説明

X線撮像装置

【課題】 光軸から離れた領域におけるX線位相コントラストの計測精度を従来のX線撮像装置よりも向上させることが可能なX線撮像装置を提供する。
【解決手段】 X線撮像装置は、X線源からの発散X線を回折することで干渉パターンを形成する回折格子と、干渉パターンの一部を遮蔽する遮蔽格子と、遮蔽格子を経たX線を検出する検出器と、角度可変手段とを備える。
角度可変手段は、回折格子と遮蔽格子と検出器と、光軸とがなす角度を変化させる。また、検出器は、角度可変手段による回折格子と遮蔽格子と検出器と、光軸とがなす角度の変化に応じてX線の検出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物のX線位相像を計測するX線撮像装置、および該X線撮像装置を適用した被検査物の透過波面を計測する波面計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1990年代より、被検査物により生じるX線の位相差を利用した位相コントラスト法の研究が行なわれている。X線位相コントラスト法の一つとして特許文献1に記載されたタルボ干渉を利用したX線位相コントラスト法(以下、X線タルボ干渉法と呼ぶことがある。)がある。X線タルボ干渉法は、X線を発生するX線源、X線を回折し、タルボ効果による干渉パターン(以後、自己像と呼ぶ)を形成する回折格子、およびX線の強度分布を取得するX線検出器から構成される。X線源と回折格子の間または回折格子と検出器の間に被検査物を配置すると、自己像が被検査物により変調を受ける。被検査物により変調を受けた自己像を検出器で検出すると、被検査物の情報を得ることができる。
【0003】
また、一般に、自己像は非常に周期が小さいため、自己像を直接検出することが難しいことがある。そこで、自己像が形成される位置に遮蔽格子を配置する方法が提案されている。遮蔽格子は自己像を形成するX線の一部を遮ることでモアレを形成し、このモアレを検出器で検出すれば、被検査物の情報を得ることができる。
【0004】
回折格子として、一般的に位相を変調する位相格子を用いることが多い。位相格子は位相基準部と位相シフト部が周期的に配列しており、位相シフト部はX線が入射することでX線の位相が所望の量シフトするような厚みを持つ。
【0005】
一方遮蔽格子はX線を透過する透過部とX線を遮蔽する遮蔽部とが周期的に配列しており、遮蔽部は入射したX線を遮蔽するのに十分な厚みを持つ。
【0006】
このように、回折格子と遮蔽格子はその機能を有するために必要な厚みを持つ位相シフト部または遮蔽部が細かいピッチで配列している。そのため、位相シフト部と遮蔽部は大きなアスペクト比を持つことになる。また、撮像範囲を大きくするためには、大きなサイズの回折格子および遮蔽格子を用いること必要がとなる。これら格子は光軸から離れた領域ほどX線がアスペクト比の大きい位相シフト部または遮蔽部に斜めに入射する。よって、これら格子の大きさと位相シフト部または遮蔽部のアスペクト比によっては格子本来の機能を果たさず、形成される自己像またはモアレのコントラストが著しく低下することがある。その結果、光軸から離れた領域ほどX線位相コントラストの計測精度が劣化する。
【0007】
これに対処する方法として特許文献1には、回折格子の位相シフト部と遮蔽格子の遮蔽部を格子面に垂直ではなく、入射X線に平行になるようにX線源の方向に向かうように加工することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】公開特許公報2007−203066号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の回折格子と遮蔽格子は位相シフト部と遮蔽部を格子面内の位置に依存した特定の方向に向ける必要があるので、製作するのは容易ではない。そこで本発明は、位相シフト部と遮蔽部が格子面に垂直な回折格子と遮蔽格子を使用しても、光軸から離れた領域におけるモアレのコントラストを従来のX線撮像装置よりも向上させることが可能なX線撮像装置を提供することを目的としている。尚、位相シフト部と遮蔽部が格子面に垂直な回折格子と遮蔽格子は、特許文献1に記載の回折格子と遮蔽格子よりも製作が容易である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
その目的を達成するために、本発明の一側面としてのX線撮像装置は、X線源からの発散X線を回折することで干渉パターンを形成する回折格子と、前記干渉パターンの一部を遮蔽する遮蔽格子と、前記遮蔽格子を経たX線を検出する検出器と、を備えた被検査物を撮像するX線撮像装置であって、前記回折格子と前記遮蔽格子と前記検出器と、光軸とがなす角度を変化させる角度可変手段を備え、前記検出器は、前記回折格子と前記遮蔽格子と前記検出器と、前記光軸とがなす角度の変化に応じて前記X線の検出を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明のその他の側面については、以下で説明する実施の形態で明らかにする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に記載のX線撮像装置によれば、光軸から離れた領域におけるX線位相コントラストの計測精度を従来のX線撮像装置よりも向上させることが可能なX線撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1に係るX線撮像装置を説明する図である。
【図2】本発明の実施形態1の原理を説明する図である。
【図3】本発明の実施形態1の原理を説明する図である。
【図4】本発明の実施形態2の原理を説明する図である。
【図5】本発明の実施例1に係る位相格子のパターンの一部を表す図である。
【図6】本発明の実施例1に係る自己像の一部を表す図である。
【図7】本発明の実施例1に係る遮蔽格子のパターンの一部を表す図である。
【図8】本発明の実施例1に係るモアレを表す図である。
【図9】図8のモアレの中央を通る水平直線上の強度分布を表す図である。
【図10】本発明の実施例1に係るモアレを表す図である。
【図11】本発明の実施例1に係る平均画像を表す図である。
【図12】図11の平均画像の中央を通る水平直線上の強度分布を表す図である。
【図13】本発明の実施例2に係るX線撮像装置を説明する図である。
【図14】本発明の実施例2に係るX線マスクの構造を表す図である。
【図15】本発明の実施例2に係るモアレを表す図である。
【図16】図15の画像の中央を通る水平直線上の強度分布を表す図である。
【図17】本発明の実施例2に係る平均画像を表す図である。
【図18】図17の平均画像の中央を通る水平直線上の強度分布を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の好ましい実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
(実施形態1)
上記目的を達成するため、本出願に係る実施形態1は以下の特徴を有している。
【0016】
本実施形態のX線撮像装置は、X線源と、X線源からのX線を回折して干渉パターンを形成する回折格子と、干渉パターンの一部を遮蔽する遮蔽格子と、遮蔽格子を経たX線を検出する検出器を備える。尚、本実施形態において遮蔽格子と検出器は固定されている。さらに本実施形態のX線撮像装置は、回折格子と遮蔽格子と検出器のそれぞれと光軸がなす角度を変化させる角度可変手段として、回折格子と接続されたアクチュエーターと、遮蔽格子と接続されたアクチュエーターを備える。回折格子と接続されたアクチュエーターは回折格子を移動させることで回折格子と光軸がなす角度を変化させる。一方、遮蔽格子と接続されたアクチュエーターは遮蔽格子と、遮蔽格子と固定された検出器を移動させることで遮蔽格子と検出器のそれぞれと光軸がなす角度を変化させる。
尚、本明細書において光軸(X線軸)とは、光束(X線束)の中心を指す。
【0017】
また、検出器による検出結果は演算手段である計算機によって解析され、被検査物の情報が算出される。
【0018】
以下、各構成について説明をする。
【0019】
本実施形態のX線源としては、連続X線を出射するX線源を用いても、特性X線を出射するX線源を用いてもよい。また、X線源から出射したX線の経路上に、X線を細いビームに分割するための線源格子または波長選択フィルタを配置してもよい。本明細書では、線源格子または波長選択フィルタを用いる場合、線源格子または波長選択フィルタもX線源の一部であるとみなす。X線源から出射されるX線は回折格子で回折されることにより、干渉パターンを形成する必要があるため、干渉パターンを形成できる程度の空間的コヒーレンス性が求められる。また、X線源から出射するX線は、発散X線である。尚、本明細書においてX線とはエネルギーが2〜100keVの電磁波を指す。
【0020】
X線源から出射したX線は、被検査物を透過すると被検査物の屈折率及び形状に応じて位相が変化する。尚、被検査物は、X線源と回折格子の間に配置しても、回折格子と遮蔽格子の間に配置しても良い。
【0021】
本実施形態の回折格子は位相型の回折格子(以下、位相格子と呼ぶことがある。)であり、X線の照射を受けて明部と暗部が周期的に配列された自己像を形成する。回折格子として振幅型の回折格子を用いることもできるが、位相型の回折格子の方がX線量の損失が少ないので有利である。本実施形態の位相格子は位相シフト部と位相基準部が直交する2方向に配列した2次元の位相格子であり、X線の照射を受けて2次元の干渉パターンを形成する。位相シフト部を透過したX線は位相基準部を透過したX線と比較すると、位相が一定量シフトしている。一般的に、位相のシフト量がπラジアン又はπ/2ラジアンの位相格子が良く用いられるが、その他のシフト量の位相格子を用いることもできる。位相格子を構成する材料はX線の透過率が高い物質が好ましく、例えば、シリコンを用いることができる。
【0022】
また、位相格子はアクチュエーターと接続され、アクチュエーターによって位相格子上の点を中心として位相格子が回転することにより、位相格子と光軸がなす角度が変化する。
【0023】
本実施形態の遮蔽格子はX線を透過する透過部とX線を遮蔽する遮蔽部が2次元周期的に配列した2次元の遮蔽格子である。尚、遮蔽部はX線を完全に遮蔽しなくても良い。但し、干渉パターンに遮蔽格子を重ねることでモアレが形成される程度にX線を遮蔽する必要がある。遮蔽格子の周期は回折格子によって遮蔽格子上に形成される干渉パターンの周期と同一または僅かに異なる値をとることができ、形成したいモアレの周期によって決めることができる。
尚、本明細書におけるモアレとは、その周期が無限長か、もしくは無限長に限りなく近い場合も含む。
【0024】
X線タルボ干渉法により形成された自己像の周期は一般的なX線の検出器の空間分解能よりはるかに微細であるため、直接自己像の強度分布を検出することは難しい。そこで、自己像と少し周期の異なる遮蔽格子を用いるか、あるいは自己像と同じ周期の遮蔽格子を遮蔽格子面内で僅かに回転させることで自己像よりも周期の大きなモアレを発生させ、これを検出器で取得する。モアレは被検査物による自己像のパターン変化を保存しているので、検出器で取得したモアレを計算機により解析することで被検査物による自己像の変化に関する情報を得ることができる。
【0025】
位相格子と遮蔽格子の距離Zは、遮蔽格子上で明瞭な自己像を生じさせるために以下のタルボ条件の式(1)を満たしている。
【0026】
【数1】

【0027】
式(1)において、ZはX線源と位相格子の距離、λはX線の波長、dは位相格子の格子周期である。位相基準部と位相シフト部が1次元的に配列している1次元位相格子の場合、位相シフト量がπ/2の位相格子(以後、π/2位相格子と呼ぶ)の場合はNはn−1/2で表される実数である。位相シフト量がπの位相格子(以後、π位相格子と呼ぶ)の場合はNはn/4−1/8として表される実数である。但し、nは自然数である。位相基準部と位相シフト部が市松格子状に配列している位相格子では、Nはπ/2位相格子の場合はn/2−1/4、π位相格子の場合はn/4−1/8である。但し、格子周期dは位相基準部の中心と位相シフト部の中心の距離の2倍とする。
【0028】
遮蔽格子も位相格子同様アクチュエーターと接続され、遮蔽格子上の点を中心として遮蔽格子が回転することにより、遮蔽格子と光軸がなす角度が変化する。
【0029】
検出器は、X線によるモアレの強度分布を検出することのできる撮像素子(例えばCCD)を有する。また、本実施形態の検出器は遮蔽格子と平行を保った状態で遮蔽格子と固定されており、遮蔽格子に接続されたアクチュエーターによって検出器上の点を中心として検出器が回転することにより、検出器と光軸がなす角度が変化する。
検出器は、回折格子と遮蔽格子と検出器のそれぞれと光軸がなす角度の変化に応じてX線の検出を行う。
【0030】
演算手段である計算機は、検出器によるモアレの検出結果に基づいて被検査物によるモアレの変化に関する情報を算出する。その結果例えば被検査物の位相像または微分位相像を得ることができる。更に計算機に画像表示部を接続し、算出結果に基づく画像を画像表示部に表示することもできる。
【0031】
計算機による計算方法の一例を簡単に説明する。
【0032】
X線が被検査物を通過すると、被検査物の屈折率分布に応じてX線の位相が変化する。この、X線の位相変化の空間的な分布が被検査物の位相像である。
【0033】
X線の進行方向はX線の位相の空間微分に比例し、自己像のパターンの位置変化はX線の進行方向変化に比例する。したがって、検出器で検出したX線の強度分布にフーリエ変換法を利用すれば、被検査物の位相像の空間微分(以後、微分波面と呼ぶ)を求めることができる。フーリエ変換法の詳細はMitsuo Takeda et al.,J.Opt.Soc.Am.,Vol.72,No.1(1982)に記載されているので、ここでは概要を説明するに留める。検出器による検出結果である強度分布を2次元フーリエ変換して得られた周波数スペクトルには、強度分布の基本周期成分(以後キャリアパターンと呼ぶ)の周波数(以後キャリア周波数と呼ぶ)と数多くのその高調波成分に相当するピークが生じる。キャリア周波数に相当するピークの周辺を切り出してフーリエ空間の中心に移動する。さらにこれを逆フーリエ変換したものの位相成分を求めることで測定すべき波面の一方向の微分波面、即ち被検査物の微分位相像が得られる。被検査物の位相像を復元するにはこの微分位相像を微分方向に積分する。ただし、通常これだけでは微分方向と直交する方向の波面の変化に関しては算出することができない。これに関しては、もう一方のピークに関しても同様の処理を実施し直交する2方向の微分波面を得ることで解決することができる。尚、計算機による計算方法は上記に示した方法に限定されるものではなく、例えば窓フーリエ変換を用いたものでも良いし、位相シフト法(縞走査法)を用いたものでも良い。
【0034】
角度変調手段である、位相格子と接続されたアクチュエーターと遮蔽格子と接続されたアクチュエーターによる、位相格子と遮蔽格子と検出器の回転と、回折格子と遮蔽格子と検出器のそれぞれと光軸がなす角度の変化について図2と図3を用いて説明をする。
【0035】
なお、位相格子、遮蔽格子、検出器を移動させるには、位相格子と遮蔽格子のそれぞれに接続されたアクチュエーターを用いるが、原理の説明には不要なので記載を省略する。図2と図3において、X線源1からのX線が被検査物3を透過し、被検査物3を透過したX線を位相格子4が回折し、自己像100が遮蔽格子5上に形成される。遮蔽格子5上に形成された自己像100の一部が遮蔽格子5の遮蔽部に遮蔽されることでモアレが形成し、そのモアレを検出器6で検出する。また、位相格子4、遮蔽格子5、検出器6は、それぞれのX線照射範囲の中心が、光軸20とそれぞれとの交点と一致するように配置されている。そして、その光軸20との交点を回転中心として位相格子4、遮蔽格子5、検出器6のそれぞれが回転することにより、位相格子4、遮蔽格子5、検出器6のそれぞれと光軸20がなす角度が変化する。
【0036】
図2において、位相格子4と遮蔽格子5と検出器6のそれぞれは光軸20に対して垂直に配置されている。
【0037】
この時、位相格子4、遮蔽格子5、検出器6のそれぞれと光軸20がなす角度は90度であり、本実施形態ではこの90°を第1の角度として以下説明を行う。位相格子4、遮蔽格子5、検出器6がこのように配置されているとき、遮蔽格子上のX線照射範囲の中心Q(以後、遮蔽格子の中心と呼ぶことがある。尚、遮蔽格子の中心は光軸20と遮蔽格子の交点である。)と、位相格子上のX線照射範囲の中心P(以後位相格子の中心と呼ぶことがある。尚、位相格子の中心は光軸20と位相格子の交点である。)に対して光軸20上のX線(以後、中心X線と呼ぶことがある。)が垂直に入射する。そのため、位相格子の中心Pにおいて位相基準部または位相シフト部の厚み方向と光軸上のX線の進行方向が一致し、同様に遮蔽格子の中心Qにおいて遮蔽部または透過部の厚み方向と中心X線の進行方向が一致する。すると、遮蔽格子の中心Qに入射した中心X線は検出器6上にコントラストが明瞭なモアレを形成する。一方、光軸以外を通る光束の端部のX線(以後、周辺X線と呼ぶことがある。)21は位相格子上のPと遮蔽格子上のQに対して斜めに入射するためこれら格子が本来の機能を果たしきれず、位相のシフト量がばらついたり、透過すべきX線が透過できなくなったりする。同様に、周辺X線22は位相格子上のPと遮蔽格子上のQに対して斜めに入射するため、位相のシフト量がばらついたり、透過すべきX線が透過できなくなったりする。その結果、光軸20から離れた領域ほど検出器上に形成されるモアレのコントラストが低下する。
【0038】
におけるコントラストを明瞭にするには、図2の状態から遮蔽格子5の中心Qを回転中心として角度θ回転させる。角度θは、式(2)に示す量である。
【0039】
【数2】

【0040】
尚、本実施形態は遮蔽格子の中心Qを回転中心として遮蔽格子を回転させたため、Qを用いてθを示したが、回転中心が遮蔽格子の中心でない場合、式(2)のQに代わりに回転中心とQの距離を用いればθを算出できる。検出器6は遮蔽格子5と平行に固定されているため、検出器6も遮蔽格子の中心を回転中心として角度θ回転する。また、位相格子4も遮蔽格子5と同様にX線照射範囲の中心Pを回転中心として角度θ回転させる。これにより、位相格子4、遮蔽格子5、検出器6のそれぞれは図3のように光軸20と(90°−θ)の角度をなし、本実施形態ではこの(90°−θ)を第2の角度として以下説明を行う。すると、位相格子4と遮蔽格子5に周辺X線21が位相格子のP11と遮蔽格子のQ11において垂直に入射する。
【0041】
位相格子4、遮蔽格子5、検出器6が光軸20に対して垂直に配置されているときの中心X線同様に、位相格子4、遮蔽格子5、検出器6が光軸20に対して角度θで配置されているときの周辺X線21は検出器上にコントラストの高いモアレを形成する。
【0042】
また、図3のように光軸に対して位相格子4、遮蔽格子5、検出器6を傾けても位相格子と遮蔽格子は平行に保たれている。よって、図2の状態で遮蔽格子5上の任意の点Qに入射するX線が位相格子4のPを透過するとすれば、図3の状態でも点Qに向かうX線は点Prを通過する。遮蔽格子と検出器も平行に固定されているため、図3の状態においてX線検出器6で検出されるモアレの明暗の位置は図2の状態において検出される位置と不変である。この際、タルボ条件の式(1)を厳密には満たさなくなるが、X線タルボ干渉法においてθは数度程度なので自己像のコントラストの劣化はわずかで問題はない。
【0043】
本実施形態では、以上のように、位相格子4と遮蔽格子5と検出器6を平行に保ったまま夫々を回転させ、相格子4と遮蔽格子5と検出器6のそれぞれと光軸20のなす角度を変化させる。これにより、モアレの明暗の位置を変えることなくモアレのコントラストの良好な場所を検出器の受光面内で移動させることができる。検出器6のよるX線検出中(露光中)に上記のような方法でコントラストの良好な場所を検出器の受光面内で移動させると、検出器の受光面内でのコントラストのばらつきを軽減することができる。その結果、受光面の周辺部で検出されるモアレのコントラストを従来よりも向上させることができる。尚、従来とは、位相格子と遮蔽格子と検出器を図2のように配置した状態でのみX線の検出を行う撮像装置のことを指す。また、位相格子、遮蔽格子、検出器のそれぞれと光軸のなす角度の変化とX線の検出を交互に行うと、複数回の検出結果を合成することにより、周辺部で検出されるモアレのコントラストを従来よりも向上させることができる。
【0044】
(実施形態2)
本実施形態は、位相格子に接続されたアクチュエーターと遮蔽格子に接続されたアクチュエーターが、回折格子と遮蔽格子と検出器のそれぞれと光軸がなす角度の変化に伴って回折格子と遮蔽格子と検出器のそれぞれを光軸に沿って移動させる点で実施形態1と異なる。これにより、実施形態1よりも正確に(ぼけを小さく)被検査物を撮像することができる。以下、実施形態1と異なる点について図6を用いて説明をする。
【0045】
実施形態1では、位相格子4と遮蔽格子5と検出器6を平行に保ったままそれぞれと光軸20がなす角度を変えることで、モアレの明暗の位置を変えることなくモアレのコントラストの良好な場所を検出器の受光面内で移動させた。しかしながら、図3のように、PとP11、QとQ11が一致しない。つまり、被検査物の同一の箇所を通過したX線(ここでは周辺X線21)が位相格子と遮蔽格子の回転によって位相格子と遮蔽格子の異なる箇所(ここでは、PとP11、QとQ11)に入射する。そのため、角度θに応じてX線検出器6上で被検査物3の像の位置が変化する現象(以後、像ずれと呼ぶ)が生じる。像ずれ量Δxを被検査物3上の距離で定義すれば、X線源1と被検査物3の距離をLとしてΔx=(Q−Q11)L/L、Q=Ltanθ、Q11=Lsinθより、式(3)で表すことができる。
Δx=L(tanθ−sinθ)……式(3)
【0046】
例えば、L=1000mm、被検査物サイズ200mmとすれば、被検査物の端部ではθ=tan−1(200/2/1000)=5.7°なので式(3)より像ずれ量Δxは0.5mmとなり、微細な構造を観察する場合には無視できない量となることもある。尚、図3の配置にある時、Qの対称位置であるQの側ではさらに大きな量の像ずれが生じるが、Q周辺を透過したX線が形成するモアレはコントラストが低い(Q周辺を透過するX線量は少ない)ので、得られる検出結果に与える像ずれの影響は無視できる。本実施形態を用いると、実施形態1よりも像ずれを軽減できる。図4は、本実施形態により像ずれを軽減する原理を説明する図である。本実施形態では、実施形態1の図3に示した状態から角度θに応じて遮蔽格子と位相格子を光軸20に沿って平行移動させる。遮蔽格子の移動量ΔL、回折格子の移動量ΔLをそれぞれ式(4)、式(5)に示した。
【0047】
【数3】

【0048】
【数4】

【0049】
尚、角度θは遮蔽格子と光軸のなす角度、角度θは位相格子と光軸のなす角度であり、本実施形態ではθ=θ=θである。また、遮蔽格子と検出器が固定されていない場合、同様に検出器の移動量ΔL3は、
【0050】
【数5】

【0051】
である。尚、角度θは検出器と光軸のなす角度、LはX線源と検出器の距離である。本実施形態のように遮蔽格子と検出器が接するくらい近くに配置されている場合、遮蔽格子の厚みがあるため厳密にはL≠Lであるが、LとLの差が非常に小さいためL=Lとみなし、θ=θであればΔL=ΔLとして良い。平行移動後の遮蔽格子と周辺X線21の交点Q11と遮蔽格子の中心Qとの距離Q11は式(7)で表される。
11=(L+ΔL)sinθ=Ltanθ……式(7)
図2から分かるようにQ=LtanθであるからQ11=Qとなり、Q11はQと一致する。したがって、像ずれは生じない。
同様に、平行移動後の位相格子と周辺X線21の交点P11と位相格子の中心Pとの距離P11は式(8)で表される。
11=(L+ΔL)sinθ=Ltanθ……式(8)
図2から分かるようにP=LtanθであるからP11=Pとなり、P11はPと一致する。これより、平行移動後において遮蔽格子のQに到達するX線は位相格子のPを通過していることが分かる。これは図2における状況と同じなので、検出器上6に形成されるモアレの位置も図2で示す状態と図4で示す状態では変化しない。
【0052】
以上説明したように、検出器6と一体化した遮蔽格子5と、位相格子4を式(2)、式(4)、式(5)を同時に満足するように移動すると、モアレの明部と暗部の位置を変えずに、検出器の受光面上でモアレのコントラストの高い場所を任意に選ぶことができる。さらにコントラストが高い場所(検出器に対してX線が垂直に入射する箇所(図4において周辺X線21と検出器との交点)とその近辺)においては像ずれが発生することもない。したがって検出器6によるX線検出中に上述の原理に基づいてコントラストの良好な場所をX線検出器の受光面内で移動させることで、比較的大きな被検査物でも1回の検出の結果から、被検査物の位相像の取得が可能となる。これを実現するために本実施形態のX線撮像装置は、検出器6によるX線検出中に、位相格子4と遮蔽格子5に上述の回転移動と光軸に沿った移動をさせている。また、遮蔽格子と固定された検出器6も同様に移動される。
【0053】
また、実施形態1よりも像ずれを軽減する方法として位相格子、遮蔽格子、検出器を回転させる回転中心をずらしていく方法もある。
【0054】
図2の状態から、遮蔽格子5と周辺X線21との交点Qを回転中心として遮蔽格子5をθ回転させる。同様に位相格子4と周辺X線21との交点Pを回転中心として位相格子4をθ回転させる。すると、周辺X線21が位相格子と遮蔽格子に入射する位置は図2の位置と変化しないまま、位相格子と遮蔽格子に対して周辺X線が垂直に入射する。このように、X線を垂直に入射させたい位置を回転中心として位相格子と遮蔽格子を回転させ、位相格子と遮蔽格子の回転中心をそれぞれの格子上で移動させることで、検出器上に形成されるモアレのコントラストの高い場所を任意に移動させることができる。但し、この方法だと、原理的には回転中心を透過したX線は像ずれを起こさないが、回転中心から離れるにしたがって像ずれが起きる。回転中心から離れるにしたがってモアレのコントラストが低下するため、この像ずれが検出結果に与える影響は無視できる可能性もあるが、図4を用いて説明した光軸に沿った移動を伴う方法よりも像ずれが検出結果に与える影響は大きいと考えられる。
【0055】
(実施例1)
本実施例では、実施形態2のX線撮像装置についてシミュレーションを行った例について図1を用いて説明する。図1は本実施例の構成を表しており、X線源1からのX線2が被検査物3を透過し、被検査物3を透過したX線を位相格子4が回折し、遮蔽格子5上に形成された自己像の一部が遮蔽格子5に遮蔽されることでモアレが形成し、そのモアレを検出器6で検出する。検出器6は遮蔽格子5と平行を保ちつつ固定される。また、検出器6による検出は、検出器指令部7により検出器に送られる信号に従って行われる。また検出器6による検出結果は演算手段である計算機8に送られ、被検査物の微分位相像が算出される。
【0056】
位相格子4はアクチュエーター41によって位相格子の中心を回転中心として回転する。これにより位相格子と光軸がなす角度が変化し、それに伴って位相格子が光軸に沿って移動することでX線源との距離が変化する。
【0057】
また、位相格子4同様に、遮蔽格子5に接続されたアクチュエーター51により遮蔽格子5と検出器6のそれぞれと光軸がなす角度と、遮蔽格子5と検出器6のそれぞれとX線源との距離が変化する。
【0058】
位相格子と接続されたアクチュエーター41、遮蔽格子と接続されたアクチュエーター51、検出器指令部7の動作は主指令部9により同期させられる。
【0059】
上記構成において具体的な数値を例示して本実施例について詳細に説明する。X線源1から発するX線2のエネルギーは30KeVとした。X線2は、被検査物3を通過し、被検査物3の屈折率分布に応じた位相変化を受ける。その後、位相格子4、遮蔽格子5を順に通過し検出器6に入射する。
【0060】
被検査物3はなるべく観察領域が広くなるよう位相格子4の直前に配置する。
【0061】
位相格子4の格子領域は人体の特定の部位、例えば乳房や膝関節を一度に観察することを考えて一辺が120mmの正方形とした。また、X線源1から位相格子4までの距離(L)は1000mmとした。
【0062】
位相格子4のパターンの一部を図5に示した。位相格子4は図5に示したように、位相シフト部401と、位相基準部402が市松格子上に配置されており、その周期は隣り合う位相シフト部の中心間の距離dとして3.0μmとした。また、位相格子4はX線の透過率が大きいシリコンを用い、格子面に周期的に凸部を設けることで位相シフト部401と位相基準部402を形成した。位相格子4はπ/2位相格子なので、凸部の高さは、位相シフト部である凸部を通ったX線と位相基準部である凸部の間を通ったX線の位相差がπ/2となる値である。本実施例の場合、シリコンの30KeVのX線におけるシリコンと空気の屈折率差が5.37×10−7なので、凸部の高さは19μmである。
【0063】
位相格子4と遮蔽格子5の距離は、式(1)においてZを1000mm、30KeVのX線の波長としてλを0.0413nm、dを3μm、Nを1/2とした時のZの値である122mmとした。また、初期調整として、X線源1から照射されるX線の光軸が、位相格子4と遮蔽格子5の中心を通るように配置され、さらにそれらの中心に中心X線が垂直に入射するようにした。
【0064】
図6(a)、(b)は、この状態において遮蔽格子上に生じた自己像の一部を表したもので、図6(a)は遮蔽格子の中心部周辺に形成される自己像であり、図6(b)は遮蔽格子の左上端部周辺に形成される自己像である。自己像の明部410と暗部420が市松格子状に配列され、自己像の周期pは(Z+Z)/Z×3μm=3.37μmである。位相格子4の中心部ではX線が位相格子4に垂直に入射するので自己像は位相格子4のパターンをほぼ忠実に再現しているが、位相格子の中心部から離れた部分ではX線が位相格子4に斜めに入射するため、位相シフト部の凸部の高さの影響で自己像が歪んでいる。尚、本実施例ではπ/2位相格子を採用したが、π位相格子を採用してもよい。ただしその場合は、その凸部の高さが2倍になるので自己像の歪みは大きくなる。
【0065】
遮蔽格子5の格子領域は、位相格子4を透過したX線の照射領域から、一辺が135mmの正方形とした。遮蔽格子5の材料はX線の吸収率が大きい金であり、表面に周期的に凸部を設けることでX線の透過率が周期的に変化するようにしている。凸部を通ったX線と凸部の間を通ったX線の強度比が0.05となるように、金の30KeVのX線における消衰係数1.65×10−7より凸部の高さは60μmとした。遮蔽格子5のパターンは、図7に示すように遮蔽部501と透過部502が井桁格子状に配列しており、遮蔽部の幅と透過部の幅の比は1:1とした。尚、遮蔽部は凸部が形成された部分であり、透過部は、凸部の間の部分である。遮蔽格子の周期は自己像の周期と僅かに変えることで、検出器6の分解能よりも大きい周期を持つモアレを発生させている。本実施例では周期が80μmのモアレを発生させるために、遮蔽格子5の周期dを3.51μmとした。尚、検出器6の画素周期は20μmとするとモアレの周期が検出器の4画素分になり、上記フーリエ変換法で解析するのに適している。
【0066】
本実施例の撮像装置において、X線源、位相格子、遮蔽格子が上記初期調整の位置に配置されているとき、遮蔽格子5の格子領域の端部における入射X線の傾きは(135mm/2)/(1000mm+122mm)=67.5/1122であり、凸部の高さが60μmである。尚、ここでは端部とは上下左右のいずれかの方向における端部のことを指し、四隅のことではない。入射X線と凸部の高さから、少なくとも遮蔽格子5の格子領域の端部では、本来遮蔽格子を透過すべきX線が透過部を通り抜けることができなくなり、結果として光軸から離れた領域ほどモアレのコントラストが低下する。
【0067】
図8は、X線源、位相格子、遮蔽格子が上記初期調整の位置に配置されている状態、つまり位相格子4の中心と遮蔽格子5の中心に対してX線が垂直に入射する状態において、検出器6で検出されるモアレのシミュレーション結果である。ただし被検査物は入れておらず、またシミュレーションの制約上、検出器の画素サイズを2.1mmとし、さらにコントラストの分布が分かりやすいように周期が15mmのモアレを発生させた。図9は、図8で示した画像の中央付近を通る水平直線A1A2上における強度分布を表しており、縦軸が強度、横軸が位置を示している。図9は、モアレのコントラストは光軸との交点周辺においては明瞭だが、光軸から離れるに従って不明瞭になっていくことを示している。
【0068】
図10と図11を説明するために、位相格子、遮蔽格子、検出器の格子領域または受光面領域のそれぞれをxy座標とし、それぞれの中心の座標を(0,0)上端部の座標を(0,1)右端部の座標を(1,0)とする。
【0069】
図10(a)は、位相格子、遮蔽格子、検出器それぞれの(0,3/8)で表される位置に対してX線が垂直に入射するように位相格子4、遮蔽格子5、検出器6のそれぞれと光軸がなす角度を変化させたときに検出されるモアレのシミュレーション結果である。
【0070】
同様に、図10(b)は位相格子、遮蔽格子、検出器それぞれの(0,2/8)、図10(c)は位相格子、遮蔽格子、検出器それぞれの(0,1/8)で表される位置に対してX線が垂直に入射するようにしたときに検出されるモアレのシミュレーション結果である。
【0071】
図10(a)(b)(c)に示したモアレを検出するためには、式(2)式(4)式(5)より、位相格子4、遮蔽格子5、検出器6、を以下のように移動させればよい。尚、位相格子4、遮蔽格子5、検出器6、の移動は位相格子と接続されたアクチュエーター41と、遮蔽格子と接続されたアクチュエーター51によって行う。
【0072】
まず、図10(a)に示したモアレを検出するためには、位相格子4と遮蔽格子5をそれぞれの格子の中心を回転中心として、それぞれの格子の上方がX線源に近づくように1.72度回転させる。検出器は遮蔽格子と平行に固定されているため検出器も遮蔽格子の回転にあわせて回転する。これらの回転により、位相格子と遮蔽格子と検出器のそれぞれと光軸がなす角度は88.28度になる。それぞれの格子の回転とともに、光軸に沿ってX線源から遠ざかる方向に位相格子を0.45mm、遮蔽格子と検出器を0.51mm移動させる。
【0073】
同様に、図10(b)に示したモアレを検出するために、位相格子と遮蔽格子をそれぞれの格子の中心を回転中心として、それぞれの格子の上方がX線源に近づくように3.43度回転させる。これにより、位相格子と遮蔽格子と検出器のそれぞれと光軸がなす角度を86.57度になる。これらの回転とともに、光軸に沿ってX線源から遠ざかる方向に位相格子4を1.79mm、遮蔽格子と検出器を2.01mm移動させる。
【0074】
同様に、図10(c)に示したモアレを検出するために、位相格子と遮蔽格子をそれら格子の中心を回転中心として、格子の上方がX線源に近づくよう5.14度回転させる。これにより、位相格子と遮蔽格子と検出器のそれぞれと光軸がなす角度が84.86度になる。これらの回転とともに、光軸に沿ってX線源から遠ざかる方向に位相格子を4.04mm、遮蔽格子と検出器を4.53mm移動させる。
【0075】
図8、図10(a)、(b)、(c)を比較すると、コントラストが明瞭な場所は移動しているが、明部と暗部の位置は不変であることが分かる。
【0076】
次に、位相格子4と遮蔽格子5と検出器6のそれぞれの(0,0)、(0,±3/8)、(±3/8,0)、(±3/8,±3/8)と表される9点においてX線が垂直に入射したときに検出されるそれぞれのモアレをシミュレーションによって得た。尚、シミュレーションは、式(2)、式(4)、式(5)を用いて、それぞれの点においてX線が垂直に入射するように位相格子と遮蔽格子と検出器を回転移動させるとともに、像ずれを防止するために光軸に沿った移動をさせたとして行った。取得した合計9枚のモアレの平均画像を図11に示す。
【0077】
図12は、図11で示した画像の中央を通る水平直線B1B2上における強度分布を表しており、縦軸が強度、横軸が位置を示している。図12は、B1B2間の全面でほぼ均一なコントラストが得られることを示している。したがって、検出器6によるX線の検出中(露光中)に、位相格子4と遮蔽格子5と検出器6が上記のような移動(式2、式4、式5を満たすような移動)をすれば、1枚の画像でコントラストが均一化されたモアレパターンを得ることができる。
【0078】
ここでは上記9点においてX線が位相格子4と遮蔽格子5と検出器6に垂直に入射するように位相格子4と遮蔽格子5と検出器6のそれぞれと光軸の角度を変化させたときのモアレの平均を示した。しかし、検出の際に、位相格子4と遮蔽格子5と検出器6のそれぞれと光軸のなす角度の数をさらに増やせばさらなるモアレ均一化を図れることは言うまでもない。より理想的には2次元的に連続的して位相格子4と遮蔽格子5と検出器6のそれぞれと検出器のなす角度を変化させながら検出を行えばよい。
【0079】
以下、図1を参照しながら本実施例における被検査物撮像手順を説明する。
ステップ1:主指令部9に、検出器6によるX線の検出時間と、X線検出中に、X線が垂直に入射する検出器上の場所の移動パターンを入力する。
ステップ2:主指令部9から検出器指令部7に受光開始信号を送ることで、検出器6によるX線2の検出が開始される。
ステップ3:主指令部9から、ステップ1で入力した移動パターンを実現すべく位相格子4と遮蔽格子5が式(2)、式(4)、式(5)を満たして移動するよう位相格子と遮蔽格子に接続されたアクチュエーター41および51に移動量の指令値を送る。位相格子と遮蔽格子のそれぞれ接続されたアクチュエーター41、51は送られた指令値に従って位相格子と遮蔽格子と、遮蔽格子と固定された検出器とを移動させる。
ステップ4:主指令部9から検出器指令部7に検出終了信号を送ることで、検出器6によるX線の検出を終了するとともに、検出器6で検出したモアレが検出器指令部7を介し計算機8に転送される。
ステップ5:計算機8において、FFT法によりモアレから被検査物3の微分位相像を算出する。さらに微分位相像を積分することで被検査物3の位相像を算出する。
【0080】
以上のステップを実行することで本実施例のX線撮像装置では、光軸と検出器の交点周辺以外の領域におけるモアレのコントラストを従来よりも向上させることができる。従来では、位相格子のアスペクト比と光軸からの距離によっては、モアレがぼけることがあった。また、遮蔽格子のアスペクト比と光軸からの距離によっては、遮蔽格子を透過すべきX線がほとんど透過せず、被検査物の微分位相像を取得することが困難であった。しかし、本実施例では、位相格子と遮蔽格子と検出器のそれぞれと光軸との角度を変化させることにより光軸から離れた位置においてもX線が位相格子と遮蔽格子に垂直に入射するため、上記のような問題を軽減することができる。これにより、1回の検出により得られるモアレの範囲が従来よりも大きくなるため、撮像範囲を大きくすることができる。
【0081】
(実施例2)
実施形態2の第2の実施例について図13と図14を用いて説明する。図13は本実施例の構成を表しており、X線源と被写体の間にX線マスク10と、X線マスク移動手段としてX線マスクと接続されたアクチュエーター101を備える点で実施例1と異なる。なお、本実施例の説明は、実施例1と違いのある部分に限定する。
【0082】
図14はX線マスクの構造を表しており、X線マスク10はX線を透過する透過部102とX線を遮蔽する遮蔽部103を有する。X線マスク10はX線源1と被検査物3の間に配置されているので、X線源1から放射されたX線の内で透過部102に入射したX線のみが被検査物3に照射され、X線検出器6まで達する。X線マスクに接続されたアクチュエーター101は主指令部9の指令を受けてX線マスク10の位置を変えることができる。
【0083】
主指令部9は、遮蔽格子5に垂直に入射するX線が常にX線マスクの透過部102、望ましくはその中心、を通るようにX線マスク10が移動するようにX線マスクに接続されたアクチュエーター101に指令の信号を送る。
【0084】
遮蔽格子5に垂直に入射するX線は、コントラストの明瞭なモアレを生じさせるX線であり、これが被検査物3を透過して検出器6に達する。一方、遮蔽格子5に垂直に入射するX線から離れたX線、つまり遮蔽格子5に対してある程度以上斜めに入射するX線はX線マスク10によって遮蔽され、検出器6はもちろん、被検査物3にも達しない。このとき、ある程度以上とは、X線マスクの透過部102の大きさと、遮蔽格子に垂直に入射するX線が透過部102を透過する位置によって決まる。
【0085】
この状態で実施例1と同様に位相格子4、遮蔽格子5、検出器6を移動させ、位相格子4と遮蔽格子5と検出器6のそれぞれと光軸がなす角度を変化させながら光軸に沿って移動させると、コントラストが明瞭でない領域はX線が被検査物3に照射されない。よって、被検査物の被ばく量を実施例1と比較して低下させることができる。また、コントラストの明瞭でない領域はX線が検出器に達しないため、その領域はモアレが得られない。そのため、コントラストが明瞭な状態のモアレを形成するX線のみが検出器により検出されるため、実施例1に比べてコントラストの良好なモアレの画像が得られる。
【0086】
なお、X線マスク10の透過部102と遮断部103の境界は、徐々にX線の透過率が変化してもよい。こうすることでX線が位相格子と遮蔽格子に対して垂直に入射する場所の移動が少ない場合でも、透過部102と遮断部103の境界が検出結果のモアレに現れ難くなる。図15は、位相格子の中心と遮蔽格子の中心にX線が垂直に入射する時のモアレを図8と同じ条件でシミュレートしたものである。その際、X線マスク10の透過部102の透過率分布は、透過率が1/eとなる半径がX線検出器6のサイズに換算してその3/8となるガウス型とした。図16は、図15で示した画像の中央を通る水平直線C1C2上における強度分布を表しており、図9と比較すると光軸と検出器の交点を中心とした一定の範囲外の領域ではX線の強度が小さくなっているのが分かる。
【0087】
図17は、実施例1における図11と同様のシミュレーションによって得られた9枚のモアレの平均画像を表している。図18は、図17で示した画像の中央を通る水平直線D1D2上における強度分布を表しており、実施例1の図12に比べて全体的にコントラストが向上していることが分かる。
【0088】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、遮蔽格子と検出器は固定せずにそれぞれの移動手段により移動させても良いし、反対に、位相格子と遮蔽格子と検出器を固定して1つの移動手段により移動させても良い。
【符号の説明】
【0089】
1 X線源
3 被検査物
4 位相格子
41 位相格子と接続されたアクチュエーター
5 遮蔽格子
51 遮蔽格子と接続されたアクチュエーター
6 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源からの発散X線を回折することで干渉パターンを形成する回折格子と、前記干渉パターンの一部を遮蔽する遮蔽格子と、前記遮蔽格子を経たX線を検出する検出器と、を備えた被検査物を撮像するX線撮像装置であって、
前記回折格子と前記遮蔽格子と前記検出器と、光軸とがなす角度を変化させる角度可変手段を備え、
前記検出器は、
前記回折格子と前記遮蔽格子と前記検出器と、前記光軸とがなす角度の変化に応じて前記X線の検出を行うことを特徴とするX線撮像装置。
【請求項2】
前記角度可変手段は、
前記回折格子と前記遮蔽格子と前記検出器とを移動させることにより前記回折格子と前記遮蔽格子と前記検出器と、光軸とがなす角度を変化させることを特徴とする請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項3】
前記角度可変手段は、
前記回折格子と前記遮蔽格子と前記検出器と、前記光軸とがなす角度を、第1の角度から前記第1の角度と異なる第2の角度に変化させ、
前記検出器は、少なくとも、
前記回折格子と前記遮蔽格子と前記検出器とが、前記光軸と前記第1の角度をなすときと、
前記回折格子と前記遮蔽格子と前記検出器とが、前記光軸と前記第2の角度をなすときと、に前記X線の検出を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のX線撮像装置。
【請求項4】
前記角度可変手段は、前記回折格子と前記遮蔽格子と前記検出器と、前記光軸とがなす角度の変化を、前記検出器による前記X線の検出中に行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項5】
前記角度可変手段は、
前記回折格子と前記遮蔽格子と前記検出器と、前記光軸とがなす角度の変化に伴って、前記回折格子と前記遮蔽格子と前記検出器と、を前記光軸に沿って移動させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項6】
前記角度可変手段は、
前記前記回折格子と前記遮蔽格子と前記検出器と、前記光軸とがなす角度の変化に伴って、前記回折格子をΔL、前記遮蔽格子をΔL、前記検出器をΔL、前記光軸に沿って移動させることを特徴とする請求項5に記載のX線撮像装置。
但し、前記回折格子と前記光軸のなす角度をθ、前記X線源と前記回折格子までの距離をLとするとき、
【数1】


であり、
前記遮蔽格子と前記光軸のなす角度をθ、前記X線源と前記遮蔽格子までの距離をLとするとき、
【数2】


であり、
前記検出器と前記光軸のなす角度をθ、前記X線源と前記検出器までの距離をLとするとき、
【数3】


である。
【請求項7】
前記角度可変手段は、
前記回折格子上の回転中心を中心として前記回折格子を回転させることにより前記回折格子と前記光軸とがなす角度を変化させ、
前記遮蔽格子上の回転中心を中心として前記遮蔽格子を回転させることにより前記遮蔽格子と前記光軸とがなす角度を変化させ、
前記検出器上の回転中心を中心として前記検出器を回転させることにより前記検出器と前記光軸とがなす角度を変化させ、
前記回折格子上の回転中心は、前記回折格子と前記光軸とがなす角度の変化に伴って前記回折格子上を移動し、
前記遮蔽格子上の回転中心は、前記遮蔽格子と前記光軸とがなす角度の変化に伴って前記遮蔽格子上を移動し、
前記検出器上の回転中心は、前記検出器と前記光軸とがなす角度の変化に伴って前記検出器上を移動することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項8】
前記発散X線を透過する透過部と前記発散X線を遮蔽する遮蔽部を有するX線マスクと、
前記X線マスクを移動させるX線マスク移動手段と、を備え、
前記X線マスクは前記X線源と前記被検査物との間に配置され、
前記X線マスク移動手段は、
前記X線のうち前記遮蔽格子に対して垂直に入射するX線が、前記X線マスクの前記透過部を通るように、前記遮蔽格子と前記光軸とがなす角度に応じて前記X線マスクを移動させることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項9】
前記角度可変手段は、
前記発散X線のうち、前記発散X線の前記光軸以外を通る周辺X線が、前記回折格子と前記遮蔽格子と前記検出器とに対して垂直に入射するように前記回折格子と前記遮蔽格子と前記検出器と、前記光軸との角度を変化させることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のX線撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図18】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図15】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−63099(P2013−63099A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201819(P2011−201819)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】