説明

invitroスクリーニングアッセイ

【課題】 リシルオキシダーゼ様タンパク質2酵素は、重要な治療標的を表す。それゆえ、LOXL2の阻害剤をスクリーニングする方法が望ましいであろう。
【解決手段】 本明細書には、in vitroアッセイを使用してLOXL2の触媒活性の阻害剤を同定する方法が開示される。ある実施形態において、これらのin vitroアッセイによって同定される阻害剤は、腫瘍線維形成(tumor desmoplasia)及び線維症を阻害することにおいて有効である。

【発明の詳細な説明】
【関連出願との相互参照】
【0001】
本願は、2009年8月21日に提出された米国仮出願第61/235,796号に対する優先権を主張するが、当該出願は、その全体について全ての目的のため参照により本願に組み込まれる。
【0002】
本願は、2009年8月21日に提出された同一出願人による米国仮出願第61/235,852号及び本書と同日に提出された、代理人整理番号ARBS-011、依頼人参照番号A11-US1、「治療方法及び組成物(Therapeutic Methods and Compositions)」と題された同一出願人による米国出願と関連する;これらの開示は、その全体について全ての目的のため参照により組み込まれる。
【連邦政府の支援に関する陳述】
【0003】
該当なし。
【技術分野】
【0004】
本願の開示は、例えば、癌及び線維症を含む、結合組織が役割を果たす各種疾患の治療用分子の同定に有用なスクリーニングアッセイの分野にある。
【背景技術】
【0005】
腫瘍発達及び転移の面を研究するのに、いくつかのin vitroアッセイが使用されている。化学誘発性線維症の研究のためのいくつかのin vitroモデル系も存在する。細胞外マトリックス酵素リシルオキシダーゼ様タンパク質2(lysyl oxidase-like protein-2)(LOXL2)は両方のプロセスで役割を果たすことが示されている。例えば、WO2004/047720(2004年6月10日);米国第2006/0127402号(2006年6月15日);米国第2009/0053224号(2009年2月26日);米国第2009/0104201号(2009年4月23日);Kirschmann et al. (2002) Cancer Research 62: 4478-4483を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2004/047720
【特許文献2】米国第2006/0127402号
【特許文献3】米国第2009/0053224号
【特許文献4】米国第2009/0104201号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kirschmann et al. (2002) Cancer Research 62: 4478-4483
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、リシルオキシダーゼ様タンパク質2酵素は、重要な治療標的を表す。それゆえ、LOXL2の阻害剤をスクリーニングする方法が望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
概要
本書に開示されているのは、この酵素(LOXL2)の線維形成性及び線維性活性を遮断するのに有効であるLOXL2の阻害剤を同定する各種in vitroアッセイの使用のための方法及び組成物である。したがって、その開示は、特に、以下の形態を与える:
1.LOXL2活性の阻害剤を同定する方法であって、前記方法は、下記を含み:
(a)ストローマ細胞の存在下で増殖する内皮細胞の共培養物(co-culture)を用意すること;
(b)前記共培養物に試験分子を添加すること;並びに
(c)血管新生(angiogenesis)又は脈管形成(vasculogenesis)について前記共培養物を分析すること;
前記試験分子の不存在下における共培養物と比較して、共培養物中の血管新生又は脈管形成の程度を低減する試験分子を、LOXL2活性の阻害剤と同定する方法。
2.前記内皮細胞が、ヒト内皮細胞であることを特徴とする、形態1の方法。
3.前記内皮細胞が、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)であることを特徴とする、形態2の方法。
4.前記ストローマ細胞が、ヒト細胞であることを特徴とする、形態1の方法。
5.前記ストローマ細胞が、線維芽細胞であることを特徴とする、形態1の方法。
6.前記試験分子が、ポリペプチドであることを特徴とする、形態1の方法。
7.前記ポリペプチドが、抗体であることを特徴とする、形態6の方法。
8.前記抗体が、抗LOXL2抗体であることを特徴とする、形態7の方法。
9.前記試験分子が、核酸であることを特徴とする、形態1の方法。
10.前記核酸が、siRNAであることを特徴とする、形態9の方法。
11.前記試験分子が、1000D未満の分子量の小有機分子であることを特徴とする、形態1の方法。
12.血管新生又は脈管形成の程度の低減が、血管の数若しくは密度の低減によって示されることを特徴とする、形態1の方法。
13.血管新生又は脈管形成の程度の低減が、血管長の低減によって示されることを特徴とする、形態1の方法。
14.血管新生又は脈管形成の程度の低減が、血管分岐の程度の低減によって示されることを特徴とする、形態1の方法。
15.血管新生又は脈管形成の程度の低減が、CD31のレベルの低減によって示されることを特徴とする、形態1の方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】50μg/mlのAB0023で治療され、かつCD31発現のため染色されたHUVECの代表的な画像である。
【図2】20μM/mlのスラミン(suramin)で治療され、かつCD31発現のため染色されたHUVECの代表的な画像である。
【図3】未処置で、かつCD31発現のため染色されたHUVECの代表的な画像である。
【図4】2ng/mlの血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor)(VEGF)で治療され、かつCD31発現のため染色されたHUVECの代表的な画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願の開示の実施については、特段の指示がない限り、細胞生物学、毒物学、分子生物学、生化学、細胞培養、免疫学、組み換えDNA分野並びに当業者が備えている技能の範囲内にある関連分野における標準法及び従来技術が用いられる。そのような技術は文献に記載されており、それによって当業者に利用できる。例えば、Alberts, B. et al., "Molecular Biology of the Cell," 第5版, Garland Science, New York, NY, 2008;Voet, D. et al. "Fundamentals of Biochemistry: Life at the Molecular Level," 第3版, John Wiley & Sons, Hoboken, NJ, 2008;Sambrook, J. et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual," 第3版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001;Ausubel, F. et al., "Current Protocols in Molecular Biology," John Wiley & Sons, New York, 1987 及び定期刊行物(periodic updates);Freshney, R.I., "Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique," 第4版, John Wiley & Sons, Somerset, NJ, 2000;並びにシリーズ"Methods in Enzymology," Academic Press, San Diego, CAを参照されたい。
【0012】
(血管新生アッセイ(Angiogenesis asseys))
ある実施形態において、LOXL2阻害剤のスクリーニングは、LOXL2の血管新生を促進する能力に依存する。例えば、WO02/11667を参照されたい。したがって、ある実施形態において、試験物質は、in vitro血管新生アッセイにおいて血管新生を阻害する能力のためLOXL2と同定される。このタイプの各種アッセイが利用できる(例えば、Ribatti & Vacca (1999) Intl. J. Biol. Markers 14:207-213を参照されたい);代表的なアッセイが、現に記載される。
【0013】
ニワトリしょう尿膜
ニワトリの胚外しょう尿膜(extraembryonic chorioallantoic membrane)が、漿膜(chorion)と尿膜(allantois)の融合によって形成される。それは、シェル(shell)と直接接触しており、細い毛細管ネットワーク(capillary network)を含む。アッセイを、in ovoで行うことができるが、この場合には、膜が見えるように、窓が切り込まれる。或いは、胚及び培養血管と結合した膜の除去によってin vitroアッセイが行われる。例えば、Auerbach et al. (1974) Devel. Biol. 41:391-394を参照されたい;その開示は、その全体について参照により組み込まれる。何れの場合でも、試験物質が前記膜に適用され、その血管新生への効果が観察及び/又は測定される。ある実施形態において、試験物質が、当該試験物質の放出の制御及び/又は持続をさせる生理不活性ポリマー中の膜に投与される。そのようなポリマーには、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体(例えばElvax 40)及びメタクリル酸2−ヒドロキシエチル重合体(例えばhydron)が含まれるが、これらに限定されない。試験物質が浸透するコラーゲンゲル又はゼラチンスポンジも使用できる。例えば、Nguyen et al. (1994) Microvascular Res. 47:31-40;Ribatti et al. (1997) J. Vascular Res. 34:455-463を参照されたい;これらの開示は、その全体について参照により組み込まれる。このアッセイの変更及び適応が記載されている。例えば、Parsons-Wingerter et al. (2000) Arteriosclerosis Thrombosis Vasc. Biol. 20:1250-1256;Gonzalez-Iriate et al. (2003) Angiogenesis 6:251-254;Miller et al. (2004) J. Translational Med. 2:4を参照されたい;これらの開示は、その全体について参照により組み込まれる。
【0014】
Ribatti et al. (1996) Intl. J. Devel. Biol. 40:1189-1197;Ribatti et al. (2000) Curr. Pharmacol. Biotechnol. 1:72-73;Richardson & Singh (2003) Curr. Drug Targets Cardiovasc. Hematol. Disorders 3:155-185;及びRibatti (2004) Leukemia 18:1350-1351も参照されたい;これらの開示は、その全体についてニワトリしょう尿膜アッセイを記載する目的のため参照により組み込まれる。
【0015】
角膜ポケット(cornea pocket)アッセイ
このアッセイでは、試験物質を含む徐放ペレットが、非血管化したウサギの眼(nonvascularized rabbit eye)の角膜ストローマに移植される。検出されるいくつかの血管形成は、新たに形成される血管によるものである。例えば、Hartwell (1998) Microcirculation 5:173-178;Presta et al. (1999) Cancer Res. 59:2417-2424;Ribatti & Vacca (1999) supra;Morbidelli & Ziche (2004) Cancer Treatment Res. 117:147-151を参照されたい;これらの開示は、その全体についてこれらの角膜ベースのアッセイを記載する目的のため参照により組み込まれる。ラットの眼を使用する同様のアッセイも記載されている。
【0016】
ヒト共培養血管新生(human co-culture angiogenesis assays)アッセイ
このアッセイは、一次内皮細胞及び一次線維芽細胞に利用する。1以上の試験物質の存在下での血管構造の発達が測定される。例えば、Beilmann et al. (2004) Cytokine 26:178-185を参照されたい;その開示は、その全体についてヒト共培養アッセイを記載する目的のため参照により組み込まれる。
【0017】
大動脈リングアッセイ
この系では、大動脈(例えば、ラット由来)が小さいディスク状切片にされ、例えば、フィブリンマトリックス(fibrin matrix)で培養される。内皮細胞及び/又は平滑筋細胞の切り口からの遊走によって、毛細血管は放射状に成長する。例えば、Nicosia & Ottinetti (1990) Laboratory Investig. 63:115-122;Nissanov et al. (1995) Laboratory Investig. 73:734-739;Blacher et al. (2001) Angiogenesis 4:133-142;Zhu & Nicosia (2002) Angiogenesis 5:81-86;Go & Owen (2003) Meth. Molec. Medicine 85:59-64を参照されたい;これらの開示は、その全体について大動脈リングアッセイを記載する目的のため参照により組み込まれる。
【0018】
前記アッセイはまた、マウス大動脈及びブタ頸動脈を用いる場合に適応される。例えば、Masson V Ve et al. (2002) Biol. Proc. Online 4:24-31;Berger et al. (2004) Microvascular Res. 68:179-187;Stiffey-Wilusz et al. (2001) Angiogenesis 4:3-9を参照されたい;これらの開示は、その全体について前記適応を記載する目的のため参照により組み込まれる。
【0019】
このアッセイの別の変更である微小リング保持ゲル(miniature ring-supported gel)(MRSG)アッセイでは、マウス大動脈のセグメントが、3次元細胞外マトリックスアセンブリーに配置される。一つの実施形態において、例えばナイロンメッシュリングによって端部を保持されたコラーゲン(I型コラーゲン)の小レンズ状ハイドロゲル(small lenticular hydrogel)が使用される。例えば、Reed et al.(2007) Microvascular Res. 73:248-252を参照されたい;その開示は、その全体についてMRSGアッセイを記載する目的のため参照により組み込まれる。
【0020】
げっ歯類腸間膜窓(rodent mesenteric window)
このアッセイでは、げっ歯類(例えばラット)腸間膜、即ち実質的に無血管性である器官における血管新生活性が、観察及び測定される。例えば、Norrby (1992) EXS 61:282-286;Jakobsson et al.(1994) Intl. J. Exp. Pathology 75:214-219を参照されたい;これらの開示は、その全体について腸間膜窓アッセイを記載する目的のため参照により組み込まれる。
【0021】
胎盤断片(placenta fragment assay)アッセイ
フィブリンゲルに埋め込まれたヒト胎盤血管の断片を、血管新生を研究するのに使用することができる。この外植片システムは、ヒト血管新生の研究にとって特に有用である。例えば、Brown et al. (1996) Laboratory Investigation 75:539-555を参照されたい;その開示は、その全体について胎盤断片アッセイを記載する目的のため参照により組み込まれる。
【0022】
マトリゲルプラグ(matrigel plug)アッセイ
試験物質が、4℃で液体の形態で存在する人工基底膜である低温マトリゲル(Matrigel)(BD Biosciences, San Jose, CA)に導入される。宿主動物(例えばマウス、ラット)への皮下投与によって、体温でマトリックスの固化が起こる。宿主細胞によるプラグの侵入、並びに結果としての血管新生及び脈管形成が、観察及び測定されうる。例えば、Akhtar et al. (2002); Angiogenesis 5:75-80;Kragh et al. (2003) Intl. J. Oncology 22:305-311;Kragh et al. (2004) Oncology Reports 11:303-307を参照されたい;これらの開示は、その全体についてマトリゲルプラグアッセイを記載する目的のため参照により組み込まれる。
【0023】
マイクロカプセル化細胞(micro-encapsulated cells)
実験動物に移植される、マイクロカプセル化細胞を、血管新生プロセスを研究するのに使用することができる。カプセル化のために使用される材料には、例えば、アルギン酸塩ビーズ、アガロースビーズ、及びゼラチン被覆マイクロキャリア(gelatin-coated microcarrier)が含まれる。例えば、Nehls & Drenckhahn (1995) Microvascular Res. 50:311-3322;Okada et al. (1995) Japan. J. Cancer Res. 86:1182-1188を参照されたい;これらの開示は、その全体についてマイクロカプセル化細胞モデル系を記載する目的のため参照により組み込まれる。
【0024】
指向性in vivo血管新生アッセイ(directed in vivo angiogenesis assay)
これらのアッセイでは、ヌード(即ち、胸腺欠損)マウスに皮下移植される(subcutaneously implantated)小さいシリコンシリンダ(small silicone cylinder)であって、移植後に周囲組織に物質を放出するものが用いられる。例えば、Guedez et al. (2003) Am. J. Pathol. 162:1431-1439を参照されたい;その開示は、その全体について指定in vivo血管新生アッセイを記載する目的のため参照により組み込まれる。
【0025】
皮下気嚢モデル系
この系では、実験動物の背中に空気を皮下注射することによって、半透明の無血管膜の出現を誘導する気嚢が形成される。細胞又は試験物質の移植後に、血管新生を観察することができる。例えば、Lichtenberg et al. (1999) Am. J. Pharmacol. Toxicology 84:34-40を参照されたい;その開示は、その全体について皮下気嚢モデル系を記載する目的のため参照により組み込まれる。
【0026】
ヒル系(leech systems)
血管新生の研究のためのモデル系として、ヒル、即ちヒルド・メディシナリス(Hirudo medicinalis)が使用されている。例えば、de Eguileor et al. (2004) Current Pharmaceutical Design 10:1979-1998を参照されたい;その開示は、その全体についてヒルモデル系を記載する目的のため参照により組み込まれる。
【0027】
3次元ヒト腫瘍血管新生アッセイ
このアッセイでは、ヒト腫瘍組織の断片がフィブリンゲルに埋め込まれる。血管(複数)は、腫瘍組織からフィブリンゲルマトリックス中に増殖していく。例えば、Gulec & Woltering (2004) Ann. Surgical Oncology 11:99-104を参照されたい;その開示は、その全体について3次元ヒト腫瘍血管新生モデル系を記載する目的のため参照により組み込まれる。
【0028】
血管新生アッセイに関する追加の情報を、Auerbach et al. (2003) Clinical chemistry 49:32-40及びNorrby (2006) J. Cell. Mol. Med. 10:588-612に見出すことができる;これらの開示は、その全体について血管新生アッセイを記載する目的のため参照により組み込まれる。
【0029】
(血管新生のためのマーカー)
血管新生のための形態学的、分子的及び組織化学的マーカーが、当該技術分野において周知であり、これには、血管形成、CD31発現(内皮細胞のためのマーカー)、及びフォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand factor)の発現(内皮細胞のためのマーカー)が含まれるが、これらに限定されない。これらのうちのいくつか、又はいくつかの他の血管新生マーカーについてのアッセイを、脈管形成の程度を測定するのに使用することができる。
【0030】
(侵入アッセイ)
侵襲性及び遊走能の増加は、上皮−間葉転換(epithelial-to-mesenchymal transition)(EMT)と関連するので、侵入/遊走アッセイも、LOXL2の阻害剤についてスクリーニングするのに使用することができる。例えば、Bedogni et al. (2004) Cancer Res. 64:2552-2560を参照されたい。侵襲性についての代表的なアッセイには、例えばボイデンチャンバー(Boyden chamber)も含まれる。例えば、Chen (2005) Methods Mol. Biol. 294:15-22を参照されたい。これらのアッセイでは、細胞の侵襲性を低減する試験分子が、LOXL2阻害剤と同定される。
【0031】
(内皮細胞ベースのアッセイ)
血管新生は、既存の脈管構造から新たな血管が発生する多段階のプロセスである。脈管形成は、内皮細胞並びに平滑筋細胞及び周皮細胞等の関連したストローマ細胞の遊走及び凝縮によって新たな血管が新規に形成されるプロセスである。
【0032】
血管新生又は脈管形成による血管形成は、例えば、細胞外マトリックスのタンパク質分解、内皮細胞の指向性遊走(directed migration)、内皮細胞の増殖、新たな細胞外マトリックスの沈着、新たに形成した血管の細管及び網目構造の形成の役割を果たす多数の事象を含む複雑なプロセスである。
【0033】
in vitro血管新生アッセイは、特定のマトリックスにおいて他のヒト細胞(例えば、線維芽細胞)と共培養されたヒト内皮細胞(例えば、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells)(HUVEC))に利用する。内皮細胞(複数)は、初めに培養マトリックス内に小さい島を形成し、その後、増殖し始め、それらの内皮細胞がマトリックスを介して糸状の細管構造を形成する移行期に入る。ある程度の期間(例えば、9〜11日間)の経過後、それらは結合し、吻合した細管のネットワークを形成する。したがって、このアッセイは、脈管形成及び血管新生のin vivoプロセスの多くの側面を再現する。
【0034】
(ストローマ細胞)
本書に開示されている方法のいくつかにおいて、内皮細胞は、ストローマ細胞と共培養される。異なるタイプのストローマ細胞、即ち結合組織と関連した細胞又は結合組織中に存在する細胞が、当該技術分野において周知であり、これには、例えば、線維芽細胞、周皮細胞、平滑筋細胞、間葉幹細胞、及び壁細胞が含まれる。
【0035】
(リシルオキシダーゼ型酵素)
本書で使用される用語「リシルオキシダーゼ型酵素(lysyl oxidase-type enzyme)」は、特に、リシン及びヒドロキシリシン残基のε‐アミノ基の酸化的脱アミノ化を触媒して、ペプチジルリシンのペプチジル‐α‐アミノアジピック‐δ−セミアルデヒド(アリシン)への変換と化学量論的な量のアンモニア及び過酸化水素の放出をもたらすタンパク質のファミリーのメンバーをいう。

【0036】
この反応は、多くの場合、コラーゲン及びエラスチンのリシン残基において細胞外で生じる。アリシンのアルデヒド残基は、反応性であり、同時に他のアリシン及びリシン残基と凝集することができ、結果として、コラーゲン分子の架橋結合を生じてコラーゲン原繊維を形成する。
【0037】
リシルオキシダーゼ型酵素は、ニワトリ、ラット、マウス、ウシ及びヒトから精製されている。全てのリシルオキシダーゼ型酵素は、約205アミノ酸長であり、タンパク質のカルボキシ末端部分に位置し、酵素の活性部位を含む、共通の触媒ドメインを含む。活性部位は、Cu(II)原子と配位する4つのヒスチジン残基を含む保存アミノ酸配列を含む銅結合部位を含む。活性部位はまた、リシン残基とチロシン残基(ラット リシルオキシダーゼでは、314番目のlys及び349番目のtyrに相当し、ヒト リシルオキシダーゼでは、320番目のlys及び355番目のtyrに相当する)の間の分子内共有結合により形成されるリシルチロシルキノン(LTQ)補因子も含む。LTQ補因子を形成するチロシン残基を取り巻く配列はまた、リシルオキシダーゼ型酵素の間でも保存される。触媒ドメインはまた、5つのジスルフィド結合の形成に関与する10個の保存システイン残基をも含む。触媒ドメインはまた、フィブロネクチン(fibronectin)結合ドメインをも含む。最終的に、成長因子及びサイトカインレセプタードメインに類似し、4つのシステイン残基を含むアミノ酸配列が、触媒ドメインに存在する。これらの保存領域が存在するにも関わらず、異なるリシルオキシダーゼ型酵素は、これらの触媒ドメインの内部及び外部の両方で、多岐にわたる(divergent)ヌクレオチド及びアミノ酸配列の領域によって、互いに区別されうる。
【0038】
単離され、かつ特徴付けられる、この酵素のファミリーの最初のメンバーは、リシルオキシダーゼ(EC 1.4.3.13)であった;これはまた、タンパク質‐リシン6‐オキシダーゼ、タンパク質‐L‐リシン:酸素‐6‐オキシドレダクターゼ(脱アミノ化)又はLOXとして周知である。例えば、Harris et al., Biochim. Biophys. Acta (1974) 341:332-344;Rayton et al. (1979) J. Biol. Chem. 254:621-626;Stassen (1976) Biophys. Acta 438:49-60を参照されたい。
【0039】
別のリシルオキシダーゼ型酵素が、その後、発見された。これらのタンパク質は、「LOX様(LOX-like)」又は「LOXL」と称されている。これらの全ては、上記の共通の触媒ドメインを含み、類似の酵素的活性を有する。これまでのところ、5つの異なったリシルオキシダーゼ型酵素が、ヒトとマウスの両方に存在することが知られている:即ち、LOXタンパク質及び4つのLOXに関連するタンパク質、又はLOX様タンパク質LOXL1(これらはまた、「リシルオキシダーゼ様(lysyl oxidase-like)」、「LOXL」又は「LOL」とも示される)、LOXL2(これは、「LOR−1」とも示される)、LOXL3(これは、「LOR−2」とも示される)、及びLOXL4である。5つの異なるリシルオキシダーゼ型酵素をコードする遺伝子のそれぞれは、異なった染色体上にある。例えば、Molnar et al. (2003) Biochim Biophys Acta. 1647:220-24;Csiszar (2001) Prog. Nucl. Acid Res. 70:1-32;2001年11月8日に公開されたWO01/83702、及び米国特許第6,300,092号を参照されたい(これらの全ては参照により本願に組み込まれる)。LOXL4といくつかの類似点を有するが、異なる発現パターンを有する、LOXCと呼ばれるLOX様タンパク質は、マウスEC細胞株から単離されている。Ito et al. (2001) J. Biol. Chem. 276:24023-24029。2つのリシルオキシダーゼ型酵素、DmLOXL−1及びDmLOXL−2が、ショウジョウバエから単離されている。
【0040】
全てのリシルオキシダーゼ型酵素は、共通の触媒ドメインを共有しているが、これらはまた、特にそれらのアミノ末端領域内において、互いに異なる。LOXと比較して、4つのLOXLタンパク質は、アミノ末端伸張を有する。したがって、ヒト前LOX前駆体(preproLOX)(即ち、シグナル配列の切断の前の一次翻訳産物、以下参照)は、417アミノ酸残基を含み;LOXL1は574(アミノ酸残基)を含み、LOXL2は638(アミノ酸残基)を含み、LOXL3は753(アミノ酸残基)を含み、かつLOXL4は756(アミノ酸残基)を含む。
【0041】
これらのアミノ末端領域の範囲内において、LOXL2、LOXL3及びLOXL4は、4つのスカベンジャーレセプターのシステインに富む(SRCR)ドメインの繰り返しを含む。これらのドメインは、LOX又はLOXL1には存在しない。SRCRドメインは、分泌性のタンパク質、膜貫通型タンパク質又は細胞外マトリックスタンパク質に見られ、いくつかの分泌性の及びレセプタータンパク質におけるリガンド結合を媒介することが知られている。Hoheneste et al. (1999) Nat. Struct. Biol. 6:228-232;Sasaki et al. (1998) EMBO J. 17:1606-1613。このSRCRドメインに加えて、LOXL3は、核局在シグナルをそのアミノ末端領域に含む。プロリンに富むドメインは、LOXL1に特有であると思われる。Molnar et al. (2003) Biochim. Biophys. Acta 1647:220-224。各種のリシルオキシダーゼ型酵素はまた、それらのグリコシル化パターンの点でも異なる。
【0042】
組織分布もまた、リシルオキシダーゼ型酵素の間で異なる。ヒトLOX mRNAは、心臓、胎盤、睾丸、肺、腎臓及び子宮において高発現するが、脳及び肝臓においては、わずかに発現する。ヒトLOXL1のmRNAは、胎盤、腎臓、筋肉、心臓、肺及び膵臓において発現し、LOXと同様に、脳及び肝臓において、はるかに少ないレベルで発現する。Kim et al. (1995) J. Biol. Chem. 270:7176-7182。子宮、胎盤及び他の器官においては、高レベルのLOXL2 mRNAが発現するが、LOX及びLOXL1と同様に、脳及び肝臓においては、低レベルで発現する。Jourdan Le-Saux et al.(1999) J. Biol. Chem. 274:12939:12944。LOXL3 mRNAは、睾丸、脾臓及び前立腺において高発現し、胎盤においては、中程度に(moderately)発現し、肝臓では発現しない一方で、高レベルのLOXL4 mRNAが肝臓において観察される。Huang et al. (2001) Matrix Biol. 20:153-157;Maki and Kivirikko (2001) Biochem. J. 355:381-387;Jourdan Le-Saux et al. (2001) Genomics 74:211-218;及びAsuncion et al. (2001) Matrix Biol. 20:487-491。
【0043】
疾患において異なるリシルオキシダーゼ型酵素の発現及び/又は関与も変化する。例えば、Kagan (1994) Pathol. Res. Pract. 190:910-919;Murawaki et al. (1991) Hepatology 14:1167-1173;Siegel et al. (1978) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75:2945-2949;Jourdan Le-Saux et al. (1994) Biochem. Biophys. Res. Comm. 199:587-592;及び Kim et al. (1999) J. Cell Biochem. 72:181-188を参照されたい。リシルオキシダーゼ型酵素もまた、頭部及び頸部癌、膀胱癌、大腸癌、食道癌及び乳癌を含むいくつかの癌にも関係しているとされている。例えば、Wu et al. (2007) Cancer Res. 67:4123-4129;Gorough et al. (2007) J. Pathol. 212:74-82;Csiszar (2001) Prog. Nucl. Acid Res. 70:1-32及びKirschmann et al. (2002) Cancer Res. 62:4478-4483を参照されたい。
【0044】
したがって、リシルオキシダーゼ型酵素は、構造及び機能においていくつかの重なりを示すが、その上、それぞれが異なる機能を有すると思われる。構造に関して、例えば、ヒトLOXタンパク質の触媒ドメインに対して産生される、ある抗体は、ヒトLOXL2に結合しない。機能に関して、標的とされるLOXの欠失は、マウスにおいて、出産の際に致死であると思われるが、一方、LOXL1の欠損は、深刻な発達表現型を引き起こさないことが報告されている。Hornstra et al. (2003) J. Biol. Chem. 278:14387-14393;Bronson et al. (2005) Neurosci. Lett. 390:118-122。
【0045】
もっとも広く報告されているリシルオキシダーゼ型酵素の活性は、細胞外のコラーゲン及びエラスチンにおける特定のリシン残基の酸化であるが、リシルオキシダーゼ型酵素がまた、いくつかの細胞内プロセスにも関与することの証拠がある。例えば、いくつかのリシルオキシダーゼ型酵素は、遺伝子発現を制御するという報告がある。Li et al. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:12817-12822;Giampuzzi et al. (2000) J. Biol. Chem. 275:36341-36349。さらに、LOXは、ヒストンH1におけるリシン残基を酸化することが報告されている。更なるLOXの細胞外の活性は、単核球、繊維芽細胞及び平滑筋細胞の化学走性の誘導を含む。Lazarus et al. (1995) Matrix Biol. 14:727-731;Nelson et al. (1988) Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 188:346-352。LOX自体の発現は、TGF‐β、TNF‐α及びインターフェロン等のいくつかの増殖因子及びステロイドにより誘発される。Csiszar (2001) Prog. Nucl. Acid Res. 70:1-32。近年の研究により、発生制御、腫瘍抑制、細胞運動性、及び細胞老化等の種々の生物学的機能において、他の役割はLOXに起因すると考えられている。
【0046】
各種の起源からのリシルオキシダーゼ(LOX)タンパク質の例には、下記配列の1つから発現又は翻訳されるポリペプチドと実質的に相同なアミノ酸配列を有する酵素が含まれる:EMBL/GenBank受託: M94054;AAA59525.1--mRNA;S45875;AAB23549.1−mRNA;S78694;AAB21243.1−mRNA;AF039291;AAD02130.1−mRNA;BC074820;AAH74820.1−mRNA;BC074872;AAH74872.1−mRNA;M84150;AAA59541.1--ゲノムDNA。LOXの一つの実施形態は、ヒト リシルオキシダーゼ(hLOX)前タンパク質前駆体(preproprotein)である。
【0047】
リシルオキシダーゼ様酵素をコードする配列の例示的な開示は、次の通りである。LOXL1は、GenBank/EMBL BC015090;AAH15090.1で寄託されるmRNAによってコードされる。LOXL2は、GenBank/EMBL U89942で寄託されるmRNAによってコードされ、LOXL3は、GenBank/EMBL AF282619;AAK51671.1で寄託されるmRNAによってコードされ、及び、LOXL4は、GenBank/EMBL AF338441;AAK71934.1で寄託されるmRNAによってコードされる。
【0048】
前ペプチド前駆体(prepropeptide)として知られるLOXタンパク質の一次翻訳産物は、アミノ酸1−21から伸びるシグナル配列を含む。このシグナル配列は、マウス及びヒトのLOXの両方において、21番目のCysと22番目のAlaの間の切断によって細胞内に放出され、LOXの46−48kDa前ペプチド(propeptide)の形態を生じ、これはまた、本願において、全長形態と称される。前ペプチドは、ゴルジ体を通過する間に、N−グリコシル化され、50kDaタンパク質を生じ、続いて、細胞外環境に分泌される。この段階で、タンパク質は、触媒として不活性である。マウスLOXにおける168番目のGlyと169番目のAspの間での更なる切断(cleavage)、及びヒトLOXにおける174番目のGlyと175番目のAspの間での更なる切断によって、成熟な、酵素として活性な、30−32kDAの酵素が生じ、18kDaの前ペプチドを放出する。この最終的な切断の事象は、骨形成タンパク質1(BMP−1)としても知られる、メタロエンドプロテアーゼのプロコラーゲンC−プロティナーゼによって触媒される。興味深いことに、この酵素はまた、LOXの基質であるコラーゲンのプロセシングにおいても機能する。N−グリコシル化ユニットは、その後に取り除かれる。
【0049】
潜在的なシグナルペプチド切断部位は、LOXL1、LOXL2、LOXL3及びLOXL4のアミノ終端と予測されている。予測されるシグナル切断部位は、LOXL1の25番目のGlyと26番目のGlnの間、LOXL2の25番目のAlaと26番目のGlnの間、LOXL3の25番目のGlyと26番目のSerの間及び、LOXL4の23番目のArgと24番目のProの間である。
【0050】
LOXL1タンパク質におけるBMP−1切断部位は、354番目のSerと355番目のAspの間に同定されている。Borel et al. (2001) J. Biol. Chem.276:48944-48949。Ala/Gly‐Asp配列にあり、多くの場合、酸性又は荷電残基が後続するプロコラーゲン及びプロ−LOXにおけるBMP−1切断のコンセンサス配列に基づいて、他のリシルオキシダーゼ型酵素における潜在的なBMP−1切断部位は予測されている。LOXL3において予測されるBMP−1切断部位は、447番目のGlyと448番目のAspの間に位置し;この部位でのプロセシングによって、成熟LOXと同様の大きさの成熟ペプチドを生じうる。BMP−1の潜在的な切断部位はまた、LOXL4内でも、残基569番目のAlaと570番目のAspの間で同定された。Kim et al. (2003) J. Biol. Chem. 278:52071-52074。LOXL2もまた、LOXLファミリーの他のメンバーに類似してタンパク質分解的に(proteolytically)切断され、分泌されうる。Akiri et al.(2003) Cancer Res. 63:1657-1666。
【0051】
活性部位が位置する前酵素(proenzyme)のC末端30kDaの配列は、高度に保存される(約95%)。より穏やかな程度の保存(約60−70%)が、前ペプチドドメインにおいて観察される。
【0052】
本願の開示の目的として、用語「リシルオキシダーゼ型酵素(lysyl oxidase-type enzyme)」は、上記5つのリシルオキシダーゼの全て(LOX、LOXL1、LOXL2、LOXL3及びLOXL4)を包含し、酵素活性、例えば、リシル残基の脱アミノ化を触媒する能力を実質的に保持するLOX、LOXL1、LOXL2、LOXL3及びLOXL4の機能的なフラグメント及び/又は誘導体も包含する。典型的には、機能的なフラグメント又は誘導体は、そのリシン酸化活性の少なくとも50%を保持する。いくつかの実施形態において、機能的なフラグメント又は誘導体は、そのリシン酸化活性の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%又は100%を保持する。
【0053】
リシルオキシダーゼ型酵素の機能的なフラグメントは、実質的に触媒活性を変化させない(天然のポリペプチド配列に関する)保存的なアミノ酸置換を含むことができることもまた意図される。用語「保存的なアミノ酸置換(conservative amino acid substitution)」は、特定の共通の構造及び/又は特性を基づいてアミノ酸を分類すること(grouping)を意味する。共通の構造に関して、アミノ酸は、非極性側鎖を有するアミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン及びトリプトファン)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン及びシステイン)、及び、荷電極性側鎖を有するアミノ酸(リシン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸及びヒスチジン)に分類できる。芳香族側鎖を含むアミノ酸の群は、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンを含む。複素環の側鎖は、プロリン、トリプトファン及びヒスチジンに存在する。非極性側鎖を含むアミノ酸の群の中で、短い炭化水素側鎖を有するアミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン)は、より長い非炭化水素側鎖を有するアミノ酸(メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン)と区別できる。荷電極性側鎖を有するアミノ酸の群の中で、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)は、塩基性側鎖を有するアミノ酸(リシン、アルギニン及びヒスチジン)と区別できる。
【0054】
個々のアミノ酸の共通の特性を定義するための機能的な方法は、相同生物(homologous organisms)の対応タンパク質間のアミノ酸変化の正規化された頻度を分析することである(Schulz, G. E.及びR. H. Schirmer, Principles of Protein Structure, Springer-Verlag, 1979)。そのような分析に従って、アミノ酸の群は規定されうるが、群内のアミノ酸は、相同タンパク質(homologous proteins)において互いに優先的に交換し、それによって、全体的なタンパク質構造への同様の影響がある(Schulz, G. E.及びR. H. Schirmer, Principles of Protein Structure, Springer-Verlag, 1979)。このタイプの分析に従って、互いに保存的に置換されうる下記アミノ酸の群が同定できる:
(i)Glu、Asp、Lys、Arg及びHisからなる、荷電基を含むアミノ酸;
(ii)Lys、Arg及びHisからなる、正荷電基を含むアミノ酸;
(iii)Glu及びAspからなる、負荷電基を含むアミノ酸;
(iv)Phe、Tyr及びTrpからなる、芳香族基を含むアミノ酸;
(v)His及びTrpからなる、窒素環基を含むアミノ酸;
(vi)Val、Leu及びIleからなる、大きな脂肪族非極性基を含むアミノ酸;
(vii)Met及びCysからなる、微極性な基を含むアミノ酸;
(viii)Ser、Thr、Asp、Asn、Gly、Ala、Glu、Gln及びProからなる、小残基を含むアミノ酸;
(ix)Val、Leu、Ile、Met及びCysからなる、脂肪族基を含むアミノ酸;並びに
(x)Ser及びThrからなる、ヒドロキシル基を含むアミノ酸。
【0055】
したがって、上記例示された、アミノ酸の保存的な置換は、当業者に周知であり、結果として生じる分子の生物学的活性を変化させることなく、一般的に行われうる。当業者はまた、一般的に、ポリペプチドの非必須領域における単一のアミノ酸置換によって生物学的活性は実質的に変化しないことも認識する。例えば、Watson, et al., "Molecular Biology of the Gene," 第4版, 1987, The Benjamin/Cummings Pub. Co., Menlo Park, CA, p.224を参照されたい。
【0056】
リシルオキシダーゼ型酵素に関する補足的な情報については、例えば、Rucker et al. (1998) Am. J. Clin. Nutr. 67:996S-1002S及びKagan et al. (2003) J. Cell. Biochem 88:660-672を参照されたい。また、同一出願人による米国特許出願公開第2009/0053224号(2009年2月26日)及び同第2009/0104201号(2009年4月23日)を参照されたい;これらの開示は、参照により本願に組み込まれる。
【0057】
(リシルオキシダーゼ型酵素の活性の修飾因子(modulators))
リシルオキシダーゼ型酵素の活性の修飾因子には、活性化物質(アゴニスト)及び阻害物質(アンタゴニスト)の両方が含まれ、これらは各種のスクリーニングアッセイを使用することによって選択されうる。本願の開示は、1以上のリシルオキシダーゼ型酵素の活性の修飾因子を同定するのに有用ないくつかのin vitroアッセイを示す。
【0058】
別の実施形態では、修飾因子は、試験化合物がリシルオキシダーゼ型酵素と結合するかどうかを測定することによって同定されうる;ここで、結合が生じる場合、前記化合物は、候補修飾因子である。任意で、そのような候補修飾因子について追加の試験を行うことができる。或いは、候補修飾因子をリシルオキシダーゼ型酵素と接触させて、リシルオキシダーゼ型酵素の生物学的活性をアッセイすることができる;リシルオキシダーゼ型酵素の生物学的活性を変化させる化合物が、リシルオキシダーゼ型酵素の修飾因子である。一般に、リシルオキシダーゼ型酵素の生物学的活性を低減する化合物は、前記酵素の阻害剤である。
【0059】
リシルオキシダーゼ型酵素の活性の修飾因子を同定する他の方法には、1以上のリシルオキシダーゼ型酵素を含む細胞培地で候補化合物をインキュベートし、細胞の1以上の生物学的活性又は特性をアッセイすることが含まれる。培地で細胞の生物学的活性又は特性を変化させる化合物は、リシルオキシダーゼ型酵素の活性の潜在的な修飾因子である。アッセイされうる生物学的活性には、例えば、リシン酸化、過酸化物生成、アンモニア生成、リシルオキシダーゼ型酵素のレベル、リシルオキシダーゼ型酵素をコードするmRNAのレベル、及び/又はリシルオキシダーゼ型酵素に特異的な1以上の機能が含まれる。前記アッセイの別の実施形態では、前記候補化合物との接触がない状態で、1以上の生物学的活性又は細胞特性は、1以上のリシルオキシダーゼ型酵素のレベル又は活性と関連する。例えば、前記生物学的活性は、遊走、化学走性、上皮−間葉転換又は間葉−上皮転換等の細胞の機能でありうるが、当該変化は、1以上のコントロール又は参照試料との比較によって検出される。例えば、ネガティブコントロールサンプルには、候補化合物を添加してリシルオキシダーゼ型酵素のレベルが減少した培地;候補化合物の添加のない、試験培地と等量のリシルオキシダーゼ型酵素を含む培地が含まれる。いくつかの実施形態では、異なるレベルのリシルオキシダーゼ型酵素を含む別々の培地を、候補化合物と接触させる。生物学的活性の変化が認められた場合、並びに当該変化が、より高いレベルのリシルオキシダーゼ型酵素を含む培地で、より大きい場合、当該化合物は、リシルオキシダーゼ型酵素の活性の修飾因子と同定される。化合物がリシルオキシダーゼ型酵素の活性の修飾因子かどうかの測定については、当該化合物によって誘発される形質から明らかであるかもしれないし、或いは当該化合物の1以上のリシルオキシダーゼ型酵素の酵素活性への効果の試験等、更なるアッセイが要求されるかもしれない。
【0060】
生化学的又は組換えの何れかでリシルオキシダーゼ型酵素を得るための方法、並びに前記のリシルオキシダーゼ型酵素の活性の修飾因子を同定する細胞培養及び酵素アッセイのための方法は、当該技術分野において周知である。例えば、本書と同日に提出された、代理人整理番号ARBS-010、「リシルオキシダーゼ及びLOXL2由来の触媒ドメイン(Catalytic domains from Lysyl Oxidase and LOXL2)」と題された同一出願人による米国出願も参照されたい。
【0061】
リシルオキシダーゼ型酵素の酵素活性を、いくつかの異なる方法によってアッセイすることができる。例えば、リシルオキシダーゼ酵素活性を、過酸化水素、アンモニウムイオン及び/又はアルデヒドの生成を検出及び/又は定量することによって、リシン酸化及び/又はコラーゲン架橋をアッセイすることによって、或いは細胞侵襲能(cellular invasive capacity)、細胞接着、細胞増殖又は転移性増殖を測定することによって評価することができる。例えば、Trackman et al. (1981) Anal. Biochem. 113:336-342;Kagan et al. (1982) Meth. Enzymol. 82A:637-649;Palamakumbura et al. (2002) Anal. Biochem. 300:245-251;Albini et al. (1987) Cancer Res. 47:3239-3245;Kamath et al. (2001) Cancer Res. 61:5933-5940;米国特許第4,997,854号及び米国特許出願公開第2004/0248871号を参照されたい。
【0062】
試験化合物には、例えば、小有機化合物(例えば、約50〜約250Daの分子量を有する有機分子)、核酸又はタンパク質が含まれるが、これらに限定されない。化合物又は複数の化合物は、化学的に合成され、微生物学的に産生され、及び/又は例えば、試料(複数)、例えば、植物、動物又は微生物からの、例えば、細胞抽出物に含まれうる。更に、前記化合物(1又は複数)は、当該技術分野において周知であるが、リシルオキシダーゼ型酵素の活性を制御する能力があることは、今のところ周知ではない。リシルオキシダーゼ型酵素の修飾因子についてアッセイするための反応混合物は、無細胞抽出物でありうるか、或いは細胞培養物又は組織培養物を含みうる。複数の化合物を、例えば、反応混合物に添加し、培地に添加し、細胞に注入し、或いは遺伝子導入動物に投与することができる。アッセイに用いられる細胞又は組織を、例えば、バクテリア細胞(bacterial cell)、真菌細胞、昆虫細胞、脊椎動物細胞、哺乳動物細胞、霊長類細胞、ヒト細胞とすることができ、或いはアッセイに用いられる細胞又は組織は、非ヒト遺伝子導入動物を含むか、又は非ヒト遺伝子導入動物から得られうる。
【0063】
リシルオキシダーゼ型酵素等の標的に特異的な親和性を有する化合物を同定する大規模なライブラリーを作り、スクリーニングするため、いくつかの方法が、当業者に周知である。これらの方法には、ランダム化されたペプチドがファージから表示され、固定化レセプター(immobilized receptor)を用いるアフィニティークロマトグラフィーによってスクリーニングされるファージディスプレイ(phage-display)法が含まれる。例えば、WO91/17271、WO92/01047、及び米国特許5,223,409号を参照されたい。別のアプローチでは、固形支持体(例えば、「チップ(chip)」)上に固定化されたポリマーのコンビナトリアルライブラリー(combinatorial library)がフォトリソグラフィ(photolithography)を用いて合成される。例えば、米国特許5,143,854号、WO90/15070及びWO92/10092を参照されたい。固定化ポリマーは標識されたレセプター(例えば、リシルオキシダーゼ型酵素)と接触され、前記支持体がスキャンされて標識の位置が測定され、それによってレセプターと結合しているポリマーが同定される。
【0064】
例えば、Kramer (1998) Methods Mol. Biol. 87: 25-39には、対象(例えば、リシルオキシダーゼ型酵素)のポリペプチドの結合リガンドを同定するために使用されうる連続的なセルロース膜支持体上のペプチドライブラリーの合成及びスクリーニングが記載されている。そのようなアッセイによって同定されたリガンドは、対象のタンパク質の候補修飾因子であり、これを、更なる試験のために選択することができる。この方法を、例えば、対象タンパク質における結合部位及び認識モチーフを測定するためにも使用することができる。例えば、Rudiger (1997) EMBO J. 16:1501-1507及びWeiergraber (1996) FEBS Lett. 379:122-126を参照されたい。
【0065】
WO98/25146には、望ましい特性、例えば、ポリペプチド若しくはその細胞レセプターを刺激又は拮抗する能力、或いはこれに結合する能力を有する化合物の複合体のライブラリーをスクリーニングするための別の方法が記載されている。そのようなライブラリーにおける複合体は、試験下の化合物、前記化合物の合成における少なくとも一つの手段を記録するタグ、及びレポーター分子による修飾に感受性の高いテザー(tether)を含む。前記テザーの修飾は、複合体が望ましい特性を有する化合物を含むことを示すのに使用される。前記タグは、そのような化合物の合成における少なくとも一つの手段を明らかにするためにデコードされうる。リシルオキシダーゼ型酵素と相互作用する化合物を同定するための他の方法は、例えば、ファージディスプレイシステム(phage display system)を用いるin vitroスクリーニング、フィルタ結合アッセイ(filter binding assay)、及び例えばBIAcore装置(ファルマシア(Pharmacia))を用いる相互作用の「リアルタイム(real time)」測定である。
【0066】
これらの全ての方法は、本開示に従って、リシルオキシダーゼ型酵素又は関連ポリペプチドの活性化物質/アゴニスト及び阻害物質/アンタゴニストを同定するのに使用されうる。
【0067】
リシルオキシダーゼ型酵素の修飾因子の合成に対する別のアプローチは、ペプチド模倣性類似体(mimetic analogs)を使用することである。模倣性ペプチド類似体は、例えば、天然型のアミノ酸を立体異性体、即ちD−アミノ酸に代えることによって産生されうる;例えば、Tsukida (1997) J. Med. Chem. 40:3534-3541を参照されたい。さらに、本来のポリペプチドの一部が除去された際に失われる可能性のある高次構造特性が回復するように、模倣物の前駆成分(pro-mimetic component)をペプチドに組み入れることができる。例えば、Nachman (1995) Regul. Pept. 57:359-370を参照されたい。
【0068】
ペプチド模倣物を構築するための別の方法は、アキラルo−アミノ酸残基をペプチドに組み入れることで、脂肪族鎖のポリメチレン単位によるアミド結合の置換をもたらすことである。Banerjee (1996) Biopolymers 39:769-777。他のシステムにおける小ペプチドホルモンの過剰活性ペプチド模倣性類似体(superactive peptidomimetic analogues)が記載されている。Zhang (1996) Biochem. Biophys. Res. Commun. 224:327-331。
【0069】
リシルオキシダーゼ型酵素の修飾因子のペプチド模倣物を、連続的なアミドアルキル化を介してペプチド模倣物のコンビナトリアルライブラリーを合成し、次いで生じた化合物を、例えば、それらの結合及び免疫学的特性について試験することによって同定することもできる。ペプチド模倣物のコンビナトリアルライブラリーの産生及び使用のための方法が記載されている。例えば、Ostresh, (1996) Methods in Enzymology 267:220-234及びDorner (1996) Bioorg. Med. Chem. 4:709-715を参照されたい。さらに、1以上のリシルオキシダーゼ型酵素の三次元及び/又は結晶学的構造を、1以上のリシルオキシダーゼ型酵素の活性のペプチド模倣性阻害剤の設計のために使用することができる。Rose (1996) Biochemistry 35:12933-12944;Rutenber (1996) Bioorg. Med. Chem. 4:1545-1558。
【0070】
例えば、Dowd (1998) Nature Biotechnol. 16:190-195;Kieber-Emmons (1997) Current Opinion Biotechnol. 8:435-441;Moore (1997) Proc. West Pharmacol. Soc. 40:115-119; Mathews (1997) Proc. West Pharmacol. Soc. 40:121-125;及びMukhija (1998) European J. Biochem. 254:433-438には、在来生物ポリペプチド(native biological polypeptide)の活性を模倣する低分子量合成分子の、構造に基づく設計及び合成が更に記載されている。
【0071】
リシルオキシダーゼ型酵素の基質又はリガンドとして作用することができる小有機化合物の模倣物を設計、合成及び評価することができることは、当業者にとって周知である。例えば、ハパロシン(hapalosin)のD−グルコース模倣物は、細胞毒性において、多剤耐性補助に関連するタンパク質と拮抗しているハパロシンとしての類似の有効性を示すことが記載されている。Dinh (1998) J. Med. Chem. 41:981-987。
【0072】
例えば、小分子、ペプチド、ペプチド模倣物及び抗体等の修飾因子の選択をガイドするために、リシルオキシダーゼ型酵素の構造を検討することができる。リシルオキシダーゼ型酵素の構造的な特性は、リシルオキシダーゼ型酵素に結合するか又はリシルオキシダーゼ型酵素のリガンド、基質、結合パートナー又はレセプターとして機能する天然又は合成分子を同定するのに役立つ。例えば、Engleman (1997) J. Clin. Invest. 99:2284-2292を参照されたい。例えば、リシルオキシダーゼ型酵素の構造モチーフのフォールディングシミュレーション(folding simulations)及びコンピュータ再設計を、適当なコンピュータプログラムを用いて行うことができる。Olszewski (1996) Proteins 25:286-299;Hoffman (1995) Comput. Appl. Biosci. 11:675-679。詳細なペプチド及びタンパク質構造の立体構造及びエネルギー性分析のために、タンパク質フォールディングのコンピュータモデリング(computer modeling)を使用することができる。Monge (1995) J. Mol. Biol. 247:995-1012;Renouf (1995) Adv. Exp. Med. Biol. 376:37-45。適当なプログラムを、相補なペプチド配列のためのコンピュータ支援検索を使用して、リガンド及び結合パートナーと相互作用するリシルオキシダーゼ型酵素の部位の同定のために使用することができる。Fassina (1994) Immunomethods 5:114-120。例えば、Berry (1994) Biochem. Soc. Trans. 22:1033-1036;Wodak (1987), Ann. N.Y. Acad. Sci. 501:1-13;及びPabo (1986) Biochemistry 25:5987-5991には、タンパク質及びペプチドの設計のための補足的なシステムが記載されている。前記構造分析から得られる結果を、例えば、1以上のリシルオキシダーゼ型酵素の活性の修飾因子として機能する有機分子、ペプチド及びペプチド模倣物のために使用することができる。
【0073】
リシルオキシダーゼ型酵素の阻害剤は、競合的阻害剤、不拮抗的阻害剤(uncompetitive inhibitors)、混合阻害剤又は非競合的阻害剤(non-competitive inhibitors)でありうる。競合的阻害剤は多くの場合、基質との構造類似性を生じ、通常、活性部位に結合し、より低い基質濃度で、より有効である。みかけのKMは、競合的阻害剤の存在下で増大する。不拮抗的阻害剤は、一般に、酵素−基質複合体か、又は基質が活性部位で結合し結合部位を歪めるかもしれない後に利用可能になる部位に結合する。みかけのKMとVmaxの両方は、不拮抗的阻害剤の存在下で減少し、基質濃度は、阻害に効果をあまり及ぼさないか、全く及ぼさない。混合阻害剤は、遊離酵素と酵素−基質複合体の両方に結合する能力があり、したがって、基質結合と触媒活性の両方に影響を及ぼす。非競合的阻害は、阻害剤が酵素と酵素−基質複合体と等しい結合力で結合し、阻害が基質濃度によって影響されない混合阻害の特別な場合である。非競合的阻害剤は、一般には活性部位の外部の領域で酵素に結合する。酵素阻害剤についての別の詳述については、例えば、Voet et al. (2008) supraを参照されたい。リシルオキシダーゼ型酵素等の酵素については、その天然の基質(例えば、コラーゲン、エラスチン)は(in vivoで達しうる任意の阻害剤の濃度と比較して)通常in vivoで大過剰に存在するが、阻害剤は基質濃度に依存しないから、非競合的阻害剤は有利である。
【0074】
(抗体)
ある実施形態では、リシルオキシダーゼ型酵素の修飾因子は、抗体である。別の実施形態では、抗体は、リシルオキシダーゼ型酵素の活性の阻害剤である。
【0075】
本書において使用される「抗体(antibody)」とは、抗原エピトープを特異的に結合するペプチド配列(例えば、可変領域配列(variable region sequence))を含む単離された又は組換え型のポリペプチド結合剤を意味する。その用語は、最も広い意味で使用され、具体的には、望ましい生物活性を示す限り、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、ナノ抗体(nanobody)、二重特異性抗体、多重特異性抗体(multispecific antibody)(例えば、二重特異性抗体)、並びにFv、scFv、Fab、Fab'F(ab')2及びFab2を含むがこれらに限定されない抗体フラグメントを包含する。「ヒト抗体(human antibody)」は、可能性のある非ヒトCDR領域を除く、ヒト起源の配列を含む抗体を指し、免疫グロブリン分子の完全な構造が存在するということを意味せず、抗体がヒトにおける最小の免疫原性効果を有すること(即ち、自己自身に対する抗体の産生を誘発しない)を意味するのみである。
【0076】
「抗体フラグメント(antibody fragment)」は、全長抗体の一部、例えば、全長抗体の抗原結合領域又は可変領域を含む。抗体フラグメントの例には、Fab、Fab'、F(ab')2、及びFvフラグメント;二重特異性抗体(diabody);線状抗体(linear antibody)(Zapata et al. (1995) Protein Eng. 8(10):1057-1062);一本鎖抗体分子;並びに抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体が含まれる。抗体のパパイン消化は、「Fab」フラグメントと呼ばれる、それぞれ単一の抗原結合部位を有する2つの同一の抗原結合フラグメントと、容易に結晶化する能力を反映して命名された残りの「Fc」フラグメントを生成する。ペプシン処理によりF(ab')2フラグメントが得られ、これは2つの抗原結合活性を有し、なお抗原を架橋することができる。
【0077】
「Fv」は、完全な抗原認識部位及び抗原結合部位を含む最小の抗体フラグメントである。この領域は、1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインとが堅く非共有結合的に会合している二量体から構成されている。この立体構造においては、個々の可変ドメインの3つのCDRが相互作用して、VH-VL二量体の表面に抗原結合部位の輪郭を形成する。まとめると、6個のCDRによって、抗体に対する抗原結合特異性が付与される。しかしながら、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な6つのCDRのうち3つしか含まない単離されたVH若しくはVL領域)ですら、完全な結合部位よりも親和性は一般的に低いが、抗原を認識し結合する能力を有する。
【0078】
Fabフラグメントにはまた、重鎖及び軽鎖の可変領域に加えて、軽鎖の定常ドメインと重鎖の第1定常ドメイン(CH)とが含まれる。抗体のパパイン消化の後で、最初にFabフラグメントが観察された。Fab'フラグメントは、F(ab')フラグメントが抗体のヒンジ領域に由来する1つ以上のシステインを含む重鎖CHドメインのカルボキシ末端に数個の追加の残基を含むことにおいて、Fabフラグメントとは異なる。F(ab')2フラグメントは、ジスルフィド結合によって、ヒンジ領域の近傍で結合されている2つのFabフラグメントを含み、抗体のペプシン消化の後で、最初に観察された。Fab'-SHは、定常ドメインのシステイン残基(単数又は複数)が遊離のチオール基を有しているFab'フラグメントについての本明細書中での名称である。抗体フラグメントの他の化学的カップリングもまた知られている。
【0079】
任意の脊椎動物種に由来する抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖(light-chain)」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる、2つの明らかに異なるタイプの1つに分けることができる。それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、免疫グロブリンは、5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMに分けることができ、これらのいくつかは、さらにサブクラス(イソタイプ)例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)に分けることができる。
【0080】
「単鎖Fv(single-chain Fv)」又は「sFv」又は「scFv」抗体フラグメントには、抗体のVHドメインとVLドメインとが含まれるが、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。いくつかの実施形態では、Fvポリペプチドにはさらに、sFvが抗原の結合に所望の構造を形成することを可能にする、VHドメインとVLドメインの間のポリペプチドリンカーが含まれる。sFvの概要については、Pluckthun, in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113 (Rosenburg及びMoore編) Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)を参照されたい。
【0081】
用語「二重特異性抗体(diabody)」とは、2つの抗原結合部位を有する小さい抗体フラグメントをいい、これらのフラグメントには、同じポリペプチド鎖において軽鎖の可変ドメイン(VL)に連結された重鎖の可変ドメイン(VH)が含まれる(VH-VL)。同じ鎖にある2つのドメインの間での対形成を可能にするには短すぎるリンカーを使用することにより、これらのドメインは別の鎖の相補的なドメインと対形成するように向けられ、2つの抗原結合部位が生じる。二重特異性抗体は、例えば、EP404,097;WO93/11161及びHollinger et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448に、さらに記載されている。
【0082】
「単離された(isolated)」抗体とは、同定され、分離され、及び/又は、その自然環境の成分から回収されている抗体である。その自然環境の成分には、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質性の溶質又は非タンパク質性の溶質(solute)が含まれうる。いくつかの実施形態において、単離された抗体は、(1)Lowry法によって決定した場合に95重量%を超える抗体、例えば、99重量%を超える抗体となるように、(2)例えば、回転カップ式シークエネーター(spinning cup sequenator)の使用によってN末端又は内部アミノ酸配列の少なくとも15個の残基を得るために十分な程度にまで、或いは(3)クマシーブルー染色、又は銀染色による検出を伴う、還元又は非還元条件下でのゲル電気泳動(例えば、SDS−PAGE)によって均質になるまで、精製されるであろう。用語「単離された抗体(isolated antibody)」には、抗体の自然環境の少なくとも1つの成分は存在しないから、組換え細胞中のin situの抗体が含まれる。ある実施形態では、単離された抗体は、少なくとも1回の精製工程によって調製される。
【0083】
いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト化抗体又はヒト抗体である。ヒト化抗体には、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であって、レシピエントの相補性決定領域(CDR)に由来する残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有している、マウス、ラット、若しくはウサギ等の非ヒト種(ドナー抗体)のCDRに由来する残基で置き換えられているものが含まれる。したがって、非ヒト(例えば、マウス)の抗体のヒト化形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ免疫グロブリンである。非ヒト配列は、主として可変領域、特に相補性決定領域(CDR)に位置している。いくつかの実施形態においては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基で置き換えられる。ヒト化抗体には、レシピエント抗体にも、移入されたCDR又はフレームワーク配列にも見られない残基もまた含まれうる。ある実施形態では、ヒト化抗体には、少なくとも1つ、通常は2つの可変ドメインの実質的に全体が含まれ、この場合、CDRの全て又は実質的に全ては非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、そしてフレームワーク領域の全て又は実質的に全ては、ヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである。本願の開示の目的のため、ヒト化抗体にはまた、Fv、Fab、Fab'、F(ab')2又は抗体の他の抗原結合配列等の免疫グロブリンフラグメントも含まれる。
【0084】
ヒト化抗体には、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部も含めることができ、通常は、ヒト免疫グロブリンの少なくとも一部が含まれる。例えば、Jones et al. (1986) Nature 321:522-525;Riechmann et al. (1988) Nature 332:323-329;及びPresta (1992) Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596を参照されたい。
【0085】
非ヒト抗体をヒト化するための方法は、当該技術分野において周知である。一般的に、ヒト化抗体は、非ヒトである供給源から導入された1つ以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、多くの場合、典型的には「移入(import)」又は「ドナー(donor)」可変ドメインから得られる「移入」又は「ドナー」残基と呼ばれる。例えば、ヒト化は、ヒトの抗体に対応する配列に対して、げっ歯類のCDR又はCDR配列を置換することによって、本質的にはWinter及び共同研究者の方法に従って、行うことができる。例えば、Jones et al., supra;Riechmann et al., supra及びVerhoeyen et al. (1988) Science 239:1534-1536を参照されたい。したがって、そのような「ヒト化(humanized)」抗体は、未処理のヒト可変ドメインより実質的に少ない部分が非ヒト種由来の対応配列によって置換されているキメラ抗体である(米国特許第4,816,567号)。ある実施形態では、ヒト化抗体は、いくつかのCDR残基及び場合によってはいくつかのフレームワーク残基がげっ歯類の抗体(例えば、マウスモノクローナル抗体)の類似部位由来の残基によって置換されたヒト抗体である。
【0086】
ヒト抗体は、例えば、ファージディスプレイライブラリを使用して生成することができる。Hoogenboom et al. (1991) J. Mol. Biol, 227:381;Marks et al. (1991) J. Mol. Biol. 222:581。ヒトモノクローナル抗体を調製するための他の方法は、Cole et al. (1985) "Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy," Alan R. Liss, p. 77及びBoerner et al. (1991) J. Immunol. 147:86-95によって記載されている。
【0087】
ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を、内因性免疫グロブリン遺伝子が一部又は完全に不活化されたトランスジェニック動物(例えば、マウス)に導入することによって作製することができる。免疫学的攻撃をすると、遺伝子再編成、集合、及び抗体レパートリー等のあらゆる点で、ヒトにおいて見られるものと非常によく似たヒト抗体の生成が観察される。このアプローチは、例えば、米国特許第5,545,807号;同第5,545,806号;同第5,569,825号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;同第5,661,016号、並びに以下の科学刊行物:Marks et al. (1992) Bio/Technology 10:779-783 (1992);Lonberg et al. (1994) Nature 368: 856-859;Morrison (1994) Nature 368:812-813;Fishwald et al. (1996) Nature Biotechnology 14:845-851;Neuberger (1996) Nature Biotechnology 14:826;及びLonberg et al. (1995) Intern. Rev. Immunol. 13:65-93に記載されている。
【0088】
抗体は、前記のような既知の選択及び/又は突然変異誘発法を使用して親和的に成熟されうる。いくつかの実施形態では、親和性成熟抗体は、成熟抗体が調製される出発抗体(一般的には、マウス、ウサギ、ニワトリ、ヒト化又はヒト)の親和性よりも5倍以上、10倍以上、20倍以上、又は30倍以上の親和力を有する。
【0089】
抗体はまた、二重特異性抗体でありうる。二重特異性抗体は、モノクローナル抗体であり、これは、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有するヒト抗体又はヒト化抗体であってもよい。本願の場合では、これら2つの異なる結合特異性は、2つの異なるリシルオキシダーゼ型酵素、又は単一のリシルオキシダーゼ型酵素における2つの異なるエピトープに向けられうる。
【0090】
本書に開示されている抗体はまた、免疫複合体でありうる。そのような免疫複合体には、レポーター等の第二の分子と複合した抗体(例えば、リシルオキシダーゼ型酵素)が含まれる。免疫複合体には、化学療法薬、毒素(例えば、細菌、真菌、植物、若しくは動物起源、又はそれらのフラグメントの酵素活性毒素)、或いは放射性同位元素(例えば、放射性複合体)等の細胞傷害性薬物も含まれうる。
【0091】
特定のポリペプチド又は特定のポリペプチド上のエピトープ「に特異的に結合する(specifically binds to)」又は「に対して特異的(specific for)」である抗体とは、他のいかなるポリペプチド又はポリペプチドエピトープにも実質的に結合することなく、特定のポリペプチド又はエピトープに結合する抗体である。いくつかの実施形態では、本願開示の抗体は、モノクローナル抗体、scFv、Fabの形態で、又は約4℃、25℃、37℃若しくは42℃の温度で測定される抗体の他の形態で;100nM以下、場合によっては10nM未満、場合によっては1nM未満、場合によっては0.5nM未満、場合によっては0.1nM未満、場合によっては0.01nM未満、或いは場合によっては0.05nM未満の解離定数(K)で、その標的に特異的に結合する。
【0092】
ある実施形態では、本願開示の抗体は、リシルオキシダーゼ型酵素における1つ以上のプロセシング部位(例えば、タンパク質切断部位)に結合し、それによって前酵素(proenzyme)又は前酵素前駆体(preproenzyme)のプロセシングを効果的に阻止し、それによってリシルオキシダーゼ型酵素の活性を低減させる。
【0093】
ある実施形態では、本願開示の抗体は、ヒトLOXに、他のリシルオキシダーゼ型酵素、例えば、LOXL1、LOXL2、LOXL3及びLOXL4に対する結合親和力より大きい結合親和力、例えば、10倍、少なくとも100倍、又は少なくとも1000倍で結合する。
【0094】
別の実施形態では、本願開示の抗体は、ヒトLOXL2に、他のリシルオキシダーゼ型酵素、例えば、LOX、LOXL1、LOXL3及びLOXL4に対する結合親和力より大きい結合親和力、例えば、10倍、少なくとも100倍、又は少なくとも1000倍で結合する。
【0095】
ある実施形態では、本願開示の抗体は、リシルオキシダーゼ型酵素の触媒活性の非競合的(non-competitive)阻害剤である。ある実施形態では、本願開示の抗体は、リシルオキシダーゼ型酵素の触媒ドメインの外側に結合する。ある実施形態では、本願開示の抗体は、LOXL2のSRCR4ドメインに結合する。ある実施形態では、LOXL2のSRCR4ドメインに結合し、かつ非競合的阻害剤として機能する抗LOXL2抗体は、同一出願人による米国出願公開第2009/0053224号及び第2009/0104201号に記載されているAB0023抗体である。ある実施形態では、LOXL2のSRCR4ドメインに結合し、かつ非競合的阻害剤として機能する抗LOXL2抗体は、同一出願人による米国出願公開第2009/0053224号及び第2009/0104201号に記載されているAB0024抗体(AB0023抗体のヒト版)である。
【0096】
場合によっては、本願開示の抗体は、リシルオキシダーゼ型酵素に結合するだけではなく、例えば、インテグリンβ1又は他の細胞レセプター若しくはタンパク質を介して、リシルオキシダーゼ型酵素の取り込み又は内部移行を低減或いは阻害する。そのような抗体は、例えば、細胞外マトリックスタンパク質、細胞レセプター、及び/又はインテグリンに結合できるであろう。
【0097】
リシルオキシダーゼ型酵素を認識する例示的な抗体、及びリシルオキシダーゼ型酵素に対する抗体に関する追加的な開示は、同一出願人による米国出願公開第2009/0053224号及び第2009/0104201号に与えられ、これらの開示は、リシルオキシダーゼ型酵素に対する抗体、それらの製造、及びそれらの使用を記載する目的のため参照により組み込まれる。
【0098】
(リシルオキシダーゼ型酵素の発現を制御するためのポリヌクレオチド)
アンチセンス
リシルオキシダーゼ型酵素の制御(例えば、阻害)は、転写又は翻訳レベルの何れかでリシルオキシダーゼ型酵素の発現を下方制御することによって達成されうる。そのような制御のための方法の1つには、リシルオキシダーゼ型酵素をエンコードするmRNA転写物と配列特異的に結合する能力があるアンチセンスオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの使用が含まれる。
【0099】
アンチセンスオリゴヌクレオチド(又はアンチセンスオリゴヌクレオチド類似物)の標的mRNA分子への結合によって、細胞内RNaseHによるハイブリッドの酵素切断が引き起こされうる。ある場合において、アンチセンスRNA−mRNAハイブリッドの形成によって、正確なスプライシングが妨げられうる。両方の場合において、翻訳に適した、未処理の、機能的な標的mRNAの数が減少し、或いは失われる。他の場合において、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド類似物の標的mRNAへの結合によって、リボソーム結合が(例えば、立体障害により)妨げられ、それによってmRNAの翻訳が妨げられうる。
【0100】
アンチセンスオリゴヌクレオチドには、任意の型のヌクレオチドサブユニットが含まれ、例えば、DNA、RNA、ペプチド核酸(peptide nucleic acids)(PNA)等の類似物、又は前記の混合物が含まれうる。RNAオリゴヌクレオチドは、標的mRNA分子と共に、より安定な二重鎖を形成するが、ハイブリッド形成されていないオリゴヌクレオチドは、他の型のオリゴヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド類似物よりも細胞内において(intracellularly)不安定である。RNAオリゴヌクレオチドの不安定性は、細胞の内部でのこれらの発現を、この目的のために設計されたベクターを使用して行うことによって軽減されうる。このアプローチは、例えば、大量かつ長命のタンパク質をエンコードするmRNAを標的にすることを試みるときに使用されうる。
【0101】
アンチセンスオリゴヌクレオチドを設計するときには、以下を含む追加の検討が考慮されうる:(i)標的配列に結合する際の十分な特異性;(ii)溶解性;(iii)細胞内及び細胞外ヌクレアーゼに対する安定性;(iv)細胞膜を透過する能力;並びに(v)生物を治療するのに使用されるときには低毒性。
【0102】
標的mRNA及びオリゴヌクレオチドの両方における構造変化のエネルギーを説明する熱力学的サイクルに基づく、それらの標的mRNAに対して最も高い予側結合親和力を有するオリゴヌクレオチド配列を同定するためのアルゴリズムが、利用可能である。例えば、Walton et al. (1999) Biotechnol. Bioeng. 65:1-9は、ウサギβ−グロブリン(RBG)及びマウス腫瘍壊死因子α(TNFα)転写物に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを設計する方法を使用した。同じ研究グループは、細胞培養中の3つのモデル標的mRNA(ヒト乳酸デヒドロゲナーゼA及びB並びにラットgp130)に対する合理的に選択されたオリゴヌクレオチドのアンチセンス活性が、ほぼすべての場合に有効であることも報告した。これは、ホスホジエステル及びホスホロチオアート化学の両方により作製されたオリゴヌクレオチドを用いる2つの細胞型における3種の異なる標的に対する試験を含んでいた。
【0103】
さらに、in vitro系を用いて特定のオリゴヌクレオチドを設計し、その効率を予測するいくつかのアプローチが利用可能である。例えば、Matveeva et al. (1998) Nature Biotechnology 16:1374-1375を参照されたい。
【0104】
本願の開示によるアンチセンスオリゴヌクレオチドには、少なくとも10ヌクレオチド、例えば、10〜15、15〜20、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも20、少なくとも22、少なくとも25、少なくとも30、又は少なくとも40ヌクレオチドのポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド類似物が含まれる。そのようなポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド類似物は、リシルオキシダーゼ型酵素、例えば、LOX又はLOXL2をエンコードするmRNAと、生理的条件下で、in vivoでアニール又はハイブリッド形成する(即ち、塩基相補性に基づいて二重らせん構造を形成する)ことができる。
【0105】
本願の開示によるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、細胞又は組織中に投与した核酸構成体から発現させることができる。場合によっては、アンチセンス配列の発現が細胞又は組織中でオンオフ切り替えすることができるように、アンチセンス配列の発現を、誘導性プロモーターによって制御することができる。或いは、アンチセンスオリゴヌクレオチドを化学的に合成し、例えば、医薬組成物の一部として細胞又は組織に直接投与することができる。
【0106】
アンチセンス技術により、高精度アルゴリズム設計アルゴリズム及び広範なオリゴヌクレオチド送達系が作製されるようになり、それによって、当業者は、既知の配列の発現を下方制御するのに適したアンチセンスアプローチを設計・実行することができるようになった。アンチセンス技術に関する追加の情報として、例えば、Lichtenstein et al., "Antisense Technology: A Practical Approach," Oxford University Press, 1998を参照されたい。
【0107】
小RNA及びRNAi
リシルオキシダーゼ型酵素の活性の阻害のための別の方法は、標的mRNAと相同であり、その分解をもたらす小干渉性RNA(siRNA)分子を用いるアプローチであるRNA干渉(RNAi)である。Carthew (2001) Curr. Opin. Cell. Biol. 13:244-248。
【0108】
RNA干渉は、一般的に2段階プロセスである。開始段階と呼ばれる第1段階においては、おそらく、二重らせんRNAをATP依存的な方法で切断する、二重らせん特異的リボヌクレアーゼのRNaseIIIファミリーのメンバーであるダイサー(Dicer)の作用により、インプットdsRNAは、21〜23ヌクレオチド(nt)小干渉性RNAs(siRNA)に消化される。インプットRNAは、例えば、直接又はトランス遺伝子若しくはウイルスを介して送達されうる。引き続く切断事象がRNAを、それぞれ2ヌクレオチド3’オーバーハングを有する19〜21bp二重らせん(siRNA)に分解する。Hutvagner et al. (2002) Curr. Opin. Genet. Dev. 12:225-232;Bernstein (2001) Nature 409:363-366。
【0109】
第2のエフェクター段階において、siRNA二重らせんは、ヌクレアーゼ複合体に結合して、RNA誘導サイレンシング複合体(RNA-induced silencing complex)(RISC)を形成する。RISCの活性化のためには、siRNA二重らせんのATP依存性巻き戻しが必要とされる。次いで、活性RISC(単一のsiRNA及びRNaseを含む)は、塩基対相互作用により相同性転写物を標的にし、典型的にmRNAを、siRNAの3’末端から開始して、約12ヌクレオチドフラグメントに切断する。Hutvagner et al., supra; Hammond et al. (2001) Nat. Rev. Gen. 2:110-119;Sharp (2001) Genes. Dev. 15:485-490。
【0110】
RNAi及び関連する方法は、Tuschl (2001) Chem. Biochem. 2:239-245;Cullen (2002) Nat. Immunol. 3:597-599;及びBrantl (2002) Biochem. Biophys. Acta. 1575:15-25にも記載されている。
【0111】
本願の開示で用いるのに適するRNAi分子の合成のための例示的なストラテジーは、リシルオキシダーゼ型酵素の活性の阻害剤として、適当なmRNA配列をAAジヌクレオチド配列の開始コドンの下流にスキャンすることである。各AAは、下流(即ち、3’隣接の)19ヌクレオチドとともに、潜在的siRNA標的部位として記録される。mRNAの非翻訳領域(untranslated regions)(UTRs)で結合するタンパク質及び/又は翻訳開始複合体はsiRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨害する可能性があるので、翻訳領域(cording regions)にある標的部位が好ましい。Tuschl (2001) supra。もっとも、GAPDH遺伝子の5’UTRに向けられるsiRNAが細胞GAPDH mRNAの約90%の減少を媒介し、タンパク質レベルを完全に低下させる場合に示されたように、非翻訳領域に向けられるsiRNAも有効でありうることは認識されるであろう(Ambion、Austin、TX)。潜在的標的部位のセットがいったん得られれば、前記のように、潜在的標的の配列は、配列アライメントソフトウエア(NCBIサーバーから入手可能なBLASTソフトウェア等)を用いて、適切なゲノム・データベース(例えば、ヒト、マウス、ラット等)と比較される。他のコーディング配列と有意な相同性を示す潜在的標的部位は除去される。
【0112】
適格標的配列(qualifying target sequence)がsiRNA合成の鋳型として選択される。選択された配列は、55%より高いG/C含量を有するものと比べて遺伝子サイレンシングを媒介するのにより有効であることが示されたので、低いG/C含量を有するものを含むことができる。評価に供する標的遺伝子の長さに沿っていくつかの標的遺伝子を選択することができる。選択されたsiRNAsのより良好な評価のために、ネガティブコントロールが共に用いられる。ネガティブコントロールのsiRNAは、試験siRNAsと同じヌクレオチド組成を有する配列を含みうるが、ゲノムに対する有意な相同性を欠く。したがって、例えば、他のあらゆる遺伝子と有意な相同性を示さないならば、siRNAのスクランブル化したヌクレオチド配列を用いてもよい。
【0113】
本願の開示のsiRNA分子は、いったん宿主細胞中に導入されれば、siRNA転写物の安定な発現を促進することができる発現ベクターから転写されうる。これらのベクターは、遺伝子特異的サイレンシングを行うことができるsiRNA分子中にin vivoで処理される小ヘアピンRNA(shRNA)を発現するように遺伝子操作される。例えば、
Brummelkamp et al. (2002) Science 296:550-553;Paddison et al (2002) Genes Dev. 16:948-958;Paul et al. (2002) Nature Biotech. 20:505-508;Yu et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:6047-6052を参照されたい。
【0114】
小ヘアピンRNAs(shRNAs)は、2本鎖ヘアピン・ループ構造を形成する1本鎖ポリヌクレオチドである。2本鎖領域は、リシルオキシダーゼ型酵素(例えば、LOX若しくはLOXL又はLOXL mRNA)をコードするポリヌクレオチド等の標的配列とハイブリッド形成可能である第1の配列並びに及び第1の配列と相補的である第2の配列から形成される。第1及び第2の配列が、2本鎖領域を形成するが;第1の配列と第2の配列との間にある非塩基対リンカーヌクレオチド(un-base-paired linker nucleotides)が、ヘアピン・ループ構造を形成する。shRNAの2本鎖領域(ステム)は、制限エンドヌクレアーゼ認識部位を含むことができる。
【0115】
shRNA分子は、2bpオーバーハング、例えば、3’UUオーバーハング等の任意のヌクレオチドオーバーハングを有することが可能である。変動はありうるが、ステム長は、一般的に約15〜49、約15〜35、約19〜35、約21〜31bp、又は約21〜29bpの範囲であり、ループの大きさは、約4〜30bp、例えば、約4〜23bの範囲でありうる。
【0116】
細胞内でのshRNAsの発現のために、プロモーター(例えば、RNAポリメラーゼIII H1−RNAプロモーター又はU6 RNAプロモーター)、shRNAをコードする配列の挿入のためのクローニング部位、及び転写末端シグナル(例えば、4−5 アデニン−チミジン塩基対のひと配列(stretch))を含むプラスミドベクターを用いることができる。ポリメラーゼIIIプロモーターは、一般的に明確な転写開始及び終結部位を有し、それらの転写物は、ポリ(A)テイルを欠いている。これらのプロモーターの終結シグナルは、ポリチミジントラクトによって定義され、転写物は、一般的に第2のコード化ウリジンの後で切断される。この位置での切断により、発現したshRNAにおける3’UUオーバーハングが発生するが、これは、合成siRNAの3’オーバーハングと類似する。哺乳類細胞におけるshRNAを発現させる追加の方法は、上記引用した参考文献に記載されている。
【0117】
適切な発現ベクターの例は、明確な転写開始部位及び5つの連続したアデニン−チミジン対からなる終結シグナルを有するポリメラーゼ−III H1−RNA遺伝子プロモーターを含むpSUPER(商標)(Oligoengine社、Seattle、WA)である。Brummelkamp et al., supra。転写産物は、(終結配列によりコードされる5つの)第2のウリジンの後の部位で切断され、それにより、ヌクレオチドオーバーハングも含む合成siRNAsの末端に類似する転写物を生じさせる。siRNAへと転写される配列は、第1の配列の逆補体を含む第2の配列から短いスペーサーにより分離された、mRNA標的の一部と相補的な第1の配列を含む転写物を生成するようにベクターにクローン化される。結果として生じる転写物は、それ自体の上で折り返して、RNA干渉(RNAi)を媒介するステムループ構造を形成する。
【0118】
別の適切なsiRNA発現ベクターは、別々のpol IIIプロモーターの調節の下でセンス及びアンチセンスsiRNAをコードする。Miyagishi et al. (2002) Nature Biotech. 20:497-500。このベクターにより生成したsiRNAも5つのチミジン(T5)終結シグナルを含む。
【0119】
siRNA、shRNA及び/又はこれらをコードするベクターは、各種の方法、例えば、リポフェクションにより細胞に導入されうる。ベクター媒介法も開発されている。例えば、siRNA分子は、レトロウイルスを用いて細胞内に送達することができる。レトロウイルス送達は、効率が高く、均一で、安定な「ノックダウン(knock-down)」細胞を即時に選択するので、レトロウイルスを用いるsiRNAの送達は、一定の状況において利点がある。Devroe et al. (2002) BMC Biotechnol. 2:15。
【0120】
最近の科学刊行物では、そのような短い2本鎖RNA分子の標的mRNA発現の阻害における有効性が検証され、かくて、そのような分子の治療可能性が明らかに示されている。例えば、RNAiは、C型肝炎に感染した細胞(McCaffrey et al. (2002) Nature 418:38-39))、HIV−1感染細胞(Jacque et al. (2002) Nature 418:435-438)、子宮頚癌細胞(Jiang et al. (2002) Oncogene 21:6041-6048)及び白血病細胞(Wilda et al. (2002) Oncogene 21:5716-5724)における阻害のために利用されている。
【0121】
(リシルオキシダーゼ型酵素の発現を制御するための方法)
リシルオキシダーゼ型酵素の活性を制御するための別の方法は、遺伝子発現が抑制される場合には活性のレベルを低くし、遺伝子発現が活性化される場合にはレベルを高くして、そのコード化遺伝子の発現を制御することである。細胞における遺伝子発現の制御は、いくつかの方法によって達成されうる。
【0122】
例えば、鎖置換によって又は三重らせんの形成によってゲノムDNA(例えば、リシルオキシダーゼ型酵素の制御領域)を結合するオリゴヌクレオチドは、転写を遮断(block)し、それによって、リシルオキシダーゼ型酵素の発現を阻止することができる。この点において、オリゴヌクレオチドがその標的の1本の鎖上のポリプリンのストレッチ(stretch)及び他の鎖上のホモプリン配列を認識する、いわゆる「スイッチバック」化学的連結の使用が記載されている。人工塩基を含むオリゴヌクレオチドを用いて、三重らせんの形成も得ることができ、それによって、イオン強度及びpHに関する結合状態を拡張することができる。
【0123】
リシルオキシダーゼ型酵素をコードする遺伝子の転写の制御もまた、例えば、機能ドメイン、DNA結合ドメイン、又はそのような融合タンパク質をコードする核酸を含む融合タンパク質を細胞に導入することによって、達成することができる。機能ドメインは、例えば、転写活性化ドメイン又は転写抑制ドメインでありうる。例示的な転写活性化ドメインには、VP16、VP64及びNF−κBのP65サブユニットが含まれ;例示的な転写抑制ドメインには、KRAB、KOX及びv−erbAが含まれる。
【0124】
ある実施形態において、そのような融合タンパク質のDNA結合ドメイン部分は、リシルオキシダーゼ型酵素をコードする遺伝子内若しくはその近傍で、又はそのような遺伝子の制御領域内で結合する配列特異的DNA結合ドメインである。配列特異的DNA結合ドメインは、当然に遺伝子若しくは制御領域で又はその近傍で配列に結合することができるか、或いはそのように結合するよう設計することができる。例えば、DNA結合ドメインを、リシルオキシダーゼ型酵素をコードする遺伝子の発現を制御する天然起源のタンパク質から得ることができる。或いは、DNA結合ドメインを、リシルオキシダーゼ型酵素をコードする遺伝子内又はその近傍で或いはそのような遺伝子の制御領域内で選択配列(sequence of choice)に結合するよう設計することができる。
【0125】
この点において、亜鉛フィンガータンパク質(zinc finger protein)を任意の選択DNA配列に結合するよう設計することができることを考慮すると、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインが有用である。亜鉛フィンガー結合ドメインは、1以上の亜鉛フィンガー構造を含む。Miller et al. (1985) EMBO J 4:1609-1614;Rhodes (1993) Scientific American, February: 56-65;米国特許第6,453,242号。典型的には、単一の亜鉛フィンガーは、約30アミノ酸長であり、4つの亜鉛配位アミノ酸残基を含む。構造研究によって、正準(C)亜鉛フィンガーモチーフは、αヘリックス(一般的には、2つの亜鉛配位ヒスチジン残基を含む)に抗してパッキングされる2つのβシート(一般的には2つの亜鉛配位システイン残基を含むβターンに保持される)を含むことが示されている。
【0126】
亜鉛フィンガーは、正準C亜鉛フィンガー(即ち、亜鉛イオンが2つのシステインと2つのヒスチジン残基によって配位されているもの)、並びに例えば、CH亜鉛フィンガー(亜鉛イオンが3つのシステイン残基と1つのヒスチジン残基によって配位されているもの)及びC亜鉛フィンガー(亜鉛イオンが4つのシステインによって配位されているもの)等の非正準亜鉛フィンガーの両方を包含する。非正準亜鉛フィンガーは、システイン又はヒスチジン以外のアミノ酸がこれらの亜鉛配位残基の1つの代わりになるものも包含しうる。例えば、WO02/057293(2002年7月25日)及びUS2003/0108880(2003年6月12日)を参照されたい。
【0127】
亜鉛フィンガー結合ドメインは、天然起源の亜鉛フィンガータンパク質と比較して、新規結合特異性を有するように設計されうる;それによって、選択配列に結合するよう設計された亜鉛フィンガー結合ドメインの構築が可能となる。例えば、Beerli et al. (2002) Nature Biotechnol. 20:135-141;Pabo et al. (2001) Ann. Rev. Biochem. 70:313-340;Isalan et al. (2001) Nature Biotechnol. 19:656-660;Segal et al. (2001) Curr. Opin. Biotechnol. 12:632-637;Choo et al. (2000) Curr. Opin. Struct. Biol. 10:411-416を参照されたい。設計方法には、合理的設計(rational design)及び各種の経験的選択法(empirical selection method)が含まれるが、これらに限定されない。
【0128】
合理的設計には、例えば、3塩基連鎖(triplet)(又は4塩基連鎖)ヌクレオチド配列及び個々の亜鉛フィンガーアミノ酸配列であって、各3塩基連鎖又は4塩基連鎖ヌクレオチド配列が特定の3塩基連鎖又は4塩基連鎖配列を結合する亜鉛フィンガーの1以上のアミノ酸配列と会合しているものを含むデータベースを用いることが含まれる。例えば、米国特許第6,140,081号;同第6,453,242号;同第6,534,261号;同第6,610,512号;同第6,746,838号;同第6,866,997号;同第7,030,215号;同第7,067,617号;米国特許出願公開第2002/0165356号;同第2004/0197892号;同第2007/0154989号;同第2007/0213269号;並びに国際特許出願公開第WO98/53059号及び同第WO2003/016496号を参照されたい。
【0129】
ファージディスプレイ、相互作用トラップ、ハイブリッド選択及びツーハイブリッドシステム(two-hybrid system)を包含する例示的な選択法が、米国特許第5,789,538号;同第5,925,523号;同第6,007,988号;同第6,013,453号;同第6,140,466号;同第6,200,759号;同第6,242,568号;同第6,410,248号;同第6,733,970号;同第6,790,941号;同第7,029,847号及び同第7,297,491号;並びに米国特許出願公開第2007/0009948号及び同第2007/0009962号;WO98/37186、WO01/60970及びGB2,338,237に開示されている。
【0130】
亜鉛フィンガー結合ドメインに対する結合特異性の増大は、米国特許第6,794,136号(2004年9月21日)に記載されている。インターフィンガー(inter-finger)リンカー配列に関して、亜鉛フィンガー設計の別の視点は、米国特許第6,479,626号及び米国特許出願公開第2003/0119023号に開示されている。Moore et al. (2001a) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:1432-1436;Moore et al. (2001b) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:1437-1441及びWO01/53480も参照されたい。
【0131】
設計された亜鉛フィンガーDNA結合ドメインを含む融合タンパク質の使用についての更なる詳細は、例えば、米国特許第6,534,261号;同第6,607,882号;同第6,824,978号;同第6,933,113号;同第6,979,539号;同第7,013,219号;同第7,070,934号;同第7,163,824号及び同第7,220,719号に見出される。
【0132】
リシルオキシダーゼ型酵素の発現を制御するための追加の方法は、遺伝子又はその発現を制御する制御領域の何れかの標的突然変異誘発を包含する。ヌクレアーゼドメイン及び設計されたDNA結合ドメインを含む融合タンパク質を用いる標的突然変異誘発のための代表的な方法は、例えば、米国特許出願公開第2005/0064474号;同第2007/0134796号;及び同第2007/0218528号に与えられる。
【0133】
(製剤(formulations)、キット及び投与経路)
リシルオキシダーゼ型酵素の活性の修飾因子(例えば、リシルオキシダーゼ型酵素の阻害物質又は活性化物質)と同定された化合物を含有する治療組成物も与えられる。そのような組成物は、典型的には修飾因子と製薬上許容できる担体を含有する。補充的活性化合物も、前記組成物に組み込むことができる。
【0134】
本書において使用される用語「治療上有効な量」又は「有効量」とは、細胞、組織、又は対象(例えば、ヒト又は霊長類、げっ歯類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ等の非ヒト動物等の哺乳動物)に単独で又は別の治療剤と組み合わせて投与したときに病状又は病気の進行を阻止或いは寛解するのに有効である治療剤の量をいう。治療上有効な用量は、さらに症状の完全又は部分的な寛解、例えば関連する病状の治療、治癒、予防又は寛解をもたらし、或いはそのような病状の治療、治癒、予防又は寛解の割合を上昇させるのに十分な化合物の量をいう。リシルオキシダーゼ型酵素の活性の阻害剤の治療上有効な量は、疾患又は障害のタイプ、疾患又は障害の範囲、及び疾患又は障害を患う器官の大きさに伴って変動する。
【0135】
本書において開示されている治療組成物は、特に、線維症の障害を低減し、腫瘍増殖を阻害し、癌転移を阻害するのに有用である。したがって、リシルオキシダーゼ型酵素の活性の修飾因子(例えば、阻害剤)の「治療上有効な量」は、線維症の障害の低減、腫瘍増殖の低減、及び/又は癌転移の減少をもたらす量である。例えば、リシルオキシダーゼ型酵素の阻害剤が抗体であり、前記抗体がin vivoで投与される場合には、標準投与量は、1日当たり哺乳動物の体重1kg当たり約10ngから100mgまで或いはそれ以上、例えば、体重、投与経路、疾患の重症度等に応じて、例えば、約1μg/kg/日〜50mg/kg/日、場合によっては約100μg/kg/日〜20mg/kg/日、500μg/kg/日〜10mg/kg/日、又は1mg/kg/日〜10mg/kg/日の範囲で変動してもよい。
【0136】
各種の医薬組成物並びにそれらの調製及び使用のための技術は、本願の開示を考慮すれば、当業者に周知である。適当な医薬組成物及びそれらの投与技術の詳細なリストのために、本書においては、詳細な技術を参照してもよく、Remington's Pharmaceutical Sciences, 第17版 1985;Brunton et al., "Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics," McGraw-Hill, 2005;University of the Sciences in Philadelphia (編), "Remington: The Science and Practice of Pharmacy," Lippincott Williams & Wilkins, 2005;及びUniversity of the Sciences in Philadelphia (編), "Remington: The Principles of Pharmacy Practice," Lippincott Williams & Wilkins, 2008等の教本によって更に補足されてもよい。
【0137】
前記開示した治療組成物には、更に、製薬上許容できる材料、組成物或いはビヒクル、例えば液体若しくは固体フィラー、希釈剤、賦形剤、溶媒又は封止材、即ち担体(carriers)等が含まれる。これらの担体は、ある器官又は身体の領域から、別の器官又は身体の領域へ対象の修飾因子を輸送するのに寄与する。各担体は、製剤の他の成分と適合性があり、かつ患者に有害ではないという意味において「許容できる」べきである。製薬上許容できるとして役立ちうる材料のいくつかの例には:ラクトース、グルコース及びスクロース等の糖類;トウモロコシ澱粉及びジャガイモ澱粉等の澱粉類;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロース等のセルロース及びその誘導体;トラガント末;麦芽;ゼラチン;タルク;カカオバター及び坐剤蝋(suppository wax)等の賦形剤;落花生油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油及び大豆油等の油類;プロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール等のポリオール類;オレイン酸エチル及びラウリン酸エチル等のエステル類;寒天;水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム等の緩衝剤;アルギン酸;発熱物質不含有水;等張生理食塩水;リンゲル溶液;エチルアルコール;リン酸緩衝溶液;医薬製剤において使用される他の無毒な適合性物質が含まれる。湿潤剤、乳化剤及びラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、並びに着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤及び香料、防腐剤及び抗酸化剤も前記組成物中に存在することが可能である。
【0138】
本願の開示の別の視点は、リシルオキシダーゼ型酵素の活性の修飾因子の投与を行うためのキットに関する。ある実施形態において、キットは、必要に応じて、任意に1以上の追加の治療剤を含む、医薬担体中に処方されたリシルオキシダーゼ型酵素の活性の阻害剤(例えば、LOX又はLOXL2の阻害剤)を含む。
【0139】
製剤及び送達方法は、線維症の障害、腫瘍増殖、又は転移の部位(1又は複数)及び程度に従って採用されうる。製剤の例には、ミセル、リポソーム又は薬剤放出カプセル(徐放のために設計された生体適合性コーティングの内部に組み込まれている活性化剤)で被包されている製剤;摂取可能な製剤(ingestible formulations);点眼剤、クリーム、軟膏及びゲル等の局所使用製剤;吸入剤、煙霧剤及び噴霧剤等の他の製剤を含む、非経口投与、例えば、静脈投与、動脈投与、眼内投与、又は皮下投与に適したものが含まれるが、これらに限定されない。本開示の化合物の用量は、治療の必要性の範囲及び重症度、投与される組成物の活性、対象の一般的な健康、並びに当業者にとって周知の他の考慮すべき事柄に従って変動するであろう。
【0140】
別の実施形態において、本書に記載される組成物は、局所的に送達される。局所送達は、組成物の例えば、傷、腫瘍又は線維症領域への非全身的送達を考慮しており;それにより、全身送達と比較して、組成物の体内負荷を低減する。したがって、本願の開示は、全身及び局所送達(例えば、腫瘍又は線維症組織への送達)のための製剤及び送達方法を与える。
【0141】
リシルオキシダーゼ型酵素(又は他のいかなるタイプのリシルオキシダーゼ型酵素、例えば、リボザイム、siRNA、shRNA又はマイクロRNAの活性の修飾因子;例えば、阻害剤)に対する抗体をコードする核酸は、任意にウイルスベクターにキャプシド形成されうる。パルボウイルス、パポーバウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、レトロウイルス及びレンチウイルスを含む、いくつかのウイルスベクターが当該技術分野において周知である。
【実施例】
【0142】
(実施例1)
ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells)(HUVEC)
脈管形成/血管新生アッセイ(vasculogenesis/angiogenesis assay)
概要
in vitro脈管形成/血管新生アッセイで抗LOXL2抗体AB0023の効果を測定して、試験を行った。この目的のため、HUVECベースのin vitro系において、VEGF(血管新生プロモーター)、スラミン(suramin)(血管新生阻害剤)及び培地単独と一緒に、AB0023の用量範囲をテストした。測定を、1、4、7及び9日目に培地の交換をして11日間行った。11日後、ウェルを、70%エタノールで固定し、血管を、血管内皮マーカー、CD31の発現についてテストした。ウェル当たり4つのランダム箇所(random field)の画像を撮影し、専門家のソフトウェア解析パッケージ(specialist software analysis package)を用いて、各ウェルについて分岐点の数、血管の数及び総血管長を計算した。
【0143】
この解析の結果によって、血管分岐点の数、血管の数、及び総血管長によって測定されたとおり、AB0023は、このアッセイにおいて、血管の形成を著しく阻害したことが示された。最も高い用量(50μg/ml)では、血管形成は、完全に消失したが、10、5及び1μg/ml用量では三つのパラメータの全てが、コントロールウェルと比較して著しく低減した(p<0.05 one way ANOVA)。二つの最も低い用量(0.5及び0.1μg/ml)の試験品でも、測定された三つの血管パラメータの低減が生じたが、これらは、統計学的にコントロールウェルとは相違がなかった。スラミン及びVEGFでは、コントロールウェルと比較して、それぞれ、三つの血管パラメータの全てにおいて著しい減少及び増加が生じた(p<0.05 one way ANOVA)。
【0144】
これらの結果から、AB0023は、このHUVECベースのin vitroアッセイにおいて、試験された四つの最高用量(50、10、5及び1μg/ml)で新規血管の形成を著しく阻害するという結論が導き出される。
【0145】
細胞培養及び投与量
HUVEC及びマトリックス産生細胞(ヒト線維芽細胞支持細胞層(feeder layer of human fibroblast))を、培養において細管形成の最も初期の段階が示されるまで、内皮増殖培地の24ウェルプレートで培養した。表1に詳述されているように、この時点(1日目)で、試験品及びコントロールを含む新鮮な内皮細胞増殖培地を、ウェルに、ウェル当たり0.5mlで添加した。表1にしたがって、試験品及びコントロールを、2連(duplicate)又は3連(triplicate)に添加し、培地のみを、基線の内皮増殖コントロールとして働くtriplicateに添加した。その後、プレート(plate)を、37℃、5%COで培養した。4、7及び9日目に、培地を全てのウェルから取り除き、表1に詳述されているように、試験品及びコントロールを含む0.5mlの新鮮な培地と慎重に置き換えた。11日目に、以下に詳述されているように、プレートを固定し、CD31について標識した。試験の各日において、プレートを、倒立顕微鏡を用いて可視化して、正常な細胞増殖を確認し、汚染しないようにした。
【0146】
【表1】

【0147】
血管のCD31標識
11日後、ウェルから培地を慎重に吸引することによって、プレートを、固定し、ウェル当たり1mlのPBSで洗浄し、その後、1mlの氷冷70%エタノールを、室温で30分間添加した。その後、固定液を慎重に除去し、ウェルを、1%BSAを含むPBSで1:400希釈した0.5mlマウス抗ヒトCD31抗体とともにインキュベートし、37℃で60分間インキュベートした。その後、ウェルを1mlPBSで3回洗浄し、次いで、1%BSAを含むPBSで1:500希釈した0.5mlヤギ抗マウスIgGアルカリホスファーゼコンジュゲート第二抗体とともに37℃で60分間インキュベートした。ウェルを、新鮮調製及びろ過したBCIP/NBT基質の37℃で10分間のインキュベーションの前に、更に3回洗浄した。その後、ウェルを、1ml蒸留水で3回慎重に洗浄し、一晩中、空気乾燥させた。
【0148】
データ分析
10倍の拡大率のLeica倒立顕微鏡におけるNikon Coolpixカメラを用いて、各ウェルのデジタル画像を得た。ウェル当たり4つのランダム箇所を画像化して、全部で96の画像を得た。その後、画像を、BMPファイルに変換し、画像解析パッケージにインポートして(import)、血管分岐数、血管数及び総血管長を測定した。これは、CD31染色した血管のみが検出されるよう画像をあるしきい値を境に二値化する(threshold)ことによって行われるが、その後ソフトウェアは、単一のピクセル幅(single pixel width)の血管を生ずるようデータ圧縮(skeletonize)した。これらから、個々の血管長、総血管長及び血管分岐点の数を測定した。その後、それらのデータをExcelに転送して、各データセットの平均及び標準偏差を計算した。基本的な統計は、one-way ANOVAを用いて行った。
【0149】
結果
図1に示したように、50μg/ml投与量のAB0023では、血管増殖及び形成が完全に消失した。血管がなくなったことにより、この群については血管の数、長さ又は分枝のデータを入手できなかった:したがって、以下に議論した分析から除外した。血管増殖及び形成は、AB0023の全ての他の濃度で観察されたが、抗LOXL2抗体によって用量依存的な様式で阻害された。コントロールウェル(図3)と比較すると、スラミンへの曝露によって血管形成が減少した(図2);一方、VFGFへの曝露によって血管形成の増加が生じた(図4)。
【0150】
プレート(plate)につき撮影された96の画像を、画像分析ソフトを用いて数値化し(quantify)、データを集めた。その後、測定された三つの異なるパラメータ(血管分岐点の数、血管数及び総血管長)について、平均値及び標準偏差値を得た。これらの結果は、AB0023によって分岐点の数、血管総数、及び総血管長における用量依存的な減少が誘発されることを示した。コントロール群と比較すると、10、5及び1μg/mlの試験品又は20μMスラミンでの治療によって分岐の数が著しく減少したのに対して、2ng VEGFによって分岐が著しく増加した(p<0.05 one way ANOVA)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LOXL2活性の阻害剤を同定する方法であって、前記方法は、下記を含み:
(a)ストローマ細胞の存在下で増殖する内皮細胞の共培養物を用意すること;
(b)前記共培養物に試験分子を添加すること;並びに
(c)血管新生又は脈管形成について前記共培養物を分析すること;
前記試験分子の不存在下における共培養物と比較して、共培養物中の血管新生又は脈管形成の程度を低減する試験分子を、LOXL2活性の阻害剤と同定する方法。
【請求項2】
前記内皮細胞が、ヒト内皮細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記内皮細胞が、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ストローマ細胞が、ヒト細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ストローマ細胞が、線維芽細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試験分子が、ポリペプチドであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリペプチドが、抗体であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体が、抗LOXL2抗体であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記試験分子が、核酸であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記核酸が、siRNAであることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記試験分子が、1000D未満の分子量の小有機分子であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
血管新生又は脈管形成の程度の低減が、血管の数若しくは密度の低減によって示されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
血管新生又は脈管形成の程度の低減が、血管長の低減によって示されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
血管新生又は脈管形成の程度の低減が、血管分岐の程度の低減によって示されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
血管新生又は脈管形成の程度の低減が、CD31のレベルの低減によって示されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−502228(P2013−502228A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525748(P2012−525748)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/046247
【国際公開番号】WO2011/022709
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(512043588)ギリアド バイオロジクス,インク. (7)
【氏名又は名称原語表記】GILEAD BIOLOGICS,INC.
【Fターム(参考)】