内のcGMPを上昇させることにより利尿作用及び血管拡張作用等の生理作用を発現することが判明している。また、NPR−CはcGMP産生と共役せず、これらのホルモンの代謝、クリアランスに関与すると言われている(Suzuki,T.et al,Cardiovasc.Res.Vol.51,p489,2001)。
ANPは心臓より分泌され、水電解質代謝及び血圧の調節に重要な役割を果たすペプチドホルモンである。ヒト及びモデル動物において、心肥大及び心不全の重症度に伴い、血中ANP濃度が上昇することが知られており、心不全の病態に代償的に作用すると考えられている。実際に心不全患者においてANP投与により血管拡張作用及び利尿作用が発現し、心臓の前負荷、後負荷が軽減され、血行動態改善効果が認められている(Suzuki,T.et al.Cardiovasc.Res.Vol.51,p489,2001)。
【0014】
ANPの受容体であるGC−Aは心血管系のみならず、白血球にも発現し、ANPが血球系細胞に対して生理機能を担う可能性が示唆されている。即ち、ANPが好中球の遊走を促進すること(Izumi,T.et al.J.Clin.Invest.Vol.108,p203,2001)、ラット胸腺細胞の増殖を抑制すること(Vollmar,A.M.,K.N.,et al.Endocrinology.Vol.137,1706,1996)、ヒトNatural Killer(NK)細胞の細胞障害性を増強すること(Moss,R.B.,and M.G.Golightly,Peptides,Vol.2,p851,1991)、マウスマクロファージからのNOやTNFα産生を抑制すること(Kiemer,A.K.,and A.M.Vollmar.J.Biol.Chem.Vol.273,p13444,1998)等が報告されている。
【0015】
しかしながら、マウス単球由来マクロファージへの作用の場合と異なり、ヒト単球にはANPの受容体が発現せず、ANPは単球でcGMP産生などの生理活性を発現しないことが報告されており(Sprenger H.,et al.,Immunobiol.Vol.183,p94,1991)、免疫系に関与するヒト単球由来の樹状細胞におけるGC−Aに作用してcGMP産生を亢進し得る物質の生理機能や病態生理的意義、若しくは免疫調節作用については全く報告がなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明は、上記した現状に鑑み、Th1型免疫疾患である、自己免疫疾患、臓器移植の拒絶反応、骨髄(造血幹細胞)移植による移植片対宿主病、及び自己免疫疾患や類縁疾患に起因する組織の損傷や感染に伴って起こる炎症反応、更に組織の線維化及び臓器機能障害に対して、Th1型サイトカイン産生抑制、Th1細胞の増殖・機能抑制を機序とする副作用のない、臨床的に適応し得る、Th1型免疫選択的抑制剤を提供することを課題とする。更に詳しくは、樹状細胞に発現するNP受容体であるGC−Aに作用してcGMP産生を亢進し、樹状細胞のサイトカイン産生を調節しT細胞をTh2に分化し得る物質を有効成分とするTh1型免疫疾患(特にクローン病又は多発性硬化症)の予防又は治療に供する医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る医薬組成物の有効成分として用い得る物質は、NP受容体であるGC−Aを介してcGMP産生を亢進し得る特性を有する物質であればよく、ペプチド性物質が好ましいが、特に特定されるものではないため、ペプチド性物質以外でもNP受容体であるGC−Aに作用してcGMPを亢進し得る化合物を用いることができる。
【0018】
ペプチド性物質としては、ナトリウム利尿ペプチドが好ましく、例えば心房性ナトリウム利尿ペプチド(以下、ANP)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(以下、BNP)等が挙げられる。
【0019】
ANPとしては28個のアミノ酸よりなるヒト由来α−hANP(配列番号:1)やラット由来α−rANP(配列番号:2)を用いることができるが、本発明に係る有効成分のペプチドとしては、ANPのリング構造(Cysに基づくジスルフィド結合の形成)及びリング構造に続くC末端部を有するペプチドであればよい。当該ペプチドとしてはα−hANPの7−28位のアミノ酸残基を有するペプチド(配列番号:3)が挙げられる。ANPとしては特にヒト由来のα−hANPが望ましい。
【0020】
BNPとしては32個のアミノ酸よりなるヒトBNP(配列番号:4)等が挙げられる。
【0021】
更に、本発明に係るNP受容体であるGC−Aを介してcGMP産生を亢進し得る特性を有する物質としては、天然から純粋に単離、精製されたもの、又は化学合成法若しくは遺伝子組換え法により製造されたものであってもよく、例えば上記物質(α−hANP等)に係るアミノ酸配列に基づき、当業者であれば適宜公知の方法により、当該配列中のアミノ酸残基を欠失、置換、付加、挿入等の修飾を施すことにより得ることができ、何れかの方法により得られた物質がNP受容体であるGC−Aに作用してcGMP産生を亢進し得る物質であれば何れも用いることができる。当該物質としては、前記の他に、カエルANP(配列番号:5)、ブタBNP(配列番号:6)、ラットBNP(配列番号:7)、ニワトリNP(配列番号:8)等が挙げられる。
【0022】
本発明に係る医薬組成物の有効成分として用い得る物質は、無機酸、例えば塩酸、硫酸、リン酸、又は有機酸、例えばギ酸、酢酸、酪酸、コハク酸、クエン酸等の酸付加塩として用いることができる。ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム等の金属塩、有機塩基による塩の形態であってもよい。また、本発明に係る医薬組成物は、その有効成分に係る物質の遊離形としても、又はその医薬的に許容し得る塩であってもよい。
【0023】
本発明に係る医薬組成物の有効成分として用い得る物質又はその薬理学的に許容し得る塩は、公知の薬理学的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤などと混合して医薬に一般に使用されている投与方法、即ち経口投与方法、又は静脈内投与、筋肉内投与若しくは皮下投与等の非経口投与方法によって投与するのが好ましい。
【0024】
有効成分がペプチド性物質の場合、消化管内で分解を受けにくい製剤、例えば活性成分であるペプチドをリボゾーム中に包容したマイクロカプセル剤として経口投与することも可能である。また、直腸、鼻内、舌下などの消化管以外の粘膜から吸収せしめる投与方法も可能である。この場合は坐剤、点鼻スプレー、舌下錠といった形態で投与することができる。
【0025】
本発明に係る医薬組成物の有効成分として用い得る物質の投与量は、疾患の種類、患者の年齢、体重、症状の程度及び投与経路などによっても異なるが、一般的に0.1μg/kg〜100mg/kgの範囲で投与することができ、0.5μg/kg〜5mg/kgで投与するのが好ましい。
【0026】
本発明により、ナトリウム利尿ペプチド受容体であるGC−Aに作用してcGMP産生を亢進し得る物質を有効成分とする組成物が、樹状細胞に特異的に作用してそのサイトカイン産生を調節し、ナイーブT細胞のTh2偏向性を誘導することによりTh1型免疫反応を抑制するため、Th1型免疫疾患に有効であることが明らかとなった。特に、有効成分としてANPを用いた場合、ANP単独では樹状細胞からのサイトカイン産生やT細胞の増殖反応に影響せず、LPS(リポ多糖)刺激時の反応のみを調節する作用を示したことは、正常時の免疫機能には大きな影響を及ぼすことなく、刺激時の過剰反応のみを抑制すること、即ち、副作用が小さく、安全に使用できることを示し、有用である。
【0027】
尚、LPSはグラム陰性菌の外膜の主要構成成分であり、病原体固有の構成成分の認識に極めて重要であって樹状細胞に発現するToll様受容体(TLR)ファミリーと呼ばれる膜タンパク受容体群のうちTLR4により認識され、樹状細胞を成熟、活性化させて刺激し、サイトカイン及びCD40等の補助機能分子の発現を誘導する物質である。
【0028】
本発明により、ヒト由来の樹状細胞及びナイーブT細胞を用いた一連の実験から、ヒト樹状細胞におけるGC−Aの発現、NP受容体であるGC−Aに作用してcGMP産生を亢進し得る物質の樹状細胞におけるサイトカイン産生調節作用及びT細胞に対するTh2偏向性作用が明らかにされたことは、臨床上有用である。
【0029】
これらのことから、NP受容体であるGC−Aに作用してcGMP産生を亢進し得る物質が樹状細胞に発現するGC−Aに作用して、ナイーブT細胞をTh2型に偏向させる作用が示され、免疫系におけるT細胞に係るTh1/Th2バランスを調節し得ることから、当該物質を投与してTh1型免疫疾患(特にクローン病又は多発性硬化症)を改善し得ること、及びTh1型免疫疾患以前の状態においてもTh1及びTh2の割合を常法により測定し、Th1の割合が高い場合は当該物質を投与して免疫系におけるTh1/Th2バランスを調節することによりTh1型免疫疾患の発症を予防し得る。
【0030】
以上のことから、本発明は以下の事項を含む。
(1)ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質を有効成分とするTh1型免疫疾患の予防又は治療用医薬組成物。
(2)Th1型免疫疾患が、移植に伴う拒絶反応に起因する疾患、骨髄(造血幹細胞)移植による移植片対宿主病及び自己免疫疾患から選ばれる上記(1)記載の医薬組成物。
(3)自己免疫疾患が、自己免疫性肝炎、慢性関節リウマチ、インスリン依存性糖尿病、潰瘍性大腸炎、クローン病、多発性硬化症、自己免疫性心筋炎、乾癬、強皮症、重症筋無力症、多発性筋炎・皮膚筋炎、橋本病、自己免疫血球減少症(赤芽球癆、再生不良性貧血等)、シェーグレン症候群、血管炎症候群及び全身性エリテマトーデスから選ばれる上記(2)記載の医薬組成物。
(4)自己免疫疾患が、クローン病又は多発性硬化症である上記(3)記載の医薬組成物。
(5)ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質を有効成分とする、Th1型免疫疾患に起因する組織の損傷や感染に伴って起こる炎症反応、線維化又は臓器機能障害の予防又は治療用医薬組成物。
(6)ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質がナトリウム利尿ペプチドである上記(1)又は(5)記載の医薬組成物。
(7)ナトリウム利尿ペプチドが心房性ナトリウム利尿ペプチド又は脳性ナトリウム利尿ペプチドである上記(6)記載の医薬組成物。
(8)心房性ナトリウム利尿ペプチドがヒト由来である上記(7)記載の医薬組成物。
(9)ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質を投与することを特徴とするTh1型免疫疾患の治療方法。
(10)Th1型免疫疾患が、移植に伴う拒絶反応に起因する疾患、骨髄(造血幹細胞)移植による移植片対宿主病及び自己免疫疾患から選ばれる上記(9)記載の治療方法。
(11)自己免疫疾患が、自己免疫性肝炎、慢性関節リウマチ、インスリン依存性糖尿病、潰瘍性大腸炎、クローン病、多発性硬化症、自己免疫性心筋炎、乾癬、強皮症、重症筋無力症、多発性筋炎・皮膚筋炎、橋本病、自己免疫血球減少症(赤芽球癆、再生不良性貧血等)、シェーグレン症候群、血管炎症候群及び全身性エリテマトーデスから選ばれる上記(10)記載の治療方法。
(12)自己免疫疾患が、クローン病又は多発性硬化症である上記(11)記載の治療方法。
(13)ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質がナトリウム利尿ペプチドである上記(9)記載の治療方法。
(14)ナトリウム利尿ペプチドが心房性ナトリウム利尿ペプチド又は脳性ナトリウム利尿ペプチドである上記(13)記載の治療方法。
(15)心房性ナトリウム利尿ペプチドがヒト由来である上記(14)記載の治療方法。
(16)ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質の、Th1型免疫疾患の予防又は治療用医薬組成物の製造のための使用。
(17)Th1型免疫疾患が、移植に伴う拒絶反応に起因する疾患、骨髄(造血幹細胞)移植による移植片対宿主病及び自己免疫疾患から選ばれる上記(16)記載の使用。
(18)自己免疫疾患が、自己免疫性肝炎、慢性関節リウマチ、インスリン依存性糖尿病、潰瘍性大腸炎、クローン病、多発性硬化症、自己免疫性心筋炎、乾癬、強皮症、重症筋無力症、多発性筋炎・皮膚筋炎、橋本病、自己免疫血球減少症(赤芽球癆、再生不良性貧血等)、シェーグレン症候群、血管炎症候群及び全身性エリテマトーデスから選ばれる上記(17)記載の使用。
(19)自己免疫疾患が、クローン病又は多発性硬化症である上記(18)記載の使用。
(20)ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質がナトリウム利尿ペプチドである上記(16)記載の使用。
(21)ナトリウム利尿ペプチドが心房性ナトリウム利尿ペプチド又は脳性ナトリウム利尿ペプチドである上記(20)記載の使用。
(22)心房性ナトリウム利尿ペプチドがヒト由来である上記(21)記載の使用。
(23)ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質を樹状細胞に作用させて、T細胞に対するTh2偏向性を誘導することを特長とする免疫系におけるTh1/Th2バランスを調節する方法。
(24)ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質がナトリウム利尿ペプチドである上記(23)記載の方法。
(25)ナトリウム利尿ペプチドが心房性ナトリウム利尿ペプチド又は脳性ナトリウム利尿ペプチドである上記(24)記載の方法。
(26)心房性ナトリウム利尿ペプチドがヒト由来である上記(25)記載の方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質が、樹状細胞に作用してTh2偏向性を誘導し、T細胞をTh2型細胞に分化させることにより、IL−12及びTNFα産生を抑制し、IL−10産生を増強させることにより、Th1型免疫反応を抑制する作用を有することから、当該物質を有効成分とする医薬組成物が、免疫系におけるTh1/Th2バランスを調節することによりTh1型免疫疾患(特にクローン病又は多発性硬化症)の予防又は治療用医薬組成物として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
[図1]図1は、ヒト単球(monocytes)及び未成熟樹状細胞(immature DCs)における3種のNP受容体、即ちGC−A、GC−B及びNPR−CのmRNA発現をRT−PCR法で解析した図である。各受容体mRNAの陽性対照として胎盤を用いた。また、RNAの純度、cDNA合成の妥当性をβ−actin cDNAの増幅により確認した。未成熟樹状細胞においてのみGC−A mRNAが特異的に発現することを示す。
[図2]図2は、ヒト単球(monocytes、黒四角印)及び未成熟樹状細胞(immature DCs、白四角印)におけるANP(上図)及びCNP(下図)のcGMP産生亢進活性を示した図である。各値は1x10cellsあたりのcGMP量を示す。ANPは樹状細胞できわめて低濃度よりcGMP産生を亢進することを示す。
[図3]図3は、LPS刺激した樹状細胞による同種ナイーブT細胞の増殖反応に対するANPの効果を示す。樹状細胞はLPS(1μg/mL)、ANP(10−7M)、LPS+ANP又はこれらの非存在下で24時間培養し、irradiation後、ナイーブT細胞と共に6日間培養した。このときのナイーブT細胞の細胞増殖能を[H]−thymidine取り込み能により評価した。白丸印:無処置,黒丸印:ANP10−7M処置,白四角印:LPS1μg/mL処置,黒四角印:ANP+LPS処置。各値は5例の平均値±標準誤差を示す。*はp<0.05でその他の群との間に有意差があることを示す。有意差はStudentのt検定にて検定した。
[図4]図4は、LPS刺激した樹状細胞からのサイトカイン産生に及ぼすANP及びCNPの影響を示す。1x10cells/tubeの樹状細胞をANP(10−8〜10−6M)若しくはCNP(10−6M)の存在下又は非存在下でLPS(1μg/mL)と24時間インキュベーションした後の、メディウム中のIL−12、TNF−α、IL−10免疫活性を示す。
[図5]図5は、LPS又はLPS+ANPで前処置した樹状細胞とナイーブT細胞を共培養した後、更にIL−2含有培養液で増殖させたT細胞の細胞内IFN−γ、IL−4産生をフローサイトメトリーで解析した結果を示す。図中の数字は、各分画における白血球の割合を百分率で示す。Sample#1、Sample#2は、それぞれ異なる提供者由来の樹状細胞を用いた結果を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明者は、ヒト末梢血より単離、培養した樹状細胞におけるANP受容体(GC−A)発現と、ANPのcGMP産生亢進活性を検討し、また、樹状細胞におけるANPの生理機能を明らかにするために、樹状細胞の分化、リンパ球増殖作用、サイトカイン発現、Th1/Th2偏向性に対する作用を検討した結果、GC−Aに作用してcGMP産生を亢進し得る物質がTh1型免疫疾患の予防又は治療に有用であることを見出した。
A.ヒト樹状細胞の単離、及び、NP受容体発現、cGMP産生亢進作用の実験方法
1.ヒト末梢血由来樹状細胞の単離と培養
実験には健常人ボランティアより得た末梢血(京都府赤十字センターより供与)の白血球層(buffy coats)を用いた。末梢血単球画分をFicoll−Paqueによる密度勾配遠心により分離した後、MACS CD14を用いた磁気ビーズカラムにより、又は細胞培養用フラスコにて37℃で1時間培養して接着細胞を選抜することにより単球を分離した。未成熟樹状細胞は、2×10cells/mlの単球を10%ウシ胎児血清、50ng/mLヒトGM−CSF、20ng/mLヒトIL−4存在下、7日間37℃で培養することにより得た。
【0034】
2.NP受容体のRT−PCR
RNA単離用キットを用いて単球及び樹状細胞よりトータルRNAを抽出した後、1μgのトータルRNAとoligo(dT)primerを用いてトリ骨髄芽球症ウイルス由来逆転写酵素により1本鎖cDNAを合成した。Primerとして以下を使用した。
【0035】

PCRはNP受容体については35サイクル、β−actinについて25サイクル実施した。PCR産物は1.5〜2%のアガロースゲルで分離し、エチジウムブロマイドで染色した後、UV透視装置で検出した。
【0036】
3.cGMP産生亢進活性の測定
1×10cells/sampleの細胞を500μLの培養液、10mM HEPES、0.5mM 3−isobutyl−1−methylxanthine、1μM phospholamidon存在下で37℃にて10分間インキュベーションした後、ANP又はCNPを最終濃度10−12〜10−6Mになるように添加し、更に15分間インキュベーションした。細胞を洗浄、破壊後、細胞内cGMP濃度をELISA法で測定した。
B.樹状細胞によるナイーブT細胞増殖反応、サイトカイン産生、ナイーブT細胞分化の実験方法
1.活性化樹状細胞によるT細胞の増殖反応
ナイーブT細胞(ナイーブCD4T細胞)は、新生児臍帯血由来の単球画分より、MACS CD4T細胞単離用磁気ビーズを用いて単離した。樹状細胞をANP(10−7M)の存在下又は非存在下でリポ多糖(LPS、1μg/mL)と24時間培養し、活性化した。細胞を洗浄、放射線照射(30Gy)して増殖能を失わせた後、ナイーブT細胞(1×10cells/well)と共に6日間培養した。0.5μCi/wellの[methyl−H]−thymidineを8時間取り込ませることにより、T細胞の増殖能を評価した。
【0037】
2.樹状細胞からのサイトカイン産生の測定
樹状細胞を、ANP(10−8M〜10−6M)若しくはCNP(10−6M)の存在下又は非存在下でLPS(1μg/mL)と24時間インキュベーションし、培養清中のIL−12、IL−10、TNFα量をELISA法で測定した。
【0038】
3.ナイーブT細胞の細胞内サイトカイン発現解析(樹状細胞のTh1/Th2偏向性の検討)
樹状細胞は予めANP(10−7M)の存在下又は非存在下でLPS(1μg/mL)と24時間インキュベーションして活性化した後、放射線照射(30Gy)により増殖能を失わせた。この樹状細胞(1×10cells/well)と、臍帯血より分離したナイーブT細胞(1×10cells/well)を6日間共培養した。IL−2(50U/mL)存在下でT細胞を更に8日間増殖させた後、T細胞を回収し、50ng/mLのホルボールエステル(PMA)と500ng/mLのイオノマイシンで4時間刺激した。インキュベーション終了2時間前にBrefeldin A(10μg/mL)を添加した。細胞を2%ホルマリンで固定した後に、2%FBS、0.5%サポニンを含む溶媒で細胞膜を障害し、細胞内サイトカインをFITC標識した抗IFN−γモノクローナル抗体及び、PE標識した抗IL−4モノクローナル抗体で染色し、フローサイトメトリー法で解析した。IFN−γ陽性細胞をTh1型細胞、IL−4陽性細胞をTh2型細胞とみなした。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明する。
実施例1 未成熟樹状細胞でのGC−A遺伝子の発現及びANPによるcGMP産生亢進活性
本発明者らはまず3種のNP受容体遺伝子が樹状細胞、単球に発現するかについて検討した。健常人末梢血より得た単球、及び未成熟樹状細胞よりRNAを調製し、RT−PCR法でNP受容体であるGC−A、GC−B、NPR−Cの遺伝子の発現を検討した。結果を図1に示す。
【0040】
陽性対照とした胎盤由来RNAでは3種類全てのNP受容体遺伝子の発現が認められた。単球では何れの受容体遺伝子の発現も見られなかったのに対し、未成熟樹状細胞ではGC−A遺伝子の発現のみが明確に認められた。このことから、単球にはNP受容体遺伝子は発現しないが、単球由来の樹状細胞ではGC−A遺伝子が特異的に発現することが確認された。
【0041】
次に、樹状細胞に発現するGC−Aが生理機能と共役するかを明らかにするために、単球、樹状細胞それぞれにおけるANPのcGMP産生亢進活性を検討した。対照として、GC−Bの特異的リガンドであるCNPを用いた。結果を図2に示す。
【0042】
ANPは10−12Mという低濃度より濃度依存的に樹状細胞内のcGMPを上昇させたが、単球では何れの濃度でもcGMPをほとんど上昇させなかった。また、CNPは単球、樹状細胞の何れにおいても細胞内cGMP濃度に影響しなかった。この結果は、図1に示したGC−A遺伝子発現の結果を裏付けるものであり、樹状細胞特異的にGC−Aが発現し、かつ、本受容体がANPに反応して、生理活性を担う可能性を強く示唆するものである。
実施例2 ANPの樹状細胞サイトカイン発現に対する作用、及びTh2偏向性に関する検討
実施例1の結果から、ANPが樹状細胞に作用し、免疫反応を調節しうることが判明した。
【0043】
樹状細胞の重要な機能は、ナイーブT細胞に抗原特異的な免疫反応を惹起することである。そこでまず、樹状細胞を成熟・活性化させることが知られているLPSの存在下又は非存在下で、ANPを樹状細胞に添加して、ナイーブT細胞の活性化・増殖反応に及ぼす影響を検討した。結果を図3に示す。
【0044】
ANPは単独ではナイーブT細胞の増殖反応に影響しなかったが、LPSを樹状細胞に添加すると、著明なT細胞の増殖反応を惹起した。
【0045】
一方、ANPをLPSと同時に添加すると、LPS処理した樹状細胞で誘導されたT細胞の増殖反応が、ほぼ完全に抑制されることが判明した。
【0046】
従って、ANPはLPSによる樹状細胞の活性化シグナル又は樹状細胞の機能に影響しうることが示された。
【0047】
樹状細胞が産生するサイトカインは樹状細胞とT細胞の相互作用発現に非常に重要な作用を果たすことが知られている。そこで次に、樹状細胞からのサイトカイン発現に対するANPの効果を検討した。結果を図4に示す。
【0048】
LPSは樹状細胞からのIL−12、TNF−α、IL−10の産生を亢進させたが、これに対してANPは濃度依存的にIL−12とTNFαを低下させ、一方、IL−10の産生を増強させた。なお、LPS未刺激時には樹状細胞からのIl−12、TNF−α、IL−10産生能は低く、ANPは単独ではこれらに影響しなかった。
【0049】
また、GC−BのリガンドであるCNPはサイトカイン発現に影響しなかったことから、LPS刺激時におけるANPの作用は樹状細胞に発現するGC−Aを介したものであることが確認された。
【0050】
樹状細胞から産生されるサイトカインの中でIL−12は代表的なTh1型サイトカインであり、一方でIL−10はTh1細胞、活性化した単球及びNK細胞によって産生されるIL−12を始めとするサイトカインの活性をブロックすることが知られている。ANPがLPSで誘導された樹状細胞からのIL−12産生を抑制するが、IL−10産生を増強したことから、ANPは樹状細胞をTh2偏向性に誘導する可能性が示された。
【0051】
そこで、ANPが樹状細胞のTh2偏向性を誘導しうるかについて、樹状細胞をLPSで刺激時にANPを共存させ、ナイーブT細胞がTh1、Th2何れのタイプに分化、増殖するかを解析した。LPSは樹状細胞のToll−like receptor4に作用し、IL−12発現を亢進させ、ナイーブT細胞を高いIL−12産生能を持ったTh1型細胞に偏向させることが知られている(Akira S,et al.Nat.Immunol.Vol.2,p675,2001)。
【0052】
LPS単独、又はLPS及びANPの共存下で刺激した樹状細胞と、ナイーブT細胞を相互作用させた後に、T細胞をIL−2を含む培養液中で増殖させ、Th1型細胞が発現するサイトカインとしてIFN−γ、Th2型細胞が発現するサイトカインとしてIL−4を、フローサイトメトリーを用いて解析した。図5に2例のT細胞標本の解析結果を示す。図5において、IFN−γ陽性、IL−4陰性細胞はTh1型、IL−4陽性、IFN−γ陰性細胞はTh2型のヘルパーT細胞に分化し、増殖したことを示す。
【0053】
Sample#1、Sample#2の何れにおいても、LPS単独処置群に比べ、ANP共処置群では、明らかにIL−4産生細胞が増加し、IFN−γ産生細胞が減少することが示された。更に別の3標本についても検討し、同様の結果を得た。
【0054】
本実施例により、ANPが樹状細胞のIL−10産生を亢進させ、IL−12産生を低下させることによりLPSの作用に拮抗し、樹状細胞をTh2偏向性に誘導してT細胞をTh2型ヘルパーT細胞に分化させることにより、Th1型免疫反応を抑制することを明らかにした。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質を有効成分とするTh1型免疫疾患の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項2】
Th1型免疫疾患が、移植に伴う拒絶反応に起因する疾患、骨髄(造血幹細胞)移植による移植片対宿主病及び自己免疫疾患から選ばれる請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
自己免疫疾患が、自己免疫性肝炎、慢性関節リウマチ、インスリン依存性糖尿病、潰瘍性大腸炎、クローン病、多発性硬化症、自己免疫性心筋炎、乾癬、強皮症、重症筋無力症、多発性筋炎・皮膚筋炎、橋本病、自己免疫血球減少症(赤芽球癆、再生不良性貧血等)、シェーグレン症候群、血管炎症候群及び全身性エリテマトーデスから選ばれる請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
自己免疫疾患が、クローン病又は多発性硬化症である請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質がナトリウム利尿ペプチドである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
ナトリウム利尿ペプチドが心房性ナトリウム利尿ペプチド又は脳性ナトリウム利尿ペプチドである請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
心房性ナトリウム利尿ペプチドがヒト由来である請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質を投与することを特徴とするTh1型免疫疾患の治療方法。
【請求項9】
Th1型免疫疾患が、移植に伴う拒絶反応に起因する疾患、骨髄(造血幹細胞)移植による移植片対宿主病及び自己免疫疾患から選ばれる請求項8記載の治療方法。
【請求項10】
自己免疫疾患が、自己免疫性肝炎、慢性関節リウマチ、インスリン依存性糖尿病、潰瘍性大腸炎、クローン病、多発性硬化症、自己免疫性心筋炎、乾癬、強皮症、重症筋無力症、多発性筋炎・皮膚筋炎、橋本病、自己免疫血球減少症(赤芽球癆、再生不良性貧血等)、シェーグレン症候群、血管炎症候群及び全身性エリテマトーデスから選ばれる請求項9記載の治療方法。
【請求項11】
自己免疫疾患が、クローン病又は多発性硬化症である請求項10記載の治療方法。
【請求項12】
ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質がナトリウム利尿ペプチドである請求項8記載の治療方法。
【請求項13】
ナトリウム利尿ペプチドが心房性ナトリウム利尿ペプチド又は脳性ナトリウム利尿ペプチドである請求項12記載の治療方法。
【請求項14】
心房性ナトリウム利尿ペプチドがヒト由来である請求項13記載の治療方法。
【請求項15】
ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質の、Th1型免疫疾患の予防又は治療用医薬組成物の製造のための使用。
【請求項16】
Th1型免疫疾患が、移植に伴う拒絶反応に起因する疾患、骨髄(造血幹細胞)移植による移植片対宿主病及び自己免疫疾患から選ばれる請求項15記載の使用。
【請求項17】
自己免疫疾患が、自己免疫性肝炎、慢性関節リウマチ、インスリン依存性糖尿病、潰瘍性大腸炎、クローン病、多発性硬化症、自己免疫性心筋炎、乾癬、強皮症、重症筋無力症、多発性筋炎・皮膚筋炎、橋本病、自己免疫血球減少症(赤芽球癆、再生不良性貧血等)、シェーグレン症候群、血管炎症候群及び全身性エリテマトーデスから選ばれる請求項16記載の使用。
【請求項18】
自己免疫疾患が、クローン病又は多発性硬化症である請求項17記載の使用。
【請求項19】
ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質がナトリウム利尿ペプチドである請求項15記載の使用。
【請求項20】
ナトリウム利尿ペプチドが心房性ナトリウム利尿ペプチド又は脳性ナトリウム利尿ペプチドである請求項19記載の使用。
【請求項21】
心房性ナトリウム利尿ペプチドがヒト由来である請求項20記載の使用。
【請求項22】
ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質を樹状細胞に作用させて、T細胞に対するTh2偏向性を誘導することを特長とする免疫系におけるTh1/Th2バランスを調節する方法。
【請求項23】
ナトリウム利尿ペプチド受容体であるグアニリル・サイクラーゼAに作用してサイクリックグアノシンモノフォスフェート産生を亢進し得る物質がナトリウム利尿ペプチドである請求項22記載の方法。
【請求項24】
ナトリウム利尿ペプチドが心房性ナトリウム利尿ペプチド又は脳性ナトリウム利尿ペプチドである請求項23記載の方法。
【請求項25】
心房性ナトリウム利尿ペプチドがヒト由来である請求項24記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/110489
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506935(P2005−506935)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008205
【国際出願日】平成16年6月11日(2004.6.11)
【出願人】(503062312)第一アスビオファーマ株式会社 (25)
【Fターム(参考)】