説明

Vpr特異的モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製するためのVpr抗原、抗Vpr特異的モノクローナル抗体産生ハイブリドーマとそのハイブリドーマの産生する抗Vpr特異的モノクローナル抗体およびそれを利用したVprの免疫学的測定

【課題】Vpr蛋白質およびその関連ペプチドを特異的にかつ高親和的に認識する新たなモノクローナル抗体を提供するとともに、このモノクローナル抗体を産生する細胞、該モノクローナル抗体を用いてVpr蛋白質およびその関連ペプチドを特異的かつ高感度で測定する方法を提供すること。
【解決手段】Vpr蛋白質のN末端側16アミノ酸残基を含む領域及びC末端側14アミノ酸残基の配列と実質的に同一なアミノ酸配列を有するペプチドを抗原として用いて免疫することにより、Vpr蛋白質のN末端またはC末端に対して特異的かつ高親和性のモノクローナル抗体を得、本発明を完成させた。さらに該モノクローナル抗体を用いてイムノアッセイを行うことにより、Vprおよびその関連物質を特異的にかつ高感度に測定・検出することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Native type HIVアクセサリー蛋白質 Vpr(以下Vprと表記する)を特異的に認識する抗体を産生するハイブリドーマを作製するためのペプチド、該ハイブリドーマが産生する抗Vpr特異的モノクローナル抗体および該抗体を利用するVprの免疫学的測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫不全ウイルス
免疫不全ウイルスは、ヒトを始めとする種々の動物に免疫不全を生じさせる原因となるウイルスとして知られている。免疫不全ウイルスとしては、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)等が知られており、いずれもレトロウイルスのレンチウイルスに分類されている。
【0003】
これらのうちヒト免疫不全ウイルス(以下、HIV)は、ヒトに後天性免疫不全症候群(以下、エイズ)を発症させる病因ウイルスとして特に着目されており、現在、HIV-1とHIV-2の2種類が分離されている。図1にHIVウイルス粒子の模式図、図2にHIVゲノム中に同定されている遺伝子をまとめた。HIVのウイルス粒子構造は、ウイルスの核酸や逆転写酵素などを包み込むようにp24と呼ばれるウイルスタンパク質によって構成される円筒形のコア粒子と、その外側に膜の裏打ちをするp17タンパク質、さらにその外側にウイルス特有のgp120、gp41ら成る糖タンパク質をもったエンベロープより成る。HIV遺伝子はその産物の機能・存在様式により、構造遺伝子(gag、pol、env)、調節遺伝子(Tat、Rev)、アクセサリー遺伝子(Nef、Vif、Vpr、Vpu、Vpx)に分類されている。構造遺伝子はすべてのレトロウイルスに共通に存在し、ウイルスの複製に重要な役割を担っている。それらの遺伝子産物である構造遺伝子蛋白質群(Gag、Pol、Env)はいずれも前駆体蛋白質として合成され、ウイルスあるいは宿主細胞のプロテアーゼによって開裂され成熟型の蛋白質となる。2種類の調節タンパク質(Tat、Rev)はトランスアクチベータ-ともいわれ、ウイルス遺伝子の発現制御に機能している。アクセサリー蛋白質(Nef、Vif、Vpr、Vpu、Vpx)はHIV/SIVなどのレンチウイルスに特異的で、HTLVなどのレンチウイルス以外のレトロウイルスには存在が確認されていない。この点からアクセサリー蛋白質はレンチウイルスの生物学的特性に重要な役割を果たしていると考えられている(非特許文献1、2、3)。しかし、これらの蛋白質の作用機序に関する研究は構造蛋白質、調節蛋白質に比較して遅れており、いまだに不明であるエイズの発症機構の解明に今後これらの蛋白質の機能解析が重要になってくると考えられている。
【0004】
HIVのライフサイクルは他のレトロウイルスと同様に、標的細胞への吸着、侵入と脱殻、レトロウイルス特有の逆転写酵素によるウイルスRNAに相補的なDNAの合成、宿主細胞の染色体DNAへの挿入、遺伝子の増幅ならびに発現、ウイルス粒子の構築、放出という過程をとる。エイズは、一般にHIV感染から発症まで長い潜伏期間を伴う。臨床現場において、特に輸血等による他人へのさらなる感染を防止するためにも、HIVの感染を一刻も早く検出することが非常に重要となる。現在、HIV感染の最も早期の検出が可能な実用的な方法として広く行われているのは、前記p24タンパク質に対する抗体を用いた免疫化学的手法によるp24蛋白質を検出する方法である。さらに、HIVの一部又は全部の核酸を増幅して検出する方法もある。
【0005】
Vprタンパク質
一方、Vpr(virus protein r)は、免疫不全ウイルス、特にHIV-1において多機能を有する分子量約15kDaのアクセサリータンパク質として報告されている。Vprは、細胞周期異常、遺伝子不安定化、G2/M期間の停止、アポトーシスやHIV-1複製の促進作用を有すると考えられている(非特許文献1、2、3)。さらに、VprはHIV-1感染やエイズ発症に関わっている可能性が指摘され、それらに重要な働きをしていると考えられてきた。エイズの発症機構の解明、引いてはエイズの新規治療方法を開発する上でもVprの機能を知り、その機能をコントロールすることは重要である。
【0006】
Vpr蛋白質質の生物学的活性
さらに、Vpr蛋白質の生物学的活性に関し、VprのHIV-1慢性持続感染細胞U1細胞におけるHIV-1複製促進作用に関し、VprはTNFαのようなNFκBを介するシグナル伝達系に関連すると報告されている(非特許文献4、5)。しかしながら、Vprは炎症作用を惹起するTNFαやIL-1のようなシグナル伝達系を介する特異的受容体をもつという報告はない。
【0007】
TNFαはサイトカインとして知られており、リガンドとして特異的受容体に結合するとNFκBを刺激するとされている。TNFαはHIV-1慢性持続感染細胞U1細胞におけるHIV-1複製促進作用を有すると考えられている。TNFαには、いくつかのモノクローナル抗体やポリクローナル抗体が既に作製されており、その中のいくつかはTNFαの機能を中和することが知られている。
【0008】
また、Vprと同様にアクセサリー蛋白質であるTatは14kDaの蛋白質で、TNFαと同様に多機能を有すると考えられている。即ち、アポトーシスやHIV-1複製促進作用を有するとされている(非特許文献6)。Tatには、いくつかのモノクローナル抗体やポリクローナル抗体が既に作製されており、そのうちいくつかはTatの機能を中和することが知られている。
【0009】
Vprは、TNFα、Tatと同様にHIV-1複製促進作用を有すると考えられている。従って感染初期に血中濃度が上昇し、HIV-1増殖を促進する。従来のp24が血液中に検出されるようになるよりも早期に血液中の濃度が上昇することから、Vpr特異的かつ高感度に測定・検出することによって早期にHIV-1感染検査が可能となることをVprのN末端側16残基及びC末端側14残基をウサギに免疫し得られたVprに対するポリクローナル抗体を用いて推察されている(非特許文献7)。
【0010】
【非特許文献1】Nature Med. Vol 8 pp673-680 2002
【非特許文献2】分子細胞生物学辞典、株式会社東京化学同人、p345、654及び808、1997年
【非特許文献3】免疫学用語辞典(第三版)、株式会社最新医学社、p275、1993年
【非特許文献4】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.92, pp.3621-3625, April 1995, Yosef Refaeliet al.
【非特許文献5】NATURE MEDICINE, Vol.3, No.10, October 1997, p.1117-1123, Velpandi Ayyavooet al.
【非特許文献6】J. Biol. Chem., Vol.274, No.41, October 8, 1999, pp.28837-28840, Kuan-Teh Jeanget al.
【非特許文献7】Virus Research 90, 263-268, 2002
【非特許文献8】FASEB J., 13, 621-637, 1999
【非特許文献9】Rev. Med. Virol. 9: p.39-49 (1999)
【非特許文献10】Cell, Vol.40, p.9-17, 1985, Simon WH et al.
【非特許文献11】AIDS Research and human retroviruses, vol.3, p.33-39, 1987, Flossie WS et al.
【非特許文献12】J. Virology, Vol.63, p.4110-4114, 1989, K. Ogawa et al.
【非特許文献13】J. AIDS, vol.3, p.11-18, 1990, Eric AC et al.
【非特許文献14】Nucl. Acids. Res. 25., p.3389-3402, 1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、Vpr蛋白質およびその関連ペプチドを簡便に特異的かつ高感度で測定・検出する方法の確立には至っていない。また、酵母の発現系を用いて発現させた全長Vpr蛋白質を免疫原として得られたモノクローナル抗体は報告されている(非特許文献8)が、本モノクローナル抗体の特異性は十分に確認されておらず、Vpr蛋白質およびその関連ペプチドの測定・検出する方法への利用はされていない。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、Vpr蛋白質およびその関連ペプチドを特異的にかつ高親和的に認識する新たなモノクローナル抗体を提供するとともに、このモノクローナル抗体を産生する細胞、該モノクローナル抗体を用いてVpr蛋白質およびその関連ペプチドを特異的かつ高感度で測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
血液中のVprを簡便に高感度・特異的に検出する方法としてはサンドイッチELISAが好ましい。安定的にサンドイッチELISAを供給するためには用いる抗体が安定的に供給できる必要がある。目的蛋白質の存在状態に関する詳細な情報がない場合、一般的に、サンドイッチELISAを構築するためには目的蛋白質のN-末側、C-末側それぞれの抗体を用いて検討することを行う。しかし、合成ペプチドを免疫原にしてウサギなどポリクローナル抗体を作製しても得られる抗体はサンドイッチELISAに用いる性能、つまり高親和性、を有していない場合が多い。また、作製したポロクロナール抗体中から高親和性の抗体を精製できたとしてもサンドイッチELISAを安定的に供給できる抗体量を確保することは非常に困難である。そこで、本発明者は先ず、免疫原及びサンドイッチELISAの標準物質とすることを目的としてリコンビナントVpr蛋白質を作製した。Vpr蛋白質を可溶化状態で発現させた場合、その毒性のため遺伝子を導入した細胞を殺傷してしまい多量の蛋白を得ることが困難であることが知られている。そこで、不溶性画分に発現蛋白を回収できるベクターを選択する必要がある。pET系ベクターはIPTG誘導発現が可能でるが、蛋白の発現量は高いが、封入体を形成し不溶化することが多いという欠点が知られている。しかし、今回のVpr蛋白質の発現においてはこの点が有効であるためこのベクターを選択した。
【0014】
サンドイッチELISAを安定的に供給するためには抗体を安定的に供給できなければならない。本発明は上記問題の解決を目的として、鋭意研究を行った結果、リコンビナントVpr蛋白質を免疫原としてポリクローナル抗体を作製した場合、その殆どがN末端側のアミノ酸配列、MEQAPEDQGPQREPYN:配列番号1のアミノ酸残基1から16、を含む領域を認識する抗体であることを見出し、ポリクローナル抗体では安定的に得ることが困難なC末領域に対する抗体は、C末端側14残基のアミノ酸配列(1)VTRQRRARNGASRSとアミノ酸配列の一部と同一なアミノ酸配列を有する特定のペプチドを抗原として用いて免疫させることにより、Vpr蛋白質のC末端側に対して特異的かつ高親和性のモノクローナル抗体を得られることを見出し、そしてさらに該ペプチドを抗原として得られたモノクローナル抗体とVpr蛋白質のN末端側を認識する抗体とを用いてイムノアッセイを行うことにより、Vprおよびその関連物質を特異的にかつ高感度に測定・検出することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
本発明は、以下のとおりである。
(1) 下記のa)またはb)であることを特徴とする、抗原:
a) Vpr蛋白質のC末端から14個(配列表の配列番号1における83〜96番目のアミノ酸:VTRQRRARNGASRS)よりなるペプチドを有し、抗原活性を示す抗原。
b) Vpr蛋白質のC末端から14個(配列表の配列番号1における83〜96番目のアミノ酸:VTRQRRARNGASRS)よりなるペプチドのうち、1ないし数個のアミノ酸が欠失、置換または追加されたアミノ酸配列よりなるペプチドを有し、抗原活性を示す抗原。
(2) 前記(1)に記載の抗原を免疫感作させた哺乳動物から取得される抗体産生細胞と、哺乳動物骨髄腫系細胞との融合により得られる融合細胞。
(3) 融合細胞が、クローン2C7(受託番号:FERM AP-20367)またはクローン4D2(受託番号:FERM AP-20366)である、前記(2)記載の融合細胞。
(4) 前記(2)または(3)に記載の融合細胞により産生される、HIV-1由来Vpr蛋白質に結合するモノクローナル抗体。
(5) 下記a)からc)及びd)からf)の工程よりなる、前記(4)に記載のモノクローナル抗体を固相用抗体として用いたVpr蛋白質の免疫学的測定方法:
a) 前記(4)記載のモノクローナル抗体を不溶性支持体に結合せしめてなる固相化抗体に標準物質を反応せしめた後、
b) 前記(4)記載のモノクローナル抗体と異なった認識部位を持つVprを認識する抗体を酵素により標識化した標識抗体を反応させ、
c) 酵素の反応生成物量を測定することにより検量線を作成する工程、及び
d) 前記固相化抗体に検体を反応せしめた後、
e) 前記(4)記載のモノクローナル抗体と異なった認識部位を持つVprを認識する抗体を酵素により標識化した標識抗体を反応させ、
f) 酵素の反応生成物量を測定し、前記検量線から検体中に含まれるVpr蛋白質を測定する工程
(6) 下記a)からc)及びd)からf)の工程を含むことを特徴とする前記(4)に記載のモノクローナル抗体を検出用抗体として用いたVpr蛋白質の免疫学的測定方法:
a) 前記(4)記載のモノクローナル抗体と異なった認識部位を持つVprを認識する抗体を不溶性支持体に結合せしめなる固相化抗体に標準物質を反応せしめた後、
b) 前記(4)記載のモノクローナル抗体を酵素により標識化した標識抗体を反応させ、
c) 酵素の反応生成物量を測定することにより検量線を作成する工程、及び
d) 前記固相化抗体に検体を反応せしめた後、
e) 前記(4)記載のモノクローナル抗体を酵素により標識化した標識抗体を反応させ、
f) 酵素の反応生成物量を測定し、前記検量線から検体中に含まれるVpr蛋白質を測定する工程
(7) 前記(4)記載のモノクローナル抗体と異なった認識部位を持つVprを認識する抗体が、以下のa)からc)のいずれかであることを特徴とする、前記(5)または(6)に記載の免疫学的測定方法:
a) Vpr蛋白質のN末端から16個のアミノ酸(配列表の配列番号1における1〜16番目のアミノ酸:MEQAPEDQGPQREPYN)よりなるペプチドを有し、抗原活性を示す抗原を免疫感作させた哺乳動物から取得される抗体産生細胞と、哺乳動物骨髄腫系細胞との融合により得られる融合細胞から産生されるモノクローナル抗体。
b) Vpr蛋白質のN末端から16個のアミノ酸(配列表の配列番号1における1〜16番目のアミノ酸:MEQAPEDQGPQREPYN)よりなるペプチドのうち、1ないし数個のアミノ酸が欠失、置換または追加されたアミノ酸配列よりなるペプチドを有し、抗原活性を示す抗原を免疫感作させた哺乳動物から取得される抗体産生細胞と、哺乳動物骨髄腫系細胞との融合により得られる融合細胞から産生されるモノクローナル抗体。
c) リコンビナントVprを免疫原として哺乳動物に免疫感作させ、作製した抗血清より精製したポリクローナル抗体
(8) 標準物質が、リコンビナントVprであることを特徴とする、前記(5)から(7)のいずれかに記載の免疫学的測定方法。
(9) 標識物質が酵素、蛍光物質またはビオチンであることを特徴とする、前記(5)から(8)のいずれかに記載の免疫学的測定方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Vprに特異的な反応性を有する2種類のモノクローナル抗体が提供された。そして、本モノクローナル抗体を用いることで、Vprの免疫学的測定方法が提供された。この測定法は血液などの液相中のVprを検出することを可能とした。その結果、新たな方法でHIVの感染を判定することを可能にする。該測定法は、少量の検体で、一度に大量の検体数を簡便に測定することが可能であることから、献血時の大量の検体の一次スクリーニングに有効であり、輸血による2次感染を防止することに大いに貢献できる。
【0017】
また、本発明のVprに対する抗体およびVprの測定/検出方法は、血液中のVprの濃度測定について有用なだけでなく、例えば、細胞内、組織内でのVprの存在場所の特定やVprの関与が予想されている細胞内情報伝達機構の解明などの従来の解析方法ではできなかった研究を行うための手段が提供されると同時にVprの関与が原因となり生じる細胞内情報伝達機構の異常として捉えられている、HIV-1感染からAIDS発病の原因解明の手段が提供される。また、これらに使用されるモノクローナル抗体が提供され、更にこのモノクローナル抗体を産生する有用な融合細胞が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の第一であるアミノ酸配列(1)VTRQRRARNGASRSのVpr蛋白質由来ペプチド
本発明においてVprタンパク質は、免疫不全ウイルスにおいて多機能を有する約12kDaから約18kDa、好ましくは約15kDaのアクセサリータンパク質を意味する。Vprは、一般には細胞周期異常、遺伝子不安定化、G2/M期間の停止、アポトーシスやHIV-1を含む免疫不全ウイルスの複製促進作用等の生物学的な機能が知られている。Vprは特に、HIV-1においてよく研究されているが、HIV-2、SIV等のウイルスにおいてもその存在が確認されており、HIV-1と同一のアミノ酸配列を示す。またHIV-2は、Vprに加えてVprと高い塩基配列及びアミノ酸配列相同性を有するVpxというタンパク質を有する(非特許文献9)。
【0019】
Vprタンパク質のアミノ酸配列は公知であり、例えば、非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13等の文献に記載されている。しかし、天然のタンパク質の中にはそれを生産する生物種の品種の違いや、生態型(ecotype)の違いによる遺伝子の変異、あるいはよく似たアイソザイムの存在などに起因して1から複数個のアミノ酸変異を有する変異タンパク質が存在することは周知である。よって、本発明で着目したVpr由来のアミノ酸配列(1)、アミノ酸配列(2)はその全長のみではなく、1ないし複数のアミノ酸残基が置換され、あるいは1ないし数個のアミノ酸残基が欠失した変異体も含む。
【0020】
特に、Vprは典型的にはレトロウイルスである免疫不全ウイルスに関連するものであり、一般に通常の蛋白質よりも変異が生じやすい。なお、本明細書で使用する用語「アミノ酸変異」とは、1以上のアミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加などを意味する。
【0021】
上述したように、Vprは本明細書中に記載した特性を有する限り全ての相同タンパク質を含むことが意図される。相同性は少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。なお、上記ペプチドを構成するアミノ酸残基の立体構造はD、LまたはDLであることが出来るが、該ペプチドは通常L体である。
【0022】
本明細書において、相同性のパーセントは、例えばAltschulら(非特許文献14)に記載されているBLASTプログラムを用いて配列情報と比較し、決定することが可能である。当該プログラムは、インターネット上でNational Center for Biotechnology Information(NCBI)、あるいはDNA Data Bank of Japan(DDBJ)のウェブサイトから利用することが可能である。BLASTプログラムによる相同性検索の各種条件(パラメーター)は同サイトに詳しく記載されており、一部の設定を適宜変更することが可能である。検索はデフォルト値を用いて行う。
【0023】
一般的に、同様の性質を有するアミノ酸同士の置換(例えば、ある疎水性アミノ酸から別の疎水性アミノ酸への置換、ある親水性アミノ酸から別の親水性アミノ酸への置換、ある酸性アミノ酸から別の酸性アミノ酸への置換、あるいはある塩基性アミノ酸から別の塩基性アミノ酸への置換)を導入した場合、得られる変異タンパク質は元のタンパク質と同様の性質を有することが多い。遺伝子組換え技術を使用して、組換えタンパク質を所望の変異で修飾する手法は当業者に周知であり、このような変異タンパク質も本発明の範囲に含まれる。本発明は、請求項1に記したVpr蛋白質のC末端から14個(配列番号1のアミノ酸残基83から96)の次のアミノ酸配列(1)VTRQRRARNGASRSを有するペプチド、またはアミノ酸配列(1)において1ないし数個のアミノ酸が欠失、置換または追加されたアミノ酸配列からなりかつアミノ酸配列(1)と同等の抗原活性を示すペプチドからなる抗原に関する。
【0024】
本発明の抗原であるアミノ酸配列(1)は以下のようにして見だした。基本的なHIV-1由来Vprは96残基のアミノ酸からなる(配列番号1)。Vprのアミノ酸配列に基づいて、定法に従い、その二次構造をエピトープ解析ソフトウエアにより比較した。(1)親水性予測によって親水性の高い部位、(2)二次構造予測によってβ−ターンのある部位(3)Flexibility予測によってフレキシブルな部位がVprの立体構造表面に存在しエピトープとなりうる部位であると予測しC-末端のアミノ酸配列(1)VTRQRRARNGASRSとN-末端のアミノ酸配列(2)MEQAPEDQGPQREPYNを選定した(配列番号1のアミノ酸残基1から16)。Vpr蛋白質は上述したように、他のHIV関連蛋白質と同様に非常に変異を起こしやすい蛋白質であることが知られている。そこで、既に多数の報告がある個人エイズ患者から単離されたVpr遺伝子から予測されたVpr蛋白質のアミノ酸配列と比較し、アミノ酸配列(1)及び(2)はVpr蛋白質の配列中で殆ど変異がない部位であることを確認した。比較結果を図3に示す。しかし、エピトープ解析ソフトウエアから予測されるペプチドを抗原として得られた抗体が必ず目的の蛋白質を認識し目的の測定方法に使用できると推察することは困難である。そこで、エピトープ解析ソフトウエアで予測したペプチドが抗体の認識部位となり得るかを確認するため、リコンビナントVprをウサギに免疫しポリクローナル抗体を作製し、その抗体の認識部位の検証を行った。表1に本発明者らが行ったリコンビナントVprで作製したポリクローナル抗体の反応性及び合成ペプチドを用いて行った認識部位の検証結果のまとめを示す。
【0025】
【表1】

ウサギ2羽(Rab #1, Rab. #2)に大腸菌で発現させたN末端側に6Hisタグを導入したリコンビナントVpr(His-Vpr、実施例2に示す)を免疫し、得られた抗血清中に含まれる抗体の種類をHis-Vpr、N末端側に6Hisタグを導入したVprとは異なるリコンビナント蛋白質(His-NC)、Vprのアミノ酸番号1から16番目(アミノ酸配列:MEQAPEDQGPQREPYN)の合成ペプチド(N-ter.)、Vprのアミノ酸番号83から96番目(アミノ酸配列:VTRQRRARNGASRS)の合成ペプチド(C-ter.)を固相用抗原として作製した、それぞれのマイクロタイタープレートを用いて行った、ELISAの結果を示す。それぞれのウサギから得られた抗血清中に含まれる抗体の殆どは、Vprのアミノ酸番号1から16番目(アミノ酸配列:MEQAPEDQGPQREPYN)に対する抗体であった。Rab. #2抗血清中には、Vprのアミノ酸番号83から96番目(アミノ酸配列:VTRQRRARNGASRS)に対する抗体も含まれていることから、アミノ酸番号1から16番目よりは低いが、抗原性があることも確認できた。Vprのアミノ酸番号1から16番目(アミノ酸配列:MEQAPEDQGPQREPYN)に対する抗体を作製する場合は今回用いたリコンビナント蛋白或いは、Vprのアミノ酸番号1から16番目(アミノ酸配列:MEQAPEDQGPQREPYN)の合成ペプチドでも作製できることが推測される。Vprのアミノ酸番号83から96番目(アミノ酸配列:VTRQRRARNGASRS)に対する抗体を作製する場合は合成ペプチドが望ましいことが予測される。
【0026】
サンドイッチELISAを開発するためには認識部位の異なった2種類の抗体が必要である。衆知にように、ポリクローナル抗体は免疫個体間で抗原蛋白質に対する反応性、つまり、目的蛋白質に対する抗体の中に含まれる測定系を構築するために必要となる抗体の割合に違いが生じ、安定的に測定系を供給していく為には、好ましくない。しかし、リコンビナントVprを抗原とした場合、N末端領域を認識する高親和性の抗体はウサギを用いて安定的に容易に作製できる。Vpr ELISAを構築するために必要なもう1種類のC末端領域を特異的に認識する抗体を大量に必要になる。この領域はポリクローナル抗体が得にくいため、モノクローナル抗体が必要になる。モノクローナル抗体を得るためには、抗原を免疫感作させた哺乳動物から取得される抗体産生細胞と哺乳動物骨髄腫系細胞とを細胞融合させたのち、目的とする抗体を産生する融合細胞を選択することを特徴とし、得られた融合細胞を培養することで容易に多量に同じモノクローナル抗体が得られるという利点がある。図4に本発明者らが行ったポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の反応性の検証結果を示す。
【0027】
本発明の第二であるモノクローナル抗体及び本発明の第三である融合細胞
このモノクローナル抗体の作製について以下に説明する。
(A. 抗原)
アミノ酸配列(1)を有するペプチドを固相法または液相法により合成し、続いて得た粗精製物を逆相クロマトグラフィーにより95%以上の純度に精製し、免疫原として使用した。当該ペプチドは比較的低分子であるため、このものをそのまま免疫しても抗体ができにくい。そこで(1)はN末端側に人為的にシステイン残基を導入し、システイン残基に存在しているSH基を介して、m-maleimide-benzoyl-N-hydoroxysuccinimide(MBS)を用いてキャリアー蛋白質と結合させることにより免疫原として使用する。N末端側のアミノ基を1-ethyl-3-(3-dimethylaminoprppyl)carbodiimide hydrochloride(EDC)を用いてキャリアー蛋白質と結合させることにより免疫原として使用することも可能である。EDCを用いる場合は、リジン残基のようにアミノ基が存在するアミノ酸が抗原ペプチド内に存在する場合は注意を要する。キャリアー蛋白質はKeyhole Limpet Hemocyanin (KLH)を用いたが、アルブミン、サイログロブリンを用いることもできる。
【0028】
(B. 上記抗原による免疫)
免疫動物としては哺乳動物であるマウスのほかラット、ハムスターなども用いることができる。通常マウスが最も汎用され、BALB/cマウス、その他の系統(strain)のマウス(BDF1、C3Hなど)を用いることができる。この際、免疫計画及び抗原の濃度は十分な量の抗原刺激を受けたリンパ球が形成されるよう選ばれるべきである。例えば抗原はフロイント完全アジュバントまたはフロイント不完全アジュバントと共に混合しエマルジョンとする。マウス1匹にペプチド量として25μgの抗原を複数回皮下、皮内または腹腔に免疫する。該マウスの血液を採取して常法に従い血液中に抗体が産生されていることを確認した後、さらにPBSなどで溶解した25μgの抗原を静脈に投与する。最終免疫の数日後に融合のための脾臓細胞を取り出す。
【0029】
(C. 細胞融合)
上記のごとく免疫した哺乳動物の個体から脾臓を無菌的に取り出し、そこから単細胞懸濁液を調製する。この脾臓細胞(抗体産生細胞)を適当な細胞株として確立されている骨髄腫細胞と適当な細胞融合促進剤の使用により細胞融合させる。骨髄腫細胞としては免疫動物と同種の哺乳動物に由来するものが望ましいが、ラット、ハムスター等の脾臓細胞とマウス骨髄腫細胞とを融合させることもできる。抗体産生細胞としてはフットパッドに免疫することにより抗原刺激を行ったリンパ節細胞を用いることもできる。抗体産生細胞と骨髄腫細胞の好ましい融合比率は約20:1〜約2:1の範囲である。約108個の抗体産生細胞について0.5〜1.5mLの融合媒体の使用が適当である。好ましい融合促進剤としては、例えば平均分子量1000〜6000のポリエチレングリコールを有利に使用できるが、この分野で知られている他の融合促進剤(例えばセンダイウイルス)を用いることもできる。また、これら融合促進剤を用いた方法以外に電気ショックを用いる方法により細胞融合を行ってもよい。
【0030】
(D. 目的とするモノクローナル抗体を産生する融合細胞の選択)
細胞融合処理を行った細胞は未融合の抗体産生細胞、未融合の骨髄腫細胞及び融合した細胞(抗体産生細胞と骨髄腫細胞の融合細胞、抗体産生細胞と抗体産生細胞の融合細胞、骨髄腫細胞と骨髄腫細胞の融合細胞)が混合した状態である。混合細胞は別の容器(例えばマイクロタイタープレート)で骨髄腫細胞を支持しない選択培地で希釈し、骨髄腫細胞を死滅させるのに十分な時間(約2週間)培養する。選択培地としては、例えばHAT培地が使用できる。この選択培地中では骨髄腫細胞は死滅する。抗体産生細胞は非腫瘍性細胞なので不死化されていない。そのため、ある一定期間経過(約1週間)すると死滅する。これに対して抗体産生細胞と骨髄腫細胞の融合細胞は親骨髄腫細胞の不死性と親抗体産生細胞の選択培地での生存性の性格を合せ持つため、選択培地中で生存できる。かくして、融合細胞が検出された後、前記アミノ酸配列(1)を有するペプチドに対する抗体について酵素免疫測定法(Enzyme Linked Imunosorbent Assay)によりスクリーニングを行い、免疫原と特異的に結合するモノクローナル抗体を産生する融合細胞だけを選択する。目的とするモノクローナル抗体が蛋白質であり、免疫原が合成ペプチドなどの目的とする蛋白質の一部からなる物質であった場合は、さらに、目的とする蛋白質と特異的に結合するモノクローナル抗体を産生する融合細胞選択する。このような融合細胞として、例えば融合細胞クローン2C7(受託番号:FERM AP-20367)または融合細胞クローン4D2(受託番号:FERM AP-20366)が挙げられる。
【0031】
(E. 目的とするモノクローナル抗体の取得)
目的とするモノクローナル抗体を産生する融合細胞を適当な方法(例えば限界希釈法)でクローン化した後、抗体は2つの異なった方法で産生することができる。その第一の方法によれば、融合細胞を一定期間、適当な培地で培養することにより、その培養上清からその融合細胞の産生するモノクローナル抗体を得ることができる。第二の方法によれば、融合細胞は同質遺伝子、または半同質遺伝子を持つ免疫動物の腹腔内に投与し増殖させることができる。融合細胞を腹腔内に投与後一定期間の宿主の腹水中より、その融合細胞の産生するモノクローナル抗体を得ることができる。通常、効率的に腹水を得るため、融合細胞を腹腔内に投与する前に、予め腹腔にプリステンなどを投与することが行われる。
【0032】
本発明の第四である免疫学的測定方法
本発明の免疫学的測定方法は、前記抗体を公知の免疫学的測定方法(例えばサンドイッチ法)で行なうことができる。その方法は、モノクローナル抗体を固相用抗体として用いることも、またモノクローナル抗体を検出用抗体として用いることも可能である。
【0033】
モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体のいずれかを適当な不溶性担体に固定化する。次いで不溶性担体と測定しようとする検査試料との非特異的結合を避けるために適当な物質(例えば牛血清アルブミン)で不溶性担体の表面を被覆する。このようにして得られた第1抗体が固定化された不溶性担体を、検査試料と一定時間および一定温度で接触反応させる。かくして第1抗体にVprタンパク質が結合する。次いで適当な洗浄剤で洗った後、適当な標識物質(例えば酵素)で標識化した第2抗体の溶液を、不溶性担体における第1抗体に結合した遊離のVprタンパク質と一定時間および一定温度で接触させ反応させる。これを適当な洗浄剤で洗い、次いで不溶性担体上に結合した第2抗体(標識化抗体)の標識物質の量を測定する。
【0034】
また、本発明の免疫学的測定方法は、一段法でも行なうこともできる。すなわち、不溶性担体に固定化された第1抗体、標識化された第2抗体および検査試料を同時に混合し、これらを一定時間且つ一定温度で反応させ、そして標識物質の量を測定することにより行なうことができる。
【0035】
本発明の免疫学的測定方法に基づくキットは、通常のサンドイッチ法における試薬の組合せに基いてキットが構成される。すなわち(1)不溶性担体に固定化された第1抗体、(2)標識化された第2抗体、(3)溶解剤、(4)洗浄剤および(5)標識物質が酵素である場合には、酵素活性を測定するための基質および反応停止剤を含んでいる。
【0036】
不溶性担体としては、例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアクリルニトリル、弗素樹脂、架橋デキストラン、ポリサッカライドなどの高分子、その他紙、ガラス、金属、アガロースおよびこれらの組合せなどが使用可能である。また、不溶性担体の形状としては、トレイ状、球状、繊維状、棒状、盤状、容器状、セル、試験管などの種々の形状が適用可能である。
【0037】
標識化抗体の標識物質としては、酵素、蛍光物質、発光物質および放射性物質等を使用するのが有利である。酵素としては、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β―D―ガラクトシダーゼ、蛍光物質としてはフルオレッセインイソチオシアネート、フイコビリプロテイン等、発光物質としてはイソルシノール、ルシゲニン等、そして放射性物質としては125I、131I、14C、3H等を用いることができるが、これらは例示したものに限らず、免疫学的測定法に使用し得るものであれば、他のものでも使用できる。
【0038】
標識物質が酵素である場合には、その活性を測定するために基質、必要により発色剤が用いられる。酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合には、基質としてH2O2を用い、発色剤として2,2′―アジノジ―[3―エチルベンズチアゾリンスルホン酸]アンモニウム塩(ABTS)、5―アミノサリチル酸、o―フェニレンジアミン、4―アミノアンチビリン、3,3′,5,5′―テトラメチルベンジジン等、酵素にアルカリフォスファターゼを用いる場合は基質としてo―ニトロフェニルフォスフェート等、酵素にβ―D―ガラクトシダーゼを用いる場合は基質としてフルオレセイン―ジ―(β―D―ガラクトピラノシド)、4―メチルウンベリフェリル―β―D―ガラクトピラノシド等を用いることができる。
【0039】
前記免疫学的測定のキットにおいて(3)溶解剤としては、免疫学的測定に通常使用されるものであればよく、例えばリン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、酢酸緩衝液などを含んだpHが6.0〜8.0の範囲のものが好適な例として示される。さらに(4)洗浄剤としては、同様に免疫学的測定に一般的に使用されているものがそのまま使用される。その例としては、生理食塩水、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液およびこれらの混合液が挙げられる。これらの洗浄剤にはさらにTriton X-100、Tween 20またはBrig 35等の非イオン系界面活性剤、ドデシル硫酸ナトリウム等のイオン系界面活性剤を加えてもよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、以下の実施例において、特に記載がない限り、アミノ酸残基の立体構造はL体である。
【0041】
(実施例1) 免疫源の調製
次のアミノ酸配列を有するペプチドを合成し、免疫原および抗体価確認用抗原として使用した。
(1) H-VTRQRRARNGASRS-OH
(2) H-MEQAPEDQGPQREPYNC-OH
当該ペプチドは比較的低分子であるため、このものをそのまま免疫しても抗体ができにくい。そこで(1)はN末端側のアミノ基を1-ethyl-3-(3-dimethylaminoprppyl)carbodiimidehydrochloride(EDC)を用いてキャリアー蛋白質と結合させることにより免疫原として使用した。(2)はC末端側に人為的に導入したシステイン残基をm-maleimide-benzoyl-N-hydoroxysuccinimide(MBS)を用いてキャリアー蛋白質と結合させることにより免疫原として使用した。なお、本実施例ではキャリアー蛋白質としてKeyhole Limpet Hemocyanin (KLH)を用いたが、アルブミン、サイログロブリンを用いることもできる。
【0042】
(実施例2) リコンビナントVprの取得
生体中のVprを定量するための標準物質として、Vprの全長をコードしているアミノ酸配列に基づきcDNA合成を行い、大腸菌発現系を用いてVprを調製した。Vpr遺伝子(cDNA)はその塩基配列を発現に用いた大腸菌にコドン使用頻度を合せ、全配列を合成し、ベクターに導入した。発現蛋白を不溶化分画で回収した後、尿素などで可溶化し精製する必要があるため、His-tagを導入できるpET28aを選択した。ベクターとしてはVpr蛋白がまず、不溶性画分に回収出来ればその目的を達するため、pET28a以外のベクターを用いることも可能である。His-tagとの融合タンパク質として発現させた後、Ni-NTAアガロース(Qiagen社製)を用い、精製を行った。
【0043】
(実施例3) マウスの免疫
免疫動物としてBALB/cマウスを用いた。この際、上記実施例1記載の抗原をフロイント完全アジュバントまたはフロイント不完全アジュバントと共に混合しエマルジョンとし、マウス1匹にペプチド量として25μgの抗原を複数回皮下、皮内または腹腔に免疫した。該マウスの血液を採取して常法に従い血液中に抗体が産生されていることを確認した後、さらにPBSなどで溶解した25μgの抗原を静脈に投与し、最終免疫の数日後に融合のための脾臓細胞を取り出した。
【0044】
(実施例4) 細胞融合及び目的とするモノクローナル抗体を産生する融合細胞の選択と取得
上記のごとく脾臓細胞懸濁液を調製し、マウス骨髄腫細胞とを、平均分子量1000〜6000のポリエチレングリコールを用い融合した。抗体産生細胞と骨髄腫細胞の融合比率は約20:1〜約2:1の範囲で行った。混合細胞はマイクロタイタープレートで骨髄腫細胞を支持しない選択培地HAT培地で希釈し、骨髄腫細胞を死滅させるのに十分な時間(約2週間)培養し、融合細胞を得た。得られた融合細胞において、前記アミノ酸配列(1)を有するペプチドに対する抗体について酵素免疫測定法(Enzyme Linked Imunosorbent Assay)によりスクリーニングを行い、免疫原と特異的に結合するモノクローナル抗体を産生する融合細胞だけを選択した。このようにして、融合細胞として、クローン2C7(受託番号:FERM AP-20367)、クローン4D2(受託番号:FERM AP-20366)、クローン1H1、クローン4H1が得られた。目的とするモノクローナル抗体を産生する融合細胞を限界希釈法でクローン化した後、融合細胞をマウスの腹腔内に投与し、一定期間の宿主の腹水中より、その融合細胞の産生するモノクローナル抗体を得た。なお、効率的に腹水を得るため、融合細胞を腹腔内に投与する前に、予め腹腔にプリステンを投与した。
【0045】
(実施例5) モノクローナル抗体の特異性の確認
実施例4で得られた融合細胞クローンから産生されたモノクローナル抗体は合成ペプチドを免原として得られたモノクローナル抗体である。そこで、Vpr蛋白に対する反応性を以下に示した3種類の方法で確認した。
(5−1)ELISAによるリコンビナントVprに対する反応性の確認
実施例4で得られた融合細胞クローン2C7(受託番号:FERM AP-20367)、クローン4D2(受託番号:FERM AP-20366)、クローン1H1、クローン4H1から産生された4種類のモノクローナル抗体について、ELISAによりリコンビナントVprに対する反応性の確認をした結果を図3に示す。尚、図4中、「2C7」はクローン2C7から産生されるモノクローナル抗体、「4D2」はクローン4D2から産生されるモノクローナル抗体、「1H1」はクローン1H1から産生されるモノクローナル抗体、「4H1」はクローン4H1から産生されるモノクローナル抗体、「N-term」はVprのアミノ酸番号1から16番目(アミノ酸配列:MEQAPEDQGPQREPYN)に対するウサギポリクローナル抗体、「C-term」はVprのアミノ酸番号83から96番目(アミノ酸配列:VTRQRRARNGASRS)に対するウサギポリクローナル抗体を表す。ELISAは定法に従い、リコンビナントVprを10mg/mLの濃度でマイクロタイタープレート(ヌンク社製)に固相化したプレートを用いた。マウスモノクローナル抗体の検出はHRP標識抗マウスIgG(H;L)(バイオラッド社製)、ウサギポリクローナル抗体の検出はHRP標識抗ウサギIgG(H;L)(バイオラッド社製)、を用いて行った。何れのモノクローナル抗体ともマイクロプレートに固相化されたリコンビナントVprを認識する抗体であったが、モノクローナル抗体2C7、4D2がモノクローナル抗体1H1、4H1に比べ強く反応していることが明らかとなった。
【0046】
(5−2)ウエスタンブロット(WB)法によるリコンビナントVprに対する反応性の確認
次に、WBによりリコンビナントVprに対する反応性の確認をした結果を図5に示す。なお、図5中、「2C7」はクローン2C7から産生されるモノクローナル抗体、「4D2」はクローン4D2から産生されるモノクローナル抗体、「1H1」はクローン1H1から産生されるモノクローナル抗体、「4H1」はクローン4H1から産生されるモノクローナル抗体、「N-term」はVprのアミノ酸番号1から16番目(アミノ酸配列:MEQAPEDQGPQREPYN)に対するウサギポリクローナル抗体、「C-term」はVprのアミノ酸番号83から96番目(アミノ酸配列:VTRQRRARNGASRS)に対するウサギポリクローナル抗体を表す。WBは定法に従い、リコンビナントVprを含む大腸菌抽出液をSDS-PAGE用サンプル処理液で処理した後、1レーン当り2mgでSDS-PAGEを行い、PVDFメンブレンに蛋白を転写した後行なった。図中のCBBは転写後のメンブレンをクマシー染色したものである。Vprに対するそれぞれの抗体は1mg/mLの濃度で反応させた。マウスモノクローナル抗体の検出はHRP標識抗マウスIgG(H;L)(バイオラド社製)、ウサギポリクローナル抗体の検出はHRP標識抗ウサギIgG(H;L)(バイオラド社製)、を用いて行った。何れのモノクローナル抗体ともリコンビナントVprを認識する抗体であったが、4H1モノクローナル抗体はたの3つのモノクローナル抗体と比較すると、反応性が弱い抗体であった。また、4H1抗体以外の3つのモノクローナル抗体も1量体と思われるVprに対する反応性には大きな違いは認められなかったが(図中の下の矢印)、2量体と思われるVprに対する反応性には、僅かではあるが、それぞれ3つのモノクローナル抗体で異なる結果であった(図中の上の矢印)。
【0047】
(5−3)免疫沈降法によるリコンビナントVprに対する反応性の確認
本モノクローナル抗体はヒト血清中のVprの検出へ応用することを目的としている。そこで、ヒト正常血清にリコンビナントVprを添加した血清(図中 + で示す)或いは、未添加の血清(図中 - で示す)を用いて、液相中でのVprへの反応性の確認を行った結果を図6に示す。方法は、精製モノクローナル抗体50mgを市販のProtein Aゲル20mL(アマシャムファルマシア社製)に吸着させた。精製リコンビナントVprを100mg/mLになるようになるように添加後の血清、或いは未添加のヒト血清を緩衝液で10倍希釈した後、100mLをゲルに添加し、混合・反応させた。血清と反応後のゲルは良く洗浄した後、SDS-PAGE用サンプル処理液で処理しSDS-PAGEを行った。電気泳動後のゲルは、ビオチン標識した、Vprのアミノ酸番号83から96番目(アミノ酸配列:VTRQRRARNGASRS)に対するウサギポリクローナル抗体とHRP標識ストレプトアビジンとを用いたWBにて確認した。図左は電気泳動後のゲルをクマシー染色(CBB)した結果、図右はWBの結果である。何れのモノクローナル抗体とも液相中のリコンビナントVprを認識する抗体であったが、モノクローナル抗体4D2がモノクローナル抗体2C7、1H1に比べ強い反応性を示し、モノクローナル抗体4H1がモノクローナル抗体2C7、1H1に比べ弱い反応性を示している結果であった。免疫沈降法の結果と、先に示したELISA、ウエスタンブロット法の結果とを合せて、ヒト血清中のVprの検出のため、モノクローナル抗体2C7、4D2を選択した。
【0048】
(実施例6) モノクローナル抗体を固相用抗体として用いるVpr蛋白質の測定方法の構築(図7)
実施例5で選択した融合細胞クローンから産生されたモノクローナル抗体2C7または4D2を固相用抗体として用いて行ったVprのサンドイッチELISAの結果を図7に示す。マイクロタイタープレートへの固相化は、定法に従い行った。固相化の条件はPBSで10mg/mLに調製した抗体溶液を1ウエル当り0.1mL添加し行った。比較対照として、Vprのアミノ酸番号83から96番目(アミノ酸配列:VTRQRRARNGASRS)に対するウサギポリクローナル抗体(図中
cAbで示す)の固相化も同時に行った。それぞれの抗体を固相化したプレートはBSAでブロキングを行った後、ELISAに用いた。検体は精製リコンビナントVprを50、5、0.5、0(ng/mL)になるように緩衝液を用いて調製したものを用いた。検体は、抗体を固相化したマイクロタイタープレートの1ウエル当り0.1mL加え反応させ液相中のVprを捕捉した。捕捉したVprはビオチンを標識した、Vprのアミノ酸番号1から16番目(アミノ酸配列:MEQAPEDQGPQREPYN)に対するウサギポリクローナル抗体、とHRP標識ストレプトアビジンとを用いて行った。両モノクローナル抗体ともVprのサンドイッチELISAの固相用抗体として、使用できる抗体であることが確認された。
【0049】
(実施例7) モノクローナル抗体を検出用抗体として用いるVpr蛋白質の測定方法の構築
実施例5で選択した融合細胞クローンから産生されたモノクローナル抗体2C7または4D2を検出用抗体として用いて行った、VprのサンドイッチELISAの結果を図8に示す。固相の作製は、実施例6と同様に、Vprのアミノ酸番号1から16番目(アミノ酸配列:MEQAPEDQGPQREPYN)に対するウサギポリクローナル抗体を、PBSで10mg/mLに調製した溶液を1ウエル当り0.1mL添加し行った。比較対照として、実施例6で行ったサンドイッチELISA(Vprのアミノ酸番号83から96番目(アミノ酸配列:VTRQRRARNGASRS)に対するウサギポリクローナル抗体を固相用、ビオチンを標識したVprのアミノ酸番号1から16番目(アミノ酸配列:MEQAPEDQGPQREPYN)に対するウサギポリクローナル抗体を検出用抗体として用いたELISA、図中N-biotinで示す)を行った。両モノクローナル抗体ともVprのサンドイッチELISAの検出用抗体として、使用できる抗体であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】HIVゲノム中に同定されている遺伝子を示す。
【図2】HIVウイルス粒子の模式図を示す。
【図3】Vpr蛋白質の変異を受けるアミノ酸部位及び変異アミノ酸を示す。
【図4】リコンビナントVpr蛋白質を用いたときの抗体(精製IgG)濃度に対する吸光度の関係を表すグラフを示す。
【図5】Vpr蛋白質に対する抗体(精製IgG)の結合性をウエスタンブロット法で確認した図を示す。
【図6】液相中に存在するVpr蛋白質に対する抗体(精製IgG)の結合性を免疫沈降法で確認した図を示す。
【図7】Vpr対するモノクローナル抗体を固相用抗体として用い実施したELISAの結果を表すグラフを示す。
【図8】Vpr対するモノクローナル抗体を検出用抗体として用い実施したELISAの結果を表すグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のa)またはb)であることを特徴とする、抗原:
a) Vpr蛋白質のC末端から14個(配列表の配列番号1における83〜96番目のアミノ酸:VTRQRRARNGASRS)よりなるペプチドを有し、抗原活性を示す抗原。
b) Vpr蛋白質のC末端から14個(配列表の配列番号1における83〜96番目のアミノ酸:VTRQRRARNGASRS)よりなるペプチドのうち、1ないし数個のアミノ酸が欠失、置換または追加されたアミノ酸配列よりなるペプチドを有し、抗原活性を示す抗原。
【請求項2】
請求項1に記載の抗原を免疫感作させた哺乳動物から取得される抗体産生細胞と、哺乳動物骨髄腫系細胞との融合により得られる融合細胞。
【請求項3】
融合細胞が、クローン2C7(受託番号:FERM AP-20367)またはクローン4D2(受託番号:FERM AP-20366)である、請求項2記載の融合細胞。
【請求項4】
請求項2または3に記載の融合細胞により産生される、HIV-1由来Vpr蛋白質に結合するモノクローナル抗体。
【請求項5】
下記a)からc)及びd)からf)の工程よりなる、請求項4に記載のモノクローナル抗体を固相用抗体として用いたVpr蛋白質の免疫学的測定方法:
a) 請求項4記載のモノクローナル抗体を不溶性支持体に結合せしめてなる固相化抗体に標準物質を反応せしめた後、
b) 請求項4記載のモノクローナル抗体と異なった認識部位を持つVprを認識する抗体を酵素により標識化した標識抗体を反応させ、
c) 酵素の反応生成物量を測定することにより検量線を作成する工程、及び
d) 前記固相化抗体に検体を反応せしめた後、
e) 請求項4記載のモノクローナル抗体と異なった認識部位を持つVprを認識する抗体を酵素により標識化した標識抗体を反応させ、
f) 酵素の反応生成物量を測定し、前記検量線から検体中に含まれるVpr蛋白質を測定する工程
【請求項6】
下記a)からc)及びd)からf)の工程を含むことを特徴とする請求項4に記載のモノクローナル抗体を検出用抗体として用いたVpr蛋白質の免疫学的測定方法:
a) 請求項4記載のモノクローナル抗体と異なった認識部位を持つVprを認識する抗体を不溶性支持体に結合せしめなる固相化抗体に標準物質を反応せしめた後、
b) 請求項4記載のモノクローナル抗体を酵素により標識化した標識抗体を反応させ、
c) 酵素の反応生成物量を測定することにより検量線を作成する工程、及び
d) 前記固相化抗体に検体を反応せしめた後、
e) 請求項4記載のモノクローナル抗体を酵素により標識化した標識抗体を反応させ、
f) 酵素の反応生成物量を測定し、前記検量線から検体中に含まれるVpr蛋白質を測定する工程
【請求項7】
請求項4記載のモノクローナル抗体と異なった認識部位を持つVprを認識する抗体が、以下のa)からc)のいずれかであることを特徴とする、請求項5または6に記載の免疫学的測定方法:
a) Vpr蛋白質のN末端から16個のアミノ酸(配列表の配列番号1における1〜16番目のアミノ酸:MEQAPEDQGPQREPYN)よりなるペプチドを有し、抗原活性を示す抗原を免疫感作させた哺乳動物から取得される抗体産生細胞と、哺乳動物骨髄腫系細胞との融合により得られる融合細胞から産生されるモノクローナル抗体。
b) Vpr蛋白質のN末端から16個のアミノ酸(配列表の配列番号1における1〜16番目のアミノ酸:MEQAPEDQGPQREPYN)よりなるペプチドのうち、1ないし数個のアミノ酸が欠失、置換または追加されたアミノ酸配列よりなるペプチドを有し、抗原活性を示す抗原を免疫感作させた哺乳動物から取得される抗体産生細胞と、哺乳動物骨髄腫系細胞との融合により得られる融合細胞から産生されるモノクローナル抗体。
c) リコンビナントVprを免疫原として哺乳動物に免疫感作させ、作製した抗血清より精製したポリクローナル抗体
【請求項8】
標準物質が、リコンビナントVprであることを特徴とする、請求項5から7のいずれかに記載の免疫学的測定方法。
【請求項9】
標識物質が酵素、蛍光物質またはビオチンであることを特徴とする、請求項5から8のいずれかに記載の免疫学的測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−290743(P2006−290743A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109240(P2005−109240)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】