説明

n型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体

【課題】熱から電力に直接変換する熱電半導体材料に関し、特に、n型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体を提供する。
【解決手段】熱を直接電力に変換する亜鉛アンチモン系化合物(ZnSb、β−Zn4Sb3)に、窒化物を添加した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱から電力に直接変換する熱電半導体材料に関し、特に、n型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電半導体は、エネルギー変換材料として注目されている。
【0003】
図5は、従来の熱電半導体を利用した、熱―電気変換装置(熱電発電モジュール)の構成と動作原理とを模式的に説明する説明図である。
【0004】
この熱―電気変換装置(熱電発電モジュール)101は、p型熱電半導体102およびn型熱電半導体103が、高温側電極105と、低温側電極106に挟まれた構造を有する。
【0005】
p型熱電半導体102およびn型熱電半導体103は、接合部107を介して高温側電極105に接合されている。
【0006】
また、p型熱電半導体102およびn型熱電導体チップ103は、接合部108を介して低温側電極106に接合されている。
【0007】
この熱−電気直接変換装置(熱電発電モジュール)101では、高温側電極105に熱H1が供給されると、熱H1は接合部107を介してp型熱電半導体102およびn型熱電半導体103に伝達され、p型熱電半導体102およびn型熱電半導体103を通過する熱流H2に沿って、p型熱電半導体102の内部では半導体キャリアである正孔110が、また、n型熱電半導体103の内部では半導体キャリアである電子111が、p型熱電半導体102又はn型熱電半導体103に接合部108を介して接合されている低温側電極106に向かって移動する。
【0008】
一方、半導体チップ102,103を通過する熱流Hfは、低温側電極106を通過して低温側電極から放出される熱H3となる。
【0009】
そして、熱−電気直接変換装置(熱電発電モジュール)101の外部に、適当な電気的負荷113が、電流取出手段115を介して接続されている場合には、上記半導体キャリアの移動が、電流の流れIとして、熱−電気直接変換装置(熱電発電モジュール)101の外部に取出して、利用することができる。
【0010】
即ち、この熱―電気変換装置(熱電発電モジュール)101の熱電発電は、熱―電気変換装置(熱電発電モジュール)101の片側(高温側電極105)に熱を供給し、他方の低温度端から熱を放出させ、熱電半導体内部に還流する熱の一部を電気として取り出すことにより発電を行う発電方式である。
【0011】
つまり、高温部で生成されたキャリア(p型では正孔、n型では電子)が低温側に拡散することで起電力を生じることにより発電を行う。熱電発電モジュールは、キャリアが異なるp型材料とn型材料が使用される。発電変換効率(エネルギー変換効率)ηは、各材料の性能を示す下式により決定される。
【0012】
【数1】

ここでα、ρ、κはp型熱電半導体の温度差1Kあたりの起電力を示すゼーベック係数(V/k)、比抵抗(Ωm)、熱伝導率(W/mK)を示す。 α、ρ、κは、n型熱電半導体の温度差1Kあたりの起電力を示すゼーベック係数(V/K)、比抵抗(Ωm)、熱伝導率(W/mk)を示す。T、T、R、Rの各々は、高温端温度(K)、低温端温度(K)、外部負荷抵抗(Ω)、内部抵抗(Ω)を示す。
【0013】
Zは、材料の性能指数(K-1)である。Zの値が高いほど、熱電発電のエネルギー変換効率ηは高くなる。そのため、高温端温度と低温端温度が決まれば、この材料の性能指数Zにより、この熱電発電のエネルギー変換効率ηが定まる。
ここで、熱電変換半導体材料の一つとして、亜鉛アンチモン系化合物(Zn−Sb、より具体的には、ZnSb、β−Zn4Sb3)が知られている。
【0014】
図6は、p型熱電半導体の各種材料の熱電性能指数と温度の関係を示す相関関係図である。
【0015】
亜鉛アンチモン系化合物(Zn−Sb)は、500Kから700Kの間で、他の材料と比較して高い性能指数Zを示しており、発電用材料として高いポテンシャルを有していることがわかる。
【0016】
ところで、亜鉛アンチモン系化合物(Zn−Sb)のp型制御には、不純物元素を添加することが知られている。
【0017】
具体的には、p型亜鉛アンチモン系化合物(Zn−Sb)の製造には、Pb,Ga、Sn、Au、In、Te、Ag、Al等の不純物元素を添加することが知られている。(非特許文献1、特許文献1、2を参照。)
ところで、亜鉛アンチモン系化合物(Zn−Sb)のn型制御は、Teを添加すると得られることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】M. Telks, “Thermoelectric couple”, US Patent 2229482, Jan.21, 1941
【特許文献2】M. Telks, “Thermoelectric alloys”, US Patent 2366881, Jan.9, 1945
【特許文献3】特開2005−277120号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】N. L. Kostur and V. I. Psarev, ”Electrical properties of doped single crystals of ZnSb”, Soviet Physics Journal, Izvestiya VUZ. Fizika, vol.10, No.2, pp.39-43, 1967
【非特許文献2】A. Abou-Zeid and G. Scheider, “Te - Doped n-Type ZnSb”, phys. Stat. sol. (a) 6, K101 (1971)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、Teは、p型亜鉛アンチモン系化合物(Zn−Sb)の製造の際の不純物にも利用されることから、Teを添加することで得られるとされている、n型亜鉛アンチモン系化合物(Zn−Sb)は、再現性に乏しく実用化に至っていない(非特許文献2を参照)。
【0021】
そのため、p型熱電半導体として高い性能を有するp型亜鉛アンチモン系化合物(Zn−Sb)と、p型亜鉛アンチモン系化合物(Zn−Sb)とを用いて、図5に示すようなp・n型を対とする熱―電気変換装置(熱電発電モジュール)101を、熱電発電システムとして実用化することが困難であった。
【0022】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、Teに替わる亜鉛アンチモン系化合物(Zn−Sb)のn型不純物を添加した、n型亜鉛アンチモン系化合物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は、長年、Teに替わる亜鉛アンチモン系化合物(Zn−Sb)のn型不純物の研究に鋭意努力した結果、亜鉛アンチモン系化合物(Zn−Sb)に不純物として、亜鉛アンチモン系化合物に溶融させることができる、Zn、GaN及びInNなどの窒化物を0.05at.%〜10.00at.%の範囲で添加することでn型半導体になることを見出した。
【0024】
即ち、請求項1に記載のn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体は、熱を直接電力に変換する亜鉛アンチモン系化合物に、窒化物を添加した。
【0025】
ここで、本明細書で用いる用語、「亜鉛アンチモン系化合物」は、例えば、ZnSb、β−Zn4Sb3を意味する。
【0026】
請求項2に記載のn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体は、請求項1に記載のn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体の、窒化物が、Zn、GaN及びInNの群から選択される少なくとも一種である。
【0027】
請求項3に記載のn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体は、請求項1又は請求項2に記載のn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体の、窒化物を、0.05at.%以上10.00at.%以下の範囲で添加した。
【0028】
ここで、亜鉛アンチモン系化合物に溶融させることができる、Zn、GaN及びInNからなる群から選択される少なくとも一種の窒化物を、亜鉛アンチモン系化合物に対し、0.05at.%以上10.00at.%以下の範囲で、添加するのは、亜鉛アンチモン系化合物に対し、Zn、GaN及びInNからなる群から選択される少なくとも一種の窒化物を、0.05at.%以下の量を添加した場合は、不純物の添加効果が得られないので好ましくない。一方、Zn、GaN及びInNからなる群から選択される少なくとも一種の窒化物を、10.00at.%を超える以上添加した場合は、添加した不純物により生成するキャリアの数が増えすぎて、ゼーベック係数が低下し、熱電性能Zが低下する悪影響が発生するので有効でない。
【0029】
請求項4に記載のn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体は、請求項1〜3のいずれかに記載のn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体の、亜鉛アンチモン系化合物が、ZnSb又はβ−Zn4Sb3である。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、Te以外の不純物により、n型亜鉛アンチモン系化合物(Zn−Sb)を製造できるようになったので、p型亜鉛アンチモン系化合物(Zn−Sb)と、p型亜鉛アンチモン系化合物(Zn−Sb)とを用いた、p・n型を対とする熱電発電システムとしてモジュール化することが可能となった結果、効率よく熱から電気エネルギーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体の一例を製造する工程を概略的に示すフローチャートである。
【図2】本発明に係るn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体の他の一例を製造する工程を概略的に示すフローチャートである。
【図3】本発明に係るn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体の他の一例を製造する工程を概略的に示すフローチャートである。
【図4】本発明に係るn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体の他の一例を製造する工程を概略的に示すフローチャートである。
【図5】従来の熱電半導体を利用した、熱―電気変換装置(熱電発電モジュール)の構成と動作原理とを模式的に示す説明図である。
【図6】p型熱電半導体の各種材料の熱電性能指数と温度の関係を示す相関関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係るn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体及びその製造方法を、図面を参照しながら、例示的に説明する。
【実施例1】
【0033】
図1は、本発明に係るn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体の一例を製造する工程を概略的に示すフローチャートである。
【0034】
まず、図1中、ステップS1に示すように、原材料をZnSbの化学量論組成に従う、50at.%Zn−50at.%Sbとなるよう秤量し、ZnSbに対して、さらに、Zn、GaN又はInNを、0.05at.%以上10.00at.%以下の範囲となるように秤量した。
【0035】
また、Znを添加する場合、全体が、50at.%Zn−50at.%Sbに対して、Nのみ追加で添加できるように、Nの添加量(x)は、Zn1−xSb+xZnとした。
【0036】
比較例1として、Zn、GaN、InNを添加しない、ZnSbの化学量論組成に従う、50at.%Zn−50at.%Sbとなるよう秤量したものを準備した。
【0037】
尚、Zn、Sb、Zn2、GaN及びInNの各々の純度は、いずれも、99.99%以上(4N以上)であった。
【0038】
また、原材料として用いる、Zn、Sb、Zn、GaN及びInNの各々として、粒径が、32μm以上3m以下の範囲のものを用いた。
【0039】
これは、原材料として用いる、Zn、Sb、Zn、GaN及びInNの各々の粒径を32μm未満とすると、Zn、Sb、Zn、GaN及びInNの各々の原材料の表面が酸化し、悪影響を及ぼすからである。一方、原材料として用いる、Zn、Sb、Zn、GaN及びInNの各々の粒径として、3mmを超えるものを用いた場合には、これらの材料を溶解する石英管に入れるのが難しくなるからである。
【0040】
次に、図1中、ステップS2に示すように、秤量した原材料を石英管に入れ真空封入した。
【0041】
次に、650℃で5時間(h)溶解した後、包晶反応を完了させるために熱処理(450℃で100時間(h))を施した。
【0042】
次に、得られた試料が、p型かn型かのいずれであるかを判別するために、温度差1Kあたりの起電力を示すゼーベック係数の測定を行った。
【0043】
ここに、ゼーベック係数が正の場合がp型で、負の場合がn型である。
【0044】
ゼーベック係数の測定においては、常温付近で試料の両端にヒーターをつけ、両端の温度差Tが、0K又は概ね0Kになった時の起電力Vをバックグラウンドとして測定し、次に両端に温度差Tとして、3K又は概ね3Kを与えた時の起電力Vを測定し、以下の式より算出した。
【0045】
【数2】

尚、得られた亜鉛アンチモン系化合物のゼーベック係数は、製品名・型番:「Resitest8300」(東陽テクニカ(株)製)を用いて測定した。
【0046】
得られた亜鉛アンチモン系化合物の組成とゼーベック係数とを、表1に示す。
【0047】
【表1】

表1に示す結果の通り、ゼーベック係数が負となるn型亜鉛アンチモン系化合物(ZnSb)を得ることができた。
【0048】
また、亜鉛アンチモン系化合物(ZnSb)に対し、Zn、GaN及びInNからなる群から選択される少なくとも一種の窒化物の添加量を、種々、変えて、実験した結果、亜鉛アンチモン系化合物(ZnSb)に対し、Zn、GaN及びInNからなる群から選択される少なくとも一種の窒化物を、0.05at.%以下の量を添加した場合は、不純物の添加効果が得られないので好ましくなく、一方、Zn、GaN及びInNからなる群から選択される少なくとも一種の窒化物を、10.00at.%を超える以上添加した場合は、添加した不純物により生成するキャリアの数が増えすぎて、ゼーベック係数が低下し、熱電性能Zが低下する悪影響が発生するので有効でない、ということが明らかになった。
【実施例2】
【0049】
図2は、本発明に係るn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体の他の一例を製造する工程を概略的に示すフローチャートである。
【0050】
まず、図2中、ステップS11に示すように、原材料をZnSbの化学量論組成に従うように、57.14at.%Zn−42.86at.%Sbとなるよう秤量し、さらに、ZnSbに対して、Zn、GaN又はInNを、0.51at.%以上10.00at.%の範囲となるように秤量した。
【0051】
また、Znを添加する場合、全体が、57.14at.%Zn−42.86at.%Sbに対して、Nのみ追加で添加できるように、Nの添加量(x)は、Zn4−xSb+xZnとした
比較例2として、Zn、GaN、InNを添加しない、ZnSbの化学量論組成に従う、50at.%Zn−50at.%Sbとなるよう秤量したものを準備した。
【0052】
尚、各材料の純度は、99.99%以上(4N以上)であった。
【0053】
また、原材料として用いる、Zn、Sb、Zn、GaN及びInNの各々として、粒径が、32μm以上3m以下の範囲のものを用いた。
【0054】
これは、原材料として用いる、Zn、Sb、Zn、GaN及びInNの各々の粒径を32μm未満とすると、Zn、Sb、Zn、GaN及びInNの各々の原材料の表面が酸化し、悪影響を及ぼすからである。一方、原材料として用いる、Zn、Sb、Zn、GaN及びInNの各々の粒径として、3mmを超えるものを用いた場合には、これらの材料を溶解する石英管に入れるのが難しくなるからである。
【0055】
また、Znを添加する場合、全体が、57.14at.%Zn−42.86at.%Sbに対して、Nのみ追加で添加できるように、Nの添加量(x)は、Zn4−xSb+xZnとした。
【0056】
次に、図2中、ステップS12に示すように、秤量した原材料を石英管に入れ、真空封入した。
【0057】
次に、650℃で5時間(h)溶解した後、包晶反応を完了させるために、熱処理(450℃で100時間(h)、及び、その後、400℃で100時間(h))を施した。
【0058】
次に。得られた試料が、p型かn型かのいずれであるかを判別するために、温度差1Kあたりの起電力を示すゼーベック係数の測定を行った。
【0059】
ここに、ゼーベック係数が正の場合がp型で、負の場合がn型である。
【0060】
尚、得られた亜鉛アンチモン系化合物のゼーベック係数は、実施例1と同様に、製品名・型番:「Resitest8300」(東陽テクニカ(株)製)を用いて測定した。
【0061】
得られた亜鉛アンチモン系化合物の組成とゼーベック係数とを、表2に示す。
【0062】
【表2】

表2に示す結果の通り、ゼーベック係数が負となる、n型亜鉛アンチモン系化合物(β−Zn4Sb3)を得ることができた。
【0063】
また、亜鉛アンチモン系化合物(ZnSb)に対し、Zn、GaN及びInNからなる群から選択される少なくとも一種の窒化物の添加量を、種々、変えて、実験した結果、亜鉛アンチモン系化合物(ZnSb)に対し、Zn、GaN及びInNからなる群から選択される少なくとも一種の窒化物を、0.05at.%以下の量を添加した場合は、不純物の添加効果が得られないので好ましくなく、一方、Zn、GaN及びInNからなる群から選択される少なくとも一種の窒化物を、10.00at.%を超える以上添加した場合は、添加した不純物により生成するキャリアの数が増えすぎて、ゼーベック係数が低下し、熱電性能Zが低下する悪影響が発生するので有効でない、ということが明らかになった。
【実施例3】
【0064】
図3は、本発明に係るn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体の他の一例を製造する工程を概略的に示すフローチャートである。
【0065】
まず、図3中、ステップS21に示すように、原材料をZnSbの化学量論組成に従うように、50at.%Zn−50at.%Sbとなるよう秤量した。
【0066】
また、比較例3として、Zn、GaN、InNを添加しない、ZnSbの化学量論組成に従う、50at.%Zn−50at.%Sbとなるよう秤量したものを準備した。
【0067】
尚、各材料の純度は、99.99%以上(4N以上)であった。
【0068】
また、原材料として用いる、Zn、Sb、Zn、GaN及びInNの各々として、粒径が、32μm以上3m以下の範囲のものを用いた。
【0069】
これは、原材料として用いる、Zn、Sb、Zn、GaN及びInNの各々の粒径を32μm未満とすると、Zn、Sb、Zn、GaN及びInNの各々の原材料の表面が酸化し、悪影響を及ぼすからである。一方、原材料として用いる、Zn、Sb、Zn、GaN及びInNの各々の粒径として、3mmを超えるものを用いた場合には、これらの材料を溶解する石英管に入れるのが難しくなるからである。
【0070】
また、Znを添加する場合、全体が、50at.%Zn−50at.%Sbになるようにして、Nのみの追加で添加できるように、Nの添加量(x)は、Zn1−xSb+xZnとした。
【0071】
次に、図3中、ステップS22に示すように、秤量した原材料を石英管に入れ真空封入した。
【0072】
次に、650℃で5時間(h)溶解した後、包晶反応を完了させるために熱処理(450℃で100時間(h))を施した。
【0073】
次に、図3中、ステップS23に示すように、熱処理を施したZnSbに対して、さらに、Zn、GaN又はInNを0.01at.%〜4.00at.%の範囲となるように秤量した。
【0074】
次に、アルゴン雰囲気中で、ZnSbと、Zn、GaN又はInNを粉砕容器に投入し、遊星ボールミルで30時間(h)粉砕し、メカニカルアロイング処理を行った。粉砕ボールは、窒化珪素セラミックスボールを使用した。粉砕ボールと、ZnSbと、Zn、GaN又はInNとの重量比は、20:1とした。
【0075】
次に、図3中、ステップS23に示す工程において、アルゴン雰囲気中で、ZnSbと、Zn、GaN又はInNを粉砕容器に投入し、遊星ボールミルで30時間(h)粉砕した後、粉砕物を、目開き100μmのふるいで分級を行って粉体を得た(図3中、ステップS24を参照)。
【0076】
次に、図3中、ステップS25に示すように、ステップS23に示す工程により得られた粉体に、ホットプレスを行い、焼結体を得た。焼結金型は炭素で、温度400℃で圧力39MPaの条件で、1時間ホットプレスを行った。
【0077】
次に。得られた試料が、p型かn型かのいずれであるかを判別するために、温度差1Kあたりの起電力を示すゼーベック係数の測定を行った。
【0078】
ここに、ゼーベック係数が正の場合がp型で、負の場合がn型である。
【0079】
尚、得られた亜鉛アンチモン系化合物のゼーベック係数は、実施例1と同様に、製品名・型番:「Resitest8300」(東陽テクニカ(株)製)を用いて測定した。
【0080】
得られた亜鉛アンチモン系化合物の組成とゼーベック係数を、表3に示す。
【0081】
また、図4は、本発明に係るn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体の他の一例を製造する工程を概略的に示すフローチャートである。
【0082】
まず、図4中、ステップS31に示すように、原材料をZnSbの化学量論組成に従うように、57.14at.%Zn−42.86at.%Sbとなるよう秤量した。
【0083】
また、比較例4として、Zn、GaN、InNを添加しない、ZnSb化学量論組成に従う、57.14at.%Zn−42.86at.%Sbとなるよう秤量したものを準備した。
【0084】
尚、各材料の純度は、99.99%以上(4N以上)であった。
【0085】
また、原材料として用いる、Zn、Sb、Zn、GaN及びInNの各々として、粒径が、32μm以上3m以下の範囲のものを用いた。
【0086】
これは、原材料として用いる、Zn、Sb、Zn、GaN及びInNの各々の粒径を32μm未満とすると、Zn、Sb、Zn、GaN及びInNの各々の原材料の表面が酸化し、悪影響を及ぼすからである。一方、原材料として用いる、Zn、Sb、Zn、GaN及びInNの各々の粒径として、3mmを超えるものを用いた場合には、これらの材料を溶解する石英管に入れるのが難しくなるからである。
【0087】
また、Znを添加する場合、全体が、57.14at.%Zn−42.86at.%Sbに対して、Nのみ追加で添加できるように、Nの添加量(x)は、Zn4−xSb+xZnとした。
【0088】
次に、図4中、ステップS32に示すように、秤量した原材料石英管に入れ真空封入した。
【0089】
次に、650℃で5時間(h)溶解した後、包晶反応を完了させるために熱処理(45
0℃で100時間(h)及びその後、400℃で100時間(h))を施した。
【0090】
次に、図4中、ステップS33に示すように、熱処理を施したZnSbに対して、さらに、Zn、GaN又はInNを、0.01at.%〜4.00at.%%の範囲となるように秤量した。アルゴン雰囲気中で、ZnSbと、Zn、GaN又はInNを粉砕容器に投入し、遊星ボールミルで30時間(h)粉砕し、メカニカルアロイング処理を行った。粉砕ボールは、窒化珪素セラミックスボールを使用した。粉砕ボールと、ZnSbと、Zn、GaN又はInNとの重量比は、20:1した。
【0091】
図4中、ステップ33に示す工程において、アルゴン雰囲気中で、ZnSbと、Zn、GaN又はInNを粉砕容器に投入し、遊星ボールミルで30時間(h)粉砕した後、図4中、ステップ32に示す工程において、粉砕物を、目開き100μmのふるいで分級を行って粉体を得た((図4中。ステップS34を参照)。
【0092】
次に、図4中、ステップS35に示すように、ステップS34に示す工程により得られた粉体に、ホットプレスを行い、焼結体を得た。焼結金型は炭素で、温度400℃で圧力39MPaの条件で、1時間ホットプレスを行った。
【0093】
次に。得られた試料が、p型かn型かのいずれであるかを判別するために、温度差1Kあたりの起電力を示すゼーベック係数の測定を行った。
【0094】
ここに、ゼーベック係数が正の場合がp型で、負の場合がn型である。
【0095】
尚、得られた亜鉛アンチモン系化合物のゼーベック係数は、実施例1と同様に、製品名・型番:「Resitest8300」(東陽テクニカ(株)製)を用いて測定した。
【0096】
得られた亜鉛アンチモン系化合物のゼーベック係数を表3に示す。
【0097】
【表3】

表3に示す結果の通り、ゼーベック係数が負となる亜鉛アンチモン系化合物(ZnSb、β−ZnSb)を得ることができた。
【0098】
また、亜鉛アンチモン系化合物(ZnSb又はZnSb)に対し、Zn、GaN及びInNからなる群から選択される少なくとも一種の窒化物の添加量を、種々、変えて、実験した結果、亜鉛アンチモン系化合物(ZnSb又はZnSb)に対し、Zn、GaN及びInNからなる群から選択される少なくとも一種の窒化物を、0.05at.%以下の量を添加した場合は、不純物の添加効果が得られないので好ましくなく、一方、Zn、GaN及びInNからなる群から選択される少なくとも一種の窒化物を、10.00at.%を超える以上添加した場合は、添加した不純物により生成するキャリアの数が増えすぎて、ゼーベック係数が低下し、熱電性能Zが低下する悪影響が発生するので有効でない、ということが明らかになった。
【0099】
また、実施例3により、実施例1、2の溶解法と同様のゼーベック係数が負となる特性を有する、n型亜鉛アンチモン系化合物(ZnSb、β−ZnSb)をメカニカルアロイング法によっても得られることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明により、p・n型を対とする熱電発電システムとしてモジュール化することが可能となり、効率よく熱から電気エネルギーを得ることができるとともに新しいエネルギー回収産業創出に寄与できる。
【符号の説明】
【0101】
101 熱−電気直接変換装置(熱電発電モジュール)
102 p型熱電半導体
103 n型熱電半導体
105 高温側電極
106 低温側電極
107、108 接合部
110 正孔
111 電子
113 電気的負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱を直接電力に変換する亜鉛アンチモン系化合物に、窒化物を添加した、n型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体。
【請求項2】
前記窒化物が、Zn、GaN及びInNの群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体。
【請求項3】
前記窒化物を、0.05at.%以上10.00at.%以下の範囲で添加した、請求項1又は請求項2に記載のn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体。
【請求項4】
亜鉛アンチモン系化合物が、ZnSb又はβ−Zn4Sb3である、請求項1〜3のいずれかに記載のn型亜鉛アンチモン系化合物熱電半導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−260321(P2009−260321A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72844(P2009−72844)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)