説明

mRNA翻訳エンハンサーエレメントに関する組成物および方法

mRNA翻訳エンハンサーエレメント(TEE)、たとえば配列番号1〜35が提供される。本明細書において例示される特定のTEEまたはその変異体、相同体もしくは機能的誘導体の1つまたは複数を含む翻訳エンハンサーポリヌクレオチドも提供される。さらに、こうしたTEEまたは翻訳エンハンサーポリヌクレオチドを含む発現ベクター、ならびにこうしたベクターを有する宿主細胞および発現系が提供される。1つの局面において、翻訳エンハンサーとして機能し、かつ少なくとも1つのmRNA翻訳エンハンサーエレメント(TEE)を含む、単離または合成のポリヌクレオチド配列が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、米国特許法第119条(e)項の下、2007年12月11日に出願された米国仮特許出願第61/007,440号の優先権利益を主張する。上記出願日の優先権が主張され、この米国仮特許出願の開示は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
真核生物における翻訳は、40Sリボソームサブユニットの加入(recruitment)に続いて開始され、この加入は、mRNAの5’末端に見出される修飾ヌクレオチドであるm7Gキャップ構造を介して起こるか、またはキャップ非依存的な機構によって起こり得る。後者は翻訳の内部開始と呼ばれ、さまざまな機構が介在し得る。いずれかの機構による加入の後、40Sリボソームサブユニットは開始コドンに移動し、60Sリボソームサブユニットが結合してペプチド合成が始まる。mRNAの5’および3’末端の非コードセグメントに含まれる配列要素は、翻訳開始の効率に影響し得る。キャップ依存性mRNAの翻訳を促進できる配列要素を、翻訳エンハンサーエレメント(translational enhancer elements:TEEs)と呼ぶ。
【0003】
いくつかのTEEは、40SリボソームサブユニットのRNA構成要素である18SリボソームRNA(ribosomal RNA:rRNA)に対する塩基対形成を伴う機構によって、翻訳開始を促進する。いくつかのTEEは、リボソーム加入部位(ribosomal recruitment site)として機能して翻訳の内部開始を促進することもできる;しかし、ほとんどの内部リボソーム侵入部位(internal ribosome entry site:IRES)はTEEとして機能しない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
当該技術分野においては、バイオテクノロジーおよび遺伝子治療においてタンパク質発現を調節するために有用であり得るもっと多くのTEEが要求されている。本開示はこの要求およびその他の要求に対処するものである。
【0005】
1つの局面において、翻訳エンハンサーとして機能し、かつ少なくとも1つのmRNA翻訳エンハンサーエレメント(TEE)を含む、単離または合成のポリヌクレオチド配列が提供される。TEEは、RNSGAGMGRMR(配列番号1)もしくはMSCSGCNGMWA(配列番号2)、またはそれと実質的に同一の配列からなるポリヌクレオチド配列中に存在する。これらのポリヌクレオチド配列中に、各TEEの2つ以上のコピー(例えば、2、5、10、25、50またはそれを超えるコピー)が存在していてもよい。
【0006】
ある実施形態において、TEEはRGAGMGR(配列番号3)もしくはRCSGCNGMWR(配列番号4)、またはそれと実質的に同一の配列からなる。これらの配列において、Rは無いか、有るときにはAまたはGであり;Nは無いか、有るときにはA、CまたはGであり、好ましくはA、CまたはGであり;Sは無いか、有るときにはCまたはGであり、好ましくはCまたはGであり;MはAまたはCであり;Rは無いか、有るときにはAまたはGであり、好ましくはAまたはGであり、RおよびRは同じでも異なっていてもよく;Mは無いか、有るときにはAまたはCであり、好ましくはAまたはCであり;Rは無いか、有るときにはAまたはGであり、好ましくは無く;Rは無いか、有るときにはCであり、好ましくは無く;Rは無いか、有るときにはAであり、好ましくは無く;Mは無いか、有るときにはCまたはAであり、好ましくはCまたはAであり;Sは無いか、有るときにはCまたはGであり、好ましくはCまたはGであり;SはGまたはCであり;NはG、CまたはTであり;MはAまたはCであり;Wは無いか、有るときにはAまたはTであり、Rは無いか、有るときにはAである。
【0007】
別の実施形態において、TEEはRGAGMGRからなる。この配列において、R、RおよびRは無く;NはA、CまたはGであり;SはCまたはGであり;MはAまたはCであり;RはAまたはGであり、MはAまたはCである。別の実施形態において、TEEはRCSGCNGMWRからなる。この配列において、RおよびRは無く;Mは無いか、有るときにはAまたはCであり;SはCまたはGであり;SはCまたはGであり、SおよびSは同じでも異なっていてもよく;NはG、CまたはTであり;MはAまたはCであり;Wは無いか、有るときにはAである。
【0008】
いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号5〜35からの配列と少なくとも90%同一の配列を有するTEEを含む。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号:5〜35の配列の1つと同一の配列を有するTEEを含む。
【0009】
ポリヌクレオチド配列のいくつかには、少なくとも2コピーのTEEが存在する。ポリヌクレオチド配列のいくつかには、3コピー以上のTEEが存在する。いくつかの他の実施形態において、ポリヌクレオチド配列は少なくとも5コピーのTEE、少なくとも10コピー、少なくとも25コピーまたはそれを超えるコピーのTEEを含む。
【0010】
関連する局面においては、真核生物細胞において組換えによってポリペプチドを発現するためのクローニングベクターまたは発現ベクターが提供される。ベクターは、本明細書に開示される少なくとも1つのmRNA翻訳エンハンサーエレメント(TEE)を含むポリヌクレオチド配列に動作可能に連結した真核生物プロモーターを含有する。ベクター中に存在するTEEは、RNSGAGMGRMR(配列番号1)もしくはMSCSGCNGMWA(配列番号2)、またはそれと実質的に同一の配列からなる。
【0011】
ある実施形態において、ベクター中に存在するTEEは、RGAGMGR(配列番号3)もしくはRCSGCNGMWR(配列番号4)、またはそれと実質的に同一の配列からなる。これらの配列において、Rは無いか、有るときにはAまたはGであり;Nは無いか、有るときにはA、CまたはGであり、好ましくはA、CまたはGであり;Sは無いか、有るときにはCまたはGであり、好ましくはCまたはGであり;MはAまたはCであり;Rは無いか、有るときにはAまたはGであり、好ましくはAまたはGであり、RおよびRは同じでも異なっていてもよく;Mは無いか、有るときにはAまたはCであり、好ましくはAまたはCであり;Rは無いか、有るときにはAまたはGであり、好ましくは無く;Rは無いか、有るときにはCであり、好ましくは無く;Rは無いか、有るときにはAであり、好ましくは無く;Mは無いか、有るときにはCまたはAであり、好ましくはCまたはAであり;Sは無いか、有るときにはCまたはGであり、好ましくはCまたはGであり;SはGまたはCであり;NはG、CまたはTであり;MはAまたはCであり;Wは無いか、有るときにはAまたはTであり、Rは無いか、有るときにはAである。
【0012】
別の実施形態において、ベクター中に存在するTEEは、RGAGMGRからなる。この配列において、R、RおよびRは無く;NはA、CまたはGであり;SはCまたはGであり;MはAまたはCであり;RはAまたはGであり、MはAまたはCである。別の実施形態において、ベクター中に存在するTEEは、RCSGCNGMWRからなる。この配列において、RおよびRは無く;Mは無いか、有るときにはAまたはCであり;SはCまたはGであり;SはCまたはGであり、SおよびSは同じでも異なっていてもよく;NはG、CまたはTであり;MはAまたはCであり;Wは無いか、有るときにはAである。
【0013】
ベクターのいくつかにおいて、TEEは、配列番号5〜35から選択される配列と実質的に同一の配列からなる。いくつかのその他のベクターにおいて、TEEは、配列番号5〜35から選択される配列と同一の配列からなる。
【0014】
いくつかのベクターにおいて、mRNA翻訳エンハンサーエレメントは、プロモーターに対して3’に位置し、目的のポリペプチドをコードする第2のポリヌクレオチド配列の方向性ライゲーション(directional ligation)に対して適合される。これらのベクターのいくつかは、mRNA翻訳エンハンサーエレメントに動作可能に連結した目的のポリペプチドをコードする第2のポリヌクレオチド配列をさらに含む。いくつかのベクターにおいて、mRNA翻訳エンハンサーエレメントは、第2のポリヌクレオチド配列の5’リーダーに位置する。本明細書に開示されるとおりの、目的の抗原を発現するベクターを含むDNAワクチンがさらに提供される。このベクターによってトランスフェクトされる宿主細胞(例えば、CHO細胞などの真核生物宿主細胞)がさらに提供される。
【0015】
さらなる局面において、目的のポリペプチドを組換えによって生成するための方法が提供される。この方法は、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに各々動作可能に連結した真核生物プロモーターと、少なくとも1コピー(例えば、1、2、3、4、5、10、25、50コピーまたはそれを超えるコピー)のmRNA翻訳エンハンサーエレメントとを含む発現ベクターを構築する工程を伴う。その後、この発現ベクターを真核生物宿主細胞(例えば、CHO細胞)にトランスフェクトし、次いで発現ベクターによってトランスフェクトされた宿主細胞を培養する。ある実施形態において、ベクター中に存在するmRNA翻訳エンハンサーエレメント(TEE)は、RNSGAGMGRMR(配列番号1)もしくはMSCSGCNGMWA(配列番号2)、またはそれと実質的に同一の配列からなる。
【0016】
ある実施形態において、ベクター中に存在するTEEは、RGAGMGR(配列番号3)もしくはRCSGCNGMWR(配列番号4)、またはそれと実質的に同一の配列からなる。これらの配列において、Rは無いか、有るときにはAまたはGであり;Nは無いか、有るときにはA、CまたはGであり、好ましくはA、CまたはGであり;Sは無いか、有るときにはCまたはGであり、好ましくはCまたはGであり;MはAまたはCであり;Rは無いか、有るときにはAまたはGであり、好ましくはAまたはGであり、RおよびRは同じでも異なっていてもよく;Mは無いか、有るときにはAまたはCであり、好ましくはAまたはCであり;Rは無いか、有るときにはAまたはGであり、好ましくは無く;Rは無いか、有るときにはCであり、好ましくは無く;Rは無いか、有るときにはAであり、好ましくは無く;Mは無いか、有るときにはCまたはAであり、好ましくはCまたはAであり;Sは無いか、有るときにはCまたはGであり、好ましくはCまたはGであり;SはGまたはCであり;NはG、CまたはTであり;MはAまたはCであり;Wは無いか、有るときにはAまたはTであり、Rは無いか、有るときにはAである。
【0017】
別の実施形態において、ベクター中に存在するTEEは、RGAGMGRからなる。この配列において、R、RおよびRは無く;NはA、CまたはGであり;SはCまたはGであり;MはAまたはCであり;RはAまたはGであり、MはAまたはCである。別の実施形態において、ベクター中に存在するTEEは、RCSGCNGMWRからなる。この配列において、RおよびRは無く;Mは無いか、有るときにはAまたはCであり;SはCまたはGであり;SはCまたはGであり、SおよびSは同じでも異なっていてもよく;NはG、CまたはTであり;MはAまたはCであり;Wは無いか、有るときにはAである。
【0018】
mRNA翻訳エンハンサーエレメントは、配列番号5〜35からなる群より選択される配列と実質的に同一の配列からなっていてもよい。いくつかの方法において、mRNA翻訳エンハンサーエレメントは、配列番号5〜35からなる群より選択される配列と同一の配列からなる。いくつかの方法は、発現された組換えポリペプチドを、宿主細胞からまたは培養された宿主細胞を囲む培地から精製する工程をさらに伴うことがある。本明細書に記載される方法によって、目的とするさまざまなポリペプチドを生成できる。たとえば、臨床的重要性の高いいくつかの治療タンパク質は、本方法に対して好適である。
【0019】
本発明の性質および利点のさらなる理解は、本明細書の残りの部分および特許請求の範囲を参照することによって実現するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】翻訳エンハンサーに駆動されるポジティブフィードバックベクターを、さまざまなプロモーター(P1)および転写エンハンサー(P2)配列、転写因子(transcription factor:TF)遺伝子、および目的のタンパク質とともに模式的に表わす。
【図2】図1と同様の翻訳エンハンサーに駆動されるポジティブフィードバックベクターを、宿主タンパク質合成を遮断するための第3のタンパク質とともに模式的に表わす。
【図3】CHO細胞中の5から25コピー(5X〜25X)のさまざまなTEEエレメントによる翻訳促進の翻訳促進活性を、サイズを合わせた対照コンストラクトの活性と比較して示す。
【図4】さまざまなTEEエレメントから推定されるコンセンサスモチーフを示す。
【図5】モチーフ配列1(配列番号1)またはモチーフ配列2(配列番号2)に基づく合成配列の翻訳促進活性を、サイズを合わせた対照コンストラクトの活性と比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
I.概要
本明細書において開示されるのは、新規のmRNA翻訳エンハンサーエレメント(TEE)である。特に、以下の実施例に詳述されるとおり、哺乳動物宿主細胞(例えば、CHOおよびBHK細胞系)における翻訳を促進できるいくつかの短いヌクレオチド配列が同定される。これらの短いヌクレオチド配列からのコンセンサスモチーフまたはTEEが開示される。ある実施形態において、モチーフ1はRNSGAGMGRMR(配列番号1)であり、モチーフ2はMSCSGCNGMWA(配列番号2)である。なおこれらの配列において、RはAまたはGを示し、MはAまたはCを示し、SはGまたはCを示し、WはAまたはU(T)を示し、NはA、G、CまたはU(T)を示す。
【0022】
別の実施形態において、モチーフ1はRGAGMGR(配列番号3)である。この配列において、Rは無いか、有るときにはAまたはGであり;Nは無いか、有るときにはA、CまたはGであり、好ましくはA、CまたはGであり;Sは無いか、有るときにはCまたはGであり、好ましくはCまたはGであり;MはAまたはCであり;Rは無いか、有るときにはAまたはGであり、好ましくはAまたはGであり、RおよびRは同じでも異なっていてもよく;Mは無いか、有るときにはAまたはCであり、好ましくはAまたはCであり;Rは無いか、有るときにはAまたはGであり、好ましくは無く;Rは無いか、有るときにはCであり、好ましくは無い。別の実施形態において、モチーフ1はRGAGMGR(配列番号3)であり、ここでR、RおよびRは無く;NはA、CまたはGであり;SはCまたはGであり;MはAまたはCであり;RはAまたはGであり、MはAまたはCである。
【0023】
別の実施形態において、モチーフ2はRCSGCNGMWR(配列番号4)である。この配列において、Rは無いか、有るときにはAであり、好ましくは無く;Mは無いか、有るときにはCまたはAであり、好ましくはCまたはAであり;Sは無いか、有るときにはCまたはGであり、好ましくはCまたはGであり;SはGまたはCであり;NはG、CまたはTであり;MはAまたはCであり;Wは無いか、有るときにはAまたはTであり、Rは無いか、有るときにはAである。別の実施形態において、モチーフ2はRCSGCNGMWR(配列番号4)であり、ここでRおよびRは無く;Mは無いか、有るときにはAまたはCであり;SはCまたはGであり;SはCまたはGであり、SおよびSは同じでも異なっていてもよく;NはG、CまたはTであり;MはAまたはCであり;Wは無いか、有るときにはAである。
【0024】
加えて、コンセンサスモチーフに基づいて合成された、いくつかの特定の配列が開示される(例えば、配列番号5〜35)。これらの合成配列は、モチーフ配列を同定するために用いた配列中には示されていない。合成配列は翻訳活性の促進を示す。1コピーまたは複数コピーのこれらの配列を含有するポリヌクレオチド配列は、翻訳を最高25倍促進できる。
【0025】
本明細書において開示される少なくとも1つのmRNA翻訳エンハンサーエレメント(TEE)の1コピーまたはそれを超えるコピーを含有する、単離されたかまたは実質的に精製されたポリヌクレオチド(例えば、DNA)である翻訳エンハンサーが本明細書において開示される。これらのポリヌクレオチドは、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに動作可能に連結したときに、翻訳エンハンサーとして機能できる。例示的なTEEを配列番号1〜35に示す。なお、本明細書においてはTEEをデオキシリボヌクレオチド配列で示しているが、対応するリボヌクレオチド配列もTEEまたはTEEを含むポリヌクレオチドに含まれることが容易に認識されるべきである。本明細書において開示されるTEEまたは翻訳エンハンサーポリヌクレオチドを含有するクローニングベクターまたは発現ベクター、およびこうしたベクターを有する宿主細胞も提供される。さらに、TEE、翻訳エンハンサーポリヌクレオチドおよび発現ベクターを用いて所望のポリペプチド(例えば、治療タンパク質)の翻訳および生成を促進する方法が提供される。
【0026】
別様に示されない限り、開示される方法は、当該技術分野の技術の範囲内の分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来の技術を使用する。こうした技術は文献において十分に説明されている。たとえば、以下の文献に例示的な方法が記載されている:Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press(第3版,2001);Brent et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.(Ringbou編,2003);およびFreshney,Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique,Wiley−Liss,Inc.(第4版,2000)。
【0027】
II.定義
この明細書は、記載される特定の方法論、プロトコルおよび試薬に限定されない。これらは変動し得るためである。さらに、本明細書において用いられる用語は特定の実施形態を説明する目的のみに対するものであって、添付の特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を制限することは意図されていないことが理解されるべきである。
【0028】
本明細書において用いられる単数形「1つの(a、an)」および「その(the)」は、その文脈が明らかに別様を示さない限り、複数の言及を含む。よって、たとえば「細胞(a cell)」への言及は複数のこうした細胞を含み、「タンパク質(a protein)」への言及は1つまたはそれを超えるタンパク質および当業者に公知のその同等物を含み、他も同様である。
【0029】
別様に定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する当業者が一般的に理解するものと同じ意味を有する。以下の文献は、本開示において用いられる多くの用語の一般的な定義を当業者に提供するものである:Academic Press Dictionary of Science and Technology,Morris(編.),Academic Press(第1版,1992);Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology,Smith et al.(編),Oxford University Press(改訂版,2000);Encyclopaedic Dictionary of Chemistry,Kumar(編),Anmol Publications Pvt.Ltd.(2002);Dictionary of Microbiology and Molecular Biology,Singleton et al.(編),John Wiley & Sons(第3版,2002);Dictionary of Chemistry,Hunt(編),Routledge(第1版,1999);Dictionary of Pharmaceutical Medicine,Nahler(編),Springer−Verlag Telos(1994);Dictionary of Organic Chemistry,Kumar and Anandand(編),Anmol Publications Pvt.Ltd.(2002);およびA Dictionary of Biology(Oxford Paperback Reference),Martin and Hine(編),Oxford University Press(第4版,2000)。これらの用語のうち、この開示に対して具体的に適用されるいくつかの用語のさらなる説明を本明細書において提供する。
【0030】
「薬剤(agent)」という用語は、あらゆる物質、分子、構成要素、化合物、実体、またはその組合せを含む。薬剤は、たとえばタンパク質、ポリペプチド、小さい有機分子、多糖、ポリヌクレオチドなどを含むがそれらに限定されない。薬剤は、天然産物、合成化合物、もしくは化合物、または2つもしくはそれを超える物質の組合せであってもよい。別様に特定されない限り、「薬剤」、「物質」および「化合物」という用語は、本明細書において互いに交換可能に用いられる。
【0031】
「シストロン」という用語は、単一のポリペプチドまたはタンパク質をコードするDNAの単位を意味する。「転写単位」という用語は、RNAの合成が起こるDNAのセグメントを指す。
【0032】
「DNAワクチン」という用語は、宿主細胞または組織の中に導入でき、そこで細胞によって発現されることによってメッセンジャーリボ核酸(messenger ribonucleic acid:mRNA)分子を生成し、次いでそれが翻訳されることによってDNAにコードされるワクチン抗原が生成されるようなDNAを示す。
【0033】
「目的の遺伝子(gene of interest)」という言葉は、翻訳エンハンサーエレメント(TEE)によって生成を調節されるタンパク質生成物(目的のタンパク質)をコードするシストロン、オープンリーディングフレーム(open reading frame:ORF)、またはポリヌクレオチド配列を含むことが意図される。目的の遺伝子の例には、治療タンパク質、栄養タンパク質および産業的に有用なタンパク質をコードする遺伝子が含まれる。目的の遺伝子は、レポーター遺伝子または選択可能なマーカー遺伝子、たとえば高感度緑色蛍光タンパク質(enhanced green fluorescent protein:EGFP)、ルシフェラーゼ遺伝子(RenillaまたはPhotinus)なども含み得る。
【0034】
発現とは、DNAからポリペプチドを生成するプロセスのことである。このプロセスは、遺伝子のmRNAへの転写と、その後のmRNAのポリペプチドへの翻訳を伴う。
【0035】
本明細書において用いられる「内因性」という用語は、通常野生型の宿主に見出される遺伝子を示すのに対し、「外因性」という用語は、通常野生型の宿主に見出されない遺伝子を示す。
【0036】
「宿主細胞」とは、異種ポリヌクレオチド配列が導入されるかまたは導入された生細胞を示す。生細胞は、培養細胞および生きた生物内の細胞の両方を含む。細胞に異種ポリヌクレオチド配列を導入するための手段は周知であり、たとえばトランスフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクション、形質転換、ウイルス感染、および/またはその類似手段などである。しばしば、細胞に導入される異種ポリヌクレオチド配列は複製可能な発現ベクターまたはクローニングベクターである。いくつかの実施形態においては、宿主細胞を操作してその染色体上またはそのゲノム中に所望の遺伝子を組込んでもよい。当該技術分野において周知であるとおり、多くの宿主細胞が使用可能であり(例えば、CHO細胞)、宿主として働き得る。たとえば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press(第3版,2001);およびBrent et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.(ringbou編,2003)を参照。いくつかの実施形態において、宿主細胞は真核生物細胞である。
【0037】
「相同体」という用語は、参照配列(例えば、本明細書に開示される特定のmRNA翻訳エンハンサーエレメント)の構造と実質的に同一である構造(例えば、ヌクレオチド配列)を有する配列を示す。相同体は典型的に、目的の遺伝子によってコードされるmRNAの翻訳を促進する能力を維持する。レポーター遺伝子または目的の遺伝子に動作可能に連結したプロモーターを含有する発現ベクターにおける適切な位置に変異配列を挿入して、上述の参照配列中に変異を作成することによって、相同体の活性をスクリーニングしてもよい。次いで宿主細胞に発現ベクターを導入して、遺伝子にコードされるタンパク質の翻訳を調べてもよい。レポーター遺伝子からの翻訳が、参照エンハンサー配列の制御下のレポーター遺伝子の翻訳と同じであれば、その変異配列は機能的相同体である。
【0038】
「誘導剤(inducing agent)」という用語は、誘導可能な翻訳調節エレメントからの翻訳をもたらす化学的、生物的または物理的な薬剤を示すために用いられる。誘導剤への露出に応答して、このエレメントからの翻訳が一般的には新規に(de novo)開始されるか、または発現の基底レベルもしくは恒常的レベルよりも増加する。誘導剤は、たとえば細胞が露出されるストレス条件、たとえば熱ショックまたは寒冷ショック、重金属イオンなどの毒性薬剤、または栄養、ホルモン、成長因子の欠乏などであってもよく;または、細胞の生育状態もしくは分化状態に影響する化合物、たとえばホルモンもしくは成長因子などであってもよい。
【0039】
「単離または精製ポリヌクレオチド」という語句は、生物の天然に存在するゲノム中ですぐに隣接する配列からその両端が単離された一片のポリヌクレオチド配列(例えば、DNA)を含むことが意図される。精製ポリヌクレオチドは、二本鎖または一本鎖のいずれかであるオリゴヌクレオチド;ベクターに組込まれたポリヌクレオチド断片;真核生物または原核生物のゲノムに挿入された断片;またはプローブとして用いられる断片であってもよい。ポリヌクレオチドに言及しているときの「実質的に純粋」という語句は、その分子がその他の付随する生物学的構成要素から分離されて、典型的にはサンプルの少なくとも85パーセントまたはそれを超えるパーセンテージを有することを意味する。
【0040】
「ヌクレオチド配列」、「核酸配列」、「核酸」または「ポリヌクレオチド配列」という用語は、一本鎖または二本鎖の形のデオキシリボヌクレオチドポリマーまたはリボヌクレオチドポリマーを示し、別様に限定されない限り、天然に存在するヌクレオチドと類似の態様で核酸にハイブリダイズする天然ヌクレオチドの公知の類似体を包含する。核酸配列は、たとえば原核生物配列、真核生物mRNA配列、真核生物mRNAからのcDNA配列、真核生物DNA(例えば、哺乳動物のDNA)からのゲノムDNA配列、および合成DNA配列または合成RNA配列であり得るがこれらに限定されない。
【0041】
「プロモーター」という用語は、転写を指示することができ、そこから転写が開始される核酸配列を意味する。当該技術分野において、さまざまなプロモーター配列が公知である。たとえばこうしたエレメントは、TATAボックス、CCAATボックス、バクテリオファージRNAポリメラーゼ特異的プロモーター(例えば、T7プロモーター、SP6プロモーター、およびT3プロモーター)、SP1部位、およびサイクリックAMP応答エレメントを含み得るが、これらに限定されない。プロモーターが誘導可能なタイプであるとき、その活性は誘導剤に応答して増加する。
【0042】
5’リーダーまたは非翻訳領域(untranslated region)(5’リーダー、5’リーダー配列または5’UTR)は、メッセンジャーRNA(mRNA)およびそれをコードするDNAの特別な部分である。5’リーダーは+1位置(転写が始まるところ)から始まり、コード領域の開始コドン(通常はAUG)の直前に終わる。バクテリアでは、5’リーダーはShine−Delgarno配列として公知のリボソーム結合部位(ribosome binding site:RBS)を含有することがある。5’リーダーは100ヌクレオチドまたはそれを超える長さであってもよく、3’UTRはそれより長くてもよい(最高数キロベースの長さ)。
【0043】
「動作可能に連結している(operably linked)」または「動作可能に結合している(operably associated)」という用語は、遺伝子エレメントの通常の機能を行なえるような態様で連結された遺伝子エレメント間の機能的結合を示す。たとえば、ある遺伝子の転写がプロモーターの制御下にあり、生成された転写物は通常その遺伝子がコードするタンパク質に正しく翻訳されるとき、その遺伝子はプロモーターに動作可能に連結している。同様に、翻訳エンハンサーエレメントが目的の遺伝子から転写されたmRNAの翻訳のアップレギュレーションを可能にするとき、その翻訳エンハンサーエレメントは目的の遺伝子に動作可能に関連付けられている。
【0044】
方向性ライゲーション(directional ligation)に対して適合されたヌクレオチドの配列、たとえばポリリンカーは、ポリヌクレオチド配列のベクターへの方向性ライゲーションのための部位または手段を提供する、発現ベクターの領域である。典型的に、方向性ポリリンカーは、2つまたはそれを超える制限エンドヌクレアーゼ認識配列または制限酵素認識部位を定めるヌクレオチドの配列である。制限酵素切断の際に、2つの部位は付着端をもたらし、発現ベクターに対してその付着端にポリヌクレオチド配列を結合できる。ある実施形態において、制限酵素切断の際に2つの制限酵素認識部位は非相補的な付着端を与えることによって、カセットへのポリヌクレオチド配列の方向性挿入を可能にする。たとえば、方向性ライゲーションに対して適合されたヌクレオチドの配列は、複数の方向性クローニング手段を定めるヌクレオチドの配列を含有し得る。方向性ライゲーションに対して適合されたヌクレオチドの配列が多数の制限酵素認識部位を定めるとき、その配列はマルチクローニング部位(multiple cloning site)と呼ばれる。
【0045】
処置の目的に対する「対象(subject)」という用語は、哺乳動物として分類されるあらゆる動物、たとえばヒトおよびヒト以外の哺乳動物を示す。ヒト以外の動物の例は、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギなどを含む。注記されるときを除き、「患者」または「対象」という用語は本明細書において互いに交換可能に用いられる。ある実施形態において、対象はヒトである。
【0046】
転写因子とは、転写を開始または調節するために必要なあらゆるポリペプチドを示す。たとえば、こうした因子はc−Myc、c−Fos、c−Jun、CREB、cEts、GATA、GAL4、GAL4/Vp16、c−Myb、MyoD、NF−κB、バクテリオファージ特異的RNAポリメラーゼ、Hif−1、およびTREを含むがこれらに限定されない。こうした因子をコードする配列の例は、GenBank受入番号K02276(c−Myc)、K00650(c−fos)、BC002981(c−jun)、M27691(CREB)、X14798(cEts)、M77810(GATA)、K01486(GAL4)、AY136632(GAL4/Vp16)、M95584(c−Myb)、M84918(MyoD)、2006293A(NF−κB)、NP853568(SP6RNAポリメラーゼ)、AAB28111(T7RNAポリメラーゼ)、NP523301(T3RNAポリメラーゼ)、AF364604(HIF−1)、およびX63547(TRE)を含むがこれらに限定されない。
【0047】
「実質的に同一の」核酸配列またはアミノ酸配列とは、標準的なパラメータを用いて、本明細書に記載される周知のプログラムの1つ(例えば、BLAST)によって測定したときに、参照配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、核酸配列またはアミノ酸配列を示す。配列同一性は少なくとも95%、少なくとも98%、および少なくとも99%であってもよい。いくつかの実施形態において、対象配列は参照配列に比べてほぼ同じ長さであり、すなわちほぼ同数の隣接する(ポリペプチド配列に対する)アミノ酸残基または(ポリヌクレオチド配列に対する)ヌクレオチド残基からなっている。
【0048】
配列同一性は、当該技術分野において公知のさまざまな方法によって容易に決定できる。たとえば、(ヌクレオチド配列に対する)BLASTNプログラムは、デフォルトとしてワード長(wordlength:W)11、期待値(expectation:E)10、M=5、N=−4、および両鎖の比較を用いる。アミノ酸配列に対しては、BLASTPプログラムはデフォルトとしてワード長(W)3、期待値(E)10、およびBLOSUM62スコアリングマトリクスを用いる(Henikoff & Henikoff,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915(1989)を参照)。配列同一性のパーセンテージは、比較ウインドウにおいて2つの最適に整列された配列を比較することによって決定され、比較ウインドウ中のポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適な整列に対して、(付加または欠失を含まない)参照配列に比べて付加または欠失(すなわちギャップ)を含むことがある。パーセンテージは、両方の配列において同一の核酸塩基またはアミノ酸塩基がある位置の数を定めてマッチした位置の数を得て、そのマッチした位置の数を比較ウインドウ中の位置の合計数で割り、その結果に100を掛けて配列同一性のパーセンテージを得ることによって算出される。
【0049】
「翻訳エンハンサーエレメント(TEE)」という用語は、mRNAから生成されるポリペプチドまたはタンパク質の量を、キャップ構造単独からの翻訳レベルよりも増加させるシス作用性の配列を示す。当該技術分野において公知のTEEの例は、Gtxホメオドメインタンパク質の5’リーダー中の配列を含む(Chappell et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101:9590−9594,2004)。加えて、たとえば配列番号1〜35の新規のTEEが本明細書において開示される。別様に示されない限り、TEEは、mRNA配列における翻訳促進エレメントと、DNA配列における対応するコード配列エレメントとの両方を示す。
【0050】
「翻訳エンハンサーポリヌクレオチド」または「翻訳エンハンサーポリヌクレオチド配列」とは、本明細書において例示される特定のTEE(すなわち配列番号1〜35)またはその変異体、相同体もしくは機能的誘導体の1つまたはそれを超えて含むポリヌクレオチドのことである。このポリヌクレオチド中には1コピーまたは複数コピーの特定のTEEが存在できる。翻訳エンハンサーポリヌクレオチド中のTEEは、1つまたはそれを超える配列セグメントに組織化されていてもよい。配列セグメントは本明細書において例示される特定の1つまたはそれを超えるTEE有することができ、各TEEは1コピーまたはそれを超えて存在する。翻訳エンハンサーポリヌクレオチド中に複数の配列セグメントが存在するとき、それらは同種であっても異種であってもよい。よって、翻訳エンハンサーポリヌクレオチド中の複数の配列セグメントは、本明細書において例示される特定のTEEの同一タイプもしくは異なるタイプ、同一もしくは異なるコピー数の各特定のTEE、および/またはTEEの同一もしくは異なる組織を各配列セグメント内に有し得る。
【0051】
「処置する」または「緩和する」という用語は、化合物または薬剤を対象に投与することによって、症状、合併症または疾患の生化学的兆候(例えば、心機能不全)の発症を予防または遅延させるか、症状を緩和するか、疾患、状態または障害のさらなる発達を抑制または阻害することを含む。処置を必要とする対象は、すでに疾患または障害を患う患者に加えて、その障害を起こしやすい患者またはその障害を防ぐべき患者を含む。
【0052】
処置は(疾患の発症を予防もしくは遅延させるため、または疾患の臨床的症状もしくは無症候性の症状の出現を予防するために)予防的であってもよいし、疾患の出現後の症状の治療的抑制または緩和であってもよい。心臓の再構築および/または心不全の処置において、治療剤は疾患の病状を直接減少させてもよいし、その疾患が他の治療剤による処置の影響をより受けやすくなるようにしてもよい。
【0053】
「ベクター」または「コンストラクト」という用語は、これらのエレメントに動作可能に連結した遺伝子/遺伝子産物の発現が予想通りに制御され得るように、明確なパターンの組織に配置されたポリヌクレオチド配列エレメントを示す。それらは典型的に伝播性のポリヌクレオチド配列(例えば、プラスミドまたはウイルス)であり、その中に外来DNAのセグメントをスプライスすることによって、その外来DNAを宿主細胞に導入してその複製および/または転写を促進することができる。
【0054】
クローニングベクターとは、宿主細胞中で自律的に複製できるDNA配列(典型的にはプラスミドまたはファージ)であり、1つまたは少数の制限エンドヌクレアーゼ認識部位によって特徴付けられる。これらの部位において外来DNA断片がベクターにスプライスされることによって、この断片の複製およびクローニングがもたらされてもよい。ベクターは、形質転換された細胞の識別に用いるために好適な1つまたはそれを超えるマーカーを含んでもよい。たとえば、マーカーはテトラサイクリン耐性またはアンピシリン耐性を与えてもよい。
【0055】
発現ベクターはクローニングベクターと似ているが、宿主への形質転換後に、発現ベクターにクローニングされたDNAの発現を誘導できる。クローニングされたDNAは通常、プロモーターまたはエンハンサーなどの特定の調節配列の制御下に置かれる(すなわち、動作可能に連結する)。プロモーター配列は構成的、誘導可能または抑圧可能であってもよい。
【0056】
III.翻訳エンハンサーポリヌクレオチドおよび組換えベクター
本明細書において提供されるのは、翻訳エンハンサーとして機能する単離されたまたは実質的に精製されたポリヌクレオチドである。これらの翻訳エンハンサーポリヌクレオチドは、本明細書に開示される特定のmRNA翻訳エンハンサーエレメント(TEE)またはその変異体、相同体もしくは機能的誘導体を含む。翻訳エンハンサーポリヌクレオチドは、コンセンサスモチーフ1(配列番号1)、モチーフ2(配列番号2)、モチーフ1a(配列番号3)、またはモチーフ2a(配列番号4)を含む1つまたはそれを超える配列セグメントを含有し得る。翻訳エンハンサーポリヌクレオチドのいくつかは、配列番号5〜35に示される特定のmRNA TEEの1つを含む1つまたはそれを超える配列セグメントを含有し得る。以下の実施例に実証されるとおり、これらのmRNA TEEの1つを有するベクターにおいて目的のポリペプチドを発現することによって、タンパク質生成が顕著に増加する。配列番号1〜35に示されるmRNA TEEに加えて、mRNA TEEは、これらの例示される配列の1つと実質的に同一であり、かつ宿主細胞において動作可能に連結した目的遺伝子の発現を促進するという基本的な機能的特徴を保持できるような配列も包含し得る。
【0057】
翻訳エンハンサーポリヌクレオチド中の配列セグメントは、配列番号1〜35に示されるただ1つの特定のmRNA TEEまたはいくつかのmRNA TEEを含有してもよい。配列セグメント中に存在する特定のmRNA TEEの各々に対して、配列セグメント中に1コピーのmRNA TEEのみが存在してもよい。代替的には、各配列セグメント中に複数コピーの各mRNA TEEが存在してもよい。典型的には、翻訳エンハンサーポリヌクレオチド中の異なるmRNA TEEエレメントは、互いに隣接して操作的に連結していてもよいし、1ヌクレオチドから約100ヌクレオチドの長さまで変動し得るスペーサーヌクレオチド配列によって分離されていてもよい。いくつかの翻訳エンハンサーポリヌクレオチドは、ただ1つの配列セグメントを含有する。いくつかの他の翻訳エンハンサーポリヌクレオチドは、複数の配列セグメントを含有する。後者の実施形態において、配列セグメントは同種であっても異種であってもよい。
【0058】
よっていくつかの実施形態は、配列番号1〜35に示される配列の1つと同じであるか、または実質的に同一であるmRNA TEE配列を含む翻訳エンハンサーポリヌクレオチド配列セグメントに関する。いくつかの他の実施形態は、配列番号1〜35に示される特定のmRNA TEEの2、3、4、5、10、25、50コピーまたはそれを超えて含有する翻訳エンハンサーポリペプチド配列セグメントに関する。いくつかの実施形態において、翻訳エンハンサーポリヌクレオチドは、配列番号1〜35に示される異なるmRNA TEEまたはその変異体もしくは相同体の2つ以上(例えば、2、3、4、5、またはそれを超えて)を含有する配列セグメントに関する。これらの実施形態において、特定のmRNA TEEの各々は1コピーまたはそれを超えて(例えば、2、3、4、5、10、25コピーまたはそれを超えて)存在してもよい。さらにいくつかの他の実施形態において、翻訳エンハンサーポリヌクレオチドは上に示す配列セグメントの2つ以上を含有する。異なる配列セグメントは、特定のmRNA TEEのタイプと、中に含まれる各特定のmRNA TEEのコピー数とに関しては同一であってもよい。代替的には、複数の配列セグメントは、特定のmRNA TEEのタイプおよび/または各特定のmRNA TEEのコピー数が異なっていてもよい。これらの実施形態のいずれにおいても、配列番号1〜35に示されるmRNA TEE以外のもの、これらの特定のTEEの変異体または実質的に配列同一性を有する相同体も用いられ得る。
【0059】
本明細書に開示される特定のmRNA TEEまたは翻訳エンハンサーポリヌクレオチドを用いて、組換えクローニングベクターまたは発現ベクターを構築できる。こうしたベクターは、目的のポリペプチドまたはタンパク質(たとえば治療タンパク質)を発現させるために有用である。こうしたベクターは、DNAワクチンまたは遺伝子治療などの治療的適用にも用いられ得る。組換えベクターは、プラスミド、ウイルスまたは当該技術分野において公知のその他のビークルから、本明細書に記載される特定のmRNA TEEまたは翻訳エンハンサーポリヌクレオチドの1つまたはそれを超える挿入または組込みによって構築できる。こうしたビークルの例は、以下の実施例に考察されている。典型的に、ベクターは、宿主細胞(例えば、哺乳動物宿主細胞)における目的のポリペプチドの発現に好適なプロモーターを含有する。ベクターにおいて、TEE含有配列はプロモーターに動作可能に連結し、たとえば3’においてプロモーターに連結する。TEE含有配列は、配列番号1〜35に示される特定のTEEの1つ、上述のとおりのTEEまたは翻訳エンハンサーポリヌクレオチドを含む配列セグメントであってもよい。ベクターは、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の方向性ライゲーションに対して適合されたヌクレオチドの配列を付加的に有し得る。たとえば、ポリヌクレオチド配列をクローニングするためにポリリンカーを用いることによって、クローニングされた配列がプロモーターおよびTEE含有配列に動作可能に連結してその制御下に置かれるようにできる。ポリリンカーは、一連の3つまたはそれを超える密接に並んだ制限エンドヌクレアーゼ認識配列を有し得るポリヌクレオチド配列である(例えば、Sambrook et al.,上記を参照)。いくつかの実施形態においては、実施例に示されるとおり、ベクターは、目的のポリペプチドをコードする転写されたmRNAの5’リーダーにTEEが存在するような位置において、ポリヌクレオチド配列がベクターにクローニングされることを可能にする。
【0060】
プロモーターおよびTEE含有配列に加えて、本明細書に記載されるいくつかの組換えベクターは、目的のタンパク質またはポリペプチドをコードする目的の遺伝子または目的のポリヌクレオチドをさらに含有する。目的の遺伝子または目的のポリヌクレオチド配列は、宿主細胞において挿入されたポリヌクレオチド配列の効率的な転写を促進するTEEおよびプロモーター配列に動作可能に連結する。真核生物mRNAの翻訳は、mRNAのメチオニンをコードするAUGコドンにおいて始まる。このため、プロモーターと目的の遺伝子との間の結合は、メチオニンに対するいかなる介在コドンも含んではならない。こうしたコドンが存在すると、(そのAUGコドンが目的の遺伝子と同じリーディングフレームにあれば)融合タンパク質が形成されるか、または本物の開始コドンの上流で終結するか、もしくは異なるリーディングフレームで目的の遺伝子に重複するペプチドが形成されるおそれがある。いくつかの実施形態において、タンパク質をコードする目的遺伝子は、5’リーダーと3’非翻訳(UTR)配列とを含む。いくつかの他の実施形態において、産出される転写産物中の5’リーダーおよび/または3’非翻訳領域は、目的の遺伝子のクローニングの前にすでにベクター中に存在する。これらの実施形態においては、少なくとも1つのTEEが5’リーダーおよび/または3’非翻訳領域に位置する。
【0061】
典型的に、翻訳エンハンサーは転写プロモーターとAUGコドンとの間に位置する。プロモーターおよび目的遺伝子のキャップ部位に対応するTEEの正確な位置は重要ではない;しかし、正確な位置は効率に影響し得る。たとえば、いくつかのTEEは、コードされるmRNAの5’リーダーまたは3’非翻訳領域中に位置するときに翻訳を促進できる。いくつかの実施形態において、TEEは目的遺伝子またはシストロンの5’リーダー配列中に位置する。これらの実施形態において、エンハンサーエレメントは、翻訳開始部位から約1〜500ヌクレオチド以内、特定的には約1〜100ヌクレオチドまたは約1〜50ヌクレオチド以内に位置決めされる。
【0062】
上述の翻訳エンハンサーポリヌクレオチドを組込むことによって、組換えベクターは、配列番号1〜35に示される特定の翻訳エンハンサーエレメントの1つまたはそれを超えて有し得る。これらの特定のエンハンサーエレメントのいずれに対しても、ベクターは1コピーのみのエンハンサーエレメントを有するか、または複数コピーの同じエンハンサーエレメントを有し得る。たとえば、関連するシストロンからのポリペプチド発現を増加させるために、いくつかの組換え発現ベクターには、配列番号1〜35に示される特定のTEEの2、5、10、20、35、50または75コピーのコンカテマーが存在してもよい。いくつかの他のベクターは、本明細書において例示される特定のTEE配列の1つまたはそれ以上を独立に含み得る複数の配列セグメントを有する。
【0063】
加えて、組換えベクターまたは発現ベクターは付加的な配列エレメントを含有できる。たとえば、ベクターは複製開始点、およびトランスフェクトされたかまたは形質転換された宿主細胞の表現型の選択を可能にする特異的マーカーを含有できる。ベクター中に存在するその他のエレメントは宿主細胞型によって異なるが、一般的には、転写および翻訳の開始に関与する配列、ならびに転写の終結をシグナル伝達する配列を含む。転写エンハンサー配列も存在してもよい。ベクターは、同じ転写単位内のコード配列、リボソーム結合部位およびポリアデニル化部位などの調節エレメント、同じプロモーターまたは異なるプロモーターの制御下にある付加的な転写単位、クローニング、発現および宿主細胞の形質転換を可能にする配列も含み得る。いくつかの実施形態において、ベクターは、クローニングされた目的遺伝子にコードされるポリペプチドを宿主細胞の表面に方向付けるシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態において、ベクターは、レポーター遺伝子を発現する宿主細胞の、レポーター遺伝子を発現しない宿主細胞からの分離を促進できる分子タグをコードするポリヌクレオチドも含み得る。
【0064】
いくつかの実施形態において、組換えベクターは、真核生物宿主細胞における目的タンパク質の発現に対して意図されている。以下に詳述するとおり、これらの宿主細胞はさまざまな哺乳動物細胞および昆虫細胞または植物細胞を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される発現ベクターから標的抗原を発現するDNAワクチンが提供される。真核生物において使用するために好適な多数のベクターが当該技術分野において公知である。その例には以下が含まれる:哺乳動物細胞における発現のためのpMSXND発現ベクター(LeeおよびNathans,J.Biol.Chem.263:3521,1988);昆虫細胞における発現のためのバキュロウイルス由来のベクター;ならびに以下に記載されるとおりの真核生物における発現のためのその他のベクター:Botstein et al.,Miami Winter Symp.19:265,1982;Broach Cell 28:203,1982;Bollon et al.,J.Cin.Hematol.Oncol.10:39,1980;およびCell Biology:A Comprehensive Treatise,GoldsteinおよびPrescott(編),Academic Press Inc.,U.S.(1980)。いくつかの実施形態においては、相同組換えに対して設計されたDNAコンストラクトに翻訳エンハンサーエレメントまたはポリヌクレオチドが組込まれる。こうしたコンストラクトは、たとえばCapecchi,TIG 5:70,1989;Mansour et al.,Nature 336:348,1988;Thomas et al.,Cell 51:503,1987;およびDoetschman et al.,Nature 330:576,1987に記載される。
【0065】
目的のタンパク質を発現するベクターに対して、mRNA TEEまたは翻訳エンハンサーポリヌクレオチドは典型的に、上述のとおりプロモーターなどの調節エレメントに動作可能に連結してベクター中に存在する。特定の目的タンパク質および使用されるベクター/宿主系に依存して、多くの異なるプロモーターが組換えベクター中で用いられ得る。使用可能なプロモーターの例は、以下を含む:マウスメタロチオネインI遺伝子のプロモーター(Hamer et al.J.Mol.Appl.Gen.1:273,1982);ヘルペスウイルスの最初期プロモーターおよびTKプロモーター(Yao et al.J.Virol.69:6249−6258,1995);SV40初期プロモーター(Benoist et al.Nature 290:304−310,1981);およびヒトCMVプロモーター(Boshart et al.Cell 41:521−530,1985);CaMVの35S RNAおよび19S RNAプロモーター(Brisson et al.,Nature,310:511,1984;Odell et al.,Nature,313:810,1985);Figwort Mosaic Virus(FMV)からの全長転写物プロモーター(Gowda et al.,J.Cell Biochem.,13D:301,1989)およびTMVからのコートタンパク質プロモーター(Takamatsu et al.,EMBO J.6:307,1987)。組換え発現ベクターを構築するために使用できる付加的なプロモーターは以下を含む:リブロース二リン酸カルボキシラーゼの小サブユニット(small subunit of ribulose bis−phosphate carboxylase:ssRUBISCO)からの光誘導性プロモーター(Coruzzi et al.,EMBO J.,3:1671,1984;およびBroglie et al.,Science,224:838,1984);マンノピンシンターゼプロモーター(Velten et al.,EMBO J.,3:2723,1984);ノパリンシンターゼ(nopaline synthase:NOS)プロモーター(Shaw et al.,Nucl.Acids Res.,12:7831−46,1984);オクトピンシンターゼ(octopine synthase:OCS)プロモーター(Koncz et al.,EMBO J.2:1597−603,1983);および熱ショックプロモーター(heat shock promoters)、例えば、ダイズhspl7.5−Eまたはhspl7.3−B(Gurley el al.,Mol.Cell.Biol.,6:559,1986;Severin et al.,Plant Mol.Biol.,15:827,1990)。
【0066】
プロモーターは、構成的プロモーターおよび誘導可能な天然プロモーターの両方、ならびに操作されたプロモーターを含み得る。CaMVプロモーターは構成的プロモーターの例である。最も有用となるために、誘導可能なプロモーターは1)誘導因子の不在下では低発現を与え;2)誘導因子の存在下では高発現を与え;3)植物の正常な生理機能を妨げない誘導スキームを使用し;かつ4)他の遺伝子の発現に影響しない必要がある。
【0067】
いくつかの実施形態において、組換えベクターは任意に選択可能なマーカーを含有できる。マーカーは典型的に、そのマーカーを含有する宿主細胞の選択またはスクリーニングを可能にするような形質または表現型をコードする。ある実施形態において、マーカー遺伝子は抗生物質耐性遺伝子であることによって、適切な抗生物質を用いて、形質転換されていない細胞の中から形質転換された植物細胞を選択できる。好適な選択可能なマーカーの例は、アデノシンデアミナーゼ、ジヒドロ葉酸還元酵素、ハイグロマイシン−B−ホスホトランスフェラーゼ、チミジンキナーゼ、キサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、およびアミノグリコシド3’−O−ホスホトランスフェラーゼII(カナマイシン、ネオマイシンおよびG418耐性)を含む。その他の好適なマーカーが当業者に公知である。たとえばGUSレポーター遺伝子(uidA)、ルシフェラーゼまたはGFP遺伝子などのスクリーニング可能なマーカーである。
【0068】
IV.目的のポリペプチドの生成促進のための宿主細胞
翻訳エンハンサーポリヌクレオチドおよび関連のベクターは、さまざまな産業的および治療的適用において有用である。いくつかの実施形態においては、増加したレベルの治療タンパク質または産業的有用性を有するタンパク質を発現するためにこうした発現ベクター/宿主細胞系を用いる方法が提供される。たとえば、ベクターによって発現され得る治療タンパク質は、Herceptin(登録商標)などの治療抗体、疾患をもたらすバクテリアまたはウイルス(例えば、E.coli、P.aeruginosa、S.aureus、マラリア、HIV、狂犬病ウイルス、HBV、およびサイトメガロウイルス)などのさまざまな病原体からのポリペプチド抗原、ならびにその他のタンパク質、たとえばラクトフェリン、チオレドキシンおよびベータカゼインワクチンを含み得る。その他の好適なタンパク質または好適なポリペプチドは、たとえば以下のものを含む:栄養的に重要なタンパク質;成長促進因子;植物における早期開花のためのタンパク質;特定の環境条件下で植物に保護を与えるタンパク質、たとえば、金属またはその他の有毒物質、たとえば除草剤もしくは農薬に対する耐性を与えるタンパク質;極端な温度に対する耐性を与えるストレス関連タンパク質;真菌、バクテリア、ウイルス、昆虫および線虫に対する耐性を与えるタンパク質;特定の商業的価値を有するタンパク質、たとえばEPSPシンターゼなどの代謝経路に関わる酵素。
【0069】
目的の遺伝子および本明細書に記載されるmRNA TEEまたはエンハンサーポリヌクレオチドを有する組換えベクターは、当該技術分野において公知のあらゆる手段によって適切な宿主細胞に導入され得る。たとえばベクターは、リン酸カルシウム共沈によって、マイクロインジェクションまたはエレクトロポレーションなどの従来の機械的手順によって、リポソームに入れられたプラスミドの挿入によって、およびウイルスベクターによって、宿主細胞にトランスフェクトされてもよい。これらの技術はすべて当該技術分野において周知であり、ルーチン的に実施されている。例えば、Brent et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.(ringbou編,2003);およびWeissbach & Weissbach,Methods for Plant Molecular Biology,Academic Press,NY,Section VIII,pp.421−463,1988。トランスフェクトされた組換えベクターを有する宿主細胞は、ベクター上に存在する選択マーカーを用いて識別および単離できる。次いで、ベクター含有細胞を選択する培地中で多数のレシピエント細胞を生育してもよい。これらの細胞を直接使用してもよいし、発現された組換えタンパク質を、たとえば抽出法、沈殿法、クロマトグラフィー法、アフィニティー法、電気泳動などの従来の方法に従って精製してもよい。使用される正確な手順は、生成される特定のタンパク質および使用される特定のベクター/宿主発現系によって決まる。
【0070】
ある実施形態において、組換えベクターを発現するための宿主細胞は真核生物細胞である。真核生物ベクター/宿主系および哺乳動物発現系は、発現された哺乳動物タンパク質の適切な翻訳後修飾、たとえば一次転写物の適切なプロセシング、グリコシル化、リン酸化、および有利には発現した生成物の分泌が起こることを可能にする。したがって、哺乳動物細胞などの真核生物細胞は、目的のポリペプチドのタンパク質に対する宿主細胞とすることができる。こうした宿主細胞系の例は、CHO、BHK、HEK293、VERO、HeLa、COS、MDCK、NS0およびW138を含む。
【0071】
いくつかの実施形態においては、目的のタンパク質の発現を導くための組換えウイルスまたはウイルスエレメントを使用する、操作された哺乳動物細胞系が用いられる。たとえば、アデノウイルス発現ベクターを用いるときには、目的のタンパク質のコード配列を、TEEまたは翻訳エンハンサーポリヌクレオチドとともに、アデノウイルス転写/翻訳調節複合体、たとえば後期プロモーターおよびトリパータイトリーダー配列に結合してもよい。このキメラ遺伝子を、次いでインビトロまたはインビボ組換えによってアデノウイルスゲノムに挿入してもよい。ウイルスゲノムの非必須領域(例えば、領域E1またはE3)への挿入によって、生存可能でありかつ感染した宿主中で目的のポリペプチドを発現できる組換えウイルスがもたらされる(例えば、Logan & Shenk,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:3655−3659,1984を参照)。代替的には、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーターが用いられてもよい(例えば、Mackett et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79:7415−7419,1982;Mackett et al.,J.Virol.49:857−864,1984;Panicali et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79:4927−4931,1982を参照)。特に興味深いのは、染色体外エレメントとして複製する能力を有する、ウシパピローマウイルスに基づくベクターである(Sarver et al.,Mol.Cell.Biol.1:486,1981)。これらのベクターは、neo遺伝子などの選択可能なマーカーをプラスミドに含ませることによって、安定発現のために用いることができる。代替的には、宿主細胞に目的の遺伝子を導入して発現を導くことができるベクターとして用いるために、レトロウイルスゲノムを改変できる(Cone & Mulligan,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6349−6353,1984)。メタロチオニンIIAプロモーターおよび熱ショックプロモーターを含むがこれに限定されない誘導可能なプロモーターを用いても、高レベル発現が達成され得る。
【0072】
組換えベクターの発現のための宿主細胞は、酵母であってもよい。酵母において、構成的プロモーターまたは誘導可能なプロモーターを含有するいくつかのベクターが用いられてもよい。たとえば、Brent et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.(ringbou編,2003);およびThe Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces,Strathem et al.(編),Cold Spring Harbor Press(1982)を参照されたい。ADHもしくはLEU2などの構成的酵母プロモーター、またはGALなどの誘導可能なプロモーターが用いられてもよい。代替的には、酵母染色体への外来DNA配列の組込みを促進するベクターが用いられてもよい。
【0073】
植物の発現ベクターが用いられる場合、目的の遺伝子の発現は、いくつかのプロモーターのいずれによって駆動されてもよい。たとえば、CaMVの35S RNAプロモーターおよび19S RNAプロモーター(Brisson et al.,Nature,310〜511−514,1984)またはTMVに対するコートタンパク質プロモーター(Takamatsu et al.,EMBO J.,6:307−311,1987)のウイルスプロモーターが用いられてもよい。代替的には、RUBISCOの小サブユニット(Coruzzi et al.,EMBO J.,3:1671 1680,1984;およびBroglie et al.,Science,224:838−843,1984)または熱ショックプロモーター(Gurley et al.,Mol.Cell.Biol.,6:559−565,1986)などの植物プロモーターが用いられてもよい。
【0074】
組換えベクターによって目的のタンパク質を発現するために用いられ得る代替的な発現系は、昆虫系である。こうした系の1つにおいては、Autographa californica核多核体病ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus:AcNPV)が、外来遺伝子を発現するためのベクターとして用いられる。このウイルスはSpodoptera frugiperda細胞中で生育する。亜鉛フィンガー−ヌクレオチド結合ポリペプチドコード配列がウイルスの非必須領域にクローニングされて、AcNPVプロモーター(例えば、ポリヘドリンプロモーター)の制御下に置かれてもよい。亜鉛フィンガー−ヌクレオチド結合ポリペプチドコード配列の挿入が成功すると、ポリヘドリン遺伝子が不活性化して、非閉塞組換えウイルス(すなわち、ポリヘドリン遺伝子がコードするタンパク性のコートを欠いたウイルス)の生成がもたらされる。次いでこれらの組換えウイルスを用いて、挿入された遺伝子を発現する細胞に感染させる。たとえば、Smith et al.,J.Biol.46:584,1983;およびSmith,米国特許第4,215,051号)を参照されたい。
【0075】
組換えベクターが適切な宿主細胞に導入された後、発現された組換えタンパク質を、たとえば抽出、沈殿、クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動などの従来の方法に従って精製してもよい。使用される正確な手順は、生成される特定のタンパク質および使用される特定の発現系の両方によって決まる。組換えタンパク質の長期にわたる高収量の生産に対しては、安定発現が好ましい。複製開始点を含有する発現ベクターを用いる代わりに、宿主染色体へのベクターの安定な組込みを可能にするベクターによって宿主細胞を形質転換することもできる。目的のタンパク質をコードする安定に組込まれたポリヌクレオチドを有する宿主細胞は、生育して増殖巣を形成でき、次にこの増殖巣をクローニングして細胞系に拡張できる。たとえば、外来DNAの導入後に、操作された細胞を富化培地中で1〜2日間生育させ、次いで選択培地に切換えてもよい。
【0076】
V.治療的適用
さまざまな治療的適用に用いられ得るベクター系がさらに提供される。たとえば、上述のmRNA TEEまたは翻訳エンハンサーポリヌクレオチドと、治療タンパク質をコードするポリヌクレオチドとによって、タンパク質の治療的発現のためのベクターを構築できる。その他の例は、抗原生成の増加を達成できるような、ワクチンにおいて使用されるベクターを含む。
【0077】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される翻訳エンハンサーエレメントおよびポリヌクレオチドは、DNAワクチンの調製に用いられる。増加したレベルの抗原を生成するために、一般的にDNAワクチンは発現ベクターを含むことができ、その発現ベクターでは1つまたはそれを超える翻訳エンハンサーエレメント(例えば、配列番号1〜35)の存在によって、ワクチン抗原の発現が促進される。いくつかの実施形態において、DNAワクチンは2つ以上の抗原を送達し発現することができる。DNAワクチンベクターは、ワクチン抗原をコードする配列および翻訳エンハンサーエレメントの他に、典型的には真核生物細胞中で活性である転写開始のためのプロモーターも含む。こうしたDNAワクチンベクターは、当該技術分野において周知の方法に従って生成できる。たとえば、所与の抗原に対するDNAワクチンを作成して使用する方法は、例えば、Gurunathan et al.,Ann.Rev.Immunol.,18:927,2000;Krieg,Biochim.Biophys.Acta.,1489:107,1999;Cichutek,Dev.Biol.Stand.,100:119,1999;Davis,Microbes Infect.,1:7,1999;およびLeitner,Vaccine,18:765,1999に記載されている。
【0078】
DNAワクチンにおいてワクチン抗原を発現するために、上記のいずれのベクターが用いられてもよい。DNAワクチンを構築するために使用できる付加的なベクターは、ウイルスベクター、たとえばALVAC(カナリアポックスウイルス)、MVA(牛痘変異体)およびADV5(アデノウイルス5)ベクター、ならびにプラスミドベクター、たとえばpUC19(ATCC#37254)、pcDNA3.1(Invitrogen,Carlsbad,CA)、pNGVL(National Gene Vector Laboratory,University of Michigan,MI)、p414cyc(ATCC#87380)、pBSL130(ATCC#87145)、およびpECV25(ATCC#77187)を含み得る。ワクチンベクターにおいて使用できるプロモーターの例は、例えば、SV40初期プロモーター、サイトメガロウイルス最初期プロモーター/エンハンサー、および本明細書に記載されるさまざまな真核生物プロモーターを含む。
【0079】
DNAワクチンによって多様な一連のワクチン抗原が発現され得る。これらのワクチン抗原は、たとえばHIV−1抗原、C型肝炎ウイルス抗原、B型肝炎ウイルス抗原、単純ヘルペスウイルス抗原、ポックスウイルス抗原、インフルエンザウイルス抗原、麻疹ウイルス抗原、デング熱ウイルス抗原、Entamoeba histolytica抗原、セムリキ森林ウイルス抗原、パピローマウイルス抗原、Plasmodium vivax抗原およびPlasmodium falciparum抗原を含む。DNAワクチン中で発現され得る抗原の付加的な情報は、DNAvaccine.comのウェブサイトから得ることができる。
【0080】
DNAワクチンは、病原体の感染(例えば、HIV感染)に対する予防または保護が必要なあらゆる対象を免疫化するために用いられ得る。こうした対象は、ヒトおよびヒト以外の動物、たとえば齧歯動物(例えば、マウス、ラットおよびモルモット)、ブタ、ニワトリ、フェレット、ヒト以外の霊長類を含む。DNAワクチンを好適な対象に投与する方法は、当該技術分野において説明されている。たとえば、Webster et al.,Vacc.,12:1495−1498,1994;Bernstein et al.,Vaccine,17:1964,1999;Huang et al.,Viral Immunol.,12:1,1999;Tsukamoto et al.,Virol.257:352,1999;Sakaguchi et al.,Vaccine,14:747,1996;Kodihalli et al.,J.Virol.,71:3391,1997;Donnelly et al.,Vaccine,15:865,1997;Fuller et al.,Vaccine,15:924,1997;Fuller et al.,Immunol.Cell Biol.,75:389,1997;Le et al.,Vaccine,18:1893,2000;Boyer et al.,J.Infect.Dis.,181:476,2000を参照されたい。
【0081】
本明細書に記載される特定のTEEまたはmRNA翻訳エンハンサーポリヌクレオチドの1つまたは複数を用いることによってワクチン抗原の発現を促進することに加え、DNAワクチンをアジュバントとともに調合することもできる。使用できる好適なアジュバントは、たとえばリン酸アルミニウムまたはヒドロキシリン酸アルミニウム、モノホスホリルリピドA、QS−21サポニン、デキサメタゾン、CpG DNA配列、コレラ毒素、サイトカインまたはケモカインを含む。こうしたアジュバントは、DNAワクチンの免疫原性を高める。こうした改変されたDNAワクチンを調製する方法は当該技術分野において公知である。たとえば、Ulmer et al.,Vaccine 18:18,2000;Schneerson et al.J.Immunol.147:2136−2140,1991;Sasaki et al.Inf.Immunol.65:3520−3528,1997;Lodmell et al.Vaccine 18:1059−1066,2000;Sasali et al.,J.Virol.72:4931,1998;Malone et al.,J.Biol.Chem.269:29903,1994;Davis et al.,J.Immunol.15:870,1998;Xin et al.,Clin.Immunol.,92:90,1999;Agren et al.,Immunol.Cell Biol.76:280,1998;およびHayashi et al.Vaccine,18:3097−3105,2000を参照されたい。
【0082】
いくつかの実施形態においては、さまざまな疾患の処置における治療タンパク質の発現を促進するための方法が提供される。これらの方法においては、翻訳エンハンサーエレメントまたは翻訳エンハンサーポリヌクレオチドを有して治療タンパク質を発現する発現ベクターを、ベクターと標的細胞との相互作用によって、エクスビボまたはインビボで標的細胞にトランスフェクトする。対象における治療的応答を誘発するために十分な量の組成物が対象に投与される。こうした遺伝子治療手順は、いくつかの状況において、後天的な遺伝子の欠損および遺伝された遺伝子の欠損、癌およびウイルス感染を直すために用いられてきた。たとえば、Anderson,Science 256:808−813,1992;Nabel & Felgner,TIBTECH 11:211−217,1993;Mitani & Caskey,TIBTECH 11:162−166,1993;Mulligan,Science 926−932,1993;Dillon,TIBTECH 11:167−175,1993;Miller,Nature 357:455−460,1992;Van Brunt,Biotechnology 6:1149−1154,1998;Vigne et al.,Restorative Neurol.and Neurosci.8:35−36,1995;Kremer & Perricaudet,Br.Med.Bull.51:31−44,1995;Haddada et al.,in Current Topics in Microbiology and Immunology(Doerfler & Boehm編,1995);およびYu et al.,Gene Therapy 1:13−26,1994を参照されたい。
【0083】
さまざまな疾患および障害が、本明細書に記載される治療法による処置に対して好適である。好適な疾患および障害は、たとえば肺、胸部、リンパ、胃腸、および尿生殖器などのさまざまな器官系の悪性疾患を含む。悪性疾患を含む腺癌、たとえばほとんどの結腸癌、腎細胞癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、小腸の癌および食道癌も処置に好適である。本明細書に開示されるmRNA TEEまたは翻訳エンハンサーポリヌクレオチドを含有する組換え発現ベクターは、非悪性の細胞増殖性疾患、たとえば乾癬、尋常性天疱瘡、ベーチェット症候群、および脂質組織球症の処置にも有用である。本質的に、治療タンパク質によって処置または改善できるあらゆる障害が、ベクター中の翻訳エンハンサーエレメントの存在によって増加したレベルの治療タンパク質を発現する発現ベクターによる処置に対して感受性があると考えられる。
【0084】
本明細書に記載される治療法を実施するために、多数の送達法を用いることができる。これらの方法はすべて当業者に周知である。非ウイルスベクター送達系は、DNAプラスミド、裸の核酸、およびリポソームなどの送達ビークルと複合化した核酸を含む。ウイルスベクター送達系はDNAウイルスおよびRNAウイルスを含み、これらは細胞に送達された後にエピソームゲノムまたは組込まれたゲノムのいずれかを有する。核酸の非ウイルス性送達の方法は、リポフェクション、マイクロインジェクション、微粒子銃、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオンまたは脂質:核酸複合体、裸のDNA、人工ビリオン、および薬剤で促進されたDNAの取込みを含む。リポフェクションは、たとえば米国特許第5,049,386号、米国特許第4,946,787号;および米国特許第4,897,355号に記載されており、リポフェクション試薬は商業的に販売されている(例えば、Transfectam(商標)およびLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに対する好適なカチオン性脂質および中性脂質は、たとえば国際公開第91/17424号および国際公開第91/16024号に記載されるものを含む。送達は、細胞(エクスビボ投与)または標的組織(インビボ投与)に対するものであってもよい。
【0085】
多くの遺伝子治療適用においては、遺伝子治療ベクターが特定の組織型に対する高度の特異性を伴って送達されることが望ましい。ウイルスベクターは典型的に、ウイルス外表面のウイルスコートタンパク質との融合タンパク質としてリガンドを発現することによって、所与の細胞型に対する特異性を有するように改変される。リガンドは、目的の細胞型の上に存在することが公知である受容体に対して親和性を有するように選択される。たとえば、Hanら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.92:9747−9751,1995)は、モロニーマウス白血病ウイルスを改変してgp70と融合したヒトヘレグリンを発現させることができ、この組換えウイルスはヒト上皮増殖因子受容体を発現している特定のヒト乳癌細胞に感染することを報告した。この原理は、リガンド融合タンパク質を発現するウイルスと受容体を発現する標的細胞との他の対に広げることができる。たとえば、糸状ファージを操作して、実質的にあらゆる選択された細胞受容体に対し特異的な結合親和性を有する抗体断片(例えば、FABまたはFv)を表示させることができる。上記の説明は主にウイルスベクターに当てはまるが、非ウイルスベクターに同じ原理が適用されてもよい。こうしたベクターは、特定の標的細胞による取込みに有利であると考えられる特定の取込み配列を含有するように操作され得る。
【0086】
以下に記載するとおり、発現ベクターは、典型的には全身投与(例えば、静脈内、腹膜内、筋肉内、皮下、または頭蓋内注入)または局所適用による個体対象への投与によって、インビボで送達できる。代替的に、ベクターはエクスビボで、個体対象から外植された細胞(例えば、リンパ球、骨髄吸引物、組織生検物)または一般的なドナーの造血幹細胞などの細胞に送達されてもよく、その後、通常はベクターを取込んだ細胞の選択後に、その細胞を対象に再移植してもよい。診断のため、研究のためまたは遺伝子治療(例えば、トランスフェクトされた細胞の宿主生物への再注入を介したもの)のためのエクスビボの細胞トランスフェクションは当業者に周知である。ある実施形態において、細胞を対象生物から単離し、核酸(遺伝子またはcDNA)によってトランスフェクトし、その対象生物(例えば、対象)に再注入してもどしてもよい。エクスビボのトランスフェクションに好適なさまざまな細胞型は当業者に周知である(例えば、対象からの細胞の単離方法および培養方法の考察については、Freshney et al.,Culture of Animal Cells,A Manual of Basic Technique(第3版、1994))およびそこに引用される文献を参照されたい)。
【実施例】
【0087】
以下の実施例はさらなる例示として提供されるものであって、範囲を制限するためのものではない。他の変更形は当業者に容易に明らかとなり、添付の特許請求の範囲に包含される。
【0088】
(実施例1)
翻訳エンハンサーを同定するためのポジティブフィードバックベクター系
TEEの同定は、二重モノシストロニックポジティブフィードバックベクターの使用を伴った:一方のシストロンはGal4VP16転写因子をコードし、他方はRenillaルシフェラーゼをコードする。どちらのシストロンも4コピーの上流活性化配列(Upstream Activating Sequence:UAS)を有するミニマルプロモーターを含有し、この配列はGal4VP16に結合されると転写を促進する。細胞に導入されるとき、ミニマルプロモーターは非常に低レベルのmRNAおよびコードされるタンパク質の両方を駆動する。Gal4VP16シストロンの5’リーダーへの翻訳を促進できる配列の導入によって、Gal4VP16 mRNAの翻訳が駆動される。次いでGal4VP16タンパク質が両方のプロモーターに結合でき、2つの遺伝子のプロモーター中の特定の結合部位を介して転写を増加し、自身の転写および他方のシストロンの転写を駆動することによって、ポジティブフィードバックループを開始する。TEEはランダムヌクレオチド配列のライブラリーから同定された。ある実施形態において、高感度GFP(enhanced GFP:EGFP)をコードするシストロンのみが用いられ、信号対ノイズ比を改善して、トランスフェクトされた細胞当りの単一ライブラリープラスミドの単離を可能にした。確認は、ポジティブフィードバック系と非増幅ベクター系との両方におけるテストを伴った。
【0089】
図1は、ポジティブフィードバックベクターを、さまざまなプロモーター(P1)配列および転写エンハンサー(P2)配列、転写因子(TF)遺伝子、および目的の遺伝子とともに模式的に表わした図である。転写因子遺伝子および目的の遺伝子は、同じプラスミド上にあっても異なるプラスミド上にあってもよい。選択適用のために、転写因子mRNAの5’リーダーにnヌクレオチドの長さのランダムヌクレオチド配列(N)が存在する。翻訳エンハンサーエレメント(TEE)として機能する配列は、このmRNAの翻訳を促進する。次いで、コードされる転写因子が2つの遺伝子のプロモーター中の部位に結合し、それらの転写を増加させる。実施形態の1つにおいて、このコンストラクトは2つのmRNAを発現する:一方はレポータータンパク質であってもよい目的のタンパク質をコードし、他方は転写因子をコードする。どちらのmRNAの転写もミニマルプロモーターによって駆動されるが、両方の遺伝子のプロモーター中に位置する転写因子に対する結合部位を介して、転写因子の発現によって促進され得る。ミニマルプロモーターからは少量の転写因子mRNAが発現されるが、このmRNAの翻訳は、転写因子をコードするmRNAの5’リーダー中の障害によって遮断される。この障害は安定なステムループ構造および/または上流のAUG開始コドンであってもよい。この転写因子の合成は、この因子をコードするmRNA中の翻訳エンハンサーの存在に依存する。
【0090】
図2は、翻訳エンハンサーに駆動されるポジティブフィードバックベクターを、宿主タンパク質合成を遮断するための第3のタンパク質とともに示す図である。最初の2つの遺伝子(転写因子遺伝子および目的の遺伝子)は図1と同じであるが、3つのmRNAすべてがその5’リーダーにTEEを含有する。第3のタンパク質(例えば、ロタウイルスNSP3タンパク質)は、宿主mRNAの翻訳を遮断してそれらからの競合を低減させることによって、最初の2つのコードされるmRNAの翻訳を増加する。第3の遺伝子はプロモーターP3の転写制御下にあり、P3は構成的プロモーターであるかまたは誘導可能なプロモーターである。P3はプロモーターエレメントP1およびP2も含んでいてもよい。選択適用のために、目的の遺伝子および第3のタンパク質に対するmRNAは公知のTEEを含有し、一方転写因子遺伝子はランダムヌクレオチド配列を含有する。このシナリオにおいて、TEEは第3のタンパク質の活性に抵抗性である。タンパク質生成適用のために、3つの遺伝子すべてが、第3のタンパク質の活性に抵抗性である公知のTEEを含有してもよい。3つの遺伝子は、1個、2個または3個の異なるプラスミド上にあってもよい。
【0091】
TEEを同定するためのポジティブフィードバック系を使用するより詳細な手順は、たとえば国際公開第2007/025008号において、過去に記載されている。
【0092】
(実施例2)
コンセンサス翻訳エンハンサーモチーフの同定
上記のとおりの二重モノシストロニックポジティブフィードバックベクター系を用いて、チャイニーズハムスター卵巣(Chinese Hamster Ovary:CHO)、およびBHK(ベビーハムスター腎臓(Baby hamster Kidney))細胞を含むその他の細胞系において翻訳エンハンサーとして機能する多数の短いヌクレオチド配列を同定した。これらの翻訳エンハンサーエレメント(TEE)は7ヌクレオチドから12ヌクレオチド長の範囲である。図3に示されるとおり、これらのTEEの複数コピーがCHO細胞においてタンパク質生成を最高25倍増加した。各実施例において、ホタルルシフェラーゼシストロンの5’リーダー中には同じTEEが少なくとも5コピーつながれている。第1のコンストラクトは、TEEを含有しないサイズ適合した対照である。コンストラクトをCHO細胞に一過的にトランスフェクトして、2日後にアッセイした。翻訳効率はサイズ適合した対照コンストラクトの活性に対するものである。図3において、対照バーの下にある上から13本のバーは、それぞれ13個の異なるTEEの5コピーによって得られた結果に対応する。次の2本のバーは、別のTEEの5コピーまたは15コピーにおける翻訳促進活性を示す。下部のバーは、さらに別のTEE配列を5〜25コピー用いたときの翻訳促進活性を示す。
【0093】
これらのTEEのうちいくつかは配列類似性を示し、これらのTEEからは推定コンセンサスモチーフが同定された(図4を参照)。TEEモチーフの2つの実施形態の配列は次のとおりである:RNSGAGMGRMR(配列番号1)、およびMSCSGCNGMWA(配列番号2)。なおこれらの配列において、RはAまたはGを示し、MはAまたはCを示し、SはGまたはCを示し、WはAまたはUを示し、NはA、G、CまたはUを示す。
【0094】
別の実施形態において、モチーフ1a配列はRGAGMGR(配列番号3)である。この配列において、Rは無いか、有るときにはAまたはGであり;Nは無いか、有るときにはA、CまたはGであり、好ましくはA、CまたはGであり;Sは無いか、有るときにはCまたはGであり、好ましくはCまたはGであり;MはAまたはCであり;Rは無いか、有るときにはAまたはGであり、好ましくはAまたはGであり、RおよびRは同じでも異なっていてもよく;Mは無いか、有るときにはAまたはCであり、好ましくはAまたはCであり;Rは無いか、有るときにはAまたはGであり、好ましくは無く;Rは無いか、有るときにはCであり、好ましくは無い。別の実施形態において、モチーフ1a配列はRGAGMGR(配列番号3)であり、ここでR、RおよびRは無く;NはA、CまたはGであり;SはCまたはGであり;MはAまたはCであり;RはAまたはGであり、MはAまたはCである。
【0095】
別の実施形態において、モチーフ2a配列はRCSGCNGMWR(配列番号4)である。この配列において、Rは無いか、有るときにはAであり、好ましくは無く;Mは無いか、有るときにはCまたはAであり、好ましくはCまたはAであり;Sは無いか、有るときにはCまたはGであり、好ましくはCまたはGであり;SはGまたはCであり;NはG、CまたはTであり;MはAまたはCであり;Wは無いか、有るときにはAまたはTであり、Rは無いか、有るときにはAである。別の実施形態において、モチーフ2a配列はRCSGCNGMWR(配列番号4)であり、ここでRおよびRは無く;Mは無いか、有るときにはAまたはCであり;SはCまたはGであり;SはCまたはGであり、SおよびSは同じでも異なっていてもよく;NはG、CまたはTであり;MはAまたはCであり;Wは無いか、有るときにはAである。
【0096】
(実施例3)
合成mRNA翻訳エンハンサーエレメントの活性
上記のコンセンサスモチーフに基づいて、全体的にモチーフ1およびモチーフ2に対応するさまざまな特定のTEE配列を合成して、翻訳促進活性をテストした(表1の配列番号5〜35を参照)。合成されて互いにアニーリングされた2本の重複する相補オリゴヌクレオチドから、テスト配列を含有するDNA断片を生成した。アニーリングされたオリゴヌクレオチドは各端部に塩基対非形成のヌクレオチドを有し、EcoR1およびBamH1を用いてベクターにクローニングするための粘着末端を与えた。この断片を、実施例1に記載されるとおりのポジティブフィードバック発現ベクター中のルシフェラーゼレポーターmRNAの5’リーダーにクローニングした。次いで、モチーフ配列を含有するRenillaルシフェラーゼコンストラクトをCHO細胞に一過的にトランスフェクトした。3日後に、テスト配列が翻訳を促進する能力について細胞をアッセイした。サイズ適合対照(参照)プラスミドは、クローニング領域にポリAを含有した。レポーターポリペプチドの翻訳効率に対するTEEの影響を図5に示す。
【0097】
その結果、コンセンサスモチーフは、これらのモチーフの1つに対応するTEEの翻訳促進活性を予測することが示される。図面に示されるとおり、モチーフ1に基づくTEE配列は、モチーフ2に基づく配列よりも高レベルまで翻訳を促進する傾向がある。
【0098】
【表1】

本明細書に記載される新規の翻訳エンハンサーは、さまざまな実用的および産業的適用を有し得る。たとえば、これらの翻訳エンハンサーは産業規模の培養に関連するコストを最小化して薬物コストを低減できる。タンパク質濃度が高くなることでタンパク質精製も容易にできる。加えて、これらのエンハンサーは、たとえば免疫応答を生じさせるための十分な抗原をDNAワクチンから発現することなど、別様ではタンパク質発現が少ないために不可能であり得るようなプロセスを可能にし得る。これらの翻訳エンハンサーは、哺乳動物細胞における特定のタンパク質の収量を劇的に増加させるために用いることができる。たとえば、多くの治療タンパク質は、適切な転写後プロセシングを確実にするために、治療タンパク質の大規模生産のために最も一般的に使用される細胞であるCHO細胞中で発現される。翻訳エンハンサーは、産業的タンパク質生産に加えて、さまざまなベクター系にも使用できる可能性がある。たとえば、研究の目的のため、タンパク質の治療的発現のため、およびDNAワクチンのため、抗原生成を増加させるためである。
【0099】
この明細書は多くの詳細を含み、その好ましい実施形態を参照して記載されているが、これらは請求されるかまたは請求され得る発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではなく、特定の実施形態に対する特定的な特徴の説明と解釈されるべきである。記載される本発明の意味から逸脱することなく形状および詳細にさまざまな変更が行なわれ得ることが当業者に理解されるであろう。本明細書において別個の実施形態の状況において記載される特定の特徴が、単一の実施形態において組合せて実現されることもできる。反対に、単一の実施形態の状況において記載されるさまざまな特徴が、単独またはあらゆる好適な部分的組合せで複数の実施形態において実現されることもできる。さらに、上記においては特徴が特定の組合せで作用するものとして記載され、最初にそのように請求されているかもしれないが、場合によっては請求される組合せからの1つまたはそれを超える特徴が組合せから削除されてもよく、請求される組合せは部分的組合せまたは部分的組合せの変形に向けられてもよい。本発明の範囲は以下の特許請求の範囲によって定められる。
【0100】
本明細書において引用されるすべての出版物、データベース、GenBank配列、特許、および特許出願は、その各々が特定的かつ個別に引用により援用されることが示されるのと同様に本明細書において引用により援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのmRNA翻訳エンハンサーエレメント(TEE)を含む単離ポリヌクレオチド配列であって、前記TEEはRGAGMGR(配列番号3)もしくはRCSGCNGMWR(配列番号4)、またはそれと実質的に同一の配列からなり、ここで:
は無いか、有るときにはAまたはGであり;Nは無いか、有るときにはA、CまたはGであり、好ましくはA、CまたはGであり;Sは無いか、有るときにはCまたはGであり、好ましくはCまたはGであり;MはAまたはCであり;Rは無いか、有るときにはAまたはGであり、好ましくはAまたはGであり、RおよびRは同じでも異なっていてもよく;Mは無いか、有るときにはAまたはCであり、好ましくはAまたはCであり;Rは無いか、有るときにはAまたはGであり、好ましくは無く;Rは無いか、有るときにはCであり、好ましくは無く;さらに、
は無いか、有るときにはAであり、好ましくは無く;Mは無いか、有るときにはCまたはAであり、好ましくはCまたはAであり;Sは無いか、有るときにはCまたはGであり、好ましくはCまたはGであり;SはGまたはCであり;NはG、CまたはTであり;MはAまたはCであり;Wは無いか、有るときにはAまたはTであり、Rは無いか、有るときにはAである、
単離ポリヌクレオチド配列。
【請求項2】
前記TEEはRGAGMGRからなり、ここでR、RおよびRは無く;NはA、CまたはGであり;SはCまたはGであり;MはAまたはCであり;RはAまたはGであり、MはAまたはCである、請求項1に記載の単離ポリヌクレオチド配列。
【請求項3】
前記TEEはRCSGCNGMWRからなり、ここでRおよびRは無く;Mは無いか、有るときにはAまたはCであり;SはCまたはGであり;SはCまたはGであり、SおよびSは同じでも異なっていてもよく;NはG、CまたはTであり;MはAまたはCであり;Wは無いか、有るときにはAである、請求項1に記載の単離ポリヌクレオチド配列。
【請求項4】
前記TEEは、配列番号5〜35からなる群より選択される配列と少なくとも90%同一の配列からなる、請求項1、2または3に記載の単離ポリヌクレオチド配列。
【請求項5】
前記TEEは、配列番号5〜35からなる群より選択される配列と同一の配列からなる、請求項1、2または3に記載の単離ポリヌクレオチド配列。
【請求項6】
少なくとも2コピーの前記TEEを含む、請求項1、2または3に記載のポリヌクレオチド配列。
【請求項7】
少なくとも5コピーの前記TEEを含む、請求項1、2または3に記載のポリヌクレオチド配列。
【請求項8】
少なくとも10コピーの前記TEEを含む、請求項1、2または3に記載のポリヌクレオチド配列。
【請求項9】
真核生物細胞においてポリペプチドを組換えによって発現するためのベクターであって、少なくとも1つのmRNA翻訳エンハンサーエレメント(TEE)を含むポリヌクレオチド配列に動作可能に連結した真核生物プロモーターを含み、前記TEEは請求項1、2または3に記載の前記TEEから選択される、ベクター。
【請求項10】
前記mRNA翻訳エンハンサーエレメントは、配列番号5〜35からなる群より選択される配列と実質的に同一の配列からなる、請求項9に記載のベクター。
【請求項11】
前記mRNA翻訳エンハンサーエレメントは、配列番号5〜35からなる群より選択される配列と同一の配列からなる、請求項9に記載のベクター。
【請求項12】
前記mRNA翻訳エンハンサーエレメントは、前記プロモーターに対して3’に位置し、目的のポリペプチドをコードする第2のポリヌクレオチド配列の方向性ライゲーションに対して適合される、請求項9に記載のベクター。
【請求項13】
前記mRNA翻訳エンハンサーエレメントに動作可能に連結した目的のポリペプチドをコードする第2のポリヌクレオチド配列をさらに含む、請求項9に記載のベクター。
【請求項14】
前記mRNA翻訳エンハンサーエレメントは、前記第2のポリヌクレオチド配列の5’リーダー配列中に位置する、請求項13に記載のベクター。
【請求項15】
請求項9に記載のベクターを含む、DNAワクチン。
【請求項16】
請求項9に記載のベクターによってトランスフェクトされる、真核生物宿主細胞。
【請求項17】
前記宿主細胞はCHO細胞である、請求項16に記載の宿主細胞。
【請求項18】
ポリペプチドを組換えによって生成するための方法であって、前記方法が、
(i)前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに各々動作可能に連結した真核生物プロモーターとmRNA翻訳エンハンサーエレメントとを含む発現ベクターを構築する工程であって、前記TEEは請求項1、2または3のいずれか1項に記載の前記TEEから選択される、構築する工程と
(ii)前記発現ベクターを真核生物宿主細胞にトランスフェクトする工程と;
(iii)前記発現ベクターによってトランスフェクトされた前記宿主細胞を培養する工程と
を含み、これにより前記ポリペプチドを生成する、方法。
【請求項19】
前記mRNA翻訳エンハンサーエレメントは、配列番号5〜35からなる群より選択される配列と実質的に同一の配列からなる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記mRNA翻訳エンハンサーエレメントは、配列番号5〜35からなる群より選択される配列と同一の配列からなる、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記組換えポリペプチドを精製する工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記宿主細胞はCHO細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記ポリペプチドは治療タンパク質である、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−505831(P2011−505831A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537974(P2010−537974)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/013662
【国際公開番号】WO2009/075886
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(501244222)ザ スクリプス リサーチ インスティテュート (33)
【Fターム(参考)】