説明

invivo経皮吸収測定法・敏感肌評価法

【課題】敏感肌において外界からの物質の経皮吸収性(皮膚バリア機能)をin vivo で非侵襲で測定することにより、敏感肌評価法を提供し、さらに敏感肌用薬剤スクリーニング法を提供する。
【解決手段】蛍光物質を塗布した皮膚の蛍光ビデオマイクロスコープ観察で得た画像によりin vivo経皮吸収性又は皮膚バリア機能を判定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、in vivo経皮吸収性又は皮膚バリア機能の判定方法、敏感肌評価方法および敏感肌用薬剤評価法に関する。in vivo経皮吸収性又は皮膚バリア機能の判定方法、敏感肌評価方法は、外界の刺激物質が皮膚中に侵入しやすいために刺激を受けやすい敏感肌を評価することに適し、美容学・化粧学的観点において有用である。また、この評価法を用いて敏感肌用薬剤を評価することにより、敏感肌の皮膚バリア機能を強化する薬剤をスクリーニングすることができ、有効な化粧品成分の研究・開発に有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、敏感肌における皮膚バリア機能の評価法の必要性が考慮されてきていたが、敏感肌に関するメカニズム、定義などが明らかではなかった。一般的には、皮膚バリア機能として経皮水分蒸散量(transepidermal water loss; TEWL)を測定し、皮膚内側から外界に蒸散する水分量でバリア機能の評価を代用してきた。
【0003】
一方、外側から皮膚内側への物質の経皮吸収の研究も進められ、実際には、動物の皮膚を用いた検討が主になされており、対象物質を吸収させた皮膚を採取して切片を作成したり、または採取した皮膚をすりつぶして対象物質量を定量したりすることにより評価が行われている。しかしながら、これらの方法では皮膚を採取する必要がある。
【0004】
また近年、敏感肌を訴える人が増加して、敏感肌に適した皮膚外用剤の開発が求められている。そのために敏感肌における経皮吸収性(皮膚バリア機能)の測定法が求められているが、皮膚を採集する必要のある方法では実際の敏感肌の人で測定を行うことは困難であった。従って、敏感肌の人の経皮吸収性(皮膚バリア機能)を、皮膚採取を行うことなく非侵襲で行い評価する方法は、美容学的観点や、有効な化粧品成分の研究開発を行う上で重要である。非侵襲の経皮吸収測定法としては特開平1−191040号公報に開示の光音響測定装置を用いる方法や特開平5−107232号公報に開示の薬剤の経皮吸収測定法があるか、いずれも測定装置が大掛かりなため高額で汎用性がなく、また持ち運びができないため、実際の試験で用いるには困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開平1−191040
【特許文献2】特開平5−107232
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、非侵襲的な方法で経皮吸収性又は皮膚バリア機能の判定方法、敏感肌評価方法、敏感肌用薬剤評価方法を提供することを課題とする。
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み、経皮吸収させるための物質と評価する機器を調べた結果、フルオレセインおよびその塩をはじめとする蛍光物質を蛍光ビデオマイクロスコープで測定することによりin vivo 非侵襲で測定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
従って、本願は以下の発明を包含する:
(1)蛍光物質を塗布した皮膚の蛍光ビデオマイクロスコープ観察で得た画像によりin vivo経皮吸収性又は皮膚バリア機能を判定する方法。
(2)前記蛍光物質がフルオレセインまたはその塩である(1)の方法。
(3)蛍光物質を塗布した皮膚の蛍光ビデオマイクロスコープ観察で得た画像により敏感肌を評価する方法。
(4)前記蛍光物質がフルオレセインまたはその塩である(3)の方法。
(5)敏感肌用薬剤の効果を測定するために(3)又は(4)の方法を用いた敏感肌用薬剤評価法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非侵襲的な手段による経皮吸収性又は皮膚バリア機能の判定方法、敏感肌評価方法、敏感肌用薬剤評価方法が提供される。
【0010】
以下、本発明の構成について詳細に説明する。
本発明に用いられる蛍光物質は、蛍光を発し、毒性が少なく、従来も臨床で用いられているものであれば特に限定されるものではなく、好ましくはフルオレセイン(fluorescein)又はその塩である。塩としては、特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、イソチオシアネート塩、等が挙げられる。
このような蛍光物質を使用することで、人体やヒトの肌に対して害を及ぼすことなく、非侵襲に経皮吸収を測定することができる。
【0011】
本発明において特に好ましい蛍光部質はフルオレセインナトリウムであり、それは490nm(青色)の波長の励起光を照射することにより515nm(緑色)の波長の蛍光を発する物質である。分子量376.27(fluorescein単体は332.31)の水溶性物質であり、その性質から経皮吸収の測定には代表的例として使用されている。フルオレセインは、臨床で、主に眼科外来で蛍光眼底造影検査に使用され、糖尿病網膜症, 中心性漿液性網脈絡膜症, 網膜中心静脈閉塞症などの診断検査のために用いられる。しかしながら、皮膚角層バリア機能の測定のためにin vivo 非侵襲で用いる方法については知られていない。
【0012】
その他、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やダンシルクロライドなどその他の蛍光物質を用いた測定も可能である。さらにはFITC標識IgGなど、蛍光標識した物質を用いることも可能である。
【0013】
ビデオマイクロスコープは小型のプローブを観察対象物(本発明では皮膚)に近づけることによって、物を拡大して観察する機器である。したがってプローブを動かすことによって、任意の場所の測定を行うことが可能である。顕微鏡のように、ステージ上に観察対象物を固定する必要がないため、ステージに載らない大きな物を観察することが可能であるため、肌測定に適している。また機器全体でも小型であり、人が持ち運ぶことが可能である。
【0014】
ビデオマイクロスコープは、CCDカメラによって観察した画像をモニター上に写し出すシステムである。通常のビデオマイクロスコープは可視光を観察対象物に照射して、反射するすべての光から拡大画像を得るものである。本発明に用いた蛍光ビデオマイクロスコープは、特定の波長のみの励起光を照射し、特定の波長の反射光を検出するよう、通常のビデオマイクロスコープを改造したものが使用できる。本発明で好適に使用されるビデオマイクロスコープは、他の光が当たらないように遮光された状態で皮膚に青色LEDで光を照射し、緑色フィルタを通してCCDカメラで撮影することにより、蛍光画像を得ることができる。
【0015】
本発明における蛍光物質は、塗布する際の水溶液中0.0001〜5.0質量%、好ましくは0.01〜0.5質量%である。溶媒には水の他、エタノールや含水エタノールを用いることもでき、さらにはジェルやクリーム、軟膏といった製剤にすることもできる。また塗布の方法は直接皮膚上に適用する他、パッチテスト用絆創膏などを用いて閉塞塗布することもできる。そして、これらの剤型及び形態に、本発明の経皮吸収性(皮膚バリア機能)判定方法・敏感肌評価方法の採り得る形態が限定されるものではない。
【0016】
蛍光物質を塗布した皮膚の蛍光ビデオマイクロスコープ観察で得た画像を解析した結果、蛍光物質の発光が強く認められるほど、蛍光物質が皮膚に吸収され、皮膚の経皮吸収性が高い、又は皮膚バリア機能が低いと判定できる。また、このような皮膚吸収性の高い又は皮膚バリア機能の低い肌は概して「敏感肌」と考えられるため、ここで得られた画像は敏感肌の判定に利用される。
【0017】
本発明を応用すると、蛍光物質塗布後にテープストリッピングなどで最外層の角層を除去することにより、皮膚内側まで吸収された蛍光物質をより明瞭に観察することができる。また、蛍光ビデオマイクロスコープで撮影した画像を解析することにより、経皮吸収性の高い、換言すればバリア機能の悪い部位をピンポイントで特定することができる。また、画像の輝度を解析することにより数値化して解析することも可能である。そして、これらの方法及び形態に、本発明の経皮吸収性(皮膚バリア機能)判定方法・敏感肌評価方法の得る形態が限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
次に、本発明の抗老化剤を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。実施例に先立ち、本発明の測定法・評価法に関する試験方法とその結果について説明する。
【0019】
1.経皮吸収量との比較
市販のユカタンミニブタ皮膚を用い、従来用いられてきた凍結切片による経皮吸収観察との比較実験を行った。経皮吸収性(皮膚バリア機能)の異なる皮膚を作成するため、ユカタンミニブタ皮膚の一部をアセトンで脱脂した。アセトン処理をおこなった部位と処理を行っていない部位の双方に0.1%フルオレセインナトリウム水溶液を5分間、開放塗布した。塗布後に皮膚試料を水洗し、蛍光ビデオマイクロスコープでの観察ならびに凍結切片の作成による観察を行った。
【0020】
その結果を図1に示す。アセトンで人為的に経皮吸収性を高めた(バリア機能を悪化させた)部位では、凍結切片写真よりフルオレセインの経皮吸収が多いことがわかる(図1(a))。これを蛍光ビデオマイクロスコープで観察した結果と比較すると、同じ傾向にあることがわかる(図1(b))。
また、この画像を解析して輝度を算出すると、バリア破壊部位で22.2、対照部位で8.5(それぞれn=6の平均)となり(図1(c))、バリア破壊側の方が有意に高いことがわかった。
【0021】
2.経皮水分蒸散量との比較
ヒト前腕皮膚を用い、アセトンでバリア破壊した皮膚と正常皮膚を用いた測定を行った。0.1%フルオレセインナトリウム水溶液を5分間、パッチテスト用絆創膏を用いて閉塞塗布した。塗布後に皮膚試料を水洗し、さらに最外層の角層をテープストリッピングで2枚剥離した、その後蛍光ビデオマイクロスコープでの観察を行った。撮影した画像は画像解析ソフト(Photoshop)により、輝度を算出した。同時に同部位で経皮水分蒸散量(transepidermal water loss; TEWL)をTewameter(Vapometer)を用いて測定し、両者を比較した。その結果を図2に示し、TEWLと輝度とが相関することがわかる。
【0022】
3.顔面での測定例
ヒト前腕皮膚を用い、0.1%フルオレセインナトリウム水溶液を5分間、パッチテスト用絆創膏を用いて閉塞塗布した。塗布後に皮膚試料を水洗した。その後、テープストリピングによる最外層の角層の除去を行いながら、蛍光ビデオマイクロスコープで観察を行った。この結果を図3に示す。フルオレセイン塗布後にテープストリッピングにより最外層の角層を剥離していっても毛穴部は蛍光が残り、より皮膚内部まで経皮されていることが観察された。このように、同一画像内で、経皮吸収性の高い部位(バリア機能が悪い部位)を特定することが本発明により可能であった。
【0023】
4.前腕部を用いたオレイン酸肌荒れ試験
7名の健常男性の前腕部を用いた。各人の片方の前腕部に30%のオレイン酸(溶媒:エタノール)を、パッチテスト用絆創膏(鳥居薬品)を用いて100マイクロリットル閉塞塗布し、もう一方の前腕は無処理とした。オレイン酸処理は一日一回、一回3時間、連続3日間行った。一日おいて、5日目に0.1%フルオレセインナトリウムを5分間、パッチテスト用絆創膏(鳥居薬品)を用いて100μl閉塞塗布した。剥離後に水洗し、その後セロテープ(登録商標)で表面角層を二回剥離した。次いで、蛍光ビデオマイクロスコープで観察した。観察した画像は、画像処理ソフト(Photoshop)で、画像全体の輝度の平均を求めた。その結果を図4に示し、オレイン酸処理により経皮吸収性が有意に上昇(皮膚バリア機能が有意に悪化)することがわかる。
【0024】
別途、上記オレイン酸処理及び無処理の前腕部のTEWLをVapometerで測定し、上記蛍光ビデオマイクロスコープで得られた輝度(VMS輝度)との相関を調べた。その結果を図5に示し、VMS輝度とTEWL値との間に相関があることがわかる(相関係数R=0.75)。
【0025】
5.DP製剤塗布試験
1ヶ月間ハーフフェイスでd-program製品(化粧水(ローション2)、乳液(エマルジョン2)・クリーム(クリームAD)を連用した。連用後、両頬に0.1%フルオレセインナトリウムを1分間、パッチテスト用絆創膏(鳥居薬品)を用いて100μl閉塞塗布した。剥離後水洗し、表面角層を2回テープで剥離し、そのあと蛍光ビデオマイクロスコープで観察した。その結果を図6に示し、スキンケアにより経皮吸収性が抑えられ、バリア機能が高まることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は経皮吸収性、皮膚バリア機能や敏感肌の判定に有効であるため、美容業界、化粧品業界において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ユカタンミニブタ皮膚におけるフルオレセインの経皮吸収を、凍結切片による観察と蛍光ビデオマイクロスコープによる観察の結果を比較して示す。
【図2】ヒト前腕部皮膚におけるバリア機能を、フルオレセインの経皮吸収から測定した値と、TEWLとを比較して示す。
【図3】ヒト頬部皮膚におけるフルオレセインの経皮吸収を蛍光マイクロスコープで測定した画像を示す。
【図4】オレイン酸による処置及び無処置のヒト前腕部の蛍光ビデオマイクロスコープ輝度の比較を示す。
【図5】ヒト前腕部の蛍光ビデオマイクロスコープ輝度とTEWLとの相関を示す。
【図6】DP製剤の連用により皮膚バリア機能を高めた肌の蛍光物質in vitro 経皮吸収性の低下を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光物質を塗布した皮膚の蛍光ビデオマイクロスコープ観察で得た画像によりin vivo経皮吸収性又は皮膚バリア機能を判定する方法。
【請求項2】
前記蛍光物質がフルオレセインまたはその塩である請求項1記載の方法。
【請求項3】
蛍光物質を塗布した皮膚の蛍光ビデオマイクロスコープ観察で得た画像により敏感肌を評価する方法。
【請求項4】
前記蛍光物質がフルオレセインまたはその塩である請求項3記載の方法。
【請求項5】
敏感肌用薬剤の効果を測定するために請求項3又は4記載の方法を用いた敏感肌用薬剤評価法。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−120513(P2009−120513A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294604(P2007−294604)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】