説明

mTORシグナル伝達を調節する組成物および方法

本発明はPI3K/AKT/mTOR関連障害、例えば、癌の処置、改善、および診断のためのmTORシグナル伝達経路のアンタゴニストおよびその構成メンバー(例、MAPKAPのアンタゴニスト)の使用に関する。また、本発明はPI3K/AKT/mTOR関連障害、例えば、癌の処置、改善、および診断のためのmTORのモジュレーター(例、MAPKAPのモジュレーター)を使用する方法に関する。また、mTOR、MAPKAP、およびhVPS34のモジュレーターの同定のためのアッセイ法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
細胞増殖は、栄養素利用能、増殖因子(例えば、インスリン、IGF)利用能、および細胞のエネルギー状態など、種々の因子に起因し得る。mTOR(mammalian Target Of Rapamycin;ラパマイシンの哺乳動物標的)シグナル伝達経路は、3つのインプットすべてを統合して細胞増殖を制御し、細胞内および細胞間両方のシグナル伝達メカニズムとして活性を発揮し得る。すなわち、TORはそれが存在する細胞の増殖を制御するのみならず、距離的に離れて存在する細胞の増殖にも影響し、それによって組織全体(および生物体)の大きさに影響を与える能力を保有する。
【背景技術】
【0002】
mTOR1およびmTOR2は、当初、酵母(サッカロミセス・セレビシエ)中に同定された一対のセリン/トレオニン・キナーゼの哺乳動物オルソログである。mTORC1(mTOR、mLST8(GβLとしても知られる)、およびRAPTOR(KOG1の哺乳動物オルソログ、または「グロース−1のコントローラー」)は、酵母の種類に関連して構造的に保存され、翻訳、転写、栄養素輸送、リボソーム生合成、および栄養素利用能に応答する自己貪食を経由して、細胞増殖の調節に関係する(Martin et al. (2005) Curr. Opinion in Cell Bio. 17: 158)。
【0003】
mLST8/GβL、RAPTOR、およびmTORは、栄養素−感受性複合体mTORC1を含んでなり、mLST8/GβLは異なる栄養条件下でmTOR−RAPTORの安定性を調整する;GβLはmTORのキナーゼドメインに結合し、RAPTORとmTORとの相互作用を安定化する(Kim et al. (2003) Mol. Cell 11(4):895)。RAPTORはmTORの正の制御因子であり、下流エフェクターS6K1(S6キナーゼ1)への栄養素−刺激シグナル伝達、細胞サイズの維持、およびmTORタンパク質発現において役割を演じている。栄養素欠乏およびミトコンドリア脱共役などの経路を抑制する条件は、mTOR−RAPTOR会合を安定化し、mTORキナーゼ活性を阻害する。
【0004】
ホスホノイノシチド3−キナーゼ(以下、PI3K)は、ホスホイノシチド(PI)のイノシトール環の3−ヒドロキシル位置をリン酸化する酵素であり、多様な細胞事象、例えば、細胞移動、細胞増殖、発癌性形質転換、細胞生存、シグナル伝達、およびタンパク質の細胞内往来に関与している。酵母においては、VPS34遺伝子産物が分泌経路から液胞へのタンパク質の活発な移転を仲介するPI3キナーゼであり、哺乳動物は3種のPI3Kを含むPI3キナーゼの対応するファミリーを有し、そこには種々のイソ型およびタイプを含む。VPS34の最も近いヒトの同族体はPI3Kクラス3(PI3KC3)(本明細書ではヒトVPS34について「hVPS34」ともいう)と呼称される887残基のタンパク質であり、このものは当該酵母タンパク質とその全長にわたって、約37%の配列同一性を共有する(Volinia et al. (1995) EMBO J. 14(14): 3339)。
【0005】
栄養素感受性TOR経路およびIGF−PI3K(増殖因子)シグナル伝達経路は機能的に繋がっており、クロストークしていることが知られている。mTORはPI3K/AKTのシグナル伝達経路の下流メディエーターである;分裂促進因子はホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)を介してmTOR経路を活性化する。ある種の疾患状態において、活性化されたmTOR経路は病理学的シグナル伝達カスケードの一部、例えば、異常増殖と特定癌細胞の生存に関わる経路である。
【0006】
しかし、これらの経路が互いに相互作用する様式を理解することは、未だ満たされていない必要性を表し、共有される結合因子を同定することは、例えば、mTORシグナル伝達(例えば、栄養素誘発mTORシグナル伝達)と関連する障害の処置を進歩させる一助となろう。さらに、例えば、構成する経路タンパク質メンバーおよびそれらの結合因子/相互作用因子を調節することによるPI3K/AKT/mTORを調節する方法の発見は、PI3K/AKT/mTOR関連障害および他の関連する悪性腫瘍の診断、その症候の改善、その予防、およびその処置に有用となろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はmTORアンタゴニストの使用による、異常PI3K/AKT/mTORシグナル伝達(例えば、癌および他の関連する悪性腫瘍)の診断、その症候の改善、その予防、およびその関連する障害の処置に関する。その例は、MAPKAPのsiRNAインヒビターなど、MAPKAPのインヒビターの投与により、異常なmTORシグナル伝達に関連する障害(例えば、癌および他の関連する悪性腫瘍)を処置する方法である。異常なPI3K/AKT/mTORシグナル伝達は、例えば、栄養素輸送体の過剰発現として顕在化し得る。
【0008】
本発明はまたMAPKAPアンタゴニストにも関し、MAPKAPが(その異なるイソ型において)mTOP/AKT/PI3K経路のメンバーに結合し、複合体を形成することを防止することの可能な作用物質を含む(それらの置換基経路メンバーを含む)。MAPKAPアンタゴニストの例は、MAPKAPのsiRNAインヒビターを含む。
【0009】
本発明はさらにmTORおよびその関連タンパク質のアゴニストおよびアンタゴニストを同定および試験する方法に関する。MAPKAP、mTOR、およびhVPS34間のタンパク質:タンパク質相互作用の発見は、インビボまたはインビトロでこの結合事象(またはその結果としての複合体形成)を増強する、またはそれに干渉する作用物質を同定するために、また結合事象(またはその結果としての複合体形成)の存在または不存在と関連する障害を処置するために使用し得る作用物質を発見するために有用である。
【0010】
本発明はさらにhVPS34(PI3KC3)およびその関連タンパク質のアゴニストおよびアンタゴニストを同定および試験する方法に関する。MAPKAP、mTOR、およびhVPS34間のタンパク質:タンパク質相互作用の発見は、インビボまたはインビトロでこの結合事象(またはその結果としての複合体形成)を増強する、またはそれに干渉する作用物質を同定するために、また結合事象(またはその結果としての複合体形成)の存在または不存在と関連する障害を処置するために使用し得る作用物質を発見するために有用である。
【0011】
本発明はPI3K/AKT/mTOR関連障害を処置するための化合物または他の作用物質のスクリーニング方法であって、a)i)MAPKAPタンパク質に結合し得るmTOR複合体メンバータンパク質または同族体;ii)当該mTOR複合体メンバーと相互作用することの知られたMAPKAPタンパク質または同族体;およびiii)1種以上のスクリーニング用試験薬;を提供し;b)当該mTOR複合体複合体メンバータンパク質または同族体、当該MAPKAPタンパク質または同族体、および当該1種以上の試験すべき化合物をいずれかの順序で混合し;そしてc)該試験薬存在下のmTOR複合体メンバータンパク質(または類似体):MAPKAP(または類似体)結合の変化を、当該作用物質不存在下の結合と比較して測定すること;を含む、方法を包含する。
【0012】
本発明は、PI3K/AKT/mTOR関連障害を処置するための化合物または他の作用物質のスクリーニング方法であって、a)i)MAPKAPタンパク質に結合し得るPI3K複合体メンバータンパク質または同族体(例えば、hVPS34);ii)当該PI3K複合体メンバーと相互作用することの知られたMAPKAPタンパク質または同族体;およびiii)1種以上のスクリーニング用試験薬;を提供し;b)当該PI3K複合体メンバータンパク質または同族体(例えば、hVPS34)、当該MAPKAPタンパク質または同族体、および当該1種以上の試験すべき化合物をいずれかの順序で混合し;そしてc)該試験薬存在下のPI3K複合体メンバータンパク質(または類似体):MAPKAP(または類似体)結合の変化を、当該化合物不存在下の結合と比較して測定すること;を含む、方法を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は定量的RT−PCRにより測定した場合の、異なる抗−MAPKAPsiRNAを形質移入したヒーラ細胞中のMAPKAP RNAレベル(MAPKAPの2つのイソ型)を示す。細胞は、本明細書に記載したように、siRNAおよび対照(未形質移入細胞およびスクランブル対照細胞)で30時間形質移入し、次いで、タックマン(TaqMan)で加工処理した。
【0014】
【図2】図2は抗−MAPKAPsiRNA配列、栄養素、およびインスリンの組み合わせで形質移入したヒーラ細胞における、PI3K/mTOR経路においてのタンパク質の存在または不存在を証明するウエスタンブロットを示す。該ブロットは抗−MAPKAPsiRNA配列が栄養素誘発mTORシグナル伝達を阻害し得るが、インスリン誘発mTORシグナル伝達は阻害しないことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
本明細書に記載の発明は、記載した特定の方法論、プロトコール、および試薬に限定されるものではなく、それらが変り得るものであることが予測される。理解すべきことは、本明細書にて使用する用語法は特定の態様のみを記載することを目的とするものであり、如何なる方法でも本発明の範囲を限定することを意図するものではないことである。
【0016】
他に特に定義しない限り、本明細書にて使用するすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が共通に理解する意味と同じ意味を有する。本明細書に記載する方法および材料と同様のまたは等価の方法および材料はいずれも本発明の実施または試験に使用し得るが、その好適な方法、装置および材料をここで記載する。本明細書に言及する公表文献はすべて、本発明と関連して使用し得る公表文献に報告されている材料と方法論を記載および開示することを目的として、参照により本明細書の一部とする。
【0017】
本発明を実施するに際しては、多くの分子生物学の常套の技法が使用される。これらの技法は周知のものであり、例えば、以下の文献に解説がある: Harlow, E. and Lane, eds., 1988, “Antibodies: A Laboratory Manual”, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, Current Protocols in Molecular Biology, Volumes I, II, and III, 1997 (F. M. Ausubel ed.); Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.; DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes I and II, 1985 (D. N. Glover ed.); Oligonucleotide Synthesis, 1984 (M. L. Gait ed.); Nucleic Acid Hybridization, 1985, (Hames and Higgins); Transcription and Translation, 1984 (Hames and Higgins eds.); Animal Cell Culture, 1986 (R. I. Freshney ed.); Immobilized Cells and Enzymes, 1986 (IRL Press); Perbal, 1984, A Practical Guide to Molecular Cloning; the series, Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.); Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells, 1987 (J. H. Miller and M. P. Calos eds., Cold Spring Harbor Laboratory); および Methods in Enzymology Vol. 154 and Vol. 155 (それぞれ、Wu and Grossman, and Wu, eds.)。
【0018】
本明細書の記載において、用語「処置」は防止または予防の処置ならびに治癒または疾患抑制処置の両方を含み、アポトーシス関連障害のリスクのある患者ならびに病気の患者をも含む。この用語はさらに疾患進行の遅延のための処置をも含む。
【0019】
例えば、患者(例えば、癌)の異常なPI3K/AKT/mTOR関連シグナル伝達と関連する障害を「抑制および/または回復」するとは、本出願人は、当該症状を抑止するか、または以前よりもしくは処置しないときよりも当該症状を和らげることを意味する。
【0020】
本明細書にて使用する、「調節する」とは、直接的または間接的に制御するか、または影響を与える能力をいい、非限定的例としては、別意として、阻害または刺激すること、苦痛を与えることまたは拮抗すること、妨害または促進すること、および強化または弱体化することを意味し得る。
【0021】
本明細書にて使用する、「治癒」とは、患者における異常なPI3K/AKT/mTOR関連シグナル伝達と関連する障害、またはその進行中のエピソードを、処置により、寛解に導くことを意味する。
【0022】
用語「予防」または「防止」とは、PI3K/AKT/mTOR関連障害、例えば、癌の発症または再発を妨害することを意味する。
【0023】
「異常なPI3K/AKT/mTORシグナル伝達(例えば、癌および他の関連悪性腫瘍)」、「PI3K/AKT/mTORシグナル伝達関連障害」、「PI3K/AKT/mTOR関連障害」、「異常なPI3K/AKT/mTORシグナル伝達関連障害」、およびすべての同様に使用される用語は、限定されるものではないが、癌、移植関連障害(例えば、拒絶反応率、移植片対宿主反応などの低下)、筋肉硬化症(MS)、関節炎、アレルギー性脳脊髄炎、および他の免疫抑制障害、代謝性障害(例えば、糖尿病)、血管障害後の動脈内膜肥厚の低下、およびミスフォールディングタンパク質障害(例えば、アルツハイマー病、ゴーシェ病、パーキンソン病、ハンチントン病、嚢胞性線維症、黄斑変性、色素性網膜炎、およびプリオン障害)(mTOR阻害がミスフォールディングタンパク質凝集の影響を寛解し得る場合)を含む。病理学的mTORシグナル伝達カスケードと関連する癌の一覧は、限定されるものではないが、乳癌、腎臓細胞癌腫、および前立腺癌である。この一覧はまたアミノ酸輸送体(例えば、LATI)の過剰発現と関連する癌および腫瘍、またはPTEN、TSC1/1、またはPI3KクラスAの突然変異を抱える癌よび腫瘍をも含む。
【0024】
また、「異常なPI3K/AKT/mTORシグナル伝達に関連する障害」の一覧は、過誤腫症候群、例えば、結節性硬化症およびカウデン(Cowden)病(カウデン症候群および多発性過誤腫症候群ともいう)も含む。過誤腫は新生物に類似する病巣奇形であり、患部に通常生じる成熟細胞と組織の過増殖からなる。
【0025】
また、「異常なPI3K/AKT/mTORシグナル伝達に関連する障害」の一覧は、遺伝的筋肉障害およびミオパシー、例えば、ヒト筋細管ミオパシーをも含む。この障害はホスファチジルイノシトール3−リン酸(PI(3)P)を脱リン酸化するホスファターゼ・ミオチューブラリン(筋肉細胞分化に必要なタンパク質チロシンホスファターゼ)の能力の低下を特徴とする。ホスファチジルイノシトール3−リン酸は、下記に検討するように、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)によるPIのリン酸化の産物であり、多くの遺伝的筋肉障害およびミオパシーにおいて標的とするhVPS34は、PI(3)Pのレベルを治療的に低下させ得る。
【0026】
本明細書にて使用する、「癌」という用語は、固形哺乳動物腫瘍ならびに血液学的悪性腫瘍を含む。「固形哺乳動物腫瘍」は、頭頚部、肺、中皮腫、縦隔、食道、胃、膵臓、肝胆管系、小腸、結腸、結腸直腸、直腸、肛門、腎臓、尿道、膀胱、前立腺、尿道、陰茎、睾丸、婦人科器官、卵巣、乳房、内分泌系、皮膚中枢神経系の癌;柔組織および骨の肉腫;および皮膚および眼内起源のメラノーマなどを含む。「血液学的悪性腫瘍」という用語は、小児白血病およびリンパ腫、ホジキン病、リンパ球および皮膚起源のリンパ腫、急性および慢性の白血病、血小板細胞新生物およびAIDS関連癌を含む。さらに、一次、転移、および再発癌など、進行中のいずれかの段階での癌を処理し得る。多くのタイプの癌に関する情報は、例えば、米国癌学会、または例えば、文献(Wilson et al. (1991) Harrison’s Principles of Internal Medicine, 12th Edition, McGraw-Hill, Inc.)に見ることができる。ヒトおよび獣医学両方の使用が考慮される。
【0027】
本明細書にて使用する、「正常哺乳動物細胞」および「正常動物細胞」という用語は、正常な増殖制御メカニズム(例えば、遺伝子制御)のもとで増殖し、正常の細胞分化を表示する細胞と定義する。癌細胞はその増殖パターンが正常細胞と異なり、またその細胞表面の性質も異なる。例えば、癌細胞は近傍に関係なく、連続的に無秩序に増殖する傾向があり、とりわけ、それが当該分野でよく知られた特徴である。
【0028】
本明細書にて使用する、「阻害性核酸」という用語は、遺伝子発現の遺伝子特異的阻害を生じ得る核酸化合物をいう。典型的な阻害性核酸は、限定されるものではないが、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、三重らせんDNA、RNAアプタマー、リボザイムおよび短鎖阻害性RNA(siRNA)などである。例えば、ヌクレオチド配列の知識は、mTOR経路タンパク質(その類似体または変異体を含む)の発現またはその結合剤/相互作用因子の発現を強力に阻害するsiRNAまたはアンチセンス分子を設計するために使用し得る。同様に、リボザイムは遺伝子の特異的ヌクレオチド配列を認識し、それを切断するように合成し得る。遺伝子発現の標的化阻害に使用するかかる分子の設計技術は、当業者に周知である。
【0029】
本明細書にて使用する、「治癒する」とは、例えば、PI3K/AKT/mTOR関連障害、またはその進行中のエピソードを、その処置を経由して、寛解に導くことを意味する。
【0030】
用語「予防」または「防止」とは、PI3K/AKT/mTOR関連障害、例えば、癌の発症または再発を妨害することを意味する。
【0031】
本明細書にて使用する、「進行の遅延」とは、患者(例えば、癌)におけるPI3K/AKT/mTOR関連障害の前段階または初期において、患者にモジュレーター(例えば、mTORアンタゴニスト)を投与すると、モジュレーターを投与しなかった場合の疾患の進展に比べて、さらに疾患が進展するのを防止するか、または疾患の進展を減速することを意味する。
【0032】
本明細書にて使用する、「低有機分子」または「低分子」とは、分子量が3キロダルトン未満、好ましくは1.5キロダルトン未満の有機化合物(または無機化合物(例えば、金属)と複合体形成した有機化合物)である。
【0033】
本明細書にて使用する、「レポーター」遺伝子は、「マーカー遺伝子」と互換性あるものとして使用し、容易に検出し得る核酸であるか、および/またはルシフェラーゼなどの容易に検出可能な遺伝子産物をエンコードする核酸である。
【0034】
転写および翻訳制御配列はDNA調節配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、ターミネーターなどであり、これらが宿主細胞においてコーディング配列の発現を規定する。真核細胞においては、ポリアデニル化シグナルが制御配列である。
【0035】
「プロモーター配列」は、細胞中のRNAポリメラーゼに結合し、下流(3’方向)のコーディング配列の転写を開始し得るDNA調節領域である。本発明を明確にする目的上、プロモーター配列はその3’末端で転写開始部位により結合し、上流(5’方向)に伸張してバックグランドを超えて検出可能なレベルで転写を開始するために必要な最少数の塩基または要素を含む。プロモーター配列内には、転写開始部位(例えば、ヌクレアーゼS1でのマッピングにより簡便に定義される)ならびにRNAポリメラーゼの結合に関与するタンパク質結合ドメイン(コンセンサス配列)が見出される。
【0036】
コーディング配列は、RNAポリメラーゼがコーディング配列をmRNAに転写する際に、細胞中で転写および翻訳制御配列の「制御下」にあり、このmRNAが次いでトランス−RNAにスプライスされ、コーディング配列によりエンコードされたタンパク質に翻訳される。
【0037】
「医薬的に許容される」という文言は、生理学的に寛容であり、ヒトに投与したときに、アレルギー性または同様の不都合な反応、例えば、胃の不調、めまいなどを典型的に生じない分子実体および組成物をいう。好ましくは、本明細書にて使用する、「医薬的に許容される」という用語は、連邦の監督官庁もしくは州政府が認可したもの、または合衆国薬局方もしくは他の一般に認知された動物用、とりわけヒト用の薬局方に掲載されたものを意味する。
【0038】
「担体」という用語は、希釈剤、アジュバント、添加剤、または媒体であって、それと共に化合物を投与するものをいう。かかる医薬的担体は、無菌の液体、例えば、水および油など、石油系、動物系、植物系または合成起源のものを含み、落花生油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などであり得る。水または水溶液、食塩水および水性デキストロースおよびグリセロール溶液が担体として、特に、注射用溶液として好ましく使用される。適切な医薬用担体については、文献(“Remington’s Pharmaceutical Sciences” by E. W. Martin)に記載されている。
【0039】
「治療的有効量」および「有効量」とは、宿主の活性、機能および応答における臨床的に有意な欠損を少なくとも約15パーセント、好ましくは少なくとも50パーセント、より好ましくは少なくとも90パーセント低下させ、そして最も好ましくはその欠損を防止するために十分な量を意味するために、本明細書では使用する。あるいは、治療的有効量は、宿主において臨床的に有意な症状/症候の改善を惹起するに十分な量である。
【0040】
「作用物質」とは、医薬用および診断用組成物を調製するために使用し得るすべての物質、または化合物、核酸、ポリペプチド、フラグメント、イソ型、変異体、もしくはそのような目的に使用し得る他の物質であり得るすべての物質をいい、すべて本発明に基づくものである。
【0041】
本明細書にて使用する、「類似体」とは、本発明の所望の活性および治療効果を有する化合物、ヌクレオチド、タンパク質もしくはポリペプチドまたは化合物と類似のもしくは同一の活性または機能(例えば、腫瘍増殖の阻害)を有する低有機化合物、ヌクレオチド、タンパク質、またはポリペプチドをいうが、必ずしも好適な態様の配列または構造に類似するか、または一致する配列または構造を含む必要はない。
【0042】
「誘導体」とは、アミノ酸残基の置換、欠失もしくは付加の導入により変化させた親のタンパク質またはポリペプチドのアミノ酸配列を含んでなるタンパク質またはポリペプチド、またはヌクレオチドの置換、欠失もしくは付加の導入により修飾した核酸またはヌクレオチドなどのいずれかの化合物をいう。誘導体核酸、ヌクレオチド、タンパク質またはポリペプチドは、親のポリペプチドと類似のまたは同一の機能を有する。
【0043】
「インヒビター」または「アンタゴニスト」とは、PI3K/AKT/mTOR経路機能についてのインビトロまたはインビボアッセイを用いて同定した阻害性分子をいう。インヒビターおよびアンタゴニストは、PI3K/AKT/mTOR経路を介して起こるシグナル伝達を低下させる作用物質をいう。インヒビターはこの経路を介してシグナル伝達を低下、遮断、または防止するか、および/またはmTORC1または関連複合体などのタンパク質複合体の形成を防止する作用物質であってもよい。
【0044】
本明細書にて使用する、「癌」という用語は、固形哺乳動物腫瘍ならびに血液学的悪性腫瘍を含む。「固形哺乳動物腫瘍」は、頭頚部、肺、中皮腫、縦隔、食道、胃、膵臓、肝胆管系、小腸、結腸、結腸直腸、直腸、肛門、腎臓、尿道、膀胱、前立腺、尿道、陰茎、睾丸、婦人科器官、卵巣、乳房、内分泌系、皮膚、脳を含む中枢神経系の癌;柔組織および骨の肉腫;および皮膚および眼内起源のメラノーマなどを含む。「血液学的悪性腫瘍」という用語は、小児白血病およびリンパ腫、ホジキン病、リンパ球および皮膚起源のリンパ腫、急性および慢性の白血病、血小板細胞新生物およびAIDS関連癌を含む。さらに、原発性、転移、および再発癌など、進行中のいずれかの段階での癌を処理し得る。多くのタイプの癌に関する情報は、例えば、米国癌学会、または例えば、文献(Wilson et al. (1991) Harrison’s Principles of Internal Medicine, 12th Edition, McGraw-Hill, Inc.)に見ることができる。
【0045】
「G」、「C」、「A」および「U」のそれぞれは、一般に、塩基としてグアニン、シトシン、アデニン、およびウラシルをそれぞれを含むヌクレオチドを意味する。しかし、「リボヌクレオチド」または「ヌクレオチド」という用語は、さらに以下に詳述するように、修飾ヌクレオチド、または代用の置換部分をもいい得ると理解される。当業者は、グアニン、シトシン、アデニン、およびウラシルが、オリゴヌクレオチドの塩基対合の性質を実質的に変化させることなく他の部分と置き換え得ること、かかるオリゴヌクレオチドがかかる置き換え部分を担持するヌクレオチドを含んでなることを周知している。例えば、限定するものではないが、その塩基としてイノシンを含んでなるヌクレオチドは、アデニン、シトシン、またはウラシルを含むヌクレオチドと塩基対合し得る。従って、ウラシル、グアニン、またはアデニンを含むヌクレオチドは本発明のヌクレオチド配列において、例えば、イノシンを含むヌクレオチドと置き換え得る。かかる置き換え部分を含んでなる配列は本発明の態様である。
【0046】
本明細書にて使用する、「標的配列」はMAPKAP遺伝子の転写に際して形成されるmRNA分子のヌクレオチド配列の相接する部分をいい、一次転写産物のRNAプロセシングの産物であるmRNAを含む。
【0047】
本明細書にて使用する、「配列を含んでなる鎖」とは、標準的ヌクレオチド命名法を参照しての配列により記載されるヌクレオチドの鎖を含んでなるオリゴヌクレオチドをいう。
【0048】
本明細書にて使用する、特に断りのない限り、用語「相補性」とは、第二のヌクレオチド配列に関連して第一の配列を記載するために使用するもので、当業者が理解する通り、第二のヌクレオチド配列を含んでなるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドと、特定の条件下で、ハイブリッド形成して二重鎖構造を形成する第一のヌクレオチド配列を含んでなるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの能力をいう。かかる条件は、例えば、緊縮条件であり、その場合の緊縮条件は、400mM−NaCl、40mM−PIPES(pH6.4)、1mM−EDTAを含み、50℃または70℃で12〜16時間実施し、次いで洗浄することからなる。他の条件、例えば、生体内部で遭遇し得る生理的に適切な条件なども適用し得る。当業者はハイブリッド形成ヌクレオチドの究極的適用に従って、2つの配列の相補性試験にとって最も適切な条件のセットを決定できる。
【0049】
これは第一のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドと第二のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドとが、第一および第二のヌクレオチド配列の全長にわたって塩基対合しているものを含む。かかる配列は本明細書では互いに関係する「完全相補性」といい得る。しかし、第一の配列が本明細書において第二の配列に関して「実質的に相補性」であるというとき、2つの配列が完全に相補性であるか、それらがハイブリッド形成に関して、1個以上の、しかし一般的には4、3または2個を超えないミスマッチ塩基対を形成するが、それらの究極の適用に最適の条件下ではハイブリッド形成する能力を保持している。しかし、2つのオリゴヌクレオチドがハイブリッド形成に関して、1種以上の一本鎖オーバーハングを形成するように設計した場合、かかるオーバーハングは相補性の決定に関して、ミスマッチとは見做さないものとする。例えば、長さ21個のヌクレオチドのオリゴヌクレオチドと長さ23個のヌクレオチドの別のオリゴヌクレオチドを含んでなるsiRNA(ただし、より長いオリゴヌクレオチドは、より短いオリゴヌクレオチドに完全に相補性である21個のヌクレオチドの配列を含んでなる)は、本発明の目的のために「完全に相補性」であるとさらに言うことも可能である。
【0050】
本明細書にて使用する、「相補性」配列は、それらのハイブリッド形成能力に関する上記の要件が満たされる限りにおいて、非ワトソン−クリック塩基対および/または非天然および修飾ヌクレオチドから形成される塩基対を含み得るか、またはそれらから形成し得る。
【0051】
用語「相補性」、「完全に相補性」および「実質的に相補性」とは、それらを使用する文面から理解されるように、本明細書においてsiRNAのセンス鎖とアンチセンス鎖間の塩基マッチングに関して、またはsiRNAのアンチセンス鎖と標的配列間の塩基マッチングに関して使用してもよい。
【0052】
本明細書にて使用する、メッセンジャーRNA(mRNA)「の少なくとも一部に実質的に相補性」であるポリヌクレオチドは、対象のmRNA(例えば、MAPKAPをエンコードする)の隣接部分に実質的に相補性であるポリヌクレオチドをいう。例えば、ポリヌクレオチドは、その配列がMAPKAPをエンコードするmRNAの非分断部分に実質的に相補性であるならば、MAPKAPmRNAの少なくとも一部に相補性である。
【0053】
用語「二本鎖RNA」または「dsRNA」は、本明細書にて使用する、2本の逆平行の実質的に相補性である上記定義の核酸鎖からなる二重鎖構造を有するリボ核酸分子の複合体をいう。二重鎖構造を形成する二本の鎖は、1本のより大きなRNA分子の異なる部分であるか、またはそれらは別個のRNA分子でもよい。別個のRNA分子の場合、かかるsiRNAはしばしば文献上、siRNA(短鎖干渉RNA)として言及される。2本の鎖が1つのより大きな分子の一部であり、従って、一方の鎖の3’末端とそれぞれの他方の鎖の5’末端間のヌクレオチドの非分断鎖によって連結して二重鎖構造を形成する場合、連結するRNA鎖は、「ヘアピンループ」、「ショートヘアピンRNA」または「shRNA」という。2本の鎖が一方の鎖の3’末端とそれぞれの他方の鎖の5’末端間のヌクレオチドの非分断鎖以外の手段により共有結合により連結して二重鎖構造を形成する場合、連結する構造体は「リンカー」という。2本のRNA鎖は同じ数の、または異なる数のヌクレオチドを有し得る。塩基対の最大数は、siRNAから二重鎖に存在するオーバーハングを差し引いた最短の鎖中のヌクレオチドの数である。二重鎖構造に加えて、siRNAは1つ以上のヌクレオチド・オーバーハングを含み得る。さらに、本明細書にて使用する、「siRNA」は複数のヌクレオチドでの実質的な修飾など、また本明細書に開示した、または当該技術分野で既知のすべてのタイプの修飾を含むリボヌクレオチドへの化学的修飾を含み得る。かかる修飾は、いずれもsiRNAタイプの分子で使用する場合、本明細書および特許請求の範囲の目的上、「siRNA」に包含される。
【0054】
本明細書にて使用する、「ヌクレオチド・オーバーハング」とは、siRNAの一方の鎖の3’末端が他方の鎖の5’末端を越えて伸張しているか、またはその逆である場合に、siRNAの二重鎖構造から突出する非対合ヌクレオチドをいう。「平滑な」または「平滑末端」とは、siRNAのその末端に非対合のヌクレオチドが存在しないこと、すなわち、ヌクレオチド・オーバーハングが存在しないことを意味する。「平滑末端化」siRNAとはその全長にわたり二本鎖であるsiRNA、すなわち、分子のいずれの末端にもヌクレオチドのオーバーハングのないsiRNAである。明確にするために、siRNAの3’末端または5’末端に接合する化学的キャップまたは非ヌクレオチド化学部分は、siRNAがオーバーハングをもつか、または平滑末端であるかについて決定する際には考慮されない。
【0055】
用語「アンチセンス鎖」とは、標的配列に実質的に相補性である領域を含むsiRNAの鎖をいう。本明細書にて使用する、「相補性の領域」という用語は、例えば、本明細書に定義した標的配列である配列に実質的に相補性であるアンチセンス鎖上の領域をいう。相補性の領域が標的配列に完全に相補性ではない場合、ミスマッチは末端領域において最も寛容であり、もし存在するなら、一般に、1つまたはそれ以上の末端領域、例えば、6、5、4、3、または2個のヌクレオチド内で、5’および/または3’末端の領域に存在する。
【0056】
用語「センス鎖」とは、本明細書にて使用する、アンチセンス鎖の領域に実質的に相補性である領域を含むsiRNAの鎖をいう。
【0057】
「細胞内に導入する」とは、siRNAに言及する場合、当業者が理解する通り、細胞への取り込みまたは吸収を容易にすることを意味する。siRNAの吸収または取り込みは、援助なしに拡散性または活性である細胞のプロセスを経て、または補助剤もしくはデバイスにより起こり得る。この用語の意味は、インビトロの細胞に限定されない;siRNAはまた「細胞内に導入」し得る;この場合、細胞は生存生物体の部分である。かかる事例において、細胞内に導入することは生体への送達を含む。例えば、インビボの送達では、siRNAは組織部位に注射するか、または全身投与し得る。インビトロでの細胞内への導入は、エレクトロポレーションおよびリポフェクションなど、当該技術分野で既知の方法である。
【0058】
用語「サイレンス」および「の発現を阻害する」とは、それらがMAPKAP遺伝子またはPI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路に関与するいずれかの遺伝子に言及する限りにおいて、MAPKAP遺伝子(またはPI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路に関与する遺伝子)の発現の少なくとも部分的抑制をいう;このことはMAPKAP遺伝子(またはPI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路に関与する遺伝子)から転写されるmRNAの量の低下により明らかとなる;この遺伝子はそこでMAPKAP遺伝子(またはPI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路に関与する遺伝子)が転写される第一の細胞または細胞群から単離し得るものであり、その細胞は、そこでのMAPKAP遺伝子(またはPI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路に関与する遺伝子)の発現が阻害されるように処置し、その際、第一の細胞または細胞群と実質的に同一であるが、そのように処置していない第二の細胞または細胞群(対照細胞)と比較する。その阻害度は通常以下の式で表わす:
【数1】

【0059】
あるいは、阻害度はMAPKAP遺伝子(またはPI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路に関与する遺伝子)転写に機能的につながっているパラメーター、例えば、細胞が分泌するMAPKAP遺伝子(またはPI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路に関与する遺伝子)によりエンコードされるタンパク質量、または特定の表現型(例えば、非制御増殖)を提示する細胞数などにより示し得る。原則として、MAPKAP遺伝子(またはPI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路に関与する遺伝子)は、構成的にまたはゲノムエンジニアリングにより、また何らかの適切なアッセイにより、標的を発現するいずれかの細胞において決定し得る。しかし、所定のsiRNAがMAPKAP遺伝子(またはPI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路に関与する遺伝子)の発現をある程度まで阻害し、従って本発明に包含されるかどうかを決定するために、対照標準が必要とされるとき、下記実施例に示したアッセイ法が対照標準として役立つであろう。
【0060】
例えば、特定の事例において、MAPKAP遺伝子の発現は本発明の二本鎖オリゴヌクレオチドの投与により、少なくとも約20%、25%、35%、または50%抑制される。一部の態様において、MAPKAP遺伝子は本発明の二本鎖オリゴヌクレオチドの投与により、少なくとも約60%、70%、または80%抑制される。一部の態様において、MAPKAP遺伝子は本発明の二本鎖オリゴヌクレオチドの投与により、少なくとも約85%、90%、または95%抑制される。
【0061】
mTOR
mTOR(ラパマイシンの哺乳動物標的)は、当初、酵母(サッカロミセス・セレビシエ)中のTORとして同定された大型のセリン/トレオニン・キナーゼであり、免疫抑制剤ラパマイシン(そのUSAN一般名称:シロリムスとしても知られる)に対する耐性のスクリーニングに際して発見された(参照例:Kunz et al. (1993) Cell (73): 585, または米国特許第3,929,992号明細書)。このものはその触媒ドメイン内の相同性により同定されるタンパク質キナーゼのPI3K(ホスフィノシチド3−キナーゼ)ファミリーの一員である。
【0062】
酵母および哺乳動物における2種の構造的および機能的に識別される多タンパク質TOR複合体(TORC1およびTORC2)の同定は、TORシグナル伝達の複雑さについての分子的基礎を提供した。mTORの活性は、少なくとも3種の上流でのインプット、すなわち、アミノ酸、グルコース、および増殖因子により調節される。細胞内および細胞間のシグナル伝達メカニズムを介して細胞増殖を調節することに加えて、TORは成長、老化および低酸素への応答など、増殖関連プロセスの調節因子として浮上した。従って、TORは真核細胞生物学において、明らかに広範な役割をもつシグナル伝達ネットワークの一部である。
【0063】
mTORC1(mTOR1の複合体、またはシグナル伝達ネットワーク)は酵母の種類に関連して構造的に保存され、栄養素利用能に応答して、翻訳、転写、栄養素輸送、リボソーム生合成、および自己貪食などの調節を介する細胞増殖の調節と関連する(Martin et al. (2005) Curr. Opinion in Cell Bio. 17: 158)。これらの機能は、しばしば細胞増殖の「一時的」制御の要素として言及され、mTORC2と関連する「空間的」制御に比較される(すなわち、アクチン細胞骨格の細胞周期依存性分極を調節することによる細胞増殖の調節)。
【0064】
mTORは、経路タンパク質mLST8/GβLと、およびRAPTOR(KOG1の哺乳動物オルソログ、または「増殖制御因子−1(Kontroller Of Growth-1)」)との複合体(mTORC1)の形成を介するなど、数種の方法での栄養素利用能により、感受性となり、活性化される。アミノ酸、とりわけロイシンは、十分な栄養条件下に、mTORによる基質の認識を容易にする栄養感受性化mTORC1の形成を調整する。他の下流mTORC1標的およびエフェクターは、リボソームタンパク質p70 S6キナーゼ(S6K1)、および開始因子4E−結合タンパク質−1(4E−BP1)を含む。活性化されたmTORキナーゼはS6K1を(Thr389で)リン酸化/活性化し、4E−BP1をリン酸化/不活性化して、結果として翻訳および細胞周期行程を開始させる。S6K1は細胞の栄養状態とホルモン刺激に応答して、タンパク質合成、細胞サイズ、および増殖を調節する(Kozma et al. (2002) Bioessays 24: 65)が、これにはmTORのみならず、p35/p110 PI3−キナーゼおよび下流のキナーゼPDK−1とAKTも同様に関与する。
【0065】
mTORC1(mLST8/GβL、RAPTOR、およびmTOR)は栄養感受性複合体を含んでなり、mLST8/GβLは異なる栄養条件下でmTOR−RAPTORの安定性を調節する(Kim et al. (2003) Mol. Cell 11(4):895)。RAPTORはmTORの正の調節因子であり、下流エフェクターS6K1への栄養刺激シグナル伝達、細胞サイズの維持、およびmTORタンパク質発現において役割を果たしている。栄養素剥奪およびミトコンドリア脱共役などの経路を抑制する条件は、mTOR−RAPTOR会合を安定化し、mTORキナーゼ活性を阻害する。
【0066】
GβLはmTORのキナーゼドメインに結合し、RAPTORとmTORとの相互作用を安定化する。mTORおよびPARTORのように、GβLはS6K1(mTORの下流エフェクター)への栄養−および増殖因子−仲介シグナル伝達に、また細胞サイズの制御に関与する。GβLのmTORへの結合は、S6K1と4E−BP1に対するmTORのキナーゼ活性を強力に刺激するが、その作用はRAPTORとmTORとの安定な相互作用により逆転する。興味深いことに、栄養素とラパマイシンは、GβLをも含む複合体においてのみ、mTORとRAPTORの間の会合を調節する。
【0067】
栄養状態チェックポイントとしてのその役割に加えて、mTORC1はPI3K/AKT経路の下流の重要なシグナル伝達中間体分子である(参照例:Grunwald et al. (2002) Cancer Res. 62: 6141; および Stolovich et al. (2002) Mol Cell Biol. 22: 8101)。TORの他の上流調節因子(例えば、AMPK、TSC1−TSC2(結節性硬化症複合体)ヘテロ二量体、およびRheb)の発見は、TORがその種々のインプットを一体化するメカニズムへの新たな視点を提供した。AKT−仲介リン酸化は、Rheb GTPアーゼに向かってのTSC1−TSC2のGAP活性を阻害し、Rhebの活性化に導く。RhebはmTORに直接結合し、そのプロセスはアミノ酸により調節される。アミノ酸とRhebの活性化は、共にmTORがS6K1にシグナルを伝達するために必要であり、mTORのアミノ酸調節に際してのTSC1/TSC2が果たす役割はあまりはっきりしていない。
【0068】
PI3K
ホスホイノシチド3−キナーゼ(以下、「PI3K」)はホスホイノシチド(「PI」)のイノシトール環の3−ヒドロキシ位置をリン酸化する酵素であり、多様な細胞性事象、例えば、細胞移動、細胞増殖、発癌性形質転換、細胞生存、シグナル伝達、およびタンパク質の細胞内往来などに関与する。酵母の場合、VPS34遺伝子産物はPI3−キナーゼであり、その分泌経路から嚢胞へのタンパク質の活発な移転を仲介する;哺乳動物は3種類のPI3Kを含め、多様なイソ型とその中のタイプと共に、PI3−キナーゼの相当するファミリーをもつ。酵母VPS34のヒト同族体は、PI3Kクラス3(「PI3KC3」)と呼称される887残基のタンパク質であり、その全長にわたって酵母タンパク質と約37%の配列相同性を共有する(Volinia et al. (1995) EMBO J. 14(14): 3339)。
【0069】
PI3Kは細胞表面受容体に結合する増殖因子に基づき、細胞内シグナル伝達分子を活性化する。これらの脂質キナーゼはホスファチジルイノシトールと関連化合物のイノシトール環を3−プライム位置でリン酸化する;それらはホスファチジルイノシトール(「PtdIn」ともいう)とホスホイノシチド(「PI」:ホスファチジルイノシトールのリン酸化体である)の両方をリン酸化し得る。
【0070】
これらの反応産物は、増殖シグナル伝達経路において二次メッセンジャーとして働き、細胞生存、移動、運動性、および増殖などの細胞事象;発癌性形質転換;組織血管新生;および細胞内タンパク質往来などに影響を与える。細胞表面受容体は、ホスファチジルイノシトール4,5−ビスホスフェート3などの第二メッセンジャーの産生を誘発し、それが細胞表面から細胞質へのシグナルを運搬する。これらの第二メッセンジャーはPI3K−依存性タンパク質キナーゼ−1を活性化し、それが次にキナーゼAKTを活性化する。AKTの活性化はタンパク質のリン酸化に導き、細胞の生存に導く(Cantley et al. (1999) PNAS 96:4240)。
【0071】
一例を示すと、AKTはIκBをリン酸化し、それによってNFκBを活性化し、細胞の生存を促進する。また、AKTはBad(プロアポトーシスBcl−2ファミリーのメンバー)およびカスパーゼ9をリン酸化し、その両方の場合にアポトーシスの誘発を遮断する。AKTの他の下流標的はフォークヘッド関連転写因子−1およびラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)を包含する。
【0072】
PI3Kは3つのクラスにグループ分けされ、その構造、基質特異性、生理的機能、および組織特異性に従って分類される。(Domin et al. (1997) FEBS Lett. 410:91)。クラスIのPI3Kは殆ど細胞質ゾルであり、p110触媒サブユニットとアダプター/調節サブユニットからなるヘテロ二量体であり、またさらに2つのクラス、すなわち、クラスIA PI3KおよびクラスIB PI3Kに分割される;クラスIA PI3Kは、SH2ドメイン含有サブユニットp85と会合し、チロシンキナーゼ−カップル結合膜透過受容体の大多数により活性化されるp110触媒サブユニットからなる;クラスIB PI3Kは、p110γ触媒ユニットと会合し、ヘテロ三量体G−タンパク−カップル結合受容体により活性化されるp101調節サブユニットからなる(Katso et al. (2001) Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 17:615)。クラスIIPI3Kは本明細書にて考察するように、3つのイソ型からなる。クラスIIIPI3Kは基質としてホスファチジルイノシトールのみを利用し、リソソームを経由してタンパク質が往来する上で本質的な役割を演じる(Volinia, et al. (1995) EMBO J. 14:3339)。
【0073】
ホスファチジルイノシトール3−リン酸(PI3P)は、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)によるPIのリン酸化産物である。殆どの真核細胞におけるPI3Pの主たる起源はPI3KC3であるが、すべてのPI3Kがこの脂質をインビトロで生成し得る。FYVEドメインをもつタンパク質(その多くは小胞往来に関与している)は、特定の膜での局在化メカニズムとしてPI3Pの頭部基に直接結合する。
【0074】
VPS34
VPS34遺伝子産物(VSP34p)は酵母のリソソーム様小胞にタンパク質選択するために必要な酵素であり、細胞内タンパク質往来決定を調節するものと思われる。VSP34pはウシ・ホスファチジルイノシトール(PI)3−キナーゼの触媒サブユニット(p110サブユニット)と顕著な配列類似性を共有するが、これは活性化された細胞表面受容体チロシンキナーゼと相互作用することが知られている。VPS34遺伝子を欠失しているか、またはVPS34点突然変異を担持する酵母株は、検出可能なPI3−キナーゼ活性を欠き、小胞タンパク質選択に致命的な欠陥を示した。VPS34pの過剰発現はPI3−キナーゼ活性の増大を招き、この活性はVPS34pに対する抗血清により特異的に低下した(Schu et al. (1993) Science 260 (5104): 88)。
【0075】
第三のクラスのPI3キナーゼ、PI3KC3はサッカロミセス・セレビシエ遺伝子VPS34に関係する。VPS34のヒト相同体はVPS15pと呼称されるSer/Thrキナーゼと複合体形成する。3種のPI3キナーゼの内、このキナーゼは最も限定された基質特異性を有し、PtdInsに厳しく限定される。クラスIA PI3−キナーゼ同様に、PI3KC3(例えば、hVPS34)はS6K1の調節において、従って栄養素−感受性においてよく認識された役割を演じている。
【0076】
hVPS34はS6K1へのインスリン・インプットの重要な部分ではない(すなわち、インスリンによる刺激を受けない)。しかし、hVPS34はアミノ酸またはグルコース飢餓により阻害される;このことはそれがS6K1への栄養素−調節経路上に存在することを示唆している。このことと矛盾なく、hVPS34はまたAMP−活性化キナーゼの活性化によっても阻害され、それがグルコース飢餓細胞においてmTOR/S6K1を阻害する。hVPS34は、hVPS34の短鎖干渉RNAノックダウンがmTOR基質4EBP1のリン酸化を阻害するので、mTORの上流に存在すると思われる。hVPS34は、mTORとS6K1へのアミノ酸とグルコースのインプットを統合する栄養素−調節脂質キナーゼであると考えられる。
【0077】
MAPKAP
MAPKAP(ジェンバンク登録番号:NM_024117)(ヒトSIN1としても知られる)は、SIN1ファミリーの高度保存オルソログであり、そのメンバーは真菌および後生動物界に広く分布している。MAPKAPの非ヒト・オルソログの研究は、Ras、mTOR、およびSAPK(ストレス活性化プロテインキナーゼ)との分子内シグナル伝達相互作用におけるこの遺伝子とそのタンパク質産物に対する役割を示唆してきた。MAPKAP転写物は、代わりとなるポリアデニル化シグナルを用い、機能的に異なるイソ型を潜在的にエンコードする多数のMAPKAPスプライス変異体を記述している(Schroder et al. (2004) Gene 339: 17)。MAPKAP転写変異体2(SIN1β)は、転写変異体1がエンコードするタンパク質の残基P321−S356に相当する36個のアミノ酸を欠失することで、全長転写体(変異体1)と異なる。合計6種のMAPKAP転写変異体が報告されているが、変異体間の機能的違いについては殆ど分かっていない。免疫ブロット分析は、スプライシング変異体によりエンコードされるタンパク質が、異なる細胞株で異なって発現されると示唆している。
【0078】
何らかの機能的違いが、選択的スプライシングから、または組織特異的発現から生じるかどうかは明瞭ではない。一つのグループ(Schroder et al. (2005) Cellular Signaling 17)が、ストレス活性化タンパク質キナーゼJNKは、転写変異体1および転写変異体6(202個のアミノ酸のC末端切除とその後に追加のACD配列を含む)によりエンコードされた外来的に発現されるタンパク質と共に、同時免疫沈降することを示している。同じグループが、全長MAPKAPタンパク質の発現は、細胞のUV照射後にJNKキナーゼの活性化を部分的に阻害するように見えることを証明している。
【0079】
本明細書に記載したデータが証明するように、MAPKAPはmTORとhVPS34両方の結合パートナーであり、これら経路間に不可欠のつながりを提供し、PI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路間の連鎖とクロストークを解明する一助となる。さらに、本明細書に記載したデータは、MAPKAPの関与する結合事象を中断することによる、これらの経路の事実上の調節を示す。
【0080】
本発明はPI3K/AKT/mTOR関連障害、例えば、癌の処置、診断、および/または改善するための方法および組成物に関する。一態様において、本発明はPI3K/AKT/mTOR関連障害、例えば、癌の処置のための阻害性核酸の使用に関する。
【0081】
本発明は、mTORの使用を介して、異常なPI3K/AKT/mTORシグナル伝達に関係する障害(例えば、癌および他の関連する悪性腫瘍)の症候を診断し、改善すること、障害を予防すること、および処置することに関する。その例は、MAPKAPのsiRNAなどのMAPKAPインヒビターの投与を介して、異常なmTORシグナル伝達に関係する障害(例えば、癌および他の関連する悪性腫瘍)を処置する方法を含む。
【0082】
さらに、本発明はmTORのアゴニストおよびアンタゴニスト、ならびにその関連するタンパク質を同定および試験する方法に関する。MAPKAP、mTOR、およびhVPS34間のタンパク質:タンパク質相互作用の発見は、インビボでのこの結合事象(またはその結果としての複合体形成)を増強または妨害する作用物質を同定するために、またこの結合事象(またはその結果としての複合体形成)の存在または不存在と関連する障害を処置するために使用し得る作用物質を発見するために有用である。
【0083】
さらに、本発明はhVPS34(PI3KC3)のアゴニストおよびアンタゴニスト、ならびにその関連するタンパク質を同定および試験する方法に関する。MAPKAP、mTOR、およびhVPS34間のタンパク質:タンパク質相互作用の発見は、インビボでのこの結合事象(またはその結果としての複合体形成)を増強または妨害する作用物質を同定するために、またこの結合事象(またはその結果としての複合体形成)の存在または不存在と関連する障害を処置するために使用し得る作用物質を発見するために有用である。
【0084】
MAPKAPアンタゴニスト
栄養素存在下のmTOR/AKT/PI3K経路活性化の作用は、特定の結合事象、例えば、限定されるものではないが、MAPKAPとmTORの結合、MAPKAPとhVPS34の結合、およびmTORC1複合体の形成などにより仲介される。MAPKAPアンタゴニストは、MAPKAP(その異なるイソ型において)がmTOR/AKT/PI3K経路のメンバー(それらの置換経路メンバーを含む)に結合すること、およびそれらと複合体を形成することを防止し得る作用物質である。MAPKAPアンタゴニストの例は、MAPKAPのsiRNAインヒビターである。MAPKAPに結合し、それがパートナー(例えば、mTORまたはhVPS34など、mTOR/AKT/PI3K経路において)に結合するのを防止する作用物質は、MAPKAPアンタゴニストして作用しよう。
【0085】
スクリーニング・アッセイ
本発明はモジュレーター、すなわち、候補化合物または試験化合物またはMAPKAPタンパク質に、または関連する経路もしくは複合体(例えば、mTOR/AKT/PI3K経路)のメンバーに結合し、MAPKAP発現もしくは活性またはmTOR/AKT/PI3K経路シグナル伝達に刺激性または阻害性作用をもつ作用物質(例えば、ペプチド、ペプチド類似体、低分子または他の薬物)などのモジュレーターを同定するための方法(本明細書では「スクリーニング・アッセイ」ともいう)を提供する。
【0086】
本発明は化合物または作用物質のスクリーニング方法であって、a)i)MAPKAPタンパク質に結合し得るmTOR複合体メンバータンパク質または同族体;ii)当該mTOR複合体メンバーと相互作用することの知られたMAPKAPタンパク質または同族体;およびiii)1種以上のスクリーニング用試験薬;を提供し;b)当該mTOR複合体複合体メンバータンパク質または同族体、当該MAPKAPタンパク質または同族体、および当該1種以上の試験すべき化合物をいずれかの順序で混合し;そしてc)該試験薬存在下のmTOR複合体メンバータンパク質(または類似体):MAPKAP(または類似体)結合の変化を、当該化合物不存在下の結合と比較して測定すること;を含む、方法を包含する。
【0087】
本発明は化合物または作用物質のスクリーニング方法であって、a)i)MAPKAPタンパク質に結合し得るPI3K複合体メンバータンパク質または同族体(例えば、hVPS34);ii)当該PI3K複合体メンバーと相互作用することの知られたMAPKAPタンパク質または同族体;およびiii)1種以上のスクリーニング用試験薬;を提供し;b)当該PI3K複合体メンバータンパク質または同族体(例えば、hVPS34)、当該MAPKAPタンパク質または同族体、および当該1種以上の試験すべき化合物をいずれかの順序で混合し;そしてc)該試験薬存在下のPI3K複合体メンバータンパク質(または類似体):MAPKAP(または類似体)結合の変化を、当該化合物不存在下の結合と比較して測定すること;を含む、方法を包含する。
【0088】
一態様において、本発明はMAPKAPタンパク質もしくはポリペプチドまたは生物学的に活性なその部分に結合する候補物質または試験薬をスクリーニングするアッセイ法を提供する。別の態様において、本発明はMAPKAPタンパク質もしくはポリペプチドまたは生物学的に活性なその部分に結合するか、またはその活性を調節する、例えば、MAPKAPが通常会合する他のタンパク質(例えば、mTOR、hVPS34)に結合する能力および/またはそれと複合体を形成する能力を調節する候補物質または試験薬をスクリーニングするアッセイ法を提供する。
【0089】
本発明の試験薬は、当該技術分野において既知のコンビナトリアル・ライブラリー法における多くの方法のいずれかを用いて得ることができる;該ライブラリーは、生物学ライブラリー;空間的に接近可能なパラレル固相または液相ライブラリー;デコンヴォルーションを必要とする合成ライブラリー方法;「1ビーズ・1化合物」ライブラリー方法;および親和クロマトグラフィー選択を用いる合成ライブラリー方法である。生物学ライブラリー法はペプチド・ライブラリーに限られるが、他の4つの方法はペプチド、非ペプチドオリゴマーまたは低分子化合物のライブラリーに適用可能である(Lam et al. (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145)。
【0090】
分子ライブラリーの合成法の例は、例えば、以下の文献に見出し得る:DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90: 6909; Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11422; Zuckermann et al. (1994). J. Med. Chem. 37: 2678; Cho et al. (1993) Science 261: 1303; Carrell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2059; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061; and in Gallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 1233。
【0091】
化合物のライブラリーは、溶液として(例えば、Houghten (1992) Biotechniques 13: 412)、またはビーズ(Lam (1991) Nature 354: 82)、チップ(Fodor (1993) Nature 364: 555)、細菌(Ladner, 米国特許第5,223,409号明細書)、胞子(Ladner ‘409)、プラスミド(Cull et al. (1992) Proc Natl Acad Sci USA 89: 1865)またはファージ(Scott and Smith (1990) Science 249: 386); (Devlin (1990) Science 249: 404); (Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. 87: 6378); (Felici (1991) J. Mol. Biol. 222: 301); (Ladner, supra)上に提示してよい。
【0092】
一態様において、アッセイは細胞ベースのアッセイであり、MAPKAPを発現する細胞と試験薬、例えば、試験MAPKAPアンタゴニストと接触させ、MAPKAPの活性を調節(例えば、刺激または阻害)する試験薬の能力を測定することからなる。MAPKAPの活性を調節する試験薬の能力の測定は、例えば、MAPKAPに結合するMAPKAPアンタゴニストの能力を測定することにより、またはMAPKAPとmTORまたはhVPS34間の結合事象を中断するMAPKAPアンタゴニストの能力を測定することにより実施し得る。
【0093】
MAPKAPタンパク質を調節する試験MAPKAPアンタゴニストの能力を測定することは、直接の結合を測定することにより実施し得る。これらの測定は、例えば、MAPKAPタンパク質を放射性同位体または酵素標識とカップル結合し、該タンパク質と試験薬(例えば、試験MAPKAPアンタゴニスト)との結合が複合体中の標識タンパク質を検出することにより測定し得るようにすることで実施し得る。例えば、分子、例えば、タンパク質は直接または間接的に125I、35S、14CまたはHにより標識することが可能であり、その放射性同位体を放射放出の直接計測により、またはシンチレーション計測により検出し得る。別法として、分子は酵素的に、例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、またはルシフェラーゼにより標識して、その酵素標識を、適切な基質の生成物への変換決定により検出することができる。
【0094】
また、相互作用物質のいずれをも標識することなく、MAPKAPタンパク質を調節する試験MAPKAPアンタゴニストの能力を測定すること、またはmTORおよびhVPS34など、MAPKAPに結合するタンパク質を調節する試験薬の能力を測定することも本発明の範囲内である。例えば、マイクロフィジオメーターを用いて、MAPKAPまたは試験MAPKAPアンタゴニストを標識せずに、試験MAPKAPアンタゴニストとMAPKAPとの相互作用(mTORおよびhVPS34など、MAPKAPに結合するタンパク質)を検出することができる(McConnell et al. (1992) Science 257: 1906)。本明細書にて使用する、「マイクロフィジオメーター」(例えば、サイトセンサー)は、光接近可能な電位差測定センサー(LAPS)を用いるその環境を細胞が酸性化する速度で測定する分析装置である。この酸性化速度の変化は化合物と受容体間の相互作用の指標として使用することができる。
【0095】
さらに別の態様において、本発明のアッセイ法は無細胞アッセイ法であり、そこではタンパク質または生物学的に活性なその部分を試験薬(例えば、試験MAPKAPアンタゴニスト)と接触させ、MAPKAPタンパク質または生物学的に活性なその部分に結合する試験薬の能力を測定する。MAPKAPタンパク質に対する試験薬の結合は、直接または間接的に上記のように測定し得る。好適な態様において、該アッセイ法はMAPKAPタンパク質または生物学的に活性なその部分をMAPKAPに結合する既知の化合物と接触させてアッセイ混合物を形成させ、このアッセイ混合物を試験薬と接触させ、次いで試験薬のMAPKAPタンパク質と相互作用する能力を測定することであり、その場合、試験薬のMAPKAPタンパク質と相互作用する能力の測定は、MAPKAPまたは生物学的に活性なその部分に優先的に結合する試験薬の能力を、既知化合物と比較して測定することからなる。
【0096】
別の好適な態様において、該アッセイ法はMAPKAPタンパク質または生物学的に活性なその部分をMAPKAPに結合する既知の化合物と接触させてアッセイ混合物を形成させ、このアッセイ混合物を試験薬と接触させ、次いで試験薬のMAPKAPタンパク質と相互作用する能力を測定することであり、その場合、試験薬のMAPKAPタンパク質と相互作用する能力の測定は、MAPKAPまたは生物学的に活性なその部分に優先的に結合する試験薬の能力を、既知化合物と比較して測定することからなる。
【0097】
かかる測定はリアルタイム生体分子相互作用分析(BIA)などの技法を用いて実施し得る。Sjolander et al., 1991 Anal. Chem. 63:2338-2345 and Szabo et al., 1995 Curr. Opin. Struct. Biol. 5:699-705。本明細書にて使用する、「BIA」は相互作用物質のいずれをも標識することなく、リアルタイムで生体特異的相互作用を研究する技法である(例えば、バイアコア;BIAcore)。表面プラスモン共鳴(SPR)の光学現象の変化が、生物分子間のリアルタイム反応の指標として使用し得る。
【0098】
上記本発明のアッセイ法の1つを超える態様においては、MAPKAPを固定化してタンパク質の複合体を非複合体から分離するのを容易にし、かつ、アッセイの自動化に適応させることが望ましい。試験薬のMAPKAPに対する結合は、反応体を収容するのに適した何らかの容器中で実施し得る。かかる容器の例は、マイクロタイタープレート、試験管、および微量遠沈管である。一態様においては、融合タンパク質がタンパク質をマトリックスに結合させ得るドメインを加えるものとして提供され得る。例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/キナーゼ融合タンパク質またはグルタチオン−S−トランスフェラーゼ/標的融合タンパク質は、グルタチオンセファロース・ビーズ(シグマ・ケミカル;セントルイス、ミズーリ)またはグルタチオン誘導化マイクロタイタープレートに吸着させ得る;次いで、これらを試験薬または試験薬および非吸着MAPKAPタンパク質と組み合わせ、その混合物を複合体形成に導く条件下(例えば、塩およぼpHについての生理的条件)でインキュベートする。インキュベーション後に、ビーズまたはマイクロタイタープレートのウエルを洗浄して非結合成分を除去し(ビーズの場合は固定化したマトリックス)、複合体について、例えば、上記のように直接または間接的に測定する。あるいは、複合体をマトリックスから解離し、結合レベルを標準的方法で測定する。
【0099】
タンパク質をマトリックスに固定化する他の技法は、本発明のスクリーニング・アッセイにも使用し得る。例えば、MAPKAPはビオチンとストレプトアビジンの接合を利用して固定化し得る。ビオチニル化MAPKAPタンパク質または標的分子は、当該技術分野で周知の技法を用いてビオチン−NHS−(N−ヒドロキシ−コハク酸イミド)から調製可能であり(例えば、ビオチニル化キット;ピアース・ケミカルス、ロックフォード、イリノイ)、ストレプトアビジン被覆96穴プレート(ピアース・ケミカル)のウエルに固定化する。あるいは、MAPKAPタンパク質または標的分子と反応する抗体は、該プレートのウエルに誘導化し、未結合MAPKAPタンパク質は抗体接合によりウエルに捕捉することができる。かかる複合体を検出する方法は、GST−固定化複合体について上に記載した方法に加えて、MAPKAPタンパク質または標的分子と反応する抗体を用いての複合体の免疫検出法を包含する。
【0100】
本発明のさらに別の局面において、MAPKAPタンパク質はツー−ハイブリッドアッセイまたはスリー−ハイブリッドアッセイにおいて、「ベイト(bait)タンパク質」として使用し(参照例:米国特許第5,283,317号明細書;Zervos et al., 1993 Cell 72:223-232; Madura et al., 1993 J. Biol. Chem. 268:12046-12054; Bartel et al., 1993 Biotechniques 14:920-924; Iwabuchi et al., 1993 Oncogene 8:1693-1696; and Brent WO94/10300)、MAPKAPに結合する他のタンパク質を同定することができる。かかるMAPKAP結合タンパク質もまたMAPKAPタンパク質によるシグナルの伝播に関与していると思われる。
【0101】
ツー−ハイブリッド・システムは殆どの転写因子のモジュラー性に基づくものであり、分離可能なDNA−結合ドメインと活性化ドメインからなる。簡単に説明すると、このアッセイでは2種類の異なるDNA構築物を利用する。一方の構築物においては、MAPKAPタンパク質をコードする遺伝子を既知の転写因子(例、GAL−4)のDNA結合ドメインをエンコードする遺伝子に融合する。他方の構築物においては、DNA配列のライブラリーからのDNA配列で、未同定タンパク質(「プレイ(prey)」または「サンプル」)をエンコードする配列を、既知の転写因子の活性化ドメインをコードする遺伝子に融合する。「ベイト」および「プレイ」タンパク質がインビボで相互作用してキナーゼ依存性複合体を形成し得る場合、転写因子のDNA−結合および活性化ドメインは非常に接近した状態に置かれる。この接近は転写因子に応答する転写調節部位に操作可能に連結するレポーター遺伝子(例:LacZ)の転写を可能とする。レポーター遺伝子の発現は検出可能であり、機能的転写因子を含む細胞コロニーは単離して、該タンパク質と相互作用するMAPKAPタンパク質をエンコードするクローン化遺伝子を得るために使用する。
【0102】
本発明はさらに上記のスクリーニング・アッセイにより同定される新規の作用物質に関する。従って、適切な動物モデルにおいて本明細書に記載した通りに同定した作用物質をさらに使用することは、本発明の範囲内にある。例えば、本明細書に記載したように同定した作用物質(例:MAPKAP調節作用物質)を動物モデルで使用し、かかる作用物質での処置の有効性、毒性、または副作用を測定することができる。あるいは、本明細書に記載した通りに同定した作用物質は、動物モデルにおいて、かかる作用物質の作用メカニズムを決定するために使用することができる。さらに、本発明は本明細書に記載の処置のために上記のスクリーニング・アッセイにより同定される新規作用物質の使用に関する。
【0103】
RNAi
本発明は短鎖干渉リボ核酸配列(siRNA)、ならびに該siRNAを用いる細胞または哺乳動物におけるMAPKAP遺伝子の発現を阻害する組成物および方法を提供する。また、本発明はMAPKAP遺伝子の異常な発現を原因とするか、またはMAPKAPが不可欠のメンバーである経路(例えば、PI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路)の異常なシグナル伝達を原因とする哺乳動物における病理的症状および疾患を処置するためのsiRNAを用いる組成物および方法を提供する。siRNAはRNA干渉(RNAi)として既知のプロセスを経由するmRNAの配列特異的分解を方向付ける。
【0104】
本発明のsiRNAは長さが30個未満のヌクレオチド、一般に長さが19〜24個のヌクレオチドの領域を有するRNA鎖(アンチセンス鎖)からなり、MAPKAP遺伝子のmRNA転写物の少なくとも一部に実質的に相補性である。これらのsiRNAの使用はPI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路に関与する遺伝子のmRNAの標的化分解を可能とする。
【0105】
本発明によるsiRNA分子はRNA干渉(RNAi)を仲介する。「RNAi」という用語は当該技術分野にて周知であり、標的遺伝子に相補性である領域をもつsiRNAによる細胞中の1種以上の標的遺伝子の阻害を意味するものと一般に理解される。RNAiを仲介するその能力についてsiRNAを試験するための種々のアッセイ法が当該技術分野で既知である(参照例:Elbashir et al., Methods 26 (2002), 199-213)。本発明によるsiRNAの遺伝子発現に対する作用は、本発明によるRNA分子で処理していない細胞と比較した場合、結果として典型的に、標的遺伝子の発現を少なくとも10%、33%、50%、90%、95%または99%まで阻害するに至る。
【0106】
本発明による「siRNA」または「短鎖干渉リボ核酸」は当該技術分野で既知の意味を有し、以下の側面を含む。siRNAは生理的条件下で相補性領域に沿ってハイブリッド形成するリボヌクレオチドの二本鎖からなる。これらの鎖は分離しているが、特定の態様において分子リンカーにより繋がり得る。個々のリボヌクレオチドは未修飾天然産リボヌクレオチド、未修飾の天然に存在するデオキシリボヌクレオチドであってもよいし、またはそれらは本明細書の別項に記載する通り、化学的に修飾されていても、または合成品であってもよい。
【0107】
本発明によるsiRNA分子は、標的遺伝子のmRNAの領域に実質的に同一である二本鎖領域を含んでなる。標的遺伝子の対応する配列に100%一致する領域が適当である。この状態は「完全に相補性」であるという。しかし、この領域は標的遺伝子の対応する領域に比較したとき、標的とされるmRNAの領域の長さにより、1個、2個または3個のミスマッチを含み得、そのままでは完全に相補性であり得ない。一態様において、本発明のRNA分子は特異的に一つの所定の遺伝子を標的とする。所望のmRNAのみを標的とするために、siRNA試薬は標的のmRNAに100%の相同性をもち、細胞または生体中に存在する他のすべての遺伝子に対し少なくとも2個のミスマッチヌクレオチドをもち得る。特異的標的配列の発現を有効に阻害するために、十分な配列同一性をもつsiRNAを分析し、同定する方法は当該技術分野において既知である。配列同一性は当該技術分野において既知の配列比較および整列アルゴリズムにより最適化してもよく(参照:Gribskov and Devereux, Sequence Analysis Primer, Stockton Press, 1991, およびその引用文献)、例えば、デフォルト・パラメーターを用いるベストフィット(BESTFIT)ソフトウエアプログラムにて実施するスミス−ウォーターマン・アルゴリズムにより、ヌクレオチド配列間のパーセント差を計算する(例:ウイスコンシン大学遺伝子コンピュータグループ)。
【0108】
RNAi試薬の有効性に影響を与える別の因子は、標的遺伝子の標的領域である。RNAi試薬により阻害するために有効な標的遺伝子の領域は、実験により決定し得る。適当なmRNA標的領域はコーディング領域であろう。また、未翻訳領域、例えば、5’−UTR、3’−UTR、およびスプライス接合点である。例えば、文献(Elbashir S.M. et al, 2001 EMBO J., 20, 6877-6888)に記載されている形質導入アッセイがこの目的のために実施し得る。多くの他の適切なアッセイおよび方法が当該技術分野に存在し、当業者周知である。
【0109】
本発明によると、標的に相補的であるsiRNAの領域の長さは、10個ないし100個のヌクレオチド、12個ないし25個のヌクレオチド、14個ないし22個のヌクレオチドまたは15個、16個、17個または18個のヌクレオチドであり得る。対応する標的領域に対するミスマッチがある場合、相補性領域の長さは一般に幾分長めであることが必要である。
【0110】
siRNAはオーバーハング末端(これは標的に相補性であってもなくてもよい)を担持するか、または標的遺伝子ではなく、それ自体に相補性であるさらなるヌクレオチドを担持する可能性があるため、siRNAの各分離鎖の全長は10個ないし100個のヌクレオチド、15個ないし49個のヌクレオチド、17個ないし30個のヌクレオチドまたは19個ないし25個のヌクレオチドであってもよい。
【0111】
「各鎖が49個以下のヌクレオチドである」という文言は、鎖の連続的ヌクレオチドの合計数を意味し、すべての修飾したまたは未修飾ヌクレオチドを含み、該鎖の3’または5’末端に付加し得る何らかの化学的部分は含まない。該鎖に挿入される短い化学的部分は計測しないが、2つの分離鎖を結合するように設計された化学的リンカーは連続的ヌクレオチドを創出するものとは考えない。
【0112】
「5’末端または3’末端の少なくとも一方の1個ないし6個のヌクレオチド・オーバーハング」という文言は、生理的条件下に2本の分離した鎖から形成する相補性siRNAの構造体をいう。末端ヌクレオチドがsiRNAの二本鎖領域の一部であるならば、siRNAは平滑末端と考える。1個以上のヌクレオチドが末端上不対合であるならば、オーバーハングが創出される。オーバーハングの長さは突出するヌクレオチドの数で測定される。突出するヌクレオチドはいずれかの鎖の5’末端または3’末端上に存在し得る。
【0113】
本発明によるsiRNAは、両鎖の少なくとも一方に少なくとも1つの修飾されたヌクレオチドを含めることによって、経口送達に適する高いインビボ安定性を付与する。従って、本発明によるsiRNAは少なくとも1個の修飾された、または非天然リボヌクレオチドを含む。多くの既知の化学的修飾についての非常に長い記載が、公開されたPCT特許出願WO200370918に開示されているので、ここでは繰り返さない。経口送達に適当な修飾については、より具体的に実施例と本明細書の記載に示されている。適当な修飾は限定されるものではないが、糖部分への修飾(すなわち、糖部分の2’位置、例えば、2’−O−(2−メトキシエチル)または2’−MOE)(Martin et al., Helv. Chim. Acta, 1995, 78, 486-504)、すなわち、アルコキシアルコキシ基)または塩基部分(すなわち、非天然または修飾された塩基で、代わり得るヌクレオチド鎖の別の特異的塩基と対合する能力を保持する塩基)である。他の修飾はいわゆる「バックボーン」修飾であり、限定されるものではないが、リン酸エステル基の置き換え(隣接位のリボヌクレオチドを、例えば、ホスホロチオエート、キラル・ホスホロチオエートまたはホスホロジチオエートにより連結)を含む。最終的に、末端修飾は時には3’キャップまたは5’キャップが有意であり得る場合を本明細書ではいう。キャップは当業者既知のより複雑な化学からなる。
【0114】
一態様において、本発明はMAPKAP遺伝子の発現を阻害する二本鎖リボ核酸(dsRNA)分子を提供する。dsRNAは互いに相補性である少なくとも2本の配列を含んでなる。dsRNAは第一の配列を含んでなるセンス鎖および第二の配列を含んでなるアンチセンス鎖を含んでなる。アンチセンス鎖はMAPKAPをエンコードするmRNAの少なくとも一部に実質的に相補性であるヌクレオチド配列を含んでなり、その相補性の領域はその長さが30個未満のヌクレオチド、一般的に長さが19〜24個のヌクレオチドである。dsRNAはMAPKAPを発現する細胞と接触させることにより、少なくとも40%のMAPKAPの発現を阻害する。
【0115】
別の態様において、本発明は本発明のdsRNAの1つを含んでなる細胞を提供する。該細胞は一般に哺乳動物、例えば、ヒトの細胞である。
【0116】
別の態様において、本発明は生体において、一般的にはヒト対象において、MAPKAP遺伝子の発現を阻害する医薬組成物であって、1種以上の本発明のdsRNAおよび医薬的に許容される担体または送達媒体を含有してなる組成物を提供する。
【0117】
別の態様において、本発明は細胞中のMAPKAP遺伝子の発現を阻害する方法であって、以下の工程を含んでなる方法を提供する:
(a)二本鎖リボ核酸(dsRNA)を細胞に導入し(ここで、dsRNAは互いに相補性である少なくとも2つの配列を含んでなる。該dsRNAは第一の配列を含んでなるセンス鎖および第二の配列を含んでなるアンチセンス鎖を含んでなる。アンチセンス鎖はMAPKAPをエンコードするmRNAの少なくとも一部に実質的に相補性である相補性の領域を含んでなり、その相補性の領域はその長さが30個未満のヌクレオチド、一般的に長さが19〜24個のヌクレオチドであり、また該dsRNAはMAPKAPを発現する細胞と接触させることにより、少なくとも40%のMAPKAPの発現を阻害する);そして
(b)MAPKAP遺伝子のmRNA転写体を分解させるために十分な時間、工程(a)にて産生された細胞を維持し、それによって細胞中のMAPKAP遺伝子の発現を阻害する。
【0118】
別の態様において、本発明はPI3K/AKT/mTOR−シグナル伝達が仲介する生理的プロセス、例えば、癌を処置、予防または管理する方法であって、かかる処置、予防または管理を必要とする患者に、治療的または予防的有効量の本発明の1種以上のsiRNAを投与することを特徴とする方法を提供する。
【0119】
別の態様において、本発明は細胞中のMAPKAP遺伝子の発現を阻害するベクターであって、本発明のsiRNAの1つの少なくとも一本鎖をエンコードするヌクレオチド配列に操作可能に連結した調節配列を含んでなるベクターを提供する。
【0120】
本発明の阻害性核酸化合物は、市販品として入手し得る自動化DNA合成機、例えば、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)(フォスター・シティ、カリフォルニア)モデル380B、392もしくは394DNA/RNAシンセサイザー、または同種の機器など、常套の手段により合成し得る。ホスホルアミダイトの化学を使用してもよい。本発明の阻害性核酸化合物はまた修飾された、例えば、ヌクレアーゼ抵抗性バックボーンであってもよく、例えば、多くの文献に記載されているホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホルアミデートなどを使用してもよい。阻害性核酸の長さは、生物活性を確実に阻害するために十分な大きさでなければならない。従って、例えば、アンチセンス・オリゴヌクレオチドの場合、特異的結合が所望の標的ポリヌクレオチドにおいてのみ起こり、他の偶発的部位では起こらないことの確実な十分な大きさであることが必要である。長さの上限範囲はいくつかの因子、例えば、長さが約30〜40ヌクレオチドより大きいオリゴマーを合成し、精製する不便さおよび費用、短鎖オリゴヌクレオチドよりも長鎖オリゴヌクレオチドのミスマッチに対するより大きな許容範囲などにより決定される。好ましくは、本発明のアンチセンス・オリゴヌクレオチドは約15個ないし40個のヌクレオチドの範囲の長さをもつ。より好ましくは、該オリゴヌクレオチド部分は約18個ないし25個のヌクレオチドの範囲の長さをもつ。
【0121】
二本鎖RNA、すなわち、センス−アンチセンスRNAは、また短鎖干渉RNA(siRNA)ともいわれ、MAPKAPに対する核酸の発現を阻害するためにも使用し得る。RNA干渉は、外来性短鎖RNA二重鎖を、その一方の鎖が標的mRNAのコーディング領域に相当する場合に、投与する方法である(Elbashir et al.(2001) Nature 411: 494)。細胞への導入により、siRNAは外来RNA二重鎖の分解のみならず、内在するメッセンジャーRNAを含め、同じ配列を有する一本鎖RNAの分解をも惹き起こす。従って、siRNAは、その技術が触媒メカニズムを介して作用すると信じられるので、伝統的なアンチセンスRNA方法論よりもより強力かつ有効であり得る。好適なsiRNA分子は典型的には19個ないし25個のヌクレオチドの長さ、好ましくは約21個のヌクレオチドの長さであり、E2−EPF5の核酸配列を含んでなる。標的細胞にsiRNAを送達する有効な戦略は、例えば、物理的または化学的トランスフォーメーションを用いる形質導入である。別法として、siRNAは、例えば、機能的siRNAまたはその前駆体の転写を可能とする種々のPolIIIプロモーター発現カセットを用いる細胞中で発現し得る。参照例:Scherr et al. (2003) Curr. Med. Chem. 10(3):245; Turki et al. (2002) Hum. Gene Ther. 13(18):2197; Cornell et al. (2003) Nat. Struct. Biol. 10(2):91。また、本発明は、例えば、マイクロ−RNA(miRNA)および短鎖ヘアピンRNA(shRNA)などのRNA干渉(RNAi)を仲介し得る他の短鎖RNAをも包含する。
【0122】
特記しない限り、本明細書にて使用される技術上および科学上の用語はすべて本発明が属する技術分野の当業者が共通して理解する意味と同じ意味を有する。本明細書に記載したもと同様の、または等価の方法と材料は、本発明の実施または試験に使用し得るが、その適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書に記載したすべての公表文献、特許出願、特許および他の引用文献は、その全文を参照により本明細書の一部とする。問題のある場合は、本明細書がその定義も含めて規定する。さらに、材料、方法、および例示は、説明のためのものであり、限定するためのものではない。
【実施例】
【0123】
実施例1:mTOR/AKT/PI3K経路の結合剤
mTOR/AKT/PI3K経路の新規モジュレーターを同定するために、系統的タンデム型親和性精製(TAP)方法をmTOR経路の数種の既知シグナル伝達分子に適用した。参照により本明細書の一部とするRigaut et al. (Nat Biotechnol. (1999) 17(10): 1030)およびBouwmeester et al. (Nature Cell Biology (2004) 6: 97 - 105)に記載されている通り、TAP精製法は、TAPタグ標識を対象の標的タンパク質に融合すること、およびその構築物を同じ起源の宿主細胞または生体に導入することを含む。
【0124】
TAPタグ標識は、(i)黄色ブドウ球菌からのプロテインAのIgG−結合単位;および(ii)TEVプロテアーゼ切断部位により分離されるカルモジュリン結合ペプチド(CBP);との縦列融合体である。このものは複合体の組成、活性、または機能について予め知識がなくても、比較的少数の細胞から複合体を迅速に精製することを可能とする。質量分析と組合わせると、TAP戦略は所定の標的タンパク質と相互作用するタンパク質の同定を可能とする。
【0125】
ヒーラ(HeLa)細胞からのタンパク質複合体の精製
CBT−TEV−プロテインA二重タグとhVPA34の融合物をエンコードするベクターを標準法により構築した。hVPS34融合導入遺伝子をエンコードするレトロウイルスを調製し、トランスデューサー・ヒーラ細胞に使用した。タンパク質はNP−40デタージェント溶解バッファーを用いて培養細胞から抽出した。この複合体はIgG−連結ビーズに結合させ、TEVプロテアーゼ切断により溶出し、溶出物質をカルモジュリン含有ビーズに結合させ、次いでEGTAで溶出することにより精製した。TEV切断を除き、各工程はすべて0〜4℃で実施した。
【0126】
タンパク質サンプルをSDS−PAGEで分離し、完全なゲルのレーンを系統的に切り取ってスライスとし、タンパク質はShevchenko(Shevchenko, A., Wilm, M., Vorm, O. & Mann, M. Mass spectrometric sequencing of proteins silver-stained polyacrylamide gels. Anal. Chem. 68, 850-858 (1996))に記載の通り、ゲル中、トリプシンで消化した。タンパク質の同定はLC−MS/MSで遂行し、MSデータはEGI(ヒンクストン(Hinxton)、英国)で維持されている国際タンパク質インデックス(IPI)の自社管理版で検索した。データベースの検索結果はさらに生命情報科学分析のためにデータベースシステムに読み取った。
MAPKAPはmTORおよびhVPS34と関連性のあることが判明した。
【0127】
実施例2:siRNA配列の生成
siRNA配列設計にはBIOPREDsi効力予測アルゴリズムを用い、21−マーのオリゴヌクレオチドを計測する。最高値となった配列につき、実験的に規定したsiRNAの選択基準に従って、特定のトランスクリプトームに対する理論的選択性について試験する。さらに、siRNAはキアゲン(Qiagen)(バレンシア、カリフォルニア)およびダルマコン(Dharmacon)(ラファイエット、コロラド)により、19塩基対二重鎖と各鎖の3’末端に2個のデオキシヌクレオチドのオーバーハングをもつ21ヌクレオチドのオリゴリボヌクレオチドとして合成した。センス鎖のDNAは、dTdTであり、一方、アンチセンス鎖のオーバーハングは、標的mRNAに相補性であった。
【0128】
生成したsiRNA配列は以下のとおりである:
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者におけるPI3K/AKT/mTOR関連障害を処置または予防する方法であって、MAPKAPアンタゴニストを患者に投与することを特徴とする方法。
【請求項2】
当該MAPKAPアンタゴニストがsiRNAである請求項1記載の方法。
【請求項3】
当該MAPKAPアンタゴニストが低分子である請求項1記載の方法。
【請求項4】
PI3K/AKT/mTOR関連障害が癌である請求項1記載の方法。
【請求項5】
該癌がアミノ酸輸送体(例えば、LAT1)の過剰発現と関連するものであるか、またはPTEN、TSC1/2、もしくはPI3KクラスAに突然変異を担持するものである請求項4記載の方法。
【請求項6】
PI3K/AKT/mTOR関連障害が神経変性障害である請求項1記載の方法。
【請求項7】
PI3K/AKT/mTOR関連障害が代謝障害である請求項1記載の方法。
【請求項8】
PI3K/AKT/mTOR関連障害が過誤腫症候群である請求項1記載の方法。
【請求項9】
PI3K/AKT/mTOR関連障害が遺伝性筋障害またはミオパシーである請求項1記載の方法。
【請求項10】
患者におけるPI3K/AKT/mTOR関連障害を処置または予防する方法であって、MAPKAP、mTOR、およびhVPS34間の結合事象を中断させ得る作用物質を患者に投与することを特徴とする方法。
【請求項11】
PI3K/AKT/mTOR関連障害を処置または予防し得る作用物質を同定する方法であって:
a)i)MAPKAPタンパク質に結合し得るmTOR複合体メンバータンパク質または同族体;ii)当該mTOR複合体メンバーと相互作用することの知られたMAPKAPタンパク質または同族体;およびiii)1種以上のスクリーニング用試験作用物質;を提供し;
b)当該mTOR複合体複合体メンバータンパク質または同族体、当該MAPKAPタンパク質または同族体、および当該1種以上の試験すべき化合物をいずれかの順序で混合し;そして
c)該試験作用物質存在下のmTOR複合体メンバータンパク質:MAPKAP結合の変化を、当作用物質不存在下の結合と比較して測定する;
ことを含む方法。
【請求項12】
当該作用物質が低分子である請求項11記載の方法。
【請求項13】
当該作用物質がsiRNAである請求項11記載の方法。
【請求項14】
PI3K/AKT/mTOR関連障害を処置または予防し得る作用物質を同定する方法であって:
a)i)MAPKAPタンパク質に結合し得るPI3K複合体メンバータンパク質または同族体;ii)当該PI3K複合体メンバーと相互作用することの知られたMAPKAPタンパク質または同族体;およびiii)1種以上のスクリーニング用試験作用物質;を提供し;
b)当該PI3K複合体複合体メンバータンパク質または同族体、当該MAPKAPタンパク質または同族体、および当該1種以上の試験すべき化合物をいずれかの順序で混合し;そして
c)該試験作用物質存在下のPI3K複合体メンバータンパク質:MAPKAP結合の変化を、当該作用物質不存在下の結合と比較して測定する;
ことを含む方法。
【請求項15】
当該作用物質が低分子である請求項14記載の方法。
【請求項16】
当該作用物質がsiRNAである請求項14記載の方法。
【請求項17】
本発明は、MAPKAP、mTOR、およびhVPS34間の相互作用を調節する試験作用物質を同定する方法であって、
a)(i)mTORおよびhVPS34に結合し得るMAPKAPタンパク質または同族体;(ii)MAKPAKタンパク質およびhVPS34に結合し得るmTORタンパク質または同族体;(iii)mTORおよびMAPKAPに結合し得るhVPS34タンパク質または同族体;および(iv)試験作用物質;を提供し;
b)当該MAPKAP、mTOR、およびhVPS34タンパク質または同族体、および当該試験作用物質をいずれかの順序で混合し;そして
c)該試験作用物質存在下のMAPKAP、mTOR、およびhVPS34間の相互作用の変化を、当該試験作用物質不存在下の相互作用と比較して測定する;
ことを含む、方法を提供する。
【請求項18】
当該作用物質が低分子である請求項17記載の方法。
【請求項19】
当該作用物質がsiRNAである請求項17記載の方法。
【請求項20】
PI3K/AKT/mTOR関連障害の処置に有用な作用物質をスクリーニングする方法であって:
a)(i)mTORおよびhVPS34に結合し得るMAPKAPタンパク質または同族体;(ii)MAKPAKタンパク質およびhVPS34に結合し得るmTORタンパク質または同族体;(iii)mTORおよびMAPKAPに結合し得るhVPS34タンパク質または同族体;および(iv)試験作用物質;を提供し;
b)当該MAPKAP、mTOR、およびhVPS34タンパク質または同族体、および当該試験作用物質をいずれかの順序で混合し;および
c)該試験作用物質存在下のMAPKAP、mTOR、およびhVPS34間の相互作用の変化を、当該試験作用物質不存在下の相互作用と比較して測定する;
ことを含む、方法。
【請求項21】
当該作用物質が低分子である請求項20記載の方法。
【請求項22】
当該作用物質がsiRNAである請求項20記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−502640(P2010−502640A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526856(P2009−526856)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/076934
【国際公開番号】WO2008/027855
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】