説明

n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質及びその製造方法

【課題】n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸の微生物による製造方法の提供。
【解決手段】アラキドン酸生産能を有する微生物から得られた、パルミチン酸からステアリン酸への脂肪酸鎖長延長活性が低下又は欠損した微生物を培養し、培養物から脂質を採取することを特徴とするn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質の製造方法。本発明によれば、従来微生物によっては製造できなかった、炭素原子数18個以上のn−4系及び/又はn−7系の高度不飽和脂肪酸を微生物により製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラキドン酸生産能を有する微生物から得られた、パルミチン酸からステアリン酸への脂肪酸鎖長延長活性が低下又は欠損した微生物を培養することにより、もしくは、アラキドン酸生産能を有する微生物を、パルミトレイン酸もしくはその誘導体、又はこれらを構成成分として含有する油脂を添加した培地で培養することにより、培養物からn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質を採取すること、あるいは該脂質からn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有するトリグリセリド、又はn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を分離精製することを特徴とするn−4系又はn−7系高度不飽和脂肪酸、又はこれらを含有する脂質の製造方法、並びにn−4系又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質、及びこれらを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にn−4系又はn−7系高度不飽和脂肪酸とは、二重結合を2つ以上持ち、かつメチル基末端から数えて4番目又は7番目の炭素にメチル基側最初の二重結合を持つ脂肪酸である。n−4系又はn−7系高度不飽和脂肪酸の二重結合は、通常生体内に存在するリノール酸やα−リノレン酸、アラキドン酸などのn−3系、n−6系高度不飽和脂肪酸の二重結合とは異なった配置をとっており、これら通常の脂肪酸の作用と拮抗すると考えられるため、その生理作用が期待され、また、食品、化粧品、医薬品、動物飼料などへの応用が期待されている。
【0003】
実際、炭素数18以上のn−7系高度不飽和脂肪酸は必須脂肪酸の欠乏した動物体内に存在することが知られており、動物体内で様々な作用を持つと考えられている(Wolff RL "New trends in lipid and lipoprotein analyses" American Oil Chemists' Society, 147-180, 1995 )。炭素数が16のn−4系又はn−7系高度不飽和脂肪酸は微生物や藻類に存在することが知られているが、炭素数が18以上のn−4系又はn−7系高度不飽和脂肪酸の供給源は上記動物が知られているのみで、上記動物の体内からの抽出は、供給の安定性や含量が低い点に問題があり、実用性は低かった。
【0004】
このため、特に炭素数が18以上のn−4系又はn−7系高度不飽和脂肪酸、又はこれらを含有する脂質の製造方法、並びに炭素数が18以上のn−4系又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質又はトリグリセリド、及びこれらを含有する組成物の開発が強く望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明は、炭素数が18以上のn−4系又はn−7系高度不飽和脂肪酸、もしくはこれらを含有する脂質又はトリグリセリドの製造方法、並びに炭素数が18以上のn−4系又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質又はトリグリセリド、及びこれらを含有する組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の目的を達成するために種々研究した結果、アラキドン酸生産能を有する微生物を、パルミトレイン酸もしくはその誘導体、又はこれらを構成成分として含有する油脂を添加した培地で培養することにより、n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質を生成することを見出した。さらに、アラキドン酸生産能を有する微生物からパルミチン酸からステアリン酸への脂肪酸鎖長延長活性が低下又は欠損した微生物を取得し、これを培養することにより、n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質を生成することをも見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、アラキドン酸生産能を有する微生物を、パルミトレイン酸もしくはその誘導体、又はこれらを構成成分として含有する油脂を添加した培地で培養し、そして培養物から脂質を採取することを特徴とするn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質の製造方法;並びに
アラキドン酸生産能を有する微生物から得られた、パルミチン酸からステアリン酸への脂肪酸鎖長延長活性が低下又は欠損した微生物を培養し、そして培養物から脂質を採取することを特徴とするn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質の製造方法を提供する。
【0008】
本発明はさらに、脂質中の全脂肪酸に対して7,10,13,16−エイコサテトラエン酸の含量が1.5重量%以上である7,10,13,16−エイコサテトラエン酸を含有する脂質、
脂質中の全脂肪酸に対して5,8,11,14−オクタデカテトラエン酸の含量が0.5重量%以上である5,8,11,14−オクタデカテトラエン酸を含有する脂質、
脂質中の全脂肪酸に対して8,11,14−オクタデカトリエン酸の含量が0.1重量%以上である8 11,14−オクタデカトリエン酸を含有する脂質、
【0009】
脂質中の全脂肪酸に対して炭素数が18以上のn−4系高度不飽和脂肪酸の含量が2.8重量%以上である炭素数が18以上のn−4系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質、
脂質中の全脂肪酸に対して7,10,13−エイコサトリエン酸の含量が0.1重量%以上である7,10,13−エイコ7サトリエン酸を含有する脂質、
脂質中の全脂肪酸に対して5,8,11−オクタデカトリエン酸の含量が0.1重量%以上である5, 8,11−オクタデカトリエン酸を含有する脂質、
脂質中の全脂肪酸に対して8,11−オクタデカジエン酸の含量が0.1重量%以上である8, 11−オクタデカジエン酸を含有する脂質、
【0010】
脂質中の全脂肪酸に対して炭素数が18以上のn−7系高度不飽和脂肪酸の含量が0.3重量%以上である炭素数が18以上のn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質、
トリグリセリド中の全脂肪酸に対して7,10,13,16−エイコサテトラエン酸の含量が1.5重量%以上である7,10,13,16−エイコサテトラエン酸を含有するトリグリセリド、
トリグリセリド中の全脂肪酸に対して5,8,11,14−オクタデカテトラエン酸の含量が0.5重量%以上である5,8,11,14−オクタデカテトラエン酸を含有するトリグリセリド、
【0011】
トリグリセリド中の全脂肪酸に対して8,11,14−オクタデカトリエン酸の含量が0.1重量%以上である8,11,14−オクタデカトリエン酸を含有するトリグリセリド、
トリグリセリド中の全脂肪酸に対して炭素数が18以上のn−4系高度不飽和脂肪酸の含量が3.0重量%以上である炭素数が18以上のn−4系高度不飽和脂肪酸を含有するトリグリセリド、
トリグリセリド中の全脂肪酸に対して7,10,13−エイコサトリエン酸の含量が0.1重量%以上である7,10,13−エイコサトリエン酸を含有するトリグリセリド、
【0012】
トリグリセリド中の全脂肪酸に対して5,8,11−オクタデカトリエン酸の含量が0.1重量%以上である5,8,11−オクタデカトリエン酸を含有するトリグリセリド、
トリグリセリド中の全脂肪酸に対して8,11−オクタデカジエン酸の含量が0.1重量%以上である8,11−オクタデカジエン酸を含有するトリグリセリド、及び
トリグリセリド中の全脂肪酸に対して炭素数が18以上のn−7系高度不飽和脂肪酸の含量が0.3重量%以上である炭素数が18以上のn−7系高度不飽和脂肪酸を含有するトリグリセリド、
並びにこれらの脂質又はトリグリセリドを含有する組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明においてn−4系又はn−7系高度不飽和脂肪酸とは、炭素数が18以上で二重結合を2つ以上持ち、かつメチル基末端から数えて4番目又は7番目の炭素にメチル基側最初の二重結合を持つ脂肪酸であり、具体的には、n−4系高度不飽和脂肪酸としては7,10,13,16−エイコサテトラエン酸や、5,8,11,14−オクタデカテトラエン酸、8,11,14−オクタデカトリエン酸が、n−7系高度不飽和脂肪酸としては7,10,13−エイコサトリエン酸や、5,8,11−オクタデカトリエン酸、8,11−オクタデカジエン酸が挙げられる。
【0014】
また本発明においては、アラキドン酸生産能を有する微生物であれば、すべて使用することができる。アラキドン酸生産能を有する微生物としては、モルティエレラ(Mortierella )属、コニディオボラス(Conidiobolus)属、フィチウム(Pythium )属、フィトフトラ(Phytophthora)属、ペニシリューム(Penicillium )属、クラドスポリューム(Cladosporium)属、ムコール(Mucor )属、フザリューム(Fusarium)属、アスペルギルス(Aspergillus )属、ロードトルラ(Rhodotorula )属、エントモフトラ(Entomophthora )属、エキノスポランジウム(Echinosporangium)属、サプロレグニア(Saprolegnia )属に属する微生物を挙げることができる。モルティエレラ(Mortierella )属モルティエレラ(Mortierella )亜属に属する微生物では、例えばモルティエレラ・エロンガタ(Mortierella elongata)、モルティエレラ・エキシグア(Mortierella exigua)、モルティエレラ・フィグロフィラ(Mortierella hygrophila)、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)等を挙げることができる。
【0015】
具体的にはモルティエレラ・エロンガタ(Mortierella elongata)IFO8570 、モルティエレラ・エキシグア(Mortierella exigua)IFO8571 、モルティエレラ・フィグロフィラ(Mortierella hygrophila)IFO5941 、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)IFO8568 、ATCC16266 、ATCC32221 、ATCC42430 、CBS219.35 、CBS224.37 、CBS250.53 、CBS343.66 、CBS527.72 、CBS529.72 、CBS608.70 、CBS754.68 等の菌株を挙げることができる。
【0016】
これらの菌株はいずれも、大阪市の財団法人醗酵研究所(IFO )、米国のアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection, ATCC)、又はCentrralbureau voor Schimmelcultures(CBS )からなんら制限なく入手することができる。また本発明の研究グループが土壌から分離した菌株モルティエレラ・エロンガタSAM0219 (微工研菌寄第8703号)(微工研条寄第1239号)を使用することもできるが、これらの菌株に限定しているわけではない。これらのタイプカルチャーに属する菌株、あるいは自然界から分離した菌株をそのまま用いることができるが、増殖及び/又は単離を1回以上行うことによって得られる元の菌株とは性質の異なる自然突然変異株を用いることもできる。
【0017】
さらに本発明において、アラキドン酸生産能を有する微生物から得られたパルミチン酸からステアリン酸への脂肪酸鎖長延長反応が低下又は欠損した微生物は、上記アラキドン酸生産能を有する微生物を用いて、例えば以下に記載する変異処理によって得ることができる。また、アラキドン酸生産能を有する微生物のパルミチン酸からステアリン酸への脂肪酸鎖長延長反応に関与する酵素の活性を低下または欠失させる遺伝子操作によっても得ることができる。その例として、該酵素をコードする遺伝子のノックアウトや、アンチセンスによる不活化などが挙げられるが、これらの方法に限定しているわけではない。
【0018】
さらに本発明には、n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸の脂質又はトリグリセリド中の割合を全体的に高めるため、あるいは特定の脂肪酸の割合を高めるために、上記アラキドン酸生産能を有する微生物又は該微生物から得られるパルミチン酸からステアリン酸への脂肪酸鎖長延長反応が低下又は欠損した微生物に対して、変異処理や遺伝子操作を施すことによって得られる微生物の使用も包含される。その一例として、アラキドン酸生産能を有する微生物から得られるΔ12不飽和化反応が低下又は欠損した微生物を使用することができる。
【0019】
すなわち該微生物をパルミトレイン酸もしくはその誘導体、又はこれらを構成成分として含有する油脂を添加した培地で培養することにより、n−4系高度不飽和脂肪酸の割合が少ないか又は含有しない、n−7系高度不飽和脂肪酸含有脂質を得ることができる。またこのΔ12不飽和化反応が低下又は欠損した微生物にさらに変異処理や遺伝子操作を施して得られるパルミチン酸からステアリン酸への脂肪酸鎖長延長反応が低下又は欠損した微生物を使用することによっても、n−4系高度不飽和脂肪酸の割合が少ないか又は含有しない、n−7系高度不飽和脂肪酸含有脂質を得ることができる。
【0020】
また、Δ6不飽和化反応が強化された微生物を用いることにより、n−7系高度不飽和脂肪酸の割合を高めることが可能であり、あるいはΔ12不飽和化反応が強化された微生物を用いることにより、n−4系高度不飽和脂肪酸の割合を高めることが可能である。
本発明において変異処理は、放射線(X線、ガンマー線、中性子線)照射や紫外線照射、高熱処理等を行ったり、また微生物を適当なバッファー中などに懸濁し、変異原を加えて一定時間インキュベート後、適当に希釈して寒天培地に植菌し、変異株のコロニーを得るといった一般的な突然変異操作を行うこともできる。
【0021】
変異原としては、ナイトロジェンマスタード、メチルメタンサルホネートやN-メチル-N'-ニトロ-N- ニトロソグアニジン(NTG )等にアルキル化剤、5-ブロモウラシル等の塩基類似体、マイトマイシンC 等の抗生物質、6-メルカプトプリン等の塩基合成阻害剤、プロフラビン等の色素類、4-ニトロキノリン-N- オキシド等のある種の発がん剤、塩化マンガン、ホルムアルデヒド等の化合物を挙げることができる。また、使用する微生物は、生育菌体(菌糸)でもよいし、胞子でもよい。
【0022】
例えば本発明の変異株として、アラキドン酸生産能を有するモルティエレラ・アルピナIFO8568 から本発明者らが誘導した,脂肪酸鎖長延長活性が低下したモルティエレラ・アルピナSAM 2268(FERM P-17762)を使用することができるが、この菌株に限定しているわけでなく、アラキドン酸生産能を有し脂肪酸鎖長延長活性が低下又は欠損した菌株をすべて使用することができる。
【0023】
本発明に使用される菌株を培養する為には、その菌株の胞子、菌糸、又は予め培養して得られた前培養液を、液体培地又は固体培地に接種し培養する。液体培地の場合に、炭素源としてはグルコース、フラクトース、キシロース、サッカロース、マルトース、可溶性デンプン、糖蜜、グリセロール、マンニトール等の一般的に使用されているものが、いずれも使用できるが、これらに限られるものではない。
【0024】
窒素源としてはペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、カザミノ酸、コーンスティープリカー、大豆タンパク、脱脂ダイズ、綿実カス等の天然窒素源の他に、尿素等の有機窒素源、ならびに硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等の無機窒素源を用いることができる。この他必要に応じリン酸塩、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅等の無機塩及びビタミン等も微量栄養源として使用できる。
【0025】
これらの培地成分は微生物の生育を害しない濃度であれば特に制限はない。実用上一般に、炭素源は0.1〜40重量% 、好ましくは1〜25重量% の濃度とするのが良い。炭素源は培養途中に逐次流加しても構わない。又、初発の窒素源添加量は0.1〜10重量% 、好ましくは0.1〜6重量% とし、培養途中に窒素源を流加しても構わない。
【0026】
本発明の微生物の培養温度は使用する微生物によりことなるが、5〜40℃、好ましくは10〜30℃とし、培地のpHは4 〜10、好ましくは5〜9 として通気攪拌培養、振盪培養、又は静置培養を行う。培養は通常2〜30日間、好ましくは5〜20日間、より好ましくは5 〜15日間行う。
固体培養で培養する場合は、固形物重量に対して50〜100 重量% の水を加えたふすま、もみがら、米ぬか等を用い、5〜40℃、好ましくは10〜30℃の温度において、3 〜14日間培養を行う。この場合に必要に応じて培地中に窒素源、無機塩類、微量栄養源を加えることができる。
【0027】
本発明においては、n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸の生成量を高めるために、テトラデカン、ヘキサデカン等の炭化水素、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸等の脂肪酸又はその塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等)及びエステル、又は該脂肪酸が構成成分として含まれる油脂(例えば、ヤシ油、パーム核油)等を基質として添加することができる。またアラキドン酸生産能を有する微生物を用いる場合には、前駆体としてパルミトレイン酸もしくはその誘導体、又はこれらを構成成分として含有する油脂を添加する。これら基質又は前駆体それぞれの総添加量は培地に対して0.001 〜10重量% 、好ましくは0.5 〜10重量% である。
【0028】
これらの添加物は生産微生物を接種する前又はその直後に加えてもよく、又は培養を開始した後に加えてもよく、あるいは両時点で加えてもよい。培養開始後の添加は1 回でもよく、又は複数回に分けて間欠的に添加してもよい。あるいは、連続的に添加することもできる。又、これらの添加物を唯一の炭素源として培養してもよい。
また、n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸含有脂質又はトリグリセリドを商品化が可能な収率で得るには、液体培地を用い、通気撹拌培養が好ましく、通常の撹拌式発酵槽、あるいは気泡塔型培養装置を使用することもできる。通気量としては0.1〜3 vvmが、撹拌速度としては10〜500 rpmが望ましい。
【0029】
このように培養して、菌体内にn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質が生成蓄積される。液体培地を使用した場合には、菌体培養によって脂質を製造する途中の培養液もしくはその殺菌した培養液、または培養終了時の培養液もしくはその殺菌した培養液、またはそれぞれから集菌した培養菌体もしくはその乾燥物からn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸含有脂質を採取する。例えば培養菌体からは次のようにしてn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸含有脂質の採取、および該脂質からn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸含有トリグリセリド又はn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸の単離を行う。
【0030】
培養終了後、培養液より遠心分離法や濾過等の常用の固液分離手段により培養菌体を得る。菌体は十分水洗し、好ましくは乾燥する。乾燥は凍結乾燥、風乾等によって行うことができる。乾燥菌体は、例えばダイノミルや超音波などにより破砕した後、好ましくは窒素気流下で有機溶媒によって抽出処理する。有機溶媒としてはエーテル、ヘキサン、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、石油エーテル等を用いることができ、又メタノールと石油エーテルの交互抽出やクロロホルム- メタノール- 水の一層系の溶媒を用いた抽出によっても良好な結果を得ることができる。抽出物から減圧下で有機溶媒を留去することにより、n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有した脂質が得られる。
【0031】
また上記の方法に代えて湿菌体を用いて抽出をおこなうことができる。この場合にはメタノール、エタノール等の水に対して相溶性の溶媒、又はこれらと水及び/又は他の溶媒とからなる水に対して相溶性の混合溶媒を使用する。その他の手順は上記と同様である。
上記のようにして得られた脂質中には、n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸が、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、ステロールエステルなどの中性脂質や、フォスファチジルコリン、リゾフォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、リゾフォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルイノシトール、リゾフォスファチジルイノシトール、フォスファチジルセリン、リゾフォスファチジルセリン、フォスファチジン酸、リゾフォスファチジン酸などの極性脂質の構成成分として、あるいは遊離脂肪酸として存在している。
【0032】
例えばモルティエレラ亜属に属する微生物を用いて製造されるn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質の油脂組成としては、中性脂質が70〜100重量%、極性脂質が0〜30重量%であり、中性脂質の主な成分であるトリグリセリドは70〜99重量%である。また該脂質の脂肪酸組成としては、脂質中の全脂肪酸に対して、
7,10,13,16−エイコサテトラエン酸が1.5〜70重量%、好ましくは2.0〜70重量%、より好ましくは5.0〜70重量%、
【0033】
5,8,11,14−オクタデカテトラエン酸が0.5〜60重量%、好ましくは0.6〜60重量%、より好ましくは1.0〜60重量%、
8,11,14−オクタデカトリエン酸が0.1〜60重量%、好ましくは0.5〜60重量%、より好ましくは0.7〜60重量%、
7,10,13−エイコサトリエン酸が0.1〜60重量%、好ましくは0.4〜60重量%、より好ましくは0.5〜60重量%、
5,8,11−オクタデカトリエン酸が0.1〜60重量%、好ましくは0.2〜60重量%、より好ましくは0.3〜60重量%、
8,11−オクタデカジエン酸が0.1〜60重量%、好ましくは0.2〜60重量%、より好ましくは0.3〜60重量%、
【0034】
また脂質中のトリグリセリド中の全脂肪酸に対して、
7,10,13 16−エイコサテトラエン酸が1.5〜70重量%、好ましくは4.8〜70重量%、より好ましくは7.8〜70重量%、
5,8,11,14−オクタデカテトラエン酸が0.5〜60重量%、好ましくは1.0〜60重量%、より好ましくは2.1〜60重量%、
【0035】
8,11,14−オクタデカトリエン酸が0.1〜60重量%、好ましくは0.5〜60重量%、より好ましくは0.8〜60重量%、
7, 10, 13−エイコサトリエン酸が0.1〜60重量%、好ましくは0.5〜60重量%、より好ましくは1.1〜60重量%、
5,8,11−オクタデカトリエン酸が0.1〜60重量%、好ましくは0.2〜60重量%、
8,11−オクタデカジエン酸が0.1〜60重量%、好ましくは0.2〜60重量%である。
【0036】
なお本発明においては、
脂質中の全脂肪酸に対して7,10,13,16−エイコサテトラエン酸の含量が1.5重量%以上、好ましくは2.0重量%以上、より好ましくは5.0重量%以上である7,10,13,16−エイコサテトラエン酸を含有する脂質、
脂質中の全脂肪酸に対して5,8,11,14−オクタデカテトラエン酸の含量が0.5重量%以上、好ましくは0.6重量%以上、より好ましくは1.0重量%以上である5,8,11,14−オクタデカテトラエン酸を含有する脂質、
【0037】
脂質中の全脂肪酸に対して8,11,14−オクタデカトリエン酸の含量が0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは0.7重量%以上である8,11,14−オクタデカトリエン酸を含有する脂質、
脂質中の全脂肪酸に対して炭素数が18以上のn−4系高度不飽和脂肪酸の含量が2.8重量%以上、好ましくは3.5重量%以上、より好ましくは6.8重量%以上である、炭素数が18以上のn−4系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質、
脂質中の全脂肪酸に対して7,10,13−エイコサトリエン酸の含量が0.1重量%以上、好ましくは0.4重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上である、7,10,13−エイコサトリエン酸を含有する脂質、
【0038】
脂質中の全脂肪酸に対して5,8,11−オクタデカトリエン酸の含量が0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上である5,8,11−オクタデカトリエン酸を含有する脂質、
脂質中の全脂肪酸に対して8,11−オクタデカジエン酸の含量が0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上である8,11−オクタデカジエン酸を含有する脂質、あるいは
脂質中の全脂肪酸に対して炭素数が18以上のn−7系高度不飽和脂肪酸の含量が0.3重量%以上、好ましくは0.9重量%以上、より好ましくは1.2重量%以上である炭素数が18以上のn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質、
を得ることができる。
【0039】
なお、上記の脂質とは、その分子内で高級脂肪酸が何らかの化学結合、代表的にはエステル結合を形成した、水に不溶でかつアルコール、クロロホルム、ベンゼンなどの有機溶媒に可溶な物質を言う。n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有した脂質の例としては、n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸、n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸の低級アルキルエステル、n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を構成成分として含むグリセリンエステル又はステロールエステル、及びこれらのうちの任意の2種以上の混合物などが挙げられる。
【0040】
上記n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸の低級アルキルエステルとは、炭素数1〜6個、好ましくは1〜4個、より好ましくは1〜3個の低級アルコールとn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸のエステルを言う。また、n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を構成成分として含むグリセリンエステルとは、グリセリン1分子に対して、少なくとも1分子のn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸がエステル結合した物質を言う。
【0041】
その例として、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、フォスファチジルコリン、リゾフォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、リゾフォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルイノシトール、リゾフォスファチジルイノシトール、フォスファチジルセリン、リゾフォスファチジルセリン、フォスファチジン酸、リゾフォスファチジン酸、グリセロ糖脂質などが挙げられる。
【0042】
また、n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を構成成分として含むステロールエステルとは、ステロールとn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸がエステル結合した物質を言う。その例として、コレステロールエステル、デスモステロールエステルなどが挙げられる。
n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有した脂質は以上の例に限定されず、スフィンゴリン脂質、他のリン脂質、セラミド、スフィンゴ糖脂質、他の糖脂質など、上記の定義に包含される任意の脂質を含む。
【0043】
さらに本発明においては、
脂質中のトリグリセリド中の全脂肪酸に対して7,10,13,16−エイコサテトラエン酸の含量が1.5重量%以上、好ましくは4.8重量%以上、より好ましくは7.8重量%以上である、7,10,13,16−エイコサテトラエン酸を含有するトリグリセリド、
トリグリセリド中の全脂肪酸に対して5,8,11,14−オクタデカテトラエン酸の含量が0.5重量%以上、好ましくは1.0重量%以上、より好ましくは2.1重量%以上である、5,8,11,14−オクタデカテトラエン酸を含有するトリグリセリド、
【0044】
トリグリセリド中の全脂肪酸に対して8,11,14−オクタデカトリエン酸の含量が0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは0.8重量%以上である、8,11,14−オクタデカトリエン酸を含有するトリグリセリド、
トリグリセリド中の全脂肪酸に対して炭素数が18以上のn−4系高度不飽和脂肪酸の含量が3.0重量%以上、好ましくは6.6重量%以上、より好ましくは10.4重量%以上である炭素数が18以上のn−4系高度不飽和脂肪酸を含有するトリグリセリド、
【0045】
トリグリセリド中の全脂肪酸に対して7,10,13−エイコサトリエン酸の含量が0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1.1重量%以上である7,10,13−エイコサトリエン酸を含有するトリグリセリド、
トリグリセリド中の全脂肪酸に対して5,8,11−オクタデカトリエン酸の含量が0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上である5,8,11−オクタデカトリエン酸を含有するトリグリセリド、
【0046】
トリグリセリド中の全脂肪酸に対して8,11−オクタデカジエン酸の含量が0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上である8,11−オクタデカジエン酸を含有するトリグリセリド、
トリグリセリド中の全脂肪酸に対して炭素数が18以上のn−7系高度不飽和脂肪酸の含量が0.3重量%以上、好ましくは0.9重量%以上、より好ましくは1.5重量%以上である炭素数が18以上のn−7系高度不飽和脂肪酸を含有するトリグリセリド、
を得ることができる。
【0047】
培養物から採取したn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質からn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有するトリグリセリドを分離精製するには、常法に従って、例えば脱酸法、脱臭法、脱ガム法、脱水法、水蒸気蒸留法、分子蒸留法、冷却分離法、カラムクロマトグラフィー法などにより行う。例えば前述の操作に従って培養物からヘキサンを用いてn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質を抽出し、この抽出油から例えば脱酸、脱臭、脱ガム等の精製処理によりn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有するトリグリセリドを得ることができる。
【0048】
n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質からn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を分離するには、混合脂肪酸あるいは混合脂肪酸エステルの状態で、常法により、例えば、尿素付加法、冷却分離法、カラムクロマトグラフィー法などにより濃縮分離することにより行う。
より具体的にはn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を直接分離することもできるが、低級アルコールとのエステル、例えばn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸のエチルエステルとして分離するのが好ましい。
【0049】
このようなエステルにすることにより、他の脂質成分から容易に分離することができ、また、培養中に生成する他の脂肪酸、例えばパルミチン酸等(これらも、n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸のエステル化に際してエステル化される)から容易に分離することができる。例えば、高度不飽和脂肪酸のエチルエステルを得るには、前記の抽出脂質を無水エタノール- 塩酸5 〜10% 、BF3-エタノール10〜50% 等により、室温にて1 〜24時間処理するのが好ましい。
【0050】
前記の処理液からn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸のエチルエステルを回収するには、ヘキサン、エーテル、酢酸エチル等の有機溶媒で抽出するのが好ましい。次に、この抽出液を無水硫酸ナトリウム等により乾燥し、有機溶媒を好ましくは減圧下で留去することにより脂肪酸エステルを主成分として含む混合物が得られる。この混合物には、目的とするn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸のエチルエステルの他に、パルミチン酸エチルエステル等の脂肪酸エチルエステルが含まれている。
【0051】
この混合物はそのまま又は本発明の脂肪酸の濃度を高め本発明の組成物に使用することができる。これらの脂肪酸エチルエステル混合物からn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸のエチルエステルを単離するには、カラムクロマトグラフィー、低温結晶化法、尿素包接法、液々交流分配クロマトグラフィー等を単独で、又は組み合わせて使用することができる。
【0052】
こうして単離されたn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸のエチルエステルから遊離のn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を得るには、アルカリで加水分解した後、エーテル、酢酸エチル等の有機溶媒で抽出すればよい。また、n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸をそのエチルエステルを経ないで摂取するには、前記の抽出脂質をアルカリ分解(例えば5%水酸化ナトリウムにより室温にて2 〜3 時間)した後、この分解液から、脂肪酸の抽出・精製に常用されている方法により抽出・精製することができる。得られた遊離の本発明の脂肪酸及びその塩もまた本発明の組成物のために使用することができる。
【0053】
本発明のn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質又はトリグリセリドは炭素数18以上で二重結合数が2以上であるn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を豊富に含有しており、その用途に関しては無限の可能性があり、食品、飲料、化粧品、医薬品、動物用飼料などの原料並びに添加物として使用することがでる。例えば、一般食品、飲料、機能性食品、栄養補助食品、調製乳、化粧水、乳液、経腸栄養剤、粉末、顆粒、トローチ、シロップ、錠剤、カプセル剤、輸液、注射剤、塗布用ゲル、湿布、粉末飼料、固形飼料、液状飼料などを挙げることができるが、これらに限定するものではなく、その使用目的、使用量、加工形態に関して何ら制限を受けるものではない。
【実施例】
【0054】
次に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明は、実施例に限定されない。
実施例1. モルティエレラ・アルピナ IFO8568の変異処理によるパルミチン酸からステアリン酸への脂肪酸鎖長延長活性が低下した菌株の取得
モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)IFO8568 をCzapek寒天培地(0.2% NaNO3、0.1% K2HPO4 、0.05% MgSO4・7H2O、0.05% KCl 、0.01% FeSO4・7H2O、3%シュークロース、2%寒天、pH6.0 )300mL を含む大型スラント瓶に植菌し、28℃で2週間培養した。
【0055】
培養後、滅菌水50 mLを加え振り混ぜ、4重のガーゼで濾過し、8,000 ×g で10分間遠心した後、50mM トリス緩衝溶液(pH7.5 )に懸濁して胞子懸濁液を調製した。1×106 /mLの胞子懸濁液1.5 mLに、0.5%NTG (N−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアジニン)溶液0.5 mLを加えて、28℃で15分間変異処理を行った。10% Na2S2O3 を3mL加え、5,500 ×g で10分間遠心した後、滅菌水で洗浄し、NTG 処理胞子懸濁液を得た。
【0056】
NTG 処理胞子懸濁液を、GY寒天培地(1%グルコース、0.5%酵母エキス、0.005 %トリトンX-100 、1.5%寒天、pH6.0 )に塗布し、28℃で生育したコロニーを別のGY寒天培地に移した。生育した菌体の一部を乾燥させ、常法に従い、塩酸メタノールで菌体内の脂肪酸をメチルエステル化した後、ヘキサンで抽出し、ヘキサンを留去して得られた脂肪酸メチルエステルをガスクロマトグラフィーで分析した。約1,000 個のコロニーを調べた結果、パルミチン酸からステアリン酸への脂肪酸鎖長延長活性が低下した菌株SAM 2268(FERM P-17762)が得られた。
【0057】
実施例2. アラキドン酸生産能を有する微生物によるn−4系、n−7系高度不飽和脂肪酸の製造方法
下記のアラキドン酸生産能を有する微生物の一白金耳を、10mLエルレンマイヤーフラスコに入れた液体培地2mL( グルコース2%、酵母エキス1%、パルミトレイン酸1%又はなし) に植菌し、28℃、120rpmで7日間振とう培養した。培養後、菌体を濾過により集め、乾燥した。常法に従い、塩酸メタノールで菌体内の脂肪酸をメチルエステル化した後、ヘキサンで抽出し、ヘキサンを留去して得られた脂肪酸メチルエステルをガスクロマトグラフィーで分析した。結果を表1に示す。
【0058】
(1)モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)IFO8568
(2)モルティエレラ・フィグロフィラ(Mortierella hygrophila)IFO5941
(3)エキノスポランジウム・トランスベルサレ(Echinosporangium transversale )NRRL3116
(4)サプロレグニア・ラポニカ(Saprolegnia lapponica )CBS313.81
【0059】
【表1】

【0060】
実施例3. パルミトレイン酸誘導体の効果
モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)IFO8568 の一白金耳を、10mLエルレンマイヤーフラスコに入れた液体培地2mL(グルコース2%、酵母エキス1%、表2に示したパルミトレイン酸誘導体1%)に植菌し、28℃で、120rpmで7日間振とう培養した。培養後、実施例2と同様にメチルエステル化し、得られた脂肪酸メチルエステルをガスクロマトグラフィーで分析した。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
実施例4. 脂肪酸鎖長延長活性低下株による製造方法
モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)SAM 2268(FERM P-17762)の一白金耳を、10mLエルレンマイヤーフラスコに入れた液体培地2mL(グルコース4%、酵母エキス1%)に植菌し、28℃で、120rpmで6、10、12及び14日間振とう培養した。培養後、実施例2と同様にメチルエステル化し、得られた脂肪酸メチルエステルをガスクロマトグラフィーで分析した。また、同条件で6、10、12及び14日間培養した別の菌体を回収し、乾燥後、クロロホルム−メタノール抽出法により脂質を抽出した。
【0063】
さらに常法に従い、抽出した脂質を、薄層クロマトグラフィー、ケイ酸カラムクロマトで分画してトリグリセリドを得た。得られたトリグリセリドは上記の方法でメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィーで分析した。経時変化を表3及び表4に示す。なお、14日間培養した菌体から抽出した脂質の組成を調べたところ、中性脂質が90重量%(トリグリセリドは抽出した脂質の89重量%)、極性脂質が10重量%であった。
【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
実施例5. 基質の添加効果
モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)SAM 2268(FERM P-17762)の一白金耳を、10mLエルレンマイヤーフラスコに入れた液体培地2mL(グルコース2%、酵母エキス1%、表4に示した化合物1%)に植菌し、28℃で、120rpmで7日間振とう培養した。培養後、実施例2と同様にメチルエステル化し、得られた脂肪酸メチルエステルをガスクロマトグラフィーで分析した。結果を表5に示す。
【0067】
【表5】

【0068】
実施例6. n−7系高度不飽和脂肪酸を含みn−4系高度不飽和脂肪酸を含まない脂質の製造方法
モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)IFO8568 又はΔ12不飽和化反応欠損株であるモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)SAM 1861(微工研条寄第3590号)の一白金耳を、10mLエルレンマイヤーフラスコに入れた液体培地2mL(グルコース5%、酵母エキス1%、パルミトレイン酸1%)に植菌し、12〜28℃で、120rpmで7日間振とう培養した。培養後、実施例2と同様にメチルエステル化し、得られた脂肪酸メチルエステルをガスクロマトグラフィーで分析した。結果を表6に示す。
【0069】
【表6】

【0070】
Δ12不飽和化反応欠損株であるSAM 1861株を用いると、n−7系からn−4系への変換が起こらないため、本菌株から得られる脂質には、n−7系高度不飽和脂肪酸が含まれているが、n−4系高度不飽和脂肪酸は含まれていなかった。
【0071】
実施例7. カプセル剤の調製
ゼラチン100 重量部及び食品添加用グリセリン35重量部に水を加え50〜60℃で溶解し、粘度20000cpsのゼラチン皮膜を調製した。次に実施例3に記した方法で得た乾燥菌体を破砕した後、ヘキサンで抽出したヘキサン抽出油又はこれを脱酸、脱臭、脱ガム処理したトリグリセリドに、3重量%のビタミンE油を混合し、内容物を調製した。これらを用いて、常法に従い、カプセル成型及び乾燥を行い、1粒当たり180 mgの内容物を含有するソフトカプセルを製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラキドン酸生産能を有する微生物から得られる、パルミチン酸からステアリン酸への脂肪酸鎖長延長活性が低下又は欠損した微生物を培養し、そして培養物から脂質を採取することを特徴とするn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有する脂質の製造方法。
【請求項2】
アラキドン酸生産能を有する微生物から得られる、パルミチン酸からステアリン酸への脂肪酸鎖長延長活性が低下又は欠損した微生物を培養し、培養物から脂質を採取し、そして該脂質からトリグリセリドを分離精製することを特徴とするn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸を含有するトリグリセリドの製造方法。
【請求項3】
アラキドン酸生産能を有する微生物から得られる、パルミチン酸からステアリン酸への脂肪酸鎖長延長活性が低下又は欠損した微生物を培養し、培養物から脂質を採取し、そして該脂質からn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪を分離精製することを特徴とするn−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪の製造方法。
【請求項4】
n−4系及び/又はn−7系高度不飽和脂肪酸が、7,10,13,16−エイコサテトラエン酸、5,8,11,14−オクタデカテトラエン酸、8,11,14−オクタデカトリエン酸、7,10,13−エイコサトリエン酸、5,8,11−オクタデカトリエン酸、及び8,11−オクタデカジエン酸から選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
アラキドン酸生産能を有する微生物が、モルティエレラ(Mortierella )属、コニディオボラス(Conidiobolus)属、フィチウム(Pythium )属、フィトフトラ(Phytophthora)属、ペニシリューム(Penicillium )属、クラドスポリューム(Cladosporium)属、ムコール(Mucor )属、フザリューム(Fusarium)属、アスペルギルス(Aspergillus )属、ロードトルラ(Rhodotorula )属、エントモフトラ(Entomophthora )属、エキノスポランジウム(Echinosporangium)属、又はサプロレグニア(Saprolegnia )属に属する微生物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
アラキドン酸生産能を有する微生物が、モルティエレラ属モルティエレラ亜属に属する微生物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
アラキドン酸生産能を有する微生物が、モルティエレラ属アルピナ種(Mortierella alpina)に属する微生物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−340733(P2006−340733A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253323(P2006−253323)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【分割の表示】特願2000−63356(P2000−63356)の分割
【原出願日】平成12年3月3日(2000.3.3)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】