説明

X線CT画像再構成方法

【課題】金属を含む被測定物のX線CT再構成画像では、X線吸係数の不連続的変化及びビームハードニング現象に起因するアーチファクトと呼ばれる虚像が出現し画像の評価活用を困難にしている。高価なX線検出装置を必要とせずに、一度のX線の照射で必要な投影データを得ることができ、複雑で困難な処理を伴わずに、アーチファクトを低減させることが可能なX線CT画像再構成方法を提供することにある。
【解決手段】CT装置の有するX線検出器からの検出値データ又はその投影データを欠落データ補間処理することにより、金属部分のみを除去した投影データと金属部分のみに対応した投影データを取得し、金属部分のみに対応した投影データについてはさらにX線吸収係数を一定かつ縮小したものに変換し、両者の投影データを逆投影及び合成することによりアーチファクトを低減した再構成画像を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタルアーチファクトを低減させ得るX線CT画像再構成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置は、以下の手順によって被測定物の断面構造を取得するものである。
【0003】
被測定物にある方向からX線を照射し、X線の経路に重なる被測定物の構成素材のX線吸収係数を反映した投影データを取得する。この操作を、被測定物を囲む多数の方向から行い、これら多数の投影データの集合から、再構成画像(断面図)を計算で求める(逆投影)。実際には各方向の投影データを1次元フーリエ変換し、これらを合成して2次元フーリエ変換像を作成してこれをフーリエ逆変換して再構成画像を得る(投影定理)。
【0004】
被測定物が、X線吸収係数の大きく異なる複数の素材(例えば骨や歯牙と金属)から構成されている場合、その境界を挟んでX線吸収係数が不連続的に(急峻に)変化するため、その投影データにも不連続的変化が現れる。その結果、その1次元フーリエ変換像には不連続的変化に起因する高周波成分が多く含まれる。これらから合成した2次元フーリエ変換像を逆変換して再構成画像を得る場合、高周波成分に起因する数値的計算誤差により、再構成画像において金属などのX線吸収係数の大きな素材周囲に放射状のアーチファクト(虚像)が出現する。
【0005】
また、X線CT装置のX線発生装置から照射されるX線のエネルギーは単一ではなくスペクトル状の分布を持ち、被測定物のX線吸収係数は照射されるX線のエネルギーが高くなると減少するため、X線の透過距離が長くなると透過したX線のエネルギー成分が均一に減衰せずに、高エネルギー成分の割合が大きくなるビームハードニング現象が生じる。
【0006】
このため、たとえ被測定物の密度分布が均一であってもX線透過距離に対するX線吸収係数は一定ではなく減少する。従って、これが一定であることを前提として再構成画像を計算した場合、数値的矛盾が生じて、再構成画像において金属などのX線吸収係数の大きな素材間に黒い帯状のアーチファクト(虚像)が出現する。
【0007】
これらのアーチファクトは、X線CT画像の評価活用を著しく困難にしている。
【0008】
これまでにアーチファクトを低減する方法が幾つか提案されている。例えば、特許文献1及び特許文献2の第2の方法は、複数の相異なるエネルギーのX線を被測定物に照射して取得した投影データを合成し、この投影データを基にX線CT画像を再構成する方法である。
【0009】
また特許文献2の第1の方法は、被測定物に含まれる金属などのX線吸収係数の大きな素材の形状を閾値及び微分値を基に特定したうえで適当なX線吸収係数に置換し、これにコンピュータ内で仮想的にX線照射してこの素材のみの投影データを取得して、これを元の投影データにおけるこの素材の投影データと置き換える方法である。
【0010】
さらに、特許文献3の方法は、被測定物を透過したX線に含まれるフォトンの個数をそのエネルギー別に計数することが可能なX線検出装置を用いる方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−241376号公報
【0012】
【特許文献2】特開2006−167161号公報
【0013】
【特許文献3】特開2004−77132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の第2の方法は、被測定物が生体のように構造が複雑で形態が常に一定してはいない場合、異なる時間にX線を照射して取得した投影データを後から正確に合成することは極めて困難である上、被測定物が人体の場合、複数回X線を照射することもX線被曝の観点から問題である。
【0015】
また、特許文献2の第1の方法は、被測定物に含まれる金属などのX線吸収係数の大きな素材の形状が複雑な場合、その形状を特定する処理が極めて複雑で困難なものになると思われる。
【0016】
さらに、特許文献3の方法は、X線検出装置が極めて高価なものになると思われる。
【0017】
そこで本発明の目的は、高価なX線検出装置を必要とせずに、一度のX線の照射で必要な投影データを得ることができ、その結果として複数回のX線照射から取得した投影データの合成に伴う困難を排除できるとともに人体へのX線被曝量を最小限にすることができ、しかも複雑で困難な処理を伴わずに、X線吸係数の不連続的変化及びビームハードニング現象に起因するアーチファクトを低減させることが可能なX線CT画像再構成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
なお、本課題を解決するための手段においては、特許請求の範囲の内容と、図面との対照を容易にすべく、特許請求の範囲中の各事項に対応する図中の符号を( )内に示している。
【0019】
請求項1に係る発明は、金属部分とX線低吸収係数物質とを含む被測定物の周囲多数の方向からX線を照射して投影データを取得し、それらの投影データを逆投影して前記被測定物の再構成画像を作成するX線CT画像再構成方法において、前記被測定物を透過したX線をX線検出器で検出し、前記X線検出器で検出変換された電気信号をA/D変換してX線検出値データ(d1)を取得するA/D変換工程(S1)と、前記X線検出値データ(d1)を投影データに変換して第1投影データ(D1)を取得するデータ変換工程(S2)と、
前記X線検出値データ(d1)又は前記第1投影データ(D1)から、前記金属部分に対応した投影データのみを除去した第2投影データ(D2)を取得する金属データ除去処理工程(S3)と、前記第1投影データ(D1)から前記第2投影データ(D2)を差し引いて前記金属部分のみに対応した第3投影データ(D3)を取得する差分処理工程(S4)と、前記第3投影データ(D3)に対し、前記金属部分のX線透過距離に対するX線吸収係数の減少に起因する投影データの非線形性を改善する処理をして、第4投影データ(D4)を取得する金属データ線形化処理工程(S5)と、前記第4投影データ(D4)に対し、前記金属部分と前記X線低吸収係数物質との境界におけるX線吸収係数の不連続的変化に起因する投影データの不連続的変化を改善する処理をして、第5投影データ(D5)を取得する金属データ縮小化処理工程(S6)と、前記第5投影データ(D5)と前記第2投影データ(D2)とに対して、逆投影及び合成を行って最終再構成画像(G3又はG4)を取得する最終画像取得工程(S7)と、を有する、ことを特徴とする。
【0020】
請求項2に係る発明は、請求項1に係るX線CT画像再構成方法において、前記金属データ除去処理工程(S3)は、前記X線検出値データ(d1)における前記金属部分を透過したX線の検出値データは値が不連続的にほぼゼロとなるので、これを欠落データとして扱い、前記X線検出値データ(d1)に対し、値が不連続的にほぼゼロとなっている部分のデータをその前後のデータから直線もしくは曲線によって自動的に補間するソフトウェアである欠落データ補間ソフトウェアを使用して欠落データ補間処理を行うことにより、前記X線検出値データ(d1)から前記金属部分を透過したX線の検出値データのみを除去したX線検出値データ(d2)を取得するX線検出値データ補間処理工程(S3a)と、前記X線検出値データ(d2)を投影データに変換して前記第2投影データ(D2)を取得するデータ変換工程(S3b)と、を有する、ことを特徴とする。
【0021】
請求項3に係る発明は、請求項1に係るX線CT画像再構成方法において、前記金属データ除去処理工程(S3)は、前記第1投影データ(D1)を上下反転させた反転第1投影データ(D1i)を取得する投影データ反転処理工程(S3c)と、前記反転第1投影データ(D1i)における前記金属部分に対応した投影データは値が不連続的にゼロとなるので、これを欠落データとして扱い、前記反転第1投影データ(D1i)に対し欠落データ補間ソフトウェアを使用して欠落データ補間処理を行うことにより、前記反転第1投影データ(D1i)から前記金属部分に対応した投影データのみを除去した反転第2投影データ(D2i)を取得する反転投影データ補間処理工程(S3d)と、前記反転第2投影データ(D2i)を再度上下反転させて前記第2投影データ(D2)を取得する投影データ再反転処理工程(S3e)と、を有する、ことを特徴とする。
【0022】
請求項4に係る発明は、請求項1に係るX線CT画像再構成方法において、前記金属データ線形化処理工程S5において、前記金属部分のX線透過距離に対するX線吸収係数の減少に起因する投影データの非線形性を改善するため、前記金属部分を構成する金属のX線透過距離に対するX線吸収量の特性曲線を予め測定により求めておき、前記特性曲線の逆関数となる曲線を用いた補正曲線を使用して前記第3投影データ(D3)を補正することにより、前記金属部分を構成する金属のX線吸収係数を一定値に変換して、前記第3投影データ(D3)を線形化した前記第4投影データ(D4)を取得する、ことを特徴とする。
【0023】
請求項5に係る発明は、請求項1に係るX線CT画像再構成方法において、前記金属データ縮小化処理工程(S6)において、前記金属部分と前記X線低吸収係数物質との境界におけるX線吸収係数の不連続的変化に起因する投影データの不連続的変化を改善するため、前記金属部分を構成する金属のX線吸収係数を縮小したものに変換して、前記第4投影データ(D4)を縮小化した前記第5投影データ(D5)を取得する、ことを特徴とする。
【0024】
請求項6に係る発明は、請求項1に係るX線CT画像再構成方法において、前記最終画像取得工程(S7)は、前記第5投影データ(D5)を逆投影して第1再構成画像(G1)を取得する第1再構成工程(S7a)と、前記第2投影データ(D2)を逆投影して第2再構成画像(G2)を取得する第2再構成工程(S7b)と、前記第1再構成画像(G1)と前記第2再構成画像(G2)とを合成して最終再構成画像(G3)を取得する画像合成工程(S7c)と、を有する、ことを特徴とする。
【0025】
請求項7に係る発明は、請求項1に係るX線CT画像再構成方法において、前記最終画像取得工程(S7)は、前記第5投影データ(D5)と前記第2投影データ(D2)とを合成して合成投影データ(D6)を取得する投影データ合成工程(S7d)と、前記合成投影データ(D6)を逆投影して最終再構成画像(G4)を取得する再構成工程(S7e)と、を有する、
ことを特徴とする。
【0026】
請求項8に係る発明は、請求項6に記載のX線CT画像再構成方法において、前記第1再構成工程(S7a)と前記画像合成工程(S7c)との間に、第1再構成画像(G1)をマスク処理するマスク工程(S7f)を設ける、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
請求項1に係る発明によれば、CT装置の有するX線検出器からのX線検出値データd1又はその投影データである第1投影データD1を欠落データ補間処理することにより、金属部分のみを除去した第2投影データD2と金属部分のみに対応した第3投影データD3を取得し、金属部分のみに対応した第3投影データD3についてはさらにX線吸収係数を一定かつ縮小した第5投影データD5に変換し、両者の投影データを逆投影及び合成することによりアーチファクトを低減した最終再構成画像G3又はG4を得ることができる。
【0028】
これにより、高価なX線検出装置を必要とせずに、一度のX線の照射で必要な投影データを得ることができ、その結果として複数回のX線照射から取得した投影データの合成に伴う困難を排除できるとともに人体へのX線被曝量を最小限にすることができ、しかも複雑で困難な処理を伴わずに、X線吸係数の不連続的変化及びビームハードニング現象に起因するアーチファクトを低減させることが可能なX線CT画像再構成方法を提供することができる。
【0029】
請求項2に係る発明によれば、X線検出値データd1から金属部分のみを除去した第2投影データD2を取得することができる。
【0030】
請求項3に係る発明によれば、X線検出値データd1の投影データである第1投影データD1から金属部分のみを除去した第2投影データD2を取得することができる。
【0031】
請求項4に係る発明によれば、金属部分のみに対応した第3投影データD3からX線吸収係数を一定値に変換した第4投影データD4を取得することができる。
【0032】
請求項5に係る発明によれば、第4投影データD4からX線吸収係数を縮小したものに変換した第5投影データD5を取得することができる。
【0033】
請求項6に係る発明によれば、第5投影データD5と第2投影データD2から最終再構成画像G3を取得することができる。
【0034】
請求項7に係る発明によれば、請求項6とは別のプロセスで、第5投影データD5と第2投影データD2から最終再構成画像G4を取得することができる。
【0035】
請求項8に係る発明によれば、金属部分のみに対応した第1再構成画像G1から金属部分以外のノイズ成分を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】X線検出器で検出変換された電気信号からX線CT画像を再構成する全体の工程を示すブロック図である。
【図2】金属データ除去処理工程S3の詳細を示す図である。
【図3】金属データ除去処理工程S3におけるX線検出値データ補間処理工程S3aの内容を説明する図である。
【図4】別の金属データ除去処理工程S3の詳細を示す図である。
【図5】別の金属データ除去処理工程S3における投影データ反転処理工程S3c、投影データ補間処理工程S3d、投影データ再反転処理工程S3eを説明する図である。
【図6】金属のX線透過距離tに対するX線吸収量の特性曲線f(t)の求め方及び補正曲線g(X)の求め方を説明する図である。
【図7】金属データ線形化処理工程S5及び金属データ縮小化処理工程S6を説明する図である。
【図8】差分処理工程S4を説明する図である。
【図9】投影データ合成工程S7の詳細を示す図である。
【図10】別の投影データ合成工程S7の詳細を示す図である。
【図11】最終画像取得工程S7における投影データ合成工程S7dを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき詳述する。なお、各図面において、同じ符号を付した部材等は、同一または類似の構成のものであり、これらについての重複説明は適宜省略するものとする。また、各図面においては、説明に不要な部材等は適宜、図示を省略している。
<実施形態1>
【0038】
図1〜図11を参照して本発明の実施形態1に係るX線CT画像再構成方法について説明する。
【0039】
まず、図1を参照して全工程の概略を説明する。
【0040】
X線検出器で検出変換された電気信号は、A/D変換工程S1でA/D変換器により数値化されX線検出値データd1となり、金属データ除去処理工程S3を経て金属部分に対応した投影データのみを除去した第2投影データD2となる。一方、X線検出値データd1は、データ変換工程S2で投影データに変換されて第1投影データD1となり、差分処理工程S4で第2投影データD2を差し引かれて金属部分のみに対応した第3投影データD3となる。第3投影データD3は金属データ線形化処理工程S5で線形化され第4投影データD4となり、さらに金属データ縮小化処理工程S6で縮小化され第5投影データD5となる。第5投影データD5と第2投影データD2は、最終画像取得工程S7において、FBP法による逆投影及び合成を経て最終再構成画像G3又はG4となる。最終再構成画像G3又はG4はメタルアーチファクトの低減されたX線CT画像として得られる。
【0041】
次に、以下それぞれの工程について詳説する。
<A/D変換工程S1>
【0042】
X線検出器で検出変換された電気信号はA/D変換器で数値化され、X線検出値データd1となる。
【0043】
X線検出値データとはビュー角θにおけるX線検出位置(検出素子番号)xでの透過X線のX線検出値(強度)Iを示すデータのことである。
【0044】
ここで、ビュー角θとは、被測定物に対するX線照射装置の回転角である。
<データ変換工程S2>
【0045】
X線検出値データd1は投影データに変換されて第1投影データD1となる。
【0046】
投影データとはビュー角θにおけるX線検出位置xでの線吸収量Aを示すデータのことである。
【0047】
X線吸収量AはX線検出値Iに対し
A=log e(Io)−log e(I)=−log e(I/Io) (1)
で与えられる。ここでIoは何も透過しない場合のX線検出値である。
【0048】
これら各ビュー角における投影データを360度分収集し、横軸をX線検出位置x、縦軸をビュー角θとして、X線吸収量Aを色の濃淡で表したものがシノグラムである。
<金属データ除去処理工程S3>
【0049】
金属データ除去処理工程S3には、X線検出値データd1から金属部分を透過したX線の検出値データを除去する方法と、X線検出値データd1を第1投影データD1にデータ変換した後に、第1投影データD1から金属部分に対応した投影データを除去する方法の2通りの方法がある。
【0050】
まず、図2及び図3を参照して前者の方法について説明する。
【0051】
金属部分を透過したX線の検出値はすべて不連続的にほぼゼロとなっているので、金属部分を透過したX線の検出値データを欠落データとして扱うことが可能で、X線検出値データd1に対し欠落データ補間ソフトウェアを使用して欠落データ補間処理を行うことにより、金属部分を透過したX線の検出値データのみをX線検出値データd1から自動的に除去することができる(X線検出値データ補間処理工程S3a)。
【0052】
こうして得られたX線検出値データd2を投影データに変換して、金属部分に対応した投影データのみを除去した第2投影データD2を取得することができる(データ変換工程S3b)。
【0053】
ここで、欠落データ補間ソフトウェアとは、値が不連続的にほぼゼロ(Null値)となっている部分のデータを、その前後のデータから直線もしくは曲線によって自動的に補間するソフトウェアである。
【0054】
なお、コーンビーム型CT装置の場合には、X線検出値データd1は2次元のX線検出位置(x、y)でのX線検出値(強度)Iを示すデータとなるので、この処理は2次元画像に対する欠落データ補間処理となる。従って使用するソフトウェアも2次元画像に対応した欠落データ補間ソフトウェアが必要となる。
【0055】
次に、図4及び図5を参照して後者の方法について説明する。
第1投影データD1を上下反転処理して反転第1投影データD1iとすることにより反転第1投影データD1iの金属部分に対応した投影データは値が不連続的にゼロとなるので、これを欠落データとして扱うことが可能となり(投影データ反転処理工程S3c)、反転第1投影データD1iに対し欠落データ補間ソフトウェアを使用して欠落データ補間処理を行うことにより、金属部分に対応した投影データのみを反転第1投影データD1iから自動的に除去することができる(反転投影データ補間処理工程S3d)。こうして得られた反転第2投影データD2iを再度上下反転処理して、金属部分に対応した投影データのみを除去した第2投影データD2を取得することができる(投影データ再反転処理工程S3e)。
【0056】
なお、各ビュー角における投影データを360度分収集したシノグラムに対にてこの処理を行う場合には、2次元画像に対する欠落データ補間処理となる。
<差分処理工程S4>
【0057】
第1投影データD1から第2投影データD2を差し引くことで、金属部分のみに対応した第3投影データD3を取得することができる(図8参照)。
<金属データ線形化処理工程S5>
【0058】
当該金属のX線吸収係数が一定値αであるとすると、当該金属のX線透過距離tに対する透過X線の強度Iは、
I=Ioexp(−αt)
で与えられるので、X線吸収量Aは、上記の式(1)から
A=−log e(I/Io)=αt
となり、X線吸収量Aは、X線透過距離tに正比例し、その傾きはαである。
【0059】
図6に示す三角形の当該金属にX線を当てる方法で予め測定により求めておいた当該金属のX線透過距離tに対するX線吸収量Aの特性曲線をf(t)とすると、当該金属のX線吸収係数αは特性曲線f(t)の原点における接線の傾きf´(0)となるので、
α=f´(0)
となり、入力された投影データをXとし、特性曲線f(X)の逆関数f^(−1)(X)を用いると、補正曲線g(X)は、
g(X)=α・f^(−1)(X)=f´(0)・f^(−1)(X)
で与えられる。
【0060】
図7において、f(X)の逆関数f^(−1)(X)は、f(X)を直線Y=Xを対称軸に折り返したものである。
f(X)の逆関数f^(−1)(X)の導関数{f^(−1)(X)}´は、
{f^(−1)(X)}´=1/f´{f^(−1)(X)}
で与えられるので、g(X)の原点における接線の傾きg´(0)は、
g´(0)=f´(0)・{f^(−1)(0)}´
=f´(0)・1/f´{f^(−1)(0)}
となり、
f^(−1)(0)=0
なので、
g´(0)= f´(0)・1/f´(0)=1
となり、g(X)の原点における接線の傾きは1である。つまり、直線Y=Xが、g(X)の原点における接線である。
【0061】
この補正曲線g(X)を使用して補正することより、金属のX線吸収係数は一定値αに変換される(図7参照)。
【0062】
なお、X線発生装置の管電圧は、当該金属の特性曲線f(t)が完全に飽和しない電圧に設定する。
【0063】
こうして図6に示すように、第3投影データD3は線形化されて第4投影データD4となる。
<金属データ縮小化処理工程S6>
【0064】
図7に、金属データ縮小化処理工程の様子を示す。図に示すように、金属のX線吸収係数をβ倍(ただし0<β<1)に縮小したとすると、入力された投影データXはβXとなる。この処理を式で表わすと、入力Xに対する出力Yは、
Y=βX
0<β<1
となる。
【0065】
ここで、βの値はアーチファクトが充分小さくなる値に設定する。
【0066】
こうして図7に示すように、第4投影データD4は縮小化されて第5投影データD5となる。
<最終画像取得工程S7>
【0067】
最終画像取得工程S7には、第5投影データD5と第2投影データD2とをそれぞれ別個に逆投影してから合成する方法と、第5投影データD5と第2投影データD2とを合成してから逆投影する方法の2通りの方法がある。
【0068】
まず、図1及び図9を参照して前者の方法について説明する。
【0069】
第5投影データD5と第2投影データD2は、それぞれ第1再構成工程S7aと第2再構成工程S7bでFBP法により逆投影され、第1再構成画像G1と第2再構成画像G2となる。このとき第1再構成画像G1は金属部分のみの再構成画像として、第2再構成画像G2は金属部分のみを除いた再構成画像として得られる。第1再構成画像G1に対しては必要に応じてマスク処理を行った後(マスク工程S7f:図9中の二点鎖線参照)、第1再構成画像G1と第2再構成画像G2とを合成することにより最終再構成画像G3が得られる(画像合成工程S7c)。最終再構成画像G3はメタルアーチファクトの低減された画像として得られる。
【0070】
次に、図1及び図10、図11を参照して後者の方法について説明する。
【0071】
第5投影データD5と第2投影データD2は、投影データ合成工程S7dで合成されて合成投影データD6となる(図10及び図11参照)。合成投影データD6は再構成工程S7eでFBP法により逆投影されて最終再構成画像G4となる。最終再構成画像G4はメタルアーチファクトの低減された画像として得られる。
【0072】
前者の方法によれば、金属部分のみの再構成画像G1及び金属部分のみを除いた再構成画像G2からそれぞれメタルアーチファクトが充分低減されているか確認することができるので、メタルアーチファクトが充分低減されていない場合には、その原因究明が容易になる。また、金属部分の再構成画像がX線CT画像の評価活用上必要でない場合には、第2再構成画像G2を最終再構成画像とすることも可能である。
【0073】
後者の方法によれば、金属データ除去処理工程S3における欠落データ補間処理による誤差の影響を吸収することができるうえ、前者に比べ処理が容易である。また、既存のCT撮影装置のX線検出器とデータ処理装置の間に挿入することが可能になる。
【符号の説明】
【0074】
S1 :A/D変換工程
S2 :データ変換工程
S3 :金属データ除去処理工程
S4 :差分処理工程
S5 :金属データ線形化処理工程
S6 :金属データ縮小化処理工程
S7 :最終画像取得工程
D1 :第1投影データ
d1 :X線検出データ
D2 :第2投影データ
D3 :第3投影データ
D4 :第4投影データ
D5 :第5投影データ
G3,G4
:最終再構成画像
I :X線検出値(強度)
Io :何も透過しない場合のX線検出値
A : X線吸収量
x :X線検出位置
t :X線透過距離
X :入力値
Y :出力値
f(t):特性曲線
g(X):補正曲線
α :X線吸収係数
β :縮小率
θ :ビュー角


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部分とX線低吸収係数物質とを含む被測定物の周囲多数の方向からX線を照射して投影データを取得し、それらの投影データを逆投影して前記被測定物の再構成画像を作成するX線CT画像再構成方法において、
前記被測定物を透過したX線をX線検出器で検出し、前記X線検出器で検出変換された電気信号をA/D変換してX線検出値データを取得するA/D変換工程と、
前記X線検出値データを投影データに変換して第1投影データを取得するデータ変換工程と、
前記X線検出値データ又は前記第1投影データから、前記金属部分に対応した投影データのみを除去した第2投影データを取得する金属データ除去処理工程と、
前記第1投影データから前記第2投影データを差し引いて前記金属部分のみに対応した第3投影データを取得する差分処理工程と、
前記第3投影データに対し、前記金属部分のX線透過距離に対するX線吸収係数の減少に起因する投影データの非線形性を改善する処理をして、第4投影データを取得する金属データ線形化処理工程と、
前記第4投影データに対し、前記金属部分と前記X線低吸収係数物質との境界におけるX線吸収係数の不連続的変化に起因する投影データの不連続的変化を改善する処理をして、第5投影データを取得する金属データ縮小化処理工程と、
前記第5投影データと前記第2投影データとに対して、逆投影及び合成を行って最終再構成画像を取得する最終画像取得工程と、を有する、
ことを特徴とするX線CT画像再構成方法。
【請求項2】
前記金属データ除去処理工程は、
前記X線検出値データにおける前記金属部分を透過したX線の検出値データは値が不連続的にほぼゼロとなるので、これを欠落データとして扱い、前記X線検出値データに対し、値が不連続的にほぼゼロとなっている部分のデータをその前後のデータから直線もしくは曲線によって自動的に補間するソフトウェアである欠落データ補間ソフトウェアを使用して欠落データ補間処理を行うことにより、前記X線検出値データから前記金属部分を透過したX線の検出値データのみを除去したX線検出値データを取得するX線検出値データ補間処理工程と、
前記X線検出値データを投影データに変換して前記第2投影データを取得するデータ変換工程と、を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線CT画像再構成方法。
【請求項3】
前記金属データ除去処理工程は、
前記第1投影データを上下反転させた反転第1投影データを取得する投影データ反転処理工程と、
前記反転第1投影データにおける前記金属部分に対応した投影データは値が不連続的にゼロとなるので、これを欠落データとして扱い、前記反転第1投影データに対し欠落データ補間ソフトウェアを使用して欠落データ補間処理を行うことにより、前記反転第1投影データから前記金属部分に対応した投影データのみを除去した反転第2投影データを取得する反転投影データ補間処理工程と、
前記反転第2投影データを再度上下反転させて前記第2投影データを取得する投影データ再反転処理工程と、を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線CT画像再構成方法。
【請求項4】
前記金属データ線形化処理工程において、前記金属部分のX線透過距離に対するX線吸収係数の減少に起因する投影データの非線形性を改善するため、前記金属部分を構成する金属のX線透過距離に対するX線吸収量の特性曲線を予め測定により求めておき、前記特性曲線の逆関数となる曲線を用いた補正曲線を使用して前記第3投影データを補正することにより、前記金属部分を構成する金属のX線吸収係数を一定値に変換して、前記第3投影データを線形化した前記第4投影データを取得する、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線CT画像再構成方法。
【請求項5】
前記金属データ縮小化処理工程において、前記金属部分と前記X線低吸収係数物質との境界におけるX線吸収係数の不連続的変化に起因する投影データの不連続的変化を改善するため、前記金属部分を構成する金属のX線吸収係数を縮小したものに変換して、前記第4投影データを縮小化した前記第5投影データを取得する、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線CT画像再構成方法。
【請求項6】
前記最終画像取得工程は、
前記第5投影データを逆投影して第1再構成画像を取得する第1再構成工程と、
前記第2投影データを逆投影して第2再構成画像を取得する第2再構成工程と、
前記第1再構成画像と前記第2再構成画像とを合成して最終再構成画像を取得する画像合成工程と、を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線CT画像再構成方法。
【請求項7】
前記最終画像取得工程は、
前記第5投影データと前記第2投影データとを合成して合成投影データを取得する投影データ合成工程と、
前記合成投影データを逆投影して最終再構成画像を取得する再構成工程と、を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線CT画像再構成方法。
【請求項8】
前記第1再構成工程と前記画像合成工程との間に、第1再構成画像をマスク処理するマスク工程を設ける、
ことを特徴とする請求項6に記載のX線CT画像再構成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate