説明

Th2型アレルギー性疾患治療薬及び感染症治療薬

【課題】Th2型アレルギー性疾患と細胞内寄生性病原体による感染症とに対する有効で副作用のない治療薬を提供する。
【解決手段】本発明のTh2型アレルギー性疾患治療薬は、Th2型アレルギー性疾患を予防又は治療するために用いられ、有効成分としてインターロイキン−27を含有するので、Th2型アレルギー性疾患を有効に、副作用なく、予防又は治療することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Th2型アレルギー性疾患治療薬及び感染症治療薬に関するものであり、特にTh2細胞により産生されるサイトカインにより惹起されるアレルギー性疾患を予防又は治療するために用いられるTh2型アレルギー性疾患治療薬、又は、Th2サイトカインにより増殖が促進される細胞内寄生性病原体による感染症を予防又は治療するために用いられる感染症治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイーブCD4T細胞のTh1細胞又はTh2細胞への分化は獲得免疫反応の進行における重要なプロセスである。Th1細胞はIFN−γの産生により細胞性免疫を促進し、産生されたIFN−γは細胞内寄生性病原体に対する生体防御作用又は抗アレルギー作用を有する。これに対して、Th2細胞はIL−4、IL−5及びIL−13を産生し、これらは液性免疫作用を有するが、アレルギー性疾患を惹起し、また、マクロファージからの一酸化窒素産生を抑制する結果、細胞内寄生性病原体の増殖を促すことが知られている。
【0003】
かかるTh2サイトカインによって惹起されるTh2型アレルギー性疾患としてよく知られているのは、IgEを介して起こるアレルギー性疾患であり、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎等が含まれる。Th2細胞により産生されるIL−4は、B細胞に働きIgEを産生させる働きを持つ。IgEがアレルゲンを認識して肥満細胞を活性化すると肥満細胞より炎症を誘導する液性因子を放出することがアレルギー性の炎症反応につながると考えられており、IL−4はこの活性化された肥満細胞からも産生される。また、IL−5によって増殖・分化が制御されている好酸球は、喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎等の炎症部位に強く浸潤し炎症反応を引き起こす。
【0004】
現在、Th2型アレルギー性疾患の治療薬としては、IgEとTh2サイトカインとによって活性化されたエフェクター細胞(肥満細胞など)から産生される様々な化学伝達物質を抑制することを目的としたアレルギー性疾患治療薬が主流となっている。
【0005】
ところで、多くの要因がナイーブCD4T細胞のTh1細胞又はTh2細胞への分化に影響を与える中でサイトカインが分化の決定要因であることがわかってきている。ナイーブCD4T細胞は抗原とIL−12とで刺激されることによりTh1細胞に分化する。さらに、IL−18はIL−12が誘導したTh1細胞に作用しIFN−γ産生を増大させる。これに対して、Th2はナイーブCD4T細胞を抗原とIL−4とで刺激することにより誘導される。このように、IL−4及びIL−12はTh1細胞又はTh2細胞の分化を決定する重要な役割を果たす。
【0006】
また、最近、IL−12ファミリーの新規メンバーであるIL−23及びIL−27が特定されている。これらのサイトカインは、ヘテロ二量体であり、樹状細胞によって産生される。IL−23は、IL−12p35関連タンパク質p19及びIL−12p40からなりメモリーT細胞の増殖を誘導する。IL−27はIL−12p40関連タンパク質、EBV誘導遺伝子3(EBI3)及び新たに発見されたIL−12p35関連タンパク質p28からなり(例えば、非特許文献1参照)、ナイーブCD4T細胞の増殖を誘導するが、メモリーCD4T細胞の増殖は誘導しない。
【0007】
また、IL−12RはIL−12Rβ1及びIL−12Rβ2からなり、IL−23RはIL−12Rβ1及びIL−23Rと名づけられた新規な成分からなる。IL−12Rβ2に相同的なこれまでそのリガンドが不明であったサイトカインレセプターWSX−1/T細胞サイトカインレセプター(TCCR)とgp130とは、IL−27の機能的シグナル変換レセプターを構成する(例えば、非特許文献2参照)。
【0008】
IL−27は、Th1細胞の分化の主要な転写調節因子であるT−betの発現を誘導することが報告されており(例えば、非特許文献3参照)、これによりその後に続くIL−12Rβ2の発現を誘導する。それゆえ、IL−27は、IL−12Rのアップレギュレーションを介したIFN−γの誘導においてIL−12と相乗的に作用すると考えられている(例えば、非特許文献1、4〜6参照)。
【0009】
IL−27Rの1つのサブユニットであるWSX−1(例えば、非特許文献7参照)/TCCR(例えば、非特許文献8参照)が欠損したマウスの研究より、IL−27はTh1細胞の分化に必要であること及びWSX−1/TCCRが欠損した(WSX−1-/-)マウスは、IFN−γ産生が損なわれるために皮膚リーシュマニア症の原因となるリーシュマニアmajor(L.major)(例えば、非特許文献7、9参照)又はListeria monocytogenes(例えば、非特許文献8参照)のような細胞内病原体の感染を受けやすいことが示されている。
【0010】
また、IL−27/IL−27Rの相互作用は、Th1により仲介される炎症応答を一定の状況において阻害することが報告されている。Villarino et al.は、Toxoplasma gondii に感染した(WSX−1-/-)マウスは、過度に活性化されたCD4T細胞の分化によって、致命的なTh1応答を示すことを報告している(例えば、非特許文献10参照)。Trypanosoma cruziによる感染もまた、(WSX−1-/-)マウスにおいて、TNF−α及びIFN−γを含む炎症性サイトカインの生産過剰により重度の肝臓損傷を誘導する(例えば、非特許文献11参照)。それゆえ、IL−27は細胞内寄生性病原体の感染によって誘導されたTh1免疫応答の促進又は阻害によって、宿主抵抗性をコーディネートすると報告されている(例えば、非特許文献12、13参照)22、23)。
【0011】
また、最近の研究は、Th2を介した免疫応答により排除される特性が解明された蠕虫であるTrichuris muris(T.muris)で感染された(WSX−1-/-)マウスは、増大するTh2サイトカイン産生による急速な寄生虫の排除を示すことが報告されている(例えば、非特許文献14参照)。さらに、(WSX−1-/-)マウスは、抗原による刺激(challenge)に応答して、気道過敏性(AHR)の亢進、気道における杯細胞からのムチンの過剰産生と好酸球浸潤、及び、IgE及びTh2サイトカイン生産の増大による強い喘息の表現型を示すことが開示されている(例えば、非特許文献15参照)。
【0012】
また、最近IL−27が、インターロイキン17を産生するヘルパーT(Th−17)細胞の分化を阻害することにより炎症を抑制する能力を有することが示されている(例えば、非特許文献16、17参照)。
【非特許文献1】Pflanz, S., J.C.Timans, J.Cheung,R.Rosales,H.Kanzler, J.Gilbert, L.Hibbert, T.Churakova,M. Travis, E.Vaisberg,W.M.Blumenschein, J.D.Mattson, J.L.Wagner,W.To, S. Zurawski, T.K.McClanahan,D.M.Gorman, J.F.Bazan,R. deWaalMalefyt,D.Rennick, andR.A.Kastelein. 2002. IL-27, a heterodimeric cytokine composed of EBI3 and p28 protein, induces proliferation of naiveCD4(+) T cells. Immunity 16:779-790.
【非特許文献2】Pflanz, S., L.Hibbert, J.Mattson,R.Rosales, E.Vaisberg, J.F.Bazan, J.H. Phillips,T.K.McClanahan,R. deWaalMalefyt, andR.A.Kastelein. 2004.WSX-1 and glycoprotein 130 constitute a signal-transducing receptor for IL-27. J Immunol 172:2225-2231.
【非特許文献3】Szabo, S.J., S.T.Kim,G.L.Costa,X. Zhang,C.G. Fathman, and L.H.Glimcher. 2000.A novel transcription factor,T-bet, directs Th1 lineage commitment.Cell 100:655-669.
【非特許文献4】Hibbert, L., S. Pflanz,R.DeWaalMalefyt, andR.A.Kastelein. 2003. IL-27 and IFNalpha signal via Stat1 and Stat3 and induce T-Bet and IL-12Rbeta2 in naive T cells. J InterferonCytokineRes 23:513-522.
【非特許文献5】Kamiya, S., T.Owaki,N.Morishima, F. Fukai, J.Mizuguchi, and T.Yoshimoto. 2004.An indispensable role for STAT1 in IL-27-induced T-bet expression but not proliferation of naiveCD4+ T cells. J Immunol 173:3871-3877.
【非特許文献6】Takeda,A., S.Hamano,A.Yamanaka, T.Hanada, T. Ishibashi, T.W.Mak,A. Yoshimura, andH.Yoshida. 2003.Cutting edge: role of IL-27/WSX-1 signaling for induction ofT-bet through activation of STAT1 during initial Th1 commitment. J Immunol 170:4886-4890.
【非特許文献7】Yoshida,H., S.Hamano,G. Senaldi, T.Covey, R. Faggioni, S.Mu,M.Xia,A.C. Wakeham,H.Nishina, J. Potter,C.J. Saris, and T.W.Mak. 2001.WSX-1 is required for the initiation ofTh1 responses and resistance to L.major infection. Immunity 15:569-578.
【非特許文献8】Chen,Q.,N.Ghilardi,H.Wang,T.Baker,M.H.Xie,A.Gurney, I.S.Grewal, and F.J. de Sauvage. 2000.Development ofTh1-type immune responses requires the type I cytokine receptor TCCR.Nature 407:916-920.
【非特許文献9】Artis,D., L.M. Johnson,K. Joyce,C. Saris,A.Villarino,C.A.Hunter, and P. Scott. 2004. Cutting edge: early IL-4 production governs the requirement for IL-27-WSX-1 signaling in the development of protective Th1 cytokine responses following Leishmaniamajor infection. J Immunol 172:4672-4675.
【非特許文献10】Villarino,A., L.Hibbert, L. Lieberman, E.Wilson, T.Mak,H.Yoshida,R.A.Kastelein, C. Saris, andC.A.Hunter. 2003. The IL-27R(WSX-1) is required to suppressT cell hyperactivity during infection. Immunity 19:645-655.
【非特許文献11】Hamano, S.,K.Himeno,Y.Miyazaki,K. Ishii,A.Yamanaka,A. Takeda,M. Zhang,H. Hisaeda, T.W.Mak,A.Yoshimura, andH.Yoshida. 2003.WSX-1 is required for resistance to Trypanosoma cruzi infection by regulation of proinflammatory cytokine production. Immunity 19:657-667.
【非特許文献12】Hunter,C.A. 2005.NewIL-12-familymembers: IL-23 and IL-27, cytokineswith divergent functions.Nat Rev Immunol 5:521-531.
【非特許文献13】Hunter,C.A.,A.Villarino,D.Artis, and P. Scott. 2004. The role of IL-27 in the development of T-cell responses during parasitic infections. ImmunolRev 202:106-114.
【非特許文献14】Artis,D.,A.Villarino,M. Silverman,W.He, E.M.Thornton, S.Mu, S. Summer, T.M. Covey, E.Huang,H.Yoshida,G.Koretzky,M.Goldschmidt,G.D.Wu, F. de Sauvage, H.R.Miller,C.J. Saris, P. Scott, andC.A.Hunter. 2004. The IL-27 receptor (WSX-1) is an inhibitor of innate and adaptive elements of type 2 immunity. J Immunol 173:5626-5634.
【非特許文献15】Miyazaki,Y.,H. Inoue,M.Matsumura,K.Matsumoto, T.Nakano,M.Tsuda, S. Hamano,A.Yoshimura, andH.Yoshida. 2005. Exacerbation of experimental allergic asthma by augmentedTh2 responses inWSX-1-deficientmice. J Immunol 175:2401- 2407.
【非特許文献16】Batten,M., J. Li, S.Yi,N.M.Kljavin,D.M.Danilenko, S. Lucas, J. Lee, F.J. de Sauvage, andN.Ghilardi. 2006. Interleukin 27 limits autoimmune encephalomyelitis by suppressing the development of interleukin 17-producing T cells.Nat Immunol 7:929- 936.
【非特許文献17】Stumhofer, J.S.,A. Laurence, E.H.Wilson, E.Huang,C.M.Tato, L.M. Johnson,A.V.Villarino,Q.Huang,A.Yoshimura,D. Sehy, C.J. Saris, J.O'Shea J, L.Hennighausen,M. Ernst, andC.A.Hunter. 2006. Interleukin 27 negatively regulates the development of interleukin 17-producingThelper cells during chronic inflammation of the central nervous system.Nat Immunol 7:937-945.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、Th2サイトカインによって惹起されるTh2型アレルギー性疾患の治療薬としては、現在、IgE抗体とTh2サイトカインとによって活性化されたエフェクター細胞(肥満細胞など)から産生される様々な化学伝達物質を抑制することを目的としたものが主流となっており、Th2サイトカイン自体の産生を抑制するTh2型アレルギー性疾患治療薬の開発は遅々として進んでいない。Th2サイトカイン産生抑制剤としての新規アトピー性疾患治療薬の確立が期待される。
【0014】
Th2サイトカイン自体の産生を抑制する方法としては、IL−2の大量投与又はIL−12とIL−18との組合せ投与による感染防御・抗アレルギー作用が挙げられる。これによりTh2反応の誘導は阻害され、逆にTh1反応が誘導される。さらに、IL−12とIL−18との生体内投与は様々な細胞に作用してIFN−γの産生を誘導する。その結果産生されたIFN−γは細胞内寄生性病原体の感染防御作用や抗アレルギー作用を発揮する。
【0015】
しかし、IL−12とIL−18との組合せ投与は、過剰なIFN−γの産生を誘導するため、これによる過度の炎症反応を惹起することで、肝臓毒等の副作用が強く、実際の治療には不適切である。
【0016】
また、Th1細胞から産生されたIFN−γは、Th2サイトカインに拮抗してこれを抑制し抗アレルギー作用を発揮する。しかし、分極化した(樹立された)Th2細胞からのTh2サイトカインの産生を抑制する作用がないため、進行中のアレルギー性炎症を抑制することはできない。なお、ここで「分極化した」Th2細胞とは、既にTh2細胞に分化し、Th2サイトカインを産生する能力を備えた細胞を意味し、「樹立された」Th2細胞と同義である。
【0017】
したがって、ナイーブCD4T細胞のTh2細胞への分化誘導の抑制及び、樹立されたTh2細胞からのTh2サイトカイン産生の抑制を利用した感染症とアレルギー性疾患に対する有効で副作用のない治療薬が求められている。
【0018】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、Th2細胞により産生されるサイトカインにより惹起されるアレルギー性疾患を予防又は治療するために用いられるTh2型アレルギー性疾患治療薬、又は、Th2サイトカインにより増殖が促進される細胞内寄生性病原体による感染症を予防又は治療するために用いられる感染症治療薬であって、Th2細胞への分化誘導の抑制、及び、樹立されたTh2細胞からのTh2サイトカイン産生の抑制を利用した感染症とアレルギー性疾患に対する有効で副作用のない治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係るTh2型アレルギー性疾患治療薬は、上記課題を解決するために、Th2型アレルギー性疾患を予防又は治療するために用いられ、有効成分としてインターロイキン−27(IL−27)を含有することを特徴としている。
【0020】
上記の構成によれば、IL−27がナイーブCD4T細胞のTh2細胞への分化誘導を抑制し、また、樹立されたTh2細胞からのTh2サイトカイン産生を抑制するので、Th2型アレルギー性疾患を有効に、副作用なく、予防又は治療することができるという効果を奏する。
【0021】
本発明に係るTh2型アレルギー性疾患治療薬では、上記Th2型アレルギー性疾患は、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、又は、アレルギー性結膜炎であることが好ましい。
【0022】
本発明に係るTh2型アレルギー性疾患治療薬は、Th2細胞が樹立された個体を対象とすることが好ましい。
【0023】
IL−27が樹立されたTh2細胞からのTh2サイトカイン産生を抑制するため、進行中のTh2型アレルギー性疾患を抑制することができるというさらなる効果を奏する。
【0024】
本発明に係るTh2型アレルギー性疾患治療薬は、経鼻投与剤、経皮投与剤、又は、点眼投与剤であることが好ましい。
【0025】
本発明に係る感染症治療薬は、上記課題を解決するために、Th2サイトカインにより増殖が促進される細胞内寄生性病原体による感染症を予防又は治療するために用いられ、有効成分としてインターロイキン−27を含有することを特徴としている。
【0026】
上記の構成によれば、IL−27がナイーブCD4T細胞のTh2細胞への分化誘導を抑制し、また、樹立されたTh2細胞からのTh2サイトカイン産生を抑制するので、Th2サイトカインにより増殖が促進される細胞内寄生性病原体による感染症を有効に、副作用なく、予防又は治療することができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るTh2型アレルギー性疾患治療薬は、以上のように、Th2型アレルギー性疾患を予防又は治療するために用いられ、有効成分としてインターロイキン−27を含有するという構成を備えているので、IL−27がナイーブCD4T細胞のTh2細胞への分化誘導を抑制し、また、樹立されたTh2細胞からのTh2サイトカイン産生を抑制するため、Th2型アレルギー性疾患を有効に、副作用なく、予防又は治療することができるという効果を奏する。
【0028】
また、本発明に係る感染症治療薬は、以上のように、Th2サイトカインにより増殖が促進される細胞内寄生性病原体による感染症を予防又は治療するために用いられ、有効成分としてインターロイキン−27を含有するという構成を備えているので、IL−27がナイーブCD4T細胞のTh2細胞への分化誘導を抑制し、また、樹立されたTh2細胞からのTh2サイトカイン産生を抑制するので、Th2サイトカインにより増殖が促進される細胞内寄生性病原体による感染症を有効に、副作用なく、予防又は治療することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の実施の一形態について説明すれば以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
〔Th2型アレルギー性疾患治療薬〕
本発明に係るTh2型アレルギー性疾患治療薬は、Th2型アレルギー性疾患を予防又は治療するために用いられ、有効成分としてインターロイキン−27を含有するものであれば特に限定されるものではない。
【0031】
なお、IL−27Rの1つのサブユニットであるWSX−1/TCCRが欠損した(WSX−1-/-)マウスは、増大するTh2サイトカイン産生による急速な寄生虫の排除を示すこと、及び、抗原による刺激に応答して、IgE及びTh2サイトカイン生産の増大による強い喘息の表現型を示すことが知られている。しかしながら、IL−27Rは、WSX−1/TCCRとgp130とからなるヘテロダイマーであり、片方のサブユニットが欠損するとTh2サイトカインが増大するからといって、IL−27がTh2型アレルギーを抑制するといえるわけではない。
【0032】
本明細書において、「Th2型アレルギー性疾患」とは、アレルゲンによって誘導されたTh2細胞から産生されるTh2サイトカインによって惹起される疾患を意味する。その病態の本質はTh2サイトカインによって誘導されたIgE抗体と、Th2サイトカインによって活性化された好酸球、マスト細胞による炎症性変化である。
【0033】
Th2型アレルギー性疾患は、Th2型応答によって発症するアレルギー性疾患であれば特に限定されるものではないが、例えば、Th2型気管支喘息、Th2型アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎等である。より具体的には例えば、Th2細胞により産生されるIL−4、IL−5、IL−13等のTh2サイトカインにより発症し、気道過敏性(AHR)の亢進、気道における杯細胞からのムチンの過剰産生及び好酸球浸潤を特徴とする気管支喘息、又は、眼瞼結膜への好酸球浸潤と肥満細胞の活性化とを伴ったアレルギー性結膜炎等を挙げることができる。
【0034】
本発明者らは、後述する実施例において記載しているように、in vitro系で、例えば、卵白アルブミン(OVA)特異的ナイーブT細胞を、OVAとIL−4+抗IL−12抗体/抗IFN−γ抗体で刺激して、Th2細胞に分化を誘導する系に、IL−27を添加すると、Th2サイトカインの産生が抑制され、逆にIFN−γの産生が増強されることを実験的に確認した。さらに、樹立したOVA特異的Th2細胞をOVAで刺激することによって誘導されるTh2サイトカイン産生に対しても、IL−27を添加することによって、これを顕著に抑制できることをin vitro系で実験的に確認した。このIL−27のTh2細胞分化抑制と、Th2細胞からのTh2サイトカイン産生抑制との作用機序を解析した結果、IL−27はTh2細胞の誘導と維持に必須の核内転写因子GATA−3の発現を抑制し、Th1細胞の誘導と維持に必須の核内転写因子T−betの発現を増強することを、in vitro系で確認した。このように、IL−27は、驚くべきことに、Th2細胞分化の条件下でさえ、T−betの発現を誘導してIFN−γを産生する。
【0035】
また、in vivo系で、細胞内寄生性病原体でTh2免疫応答を誘導することにより致死性を示す感染症に対し、IL−27の生体内投与は、Th2細胞分化の誘導を阻止し、逆にTh1細胞分化を惹起することで、致死性を示す感染症の発病を抑制し、感染症を治癒させることを明らかにした。さらに、in vivo系で、アレルゲンで感作されたマウスにアレルゲンを点鼻することで発症するアレルギー性の気管支喘息に対しても、アレルゲンと共にIL−27を点鼻すると、分極化したTh2細胞からのTh2サイトカイン産生を抑制する結果、喘息の発症を抑制することを確認した。
【0036】
本発明で用いるIL−27は、実際に投与される対象に対して上記生理活性を発現しうるものであれば特に制限させるものではなく、天然に生産されたものであってもよいし、遺伝子工学的に生産されたものであってもよいし、化学的に合成されたものであってもよい。例えば、Yoshimoto, T.,K.Okada,N.Morishima, S.Kamiya, T.Owaki,M.Asakawa,Y.Iwakura, F. Fukai, and J.Mizuguchi. 2004 J Immunol 173:2479-2485.に記載の方法を用いて好適に製造することができる。
【0037】
本発明にかかるTh2型アレルギー性疾患治療薬は、Th2型アレルギー性疾患の治療、予防、改善のために好適に用いることができる。本発明のTh2型アレルギー性疾患治療薬をTh2型アレルギー性疾患の治療、予防、改善のために用いる場合には、その投与形態は、非経口的に経鼻、静脈内、腹腔内、筋肉内、経皮、局所または皮下に投与するものであっても、経口的に投与するものであってもよい。治療対象となるアレルギー性疾患が、気道過敏性(AHR)の亢進、気道における杯細胞からのムチンの過剰産生及び好酸球浸潤を特徴とする気管支喘息等である場合には、特に経鼻投与がより好適である。かかるTh2型アレルギー性疾患治療薬は、選択される投与方法に応じて、IL−27またはその薬学的に許容しうる有機酸または無機酸との付加塩を、薬学的に許容しうる担体とともに含有しうる。
【0038】
非経口的に投与する場合、上記Th2型アレルギー性疾患治療薬は、例えば、注射剤、直腸投与剤、皮膚外用剤、吸入剤、点眼剤等とすることができる。また、経口的に投与する場合、上記Th2型アレルギー性疾患治療薬は、例えば、粉剤、顆粒剤、錠剤、リポソーム、ゼラチンカプセル等の固形製剤や、シロップ剤等の液状製剤とすることができる。
【0039】
固形製剤は、上記担体として、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、矯味矯臭剤等を用いて、通常用いられる方法で製造することができる。ここで、上記賦形剤、結合剤および崩壊剤としては、通常用いられるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、乳糖、白糖等の糖誘導体;デンプン;デキストリン;結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩;炭酸カルシウム等の炭酸塩等を挙げることができる。また、上記滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩、ワックス、タルク等を挙げることができる。また、安定剤、矯味矯臭剤としても、通常用いられるものであれば特に限定されるものではない。
【0040】
液状製剤は、上記担体として、例えば、水;グリセロール、グリコール、ポリエチレングリコール等の有機溶媒;これらと水との混合物等を用いて通常用いられる方法で製造することができる。また、液状製剤は、さらに、溶解補助剤、緩衝剤、等張化剤、安定剤等を含んでいてもよい。
【0041】
また、Th2型アレルギー性疾患の治療、予防、改善に用いられる場合、本発明のTh2型アレルギー性疾患治療薬の投与量、投与回数は、投与方法、投与対象の年齢および体重、投与対象の状態等によって異なるが、有効成分であるIL−27の量が、例えば、投与対象の体重1kgに対し、1日当り下限として、10μgであることが好ましく、30μgであることがより好ましい。また、1日当り上限として、60μgであることが好ましく、50μgであることがより好ましい。
【0042】
また、本発明に係るTh2型アレルギー性疾患治療薬は、有効成分としてIL−27を含有するものであればよいが、さらにその他の成分を含む薬学的組成物であってもよい。或いは、本発明に用いるIL−27は、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。
【0043】
また、本発明に係るTh2型アレルギー性疾患治療薬は、Th2細胞がすでに樹立された個体に対しても有効である。すなわち、従来は、進行中のTh2型アレルギー性疾患を抑制するサイトカイン治療薬はなかったが、本発明のTh2型アレルギー性疾患治療薬は、上述したように、すでに樹立されたTh2細胞からのサイトカイン産生を抑制することができる。このことは、樹立したOVA特異的Th2細胞をOVAで刺激することによって誘導されるTh2サイトカイン産生に対しても、IL−27を添加することによって、これを顕著に抑制できることをin vitro系及びin vivo系で実験的に確認している。
【0044】
ここで、Th2細胞がすでに樹立された個体とは、抗原による初回刺激により、Th2サイトカインを産生できるTh2細胞を有している個体であればよい。係る個体では、2回目以降の刺激により、Th2細胞からのサイトカイン産生が誘導されるが、この時点で、本発明のTh2型アレルギー性疾患治療薬を投与することにより、サイトカインの産生を抑制し、Th2型アレルギー性疾患を治療又は改善することができる。また、Th2型アレルギー性疾患治療薬の投与時期は、Th2細胞からサイトカインが産生されていればよく、すでにTh2サイトカインが産生されTh2型アレルギー性疾患が進行していても有効である。
【0045】
なお、本発明に係るTh2型アレルギー性疾患治療薬は、Th2細胞の分化をも抑制するので、Th2細胞が樹立される前に投与されても有効であることはいうまでもない。
【0046】
〔感染症治療薬〕
また、本発明にかかる感染症治療薬は、Th2サイトカインにより増殖が促進される細胞内寄生性病原体による感染症を予防又は治療するために用いられ、有効成分としてインターロイキン−27を含有するものであれば特に限定されるものではない。
【0047】
ここで、細胞内寄生性病原体に対する生体防御作用は、Th1免疫応答により産生されたIFN−γによって行われるが、Th2細胞から産生されたサイトカインは、上述したようにマクロファージからの一酸化窒素産生を抑制する結果、細胞内寄生性病原体の増殖を促すことが知られている。
【0048】
例えば、細胞内寄生性病原体リーシュマニアに対して、抵抗性を有さないマウスの種であるBALB/cマウスを例に挙げて説明すると、BALB/cマウスはリーシュマニアに対して抵抗性を持たないためリーシュマニアへの感染は致死性である。これは、リーシュマニアに抵抗性を有するマウスの種では、感染に伴いTh1細胞分化が誘導されてIFN−γが産生されるのに対して、BALB/cマウスでは、Th1細胞分化ではなく、Th2細胞分化が誘導されるためである。
【0049】
本発明にかかる感染症治療薬は、このようにTh2サイトカインにより増殖が促進される細胞内寄生性病原体による感染症を予防又は治療するために用いることができる。
【0050】
上述した例では、本発明者らは、in vivo系で、細胞内寄生性病原体でTh2免疫応答を誘導することにより致死性を示す感染症に対し、IL−27の生体内投与は、Th2細胞分化の誘導を阻止し、逆にTh1細胞分化を惹起することで、致死性を示す感染症の発病を抑制し、感染症を治癒させることを明らかにした。
【0051】
上記細胞内寄生性病原体としては、ライ菌等の細菌;リーシュマニア等の原虫等を挙げることができる。
【0052】
なお、本発明にかかる感染症治療薬の有効成分であるIL−27、投与形態、投与量については、上記〔Th2型アレルギー性疾患治療薬〕の場合と同様であるのでここでは説明を省略する。
【0053】
また、本発明に係る感染症治療薬は、有効成分としてIL−27を含有するものであればよいが、さらにその他の成分を含む薬学的組成物であってもよい。或いは、本発明に用いるIL−27は、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。
【実施例】
【0054】
本発明について、実施例および図1〜5に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0055】
まず、本実施例において用いた、使用マウス、試薬等、各操作法について説明する。
【0056】
<使用マウス>
Jackson Laboratoryから特定病原体未感染(SPF:Specific pathogen-free)雌BALB/cマウス及びC57BL/6マウス(8週齢)を購入した。Dr. D. Loh (Washington University, St. Louis, MO)から、OVA323−339(OVAの323−339番目のアミノ酸からなるポリペプチド)を認識するαβTCRのトランスジェニック(Tg)マウス(DO11.10;遺伝的背景BALB/c)を入手した。IL−27Tgマウスは以下のようにして作製した。p3xFLAG−CMV−9(Sigma Chemical Co.)中の、EBI3が(GlySer)リンカーでp28に柔軟に連結され、3xフラグタグされた一本鎖マウスIL−27のcDNAを、標準的なPCRにより増幅して、肝臓特異的ヒト血清アミロイドP成分(SAP)プロモーター及びウサギのβグロブリン遺伝子を含むpLG1−SAPベクターに挿入した。IL−27Tgマウスラインは、C57BL/6マウスから得られた受精卵への上記cDNAの前核のマイクロインジェクションによって作製した(Takayuki Yoshimoto, manuscript in preparation)。全てのマウスは兵庫医科大学(西宮、日本)の動物施設においてSPF条件下で飼育し、6〜12週齢のものを使用した。
【0057】
<試薬等>
組換えマウスIL−12及びIL−18は、それぞれ、Genetic Institute Inc.(Cambridge MA)及びMBL(名古屋、日本)から購入した。組換えマウスIL−27は、Yoshimoto, T.,K.Okada,N.Morishima, S.Kamiya, T.Owaki,M.Asakawa,Y.Iwakura, F. Fukai, and J.Mizuguchi. 2004 J Immunol 173:2479-2485.に記載の方法に従い、EBI3が(GlySer)リンカーでp28に柔軟に連結され、3xフラグタグされた一本鎖タンパク質として調製し精製した。Limulus amebocyte lysate method(和光純薬、東京、日本)を用いて決定したエンドトキシンレベルは1μgのrIL−27につき8pgより低かった。組換えマウスIL−4は、Yoshimoto, T.,K.Takeda, T.Tanaka,K.Ohkusu, S.Kashiwamura,H.Okamura, S.Akira, andK.Nakanishi. 1998. J Immunol 161:3400-3407.に記載の方法で作製された組換えバキュロウイルス(AcMNPV.IL−4)から得て精製した。精製された抗体〔抗マウスCD28抗体(37.51)、抗マウスCD3抗体(2C11)、抗マウスIL−4抗体(11B11)、抗マウスIL−12p40抗体(C17.8)及び抗マウスIFN−γ抗体(R4−6A2)〕を製造した。PE抗マウスCD4抗体(GK1.5)、FITC抗マウスCD62L抗体(MEL−14)、FITC抗マウスCD11C抗体、PE−ラット抗マウスIA/I−E抗体(M5/114.15.2)、Cy−Chrom−抗CD4抗体及びビオチンラット抗マウスIgE抗体(R35118)はBD Bioscience(San Diego, CA)から購入した。ラット抗マウスIgE抗体(23G3)はSouthern Biotechnology Associates Inc.(Birmingham, AL)から購入した。抗GATA−3マウスモノクローナル抗体(HG3−31)、抗T−betマウスモノクローナル抗体(39D)及び抗アクチンマウスモノクローナル抗体(H−196)はSanta Cruz Biotechnology Inc.(Santa Cruz, CA)から購入した。
【0058】
<Th1細胞及びTh2細胞の製造>
24ウェルプレートのウェルに、10%FBS、50μM 2−ME、2mM L−グルタミン、100U/ml ペニシリン及び100μg/ml ストレプトマイシンを添加した全量で1mlのRPMI1640を充填し、7日間、DO11.10Tgマウスからのナイーブ脾臓CD4CD62LT細胞(1×10/ml)を、2×10/mlの抗原提示細胞(APC;Ohteki, T.,K. Suzue,C.Maki,T.Ota, and S.Koyasu. 2001. Nat Immunol2:1138-1143.に記載の方法で製造された照射・精製された脾樹状細胞)の存在下、IL−12(100pM)及びOVA323−339(1μM)で刺激した。Th1細胞の誘導ために、IL−12(10ng/ml)及び抗IL−4抗体(10μg/ml)を培地にさらに添加した。Th2細胞の誘導のためには、IL−4(1000U/ml)及び抗IL−12p40抗体(20μg/ml)+抗IFN−γ抗体(20μg/ml)を培地に添加した。合計量20μg/mlのIL−18及びIL−27の種々の組合せがTh2細胞の初代培養に用いられた。
【0059】
<in vitro培養>
樹立したTh2細胞を、再び、100pM IL−2、1μM OVA323−339、及び1×10/0.2mlAPC(照射されたT細胞が枯渇したBALB/cマウス脾細胞)とともに、1×10/0.2ml/ウェルでIL−27の存在下(0−100μg/ml)培養した。L.major感染マウス又はブェネズエラ糞線虫L3感染マウスからの、それぞれ、膝窩又は腸間膜のリンパ節細胞からのサイトカインの発生と測定のために、固相化された抗マウスCD3抗体及び抗マウスCD28抗体(それぞれ5μg/ml)とともに、2×10/0.2ml/ウェルで培養した。48時間培養した後、上清を収集し、ELIZAにより、IFN−γ成分、IL−4成分、IL−5成分、及びIL−13成分について調べた。
【0060】
<フローサイトメトリー>
CD4CD62LT休止細胞の製造のために、DO11.10Tgマウスからの脾臓CD4T細胞をMicroBeads(抗マウスCD4抗体;クローンRM4−5、Miltenyi Biotec、Bergisch-Gladbach、Germany)によって精製した。濃縮されたCD4T細胞は、染色バッファ中(PBS、1%FCS)で、最初に、10μg/mlの抗FcγRII/III抗体で30min、4℃で処理し、続いてPE抗マウスCD4抗体及びFITC抗マウスCD62L抗体で、30min、4℃で処理した。染色したサンプルは、FACS Aria(Becton Dickinson)で、CD4CD62LT細胞に分離された。再分析の後、分離された細胞の純度は>98.5%であった。細胞内のサイトカインの染色のために、分極化したTh2細胞(1×10/ml)を、50ng/mlPMA+0.5μMイオノマイシンで、4h、最後の2時間は、サイトカインの分泌を阻害するために、1μg/mlのBrefeldinA(BD Biosciences)のパルスで再度刺激した。細胞はCy−Chrom−抗CD4抗体で染色し、続いてパラホルムアルデヒドの4%(wt/vol)PBS溶液で固定し、細胞膜を氷のように冷たい1%FCS+0.1%サポニン含有PBSで透過性にした。得られた細胞はさらに、0.5μgPEラット抗マウスIL−4抗体+0.5μgFITCラット抗マウスIFN−γ抗体又はアイソタイプ対応コントロールAbs(BD Bioscience)で染色し、FACSCCalibur(Becton Dickinson)によって、細胞質のIL−4又はIFN−γの比率について分析した。
【0061】
<L.majorの感染>
L.major(WHO株MHOM/SU/73−5−ASKH)は、Ohkusu,K., T.Yoshimoto,K.Takeda, T.Ogura, S.Kashiwamura,Y. Iwakura, S.Akira,H.Okamura, andK.Nakanishi. 2000. Infect Immun 68:2449-2456.に記載の方法で、in vivoで維持し、in vitroで成長させた。感染は、マウスの後ろ足の足蹠に、5×10の静止期のプロマスチゴートの皮下注射による接種によって行った。足蹠の病変を週1回ダイアルゲージキャリパーで測定し、感染していない足蹠の厚みと比較した。感染部位の所属リンパ節である膝窩リンパ節の寄生虫量はOhkusu,K., T.Yoshimoto,K.Takeda, T.Ogura, S.Kashiwamura,Y. Iwakura, S.Akira,H.Okamura, andK.Nakanishi. 2000. Infect Immun 68:2449-2456.に記載の方法により、決定した。
【0062】
<ブェネズエラ糞線虫の感染>
ブェネズエラ糞線虫は、Sasaki,Y., T.Yoshimoto,H.Maruyama, T. Tegoshi,N.Ohta,N.Arizono, andK. Nakanishi. 2005. J ExpMed 202:607-616.に記載の方法により維持した。動物には、完全な感染を起こすために、5000隻のブェネズエラ糞線虫L3を皮下接種した。マウス個体毎の感染の程度は、日1回、排泄される卵の数(g糞毎の卵)を数えることによりモニターした。
【0063】
<OVA−特異的な気管支喘息の発生と分析>
雌BALB/cマウスに、硫酸アルミニウムカリウム(alum)との複合体とした50μgOVAを第1日目に腹腔内に免疫し、第7、8及び9日目に50μlPBSと混合したOVA50μgを経鼻投与した。対照群のマウスは、OVAで免疫されPBSのみに暴露した。マウスは、以下に示すように、最後のPBS又はOVAへの暴露の24時間後に分析を行った。β−メタコリン(Mch)吸入に対するマウスにおけるAHRの測定は、Pulmos−I(MIPS、大阪、日本)のハードウエア及びソフトウエアを用い、Sugimoto,T.,Y. Ishikawa,T.Yoshimoto,N.Hayashi, J. Fujimoto, andK.Nakanishi.2004. J ExpMed 199:535-545.、Ishikawa,Y., T.Yoshimoto, andK.Nakanishi. 2006. Int Immunol 18:847-855.に記載の方法で行った。気管支肺胞の洗浄(BAL)は、1匹のマウス当たり、1.0ml PBSを用いて3回行い、回収した洗浄液中の合計細胞数を計測した。BAL液(BALF)を遠心後Diff−Quik(Baxter Healthcare Corp., Miami, FL)で染色し、形態学及び染色特性に基づいて区別した。組織学的分析のために、肺は右室を10mlPBSに染み込ませることにより準備し、続いて10%の緩衝化したホルマリン中で固定し、3μm切片を作成し、分解されやすくした過ヨウ素酸シッフ(PAS染色)により染色した。IL−13産生の検出のために、肺は、Ishikawa,Y., T.Yoshimoto, andK.Nakanishi. 2006. Int Immunol 18:847-855.に記載されているように、最後のPBS又はOVAへの暴露の24時間後に取り出しホモジナイズ、遠心を行った。得られた上清は、ELIZAによりIL−13含有量について測定した。
【0064】
<in vivo処置>
L.major実験のために、マウスに1日1回PBSバッファ、IL−27(1μg/day)又はIL−12(10ng/day)及びIL−18(1μg/day)の組み合わせを7日間、腹腔内注射した。気道炎症の実験のために、7、8及び9日目に、OVAで免疫されたマウスに、50μlPBS中の50μgOVAを単独で又はIL−27(0.2、1.5μg)とともに経鼻投与した。
【0065】
<ELIZAアッセイ>
IL−4、IL−5、IL−13及びIFN−γのためのELIZAキット(R&D Systems Inc., Minneapolis, MN)を用いた。血清中のmMCP−1レベルは、Moedum Scientific, Ltd.(Edinburgh, UK)から購入したmMCP−1ELIZAキットを用いて測定した。血清中のIgEレベルは、Yoshimoto, T.,H.Mizutani,H. Tsutsui,N.Noben-Trauth,K.Yamanaka,M. Tanaka, S.Izumi,H.Okamura,W.E. Paul, andK.Nakanishi. 2000.Nat Immunol 1:132-137.に記載のELIZAアッセイにより測定した。
【0066】
ウエスタンブロッティング
GATA−3及びT−betのタンパク質レベルは、ウエスタンブロットを用いて行った。GATA−3発現を検出するために、細胞をPBSで1度洗浄し、バッファA(10mM HEPES[pH7.8]、10mM KCL、0.1mM EDTA、1mM DTT、2μg/mlアプロチニン、0.5mM PMSF及び0.5%NP40)中に再懸濁した。細胞核を沈殿させ(pelleted)、細胞質のタンパク質を注意深く取り出した。細胞核は、Adachi,O., T.Kawai,K. Takeda,M.Matsumoto,H. Tsutsui,M. Sakagami,K.Nakanishi, and S.Akira. 1998 Immunity 9:143-150.に記載のとおり、その後バッファC(50mM HEPES[pH7.8]、420mM KCL、0.1mM EDTA、5mM MgCl、10%グリセロール、1mM DTT、2μg/mlアプロチニン、及び、0.5mM PMSF)に再懸濁した。30分、4℃で、ボルテックス及び攪拌後サンプルは遠心を行い、上清中のタンパク質は新しいバイアル瓶に移した。核抽出物を、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、PVDFメンブレンに移した。ブロットは、GATA−3に対するマウスモノクローナル抗体(hG1−31、希釈1:200)を用いて調べた。ホースラディシュ・ペルオキシダーゼと複合化したヤギ抗マウスIgG抗体(希釈1:2000;Chemicon )を、視覚化のために用いた。T−bet及びアクチンの発現を検出するために、全細胞の溶解物をOwaki, T.,M.Asakawa,N.Morishima,K.Hata, F. Fukai,M.Matsui, J.Mizuguchi, and T.Yoshimoto. 2005. J Immunol 175:2191-2200.に記載の方法により、ウエスタンブロット分析に供した。
【0067】
<統計値>
実験群間の統計に基づく比較は、一組の学生のtテストによった。全ての分析は、GraphPad Instat Software(San Diego, CA, USA)により行った。P値<0.05は、顕著に相違すると考えた。
【0068】
〔実施例1:IL−27によるTh2細胞分化の阻害〕
IL−27がTh2細胞の分極化を阻害するかを調べ、また、IL−27がIL−18の作用を強める能力を調べた。まず、DO11.10マウスからのナイーブCD4T細胞を、OVAペプチド、IL−4及び抗IL−12+抗IFN−γで1週間刺激することによってTh2細胞の分極化を誘導した。
【0069】
具体的には、DO11.10Tgマウスからのナイーブ脾臓CD4CD62LT細胞(1×10/ml)を、100pM IL−2、1μM OVA323−339、及び、2×10/mlの照射されたBALB/cマウスの脾臓樹状細胞とともに、以下に示すTh2条件又はTh1条件の下、共存させるIL−18とIL−27との組合せ(合計量:20μg/ml)(図1A、B)又はIL−27の濃度(0−100ng/ml)(図1C、D)を変化させて、全量1mlのウェル中で7日間培養を行った。なお、培養には24ウェルのウェルプレートを用いた。
<Th2条件>:IL−4(1000U/ml)+抗IL−12p40抗体(各々20μg/ml)+抗IFN−γ抗体(各々20μg/ml)
<Th1条件>:IL−12(10ng/ml)+抗IL−4抗体(10μg/ml)
上記初回刺激の後、細胞を洗浄し、100pM IL−2、1μM OVA323−339、及び、照射されたT細胞−洗浄したBALB/cマウスの脾臓樹状細胞を、サイトカインの分泌を誘導するために、48時間、いろいろな濃度のIL−27(0−100ng/ml)の存在下で再び培養した(図1A、C)。または、PMA(50ng/ml)+イオノマイシン(500ng/ml)の存在下4時間再培養し、細胞質内のIL−4及びIFN−γについて、FACS分析を行った(図1D)。上清は収集し、ELIZAにより、IL−4、IL−5、IL−13及びIFN−γの含有量を調べた(図1A、C)。図1D中の数字は、CD4T細胞に対するIL−4産生細胞の割合又はCD4T細胞に対するIFN−γ産生細胞の割合を示す。上記初回刺激の5日後に、細胞核又は全細胞の溶解物を調製し、それぞれ、抗GATA−3抗体又は抗T−bet抗体を用いてウエスタンブロット分析を行った(図1B)。結果は独立して行った3回の実験結果の幾何平均+s.e.mで示す。
【0070】
図1、A及びCに示すように得られたTh2細胞は、OVAにより刺激されて多量のIL−4及びIL−13を生産するがIFN−γは生産しなかった。また、図1、A及びBより、L−27の添加は、GATA−3のダウンレギュレーションにより、Th2細胞の分化を著しく阻害することが示された。これに対して、図1、A及びBに示すように、IL−18がIL−12と共にTh2細胞の分化を強く阻害するとはいえ、IL−18のみではTh2細胞の分化を阻害しないことが判る。また、IL−12ファミリーの他のメンバーIL−23はTh2細胞の分化を阻害するそのような効果を有しないことが確認された(データは示さず)。図1Bに示されるように、Th2細胞を分化する条件下で培養されたT細胞は、追加的にIL−27で刺激されると、GATA−3のダウンレギュレーションの他にも、同時にT−betを発現した。興味深いことには、図1、B及びCに示すように、IL−27は用量依存的にTh2細胞の分化を阻害し、逆にTh1細胞の分化を誘導した。また、IL−27のTh2細胞の分極化への効果をFACS分析により調べた結果、Th2細胞を分化する条件下で培養されたCD4T細胞の57%及び0.56%が、それぞれ、細胞質内のIL−4産生細胞及びIFN−γ産生細胞の割合あることを見出した。IL−27の添加は、用量依存的に細胞質内のIL−4産生細胞の割合を(17.5%まで)減少させ、細胞質内のIFN−γ産生細胞の割合を(6.73%まで)増加させた(図1、D)。
【0071】
〔実施例2:IL−27による樹立されたTh2細胞からのサイトカイン産生抑制〕
次にIL−27の、Th2分極化細胞の抗原提示細胞誘発時のTh2サイトカイン産生能力に対する阻害効果を調べた。
【0072】
具体的には、Th2条件下での上記〔実施例1〕記載の初回刺激の後、細胞を洗浄し、100pM IL−2、1μM OVA323−339、及び、照射されたT細胞を除去したBALB/cマウスの脾臓樹状細胞を、サイトカインの分泌(図2A)、並びに、GATA−3及びT−betの発現(図2B)を誘導するために、48時間、いろいろな濃度のIL−27(0−100ng/ml)の存在下で再び培養した。結果は独立して行った3回の実験結果の幾何平均+s.e.mで示す。
【0073】
図2Aに示すように、IL−27は、IL−4に対する効果は顕著でないのに対し用量依存的に、IL−5及びIL−13の産生を阻害した。また、これと一致して、図2Bに示すように、IL−27は用量依存的にGATA−3の発現を減少させ、逆にTh2細胞におけるT−betの発現を誘導した。このように、IL−27は、Th2細胞の分化の阻害、及び、GATA−3発現のダウンレギュレーションとT−bet発現のアップレギュレーションとによるTh2サイトカインの産生の阻害により、Th2応答に直接の阻害効果を示すことが判る。
【0074】
〔実施例3:IL−27によるBALB/cマウスのレーシュマニア症からの防御〕
図3Aに示すように、C57BL/6マウスがL.majorに高度に抵抗性を示すのに対し、L.majorに感染したBALB/cマウスは、足蹠腫脹により判断される進行性の病気にかかる。マウスの近交系の感染に対する抵抗性及び感受性は、本質的にそれぞれIFN−γ及びIL−4を産生する能力と関連している。実際に、C57BL/6マウスがL.major感染に応答して主にTh1応答を促進するのに対して、BALB/cマウスはTh2応答を促進する。すでに知られているように、L.majorに感染しているC57BL/6マウスはIFN−γを強く産生しIL−4を殆ど産生しないのに対し、L.majorに感染しているBALB/cマウスからの膝窩リンパ節細胞は、IL−4を強く産生し、IFN−γは殆ど産生しない(図3B)。本発明者らが以前報告したように、IL−12(10ng/day)及びIL−18(1μg/day)の混合物の感染最初の1週間の投与は、Th1細胞の誘導により(図3B)、BALB/cマウスを、足蹠腫脹から保護し、寄生虫の量を減少させた(図3C)。これに対して、IL−18単独の投与は、かかる保護効果を示さなかった(データは示さず)。
【0075】
in vivoでのTh2細胞の生成に対するIL−27の阻害効果を調べるために、本発明者らは、IL−27をL.majorを感染させた直後のBALB/cマウスに投与した。
【0076】
具体的には、実験1日目に、マウスに、静止期のプロマスチゴートを皮下接種した。BALB/cマウス(各群5匹)は、1日1回、(1)PBS、(2)IL−12(10ng/day)+IL−18(1μg/day)又は(3)IL−27(1μg/day)をプロマスチゴートの皮下接種後の7日間、腹腔内に注射した。週1回足蹠の測定を行い、足蹠の腫れを測定した。図3Aに、足蹠の腫れの平均値+s.e.m.を示す。図3A中、P<0.05、P<0.01は、PBSで処理された感染マウスの対応する値に対するものである。
【0077】
感染7週後に、各群(各群につき5匹)のマウスからの膝窩リンパ節を取り出した。細胞懸濁液を固相化された抗マウスCD3抗体及び抗マウスCD28抗体(それぞれ5μg/ml)とともに、2×10/0.2ml/ウェルで培養した。48時間培養した後、上清を収集し、ELIZAにより、IFN−γ成分及びIL−4成分について調べた。
【0078】
また、感染7週後に、所属リンパ節細胞1×10個中の寄生虫の量を決定した。サンプル間の統計的な差は、学生のtテストによった。結果は3回独立して行った実験結果から得た。
【0079】
図3Aに示すように、感染最初の一週間におけるIL−27の投与(1μg/day)は、部分的にではあるが顕著にマウスを足蹠腫脹から防御し、図3Cに示すように寄生虫の量をかなり減少させた。本発明者らは、同時に、in vitroで、抗CD3+抗CD28の刺激に対する膝窩リンパ節細胞のIL−4及びIFN−γを産生する能力を測定した。図3Bに示すように、L.majorに感染し、IL−27を投与されたBALB/cマウスのリンパ節細胞は、IL−4の産生が減少し、IFN−γの産生が増加した。L.majorに感染したBALB/cマウス及びC57BL/6マウスは、大変異なる感染の過程を示すとしても、両者とも感染初期の間は類似する量のIL−12を産生することが報告されていた。このように、L.majorに感染させたBALB/cマウスへのIL−27の投与は、Th2応答の阻害及びTh1応答の促進により、BALB/cマウスを進行性のレーシュマニア症から防御する。IL−27により刺激されたT細胞は、in vivoにおいて、IL−12Rβ2を発現するようになり、内在性のIL−12による刺激のもとでTh1細胞に分化するのではないかと考えられる。
【0080】
〔実施例4:IL−27遺伝子導入マウスにおけるブェネズエラ糞線虫誘導Th2応答の阻害〕
腸管寄生線虫ブェネズエラ糞線虫の第3期の幼虫(L3)に感染したマウスは、血清中のIgEレベル及び第1次のTh2応答により小腸粘膜マスト細胞(MMCs)数が上昇する。感染したマウスは、2週間以内に寄生虫の排除を完了する。寄生虫の排除は小腸粘膜マスト細胞のレベルと密接に関連している。それゆえ、内在性のIL−27が、Th2応答のダウンレギュレーション及びTh1応答のアップレギュレーションにより寄生虫の感染を維持するかどうかを実験により調べた。
【0081】
IL−27を肝臓で過剰発現するTgマウスは、血清中のIL−27レベルを顕著に上昇させた(6〜8週齢で、0.821±0.627ng/ml;n=8)。野生のC57BL/6マウス及び遺伝的背景C57BL/6のIL−27Tgマウスに5000隻のブェネズエラ糞線虫L3を接種し、毎日糞中の卵数(卵/g糞)を数えた。
【0082】
各群(各群につき5匹)のマウスからの腸間膜リンパ節を感染11日後に取り出した。細胞懸濁液を固相化された抗マウスCD3抗体及び抗マウスCD28抗体(それぞれ5μg/ml)とともに、2×10/0.2ml/ウェルで培養した。48時間培養した後、上清を収集し、ELIZAにより、IFN−γ成分及びIL−4成分について調べた。結果は、3回独立して行った実験から得た結果の各群5匹の幾何平均+s.e.m.である。
【0083】
図4Aに、ブェネズエラ糞線虫L3を接種した、C57BL/6野生型(WT)及びIL−27Tgマウス(IL−27Tg)(各群5匹)のg糞毎の卵数の経時的変化を、図4Bに血清mMCP−1レベルを、図4Cに血清IgEレベルを示す。図4Dに、リンパ節細胞で産生されたIFN−γ及びIL−4のレベルを示す。なお、図4中ndは検出限界以下を示す。
【0084】
図4Aに示すように、ブェネズエラ糞線虫を接種された野生型のマウスは、11日目までに寄生虫の排除を完了した。これに対し、IL−27Tgマウスは、寄生虫卵の産生の顕著な延長を示し、IL−27がTh2応答を阻害することを示している。実際に、野生型のマウスでは、血清中のマウスマスト細胞プロテアーゼ1(mMCP−1)のレベルが上昇し、このことは、小腸MMCsの活性化及びIgEレベルと非常によい相関関係にある。これに対して、IL−27Tgマウスは、図4、B及びCに示すように、かかる応答を示すことができなかった。ブェネズエラ糞線虫を接種した野生型マウスからのリンパ節細胞は、抗CD3+抗CD28に応答して、大量のIL−4及び少量のIFN−γを産生した(図4D)。これに対して、ブェネズエラ糞線虫を接種したIL−27Tgマウスからのリンパ節細胞は、IL−4を産生することができず(図4D)、さらに、腸管寄生線虫を駆除する能力が乏しいことを実証した。興味深いことに、感染していないIL−27Tgマウスからのリンパ節細胞は、未処理の野生型マウスからのリンパ節細胞より多量のIFN−γを産生した(図4D)。このことは、IL−27の過剰の生産はIL−12Rβ2のアップレギュレーションによりTh1の分化を増強することを示している。それゆえ、IL−27Tgマウスは、Th1細胞の分化を増強し、Th2細胞の分化を弱めることは明らかである。
【0085】
〔実施例5:IL−27の経鼻投与によるアレルギー性気道炎症に対する防御〕
IL−27がTh2細胞のIL−5及びIL−13の産生を阻害する著しい能力を有する(図2A)ため、IL−27のTh2型アレルギー性疾患に対する治療的可能性を調べた。このために、実験的アレルギー性喘息モデルを確立した。
【0086】
具体的には、BALB/cマウス(各群につき5匹)に、硫酸アルミニウムカリウム(alum)との複合体とした50μgOVAを第1日目に腹腔内に免疫した。7、8及び9日目に、OVAで免疫されたマウスに、50μlPBS中の50μgOVAを単独で又はIL−27(0.2、1、5μg)とともに経鼻投与した。対照群はOVAで免疫し、PBCのみに暴露した。抗原に対する最終的な暴露から24時間後にアレルギー性気管支喘息の表現型を評価した。
【0087】
図5Aに吸入されたβメタコリン濃度の上昇に対するAHRを全身の容積脈波として測定した結果を示す。図5A中、縦軸(「change of sRAW」)はβメタコリン濃度0の時の気道抵抗に対する気道抵抗の変化の割合を示す。図5Bに各群のマウスからのBALFの炎症細胞の割合を示す。図5B中、横軸は、左から順に、「マクロファージ」、「リンパ球」、「好中球」、「好酸球」を示す。図5B中細胞のパーセンテージは光学顕微鏡評価により決定された。データは絶対的な細胞数で表される。また、組織学的分析のために、肺は右室を10mlPBSに染み込ませることにより準備し、続いて10%の緩衝化したホルマリン中で固定し、3μm切片を作成し、分解されやすくした過ヨウ素酸シッフ(PAS染色)により染色した。図5Cに組織学的分析の結果を示す。倍率は×100である。
【0088】
次に肺はホモジナイズ、遠心を行った。得られた上清は、ELIZAによりIL−13含有量について測定した。図5Dにその結果を示す。図5D中、「ip」は腹腔内、「in」は経鼻を示す。結果は3回独立して行った実験から得た値を用い、各群5匹の幾何平均+s.e.m.で表す。P<0.05はOVAに感作されたマウス又はOVAを投与されたマウスの対応する値に対するものである。
【0089】
図5Aに示すように、1週間前にOVAで免疫され、3日間OVAを経鼻投与したBALB/cマウスは、βメタコリン(Mch)への暴露に対してAHRの亢進を発症した。また、図5Bに示すように、肺の好酸球及び好中球の数を上昇させ、図5Cに示すように気道における粘膜の過剰生産を伴う杯(さかずき)細胞異形成を示した。最初の7日間にわたる1日1回のIL−27の腹腔内注射(1μg/day)とその後のOVAによる免疫は、Mchに対するAHRの亢進を適度に減少させた(データは示さず)。しかし、OVA刺激時のIL−27の経鼻投与は、用量依存的にAHRの亢進(図5A)、気道の好酸球性炎症(図5B)及び杯(さかずき)細胞異形成(図5C)を減らした。Th2関連サイトカインの中で、IL−13がAHRの亢進、気道の好酸球増加及び粘膜分泌過多の誘導に重要な役割を果たしていると考えられている。また、図5Dに示すように、IL−27の経鼻投与量と、肺のIL−13レベルとの関係から、IL−27の経鼻投与が、用量依存的に肺のIL−13レベルを低減することが確認された。これらの結果は、OVAで免疫された動物へのIL−27の経鼻投与は、OVAで刺激されたTh2分極化細胞からのIL−13産生を阻害しアレルギー性喘息の治療のための、治療方法を提供する。
【0090】
以上のように、本発明者らは、IL−27組換え体のin vivoでTh2細胞への分化誘導を阻害する能力を調べ、IL−27が、抗IFN−γ抗体の存在下においてさえTh2細胞の分化を阻害することを明らかにした(図1)。さらに、IL−27の添加は、IL−12及びIFN−γの存在下においてさえも、GATA−3の発現を顕著に阻害し、Th2細胞におけるT−betの発現を誘導する(図1)。このように、IL−27は、直接Th2細胞の分化を阻害し、逆にIFN−γを産生するTh1への分化を誘導する。これと一致して、IL−27を用いたL.major感染第1週目のin vivoでの治療は、BALB/cマウスを足蹠腫脹から強力に保護し、Th2細胞の阻害により寄生虫の感染を減少させる(図3)。さらに、IL−27Tgマウスの高度に増加したIL−27は、ブェネズエラ糞線虫の感染に対してTh2応答を行うことができない(図4)。このようにIL−27は単独では、in vivo及びin vitroでTh2細胞の分化を直接阻害する。IL−27がTh2細胞の分化を阻害する分子的なメカニズムは、GATA−3のダウンレギュレーション及びT−betのアップレギュレーションにより説明することができる。いくぶん異なりin vivoでのIL−27による動物の治療はCD4T細胞にIL−12Rβ2を誘導するかもしれない。このように、IL−27で刺激されたCD4T細胞は、内在性IL−12の刺激の下、Th1細胞に分化することができる。それゆえ、IL−27はTh2細胞の分化及びTh2サイトカインの産生をin vitro及びin vivoで直接阻害する。さらに、IL−27は、内在性のIL−12の存在下で、少なくともIL−27遺伝子導入マウスにおいては、IL−12Rβ2の誘導によりTh1細胞の分化を誘導することが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、IL−27を用いることで、Th2細胞の分化誘導を阻害するとともに、すでに誘導されたTh2細胞からのTh2サイトカイン産生を抑制することにより、Th2型アレルギー性疾患の発症を制御することができる有効な治療薬を提供するものである。
【0092】
従来、進行中のTh2型アレルギー性疾患を抑制するサイトカイン治療薬は存在しなかったが、本発明にかかる治療薬は、すでに確立した進行中のTh2型アレルギー性疾患に対しても有効である。また、有効成分であるIL−27及びその誘導体は、副作用のない治療薬である。さらに、IL−27は、Th2応答を抑制し、Th1応答を惹起することで、細胞内寄生性病原体に対して治療的効果を発揮するとともに、IL−27を応用したワクチンはこれらの感染症の発病を予防することが期待される。
【0093】
それゆえ、本発明にかかるTh2型アレルギー性疾患治療薬及び感染症治療薬は、製薬産業およびその関連産業において利用することができ、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】実施例1の結果を示す図であり、図1Aは、OVA特異的TCRを発現するDO11.10TgマウスのナイーブCD4T細胞を、OVAと共にTh2条件下で、IL−18とIL−27との組合せで共存させて1週間刺激後、再びOVAで刺激したときに産生されるIL−4及びIL−13の量を示すグラフであり、図1Bは、初回刺激及び細胞洗浄後に、抗GATA−3抗体又は抗T−bet抗体を用いてウエスタンブロット分析を行った結果を示す図であり、図1Cは、DO11.10TgマウスのナイーブCD4T細胞を、Th2条件下で添加するIL−27の濃度(0−100ng/ml)を変化させて初回刺激の後再び培養したときに産生されたIL−4、IL−5、IL−13及びIFN−γの量を示すグラフであり、図1Dは、IL−27のTh2細胞の分極化への効果をFACS分析により調べた結果を示す図である。
【図2】実施例2の結果を示す図であり、図2Aは、DO11.10TgマウスのナイーブCD4T細胞をTh2条件下で誘導し、樹立したTh2細胞を再び抗原刺激する時に、種々の濃度のIL−27を添加して産生されたIL−4、IL−5及びIL−13の量を示すグラフであり、図2Bは、樹立したTh2細胞を再び抗原と種々の濃度のIL−27で刺激するときに発現したGATA−3及びT−betのウエスタンブロット分析を行った結果を示す図である。
【図3】実施例3の結果を示す図であり、図3Aは、C57BL/6マウス及びBALB/cマウスに、L.major感染と同時に(1)PBS、(2)IL−12+IL−18、(3)IL−27を投与した後の足蹠の腫れの経時変化を示す図であり、図3Bは、図3Aのマウス群の感染後7週間目の膝窩リンパ節細胞を刺激培養したときに産生されたIL−4及びIFN−γの量を示すグラフであり、図3Cは、図3Aのマウス群の感染後7週間目の膝窩リンパ節細胞中の寄生虫量を示すグラフである。
【図4】実施例4の結果を示す図であり、図4Aは、ブェネズエラ糞線虫L3を接種した、C57BL/6野生型(WT)及びIL−27Tgマウス(IL−27Tg)のg糞毎の虫卵数の経時的変化を示すグラフであり、図4Bは血清mMCP−1レベルを示すグラフであり、図4Cは血清IgEレベルを示すグラフであり、図4Dは、リンパ節細胞で産生されたIFN−γ及びIL−4のレベルを示すグラフである。
【図5】実施例4の結果を示す図であり、図5AはOVAで免疫されたBALB/cマウスに、OVAを単独で又はIL−27とともに経鼻投与したときの、吸入されたβメタコリン濃度の上昇に対するAHRを全身の容積脈波として測定した結果を示すグラフであり、図5Bは、各群のマウスからのBALFの炎症細胞の割合を示すグラフであり、図5Cは肺の組織学的分析の結果を示す図であり、図5DはIL−27の経鼻投与量と、肺のIL−13レベルとの関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Th2型アレルギー性疾患を予防又は治療するために用いられ、有効成分としてインターロイキン−27を含有することを特徴とするTh2型アレルギー性疾患治療薬。
【請求項2】
上記Th2型アレルギー性疾患は、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、又は、アレルギー性結膜炎であることを特徴とする請求項1に記載のTh2型アレルギー性疾患治療薬。
【請求項3】
上記Th2型アレルギー性疾患治療薬は、Th2細胞が樹立された個体を対象とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のTh2型アレルギー性疾患治療薬。
【請求項4】
経鼻投与剤、経皮投与剤、又は、点眼投与剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のTh2型アレルギー性疾患治療薬。
【請求項5】
Th2サイトカインにより増殖が促進される細胞内寄生性病原体による感染症を予防又は治療するために用いられ、有効成分としてインターロイキン−27を含有することを特徴とする感染症治療薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−120724(P2008−120724A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305852(P2006−305852)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】