p53ファミリーのタンパク質の機能的コンホメーションを安定化しうる有機非ペプチド化合物の同定方法
【課題】p53ファミリーのタンパク質の機能的コンホメーションを安定化しうる有機非ペプチド化合物の同定方法の提供。
【解決手段】本発明は、癌治療の分野にある。特に、本発明は、その突然変異体タンパク質が他の亘大分子と適正に相互作用する能力を保持し、それによりその野生型の活性を有する全部又は部分を回復させ又は安定化させるように、癌関連調節タンパク質の突然変異及び非突然変異形態と相互作用することができる医薬化合物を提供する。調節タンパク質は、p53タンパク質ファミリーのメンバー、例えば、p53、p63、及びp73を含む。本発明に係る化合物は、癌治療のために有用である。上記の薬理学的化合物をスクリーニングする方法も提供する。
【解決手段】本発明は、癌治療の分野にある。特に、本発明は、その突然変異体タンパク質が他の亘大分子と適正に相互作用する能力を保持し、それによりその野生型の活性を有する全部又は部分を回復させ又は安定化させるように、癌関連調節タンパク質の突然変異及び非突然変異形態と相互作用することができる医薬化合物を提供する。調節タンパク質は、p53タンパク質ファミリーのメンバー、例えば、p53、p63、及びp73を含む。本発明に係る化合物は、癌治療のために有用である。上記の薬理学的化合物をスクリーニングする方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
I.産業上の利用分野
本発明は、癌治療の分野にある。本発明は、p53ファミリーの腫瘍サプレッサータンパク質と相互作用し、そこでの機能的配座を安定化し得る有機非ペプチド化合物を提供する。本発明は、このようなタンパク質の機能的能力を矯正することが癌に対する治療を促進し得る患者における腫瘍サプレッサータンパク質の突然変異体形態を安定化するために特に適用可能である。このような化合物に関するスクリーニング方法も提供される。
【背景技術】
【0002】
II.発明の背景
本発明の主構造は、一緒に連結されてタンパク質のポリペプチド鎖(単数または複数)を形成するアミノ酸構築ブロックの特定の配列である。これらのポリペプチド鎖は次に、三次元構造に折り畳まれる。多数の種々の疾患は、細胞タンパク質の三次元構造の配座摂動から起きる、と目下考えられている(再検討のためには、Thomas et al., 1995, TIBS 20:456-459; Carrell et al., 1997, Lancet 350:134-138参照)。例えば、アルツハイマー病は、β−アミロイドタンパク質のミスフォールディングおよびその後の凝集により引き起こされて、細胞機能の損傷をもたらす。同様に、クロイツフェルト−ヤーコブ病に関する病原因子であるプリオンは、連鎖反応を開始して、正常プリオンタンパク質をミスフォールドプリオンタンパク質に転換することにより疾患を引き起こすと考えられる。
【0003】
異常配座を取り入れるタンパク質は、それらが内在的にミスフォールディングを受けやすいために、またはそれらが、野生型タンパク質と比較して突然変異体タンパク質を熱力学的に不安定にする突然変異を有するために、そうし得る。疾患を引き起こすミスセンス変異の最初の例は、腫瘍サプレッサータンパク質p53である。
【0004】
野生型p53は、細胞周期、アポトーシスおよび新脈管形成における多重経路を協調的に制御するための転写調節因子として機能する。細胞ストレス、例えばDNA損傷、有糸分裂紡錘体ミスアッセンブリーおよび低酸素症を監視する細胞経路はすべて、p53に収斂するように見える。p53の損失は、罹患細胞および腫瘍増殖の非制御化増殖をもたらし得る。p53活性の損失は、それ自体、癌性細胞に細胞を形質転換するための引き金であり得るし、そうでないこともあるが、しかし、検出可能な癌は、p53突然変異を有するヒトにおいてより一般的であり、そして増殖するようである。実際、p53の突然変異体は、癌における最も一般的な遺伝子異常である。
【0005】
近年、p53と相同を有する2つの付加的タンパク質、p73およびp63が同定された(再検討のためには、Kaelin, 1999, J. Natl. Cancer Inst. 91:594-598参照;Yang et al., 1998, Molecular Cell 2(3):305-16;およびYoshikawa et al., 1999, Oncogene18(22):3415-21も参照)。p51は、p40、p51、KETまたはp73Lとも呼ばれてきた。これらのタンパク質はp53とアミノ酸配列相同を共有するだけでなく、それらはp53応答性プロモーターを活性化し、アポトーシスを誘導し得る。さらに、これらのタンパク質をコードする遺伝子は、p53と先祖が関連があると思われる。したがって、同様の機能および関連アミノ酸配列を有するタンパク質関連p53の当業界で認識されたファミリーが存在する。
【0006】
p53は、3つの別々の機能的ドメイン:即ち、転写活性化ドメインを含むN末端(ほぼアミノ酸1〜43)、DNA結合ドメイン(DBD)をコードする中央部分(ほぼアミノ酸100〜300)およびオリゴマー形成ドメインとして役立つC末端部分(ほぼアミノ酸319〜360)を有する複合高分子である。p53DBDの結晶構造は、高βシート含量を有するほぼ球面球形のドメインを示す。
【0007】
p53活性は、その機能的配座を保持するタンパク質の能力に大いによっている。多数の異なる癌由来腫瘍の分析は、DBDが高頻度に突然変異化されることを明示する(Friedlander et al., 1996, J. Biol. Chem. 271:25468-25478)。主な癌のp53DNA結合ドメインないに生じる多数の種々の点突然変異が存在する(Pavletich et al., 1993, Genes & Development 7, 2556-2564)が、しかしホットスポットとして知られているp53DBD内の特定残基位置は、通常、高出現率で突然変異化される。ヒト腫瘍に一般的に見出されるホットスポット突然変異は、DBD全体に多少無作為に分散される。尿素に曝露されると、すべての高頻度突然変異化形態のpDNAのp53DBDは、野生型DBDより安定性が低くなる(Bullock et al.上記)。さらに、p53突然変異体はしばしば、細胞中の熱ショックタンパク質と会合して、それらがネイティブ配座を保持することがほとんどできないという推測を導く(Finlay et al., 1988, Molecular and Cellular Biology 8:531-39)。
【0008】
p53のC末端ドメインとの相互作用は、p53の細胞周期停止特性を活性化することが見出されている。特に、細胞周期進行中細胞中へのC末端特異的p53抗体の注入は、それらを停止し得る(Mercer et al., 1982,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79:6309-6312 )。さらに詳細な研究は、C末端ドメインがDBDドメインのDNA結合活性を調節することを実証した。例えば、Hupp等は、p53C末端ドメインの残基373〜381と相互作用するモノクローナル抗体Pab421がp53のある種の突然変異体形態のDNA結合活性を増強し得ることを見出した(Hupp et al., 1993, Nucleic Acids Research 21:3167-3174)。したがって、Huppと同僚等は、p53機能を回復するための試みにおいて、別々の負の調節ドメインを中和する抗体およびペプチドに焦点を合わせた(Selivanova et al.,1997, Nature Med. 3, 632-638)。しかしながら、このアプローチにより回復される位置273突然変異は、それらが高基礎DNA結合活性を保持し、野生型タンパク質と同様の熱力学的安定性特徴を示す他の一般的突然変異体と異なる(Bullock et al., 1997,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 14338-143421)。
【0009】
当分野のその他の研究者は、突然変異体p53のN末端ドメインを結合する化合物の開発が、野生型p53活性を救援するための最も有効な手段であると論じている。例えば、Friedlander等は、感温性p53突然変異体のDNA結合活性を促進する能力に関して、p53上の限定エピトープと結合した多数の異なるモノクローナル抗体を試験した(Friedlander et al., 1996, J. Biol. Chem. 271, 25468-25478)。C末端特異的抗体PAb421は低温で突然変異体p53にDNA結合機能を回復したが、一方、N末端特異的p53抗体、特にモノクローナル抗体Pab1801は、高温での感温性p53突然変異体のDNA結合活性の促進により有効であった。これらの知見に基づいて、N末端との結合により1801エピトープ認識領域によく似る小分子の開発は、突然変異体p53中での野生型DNA結合活性を促進する、とFriedlander等は推測した。特に、Friedlander等は、p53タンパク質の中心部分(DBDドメイン)におけるエピトープに特異的な抗体がDNA結合活性に影響を及ぼさないことを実証した。それらの結果の説明の1つとして、タンパク質内の一ドメインの配座が離れたドメインを用いることにより安定化される、とFriedlander等は仮定した。一般的に生じるp53DNA結合ドメイン突然変異体における熱力学的安定性の変化はかなり小さい、とBullock等は実証し、Friedlander等により示唆されたようなp53に関する小分子療法の開発(即ち、N末端と結合する分子)は実行可能であると推測した(Bullock et al., 1997、上記)。
【0010】
抗癌化合物を同定するためのその他のより包括的アプローチは、細胞ベース検定(例えば、腫瘍細胞株)または動物検定における小分子の直接抗腫瘍活性の検定に集中した。考え得る抗腫瘍活性を有する多数の小分子が記載されている(Mazerska et al., 1990, Anti-Cancer Drug Design 5, 169-187; Su et al., 1995, J. Med. Chem. 38, 3226-3235; Nagy et al., 1996, Anticancer Research 16, 1915-1918; Wuonola et al., 1997, Anticancer Research 17, 3409-23)。Mazerska等は、その抗腫瘍特性がDNAを結合し、共有的鎖間架橋を生じるそれらの能力に寄与するアクリジン基と結合したニトロ基を有する一連のニトロ−9−アミノアクリジンを記載する。Su等は、トポイソメラーゼII阻害剤として開発された、置換された種々の位置のアニリノおよびアクリジン環系を有する一連の9−アニリノアクリジン誘導体を記載する。Nagy等は、短炭素リンカーを介して尿素またはフタルイミドベースの基に結合される一連のフェノチアジン関連化合物を記載する。この種類の化合物の抗腫瘍細胞活性は、カルシウムチャンネルおよびカルモジュリンと反応するそれらの能力に由来する、とNagy等は推測した。Wuonola等(上記)は、Nagy等(上記)が記載した化合物と同様のフェノチアジン化合物を記載する。
【0011】
今日まで、腫瘍抑制活性のような野生型活性を回復または安定化するためにp53ファミリーのタンパク質と相互作用する小有機非ペプチド分子は報告されていない。さらに、このような化合物の発見は、高スループットスクリーンまたは検定の欠如により妨げられてきた。
【発明の開示】
【0012】
III.発明の要約
ヒトの疾患と関連する熱力学的不安定タンパク質またはミスフォールディングタンパク質を配座的に安定化し得る化合物を同定することの重要性を認識し、このような化合物が迅速に同定される高スループット検定の欠如を認識して、本発明人は、突然変異体p53を配座的に安定化する作用物質を迅速に同定するためのモデル系として、in vitroおよびin vivo検定における単離突然変異体p53DNA結合ドメイン(DBD)の使用を研究した。本発明は、p53ファミリーのタンパク質中の野生型活性を促進するヒト製剤を含めた化合物を客観的に同定するための迅速で、信頼性があり且つ正確な方法を提供する。
【0013】
したがって、本発明は、非ペプチド有機化合物がp53ファミリーのタンパク質と相互作用し、そしてその野生型活性を促進し得る、という最初の例証を提供する。生理学的温度またはその付近で、これらの活性化合物は、種々の突然変異体p53タンパク質だけでなく、野生型p53タンパク質においても、p53の野生型活性を促進した。このような化合物は、抗癌薬としての重要な用途を有する。したがって、本発明は、p53ファミリーのタンパク質の突然変異体または野生型活性による癌の抗腫瘍療法に有用な新規のアプローチおよび化合物を提供する。
【0014】
一局面において、本発明は、突然変異体形態のp53ファミリーのヒトタンパク質中の野生型活性を促進する方法であって、生理学的条件下での機能的配座を保持する前記タンパク質の無能力により前記タンパク質の1つ又はそれ以上の機能的活性が少なくとも部分的に減損される方法であって、生理学的条件下で突然変異体タンパク質中の1つ又はそれ以上のドメインと結合し、そこでの機能的配座を安定化し得る有機非ペプチド化合物と突然変異体タンパク質を接触させて、そして安定化タンパク質を野生型活性に関与する1つ又はそれ以上の高分子物質と相互作用させる工程からなる方法を提供する。p53ファミリーのヒトタンパク質は、例えばp53、p63またはp73であり得る。好ましい実施態様では、有機非ペプチド化合物はp53と、さらに好ましくはp53のDNA結合ドメインとさえ相互作用する。
【0015】
本発明は、別の実施態様では、1つ又はそれ以上の野生型活性低減を示すp53ファミリーの突然変異体タンパク質の発現に関連した疾患状態に対するヒト被験者の治療方法であって、生理学的条件下で突然変異体タンパク質中の1つ又はそれ以上のドメインと結合し、そこでの機能的配座を安定化し得る有機非ペプチド化合物を被験者に投与して、そして患者中の安定化タンパク質を野生型活性に関与する1つ又はそれ以上の高分子物質と相互作用させる工程を包含する方法も提供する。さらに別の実施態様では、本発明は、癌に対するヒト被験者の治療方法であって、生理学的条件下でp53ファミリーのヒトタンパク質中の1つ又はそれ以上のドメインと結合し得る有機非ペプチド化合物を被験者に投与して、そこでの機能的配座を安定化し、そして安定化タンパク質をタンパク質の野生型活性に関与する1つ又はそれ以上の高分子物質と相互作用させる工程を包含する方法を提供する。
【0016】
別の局面では、本発明に用いるための有機非ペプチド化合物は、特定長のリンカーにより一緒に結合される疎水性基(例えば、平面多環式)および陽イオン性基(好ましくはアミン)の両方を含有する化合物であり得る。
好ましい局面では、本明細書中で用いるための有機非ペプチド化合物は、以下の:
【0017】
【化1】
【0018】
からなる群から選択されるが、この場合、I基:
【0019】
【化2】
【0020】
に関しては、
R5は−N−R18R19
(ここで、R18はH、(C1〜C6)アルキルまたはフェニルであり、そして
R19はH、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニルであって、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21、または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、以下の:
(a)H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C1〜C6)アルキル(C6〜C12)アリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキルまたは(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択されるか、あるいは
(b)NR20R21は一緒になって水素、モルホリンまたは4−(C1〜C6)アルキルピペラジンを示す)であり、
R6は、
(a)各々任意に1つ又はそれ以上のフェニル基により置換される(C1〜C6)アルキルまたは(C2〜C8)アルケニル、
(b)ハロ、(C1〜C6)アルコキシにより置換されるフェニル
であり、
R7およびR8は同一であるかまたは異なり、H、ニトロ、(C1〜C6)アルコキシ、あるいはフルオロ、クロロまたはブロモから選択されるハロゲンであり、
II基:
【0021】
【化3】
【0022】
に関しては、
R9は−(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニル(ここで、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21、または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C1〜C6)アルキル(C6〜C12)アリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル)または(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択される)であり、
III基:
【0023】
【化4】
【0024】
に関しては、
R10は−N−R18R19(ここで、R18は、H、(C1〜C6)アルキルまたはフェニルであり、そして
R19はH、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニルであって、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21、または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、以下の:
(a)H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C1〜C6)アルキル(C6〜C12)アリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C1〜C6)アルキル(C5〜C9)ヘテロアリールまたは(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択されるか、あるいは
(b)NR20R21は一緒になって水素、モルホリンまたは4−(C1〜C6)アルキルピペラジンを示す)であり、
AおよびBは、同一であるかまたは異なり、各々炭素または窒素を表し、そして
R11およびR12は、同一であるかまたは異なり、H、ニトロ、(C1〜C6)アルコキシ、あるいはフルオロ、クロロまたはブロモから選択されるハロゲンから選択され、
IV基:
【0025】
【化5】
【0026】
に関しては、
R13は−N−R18R19(ここで、R18は、H、(C1〜C6)アルキルまたはフェニルであり、そして
R19はH、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニルであって、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、以下の:
(a)H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール(C5〜C9)ヘテロアリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C6〜C10)アリールおよび(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C1〜C6)アルキル(C5〜C9)ヘテロアリールおよび(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択されるか、あるいは
(b)NR20R21は一緒になって水素、モルホリンまたは4−(C1〜C6)アルキルピペラジンを示す)であり、
AおよびBは、同一であるかまたは異なり、各々炭素または窒素を表し、そして
R14およびR15は、同一であるかまたは異なり、H、ニトロ、(C1〜C6)アルコキシ、あるいはフルオロ、クロロまたはブロモから選択されるハロゲンから選択され、
V基:
【0027】
【化6】
【0028】
に関しては、
Aは炭素または窒素であり、
R16は、−N−R18R19(ここで、R18は、H、(C1〜C6)アルキルまたはフェニルであり、そして
R19はH、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニルであって、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、以下の:
(a)H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールおよび(C1〜C6)アルキル(C5〜C9)ヘテロアリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C1〜C6)アルキル(C5〜C9)ヘテロアリールまたは(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択されるか、あるいは
(b)NR20R21は一緒になって水素、モルホリンまたは4−(C1〜C6)アルキルピペラジンを示す)であり、そして
R17は、H、ニトロ、(C1〜C6)アルコキシ、あるいはフルオロ、クロロまたはブロモから選択されるハロゲンから選択される。
【0029】
さらに、本発明の実施に有用な多数の化合物はそれ自体新規であり、このような化合物についてのその場合の説明は、本発明のさらなる局面を定義する。
本発明は、別の局面で、p53ファミリーの野生型活性を促進するさらに別の化合物の設計方法も提供する。本方法は、仮定を説明するために本発明の活性化合物の1つを用いて、仮定に適合する候補化合物を同定し、そして候補化合物がp53ファミリーのタンパク質の野生型活性を促進するか否かを確定することを必然的に伴う。
【0030】
本発明の別の局面は、p53ファミリーのタンパク質とそのタンパク質と相互作用し、そのタンパク質の野生型活性を促進する非ペプチド化合物との複合体を包含する組成物である。
さらに別の局面では、本発明は、p53ファミリーのタンパク質の野生型活性を促進する化合物に関するスクリーニング方法を提供する。好ましい局面では、本方法は、p53DNA結合ドメイン(DBD)と相互作用する化合物に関して検定し、本化合物の存在下でp53DBDの配座を測定することを包含する。しかしながら、本発明は、スクリーニングのこのような方法におけるp53ファミリーの全長および部分タンパク質の使用も意図する。特定の実施態様では、検定および測定工程は、同時に実施される。p53ファミリーの突然変異体形態のタンパク質中の野生型活性を促進することが発見された化合物は、任意に、腫瘍増殖を停止または抑制するそれらの能力に関してin vivoでスクリーニングされる。本発明の別の局面は、p53DBDとの特異的相互作用に関して有機非ペプチド化合物をスクリーニングすることによる薬剤発見方法である。
【0031】
p53ファミリーの突然変異体または野生型タンパク質中での野生型活性を促進する化合物の同定での本発明の成功は、本発明の方法が、配座的欠陥または不安定タンパク質により誘導される種類の疾患のための薬剤発見に広範に適用可能であることを実証する。このようなタンパク質標的の例としては、pp60src、ユビキチン活性化酵素E1、嚢胞性繊維症膜貫通コンダクタンス調節因子、ヘモグロビン、プリオンタンパク質、セルピンおよびβ−アミロイドタンパク質が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
V.発明の詳細な説明
腫瘍サプレッサー遺伝子生成物p53における機能損失は、多数の異なる種類の癌において観察される非制御化増殖および/またはアポトーシスの損失を引き起こし得る。p53が癌細胞中で突然変異化されない場合でも、このような細胞中での野生型p53活性促進は、癌性表現型を抑制し得る。本発明は、有機非ペプチド化合物がp53ファミリーのタンパク質と相互作用して、そこでの機能的配座を安定化し得る、ということを初めて実証する。したがって、このような化合物は、すべての種類の癌の治療のための製剤としての重要な用途を有する。
【0033】
したがって、一局面において、本発明は、突然変異体形態のp53ファミリーのヒトタンパク質における野生型活性の促進方法であって、生理学的条件下での機能的配座を保持するタンパク質の無能力によりタンパク質の1つ又はそれ以上の機能的活性が少なくとも部分的に減損される方法であって、生理学的条件下で突然変異体タンパク質中の1つ又はそれ以上のドメインと結合し、そこでの機能的配座を安定化し得る有機非ペプチド化合物と突然変異体タンパク質を接触させて、そして安定化タンパク質を野生型活性に関与する1つ又はそれ以上の高分子物質と相互作用させる工程からなる方法を提供する。p53ファミリーの突然変異体ヒトタンパク質は、突然変異体p53、p63およびp73タンパク質であり得る。好ましい実施態様では、有機非ペプチド化合物は、p53と、さらに好ましくはp53のDNA結合ドメインと相互作用する。
【0034】
本発明は、別の実施態様では、1つ又はそれ以上の野生型活性低減を示すp53ファミリーの突然変異体タンパク質の発現に関連した疾患状態に対するヒト被験者の治療方法であって、生理学的条件下で突然変異体タンパク質中の1つ又はそれ以上のドメインと結合して、そこでの機能的配座を安定化し得る有機非ペプチド化合物を被験者に投与し、そして患者中の安定化タンパク質を野生型活性に関与する1つ又はそれ以上の高分子物質と相互作用させる工程を包含する方法も提供する。
【0035】
さらに別の実施態様では、本発明は、癌に対するヒト被験者の治療方法であって、生理学的条件下でp53ファミリーのヒトタンパク質中の1つ又はそれ以上のドメインと結合し、そこでの機能的配座を安定化し得る有機非ペプチド化合物を被験者に投与して、そして安定化タンパク質をタンパク質の野生型活性に関与する1つ又はそれ以上の高分子物質と相互作用させる工程を包含する方法を提供する。本発明の方法で安定化されるp53ファミリーのヒトタンパク質は、野生型または突然変異体タンパク質、例えばp53、p63またはp73であり得る。
【0036】
p53ファミリーのタンパク質は種々の癌中で突然変異体であるが、しかしそれでもいくつかの癌または癌細胞型では、p53(p53それ自体が最も多数の試験を受けている)ファミリーのタンパク質の構造または機能は、関与細胞が野生型コード対立遺伝子を保持する場合でも、変更される。例えば、ウイルスタンパク質がp53タンパク質を分解するか、あるいはp53が、例えば癌遺伝子の発現生成物により不活性化されるかまたは分解されるウイルス関連癌の考察に関しては、Kaelin(1999)を参照していただきたい。細胞調節工程におけるp53ファミリーのタンパク質の重要性が示された場合、このようなタンパク質の寿命および/または構造および/または活性が正常である細胞中で生理学的条件下で、本発明の化合物が非突然変異体p53ファミリー成員の機能的配座を安定化するのにも有用である、ということは明らかである。したがって、本発明の化合物は、p53タンパク質および同様の物質の機能が眼精状態の存在により実質的に影響を及ぼされない癌の治療において、ならびにその異常が未だ異常p53(またはp53ファミリー成員)の機能、寿命または構造に検出可能的に拡がっていない前癌細胞を発現する組織の治療においても有用である。さらに、悪性疾患の部位に隣接するか、そうでなければ身体中の悪性細胞と接触するようになる健常細胞中のp53ファミリーのタンパク質をさらに安定化する(例えば、寿命を増大させる)ことにより、癌の拡張が制御され得る。本発明の化合物は、この点でも有用である。
【0037】
本発明の実施によれば、p53ファミリーのタンパク質は、哺乳類p53、p63またはp73、および/または1つ又はそれ以上の(1)転写活性化に必要とされるN末端ドメイン、(2)DNA結合ドメイン、または(3)哺乳類p53、p63またはp73のオリゴマー形成ドメインと少なくとも50%、さらに好ましくは80%のアミノ酸配列相同をすべてが有するドメインを保有するタンパク質と定義され、この場合、前記の相同は、認可アルゴリズムBLASTP v.2.0(www.ncbi.nlm.nih.gov)(Altschul et al., 1990, J. of Molec. Biol., 215:403-410, "The BLAST Algorithm"; Altschul et al., 1997, Nuc. Acids Res. 25:3389-3402)およびW.U.-BLAST-2.0(Washington University, St. Louis, MO, USAから利用可能)のいずれかにより測定され、そして前記のタンパク質は、p53、p63またはp73の特性を示していると当業界で認識される少なくとも1つの機能(例えば、p53応答性プロモーターを活性化し、アポトーシスを誘導する能力。当業界認知特性に関しては、前記で引用したKaelin, 1999; Yang et al., 1998;およびYoshikawa et al., 1999参照)を立証する。BLAST, Smith-WatermanおよびFASTAアルゴリズムの手法および利点についての一般的考察に関しては、Nicholas et al., 1998, "A Tutorial on Searching Sequence Databases and Sequence Scoring Methods"(www.psc.edu)およびそこに引用された参考文献を参照されたい。
【0038】
p53ファミリーのタンパク質の野生型配座を安定化する化合物は、p53ファミリーのタンパク質との接触時に、タンパク質の野生型活性、例えばDNA結合親和性または任意の高分子物質と相互作用する能力を促進または回復してp53ファミリーのタンパク質の正常機能を実行する化合物である。p53のその他の野生型活性としては、転写活性化活性(例えば、WAF1誘導)、細胞周期停止およびアポトーシス誘発が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
さらに別の局面において、本発明は、腫瘍増殖を抑制しおよび/または癌を治療するための本発明の化合物の使用を含む。本発明の特有の利点は、本明細書中の方法を用いてそのように同定された化合物が、スクリーンに用いられる野生型p53DBDおよび突然変異体DBDだけでなく、他の突然変異体p53およびp53DBDの活性配座も安定化することが示されていることである。したがって、そのように同定された化合物は、種々の癌の治療に際して、広範な適用可能性を有する。
【0040】
本発明は、p53ファミリーのタンパク質の野生型配座を促進し、p53ファミリーの突然変異体タンパク質に対して野生型活性を回復し得る化合物に関するスクリーニングの新規の方法も提供する。本発明の方法を用いて同定される化合物は、p53ファミリーのタンパク質の活性の欠陥と関連する癌のような疾患を治療するのに有用である。
【0041】
本発明の方法は、p53ファミリーのタンパク質と直接接触するものに関して化合物をスクリーニングすることを含む。このような方法は、スクリーニング目的のためのp53ファミリー(突然変異体または野生型)の全長タンパク質、あるいは少なくともDBDを、そして任意にN末端および/またはC末端ドメインを含有する欠失誘導体を用い得る。しかしながら、本発明の好ましい局面では、スクリーンは、無傷NまたはC末端ドメインを伴わずにDBDのみを含有するp53ファミリーのタンパク質のポリペプチド断片を使用する。したがって、本出願のために、「DNA結合ドメイン」または「DBD」という用語は(別記しない限り)、無傷NまたはC末端を伴わずにただp53ファミリーのタンパク質のDBDを含むものと理解される。しかしながら、このようなDBDドメインは、検定フォーマットによって異種ポリペプチドと融合され得る(例えば、FLAGエピトープまたはグルタチオン−S−トランスフェラーゼタンパク質)。したがって、DNA結合に及ぼす負の調節作用を単に除去するというよりむしろ、本発明の方法および化合物は、p53ファミリーの野生型および突然変異体タンパク質の両方の配座安定性の増強を促進する。
【0042】
したがって、非限定的実行例により以下に説明される一局面において、本発明は、p53DBDと特異的に相互作用する化合物に関してスクリーニングし、そして被験化合物の存在下でp53DBDの配座を測定する方法を提供する。任意に、p53DBDは、突然変異体p53DBDである。しかしながら、野生型p53DBDは、大量に過剰生成するのがより容易である。スクリーニング検定は細胞ベースのフォーマットで実施され得るが、しかしp53DBDを標的にする化合物に特異的な高スループットスクリーンに関しては、in vitroベースの検定が最も直接的で且つ望ましい。p53DBDに対する初期スクリーンで同定された化合物は、無傷p53(p53ミスセンス突然変異体を含む)の機能に及ぼすそれらの作用に関してさらに検査され得る。これらの方法を用いて同定される化合物も、本発明の範囲内である。
【0043】
本発明の目的で、p53ファミリーのタンパク質のDNA結合ドメインと相互作用する化合物に関する検定は、包含されない化合物がDBDを特異的に標的とし、タンパク質の他のドメインを標的としないものであるよう意図される。例えば、DBDと特異的に「相互作用する」かまたはそれに「作用を及ぼす」化合物は、必ずしもDBDと安定的に結合しないという必要はない(しかし、それもあり得る)。化合物の存在下でp53ファミリーのタンパク質の配座に及ぼす何らかの作用を化合物が有することで十分である。したがって、化合物は、DBDとの相互作用に関して先ずスクリーニングされ、次に、配座に及ぼすそれらの作用に関して検定されるか、あるいはこれら2つのスクリーニング工程は、DBDとの相互作用も検出するために、化合物の存在下で配座的変化を用いることにより同時に実施され得る。
【0044】
特異的相互作用という用語は、本出願においては、非選択的疎水性相互作用により疎水性化合物とタンパク質との間に起こることが知られている種類のものを含めた非特異的形態の結合を排除するために用いられる。特異的相互作用という用語はさらに、バルク溶媒の化学特性を変えることによりタンパク質熱安定性に影響を及ぼす化合物と穂亜反応化合物の特性を区別するために用いられる。したがって、本発明のこの局面の範囲から除外されるこのような分子としては、熱安定化剤、例えばグリセロール、トリメチルアミン−オキシドおよび重水素水が挙げられる。p53ファミリーのタンパク質と特異的に相互作用する化合物は、このようなバルク溶媒または非特異的疎水性相互作用より非常に低い濃度で作用を示す。例えば、グリセロールは、600 mMで有効である。しかしながら、p53ファミリーのタンパク質と特異的に相互作用する化合物の作用は、in vitroまたは細胞ベース検定において、1 mMより低い、好ましくは100μMより低い、さらに好ましくは10μMより低い化合物の濃度で観察される。
【0045】
本発明の実施に関連して、以下の定義が一般的に適用する。「アルキル」という用語は、本明細書中で用いられる場合、別記しない限り、直鎖、分枝鎖または環状部分あるいはそれらの組合せを有する飽和一価炭化水素基を含む。同様に、「アルケニル」および「アルキニル」という用語は、それぞれ少なくとも1つの二重結合または少なくとも1つの三重結合が存在する直鎖、分枝鎖または環状部分を有する炭化水素基を定義する。このような定義は、アルキル、アルケニルまたはアルキニル基が別の基、例えばアルコキシまたはアルキルアミン内に存在する場合にも適用する。「アルコキシ」という用語は、本明細書中で用いられる場合、「アルキル」が前記と同様であるO−アルキル基を含む。「ハロ」という用語は、本明細書中で用いる場合、別記しない限り、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨードを含む。
【0046】
説明の便宜上、(C3〜C10)シクロアルキルという用語は、本明細書中で用いる場合、ゼロまたは任意に1つ又はそれ以上の二重結合を有するシクロアルキルおよびシクロアルケニル基の両方を、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンテニル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、1,3−シクロヘキサジエン、シクロヘプチル、シクロヘプテニル、ビシクロ[3.2.1]オクタン、ノルボルナニル等を指す。(C3〜C10)ヘテロシクロアルキルは、本明細書中で用いる場合、ピロリジニル、テトラヒドロフラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ピラニル、チオピラニル、アジリジニル、オキシラニル、メチレンジオキシル、クロメニル、イソキサゾリジニル、1,3−オキサゾリジン−3−イル、イソチアゾリジニル、1,3−チアゾリジン−3−イル、1,2−ピラゾリジン−2−イル、1,3−ピラゾリジン−1−イル、ピペリジニル、チオモルホリニル、1,2−テトラヒドロチアジン−2−イル、1,3−テトラヒドロチアジン−3−イル、テトラヒドロチアジアジニル、モルホリニル、1,2−テトラヒドロジアジン−2−イル、1,3−テトラヒドロジアジン−1−イル、テトラヒドロアゼピニル、ピペラジニル、クロマニル等を指す。前記の(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル環の結合は、炭素またはsp3混成化窒素異種原子を介してである、と当業者は理解する。
【0047】
(C5〜C9)ヘテロアリールは、本明細書中で用いる場合、フリル、チエニル、チアゾリル、ピラゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、ピロリル、トリアゾリル、テトラゾリル、イミダゾリル、1,3,5−オキサジアゾリル、1,2,4−オキサジアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、1,3,5−チアジアゾリル、1,2,3−チアジアゾリル、1,2,4−チアジアゾリル、ピリジル、ピリミジル、ピラジニル、ピリダジニル、1,2,4−トリアジニル、1,2,3−トリアジニル、1,3,5−トリアジニル、ピラゾロ[3,4−b]ピリジニル、シンノリニル、プテリジニル、プリニル、6,7−ジヒドロ−5H−[1]ピリンジニル、ベンゾ[b]チオフェニル、5,6,7,8−テトラヒドロ−キノリン−3−イル、ベンズオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンズイソチアゾリル、ベンズイソキサゾリル、ベンズイミダゾリル、チアナフテニル、イソチアナフテニル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、イソインドリル、インドリル、インドリジニル、インダゾリル、イソキノリル、キノリル、フタラジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、ベンズオキサジニル等を指す。(C5〜C9)ヘテロアリール基の構造の残りの部分との結合は一般的に炭素原子またはsp2混成異種原子によるが、これらに限定されない、と当業者は理解する。同様に、フェニルおよびナフチルは、(C6〜C10)アリールの代表的なものである。
【0048】
図面において、一結合が図示されているが、しかしその遠位端に置かれる基に関しては同定が成されていない場合、慣用的に認識されているように、メチル基が意図される。図示されている任意の結合の非存在下では、原子価が許す場合には、当業界で容易に理解されるように、その位置は水素により占められる。したがって、R−O−の記述は、R−O−CH3を意味する。
【0049】
A.p53ファミリーのタンパク質中の野生型活性を促進する本発明の化合物
本発明の有機非ペプチド化合物は、p53ファミリーの野生型または突然変異体タンパク質に曝露されると、そのタンパク質の野生型活性を促進するあらゆる種類の化合物であり得る。好ましい化合物は、相対的に小型の(50〜150 kDの典型的タンパク質と比較した場合)有機化合物である。本発明は、ペプチドでない、そして特に抗体でない、さらにp53と特異的に反応せず、それによりp53DBDまたはp53タンパク質の野生型配座を安定化するような化合物を初めて提供する。ペプチドでない有機化合物は、種々の理由のために、製剤として特に有用である。例えば、非ペプチド化合物は、ペプチドより非常に低免疫原性であり、粘膜またはその他の細胞層バリアにより身体中により容易に吸収され、低不安定性であり得る。
【0050】
一局面では、本発明の方法により発見された活性化合物は、特定長のリンカーにより一緒に結合される疎水性基(例えば平面多環式)および陽イオン性基(好ましくはアミン)の両方を含有する化合物と定義され得る。疎水性位置におけるベンズイミダゾール、ベンゾキノリン、フェノチアジンおよびスチリルキナゾリンが好ましい。
【0051】
活性陽イオン性基は、第二級および第三級アミンの両方であり、その例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、メチルアミン、メチルピペラジンおよびモルホリンが挙げられるが、これらに限定されない。ある種の大型アミンは、フェノチアジン疎水性シリーズで試験される場合、相対的により活性であった。したがって、この状況では、大型アミンが好ましい。陽イオン性位置の正荷電基は活性であり、好ましい(下記の表1参照)。
【0052】
本発明のこの局面に関しては、疎水性基および陽イオン性基間の間隔は、少なくともプロピル長であるべきである。プロピル長より短いリンカーは、特殊検定条件下では、実質的に低有効性であった(下記の表2参照)。したがって、約3〜5炭素結合の長さを有するリンカーが好ましい(5〜9オングストローム、さらに好ましくは6〜8オングストローム)が、しかし、プロピルリンカーの長さ(約6.5オングストローム)を有するリンカーを含有する化合物が最も活性である。ブチルリンカーの長さより長いリンカーは、ブチルリンカーの長さを有するリンカーを含有する対応する化合物より、特殊検定条件下では低有効性であった(表2)。さらに好ましいのは、的確な距離を保持する分枝鎖リンカーである。このようなリンカーは一般に、本検定では、5〜9オングストローム(そして最適には約6.5オングストローム)の正しいリンカー長を依然として保持する限り、対応する線状リンカーより活性であった。
【0053】
したがって、一局面において、本発明の化合物は式:
F1−L−F2
を有し、F1は以下の:
【0054】
【化7】
【0055】
(式中、R1、R2、R3は同一であるかまたは異なり、そして別々に、水素、ハロゲン、メトキシおよびニトロから成る群から選択される)
から成る群から選択され、Lは、5〜9オングストロームの長さを有する直鎖または分枝鎖アルキルであり、そしてF2は第二級または第三級アミンである。別の局面では、F2は、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、メチルピペラジンまたはモルホリンである。例えば、F2は、以下の:
【0056】
【化8】
【0057】
(式中、R4は−O−CH2−CH3またはHである)
から成る群から選択されるアミンであり得る。
以下で提示されるのは、本発明の種々の化合物に関する化学構造である。これらの化合物の各々は、ほぼ生理学的温度で少なくとも1つの突然変異体p53DBDにおけるp53に対する配座感受性エピトープの安定性を有意に増強することが見出された。
【0058】
1.アクリジン
【0059】
【化9】
【0060】
【化10】
【0061】
2.キナゾリン
【0062】
【化11】
【0063】
3.フェノチアゾール
【0064】
【化12】
【0065】
【化13】
【0066】
【化14】
【0067】
本明細書中に記載された一般設計原則によれば、本発明の実施に置いては以下の群:
【0068】
【化15】
【0069】
の化合物が好ましく、この場合、 I基:
【0070】
【化16】
【0071】
に関しては、
R5は−N−R18R19
(ここで、R18はH、(C1〜C6)アルキルまたはフェニルであり、そして
R19はH、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニルであって、前記のアルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21、または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、以下の:
(a)H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C1〜C6)アルキル(C6〜C12)アリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキルまたは(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択されるか、あるいは
(b)NR20R21は一緒になって水素、モルホリンまたは4−(C1〜C6)アルキルピペラジンを示す)であり、
R6は、
(a)各々任意に1つ又はそれ以上のフェニル基により置換される(C1〜C6)アルキルまたは(C2〜C8)アルケニル、
(b)ハロ、(C1〜C6)アルコキシにより置換されるフェニル
であり、
R7およびR8は同一であるかまたは異なり、H、ニトロ、(C1〜C6)アルコキシ、あるいはフルオロ、クロロまたはブロモから選択されるハロゲンであり、
II基:
【0072】
【化17】
【0073】
に関しては、
R9は−(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニル(ここで、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21、または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C1〜C6)アルキル(C6〜C12)アリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル)または(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択される)であり、
III基:
【0074】
【化18】
【0075】
に関しては、
R10は−N−R18R19(ここで、R18は、H、(C1〜C6)アルキルまたはフェニルであり、そして
R19はH、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニルであって、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21、または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、以下の:
(a)H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C1〜C6)アルキル(C6〜C12)アリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C1〜C6)アルキル(C5〜C9)ヘテロアリールまたは(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択されるか、あるいは
(b)NR20R21は一緒になって水素、モルホリンまたは4−(C1〜C6)アルキルピペラジンを示す)であり、
AおよびBは、同一であるかまたは異なり、各々炭素または窒素を表し、そして
R11およびR12は、同一であるかまたは異なり、H、ニトロ、(C1〜C6)アルコキシ、あるいはフルオロ、クロロまたはブロモから選択されるハロゲンから選択され、
IV基:
【0076】
【化19】
【0077】
に関しては、
R13は−N−R18R19(ここで、R18は、H、(C1〜C6)アルキルまたはフェニルであり、そして
R19はH、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニルであって、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、以下の:
(a)H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール(C5〜C9)ヘテロアリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C6〜C10)アリールおよび(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C1〜C6)アルキル(C5〜C9)ヘテロアリールおよび(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択されるか、あるいは
(b)NR20R21は一緒になって水素、モルホリンまたは4−(C1〜C6)アルキルピペラジンを示す)であり、
AおよびBは、同一であるかまたは異なり、各々炭素または窒素を表し、そして
R14およびR15は、同一であるかまたは異なり、H、ニトロ、(C1〜C6)アルコキシ、あるいはフルオロ、クロロまたはブロモから選択されるハロゲンから選択され、
V基:
【0078】
【化20】
【0079】
に関しては、
Aは炭素または窒素であり、
R16は、−N−R18R19(ここで、R18は、H、(C1〜C6)アルキルまたはフェニルであり、そして
R19はH、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニルであって、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、以下の:
(a)H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールおよび(C1〜C6)アルキル(C5〜C9)ヘテロアリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C1〜C6)アルキル(C5〜C9)ヘテロアリールまたは(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択されるか、あるいは
(b)NR20R21は一緒になって水素、モルホリンまたは4−(C1〜C6)アルキルピペラジンを示す)であり、そして
R17は、H、ニトロ、(C1〜C6)アルコキシ、あるいはフルオロ、クロロまたはブロモから選択されるハロゲンから選択される。
【0080】
本発明の特に好ましい化合物としては、以下の11個の化合物が挙げられる:
【0081】
【化21】
【0082】
(1−ベンジル−ピペリジン−4−イル)−(3−フェノチアジン−10−イル−プロピル)−アミン、
【0083】
【化22】
【0084】
[2−(4−クロロ−フェニル)−エチル]−(3−フェノチアジン−10−イル−プロピル)−アミン、
【0085】
【化23】
【0086】
(3−フェノチアジン−10−イル−プロピル)−チオクロマン−4−イル−アミン、
【0087】
【化24】
【0088】
[1−メチル−3−(2,6,6−トリメチル−クロロヘキス−2−エニル)−アリル]−(3−フェノチアジン−10−イル−プロピル)−アミン、
【0089】
【化25】
【0090】
(7−エトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−ナフタレン−2−イル)−(3−フェノチアジン−10−イル−プロピル)−アミン、
【0091】
【化26】
【0092】
N’−(9−フルオロ−ベンゾ[c]アクリジン−7−イル)−N,N−ジメチル−プロパン−1,3−ジアミン、
【0093】
【化27】
【0094】
N’−アクリジン−9−イル−N,N−ジメチル−プロパン−1,3−ジアミン、
【0095】
【化28】
【0096】
2−{4−[4−(ベンゾ[g]キノリン−4−イルアミノ)−フェニル]−ピペラジン−1−イル}−エタノール、
【0097】
【化29】
【0098】
N4−{2−[2−(4−ブロモ−フェニル)−ビニル]−7−クロロ−キナゾリン−4−イル}−N1,N1−ジエチル−ペンタン−1,4−ジアミン、
【0099】
【化30】
【0100】
N−ベンゾ[g]キノリン−5−イル−N‘−クロロヘキシル−プロパン−1,3−ジアミン、
【0101】
【化31】
【0102】
2−[(2−ヒドロキシ−エチル)−(3−{2−[2−(4−メトキシ−フェニル)−ビニル]−キナゾリン−4−イルアミノ}−プロピル)−アミノ]−エタノール。
本発明の有機非ペプチド化合物は、慣用的技法を用いて合成され得る。
本発明の、そして本発明の方法に用いるための化合物は、p53ファミリーのタンパク質の野生型活性を促進する化合物のプロドラッグも含む。プロドラッグは、被験動物(特にヒト)に投与した場合に、有意且つ有効量で、活性分子に転換される化合物である。
【0103】
本発明の化合物は、遊離酸、遊離塩基または製薬的に有効なそれらの塩の形態であり得る。このような塩は、適切な酸で化合物を処理することにより容易に調製され得る。このような酸としては、例えば無機酸、例えばhydroholic酸(塩酸、hydrobiomic等)、硫酸、硝酸、リン酸等、および有機酸、例えば酢酸、プロパン酸、2−オキソプロパン酸、プロパン二酸、ブタンに酸等が挙げられるが、これらに限定されない。逆に、塩は、アルカリで処理することにより、遊離塩基形態に転換され得る。
【0104】
B.治療的終点および投薬量
本発明の方法により同定される化合物は、配座的不安定またはミスフォールド化タンパク質と関連した疾患の治療に有用である。配座的不安定またはミスフォールド化タンパク質に関連した疾患が知られており、それらの例としては、嚢胞性繊維症(CFTR)、マルファン症候群(フィブリン)、筋萎縮性側索硬化症(スーパーオキシドジスムターゼ)、壊血病(コラーゲン)、カエデシロップ尿病(α−ケト酸デヒドロゲナーゼ複合体)、骨形成不全(I型プロコラ―ゲンプロアルファ)、クロイツフェルト−ヤーコブ病(プリオン)、アルツハイマー病(β−アミロイド)、家族性アミロイドーシス(リゾチーム)、白内障(クリスタリン)、家族性高コレステロール血症(LDL受容体)、アルファ1−抗トリプシン欠損症、テイ−サックス病(β−ヘキソサミニダーゼ)、色素性網膜炎(ロドプシン)および妖精症(インスリン受容体)が挙げられる。もちろん、本明細書中に記載した方法および化合物は、癌の治療に特に有用であり、そして突然変異体p53遺伝子に関連した癌の治療に特に有用である。
【0105】
開業医または患者の見解から、疾患状態、特に癌性状態に関連した望ましくない症状(例えば、疼痛、感受性、体重減少等)の事実上あらゆる軽減または防止が望ましい、と当業者は理解する。さらに、癌性状態に関しては、腫瘍塊または増殖のあらゆる低減が、腫瘍の組織病理学的病像の改善と同様に、望ましい。したがって、本出願の目的のために、「治療」、「療法的使用」または「医学的使用」という用語は、本明細書中で用いる場合、疾患状態または症状を改善するか、あるいはそうでなければ、どんな方法でも、疾患またはその他の望ましくない症状の進行を防止し、妨害し、遅延しまたは逆転する特許請求組成物のあらゆるおよびすべての使用を指す。
【0106】
有効投薬および治療プロトコールは、慣用的手段により確定され、実験室動物において低用量で開始し、その後、効力を監視しながら投薬量を増大して、その上で投薬レジメンを体系的に変更し得る。動物試験、好ましくは哺乳類試験は、一般に、体重1kg当たりの生物活性物質の最大耐容用量またはMTDを決定するために用いられる。当業者は、効力に関して用量を定期的に推定して、ヒトを含めた他の種に対する毒性を回避する。
【0107】
効力についてのヒト試験が着手される前に、正常被験者における段階I臨床試験は安全用量を確立するのに役立つ。所定の被験者に関する最適投薬量を決定する場合、臨床医により多数の因子が考慮され得る。これらの中でも第一は、選定異種遺伝子生成物の毒性および半減期である。さらに別の因子としては、患者のサイズ、患者の年齢、患者の全身状態、治療中の特定の癌性疾患、疾患の重症度、患者中のその他の薬剤の存在、遺伝子生成物のin vivo活性等が挙げられる。試験投薬量は、動物試験の結果および臨床文献を考察後に選定される。
【0108】
実際の作業実施態様により以下に示されているように、ヒト癌の動物モデルにおける腫瘍増殖を阻害し、および/または後退させるためには、200 mg/kg/日の用量が非常に有効であった。この結果に基づいて、癌の治療のための化合物Xの典型的ヒト用量は、被験者の状態によって、静注により、または腫瘍塊に直接的に注入されるか、あるいは経口的に投与される0.1〜10 g/日である。異なるレベルの効力および/または毒性を有する化合物に関しては、これらの値は、もちろん、それに応じて変更される。さらに、用量は、1日当たり2回またはそれ以上の増分で投与され得る。
【0109】
本発明の方法に用いるための化合物は、長期および持続性投与のために徐放性移植装置としても処方され得る。このような持放性処方物の例としては、生物適合性ポリマーの複合材料、例えばポリ(乳酸)、ポリ(乳酸−共−グリコール酸)、メチルセルロース、ヒアルロン酸、コラーゲン等が挙げられる。薬剤送達ビヒクル中の分解可能ポリマーの構造、選択および使用は、いくつかの出版物、例えばA. Domb et al., Polymers for Advanced Technologies 3:279-292(1992)で検討されている。製剤処方物中のポリマーの選択および使用におけるさらに別の指針は、M. ChasinとLanger(編集)による教科書“Biodegradable Polymers as Drug Delivery Systems,”Vol. 45 of "Drugs and the Pharmaceutical Sciences," M. Dekker, New York, 1990および米国特許第5,573,528号(Aebischer等、1996年11月12日発行)に見出される。
【0110】
特に、in vivo使用が意図される場合には、本発明の種々の生化学的構成成分は、好ましくは高純度を有し、潜在的有害夾雑物(例えば、少なくともNational Food(NF)等級、一般的には少なくとも分析等級、好ましくは少なくとも製剤等級)を実質的に含有しない。合成またはその後の精製が、好ましくは、合成または精製操作中に用いられ得た可能性のあるいかなる毒性物質も実質的に含有しない生成物を生じる程度まで、所定の化合物は使用前に合成されねばならない。
【0111】
被験者における癌性状態の治療に用いるために、本発明は、その一局面において、本発明の方法に有効であることが示された化合物を含有するキットまたはパッケージも、滅菌充填バイアルまたはアンプルの形態で提供する。一実施態様では、キットは、単位用量または多数回用量で、即投与型処方物として、本発明の化合物、例えば化合物Y、化合物Xまたは化合物Zを含有し、この場合、パッケージは、癌の治療のためのその内容物の使用説明書を一緒に含入する。あるいは、そして本発明の別の実施態様によれば、パッケージは、このような化合物を含有する滅菌充填バイアルまたはアンプルを提供する。
【0112】
C.ドラッグ・デリバリー方法
p53ファミリーのタンパク質、特にp53DBDと相互作用するか、および/またはその野生型活性に影響を及ぼす化合物をスクリーニングする場合の工程の各々またはすべては、候補化合物に関する高スループット検定を受けることができる。高スループットスクリーンは当業界で周知であり、多数のフォーマットのいずれかで実施され得る。例えば、ELISH、シンチレーション近接技法、競合的結合測定法および置換結合検定は有用なフォーマットである。ロボット工学技術を含めた実験室自動操作は、多数の化合物をスクリーニングするのに必要な時間を大幅に低減し、例えば、数社の名前を挙げると、Tecan、Scitec、Rosys、Mitsubishi、CRS Robotics、FanukおよびBeckman-Coulter Sagianから市販されている。候補化合物が同定された後(またはそれらの同定と同時に)、二次スクリーニングが実施されて、p53ファミリーのタンパク質の活性に及ぼす化合物の細胞および/またはin vivo作用を確定し得る。
【0113】
1.本発明の方法および組成物により標的化されるp53ファミリーのタンパク質
p53は、すべての真核生物に遍在性である。したがって、本発明の方法および組成物中に用いるためのp53タンパク質およびp53DBDは、真菌(例えば、ビール酵母菌)、昆虫(例えば、ショウジョウバエ)および哺乳類(例えば、マウスおよび/またはヒト)を含めたあらゆる真核生物細胞からであるか、またはそれに由来し得るが、しかしヒトp53タンパク質が好ましい。構造および機能が関連したp53の付加的哺乳類相同体、特にp63およびp73が同定されている。p53ファミリーのこのようなタンパク質、ならびに例えばそれらのそれぞれのDBDも、本発明の方法および組成物に用いられ得る。さらに、未だ発見されていないp53ファミリーのタンパク質(本明細書中で定義されたような)も、本発明の方法および組成物に用いられ得る。
【0114】
前記のように、p53タンパク質は、少なくとも3つの異なるドメイン、即ちアミノ末端に位置する転写活性化ドメイン、中心DBDおよびカルボキシル末端のオリゴマー形成ドメインを含有する。さらに、負の調節ドメインは、タンパク質のカルボキシル末端に出現する。ヒト癌と関連するp53ミスセンス突然変異のほとんどが、DBDに生じる。本発明の方法および化合物は、このようなミスセンス突然変異のいずれかの配座の安定化に向けられる。特に好ましい標的は、残基位置175、245、248、249、273および282(全残基位置はヒトp53配列に関して示されている。他の生物体からのp53タンパク質中の同様の残基位置は、ヒト配列との相同アラインメントにより容易に確定され得る)での突然変異に関する1つ又はそれ以上のいわゆる「ホットスポット」を含有する突然変異体p53である。p53におけるその他の一般的突然変異は、132、135、138、141、143、146、151、152、154、157、158、159、163、173、176、179、186、194、196、213、220、237、238、241、242、258、266、272、278、280、281、285および286で起こる。これらも本発明に対する標的である。さらに、以下の突然変異体p53タンパク質:143A、173A、175S、241D、249Sおよび273Hの配座安定性を示す作業実例により、本発明を以下で説明する。
【0115】
p53タンパク質における、特にp53タンパク質のDBDにおけるミスセンス突然変異に関連した癌としては、結腸直腸癌、膀胱癌、肝細胞癌、卵巣癌、肺癌、乳癌、頭部および頸部の扁平上皮癌、食道癌、甲状腺癌および神経原性腫瘍、例えば星状細胞腫、神経節芽細胞腫および神経芽細胞腫が挙げられるが、これらに限定されない。前記の癌およびその他の癌は、本発明の方法および化合物により治療可能である。
【0116】
p53DBDは、ほぼアミノ酸残基100〜300に存在する。残基102〜292のタンパク質分解耐性コアはDNA結合に十分であることが示されており、p53DBD結晶構造は、残基94〜312に関して解明されている(Cho et al., 1994, Science 265, 346; Friend, 1994, Science 265, 334)。したがって、本発明の方法に用いるために、p53DBDドメインのN末端は残基50から開始して残基110までであり、好ましくは94〜102間のどこかで開始する。p53DBDのC末端は、残基286〜残基340で終結し、好ましくは残基292〜312で終結し得る。
【0117】
「p53の熱力学的不安定化突然変異体」は、生理学的温度(即ち約37℃)でのDNA結合のようなp53の1つ又はそれ以上の機能を保持しないが、低温で、または他の条件下でこのような機能(単数または複数)を回復する突然変異体である。例えば、一般的遭遇突然変異体はすべて、低温でin vitroでDNAを結合する能力を保持する(Friedlander et al., 1996、上記)。
【0118】
2.検定フォーマット
a.結合検定フォーマット
p53ファミリーのタンパク質のDBDに簡単に結合する化合物を同定するために用いられる検定の原理は、2つの化合物を相互作用させ、結合させるための条件下で、それに十分な時間、DBDタンパク質と被験化合物の反応混合物を調製し、したがって、反応混合物中で除去され、および/または検出され得る複合体を生成することを包含する。用いられるDBD種は、スクリーニング検定の目的によって変わり得る。例えば、特定の結合ドメインと相互作用する化合物が探索される場合、その結合ドメインを含有するp53ファミリーの全長タンパク質、DBDそれ自体、あるいは検定系(ラベリング、結果的に生じる複合体の単離等)に利点をもたらすタンパク質またはペプチドと融合したDBDを含有する融合タンパク質が利用され得る。本技法に用いるためのDBD由来のペプチドは、DBDの少なくとも6連続アミノ酸、好ましくは10連続アミノ酸、さらに好ましくは20連続アミノ酸、さらに好ましくは30または50でさえある連続アミノ酸またはそれ以上のアミノ酸を包含すべきである。
【0119】
スクリーニング検定は、種々の方法で実行され得る。例えば、このような検定を実行するための一方法は、DBDタンパク質、ポリペプチド、ペプチドまたは融合タンパク質あるいは被験物質を固相上に固着し、そして反応終了時に、固相上に固着されたDBD/被験化合物複合体を検出することを包含する。このような方法の一実施態様では、DBD反応体は固体表面に固着され、そして固着されていない被験化合物が直接または間接的に標識され得る。種々の適切な標識系のいずれかが用いられ得る。それらの例としては、放射性同位元素、例えば125Iおよび32P、ある物質および蛍光標識に曝露された場合に検出可能な比色定量シグナルまたは光を生じる酵素標識系が挙げられるが、これらに限定されない。本方法の別の実施態様では、固相上に固着されたDBDタンパク質が標識化抗体と複合体を形成する。その後、DBD/抗体複合体の会合を崩壊させるその能力に関して、被験化合物が検定され得る。
【0120】
実際問題として、微小滴定プレートは、固相として便利に利用され得る。固着構成成分は、非共有または共有結合により固定され得る。非共有結合は、タンパク質の溶液で固体表面を単に被覆し、乾燥することにより成し遂げられ得る。あるいは、固定化抗体、好ましくは固定されるタンパク質に特異的なモノクローナル抗体が、固体表面にタンパク質を固着するために用いられ得る。表面は、予め調製され、保存され得る。
【0121】
検定を実行するために、固着構成成分を含有する被覆表面に非固定化構成成分が付加される。反応完了後、生成されたあらゆる複合体が固体表面に固定されたままであるような条件下で、未反応構成成分が除去される(例えば洗浄により)。固体表面に固着された複合体の検出は、多数の方法により成し遂げられ得る。予備非固定化構成成分が前標識化される場合、表面に固定された標識の検出は、複合体が生成されたことを示す。予備非固定化構成成分が前標識化されない場合には、表面に固着された複合体を検出するために、例えば予備非固定化構成成分に特異的な標識化抗体を用いて、間接標識が用いられ得る(抗体は次に、標識化抗Ig抗体で直接的に標識されるか、または間接的に標識され得る)。
【0122】
他の実施態様では、結合は、直接または間接標識を使用せずに検出され得る。例えば、結合が起きた場合に変わる生物物理学的特性が検定され得る。このようなスクリーニングに特に有益である固体支持体系は、BIAcore2000系(BIAcore, Inc., Piscataway, NJから市販)である。BIAcore(商標)計器(http://www.biacore.com)は、表面プラスモン共鳴(SPR)の光学的現象を用いて、実時間での生物特異的相互作用を監視する。SPR効果は、本質的には、金属−液体界面での屈折率の局所的変化に影響される無限小電場である。センサーチップは、ガラスと検定される配位子またはタンパク質が化学的に連結されるカルボキシメチルデキストランマトリックスとの間の金フィルムのサンドイッチ状物から作製される。このセンサーチップは、分析物化合物がそれを通して注入され得るフローセルを形成する流体素子工学カートリッジ上に取り付けられる。センサーチップ上での配位子−分析物相互作用は、チップ表面から反射される偏光光線の角度の変化として検出される。チップとの任意の塊の結合は、金/デキストラン層中のSPRに影響を及ぼす。金層中の電場のこの変化は反射光線と相互作用して、結合した塊の量に比例して反射の角度を変える。反射光は、ダイオードアレイ上で検出されて、応答単位(RU)として表される結合シグナルに翻訳される。応答は結合された塊に直接比例するので、タンパク質−タンパク質相互作用に関する速度論的および平衡定数が測定され得る。
【0123】
あるいは、反応は液相で実行され、反応生成物が未反応構成成分から分離され、複合体が検出される。
b.p53ファミリーのタンパク質の配座の測定方法
p53のタンパク質の配座は、多数の異なる方法のいずれかで測定され得る。例えば、抗体は、p53DBDの配座をプローブするために用いられ得る。本発明の好ましい方法は、p53および/またはp53DBDの活性(例えば、DNA結合)または不活性(熱力学的不安定化、あるいはミスフォールド化またはアンフォールド化)配座に特異的であるモノクローナル抗体を用いる。例えば、p53DBD上のエピトープを認識するmAb1620は、p53タンパク質の腫瘍サプレッサー活性と密接に関連する(Ball et al., 1984, EMBO J. 3:1485-1491; Gamble et al., 1988, Virology 162:452-458)。したがって、mAb1620は、それが不活性配座をとる場合には、p53DBDを結合しない。逆に、mAb1620により認識されるエピトープは、p53が突然変異により不活性化されるかまたは野生型p53が変性される場合に、露呈される(Bartek et al., 1990, Oncogene 5, 893-899; Stephen et al., 1992, J. Mol. Biol. 225, 577-83)。配座特異的であることが知られているかまたはいずれは発見されるその他のモノクローナル抗体も、本発明の方法に用いられ得る。このような抗体は、高スループットスクリーンに容易に採用され得るために、有用である。モノクローナル抗体を含めた抗体の製造方法は、当業界で周知である。
【0124】
p53またはp53DBDのようなp53ファミリーのタンパク質の配座の他の測定方法としては、染料の吸収、分光分析的(例えば、円二色性、NMR)、サイズ排除クロマトグラフィー、超遠心分離、特異的DNA結合(例えば、低温と対照したものとして生理学的温度での)、および特異的タンパク質結合(例えば、SV40大型T抗原は、野生型活性配座とのみ結合し、不活性配座と結合しない)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
前記のように、一般的に遭遇するp53突然変異の多くは生理学的温度でDNAを結合できないが、しかし低温でDNAを結合する。したがって、被験化合物の存在下でのp53ファミリーのタンパク質の配座を測定する一局面は、温度依存性である。好ましくは、配座は、生理学的温度(約38℃)で測定される。適切な範囲は20℃〜50℃、さらに好ましくは35℃〜42℃である。標的タンパク質の配座はさらに、2〜3分から数時間までまたはそれ以上の時間に亘って測定され得る。野生型p53タンパク質またはp53DBDがスクリーニングに用いられる場合、加熱は一般に、突然変異体p53DBDが用いられる場合よりも長時間且つ高温で実施される。本明細書中で提供された情報を用いて、当業者は適切な温度を容易に決定し得る。
【0126】
さらに、化合物の結合と、p53ファミリーのタンパク質の配座のあらゆる変化とを同時に検定し得る。このような検定では、被験化合物の存在下でのp53ファミリーのタンパク質の配座の変化は、一ヒットとして点数をつけられる。p53DBDと相互作用して配座変化を引き起こす化合物に関して検定する高スループットスクリーニングは下記の例により説明されるが、それらに限定されない。これらの高スループットスクリーニングは、本発明の方法に用いるためのある種類の化合物を同定し得た。ほぼ生理学的温度で、これらの化合物は野生型および種々の突然変異体p53タンパク質上のmAb1620に対する配座感受性エピトープの安定性を増強した。低μmol濃度の化合物は、生存細胞内のエピトープの配座安定性を一時的に増強し、突然変異体p53が転写を活性化するのを可能にした。下記でさらに詳しく記載されるように、有機非ペプチド化合物は、突然変異体p53を有する腫瘍を保有するマウスに投与された場合、p53配座および機能を変調し、天然突然変異化p53を有するヒト腫瘍異種移植片の増殖を有意に阻害した。
【0127】
c.細胞ベースおよび動物ベースの検定
前記の一次スクリーン(単数または複数)を用いて候補化合物が同定されると、これらの系における候補化合物の作用を確定するために、細胞ベースおよび動物ベースの検定が一般に実行される。初期検定は、p53ファミリーのタンパク質をコードする突然変異体遺伝子を有する腫瘍由来の細胞株、またはp53ファミリーの突然変異体タンパク質を発現するよう操作された細胞株を包含し得る。p53ファミリーのタンパク質の野生型活性のいずれか(またはすべて)に及ぼす候補化合物の作用が査定される。例えば、候補化合物の存在下でのWAF1の誘導は、無差別的結合特性というよりむしろ特異的DNA結合特性を促進することにより、化合物は突然変異体p53中に機能を保存することを示す。p53またはp53ファミリーのその他の成員により上向き調節されるかまたは下向き調節された任意の遺伝子が検査され得る。p53ファミリーのタンパク質のその他の活性としては、増殖抑制およびアポトーシスが挙げられる。増殖抑制は、顕微鏡的にまたはコロニー形成検定により、組織培養細胞で容易に査定される。アポトーシスは、TUNEL染色またはpropidium iodide染色およびフローサイトメトリーにより可視化され得る。
【0128】
さらに、動物ベースのモデルは、候補化合物の毒性および有効性の両方に関してスクリーニングするために用いられ得る。例えば、突然変異体p53を有する腫瘍がある動物モデルで誘導され、候補化合物が動物に投与される。毒性および腫瘍増殖または後退が査定される。このようなスクリーニングの作業例を以下に提示する。
【0129】
3.スクリーニングのための化合物の供給源
本発明にしたがってスクリーニングされ得る化合物としては、細胞中に入って、p53ファミリーのタンパク質の活性に影響を及ぼし得る小型有機分子が挙げられるが、これらに限定されない。2〜3の供給元の名前を挙げると、例えばPharmacia、Arqule、Enzymed、Sigma、Aldrich、Maybridge、TregaおよびPanLabsといった会社から、多数の化合物ライブラリーが市販されている。p53DBDと相互作用する化合物に関して、天然物質または合成化学物質を含めた既知の化合物、ならびにタンパク質を含めた生物学的活性物質のライブラリーもスクリーニングし得る。しかしながら、好ましい化合物は、タンパク質またはペプチド(即ち、ペプチド結合により連結される3個またはそれ以上の一続きのアミノ酸)でない。抗体は、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンの断片を結合する抗原であるペプチドである。好ましい化合物は、抗体でもない。本発明の方法に用いるための化合物の特定の種類および例を以下に説明する。
【0130】
p53ファミリーのタンパク質の野生型活性を促進する化合物が同定されれば、分子モデリング技法を用いて、より有効な化合物の変異体を設計し得る。分子モデリング系の例は、CHARM(Polygen Corporation, Waltham, MA)およびQUANTAプログラム(Molecular Simulations Inc., San Diego, CA)である。CHARMはエネルギー最小化および分子動力学機能を実施する。QUANTAは、相互の分子の行動の相互作用構築、修飾、可視化および分析を可能にする。
【0131】
例えば、p53ファミリーのタンパク質の野生型活性を促進する化合物が同定されれば、その化合物を用いて、仮説を立て得る。以下でさらに詳述するように、好ましい仮説は、平面多環式疎水性基は、極性アミンから約5〜9オングストローム、さらに好ましくは6〜8オングストロームの間隔を置いたというものである。このような仮説は、プログラムCatalyst(Molecular Simulations Inc., San Diego, CA)を用いて、本発明の化合物のいずれかからもたらされ得る。さらに、Catalystは、その仮説を用いて、所有権データベース、Cambridge小型分子データベース(Cambridge, England)、ならびに上記のその他のデータベースを検索して、本発明の化合物のさらに別の例を同定し得る。
【0132】
本発明の化合物は、Ludi、Insight II、C2-Minimizer and Affinity(Molecular Simulations Inc., San Diego, CA)のようなモデリングパッケージを用いてより有効な変異体を設計するためにさらに用いられ得る。特に好ましいモデリングパッケージは、MacroModel(Columbia University, NY, NY)である。
本発明の化合物はさらに、理論的組合せライブラリーを開発するための基礎として用いられ得る。組合せライブラリーの性質はライブラリーの基礎を形成するために本発明の好ましい化合物から選定される特定の化合物、および樹脂を用いてライブラリーを合成したいという要求のような因子によっているが、しかし、本発明の化合物はC2−QSAR(Molecular Simulations Inc., San Diego, CA)のような組合せ設計プログラムに適した必要なデータを提供する、と認識される。
【実施例】
【0133】
本発明を説明してきたが、以下の実施例により本発明をさらに説明する。本発明はこれらに限定されない。
VI.実施例1:p53DBD熱安定化検定
野生型p53DBDを用いた高スループット検定を開発した。本検定を用いて薬理学的化合物をスクリーニングし、DBDの活性配座を安定化するそれらの化合物をヒットとして点数をつけた。
【0134】
A.材料および方法
熱安定化検定. 野生型および突然変異体p53タンパク質からの組換えDBD(残基94〜312)およびFLAG−タグ化p53DBDを記載通りに調製した(Pavletich et al., 1993, Genes and Dev. 7, 2556-2564; Bullock et al., 1997、上記)。用いた突然変異体タンパク質は、143A、173A、175S、249Sおよび273Hであった。多数の小型分子有機化合物を試験した。化合物ストックを10 mg/mlでDMSO中に溶解し、使用前に稀釈した。25 mMHEPES、pH6.8、150 mMKCl、10 mMジチオトレイトールを含有する緩衝液中に、タンパク質(0.25〜1.0 ng/ウエル)を稀釈し、氷上で35分間、50 ul中でReacti-Bind微小滴定プレート(Pierce)にくっつけた。ウエルを25 mMHEPES、pH6.8、150 mMKClですすぎ、化合物または稀釈DMSOビヒクルを付加し、プレートを指定温度でインキュベートした。氷上にウエルを置くことによりインキュベーションを終結させた。エピトープがそれ以上変化しないようにするために、氷上にプレートを保持しながら、ELISA検定を実施した。第一抗体の付加前に、HEPES/KCl緩衝液中の冷5%スキムミルク(Difco)でウエルを1時間遮断した。モノクローナル抗体mAb1620、mAb240(Calbiochem)および抗−FLAG M2抗体(Eastman Kodak Company)をHEPES/KCl中で1:100〜1:250で稀釈し、100 ul/ウエルで30分間付加した。プレートを冷HEPES/KCl緩衝液で2回すすぎ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)−共役抗マウスIgG(Boehringer Mannheim)とともにさらに30分間インキュベートした。TMB展開剤(Pierce)を用いてHRPシグナルを発現させ、シグナルの光学密度を、450 nmに設定したBioRadマイクロプレート読取器で読み取った。
【0135】
B.結果
p53DBDの配座は熱不安定性である. mAb1620により認識されるエピトープは配座依存性であり、p53上のその存在はタンパク質の腫瘍サプレッサー活性と密接に関連する(Ball et al., 1984,上記; Gamble and Milner,1988、上記)。逆に、mAb240により認識されるエピトープは、p53が突然変異により不活性化されるかまたは野生型p53が変性される場合に、露呈される線状エピトープである(Bartek et al., 1990, Oncogene 5, 893-899; Stephen et al., 1992, J. Mol. Biol. 225, 577-583)。組換えヒトp53DBD(残基94〜312)はin vitroで活性配座から不活性配座への遷移を経て、240エピトープを蓄積しながら1620エピトープを次第に失う。微小滴定プレート上に固定された精製p53DBDを生理学適温度近くに加熱して、ELISAフォーマットでmAb1620を用いてプローブした。1620エピトープは、温度および時間依存性方式で損失された(図1A)。1620エピトープの損失は、DBDに結合されたFLAGエピトープが依然として十分に安定であるために、配座の損失に特異的に関連した(図1B)。さらに、1620エピトープの損失は240エピトープの出現増強と共同して起こったが、これは1620エピトープの損失がp53DBDの配座的変化を反映し、固定化タンパク質の損失はそうではないことを確実にする。
【0136】
野生型p53DBD上の1620エピトープの半減期は23℃で約35分であって、高温では漸増的に減少し、45℃では5分未満になった(図1A)。平行して、ゲルシフト検定におけるp53DBDのDNA結合能力は、溶液中で加熱時に低減された(データは示されていない)。野生型p53DBD上の1620エピトープの半減期は、37℃で位置143突然変異体DBDの場合の約2倍であった(図1C)。この知見は、いくつかのその他の突然変異体p53タンパク質に関する熱力学的安定性低減についての以前の報告と一致し、1620エピトープがp53DBDの配座をモニタリングするために利用され得ることを確定する(Bullock et al., 1997、上記)。
【0137】
化合物はp53配座を安定化する. ELISA検定を用いて、活性p53配座を安定化し、突然変異体タンパク質に野生型機能をより良好に保持させる化合物を同定した。いくつかの化合物は、生理学的温度でのmAb1620に対するエピトープの損失を抑制した(例えば、図2A参照)。mAb1620に対するエピトープの50%を安定化するのに必要な濃度を測定することにより、滴定実験において、化合物の相対能力を確定した。活性化合物は、用量依存的方法でエピトープを安定化した(図2B)。DMSO溶媒および活性化合物のいくつかの類似体は、安定化することができなかった(図2B。表1および2参照)。いくつかの突然変異体p53タンパク質からのDBDと同様に、全長野生型p53も安定化された(データは示されていない。図2C)。化合物の存在下では、突然変異体タンパク質は、化合物の非存在下での野生型タンパク質と同様に安定であった。
【0138】
化合物はmAb1620に対するエピトープを保存したが、しかしそれらは、エピトープをすでに失っていたp53を救援しなかった。例えば、化合物Yの付加前にp53DBDを加熱した場合、mAb1620反応性の増大は認められなかった。エピトープ損失速度は存在する化合物に伴って低減されたが、しかし長期加熱は1620−陽性配座の結果的損失を引き起こした。さらに、37℃でのインキュベーション前の化合物Yの付加および洗い落としたがってエピトープの損失を妨げなかったために、化合物はp53と非可逆的に結合するとは思われなかった(データは示されていない)。これらの知見は、p53DBDと化合物との相互作用がタンパク質に、mAb1620により認識されるような機能的配座をより安定的に保持させるモデルと一致する。
【0139】
活性化合物の構造. 同定された活性化合物はすべて、特定長のリンカーにより疎水性基(平面多環式)および陽イオン性基(しばしばアミン)と一緒に結合する。疎水性(R1)位置のベンズイミダゾール、ベンゾキノリン、フェノチアジンおよびスチリルキナゾリンは活性であったが、一方、これらの基および単一二環式または一環式基における微妙な変化は試験した特殊条件下では活性でなかった(表1)。mAb1620に対するエピトープの50%を安定化するのに必要な量の化合物の2つの適合対(表1参照)間に10倍より大きい差が認められた場合に、化合物は、この検定において「活性」であると称された。したがって、本検定により不活性と称された化合物は絶対的に不活性であるというわけではなく、相対的に不活性であるだけであることに留意すべきである。したがって、活性陽イオン性(R2)基としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、メチルアミン、メチルピペラジンおよびモルホリンが挙げられた(表1)。ある種の大型アミンは、フェノチアジンシリーズで試験した場合、相対的により活性であった。R2位置の負荷電または非荷電基、例えばカルボキシルまたはベンゼン基は、本検定で明示したように、不活性であった(表1)。R1およびR2基間の間隔も、プロピル長より短いリンカーが相対的化合物活性を低減する場合、本検定における化合物活性にとって重要であった(下記の表2参照)。ブチルリンカーはプロピルリンカーよりわずかに低効力であったが、一方、本検定において低活性を示した化合物ではより長いリンカーが観察された(表2。データは示されていない)。的確な距離を保持する分枝鎖リンカーは一般に、対応する線状リンカーより活性であった。これらの一般的観察は本発明の範囲を限定しないが、しかし、さらなる分子を設計するための本発明の実施に用いられ得る。
【0140】
【表1】
【0141】
滴定実験において、mAb1620に対するエピトープの50%を安定化するのに必要な化合物の量により、相対的効力を確定した。
【0142】
【表2】
【0143】
C.考察
結果は、突然変異体p53機能の回復、ならびに抗癌療法の開発のための新規の戦略のための原理の証拠を実証する。本実施例は、単離DBDに作用してその配座安定性を促進し得る化合物の第一ファミリーの発見を報告する。
VII.実施例2:細胞および腫瘍中のp53配座の確定
本実施例および以下の実施例では、低μモル濃度で機能して生きた細胞中および腫瘍中の突然変異体p53を変調し、天然突然変異化p53を有する腫瘍の増殖を抑制する原型化合物を示す。
【0144】
A.材料および方法
細胞培養. ATCCから全細胞株を入手し、10%ウシ胎仔血清(Gibco BRL)を含有する推奨培地中で増殖させた。
p53配座の確定. 約1 x 10H1299/レポーター+突然変異体p53細胞を一夜処理し、冷トリス緩衝化食塩水で3回すすぎ、1.5 mlの低張溶解緩衝液(20 mMHEPES、pH7.4、10 mMNaCl、20%グリセロール、0.2 mMEDTA、0.1%トリトン−X100、10 mMジチオトレイトール、プロテアーゼ阻害剤含有)中で溶解した。2000 rpmで、4℃で5分間、細胞を微小遠心管中でペレット化し、0.5 MNaClを含有する同一緩衝液中にペレットを再懸濁することにより核抽出物を調製した。0.5 MNaClを含有する前記の緩衝液3容積を用いて、Dounceホモジナイザー中で腫瘍試料を均質化した。10,000 rpmで4℃で10分間の遠心分離により、溶解物を透明にした。mAbDO−1抗体を用いてウエスタンブロットから定量されるようなp53含量に関して、核抽出物を標準化し、0.05 Mの炭酸塩緩衝液、pH9.6中に1 ug/mlでのmAbDO−1で4℃で一夜被覆されていたMaxiSorp F96プレート(Nunc)のウエル上にp53を捕獲した。冷PBSでウエルを洗浄し、PBS中の4%スキムミルクを用いて4℃で3時間、遮断し、スキムミルク中のHRP−共役化mAb1620抗体を用いてプローブした。抗体インキュベーションは氷上で1時間であって、その後、0.05%トゥイーン20を含有するPBS中でウエルを3回洗浄し、TMB基質を用いてシグナルを発現させた。大量の1620−陽性p53を発現した温度シフト化(32℃)H1299/レポーター+突然変異体p53細胞からの溶解物を用いて、標準曲線を確立した。試料の定量は標準曲線の線状範囲内であり、各試料中の総p53に関して、ならびに未処理溶解物中の1620−陽性p53分画に関して補正した。
【0145】
B.結果
細胞中の配座の安定化. 細胞性p53の1620−陽性配座を安定化する化合物の能力を、専ら突然変異体p53を発現する生きた細胞を用いて試験した。p53を有さないH1299細胞を腫瘍由来突然変異体p53(位置173)を用いてトランスフェクトし、非配座感受性p53抗体(mAbDO−1)をウエスタンブロットに用いて、十分量の突然変異体タンパク質を発現するクローンを選択した。mAb1620に対するエピトープを表示する低定常状態レベルのp53をトランスフェクタントからの抽出物中に検出して、突然変異体p53の小分画が活性配座を保持し得ることを確証した(Chen et al., 1993, Oncogene 8, 2159-2166)。低μモル濃度の化合物Xは、細胞中の1620陽性p53の定常状態分画を約5倍増大した(図3A)。処置後4〜6時間で、最大レベルのエピトープ濃縮を達成した。タンパク質のアミノ末端に位置する非配座感受性エピトープに対して向けられるmAbDO−1との反応性により測定した場合、p53の総量は変わらなかった。
【0146】
C.考察
結果は、本発明の方法により同定された配座安定化化合物が生きた細胞中のp53の活性配座を安定化し得ることを示す。腫瘍中の突然変異体p53を回復する化合物は、全非機能的p53プールまたはmAb1620に対するエピトープを表示するp53のサブセットを標的にし得る。本明細書中に記載した化合物に関する重要な標的は、活性配座を依然として保持する新規合成突然変異体p53であると思われる。実際、化合物は1620エピトープの存続を増強したが、しかしin vitro予備加熱のために損失された1620エピトープを回復することはできなかった。新規合成p53における活性配座の安定性を増強する化合物は、時間依存的方法で機能的p53の定常状態レベルの蓄積を可能にし得る。細胞中の最大1620エピトープ増強の達成に関して観察された4時間遅延は、この仮説と一致する(図3A)。
【0147】
VIII.実施例3:p53機能の回復
A.材料と方法
トランス活性化検定. DOTAP陽イオン性脂質トランスフェクション試薬(Boehringer Mannheim)またはリン酸カルシウムを用いて突然変異体p53タンパク質(173A、249S)をコードする発現プラスミドおよびネオマイシン選択性マーカーで細胞をトランスフェクトした。ヒグロマイシン耐性マーカーをコードするプラスミド、およびルシフェラーゼ遺伝子を誘導するSV40基本プロモーターの上流に置かれる単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(GenBank寄託番号S57428チミジンキナーゼの塩基番号26〜58。これは配列GCCTTGCCTで開始して、配列TGCCTTTTCで終結する)のプロモーター領域におけるp53結合配列の4つのコピーから成るp53レポーター遺伝子でも、細胞をトランスフェクトした。突然変異体p53発現のための付加的構築物を有するレポーター構築物で細胞のクローンをトランスフェクトすることにより、適合細胞対を調製した。適宜、ヒグロマイシンまたはG418を含有する培地中での増殖に関して、トランスフェクト化クローンを選択した。96ウエル組織培養プレート(Costar)中の単層細胞を化合物で処理し、基質転換検定(Promega)を用いてルシフェラーゼ活性を測定し、Dynatechマイクロプレートルミノメーターで定量した。
【0148】
WAF1およびp53発現. 培養細胞を21時間処理し、冷トリス緩衝化食塩水で3回すすぎ、掻き取って、10,000 rpmで30秒間ペレット化した後、50 mMHEPES、pH7.5、0.1%NP−40、250 mMNaCl、5 mMEDTA、50 mMNaF、1 mMDTT、50 ug/mlアプロチニン、1 mg/mlPefabloc(Boehringer Mannheim)中にそれらを再懸濁した。Bradford試薬(BioRad)を用いてタンパク質濃度を確定し、5または10 ugの細胞溶解物を8〜16%勾配ポリアクリルアミド/SDSゲル(Novex)上に載せた。20%メタノールを含有するTowbin緩衝液(Towbin et al., 1979, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76, 4350)中のImmobilon P膜(Millipore)上に、タンパク質を移した。32.547.5 kDa分子量マーカー間で膜を二分して、SuperBlock(Pierce)+3%スキムミルク中で、室温で1時間遮断した。モノクローナル抗体クローンEA10(CalbiochemWAF1 Ab−1)を用いてWAF1発現に関してブロットの底半分をプローブし、mAbDO−1(Calbiochemp53Ab−6)を用いて全p53発現に関してブロットの上半分をプローブした。0.1%トゥイーン20を含有するトリス緩衝化食塩水を3回取り換えてブロットを1時間洗浄した後、第二抗体HRP共役抗マウスIgGを付加した。ルネッサンスECL(DuPont)を用いて帯域を可視化し、ハイパーフィルムECL(Amersham Life Science)に曝露した。
【0149】
B.結果
細胞中のp53機能の回復. p53配座の安定化が野生型機能の良好な保持を生じたか否かを確定するために、p53の配列特異的転写活性を調べた。H1299細胞をp53誘導性ルシフェラーゼレポーター遺伝子でトランスフェクトし、安定クローン(H1299/レポーター)を突然変異体p53で補佐的にトランスフェクトして、レポーター遺伝子と位置173突然変異体p53の両方を発現する適合クローン(H1299/レポーター+突然変異体p53)を得た。レポーター遺伝子誘導により測定した場合、化合物は、突然変異体p53の転写活性を増強した(図3B)。H1299/レポーター細胞中で低レベルの転写活性化が観察されたが、これは、p53相同体であるp73の存在によると思われる(データは示されていない)。これらの化合物がp73活性を増強し得るか否かを我々は未だ確定していないが、しかしレポーター遺伝子誘導における広範なp53依存性増大は、p53がこれらの細胞中での第一標的であることを示唆する。高用量での化合物の有効性は細胞剥離により制限されたので、レポーター遺伝子のp53依存性活性化は相対的に小濃度範囲で起きた。転写活性の増強は、処理後12〜16時間でピークを生じた(データは示されていない)。この観察は、処理後4〜6時間目に起きた機能的p53配座の安定化御の派生的事象として生じるレポーター遺伝子発現と一致する。
【0150】
化合物Yは、レポーター遺伝子誘導検定においては、化合物Xより優れていた。これは、DNA損傷を包含して、p53タンパク質のレベル上昇をもたらす化合物Yの二次作用によるものと思われる(図3B)。化合物Yは、細胞活性に必要な濃度で全p53タンパク質レベルを増強したが、化合物Xは増強しなかった。DNA損傷が単に化合物Yによるp53レポーター遺伝子誘導に寄与するだけではないことを保証するために、DNA損傷剤アドリアマイシンの作用を試験した。アドリアマイシンは、細胞中での突然変異体p53蓄積を誘導するその能力にもかかわらず、広範囲の濃度(0.4〜40 ug/ml)内でレポーター遺伝子を誘導しなかった(データは示されていない)。これらの結果は、突然変異体p53の蓄積ではなく、配座安定化が、特異的転写活性を促進し得る、ということを実証する。特に、全p53タンパク質の定常状態レベルを上げない化合物Xは、配座安定化により独自にp53転写機能を回復すると思われる。
【0151】
化合物Xは、突然変異体p53の存在下で、p53応答性細胞遺伝子生成物であるWAF1を上向き調節した。p53を発現しないSaos-2骨肉腫細胞を突然変異体p53発現ベクターでトランスフェクトして、2つの突然変異体(位置173または位置249)のいずれかを発現するクローンを単離した。クローンは、親Saos-2細胞と比較した場合、より低い基本レベルのWAF1を発現したが、これは、迅速増殖クローンを我々が選択したことを反映するものと思われる。これらの細胞を化合物Xで16時間処理し、等量のタンパク質を示す溶解物を、p53およびWAF1に関してウエスタンブロットで分析した。2つの突然変異体p53タンパク質のいずれかを発現した細胞は、処理時にWAF1の発現レベルの上昇を示したが、親Saos-2細胞は示さなかった(図4)。これらの溶解物中のp53タンパク質の総量は、本質的には変わらなかった。アドリアマイシンは突然変異体p53を有するSaos-2細胞中でのWAF−1発現を誘導しなかったが、しかし野生型p53を発現するU2OS細胞中でのWAF−1発現を上昇させた(データは示されていない)。
【0152】
C.考察
本明細書中に記載した配座安定化剤の作用様式は、伝統的細胞傷害性抗新生物剤に関して観察されたものとは明らかに異なる。癌の化学療法に用いられる細胞障害剤は一般に、突然変異体p53を有する細胞では無効である(Lowe et al., 1993, Nature 362, 847-849; O'Connor et al., 1997, Cancer Res. 57, 4285-4300)。実際、DNA損傷剤であるアドリアマイシンは、我々の検定において、転写活性に関して突然変異体p53を回復しなかった。細胞傷害性化合物は、正常および腫瘍細胞中での総p53タンパク質の顕著な誘導によっても検証される。化合物Xは細胞中または腫瘍中の総p53タンパク質レベルを誘導しなかった。p53誘導は細胞DNA損傷の高感度測定であるので、化合物Xが有効濃度でDNAを損傷し得るとは思われない。合わせて考えると、我々の知見は、1620陽性配座の安定化および突然変異体p53活性の機能的回復がDNA損傷非依存性メカニズムにより起こり得る、ということを示す。
【0153】
数通りの証拠が、タンパク質安定化に及ぼす非特異的作用を排除する。水を置換し、タンパク質分子周囲のより疎水性の微小環境を作ることにより機能するタンパク質変性の非特異的阻害剤であるグリセロールは、600 mMの濃度で細胞中の突然変異体マウスp53の核局在化を回復し得る(Brown et al., 1997, J. Clin. Invest. 99, 1432-1444)。化合物Xは、本検定においては0.03 mMで活性であったが、これは、化合物とp53との間の特異的接触を包含する非常に緻密な相互作用を示唆する(データは示されていない)。さらに、化合物Xが培養中およびin vivoで非常に過剰量の他のタンパク質の存在下でp53配座に影響を及ぼし得るという観察(下記参照)は、p53の選択的認識と一致する。さらに、p53との化合物相互作用の性質は、ネイティブタンパク質構造との密接な結合を包含しない。遷移状態のタンパク質分子の小サブセットとの強い相互作用は、活性配座からの逸脱を遮断するか、またはネイティブ配座への方向転換を促進するよう機能し得る。
【0154】
IX.実施例4:腫瘍増殖検定
A.材料と方法
腫瘍増殖検定. 培養細胞をPBSですすぎ、1 x 106A375.S2または5 x 106DLD1細胞を90%Matrigel(Becton Dickinson)中で、20 gの雌NU/NU−nuBRマウス(Charles River Laboratories)の片方の右脇腹に接種した。0.1%プルロニックP−105(BASF)を含有する生理食塩溶液中で、化合物Xを腹腔内投与した。カリパスを用いて腫瘍直径を二次元で測定し、腫瘍容積に変換した(Euhus et al., 1986, J. Surg. Oncol. 31, 229-234)。
【0155】
B.結果
in vivoでのp53の変調. 化合物Xは、突然変異化p53を有する腫瘍中のmAb1620に対するエピトープを表示するp53分画の定常状態レベルを増強した。注入H1299/レポーター+突然変異体p53細胞由来の皮下腫瘍を保有するマウスに、化合物を100 mg/Kgで腹腔内投与した。化合物の1回投与後に動物を屠殺し、総および1620-陽性p53発現に関して、腫瘍溶解物を分析した。総p53レベルは、mAbDO−1を用いたウエスタンブロットで測定した場合、変化がなかった。総p53含量の小変動に対して溶解物を標準化して、mAb1620に対するエピトープの発現に関してELISA検定で試験した。エピトープは、処理後3〜5時間内に増大された(図5)。in vivo応答の時間経過は、培養細胞の場合と同様であった(図3A)。
【0156】
in vivo突然変異体p53の機能的回復を評価するために、処置および未処置動物からの腫瘍中のルシフェラーゼレポーター遺伝子の発現を我々は査定した。投薬後8時間目に、最大4.5倍のレポーター遺伝子誘導が観察された(図5)。配座的および機能的応答間のタイムラグは、ルシフェラーゼ転写体の翻訳およびタンパク質の蓄積にようする時間を反映し得る。マウスにおける化合物のピーク血漿濃度は10 ug/mlであったが、これは細胞中のレポーター遺伝子の最大誘導に必要なものより低かった(データは示されていない)。したがって、培養細胞と比較して、腫瘍中のより低レベルのレポーター遺伝子誘導は、次善の曝露によると思われる。
【0157】
C.考察
結果は、配座安定化化合物が多数の無作為選定突然変異体を機能的に回復し得る、ということを示す。したがって、本発明の方法および化合物は、異なるp53突然変異体に広範に適用可能である。例えば、小DNA接触部位に影響を及ぼすDLD−1細胞中の位置241突然変異は、化合物Xの安定化活性により機能的に補足され得る。したがって、DNA接触部位のいくつかを含めた非常に多数のp53突然変異体は、活性配座の安定化時に回復され得る。
【0158】
化合物Xは、in vitroで野生型および突然変異体p53の両方の配座を安定化するにもかかわらず、in vivoで治療的選択性を実証した。実際、本化合物は安全であると思われたし、マウスに200 mg/kg/日(100 mg/kg/1日2回)で14連続日投与した場合に、脂肪は観察されなかった(データは示されていない)。選択性は、腫瘍細胞中での非常に高いレベルと比較した場合の、正常細胞中のp53の非常に低い定常状態レベルによるものと思われる(Lassus et al., 1996, EMBO J. 15, 4566-4573)。さらに、腫瘍特異的ストレス、例えばDNA病変および酸素または栄養素欠乏は、p53のアポトーシス作用に対して腫瘍細胞を優先的に導き得る(Chen et al., 1996, Genes and Dev. 10, 2438-2451)。そのような場合、p53安定化化合物を放射線または遺伝子傷害性療法と組合せることにより、共働的抗腫瘍作用を成し遂げ得る。
【0159】
前記の明細書は、当業者が本発明を実施し得るに十分である。実際、分子生物学、医学または関連分野の当業者に明らかである本発明の実行のための前記の手段の種々の修正は、以下の特許請求の範囲内であるよう意図される。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1A】p53DBD上の配座依存性エピトープの変調 p53DBDを微小滴定ウエル中で固定し、高温でインキュベートした。ELISA検定は、氷上に保持された対照ウエルと比較した場合の、加熱ウエル中に残存するmAb1620に対するエピトープのパーセントを確定した。0.5 ngの野生型p53DBDをインキュベートした。mAb1620に対する残存エピトープは、非加熱対照のパーセントとして示される。標準偏差は<10%であった。
【図1B】p53DBD上の配座依存性エピトープの変調 p53DBDを微小滴定ウエル中で固定し、高温でインキュベートした。ELISA検定は、氷上に保持された対照ウエルと比較した場合の、加熱ウエル中に残存するmAb1620に対するエピトープのパーセントを確定した。1.25 ngのFLAGタグ化p53DBDを固定し、45℃で加熱して、抗FLAG、mAb1620およびmAb240に対する残存エピトープを非加熱対照のパーセントとして示した。
【図1C】p53DBD上の配座依存性エピトープの変調 p53DBDを微小滴定ウエル中で固定し、高温でインキュベートした。ELISA検定は、氷上に保持された対照ウエルと比較した場合の、加熱ウエル中に残存するmAb1620に対するエピトープのパーセントを確定した。mAb1620に対するほぼ等レベルのエピトープを示した1.0 ngの野生型および位置143突然変異体p53DBDを37℃で加熱し、エピトープの安定性を非加熱対照のパーセントとして監視した。誤差バーは、4つの反復実験に関する標準偏差である。
【図2A】突然変異体p53DBD上の1620エピトープの安定化 p53の配座安定性を促進する化合物X、化合物Yおよび化合物Zと呼ばれる代表的化合物。
【図2B】突然変異体p53DBD上の1620エピトープの安定化 1 ngの野生型p53DBDを固定し、化合物または等価濃度のDMSOビヒクルの存在下で45℃で30分間加熱した。mAb1620に対する残存エピトープは、非加熱対照のパーセントとして示される。
【図2C】突然変異体p53DBD上の1620エピトープの安定化 mAb1620に対するほぼ同レベルのエピトープを有する野生型および突然変異体p53DBD調製物を固定し、化合物またはビヒクルの存在下で37℃で30分間加熱した。mAb1620に対する残存エピトープは、非加熱対照のパーセントとして示される。誤差バーは、4つの反復実験に関する標準偏差である。
【図3A】突然変異体p53を有する細胞中のp53配座および転写活性の変調 位置173突然変異体p53を発現したH1299トランスフェクタントを培養中で16.5 ug/mlの化合物Xで処理した。panp53抗体、mAbDO−1を用いたウエスタンブロットを用いて、全p53タンパク質中の小変異に関して、細胞溶解物を標準化し、mAb1620に対するエピトープを示すp53の量をELISA検定で確定した。1620陽性p53分画における増大を、未処理細胞中の1620陽性p53の分画に対して補正した。
【図3B】突然変異体p53を有する細胞中のp53配座および転写活性の変調 H1299トランスフェクタントをルシフェラーゼレポーター遺伝子(H1299/レポーター)とまたはレポーター遺伝子と適合させて、位置173突然変異体p53(H1299/レポーター+突然変異体p53)を微小滴定ウエル中で16時間処理した。野生型p53機能を示すルシフェラーゼレポーター遺伝子の誘導化発現を、化合物の非存在下での基礎レベルの発現に対して補正した。値は、4つの反復実験の平均を表す。
【図3C】突然変異体p53を有する細胞中のp53配座および転写活性の変調 H1299トランスフェクタントをルシフェラーゼレポーター遺伝子(H1299/レポーター)とまたはレポーター遺伝子と適合させて、位置173突然変異体p53(H1299/レポーター+突然変異体p53)を微小滴定ウエル中で16時間処理した。野生型p53機能を示すルシフェラーゼレポーター遺伝子の誘導化発現を、化合物の非存在下での基礎レベルの発現に対して補正した。値は、4つの反復実験の平均を表す。
【図4】突然変異体p53を有する細胞中のWAF1発現の誘導 トランスフェクト化突然変異体p53タンパク質(位置173または位置249)を発現するSaos−2細胞を、16.5 ug/mlの化合物Xを含有する培養中で16時間処理した。細胞溶解物を全タンパク質に関して標準化し、ウエスタンブロットで分析した。ブロットの上部を全p53に関してmAbDO−1でプローブし、同一ブロットの底部をWAF1に向けられる抗体でプローブした。
【図5】腫瘍におけるp53配座安定性および機能の促進 H1299/レポーター+突然変異体p53細胞由来の皮下腫瘍を保有するマウスに、化合物Xの100 mg/kg腹腔内注射を1回施して、mAbDO−1を用いたウエスタンブロットの濃度計走査を基礎にして、全p53含量に関して二つの腫瘍溶解物を標準化した。mAb1620に対するエピトープを示すp53の量をELISA検定で確定し、1620陽性p53分画における増大を、非処置腫瘍からの溶解物中の1620陽性p53の分画に対して補正した。p53転写活性の増強を査定するために、ルシフェラーゼ発現に関しても腫瘍溶解物を分析した。タンパク質濃度に関してルシフェラーゼ発現を標準化し、非処置腫瘍からの溶解物と比較した。
【図6A】突然変異化p53を発現する腫瘍異種移植片の抑制 マウスに腫瘍細胞を接種し、指示されたような化合物Xまたはビヒクルの腹腔内注射により処置した。化合物を、1日1回(q.d.)または12時間間隔(b.i.d.)で7日間投与した。ビヒクル処置マウスには、12時間間隔で注射を施した。二次元での腫瘍直径測定により腫瘍容積を確定し、各群の5〜7匹に関して平均を出した。点線は、処置を開始した場合の初期腫瘍容積を表す。
【図6B】突然変異化p53を発現する腫瘍異種移植片の抑制 マウスに腫瘍細胞を接種し、指示されたような化合物Xまたはビヒクルの腹腔内注射により処置した。化合物を、1日1回(q.d.)または12時間間隔(b.i.d.)で7日間投与した。ビヒクル処置マウスには、12時間間隔で注射を施した。二次元での腫瘍直径測定により腫瘍容積を確定し、各群の5〜7匹に関して平均を出した。点線は、処置を開始した場合の初期腫瘍容積を表す。
【技術分野】
【0001】
I.産業上の利用分野
本発明は、癌治療の分野にある。本発明は、p53ファミリーの腫瘍サプレッサータンパク質と相互作用し、そこでの機能的配座を安定化し得る有機非ペプチド化合物を提供する。本発明は、このようなタンパク質の機能的能力を矯正することが癌に対する治療を促進し得る患者における腫瘍サプレッサータンパク質の突然変異体形態を安定化するために特に適用可能である。このような化合物に関するスクリーニング方法も提供される。
【背景技術】
【0002】
II.発明の背景
本発明の主構造は、一緒に連結されてタンパク質のポリペプチド鎖(単数または複数)を形成するアミノ酸構築ブロックの特定の配列である。これらのポリペプチド鎖は次に、三次元構造に折り畳まれる。多数の種々の疾患は、細胞タンパク質の三次元構造の配座摂動から起きる、と目下考えられている(再検討のためには、Thomas et al., 1995, TIBS 20:456-459; Carrell et al., 1997, Lancet 350:134-138参照)。例えば、アルツハイマー病は、β−アミロイドタンパク質のミスフォールディングおよびその後の凝集により引き起こされて、細胞機能の損傷をもたらす。同様に、クロイツフェルト−ヤーコブ病に関する病原因子であるプリオンは、連鎖反応を開始して、正常プリオンタンパク質をミスフォールドプリオンタンパク質に転換することにより疾患を引き起こすと考えられる。
【0003】
異常配座を取り入れるタンパク質は、それらが内在的にミスフォールディングを受けやすいために、またはそれらが、野生型タンパク質と比較して突然変異体タンパク質を熱力学的に不安定にする突然変異を有するために、そうし得る。疾患を引き起こすミスセンス変異の最初の例は、腫瘍サプレッサータンパク質p53である。
【0004】
野生型p53は、細胞周期、アポトーシスおよび新脈管形成における多重経路を協調的に制御するための転写調節因子として機能する。細胞ストレス、例えばDNA損傷、有糸分裂紡錘体ミスアッセンブリーおよび低酸素症を監視する細胞経路はすべて、p53に収斂するように見える。p53の損失は、罹患細胞および腫瘍増殖の非制御化増殖をもたらし得る。p53活性の損失は、それ自体、癌性細胞に細胞を形質転換するための引き金であり得るし、そうでないこともあるが、しかし、検出可能な癌は、p53突然変異を有するヒトにおいてより一般的であり、そして増殖するようである。実際、p53の突然変異体は、癌における最も一般的な遺伝子異常である。
【0005】
近年、p53と相同を有する2つの付加的タンパク質、p73およびp63が同定された(再検討のためには、Kaelin, 1999, J. Natl. Cancer Inst. 91:594-598参照;Yang et al., 1998, Molecular Cell 2(3):305-16;およびYoshikawa et al., 1999, Oncogene18(22):3415-21も参照)。p51は、p40、p51、KETまたはp73Lとも呼ばれてきた。これらのタンパク質はp53とアミノ酸配列相同を共有するだけでなく、それらはp53応答性プロモーターを活性化し、アポトーシスを誘導し得る。さらに、これらのタンパク質をコードする遺伝子は、p53と先祖が関連があると思われる。したがって、同様の機能および関連アミノ酸配列を有するタンパク質関連p53の当業界で認識されたファミリーが存在する。
【0006】
p53は、3つの別々の機能的ドメイン:即ち、転写活性化ドメインを含むN末端(ほぼアミノ酸1〜43)、DNA結合ドメイン(DBD)をコードする中央部分(ほぼアミノ酸100〜300)およびオリゴマー形成ドメインとして役立つC末端部分(ほぼアミノ酸319〜360)を有する複合高分子である。p53DBDの結晶構造は、高βシート含量を有するほぼ球面球形のドメインを示す。
【0007】
p53活性は、その機能的配座を保持するタンパク質の能力に大いによっている。多数の異なる癌由来腫瘍の分析は、DBDが高頻度に突然変異化されることを明示する(Friedlander et al., 1996, J. Biol. Chem. 271:25468-25478)。主な癌のp53DNA結合ドメインないに生じる多数の種々の点突然変異が存在する(Pavletich et al., 1993, Genes & Development 7, 2556-2564)が、しかしホットスポットとして知られているp53DBD内の特定残基位置は、通常、高出現率で突然変異化される。ヒト腫瘍に一般的に見出されるホットスポット突然変異は、DBD全体に多少無作為に分散される。尿素に曝露されると、すべての高頻度突然変異化形態のpDNAのp53DBDは、野生型DBDより安定性が低くなる(Bullock et al.上記)。さらに、p53突然変異体はしばしば、細胞中の熱ショックタンパク質と会合して、それらがネイティブ配座を保持することがほとんどできないという推測を導く(Finlay et al., 1988, Molecular and Cellular Biology 8:531-39)。
【0008】
p53のC末端ドメインとの相互作用は、p53の細胞周期停止特性を活性化することが見出されている。特に、細胞周期進行中細胞中へのC末端特異的p53抗体の注入は、それらを停止し得る(Mercer et al., 1982,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79:6309-6312 )。さらに詳細な研究は、C末端ドメインがDBDドメインのDNA結合活性を調節することを実証した。例えば、Hupp等は、p53C末端ドメインの残基373〜381と相互作用するモノクローナル抗体Pab421がp53のある種の突然変異体形態のDNA結合活性を増強し得ることを見出した(Hupp et al., 1993, Nucleic Acids Research 21:3167-3174)。したがって、Huppと同僚等は、p53機能を回復するための試みにおいて、別々の負の調節ドメインを中和する抗体およびペプチドに焦点を合わせた(Selivanova et al.,1997, Nature Med. 3, 632-638)。しかしながら、このアプローチにより回復される位置273突然変異は、それらが高基礎DNA結合活性を保持し、野生型タンパク質と同様の熱力学的安定性特徴を示す他の一般的突然変異体と異なる(Bullock et al., 1997,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 14338-143421)。
【0009】
当分野のその他の研究者は、突然変異体p53のN末端ドメインを結合する化合物の開発が、野生型p53活性を救援するための最も有効な手段であると論じている。例えば、Friedlander等は、感温性p53突然変異体のDNA結合活性を促進する能力に関して、p53上の限定エピトープと結合した多数の異なるモノクローナル抗体を試験した(Friedlander et al., 1996, J. Biol. Chem. 271, 25468-25478)。C末端特異的抗体PAb421は低温で突然変異体p53にDNA結合機能を回復したが、一方、N末端特異的p53抗体、特にモノクローナル抗体Pab1801は、高温での感温性p53突然変異体のDNA結合活性の促進により有効であった。これらの知見に基づいて、N末端との結合により1801エピトープ認識領域によく似る小分子の開発は、突然変異体p53中での野生型DNA結合活性を促進する、とFriedlander等は推測した。特に、Friedlander等は、p53タンパク質の中心部分(DBDドメイン)におけるエピトープに特異的な抗体がDNA結合活性に影響を及ぼさないことを実証した。それらの結果の説明の1つとして、タンパク質内の一ドメインの配座が離れたドメインを用いることにより安定化される、とFriedlander等は仮定した。一般的に生じるp53DNA結合ドメイン突然変異体における熱力学的安定性の変化はかなり小さい、とBullock等は実証し、Friedlander等により示唆されたようなp53に関する小分子療法の開発(即ち、N末端と結合する分子)は実行可能であると推測した(Bullock et al., 1997、上記)。
【0010】
抗癌化合物を同定するためのその他のより包括的アプローチは、細胞ベース検定(例えば、腫瘍細胞株)または動物検定における小分子の直接抗腫瘍活性の検定に集中した。考え得る抗腫瘍活性を有する多数の小分子が記載されている(Mazerska et al., 1990, Anti-Cancer Drug Design 5, 169-187; Su et al., 1995, J. Med. Chem. 38, 3226-3235; Nagy et al., 1996, Anticancer Research 16, 1915-1918; Wuonola et al., 1997, Anticancer Research 17, 3409-23)。Mazerska等は、その抗腫瘍特性がDNAを結合し、共有的鎖間架橋を生じるそれらの能力に寄与するアクリジン基と結合したニトロ基を有する一連のニトロ−9−アミノアクリジンを記載する。Su等は、トポイソメラーゼII阻害剤として開発された、置換された種々の位置のアニリノおよびアクリジン環系を有する一連の9−アニリノアクリジン誘導体を記載する。Nagy等は、短炭素リンカーを介して尿素またはフタルイミドベースの基に結合される一連のフェノチアジン関連化合物を記載する。この種類の化合物の抗腫瘍細胞活性は、カルシウムチャンネルおよびカルモジュリンと反応するそれらの能力に由来する、とNagy等は推測した。Wuonola等(上記)は、Nagy等(上記)が記載した化合物と同様のフェノチアジン化合物を記載する。
【0011】
今日まで、腫瘍抑制活性のような野生型活性を回復または安定化するためにp53ファミリーのタンパク質と相互作用する小有機非ペプチド分子は報告されていない。さらに、このような化合物の発見は、高スループットスクリーンまたは検定の欠如により妨げられてきた。
【発明の開示】
【0012】
III.発明の要約
ヒトの疾患と関連する熱力学的不安定タンパク質またはミスフォールディングタンパク質を配座的に安定化し得る化合物を同定することの重要性を認識し、このような化合物が迅速に同定される高スループット検定の欠如を認識して、本発明人は、突然変異体p53を配座的に安定化する作用物質を迅速に同定するためのモデル系として、in vitroおよびin vivo検定における単離突然変異体p53DNA結合ドメイン(DBD)の使用を研究した。本発明は、p53ファミリーのタンパク質中の野生型活性を促進するヒト製剤を含めた化合物を客観的に同定するための迅速で、信頼性があり且つ正確な方法を提供する。
【0013】
したがって、本発明は、非ペプチド有機化合物がp53ファミリーのタンパク質と相互作用し、そしてその野生型活性を促進し得る、という最初の例証を提供する。生理学的温度またはその付近で、これらの活性化合物は、種々の突然変異体p53タンパク質だけでなく、野生型p53タンパク質においても、p53の野生型活性を促進した。このような化合物は、抗癌薬としての重要な用途を有する。したがって、本発明は、p53ファミリーのタンパク質の突然変異体または野生型活性による癌の抗腫瘍療法に有用な新規のアプローチおよび化合物を提供する。
【0014】
一局面において、本発明は、突然変異体形態のp53ファミリーのヒトタンパク質中の野生型活性を促進する方法であって、生理学的条件下での機能的配座を保持する前記タンパク質の無能力により前記タンパク質の1つ又はそれ以上の機能的活性が少なくとも部分的に減損される方法であって、生理学的条件下で突然変異体タンパク質中の1つ又はそれ以上のドメインと結合し、そこでの機能的配座を安定化し得る有機非ペプチド化合物と突然変異体タンパク質を接触させて、そして安定化タンパク質を野生型活性に関与する1つ又はそれ以上の高分子物質と相互作用させる工程からなる方法を提供する。p53ファミリーのヒトタンパク質は、例えばp53、p63またはp73であり得る。好ましい実施態様では、有機非ペプチド化合物はp53と、さらに好ましくはp53のDNA結合ドメインとさえ相互作用する。
【0015】
本発明は、別の実施態様では、1つ又はそれ以上の野生型活性低減を示すp53ファミリーの突然変異体タンパク質の発現に関連した疾患状態に対するヒト被験者の治療方法であって、生理学的条件下で突然変異体タンパク質中の1つ又はそれ以上のドメインと結合し、そこでの機能的配座を安定化し得る有機非ペプチド化合物を被験者に投与して、そして患者中の安定化タンパク質を野生型活性に関与する1つ又はそれ以上の高分子物質と相互作用させる工程を包含する方法も提供する。さらに別の実施態様では、本発明は、癌に対するヒト被験者の治療方法であって、生理学的条件下でp53ファミリーのヒトタンパク質中の1つ又はそれ以上のドメインと結合し得る有機非ペプチド化合物を被験者に投与して、そこでの機能的配座を安定化し、そして安定化タンパク質をタンパク質の野生型活性に関与する1つ又はそれ以上の高分子物質と相互作用させる工程を包含する方法を提供する。
【0016】
別の局面では、本発明に用いるための有機非ペプチド化合物は、特定長のリンカーにより一緒に結合される疎水性基(例えば、平面多環式)および陽イオン性基(好ましくはアミン)の両方を含有する化合物であり得る。
好ましい局面では、本明細書中で用いるための有機非ペプチド化合物は、以下の:
【0017】
【化1】
【0018】
からなる群から選択されるが、この場合、I基:
【0019】
【化2】
【0020】
に関しては、
R5は−N−R18R19
(ここで、R18はH、(C1〜C6)アルキルまたはフェニルであり、そして
R19はH、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニルであって、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21、または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、以下の:
(a)H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C1〜C6)アルキル(C6〜C12)アリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキルまたは(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択されるか、あるいは
(b)NR20R21は一緒になって水素、モルホリンまたは4−(C1〜C6)アルキルピペラジンを示す)であり、
R6は、
(a)各々任意に1つ又はそれ以上のフェニル基により置換される(C1〜C6)アルキルまたは(C2〜C8)アルケニル、
(b)ハロ、(C1〜C6)アルコキシにより置換されるフェニル
であり、
R7およびR8は同一であるかまたは異なり、H、ニトロ、(C1〜C6)アルコキシ、あるいはフルオロ、クロロまたはブロモから選択されるハロゲンであり、
II基:
【0021】
【化3】
【0022】
に関しては、
R9は−(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニル(ここで、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21、または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C1〜C6)アルキル(C6〜C12)アリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル)または(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択される)であり、
III基:
【0023】
【化4】
【0024】
に関しては、
R10は−N−R18R19(ここで、R18は、H、(C1〜C6)アルキルまたはフェニルであり、そして
R19はH、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニルであって、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21、または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、以下の:
(a)H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C1〜C6)アルキル(C6〜C12)アリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C1〜C6)アルキル(C5〜C9)ヘテロアリールまたは(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択されるか、あるいは
(b)NR20R21は一緒になって水素、モルホリンまたは4−(C1〜C6)アルキルピペラジンを示す)であり、
AおよびBは、同一であるかまたは異なり、各々炭素または窒素を表し、そして
R11およびR12は、同一であるかまたは異なり、H、ニトロ、(C1〜C6)アルコキシ、あるいはフルオロ、クロロまたはブロモから選択されるハロゲンから選択され、
IV基:
【0025】
【化5】
【0026】
に関しては、
R13は−N−R18R19(ここで、R18は、H、(C1〜C6)アルキルまたはフェニルであり、そして
R19はH、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニルであって、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、以下の:
(a)H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール(C5〜C9)ヘテロアリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C6〜C10)アリールおよび(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C1〜C6)アルキル(C5〜C9)ヘテロアリールおよび(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択されるか、あるいは
(b)NR20R21は一緒になって水素、モルホリンまたは4−(C1〜C6)アルキルピペラジンを示す)であり、
AおよびBは、同一であるかまたは異なり、各々炭素または窒素を表し、そして
R14およびR15は、同一であるかまたは異なり、H、ニトロ、(C1〜C6)アルコキシ、あるいはフルオロ、クロロまたはブロモから選択されるハロゲンから選択され、
V基:
【0027】
【化6】
【0028】
に関しては、
Aは炭素または窒素であり、
R16は、−N−R18R19(ここで、R18は、H、(C1〜C6)アルキルまたはフェニルであり、そして
R19はH、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニルであって、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、以下の:
(a)H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールおよび(C1〜C6)アルキル(C5〜C9)ヘテロアリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C1〜C6)アルキル(C5〜C9)ヘテロアリールまたは(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択されるか、あるいは
(b)NR20R21は一緒になって水素、モルホリンまたは4−(C1〜C6)アルキルピペラジンを示す)であり、そして
R17は、H、ニトロ、(C1〜C6)アルコキシ、あるいはフルオロ、クロロまたはブロモから選択されるハロゲンから選択される。
【0029】
さらに、本発明の実施に有用な多数の化合物はそれ自体新規であり、このような化合物についてのその場合の説明は、本発明のさらなる局面を定義する。
本発明は、別の局面で、p53ファミリーの野生型活性を促進するさらに別の化合物の設計方法も提供する。本方法は、仮定を説明するために本発明の活性化合物の1つを用いて、仮定に適合する候補化合物を同定し、そして候補化合物がp53ファミリーのタンパク質の野生型活性を促進するか否かを確定することを必然的に伴う。
【0030】
本発明の別の局面は、p53ファミリーのタンパク質とそのタンパク質と相互作用し、そのタンパク質の野生型活性を促進する非ペプチド化合物との複合体を包含する組成物である。
さらに別の局面では、本発明は、p53ファミリーのタンパク質の野生型活性を促進する化合物に関するスクリーニング方法を提供する。好ましい局面では、本方法は、p53DNA結合ドメイン(DBD)と相互作用する化合物に関して検定し、本化合物の存在下でp53DBDの配座を測定することを包含する。しかしながら、本発明は、スクリーニングのこのような方法におけるp53ファミリーの全長および部分タンパク質の使用も意図する。特定の実施態様では、検定および測定工程は、同時に実施される。p53ファミリーの突然変異体形態のタンパク質中の野生型活性を促進することが発見された化合物は、任意に、腫瘍増殖を停止または抑制するそれらの能力に関してin vivoでスクリーニングされる。本発明の別の局面は、p53DBDとの特異的相互作用に関して有機非ペプチド化合物をスクリーニングすることによる薬剤発見方法である。
【0031】
p53ファミリーの突然変異体または野生型タンパク質中での野生型活性を促進する化合物の同定での本発明の成功は、本発明の方法が、配座的欠陥または不安定タンパク質により誘導される種類の疾患のための薬剤発見に広範に適用可能であることを実証する。このようなタンパク質標的の例としては、pp60src、ユビキチン活性化酵素E1、嚢胞性繊維症膜貫通コンダクタンス調節因子、ヘモグロビン、プリオンタンパク質、セルピンおよびβ−アミロイドタンパク質が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
V.発明の詳細な説明
腫瘍サプレッサー遺伝子生成物p53における機能損失は、多数の異なる種類の癌において観察される非制御化増殖および/またはアポトーシスの損失を引き起こし得る。p53が癌細胞中で突然変異化されない場合でも、このような細胞中での野生型p53活性促進は、癌性表現型を抑制し得る。本発明は、有機非ペプチド化合物がp53ファミリーのタンパク質と相互作用して、そこでの機能的配座を安定化し得る、ということを初めて実証する。したがって、このような化合物は、すべての種類の癌の治療のための製剤としての重要な用途を有する。
【0033】
したがって、一局面において、本発明は、突然変異体形態のp53ファミリーのヒトタンパク質における野生型活性の促進方法であって、生理学的条件下での機能的配座を保持するタンパク質の無能力によりタンパク質の1つ又はそれ以上の機能的活性が少なくとも部分的に減損される方法であって、生理学的条件下で突然変異体タンパク質中の1つ又はそれ以上のドメインと結合し、そこでの機能的配座を安定化し得る有機非ペプチド化合物と突然変異体タンパク質を接触させて、そして安定化タンパク質を野生型活性に関与する1つ又はそれ以上の高分子物質と相互作用させる工程からなる方法を提供する。p53ファミリーの突然変異体ヒトタンパク質は、突然変異体p53、p63およびp73タンパク質であり得る。好ましい実施態様では、有機非ペプチド化合物は、p53と、さらに好ましくはp53のDNA結合ドメインと相互作用する。
【0034】
本発明は、別の実施態様では、1つ又はそれ以上の野生型活性低減を示すp53ファミリーの突然変異体タンパク質の発現に関連した疾患状態に対するヒト被験者の治療方法であって、生理学的条件下で突然変異体タンパク質中の1つ又はそれ以上のドメインと結合して、そこでの機能的配座を安定化し得る有機非ペプチド化合物を被験者に投与し、そして患者中の安定化タンパク質を野生型活性に関与する1つ又はそれ以上の高分子物質と相互作用させる工程を包含する方法も提供する。
【0035】
さらに別の実施態様では、本発明は、癌に対するヒト被験者の治療方法であって、生理学的条件下でp53ファミリーのヒトタンパク質中の1つ又はそれ以上のドメインと結合し、そこでの機能的配座を安定化し得る有機非ペプチド化合物を被験者に投与して、そして安定化タンパク質をタンパク質の野生型活性に関与する1つ又はそれ以上の高分子物質と相互作用させる工程を包含する方法を提供する。本発明の方法で安定化されるp53ファミリーのヒトタンパク質は、野生型または突然変異体タンパク質、例えばp53、p63またはp73であり得る。
【0036】
p53ファミリーのタンパク質は種々の癌中で突然変異体であるが、しかしそれでもいくつかの癌または癌細胞型では、p53(p53それ自体が最も多数の試験を受けている)ファミリーのタンパク質の構造または機能は、関与細胞が野生型コード対立遺伝子を保持する場合でも、変更される。例えば、ウイルスタンパク質がp53タンパク質を分解するか、あるいはp53が、例えば癌遺伝子の発現生成物により不活性化されるかまたは分解されるウイルス関連癌の考察に関しては、Kaelin(1999)を参照していただきたい。細胞調節工程におけるp53ファミリーのタンパク質の重要性が示された場合、このようなタンパク質の寿命および/または構造および/または活性が正常である細胞中で生理学的条件下で、本発明の化合物が非突然変異体p53ファミリー成員の機能的配座を安定化するのにも有用である、ということは明らかである。したがって、本発明の化合物は、p53タンパク質および同様の物質の機能が眼精状態の存在により実質的に影響を及ぼされない癌の治療において、ならびにその異常が未だ異常p53(またはp53ファミリー成員)の機能、寿命または構造に検出可能的に拡がっていない前癌細胞を発現する組織の治療においても有用である。さらに、悪性疾患の部位に隣接するか、そうでなければ身体中の悪性細胞と接触するようになる健常細胞中のp53ファミリーのタンパク質をさらに安定化する(例えば、寿命を増大させる)ことにより、癌の拡張が制御され得る。本発明の化合物は、この点でも有用である。
【0037】
本発明の実施によれば、p53ファミリーのタンパク質は、哺乳類p53、p63またはp73、および/または1つ又はそれ以上の(1)転写活性化に必要とされるN末端ドメイン、(2)DNA結合ドメイン、または(3)哺乳類p53、p63またはp73のオリゴマー形成ドメインと少なくとも50%、さらに好ましくは80%のアミノ酸配列相同をすべてが有するドメインを保有するタンパク質と定義され、この場合、前記の相同は、認可アルゴリズムBLASTP v.2.0(www.ncbi.nlm.nih.gov)(Altschul et al., 1990, J. of Molec. Biol., 215:403-410, "The BLAST Algorithm"; Altschul et al., 1997, Nuc. Acids Res. 25:3389-3402)およびW.U.-BLAST-2.0(Washington University, St. Louis, MO, USAから利用可能)のいずれかにより測定され、そして前記のタンパク質は、p53、p63またはp73の特性を示していると当業界で認識される少なくとも1つの機能(例えば、p53応答性プロモーターを活性化し、アポトーシスを誘導する能力。当業界認知特性に関しては、前記で引用したKaelin, 1999; Yang et al., 1998;およびYoshikawa et al., 1999参照)を立証する。BLAST, Smith-WatermanおよびFASTAアルゴリズムの手法および利点についての一般的考察に関しては、Nicholas et al., 1998, "A Tutorial on Searching Sequence Databases and Sequence Scoring Methods"(www.psc.edu)およびそこに引用された参考文献を参照されたい。
【0038】
p53ファミリーのタンパク質の野生型配座を安定化する化合物は、p53ファミリーのタンパク質との接触時に、タンパク質の野生型活性、例えばDNA結合親和性または任意の高分子物質と相互作用する能力を促進または回復してp53ファミリーのタンパク質の正常機能を実行する化合物である。p53のその他の野生型活性としては、転写活性化活性(例えば、WAF1誘導)、細胞周期停止およびアポトーシス誘発が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
さらに別の局面において、本発明は、腫瘍増殖を抑制しおよび/または癌を治療するための本発明の化合物の使用を含む。本発明の特有の利点は、本明細書中の方法を用いてそのように同定された化合物が、スクリーンに用いられる野生型p53DBDおよび突然変異体DBDだけでなく、他の突然変異体p53およびp53DBDの活性配座も安定化することが示されていることである。したがって、そのように同定された化合物は、種々の癌の治療に際して、広範な適用可能性を有する。
【0040】
本発明は、p53ファミリーのタンパク質の野生型配座を促進し、p53ファミリーの突然変異体タンパク質に対して野生型活性を回復し得る化合物に関するスクリーニングの新規の方法も提供する。本発明の方法を用いて同定される化合物は、p53ファミリーのタンパク質の活性の欠陥と関連する癌のような疾患を治療するのに有用である。
【0041】
本発明の方法は、p53ファミリーのタンパク質と直接接触するものに関して化合物をスクリーニングすることを含む。このような方法は、スクリーニング目的のためのp53ファミリー(突然変異体または野生型)の全長タンパク質、あるいは少なくともDBDを、そして任意にN末端および/またはC末端ドメインを含有する欠失誘導体を用い得る。しかしながら、本発明の好ましい局面では、スクリーンは、無傷NまたはC末端ドメインを伴わずにDBDのみを含有するp53ファミリーのタンパク質のポリペプチド断片を使用する。したがって、本出願のために、「DNA結合ドメイン」または「DBD」という用語は(別記しない限り)、無傷NまたはC末端を伴わずにただp53ファミリーのタンパク質のDBDを含むものと理解される。しかしながら、このようなDBDドメインは、検定フォーマットによって異種ポリペプチドと融合され得る(例えば、FLAGエピトープまたはグルタチオン−S−トランスフェラーゼタンパク質)。したがって、DNA結合に及ぼす負の調節作用を単に除去するというよりむしろ、本発明の方法および化合物は、p53ファミリーの野生型および突然変異体タンパク質の両方の配座安定性の増強を促進する。
【0042】
したがって、非限定的実行例により以下に説明される一局面において、本発明は、p53DBDと特異的に相互作用する化合物に関してスクリーニングし、そして被験化合物の存在下でp53DBDの配座を測定する方法を提供する。任意に、p53DBDは、突然変異体p53DBDである。しかしながら、野生型p53DBDは、大量に過剰生成するのがより容易である。スクリーニング検定は細胞ベースのフォーマットで実施され得るが、しかしp53DBDを標的にする化合物に特異的な高スループットスクリーンに関しては、in vitroベースの検定が最も直接的で且つ望ましい。p53DBDに対する初期スクリーンで同定された化合物は、無傷p53(p53ミスセンス突然変異体を含む)の機能に及ぼすそれらの作用に関してさらに検査され得る。これらの方法を用いて同定される化合物も、本発明の範囲内である。
【0043】
本発明の目的で、p53ファミリーのタンパク質のDNA結合ドメインと相互作用する化合物に関する検定は、包含されない化合物がDBDを特異的に標的とし、タンパク質の他のドメインを標的としないものであるよう意図される。例えば、DBDと特異的に「相互作用する」かまたはそれに「作用を及ぼす」化合物は、必ずしもDBDと安定的に結合しないという必要はない(しかし、それもあり得る)。化合物の存在下でp53ファミリーのタンパク質の配座に及ぼす何らかの作用を化合物が有することで十分である。したがって、化合物は、DBDとの相互作用に関して先ずスクリーニングされ、次に、配座に及ぼすそれらの作用に関して検定されるか、あるいはこれら2つのスクリーニング工程は、DBDとの相互作用も検出するために、化合物の存在下で配座的変化を用いることにより同時に実施され得る。
【0044】
特異的相互作用という用語は、本出願においては、非選択的疎水性相互作用により疎水性化合物とタンパク質との間に起こることが知られている種類のものを含めた非特異的形態の結合を排除するために用いられる。特異的相互作用という用語はさらに、バルク溶媒の化学特性を変えることによりタンパク質熱安定性に影響を及ぼす化合物と穂亜反応化合物の特性を区別するために用いられる。したがって、本発明のこの局面の範囲から除外されるこのような分子としては、熱安定化剤、例えばグリセロール、トリメチルアミン−オキシドおよび重水素水が挙げられる。p53ファミリーのタンパク質と特異的に相互作用する化合物は、このようなバルク溶媒または非特異的疎水性相互作用より非常に低い濃度で作用を示す。例えば、グリセロールは、600 mMで有効である。しかしながら、p53ファミリーのタンパク質と特異的に相互作用する化合物の作用は、in vitroまたは細胞ベース検定において、1 mMより低い、好ましくは100μMより低い、さらに好ましくは10μMより低い化合物の濃度で観察される。
【0045】
本発明の実施に関連して、以下の定義が一般的に適用する。「アルキル」という用語は、本明細書中で用いられる場合、別記しない限り、直鎖、分枝鎖または環状部分あるいはそれらの組合せを有する飽和一価炭化水素基を含む。同様に、「アルケニル」および「アルキニル」という用語は、それぞれ少なくとも1つの二重結合または少なくとも1つの三重結合が存在する直鎖、分枝鎖または環状部分を有する炭化水素基を定義する。このような定義は、アルキル、アルケニルまたはアルキニル基が別の基、例えばアルコキシまたはアルキルアミン内に存在する場合にも適用する。「アルコキシ」という用語は、本明細書中で用いられる場合、「アルキル」が前記と同様であるO−アルキル基を含む。「ハロ」という用語は、本明細書中で用いる場合、別記しない限り、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨードを含む。
【0046】
説明の便宜上、(C3〜C10)シクロアルキルという用語は、本明細書中で用いる場合、ゼロまたは任意に1つ又はそれ以上の二重結合を有するシクロアルキルおよびシクロアルケニル基の両方を、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンテニル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、1,3−シクロヘキサジエン、シクロヘプチル、シクロヘプテニル、ビシクロ[3.2.1]オクタン、ノルボルナニル等を指す。(C3〜C10)ヘテロシクロアルキルは、本明細書中で用いる場合、ピロリジニル、テトラヒドロフラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ピラニル、チオピラニル、アジリジニル、オキシラニル、メチレンジオキシル、クロメニル、イソキサゾリジニル、1,3−オキサゾリジン−3−イル、イソチアゾリジニル、1,3−チアゾリジン−3−イル、1,2−ピラゾリジン−2−イル、1,3−ピラゾリジン−1−イル、ピペリジニル、チオモルホリニル、1,2−テトラヒドロチアジン−2−イル、1,3−テトラヒドロチアジン−3−イル、テトラヒドロチアジアジニル、モルホリニル、1,2−テトラヒドロジアジン−2−イル、1,3−テトラヒドロジアジン−1−イル、テトラヒドロアゼピニル、ピペラジニル、クロマニル等を指す。前記の(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル環の結合は、炭素またはsp3混成化窒素異種原子を介してである、と当業者は理解する。
【0047】
(C5〜C9)ヘテロアリールは、本明細書中で用いる場合、フリル、チエニル、チアゾリル、ピラゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、ピロリル、トリアゾリル、テトラゾリル、イミダゾリル、1,3,5−オキサジアゾリル、1,2,4−オキサジアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、1,3,5−チアジアゾリル、1,2,3−チアジアゾリル、1,2,4−チアジアゾリル、ピリジル、ピリミジル、ピラジニル、ピリダジニル、1,2,4−トリアジニル、1,2,3−トリアジニル、1,3,5−トリアジニル、ピラゾロ[3,4−b]ピリジニル、シンノリニル、プテリジニル、プリニル、6,7−ジヒドロ−5H−[1]ピリンジニル、ベンゾ[b]チオフェニル、5,6,7,8−テトラヒドロ−キノリン−3−イル、ベンズオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンズイソチアゾリル、ベンズイソキサゾリル、ベンズイミダゾリル、チアナフテニル、イソチアナフテニル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、イソインドリル、インドリル、インドリジニル、インダゾリル、イソキノリル、キノリル、フタラジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、ベンズオキサジニル等を指す。(C5〜C9)ヘテロアリール基の構造の残りの部分との結合は一般的に炭素原子またはsp2混成異種原子によるが、これらに限定されない、と当業者は理解する。同様に、フェニルおよびナフチルは、(C6〜C10)アリールの代表的なものである。
【0048】
図面において、一結合が図示されているが、しかしその遠位端に置かれる基に関しては同定が成されていない場合、慣用的に認識されているように、メチル基が意図される。図示されている任意の結合の非存在下では、原子価が許す場合には、当業界で容易に理解されるように、その位置は水素により占められる。したがって、R−O−の記述は、R−O−CH3を意味する。
【0049】
A.p53ファミリーのタンパク質中の野生型活性を促進する本発明の化合物
本発明の有機非ペプチド化合物は、p53ファミリーの野生型または突然変異体タンパク質に曝露されると、そのタンパク質の野生型活性を促進するあらゆる種類の化合物であり得る。好ましい化合物は、相対的に小型の(50〜150 kDの典型的タンパク質と比較した場合)有機化合物である。本発明は、ペプチドでない、そして特に抗体でない、さらにp53と特異的に反応せず、それによりp53DBDまたはp53タンパク質の野生型配座を安定化するような化合物を初めて提供する。ペプチドでない有機化合物は、種々の理由のために、製剤として特に有用である。例えば、非ペプチド化合物は、ペプチドより非常に低免疫原性であり、粘膜またはその他の細胞層バリアにより身体中により容易に吸収され、低不安定性であり得る。
【0050】
一局面では、本発明の方法により発見された活性化合物は、特定長のリンカーにより一緒に結合される疎水性基(例えば平面多環式)および陽イオン性基(好ましくはアミン)の両方を含有する化合物と定義され得る。疎水性位置におけるベンズイミダゾール、ベンゾキノリン、フェノチアジンおよびスチリルキナゾリンが好ましい。
【0051】
活性陽イオン性基は、第二級および第三級アミンの両方であり、その例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、メチルアミン、メチルピペラジンおよびモルホリンが挙げられるが、これらに限定されない。ある種の大型アミンは、フェノチアジン疎水性シリーズで試験される場合、相対的により活性であった。したがって、この状況では、大型アミンが好ましい。陽イオン性位置の正荷電基は活性であり、好ましい(下記の表1参照)。
【0052】
本発明のこの局面に関しては、疎水性基および陽イオン性基間の間隔は、少なくともプロピル長であるべきである。プロピル長より短いリンカーは、特殊検定条件下では、実質的に低有効性であった(下記の表2参照)。したがって、約3〜5炭素結合の長さを有するリンカーが好ましい(5〜9オングストローム、さらに好ましくは6〜8オングストローム)が、しかし、プロピルリンカーの長さ(約6.5オングストローム)を有するリンカーを含有する化合物が最も活性である。ブチルリンカーの長さより長いリンカーは、ブチルリンカーの長さを有するリンカーを含有する対応する化合物より、特殊検定条件下では低有効性であった(表2)。さらに好ましいのは、的確な距離を保持する分枝鎖リンカーである。このようなリンカーは一般に、本検定では、5〜9オングストローム(そして最適には約6.5オングストローム)の正しいリンカー長を依然として保持する限り、対応する線状リンカーより活性であった。
【0053】
したがって、一局面において、本発明の化合物は式:
F1−L−F2
を有し、F1は以下の:
【0054】
【化7】
【0055】
(式中、R1、R2、R3は同一であるかまたは異なり、そして別々に、水素、ハロゲン、メトキシおよびニトロから成る群から選択される)
から成る群から選択され、Lは、5〜9オングストロームの長さを有する直鎖または分枝鎖アルキルであり、そしてF2は第二級または第三級アミンである。別の局面では、F2は、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、メチルピペラジンまたはモルホリンである。例えば、F2は、以下の:
【0056】
【化8】
【0057】
(式中、R4は−O−CH2−CH3またはHである)
から成る群から選択されるアミンであり得る。
以下で提示されるのは、本発明の種々の化合物に関する化学構造である。これらの化合物の各々は、ほぼ生理学的温度で少なくとも1つの突然変異体p53DBDにおけるp53に対する配座感受性エピトープの安定性を有意に増強することが見出された。
【0058】
1.アクリジン
【0059】
【化9】
【0060】
【化10】
【0061】
2.キナゾリン
【0062】
【化11】
【0063】
3.フェノチアゾール
【0064】
【化12】
【0065】
【化13】
【0066】
【化14】
【0067】
本明細書中に記載された一般設計原則によれば、本発明の実施に置いては以下の群:
【0068】
【化15】
【0069】
の化合物が好ましく、この場合、 I基:
【0070】
【化16】
【0071】
に関しては、
R5は−N−R18R19
(ここで、R18はH、(C1〜C6)アルキルまたはフェニルであり、そして
R19はH、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニルであって、前記のアルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21、または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、以下の:
(a)H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C1〜C6)アルキル(C6〜C12)アリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキルまたは(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択されるか、あるいは
(b)NR20R21は一緒になって水素、モルホリンまたは4−(C1〜C6)アルキルピペラジンを示す)であり、
R6は、
(a)各々任意に1つ又はそれ以上のフェニル基により置換される(C1〜C6)アルキルまたは(C2〜C8)アルケニル、
(b)ハロ、(C1〜C6)アルコキシにより置換されるフェニル
であり、
R7およびR8は同一であるかまたは異なり、H、ニトロ、(C1〜C6)アルコキシ、あるいはフルオロ、クロロまたはブロモから選択されるハロゲンであり、
II基:
【0072】
【化17】
【0073】
に関しては、
R9は−(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニル(ここで、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21、または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C1〜C6)アルキル(C6〜C12)アリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル)または(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択される)であり、
III基:
【0074】
【化18】
【0075】
に関しては、
R10は−N−R18R19(ここで、R18は、H、(C1〜C6)アルキルまたはフェニルであり、そして
R19はH、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニルであって、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21、または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、以下の:
(a)H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C1〜C6)アルキル(C6〜C12)アリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C1〜C6)アルキル(C5〜C9)ヘテロアリールまたは(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択されるか、あるいは
(b)NR20R21は一緒になって水素、モルホリンまたは4−(C1〜C6)アルキルピペラジンを示す)であり、
AおよびBは、同一であるかまたは異なり、各々炭素または窒素を表し、そして
R11およびR12は、同一であるかまたは異なり、H、ニトロ、(C1〜C6)アルコキシ、あるいはフルオロ、クロロまたはブロモから選択されるハロゲンから選択され、
IV基:
【0076】
【化19】
【0077】
に関しては、
R13は−N−R18R19(ここで、R18は、H、(C1〜C6)アルキルまたはフェニルであり、そして
R19はH、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニルであって、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、以下の:
(a)H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール(C5〜C9)ヘテロアリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C6〜C10)アリールおよび(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C1〜C6)アルキル(C5〜C9)ヘテロアリールおよび(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択されるか、あるいは
(b)NR20R21は一緒になって水素、モルホリンまたは4−(C1〜C6)アルキルピペラジンを示す)であり、
AおよびBは、同一であるかまたは異なり、各々炭素または窒素を表し、そして
R14およびR15は、同一であるかまたは異なり、H、ニトロ、(C1〜C6)アルコキシ、あるいはフルオロ、クロロまたはブロモから選択されるハロゲンから選択され、
V基:
【0078】
【化20】
【0079】
に関しては、
Aは炭素または窒素であり、
R16は、−N−R18R19(ここで、R18は、H、(C1〜C6)アルキルまたはフェニルであり、そして
R19はH、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C10)シクロアルキルまたはフェニルであって、前記アルキル、シクロアルキルまたはフェニル基は任意にヒドロキシ、(C3〜C8)シクロヘテロアルキル、−CONR18(CH2)pNR20R21、−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21または−(CH2)p−(CHR22)m−(CH2)n−NR20R21(ここで、pは0〜5であり、mは0〜5であり、nは0〜5であり、R22はヒドロキシまたは(C1〜C6)アルキルである)で置換され、そしてR20およびR21は各々別々に、以下の:
(a)H、(C1〜C12)アルキル、(C3〜C12)シクロアルキル、(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C6〜C10)アリール、(C5〜C9)ヘテロアリール、(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールおよび(C1〜C6)アルキル(C5〜C9)ヘテロアリール(前記の基は1つ又はそれ以上のヒドロキシ、ハロ、アミノ、トリフルオロメチル、(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルコキシ、(C1〜C6)アルキル(C3〜C10)ヘテロシクロアルキル、(C1〜C6)アルキル(C5〜C9)ヘテロアリールまたは(C1〜C6)アルキル(C6〜C10)アリールにより任意に置換される)から選択されるか、あるいは
(b)NR20R21は一緒になって水素、モルホリンまたは4−(C1〜C6)アルキルピペラジンを示す)であり、そして
R17は、H、ニトロ、(C1〜C6)アルコキシ、あるいはフルオロ、クロロまたはブロモから選択されるハロゲンから選択される。
【0080】
本発明の特に好ましい化合物としては、以下の11個の化合物が挙げられる:
【0081】
【化21】
【0082】
(1−ベンジル−ピペリジン−4−イル)−(3−フェノチアジン−10−イル−プロピル)−アミン、
【0083】
【化22】
【0084】
[2−(4−クロロ−フェニル)−エチル]−(3−フェノチアジン−10−イル−プロピル)−アミン、
【0085】
【化23】
【0086】
(3−フェノチアジン−10−イル−プロピル)−チオクロマン−4−イル−アミン、
【0087】
【化24】
【0088】
[1−メチル−3−(2,6,6−トリメチル−クロロヘキス−2−エニル)−アリル]−(3−フェノチアジン−10−イル−プロピル)−アミン、
【0089】
【化25】
【0090】
(7−エトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−ナフタレン−2−イル)−(3−フェノチアジン−10−イル−プロピル)−アミン、
【0091】
【化26】
【0092】
N’−(9−フルオロ−ベンゾ[c]アクリジン−7−イル)−N,N−ジメチル−プロパン−1,3−ジアミン、
【0093】
【化27】
【0094】
N’−アクリジン−9−イル−N,N−ジメチル−プロパン−1,3−ジアミン、
【0095】
【化28】
【0096】
2−{4−[4−(ベンゾ[g]キノリン−4−イルアミノ)−フェニル]−ピペラジン−1−イル}−エタノール、
【0097】
【化29】
【0098】
N4−{2−[2−(4−ブロモ−フェニル)−ビニル]−7−クロロ−キナゾリン−4−イル}−N1,N1−ジエチル−ペンタン−1,4−ジアミン、
【0099】
【化30】
【0100】
N−ベンゾ[g]キノリン−5−イル−N‘−クロロヘキシル−プロパン−1,3−ジアミン、
【0101】
【化31】
【0102】
2−[(2−ヒドロキシ−エチル)−(3−{2−[2−(4−メトキシ−フェニル)−ビニル]−キナゾリン−4−イルアミノ}−プロピル)−アミノ]−エタノール。
本発明の有機非ペプチド化合物は、慣用的技法を用いて合成され得る。
本発明の、そして本発明の方法に用いるための化合物は、p53ファミリーのタンパク質の野生型活性を促進する化合物のプロドラッグも含む。プロドラッグは、被験動物(特にヒト)に投与した場合に、有意且つ有効量で、活性分子に転換される化合物である。
【0103】
本発明の化合物は、遊離酸、遊離塩基または製薬的に有効なそれらの塩の形態であり得る。このような塩は、適切な酸で化合物を処理することにより容易に調製され得る。このような酸としては、例えば無機酸、例えばhydroholic酸(塩酸、hydrobiomic等)、硫酸、硝酸、リン酸等、および有機酸、例えば酢酸、プロパン酸、2−オキソプロパン酸、プロパン二酸、ブタンに酸等が挙げられるが、これらに限定されない。逆に、塩は、アルカリで処理することにより、遊離塩基形態に転換され得る。
【0104】
B.治療的終点および投薬量
本発明の方法により同定される化合物は、配座的不安定またはミスフォールド化タンパク質と関連した疾患の治療に有用である。配座的不安定またはミスフォールド化タンパク質に関連した疾患が知られており、それらの例としては、嚢胞性繊維症(CFTR)、マルファン症候群(フィブリン)、筋萎縮性側索硬化症(スーパーオキシドジスムターゼ)、壊血病(コラーゲン)、カエデシロップ尿病(α−ケト酸デヒドロゲナーゼ複合体)、骨形成不全(I型プロコラ―ゲンプロアルファ)、クロイツフェルト−ヤーコブ病(プリオン)、アルツハイマー病(β−アミロイド)、家族性アミロイドーシス(リゾチーム)、白内障(クリスタリン)、家族性高コレステロール血症(LDL受容体)、アルファ1−抗トリプシン欠損症、テイ−サックス病(β−ヘキソサミニダーゼ)、色素性網膜炎(ロドプシン)および妖精症(インスリン受容体)が挙げられる。もちろん、本明細書中に記載した方法および化合物は、癌の治療に特に有用であり、そして突然変異体p53遺伝子に関連した癌の治療に特に有用である。
【0105】
開業医または患者の見解から、疾患状態、特に癌性状態に関連した望ましくない症状(例えば、疼痛、感受性、体重減少等)の事実上あらゆる軽減または防止が望ましい、と当業者は理解する。さらに、癌性状態に関しては、腫瘍塊または増殖のあらゆる低減が、腫瘍の組織病理学的病像の改善と同様に、望ましい。したがって、本出願の目的のために、「治療」、「療法的使用」または「医学的使用」という用語は、本明細書中で用いる場合、疾患状態または症状を改善するか、あるいはそうでなければ、どんな方法でも、疾患またはその他の望ましくない症状の進行を防止し、妨害し、遅延しまたは逆転する特許請求組成物のあらゆるおよびすべての使用を指す。
【0106】
有効投薬および治療プロトコールは、慣用的手段により確定され、実験室動物において低用量で開始し、その後、効力を監視しながら投薬量を増大して、その上で投薬レジメンを体系的に変更し得る。動物試験、好ましくは哺乳類試験は、一般に、体重1kg当たりの生物活性物質の最大耐容用量またはMTDを決定するために用いられる。当業者は、効力に関して用量を定期的に推定して、ヒトを含めた他の種に対する毒性を回避する。
【0107】
効力についてのヒト試験が着手される前に、正常被験者における段階I臨床試験は安全用量を確立するのに役立つ。所定の被験者に関する最適投薬量を決定する場合、臨床医により多数の因子が考慮され得る。これらの中でも第一は、選定異種遺伝子生成物の毒性および半減期である。さらに別の因子としては、患者のサイズ、患者の年齢、患者の全身状態、治療中の特定の癌性疾患、疾患の重症度、患者中のその他の薬剤の存在、遺伝子生成物のin vivo活性等が挙げられる。試験投薬量は、動物試験の結果および臨床文献を考察後に選定される。
【0108】
実際の作業実施態様により以下に示されているように、ヒト癌の動物モデルにおける腫瘍増殖を阻害し、および/または後退させるためには、200 mg/kg/日の用量が非常に有効であった。この結果に基づいて、癌の治療のための化合物Xの典型的ヒト用量は、被験者の状態によって、静注により、または腫瘍塊に直接的に注入されるか、あるいは経口的に投与される0.1〜10 g/日である。異なるレベルの効力および/または毒性を有する化合物に関しては、これらの値は、もちろん、それに応じて変更される。さらに、用量は、1日当たり2回またはそれ以上の増分で投与され得る。
【0109】
本発明の方法に用いるための化合物は、長期および持続性投与のために徐放性移植装置としても処方され得る。このような持放性処方物の例としては、生物適合性ポリマーの複合材料、例えばポリ(乳酸)、ポリ(乳酸−共−グリコール酸)、メチルセルロース、ヒアルロン酸、コラーゲン等が挙げられる。薬剤送達ビヒクル中の分解可能ポリマーの構造、選択および使用は、いくつかの出版物、例えばA. Domb et al., Polymers for Advanced Technologies 3:279-292(1992)で検討されている。製剤処方物中のポリマーの選択および使用におけるさらに別の指針は、M. ChasinとLanger(編集)による教科書“Biodegradable Polymers as Drug Delivery Systems,”Vol. 45 of "Drugs and the Pharmaceutical Sciences," M. Dekker, New York, 1990および米国特許第5,573,528号(Aebischer等、1996年11月12日発行)に見出される。
【0110】
特に、in vivo使用が意図される場合には、本発明の種々の生化学的構成成分は、好ましくは高純度を有し、潜在的有害夾雑物(例えば、少なくともNational Food(NF)等級、一般的には少なくとも分析等級、好ましくは少なくとも製剤等級)を実質的に含有しない。合成またはその後の精製が、好ましくは、合成または精製操作中に用いられ得た可能性のあるいかなる毒性物質も実質的に含有しない生成物を生じる程度まで、所定の化合物は使用前に合成されねばならない。
【0111】
被験者における癌性状態の治療に用いるために、本発明は、その一局面において、本発明の方法に有効であることが示された化合物を含有するキットまたはパッケージも、滅菌充填バイアルまたはアンプルの形態で提供する。一実施態様では、キットは、単位用量または多数回用量で、即投与型処方物として、本発明の化合物、例えば化合物Y、化合物Xまたは化合物Zを含有し、この場合、パッケージは、癌の治療のためのその内容物の使用説明書を一緒に含入する。あるいは、そして本発明の別の実施態様によれば、パッケージは、このような化合物を含有する滅菌充填バイアルまたはアンプルを提供する。
【0112】
C.ドラッグ・デリバリー方法
p53ファミリーのタンパク質、特にp53DBDと相互作用するか、および/またはその野生型活性に影響を及ぼす化合物をスクリーニングする場合の工程の各々またはすべては、候補化合物に関する高スループット検定を受けることができる。高スループットスクリーンは当業界で周知であり、多数のフォーマットのいずれかで実施され得る。例えば、ELISH、シンチレーション近接技法、競合的結合測定法および置換結合検定は有用なフォーマットである。ロボット工学技術を含めた実験室自動操作は、多数の化合物をスクリーニングするのに必要な時間を大幅に低減し、例えば、数社の名前を挙げると、Tecan、Scitec、Rosys、Mitsubishi、CRS Robotics、FanukおよびBeckman-Coulter Sagianから市販されている。候補化合物が同定された後(またはそれらの同定と同時に)、二次スクリーニングが実施されて、p53ファミリーのタンパク質の活性に及ぼす化合物の細胞および/またはin vivo作用を確定し得る。
【0113】
1.本発明の方法および組成物により標的化されるp53ファミリーのタンパク質
p53は、すべての真核生物に遍在性である。したがって、本発明の方法および組成物中に用いるためのp53タンパク質およびp53DBDは、真菌(例えば、ビール酵母菌)、昆虫(例えば、ショウジョウバエ)および哺乳類(例えば、マウスおよび/またはヒト)を含めたあらゆる真核生物細胞からであるか、またはそれに由来し得るが、しかしヒトp53タンパク質が好ましい。構造および機能が関連したp53の付加的哺乳類相同体、特にp63およびp73が同定されている。p53ファミリーのこのようなタンパク質、ならびに例えばそれらのそれぞれのDBDも、本発明の方法および組成物に用いられ得る。さらに、未だ発見されていないp53ファミリーのタンパク質(本明細書中で定義されたような)も、本発明の方法および組成物に用いられ得る。
【0114】
前記のように、p53タンパク質は、少なくとも3つの異なるドメイン、即ちアミノ末端に位置する転写活性化ドメイン、中心DBDおよびカルボキシル末端のオリゴマー形成ドメインを含有する。さらに、負の調節ドメインは、タンパク質のカルボキシル末端に出現する。ヒト癌と関連するp53ミスセンス突然変異のほとんどが、DBDに生じる。本発明の方法および化合物は、このようなミスセンス突然変異のいずれかの配座の安定化に向けられる。特に好ましい標的は、残基位置175、245、248、249、273および282(全残基位置はヒトp53配列に関して示されている。他の生物体からのp53タンパク質中の同様の残基位置は、ヒト配列との相同アラインメントにより容易に確定され得る)での突然変異に関する1つ又はそれ以上のいわゆる「ホットスポット」を含有する突然変異体p53である。p53におけるその他の一般的突然変異は、132、135、138、141、143、146、151、152、154、157、158、159、163、173、176、179、186、194、196、213、220、237、238、241、242、258、266、272、278、280、281、285および286で起こる。これらも本発明に対する標的である。さらに、以下の突然変異体p53タンパク質:143A、173A、175S、241D、249Sおよび273Hの配座安定性を示す作業実例により、本発明を以下で説明する。
【0115】
p53タンパク質における、特にp53タンパク質のDBDにおけるミスセンス突然変異に関連した癌としては、結腸直腸癌、膀胱癌、肝細胞癌、卵巣癌、肺癌、乳癌、頭部および頸部の扁平上皮癌、食道癌、甲状腺癌および神経原性腫瘍、例えば星状細胞腫、神経節芽細胞腫および神経芽細胞腫が挙げられるが、これらに限定されない。前記の癌およびその他の癌は、本発明の方法および化合物により治療可能である。
【0116】
p53DBDは、ほぼアミノ酸残基100〜300に存在する。残基102〜292のタンパク質分解耐性コアはDNA結合に十分であることが示されており、p53DBD結晶構造は、残基94〜312に関して解明されている(Cho et al., 1994, Science 265, 346; Friend, 1994, Science 265, 334)。したがって、本発明の方法に用いるために、p53DBDドメインのN末端は残基50から開始して残基110までであり、好ましくは94〜102間のどこかで開始する。p53DBDのC末端は、残基286〜残基340で終結し、好ましくは残基292〜312で終結し得る。
【0117】
「p53の熱力学的不安定化突然変異体」は、生理学的温度(即ち約37℃)でのDNA結合のようなp53の1つ又はそれ以上の機能を保持しないが、低温で、または他の条件下でこのような機能(単数または複数)を回復する突然変異体である。例えば、一般的遭遇突然変異体はすべて、低温でin vitroでDNAを結合する能力を保持する(Friedlander et al., 1996、上記)。
【0118】
2.検定フォーマット
a.結合検定フォーマット
p53ファミリーのタンパク質のDBDに簡単に結合する化合物を同定するために用いられる検定の原理は、2つの化合物を相互作用させ、結合させるための条件下で、それに十分な時間、DBDタンパク質と被験化合物の反応混合物を調製し、したがって、反応混合物中で除去され、および/または検出され得る複合体を生成することを包含する。用いられるDBD種は、スクリーニング検定の目的によって変わり得る。例えば、特定の結合ドメインと相互作用する化合物が探索される場合、その結合ドメインを含有するp53ファミリーの全長タンパク質、DBDそれ自体、あるいは検定系(ラベリング、結果的に生じる複合体の単離等)に利点をもたらすタンパク質またはペプチドと融合したDBDを含有する融合タンパク質が利用され得る。本技法に用いるためのDBD由来のペプチドは、DBDの少なくとも6連続アミノ酸、好ましくは10連続アミノ酸、さらに好ましくは20連続アミノ酸、さらに好ましくは30または50でさえある連続アミノ酸またはそれ以上のアミノ酸を包含すべきである。
【0119】
スクリーニング検定は、種々の方法で実行され得る。例えば、このような検定を実行するための一方法は、DBDタンパク質、ポリペプチド、ペプチドまたは融合タンパク質あるいは被験物質を固相上に固着し、そして反応終了時に、固相上に固着されたDBD/被験化合物複合体を検出することを包含する。このような方法の一実施態様では、DBD反応体は固体表面に固着され、そして固着されていない被験化合物が直接または間接的に標識され得る。種々の適切な標識系のいずれかが用いられ得る。それらの例としては、放射性同位元素、例えば125Iおよび32P、ある物質および蛍光標識に曝露された場合に検出可能な比色定量シグナルまたは光を生じる酵素標識系が挙げられるが、これらに限定されない。本方法の別の実施態様では、固相上に固着されたDBDタンパク質が標識化抗体と複合体を形成する。その後、DBD/抗体複合体の会合を崩壊させるその能力に関して、被験化合物が検定され得る。
【0120】
実際問題として、微小滴定プレートは、固相として便利に利用され得る。固着構成成分は、非共有または共有結合により固定され得る。非共有結合は、タンパク質の溶液で固体表面を単に被覆し、乾燥することにより成し遂げられ得る。あるいは、固定化抗体、好ましくは固定されるタンパク質に特異的なモノクローナル抗体が、固体表面にタンパク質を固着するために用いられ得る。表面は、予め調製され、保存され得る。
【0121】
検定を実行するために、固着構成成分を含有する被覆表面に非固定化構成成分が付加される。反応完了後、生成されたあらゆる複合体が固体表面に固定されたままであるような条件下で、未反応構成成分が除去される(例えば洗浄により)。固体表面に固着された複合体の検出は、多数の方法により成し遂げられ得る。予備非固定化構成成分が前標識化される場合、表面に固定された標識の検出は、複合体が生成されたことを示す。予備非固定化構成成分が前標識化されない場合には、表面に固着された複合体を検出するために、例えば予備非固定化構成成分に特異的な標識化抗体を用いて、間接標識が用いられ得る(抗体は次に、標識化抗Ig抗体で直接的に標識されるか、または間接的に標識され得る)。
【0122】
他の実施態様では、結合は、直接または間接標識を使用せずに検出され得る。例えば、結合が起きた場合に変わる生物物理学的特性が検定され得る。このようなスクリーニングに特に有益である固体支持体系は、BIAcore2000系(BIAcore, Inc., Piscataway, NJから市販)である。BIAcore(商標)計器(http://www.biacore.com)は、表面プラスモン共鳴(SPR)の光学的現象を用いて、実時間での生物特異的相互作用を監視する。SPR効果は、本質的には、金属−液体界面での屈折率の局所的変化に影響される無限小電場である。センサーチップは、ガラスと検定される配位子またはタンパク質が化学的に連結されるカルボキシメチルデキストランマトリックスとの間の金フィルムのサンドイッチ状物から作製される。このセンサーチップは、分析物化合物がそれを通して注入され得るフローセルを形成する流体素子工学カートリッジ上に取り付けられる。センサーチップ上での配位子−分析物相互作用は、チップ表面から反射される偏光光線の角度の変化として検出される。チップとの任意の塊の結合は、金/デキストラン層中のSPRに影響を及ぼす。金層中の電場のこの変化は反射光線と相互作用して、結合した塊の量に比例して反射の角度を変える。反射光は、ダイオードアレイ上で検出されて、応答単位(RU)として表される結合シグナルに翻訳される。応答は結合された塊に直接比例するので、タンパク質−タンパク質相互作用に関する速度論的および平衡定数が測定され得る。
【0123】
あるいは、反応は液相で実行され、反応生成物が未反応構成成分から分離され、複合体が検出される。
b.p53ファミリーのタンパク質の配座の測定方法
p53のタンパク質の配座は、多数の異なる方法のいずれかで測定され得る。例えば、抗体は、p53DBDの配座をプローブするために用いられ得る。本発明の好ましい方法は、p53および/またはp53DBDの活性(例えば、DNA結合)または不活性(熱力学的不安定化、あるいはミスフォールド化またはアンフォールド化)配座に特異的であるモノクローナル抗体を用いる。例えば、p53DBD上のエピトープを認識するmAb1620は、p53タンパク質の腫瘍サプレッサー活性と密接に関連する(Ball et al., 1984, EMBO J. 3:1485-1491; Gamble et al., 1988, Virology 162:452-458)。したがって、mAb1620は、それが不活性配座をとる場合には、p53DBDを結合しない。逆に、mAb1620により認識されるエピトープは、p53が突然変異により不活性化されるかまたは野生型p53が変性される場合に、露呈される(Bartek et al., 1990, Oncogene 5, 893-899; Stephen et al., 1992, J. Mol. Biol. 225, 577-83)。配座特異的であることが知られているかまたはいずれは発見されるその他のモノクローナル抗体も、本発明の方法に用いられ得る。このような抗体は、高スループットスクリーンに容易に採用され得るために、有用である。モノクローナル抗体を含めた抗体の製造方法は、当業界で周知である。
【0124】
p53またはp53DBDのようなp53ファミリーのタンパク質の配座の他の測定方法としては、染料の吸収、分光分析的(例えば、円二色性、NMR)、サイズ排除クロマトグラフィー、超遠心分離、特異的DNA結合(例えば、低温と対照したものとして生理学的温度での)、および特異的タンパク質結合(例えば、SV40大型T抗原は、野生型活性配座とのみ結合し、不活性配座と結合しない)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
前記のように、一般的に遭遇するp53突然変異の多くは生理学的温度でDNAを結合できないが、しかし低温でDNAを結合する。したがって、被験化合物の存在下でのp53ファミリーのタンパク質の配座を測定する一局面は、温度依存性である。好ましくは、配座は、生理学的温度(約38℃)で測定される。適切な範囲は20℃〜50℃、さらに好ましくは35℃〜42℃である。標的タンパク質の配座はさらに、2〜3分から数時間までまたはそれ以上の時間に亘って測定され得る。野生型p53タンパク質またはp53DBDがスクリーニングに用いられる場合、加熱は一般に、突然変異体p53DBDが用いられる場合よりも長時間且つ高温で実施される。本明細書中で提供された情報を用いて、当業者は適切な温度を容易に決定し得る。
【0126】
さらに、化合物の結合と、p53ファミリーのタンパク質の配座のあらゆる変化とを同時に検定し得る。このような検定では、被験化合物の存在下でのp53ファミリーのタンパク質の配座の変化は、一ヒットとして点数をつけられる。p53DBDと相互作用して配座変化を引き起こす化合物に関して検定する高スループットスクリーニングは下記の例により説明されるが、それらに限定されない。これらの高スループットスクリーニングは、本発明の方法に用いるためのある種類の化合物を同定し得た。ほぼ生理学的温度で、これらの化合物は野生型および種々の突然変異体p53タンパク質上のmAb1620に対する配座感受性エピトープの安定性を増強した。低μmol濃度の化合物は、生存細胞内のエピトープの配座安定性を一時的に増強し、突然変異体p53が転写を活性化するのを可能にした。下記でさらに詳しく記載されるように、有機非ペプチド化合物は、突然変異体p53を有する腫瘍を保有するマウスに投与された場合、p53配座および機能を変調し、天然突然変異化p53を有するヒト腫瘍異種移植片の増殖を有意に阻害した。
【0127】
c.細胞ベースおよび動物ベースの検定
前記の一次スクリーン(単数または複数)を用いて候補化合物が同定されると、これらの系における候補化合物の作用を確定するために、細胞ベースおよび動物ベースの検定が一般に実行される。初期検定は、p53ファミリーのタンパク質をコードする突然変異体遺伝子を有する腫瘍由来の細胞株、またはp53ファミリーの突然変異体タンパク質を発現するよう操作された細胞株を包含し得る。p53ファミリーのタンパク質の野生型活性のいずれか(またはすべて)に及ぼす候補化合物の作用が査定される。例えば、候補化合物の存在下でのWAF1の誘導は、無差別的結合特性というよりむしろ特異的DNA結合特性を促進することにより、化合物は突然変異体p53中に機能を保存することを示す。p53またはp53ファミリーのその他の成員により上向き調節されるかまたは下向き調節された任意の遺伝子が検査され得る。p53ファミリーのタンパク質のその他の活性としては、増殖抑制およびアポトーシスが挙げられる。増殖抑制は、顕微鏡的にまたはコロニー形成検定により、組織培養細胞で容易に査定される。アポトーシスは、TUNEL染色またはpropidium iodide染色およびフローサイトメトリーにより可視化され得る。
【0128】
さらに、動物ベースのモデルは、候補化合物の毒性および有効性の両方に関してスクリーニングするために用いられ得る。例えば、突然変異体p53を有する腫瘍がある動物モデルで誘導され、候補化合物が動物に投与される。毒性および腫瘍増殖または後退が査定される。このようなスクリーニングの作業例を以下に提示する。
【0129】
3.スクリーニングのための化合物の供給源
本発明にしたがってスクリーニングされ得る化合物としては、細胞中に入って、p53ファミリーのタンパク質の活性に影響を及ぼし得る小型有機分子が挙げられるが、これらに限定されない。2〜3の供給元の名前を挙げると、例えばPharmacia、Arqule、Enzymed、Sigma、Aldrich、Maybridge、TregaおよびPanLabsといった会社から、多数の化合物ライブラリーが市販されている。p53DBDと相互作用する化合物に関して、天然物質または合成化学物質を含めた既知の化合物、ならびにタンパク質を含めた生物学的活性物質のライブラリーもスクリーニングし得る。しかしながら、好ましい化合物は、タンパク質またはペプチド(即ち、ペプチド結合により連結される3個またはそれ以上の一続きのアミノ酸)でない。抗体は、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンの断片を結合する抗原であるペプチドである。好ましい化合物は、抗体でもない。本発明の方法に用いるための化合物の特定の種類および例を以下に説明する。
【0130】
p53ファミリーのタンパク質の野生型活性を促進する化合物が同定されれば、分子モデリング技法を用いて、より有効な化合物の変異体を設計し得る。分子モデリング系の例は、CHARM(Polygen Corporation, Waltham, MA)およびQUANTAプログラム(Molecular Simulations Inc., San Diego, CA)である。CHARMはエネルギー最小化および分子動力学機能を実施する。QUANTAは、相互の分子の行動の相互作用構築、修飾、可視化および分析を可能にする。
【0131】
例えば、p53ファミリーのタンパク質の野生型活性を促進する化合物が同定されれば、その化合物を用いて、仮説を立て得る。以下でさらに詳述するように、好ましい仮説は、平面多環式疎水性基は、極性アミンから約5〜9オングストローム、さらに好ましくは6〜8オングストロームの間隔を置いたというものである。このような仮説は、プログラムCatalyst(Molecular Simulations Inc., San Diego, CA)を用いて、本発明の化合物のいずれかからもたらされ得る。さらに、Catalystは、その仮説を用いて、所有権データベース、Cambridge小型分子データベース(Cambridge, England)、ならびに上記のその他のデータベースを検索して、本発明の化合物のさらに別の例を同定し得る。
【0132】
本発明の化合物は、Ludi、Insight II、C2-Minimizer and Affinity(Molecular Simulations Inc., San Diego, CA)のようなモデリングパッケージを用いてより有効な変異体を設計するためにさらに用いられ得る。特に好ましいモデリングパッケージは、MacroModel(Columbia University, NY, NY)である。
本発明の化合物はさらに、理論的組合せライブラリーを開発するための基礎として用いられ得る。組合せライブラリーの性質はライブラリーの基礎を形成するために本発明の好ましい化合物から選定される特定の化合物、および樹脂を用いてライブラリーを合成したいという要求のような因子によっているが、しかし、本発明の化合物はC2−QSAR(Molecular Simulations Inc., San Diego, CA)のような組合せ設計プログラムに適した必要なデータを提供する、と認識される。
【実施例】
【0133】
本発明を説明してきたが、以下の実施例により本発明をさらに説明する。本発明はこれらに限定されない。
VI.実施例1:p53DBD熱安定化検定
野生型p53DBDを用いた高スループット検定を開発した。本検定を用いて薬理学的化合物をスクリーニングし、DBDの活性配座を安定化するそれらの化合物をヒットとして点数をつけた。
【0134】
A.材料および方法
熱安定化検定. 野生型および突然変異体p53タンパク質からの組換えDBD(残基94〜312)およびFLAG−タグ化p53DBDを記載通りに調製した(Pavletich et al., 1993, Genes and Dev. 7, 2556-2564; Bullock et al., 1997、上記)。用いた突然変異体タンパク質は、143A、173A、175S、249Sおよび273Hであった。多数の小型分子有機化合物を試験した。化合物ストックを10 mg/mlでDMSO中に溶解し、使用前に稀釈した。25 mMHEPES、pH6.8、150 mMKCl、10 mMジチオトレイトールを含有する緩衝液中に、タンパク質(0.25〜1.0 ng/ウエル)を稀釈し、氷上で35分間、50 ul中でReacti-Bind微小滴定プレート(Pierce)にくっつけた。ウエルを25 mMHEPES、pH6.8、150 mMKClですすぎ、化合物または稀釈DMSOビヒクルを付加し、プレートを指定温度でインキュベートした。氷上にウエルを置くことによりインキュベーションを終結させた。エピトープがそれ以上変化しないようにするために、氷上にプレートを保持しながら、ELISA検定を実施した。第一抗体の付加前に、HEPES/KCl緩衝液中の冷5%スキムミルク(Difco)でウエルを1時間遮断した。モノクローナル抗体mAb1620、mAb240(Calbiochem)および抗−FLAG M2抗体(Eastman Kodak Company)をHEPES/KCl中で1:100〜1:250で稀釈し、100 ul/ウエルで30分間付加した。プレートを冷HEPES/KCl緩衝液で2回すすぎ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)−共役抗マウスIgG(Boehringer Mannheim)とともにさらに30分間インキュベートした。TMB展開剤(Pierce)を用いてHRPシグナルを発現させ、シグナルの光学密度を、450 nmに設定したBioRadマイクロプレート読取器で読み取った。
【0135】
B.結果
p53DBDの配座は熱不安定性である. mAb1620により認識されるエピトープは配座依存性であり、p53上のその存在はタンパク質の腫瘍サプレッサー活性と密接に関連する(Ball et al., 1984,上記; Gamble and Milner,1988、上記)。逆に、mAb240により認識されるエピトープは、p53が突然変異により不活性化されるかまたは野生型p53が変性される場合に、露呈される線状エピトープである(Bartek et al., 1990, Oncogene 5, 893-899; Stephen et al., 1992, J. Mol. Biol. 225, 577-583)。組換えヒトp53DBD(残基94〜312)はin vitroで活性配座から不活性配座への遷移を経て、240エピトープを蓄積しながら1620エピトープを次第に失う。微小滴定プレート上に固定された精製p53DBDを生理学適温度近くに加熱して、ELISAフォーマットでmAb1620を用いてプローブした。1620エピトープは、温度および時間依存性方式で損失された(図1A)。1620エピトープの損失は、DBDに結合されたFLAGエピトープが依然として十分に安定であるために、配座の損失に特異的に関連した(図1B)。さらに、1620エピトープの損失は240エピトープの出現増強と共同して起こったが、これは1620エピトープの損失がp53DBDの配座的変化を反映し、固定化タンパク質の損失はそうではないことを確実にする。
【0136】
野生型p53DBD上の1620エピトープの半減期は23℃で約35分であって、高温では漸増的に減少し、45℃では5分未満になった(図1A)。平行して、ゲルシフト検定におけるp53DBDのDNA結合能力は、溶液中で加熱時に低減された(データは示されていない)。野生型p53DBD上の1620エピトープの半減期は、37℃で位置143突然変異体DBDの場合の約2倍であった(図1C)。この知見は、いくつかのその他の突然変異体p53タンパク質に関する熱力学的安定性低減についての以前の報告と一致し、1620エピトープがp53DBDの配座をモニタリングするために利用され得ることを確定する(Bullock et al., 1997、上記)。
【0137】
化合物はp53配座を安定化する. ELISA検定を用いて、活性p53配座を安定化し、突然変異体タンパク質に野生型機能をより良好に保持させる化合物を同定した。いくつかの化合物は、生理学的温度でのmAb1620に対するエピトープの損失を抑制した(例えば、図2A参照)。mAb1620に対するエピトープの50%を安定化するのに必要な濃度を測定することにより、滴定実験において、化合物の相対能力を確定した。活性化合物は、用量依存的方法でエピトープを安定化した(図2B)。DMSO溶媒および活性化合物のいくつかの類似体は、安定化することができなかった(図2B。表1および2参照)。いくつかの突然変異体p53タンパク質からのDBDと同様に、全長野生型p53も安定化された(データは示されていない。図2C)。化合物の存在下では、突然変異体タンパク質は、化合物の非存在下での野生型タンパク質と同様に安定であった。
【0138】
化合物はmAb1620に対するエピトープを保存したが、しかしそれらは、エピトープをすでに失っていたp53を救援しなかった。例えば、化合物Yの付加前にp53DBDを加熱した場合、mAb1620反応性の増大は認められなかった。エピトープ損失速度は存在する化合物に伴って低減されたが、しかし長期加熱は1620−陽性配座の結果的損失を引き起こした。さらに、37℃でのインキュベーション前の化合物Yの付加および洗い落としたがってエピトープの損失を妨げなかったために、化合物はp53と非可逆的に結合するとは思われなかった(データは示されていない)。これらの知見は、p53DBDと化合物との相互作用がタンパク質に、mAb1620により認識されるような機能的配座をより安定的に保持させるモデルと一致する。
【0139】
活性化合物の構造. 同定された活性化合物はすべて、特定長のリンカーにより疎水性基(平面多環式)および陽イオン性基(しばしばアミン)と一緒に結合する。疎水性(R1)位置のベンズイミダゾール、ベンゾキノリン、フェノチアジンおよびスチリルキナゾリンは活性であったが、一方、これらの基および単一二環式または一環式基における微妙な変化は試験した特殊条件下では活性でなかった(表1)。mAb1620に対するエピトープの50%を安定化するのに必要な量の化合物の2つの適合対(表1参照)間に10倍より大きい差が認められた場合に、化合物は、この検定において「活性」であると称された。したがって、本検定により不活性と称された化合物は絶対的に不活性であるというわけではなく、相対的に不活性であるだけであることに留意すべきである。したがって、活性陽イオン性(R2)基としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、メチルアミン、メチルピペラジンおよびモルホリンが挙げられた(表1)。ある種の大型アミンは、フェノチアジンシリーズで試験した場合、相対的により活性であった。R2位置の負荷電または非荷電基、例えばカルボキシルまたはベンゼン基は、本検定で明示したように、不活性であった(表1)。R1およびR2基間の間隔も、プロピル長より短いリンカーが相対的化合物活性を低減する場合、本検定における化合物活性にとって重要であった(下記の表2参照)。ブチルリンカーはプロピルリンカーよりわずかに低効力であったが、一方、本検定において低活性を示した化合物ではより長いリンカーが観察された(表2。データは示されていない)。的確な距離を保持する分枝鎖リンカーは一般に、対応する線状リンカーより活性であった。これらの一般的観察は本発明の範囲を限定しないが、しかし、さらなる分子を設計するための本発明の実施に用いられ得る。
【0140】
【表1】
【0141】
滴定実験において、mAb1620に対するエピトープの50%を安定化するのに必要な化合物の量により、相対的効力を確定した。
【0142】
【表2】
【0143】
C.考察
結果は、突然変異体p53機能の回復、ならびに抗癌療法の開発のための新規の戦略のための原理の証拠を実証する。本実施例は、単離DBDに作用してその配座安定性を促進し得る化合物の第一ファミリーの発見を報告する。
VII.実施例2:細胞および腫瘍中のp53配座の確定
本実施例および以下の実施例では、低μモル濃度で機能して生きた細胞中および腫瘍中の突然変異体p53を変調し、天然突然変異化p53を有する腫瘍の増殖を抑制する原型化合物を示す。
【0144】
A.材料および方法
細胞培養. ATCCから全細胞株を入手し、10%ウシ胎仔血清(Gibco BRL)を含有する推奨培地中で増殖させた。
p53配座の確定. 約1 x 10H1299/レポーター+突然変異体p53細胞を一夜処理し、冷トリス緩衝化食塩水で3回すすぎ、1.5 mlの低張溶解緩衝液(20 mMHEPES、pH7.4、10 mMNaCl、20%グリセロール、0.2 mMEDTA、0.1%トリトン−X100、10 mMジチオトレイトール、プロテアーゼ阻害剤含有)中で溶解した。2000 rpmで、4℃で5分間、細胞を微小遠心管中でペレット化し、0.5 MNaClを含有する同一緩衝液中にペレットを再懸濁することにより核抽出物を調製した。0.5 MNaClを含有する前記の緩衝液3容積を用いて、Dounceホモジナイザー中で腫瘍試料を均質化した。10,000 rpmで4℃で10分間の遠心分離により、溶解物を透明にした。mAbDO−1抗体を用いてウエスタンブロットから定量されるようなp53含量に関して、核抽出物を標準化し、0.05 Mの炭酸塩緩衝液、pH9.6中に1 ug/mlでのmAbDO−1で4℃で一夜被覆されていたMaxiSorp F96プレート(Nunc)のウエル上にp53を捕獲した。冷PBSでウエルを洗浄し、PBS中の4%スキムミルクを用いて4℃で3時間、遮断し、スキムミルク中のHRP−共役化mAb1620抗体を用いてプローブした。抗体インキュベーションは氷上で1時間であって、その後、0.05%トゥイーン20を含有するPBS中でウエルを3回洗浄し、TMB基質を用いてシグナルを発現させた。大量の1620−陽性p53を発現した温度シフト化(32℃)H1299/レポーター+突然変異体p53細胞からの溶解物を用いて、標準曲線を確立した。試料の定量は標準曲線の線状範囲内であり、各試料中の総p53に関して、ならびに未処理溶解物中の1620−陽性p53分画に関して補正した。
【0145】
B.結果
細胞中の配座の安定化. 細胞性p53の1620−陽性配座を安定化する化合物の能力を、専ら突然変異体p53を発現する生きた細胞を用いて試験した。p53を有さないH1299細胞を腫瘍由来突然変異体p53(位置173)を用いてトランスフェクトし、非配座感受性p53抗体(mAbDO−1)をウエスタンブロットに用いて、十分量の突然変異体タンパク質を発現するクローンを選択した。mAb1620に対するエピトープを表示する低定常状態レベルのp53をトランスフェクタントからの抽出物中に検出して、突然変異体p53の小分画が活性配座を保持し得ることを確証した(Chen et al., 1993, Oncogene 8, 2159-2166)。低μモル濃度の化合物Xは、細胞中の1620陽性p53の定常状態分画を約5倍増大した(図3A)。処置後4〜6時間で、最大レベルのエピトープ濃縮を達成した。タンパク質のアミノ末端に位置する非配座感受性エピトープに対して向けられるmAbDO−1との反応性により測定した場合、p53の総量は変わらなかった。
【0146】
C.考察
結果は、本発明の方法により同定された配座安定化化合物が生きた細胞中のp53の活性配座を安定化し得ることを示す。腫瘍中の突然変異体p53を回復する化合物は、全非機能的p53プールまたはmAb1620に対するエピトープを表示するp53のサブセットを標的にし得る。本明細書中に記載した化合物に関する重要な標的は、活性配座を依然として保持する新規合成突然変異体p53であると思われる。実際、化合物は1620エピトープの存続を増強したが、しかしin vitro予備加熱のために損失された1620エピトープを回復することはできなかった。新規合成p53における活性配座の安定性を増強する化合物は、時間依存的方法で機能的p53の定常状態レベルの蓄積を可能にし得る。細胞中の最大1620エピトープ増強の達成に関して観察された4時間遅延は、この仮説と一致する(図3A)。
【0147】
VIII.実施例3:p53機能の回復
A.材料と方法
トランス活性化検定. DOTAP陽イオン性脂質トランスフェクション試薬(Boehringer Mannheim)またはリン酸カルシウムを用いて突然変異体p53タンパク質(173A、249S)をコードする発現プラスミドおよびネオマイシン選択性マーカーで細胞をトランスフェクトした。ヒグロマイシン耐性マーカーをコードするプラスミド、およびルシフェラーゼ遺伝子を誘導するSV40基本プロモーターの上流に置かれる単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(GenBank寄託番号S57428チミジンキナーゼの塩基番号26〜58。これは配列GCCTTGCCTで開始して、配列TGCCTTTTCで終結する)のプロモーター領域におけるp53結合配列の4つのコピーから成るp53レポーター遺伝子でも、細胞をトランスフェクトした。突然変異体p53発現のための付加的構築物を有するレポーター構築物で細胞のクローンをトランスフェクトすることにより、適合細胞対を調製した。適宜、ヒグロマイシンまたはG418を含有する培地中での増殖に関して、トランスフェクト化クローンを選択した。96ウエル組織培養プレート(Costar)中の単層細胞を化合物で処理し、基質転換検定(Promega)を用いてルシフェラーゼ活性を測定し、Dynatechマイクロプレートルミノメーターで定量した。
【0148】
WAF1およびp53発現. 培養細胞を21時間処理し、冷トリス緩衝化食塩水で3回すすぎ、掻き取って、10,000 rpmで30秒間ペレット化した後、50 mMHEPES、pH7.5、0.1%NP−40、250 mMNaCl、5 mMEDTA、50 mMNaF、1 mMDTT、50 ug/mlアプロチニン、1 mg/mlPefabloc(Boehringer Mannheim)中にそれらを再懸濁した。Bradford試薬(BioRad)を用いてタンパク質濃度を確定し、5または10 ugの細胞溶解物を8〜16%勾配ポリアクリルアミド/SDSゲル(Novex)上に載せた。20%メタノールを含有するTowbin緩衝液(Towbin et al., 1979, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76, 4350)中のImmobilon P膜(Millipore)上に、タンパク質を移した。32.547.5 kDa分子量マーカー間で膜を二分して、SuperBlock(Pierce)+3%スキムミルク中で、室温で1時間遮断した。モノクローナル抗体クローンEA10(CalbiochemWAF1 Ab−1)を用いてWAF1発現に関してブロットの底半分をプローブし、mAbDO−1(Calbiochemp53Ab−6)を用いて全p53発現に関してブロットの上半分をプローブした。0.1%トゥイーン20を含有するトリス緩衝化食塩水を3回取り換えてブロットを1時間洗浄した後、第二抗体HRP共役抗マウスIgGを付加した。ルネッサンスECL(DuPont)を用いて帯域を可視化し、ハイパーフィルムECL(Amersham Life Science)に曝露した。
【0149】
B.結果
細胞中のp53機能の回復. p53配座の安定化が野生型機能の良好な保持を生じたか否かを確定するために、p53の配列特異的転写活性を調べた。H1299細胞をp53誘導性ルシフェラーゼレポーター遺伝子でトランスフェクトし、安定クローン(H1299/レポーター)を突然変異体p53で補佐的にトランスフェクトして、レポーター遺伝子と位置173突然変異体p53の両方を発現する適合クローン(H1299/レポーター+突然変異体p53)を得た。レポーター遺伝子誘導により測定した場合、化合物は、突然変異体p53の転写活性を増強した(図3B)。H1299/レポーター細胞中で低レベルの転写活性化が観察されたが、これは、p53相同体であるp73の存在によると思われる(データは示されていない)。これらの化合物がp73活性を増強し得るか否かを我々は未だ確定していないが、しかしレポーター遺伝子誘導における広範なp53依存性増大は、p53がこれらの細胞中での第一標的であることを示唆する。高用量での化合物の有効性は細胞剥離により制限されたので、レポーター遺伝子のp53依存性活性化は相対的に小濃度範囲で起きた。転写活性の増強は、処理後12〜16時間でピークを生じた(データは示されていない)。この観察は、処理後4〜6時間目に起きた機能的p53配座の安定化御の派生的事象として生じるレポーター遺伝子発現と一致する。
【0150】
化合物Yは、レポーター遺伝子誘導検定においては、化合物Xより優れていた。これは、DNA損傷を包含して、p53タンパク質のレベル上昇をもたらす化合物Yの二次作用によるものと思われる(図3B)。化合物Yは、細胞活性に必要な濃度で全p53タンパク質レベルを増強したが、化合物Xは増強しなかった。DNA損傷が単に化合物Yによるp53レポーター遺伝子誘導に寄与するだけではないことを保証するために、DNA損傷剤アドリアマイシンの作用を試験した。アドリアマイシンは、細胞中での突然変異体p53蓄積を誘導するその能力にもかかわらず、広範囲の濃度(0.4〜40 ug/ml)内でレポーター遺伝子を誘導しなかった(データは示されていない)。これらの結果は、突然変異体p53の蓄積ではなく、配座安定化が、特異的転写活性を促進し得る、ということを実証する。特に、全p53タンパク質の定常状態レベルを上げない化合物Xは、配座安定化により独自にp53転写機能を回復すると思われる。
【0151】
化合物Xは、突然変異体p53の存在下で、p53応答性細胞遺伝子生成物であるWAF1を上向き調節した。p53を発現しないSaos-2骨肉腫細胞を突然変異体p53発現ベクターでトランスフェクトして、2つの突然変異体(位置173または位置249)のいずれかを発現するクローンを単離した。クローンは、親Saos-2細胞と比較した場合、より低い基本レベルのWAF1を発現したが、これは、迅速増殖クローンを我々が選択したことを反映するものと思われる。これらの細胞を化合物Xで16時間処理し、等量のタンパク質を示す溶解物を、p53およびWAF1に関してウエスタンブロットで分析した。2つの突然変異体p53タンパク質のいずれかを発現した細胞は、処理時にWAF1の発現レベルの上昇を示したが、親Saos-2細胞は示さなかった(図4)。これらの溶解物中のp53タンパク質の総量は、本質的には変わらなかった。アドリアマイシンは突然変異体p53を有するSaos-2細胞中でのWAF−1発現を誘導しなかったが、しかし野生型p53を発現するU2OS細胞中でのWAF−1発現を上昇させた(データは示されていない)。
【0152】
C.考察
本明細書中に記載した配座安定化剤の作用様式は、伝統的細胞傷害性抗新生物剤に関して観察されたものとは明らかに異なる。癌の化学療法に用いられる細胞障害剤は一般に、突然変異体p53を有する細胞では無効である(Lowe et al., 1993, Nature 362, 847-849; O'Connor et al., 1997, Cancer Res. 57, 4285-4300)。実際、DNA損傷剤であるアドリアマイシンは、我々の検定において、転写活性に関して突然変異体p53を回復しなかった。細胞傷害性化合物は、正常および腫瘍細胞中での総p53タンパク質の顕著な誘導によっても検証される。化合物Xは細胞中または腫瘍中の総p53タンパク質レベルを誘導しなかった。p53誘導は細胞DNA損傷の高感度測定であるので、化合物Xが有効濃度でDNAを損傷し得るとは思われない。合わせて考えると、我々の知見は、1620陽性配座の安定化および突然変異体p53活性の機能的回復がDNA損傷非依存性メカニズムにより起こり得る、ということを示す。
【0153】
数通りの証拠が、タンパク質安定化に及ぼす非特異的作用を排除する。水を置換し、タンパク質分子周囲のより疎水性の微小環境を作ることにより機能するタンパク質変性の非特異的阻害剤であるグリセロールは、600 mMの濃度で細胞中の突然変異体マウスp53の核局在化を回復し得る(Brown et al., 1997, J. Clin. Invest. 99, 1432-1444)。化合物Xは、本検定においては0.03 mMで活性であったが、これは、化合物とp53との間の特異的接触を包含する非常に緻密な相互作用を示唆する(データは示されていない)。さらに、化合物Xが培養中およびin vivoで非常に過剰量の他のタンパク質の存在下でp53配座に影響を及ぼし得るという観察(下記参照)は、p53の選択的認識と一致する。さらに、p53との化合物相互作用の性質は、ネイティブタンパク質構造との密接な結合を包含しない。遷移状態のタンパク質分子の小サブセットとの強い相互作用は、活性配座からの逸脱を遮断するか、またはネイティブ配座への方向転換を促進するよう機能し得る。
【0154】
IX.実施例4:腫瘍増殖検定
A.材料と方法
腫瘍増殖検定. 培養細胞をPBSですすぎ、1 x 106A375.S2または5 x 106DLD1細胞を90%Matrigel(Becton Dickinson)中で、20 gの雌NU/NU−nuBRマウス(Charles River Laboratories)の片方の右脇腹に接種した。0.1%プルロニックP−105(BASF)を含有する生理食塩溶液中で、化合物Xを腹腔内投与した。カリパスを用いて腫瘍直径を二次元で測定し、腫瘍容積に変換した(Euhus et al., 1986, J. Surg. Oncol. 31, 229-234)。
【0155】
B.結果
in vivoでのp53の変調. 化合物Xは、突然変異化p53を有する腫瘍中のmAb1620に対するエピトープを表示するp53分画の定常状態レベルを増強した。注入H1299/レポーター+突然変異体p53細胞由来の皮下腫瘍を保有するマウスに、化合物を100 mg/Kgで腹腔内投与した。化合物の1回投与後に動物を屠殺し、総および1620-陽性p53発現に関して、腫瘍溶解物を分析した。総p53レベルは、mAbDO−1を用いたウエスタンブロットで測定した場合、変化がなかった。総p53含量の小変動に対して溶解物を標準化して、mAb1620に対するエピトープの発現に関してELISA検定で試験した。エピトープは、処理後3〜5時間内に増大された(図5)。in vivo応答の時間経過は、培養細胞の場合と同様であった(図3A)。
【0156】
in vivo突然変異体p53の機能的回復を評価するために、処置および未処置動物からの腫瘍中のルシフェラーゼレポーター遺伝子の発現を我々は査定した。投薬後8時間目に、最大4.5倍のレポーター遺伝子誘導が観察された(図5)。配座的および機能的応答間のタイムラグは、ルシフェラーゼ転写体の翻訳およびタンパク質の蓄積にようする時間を反映し得る。マウスにおける化合物のピーク血漿濃度は10 ug/mlであったが、これは細胞中のレポーター遺伝子の最大誘導に必要なものより低かった(データは示されていない)。したがって、培養細胞と比較して、腫瘍中のより低レベルのレポーター遺伝子誘導は、次善の曝露によると思われる。
【0157】
C.考察
結果は、配座安定化化合物が多数の無作為選定突然変異体を機能的に回復し得る、ということを示す。したがって、本発明の方法および化合物は、異なるp53突然変異体に広範に適用可能である。例えば、小DNA接触部位に影響を及ぼすDLD−1細胞中の位置241突然変異は、化合物Xの安定化活性により機能的に補足され得る。したがって、DNA接触部位のいくつかを含めた非常に多数のp53突然変異体は、活性配座の安定化時に回復され得る。
【0158】
化合物Xは、in vitroで野生型および突然変異体p53の両方の配座を安定化するにもかかわらず、in vivoで治療的選択性を実証した。実際、本化合物は安全であると思われたし、マウスに200 mg/kg/日(100 mg/kg/1日2回)で14連続日投与した場合に、脂肪は観察されなかった(データは示されていない)。選択性は、腫瘍細胞中での非常に高いレベルと比較した場合の、正常細胞中のp53の非常に低い定常状態レベルによるものと思われる(Lassus et al., 1996, EMBO J. 15, 4566-4573)。さらに、腫瘍特異的ストレス、例えばDNA病変および酸素または栄養素欠乏は、p53のアポトーシス作用に対して腫瘍細胞を優先的に導き得る(Chen et al., 1996, Genes and Dev. 10, 2438-2451)。そのような場合、p53安定化化合物を放射線または遺伝子傷害性療法と組合せることにより、共働的抗腫瘍作用を成し遂げ得る。
【0159】
前記の明細書は、当業者が本発明を実施し得るに十分である。実際、分子生物学、医学または関連分野の当業者に明らかである本発明の実行のための前記の手段の種々の修正は、以下の特許請求の範囲内であるよう意図される。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1A】p53DBD上の配座依存性エピトープの変調 p53DBDを微小滴定ウエル中で固定し、高温でインキュベートした。ELISA検定は、氷上に保持された対照ウエルと比較した場合の、加熱ウエル中に残存するmAb1620に対するエピトープのパーセントを確定した。0.5 ngの野生型p53DBDをインキュベートした。mAb1620に対する残存エピトープは、非加熱対照のパーセントとして示される。標準偏差は<10%であった。
【図1B】p53DBD上の配座依存性エピトープの変調 p53DBDを微小滴定ウエル中で固定し、高温でインキュベートした。ELISA検定は、氷上に保持された対照ウエルと比較した場合の、加熱ウエル中に残存するmAb1620に対するエピトープのパーセントを確定した。1.25 ngのFLAGタグ化p53DBDを固定し、45℃で加熱して、抗FLAG、mAb1620およびmAb240に対する残存エピトープを非加熱対照のパーセントとして示した。
【図1C】p53DBD上の配座依存性エピトープの変調 p53DBDを微小滴定ウエル中で固定し、高温でインキュベートした。ELISA検定は、氷上に保持された対照ウエルと比較した場合の、加熱ウエル中に残存するmAb1620に対するエピトープのパーセントを確定した。mAb1620に対するほぼ等レベルのエピトープを示した1.0 ngの野生型および位置143突然変異体p53DBDを37℃で加熱し、エピトープの安定性を非加熱対照のパーセントとして監視した。誤差バーは、4つの反復実験に関する標準偏差である。
【図2A】突然変異体p53DBD上の1620エピトープの安定化 p53の配座安定性を促進する化合物X、化合物Yおよび化合物Zと呼ばれる代表的化合物。
【図2B】突然変異体p53DBD上の1620エピトープの安定化 1 ngの野生型p53DBDを固定し、化合物または等価濃度のDMSOビヒクルの存在下で45℃で30分間加熱した。mAb1620に対する残存エピトープは、非加熱対照のパーセントとして示される。
【図2C】突然変異体p53DBD上の1620エピトープの安定化 mAb1620に対するほぼ同レベルのエピトープを有する野生型および突然変異体p53DBD調製物を固定し、化合物またはビヒクルの存在下で37℃で30分間加熱した。mAb1620に対する残存エピトープは、非加熱対照のパーセントとして示される。誤差バーは、4つの反復実験に関する標準偏差である。
【図3A】突然変異体p53を有する細胞中のp53配座および転写活性の変調 位置173突然変異体p53を発現したH1299トランスフェクタントを培養中で16.5 ug/mlの化合物Xで処理した。panp53抗体、mAbDO−1を用いたウエスタンブロットを用いて、全p53タンパク質中の小変異に関して、細胞溶解物を標準化し、mAb1620に対するエピトープを示すp53の量をELISA検定で確定した。1620陽性p53分画における増大を、未処理細胞中の1620陽性p53の分画に対して補正した。
【図3B】突然変異体p53を有する細胞中のp53配座および転写活性の変調 H1299トランスフェクタントをルシフェラーゼレポーター遺伝子(H1299/レポーター)とまたはレポーター遺伝子と適合させて、位置173突然変異体p53(H1299/レポーター+突然変異体p53)を微小滴定ウエル中で16時間処理した。野生型p53機能を示すルシフェラーゼレポーター遺伝子の誘導化発現を、化合物の非存在下での基礎レベルの発現に対して補正した。値は、4つの反復実験の平均を表す。
【図3C】突然変異体p53を有する細胞中のp53配座および転写活性の変調 H1299トランスフェクタントをルシフェラーゼレポーター遺伝子(H1299/レポーター)とまたはレポーター遺伝子と適合させて、位置173突然変異体p53(H1299/レポーター+突然変異体p53)を微小滴定ウエル中で16時間処理した。野生型p53機能を示すルシフェラーゼレポーター遺伝子の誘導化発現を、化合物の非存在下での基礎レベルの発現に対して補正した。値は、4つの反復実験の平均を表す。
【図4】突然変異体p53を有する細胞中のWAF1発現の誘導 トランスフェクト化突然変異体p53タンパク質(位置173または位置249)を発現するSaos−2細胞を、16.5 ug/mlの化合物Xを含有する培養中で16時間処理した。細胞溶解物を全タンパク質に関して標準化し、ウエスタンブロットで分析した。ブロットの上部を全p53に関してmAbDO−1でプローブし、同一ブロットの底部をWAF1に向けられる抗体でプローブした。
【図5】腫瘍におけるp53配座安定性および機能の促進 H1299/レポーター+突然変異体p53細胞由来の皮下腫瘍を保有するマウスに、化合物Xの100 mg/kg腹腔内注射を1回施して、mAbDO−1を用いたウエスタンブロットの濃度計走査を基礎にして、全p53含量に関して二つの腫瘍溶解物を標準化した。mAb1620に対するエピトープを示すp53の量をELISA検定で確定し、1620陽性p53分画における増大を、非処置腫瘍からの溶解物中の1620陽性p53の分画に対して補正した。p53転写活性の増強を査定するために、ルシフェラーゼ発現に関しても腫瘍溶解物を分析した。タンパク質濃度に関してルシフェラーゼ発現を標準化し、非処置腫瘍からの溶解物と比較した。
【図6A】突然変異化p53を発現する腫瘍異種移植片の抑制 マウスに腫瘍細胞を接種し、指示されたような化合物Xまたはビヒクルの腹腔内注射により処置した。化合物を、1日1回(q.d.)または12時間間隔(b.i.d.)で7日間投与した。ビヒクル処置マウスには、12時間間隔で注射を施した。二次元での腫瘍直径測定により腫瘍容積を確定し、各群の5〜7匹に関して平均を出した。点線は、処置を開始した場合の初期腫瘍容積を表す。
【図6B】突然変異化p53を発現する腫瘍異種移植片の抑制 マウスに腫瘍細胞を接種し、指示されたような化合物Xまたはビヒクルの腹腔内注射により処置した。化合物を、1日1回(q.d.)または12時間間隔(b.i.d.)で7日間投与した。ビヒクル処置マウスには、12時間間隔で注射を施した。二次元での腫瘍直径測定により腫瘍容積を確定し、各群の5〜7匹に関して平均を出した。点線は、処置を開始した場合の初期腫瘍容積を表す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の治療に有用な有機非ペプチド化合物の同定方法であって、p53ファミリーの突然変異型又は野生型哺乳動物タンパク質を、突然変異型か又は野生型かに拘らず、有機非ペプチド化合物と接触させるステップ、及び当該化合物が生理学的条件下上記タンパク質の1以上のドメインに結合し、かつ、上記タンパク質における機能的コンホメーションを修復し又は安定化させることができるかどうかを測定するステップを含む前記同定方法。
【請求項2】
前記タンパク質がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記p53タンパク質のコンホメーションの計測が、クロマトグラフィー、スペクトロスコピー、吸収、超遠心、特異的DNA結合アッセイ、及びp53により阻害され又は活性化されることが知られている他の遺伝子産物のタンパク質結合から成る群から選ばれる方法により、実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質が、完全長突然変異体p53タンパク質である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記p53タンパク質のDNA結合ドメインが、その野生型に比較して不安定化されている、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記p53タンパク質のDNA結合ドメインが、ミスフォールディングされやすくする1以上の突然変異をもつ、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記p53タンパク質のDNA結合ドメインが、175,245,248,249,273、及び282位の残基の内の1以上に1以上の突然変異を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記タンパク質は、p53欠失誘導体である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記タンパク質は、N末端ドメインとC末端ドメインの全体を含まない前記p53タンパク質のDNA結合ドメインを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記p53タンパク質のDNA結合ドメインは、野性型である、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記p53タンパク質のDNA結合ドメインは、ミスセンス突然変異を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記p53ファミリーのタンパク質は、p53,p63、及びp73から成る群から選ばれる、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記接触ステップと測定ステップは、前記化合物の存在下、前記p53タンパク質の、コンホメーション変化を検出することにより同時に実行される、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記化合物は、腫瘍の増殖を休止させ又は抑制する能力について、インビボにおいてさらにスクリーニングされる、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
前記化合物は、腫瘍の増殖を休止させ又は抑制する能力について、インビトロにおいてさらにスクリーニングされる、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
前記スクリーニング測定は、以下の:
a)p53タンパク質の突然変異体を発現する腫瘍細胞;又は
b)p53タンパク質の突然変異体を発現する細胞系、
を使用して実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
前記p53ファミリーの哺乳動物タンパク質は、有機非ペプチド化合物と接触され、そして機能的コンホメーションの計測は、約20℃〜50℃の温度で測定される、請求項2に記載の方法。
【請求項18】
固相表面上に前記p53ファミリーの哺乳動物タンパク質又は前記有機非ペプチド化合物を固定し、そしてタンパク質−化合物複合体を検出することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項19】
前記タンパク質が固体支持体上に固定され、そして前記化合物が標識される、請求項2に記載の方法。
【請求項20】
前記標識が放射性同位体又は蛍光標識である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
機能的p53タンパク質立体配座の安定化は、前記p53タンパク質、及びp53のエピトープへのその結合が天然p53のコンホメーションの存在に依存するところの検出可能に標識されたコンホメーション感受性の抗体を、前記有機非ペプチド化合物の存在、そして又は不存在下、固体支持体に、固定することにより測定される、請求項2に記載の方法。
【請求項22】
p53 DNA結合ドメインに特異的なモノクローナル抗体が、固相表面に前記タンパク質を固定するために使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項23】
結合能力、及びp53の機能的コンホメーションの修復ステップが、以下のステップ:(1)当該p53タンパク質を、p53のコンホメーション感受性エピトープを特異的に認識する抗体と、接触させ、そして(2)当該抗体が、前記有機非ペプチド化合物の存在下、当該タンパク質に結合するか否かを測定する、を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項24】
前記エピトープの存在が、p53の少なくとも1の野生型の生理学的活性に、相関する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
エピトープ内の欠陥が、p53の少なくとも1の不活性状態に、相関する、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
検出可能な標識が、前記抗体を、検出可能に標識されるさらなる抗体と、接触させることにより当該抗体に、さらに付着される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記抗体が、mAb1620又はmAb240である、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記タンパク質は、mAb240により認識されるエピトープをプロセッシングするp53の温度感受性形態である、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記化合物がp53ファミリーのタンパク質と相互作用して、その野生型活性を修復し又は安定化させ、ここで、当該活性は腫瘍抑制活性を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記p53のタンパク質の野生型活性を促進する追加の化合物を設計するステップ、ここで、当該化合物は仮定を作製するために使用され、当該仮定に適合する候補化合物を同定するステップ、及び当該候補化合物が当該p53ファミリーの野生型活性を促進するかどうかを測定するステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
有機非ペプチド化合物が、p53ファミリーの哺乳動物タンパク質の突然変異型における野生型活性を促進することができるかを評価する方法であって、ここで、当該タンパク質の1以上の機能的活性が、生理学的条件下、機能的コンホメーションを維持する当該タンパク質の不能力により少なくとも一部弱められており、上記方法は、以下のステップ:
(a)生理学的条件下、上記突然変異タンパク質を、当該突然変異タンパク質内の1以上のドメインに結合することができる有機非ペプチド化合物に接触させ、そして当該タンパク質における機能的コンホメーションを安定化させ;そして
(b1)上記安定化されたタンパク質を、前記活性の計測により前記野生型活性に参加する1以上の巨大分子と相互作用させ;又は
(b2)クロマトグラフィー、スペクトロスコピー、吸収、超遠心、特異的DNA結合アッセイ、及びp53により阻害され又は活性化されることが知られる他の遺伝子産物のタンパク質結合から成る群から選ばれる方法を介して上記機能的コンホメーションの存在を確認する、
を含む前記方法。
【請求項1】
癌の治療に有用な有機非ペプチド化合物の同定方法であって、p53ファミリーの突然変異型又は野生型哺乳動物タンパク質を、突然変異型か又は野生型かに拘らず、有機非ペプチド化合物と接触させるステップ、及び当該化合物が生理学的条件下上記タンパク質の1以上のドメインに結合し、かつ、上記タンパク質における機能的コンホメーションを修復し又は安定化させることができるかどうかを測定するステップを含む前記同定方法。
【請求項2】
前記タンパク質がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記p53タンパク質のコンホメーションの計測が、クロマトグラフィー、スペクトロスコピー、吸収、超遠心、特異的DNA結合アッセイ、及びp53により阻害され又は活性化されることが知られている他の遺伝子産物のタンパク質結合から成る群から選ばれる方法により、実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質が、完全長突然変異体p53タンパク質である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記p53タンパク質のDNA結合ドメインが、その野生型に比較して不安定化されている、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記p53タンパク質のDNA結合ドメインが、ミスフォールディングされやすくする1以上の突然変異をもつ、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記p53タンパク質のDNA結合ドメインが、175,245,248,249,273、及び282位の残基の内の1以上に1以上の突然変異を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記タンパク質は、p53欠失誘導体である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記タンパク質は、N末端ドメインとC末端ドメインの全体を含まない前記p53タンパク質のDNA結合ドメインを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記p53タンパク質のDNA結合ドメインは、野性型である、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記p53タンパク質のDNA結合ドメインは、ミスセンス突然変異を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記p53ファミリーのタンパク質は、p53,p63、及びp73から成る群から選ばれる、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記接触ステップと測定ステップは、前記化合物の存在下、前記p53タンパク質の、コンホメーション変化を検出することにより同時に実行される、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記化合物は、腫瘍の増殖を休止させ又は抑制する能力について、インビボにおいてさらにスクリーニングされる、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
前記化合物は、腫瘍の増殖を休止させ又は抑制する能力について、インビトロにおいてさらにスクリーニングされる、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
前記スクリーニング測定は、以下の:
a)p53タンパク質の突然変異体を発現する腫瘍細胞;又は
b)p53タンパク質の突然変異体を発現する細胞系、
を使用して実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
前記p53ファミリーの哺乳動物タンパク質は、有機非ペプチド化合物と接触され、そして機能的コンホメーションの計測は、約20℃〜50℃の温度で測定される、請求項2に記載の方法。
【請求項18】
固相表面上に前記p53ファミリーの哺乳動物タンパク質又は前記有機非ペプチド化合物を固定し、そしてタンパク質−化合物複合体を検出することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項19】
前記タンパク質が固体支持体上に固定され、そして前記化合物が標識される、請求項2に記載の方法。
【請求項20】
前記標識が放射性同位体又は蛍光標識である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
機能的p53タンパク質立体配座の安定化は、前記p53タンパク質、及びp53のエピトープへのその結合が天然p53のコンホメーションの存在に依存するところの検出可能に標識されたコンホメーション感受性の抗体を、前記有機非ペプチド化合物の存在、そして又は不存在下、固体支持体に、固定することにより測定される、請求項2に記載の方法。
【請求項22】
p53 DNA結合ドメインに特異的なモノクローナル抗体が、固相表面に前記タンパク質を固定するために使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項23】
結合能力、及びp53の機能的コンホメーションの修復ステップが、以下のステップ:(1)当該p53タンパク質を、p53のコンホメーション感受性エピトープを特異的に認識する抗体と、接触させ、そして(2)当該抗体が、前記有機非ペプチド化合物の存在下、当該タンパク質に結合するか否かを測定する、を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項24】
前記エピトープの存在が、p53の少なくとも1の野生型の生理学的活性に、相関する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
エピトープ内の欠陥が、p53の少なくとも1の不活性状態に、相関する、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
検出可能な標識が、前記抗体を、検出可能に標識されるさらなる抗体と、接触させることにより当該抗体に、さらに付着される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記抗体が、mAb1620又はmAb240である、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記タンパク質は、mAb240により認識されるエピトープをプロセッシングするp53の温度感受性形態である、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記化合物がp53ファミリーのタンパク質と相互作用して、その野生型活性を修復し又は安定化させ、ここで、当該活性は腫瘍抑制活性を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記p53のタンパク質の野生型活性を促進する追加の化合物を設計するステップ、ここで、当該化合物は仮定を作製するために使用され、当該仮定に適合する候補化合物を同定するステップ、及び当該候補化合物が当該p53ファミリーの野生型活性を促進するかどうかを測定するステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
有機非ペプチド化合物が、p53ファミリーの哺乳動物タンパク質の突然変異型における野生型活性を促進することができるかを評価する方法であって、ここで、当該タンパク質の1以上の機能的活性が、生理学的条件下、機能的コンホメーションを維持する当該タンパク質の不能力により少なくとも一部弱められており、上記方法は、以下のステップ:
(a)生理学的条件下、上記突然変異タンパク質を、当該突然変異タンパク質内の1以上のドメインに結合することができる有機非ペプチド化合物に接触させ、そして当該タンパク質における機能的コンホメーションを安定化させ;そして
(b1)上記安定化されたタンパク質を、前記活性の計測により前記野生型活性に参加する1以上の巨大分子と相互作用させ;又は
(b2)クロマトグラフィー、スペクトロスコピー、吸収、超遠心、特異的DNA結合アッセイ、及びp53により阻害され又は活性化されることが知られる他の遺伝子産物のタンパク質結合から成る群から選ばれる方法を介して上記機能的コンホメーションの存在を確認する、
を含む前記方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【公開番号】特開2006−166920(P2006−166920A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1475(P2006−1475)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【分割の表示】特願2000−584871(P2000−584871)の分割
【原出願日】平成11年12月1日(1999.12.1)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【分割の表示】特願2000−584871(P2000−584871)の分割
【原出願日】平成11年12月1日(1999.12.1)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】
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