説明

p−クォーターフェニルの製造方法

【課題】
温和な条件下、高純度且つ高収率でp−クォーターフェニルを製造できる工業的に有利な製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
ビフェニル化合物とフェニルボロン酸とを、反応溶媒中、塩基及びパラジウム触媒の存在下で反応させることを特徴とするp−クォーターフェニル製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p−クォーターフェニルの製造方法に関し、特に工業的な量産に適したp−クォーターフェニルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
p−クォーターフェニルは、耐熱性、耐油性、耐薬品性の高分子化合物の原料及び合成高分子の改質剤等に使用されており、近年においては、特に液晶表示素子等の機能性分子化合物を形成する基本骨格としての有用性が大きく期待されている。
【0003】
従来p−クォーターフェニルの製造方法としては、例えば、フェニルマグネシウムブロマイドをベンゼン/エーテル混合溶媒中、ジヨードビフェニルとニッケルアセチルアセテート触媒とでカップリングさせる製法が提案されている(非特許文献1参照)。
しかしながら、該製法は、反応制御が困難なグリニヤール反応を使用するため、副生成物が多くなり、目的物の反応収率が低く工業的に有利な方法とは言い難い。
【0004】
また、別の製法としては、4−ブロモビフェニルを10%水酸化ナトリウム水溶液中で、パラジウム/活性炭触媒及び、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドの共存下、一酸化炭素加圧下で二量化させる製法が提案されている(特許文献1)。
該製法は、加圧下150℃の高温で反応させる必要があり、反応収率が非常に低いため、該製法も工業的に有利な方法とは言い難い。
【0005】
そのため、温和な条件下、高純度且つ高収率でp−クォーターフェニルを製造できる工業的に有利な製造方法が要望されている。
【0006】
【非特許文献1】Chem.Pharm.Bull.,1982,2369−2397
【特許文献1】特開昭61−293932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題及び要望に鑑み、温和な条件下、高純度且つ高収率でp−クォーターフェニルを製造できる工業的に有利な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、一般式(1);
【化1】

(式中X1,X2はハロゲン原子を示す。)
で示されるビフェニル化合物と
式(2);
【化2】

で示されるフェニルボロン酸とを、反応溶媒中、塩基及びパラジウム触媒の存在下で反応させることを特徴とする式(3);
【化3】

で示されるp−クォーターフェニルの製造方法を提供する。
【0010】
パラジウム触媒下でビフェニル化合物とフェニルボロン酸とを反応させることで、グリニヤー試薬を用いるときより、副生成物が非常に少なく且つ過酷な反応条件を用いなくてもカップリング反応が効率よく進行する。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明のp−クォーターフェニルの製造方法は、副生成物が非常に少なく且つ過酷な反応条件を用いなくてもカップリング反応が効率よく進行するため工業的な量産に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のp−クォーターフェニルの製造方法は、所定量の反応溶媒下、所定量のビフェニル化合物、フェニルボロン酸、パラジウム触媒及び塩基を加えて、常圧下、所定の反応温度で反応を行うものである。
まず、本発明において原料として用いられる化合物について説明する。
本発明において原料として用いられる化合物は、一般式(1)で示されるビフェニル化
合物である。
【化1】

(式中X1,X2はハロゲン原子を示す。)
ハロゲン原子としては、通常、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
尚、前記一般式(1)のX1,X2は、同一のハロゲン原子であっても、異なるハロゲン原子であってもよい。
【0013】
前記ビフェニル化合物の具体例としては、例えば、4,4’−ジクロロビフェニル、4,4’−ジブロモビフェニル、4,4’−ジヨードビフェニル、4−ブロモ−4’−クロロビフェニル、4−ブロモ−4’−ヨードビフェニル、4−クロロ−4’−ヨードビフェニル等が挙げられる。中でも、反応性が高いという観点から、4,4’−ジブロモビフェニル、4,4’−ジヨードビフェニルが好適に用いられる。
【0014】
本発明において用いられるフェニルボロン酸は、式(2)で示される化合物である。
【化2】

前記フェニルボロン酸の製造方法は、特に限定されず、例えば、フェニルグリニャール試薬と、非エーテル系芳香族溶剤に溶解されたホウ酸エステルとを反応させる方法等、公知の方法が挙げられる。
【0015】
本発明において用いられる塩基としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩或いは重炭酸塩から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等を用いることにより、金属交換反応が速くなり、副反応を抑制することができる。
該塩基の具体例としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛又はバリウム等の水酸化物、炭酸塩、或いは重炭酸塩が挙げられる。これらの中でも、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
尚、前記塩基は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
本発明において用いられる反応溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド又はN,N-ジメチルアセトアミド等の非プロトン性溶媒が用いられる。
N,N-ジメチルホルムアミド又はN,N-ジメチルアセトアミド等の非プロトン性溶媒を用いることで水との親和性がよく反応性が良好となり、更に高沸点溶媒であるため反応温度を高く設定できる。
尚、前記反応溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド等の他に、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、o−ジクロロベンゼン等のハロベンゼン類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等のアルコール類が使用できる。
尚、反応溶媒は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
本発明において用いられるパラジウム触媒としては、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム(0)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロ[1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)、パラジウム/活性炭等が挙げられる。中でも、触媒活性が高いという観点から、酢酸パラジウム(II)が好適に用いられる。
【0018】
次に、本発明において原料として用いられる前記各化合物の使用量及び反応条件等について説明する。
【0019】
前記反応溶媒の使用量は、特に限定されないが、前記一般式(1)で示されるビフェニル化合物に対して1〜20倍重量であり、好ましくは5〜10倍重量である。
反応溶媒の使用量が1倍重量未満の場合、生成物が析出して攪拌が困難となる虞がある。 また、反応溶媒の使用量が20倍重量を超える場合、使用量に見合う効果がなく容積効率が悪化し経済的でない。
【0020】
前記フェニルボロン酸の使用量は、特に限定されないが、前記一般式(1)で示されるビフェニル化合物に対して2〜6倍モルであり、好ましくは2〜4倍モルである。
フェニルボロン酸の使用量が、2倍モル未満の場合、未反応のビフェニル化合物が多くなり、収率が低下する虞がある。
また、フェニルボロン酸の使用量が、6倍モルを超える場合、フェニルボロン酸同士でカップリング反応を起こし、副生成物の増加を招く虞がある。
【0021】
前記パラジウム触媒の使用量は、特に限定されないが、前記一般式(1)で示されるビフェニル化合物 1モルに対して、パラジウム金属原子換算で0.01〜100ミリモルであり、好ましくは1〜50ミリモルである。
パラジウム触媒の使用量がパラジウム金属原子換算で0.01ミリモル未満の場合、反応が完結しにくくなる虞がある。
また、パラジウム触媒の使用量がパラジウム金属原子換算で100ミリモルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でない。
【0022】
前記塩基の使用量は、特に限定されないが、前記一般式(1)で示されるビフェニル化合物に対して2〜20倍モルであり、好ましくは2〜10倍モルである。
塩基の使用量が、2倍モル未満の場合、反応が完結しにくくなる虞がある。
また、塩基の使用量が、20倍モルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でない。
尚、前記塩基は、通常、水溶液で用いられる。該水溶液の濃度は、1〜50重量%であり、好ましくは10〜30重量%である。
【0023】
前記反応温度は、特に限定されないが、通常、0〜150℃であり、好ましくは40〜100℃である。
反応温度が0℃未満の場合、反応に長時間を要する虞がある。
また、反応温度が150℃を超えると副生成物が増加するため好ましくない。
尚、反応時間は、反応温度により異なるが、通常、0.5〜72時間であり、好ましくは2〜24時間である。
【0024】
本発明のp−クォーターフェニルの製造方法は、常圧下でビフェニル化合物とフェニルボロン酸とが円滑に反応するため、加圧装置等を必要としない。
【0025】
反応終了後は、反応混合物を冷却し、目的物及び触媒を濾取し、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド・N,N−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性溶媒、クロロベンゼン・o−ジクロロベンゼン・トリクロロベンゼン等のハロベンゼン溶媒或いはトルエン・キシレン等の芳香族炭化水素溶媒を加えて目的物を加熱溶解し、酸性になるまで塩酸を加えた後、冷却をすることにより目的物であるp−クォーターフェニルを得ることができる。
【0026】
本発明のp−クォーターフェニルの製造方法においては、上記のような反応終了後の簡単な操作により高収率で高純度のp−クォーターフェニルを製造できる。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
(純度の測定法)
HPLC装置(東ソー製)、UV検出器(UV−8010)、カラムオーブン(CO−8010)、送液ポンプ(CCPD)、カラム(TSK−GEL)を用いて測定した。
測定条件は、以下の通りである。
サンプル調整:試料をTHF(テトラヒドロフラン)に1mg/mlの割合で溶解し試料溶液とした。
展開溶媒: THF/H2O=550/450
流量: 1000μl/min
カラム温度:40℃
注入量: 2μl
測定波長: 270nm
【0029】
(構造決定)
標準サンプルとして東京化成工業製:p−クォーターフェニルを用いて前記純度測定法と同様の方法を用いて保持時間を測定し、サンプルも同様の方法で保持時間を測定して、保持時間の同一より構造を確認した。
【0030】
(実施例1)
300mL容量の四つ口フラスコに攪拌機、還流冷却管及び温度計を取り付け、ジヨードビフェニル24.36g(0.06モル)、フェニルボロン酸21.96g(0.18モル)、N,N−ジメチルアセトアミド210mL、酢酸パラジウム54mg(0.24ミリモル)及び25%水酸化ナトリウム水溶液39gを仕込み、攪拌下60℃で3時間反応を行った。反応混合物を室温に冷却後、分液した。有機層を濾過し得られた固形物をo−ジクロロベンゼン/塩酸で洗浄し、乾燥した。白色結晶性粉末のp−クォーターフェニルを15.8g得た。収率86%、純度99.5%(HPLC)。
【0031】
(実施例2)
ジブロモビフェニル12.48g(0.04モル)、フェニルボロン酸14.64g(0.12モル)、N,N−ジメチルアセトアミド140mL、酢酸パラジウム36mg(0.16ミリモル)及び25%水酸化ナトリウム水溶液26gを用いて、攪拌下60℃で21時間反応を行った以外実施例1と同様の操作を行った。その結果、白色結晶性粉末のp−クォーターフェニルを10.6g得た。収率86%、純度99.6%(HPLC)。
【0032】
(実施例3)
ジヨードビフェニル16.24g(0.04モル)、フェニルボロン酸14.64g(0.12モル)、N,N−ジメチルアセトアミド140mL、塩化パラジウム28mg(0.16ミリモル)及び25%水酸化ナトリウム水溶液26gを用いて、攪拌下60℃で27時間反応を行った以外実施例1と同様の操作を行った。その結果、白色結晶性粉末のp−クォーターフェニルを6.5g得た。収率53%、純度98.5%(HPLC)。
【0033】
(実施例4)
ジブロモビフェニル12.48g(0.04モル)、フェニルボロン酸14.64g(0.12モル)、N,N−ジメチルアセトアミド140mL、塩化パラジウム28mg(0.16ミリモル)及び25%水酸化ナトリウム水溶液26gを用いて、攪拌下60℃で66時間反応を行った行った以外実施例1と同様の操作を行った。その結果、白色結晶性粉末のp−クォーターフェニルを7.7g得た。収率63%、純度98.4%(HPLC)。
【0034】
(実施例5)
ジヨードビフェニル24.36g(0.06モル)、フェニルボロン酸21.96g(0.18モル)、トルエン300mL、酢酸パラジウム54mg(0.24ミリモル)及び25%水酸化ナトリウム水溶液39gを用いて、攪拌下、60℃で24時間反応を行った以外実施例1と同様の操作を行った。その結果、白色結晶性粉末のp−クォーターフェニルを15.1g得た。収率82%、純度99.5%(HPLC)。
【0035】
(実施例6)
ジヨードビフェニル24.36g(0.06モル)、フェニルボロン酸21.96g(0.18モル)、N,N−ジメチルアセトアミド210mL、酢酸パラジウム54mg(0.24ミリモル)及び10%炭酸ナトリウム水溶液258.3gを用いて、攪拌下、60℃で24時間反応を行った以外実施例1と同様の操作を行った。その結果、白色結晶性粉末のp−クォーターフェニルを10.7g得た。収率58%、純度98.4%(HPLC)。
【0036】
(実施例7)
ジヨードビフェニル24.36g(0.06モル)、フェニルボロン酸21.96g(0.18モル)、N,N−ジメチルアセトアミド210mL、酢酸パラジウム54mg(0.24ミリモル)及び10%炭酸水素ナトリウム水溶液204.9gを用いて、攪拌下、60℃で24時間反応を行った以外実施例1と同様の操作を行った。その結果、白色結晶性粉末のp−クォーターフェニルを8.8g得た。収率48%、純度98.0%(HPLC)。
【0037】
(実施例8)
ジヨードビフェニル24.36g(0.06モル)、フェニルボロン酸21.96g(0.18モル)、N,N−ジメチルアセトアミド210mL、酢酸パラジウム54mg(0.24ミリモル)及び25%水酸化カリウム水溶液54.6gを用いて、攪拌下60℃で3時間反応を行った以外実施例1と同様の操作を行った。その結果、白色結晶性粉末のp−クォーターフェニルを13.2g得た。収率72%、純度99.0%(HPLC)。
【0038】
(比較例1)
4−ブロモフェニル4.7g(20ミリモル)を10%水酸化ナトリウム水溶液27ml(68ミリモル)に溶解した。更に10%パラジウム/活性炭0.5g及び臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム1g(2.7ミリモル)を添加し、150mlオートクレーブ中に仕込み、一酸化炭素で2MPaまで加圧後、攪拌下150℃で3時間反応を行った。反応終了後、冷却し、触媒濾過、エーテル抽出を行い、該抽出液をHPLC分析した結果、収率(HPLC分析値より算出)10%でp−クォーターフェニルを得た。
【0039】
(比較例2)
マグネシウム0.19g(8ミリモル)、ブロモベンゼン1.26g(8ミリモル)、ジエチルエーテル20mlから調整したグリニヤール試薬を0℃に冷却した。この溶液に4,4’−ジヨードビフェニル0.81g(2ミリモル)、ニッケルアセチルアセテート触媒0.006g(0.02ミリモル)のベンゼン20ml溶液を一気に加え、0℃で1時間、その後還流下で3時間反応を行った。反応終了後、冷却し希塩酸で反応液を処理した後、ベンゼン抽出を行いHPLC分析した結果、収率(HPLC分析値より算出)16%でp−クォーターフェニル、46%でp−ターフェニル、38%でビフェニルを得た。
【0040】
本発明のp−クォーターフェニルの製造方法を用いることで、副生成物が非常に少なく且つ過酷な反応条件を用いなくてもカップリング反応が効率よく進行することが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1);
【化1】

(式中X1,X2はハロゲン原子を示す。)
で示されるビフェニル化合物と式(2);
【化2】

で示されるフェニルボロン酸とを、反応溶媒中、塩基及びパラジウム触媒の存在下で反応させることを特徴とする式(3);
【化3】

で示されるp−クォーターフェニルの製造方法。
【請求項2】
前記塩基として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩或いは重炭酸塩から選択される1種又は2種以上を用いることを特徴とする請求項1に記載のp−クォーターフェニルの製造方法。
【請求項3】
前記反応溶媒として、N,N-ジメチルホルムアミド又はN,N-ジメチルアセトアミドを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のp−クォーターフェニルの製造方法。
【請求項4】
前記パラジウム触媒として、酢酸パラジウムを用いることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のp−クォーターフェニルの製造方法。

【公開番号】特開2006−248977(P2006−248977A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67276(P2005−67276)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】