説明

d−メタドン、非オピオイド鎮痛剤

【課題】NMDA受容体を有する対象(者)における痛みを処置する方法の提供。
【解決手段】d−メタドン、d−メタドール、d−α−アセチルメタドール、l−α−アセチルメタドール、d−α−ノルメタドール、l−α−ノルメタドール、これらの薬学的に許容される塩及びこれらの混合物を対象(者)に、物質が対象(者)のNMDA受容体に結合するのに効果的な条件で、投与すること、又対象(者)における耐性及び身体依存性を処置する方法及びNMDA受容体と結合する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1997年1月22日提出の米国仮特許出願第60/035,308の権利を享受し、出典明示により本明細書の一部とする。
【0002】
本発明は、麻薬中毒第DA01457、DA07274、DA00255およびDA00198について政府が国立研究所に援助し、開発された。米国政府は一定の権利を有し得る。
【0003】
発明の分野
本発明は、d−メタドンを用いるもので、疼痛の処置方法、および痛みに対するオピオイドの反復使用に関連する耐性と身体依存性に関する。さらに、本発明は、d−メタドンを用いるもので、麻薬追加に関連する耐性、身体依存性および/または薬剤渇望性を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
耐性と身体依存性は、モルフィンおよびモルフィン様オピオイドの慢性投与による必然の結果である。これらのオピオイドの薬理学的特性は、オピオイド中毒患者および疼痛患者の両者に望ましくない。オピオイド中毒患者は、心的状態効果に対するオピオイドの耐性により、急速に用量が増加する。さらに、薬物の使用中止は、薬物渇望行動を起す強力な刺激である。疼痛患者にとって、オピオイド鎮痛剤に対する耐性は、用量の増加が必要となり、その結果、副作用の増加をもたらす(Inturrisi, C.E. "Opioid Analgesic Therapy in Cancer Pain," Advances in Pain Research and Therapy, (K.M. Foley, J.J. Bonica, and V. Ventafridda, Eds.) pp. 133-154, Raven Press, New York (1990) ("Inturrisi"))。身体依存性が高まっていると、オピオイド投与が突然停止されるか、またはオピオイドアンタゴニストが不注意に投与されるとき、疼痛患者およびオピオイド中毒患者の両者は禁断症状の危険にさらされる(Inturrisi)。従って、オピオイド耐性および身体依存性を軽減し、および/または逆転し得る非オピオイド薬剤が、疼痛処置において有用な補助剤となり得る。これらの薬剤は、オピオイド中毒患者のオピオイド解毒を促進するためおよび禁断症状の減弱または除去による維持治療の間使用され得る。さらに、耐性および依存性を調節する非オピオイド薬剤は、オピオイドの鎮痛効果を変えることなく、オピオイドの鎮痛、薬剤渇望性、耐性および身体依存性の生化学的および分子メカニズムを研究するための新しい重要な手段を提供し得るであろう。従って、“鎮痛剤”および“麻薬中毒”モデルシステムの両方における、非オピオイド調節物質のオピオイド耐性および/または依存性に関する前臨床薬理学的評価に有力な論拠が与えられる。
【0005】
最近の研究により(Trujillo et al., "Inhibition of Morphine Tolerance and Dependence by the NMDA Receptor Antagonist MK-801," Science, 251:85-7 (1991)("Trujillo"); Marek et al., "Excitatory Amino Acid Antagonists (Kynurenic Acid and MK-801) Attenuate the Development of Morphine Tolerance in the Rat," Brain Res., 547:77-81 (1991); Tiseo et al., "Attenuation and Reversal of Morphine Tolerance by the Competitive N-methyl-D-aspartate Receptor Antagonist, LY274614," J.Pharmacol. Exp. Ther., 264:1090-96(1993)("Tiseo I); Kolesnikov et al., "Blockade of mu and kappa, Opioid Analgesic Tolerance by NPC177442, a Novel NMDA antagonist," Life Sci., 53:1489-94(1993); Kolesnikov et al., "Blockade of Tolerance to Morphine but not to κ Opioids by a Nitric oxide Synthase Inhibitor," Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:5162-66(1993); Tiseo et al., "Modulation of Morphine Tolerance by the Competitive N-methyl-D-aspartate Receptor Antagonist LY274614: Assessment of Opioid Receptor Changes," J. Pharmacol. Exp. Ther., 268:195-201(1994)("Tiseo II"); Elliott et al., "The NMDA Receptor Antagonists, LY274614 and MK-801, and the Nitric Oxide Synthase Inhibitor, NG-Nitro-L-arginine, Attenuate Analgesic Tolerance to the Mu-Opioid Morphine but not to Kappa Opioids," Pain, 56:69-75(1994)("Elliott I"); Elliott et al., "Dextromethorphan Attenuates and Reverses Analgesic Tolerance to Morphine," Pain, 59:361-368(1994)("Elliott II"); Inturrisi, C.E., "NMDA Receptors, Nitric Oxide, and Opioid Tolerance," Reg. Peptides, 54:129-30(1994)、興奮性アミノ酸(“EAA”)受容体システムおよび酸化窒素(“NO”)システムは、モルフィン耐性および依存性に関係していることが明らかである。1980年代以来、グルタミン酸塩およびアスパラギン酸塩を含むEAAは、脊椎中枢神経系(“CNS”)における神経伝達物質として同定されてきた。EAAであるN−メチル−D−アスパラギン酸塩(“NMDA”)の重要な態様は、電圧依存性Mg2+遮断およびカルシウムイオンに対する高透過性を特徴とする、異なる細胞膜チャネルを開くということである。受容体活性化の結果、細胞内カルシウムが生理的に増加すると、NOの産生を引き起こす酸化窒素シンターゼ(“NOS”)のカルシウム−カルモジュリン媒介活性化を含む、多くの代謝変化が細胞において開始され得る(Bredt et al., "Nitric Oxide a Novel Neuronal Messenger," Neuron, 8:3-11(1992))。NMDA受容体の活性化はまた、c−fosのような細胞調節遺伝子の発現を変え得る(Bading et al., "Regulation of Gene Expression in Hippocampal Neurons by Distinct Calcium Signaling Pathways," Science, 260:181-86(1993); Rasmussen et al., "NMDA Antagonists and Clonidine Block C-fos Expression During Morphine Withdrawal," Synapse, 20:68-74(1995))。しかしながら、過剰のNMDA受容体刺激から起こり得るような、多量のおよび持続的な細胞内カルシウムの増加は、細胞に毒性である。EAA/NMDA受容体の刺激は、急性または慢性症状における神経変性に関する病理生理学的基準を表し得る(Meldrum et al., "Excitatory Amino Acid Neurotoxicity and Neurodegenerative Disease," In Lodge D, Collingridge L(eds), Trends in Pharmacological Sciences: The Pharmacology of Excitatory Amino Acids, A Special Report, Cambridge, UK, Elsevier, pp. 54-62 (1991))。従って、EAA受容体アンタゴニスト、特にNMDA受容体アンタゴニストは、薬剤開発の主な分野の一つである。
【0006】
特に、最近の研究により、NMDA受容体アンタゴニストの共投与は、げっ歯類におけるモルフィンの鎮痛効果に対する耐性の増強を軽減または逆転させることがわかった(Marek, et al., "Delayed Application of MK-801 Attenuates Development of Morphine Tolerance in the Rat," Brain Res., 548:77-81 (1991)("Marek"); Trujillo; Tiseo I; Tiseo II, Elliott I; Elliott II)。Marekは、実験動物のモルフィン依存性を低下させるときのMK−801、NMDA受容体アンタゴニストまたは遮断物質の役割について論じている。しかしながら、MK−801は毒性であることがわかり、従って、医薬としての使用には不適当である。現在、臨床使用のために利用可能なNMDA受容体アンタゴニストには、ケタミン、デキストロメトルファンおよびメマンチンがある。ケタミンは注射によってのみ利用可能であり、鎮痛効果に必要な用量で通常深刻な精神異常作用および他の望ましくない効果が生じるので、その使用は限定される。シトクロムP-4502D6(肝臓薬物代謝酵素)が遺伝子的に不存在である患者は、用量の増加に耐性であり得ないので、デキストロメトルファンの使用は限定される。デキストロメトルファンはまた、通常使用される薬剤との薬物間相互作用を受けやすく、その有効性と副作用の特性に影響を及ぼすことがある。さらに、デキストロメトルファンは体内から迅速に除去されるため、頻繁に投与する必要がある。運動障害に使用される薬剤であるメマンチンは、現在臨床試験中であり、その治癒率は、まだ分かっていない。
【0007】
モルフィンのように、メタドンは選択的に、オピオイド受容体のmu−タイプと結合し(Neil, A., "Affinities of Some Common Opioid Analgesics Towards Four Binding Sites in Mouse Brain," Naunyn-Schmiedeberg's Arch. Pharmacol., 328:24-9(1984))、げっ歯類およびヒトにおいてモルフィンと類似の行動効果をもたらす(Olsen, G.D., et al. "Clinical Effects and Pharmacokinetics of Racemic Methadone and its Optional Isomers" Clin. Pharmacol. Ther., 21:147-157 (1976) ("Olsen"); Smits et al., "Some Comparative Effects of Racemic Methadone and Its Optical Isomers in Rodents," Res. Commun. Chem. Pathol Pharmacol., 7:651-662 (1974) ("Smits"))。臨床的に利用可能であり、通常使用されるメタドンの形態は、ラセミ混合物(d,l−メタドン)である。l−異性体は、オピオイド特性をもたらすが、一方d−異性体はオピオイドとして弱いかまたは不活性である(Horng et al., "The Binding of the Optical Isomers of Methadone, α-Methadol, A-Acetylmethadol and Their N-demethylated Derivatives to the Opiate Receptors of Rat Brain," Res. Commun. Chem. Pathol. Pharmacol., 14:621-29(1976)("Horng"))。d−メタドンは、マウスでオピオイド様運動活性を起さず(Smits)、ラットに脳室内投与して不活性であり(Ingoglia et al., "Localization of d- and l-methadone after Intraventricular Injection into Rat Brain," J. Pharmacol. Exp. Ther., 175:84-87(1970))、ヒトにおける鎮痛効果がl−メタドンより50倍低い(Olsen)。さらに、l−メタドンの[H]ナロキソン結合を置換する能力は、d−メタドンの30倍である(Horng)。従って、dl−メタドンのオピオイド鎮痛特性は、l−メタドンによると考えられる(Olsen)。d−メタドンの使用は調査されていない。
本発明はこれらの欠点を克服することに関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1Aは、ラット前脳膜における選択オピオイドおよびデキストロメトルファン(1−100μM)による5nM[H]MK−801の置換についての曲線である。特定結合は全結合の約75%であった。図1Bは、ラットの脊髄膜におけるdl−メタドンそのd−およびl−異性体、デキストロメトルファン(1−300μM)による5nM[H]MK−801の置換についての曲線である。特定結合は全結合の約55%であった。
【図2】図2は、ラットテイル−フリック試験における鞘内(IT)l−およびd−メタドンについての用量反応曲線である。l−メタドンはED50値15.6μg/ラット(7.0−29.8μg、95%CI)で用量依存性の抗侵害受容(鎮痛)を起した。d−メタドンは20−460μg/ラットの用量で抗侵害受容作用を起さなかった。
【図3】図3は、ナロキソンがラットテイル−フリック試験において鞘内(IT)l−メタドンの抗侵害受容(鎮痛)作用を遮断することを示す。80μg/ラットのl−メタドン、80μg/ラットのl−メタドン+30μg/ラットのナロキソン、30μg/ラットのナロキソンをラットに(IT)投与し、投与後の15、30、45、60、75にテイル−フリック潜伏期間を測定した。各群について鎮痛反応体%を測定した。
【図4】図4A−Bは、鞘内(IT)d−メタドンが用量依存的にホルマリン反応の2相におけるホルマリン誘発後ずさり行動を低下せしめることを示す。32、160、320μg/ラットのIT量のd−メタドンまたは生理食塩水(0μg/ラット)を、50μgの5%ホルマリンの足底注入の15分前にラットに投与した。図4Aは、第1相(ホルマリン後、0−10分間)に観察された後ずさりの数(平均+S.E.M.)を示す。図4Bは、第2相(ホルマリン後10−60分間))に観察された後ずさりの数(平均+S.E.M.)を示す。生理食塩水処置群との有意の差異(P<0.05)。
【図5】図5は、ナロキソンがホルマリン試験における鞘内(IT)d−メタドンの抗侵害受容作用を反転しないことを示す。250μg/ラットのd−メタドンを、30μg/ラットのナロキソンの同時投与を行いまたは行わずに、投与した。第2相において起きた後ずさり数において、2つの薬剤投与群に差異は認められなかった。両群とも生理食塩水処置群との間に有意の差異(P<0.05)があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の要旨
本発明はNMDA受容体を有する対象(者)における痛みを処置する方法に関し、この方法は、d-メタドン、d-メタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-α-ノルメタドール、これらの薬学的に許容される塩およびこれら混合物からなる群より選ばれる物質を対象(者)に、物質が対象(者)のNMDA受容体に結合するのに効果的な条件の下で、投与することを含む。物質は、単独または他の疼痛緩和剤と併用して用いることができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の他の実施態様は、NMDA受容体を有する対象(者)において麻薬性鎮痛剤すなわち耽溺性物質に加えて処置する方法に関し、この方法は、d-メタドン、d-メタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-α-ノルメタドール、これらの薬学的に許容される塩およびこれら混合物からなる群より選ばれる物質を対象(者)に、物質が対象(者)のNMDA受容体に結合するのに効果的な条件の下で、投与することを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明のさらに他の実施態様は、NMDA受容体を遮断する方法に関し、この方法は、d-メタドン、d-メタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-α-ノルメタドール、これらの薬学的に許容される塩およびこれら混合物からなる群より選ばれる物質をNMDA受容体に、物質が対象(者)のNMDA受容体に結合するのに効果的な条件の下で、接触せしめることを含む。
本発明は、疼痛および麻薬性の耐性と身体的依存症について、安全で効果的な処置を提供する。d-メタドンは、デキストロメトルファンの遺伝的あるいは薬剤の相互作用の対象(者)とはならず、また向精神作用も生じないようである。さらに、d-メタドンは、ラセミ混合物の部分として用いられて、安全性について長い歴史を有している。またd-メタドンは、他の臨床的に用いられるNMDA受容体アンタゴニストに比べると非常に長い消失半減期(約24時間)を有している。従って、d-メタドンは、モルフィンやオキシコドンなどの長期作用型のオピオイドと併用されて、便利な1日1回または2回の服用予定を提供するのに、用いることができる。
【0012】
発明の詳細な説明
本発明はNMDA受容体を有する対象(者)における痛みを処置する方法に関し、この方法は、d-メタドン、d-メタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-α-ノルメタドール、これらの薬学的に許容される塩およびこれら混合物からなる群より選ばれる物質を対象(者)に、物質が対象(者)のNMDA受容体に結合するのに効果的な条件の下で、投与することを含む。物質は、単独または他の疼痛緩和剤と併用して用いることができる。
【0013】
本発明の他の実施態様は、NMDA受容体を有する対象(者)において麻薬性鎮痛剤すなわち耽溺性物質に加えて処置する方法に関し、この方法は、d-メタドン、d-メタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-α-ノルメタドール、これらの薬学的に許容される塩およびこれら混合物からなる群より選ばれる物質を対象(者)に、物質が対象(者)のNMDA受容体に結合するのに効果的な条件の下で、投与することを含む。
【0014】
本発明のさらに他の実施態様は、NMDA受容体を遮断する方法に関し、この方法は、d-メタドン、d-メタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-α-ノルメタドール、これらの薬学的に許容される塩およびこれら混合物からなる群より選ばれる物質をNMDA受容体に、物質が対象(者)のNMDA受容体に結合するのに効果的な条件の下で、接触せしめることを含む。
【0015】
本発明の主題は、受容体および信号伝達経路の考察を通じて最もよく理解し得る。高等動物の細胞は、何百種もの細胞外情報伝達分子によって交信している。この分子には、タンパク質、小さいペプチド、アミノ酸、ヌクレオチド、ステロイド、レチノイド、脂肪酸誘導体、さらに酸化窒素や一酸化炭素などの溶解気体がある。これらの情報伝達分子は“信号”を他の細胞(標的細胞)に伝え、一般的に細胞機能に影響を与える。細胞外情報伝達分子の受容体は、総括的に“細胞情報伝達受容体”と表わす。
【0016】
多くの細胞情報伝達受容体は、細胞表面上の膜透過性タンパク質である。これは、細胞外情報伝達分子(リガンド)と結合するとき、活性化して、細胞の行動を変える細胞内信号のカスケードを生じる。一方、いくつかの例において、受容体は細胞の内側にあり、情報伝達リガンドが細胞を活性化するためには、リガンドは細胞の中に入らなければならない。したがって、この情報伝達分子は、細胞質膜越えて拡散するのに充分小さくかつ疎水性でなければならない。
【0017】
受容体に結合するリガンドを加えて、リガンド結合を防ぐために、受容体を遮断することができる。ある物質が受容体に結合すると、その物質の3次元的構造が、ボールと軸受けの立体配置において、受容体の3次元的構造によってつくられた空間におさまる。ボールが軸受けにうまく適合すればするほど、しっかりとボールは保持される。この現象を親和性という。ある物質の親和性が元のリガンドよりも大きいと、リガンドと競合して結合部位に高い頻度で結合する。結合すると、信号が受容体を通じて細胞に送られて、細胞がなんらかの反応をおこす。これを活性化という。活性化された受容体は特定の遺伝子の転写を制御する。しかし、この物質と受容体は、細胞を活性化するために、親和性以外に一定の属性を有していなければならない。物質の原子と受容体の原子との間に化学結合が形成されなければならない。いくつかの例において、この形成は、活性化プロセスを始めるのに充分な、受容体の立体配置における小さい変化(信号導入という)をもたらす。結果として、物質は、受容体と結合し、受容体を活性化するか(受容体アゴニスト)、または受容体を不活性化する(受容体アンタゴニスト)ようにつくられる。
【0018】
N-メチル-D-アスパルテート("NMDA")受容体複合体は、多くの中枢神経系("CNS")プロセスにおいて重要な役割を有しており、このプロセスには、記憶および長期増強、イノロン変性の調節、毒性刺激障害に対する保護がある(Monaghan et al., "The Excitatory Amino Acid Receptors: Their Classes, Pharmacology, and Distinct Properties in the Function of the Central Nervous System," Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 29:365-402 (1989))(出典明示により本明細書の一部とする)。NMDAはまた、侵害受容のプロセスに関与するようである(Dickenson, A.H., et al. "Dextromethorphan and Levorphanol are Dorsal Horn Nociceptive Neurones in the Rat," Neuropharmacology, 30:1303-1308(1991))。さらに、以前の研究によると、NMDA受容体アンタゴニストは、モルフィンの鎮痛作用を変えないで、mu-オピオイド-モルフィンに対する耐性が生じるのを減弱化し、さらに逆転する(Elliott et al., "N-methyl-D-aspartate (NMDA) Receptors Mu and Kappa Opioid tolerance, and Perspectives on new Analgesic Drug development," Neuropsychopharmacology, 13:347-356(1995))(出典明示により本明細書の一部とする)。
【0019】
Ebertらの報告("Ketobemidone, Methadone, and Pethidine are Non-Competitive Antagonists in the Rat Cortex and spinal Cord," Neurosci. Lett., 187:165-68(1995))(出典明示により本明細書の一部とする)によると、ラセミメタドンはラット皮質膜においてインビトロでNMDA誘導脱分極を低下せしめる。この見解に反し、本発明では、メタドンのd-およびl-いずれの異性体もNMDA上の競合性(MK-801)部位に(Gorman et al., "The d- and l- Isomers of Methadon Bind to he Non-Competitive site on the N-methyl-D-aspartate(NMDA)Receptor in Rat Forebrain and Spinal Cord, "Neurosci. Lett., 223:5-8(1997),(出典明示により本明細書の一部とする。)結合でき、ラットの前脳および脊髄膜でNMDA受容体アンタゴニストであるデキストロメトロファン(elliott, et al., "Dextromethorophan Suppresses Both Formalin-Induced Nociceptive Behavior and the Formalin-Induced Increase in Spinal Cord c-fos mRNA, "Pain, 61:401-09(1995))(出典明示により本明細書の一部とする)にほぼ比敵する親和性を有することが確認された。理論に結びつけるわけではないが、d-メタドンは痛みの処置、および麻薬性物質に対する身体的依存性および耐性についての処置に、同様に機能すると考えられる。
【0020】
このように、d-メタドンは、有効量を対象(者)に供給すると、対象(者)のNMDA受容体と結合して遮断することができる。好ましくは、NMDA受容体は中枢または末梢の神経系に存在している。中枢神経系には脳や脊髄が含まれ、末梢神経系には感覚ノイロン(末梢侵害受容体)や神経、その脊面脊髄の中央末端が含まれる。好ましくは、NMDA受容体は、感覚イノロンの中央前シナプス末端および脊髄や脳の前シナプス部位に位置する。本発明はすべての対象(者)を含むが、哺乳動物が好ましく、特にヒトが好ましい。
【0021】
d-メタドンが好ましいが、NMDA受容体を遮断する他の物質も本発明で用いることができる。それには、d-メタドール、d-α-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドールなどのd-メタドン類似体のd-体、およびそれらの混合物または薬学的に許容される塩が含まれる。さらに、l-α-アセチルメタドールやl-α-ノルメタドールなどのメタドン類似体のl体、およびそれらの混合物または薬学的に許容される塩が含まれている。
【0022】
NMDA受容体は、生理的現象を終了せしめて、脊髄ノイロンが反復線維刺激後に異常に活性になること(Dickenson, et al., "Evidence for a Role of the NMDA Receptor in the Frequency Dependent Potentiation of Deep Rat Dorsal Horn Nociceptive Neurones Follpwing C Fibre Atimulation," Neuropharmacology, 26:1235-38(1987),(出典明示により本明細書の一部とする)、および一般的な現象を中枢的に感作せしめて、感覚イノロンが活性閾値を低下し、受容フィールド・サイズを大きくし、有害末梢刺激を自発的に起こすこと(Woolf, et al., "The Induction and Maintenance of Central Sensitization is Dependent on N-methyl-D-aspartic Acid Receptor Activation; Implications for the Treatment of Post-Injury Pain Hypersensitivity States, "Pain, 44:293-99(1991); Dubner, et al., "Activity-Dependent Neuronal Plasticity Following Tissue Injury and Inflammation," Trends Neurisci., 15:96-38(1992))(出典明示により本明細書の一部とする)の両者を調節して、痛みの伝達に重要な役割を演じる。NMDA受容体アンタゴニストによるNMDA受容体の遮断は、種々の動物疼痛モデルにおいて抗侵害受容を起こす。d-メタドンは、ほとんどオピオイド活性を有しないが、インビボNMDA受容体アンタゴニスト活性を保持しているので、抗侵害受容性である。さらに、d-メタドンは他の鎮痛剤の鎮痛作用にも貢献する。
【0023】
NMDA受容体、すなわち興奮性アミノ酸受容体のサブタイプの活性化は、神経細胞の機能的活性、特に細胞内Ca++濃度の増加によって耽溺性物質の存在下における興奮活性あるいは阻害の能力に多くの変化をもたらす。NMDA受容体活性化の主な結果には、神経細胞内で起きる事象について、次のことを含む。
a)キナーゼCなどのタンパク質キナーゼの位置変更と活性化→サイトゾル酵素、チャネルタンパク質、受容体タンパク質などの基質タンパク質のリン酸化→機能的活性の変化。
b)細胞内Ca++またはCa++活性タンパク質キナーゼの増加による初期遺伝子(c-fos, c-jun, zif-268 など)の発現の開始→細胞酵素(タンパク質キナーゼなど)、受容体タンパク質(NMDA受容体など)、イオンチャネルタンパク質(K,Na,Ca++チャネルなど)、神経タンパク質(ジノルフィンなど)の産生を担う機能的遺伝子の発現→機能的活性の変化。
c)酵素および他の細胞成分のCa++/カルモジュリン(または他のCa++結合タンパク質)誘導活性化 → Ca++/カルモジュリンキナーゼIIなどのCa++/カルモジュリンキナーゼ系の活性化 → 酵素(Ca++/カルモジュリンキナーゼII)または他の機能的タンパク質の自動リン酸化 → 機能的活性の変化。
d)構成的酸化窒素シンターゼのCa++/カルモジュリン誘導活性化および誘導可能酸化窒素シンターゼの誘導 → 酸化窒素の産生 → i)ブアノシンサイクラーゼの活性化による周期性ブアノシンモノホスフェートの産生がタンパク質キナーゼの活性化と初期遺伝子発現をもたらすこと、ii)酵素、受容体および/またはチャネルタンパク質などの直接タンパク質修飾、iii)遊離基の除去による脂質膜修飾および/または核酸修飾、iV)酸化窒素の高いレベルでの神経毒性の導入、v)グルタメート放出/NMDA受容体活性の容易化および/または後シナプスNMDA受容体の阻害などの近接細胞および/またはブリア細胞における逆行作用 → 機能的活性の変化。
e)周期性アデノシンモノホスフェート/タンパク質キナーゼA系、ホスホリパーゼC-イノシトール・トリホスフェートCa++/ジアセチルグリセロル・タンパク質キナーゼ系、ホスホリパーゼA2-アラキドン酸/プロスタノイド/レイコトリエン系の相互作用 → NMDA受容体/Ca++/Caカルモジュリン/タンパク質キナーゼ系よりも他の2次メッセンジャー系に誘導された機能的活性の変化。
f)非NMDA受容体および代謝指向受容体を含む他の興奮性アミノ酸受容体サブタイプとの相互作用、およびこれらの興奮性アミノ酸受容体サブタイプの活性化に続く細胞内事象 → 非NMDAおよび代謝指向受容体活性に誘導された機能的活性の変化。
【0024】
NMDA受容体を遮断する物質は、起こり得る上記の主な細胞内事象のすべてを効果的に防止する。しかし、NMDA受容体の活性化があっても、上記の主な細胞事象の少なくとも1つを遮断する物質と耽溺物質とを組み合わせることによって、耽溺物質に対する耐性および/または依存性の発達を阻害することが可能である。さらに、上記の主な細胞事象の少なくとも1つを遮断する物質を投与することにより疼痛を処置することが可能である。このように、例えば、タンパク質キナーゼCの位置変更や活性化に、あるいは構成酸化窒素シンターゼのカルモジュリン誘導活性に干渉する物質は、本発明の実施に有用である。
【0025】
疼痛を処置する方法において、d-メタドン、その類似体のd-異性体またはl-異性体がNMDA受容体およびN-メチル-D-アスパルテート受容体活性の細胞内効果を遮断する痛みを有する対象(者)にd-メタドン、その類似体のd-異性体またはl-異性体を投与する。さらにd-メタドン、その類似体のd-異性体またはl-異性体は、NMDA受容体およびN-メチル-D-アスパルテート受容体活性の細胞内効果を遮断するものであって、麻薬性鎮痛剤または他の耽溺性物質などの他の物質と併用して、投与することができる。d-メタドンは、麻薬性鎮痛剤または他の耽溺性物質に対する耐性および/または依存性の発達を阻害して、痛みを処置する。さらに、d-メタドンは、補助鎮痛剤などの他の鎮痛剤と併用することができる。鎮痛性物質(麻薬性または補助的)、耽溺物質、鎮静または睡眠物質(これらを併せて"鎮痛剤"という)は、d-メタドン、その類似体のd-異性体またはl-異性体の投与前、中または後に投与することができる。
【0026】
鎮痛剤の種類について次に記述する。
麻薬性鎮痛剤には、アヘン、アヘン誘導体、オピオイドおよびこれらの薬学的許容される塩がある。麻薬性鎮痛剤の具体例として、アルフェナニル、アルファプロジン、アニレニジン、ベンジトラミド、ブプレノルフィン、ブトルフェノール、コデイン、デゾシン、ジヒドロコデイン、ジフェノキシレート、エチルモルフィン、フェンタニル、ヘロイン、ヒドロコドン、ヒドロモルフォン、イソメタドン、レボメトルファン、レボファノール、メプタジノール、メタゾシン、メタポン、モルフィン、ナルブタフィン、ナルメタフェン、アヘン抽出物、アヘン液抽出物、ペンタゾシン、プロポキシフェン、アヘン末、アヘン顆粒、粗製アヘン,アヘン浸出液、オキシコドン、オキシモルフォン、ペチジン(メペリジン)、フェノゾシン、ピミノジン、ラセミメタドン、ラセメトルファン、ラセモルファン、スフェタニル、テベイン、トラマドールおよびこれらの薬学的に許容される塩がある。これらの、および他の麻薬性鎮痛剤についての詳細はJaffeらの文献を参照のこと("Opioid Analgesics and Antagonists," Goodman and Gilman's Pharmacological Basis of Therapeutics.Goodman et al., eds.,Macmillan and Coompany, New York pp.521−556(1996)("jaffe"))(出典明示により本明細書の一部とする)。
【0027】
本発明で用いられる他の麻薬性鎮痛剤および/または耽溺物質には、アセトルフィン、アセチルヒドロコデイン、アセチルメタドール、アリルプロジン、アルファアセチルメタドール、アルファメプロジン、アルファメタドール、ベンツエチジン、ベンジルモルフィン、ベータアセチルメタドール、ベータメプロジン、ベータメタドール、ベータプロジン、クロニタゼン、コカイン、コデイン・メチルブロマイド、コデイン-N-オキシド、シプレノルフィン、デソモルフィン、デキストロモラミド、ジアムプロミド、ジエチルチアムブテン、ジヒドロモルフィン、ジメノキサドール、ジメフェプタノール、ジメチルチアムブテン、ジオキサフェチル、ブチラート、ジピパノン、ドロテバノール、エタノール、エチルメチルチアムブテン、エトニタゼン、エトルフィン、エトキセリジン、フレチジン、ヒドロモルフィノール、ヒドロキシペチジン、ケトベミドン、レボモラミド、レボフェナシルモルファン、メチルデソルフィン、メチルジヒトロキシモルフィン、モルフェリジン、モルフィン・メチルブロマイド、モルフィン・メチルスルフォネート、モルフィン-N-オキシド、ミロフィン、ニココデイン、ニコモルフィン、ニコチン、ノルアシルメタドール、ノルレボファノール、ノルメタドン、ノルモルフィン、ノルピパノン、フェナドキソン、フェナムプロミド、フェノモルファン、フェノペリジン、ピリトラミド、フォルコジン、プロヘプタゾイン、プロペリジン、プロピラム、ラセモルアミド、テバコン、トリメペリジンおよびこれらの薬学的に許容される塩がある。
【0028】
本発明の実施に用いることのできる他の物質として、鎮静剤および睡眠剤があり、例えばクロルジアゼポキシド、クロラゼペート、ジアゼパム、フルラゼパム、ハラゼパム、ケタゾラム、ボラゼパム、オキサゼパム、パラゼパム、テマゼパム、トリアゾラムおよびこれらの薬学的に許容される塩などのベンゾジアゼパム類、アモバルビタール、バルビタール、ブタバルビタール、メフォバルメタール、メトヘキシタール、ペントバルビタール、フェノバルビタール、セコバルビタール、タルブタール、チアミラール、チオペンタールおよびこれらの薬学的に許容される塩などのバルビターム類、およびクロラールヒドラート、メプロバメート、メタクアロン、メチルプリロンおよびこれらの薬学的に許容される塩などの他の鎮静剤および睡眠剤が含まれる。
【0029】
他の鎮痛剤および補助鎮痛剤として、(1)局所鎮痛剤、例えばブピバカイン、リドカイン、メピバカイン、メキシレチン、トカイニドおよび("Local Anesthetics," Goodman and Gilman's Pharmacological Basis of Therapeutics, Goodman et al., eds. 9th eds., MacMillan and Company, New York pp.331-347(1996))(出典明示により本明細書の一部とする)に記載されている他の薬剤、(2)アセトアミノフェン、アセチルサリチル酸などのサリチル酸類、プロピオン酸誘導体(イブプロフェン、ナプロキセン他)などの非ステロイド性抗炎症剤、酢酸誘導体(インドメサシン、ケトロラック他)、シオクロオキシゲナーゼII阻害剤(SC-58635など)および("Analgesic-antipyretic and Antiinflammatory Agents and Drugs Employed in the Treatment of Gout" Goodman and Gilman's Pharmacological Basis of Therapeutics, Goodman et al., eds. 9th eds., MacMillan and Company, New York pp.617-657(1996))(出典明示により本明細書の一部とする)に記載されている他の薬剤、(3)他の鎮痛剤(オピオイドなど)の鎮痛効果を高めるのに用いられる補助鎮痛剤であって、疼痛を悪化する激しい症状を処置し、特別な型の痛み(神経障害性疼痛など)に対する鎮痛剤を提供する。これには、コルチコステロイド(デキストロメサゾン)、抗けいれん剤(フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロエート、クロナゼパム、ガバペンチン)、向精神薬(メトトリメプラジン)、抗うつ剤(アミトリプリン、ドキセピン、イミプラミン、テトラゾン)、精神興奮剤(デキストロアンフェタミン、メチルフェニデート)が含まれる。(Jacox A, et al. "Management of Cancer Pain. Clinical Practice Guideline No.9", AHCPR Publication No.94-0592. Rockvill, MD. Agency for Health Care Policy and Research, U.S. Department of Health and Human Services, Public Health Service, pp 65-68(1994))(出典明示により本明細書の一部とする)。
【0030】
本発明はすべての型の痛みを処置することを目標とする。特に急性、亜急性、慢性の痛みが含まれる。慢性痛の具体的な型には神経障害性、体性および内臓性がある。
【0031】
臨床上痛みは、時間的に急性、亜急性、慢性と分類され、程度的に軽度、中程度、重度と分類され、身体的に体性、内臓性、神経障害性と分類され、病因的に内科性、精神性と分類される。急性痛(手術後痛や急性外傷痛など)は、典型的に客観症候であり、頻脈、血圧上昇、発汗などを伴う自律神経系の亢進である。慢性痛は回帰を基にして3ヶ月以上起きるものである。疼痛の量的な本質(強度)は、薬剤治療を選択するのに主要な因子である。
【0032】
神経障害性疼痛は一般的な多様性のある慢性痛である。これは、末梢および/または中枢系の異常な機能を形成する痛みと定義できる。体性痛は、末梢受容体および体性感覚導出神経の活性化によるもので、末梢神経系およびCNSの活性化はない。内臓痛は、内臓侵害受容体および内臓導出神経の活性化によるもので、皮下部の深い、激しい、けいれん性の痛みを特徴とする。
【0033】
さらに、d-メタドン(および類似体、その薬学的に許容される塩、その混合物)は麻薬耽溺を処置するのに有用である。麻薬耽溺とは、麻薬性鎮痛剤および/または耽溺性物質(上記)に対し耐性、身体的依存性および/または身体的渇望を対象(者)が有するときであると定義される。この場合、d-メタドンは麻薬性鎮痛剤および/または耽溺性物質(上記)に対し耐性、身体的依存性および/または身体的渇望を有する対象(者)に投与される。
【0034】
d-メタドンは、希望する使用に適した形態につくられる。例えば、経口(速効型や持続放出型を含む)、経直腸、非経口(例えば、皮下、静脈、筋肉脈管、硬脈、鞘閉への注入)、経鼻、粘膜(鼻、のど、気管)への適用、空洞臓器や新形成血管への注入、皮膚透過器具やパッチなどによる皮膚への適用がある。経口使用に適した用量形態には、錠剤、拡散性粉末、顆粒、カプセル、懸濁液、シロップ、エキシール剤などがある。化合物は、単独であるいは薬学的に許容される希釈剤や担体と共に投与される。錠剤について不活性な希釈剤および担体としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳酸塩、タルクなどがある。錠剤は、デンプンやゼラチン、アカシアなどの結合剤、ステアリン酸マグネシウムやステアリン酸、タルクなどの滑沢剤も含み得る。錠剤は被覆しないこともあり、また崩壊や吸収を遅らすために既知の方法で被覆することもある。カプセルに用いられる不活性な希釈剤および担体としては、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウムおよびカオリンがある。懸濁液、シロップおよびエキシール剤は、メチルセルロース、トラガカント、アルギン酸ナトリウムなどの通常の希釈剤、レシチン、ステアリン酸ポリオキシエチレンなどの湿潤剤、P-ヒドロキシ安息香酸エチルなどの保存剤を含み得る。
【0035】
非経口投与に適した用量形態には、溶液、懸濁液、分散液、乳化液などがある。これらは、使用直前に注射溶液に溶解また懸濁される無菌の固体の形態でつくることができる。既知の懸濁剤または分散剤を含有することがある。
【0036】
鎮痛剤またはd−メタドンの好ましい用量は、約5−約300mg/日の大きい範囲を持つ。本発明により投与されるd−メタドンおよび鎮痛剤の実際上の好ましい量は、特定の処方組成物および投与の形態によって違ってくる。
【0037】
d-メタドンの作用を変えるかも知れない多くの因子を、当業者は考慮することができる。例えば、体重、食事、投与時間、投与経路、排出速度、対象(者)の状態、併用薬剤、感受性反応、重篤度などである。投与は最大耐容用量内で継続的や周期的に行うことができる。現実の条件において最適の投与量は、本明細書に記載の実験データを参考にして通常の用量投与テストを用いて当業者が確認することができる。
【実施例1】
【0038】
実施例
実施例1
さらにdl-メタドン、同様にd-およびl-異性体、の結合性の特徴をみるために、メタドンの異なる異性体で、非競合NMDA受容体アンタゴニスト[3H]MK-801(Wong et al., "[3H]MK-801 labels on Site on the N-methyl-D-aspartate Receptor Channel Complex in Rat Brain Membranes," J. Neurochem., 50:274-281 (1988))および競合NMDA受容体アンタゴニスト[3H]CGS-19755(Murphy et al., "Characterization of the Binding of [3H]-CGS 19755: A Novel N-methyl-D-Aspartate Antagonist with Nanomolar Affinity in the Rat Brain," Br. J. Pharmacol., 95: 932-938(1988)、出典明示により本明細書の一部とする)を置換する能力を、ラット前脳および脊髄のシナプス膜において比較した。原型オピオイド薬もまたNMDA受容体に対する親和性を示すかどうか知るために、モルヒネ、ヒドロモルフォンおよびアンタゴニストであるナルトレキソンを研究した。比較の目的で、非競合NMDA受容体アンタゴニストのデキストロメトルファン(Ebert et al., "Identification of a Novel NMDA Receptor in Rat Cerebellum," Eur. J. Pharmacol., Mol. Pharmacol. Sect., 208: 49-52 (1991); Netzer et al., "Dextromethorphan Blocks N-methyl-D-aspartate-Induced Currents and Voltage-Operated Inward Currents in Cultured Cortical Neurons," Eur. J. Pharmacol., 238:209-216(1993)、出典明示により本明細書の一部とする)も調べた。
【0039】
雄スプレーグドーリーラット(250〜300g)をTaconic Farms (Germantown, NY)より入手した。[3H]MK-801(特定活性=20.3 Ci/mmole)および[3H]CGS-19755(特定活性=78.0 Ci/mmole)をNew England Nuclear (Boston, MA)より入手した。dl-メタドン、その異性体のd-メタドン[(S)-(+)-methadone HCL]およびl-メタドン[(R)-(-)-methadone]をLilly Research Laboratory (Indianapolis, IN)より入手した。
【0040】
Wong et al., "[3H]MK-801 labels on Site on the N-methyl-D-aspartate Receptor Channel Complex in Rat Brain Membranes," J. Neurochem., 50:274-281 (1988) (出典明示により本明細書の一部とする)の修飾方法により、シプナス膜をラット前脳("FB")(すなわち脳全体から小脳および脳幹を除いたもの)および脊髄("SPCD")(すなわち腰仙椎部分)から採取した。組織を4〜6匹のラットから集めて氷冷0.32Mスクロース溶液 50ml中でホモジナイズし(Brinkmann Polytron (Westbury, NY)ホモジナイザー、設定5)、次いで3,000×gで4℃、5分間遠心分離機にかけた。上清および緩衝層を21,500×gで4℃、15分間遠心分離機にかけた。P2ペレットを5mM 氷冷Tris HCl緩衝液(pH7.4)中で再懸濁し、0.04% Triton Xで37℃、20分間インキュベーションした。懸濁液を39,000×gで4℃、14分間遠心分離し、次いでペレットを氷冷緩衝液に再懸濁し、上述の方法により全体で3回、39,000×gで再度遠心分離機にかけた。ペレットを0.32Mスクロース溶液 2mlに再懸濁させ、次いで、一定分量を少なくとも24時間、−70℃に保ち、凍結させた。アッセイの日に、膜の一定分量を室温で解凍し、4回洗浄し(39,000×g、4℃15分間)、次いで全アッセイ容量250μlで、Lowry et al., "Protein Measurement with Folin phenol Reagent," J. Biol. Chem., 193: 265-275 (1951)(出典明示により本明細書の一部とする)により測定するために、ペレットを結合アッセイ緩衝液中、最終濃度が200〜300μgタンパク質(前脳)または300〜400μgタンパク質(脊髄)になるまでホモジナイズした。
【0041】
前脳については、[3H]MK-801結合アッセイを、前述のEbert et al., "Ketobemidone, Methadone, and Pethidine are Non-Competitive Antagonists in the Rat Cortex and Spinal Cord," Neurosci. Lett., 187(3): 165-168 (1995)(出典明示により本明細書の一部とする)に従い行った。膜の同じもの3つを、1μM グリシン、50μM l-グルタミン酸、5nM [3H]M-801、および競合薬剤を含む5mM Tris HCl/HEPES緩衝液(pH7.6) 、または対照の緩衝液中、250μlの最終容量で、室温で4時間インキュベートした。非特定結合を、200μM非標識MK-801を添加して明確にした。脊髄については、結合を改善するためにグリシンおよびl-グルタミン酸の濃度をそれぞれ30μMおよび50μMに高め、インキュベーション時間を2時間に減らした。Murphy et al., "Characterization of the Binding of[3H]CGS-19755: A Novel N-methyl-D-asparate Antagonist with Nanomolar Affinity in the Rat Brain," Br. J. Pharmacol., 95:932-938 (1988)、出典明示により本明細書の一部とする)の修正方法により、[3H]CGS-19755結合アッセイを処置した。同じ前脳3つを、10nM[3H]CGS-19755および競合薬剤を含む50mM Tris HCl(pH7.8)中または対照の緩衝液中、250μlの最終容量で、4℃で50分間インキュベートした。非特定結合を、100μM非標識 l-グルタミン酸を添加して明確にした。結合リガンドを遊離リガンドから24ウェルBrandel 細胞採取装置(Gaithersberg,MD)を用いてろ過により分離し、次いで氷冷結合緩衝液 2mlで2度洗浄した。フィルター(0.05% ポリエチレンイミンで30分間プレインチュベートしたBrandel GF/Bろ紙)に結合したリガンドの量を、Ecoscintシンチレーション流体 5ml中で12時間処置した後に、液体シンチレーションカウンターを使用して測定した。特定結合は、全cpm's結合平均から非特定cpm's結合平均を差し引いたものとして定義した。アッセイを2〜4回繰り返した。IC50値を、出典明示により本明細書の一部とするKatz, Y., et al., "Interactions Between Laudanosine, GABA, and Opioid Subtype Receptors: Implication for Laudanosine Seizure Activity," Brain Res., 646: 235-241 (1994)に叙述されている直線回帰分析で測定した。Ki値を、出典明示により本明細書の一部とするCheng et al., "Relationship Between the Inhibition Constant (Ki) and the Concentration of Inhibitor which Causes 50 Persent Inhibition of an Enzymatic Reaction," Biochem. Pharmacol., 22: 3099-3104 (1973)によって計算した。
【0042】
図1Aは、前脳において選択オピオイドおよびデキストロメトルファンによって生じた[3H]MK-801結合の置換についての典型的な曲線を示す。濃度範囲の試験では、モルヒネ、ヒドロモルフォンおよびナルトレキソンは[3H]MK-801を置換しなかった(ヒドロモルフォンおよびナルトレキソンについてのデータは示していない)。しかし、オピオイド活性l-異性体はオピオイド不活性d-異性体またはdl-メタドンよりわずかに強いようであったが、dl-メタドン、d-メタドンおよびl-メタドンはデキストロメトルファンに似た置換曲線を示した。図1Bは脊髄の場合における、対象化合物の典型的な置換曲線である。最初のアッセイで、IC50値が前脳中より脊髄中では低かったので、低化合物濃度で試験した。dl-メタドン、そのd-異性体およびl-異性体、およびデキストロメトルファンは似た置換曲線を示した。
【0043】
下記の表1に列挙したKiの平均値のまとめとして、[3H]MK-801および[3H]CGS-19755結合の置換の対象となる化合物の能力を比較する。
表1
【表1】

データを2〜4つの測定の、平均±SEMとして表示する;
KiをKd=4.3nMa、Kd=7.0nMa(MK-801、前脳および脊髄それぞれ)、およびKd=24nM(CGS-19755、前脳)を使用してIC50値アッセイから計算した。
−:アッセイは行われていない
ad:分離飽和アッセイより測定
【0044】
対象の化合物は、拮抗NMDA受容体アンタゴニスト[3H]CGS-19755を高い濃度でのみ置換した(表示なし)。モルヒネ、ヒドロモルフォンおよびナルトレキソンは[3H]MK-801を置換せず、[3H]CGS-19755に対して試験していない。しかし、dl-メタドン、そのd-およびl-異性体およびデキストロメトルファンは、脊髄および前脳中でNMDA受容体の非拮抗部位(MK-801)に対して適度の親和力を示し、μM範囲内のKi値の結果であった(表1)。
【0045】
これらの結果は、dl-メタドンはラット皮質および脊髄膜中でNMDA受容体アンタゴニスト活性を持つという初期の報告を確かにし(Ebert et al., "Ketobemidone, Methadone, and Pethidine are Non-Cmpetitive Antagonist in the Rat Cortex and Spinal Cord," Neurosci. Lett., 187(3): 165-168 (1995)("Ebert I")、出典明示により本明細書の一部とする)、メタドンのd-およびl-異性体がラット前脳および脊髄シナプシス膜中でNMDAの非拮抗部位に対して特定的に結合するということを立証し、これらの前報告を拡張している。dl-メタドンのKi値はEbert Iで既に報告されたものより約10倍高い。Ebert Iで皮質膜を使用したのに対して、本実施例ではラット前脳を使用した。以前に、前脳中よりむしろラット皮質膜中で[3H]MK-801に対する高い親和力が発見された(Gudehithlu et al., "Effect of Morphine Tolerance and Abstinence on the Binding of [3H]MK-801 to Brain Regions and Spinal Cord of the Rat" Brain Research, 639: 269-472 (1994)、出典明示により本明細書の一部とする)。実際に、測定したデキストロメトルファンに対するKi値も、前脳中では、皮質膜の場合としてこれまでに報告されたもの(Ebert et al., "Identification of a Novel NMDA Receptor in Rat Cerebellum," Eur. J. Pharmacol. Mol. Pharmacol. Sect., 208: 49-52 (1991) ("Ebert II")出典明示により本明細書の一部とする)より約10倍高い。Ki値も、脊髄内では前脳と比較して2〜3倍低い。このような、CNS領域内で使用されたものの違いが、異なるKi値の原因であろう。メタドンの両方の異性体はNADA受容体に対して似た親和力を示すので、この特性は立体特異的ではない。さらに、他のオピオイドすべてはNMDA受容体に対しての親和力が立証されておらず、これは基本的なオピオイドの特性ではないと考えられる。
【0046】
興味深いことに、dl-メタドン、d-メタドンおよびl-メタドンの抑制曲線およびKi値は、立証されたNMDA受容体アンタゴニストであるそれらのデキストロメトルファン(Ebert II; Netzer et al., "Dextromethorphan Blocks N-methyl-D-aspartate-induced Currents and Voltage-Operated Inward Currents in Cultured Cortical Neurons," Eur. J. Pharmacol., 238: 209-216 (1993)、出典明示により本明細書の一部とする)と似ていた。それゆえに、メタドンはデキストロメトルファンと似た特性を持つ。デキストロメトルファンはホルマリン試験で侵害受容反応を弱め(Elliott et al., "Dextromethorphan Suppresses Formalin-Induced Nociceptive behavior and the Formalin-Induced Increase in c-fos mRNA," Pain, 61: 401-409 (1995)、出典明示により本明細書の一部とする)、および脊髄ニューロンの"終結(wind up)"を抑制し(Dickenson et al., "Dextromethorphan and Levorphanol an Dorsal Horn Nociceptive Neurones in the Rat," Neuropharmacology, 30: 1303-1308 (1991)、出典明示により本明細書の一部とする)、現象は中心感作の侵害受容モデルと関連していた(Coerre et al., "Contribution of Central Neuroplasticity to Pathological Pain: Review of Clinical and Experimental Evidence," Pain, 52: 259-285 (1993)、出典明示により本明細書の一部とする)。さらに、デキストロメトルファンはモルヒネ耐性の発症 (Elliott et al., "Dextromethorphan Attenuates and Reverses Analgesic Tolerance to Morphine," Pain, 59: 361-368 (1994)出典明示により本明細書の一部とする)、すなわちNMDA受容体アンタゴニストMK-801およびLY274614によって分割された性質 (Elliott et al., "The NMDA Receptor Antagonists LY274614 and MK-801, and the Nitric Oxide Synthase Inhibitor, NG-nitro-L-arginine, Attenuate Analgesic Tolerance to the Mu-opioid Morphine but not to Kappa Opioids," Pain, 56: 69-74 、(1994)、出典明示により本明細書の一部とする)を弱め、逆転させる。dl-メタドンは、脳部分標本内のNADA誘発脱分極を減少させるので、NMDA受容体(Ebert I)において機能的拮抗を示す。d-およびl-異性体両方とも、NMDA受容体に対してdl-メタドンと似た結合様式を示すので、異性体もNMDA受容体アンタゴニストとしての役割を持つと推定される。
これらの結果は、いくつかの臨床的意味を持つ。d-メタドンまたはデキストロメトルファンなどの、オピオイドの特性をもたらす耐性および依存性が不足しているNMDA受容体阻害特性を持つ化合物は、神経障害痛の添加物として有効である(Elliott et al. "N-methyl-D-aspartate (NMDA) Receptors Mu and Kappa Opioid Tolerance, and Perspectives on New Analgesic Drug Development," Neuropsychopharmacology, 13: 347-356 (1995)、出典明示により本明細書の一部とする)。加えて、d-メタドンなどのNMDA受容体アンタゴニストとモルヒネの組み合わせは、デキストロメトルファンでみられたように、モルヒネ耐性の発症を弱めることにより、モルヒネの効力を顕著に改善し得る(Elliott et al., "Dextromethorphan Attenuates and Reverses Analgesic Tolerance to Morphine," Pain, 59: 361-368 (1994)、出典明示により本明細書の一部とする)。
【実施例2】
【0047】
実施例2
メタドンのl-異性体はオピオイド活性を持つのに対し、d−異性体はオピオイドとしては弱いかまたは不活性である。d−およびl−メタドンはいずれも、デキストロメトルファンと類似のμM親和性でN−メチル−D−アスパルテート(“NMDA”)受容体に結合することが示されている。d−メタドンが機能的なインビボNMDA受容体アンタゴニスト活性も持つかどうかを調べるために、ラットテイル-フリック(tail-flick)およびホルマリン試験において抗侵害受容性(antinociceptive)(鎮痛)活性について、またモルヒネ耐性範例においてその鎮痛耐性軽減能について検討した。鞘内(“IT”)薬剤投与用に準備したラットでは、テイル−フリック試験(“TFT”)による累積用量−反応分析(“CDR”)で、IT l−メタドンのED50値は15.6ug/ラットであった。反対に、IT d−メタドンは、累積用量460ug/ラットでもなんら鎮痛を生じなかった。しかしながら、用量範囲32から320ug/ラットのd−メタドンは、ホルマリン試験第2相ではホルマリン誘発後ずさり行動を用量依存的に減じたが、第1相では低減しなかった。これらのd−メタドンの鎮痛作用は、鎮痛(テイル−フリック試験)用量のl−メタドンに効果的に拮抗するIT用量のナロキソンでは遮断されなかった。ITモルヒネの鎮痛作用に対する耐性は、1日に3回増加用量のモルヒネを投与することにより生じた。d−メタドンを160ug/ラットでモルヒネと同時投与し、もう一方のグループにはd−メタドンを単独で与えた。5日目、TFTによるCDRでは、モルヒネ処置グループにおけるITモルヒネのED50が1日目の値と比較して37倍も移動する。反対に、d−メタドン+モルヒネグループのモルヒネED50は、なんら顕著に増加せず、これはd−メタドンがモルヒネ耐性の発症を妨げることを示す。d−メタドン単独では、5日目に試験したモルヒネED50を変えなかった。これらの結果は、d−メタドンが非オピオイド機構によりホルマリン試験においてその鎮痛活性を発揮することを示し、これは、これらの効果がNMDA受容体アンタゴニスト活性の結果であるという提案と一致する。更に、NMDA受容体アンタゴニストは、モルヒネ耐性の発症を軽減することが示されており、ホルマリン試験において効果的なd−メタドン用量もモルヒネ耐性の発症を妨げることができる。
【0048】
体重300から350gの雄スプレーグ−ドーリーラットを使用した。薬剤をラットに脊髄投与するため、実験の2から4日前にカテーテルを鞘内空間に設置した。ハロタン麻酔下、PE-10管を環椎後頭膜に設けた小孔から挿入し、鞘内空間の9cm下から脊髄の腰仙レベルまで通した(Shimoyama, et al.,“Oral Ketamine Produces a Dose-Dependent CNS Depression in the Rat”, Life Sci., 60: PL9-PL14 (1997)、出典明示により本明細書の一部とする)。麻痺徴候のラットは研究から除外した。研究終了時に、1%メタドンブルー溶液5μl、次いで、塩水10μlをカテーテル内に入れ、カテーテルの位置と鞘内空間内の色素の広がり具合を確認した。
【0049】
エナンチオマー、d−メタドン[(S)−(+)−メタドン]とl−メタドン[(R)−(−)−メタドン]は、Research Technology Brance of the National Institute on Drug Abuse (Rockville, MD)を介してResearch Triangle Institute (Research Triangle Park, NC)から得た。各異性体の遊離塩基を塩水に溶かし、1N HClによって最終pH6.0にした。ナロキソン塩酸塩(遊離塩基として表した用量)およびNMDAは、Research Biochemical International (Natick MA)から得た。NMDAを塩水に溶かし、水酸化ナトリウムにより最終pHを7.0に調整した。ナロキソンおよびNMDA溶液は、単独でd−またはl−メタドンとの溶液の状態で下記のように、投与する総容量を制限して、調製した。
【0050】
研究1:脊髄d−およびl−メタドンの抗侵害受容性能力は、テイル−フリック試験および累積用量−反応分析により測定した。各薬剤の鞘内用量は、5μlの容量で送達させ、次いで塩水10μlでカテーテルを流した。異性体の可溶性は限られているため、試験した最大累積容量は460μg/ラットであった。テイル−フリック装置(EMDIE, Richmond, VA)を使用して、尾の先端から5ないし8cmまで放射熱をあてた。熱刺激開始から尾を引っ込めるまでの時間(テイル−フリック潜伏期)を測定した。放射熱の強度は、ベースライン潜伏期が2.5から3.5秒の間であるように調整した。脊髄d−またはl−メタドン後15分で二次反応潜伏期を測定した。この前処理時間は、薬剤投与後15分でピーク鎮痛作用を示した脊髄l−メタドン40μg/ラット後の時間経過研究から選択した。組織損傷を避けるために、加熱刺激は10秒後に止めた(カットオフ潜伏期)。ベースライン潜伏期の測定後、増加用量のd−またはl−メタドンを、各動物が鎮痛反応体(analgesic responder)になる(累積用量−反応評価、Elliott et al.,“Dextromethorphan Attenuates and Reverses Analgesic Tolerance to Morphine”, Pain, 59: 361-368 (1994); Shimoyama, et al., “Ketamine Attenuates and Reverses Morphine Tolerance in Rodents”, Anesthesiology, 85: 1357-66 (1996)、出典明示により本明細書の一部とする)か、または最高試験用量(上記参照)に到達するまで投与した。鎮痛反応体とは、その反応テイル−フリック潜伏期がベースライン潜伏期の値の2倍以上であるものと定義した。潜伏期データは、それぞれの累積用量に対する各グループの鎮痛反応体の割合を測定することにより量子的形式(quantal form)に変換し、用量−反応曲線を各メタドン異性体について作図した。処置グループは平均9匹であった。
【0051】
研究2:脊髄l−メタドンの抗侵害受容(テイル−フリック試験)効果に対する脊髄ナロキソンのアンダコニスト作用の時間経過を、l−メタドン80μg/ラットおよびナロキソン30μg/ラットの同時投与により測定した。他のグループにはl−メタドン80μg/ラットまたはナロキソン30μg/ラットを与えた。
【0052】
研究3:ホルマリン誘発後ずさり行動に対するd−メタドンの効果を測定するために、d−メタドン用量32、160または320μg/ラットまたは塩水容量10μlを、ホルマリン肢底内(intraplantar)注射の15分前に脊髄投与した。ホルマリンは100%の貯蔵溶液(ホルムアルデヒド溶液37%w/w、Fisher Scientific Company, Firlawn, NJ)から5%に希釈し、50μlガラス注射器と新しい使い捨て30ゲージ針を用いて右後肢に容量50μlで皮下注射した。ホルマリン注射後直ちに、ラットを試験室に入れ、次の60分間盲検観察者(blinded observer)により観察し続けた。注射した後肢の一瞬の振動である後ずさりの回数を記録した。ホルマリン注射の結果、後ずさり行動の二相反応が起こった(第1相、0〜10分;第2相、10〜60分)。実験中、各ラットの明らかな中枢神経系行動効果について観察し、ホルマリン注射直前に、60度メッシュを通りぬける能力について(Shimoyama, et al.,“Oral Ketamine in Antinociceptive in the Rat Formalin Test (abstract)”, 8th World Congress on pain, 62: 129 (1996)、出典明示により本明細書の一部とする)試験した。
【0053】
研究4:ホルマリン試験に対する脊髄d−メタドンの効果は、ナロキソンを同時投与した場合または同時投与しない場合で評価した。用量30μg/ラットのナロキソンは、少なくとも75分間のテイル−フリック試験においておよそED90抗侵害受容用量の脊髄l−メタドン(80μg/ラット)の効果を完全に遮断した(図2参照)。塩水、d−メタドン250μg/ラットまたはd−メタドン250μg/ラット+ナロキソン30μg/ラットを肢底内ホルマリン投与の15分前にラットに脊髄投与し、ホルマリン誘発後ずさり行動を研究3の非関与観察者により観察した。
【0054】
研究5:脊髄d−メタドンが鞘内NMDAに対する侵害受容行動反応に拮抗する能力は、塩水またはd−メタドン250μg/ラットで前処理後、NMDA誘発化行動に対するED50値を見積もることにより測定した。脊髄NMDAは、一心不乱に尾部を噛んだり、なめたり、ひっかくような通常は発声を伴う行動から成る短期持続行動反応をもたらす(Okano, et al.,“Pharmacological Evidence for Involvement of Excitatory Amino Acids in Aversive Responses Induced by Intrathecal Substance P in Rats”, Biol. Pharm. Bull. (Japan), 16: 861-65 (1993)、出典明示により本明細書の一部とする)。0.6から7.3nmol/ラットのNMDA用量は、注射間隔3分で鞘内投与した。反応体とは、NMDAによって、少なくとも30秒間持続して尾部皮膚のひっかき、噛みつき、そして舐めるという行動を起こしたラットであると定義する。動物が一旦反応体になれば、後続の試験には付さなかった。
【0055】
統計分析:研究1の量的な用量−反応データを、BLISS−21コンピュータープログラム(Oxford University, Oxford, England)を用いて分析した。このプログラムにより、対数様関数(log-likelihood function)を最適化し、用量−反応データに対してガウス正規S字曲線を適合させ、そして、ED50値および95%信頼区間(“CI”)を得た(Umans, et al.,“Pharmacodynamics of Subcutaneously Administered Diacetylmorphine, 6-acetylmorphine and Morphine in Mice”, J. Pharmacol. Exp. Ther., 218: 409-15 (1981)、出典明示により本明細書の一部とする)。研究3および4におけるホルマリン試験データは、変数の一元分析(one-way analysis)とステューデントt検定によりそれぞれ分析した。統計的有意性は、P>0.5で受容された。
【0056】
結果
研究1:テイル−フリック試験に対するd−およびl−メタドンの効果。図2は、脊髄用量の関数としてl−およびd−メタドンの抗侵害受容活性を比較する。l−メタドンは、用量依存的抗侵害受容性をもたらし、その分析から、脊髄l−メタドンのED50値15.6μg/ラット(7.0−29.8μg/ラット、95%CI)を得た。d−メタドンを与えたラットはいずれも、最高投与用量である累積脊髄用量460μg/ラットでは鎮痛反応体にならなかった。
【0057】
研究2:ナロキソンは、テイル−フリック潜伏期に対するl−メタドンの効果を妨げる。脊髄ナロキソン30μg/ラットは、ベースラインテイル−フリック潜伏期に影響しなかったか、または抗侵害受容性(鎮痛)反応を生じる(図2)。しかしながら、この脊髄ナロキソンの用量は、投薬後15から75分で、80μg/ラット用量のl−メタドンの抗侵害受容効果を完全に遮断した(図3)。
【0058】
研究3:ホルマリン試験に対するd−メタドンの効果。脊髄d−メタドン32μg/ラットは、明らかな中枢神経系効果を生じず、この用量を与えた各ラットは、ホルマリン注射直前に60度メッシュを通り抜けることができた。脊髄d−メタドンは160および320μg/ラットで、それぞれ44%および100%のラットにおいて後肢の一過的運動麻痺をもたらした。麻痺の開始は、d−メタドン投与のおよそ1分後であり、30秒から7分続いた。しかしながら、ホルマリン試験の開始により、各ラットは麻痺から回復し、60度メッシュを通り抜けることができた。同様の運動効果が、NMDA受容体アンタゴニスト、ケタミンの大規模脊髄用量をラットに投与した後に観察された(Chaplan, et al., “Efficacy of Spinal NMDA Receptor Antagonism in Formalin Hyperalgesia and Nerve Injury Evoked Allodynia in the Rat”, J. Pharmacol. Exp. Ther., 280: 829-38 (1997)、出典明示により本明細書の一部とする)。これらの効果は、非常に迅速に開始し、局所麻酔の運動効果と似ており、おそらく脊髄CSFで薬剤が希釈された結果、急速に消失した。
【0059】
脊髄d−メタドンは、第1相の後ずさり回数に影響しなかった(図4A)が、用量依存的に第2相後ずさり行動を低下させ、320μg/ラット用量では後ずさり行動が68%低下した(図4B)。
【0060】
研究4:ホルマリン試験におけるd−メタドンの抗侵害受容効果に対するナロキソンの効果。脊髄ナロキソン30μg/ラットの同時投与は、ホルマリン試験において、脊髄塩水と比較したところ、脊髄d−メタドン250μg/ラットが第2相後ずさりを有意に低減する能力に影響を与えなかった。この2つの薬剤処置グループ間の第2相後ずさり回数にはなんら統計的な差はなかった(図5)。
【0061】
研究5:NMDAの侵害受容行動効果のd−メタドンによる拮抗作用。d−メタドン用量250μg(809nmol)/ラットでの前処理により、NMDAのED99用量(2.4nmol/ラット)は完全に遮断された。このd−メタドン用量は、NMDA用量−反応曲線を右側に移動させるので、NMDAのED50値は、下記表2(表2)に示したように、3倍以上に増加した。
【0062】
表2
【表2】

【0063】
考察
NMDA受容体がホルマリンに対する侵害受容性反応に関与することは、豊富な証拠により示されている。競合性NMDA受容体アンタゴニスト[例えば、APV[3−アミノ−5−ホスホノ葉酸]]または非競合性NMDA受容体アンタゴニスト{例えば、MK−801、[(+)−5−メチル−10,11−ジヒドロ−5H−ジベンゾ[a,d]シクロ−ヘプテン−5,10−イミンマレイン酸水素]、デキストロメトルファンまたはケタミン}での前処理は、ホルマリンによって引き起こされる侵害受容行動および/または電気生理学的反応を低減させる(Coderre, et al.,“The Contribution of Excitatory Amino Acids to Central Sensitization and Persistent Nociception After Formalin-Induced Tissue Injury”, J. Neurosci., 12: 3665-70 (1992); Haley, et al.,“Evidence for Spinal N-methyl-D-aspartate Receptor Involvement in Prolonged Chemical Nociception in the Rat”, Brain Res., 518: 218-26 (1990); Yamamoto, et al.,“Comparison of the Antinociceptive Effects of Pre- and Posttreatment with Intrathecal Morphine and MK801, and NMDA Antagonist, on the Formalin Test in the Rat”, Anesthesiology, 77: 757-63 (1992); Vaccarino, et al.,“NMDA Receptor Antagonists, MK-801 and ACEA-1011, Prevent the Development of Tonic Pain Following Subcutaneous Formalin”, Brain Res., 615: 331-34 (1993); Hunter, et al.,“Role of Excitatory AminoAcid Receptors in the Mediation of the Nociceptive Response to Formalin in the Rat”, Neurosci. Lett., 174: 217-21 (1994); Elliott, et al.,“Dextromethorphan Attenuates and Reverses Analgesic Tolerance to Morphine”, Pain, 59: 361-68 (1995); Shimoyama, et al.,“Ketamine Attenuates and Reverses Morphine Tolerance in Rodents”, Anesthesiology, 85: 1357-66 (1996)、出典明示により本明細書の一部とする)。NMDA受容体アンタゴニストの効果は、主に、ホルマリン応答の第2相行動に対するものである(Coderre, et al.,“The Contribution of Excitatory Amino Acids to Central Sensitization and Persistent Nociception After Formalin-Induced Tissue Injury”, J. Neurosci., 12: 3665-70 (1992)、出典明示により本明細書の一部とする)。ホルマリン試験の第2相は、中枢感作に影響を与えるらしい。ホルマリンにより生じたC−線維の集中投入は、おそらく脊髄NMDA受容体を活性化し、これが後角ニューロンの感作をもたらす。これにより、C−線維投入に対する後角ニューロンの反応の増幅が起こる。これらのC−線維投入は行動侵害受容反応期間中続く(McCall, et al.,“Formalin Induces Biphasic Activity in C-Fibers in the Rat”, Neurosci. Lett., 208:45-8 (1996)、出典明示により本明細書の一部とする)。NMDAアンタゴニストは、NMDA受容体の活性化を遮断することにより、後角ニューロンの感作を妨げ、それによって、ホルマリンに対する行動侵害受容反応を低減させる。NMDA受容体アンタゴニストは、ホルマリン試験に作用するのに必要な量よりは有意に高い用量でのみテイル−フリック潜伏期を変える(Nasstrom, et al., “Antinociceptive Actions of Different Classes of Excitatory Amino Acid Receptor Antagonists in Mice”, Eur. J. Pharmacol., 212: 21-9 (1992); Elliott, et al., “Dextromethorphan Attenuates and Reverses Analgesic Tolerance to Morphine”, Pain, 59: 361-68 (1995)、出典明示により本明細書の一部とする)。
【0064】
d−メタドンのNMDA受容体アンタゴニスト活性のより直接的な評価は、NMDA誘発侵害受容行動に拮抗するその能力により提供される。NMDAは、ラットの脊髄に局在化するとき、非NMDAまたはNK−1受容体アンタゴニストではなくAPV、NMDA受容体アンダコニストによって拮抗される用量−反応性の侵害受容行動をもたらす(Okano et al., “Pharmacological Evidence for Involvement of Excitatory Amino Acids in Aversive Responses Induced by Intrathecal Substance P in Rats”, Biol. Pharm. Bull. (Japan), 16: 861-65 (1993)、出典明示により本明細書の一部とする)。表2は、ホルマリン試験に効果的な量と同用量のd−メタドン(図4)が侵害受容効果とも拮抗できることを示す。
【0065】
テイル−フリック試験は、オピオイド感受性試験であり、オピオイドの鎮痛作用を評価するのに広く使用されてきた(Szekely, J.,“The Most Characteristic In Vivo Effects of Opiates”, In Opioid Petides, ed. by J. I. Szekeley and A. Z. Ronai, pp. 29-109, CRC Press, Boca Raton, FL (1982)、出典明示により本明細書の一部とする)。モルヒネなどのオピオイドアゴニストは、テイル−フリックアッセイで起こるような急性侵害受容反応、並びにホルマリン試験の第1相および第2相中に起こる侵害受容反応を抑制するのに効果的である(Yaksh, et al.,“Central Pharmacology of Nociceptive Transmission”, In The Textbook of Pain, ed. by P. D. Wall and R. Melzack, pp. 165-200, Churchill Livingstone, London (1994)、出典明示により本明細書の一部とする)。テイル−フリック試験(図2)およびホルマリン試験(図4AおよびB)において用量の関数である薬剤の活性または活性欠如、並びにオピオイドアンタゴニスト、ナロキソンの抗侵害受容効果の遮断能力または遮断能力欠如は、薬剤が主にオピオイドまたは非オピオイド機構により働いているかどうかを測定するために使用できる。明らかに、d−メタドンは、この研究で実施したアッセイにおいては非オピオイドとして働くようである。更に、d−メタドンなどの非オピオイドがホルマリン試験の第1相ではなく第2相に影響を与える能力(図4AおよびB)およびNMDA誘発侵害受容行動に拮抗する能力(表2)は、d−メタドンがインビトロで非競合性NMDA受容体アンタゴニストであるという論証(Gorman, et al.,“The d- and l- Isomers of Methadone Bind to the Non-Competitive Site on the N-methyl-D-aspartate (NMDA) Receptor in Rat Forebrain and Spinal Cord”, Neurosci. Lett., 223: 5-8 (1997)、出典明示により本明細書の一部とする)を考慮すると、d−メタドンがそのNMDA受容体アンタゴニスト活性によりインビボで抗侵害受容性であるということを強力に示している。
【0066】
よって、臨床的に利用できるラセミメタドンは、その十分に認識されているオピオイドアゴニスト活性に加えてインビボNMDA受容体アンタゴニスト活性を持つといえる。NMDA受容体アンタゴニストは、モルヒネの抗侵害受容効果を強化する(Chapman, et al.,“The Combination of NMDA Antagonism and Morhine Produces Profound Antinociceptive in the Rat Dorsal Horn”, Brain Res., 573: 321-23 (1992); Mao, et al.,“Oral Administration of Dextromethorphan Prevents the Development of Morphine Tolerance and Dependence in Rats”, Pain, 67: 361-68 (1996)、出典明示により本明細書の一部とする)。従って、メタドンのd−異性体のNMDA受容体アンタゴニスト活性は、l−メタドンのオピオイド抗侵害受容効果を強化するといえる。更に、NMDA受容体アンタゴニストは、モルヒネ耐性の発症を軽減する(Tiseo, et al.,“Attenuation and Reversal of Morphine Tolerance by the Competitive N-methyl-D-aspartate Receptor Antagonist, I.Y274614”, J. Pharmacol. Exp. Ther., 264: 1090-96 (1993); Elliott, et al.,“Dextromethorphan Attenuates and Reverses Analgesic Tolerance to Morphine”, Pain, 59:361-68 (1995); Shimoyama, et al.,“Ketamine Attenuates and Reverses Morphine Tolerance in Rodents”, Anesthesiology, 85: 1357-66 (1996)、出典明示により本明細書の一部とする)。故に、d−メタドンのNMDA受容体アンタゴニスト活性は、ラセミメタドンのオピオイド部分に対する耐性の発症を軽減するように働くといえる。臨床的に、NMDA受容体アンタゴニストは、神経障害性疼痛症候群の処置に効果的であり(Backonja, et al.,“Response of Chronic Neuropathic Pain Syndrome to Ketamine: A Preliminary Study”, Pain, 56: 51-7 (1994); Eide, et al.,“Relief of Post-Herpetic Neuralgia with the N-methyl-D-aspartic Acid Receptor Antagonist Ketamine: A Double-Blind, Cross-Over Comparison with Morphine and Placebo”, Pain, 58: 347-54 (1994); Max, et al.,“Intravenous Infusion of the NMDA Antagonist, Ketamine, in Chronic Posttraumatic Pain with Allodynia: A Double-Blind Comparison to Alfentanil and Placebo”, Clin. Neuropharmacol., 18: 360-68 (1995)、出典明示により本明細書の一部とする)、モルヒネなどのオピオイドに対する応答性の低いこともしばしばある。よって、NMDA受容体アンタゴニスト活性の結果として、ラセミメタドンは、NMDA受容体に結合しないモルヒネまたはヒドロモルホンなどの他のmuオピオイドとは異なる抗侵害受容作用を持つといえる(Gorman, et al.,“The d- and l- isomers of Methadone Bind to the Non-Competitive Site on the N-methyl-D-aspartate (NMDA) Receptor in Rat Forebrain and Spinal Cord”, Neurosci. Lett., 223: 5-8 (1997)、出典明示により本明細書の一部とする)。逸話のような事例報告では、疼痛症候群をメタドンで上手く処理するとモルヒネに非反応性であったことが示唆されている(Leng, et al.,“Successful Use of Methadone in Nociceptive Cancer Pain Unresponsive to Morphine”, Palliative Med., 8: 153-55 (1994); Gardner-Nix, J.S.,“Oral Methadone for Managing Chronic Nonmalignant Pain”, J. Pain Symptom Manage., 11: 321-28 (1996)、出典明示により本明細書の一部とする)。
【0067】
結論として、脊髄d−メタドンは、ラットホルマリン試験では抗侵害受容性であり、NMDA誘発侵害受容行動に拮抗する。このインビボ活性はNMDA受容体アンタゴニスト活性の結果であると思われる。この活性がラセミメタドンの薬理に影響を与える程度は、まだ分かっていない。
【実施例3】
【0068】
実施例3
ITモルヒネの鎮痛作用に対する耐性は、1日に3回、増加用量のモルヒネ(1日目10ug/ラットIT、2日目20ug/ラット、3日目40ug/ラット)を投与することにより生じた。その他のラットは、d−メタドン(160ug/ラット)と漸増用量のモルヒネまたはd−メタドン+塩水を与えた。1日目と5日目に、累積モルヒネ用量−反応を用いて、モルヒネED50値を見積もった。5日目、TFTによるCDRでは高度の耐性を示したが、これは、モルヒネ処置グループにおけるITモルヒネの場合のED50が37倍右に移動したから、即ち、1日目の値と比較して同じ鎮痛作用を実現するのに37倍多いモルヒネが必要であったからである。反対に、d−メタドン+モルヒネグループの場合のモルヒネED50は、有意に増加せず、これは、d−メタドンがモルヒネ耐性の発症を妨げたことを示す(表3)。これらの結果は、d−メタドンがNMDA受容体媒介侵害受容行動を遮断したのと同用量でモルヒネ耐性の発症を妨害できることを示す(実施例2参照)。これは、d−メタドンが鎮痛(抗侵害受容性)をもたらし、かつ同じ機構によりモルヒネ耐性の発症を遮断するという結論に強力な支持となる。
【0069】
表3
【表3】

その他3グループそれぞれとは有意に異なる(p<0.05)
【0070】
本発明を例示目的で詳細に説明してきたが、かかる詳細はその目的のみであり、当業者ならば、添付の請求の範囲に定義した本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の変形をつくることができると解釈される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NMDA受容体を有する対象(者)における痛みを処置する方法であって、この方法は、d−メタドン、d−メタドール、d−α−アセチルメタドール、l−α−アセチルメタドール、d−α−ノルメタドール、l−α−ノルメタドール、これらの薬学的に許容される塩およびこれらの混合物よりなる群から選ばれる物質を対象(者)に、物質が対象(者)のNMDA受容体に結合するのに効果的な条件で、投与することを含む。
【請求項2】
物質がd−メタドンである、請求項1の方法。
【請求項3】
NMDA受容体が生物作用を有し、かつ投与がNMDA受容体の生物作用を遮断するのに効果的である、請求項2の方法。
【請求項4】
d−メタドンの投与に併用して鎮痛剤を対象(者)に投与することをさらに含む、請求項2の方法。
【請求項5】
鎮痛剤がオピオイドである、請求項4の方法。
【請求項6】
鎮痛剤が補助鎮痛剤である、請求項4の方法。
【請求項7】
対象(者)が中枢神経系を有し、かつNMDA受容体が中枢神経系に局在している、請求項2の方法。
【請求項8】
対象(者)が哺乳動物である、請求項7の方法。
【請求項9】
哺乳動物がヒトである、請求項8の方法。
【請求項10】
鎮痛剤およびd−メタドンの投与が経口的、非経口的または局所的になされる、請求項4の方法。
【請求項11】
d−メタドンの投与に併用してd−メタドン類似体の少なくとも1つのd−異性体を投与することをさらに含む、請求項2の方法。
【請求項12】
d−メタドンが薬学的に許容される塩の形態にある、請求項2の方法。
【請求項13】
NMDA受容体を有する対象(者)における麻薬性または耽溺性物質に対する耽溺を処置する方法であって、この方法は、d−メタドン、d−メタドール、d−α−アセチルメタドール、l−α−アセチルメタドール、d−α−ノルメタドール、l−α−ノルメタドール、これらの薬学的に許容される塩およびこれらの混合物よりなる群から選ばれる物質を対象(者)に、物質が対象(者)のNMDA受容体に結合するのに効果的な条件で、投与することを含む。
【請求項14】
物質がd−メタドンである、請求項13の方法。
【請求項15】
NMDA受容体が生物作用を有し、かつ投与がNMDA受容体の生物作用を遮断するのに効果的である、請求項14の方法。
【請求項16】
対象(者)が中枢神経系を有し、かつNMDA受容体が中枢神経系に局在している、請求項14の方法。
【請求項17】
対象(者)がヒトである、請求項16の方法。
【請求項18】
d−メタドンの投与が経口的、非経口的または局所的になされる、請求項14の方法。
【請求項19】
d−メタドンの投与に併用してd−メタドン類似体の少なくとも1つのd−異性体を投与することをさらに含む、請求項14の方法。
【請求項20】
d−メタドンが薬学的に許容される塩の形態にある、請求項14の方法。
【請求項21】
NMDA受容体を遮断する方法であって、この方法は、NMDA受容体をd−メタドン、d−メタドール、d−α−アセチルメタドール、l−α−アセチルメタドール、d−α−ノルメタドール、l−α−ノルメタドール、これらの薬学的に許容される塩およびこれらの混合物よりなる群から選ばれる物質に、物質が対象(者)のNMDA受容体に結合し、遮断するのに効果的な条件で、接触せしめることを含む。
【請求項22】
物質がd−メタドンである、請求項21の方法。
【請求項23】
NMDA受容体が生物作用を有し、かつ接触がNMDA受容体の生物作用を遮断するのに効果的である、請求項22の方法。
【請求項24】
NMDA受容体が生物体の中枢神経系に局在している、請求項22の方法。
【請求項25】
生物体が哺乳動物である、請求項24の方法。
【請求項26】
哺乳動物がヒトである、請求項25の方法。
【請求項27】
NMDA受容体をd−メタドンに併用してd−メタドン類似体の少なくとも1つのd−異性体に接触せしめることをさらに含む、請求項22の方法。
【請求項28】
d−メタドンが薬学的に許容される塩の形態にある、請求項22の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−13477(P2010−13477A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211687(P2009−211687)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【分割の表示】特願平10−534656の分割
【原出願日】平成10年1月21日(1998.1.21)
【出願人】(592035453)コーネル・リサーチ・ファンデーション・インコーポレイテッド (39)
【氏名又は名称原語表記】CORNELL RESEARCH FOUNDATION, INCORPORATED
【Fターム(参考)】