説明

X線干渉計用の回折格子及びその製造方法

【課題】X線干渉計用の回折格子について、格子間でのX線に対する透明性を向上させる。
【解決手段】厚み方向Tに間隔を空けて配置されX線を回折可能に構成された複数の格子部材20と、X線に対し透明であり、厚み方向Tに隣接する格子部材20が互いに支え合うように、該格子部材20同士を連結する架橋部材14と、を有している。これにより、格子部材20同士の間(格子間)でのX線に対する透明性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線干渉計用の回折格子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第1および第2の回折格子と、X線画像検出器とを備え、第1の回折格子が、該第1回折格子に照射されたX線を回折してタルボ効果を生じさせ、第2の回折格子が、第1の回折格子により回折されたX線を更に回折し、X線画像検出器が、第2の回折格子により回折されたX線を検出するX線撮像装置が開示されている(特許文献1参照)。また、マルチスリット部の機能をX線発生装置に組み込んだX線撮像装置が開示されている(特許文献2参照)。
【0003】
更に、X線干渉計に用いられる振幅型回折格子の製造方法として、該振幅型回折格子のX線吸収部を、X線マスクによるX線リソグラフィー(LIGA方式)及び電鋳法によって形成することが開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/058070号
【特許文献2】特開2008−145111号公報
【特許文献3】特許第4608679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献3の記載の回折格子では、厚み方向に所定ピッチで形成された格子(X線吸収部)の間に樹脂層が存在しているため、X線を回折する際に、該樹脂層においてある程度X線が吸収されてしまうと考えられる。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、X線干渉計用の回折格子について、格子間でのX線に対する透明性と解像性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載のX線干渉計用の回折格子では、厚み方向に間隔を空けて配置される格子部材が、X線に対し透明な架橋部材により、厚み方向に隣接する該格子部材が互いに支え合うように連結されているので、格子部材同士の間(格子間)でのX線に対する透明性を向上させると共に、X線の直進進行特性を変化させずにより精確に解像性を向上させることができる。
【0008】
請求項2に記載のX線干渉計用の回折格子では、架橋部材が複数の格子部材を貫通しているので、架橋部材の本数を抑制しつつ、各格子部材を安定的に連結することができる。
【0009】
請求項3に記載のX線干渉計用の回折格子の製造方法では、格子間でのX線に対する透明性が高い回折格子を容易に製造することができる。
【0010】
請求項4に記載のX線干渉計用の回折格子の製造方法では、複数のレジスト層を積層する際に、架橋部材を該レジスト層の間に配置するので、該架橋部材をレジスト層の積層方向に広く分布させることができる。このため、各格子部材の連結状態をより安定させることができる。
【0011】
請求項5に記載のX線干渉計用の回折格子の製造方法では、架橋部材を厚み方向に揃えて配置するので、格子部材の連結強度のばらつきを抑制することができる。
【0012】
請求項6に記載のX線干渉計用の回折格子の製造方法では、X線レジスト内に、架橋部材をランダムに混合するので、該架橋部材の配置の際の位置決め作業を省略することができ、基板上での該X線レジストの形成が容易となる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載のX線干渉計用の回折格子によれば、X線干渉計用の回折格子について、格子間でのX線に対する透明性と解像性を向上させることができる、という優れた効果が得られる。
【0014】
請求項2に記載のX線干渉計用の回折格子によれば、架橋部材の本数を抑制しつつ、各格子部材を安定的に連結することができる、という優れた効果が得られる。
【0015】
請求項3に記載のX線干渉計用の回折格子の製造方法によれば、格子間でのX線に対する透明性が高い回折格子を容易に製造することができる、という優れた効果が得られる。
【0016】
請求項4に記載のX線干渉計用の回折格子によれば、各格子部材の連結状態をより安定させることができる、という優れた効果が得られる。
【0017】
請求項5に記載のX線干渉計用の回折格子によれば、各格子部材の連結強度のばらつきを抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【0018】
請求項6に記載のX線干渉計用の回折格子によれば、基板上でのX線レジストの形成が容易となる、という優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】X線レジストを形成する際に、各レジスト層の間に、該X線レジストの厚み方向の長さと対応する長さの架橋部材を配置して行く状態を示す斜視図である。
【図2】図1に対応するX線レジストを示す部分破断斜視図である。
【図3】X線リソグラフィーによって、回折格子の厚み方向となる方向に間隔を空けて溝を形成した状態を示す断面図である。
【図4】X線レジストの溝に、X線を回折するための複数の格子部材を電鋳によって形成した状態を示す断面図である。
【図5】X線干渉計用の回折格子を示す断面図である。
【図6】X線レジスト内に、比較的短い架橋部材を、厚み方向に揃えて断続的に配置した例を示す部分破断拡大斜視図である。
【図7】図6に記載のX線レジストを用いて製造された回折格子を示す断面図である。
【図8】X線レジスト内に、架橋部材を平面的、かつランダムな向きに配置した例を示す部分破断拡大斜視図である。
【図9】X線レジスト内に、架橋部材を立体的にランダムに混合した例を示す部分破断拡大斜視図である。
【図10】図9に記載のX線レジストを用いて製造された回折格子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。
【0021】
(回折格子の製造方法)
図1,図2において、本実施形態に係るX線干渉計用の回折格子の製造方法は、まず、例えばステンレス製の基板12上に、X線に対し透明な架橋部材14を含むX線レジスト16を形成する。
【0022】
X線に対し透明な架橋部材14とは、X線の吸収が少なくなるように、例えば原子量の小さい元素により構成された硬質の繊維(ファイバー等)、断面が円、楕円、或いは四角形等の多角形の棒状部材又は板状部材であって、後述する格子部材20を保持可能な強度及び剛性を有するものである。従って、架橋部材14の素材としては、例えば、炭素やホウ素が好適である。また架橋部材14の素材として、ポリイミドやチタン、アルミナウィスカー等を用いることも可能である。炭素製の架橋部材14の場合、外径は、例えば0.1〜15μmである。
【0023】
X線レジスト16は、例えば複数のレジスト層22からなる積層構造とされる。X線レジスト16には、液体レジストやフィルムレジスト等が用いられる。液体レジストを用いる場合、各レジスト層22の境界は必ずしも明確ではない。従って、架橋部材14は、液体レジストを塗り重ねて行く合間に適宜配置される。フィルムレジストを用いる場合、架橋部材14は、レジスト層22を重ねて行く際に、該レジスト層22の間に適宜配置される。各レジスト層22は、例えば接着剤を用いて接着される。
【0024】
なお、図1,図2では、レジスト層22が4層となっているが、層数はこれに限られない。また、図1では、積層方向Lに重なるレジスト層22の間に夫々架橋部材14が配置されているが、層間に架橋部材14が配置されない部分があってもよい。
【0025】
次に、図3に示されるように、X線レジスト16に、X線マスク18を用いたX線リソグラフィーによって、後述する回折格子10(図5)の厚み方向Tとなる方向に間隔を空けて溝16Aを形成する。このとき、厚み方向Tに隣接する該溝16A間のX線レジスト16を架橋部材14が貫くようにする。図1から図3に示される例では、架橋部材14の長さが、X線レジスト16の厚み方向Tの長さと対応している。また架橋部材14は、例えば厚み方向Tに揃えて配置される。従って、各架橋部材14が、溝16A間のX線レジスト16と、該厚み方向Tの両側のX線レジスト16とを、串刺し状に貫いた状態となる。
【0026】
次に、図4に示されるように、溝16Aに、X線を回折するための複数の格子部材20を電鋳によって形成する。そして、図5に示されるように、基板12上に残存するX線レジスト16を除去することで、X線干渉計用の回折格子10を得る。
【0027】
このように、本実施形態に係るX線干渉計用の回折格子の製造方法では、厚み方向Tに隣接する格子部材20が互いに支え合うように、架橋部材14により該格子部材20同士を連結した状態とするものである。これにより、格子間でのX線に対する透明性が高い回折格子10を容易に製造することができる。
【0028】
また複数のレジスト層22を積層する際に、架橋部材14を該レジスト層22の間に配置するので、該架橋部材14をレジスト層22の積層方向に広く分布させることができる。このため、各格子部材20の連結状態をより安定させることができる。また架橋部材14を厚み方向Tに揃えて配置するので、格子部材20の連結強度のばらつきを抑制することができる。
【0029】
なお、架橋部材14は、図1から図5に示されるような、X線レジスト16を串刺し状に貫くような長いものに限らない。例えば、図6に示されるように、比較的短い架橋部材14を、厚み方向Tに揃えて断続的に配置してもよい。この場合、図7に示されるように、完成した回折格子10において、架橋部材14は格子部材20を貫通していないが、厚み方向Tに隣接する格子部材20を、各架橋部材14により連結することができる。
【0030】
また図8に示されるように、レジスト層22を積層する際に、各レジスト層22の間に、架橋部材14を平面的、かつランダムな向きに配置してもよい。この場合、厚み方向Tに隣接する格子部材20を、該格子部材20の間に延びる一部の架橋部材14により確率的に連結することができる。
【0031】
更に、図9に示されるように、X線レジスト16内に、架橋部材14を立体的にランダムに混合しておいてもよい。この場合、架橋部材14の配置が立体的にランダムとなるので、図10に示されるように、厚み方向Tに隣接する格子部材20を、該格子部材20の間に延びる一部の架橋部材14により確率的に連結することができる。またこの場合、架橋部材14の配置の際の位置決め作業を省略することができるので、基板12上でのX線レジスト16の形成が容易となり、製造コストの低減を図ることができる。
【0032】
なお、図8,図9に示されるように、架橋部材14をランダムに配置する例では、隣接する格子部材20に届かず格子部材20の間で終端する架橋部材14が存在し得るが、該架橋部材14はX線に対して透明であり、実用上問題はない。
【0033】
(回折格子)
図5において、本実施形態に係るX線干渉計用の回折格子10は、厚み方向Tに間隔を空けて配置されX線を回折可能に構成された複数の格子部材20と、X線に対し透明であり、厚み方向Tに隣接する格子部材20が互いに支え合うように、該格子部材20同士を連結する架橋部材14と、を有している。これにより、格子部材20同士の間(格子間)でのX線に対する透明性を向上させることができる。また、X線の直進進行特性を変化させずにより精確に解像性を向上させることができる。図7及び図10に示される回折格子10についても同様である。従って、本実施形態に係る回折格子10は、何れも、X線位相画像撮像装置に用いられる位相格子や吸収格子として好適である。
【0034】
なお、図5に示される回折格子10では、架橋部材14が、複数の格子部材20を貫通している。このため、架橋部材14の本数を抑制しつつ、各格子部材20を安定的に連結することができる。
【符号の説明】
【0035】
10 X線干渉計用の回折格子
12 基板
14 架橋部材
16 X線レジスト
16A 溝
18 X線マスク
20 格子部材
22 レジスト層
L 積層方向
T 厚み方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に間隔を空けて配置されX線を回折可能に構成された複数の格子部材と、
X線に対し透明であり、厚み方向に隣接する前記格子部材が互いに支え合うように、該格子部材同士を連結する架橋部材と、
を有するX線干渉計用の回折格子。
【請求項2】
前記架橋部材は、複数の前記格子部材を貫通している請求項1に記載のX線干渉計用の回折格子。
【請求項3】
基板上に、X線に対し透明な架橋部材を含むX線レジストを形成し、
該X線レジストに、X線マスクを用いたX線リソグラフィーによって、回折格子の厚み方向となる方向に間隔を空けて溝を形成し、このとき該厚み方向に隣接する該溝間の前記X線レジストを前記架橋部材が貫くようにし、
該溝にX線を回折するための複数の格子部材を電鋳によって形成し、
前記基板上に残存する前記X線レジストを除去し、前記厚み方向に隣接する前記格子部材が互いに支え合うように、前記架橋部材により該格子部材同士を連結した状態とするX線干渉計用の回折格子の製造方法。
【請求項4】
前記X線レジストを複数のレジスト層からなる積層構造とし、該レジスト層を積層する際に、前記架橋部材を該レジスト層の間に配置する請求項3に記載のX線干渉計用の回折格子の製造方法。
【請求項5】
前記架橋部材を前記厚み方向に揃えて配置する請求項3又は請求項4に記載のX線干渉計用の回折格子の製造方法。
【請求項6】
前記X線レジスト内に、前記架橋部材をランダムに混合する請求項3に記載のX線干渉計用の回折格子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−247536(P2012−247536A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117832(P2011−117832)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(396026710)株式会社オプトニクス精密 (34)
【Fターム(参考)】