説明

UOE管のOプレス用金型およびUOE管の製造方法

【課題】UOE管の製造可能径がOプレス用金型のサイズ毎に段階的に決められているUOE管の製造ラインにおいて、中間外径のUOE管の製造に当たり、製造コストを低減することができ、しかも作業性を悪化させずに、かつ従来どおりの拡管条件でUOE管の製造可能径の範囲を拡大することができるOプレス用金型およびそれを用いたUOE管の製造方法を提供する。
【解決手段】上、下に配置される上、下ダイ2A,2Bからなり、上、下ダイ間のギャップGoを所定値とした時に上、下ダイの内面が横長円形となるように、上、下ダイの内面が横長円形の上半分、下半分を一部だけ切り欠いた形状としてあり、かつ上、下ダイを密着させた場合、上、下ダイの内面が段差なく接続されるように構成されているUOE管のOプレス用金型とし、また、それを用いてUOE管を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造可能径がOプレス用金型のサイズにより段階的に決められているUOE管の製造ラインにおいて、ある単一の金型を用いた場合の製造可能径の範囲を拡大できるUOE管のOプレス用金型およびそれを用いるUOE管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
UOE管の代表例として、UOE鋼管の製造工程フローを図8に示す。所定長さに板材を切断(100 )したのち、製品外径に応じた所定幅となるように幅端部切削(110 )を行い、次いで端曲げプレス(120 )、Uプレス(130 )工程で曲げ加工を行ってから、Oプレス(140 )工程でO管を成形する。次いで、O管の対向端面を仮付溶接(150 )し、内外面溶接(160 )して接合し、その後、エキスパンダ等により拡管(170 )して所定の外径のUOE鋼管を得る。得られたUOE鋼管は水圧試験(180 )、検査(190 )を行って出荷される。
【0003】
このOプレス(140 )工程では、Oプレス用金型を使用している。従来のOプレス用金型を図9(a)〜(c)に示す。従来のOプレス用金型は、インサートライナ3を1つ以上積層してマスターダイ4の内側に装着して、上、下ダイ2A、2B間のギャップを所定値G0 としたときに、内面(点線部仮想)が真円形となり、その内径Dをインサートライナ3の積層数により調整する構造とされている。図9(a)、(b)中のD0 はマスターダイ4の内径、Dはインサートライナ3の内径であり、図9(c)中のAはインサートライナ3の内面に相当する円の中心である。
【0004】
なお、このような構造のOプレス用金型においては、G0 は、12.7mm(1/2インチ)程度が普通であり、インサートライナ3の厚さは、2インチきざみとされている。従って通常、UOE管の製造ラインにおいては、製造可能な製品外径(以下、製造可能範囲と称す)が図10に模式的に示すようにインサートライナの積層数に対応して段階的に決められており、各積層数のインサートライナに対応した製造可能範囲の間には製造不可能範囲が存在する。
【0005】
図10の横軸は、Oプレス用金型の種類1、2、3、4・・(番号昇順にインサートライナ数が減っていく)、図10の縦軸は、拡管後のUOE鋼管の製品外径であって後述する限界により製造可能な外径の上限と下限が決まってくる。すなわち、図10に示すようにインサートライナ3として、ある特定の外径に対応しているものを使用する場合においては、製造可能範囲はd’min (製造可能最小外径)〜d’max (製造可能最大外径)の範囲に規制されることになる。
【0006】
ここで、製造可能最小外径d’min は、図11(a)に示すように、Oプレス時に、上、下ダイ2A、2Bが密着してしまい、これ以下の周長のO管1を得ることができなくなることによって決まる。一方、従来のOプレス用金型を用いた場合の製造可能最大外径d’max は、Oプレス時に、上、下ダイ間のギャップGがG1 を超えて上、下ダイ間のギャップGが過大になった場合に、得られるO管1の形状が過度に縦長となってしまい、後述する図15の説明のように、上下ダイ間ギャップG中に素材板材が飛び出して屈曲してしまい、所定の拡管率で拡管しても、製品の真円度等の形状寸法精度が悪化してしまうことによって決まる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このようなUOE鋼管の製造工程にあって、例えばミリ(mm)サイズの中間外径のオーダが入り、その製造の必要が生じた場合、従来は多くの場合、その中間サイズに適合したインサートライナを別個に作成していたが、このような対応では、その都度、高価なインサートライナを製作しなければならず、また、工場操業の効率の面でもインサートライナの交換に時間を要することから、製造コストのアップ、作業性の悪化につながるという問題があった。
【0008】
そのため、段階的なインチサイズのOプレス用金型を用いて、中間サイズのUOE管を製造する方法が提案されている。図11(b)は、このいわば従来からある段階的なインチサイズのUOE鋼管製造技術の延長線的な方法で、中間外形のUOE鋼管の製造をするようすを示し、上、下ダイ間のギャップGをG1 (G0 <G1 であるが過大でない程度)として成形した屈曲部のない良好な形状のO管1を示してある。ちなみにO管1は、Oプレス後の拡管工程において、所定の拡管率(普通、0.5〜1.5%)で拡管することにより、所定の外径寸法および所望の機械的性質が得られるように成形される。ところが、このUOE管の製造方法は、最終製品外径dK 、dK+1 の一般サイズに対して、その中間外径dm(dK <dm <dK+1 )の製品を製造する場合、一般サイズdK に対応した内径DK のOプレス用金型を用い、Oプレス最下降時における上下ダイ間のギャップを大きくすることにより、縦長のO管を成形し、その後、通常通りの拡管率で拡管して中間サイズの製品外径としようとしているのであるが、後述図15(b)に示すように素材板材がOプレス時の力により上下ダイ間のギャップ内で外に飛び出る向きに座屈し、座屈による屈曲が拡管複製品O管にも残存して、寸法精度が悪化するという欠点があった。
【0009】
そこで、このような形状不良を防止するUOE管の製造方法が特開昭58-41619号公報に開示されている。このUOE管の製造方法は、図12(a)、(b)に示すように、上、下ダイ間に設けた座屈防止ストッパー50により、Oプレス時におけるO管1に発生する座屈を防止している。しかし、この座屈防止ストッパー50を装着するとなると、例えば、長さが18mのO管1を成形できるように、約3mの長さのマスターダイ4、インサートライナ3をそれぞれ6個並べたOプレス用金型(図12(c)、(d)参照)1台当たり2×6個の座屈防止ストッパー50を取り付けることになり、作業性が悪化するという問題があった。
【0010】
また、特開平9-29339 号公報には、一方を既存金型とし、他方を新作金型とし、金型製作費を半減できるように構成したOプレス用金型を用い、UOE管を製造する方法が開示されている。このOプレス用金型は、図13に示すように、上下ダイ2A、2Bの内面に相当する円の曲率半径RA 、RB が異なるとともに、半径の中心位置A、A’が異なり、かつ上下ダイ2A、2Bの横方向寸法LA 、LB をLA =LB とし、上下ダイ2A、2Bを密着した場合、内面に段差が生じないようにしている。
【0011】
しかし、このように、内面を半径が異なる半円形としたOプレス用金型の場合も、座屈防止ストッパー50を取り付ける必要がなく作業性が悪化することはないものの、内面を真円形とした従来のOプレス用金型に比して製造可能外径の範囲を拡大することが難しいという問題があった。すなわち、内面を曲率半径が異なる半円形とした場合、図14(a)に示すように、Oプレス時に、上下ダイ間のギャップGを0として、従来の真円形の場合と同じ最小外径の製品を得ようとすると、図14(b)に示す屈曲部1AがO管1に発生し、その後、所定の拡管率で拡管しても、真円度不良となってしまい、一方、図15(a)に示すように、上下ダイ間のギャップGを前述のG1 より小さな値G2 としても、従来の真円形の場合と同じ最大外径の製品を得ようとすると、図15(b)に示す屈曲部1BがO管1に形成され、その後、所定の拡管率で拡管しても、やはり真円度不良となってしまうために、製造可能外径の範囲を拡大することができなかったのである。
【0012】
さらには、特開平9-1234号公報には、既設のOプレス金型を用い、目標より一回り小さい外径のO管を成形し、Oプレス後の拡管工程で拡管率を大きくすることにより、中間外径のUOE管を製造することが提案されているが、UOE管製品の機械的性質、特に伸び特性を低下させてしまうという問題がある。そこで本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決することにあり、UOE管の製造可能範囲がOプレス用金型のサイズ毎に段階的に決められているUOE管の製造ラインにおいて、中間外径のUOE管の製造に当たり、製造コストを低減することができ、しかも作業性を悪化させずに、かつ従来どおりの拡管条件である単一の金型を用いた場合のUOE管の製造可能範囲を拡大することができるOプレス用金型およびそれを用いたUOE管の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のUOE管のOプレス用金型は、上、下に配置される上、下ダイからなり、上、下ダイ間のギャップを所定値とした時に上、下ダイの内面が横長円形となるように、上、下ダイの内面が横長円形の上半分、下半分を一部だけ切り欠いた形状としてあり、かつ上、下ダイを密着させた場合、上、下ダイの内面が段差なく接続されるように構成されていることを特徴とする。本発明のOプレス用金型においては、前記上、下ダイ間のギャップを所定値とした場合における、前記横長円形の横寸法b/縦寸法aを1.00を超え1.05以下とすることが好適である。
【0014】
ここで、本発明における横長円形としては、短軸が縦寸法a、長軸が横寸法bである楕円形とするのが望ましい。また、本発明のUOE管の製造方法は、所定幅の板材をU字状に曲げ加工し、次いでOプレス用金型により成形してO管としたのち、該O管の対向端部を接合し、所定の拡管率で拡管して、UOE管を製造するUOE管の製造方法において、前記Oプレス用金型として本発明のOプレス用金型を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、UOE管の製造可能外径の範囲がOプレス用金型毎に決められているUOE管の製造ラインにおいて、中間外径のUOE管の製造に当たり、UOE管の製造可能外径の範囲を拡大することができる。その結果、中間外径のUOE管を製造するのに対応したインサートライナの作製数を少なくすることができ、また、インサートライナの交換回数も少なくなるから、製造コストの削減と、金型替え時間の短縮を実現することができる。
【0016】
また、本発明によれば、座屈防止ストッパー等の新たな部材をOプレス用金型に取り付ける必要がなく、かつ従来どおりの拡管条件で、効率的に中間外径のUOE管を製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る一例の金型の正面図である。
【図2】本発明に係る一例の金型の側面図である。
【図3】本発明に係る一例の金型の作用を説明する正面図であり、最小外径のUOE鋼管の製造過程を示す模式図である。
【図4】(a)(b)(c)は本発明に係る一例の金型の作用を説明する正面図であり、最大外径のUOE鋼管の製造過程を示す模式図である。(d)は従来技術の問題点を説明する図である。
【図5】(a)は参考例に係る一例の金型の正面図、(b)、(c)はその作用を説明する正面図である。
【図6】(a)、(b)は本発明に係る他の金型構造を示す正面図である。
【図7】発明例のUOE鋼管の真円度を従来例と比較して示すグラフである。
【図8】UOE鋼管の製造工程を示すフロー図である。
【図9】従来の金型を示す図であって、(a)はマスターダイ、(b)はインサートライナ、(c)は上下のダイの正面図である。
【図10】従来の金型を用いた場合のUOE管の製品外径を説明するグラフである。
【図11】従来の金型を用いた場合の作用を説明する正面図である。
【図12】従来の他の金型構造を示す図であって、(a)、(b)は座屈防止ストッパーの装着状況を示す正面図、(c)、(d)は上ダイの平面図、正面図である。
【図13】従来の他の金型を示す正面図である。
【図14】従来の金型を用いた場合のO管の形状不良を示す正面図である。
【図15】従来の金型を用いた場合のO管の他の形状不良を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、図1、図2を用い、本発明に係る一例のUOE管のOプレス用金型について説明する。図1は、本発明に係る一例のOプレス用金型の正面図、図2は同側面図であり、図2の左右方向が長さ方向である。図1、図2において、2A、2Bは上、下ダイであり、UOE管のOプレス用金型(以下、単に金型ともいう)は上ダイ2Aおよび下ダイ2Bからなる。上、下のダイ2A、2Bからなる金型は、マスターダイ4と、マスターダイ4に装着されるインサートライナ3を備えている。また、上、下ダイ2A、2Bは、図2に示すように、長さ方向に複数個重ね合わせて構成されている。
【0019】
この本発明に係る一例の金型においては、上ダイ2Aを構成するインサートライナ3およびマスターダイ4の内面は、横長円形の上半分の下側をG0 /2だけ切り欠いた形状としてあり、また、下ダイ2Bを構成するインサートライナ3およびマスターダイ4の内面は、前記の横長円形の下半分の上側をG0 /2だけ切り欠いた形状としてある。
この場合、横長円は、短軸が縦寸法a、長軸が横寸法bである楕円としてあって、a<bである。縦寸法aは、上、下ダイ間のギャップを所定値G0 とした場合における、上、下ダイ2A、2Bの内面の間隔であり、横寸法bは、上、下ダイ間のギャップを所定値G0 とした場合における、上ダイ2Aの内面の左、右と下ダイ2Bの内面の左、右とをそれぞれ縦方向に結ぶ仮想線の横方向の間隔である。G0 は、上、下ダイ2A、2B間の所定ギャップであり、普通、12.7mm(1/2インチ)程度とされている。
【0020】
なお、この場合、マスターダイ4に1つのインサートライナ3を装着することとし、マスターダイ4に装着されるインサートライナ3の外面形状をマスターダイ4の内面形状に対応させてある。マスターダイ4に複数のインサートライナ3を装着する場合には、マスターダイ4に装着される最外層のインサートライナ3の外面形状は、上記のとおりとし、最外層のインサートライナ3よりも内層のインサートライナの外面形状については、装着する外層のインサートライナの内面形状に対応させるようにする。
【0021】
このように、本発明に係る一例の金型は、上、下に配置される上、下ダイからなり、上、下ダイの内面が横長円形の上半分、下半分を一部だけ切り欠いた形状としてあり、かつ上、下ダイを密着させた場合、上、下ダイの内面が段差なく接続されるように構成されているので、Oプレス時に、上、下ダイ間のギャップを所定値G0 とした場合に、縦寸法aが短軸、横寸法bが長軸である一部を切り欠いた横長円形となる。
【0022】
次いで、上述した本発明に係る一例の金型を用いるUOE鋼管の製造方法について、図3、図4により説明する。なお、図3は、上述した本発明に係る一例の金型を用い、Oプレス時に、上、下ダイ間のギャップGを0とした場合の、UOE鋼管の製造過程を示す模式図であり、図4は、図3に示す上、下ダイのギャップGを開いた場合の、UOE鋼管の製造過程を示す模式図である。
【0023】
図3、図4において、それぞれ(a)はOプレス最下降時、(b)は対向端部の接合後、(c)は拡管後であり、1は、本発明に係る一例の金型により成形された拡管前のO管、Pは拡管後のUOE鋼管を示す。また、図中、1Sは接合部であり、dmin 、dmax は、本発明に係る一例の金型を用いた場合の製造可能最小外径、同製造可能最大外径である。
【0024】
本発明に係るUOE管の製造方法において、UOE鋼管は、所定幅の板材をU字状に曲げ加工し、次いで、上述した内面が横長円形の一部分である金型により成形してO管1としたのち、該O管の対向端部を接合し、所定の拡管率で拡管して製造する。例えば、上、下ダイ間のギャップを0とした場合における、本発明に係る一例の金型の内面の周長を従来の真円形の金型での周長と同じとして、O管1を成形したとする。
【0025】
従来の真円形の金型を用いた場合の製造可能最小外径dmin ’は、Oプレス時に、上、下ダイ間のギャップGが0となり上、下ダイが密着することにより決まっていたのである。これに対して、本発明に係る一例の金型を用いた場合、製造可能最小外径dmin は、従来の金型の場合と同様に、Oプレス時に、上、下ダイが密着することにより決まるが、その際、本発明に係る一例の金型を用いた場合には、上、下ダイの密着時に板材に生ずる屈曲はわずかなため、脱ダイ後には残存せず、従来の金型で成形したのと同じ外周長を有し、かつ屈曲部のない横長円形のO管1とすることができるので、その後、所定の拡管率で拡管することにより、横長円形状を矯正することができて、製品の外径dmin は従来と同じdmin ’であり、かつ機械的性質および形状・寸法精度が良好なUOE鋼管の製品Pとすることができるのである(図3(c)参照)。
【0026】
一方、従来の真円形の金型を用いた場合の製造可能最大外径dmax ’は、Oプレス時に、上、下ダイ間のギャップGが開き過ぎると、O管1が縦長になりすぎるとともに、座屈が生じ、O管1の側部が屈曲して、形状が悪化することによって決まっていることは前述した通りである(図4(d)参照)。これに対して、本発明に係る一例の金型を用いた場合には、UOE鋼管の製造可能最大外径dmax は、Oプレス時において、従来の真円形の金型を用いた場合と同じ理由で決まるのであるが、その際、本発明に係る一例の金型を用いた場合には、金型の内面が横長円形であるので、Oプレス時に、ギャップG中に丸みを帯びた状態できれいな曲線状に飛び出るように板材が変形するようになるため、板材には座屈を生じさせずに、上、下ダイ間のギャップGを従来の金型の場合より広げることができて、従来の金型の場合より長い外周長を有し、かつ屈曲部のない縦長が過度とならないO管1とすることができるから、その後、所定の拡管率で拡管することにより、形状を矯正することができて、製品の外径dmaxは従来の最大外径d’max より大きく、そのUOE鋼管の製品Pの機械的性質および形状・寸法精度も良好とすることができるのである(図4(c)参照)。
【0027】
このように、本発明に係る一例の金型を用いたUOE鋼管の製造方法においては、Oプレス時に座屈の発生を抑制して、屈曲部のない形状が良好なO管を成形することができるから、通常の範囲の拡管率で拡管しても、機械的性質および形状・寸法精度の良好な製品が得られ、かつ、UOE鋼管の製造可能外径の範囲を拡大することができる。
なお、拡管率が通常の範囲を超えた場合には、UOE鋼管の機械的性質のうち特に、伸びが小さくなるという問題が発生しやすいので、拡管率は通常の範囲とする。拡管率は、UOE鋼管の外径や肉厚、材質等によって異なるが、例えば、0.5〜1.5%とすることができる。ここで、本発明に係る一例の金型においては、上、下ダイ間のギャップを所定値G0 とした場合における、横長円形の横寸法b/縦寸法aは、1.00を超え1.05以下とするのが好ましく、1.00を超え1.02以下とするのがさらに好ましい。
【0028】
横長円形の横寸法b/縦寸法aが1.05を超えた場合には、Oプレス時に、UOE鋼管の外径や肉厚等の条件により、O管が横長になりすぎて、通常の拡管率で拡管しても、製品の真円度等の寸法精度が許容範囲内から外れる場合があるからである。横長円形の横寸法b/縦寸法aが1.00の場合は、内面が真円形である従来の金型の場合であり、上述したとおり、本発明に係る一例の金型よりUOE鋼管の製造可能外径の範囲が狭い。
【0029】
一方、横長円形の横寸法b/縦寸法aを1.00未満とした場合、Oプレス時に、UOE鋼管の外径や肉厚等の条件により、O管が縦長になりすぎて、ギャップ近傍に屈曲部が生じ、通常の拡管率で拡管しても、製品の真円度等の寸法精度が許容範囲から外れる場合があるからである。横長円形の横寸法b/縦寸法aは1.00を超え1.02以下とするのがさらに好ましく、その理由は、一段と製品の真円度等の寸法精度を良好にできるからである。
【0030】
次いで、参考例に係る金型について説明する。参考例に係る一例の金型は、一方を既存ダイとし、他方を新作ダイとし、金型製作費を半減できるようにしたものであって、上、下に配置される上、下ダイからなり、上、下ダイのいずれか一方の内面が横長円形の上半分または下半分を一部だけ切り欠いた形状としてあるとともに、上、下ダイのもう一方の内面が真円形の上半分または下半分を一部だけ切り欠いた形状としてあり、かつ上、下ダイを密着させた場合、上、下ダイの内面が段差なく接続されるように構成されている。それ以外の構造は、上述した本発明に係る一例の金型と同じ構造であるので説明を省略する。
【0031】
なお、図5(a)には、上ダイ2Aを既設ダイとし、下ダイ2Bを新作ダイとして、上ダイ2Aの内面を真円形の上半分を一部だけ切り欠いた形状とし、かつ下ダイ2Bの内面が横長円形の下半分を一部だけ切り欠いた形状とした金型について示してあるが、上ダイ2Aを新作ダイとし、下ダイ2Bを既設ダイとして、上ダイ2Aの内面を横長円形の上半分を一部だけ切り欠いた形状とし、かつ下ダイ2Bの内面が真円形の下半分を一部だけ切り欠いた形状とした金型とするようにしてもよい。
【0032】
図5(a)に示すように、上ダイ2Aを既設ダイとし、下ダイ2Bを新作ダイとするのが好適である理由は、硬い材質とする必要のある上ダイ2Aを新作するのに比べて、上ダイ2Aより柔らかい材質とすることのできる下ダイ2Bを新作する方が安価で経済的であるからである。上ダイ2Aより下ダイ2Bを柔らかくできるのは、図5(b)に示すように、Oプレス時、上ダイ2AにはU字状に曲げられた鋼板の端部が当接するので、凹んだり疵が入ったりしやすく、使用条件が厳しいが、下ダイにはU字状に曲げられた鋼板の曲げ部が当接するため比較的使用条件が緩いためである。
【0033】
なお、図5(a)、(c)中、インサートライナ31をマスターダイ4の内面に装着した上ダイ2Aが既設のダイである。また、参考例に係る金型においては、上、下ダイ2A、2Bを密着させたときに、内面が横長円形の上半分または下半分を一部だけ切り欠いた形状としてあるダイの内面が従来のダイの内面と段差なく接続するように、上、下ダイ2A、2Bのいずれか一方のダイを新作する。そのため、参考例に係る金型の内面の周長を従来の内面が真円形である金型と比較すると、図5(c)から明らかなように、上、下ダイ2A、2Bを密着させたときには、参考例に係る金型の内面の周長の方が従来の金型の内面の周長より短い。
【0034】
すなわち、参考例に係る金型を用いて、Oプレス時に、上、下ダイ2A、2Bを密着させて、外径の小さいUOE鋼管を製造する場合、参考例に係る金型を用いた場合には、O管の外周長は従来の金型により得られるO管の外周長より短く、かつ座屈を抑制して、屈曲部のない形状良好なO管を成形することができるから、通常の範囲の拡管率で拡管しても、従来の金型を用いた場合より外径が小さく、かつ機械的性質および形状・寸法精度が良好である製品とすることができる。一方、参考例に係る金型を用い、Oプレス時に、上、下ダイ2A、2B間のギャップを開いて、外径の大きいUOE鋼管を製造する場合には、座屈の発生を抑制して、屈曲部のない形状良好なO管を成形することができるから、通常の範囲の拡管率で拡管しても、従来の金型を用いた場合より外径が大きく、かつ機械的性質および形状・寸法精度が良好な製品が得られる。
【0035】
ここで、参考例に係る金型の場合においても、本発明の金型の場合と同様に、 上、下ダイ2A、2B間のギャップを所定値G0 とした場合における、上、下ダイ2A、2Bのいずれか一方の内面での横長円形の横寸法b/縦寸法aは、1.00を超え1.05以下とするのが好ましく、1.00を超え1.02以下とするのがさらに好ましい。このように限定する理由は、本発明の金型の場合と同じであるので、説明を省略する。
【0036】
以上の説明では、上下のダイ2A、2Bに用いるマスターダイ4の内面はインサートライナ3の外面に対応する横長円形としているが、既設の、内面が真円形であるマスターダイを用いるようにすることもできる。その場合には、図6(a)または(b)に示すようにする。なお、図6(a)または(b)において、D0 は既設のマスターダイ4の内面における径であり、a’、b’は、それぞれ金型内面の縦寸法、横寸法である。
【0037】
すなわち、図6(a)に示すように、インサートライナ3をマスターダイ4に上下それぞれ1つ装着して、段階的に設定された外径寸法に対応させるように構成するには、既設のマスターダイ4の内面は径がD0 の円形であるから、インサートライナ3の外面をマスターダイ4の内面に対応する円形とするとともに、インサートライナ3の内面を横長円形状とする。
【0038】
その際、インサートライナ3は、段階的に設定された外径寸法のUOE鋼管を製造するのに対応させて必要数用意する。あるいは、図6(b)に示すように、既設のマスターダイ4の内面は径がD0の円であるから、マスターダイ4の内面に装着する最外層のインサートライナ3は、外面をマスターダイ4の内面に対応する円形とし、その内面は横長円形状とし、このインサートライナ3より製造外径の小さいUOE鋼管を製造する場合には、内、外面の両方を横長円形状としたインサートライナ3を順次装着し、段階的に設定された製造外径のUOE鋼管を製造する構造としてもよい。
【0039】
ところで、本発明では、Oプレス時に、屈曲部を生じさせないためには、上下ダイ間のギャップGは、上限を50mmとするのがよい。以上の説明では、金型の内面形状として、短軸が寸法a、長軸が寸法bである楕円形を横長円形と称したが、本発明における金型の内面は滑らかな曲線である横長円形であればよい。横長円形の中でも特に数学的表現が容易で金型の製作のしやすい横長楕円形は、本発明の好適実施態様として最も的確な形態である。
【0040】
また、上記説明の中で例として登場するUOE鋼管の代わりに、鋼以外を素材として本発明を適用しても何ら問題はない。
【実施例】
【0041】
(実施例1) 所定幅の鋼板をU字状に曲げ加工し、次いでOプレスにより成形してO管としたのち、該O管の対向端部を接合し、所定の拡管率で拡管して、UOE管を製造した。その際、発明例では、Oプレス時に、図1に示すように、上、下ダイの内面が横長楕円形の上半分、下半分を一部だけ切り欠いた形状としてあり、かつ上、下ダイを密着させた場合、上、下ダイの内面が段差なく接続されるように構成されているOプレス用金型を用い、上、下のダイ間ギャップGを0〜44mmとした。横長楕円の横寸法b/縦寸法aは1.01(横寸法bが603mm、縦寸法aが597mm)としたその結果、発明例の場合には、Oプレス時に屈曲部が発生せず、かつ拡管後の製品の真円度が±1%以内で、かつ製品外径が597.5〜625.5mmのUOE鋼管を製造することができたので、製造可能外径の範囲は28mmであった。
【0042】
なお、拡管率は0.95%で一定とし、肉厚tは9.5mm、長さは12mのAPIX65(API規格)のUOE鋼管とした。UOE鋼管の製品の真円度は、製品一本内での(外径縦寸法−外径横寸法)/製品外径d(目標)×100〔%〕とした。ここで、UOE鋼管製品における縦、横は、そのO管をOプレスにより成形した際の縦、横にそれぞれ対応させた。
【0043】
一方、従来例では、内面を径が600mmの真円形状としたOプレス用金型を用い、上下のダイ間ギャップGを0〜38mmとしてUOE鋼管を製造し、その他の条件は発明例と同じとした。従来例では、Oプレス時に屈曲部が発生せず、かつ拡管後の製品の真円度が±1%以内であり、かつ製品の外径が597.5〜621.5mmのUOE鋼管を製造できたので、製造可能外径の範囲は24mmであった。
【0044】
これより、本発明によれば、従来例より製造可能な製品外径の範囲を拡大できることがわかる。
(参考例) 所定幅の鋼板をU字状に曲げ加工し、次いでOプレスにより成形してO管としたのち、該O管の対向端部を接合し、所定の拡管率で拡管して、UOE管を製造した。その際、参考例では、Oプレス時に、図5(a)に示すように、上ダイの内面が真円形の上半分を一部だけ切り欠いた形状としてあり、かつ下ダイの内面が横長楕円形の下半分を一部だけ切り欠いた形状としてあるOプレス用金型を用い、上下のダイ間ギャップGを0〜41mmとした。横長楕円の横寸法b/縦寸法aは1.01(横寸法bが603mm、縦寸法aが597mm)とし、真円の径Dは横寸法bと同じ603mmとした。
【0045】
その結果、参考例の場合には、Oプレス時に屈曲部が発生せず、かつ拡管後の製品の真円度が±1%以内で、かつ製品外径が599.0〜625.5mmのUOE鋼管を製造することができたので、製造可能外径の範囲は26.5mmであった。なお、拡管率は0.95%で一定とし、肉厚tは9.5mm、長さは12mのAPIX65(API規格)のUOE鋼管とした。UOE鋼管の製品の真円度は、製品一本内での(外径縦寸法−外径横寸法)/製品外径d(目標)×100〔%〕とした。ここで、UOE鋼管製品における縦、横は、そのO管をOプレスにより成形した際の縦、横にそれぞれ対応させた。
【0046】
一方、従来例では、上、下ダイの内面を径Dが603mmの真円形状としたOプレス用金型を用い、上下のダイ間ギャップGを0〜38mmとしてUOE鋼管を製造し、その他の条件は参考例と同じとした。従来例では、Oプレス時に屈曲部が発生せず、かつ拡管後の製品の真円度が±1%以内であり、かつ製品の外径が600.5〜625.0mmのUOE鋼管を製造できたので、製造可能外径の範囲は24.5mmであった。
【0047】
これより、参考例によれば、従来例より製造可能な製品外径の範囲を拡大できることがわかる。
(実施例2) 所定幅の鋼板をU字状に曲げ加工し、次いでOプレスにより成形してO管としたのち、該O管の対向端部を接合し、所定の拡管率で拡管して、製品外径dが609.6mm、肉厚tが9.5mm、長さが12mのAPIX65(API規格)のUOE管を製造した。
【0048】
その際に、発明例では、Oプレス時に、図1に示すように、上、下ダイの内面が横長円形の上半分、下半分を一部だけ切り欠いた形状としてあり、かつ上、下ダイを密着させた場合、上、下ダイの内面が段差なく接続されるように構成されているOプレス用金型を用い、上下のダイ間ギャップGを12.7mmとした。なお、楕円の横寸法b/縦寸法aは0.01ピッチで1.01〜1.05とし、拡管率は0.95%で一定とした。平均径((a+b)/2)は従来と合わすため600mmとした。
【0049】
また、従来例は、内面を径が600mmの真円形状としたOプレス用金型を用い、上下のダイ間ギャップGを12.7mmとし、その他の条件は発明例と同じとした。図7に製品(拡管後)の真円度を示す。UOE鋼管の製品の真円度は、実施例1と同様とした。
この結果から、上下のダイの内面を横寸法b/縦寸法aが1.02を超え1.05以下の楕円形状としたOプレス用金型を用い、上下のダイ間ギャップGを12.7mmとした発明例の場合には、製品の真円度がきわめて良好な±1%の範囲内とならないことがあるとはいえ、製品の真円度は実用上問題のない許容範囲内に収まっていることがわかる。
【0050】
また、上下のダイの内面を横寸法b/縦寸法aが1.00を超え1.02以下の楕円形状としたOプレス用金型を用い、上下のダイ間ギャップGを12.7mmとした発明例の場合には、従来例の真円形状の場合と同じように製品の真円度を±1%という極めて良好な範囲内とすることができることがわかる。
【符号の説明】
【0051】
1 O管
1A、1B 屈曲部
2A、2B 上、下のダイ
3、31 インサートライナ(インサートダイ)
4 マスターダイ
G、G0 、G1 上、下のダイ間のギャップ
0 、D 内径
A、A’ 中心
a、a’ 縦寸法
b、b’ 横寸法
min 、d’min 金型毎の製造可能最小外径
max 、d’max 金型毎の製造可能最大外径
1S 接合部
P UOE鋼管(製品)
50 座屈防止ストッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上、下に配置される上、下ダイからなり、上、下ダイ間のギャップを所定値とした時に上、下ダイの内面が横長円形となるように、上、下ダイの内面が横長円形の上半分、下半分を一部だけ切り欠いた形状としてあり、かつ上、下ダイを密着させた場合、上、下ダイの内面が段差なく接続されるように構成されていることを特徴とするUOE管のOプレス用金型。
【請求項2】
前記上、下ダイ間のギャップを所定値とした場合における、前記横長円形の横寸法b/縦寸法aを1.00を超え1.05以下とすることを特徴とする請求項1に記載のUOE管のOプレス用金型。
【請求項3】
所定幅の板材をU字状に曲げ加工し、次いでOプレス用金型により成形してO管としたのち、該O管の対向端部を接合し、所定の拡管率で拡管して、UOE管を製造するUOE管の製造方法において、前記Oプレス用金型として請求項1または2に記載のOプレス用金型を用いることを特徴とするUOE管の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−167765(P2011−167765A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69196(P2011−69196)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【分割の表示】特願2001−230237(P2001−230237)の分割
【原出願日】平成13年7月30日(2001.7.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】