説明

m−クロロ芳香族類の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は相応するo−及び/又はp−クロロ芳香族類をゼオライト上で異性化してm−クロロ芳香族類にする特に有利な製造方法に関する。ジクロロベンゼン及びクロロトルエンは一般的にはモノクロロベンゼン及びトルエンをそれぞれ塩素化することにより製造されるが、この製造法では、反応条件及び使用する触媒によって、異なる組成を持つ異性体の混合物が得られる。これら混合物にはo−,m−及びp−ジクロロベンゼン又はo−,m−及びp−クロロトルエンが含まれている。
【0002】
しかしながら各m−異性体はそれぞれの混合物中には非常に少なくしか存在していない(Ullmanns Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th edition,volume A6, 333ページ以降参照)。
しかしながら、ある応用分野、例えば作物保護剤類や医薬類の中間体の製造、においては主にm−ジクロロベンゼン及びm−クロロトルエンが必要とされるため、相応するo−及び/又はp−化合物を異性化してm−ジクロロベンゼン及びm−クロロトルエンを製造する方法がいくつか開示されて来ている。これらの方法で特に興味あるものは異性化用触媒としてゼオライト類を用いているものである。その理由としてこれらがプロセス指向型(processwise)であり、生態学的にも有利であることが挙げられる。(例えば、ドイツ国特許出願公開第3334673号,ドイツ国特許出願公開第3420706号,ヨーロッパ特許出願公開第46665号、および日本国特許出願昭57−27279号=特開昭58−144330号参照)
しかしながら、この方法には最高約200時間以内で該ゼオライト類を再生しなければならないという不利な点がある。
またこれは異性化されるクロロ芳香族類へ水素添加が可能な方法にも当てはまる。
ドイツ国特許出願公開第3334673号(DE−A 3334673)明細書には、気相でo−及びp−ジクロロベンゼンを異性化してm−ジクロロベンゼンを製造する方法において、ジクロロベンゼン類の分圧を下げるため窒素または水素を必要に応じて希釈剤として用いることが記載されている(6ページ、4から7行目参照)。特に1モル当たりのジクロロベンゼン類に対して4及び5.35モルの窒素を加えることが記載されている(実施例1と4参照)。ゼオライト触媒を再生しなければならない期間についてはなんら説明がなされていない。
【0003】
ドイツ国特許出願公開第3420707号(DE−A 34 20 707)明細書には2−,3−及び/又は4−クロロトルエンを、特に高活性であると同時に長時間の操作も可能な卓越したジルコニウム含有ゼオライト類を用いて異性化する方法が記載されている。該方法は気相または液相で操作され、水素を任意的に出発原料に、例えば2−クロロベンゼンを基礎として880モル%量、混合して用いることができる。
該触媒の活性と選択性は210時間保持される(実施例 1b参照)。
【0004】
それまでに知られていた方法においては、触媒の不活性化は非常に短期間で起きていた。(4ページ、9〜12行参照)
最後になるが、ヨーロッパ特許出願公開第46,665号(EP−A 46 665)明細書にハロゲン化トルエン類の異性化方法が開示されており、そこでは酸性ゼオライトが触媒として用いられている。その説明によれば、該方法は場合によっては水素の存在下で行うことができる(4ページ、14〜16行)。しかしながら、ガス添加の唯一の例として、実施例1で、o−クロロトルエン/クロロベンゼン混合物のモルあたり5モルの窒素ガスが用いられている記載があるだけである。
【0005】
該触媒を再生しなければならない周期については定量的なデータは何もない。そのため高い触媒活性を約200時間以上も保持でき、かつ触媒再生の必要を減らすことができる異性化によるm−クロロ芳香族類の製造法に対するニーズはいまもってある。
【0006】
本発明者らは、式(I)
【0007】
【化3】



【0008】
(式中、Xはメチルまたは塩素である)で示されるm−クロロ芳香族類を式(IIa)及び式(IIb)
【0009】
【化4】



【0010】
(式中、Xはメチルまたは塩素である)で示されるo−及び/又は p−クロロ芳香族類を異性化して製造する方法を見いだした。該方法は式(IIa)と式(IIb)で示されるo−及び/又はp−クロロ芳香族類を、液相状態でまた該クロロ芳香族類を基礎として1から30モル%の水素を存在させて高温下でゼオライトと接触させることを特徴としている。
【0011】
本発明の方法では、工業グレードのo−またはp−ジクロベンゼンまたは工業グレードのo−またはp−クロロトルエン、またはo−及び/又はp−ジクロロベンゼン及び/又はp−クロロトルエン類を含有するいかなる好ましい混合物をも使用することができる。
【0012】
ベンゼンのジクロル化またはトルエンのモノクロル化の際に得られるような混合物またはこのようなクロル化混合物残液、例えば分溜及び/又は部分結晶化でできる混合物残液などを用いることが好ましく、このような混合物には、例えば、o−及び/又はp−ジクロロベンゼンまたはo−及び/又はp−クロロトルエン以外に、場合によってはクロル化に用いた出発原料、例えばベンゼン又はトルエン、より塩素化程度の低い化合物、例えばモノクロルベンゼン、より塩素化の進んだ化合物、例えばトリ及びテトラクロロベンゼンまたは例えばジ−及びトリクロロトルエン、およびすでに最高20重量%のm−ジクロロベンゼンまたは、最高15重量%のm−クロロトルエンが含れていてもよい。好ましくは該クロロ芳香族類はそれぞれのm−異性体の含有量が8重量%以下のものを使用する。
【0013】
本発明の方法では、原料のクロロ芳香族類またはクロロ芳香族混合物類の選択及びそれらのo−及び/又はp−異性体の含有量はとりたてて重要ではない。
【0014】
本発明での適切な温度は、例えば、150〜500℃の範囲内であるが、
本発明の方法は好ましくは200〜450℃の温度で行われる。それぞれの温度での圧力は使用されるクロロ芳香族類が実質上液相で存在するに十分な圧力になるよう設定される。このことは200℃未満の反応温度でも、加圧状態が必要であることを意味している。採用される反応温度にもよるが、適当な圧力は1〜100バールの、好ましくは10〜50バールの範囲にある。
【0015】
適当な反応器類は、例えば、ペレット化されたゼオライトまたは粒状のゼオライトが充填された耐圧性の反応管である。該反応器はニッケルまたはチタンまたはこれら金属の含有量の高い、例えばDIN 17742(1963) No.24602で指定される、合金を材料として製作されていることが望ましい。不適切な材料は鉄含有量の高い材料である。
本発明では、クロロ芳香族類を基準として1〜30モル%の水素を存在させて本発明の方法を実施すること、を発明の本質的な特徴としている。この量は3から10モル%、特に3.5から8モル%、であることが好ましい。過剰な水素が存在するとゼオライト触媒上での滞留時間に関してはマイナスに作用してしまい異性化反応がもはや液相では実質上完全には起こらなくなる。そのため過剰な水素の使用は避けるべきである。
【0016】
本発明の方法では例えばペンタジル、モルデナイト及び/又はフオージャサイト型などの多様のゼオライトが触媒として使用できるが、ペンタジル型のZSM−5ゼオライト類が好ましく、H型をしたZSM−5ゼオライト類がさらに好ましい。ゼオライトは、例えば平均粒子径が1から8mmの粒子の形にして、粒状で使用するのが有利である。場合によっては、該ゼオライト類は通常よく使用される結合剤を含んでいてもよい。
【0017】
本発明の方法は、例えば、ゼオライト上での時間当たりの重量空間速度(weight hourly space velocity)が0.05〜5h−1になるように行われる。好ましくは重量空間速度は0.07から5h−1、特に好ましくは0.1から2.5h−1の範囲に入るように選定される。
【0018】
もし本発明の方法で使用されるo−及び/又はp−クロロ芳香族類が妨害作用を持つ不純物を固体状及び/又は溶解された状態で含んでいる場合には、ゼオライトと接触させる前に、例えば、濾過及び/又は珪酸土、漂白土またはそれに類するもので処理することが有利である。本発明の方法ではo−及びp−クロロ芳香族類の異性化で使用するゼオライト触媒を高活性のまま、より長期間保つことが可能である。経済性の理由から、ゼオライトを再生使用することが実際的でなくなり、むしろ新しいゼオライトのバッチを使用した方がよい場合がしばしばある。
【0019】
本発明での長触媒寿命化により、該再生頻度と生産の妨げられる期間をこれまで可能と考えられていたレベルよりも非常に低いレベルにすることができる。 このような少量の水素の添加により、液相でo−及びp−クロロ芳香族類を異性化する際に使用するゼオライト類の運転可能時間を延ばすことができることはまさに驚くべきことである。これまでは出発原料モルに対して大量モルの水素を添加することのみが考えられてきており、運転時間も多くても200時間を達成するのがせいぜいであった。また今までは水素添加と運転時間についての相関は認識されていなかった。
【0020】
本発明の方法では高活性状態での運転時間を1000から1500時間にすることが実現できる。活性の低下が観察されたとしても反応温度をわずか上げること、例えば5から20℃上げること、で埋め合わせできる(実施例2参照)。
【0021】
【実施例】
実施例1
34重量%のo−,2重量%のm−と58.2重量%のp−ジクロロベンゼン及び5.3重量%のトリクロロベンゼン類からなる混合物をH−ZSM−5ゼオライト上で、全ジクロロベンゼン類を基準として5モル%の水素を加えて異性化を行った。該反応は液相で、350℃、30バールの条件下、重量時間空間速度を0.1h−1にして行った。
【0022】
該反応の生成物組成を24時間後および約100時間毎にガスクロマトグラフィーで測定し、その詳細を表1に示した。
【0023】
この表から、ほぼ1000時間後においても異性化された混合物組成は実質上ほとんど変化せず高いm−ジクロロベンゼン含有量(40重量%)を持っていることがわかる。これは今まで知られている最も長い触媒寿命よりも5倍近くも長い触媒寿命に相当している。
【0024】
比較例 1
運転手順は実施例1に示した通りであるが、水素は一切使用しなかった。詳細は同様に表1に示した。この表より水素が存在しないと約230時間後に触媒活性が20%以上も低下してしまうことが分かる。
【0025】
表1での、〃m−ジクロロベンゼン含有量〃列は各表示時間において反応混合物中に含まれるm−ジクロロベンゼンを重量%で示したものである。
【0026】
実施例2
運転手順は実施例1に記載した通りとしたが、H−ZSM−5ゼオライトを新しいバッチにして、反応を1500時間実施した。1450時間運転を行った後、反応温度を360℃に上げた。詳細を表1に示した。1500時間後においてさへも、40重量%以上のm−ジクロロベンゼンを含む異性体混合物が得られた。
【0027】



実施例3
運転手順は実施例1に記載した通りとしたが、温度を300℃として純粋なo−クロロトルエンを異性化させた。詳細を表2に要約した。この表から600時間以上たっても反応混合物のm−クロロトルエンの含有割合は実質上変化しなかった。先行技術(ドイツ国特許出願公開第3420706号(DE−A 34 20 706))による反応生成物は、温度を継続的に上げたにもかかわらず、210時間後にはわずか16.4重量%のm−クロロトルエンの含有量であった。(該先行技術中に記載された表1参照、2−クロロトルエンに関する3−クロロトルエンへの選択的変換率)



本発明の特徴と、実施態様は次の通りである。
1.式(IIa)及び/又は式(IIb)
【0028】
【化5】



【0029】
(Xはメチルまたは塩素を表す)
で示されるo−及び/又はp−クロロ芳香族類を液相で、かつ使用するクロロ芳香族類を基準として1から30モル%の水素の存在させ、高めた温度でゼオライト類と接触させることを特徴とする、式(IIa)及び/又は式(IIb)で示されるo−及び/又はp−クロロ芳香族類を異性化させて、式(I)
【0030】
【化6】



【0031】
(Xはメチルまたは塩素を表す)
で示されるm−クロロ芳香族類を製造する方法。
【0032】
2.工業グレードのo−またはp−ジクロロベンゼン、または工業グレードのo−またはp−クロロトルエン、またはo−及び/又はp−ジクロロベンゼン及び/又はo−及び/又はp−クロロトルエンを含む望ましい混合物ならどれでも使用することを特徴とする上記1記載の製造方法。
【0033】
3.温度を150から500℃の範囲とし、また圧力を該クロロ芳香族類が実質上液相を保てるようにして製造を行うことを特徴とする上記1,2記載の製造方法。
【0034】
4.圧力を10から100バールの範囲として行うことを特徴とする上記1から3に記載した製造方法。
【0035】
5.使用されるクロロ芳香族類を基準として3から10モル%の水素を存在させて行うことを特徴とする上記1から4に記載した製造方法。
【0036】
6.使用するゼオライト類がペンタジル、モルデナイト及び/又はフォージャサイト型のものであることを特徴とする上記1から5までに記載した製造方法。
【0037】
7.H型のZSM−5ゼオライト類を使用することを特徴とする上記1から6に記載した製造方法。
【0038】
8.ゼオライト上での重量時間空間速度を0.05から5h−1の範囲にして行うことを特徴とする上記1から6に記載した製造方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(IIa)及び/又は式(IIb)
【化1】



(Xはメチルまたは塩素を表す)
で示されるo−及び/又はp−クロロ芳香族類を液相で、かつ使用されるクロロ芳香族類を基準として1から30モル%の水素を存在させ、150〜500℃の範囲内の温度でゼオライト類と接触させることを特徴とする、式(IIa)及び/又は式(IIb)で示されるo−及び/又はp−クロロ芳香族類を異性化させて、式(I)
【化2】



(Xはメチルまたは塩素を表す)
で示されるm−クロロ芳香族類を製造する方法。

【特許番号】特許第3575826号(P3575826)
【登録日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【発行日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−109068
【出願日】平成6年4月25日(1994.4.25)
【公開番号】特開平7−309792
【公開日】平成7年11月28日(1995.11.28)
【審査請求日】平成12年12月26日(2000.12.26)
【出願人】(591063187)バイエル アクチェンゲゼルシャフト (67)
【住所又は居所原語表記】D−51368 Leverkusen,Germany
【参考文献】
【文献】特開昭57−085330(JP,A)
【文献】特開昭57−040428(JP,A)
【文献】特開昭58−144330(JP,A)
【文献】特開昭61−001629(JP,A)
【文献】特開平03−081236(JP,A)