説明

X線管用ターゲットおよびそれを用いたX線管、X線検査装置ならびにX線管用ターゲットの製造方法

【課題】 高温強度に優れ、コストダウンを可能にしたX線管用ターゲットおよびその製
造方法を提供する。
【解決手段】 炭素基材と、Mo基材もしくはMo合金基材とを接合層を介して接合した
X線管用ターゲットにおいて、前記接合層をEPMAにより組成比を検出したとき、前記
接合層は、厚さ1〜100μmのMoVXの拡散相、厚さ10〜500μmのVX合金相
、厚さ1〜600μmのXリッチ相、厚さ10〜1500μmのXZr合金相、ただし、
XはNb、Ta、Wから選ばれる少なくとも1種以上、を具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線管ターゲットおよびそれを用いたX線管、X線検査装置並びにX線管タ
ーゲットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線管は、X線の透過力を利用して人体などの被検体内部の状況を把握するX線CT装
置、X線透視装置、構造物内部の欠陥やケース内部等を検出する非破壊検査用分析装置(
例えば荷物検査装置)といった各種X線検査装置に用いられている。
X線検査装置は、X線を発生させるX線管と、被検体を透過したX線を検出するための
シンチレータ(イメージ増幅管含む)を具備したX線検出部を備えている。
X線管は、一般にガラスバルブ、金属またはセラミックス製容器内に対向するように配
置された一対の陰極および陽極を具備しており、陰極はタングステンフィラメント等から
構成され、また陽極はタングステン(W),モリブデン(Mo)またはその合金からなる
ターゲットから構成されている。このX線管の動作原理は、陰極のタングステンフィラメ
ントを加熱することによって電子が放出され、それらが陽極と陰極間に印加した電圧によ
り加速され、電子ビームとして運動エネルギーをもって陽極となるターゲットに衝突し、
その結果、ターゲットからX線が所定方向に放出させるというものである。
近年、X線CTやX線透視装置、非破壊検査装置にはX線画像の高精細化による解像力
の向上、および動画像取得や検査時間の短縮が求められている。X線CTの解像力向上のた
めには、X線検出部に用いられるX線シンチレータ1個1個を小型化し、同一検出面積に
多数配列することが必要となる。しかしながらX線シンチレータが小型になると、単位面
積あたり同一のX線入射エネルギーに対するX線検出感度は低下してしまう。この感度低
下は、X線管のX線出力をより大きくすることで補うことが可能である。さらにまた動画
像取得や検査時間の短縮もX線管のX線出力をより大きくすることにより実現できる。こ
のようなことから、従来以上に強力なX線を発生させることができる高出力X線管が求め
られるており、その開発実用化が行われている。
【0003】
一般にX線管のX線出力を大きくするには、ターゲットへ衝突する電子の運動エネルギ
ーを増加させる必要がある。しかしながら電子の運動エネルギーの一部は熱エネルギーと
してターゲット上の電子衝突部分の温度を上昇させてしまい、ターゲット自体の溶融や温
度上昇によるターゲットの金属相の劣化を引き起こしてしまう。
そのため多くの高出力X線管は、ターゲットを軸対称回転体(例えば円板状)とし、電子
ビームに対して2000rpm〜10000rpm以上の高速度で回転させて電子ビーム
照射を受けるターゲットの焦点面を常に変化させ、局所的な温度上昇を防止するような構
造を採っている。このようなターゲットをもつX線管は回転陽極(ターゲット)X線管と呼
ばれている。
このような回転陽極X線管のさらなる高出力化のためには、(1)ターゲットの回転速
度をさらに高めて冷却効率を向上させた上で、ターゲットに衝突する電子ビームの運動エ
ネルギーを大きくする、(2)ターゲットを大型化し、電子ビームが衝突する面積を広く
する等の方法がある。
【0004】
X線CTやX線検査装置のX線管は連続照射ではなく、一つのCT検査、一つの非破壊
検査が終了すると次の検査までの間にX線照射をしない時間(ターゲットにエネルギー入
力のない時間)がある。このため、ターゲット全体の熱容量を大きくしておくことにより
、X線照射時のターゲットの最高温度を抑えることが可能となるとともにターゲットの平
均温度を高めることが可能となりX線管の高出力に対応できる。ターゲット全体の熱容量
を大きくする際にターゲットは回転体となるため、その質量はなるべく小さくすることが
望ましい。ターゲットの電子ビームが衝突する部分は前記のとおり、W、Moやその合金
が必要とされるが、密度が大きく比熱の小さいW、Moやその合金のみでターゲットを構
成するには質量が過大となり適当でない。そこで大きな熱容量とターゲットの重量増加抑
制のためには高温での機械的強度に問題がなく、比熱の大きい材料である炭素をW、Mo
やその合金と接合して使用することが望ましいことになる。
また、高出力X線管のX線管ターゲットを実現する方法として、W、Moやその合金の
ターゲットサイズをより大きくして放熱面積を拡大する方法が考えられるが、前記のとお
り高速回転に耐える回転体剛性を考慮した構造と軸受けを含めてX線管として大幅な重量
と寸法の増加が必要となってしまう。さらに高速スキャニングが趨勢となっているCT装
置に用いる場合、CT装置のX線管全体もCTスキャニング速度で回転させる必要がある
ため、その大きな遠心力に耐える構造にするには大きな困難が伴う。
前記のようにW,Moと炭素を接合したX線管であればターゲットの軽量化をなし得る
ことができる。このようなX線管用ターゲットとして特許第3040203号公報(特許
文献1)が提案されている。特許文献1はろう材としてV(バナジウム)を使用して接合
する方法を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3040203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法を用いることにより、高温下での接合強度に優れたX線管用ターゲッ
トが得られている。しかしながら、特許文献1のようにバナジウムを使ったろう材はバナ
ジウムが非常に高価であることから製造コストがかかる。本発明は、このような問題を解
決するためのもので高温下での接合強度を高めると共に安価な接合方法によりX線管用タ
ーゲットおよびその製造方法並びにX線検出器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のX線管用ターゲットは、炭素基材と、Mo基材もしくはMo合金基材とを接合
層を介して接合したX線管用ターゲットにおいて、前記接合層をEPMAにより組成比を
検出したとき、前記接合層は、厚さ1〜100μmのMoVXの拡散相、厚さ10〜50
0μmのVX合金相、厚さ1〜600μmのXリッチ相、厚さ10〜1500μmのXZ
r合金相、ただし、XはNb、Ta、Wから選ばれる少なくとも1種以上、を具備するこ
とを特徴とするものである。
また、前記MoVX拡散相は、MoVXの固溶体を具備していることが好ましい。また
、前記VX合金相はMo含有量が10質量%以下(0含む)であることが好ましい。また
、前記Xリッチ相はXが90質量%以上であることが好ましい。また、前記XZr合金相
は、ZrC相を具備していることが好ましい。このようなX線管用ターゲットはX線管、
さらにはX線検査装置に最適である。
【0008】
また、本発明のX線管用ターゲットの製造方法は、炭素基材とMo基材またはMo合金
基材とを接合層を介して接合したX線管用ターゲットの製造方法において、炭素基材とM
o基材またはMo合金基材との間に、厚さ0.001mm以上0.01mm未満のVから
なる第一ろう材層、厚さ0.1〜0.6mmのNb、Ta、Wから選ばれる少なくとも1
種以上を主成分とする第二ろう材層、厚さ0.1〜0.3mmのZrからなる第三ろう材
層を作製するろう材層作製工程、および1730〜1900℃の温度で接合する接合工程
を具備することを特徴とするものである。
また、ろう材層作製工程は、第一ろう材層、第二ろう材層、第三ろう材層のクラッド材
を作製する工程であることが好ましい。また、ろう材層作製工程は、第二ろう材層上に、
第一ろう材層となるV膜を成膜する工程を含むことが好ましい。また、接合工程は173
0〜1860℃の温度で行うであることが好ましい。また、接合工程は1〜200kPa
の圧力を付加しながら行うことが好ましい。また、接合工程は真空中または不活性雰囲気
中で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温下での接合強度に優れたX線管用ターゲットを提供することがで
きる。また高温下での接合強度が優れていることから、信頼性の高いX線検出器を得るこ
とができる。またバナジウムのような高価な材料の使用量を減らすことができるので、製
造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のX線管用ターゲットの一例を示す断面図。
【図2】本発明の接合層の一例を示す断面図。
【図3】本発明の接合層の他の一例を示す断面図。
【図4】本発明のグラファイト基材に凹部を設けた一例を示す断面図。
【図5】本発明の製造方法の一例を示す図。
【図6】試験片の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のX線管用ターゲットは炭素基材と、Mo基材もしくはMo合金基材とを接合層
を介して接合した構造を具備するものである。図1にX線管用ターゲットの一例を示す断
面を示す。図中、1はX線管用ターゲット、2はMo基材(もしくはMo合金基材)、3
は接合層、4は炭素基材、5は回転軸を挿入するための穴部である。
Mo(モリブデン)基材2は、電子線照射面となる部材である。Moは比重が高いため
、Mo基材のみでX線管用ターゲットを構成するとターゲットが重くなり、高速回転させ
るための保持具(回転軸)、回転機構(モータ)などの補強が必要となる。そのため、タ
ーゲットの一部を炭素基材4に置き換えることが重要である。また、Mo合金としては高
温強度を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばTiやZrを合計で
0.2〜10質量%含有したMo合金が挙げられ、もしくはTi、Zr、Hf、La、T
a、Y、Nb、W、Re等を金属単体、酸化物、炭化物のいずれか1種を0.2〜10質
量%含有したMo合金が挙げられる。また、電子線照射面には、必要に応じてW(タング
ステン)やRe−W合金(レニウムタングステン合金)を設けても良い。また、炭素基材
としてはグラファイト基材などが挙げられる。
【0012】
X線管用ターゲットの軽量化と高温下での接合強度を両立するためにはMo基材2と炭
素基材4を強固に接合する接合層3が必要である。本発明では接合層についてEPMAに
より組成比を検出したとき、前記接合層は、厚さ1〜100μmのMoVXの拡散相、厚
さ10〜500μmのVX合金相、厚さ1〜600μmのXリッチ相、厚さ10〜150
0μmのXZr合金相、ただし、XはNb、Ta、Wから選ばれる少なくとも1種以上、
を具備することを特徴としている。
なお、本発明においてEMPAを用いるのは、化学分析ではなかなか困難な微小領域で
の面分析が可能であるからである。具体的には、まず接合層を厚さ方向に切断し、切断面
の表面粗さ(Ra)が1μm以下になるようにダイヤモンド砥石等で研磨する。そしてEP
MAにより定性・定量分析等を行う。
【0013】
本発明の接合層の一例を図2に示す。図2中、2はMo基材、3は接合層、4は炭素基
材、6はMoVXの拡散相、7はVX合金相、8はXリッチ相、9はXZr合金相である

本発明の接合層はV(バナジウム)、X成分(Nb、Ta、Wから選ばれる少なくとも
1種以上)、Zr(ジルコニウム)を必須成分として具備するものである。
一般にZrと炭素は強固な接合を得ることができる一方で、ZrとMoは融点の低い共
晶合金を形成してしまう。融点の低い共晶合金が存在すると、高温下での接合強度が低下
する。このようなZrMo共晶合金の形成を防ぐために、ZrとMoの間にVやX成分を
設置することが望ましい。VやX成分はMoと合金化しても融点は低くならないため、Z
rの拡散防止に効果的である。
また、一般にVとMoを接合するには、Vの融点(1890℃)以上の温度に加熱して
液相化しなければならない。しかしながら、あまり高い温度下(2200℃以上)ではM
o基材の機械的強度が大幅に低下し、製品としての品質が劣化してしまう。また、あまり
高い温度で接合するとZrの拡散が進行し、強度の弱いMoZr合金を形成してしまう。
一方、1400℃程度の温度では液相化が不十分であり、接合強度が低下する。そこでそ
のような問題を解決するため、本発明ではX成分を用いている。すなわち、X成分(Nb
,Ta,Wの少なくとも1種以上)を使ってZrがMo基材まで拡散するのを防いでいる
。また、Zrの拡散を防止しつつVが液相化する温度での接合を可能としている。
【0014】
以上のことから、本発明の接合層はV(バナジウム)、X成分(Nb、Ta、Wから選
ばれる少なくとも1種以上)、Zr(ジルコニウム)を必須成分としている。以下に各相
について説明する。
MoVXの拡散相は、Mo基材のMoとろう材として用いるVおよびX成分が相互に拡
散してできた相で、bcc結晶構造をもつ固溶体を形成している。また拡散相中のMo含
有量は、10質量%を超えた量である。MoVXの拡散相の厚さは1〜100μm、好ま
しくは10〜50μmである。
MoVXの拡散相は連続した層としてMo基材上に形成されていることが望ましいが、
Mo基材上の面積比で80%以上に拡散相が形成されていればよい。一方、MoVXの拡
散相の厚さが1μm未満であると拡散相が形成されない部分が生じやすい(面積比で10
%未満になりやすい)。一方、100μmを超えると高温下での接合強度の改善効果が飽
和するだけではなく、厚さのばらつきが大きくなり接合強度の低下が生じる可能性がある
。また、MoVXの拡散相はMoVXの固溶体を具備することが好ましい。固溶体とする
ことにより、化学的に安定したものとすることができる。
【0015】
また、VX合金相は、X成分が10質量%以上50質量%以下、Mo含有量10質量%
以下(0含む)、残部Vである相のことである。前記したようにVX合金相はVとX成分
の固溶体を形成していることが好ましい。
VX合金相の厚さは10〜500μm、さらには20〜300μmが好ましい。厚さが
10μm未満では連続した層状にならない部分ができてしまう可能性がある。一方、30
0μmを超えるとVX合金相を設ける効果が飽和する。また、NbTi合金相は連続した
層状であることが好ましい。
Xリッチ相はX成分を90質量%以上100質量%以下となる相のことである。Xリッ
チ相中のX以外の成分としてVを10質量%以下(0含む)、Zrを1質量%以下(0含
む)含有していてもよい。V含有量が10質量%以下(0質量%含む)の領域を具備する
ことにより、後述するXZr合金相からZrが必要以上に拡散するのを防ぐことができる
。必要以上のZrの拡散を防ぐことにより、低融点のMoZr共晶合金ができるのを防ぐ
ことができる。また、Xリッチ相は厚さが1〜600μmであることが好ましい。1μm
未満ではZrの拡散防止効果が不足するおそれがあり、600μmを超えるとZrの拡散
防止効果の改善が見られない。Xリッチ相のさらに好ましい厚さは、30〜400μmで
ある。
X成分としては、Nb,Ta,Wの中でNbが価格が安いので好ましい。
【0016】
XZr合金相は、X成分を含有しているZr相のことである。このXZr合金相は、Z
rが炭素と反応してZrC相を形成する場合がある。また、ZrC相はZrとCの反応に
よる微細析出(微細粒子の析出)であり、XZn合金相中に微細な析出物を分散すること
によってXZr合金相の機械的強度を高める効果があるため、高温下での接合強度をより
向上させることができる。また、XZr合金相は連続した層状であることが好ましい。ま
た、ZrC相は図3(図3中、9はXZr合金相、10はZrC相)に示したようにXZ
r合金相中に微細に分散した状態であることが好ましく、XZr合金相中に0.1〜数%
(体積比)存在すればその効果が十分となる。また、その厚さは10〜1500μm、さ
らには100〜500μmが好ましい。
以上のような接合層は合計の厚さが20〜2000μmであることが好ましい。なお前
記接合層とはMoNbTiの拡散相からZrNb合金相(ZrC相がある場合はZrC相
を含む)までの厚さを合計した範囲である。また接合層の厚さが均一でないとき(例えば
、後述する接合面に凹部を設ける場合)は、最も短い距離を接合層の厚さとする。
【0017】
このような接合層を具備することにより、高価なバナジウムの使用量を低減した上で高
温下での接合強度が高いX線管用ターゲットを得ることができる。
また、さらに接合強度を高めるために炭素基材の接合層接触面には凹部を設けることも
有効である。図4に凹部を設ける一例を示した。図4中、4は炭素基材、9はXZr合金
相、11は凹部である。凹部を設けることによりアンカー効果が得られる。凹部は図4に
示したV(ブイ)字型に限られるものではなく、断面凹状、U字型などが挙げられる。ま
た、凹部は、ドット状、縦溝、横溝、格子状、円状、多角形状、渦巻き状など特に限定さ
れるものではない。また、凹部はグラファイト基材接合面の面積比50%以上、さらには
80%以上の範囲で設けることが好ましい。50%未満では凹部を設ける効果が小さい。
本発明のX線管用ターゲットは高温下での接合強度に優れているため、2000rpm
以上、さらには10000rpm強の高速回転するX線管、直径9cm以上の大型ターゲ
ット、印加電圧100kV以上の高出力X線管等に用いた場合、最適である。そのため、
本発明のX線管用ターゲットを用いることで、X線検査装置の信頼性を向上させることが
できる。
【0018】
本発明のX線管用ターゲットは上記構成を具備すれば製造方法は特に限定されるもので
はないが、効率よく得る方法として次の方法が挙げられる。
まず、ろう材層として、厚さ0.001mm以上0.01mm未満のVからなる第一ろ
う材層、厚さ0.1〜0.6mmのNb、Ta、Wから選ばれる少なくとも1種以上を主
成分とする第二ろう材層、厚さ0.1〜0.3mmのZrからなる第三ろう材層を作製す
るろう材層作製工程、を行う。
ろう材層の作製方法は、各金属の箔体を設置する方法、もしくは各金属粉末をペースト
状にして塗布する方法等がある。
また、ろう材層作製工程は、第一ろう材層、第二ろう材層、第三ろう材層のクラッド材
を作製する工程とすることも可能である。この方法であれば、金属ペーストを塗布する方
法と比較して、各ろう材層を均一な厚さに制御し易い。
また、ろう材層作製工程は、第二ろう材層上に、第一ろう材層となるV膜を成膜する工
程を含むことも可能である。この方法であれば、V層を薄くできるので、特に高価なVの
使用量を減らしたいときに効果的である。
図5にろう材層を設ける工程の一例を示す。図5中、2はMo基材、4は炭素基材、1
2は第一ろう材層、13は第二ろう材層、14は第三ろう材層である。Mo基材と炭素基
材の間に、Mo基材/第一ろう材層/第二ろう材層/第三ろう材層/炭素基材の積層構造
なるように各ろう材層を設置する工程を行う。
また、各ろう材層は純度が98%以上の高純度のものを用いることが好ましい。
【0019】
また、第一ろう材層の厚さは0.001mm以上0.01mm未満、さらには0.00
3〜0.008mmの範囲であることが好ましい。第一ろう材層の厚さが0.001mm
未満ではバナジウム量が少な過ぎて均一なMoVX拡散相を形成できない恐れがある。一
方、0.01mm以上では、バナジウム使用の効果が飽和するだけでなく、コストアップ
の要因となる。
また、第二ろう材層は厚さ0.1〜0.6mm、第三ろう材層は厚さ0.1〜0.3m
mの範囲であることが好ましい。第二ろう材層の厚さが0.1mm身m未満では、Zrの
拡散を十分防止できない恐れがある。また、第三ろう材層(Zr層)の厚さが0.1mm
未満では炭素基材との接合強度が低下する恐れがある。一方、第二ろう材層の厚さが0.
6mmを超えることまたは第三ろう材層の厚さが0.3mmを超えて厚いと目的とする接
合層が得られない恐れがあるだけでなく、接合工程中に液相となったろう材がターゲット
外部へ漏れ出てしまう危険性が高い。
次に積層構造としたものを、1730〜1900℃の温度下で接合する接合工程を行う
。この時、温度が1730℃未満では各ろう材層が十分に液相化しない。また、1900
℃を超えるとMo基材の機械的強度が大幅に劣化してしまう可能性がある。さらに好まし
い温度は1730〜1860℃である。Zrの融点(1852℃)と同等以下の温度領域で
あれば、Zrがターゲット外部へ漏れ出てしまう危険性が低い。
【0020】
また、接合する際、圧力1〜200kPaを付加しながら行うことが望ましい。圧力を
付加しながら接合することで接合強度を向上させることができる。また、バナジウム層が
薄くても十分な接合強度を得ることができる。圧力が1kPa未満では圧力を加える効果
が不十分であり、200kPaを超えると接合時にろう材層が液相となりターゲット外に
溢れ出るおそれがある。さらに好ましい圧力は2〜50kPaである。
また接合工程は、真空中または非酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。この真空とは
、1×10−2Pa以下が好ましい。また非酸化性雰囲気とは、窒素、アルゴン雰囲気等
が挙げられ、特にアルゴン雰囲気が好ましい。また真空中または非酸化性雰囲気中で行う
ことにより、ろう材層が必要以上に酸化されることを防止することができる。また接合す
る際は、前処理として水素雰囲気中での熱処理も有効である。このように接合面を水素雰
囲気にさらすことにより、接合を阻害する要因となる吸着酸素や酸化物等を除去すること
ができ、接合強度をさらに高めることができる。
【0021】
また接合時の加熱時間は、上記条件にもよるが1分〜1時間の保持が好ましい。前記加
熱時間は接合層の温度が目的とする接合温度に対し±10℃の範囲内になってから1分〜
1時間保持することが好ましい。
また接合後、必要に応じ側面の研磨加工等の後工程を行う。さらにまたX線管に組込む
際は、回転軸(シャフト)に接合して組み込む。本発明のX線管用ターゲットは回転陽極
に好適であり、高温強度に優れているので回転速度2000rpm以上の、直径9cm以
上さらには12cm以上の大型ターゲット、または印加電圧100kV以上の高速、大型
、高出力のX線管に好適である。また、本発明のX線管はシンチレータ等の検出器と組み
合わせることによりX線検査装置を得ることができる。X線管が高速、大型または高出力
に対応できるのでX線検査装置としての性能も向上できる。特に、CT用X線検査装置や
透視用X線検査装置に好適である。CTは画像を立体的(3次元画像)に処理できる検査
装置であり、透視用はCTに比べ短時間で2次元画像を得ることのできる検査装置である
。どちらの場合もX線管の高速、大型または高出力が必要である。
【0022】
[実施例]
以下、本発明の実施形態について、実施例および比較例により具体的に説明する。
(実施例1)
第一ろう材層として厚さ0.005mmのV箔(純度99質量%以上)、第二ろう材層
として厚さ0.3mmのNb箔(純度99質量%以上)、第三ろう材層として厚さ0.2
mmのZr箔(純度98質量%以上)の箔体状ろう材層を調整した。
Mo基材/第一ろう材層/第二ろう材層/第三ろう材層/グラファイト基材となるよう
に積層させた後、真空中(1×10−2Pa以下)、1850℃×30分、圧力の付加1
0kPaの条件下で接合することにより、実施例1にかかるX線管用ターゲットを作製し
た。なお、ターゲットの直径は10cmであり、Mo基材としてTiを0.5質量%、Z
rを0.08質量%、残部MoからなるMo合金基材を用いた。また、グラファイト基材
の接合面側には断面V字の溝を渦巻き状に面積比80%以上で形成した。
得られたX線管用ターゲットの接合部断面を切り出し、表面粗さRaが1μmになるま
で研磨した後、EPMAにて接合部断面の各相の組成、厚さ等を調査した。その結果を表
2に示す。
(実施例2〜6)
ろう材層の厚さ、合金組成、接合条件等を表1に示すように変えたものを作製し、実施
例1と同様にEPMAに調査した。その結果を表2に示す。なお、ろう材作製工程におい
て「スパッタリングによりV膜形成」とは第二ろう材箔の表面にスパッタリング法にてバ
ナジウム膜を形成したことを示す。また、「予めクラッド材に加工」は、第一〜第三ろう
材箔を圧延工程にてクラッド材に一体化したものを示す。
【0023】
(比較例1)
グラファイト基材上に、厚さ100μmのZr箔、Mo基材を乗せて真空中(1×10
−2Pa以下)、1720℃×5分、圧力の付加10kPaの条件下で接合した。
(比較例2)
Mo基材/厚さ0.07mmのバナジウム箔/厚さ0.3mmのタングステン箔/厚さ
0.1mmのNbZr合金(Nb20質量%)箔/グラファイト基材の積層構造体を真空
中(10−4Torr以下)、1700℃×10分、圧力は付加しない、で加熱接合した

【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
表2から分かる通り、実施例に係るX線管用ターゲットの接合層は所定の相構造を具備
していた。また、実施例のMoVX拡散相はすべて固溶体であった。また、VX合金相は
Moが10質量%以下の領域であった。また、Xリッチ相はX成分が90質量%以上(残
りVが10質量%以下、Zrが1質量%以下)の領域であった。また、XZr合金相中に
はZrC相があったがいずれも体積比で0.2〜2.5%の範囲であった。
次に実施例および比較例にかかるX線管用ターゲットから図6のような試験片を切りだ
し、4点曲げ法により接合層の曲げ強度を測定した。その際、試験片を室温から高温領域
まで真空中で加熱し、各温度に対する曲げ強度を測定し、その強度が急激に低下する直前
の温度 (接合耐熱温度)を調査した。その結果を表3に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
本実施例にかかるX線管用ターゲットは比較例と同等以上の高温強度が得られている。
つまり、同等の特性であるにも関わらず、高価なバナジウムの使用量を低減して優れた接
合強度が得られた。
【符号の説明】
【0029】
1…X線管用ターゲット
2…Mo基材
3…接合層
4…グラファイト基材
5…穴部
6…MoNbTiの拡散相
7…NbTi合金相
8…Nbリッチ相
9…ZrNb合金相
10…ZrC相
11…凹部
12…第一ろう材層
13…第二ろう材層
14…第三ろう材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素基材と、Mo基材もしくはMo合金基材とを接合層を介して接合したX線管用ター
ゲットにおいて、前記接合層をEPMAにより組成比を検出したとき、前記接合層は、厚
さ1〜100μmのMoVXの拡散相、厚さ10〜500μmのVX合金相、厚さ1〜6
00μmのXリッチ相、厚さ10〜1500μmのXZr合金相、ただし、XはNb、T
a、Wから選ばれる少なくとも1種以上、を具備することを特徴とするX線管用ターゲッ
ト。
【請求項2】
前記MoVX拡散相は、MoVXの固溶体を具備していることを特徴とする請求項1記
載のX線管用ターゲット。
【請求項3】
前記VX合金相はMo含有量が10質量%以下(0含む)であることを特徴とする請求
項1または2のいずれか1項に記載のX線管用ターゲット。
【請求項4】
前記Xリッチ相はXが90質量%以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3
のいずれか1項に記載のX線管用ターゲット。
【請求項5】
前記XZr合金相は、ZrC相を具備していることを特徴とする請求項1ないし4のい
ずれか1項に記載のX線管用ターゲット。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のX線管用ターゲットを具備したことを
特徴とするX線検出器。
【請求項7】
請求項6記載のX線検出器を用いたことを特徴とするX線検査装置。
【請求項8】
CT用または透視用に用いることを特徴とする請求項7記載のX線検査装置。
【請求項9】
炭素基材とMo基材またはMo合金基材とを接合層を介して接合したX線管用ターゲッ
トの製造方法において、炭素基材とMo基材またはMo合金基材との間に、厚さ0.00
1mm以上0.01mm未満のVからなる第一ろう材層、厚さ0.1〜0.6mmのNb
、Ta、Wから選ばれる少なくとも1種以上を主成分とする第二ろう材層、厚さ0.1〜
0.3mmのZrからなる第三ろう材層を作製するろう材層作製工程、および1730〜
1900℃の温度で接合する接合工程を具備することを特徴とするX線管用ターゲットの
製造方法。
【請求項10】
ろう材層作製工程は、第一ろう材層、第二ろう材層、第三ろう材層のクラッド材を作製
する工程であることを特徴とする請求項9記載のX線管ターゲットの製造方法。
【請求項11】
ろう材層作製工程は、第二ろう材層上に、第一ろう材層となるV膜を成膜する工程を含
むことを特徴とすることを特徴とする請求項9記載のX線管ターゲットの製造方法。
【請求項12】
接合工程は1730〜1860℃の温度で行うであることを特徴とする請求項9ないし
請求項11記載のいずれか1項に記載のX線管用ターゲットの製造方法。
【請求項13】
接合工程は1〜200kPaの圧力を付加しながら行うことを特徴とする請求項9ない
し請求項12のいずれか1項に記載のX線管用ターゲットの製造方法。
【請求項14】
接合工程は真空中または不活性雰囲気中で行うことを特徴とする請求項9ないし13の
いずれか1項に記載のX線管用ターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−89377(P2013−89377A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227211(P2011−227211)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)