説明

c−MIRを機能評価できる細胞株

【課題】c-MIR蛋白質(cellular-modulator of immune recognition)による、抗原提示関連分子であるB7-2の発現抑制に関連する分子を探索するのに有用な、細胞株を提供する。
【解決手段】MHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株であって、c-MIR蛋白質をコードする遺伝子を、当該c-MIR蛋白質の発現のオン・オフを、ドキシサイクリン等の薬剤依存的に調節することができるように導入されていることを特徴とする、細胞株。また、該細胞株を用いて抗原提示関連分子の発現を測定する事を含む、C−MIR蛋白質抑制剤のスクリーニング方法、およびその抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、c-MIR蛋白質(cellular-modulator of immune recognition)を機能評価できる細胞株に関する。より具体的には、本発明は、MHCクラスI分子を発現し、さらにc-MIR蛋白質(cellular-modulator of immune recognition)をコードする遺伝子が導入されているヒト由来細胞株、及びそれを用いたc-MIR蛋白質の抑制剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
c-MIRタンパク質は、抗原提示関連分子(B7-2共刺激分子やMHCクラスII分子)を標的とするE3ユビキチンリガーゼの一種であり、これらの分子の細胞表面における発現を負に制御すること(国際公開WO2004/061106号公報)、トランスジェニックマウスを用いた解析により、c-MIRの強制発現によりMHCクラスIIの発現が低下すること(特開2005−192468号公報)が報告されている。国際公開WO2004/061106号公報には、c-MIRを恒常的に発現している細胞にCD8/B7-2融合タンパク質を発現させようとしても十分な発現が見られないこと、免疫沈降によりc-MIRとB7-2との相互作用が見られたこと等が記載されている。しかし、この細胞では、c-MIRが恒常的に発現しているため、B7-2がそもそも細胞表面上に発現しないことから、B7-2の発現が低下していく経過段階において関与する分子を免疫沈降法等により探索することができない。
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2004/061106号公報
【特許文献2】特開2005−192468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、c-MIRによるB7-2の発現抑制に関連する分子を探索するのに有用な細胞株を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、MHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株に、c-MIR蛋白質(cellular-modulator of immune recognition)をコードする遺伝子を当該c-MIR1蛋白質の発現のオン・オフを薬剤依存的に調節することができるように導入することによって細胞株を構築した。そして、本発明者らは、この細胞株を用いて、エンドサイトーシス抑制剤であるダンシルカダベリンがc-MIRによるCD8キメラの発現抑制を強力に抑制することを実証することによって、この細胞株がc-MIR蛋白質の機能を抑制する薬剤を効率よくスクリーニングするのに有用であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0006】
即ち、本発明によれば、MHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株であって、c-MIR蛋白質(cellular-modulator of immune recognition)をコードする遺伝子を当該c-MIR蛋白質の発現のオン・オフを薬剤依存的に調節することができるように導入されていることを特徴とする細胞株が提供される。
【0007】
好ましくは、MHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株は、ヒトB細胞株である。
好ましくは、本発明の細胞株では、c-MIR蛋白質(cellular-modulator of immune recognition)の発現のオン・オフはドキシサイクリン依存的に調節することができる。
好ましくは、本発明の細胞株は、ゲノムにFlp recombination Target (FRT) siteを有するMHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株のFRT siteに、c-MIR発現カセットをFlp recombinaseを用いて挿入することにより作製される。
【0008】
好ましくは、本発明の細胞株は、CD8細胞外領域とB7-2共刺激因子とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質をさらに発現する。
好ましくは、本発明の細胞株は、c-MIR蛋白質(cellular-modulator of immune recognition)の発現のオンにした場合に、CD8細胞外領域とB7-2共刺激因子とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質がユビキチン化されることによって発現が抑制されることを特徴とする。
【0009】
本発明の別の側面によれば、c-MIR蛋白質の発現をオンにした上記した本発明の細胞株に被験物質を投与し、抗原提示関連分子の細胞表面における発現を測定することを含む、c-MIR蛋白質の抑制剤のスクリーニング方法が提供される。
【0010】
本発明のさらに別の側面によれば、c-MIR蛋白質の発現をオンにした上記した本発明の細胞株に被験物質を投与し、CD8細胞外領域とB7-2共刺激因子とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質の細胞表面における発現を測定することを含む、c-MIR蛋白質の抑制剤のスクリーニング方法が提供される。
【0011】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明のスクリーニング方法により得られるc-MIR蛋白質の抑制剤が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明による細胞株を用いることにより、c-MIR蛋白質の機能を抑制する薬剤を効率よくスクリーニングすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明者らは、B7-2-CD8-FLAGを恒常的に発現している細胞株に、c-MIRをテトラサイクリンで誘導可能な発現カセットを導入した。テトラサイクリンでc-MIRの発現を誘導すると、B7-2の発現抑制がFACS等で容易に観察された。この系を用いれば、B7-2の発現が低下していく経過段階においてc-MIRによるB7-2の発現抑制(ユビキチン化等)に関与しているタンパク質を単離することができる。また、この系は、c-MIRによるB7-2の発現抑制(ユビキチン化等)を阻害する化合物のスクリーニングに用いることができる。また、従来はテトラサイクリンによる遺伝子誘導はSerum Free培地を用いなければならなかったが、この細胞においてはSerum含有培地で誘導可能であり、取り扱いが容易である。
【0014】
本発明の細胞株は、MHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株であって、c-MIR蛋白質(cellular-modulator of immune recognition)をコードする遺伝子を当該c-MIR蛋白質の発現のオン・オフを薬剤依存的に調節することができるように導入されていることを特徴とする。
【0015】
MHCクラスI分子としては、ヒトでは、HLA-A、HLA-B、HLA-Cの三種類がある。いずれのMHCクラスI分子もα鎖とβ2マイクログロブリンからなる二量体である。α鎖はN末端からα1、α2、α3の3個のドメインからなる。α1とα2ドメインが形成する溝のような構造の中に抗原ペプチドは挟まれるようになる。なお、MHCクラスI分子の発現は、免疫担当細胞の表面だけでなく、ほとんどの体細胞上にも認められる。MHCクラスI分子は、細胞質内のタンパク質由来のペプチドを提示することができる。細胞質内タンパク質はプロテアソームによって8〜10アミノ酸残基のペプチドに分解された後に粗面小胞体に運ばれ、そこで合成されたMHCクラスI分子に結合し、細胞表面にクラスI分子とともに提示されることになる。
【0016】
本発明で用いることができるMHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株としては、ヒトB細胞(例えば、BJAB細胞)、HeLa細胞、及びA7細胞等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本発明の細胞株では、c-MIR蛋白質の発現のオン・オフを薬剤依存的に調節することができればよく、用いる薬剤は特に限定されない。一例としては、c-MIR蛋白質の発現のオン・オフをドキシサイクリン依存的に調節することができるようなシステムを用いることができる。
【0018】
c-MIR蛋白質(cellular-modulator of immune recognition)及びその遺伝子は公知であり、例えば、c-MIRのACCESSIONは、Q5T0T0, BC066988であり、c-MIRの参考文献としては、Ohmura-Hoshino, M., Goto, E., Matsuki, Y., Aoki, M., Mito, M., Uematsu, M., Hotta, H. and Ishido, S. A novel family of membrane-bound E3 ubiquitin ligases. J. Biochem. (Tokyo) 2006 Aug;140(2):147-54、Ohmura-Hoshino, M., Matsuki, Y., Aoki, M., Goto, E., Mito, M., Uematsu, M., Kakiuchi, T., Hotta, H. and Ishido, S. Inhibition of MHC II expression and immune responses by c-MIR. J. Immunol. 2006 Jul 1;177(1):341-54、及びGoto, E., Ishido, S., Sato, Y., Ohgimoto, S., Ohgimoto, K., Nagano-Fujii, M. and Hotta H. c-MIR, a human E3 ubiquitin ligase, is a functional homolog of herpesvirus proteins MIR1 and 2 and has similar activity. J. Biol. Chem 278:14657-14668などが挙げられる。c-MIR遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号1に示す。なお、E3ユビキチンリガーゼは、一般的にはリン酸化シグナルなどのシグナルがないとユビキチン化活性がないが、c-MIRは、特にシグナルなしで利用することができ、取り扱いが容易である。エンドサイトーシスは、B細胞などではユビキチン化に関係なく起きているが、本発明の細胞では、ユビキチン化しないとエンドサイトーシスは生じない。
【0019】
c-MIR蛋白質をコードする遺伝子の導入を含む本発明の細胞株の作成方法は、特に限定されず、c-MIR蛋白質をコードする遺伝子は、細胞のゲノムに挿入されていてもよいし、あるいは細胞内の染色体外に存在していてもよい。好ましくは、c-MIR蛋白質をコードする遺伝子は細胞のゲノムに挿入されている。一例としては、ゲノムにFlp recombination Target (FRT) siteを有するMHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株のFRT siteに、MIR1発現カセットをFlp recombinaseを用いて挿入することによって、本発明の細胞株を作製することができる。
【0020】
上記したような、c-MIR蛋白質をコードする遺伝子を当該c-MIR蛋白質の発現のオン・オフを薬剤依存的に調節することができるように導入されている、MHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株には、さらにCD8細胞外領域とB7-2共刺激因子とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質をコードする遺伝子を導入して、このキメラ蛋白質を発現させることができる。このような細胞株においては、c-MIR蛋白質の発現のオンにした場合、CD8細胞外領域とB7-2共刺激因子とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質は、ユビキチン化されることによって発現が抑制される。
【0021】
本発明はさらに、c-MIR蛋白質の発現をオンにした本発明の細胞株に被験物質を投与し、抗原提示関連分子(例えば、B7-2共刺激因子など)の細胞表面における発現を測定することを含む、c-MIR蛋白質の抑制剤のスクリーニング方法に関する。本発明の細胞株が、CD8細胞外領域とB7-2共刺激因子とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質を発現する細胞株である場合は、当該キメラ蛋白質の細胞表面における発現を測定することによって、c-MIR蛋白質の抑制剤をスクリーニングすることができる。
【0022】
被験物質としては、任意の物質を使用することができる。被験物質の種類は特に限定されず、個々の低分子合成化合物でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、蛋白質、ペプチド、細胞抽出物などでもよい。あるいは、被験物質は、化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリー、コンビナトリアルライブラリーでもよい。被験物質は、好ましくは低分子化合物であり、低分子化合物の化合物ライブラリーが好ましい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
【0023】
さらに、上記したようなスクリーニング方法により得られるc-MIR蛋白質の抑制剤も本発明の範囲内である。
【0024】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
(方法)
(1)T-Rex-c-MIR BJAB細胞、T-Rex-c-MIR-CD8 BJAB細胞の作成
ヒトB細胞株(BJAB細胞)にpFRT/lacZeo vectorをエレクトロポレーション法により導入し、48時間後、200ng/ml Zeocin でセレクションを開始した。約一週間後、Zeocin耐性の細胞コロニーをpick upし、genomic DNAを抽出した。サザンブロット法により確認し、Flp recombination Target (FRT) siteが一つ挿入されたゲノムを持つヒトB細胞株(BJAB細胞)を作成した。さらに、この細胞の中から、β-Gal Assay Kit (Invitrogen) を用いてβ-Galactosidase活性が高いものを選び出し、pcDNA6/TR vectorをエレクトロポレーション法により導入した。48時間後、200ng/ml Zeocin, 10μg/ml Blasticidinでセレクションをした。約一週間後、Zeocin, Blasticidin耐性の細胞コロニーをpick upし, Flp-In T-Rex host cellを得た。さらに、この細胞に、c-MIR発現カセット(c-MIR遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号1に示す)をFlp recombinaseを用いてFRT siteに挿入し、ハイグロマイシンにてセレクションし、テトラサイクリン誘導体であるドキシサイクリンにてc-MIRの発現が誘導できうる細胞株(T-Rex-c-MIR BJAB細胞)を作成した。
【0026】
さらに、T-Rex-c-MIR BJAB細胞に、細胞外にFLAGタグ、CD8細胞外領域を持ち、膜貫通領域がB7-2、細胞内領域がHLA-A2であるCD8キメラ分子を導入し、新たな細胞株(T-Rex-c-MIR-CD8 BJAB細胞)を作成した。
【0027】
(2)T-Rex-c-MIR-CD8 BJAB細胞の維持
細胞はRPMI-1640に10% Fetal Bovine Serum、100U/ml Penicillin-100μg/ml Streptomycin、および0.0003% 2-Mercaptoethanolを加えたものを培地(10% FCS-RPMI)とし、これに1mg/ml G418、125μg/ml Hygromycin B、および10μg/ml Blasticidinを加えて37℃、5%-CO2で培養する。
【0028】
(3)ドキシサイクリンによる誘導
T-Rex-c-MIR-CD8細胞を、25℃、800rpmで遠心し、10ml PBSで2回洗う。3x105 cells/mlの濃度になるように10% FCS-RPMIに縣濁し、10mlずつ25cm2フラスコに移し、1μg/ml の濃度になるようにドキシサイクリンを加えて37℃、5%-CO2で培養する。
【0029】
(4)フローサイトメトリー
T-Rex-c-MIR-CD8細胞をドキシサイクリンにて誘導後、4℃、800rpmで遠心して回収し、2%-FCS-PBS 7mlで1回洗う。細胞ペレットを100ulの2% FCS-PBSに懸濁し、蛍光ラベルされている抗体を1〜5ul加えて、on iceで1時間反応させる。1%-FCS-PBS 4mlで1回洗い、細胞ペレットを2%-パラホルムアルデヒド-PBS 300ulに懸濁し、フローサイトメトリーにて解析する。
【0030】
(5)ウエスタンブロッティング
T-Rex-c-MIR-CD8細胞をドキシサイクリンにて誘導後、4℃、800rpmで遠心して回収し、PBS 10mlで1回洗う。細胞ペレットを5mM ethylmaleimideを含む1%-SDS-RIPA buffer 100ulに懸濁し、超音波破砕機により、細胞ペレットをlysisする。そのlysateを95℃、5分間ボイルし、SDSが入っていないRIPA buffer 900ulを加えてSDSの最終濃度を0.1%に希釈する。抗FLAG-M2ビーズにて室温で1時間、免疫沈降し、その後ビーズを0.1%Tx-100-TBS bufferで3回洗う。FLAG petideを加えてelutionし、メタノール-クロロホルム法にて蛋白質を沈殿させる。沈殿をSDS-PAGE用サンプルbufferに懸濁し、SDS-PAGEを行う。ゲルをメンブレンにトランスファーし、5%-スキムミルク-PBS-0.05%Tweenでブロッキングする。
室温1時間、一次抗体を反応させた後、PBS-0.05%Tweenで3回洗う。室温30分間、二次抗体を反応させ後、PBS-0.05%Tweenで3回洗い、ECLをかけてLAS1000で検出する。
【0031】
(結果)
(1)ドキシサイクリンによるc-MIRの発現誘導とCD8キメラ分子の抑制
T-Rex-c-MIR-CD8 BJAB細胞を、ドキシサイクリン1mg/mlにて刺激を行い、経時的にCD8キメラ分子の細胞表面における発現をフローサイトメーターにて調べた。 その結果、CD8キメラ分子の抑制は6時間より認められ、12時間後に最大の抑制を認めた(図1)。 c-MIR蛋白質は図1に示すように、ドキシサイクリン投与2時間後に認められ、6時間に最大となった。さらに、細胞表面のCD8キメラ分子の安定性が顕著に減少していた(図2)。
【0032】
(2)T-Rex-c-MIR-CD8細胞におけるCD8キメラ分子のユビキチン化
T-Rex-c-MIR-CD8 BJAB細胞にドキシサイクリンを投与し、CD8キメラ分子をFLAG抗体にて精製し、ユビキチン化の状態をウエスタンブロット法にて検討した。その結果、図3に示すように、ドキシサイクリン投与4時間後にキメラ分子のユビキチン化が認められた。 このユビキチン化部位が、キメラ分子の細胞内領域のリジン残基であるかを、キメラ分子の変異体を作成する事により検討した。 細胞内領域の二つのリジン残基をアルギニンに置換したCD8キメラ分子(K>R mt)は、図4及び5に示すように全くユビキチン化を受けず、さらに発現抑制を受けなかった。 このように、c-MIRは標的分子の細胞内領域のリジン残基にユビキチンを付加する事により、標的分子の発現を抑制する。
【0033】
(3)T-Rex-c-MIR-CD8 BJAB細胞を用いた抑制剤の検討
T-Rex-MIR1-CD8 BJAB細胞を用いて、エンドサイトーシス抑制剤であるダンシルカダベリンを検定した。ドキシサイクリンを添加3時間後に、ダンシルカダベリン500 μMを投与し、CD8キメラ分子の細胞表面における発現をフローサイトメーターにて検討した。図6に示すように、ダンシルカダベリンは強力にc-MIRによるCD8キメラの発現抑制を抑制した。
【0034】
(まとめ)
テトラサイクリンの誘導体であるドキシサイクリンによりc-MIR、E3ユビキチンリガーゼを誘導的に発現でき、c-MIRの機能を詳細に検討できるT-Rex-c-MIR-CD8 BJAB細胞の作成に成功した。この細胞を使って、c-MIRの機能を抑制するダンシルカダベリンを見出した。 このように、この細胞はc-MIRの機能を制御する薬剤をスクリーニングできる有用なシステムであることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、T-Rex-c-MIR-CD8細胞の構築1を示す。上段:T-Rex-c-MIR-CD8細胞にドキシサイクリンを添加し、c-MIRの発現を添加後、経時的に調べた。 6時間後に最大となり、その後減少が認められる。下段:上記のドキシサイクリンにて処理した細胞の表面におけるCD8キメラ分子の発現をFACSにて調べた。 ドキシサイクリン添加後、12時間にて最大の抑制が観察される。
【図2】図2は、T-Rex-c-MIR-CD8細胞の構築2を示す。T-Rex-c-MIR-CD8細胞の表面をビオチン化し、図1のようにドキシサイクリンにてc-MIRを発現させた(Dox (+))。図に示す時間に細胞を回収し、ビオチン化された表面分子をstreptavidin beadsにて回収した。 表面に存在したCD8キメラ分子の安定性を抗FLAG抗体によるウエスタンブロット法にて検討した。 c-MIRによる分解が促進されている。
【図3】図3は、細胞表面CD8キメラ分子のユビキチン化を示す。T-Rex-c-MIR-CD8細胞の表面をビオチン化し、図1のようにドキシサイクリンにてc-MIRを発現させた。図に示す時間に細胞を回収し、ビオチン化された表面CD8キメラ分子をFLAG抗体、streptavidin beadsにて回収した。*に示すように、c-MIRによるCD8キメラのユビキチン化が4時間後に顕著となる。
【図4】図4は、細胞内リジン残基のユビキチン化を示す。T-Rex-c-MIR細胞に細胞内領域のリジン残基がアルギニンに置換されたCD8キメラ分子(K>R)を発現させc-MIRによるユビキチン化の効率を調べた。ドキシサイクリン処理6時間後に野生型、あるいはK>R変異CD8キメラ分子を抗FLAG抗体にて精製し、ユビキチン化の状況をウエスタンブロット法にて検討した。図に示すように、K>R変異体CD8キメラ分子はc-MIRによって全くユビキチン化を受けない。
【図5】図5は、ユビキチン化による発現抑制を示す。K>R変異体CD8キメラ分子のc-MIRによる抑制をFACSにて検討した。図に示すように、K>R変異体はc-MIRによる抑制を受けない。
【図6】図6は、ダンシルカダベリンによるc-MIR機能の抑制を示す。エンドサイトーシスの抑制剤, ダンシルカダベリンをドキシサイクリン投与3時間後に付加し、さらに5時間後にFACSにて細胞表面におけるCD8キメラ分子の発現を調べた。図に示すように、ダンシルカダベリンにより完全にc-MIRによるCD8抑制がキャンセルされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株であって、c-MIR蛋白質(cellular-modulator of immune recognition)をコードする遺伝子を当該c-MIR蛋白質の発現のオン・オフを薬剤依存的に調節することができるように導入されていることを特徴とする細胞株。
【請求項2】
MHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株が、ヒトB細胞株である、請求項1に記載の細胞株。
【請求項3】
c-MIR蛋白質(cellular-modulator of immune recognition)の発現のオン・オフをドキシサイクリン依存的に調節することができる、請求項1又は2に記載の細胞株。
【請求項4】
ゲノムにFlp recombination Target (FRT) siteを有するMHCクラスI分子を発現するヒト由来細胞株のFRT siteに、c-MIR発現カセットをFlp recombinaseを用いて挿入することにより作製される、請求項1から3の何れかに記載の細胞株。
【請求項5】
CD8細胞外領域とB7-2共刺激因子とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質をさらに発現する、請求項1から4の何れかに記載の細胞株。
【請求項6】
c-MIR蛋白質(cellular-modulator of immune recognition)の発現のオンにした場合に、CD8細胞外領域とB7-2共刺激因子とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質がユビキチン化されることによって発現が抑制されることを特徴とする、請求項5に記載の細胞株。
【請求項7】
c-MIR蛋白質の発現をオンにした請求項1から4の何れかに記載の細胞株に被験物質を投与し、抗原提示関連分子の細胞表面における発現を測定することを含む、c-MIR蛋白質の抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
c-MIR蛋白質の発現をオンにした請求項6又は7に記載の細胞株に被験物質を投与し、CD8細胞外領域とB7-2共刺激因子とMHCクラスI分子とのキメラ蛋白質の細胞表面における発現を測定することを含む、c-MIR蛋白質の抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のスクリーニング方法により得られるc-MIR蛋白質の抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−283867(P2008−283867A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128821(P2007−128821)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】