説明

X線管の製造方法、及びX線管

【課題】制御電極の開口軸と制限構造体の開口軸とを高精度に位置決めし、電子を損失することなくターゲットに照射させ、また不要なX線の発生を低減する。
【解決手段】位置決め治具126によって制御電極102の開口103の軸と制限構造体121の開口123の軸とを位置決めする工程と、位置決め治具126に電子銃ユニット100及びターゲットユニット120をそれぞれ固定する工程と、位置決め治具126に固定されたターゲットユニット120を所定の位置に所定の精度で、位置決め基準部115によって胴管ユニット110に対して位置決めする工程と、位置決め基準部115によって位置決めされない電子銃ユニット100と胴管ユニット110とを真空気密接合する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に医療機器及び産業機器分野における診断応用や非破壊X線撮影等に適用されるX線管の製造方法、及びX線管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に制御電極系を備えたX線管は、フィラメント等のカソードから放出された熱電子を制御電極系に導き、電子の軌道を制御し、X線を発生するターゲットの所望の位置に衝突させることで、X線を発生させる。発生させたX線は、ターゲットを透過し被照射体に照射され、撮影を行う(特許文献1参照)。さらに、上述した基本的な構成の他、X線を発生させるターゲットの直前に、X線、反射電子遮蔽構造を設置することで、不要なX線、反射電子の遮蔽と、放熱特性の改善が行われている(特許文献2参照)。
【0003】
上記構成のX線管において、遮蔽体に電子を衝突させずに、またそれによる不要なX線を発生させずに、所望のターゲット面の位置に電子を衝突させるためには、集束電極系とターゲットとを高精度に位置決めすることが必要になる。すなわち、X線管の各構成部材の位置決めは、電子が所望の軌道を通ってターゲット面の所望の位置に衝突させるための位置決めである。
【0004】
通常、制御電極系内において、複数の電極は、電子が通過する電極の開口径の中心が同一軸(開口軸)上に位置するように配置されている。電子の集合体である電子ビームの重心は、上記軸上に沿って移動し、電子ビームが制御電極系から出射される。その後、電子ビームは、ターゲットの直前に配置された遮蔽構造体の開口部の軸(開口軸)上を通ってターゲットに照射される。したがって、制御電極系の開口軸と遮蔽構造体の開口軸とを精度良く位置決めする必要がある。
【0005】
位置決めする方法には、X線管の外囲器を基準として、ターゲットと制御電極系とを位置決めする方法(特許文献3参照)、及びレーザー光を用いた位置決め方法が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−245727号公報
【特許文献2】特開2009−205992号公報
【特許文献3】特開平7−29487号公報
【特許文献4】特開平7−296727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、X線管の制御電極系の開口軸と、遮蔽構造体の開口軸とを位置決めする工程では、外囲器を基準として位置決めを行った場合、制御電極系の開口軸と外囲器の軸線(中心軸)との間に複数の組立誤差が含まれてしまう。そのため、制御電極系の開口軸と外囲器の軸線とを必要な位置精度で位置決めすることが困難である。
【0008】
また同様に、遮蔽構造体の開口軸と外囲器の軸線との間には、複数の組立誤差が含まれる。このため、遮蔽構造体の開口軸と外囲器の軸線とを必要な精度で位置決めすることが困難である。
【0009】
さらに、外囲器自体が特にガラスによって形成されている場合、外囲器の位置によって軸線の位置がずれることが多く、最終的に制御電極系の開口軸と遮蔽構造体の開口軸とを精度良く位置決めすることが困難である。
【0010】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、制御電極の開口軸と制限構造体の開口軸とを高精度に位置決めすることができる、X線管の製造方法、及びX線管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するため、本発明に係るX線管の製造方法は、電子を発生させその運動を制御する制御電極を有する電子銃ユニットと、X線を発生させるターゲット及びこのターゲットの直前に配置され電子の運動を制限する制限構造体を有するターゲットユニットと、電子銃ユニットとターゲットユニットとの間に配置され、電子銃ユニット及びターゲットユニットと組み合わされて真空外囲器を形成する絶縁体を含む胴管ユニットと、を備えるX線管の製造方法である。電子銃ユニット及びターゲットユニットのいずれか一方のユニットを所定の位置に所定の精度内で位置決めするための位置決め基準部が設けられた胴管ユニットを用いる。また、電子銃ユニット及びターゲットユニットに対して着脱可能に設けられた一組の固定部と、同一軸線上の両端に設けられた一組の突起部と、を有し、一方の突起部が制御電極の開口に嵌合され、他方の突起部が制限構造体の開口に嵌合される位置決め治具を用いる。そして、X線管の製造方法は、位置決め治具の一組の突起部を制御電極の開口及び制限構造体の開口にそれぞれ挿入して嵌合することによって、制御電極の開口軸と制限構造体の開口軸とを位置決めする工程と、位置決め治具の一組の固定部に電子銃ユニット及びターゲットユニットをそれぞれ固定する工程と、位置決め治具の固定部に固定された一方のユニットを、位置決め基準部によって胴管ユニットに対して位置決めする工程と、位置決め基準部によって位置決めされない他方のユニットと胴管ユニットとを真空気密接合する工程と、真空気密接合した後、電子銃ユニット及びターゲットユニットから位置決め治具を取り外す工程と、位置決め基準部によって一方のユニットを胴管ユニットに対して所定の位置に所定の精度内で位置決めして胴管ユニットと一方のユニットとを真空気密接合する工程と、を有する。
【0012】
また、本発明に係る別のX線管の製造方法は、電子を発生させその運動を制御する制御電極を有する電子銃ユニットと、X線を発生させるターゲット及びこのターゲットの直前に配置され電子の運動を制限する制限構造体を有するターゲットユニットと、電子銃ユニットとターゲットユニットとの間に配置され、電子銃ユニット及びターゲットユニットと組み合わされて真空外囲器を形成する絶縁体を含む胴管ユニットと、を備えるX線管の製造方法である。電子銃ユニット及びターゲットユニットのいずれか一方のユニットを所定の位置に所定の精度内で位置決めするための位置決め基準部が設けられた胴管ユニットを用いる。また、一方のユニットに対して着脱可能に設けられた固定部と、同一軸線上の両端に設けられた一組の突起部と、を有し、一方の突起部が制御電極の開口に嵌合され、他方の突起部が制限構造体の開口に嵌合される位置決め治具と、位置決め基準部によって位置決めされない他方のユニットを胴管ユニットに固定するための固定治具とを用いる。そして、X線管の製造方法は、位置決め治具の一組の突起部を制御電極の開口及び制限構造体の開口にそれぞれ挿入して嵌合することによって、制御電極の開口軸と制限構造体の開口軸とを位置決めする工程と、位置決め治具の固定部に一方のユニットを固定する工程と、位置決め治具の固定部に固定された一方のユニットを、位置決め基準部によって胴管ユニットに対して位置決めする工程と、位置決め治具の突起部が嵌合された他方のユニットを、固定治具によって胴管ユニットに固定する工程と、他方のユニットと胴管ユニットとを真空気密接合する工程と、真空気密接合した後、電子銃ユニット及びターゲットユニットから位置決め治具を取り外す工程と、位置決め基準部によって胴管ユニットに対して一方のユニットを位置決めして胴管ユニットと一方のユニットとを真空気密接合する工程と、を有する。
【0013】
また、本発明に係るX線管は、電子を発生させその運動を制御する制御電極を有する電子銃ユニットと、X線を発生させるターゲット及び該ターゲットの直前に配置され電子の運動を制限する制限構造体を有するターゲットユニットと、電子銃ユニットとターゲットユニットとの間に配置され、電子銃ユニット及びターゲットユニットと組み合わされて真空外囲器を形成する絶縁体を含む胴管ユニットと、を備える。胴管ユニットは、電子銃ユニット及びターゲットユニットのいずれか一方を所定の位置に所定の精度内で位置決めするための位置決め基準部を有する。電子銃ユニット及びターゲットユニットのうち、少なくとも前記一方のユニットは、制御電極の開口軸と制限構造体の開口軸とを位置決めするための位置決め治具に対して着脱可能な固定部を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、位置決め治具を用いることで、高精度に位置決めする必要がある制御電極の開口軸と、制限構造体の開口軸とを直接的に位置決めすることが可能になる。このため、各ユニット単体に含まれる寸法精度が組み立て誤差として累積することなく、X線管を高精度に組み立てることができる。したがって、本発明は、電子を損失することなくターゲットに照射させ、また不要なX線の発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態及び第1の実施例のX線管の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図2】別の位置決め治具を用いた第2の実施例のX線管の製造方法を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、実施形態について記載されている部材、形状、相対位置等を含むこれらの構成によって本発明はなんら制限を受けない。
【0017】
図1に示すように、本実施形態のX線管は、次の3つのユニットが組み合わされて構成されている。X線管は、電子を発生させその運動を制御する、すなわち運動方向を揃える制御電極102を有する電子銃ユニット100を備えている。また、X線管は、電子を衝突させてX線を発生させるX線放射ターゲット122及びこのターゲット122の直前に配置され電子の運動を制限する制限構造体121を有するターゲットユニット120を備えている。また、X線管は、電子を所望のエネルギーに加速するための電位及び加速空間を提供する胴管ユニット110を備えている。
【0018】
電子銃ユニット100は、電子を発生して制御する部材であるカソード104と、制御電極102は、電流/電圧導入導体107に電気的に接続されるとともに、機械的にも支持されている。カソード104及び制御電極102を更に補強するための構造体が電子銃ユニット100に追加されても良い。電流/電圧導入導体107は、セラミックスを介して電子銃フランジ106に固定されている。さらに、電子銃フランジ106には、X線管内の大気を排気するための排気管105が接続されている。
【0019】
胴管ユニット110は、電子銃ユニット100とターゲットユニット120との間に配置され、電子銃ユニット100及びターゲットユニット120と組み合わされて真空外囲器を形成する筒状の絶縁体113を含んでいる。
【0020】
胴管ユニット110は、軸線方向の両端に、一組の胴管フランジA111と胴管フランジB112が設けられている。胴管フランジA111及び胴管フランジB112は、筒状の絶縁体113の両端部に真空気密接合125されている。絶縁体113の材質としては、例えばセラミックス、ガラス等が好適である。絶縁体113としてセラミックスを用いる場合、真空気密接合125としては銀ロー付けによる接合が好適である。胴管フランジA111および胴管フランジB112は、絶縁体113と同程度の熱膨張率の金属材で形成されることが好適であり、例えばコバールが好ましい。
【0021】
そして、胴管ユニット110は、胴管フランジA111,B112のいずれか一方(図1(a)に示す構成例では胴管フランジB112)に、位置決め基準部115が設けられている。位置決め基準部115は、胴管ユニット110からターゲットフランジ124を取り外した後、再度設置したときであっても、所望の精度で元の位置に設置できるように構成されている。他方の胴管フランジA111は、胴管ユニット110に対して電子銃フランジ106を自由な位置で溶接できるように構成されている。なお、胴管ユニット110において、胴管フランジA111,B112の役割が相互に交換されて構成されても、本実施形態と同じ効果が得られる。
【0022】
ターゲットユニット120は、X線放射ターゲット122として、例えば、ダイヤモンド、SiC、Be等の内面にW、Cu、Ta、Pt等の金属材が塗布されたものを用いる。制限構造体121は、例えばW、Cu、Ta、等の金属材で形成されており、X線放射ターゲット122で反対側(内側)に放射される不要なX線を吸収する。したがって、電子が通過する制限構造体121の開口123が狭ければ狭いほど、不要なX線を吸収する効果が高くなるが、位置決めの精度が厳しくなる。ターゲットフランジ124は、制限構造体121と真空気密接合されており、胴管ユニット110の位置決め基準部115の内側に挿入されて設けられている。
【0023】
以下、上述した3つのユニット100、110、120を組み合わせて、X線管を製造する本実施形態の製造方法について説明する。
【0024】
本実施形態のX線管の製造方法は、ターゲットユニット120を胴管ユニット110に対して、常に所定の位置に所定の精度内で位置決めするための位置決め基準部115が設けられた胴管ユニット110を用いる。ターゲットユニット120の軸線、すなわち制限構造体121の開口123の軸(開口軸)は、位置決め基準部115によって、胴管ユニット110の軸線(中心軸)に対して位置決めされる。また、電子銃ユニット100及びターゲットユニット120に対して着脱可能に設けられた一組の固定部A116及び固定部B114と、同一軸線上の両端に設けられた一組の突起部A128及び突起部B129と、を有する位置決め治具126を用いる。位置決め治具126は、一方の突起部A128が制御電極102の開口103に嵌合され、他方の突起部B129が制限構造体121の開口123に嵌合される。
【0025】
そして、X線管の製造方法は、制御電極102の開口103の軸と制限構造体121の開口123の軸とを位置決めする工程を有する。この工程では、位置決め治具126の一組の突起部A128及び突起部B129を制御電極102の開口103及び制限構造体121の開口123にそれぞれ挿入することによって位置決めを行う。また、この製造方法は、位置決め治具126の一組の固定部A116及び固定部B114に電子銃ユニット100及びターゲットユニット120をそれぞれ固定する工程を有する。また、この製造方法は、位置決め治具126の固定部B114に固定されたターゲットユニット120を胴管ユニット110に対して位置決め基準部115によって常に所定の位置に所定の精度内で位置決めする工程を有する。また、この製造方法は、位置決め基準部115によって位置決めされない電子銃ユニット100と胴管ユニット110とを真空気密接合する工程を有する。また、この製造方法は、真空気密接合した後、電子銃ユニット100及びターゲットユニット120から位置決め治具126を取り外す工程を有する。また、この製造方法は、位置決め基準部115によって胴管ユニット110の軸線に対してターゲットユニット120の軸線を位置決めして胴管ユニット110とターゲットユニット120とを真空気密接合する工程を有する。
【0026】
まず、位置決め治具126の突起部B129を、ターゲットユニット120の制限構造体121の開口123に挿入して嵌合させる。また、位置決め治具126の固定部B114を、ターゲットユニット120のターゲットフランジ124に例えば図1に示すようなボルト等の締結部材を用いて固定する。次に、位置決め治具126が固定されたターゲットユニット120と、電子銃ユニット100を、胴管ユニット110の内部に挿入する。
【0027】
このとき、位置決め治具126の固定部B114に固定されたターゲットユニット120のターゲットフランジ124を胴管ユニット110の位置決め基準部115に嵌合させる。これによって、ターゲットユニット120の制限構造体121の開口123の軸(開口軸)は、位置決め基準部115によって、所定の位置に位置決めされる。
【0028】
次に、位置決め治具126の突起部A128を、電子銃ユニット100の制御電極102の開口103に挿入して嵌合させるとともに、位置決め治具126の固定部A116を、電子銃ユニット100の固定部101に嵌合させて固定する。この固定構造の一例としては、鍵構造に形成された固定部A116を、電子銃ユニット100の固定部101に嵌合させた状態で軸回りに回転させることで、一時的に固定する構造が挙げられる。
【0029】
続いて、ターゲットユニット120を、胴管ユニット110の胴管フランジB112の外側に向かって移動させることで、電子銃ユニット100の電子銃フランジ106を胴管フランジA111に当接させる。この状態で、電子銃フランジ106と胴管フランジA111とを溶接して溶接部109を形成し、真空気密接合を行う。この溶接を行う代わりに、例えばローまたははんだ付け等の他の真空気密接合も可能であり、接合方法によって本発明は制限されない。しかし、カソード104として含浸型を用いる場合には、大気中での加熱を数十度以下にする必要があるので、溶接が好適である。溶接の方法としては、例えばTIG(タングステン・イナート・ガス)溶接、レーザービーム溶接、電子ビーム溶接が可能である。しかし、溶接部109の近傍には銀ロー付け等の真空気密接合部が位置しており、高温に加熱することができないので、局所的な加熱が可能なレーザービーム溶接が好適である。
【0030】
次に、ターゲットユニット120に取り付けられた位置決め治具126を、電子銃ユニット100の固定部101から取り外す。続いて、位置決め治具126をターゲットユニット120から取り外した後、ターゲットユニット120を、胴管フランジB112の位置決め基準部115に沿って挿入する。これによって、ターゲットユニット120は再び電子銃フランジ106を溶接した時と同じ位置に設置することができる。そして、ターゲットフランジ124と胴管フランジB112とを溶接することで溶接部119を形成し、接合する。この接合の場合も、局所的に加熱ができるレーザービーム溶接が好適である。その後、電子銃ユニット100の排気管105から真空排気を行い、ベーキング、ゲッタの活性化を行うことで、X線管を完成させる。
【0031】
上述したX線管の製造方法における、制御電極102の開口103と、制限構造体121の開口123との位置決め精度は、以下の(1)〜(7)の各精度が積み上げられたものである。
(1)制限構造体121の加工精度
(2)突起部B129の加工精度
(3)突起部A128と突起部B129の同軸精度
(4)突起部A128の加工精度
(5)制御電極102の開口103の加工精度
(6)位置決め基準部115の加工精度
(7)ターゲットフランジ124の加工精度
これら(1)〜(7)のほとんどが機械加工精度であり、0.015mm以内の寸法精度が期待できるので、加工精度を積み上げた精度も所望の精度を達成可能である。
【0032】
本実施形態のX線管の製造方法によれば、制御電極102の開口103の軸と、制限構造体121の開口123の軸とを、位置決め治具126を用いて直接的に位置決めすることで、高精度に位置決めすることができる。このため、各ユニット100、110、120単体に含まれる寸法精度が組み立て精度として累積されることなく、X線管を高精度に組み立てることができる。したがって、本発明は、電子を損失することなくターゲットに照射させ、また不要なX線の発生を低減することができる。
【0033】
また、本実施形態の製造方法によれば、真空気密接合を溶接によって行うことで、熱歪の発生を抑えることができる。また、本実施形態の製造方法によれば、大気中で高温耐性が乏しい含浸型カソードを有する電子銃ユニットを用いて、X線管を製造することが可能になる。
【0034】
なお、本実施形態では、位置決め基準部115によってターゲットユニット120の軸線が胴管ユニット110の軸線に対して位置決めされたが、胴管ユニット110の軸線と電子銃ユニット100またはターゲットユニット120の軸線は一致させる必要はない。位置決め基準部115によってターゲットユニット120のターゲットフランジ124が位置決めされたときに、常に所定の位置に所定の精度内で位置決めできれば良い。つまり、位置決めされたターゲットユニット120の位置が基準となり、電子はその軸上を運動するようにからである。その軸は、胴管ユニット110の軸線と異なるが、そのずれの分だけ胴管ユニット110の軸線を移動させて取り付ければよい。
【0035】
(第1の実施例)
図1に示した構成のX線管を上述した製造方法で製造した。電子銃ユニット100において、制御電極102の開口径がφ2mm、開口径の加工精度が+0.015mm〜0.0mmであり、電子銃フランジ106がコバール製であった。固定部101として、制御電極102の外周上に嵌合溝が設けられており、嵌合溝の一部が外部に開放された構造を形成した。
【0036】
胴管ユニット110において、胴管フランジA111、胴管フランジB112がコバール製であり、絶縁体113がアルミナセラミックスからなり、これら胴管フランジA111、B112と絶縁体113とを予め銀ロー付けによって真空気密接合した。
【0037】
ターゲットユニット120において、X線放射ターゲット122は、内側にタングステン膜が塗布されたダイヤモンド基板を用いて、銀ロー付けによって制限構造体121に真空気密接合されている。さらに、制限構造体121は、コバール製のターゲットフランジ124に銀ロー付けによって真空気密接合されている。制限構造体121の開口は、φ2mmであり、その加工精度が+0.015mm〜0.0mmである。ターゲットフランジ124には、位置決め治具126を固定するために、直径2mmのねじ穴を形成した。
【0038】
位置決め治具126は、同一軸線上の両端にφ2mmで、その加工精度が−0.005mm〜−0.02mmに形成された一組の突起部A128及び突起部B129を有しており、2つの突起部A128及び突起部B129の同軸度が±0.01mmであった。さらに、位置決め治具126は、固定部A116として引っ掛けフックが設けられている。位置決め基準部115の内径がφ36mm、内径の精度が+0.015mm〜−0.0mmとし、ターゲットフランジ124の外径がφ36mm、外径の精度が−0.005mm〜−0.02mmとし、良好な再現性を図った。
【0039】
上記構成において、ターゲットフランジ124に位置決め治具126の固定部B114を取り付け、位置決め治具126が取り付けられたターゲットフランジ124を、胴管ユニット110に対して胴管フランジB112側から挿入した。また、電子銃ユニット100を、胴管ユニット110の内部に対して胴管フランジA111側から挿入した。続いて、位置決め治具126の突起部A128を、制御電極102の開口103に嵌合させるとともに、位置決め治具126の固定部A116と、電子銃ユニット100の固定部101とを嵌合させて固定した。そして、ターゲットフランジ124を胴管フランジB112側に向かって多少引っ張ることで、電子銃フランジ106を胴管フランジA111に当接させ固定する。そして、これら電子銃フランジ106と胴管フランジB112とをレーザービーム溶接することで溶接部109を形成した。
【0040】
次に、電子銃ユニット100から位置決め治具126を取り外すとともに、位置決め治具126の固定部B114からターゲットユニット120を取り外す。その後、再びターゲットユニット120を、胴管ユニット110の位置決め基準部115に沿って挿入し、レーザービーム溶接によって溶接部119を形成した。
【0041】
制限構造体121各ユニット100、110、120の精度を積算した結果は、0.115mmであり、目標とする電子の広がり(1mm)の15%、すなわち±0.15mm以下を実現し、目標を達成することができた。また、本実施例は、特に高精度な測定を行いながら製造する必要がなく、容易に精密な位置決め精度でX線管を製造することができた。最後に、このX線管に必要な電源を接続し、X線を放射させて測定した。その結果、焦点サイズはほぼ目標値1mmであり、焦点の位置も中心から±0.12mm以内であった。また、不要なX線の量についても、同一のターゲット電流を用いたときに、作製した複数のX線管でばらつきがなく、電子が制限構造体121に衝突していなかった。
【0042】
(比較例)
比較例として、図1に示した位置決め治具126を用いずに絶縁体113の中心軸を基準としてX線管の組み立てを行った。絶縁体113の中心軸の軸精度は±0.02mmであった。電子銃ユニット100を取り付け後の開口103の絶縁体113の中心軸に対する精度は0.3mm、一方、ターゲットユニット120が真空気密接合された制限構造体121の開口123の絶縁体113の中心軸に対する精度は0.1mmとなった。最終的に開口103と開口123の同軸精度は0.42mmとなり、必要とされている±0.1mmの精度が得られなかった。
【0043】
このX線管に必要な電源を接続し、X線を放射させて測定した。その結果、焦点サイズはほぼ目標値1mmであったが、焦点の位置も中心から±0.42mm程度であった。また、不要なX線の量は、本発明の製造方法で製造されたX線管に比べ、同一のターゲット電流を用いたときに数倍程度に達し、電子と制限構造体121との衝突が推定された。
【0044】
(第2の実施例)
第2の実施例として、図2に示すように、電子銃ユニット200が固定される固定部を有していない位置決め治具226と、胴管ユニット110の外部を基準として電子銃ユニット100を位置決めして固定する外部固定治具130とを用いる変形例を説明する。
【0045】
まず、第2の実施例に対応する本実施形態の製造方法は、ターゲットユニット120を胴管ユニット110に対して位置決めするための位置決め基準部115が設けられた胴管ユニット110を用いる。また、ターゲットユニット120に対して着脱可能に設けられた固定部214と、同一軸線上の両端に設けられた一組の突起部A228及び突起部B229と、を有する位置決め治具226を用いる。この位置決め治具226は、一方の突起部A228が制御電極102の開口103に嵌合され、他方の突起部B229が制限構造体121の開口123に嵌合される。さらに、位置決め基準部115によって位置決めされない電子銃ユニット200を胴管ユニット110に固定するための外部固定治具130を用いる。この製造方法は、制御電極102の開口103の軸と制限構造体121の開口123の軸とを位置決めする工程を有する。この工程では、位置決め治具226の一組の突起部A228及び突起部B229を制御電極102の開口103及び制限構造体121の開口123にそれぞれ挿入することによって位置決めを行う。また、この製造方法は、位置決め治具226の固定部214にターゲットユニット120を固定する工程と、を有する。また、この製造方法は、位置決め治具226の固定部214に固定されたターゲットユニット120を胴管ユニット110に対して位置決め基準部115によって常に所定の位置に所定の精度内で位置決めする工程を有する。また、この製造方法は、位置決め治具226の突起部A228が嵌合された電子銃ユニット200を、外部固定治具130によって胴管ユニット110に固定する工程と、電子銃ユニット200と胴管ユニット110とを真空気密接合する工程と、を有する。また、この製造方法は、真空気密接合した後、電子銃ユニット200及びターゲットユニット120から位置決め治具226を取り外す工程を有する。また、この製造方法は、位置決め基準部115によって胴管ユニット110の軸線に対してターゲットユニット120の軸線を位置決めして胴管ユニット110とターゲットユニット120とを真空気密接合する工程と、を有する。
【0046】
そして、上述した第1の実施例と同一のターゲットユニット120と、位置決め治具226に固定するための固定部を有していない電子銃ユニット200を用意した。
【0047】
図2に示すように、位置決め治具226の固定部214を、ターゲットユニット120のターゲットフランジ124に固定する。次に、胴管ユニット110の内部に、位置決め治具226が固定されたターゲットユニット120と、電子銃ユニット200を挿入し、位置決め治具226の突起部A228を制御電極102の開口103に嵌合させる。その状態で外部固定治具130によって電子銃ユニット200を胴管フランジA111にボルト等で固定し、電子銃フランジ106を胴管フランジA111に溶接することで溶接部109を形成し、真空気密接合した。
【0048】
その後の工程は、第1の実施例と同じ工程を行って、X線管を製造した。最後に、このX線管に電源を接続し、X線を放射させて測定した。その結果、焦点サイズはほぼ目標値1mmであり、焦点の位置も中心から±0.14mm以内であった。また、不要なX線の量についても、同一のターゲット電流を用いたときに、作製した複数のX線管でばらつきがなく、電子が制限構造体121に衝突していなかった。
【符号の説明】
【0049】
100 電子銃ユニット
101 固定部A
102 制御電極
103 開口
110 胴管ユニット
111 胴管フランジA
112 胴管フランジB
113 絶縁体
114 固定部B
115 位置決め基準部
116 固定部A
120 ターゲットユニット
121 制限構造体
122 X線放射ターゲット
123 開口
125 真空気密接合
126 位置決め治具
128 突起部A
129 突起部B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を発生させその運動を制御する制御電極を有する電子銃ユニットと、X線を発生させるターゲット及び該ターゲットの直前に配置され前記電子の運動を制限する制限構造体を有するターゲットユニットと、前記電子銃ユニットと前記ターゲットユニットとの間に配置され、前記電子銃ユニット及び前記ターゲットユニットと組み合わされて真空外囲器を形成する絶縁体を含む胴管ユニットと、を備えるX線管の製造方法において、
前記電子銃ユニット及び前記ターゲットユニットのいずれか一方のユニットを所定の位置に所定の精度内で位置決めするための位置決め基準部が設けられた前記胴管ユニットを用いるとともに、
前記電子銃ユニット及び前記ターゲットユニットに対して着脱可能に設けられた一組の固定部と、同一軸線上の両端に設けられた一組の突起部と、を有し、一方の前記突起部が前記制御電極の開口に嵌合され、他方の前記突起部が前記制限構造体の開口に嵌合される位置決め治具を用いて、
前記位置決め治具の一組の前記突起部を前記制御電極の開口及び前記制限構造体の開口にそれぞれ挿入して嵌合することによって、前記制御電極の開口軸と前記制限構造体の開口軸とを位置決めする工程と、
前記位置決め治具の一組の前記固定部に前記電子銃ユニット及び前記ターゲットユニットをそれぞれ固定する工程と、
前記位置決め治具の前記固定部に固定された前記一方のユニットを前記位置決め基準部によって前記胴管ユニットに対して前記所定の位置に前記所定の精度内で位置決めする工程と、
前記位置決め基準部によって位置決めされない他方のユニットと前記胴管ユニットとを真空気密接合する工程と、
前記真空気密接合した後、前記電子銃ユニット及び前記ターゲットユニットから前記位置決め治具を取り外す工程と、
前記位置決め基準部によって前記一方のユニットを前記胴管ユニットに対して前記所定の位置に前記所定の精度内で位置決めして前記胴管ユニットと前記一方のユニットとを真空気密接合する工程と、
を有することを特徴とするX線管の製造方法。
【請求項2】
電子を発生させその運動を制御する制御電極を有する電子銃ユニットと、X線を発生させるターゲット及び該ターゲットの直前に配置され前記電子の運動を制限する制限構造体を有するターゲットユニットと、前記電子銃ユニットと前記ターゲットユニットとの間に配置され、前記電子銃ユニット及び前記ターゲットユニットと組み合わされて真空外囲器を形成する絶縁体を含む胴管ユニットと、を備えるX線管の製造方法において、
前記電子銃ユニット及び前記ターゲットユニットのいずれか一方のユニットを所定の位置に所定の精度内で位置決めするための位置決め基準部が設けられた前記胴管ユニットを用いるとともに、
前記一方のユニットに対して着脱可能に設けられた固定部と、同一軸線上の両端に設けられた一組の突起部と、を有し、一方の前記突起部が前記制御電極の開口に嵌合され、他方の前記突起部が前記制限構造体の開口に嵌合される位置決め治具と、
前記位置決め基準部によって位置決めされない他方のユニットを前記胴管ユニットに固定するための固定治具と、を用いて、
前記位置決め治具の一組の前記突起部を前記制御電極の開口及び前記制限構造体の開口にそれぞれ挿入することによって、前記制御電極の開口軸と前記制限構造体の開口軸とを位置決めする工程と、
前記位置決め治具の前記固定部に前記一方のユニットを固定する工程と、
前記位置決め治具の前記固定部に固定された前記一方のユニットを前記所定の位置に前記所定の精度内で、前記位置決め基準部によって前記胴管ユニットに対して位置決めする工程と、
前記位置決め治具の前記突起部が嵌合された前記他方のユニットを、前記固定治具によって前記胴管ユニットに固定する工程と、
前記他方のユニットと前記胴管ユニットとを真空気密接合する工程と、
前記真空気密接合した後、前記電子銃ユニット及び前記ターゲットユニットから前記位置決め治具を取り外す工程と、
前記位置決め基準部によって前記一方のユニットを前記胴管ユニットに対して前記所定の位置に前記所定の精度内で位置決めして前記胴管ユニットと前記一方のユニットとを真空気密接合する工程と、
を有することを特徴とするX線管の製造方法。
【請求項3】
前記真空気密接合を溶接によって行う、請求項1または2に記載のX線管の製造方法。
【請求項4】
電子を発生させる含浸型カソードを有する前記電子銃ユニットを用いる、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のX線管の製造方法。
【請求項5】
電子を発生させその運動を制御する制御電極を有する電子銃ユニットと、X線を発生させるターゲット及び該ターゲットの直前に配置され前記電子の運動を制限する制限構造体を有するターゲットユニットと、前記電子銃ユニットと前記ターゲットユニットとの間に配置され、前記電子銃ユニット及び前記ターゲットユニットと組み合わされて真空外囲器を形成する絶縁体を含む胴管ユニットと、を備え、
前記胴管ユニットは、前記電子銃ユニット及び前記ターゲットユニットのいずれか一方のユニットを所定の位置に所定の精度内で位置決めするための位置決め基準部を有し、
前記電子銃ユニット及び前記ターゲットユニットのうち、少なくとも前記一方のユニットは、前記制御電極の開口軸と前記制限構造体の開口軸とを位置決めするための位置決め治具に対して着脱可能な固定部を有している、X線管。
【請求項6】
前記位置決め基準部によって位置決めされない他方のユニットと前記胴管ユニットとが溶接されている、請求項5に記載のX線管。
【請求項7】
前記電子銃ユニットは、電子を発生させる含浸型カソードを有する、請求項5または6に記載のX線管。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−79449(P2012−79449A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221278(P2010−221278)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)