Vベルト式無段変速機
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、Vベルト式無段変速機に関し、詳しくはドライブプーリの構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のVベルト式無段変速機におけるドライブプーリは、図6に示す如く、ドライブシャフトAの端部に固設された固定フェースBと、この固定フェースBに対峙する態様でドライブシャフトAに遊嵌されたムーバブルドライブフェースCとを有し、さらにドライブプーリは、ドライブシャフトAに取り付けられたプレッシャプレートDと、このプレッシャプレートDと上記ムーバブルドライブフェースCとの間に収容されたウェイトローラEとを備えている。このVベルト式無段変速機では、ドライブプーリの回転に伴う遠心力により上記ウェイトローラEがドライブシャフトAの径外方向へ移動すると、ムーバブルドライブフェースCがドライブシャフトA上を移動し、固定フェースBとムーバブルドライブフェースCとの間隔が変わり、これによりVベルトFの実質的な巻き掛け径が変化して変速が行なわれる。上記ドライブシャフトAの駆動力は、上記ドライブプーリからVベルトを介してドリブンプーリに伝達され、こののち、周知の如く上記ドリブンプーリの回転に基づいて動作する自動遠心クラッチから、ドリブンシャフトおよびアクスルシャフトを介して車輪に伝達される。このようなVベルト式無段変速機は、構造が比較的簡単である等の理由から、自動二輪車、特に原動機付き自転車等の変速機として広く使われている。
【0003】ところで、上記構成のVベルト式無段変速機では、自動遠心クラッチのインストール回転数が、ドライブプーリが無負荷(定速度走行)時において変速を開始する回転数(無負荷時変速回転数)Aより低い場合には、図7に示す如き変速特性を示すのであるが、上記自動遠心クラッチのインストール回転数が、無負荷時変速回転数Aよりも高く設定されている場合には、図8に示すように総減速比の小さな変速特性となる。
【0004】すなわち、自動遠心クラッチのインストール回転数が無負荷時変速回転数よりも高い場合、自動遠心クラッチが接続し車両が発進する時点において、上記ドライブプーリでは、既に遠心力に基づくウェイトローラEの移動により、ムーバブルドライブフェースCが固定フェースBに接近する方向へ移動し、変速が行なわれている状態にある。このため、固定フェースBとムーバブルドライブフェースCとが最離隔してベルト巻き掛け径が最小となる最も減速比の大きな位置、すなわち最Lowを使用することができず、図9に実線で示す如く、低速度域における駆動力が、破線で示した真の変速比の最Low時における駆動力に対して大幅に低下する不都合があった。
【0005】そこで、先に本願出願人は、上記問題点を解決するべく、図10に示す如くプレッシャプレートD′のウェイトローラ当接面に段状部Da′を形成し、ドライブシャフトA′が回転を開始してから特定の回転速度に達するまでは、上記段状部Da′によってウェイトローラE′の移動を規制することにより、低速度域における駆動力の低下を未然に防止し得るVベルト式無段変速機を提案した。なお、上記プレッシャプレートD′以外の構成、詳しくは、ドライブシャフトA′、ムーバブルドライブフェースC′、ウェイトローラE′、およびVベルトF′等の構成は図6の各要素と基本的に同一である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、図10に示したVベルト式無段変速機では、エンジンの停止状態において、ウェイトローラE′とプレッシャプレートD′における段状部Da′との間に隙間が生じていた場合、ドライブシャフトA′の回転に伴ってウェイトローラE′が径外方向に移動した際、互いに衝突して振動や騒音の原因となる。上記不都合を解消するには、エンジンの停止状態においてウェイトローラE′と段状部Da′とを互いに密接させる必要があり、このためには段状部Da′を正確に位置決めさせるべく、上記プレッシャプレートD′に精密加工を施さねばならず、製造工程の繁雑化や製造コストの上昇を招く不都合がある。
【0007】本発明は上記実状に鑑みて、製造工程の繁雑化や、製造コストの上昇を招くことなく、低速度域における駆動力の低下を未然に防止することの可能なVベルト式無段変速機を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明では、ムーバブルドライブフェース若しくはプレッシャプレートの少なくとも一方のウェイトローラ当接面に、ドライブシャフトの停止時においてウェイトローラと当接するとともにドライブシャフト中心軸と直交する平面に対して急俊に形成された低速域傾斜部と、この低速域傾斜部の径外域に形成されるとともに上記低速域当接部よりもドライブシャフト中心軸と直交する平面に対して緩やかに形成された中高速域傾斜部とを設けることによって上記目的を達成した。
【0009】
【作用】上記構成によれば、ドライブシャフトが停止状態にあるとき、上記ウェイトローラは、ある程度の広がりを持った斜面である低速域傾斜部に当接し、かつ上記ウェイトローラは、ドライブシャフトの回転加速時、該ドライブシャフトの回転数が特定の回転数域に達するまで、上記低速域傾斜部によって、その移動が阻止される。
【0010】
【実施例】以下、本発明の具体的な構成を、一実施例を示す図に基づいて詳細に説明する。図1に、本発明に関わるVベルト式無段変速機を、自動二輪車(原動機付き自転車)の自動変速機に適用した例を示す。
【0011】Vベルト式無段変速機100におけるドライブシャフト1には、スリーブ2が固設されており、このスリーブ2の左端部にはプレッシャプレート3が固設されている。また、上記スリーブ2には、ムーバブルドライブフェース4が、上記ドライブシャフト1の軸方向に沿って移動可能にスプライン結合されており、該ムーバブルドライブフェース4と上記プレッシャプレート3との間には、ウェイトローラ5が配設されている。さらに、上記ドライブシャフト1におけるスリーブ2の右端部には、図示していない固定フェース(図6のB参照)が固設されており、この固定フェースと上記ムーバブルドライブフェース4との間には、Vベルト6が巻き掛けられている。
【0012】上記ムーバブルドライブフェース4における図中左方部には、ウェイトローラ当接面4Aが形成されており、このウェイトローラ当接面4Aは、ムーバブルドライブフェース4の径外方向に行く程、上記プレッシャプレート3に近接する態様で湾曲形成されている。
【0013】一方、上記プレッシャプレート3は、径外方向に行く程、上記ムーバブルドライブフェース4のウェイトローラ当接面4Aに近接するよう傾斜して形成されており、該プレッシャプレート3におけるウェイトローラ当接面30も、上記ウェイトローラ当接面4Aに近接する態様で傾斜している。
【0014】図1から明らかなように、上記プレッシャープレート3におけるウェイトローラ当接面30には、ドライブシャフト1の停止時において上記ウェイトローラ5と当接する低速域傾斜部30Aと、この低速域傾斜部30Aの径外域に、該低速域傾斜部30Aと連続して形成された中速域傾斜部30Bとが設けられている。上記低速域傾斜部30Aは、図2に示す如くドライブシャフト中心軸と直交する平面に対する角度θAを、約33°と急峻に設定して形成される一方、上記中高速域傾斜部30Bは、ドライブシャフト中心軸と直交する平面に対する角度θBを、約18°と上記θA(約33°)よりも緩やかに設定して形成されている。ところで、図11R>1は、ウェイトローラ5のドライブシャフト1の回転に伴う遠心力W、Wによるムーバブルドライブフェース4が受けるプレッシャプレート3から離隔する方向への押圧力F、及びウェイトローラ当接面30、4Aのドライブシャフト中心軸と直交する平面に対する各々の角度を加えた角度θとの間の関係を示す模式図である。 遠心力Wと押圧力Fと角度θとの間には、W=Ftanθの関係がある。 角度θが大きくなると、上式よりtanθが大きくなるので、遠心力Wが一定とすると、押圧力Fは小さくなる。 すなわち、角度θが大きくなると、ムーバブルドライブフェース4のプレッシャプレート3から離隔する方向への移動力は小さくなるので、ムーバブルドライブフェース4をプレッシャプレート3から離隔する方向へ移動するには、遠心力Wを大きくすることが必要でドライブシャフト1の回転速度を上げねばならない。 従って、ウェイトローラ当接面30のドライブシャフト中心軸と直交する平面に対する角度を大きくすることは、ウェイトローラ5のドライブシャフト1の径外方向への移動の規制を行い、ムーバブルドライブフェース4のプレッシャプレート3から離隔する方向への移動を規制することになる。 さらに、ウェイトローラ当接面30のドライブシャフト中心軸と直交する平面に対する角度が大きくなると、ウェイトローラ5のドライブシャフト1の径外方向への移動量に対し、ムーバブルドライブフェース4のプレッシャプレート3から離隔する方向への移動量が大きくなるので、Vベルト6の張力から受ける抗力がそれだけ増大して、ウェイトローラ5の移動は規制されることになる。 本作用を適用したものが、本願出願人が先に提案した図10に示すVベルト式無段変速機である。 プレッシャプレートD′のウェイトローラ当接面に段状部Da′を形成し、ウェイトローラ当接面のドライブシャフト中心軸と直交する平面に対する角度を段状部Da′の場所で急俊に設定し、ウェイトローラE′の移動を規制し、特定の回転速度に達するまで変速の開始を阻止している。
【0015】ドライブシャフト1の停止時、上記ウェイトローラ5は、ムーバブルドライブフェース4のウェイトローラ当接面4Aと、プレッシャプレート3のウェイトローラ当接面30における低速域傾斜部30Aとに当接している。ここで、図2から明らかなように、上記低速域傾斜部30Aは、上記ウェイトローラ5の全移動量Hに対して、少なくともLow側の30%以内の範囲hを占める態様で形成されている。
【0016】いま、エンジンが運転を開始し、ドライブシャフト1が回転を始めると、スリーブ2を介してプレッシャプレート3およびムーバブルドライブフェース4が回転する。ドライブシャフト1の回転が増し、ウェイトローラ5に遠心力が作用し始めると、該ウェイトローラ5は、プレッシャプレート3およびムーバブルドライブフェース4の径外方向へ移動しようとするが、上述したように急俊に形成された上記低速域傾斜部30Aに当接しているために、その移動が阻止される。つまり、図6R>6に示した如き従来の変速機であれば、既にウェイトローラが移動し、変速が行なわれているはずのドライブシャフトの回転数であっても、未だに変速は行なわれないこととなる。
【0017】ドライブシャフト1の回転が更に増大し、図示していない自動遠心クラッチが接続状態となり、特定の回転数域に達するとウェイトローラ5が移動を開始し、変速が開始される。 このように本構成によれば、ドライブシャフト1の回転数が特定の回転数域、すなわち自動遠心クラッチが接続状態になる回転数(自動遠心クラッチのインストール回転数)に達するまで変速が阻止される。 さらに、上記ドライブシャフト1の回転数が増大してウェイトローラ5に作用する遠心力が特定の値を越えると、上記ウェイトローラ5は、上記低速域傾斜部30Aを越えて、中高速域傾斜部30Bと当接することとなる。
【0018】このとき、上記ウェイトローラ5は、低速域傾斜部30Aから中高速域傾斜部30Bへ急激に移行し、ムーバブルドライブフェース4がウェイトローラ5によって図1中の右方へ押しやられるので、ほとんど変速の行なわれていなかった状態から急激に変速が行なわれ、自動二輪車は急激にその車速を増し、搭乗者は強い加速感を得ることとなる。
【0019】ウェイトローラ5が、図3に示す如く上記低速域傾斜部30Aを越えた後の変速動作は、従来構造のVベルト式無段変速機と何ら変わるところはなく、ドライブシャフト1の回転速度に応じてウェイトローラ5が移行し、これに伴うムーバブルドライブフェース4の移行によって適宜に変速が行なわれる。
【0020】ここで、ウェイトローラ5の径外方向への移動量をx、ムーバブルドライブフェース4の軸方向への移動量をyとした場合の、xとdy/dx との関係、すなわちウェイトローラの移動し難さを示した図4からも明らかなように、上記実施例によれば、Low近辺においてウェイトローラが移動し難いものとなっている。また、上述したVベルト式無段変速機によれば、図5(a)に示すような従来の変速特性に対して、図5(b)に示す如き独自の変速特性が得られる。
【0021】なお、本実施例では、低速域傾斜部と中高速域傾斜部とを、プレッシャープレートにおけるウェイトローラ当接面に設けたが、上記両傾斜部をムーバブルドライブフェースにおけるウェイトローラ当接面に設けても、本発明の目的を有効に達成し得ることは言うまでもない。
【0022】
【発明の効果】以上、詳述した如く、本発明に関わるVベルト式無段変速機によれば、ムーバブルドライブフェース若しくはプレッシャプレートの少なくとも一方のウェイトローラ当接面に設けた低速域傾斜部によって、ドライブシャフトの回転数が特定の回転数域に達するまでウェイトローラの移動を阻止するよう構成したので、ドライブプーリにおける最Low状態を有効に使用することが可能となった。また、ドライブシャフトが停止しているときに、ウェイトローラと低速域傾斜部との相対位置が多少ずれていたとしても、上記ウェイトローラは、広がりを持った斜面である低速域傾斜部に当接するので、ウェイトローラ当接面を精密加工することなく、ウェイトローラとウェイトローラ当接面との隙間に起因する振動や騒音の発生を、未然に防止することができる。すなわち、本発明に関わるVベルト式無段変速機によれば、製造工程の繁雑化や、製造コストの上昇を招くことなく、低速度域における駆動力の低下を未然に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に関わるVベルト式無段変速機の要部断面側面図。
【図2】本発明に関わるVベルト式無段変速機のプレッシャプレートを示す要部断面側面図。
【図3】本発明に関わるVベルト式無段変速機の動作態様を示す要部断面側面図。
【図4】本発明に関わるVベルト式無段変速機における微分値特性を示す図。
【図5】(a)および(b)は、従来のVベルト式無段変速機による変速特性および本発明に関わるVベルト式無段変速機における変速特性を示す図。
【図6】従来のVベルト式無段変速機を示す要部断面側面図。
【図7】従来のVベルト式無段変速機よる変速特性を示す図。
【図8】従来のVベルト式無段変速機よる変速特性を示す図。
【図9】従来のVベルト式無段変速機における駆動力線図。
【図10】従来の他のVベルト式無段変速機を示す要部断面側面図。
【図11】本発明に関わるVベルト式無段変速機におけるウェイトローラの遠心力とムーバブルドライブフェースが受けるプレッシャプレートから離隔する方向への押圧力との間係を示す模式図。
【符号の説明】
1…ドライブシャフト
3…プレッシャプレート
4…ムーバブルドライブフェース
4A…ウェイトローラ当接面
5…ウェイトローラ
6…Vベルト
30…ウェイトローラ当接面
30A…低速域傾斜部
30B…中高速域傾斜部
100…Vベルト式無段変速機
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、Vベルト式無段変速機に関し、詳しくはドライブプーリの構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のVベルト式無段変速機におけるドライブプーリは、図6に示す如く、ドライブシャフトAの端部に固設された固定フェースBと、この固定フェースBに対峙する態様でドライブシャフトAに遊嵌されたムーバブルドライブフェースCとを有し、さらにドライブプーリは、ドライブシャフトAに取り付けられたプレッシャプレートDと、このプレッシャプレートDと上記ムーバブルドライブフェースCとの間に収容されたウェイトローラEとを備えている。このVベルト式無段変速機では、ドライブプーリの回転に伴う遠心力により上記ウェイトローラEがドライブシャフトAの径外方向へ移動すると、ムーバブルドライブフェースCがドライブシャフトA上を移動し、固定フェースBとムーバブルドライブフェースCとの間隔が変わり、これによりVベルトFの実質的な巻き掛け径が変化して変速が行なわれる。上記ドライブシャフトAの駆動力は、上記ドライブプーリからVベルトを介してドリブンプーリに伝達され、こののち、周知の如く上記ドリブンプーリの回転に基づいて動作する自動遠心クラッチから、ドリブンシャフトおよびアクスルシャフトを介して車輪に伝達される。このようなVベルト式無段変速機は、構造が比較的簡単である等の理由から、自動二輪車、特に原動機付き自転車等の変速機として広く使われている。
【0003】ところで、上記構成のVベルト式無段変速機では、自動遠心クラッチのインストール回転数が、ドライブプーリが無負荷(定速度走行)時において変速を開始する回転数(無負荷時変速回転数)Aより低い場合には、図7に示す如き変速特性を示すのであるが、上記自動遠心クラッチのインストール回転数が、無負荷時変速回転数Aよりも高く設定されている場合には、図8に示すように総減速比の小さな変速特性となる。
【0004】すなわち、自動遠心クラッチのインストール回転数が無負荷時変速回転数よりも高い場合、自動遠心クラッチが接続し車両が発進する時点において、上記ドライブプーリでは、既に遠心力に基づくウェイトローラEの移動により、ムーバブルドライブフェースCが固定フェースBに接近する方向へ移動し、変速が行なわれている状態にある。このため、固定フェースBとムーバブルドライブフェースCとが最離隔してベルト巻き掛け径が最小となる最も減速比の大きな位置、すなわち最Lowを使用することができず、図9に実線で示す如く、低速度域における駆動力が、破線で示した真の変速比の最Low時における駆動力に対して大幅に低下する不都合があった。
【0005】そこで、先に本願出願人は、上記問題点を解決するべく、図10に示す如くプレッシャプレートD′のウェイトローラ当接面に段状部Da′を形成し、ドライブシャフトA′が回転を開始してから特定の回転速度に達するまでは、上記段状部Da′によってウェイトローラE′の移動を規制することにより、低速度域における駆動力の低下を未然に防止し得るVベルト式無段変速機を提案した。なお、上記プレッシャプレートD′以外の構成、詳しくは、ドライブシャフトA′、ムーバブルドライブフェースC′、ウェイトローラE′、およびVベルトF′等の構成は図6の各要素と基本的に同一である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、図10に示したVベルト式無段変速機では、エンジンの停止状態において、ウェイトローラE′とプレッシャプレートD′における段状部Da′との間に隙間が生じていた場合、ドライブシャフトA′の回転に伴ってウェイトローラE′が径外方向に移動した際、互いに衝突して振動や騒音の原因となる。上記不都合を解消するには、エンジンの停止状態においてウェイトローラE′と段状部Da′とを互いに密接させる必要があり、このためには段状部Da′を正確に位置決めさせるべく、上記プレッシャプレートD′に精密加工を施さねばならず、製造工程の繁雑化や製造コストの上昇を招く不都合がある。
【0007】本発明は上記実状に鑑みて、製造工程の繁雑化や、製造コストの上昇を招くことなく、低速度域における駆動力の低下を未然に防止することの可能なVベルト式無段変速機を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明では、ムーバブルドライブフェース若しくはプレッシャプレートの少なくとも一方のウェイトローラ当接面に、ドライブシャフトの停止時においてウェイトローラと当接するとともにドライブシャフト中心軸と直交する平面に対して急俊に形成された低速域傾斜部と、この低速域傾斜部の径外域に形成されるとともに上記低速域当接部よりもドライブシャフト中心軸と直交する平面に対して緩やかに形成された中高速域傾斜部とを設けることによって上記目的を達成した。
【0009】
【作用】上記構成によれば、ドライブシャフトが停止状態にあるとき、上記ウェイトローラは、ある程度の広がりを持った斜面である低速域傾斜部に当接し、かつ上記ウェイトローラは、ドライブシャフトの回転加速時、該ドライブシャフトの回転数が特定の回転数域に達するまで、上記低速域傾斜部によって、その移動が阻止される。
【0010】
【実施例】以下、本発明の具体的な構成を、一実施例を示す図に基づいて詳細に説明する。図1に、本発明に関わるVベルト式無段変速機を、自動二輪車(原動機付き自転車)の自動変速機に適用した例を示す。
【0011】Vベルト式無段変速機100におけるドライブシャフト1には、スリーブ2が固設されており、このスリーブ2の左端部にはプレッシャプレート3が固設されている。また、上記スリーブ2には、ムーバブルドライブフェース4が、上記ドライブシャフト1の軸方向に沿って移動可能にスプライン結合されており、該ムーバブルドライブフェース4と上記プレッシャプレート3との間には、ウェイトローラ5が配設されている。さらに、上記ドライブシャフト1におけるスリーブ2の右端部には、図示していない固定フェース(図6のB参照)が固設されており、この固定フェースと上記ムーバブルドライブフェース4との間には、Vベルト6が巻き掛けられている。
【0012】上記ムーバブルドライブフェース4における図中左方部には、ウェイトローラ当接面4Aが形成されており、このウェイトローラ当接面4Aは、ムーバブルドライブフェース4の径外方向に行く程、上記プレッシャプレート3に近接する態様で湾曲形成されている。
【0013】一方、上記プレッシャプレート3は、径外方向に行く程、上記ムーバブルドライブフェース4のウェイトローラ当接面4Aに近接するよう傾斜して形成されており、該プレッシャプレート3におけるウェイトローラ当接面30も、上記ウェイトローラ当接面4Aに近接する態様で傾斜している。
【0014】図1から明らかなように、上記プレッシャープレート3におけるウェイトローラ当接面30には、ドライブシャフト1の停止時において上記ウェイトローラ5と当接する低速域傾斜部30Aと、この低速域傾斜部30Aの径外域に、該低速域傾斜部30Aと連続して形成された中速域傾斜部30Bとが設けられている。上記低速域傾斜部30Aは、図2に示す如くドライブシャフト中心軸と直交する平面に対する角度θAを、約33°と急峻に設定して形成される一方、上記中高速域傾斜部30Bは、ドライブシャフト中心軸と直交する平面に対する角度θBを、約18°と上記θA(約33°)よりも緩やかに設定して形成されている。ところで、図11R>1は、ウェイトローラ5のドライブシャフト1の回転に伴う遠心力W、Wによるムーバブルドライブフェース4が受けるプレッシャプレート3から離隔する方向への押圧力F、及びウェイトローラ当接面30、4Aのドライブシャフト中心軸と直交する平面に対する各々の角度を加えた角度θとの間の関係を示す模式図である。 遠心力Wと押圧力Fと角度θとの間には、W=Ftanθの関係がある。 角度θが大きくなると、上式よりtanθが大きくなるので、遠心力Wが一定とすると、押圧力Fは小さくなる。 すなわち、角度θが大きくなると、ムーバブルドライブフェース4のプレッシャプレート3から離隔する方向への移動力は小さくなるので、ムーバブルドライブフェース4をプレッシャプレート3から離隔する方向へ移動するには、遠心力Wを大きくすることが必要でドライブシャフト1の回転速度を上げねばならない。 従って、ウェイトローラ当接面30のドライブシャフト中心軸と直交する平面に対する角度を大きくすることは、ウェイトローラ5のドライブシャフト1の径外方向への移動の規制を行い、ムーバブルドライブフェース4のプレッシャプレート3から離隔する方向への移動を規制することになる。 さらに、ウェイトローラ当接面30のドライブシャフト中心軸と直交する平面に対する角度が大きくなると、ウェイトローラ5のドライブシャフト1の径外方向への移動量に対し、ムーバブルドライブフェース4のプレッシャプレート3から離隔する方向への移動量が大きくなるので、Vベルト6の張力から受ける抗力がそれだけ増大して、ウェイトローラ5の移動は規制されることになる。 本作用を適用したものが、本願出願人が先に提案した図10に示すVベルト式無段変速機である。 プレッシャプレートD′のウェイトローラ当接面に段状部Da′を形成し、ウェイトローラ当接面のドライブシャフト中心軸と直交する平面に対する角度を段状部Da′の場所で急俊に設定し、ウェイトローラE′の移動を規制し、特定の回転速度に達するまで変速の開始を阻止している。
【0015】ドライブシャフト1の停止時、上記ウェイトローラ5は、ムーバブルドライブフェース4のウェイトローラ当接面4Aと、プレッシャプレート3のウェイトローラ当接面30における低速域傾斜部30Aとに当接している。ここで、図2から明らかなように、上記低速域傾斜部30Aは、上記ウェイトローラ5の全移動量Hに対して、少なくともLow側の30%以内の範囲hを占める態様で形成されている。
【0016】いま、エンジンが運転を開始し、ドライブシャフト1が回転を始めると、スリーブ2を介してプレッシャプレート3およびムーバブルドライブフェース4が回転する。ドライブシャフト1の回転が増し、ウェイトローラ5に遠心力が作用し始めると、該ウェイトローラ5は、プレッシャプレート3およびムーバブルドライブフェース4の径外方向へ移動しようとするが、上述したように急俊に形成された上記低速域傾斜部30Aに当接しているために、その移動が阻止される。つまり、図6R>6に示した如き従来の変速機であれば、既にウェイトローラが移動し、変速が行なわれているはずのドライブシャフトの回転数であっても、未だに変速は行なわれないこととなる。
【0017】ドライブシャフト1の回転が更に増大し、図示していない自動遠心クラッチが接続状態となり、特定の回転数域に達するとウェイトローラ5が移動を開始し、変速が開始される。 このように本構成によれば、ドライブシャフト1の回転数が特定の回転数域、すなわち自動遠心クラッチが接続状態になる回転数(自動遠心クラッチのインストール回転数)に達するまで変速が阻止される。 さらに、上記ドライブシャフト1の回転数が増大してウェイトローラ5に作用する遠心力が特定の値を越えると、上記ウェイトローラ5は、上記低速域傾斜部30Aを越えて、中高速域傾斜部30Bと当接することとなる。
【0018】このとき、上記ウェイトローラ5は、低速域傾斜部30Aから中高速域傾斜部30Bへ急激に移行し、ムーバブルドライブフェース4がウェイトローラ5によって図1中の右方へ押しやられるので、ほとんど変速の行なわれていなかった状態から急激に変速が行なわれ、自動二輪車は急激にその車速を増し、搭乗者は強い加速感を得ることとなる。
【0019】ウェイトローラ5が、図3に示す如く上記低速域傾斜部30Aを越えた後の変速動作は、従来構造のVベルト式無段変速機と何ら変わるところはなく、ドライブシャフト1の回転速度に応じてウェイトローラ5が移行し、これに伴うムーバブルドライブフェース4の移行によって適宜に変速が行なわれる。
【0020】ここで、ウェイトローラ5の径外方向への移動量をx、ムーバブルドライブフェース4の軸方向への移動量をyとした場合の、xとdy/dx との関係、すなわちウェイトローラの移動し難さを示した図4からも明らかなように、上記実施例によれば、Low近辺においてウェイトローラが移動し難いものとなっている。また、上述したVベルト式無段変速機によれば、図5(a)に示すような従来の変速特性に対して、図5(b)に示す如き独自の変速特性が得られる。
【0021】なお、本実施例では、低速域傾斜部と中高速域傾斜部とを、プレッシャープレートにおけるウェイトローラ当接面に設けたが、上記両傾斜部をムーバブルドライブフェースにおけるウェイトローラ当接面に設けても、本発明の目的を有効に達成し得ることは言うまでもない。
【0022】
【発明の効果】以上、詳述した如く、本発明に関わるVベルト式無段変速機によれば、ムーバブルドライブフェース若しくはプレッシャプレートの少なくとも一方のウェイトローラ当接面に設けた低速域傾斜部によって、ドライブシャフトの回転数が特定の回転数域に達するまでウェイトローラの移動を阻止するよう構成したので、ドライブプーリにおける最Low状態を有効に使用することが可能となった。また、ドライブシャフトが停止しているときに、ウェイトローラと低速域傾斜部との相対位置が多少ずれていたとしても、上記ウェイトローラは、広がりを持った斜面である低速域傾斜部に当接するので、ウェイトローラ当接面を精密加工することなく、ウェイトローラとウェイトローラ当接面との隙間に起因する振動や騒音の発生を、未然に防止することができる。すなわち、本発明に関わるVベルト式無段変速機によれば、製造工程の繁雑化や、製造コストの上昇を招くことなく、低速度域における駆動力の低下を未然に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に関わるVベルト式無段変速機の要部断面側面図。
【図2】本発明に関わるVベルト式無段変速機のプレッシャプレートを示す要部断面側面図。
【図3】本発明に関わるVベルト式無段変速機の動作態様を示す要部断面側面図。
【図4】本発明に関わるVベルト式無段変速機における微分値特性を示す図。
【図5】(a)および(b)は、従来のVベルト式無段変速機による変速特性および本発明に関わるVベルト式無段変速機における変速特性を示す図。
【図6】従来のVベルト式無段変速機を示す要部断面側面図。
【図7】従来のVベルト式無段変速機よる変速特性を示す図。
【図8】従来のVベルト式無段変速機よる変速特性を示す図。
【図9】従来のVベルト式無段変速機における駆動力線図。
【図10】従来の他のVベルト式無段変速機を示す要部断面側面図。
【図11】本発明に関わるVベルト式無段変速機におけるウェイトローラの遠心力とムーバブルドライブフェースが受けるプレッシャプレートから離隔する方向への押圧力との間係を示す模式図。
【符号の説明】
1…ドライブシャフト
3…プレッシャプレート
4…ムーバブルドライブフェース
4A…ウェイトローラ当接面
5…ウェイトローラ
6…Vベルト
30…ウェイトローラ当接面
30A…低速域傾斜部
30B…中高速域傾斜部
100…Vベルト式無段変速機
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ムーバブルドライブフェースとプレッシャプレートとの間にウェイトローラを収容し、ドライブシャフトの回転に伴う上記ウェイトローラの移動により、上記ムーバブルドライブフェースを上記ドライブシャフトの軸方向に沿って移動させるドライブプーリを備えたVベルト式無段変速機であって、上記ムーバブルドライブフェース若しくは上記プレッシャプレートの少なくとも一方のウェイトローラ当接面に、上記ドライブシャフトの停止時において上記ウェイトローラと当接するとともにドライブシャフト中心軸と直交する平面に対して急俊に形成された低速域傾斜部と、上記低速域傾斜部の径外域に形成されるとともに上記低速域当接部よりもドライブシャフト中心軸と直交する平面に対して緩やかに形成された中高速域傾斜部とを設け、上記ドライブシャフトの回転加速時、上記ドライブシャフトの回転数が特定の回転数域に達するまで上記低速域傾斜部によって上記ウェイトローラの移動を阻止するよう構成したことを特徴とするVベルト式無段変速機。
【請求項1】 ムーバブルドライブフェースとプレッシャプレートとの間にウェイトローラを収容し、ドライブシャフトの回転に伴う上記ウェイトローラの移動により、上記ムーバブルドライブフェースを上記ドライブシャフトの軸方向に沿って移動させるドライブプーリを備えたVベルト式無段変速機であって、上記ムーバブルドライブフェース若しくは上記プレッシャプレートの少なくとも一方のウェイトローラ当接面に、上記ドライブシャフトの停止時において上記ウェイトローラと当接するとともにドライブシャフト中心軸と直交する平面に対して急俊に形成された低速域傾斜部と、上記低速域傾斜部の径外域に形成されるとともに上記低速域当接部よりもドライブシャフト中心軸と直交する平面に対して緩やかに形成された中高速域傾斜部とを設け、上記ドライブシャフトの回転加速時、上記ドライブシャフトの回転数が特定の回転数域に達するまで上記低速域傾斜部によって上記ウェイトローラの移動を阻止するよう構成したことを特徴とするVベルト式無段変速機。
【図8】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図9】
【図5】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図9】
【図5】
【図10】
【図11】
【特許番号】特許第3003223号(P3003223)
【登録日】平成11年11月19日(1999.11.19)
【発行日】平成12年1月24日(2000.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−407933
【出願日】平成2年12月27日(1990.12.27)
【公開番号】特開平4−228961
【公開日】平成4年8月18日(1992.8.18)
【審査請求日】平成9年11月18日(1997.11.18)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【参考文献】
【文献】特開 昭59−54849(JP,A)
【登録日】平成11年11月19日(1999.11.19)
【発行日】平成12年1月24日(2000.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成2年12月27日(1990.12.27)
【公開番号】特開平4−228961
【公開日】平成4年8月18日(1992.8.18)
【審査請求日】平成9年11月18日(1997.11.18)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【参考文献】
【文献】特開 昭59−54849(JP,A)
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