説明

X線発生器において放射線を遮蔽する構造および方法

【課題】X線発生器における放射線を遮蔽するための構造を提供する。
【解決手段】 X線発生器における放射線を遮蔽するための構造1であり、第1の物質から構成される少なくとも1つの第1の層11および第2の物質から構成される少なくとも1つの第2の層12を備えており、第1の物質は相当の熱伝達特性を備え、第2の層は相当の放射線遮蔽特性を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として放射線遮蔽、より詳しくはX線発生器において放射線を遮蔽する構造および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばチューブヘッド(ハウジング内にX線管および発生器を有する)といったX線発生器が、診断医学イメージング、産業用検査システム、セキュリティ用スキャナなどにおけるX線生成のための小型線源として広く使用されている。
【0003】
X線生成の間、X線管はX線照射を必要とするフォーカルスポットのまわりの全方向でX線を生成する。低レベルでさえX線放射への連続的曝露は、X線環境における使用者に望ましくない健康作用を生じ得る。従って、例えばフォーカルスポット以外の場所における十分な遮蔽および、それによるX線放射への曝露の防止が、使用者を望ましくない健康危害から保護するために必要になる。
【0004】
規制上の要求条件は、発生器装置表面においてほぼ0〜2ミリレントゲン/時の放射線漏れ仕様を求めている。
【0005】
さらに、例えば、高出力X線生成の間、X線発生器は、陽極において、例えば70kV超の電圧でかつ200℃を上回る温度で動作させられ得る。X線発生器は通常、熱を放散する冷却剤として作用するとともに陽極のまわりに絶縁を付与するために陽極のまわりに充填される絶縁油(例えば鉱油)を使用する。
【0006】
X線発生器に放射線遮蔽を付与するための既知の方法は、ハウジングの内面に鉛シートを含むライニングを固定し、陽極のまわりに充填される絶縁油の汚染を回避するために特殊塗料を用いて鉛シートを塗装することを含む。鉛シートライニングは十分な放射線漏れ抵抗を付与するが、ハウジングは、十分な厚さのライニングを収容するために大きい表面積を必要とし、それはX線発生器についてとても小型とは言えないシステムをもたらし得る。さらに、ハウジング内に鉛シートライニングを固定することは、ハウジングからの熱伝達率を低減し、ハウジング内部に実装された高圧電子回路がX線放射に曝されることを防止しない。鉛シートの劣った加工性は、最小かつ所要の断面への造形を許さず、それによってX線発生器内部でのアーキング現象の発生を防ぐための十分なクリアランスを与えないかもしれない。さらに、不均一な幾何学形状を有するハウジングへの鉛シートの固定は困難になるかもしれず、油の汚染を防ぐための鉛シートへの特殊塗料の使用は高額になり得る。
【0007】
X線発生器に放射線遮蔽を付与する別の既知の方法は、X線管のまわりに、約25重量%の鉛を有する鉛含有合金から鋳造された遮蔽部品を組み立てることを含む。この構成は、ハウジング内部に配置された高圧電子回路がX線に曝されることを防ぐが、相当する鉛厚さを補償し、それによって十分に放射線漏れに耐える遮蔽を付与するために、遮蔽部品のより大きな厚さが必要になる。さらには、使用される合金が鉛のそれに同程度の低い熱伝導率を有するので、遮蔽を伝わる熱流は低減することになる。これは、次式によって与えられるように熱源側における高温度をもたらす。
【0008】
Q=K*A*(T1−T2)/L
上記の式において、
Qは、熱流の量である。
Kは、合金の熱伝導率である。
A、遮蔽部品の断面積である。
Lは、遮蔽部品の長さである。
Tlは、源側の温度である。
T2は、周囲側の温度である。
【0009】
特にX線およびガンマ放射線に対する放射線遮蔽を付与する別の方法が、1989年6月3日にテレキ(Teleki)に発行された米国特許第4,795,654号に開示されている。米国特許第4,795,654号は、放射線を受ける側から特定の順序で設けられた少なくとも2層、場合によっては3層の材料を含む遮蔽構造を開示している。第1の層は、第1の範囲のKエッジおよびLエッジレベルを有する。順序で第2の層は、KエッジレベルとLエッジレベルとの間に、第1の層によって放出された二次放射線レベルより低いKエッジレベルを有する。順序で第3の層は、第2の層のKエッジレベルとLエッジレベルとの間にKエッジレベルを有する。この方法はそれほど厚くなく低重量の放射線遮蔽を提供するが、その放射線遮蔽は、容易に評価できるほどの熱伝達特性を有しておらず、それ故、X線発生器において使用された時にチューブ長に沿ってホットスポットの形成につながる不十分な熱伝達をもたらし得る。さらに、開示された方法は、第1の層において鉛の使用を提案しており、それは陽極のまわりに充填される絶縁油の汚染をもたらし得る。
【特許文献1】米国特許第4,795,654号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、これらの既知の方法および構造は、(i)小さい厚さおよび低重量の遮蔽材料によるX線発生器のための小型の設計を有し、(ii)優れた熱伝達特性を保持し、それによりチューブ長さに沿ったホットスポットの形成を防ぎ、(iii)絶縁油の汚染を防ぎ、(iv)適切なクリアランスを付与し、それによりX線発生器内部でのアーキング現象を防ぐために最小の断面および所要の形状への容易な成形性を可能にする、放射線遮蔽構造を提供することを可能にしない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の欠点、不利益および課題がここにおいて取り組まれており、それは以下の明細を読み検討することによって理解されるはずである。
【0012】
1実施形態において、X線発生器における放射線を遮蔽するための構造が提供される。構造は、熱伝達特性を有する第1の物質より構成される少なくとも1つの第1の層および、放射線遮蔽特性を有する第2の物質より構成される少なくとも第2の層を含む。
【0013】
別の実施形態において、X線発生器における放射線を遮蔽する方法が提供される。方法は、熱をX線管付近からある距離の場所まで伝達するための少なくとも1つの第1の層を設けることを含む。放射線をX線管から遮蔽するための少なくとも第2の層が、第1の層と組み合わせて設けられる。
【0014】
さらに別の実施形態において、X線発生器が提供される。X線発生器は、その内部にX線管を収容するハウジングを備える。放射線を遮蔽するための手段が、X線管とハウジングとの中間に配置される。放射線を遮蔽するための手段は、X線管付近の熱および電界をある距離の場所に移動するように機器構成されている。
【0015】
可変範囲の装置、システムおよび方法がここに記載されている。この概要に述べられた態様および利益に加え、さらなる態様および利益は、図面の参照および、後続する詳細な説明を読むことによって明白になるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下の詳細な説明において、その一部を成し、実施し得る特定の実施形態が例証として示されている、添付図面に言及する。これらの実施形態は当業者がその実施形態を実施可能とするために十分に詳細に説明されており、他の実施形態が利用され得ることおよび、論理的、機械的、電気的その他の変更がその実施形態の範囲を逸脱することなく行い得ることは、理解されるであろう。従って、以下の詳細な説明は限定的意味で解釈するべきではない。
【0017】
種々の実施形態が、X線発生器、特にハウジング内にX線管および発生器を備えるチューブヘッドにおける放射線を遮蔽するための構造および方法を提供する。しかし、実施形態はそのように限定されておらず、例えばガンマ線検出器、種々の他の核およびX線装置においてといったように、他のシステムに関連して具体化され得る。
【0018】
種々の実施形態において、X線発生器における放射線を遮蔽するための構造が提供され、構造は、X線管(例えば陽極で)から発生した熱を、X線管から離れた場所へ伝達するのを助成するための少なくとも1つの第1の層および、X線管から発生したX線からの遮蔽を付与するための少なくとも1つの第2の層を備える。詳細には、構造は、第1の物質より構成される少なくとも1つの第1の層および第2の物質より構成される少なくとも1つの第2の層を備えており、第1の物質はX線管から熱をある距離の場所に伝達し、第2の物質はX線管から発生した放射線の遮蔽を付与する。しかし、他の実施形態において、第2の層を構造的に強化するために第3または第1の物質の一方より構成される第3の層が設けられ得る。
【0019】
図1は、1実施形態に従ったX線発生器において放射線を遮蔽するための構造1の例示的な図を示している。構造1は、第1の物質から構成された少なくとも1つの第1の層11および第2の物質から構成された少なくとも第2の層12を含む。
【0020】
1実施形態において、第3または第1の物質から構成される第3の層13が、第1および第2の層と組み合わせて設けられる。
【0021】
1例において、第1の物質は、相当の熱伝達特性を有する材料を含み得る。
【0022】
他の例において、第1の物質は、相当の熱伝達(例えば放熱)および電気伝導特性の両方を有する材料を含み得る。第1の物質は、銅または銅合金の少なくとも一方よりなる。他の例において、第1の物質は、熱伝達および電気伝導特性の両方を有する、スズ、アルミニウムなどといった材料を含み得る。
【0023】
熱伝達特性に加えて相当の導電率を有する材料の使用が、第1の層11の表面に蓄積される静電荷の絶縁油からの移動およびそれによる除去を付与することに留意しなければならない。
【0024】
第2の物質は、相当の放射線遮蔽特性を有する材料を含む。1例において、第2の物質は、例えば鉛シートなどの鉛含有材料を含む。第2の物質は、構成された第1および第3の層11および13と組み合わせた使用に適格な放射線遮蔽材料の種々の形式および形態を含み得る。
【0025】
第3の層13は、第2の層に構造的支持を付与するために構成されている。第3の層13は、第1の物質の材料から構成されるかまたは、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金の少なくとも一方といった第3の物質から構成され得る。
【0026】
第1の層11および第3の層13の材料の弾性率は、第2の層に十分な補強強度を付与するために第2の層のそれの例えば5〜7倍の範囲である。
【0027】
1例において、シートの形態の第1、第2および第3の層11、12および13は、マンドレルでのスピニング加工によって独立に所要の形態に造形される。造形されたシートはその後、層の中間に、例えばエポキシ接着剤といった接着剤の薄層によって結合される。
【0028】
他の例において、シートは、深絞りプロセスによって所要の形態に個別に形成され、その後、エポキシ接着剤といった接着剤を用いて一体に結合される。
【0029】
1例において、第1の層11は、第2の層12を覆うとともに、層の相対的な滑りを防止するために、縁端に沿ってカールされ得る。
【0030】
また別の例において、第1および第3の層11および13は、スピニング加工プロセスによって所要の形態に造形される。造形された層は、固定具を用いて、中間に隙間を備えて一体に保持される。隙間には鉛のペレットまたはグラニュールが充填され、鉛を層の中間で均質にするために制御された加熱が実行される。この方法は、特に鉛が使用される場合に、第2の層における寸法の変動のために層を組み立てるうえで困難が存在する装置において具体化され得るであろう。
【0031】
その融点を超えての鉛の溶解およびその後の冷却が、第2の層を通じた放射線漏れを生じ得る鉛の多孔度の増大をもたらし得ることに留意しなければならない。加熱は、そのような多孔度の生成および、それ故に放射線漏れが実質的に最小限にされるように制御される。
【0032】
図2は、放射線を遮蔽するための構造1を、X線発生器との組立状態で示している。X線発生器は、ベース3に取り付けられハウジング4内に収容されたX線管2を備える。絶縁油(例えば鉱油)が、絶縁を付与するとともに、X線発生器のための冷却剤の働きをするためにハウジング内に充填される。放射線を遮蔽するための構造1は、1つ以上の適格な方法によってX線管2とハウジング4との中間に固定される。
【0033】
例えば、1方法において、構造1はねじ接続5によってベースに固定される。
【0034】
X線管2とハウジング4との中間での放射線を遮蔽するための構造1のアセンブリは、ハウジング4内に実装された電子回路(図示せず)がX線に曝されるのを防ぐことに留意するべきである。
【0035】
放射線を遮蔽するための構造1の形状は、最小の断面積を有するように構成され得て、それが、X線管2の長さに沿ったアーキングおよびホットスポットの生成を伴うことなく第1の層11(図1)による熱および電界の移動を可能にするであろう。
【0036】
1例において、放射線を遮蔽するための構造1は、ほぼ円形の断面に形成され得る。
【0037】
放射線を遮蔽するための構造1の円形断面は、最小の断面、改善された断面係数、増強された電界分布能力を第1の層11に付与することに留意しなければならない。
【0038】
他の例において、放射線を遮蔽するための構造1は、深絞りなどといった種々の他の方法またはプロセスによって非円形形状に形成され得る。これは、円形形状の使用が可能でないかまたは困難である場合は必ず、X線発生器において放射線を遮蔽するための構造の具体化を可能にするであろう。
【0039】
組立の間に、第1の層11は放射線源側(例えばX線管2の側に)に配置され、第3の層13は遮蔽を要する側(例えばハウジング4の外側)に配置される。第2の層12は、第1および第3の層11および13の中間に配置される。
【0040】
種々の層の厚さは、要求条件に従って設定され得る。例えば、第1の層11の厚さは、絶縁油から除去されるように要求される熱の量および率に基づいて設定され得る。第1の層11はまた、第2の層12に構造的剛性を付与し、従って第1の層11の厚さは、第2の層12に要求される強化の量も考慮して設定され得る。第1の層11はまた、第2の層12(遮蔽材料)による絶縁油の汚染を防ぐことも留意するべきである。
【0041】
第2の層12の厚さは、所要の放射線漏れ耐性規格を満たすように放射線を遮蔽するために要求される材料の量に基づいて設定され得る。
【0042】
図3は、冷却手段6が放射線を遮蔽するための構造1と結合されている、別の実施形態を示している。1実施形態において、冷却手段6は、複数のヒートパイプ(図示せず)が埋め込まれた銅スリーブ7よりなる。銅スリーブ7は、第1の層11によって絶縁油から伝達された熱を運び去るために、放射線を遮蔽するための構造1に固定される。この構成は、効果的な放射線遮蔽を付与することに加え、ハウジング内の絶縁油の所要の最適温度を維持する。
【0043】
このようにして、種々の実施形態がX線発生器における放射線を遮蔽するための構造および方法を提供する。さらなる実施形態が、効果的な放射線遮蔽を付与するとともに、X線管周辺の最適温度を維持するための構成物を有するX線発生器を提供する。
【0044】
本発明を種々の特定の実施形態に関して説明したが、本発明が修正を伴い実施され得ることを、例えば第1の層および第3の層が鋼、クロミウム、ニッケルなどといった熱伝達および電気伝導特性の両方を有する材料を有し得ることを、当業者は認識するであろう。第2の層は、レニウム、オスミウムなどといった材料を有し得る。しかし、全部のそのような修正は、請求項の精神および範囲の内に包含されているものとみなされる。また、図面の符号に対応する特許請求の範囲中の符号は、単に本願発明の理解をより容易にするために用いられているものであり、本願発明の範囲を狭める意図で用いられたものではない。そして、本願の特許請求の範囲に記載した事項は、明細書に組み込まれ、明細書の記載事項の一部となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】1実施形態に従ったX線発生器において放射線を遮蔽するための構造の斜視断面図を示す。
【図2】実施形態に従ったX線発生器内部の組立状態の図1の構造を示す。
【図3】実施形態に従ったX線発生器内部の冷却構成アセンブリを示す。
【符号の説明】
【0046】
1 ハウジング
1 構造
2 X線管
3 ベース
4 ハウジング
5 接続
6 冷却手段
7 銅スリーブ
11 第1の層
12 第2の層
13 第3の層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線発生器において放射線を遮蔽するための構造(1)であって、
第1の物質より構成される少なくとも1つの第1の層(11)と、
第2の物質より構成される少なくとも1つの第2の層(12)とを含み、
前記第1の物質は相当の熱伝達特性を有する少なくとも1つの材料より構成され、
第2の物質は少なくとも1つの放射線遮蔽材料より構成される、構造。
【請求項2】
第3の物質より構成される少なくとも1つの第3の層(13)をさらに含む、請求項1記載の構造。
【請求項3】
第1の物質より構成される少なくとも1つの第3の層(13)をさらに含む、請求項1記載の構造。
【請求項4】
第1の物質は電気伝導特性をさらに備える、請求項1記載の構造。
【請求項5】
第1の物質は銅またはその合金の一方である、請求項1記載の構造。
【請求項6】
第2の物質は鉛である、請求項1記載の構造。
【請求項7】
鉛は約90パーセントないし100パーセントの範囲の純度を有する、請求項6記載の構造。
【請求項8】
純度は94パーセントないし97パーセントの範囲である、請求項7記載の構造。
【請求項9】
第3の物質はアルミニウムまたはその合金である、請求項2記載の構造。
【請求項10】
第1および/または第3の層(11、13)は、第2の層(12)の弾性率よりも約7〜10倍大きい弾性率を備える、請求項3記載の構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−30184(P2006−30184A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198337(P2005−198337)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】