説明

X線低減ミラーおよび荷電粒子線装置

【課題】本発明は、電子ビームを受けた際に発生するX線の量を低減することができるX線低減ミラーを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明のX線低減ミラー10は、樹脂フィルム16と、前記樹脂フィルム16上に形成された金属薄膜17とを備えている。このX線低減ミラー10は、電子ビームを受けた際に発生するX線の量が、従来のミラーと比較して小さいので、高解像度CCDカメラに内蔵されたCCD素子のX線による影響が低減される。その結果、このX線低減ミラー10を使用する荷電粒子線装置によれば、試料の可視化像に基づいて試料をデジタルデータで評価および分析を行う際に高精度で行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線低減ミラー、およびこれを用いた荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、荷電粒子線装置に係る分野において、試料の可視化像をミラーで反射させて撮像する透過型電子顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1参照)。この透過型電子顕微鏡では、試料を透過した電子ビームが蛍光板に照射されることによって試料の可視化像が投影される。そして、この透過型電子顕微鏡では、蛍光板の可視化像をCCDカメラなどで撮像する場合に、CCDカメラを電子ビームの照射軸から外して配置するとともに、照射軸上に配置したミラーで蛍光板に投影された可視化像を反射させて撮像するようになっている。このような透過型電子顕微鏡では、蛍光板を透過した電子ビームが、直にCCDカメラに取り込まれることがないので、CCDカメラのCCD素子が破壊される恐れが低減される。
【特許文献1】特開平9−223478号公報(段落0008、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、一般に、前記したミラーには、石英ガラスや金属板が使用されており、電子ビームが照射されたミラーは、X線を発生する。
その一方で、近年の透過型電子顕微鏡では、より鮮明な試料の観察画像を得るために、可視化像の撮像に高解像度CCDカメラが使用されている。しかしながら、高解像度CCDカメラのCCD素子がX線を取り込んでしまうと、可視化像に基づいて試料をデジタルデータで評価および分析を行う際に精度が低下するという問題がある。そのため、電子ビームを受けた際に発生するX線の量を低減することができるミラーが望まれている。
【0004】
そこで、本発明の課題は、電子ビームを受けた際に発生するX線の量を低減することができるX線低減ミラー、およびこれを用いた荷電粒子線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決する本発明のX線低減ミラーは、樹脂フィルムと、前記樹脂フィルム上に形成された金属薄膜とを備えることを特徴とする。
また、本発明の荷電粒子線装置は、可視化された電子顕微鏡像を、ミラーで電子ビーム軸上から反射させて撮像する荷電粒子線装置において、前記ミラーが、樹脂フィルムと、前記樹脂フィルム上に形成された金属薄膜とを備えることを特徴とする。
本発明のX線低減ミラーおよび荷電粒子線装置では、石英ガラスを有していないのでX線を発生せず、また金属板で形成された従来のミラーと比較して、薄い金属薄膜で電子ビームを受けるのでX線の発生量が低減される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、電子ビームを受けた際に発生するX線の量を低減することができるX線低減ミラー、およびこれを用いた荷電粒子線装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。参照する図面において、図1は、本実施形態に係る透過型電子顕微鏡(荷電粒子線装置)の構成説明図、図2は、本実施形態に係るX線低減ミラーの厚み方向の断面図である。ここでは、本発明の荷電粒子線装置の一例として透過型電子顕微鏡について説明する。
【0008】
図1に示すように、透過型電子顕微鏡Aは、主に、電子源1と、加速器3と、レンズ群Lと、蛍光板9と、X線低減ミラー10と、撮像装置19とで構成されている。そして、電子源1、加速器3、レンズ群L、蛍光板9、およびX線低減ミラー10は、電子源1から照射される電子ビーム2aの照射軸上に沿ってこの順番で配置されるとともに、カラムC内に収納されている。レンズ群Lは、収束レンズ4、対物レンズ6、中間レンズ7、および投影レンズ8からなり、電子源1側からこの順番で配置されている。そして、収束レンズ4と対物レンズ6との間には、撮像の対象となる試料5が配置されている。
このカラムCには、図示しない排気装置が取り付けられており、カラムC内は、この排気装置によって真空に維持されている。また、カラムCには、後記するX線低減ミラー10で反射される蛍光2bの出口に鉛ガラス11が取り付けられている。
撮像装置19は、光学レンズ12と、シャッター13と、CCD素子15を内蔵する高解像度CCDカメラ14とで構成されており、カラムCに取り付けられた鉛ガラス11から出射される蛍光2bの出射方向に沿うように配置されている。
【0009】
次に、本実施形態に係るX線低減ミラー10について説明する。
図2に示すように、X線低減ミラー10は、樹脂フィルム16と、この樹脂フィルム16上に形成された金属薄膜17と、樹脂フィルム16の周囲を支持する枠部材18とを備えている。
【0010】
樹脂フィルム16の材質としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド等が挙げられ、中でも耐熱性および耐放射線性がともに優れるポリイミドが好ましい。
樹脂フィルム16の厚みは、数μm〜数千μm程度が好ましく、樹脂フィルム16としてポリイミドフィルムを使用する場合には、12.5μm程度でよい。
【0011】
金属薄膜17としては、所定の反射率を有する鏡面を形成することができるものであれば特に制限はなく、例えば、銀やアルミニウムを樹脂フィルム16上に蒸着させたものが挙げられる。
金属薄膜17の厚みは、薄いほどよく、金属薄膜17として、銀やアルミニウムの蒸着薄膜を使用する場合には、製造限界に近い1μm程度に設定することができる。
【0012】
枠部材18は、金属薄膜17を形成した樹脂フィルム16の平面度を良好に維持するものである。この枠部材18としては、例えば、金属や樹脂で形成されるものが挙げられ、中でもアルミニウムで形成されたものが好ましく、Al-Zn-Mg-Cu系合金(高強度アルミニウム)で形成されたものがさらに好ましい。
【0013】
このような透過型電子顕微鏡Aは、電子源1で発生した電子ビーム2aを加速器3で加速するとともに、収束レンズ4を介して試料5に照射する。試料5を透過した電子ビーム2aは、対物レンズ6、中間レンズ7、および投影レンズ8を介して蛍光板9に照射される。そして、蛍光板9は、電子ビーム2aが照射されることによって試料5の可視化像を投影する。X線低減ミラー10は、蛍光板9に投影された試料5の可視化像からの蛍光2bを反射する。反射した蛍光2bは、鉛ガラス11を介して撮像装置19に出射される。そして、高解像度CCDカメラ14のCCD素子15は、蛍光2bに基づいて試料5を撮像する。
【0014】
そして、透過型電子顕微鏡Aでは、X線低減ミラー10が蛍光板9に投影された可視化像の蛍光2bを受ける際に、従来の荷電粒子線装置(例えば、特許文献1参照)と同様に、蛍光板9を透過した電子ビーム2aを受ける。一方、電子ビーム2aを受けたX線低減ミラー10は、従来の荷電粒子線装置と異なって、石英ガラスを有していないのでX線を発生せず、また、金属薄膜17が薄いのでX線の発生量が低減される。
【0015】
以上のような透過型電子顕微鏡Aによれば、X線低減ミラー10が電子ビーム2aを受けた際に発生するX線の量が、従来のミラーと比較して小さいので、高解像度CCDカメラ14に内蔵されたCCD素子15のX線による影響が低減される。その結果、透過型電子顕微鏡Aによれば、試料5の可視化像に基づいて試料5をデジタルデータで評価および分析を行う際に高精度で行うことができる。
【0016】
また、透過型電子顕微鏡Aによれば、枠部材18によって、金属薄膜17を形成した樹脂フィルム16の平面度が良好に維持されているので、優れた分解能を発揮することができる。
【0017】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されることなく、様々な形態で実施される。
前記実施形態では、枠部材18を備えるX線低減ミラー10について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、金属薄膜17を形成した樹脂フィルム16が自己支持性を有するものである場合には、枠部材18を省略することもできる。
【0018】
また、前記実施形態では、X線低減ミラー10が透過型電子顕微鏡に適用された例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、前記X線低減ミラー10は、可視化像を電子ビーム2aの照射軸上から反射させて撮像する構造の様々な荷電粒子線装置において適用できる。このような荷電粒子線装置としては、例えば、走査型電子顕微鏡、走査型透過電子顕微鏡、収束イオンビーム装置等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係る透過型電子顕微鏡(荷電粒子線装置)の構成説明図である。
【図2】実施形態に係るX線低減ミラーの厚み方向の断面図である。
【符号の説明】
【0020】
2a 電子ビーム
10 X線低減ミラー
16 樹脂フィルム
17 金属薄膜
18 枠部材
A 透過型電子顕微鏡(荷電粒子線装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムと、前記樹脂フィルム上に形成された金属薄膜とを備えることを特徴とするX線低減ミラー。
【請求項2】
枠部材で周囲が支持されていることを特徴とする請求項1に記載のX線低減ミラー。
【請求項3】
可視化された電子顕微鏡像を、ミラーで電子ビームの照射軸上から反射させて撮像する荷電粒子線装置において、
前記ミラーが、樹脂フィルムと、前記樹脂フィルム上に形成された金属薄膜とを備えることを特徴とする荷電粒子線装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−149418(P2007−149418A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340017(P2005−340017)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】