説明

pH応答性ポリマーを有する支持体

【課題】
ヒト及び動物の疾病、傷病の治療に用いる生体組織片の移送操作などにおいて、従来の支持体や運搬投与器具に代わる、簡便な操作性を有する支持体および移送用器具、ならびに前記支持体および器具の使用方法を提供する。
【解決手段】
液体中に遊離した生体組織片を移送するための支持体であって、生体組織片に接触する前記支持体の少なくとも表面が、pHに応答して性状が変化するポリマーによって構成されている、前記支持体および該支持体を有する移送用器具、ならびに前記支持体および器具の使用方法の提供により、細胞培養物の移植操作を極めて簡便、迅速、かつ確実に行うことを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織片、特にヒト及び動物の疾病、傷病の治療に用いる細胞培養物の移送、移植などの操作を、簡便かつ確実に行うことができる器具、および、同器具を用いた細胞培養物の移送のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の心臓病に対する治療の革新的進歩にかかわらず、重症心不全に対する治療体系は未だ確立されていない。心不全の治療法としては、βブロッカーやACE阻害剤による内科治療が行われるが、これらの治療が奏功しないほど重症化した心不全には、補助人工心臓や心臓移植などの置換型治療、つまり外科治療が行われる。
【0003】
このような外科治療の対象となる重症心不全には、進行した弁膜症や高度の心筋虚血に起因するもの、急性心筋梗塞やその合併症、急性心筋炎、虚血性心筋症(ICM)、拡張型心筋症(DCM)などによる慢性心不全やその急性憎悪など、多種多様の原因がある。
これらの原因と重症度に応じて弁形成術や置換術、冠動脈バイパス術、左室形成術、機械的補助循環などが適用される。
【0004】
この中で、ICMやDCMによる高度の左室機能低下から心不全を来たしたものについては、心臓移植や人工心臓による置換型治療のみが有効な治療法とされてきた。しかしながら、これら重症心不全患者に対する置換型治療は、慢性的なドナー不足、継続的な免疫抑制の必要性、合併症の発症など解決すべき問題が多く、すべての重症心不全に対する普遍的な治療法とは言い難い。
【0005】
その一方、最近、重症心不全治療の解決策として新しい再生医療の展開が不可欠と考えられている。
重症心筋梗塞等においては、心筋細胞が機能不全に陥り、さらに線維芽細胞の増殖、間質の線維化が進行し心不全を呈するようになる。心不全の進行に伴い、心筋細胞は傷害されてアポトーシスに陥るが、心筋細胞は殆ど細胞分裂をおこさないため、心筋細胞数は減少し心機能の低下もさらに進む。
このような重症心不全患者に対する心機能回復には細胞移植法が有用とされ、既に自己骨格筋芽細胞による臨床応用が開始されている。
【0006】
しかし、実際に細胞移植法により臨床的に心機能を十分に向上させるためには、直接心筋内注入による方法では移植細胞の70〜80%が失われその効果を十分に発揮できない点や、不整脈等の副作用の問題、大量且つ安全な細胞源の確保などの問題点の解決が不可欠であるうえ、細胞注入局所へ炎症を惹起するとともに局所的な細胞移植しか行えないため、例えば拡張型心筋症のように心臓全体の心機能が低下した場合に限界がある。
【0007】
近年、これらの問題に対し、組織工学を応用した温度応答性培養皿を用いることによって、成体の心筋以外の部分に由来する細胞を含む心臓に適用可能な三次元に構成された細胞培養物と、その製造方法が提供された(特許文献1)。
【0008】
このような細胞培養物を、目的とする患部(移植部位)に移植するには、例えば、細胞培養物の端部をピンセット等で摘んで、細胞培養物を包装容器から取り出し、患部まで移送し、その患部に移植(貼付)するといった一連の操作が必要となるが、細胞培養物は、絶対的な物理的強度が低く、皺、破れ、破損などが生じ易いことから、この一連の操作には高度な技術が要求され、かつ細心の注意を払う必要がある。
【0009】
細胞培養物の強度を補うため、親水性PVDF膜、ニトロセルロース膜を用いた支持体やヒトフィブリノゲン等を足場とした支持体が知られ、さらに細胞培養物を対象とした移動治具や運搬投与器具が提供されており、前述の温度応答性培養皿に対応した細胞培養物のための支持体(Cell ShifterTM、セルシード製)が市販されている。
【0010】
例えば、特許文献2には、細胞付着部を有する培養細胞移動治具を用い、細胞接着性タンパク質、細胞接着性ポリマー、親水性ポリマーなどからなる細胞付着部に細胞培養基材上の培養細胞を付着させることで培養細胞を細胞培養基材上から剥離させ、その後、その培養細胞移動治具の細胞付着部と培養細胞との付着力を弱めることで、剥離させた培養細胞を特定の場所へ再び付着させることが記載されている。
しかし、培養細胞移動治具の細胞付着部の表面上に存在する細胞接着性タンパク質(例えばフィブリン)に接着した培養細胞をそこから剥離させることは容易ではない。培養細胞を適用しようとする部位と培養細胞の接着がより強くなければ細胞接着性タンパク質から培養細胞は剥離しないと考えられる。前記特許文献2において培養細胞移動治具の細胞付着部から培養細胞を剥離するためには、細胞付着部と培養細胞との付着力を弱めるとの課題が示されたのみで、この課題を具体的に解決する手段は明示されていない。したがって、この細胞培養移動治具は細胞付着部に接着した培養細胞を剥離することが難しく、操作性という点で問題があった。さらに、細胞接着部と培養細胞の接着力次第では、培養細胞と培養基材の接着力が勝り、剥離が不可能であるなどの問題もあり、また剥離する段階から治具が必要であり、治具そのものも複雑な構造をしている。
【0011】
また、特許文献3には、細胞培養物を、目的とする患部に移植する際に用いる運搬投与器具が記載されている。この運搬投与器具は、内部に供給される流体圧の変化によって、平面状の展開形状と筒状の収納形状への変形動作と、基端部の曲げ動作とを行わせる治療用器具であり、具体的には、細胞培養物を患部に移植する際に細胞培養物を保持し、患部まで移送し、その患部に貼り付ける。しかし、この運搬投与器具は、その構造上、シート支持体の内部に微細な流体流路を設け、かつ流体の流路を厳密に管理する必要があった。
この問題を改善すべく、特許文献4の運搬投与器具が提供されたが、その構造は、円筒状の外筒と、該外筒内に軸線方向へ摺動可能に支持されたスライド部材と、シート状の治療用物質を支持してスライド部材の先端部に設けられ、外筒の先端部から突出された自由状態では平面状の展開形状に保たれ、スライド部材の摺動移動に応じて外筒の内部方向に移動されたときに該外筒の先端部に当接して筒状に変形しながら外筒内に収納されるシート支持部材とを有するものである。
【0012】
pH刺激に応答して膨潤するハイドロゲルは知られている。例えば特許文献5には、生理的pHの液体に接触することで膨潤するハイドロゲル材料が開示され、かかるハイドロゲル材料を対象に移植することにより、疾患を処置する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2007−528755号公報
【特許文献2】特開2005−176812号公報
【特許文献3】特開2008−173333号公報
【特許文献4】特開2009−511号公報
【特許文献5】特表2004−528880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ヒト及び動物の疾病、傷病の治療に用いる生体組織片の移送操作などにおいて、従来の支持体や運搬投与器具に代わる、簡便な操作性を有する支持体の提供を課題とし、簡易な構成で、容易、迅速かつ確実に、生体組織片の形態を崩すことなく移送することができる支持体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねる中で、pHの変化によって吸水性が変化するゲルポリマーに着目した。そして、かかるゲルポリマーの多孔体を用いることによって、pH条件の変化によって生体組織片とポリマー多孔体との付着性を変化させることができることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち本発明は、以下に関する。
(1)液体中に遊離した生体組織片を移送するための支持体であって、該生体組織片に接触する表面の少なくとも一部が、前記生体組織片が滑動できるおよび/またはpHに応答して性状が変化する親水性ポリマーで構成される、前記支持体。
(2)pHに応答して正常が変化する親水性ポリマーが、pHに応答して吸水性が変化し、それによりゲル状態およびポリマー状態に可逆的に変化することができるゲルポリマーである、(1)に記載の支持体。
【0017】
(3)親水性ポリマーが、多孔質ポリマーである、(1)または(2)に記載の支持体。
(4)接触した生体組織片が、滑動により表面から離脱可能である、(1)〜(3)のいずれかに記載の支持体。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の支持体を有する、移送用器具。
【0018】
(6)生体組織片を回収、移送および送達する方法であって、
(i)生体組織片に接触する表面の少なくとも一部が、前記生体組織片を滑動できるおよび/またはpHに応答して性状が変化する親水性ポリマーで構成された支持体に、生体移植片を接触させるステップ、
(ii)支持体に載置した生体移植片を目的場所に移送するステップ、
(iii)滑動および/または性状変化により、生体組織片を表面から離脱するステップ
を含む、前記方法。
【0019】
(7)(i)において、親水性ポリマーが、ポリマー状態のpHに応答して性状が変化する親水性多孔質ゲルポリマーであり、
(iii)において、性状変化が、pHに応答してポリマー状態からゲル状態に変化することである、(6)に記載の方法。
(8)生体組織片が、シート状細胞培養物である、(6)または(7)に記載の方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、生体組織片を本発明の支持体に接触させることで、キャピラリー効果や表面張力などにより、生体組織片を支持体表面に付着することができる。さらに、付着した生体組織片を目的場所に移送した後、必要に応じて例えばリン酸緩衝液などと接触させるなどによって支持体表面の性状を変化させることで生体組織片と本発明の支持体表面との付着性を低下させ、必要に応じて滑動させることで、生体組織片を本発明の支持体から容易に脱離することができる。従来温度に応答して性状が変化するポリマーを用いた上記特許文献2などの医療用治具は存在したが、温度を変化させるという行為には大きなエネルギーを必要とする上に時間もかかり、また例えば移殖の場面など、かかる治具が使用される状況に鑑みれば、温度変化による性状の変化は実用的ではなかった。本発明の支持体では、生体組織片との接触表面の親水性ポリマーを、滑動可能であるようにおよび/またはポリマーの表面性状の変化をpHに応答するように設計することにより、従来の温度応答性の変化や酵素処理などと比較して、容易かつ迅速に生体組織片を脱離することができ、また物理的な離脱操作をほとんど必要としないか、または離脱操作が必要な場合であっても滑動という簡便な方法によって離脱可能であることによって、生体組織片に物理的な損傷をほとんど与えることなく移送および脱離することが可能となる。また、支持した生体組織片を容易に離脱することができるため、生体組織への移植における適用のみならず、シート状細胞培養物の積層など、繊細な操作が必要となる移送用途にも用いることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は本発明の一態様である、多孔質ポリマーシートの使用例を図解したものである。
【図2】図2は、本発明の支持体に、骨格筋芽細胞のシート状細胞培養物を載置した状態の写真である。
【図3】図3は、本発明の支持体を用いて骨格筋芽細胞のシート状細胞培養物を移植したミニブタの心臓の写真である。点線部はシート状細胞培養物が移植された部分である。シート状細胞培養物は、何らの物理的な損傷、皺などなく、きれいに移植されていることが分かる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一つの側面は、液体中に遊離した生体組織片を移送するための支持体であって、該生体組織片に接触する表面の少なくとも一部が、前記生体組織片が滑動できるおよび/またはpHに応答して性状が変化する親水性ポリマーで構成される、前記支持体に関する。本発明の支持体は、前記生体組織片と接触する表面の少なくとも一部が親水性ポリマーで構成されており、該親水性ポリマーで構成された表面の前記生体組織片に対する付着性を、例えば湿潤させる、pHを変化させるなどの簡便な方法によって容易に低減させることができるため、送達の際に、該生体組織片が器具表面に付着するなどの原因で物理的に損傷することがない。本発明の一態様において、接触した生体組織片が滑動することにより、支持体から離脱可能である。滑動により支持体から離脱することにより、生体組織片を簡便、迅速かつ的確に、物理的損傷を与えることなく標的部位へと移植することができる。
【0023】
本発明において、生体組織片とは、例えば細胞、タンパク質などの生体由来の材料により1次元、2次元または3次元的に構成されている組織を指す。典型的には、移植用の移植片や組織切片、培養細胞などが挙げられるが、これに限定されるものではない。本発明における移植片は、典型的には培養した細胞および/またはその産生物で構成されるが、生体の所定部(例えば患部等)を補填および/または支持するための各種の材料(補填材料や支持材料)なども含む。生体組織片は、典型的には哺乳動物、例えば、ヒトや家畜等の疾病、傷病の治療等に用いられるものであるが、これに限定されるものではない。この生体組織片は液体中に遊離した状態、すなわち、浸漬液や洗浄液等の中に遊離しており、基材表面に付着していない。生体組織片の形状は特に限定されず、本発明の支持体により支持可能な形状および重量であればシート状、塊状、柱状等の種々の形状であってよい。
【0024】
本発明において、親水性ポリマーは、支持する生体組織片に接触する表面の少なくとも一部を構成していればよく、したがって、支持体全体をかかるポリマーによって構成してもよいし、シートの基材の表面の少なくとも一部をかかるポリマーによってコーティングしてもよい。また、かかるポリマーなどで構成された支持体シートの強度をさらに上げるため、生体組織片との接触面と反対側の面を裏打ち部材などによって補強してもよい。
【0025】
本発明の支持体は、前記親水性ポリマーによって構成された表面を液体中に遊離した生体組織片に接触させることにより、その表面に生体組織片を付着させることが可能である。したがって生体組織片が遊離している液体は、好ましくはポリマー表面の付着性を減少させないものである。本発明の一態様において、ポリマーはゲルポリマーの多孔体であり、かかる態様においては、ポリマー状態において生体組織片との付着性が発揮されるため、好ましくはゲルポリマーをゲル化させない液体であり、典型的には生理食塩水、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、PBS、ハンクス平衡塩液、細胞培養液などであるが、これに限定されない。しかしながら、例えば湿潤することで水の膜を形成し、表面張力によって生体組織片を付着するなど、生体組織片が遊離している液体と接触することによって、ポリマーと生体組織片との付着性が発揮されるような態様も本願発明に包含される。
【0026】
本発明の一態様において、親水性ポリマーが、pHに応答して性状が変化するポリマーによって構成されている。本発明において「pHに応答して」または「pH応答性」とは、周囲のpH値またはその変化に反応して、性状が変化することをいう。性状とは、ポリマーと生体組織片との付着力に関与する性状であればいかなるものも包含される。典型的には親水性、吸水性、潤滑性などであるが、これに限定されるものではない。
【0027】
本発明の一態様において、少なくとも生体組織片に接触する支持体の表面が、pHに応答して吸水性が変化するゲルポリマーで構成されている。本発明において、ゲルポリマーとは、ゲル化する前の乾燥状態(収縮状態)では、ゲル状態をなしていないが、内部に液体を取り込むことによって膨潤(膨張)し、ゲル化する(ゼリー状になる)性質を有するものである。また、このようにして膨潤したゲルポリマーは、所定の性質の液体と接触することにより、取り込んだ液体を放出して収縮する性質をも有するものである。すなわち、このゲルポリマーは、接触する液体の性質により、膨潤(膨張)・収縮を選択可能なものであり、それによって膨潤したゲル状態と収縮したポリマー状態とに可逆的に変化することが可能である。したがって、本発明においてゲルポリマーのゲル状態とは、液体を取り込んで膨潤した状態をいい、ポリマー状態とは液体を放出して収縮した状態をいう。
【0028】
本発明の一態様において支持体に用いられる、pHに応答して吸水性が変化するゲルポリマーは、液体の取り込みおよび放出を接触する液体のpHに応答して行うゲルポリマーである。かかるゲルポリマーは、主に、pH応答性のモノマー成分またはプレポリマー成分を重合・架橋してなる架橋体であり、三次元網目構造を有するポリマーで構成される。pH応答吸水性ゲルポリマーのモノマー成分またはプレポリマー成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、またはこれらの誘導体、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルリン酸などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物を用いることができる。このうち、アクリル酸、メタクリル酸、またはこれらの誘導体が特に好ましく用いられる。アクリル酸、メタクリル酸、またはこれらの誘導体は、pH応答吸水性のモノマー成分(プレポリマー成分)であり、これらを含むpH応答吸水性高分子は、後述するイオン性官能基を有するものとなるため、より環境感受性の高いものとなる。
【0029】
また、pH応答吸水性高分子のモノマー成分またはプレポリマー成分は、上記のほかに、2−ヒドロキシエチルアクリラート、2−ヒドロキシエチルメタクリラート、アクリルアミドやメタクリルアミド、またはこれらの誘導体のようなエチレン性不飽和モノマーを含むのが好ましい。このうち、アクリルアミドが特に好ましく用いられる。アクリルアミドを含むことにより、pH応答吸水性高分子の機械的特性を高めることができる。
【0030】
また、モノマー成分またはプレポリマー成分は、その分子構造の一部にイオン性官能基を有する。これにより、pH応答吸水性高分子は、接触する液体の組成や含まれるイオンの濃度等に応じて、選択的に膨潤する。また、pH応答吸水性高分子の親水性が高くなるため、より多くの液体を積極的に吸収し、膨潤し得るものとなる。このイオン性官能基は、アニオン性基であってもカチオン性基であってもよい。イオン性官能基がアニオン性であるかカチオン性であるかによって、ゲルポリマーのpH応答性、例えば選択的に液体を吸収、膨潤してゲル化するpH範囲など、を調節することが可能となる。
【0031】
前述のイオン性官能基がアニオン性である場合、pH応答吸水性高分子は、脱プロトン化することにより膨潤し、ゲル化する。したがって、ゲルポリマー中にアニオン性基が多く存在する場合、より脱プロトン化しやすいpH範囲、すなわち周辺環境中によりプロトンが少ない、高pH領域で吸収膨潤しやすくなる。アニオン性基としては、例えば、カルボン酸基、メルカプト基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられるが、これに限定するものではない。
【0032】
前述のイオン性官能基がカチオン性基である場合、pH応答吸水性高分子は、プロトン化することにより膨潤し、ゲル化する。したがって、ゲルポリマー中にカチオン性基が多く存在する場合、よりプロトン化しやすいpH範囲、すなわち周辺環境中によりプロトンが多い、低pH領域で吸収膨潤しやすくなる。カチオン性基としては、例えば、アミノ基、アンモニウム塩基等が挙げられるが、これに限定するものではない。
このようなpH応答吸水性高分子としては、これに限定するものではないが、例えばアクリルアミドとアクリル酸の共重合体をビスアクリルアミドで架橋した高分子などが挙げられる。
【0033】
前述した、モノマー成分またはプレポリマー成分を重合・架橋して架橋体を形成するプロセスにおいて、造孔剤を同時に添加してもよい。造孔剤の存在下で重合・架橋し、その後造孔剤を除去することにより、多孔体ポリマーを形成することが可能である。本発明の支持体との生体組織片との接触表面を多孔体ポリマーで構成することにより、キャピラリー効果によって生体組織片を支持体との接触表面に付着することが可能となる。したがって、本発明の一態様において、少なくとも生体組織片に接触する支持体表面が多孔質ポリマーで構成されている。
【0034】
上記多孔体をゲルポリマーで形成した場合、かかる多孔質ゲルポリマーは、pHに応答して液体を吸収・膨潤してゲル化する。その際、膨潤により表面の孔が塞がれるため、キャピラリー効果を失い、付着性が低下して脱離しやすくなる。したがって、好ましくは多孔質ポリマーは多孔質ゲルポリマーである。
【0035】
本発明の支持体によって支持される生体組織片は、前述のとおり移植片を包含するため、本発明の支持体は、生体組織片の移植の用途に用いることができることが好ましい。生体内におけるpH変化による生体組織の損傷を軽減するという観点から、生理的pHにおいて表面性状が変化するポリマーが好ましい。すなわち、好ましくはpHが7.1〜7.8程度、より好ましくはpHが7.2〜7.6程度、さらに好ましくはpHが7.4〜7.6程度の液体との接触により表面性状が変化する。生理的pHを有する液体としては、典型的には、リン酸緩衝液、血液、移植部位周辺の組織液などの体液などが挙げられるが、これに限定するものではない。
【0036】
本発明の一態様において、ポリマーのpH応答吸水性はポリマーを構成するモノマー成分またはプレポリマー成分が有するアニオン性および/またはカチオン性基の脱プロトン化および/またはプロトン化に由来する。ポリマーと接触させる液体が緩衝能を有している場合、液体の緩衝作用によって、ポリマー中のアニオン性および/またはカチオン性基の脱プロトン化および/またはプロトン化がより進行する。例えばポリマーがアニオン性基を有している場合、該アニオン性基の脱プロトン化によって生成したプロトンが、緩衝液中のアニオンに捕捉されるために液中のプロトン濃度が減少する方向に平衡がシフトする。すると、ポリマー中のアニオン性基がさらに脱プロトン化する方向に平衡がシフトし、その結果、緩衝能を有する液体に接触させた方が吸水性が高まることとなる。したがって、ポリマーの性状変化のために接触させる液体は、緩衝能を有していることが好ましい。
【0037】
pH応答吸水性高分子多孔体(多孔質ゲルポリマー)の作製例
pH応答吸水性高分子多孔体の原料となるモノマー成分(プレポリマー成分)、架橋剤、造孔剤、重合開始剤および溶媒を混合し、溶液を調製して重合反応を開始する。これにより、モノマー成分が重合するとともに立体的に架橋し、三次元網目構造を形成してなる吸水性高分子多孔体が得られる。なお、全モノマー成分中のpH応答吸水性高分子成分の含有率は、10〜50質量%程度であるのが好ましく、10〜30質量%程度であるのがより好ましい。また、溶液中のモノマー成分の含有率は、特に限定されないが、好ましくは20〜30質量%程度である。
【0038】
架橋剤としては、例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジビニルエーテルのようなエチレン性不飽和化合物等が挙げられる。エチレン性不飽和化合物は、モノマー成分とともに三次元網目構造を確実に形成し得る架橋剤として機能するため、pH応答吸水性高分子を形成するための架橋剤として特に好適なものである。このうち、N,N’−メチレンビスアクリルアミドがより好ましく用いられる。
【0039】
溶液中の架橋剤の含有率は、特に限定されないが、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満とされる。また、重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン等が挙げられる。また、溶媒には、例えば、水、エタノール等を用いることができる。造孔剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、氷、スクロース、重炭酸ナトリウム等が挙げられる。また、造孔剤の平均粒径は、好ましくは1〜25μm程度、より好ましくは3〜10μm程度とされる。さらに、溶液中の造孔剤の含有率は、5〜50質量%程度であるのが好ましく、10〜20質量%程度であるのがより好ましい。
【0040】
重合して得られた吸水性高分子多孔体を酸性の水で処理し、イオン性官能基を酸体にする。それによって、吸水性がpH応答性となる。酸性の水としては、一般的な無機酸であればよく、塩酸、リン酸、などが用いられる。さらに洗浄、乾燥することによって、造孔剤が除去され、pH応答吸水性高分子多孔体となる。
【0041】
本発明の支持体は、これに限定するものではないが例えば湿潤する、周囲のpHを変化させるなどの方法によって、支持する生体組織片との付着性を低減させることができ、その結果生体組織片が滑動可能であるため、該生体組織片が滑動により表面から離脱することができる。生体組織片を滑動により離脱させることによって、離脱の際に生体組織片が支持体表面に引っかかるなどの原因によって物理的な損傷を被る危険性が大幅に低減する。
【0042】
本発明の支持体は、液体中に遊離した生体組織片を支持および移送することができるため、該支持体を有する移送用器具もまた、本発明に包含される。本発明の移送用器具は、少なくとも生体組織片を支持するための支持部を有する。本発明の移送用器具としては、典型的には、支持部に連結するハンドル部を有する基材の前記支持部に、本発明の支持体を貼付した移送用器具などが挙げられるが、これに限定されるものではない。前記支持部は支持体そのものであってもよいし、基材に支持体を貼付したものであってもよいし、基材にpHに応答して性状が変化するポリマーをコートしたものであってもよい。
【0043】
支持部の形状は、生体組織片を支持可能な形状であれば平面状、曲面状、棒状など何でもよいが、好ましくは略平面状である。略平面状であることにより、より生体組織片を支持しやすく、また生体組織片との接触面積も拡がるため、支持が容易となる。ハンドル部は、支持部と連結されており、異なる部材であってもよいし、支持部と一体成型されていてもよい。ハンドル部の形状は、いかなる形状であってもよい。本発明の一態様において、ゲル状態の支持体は、潤滑性を有する。したがって、支持した生体組織片を標的部位へ移送し、該生体組織片を該標的部位に接触させ、滑動により生体組織片から離脱可能である。滑動により生体組織片から離脱することにより、生体組織片を簡便、迅速かつ的確に標的部位へと送達または移殖することができる。
【0044】
かかる態様において、好ましくは、支持部とハンドル部が略平面状になるように連結されている。支持部とハンドル部が略平面状になるように連結されることで、生体組織片から本発明の器具を滑動により離脱する際に離脱しやすくなる。
【0045】
本発明の支持体および該支持体を有する器具は、生体組織片を回収および移送する目的で使用され、したがって本発明の支持体および該支持体を有する器具を用いて生体組織片を回収および移送する方法もまた、本発明に包含される。本発明に包含される生体組織片を回収および移送する方法の一態様は、
生体組織片を回収、移送および送達する方法であって、
(i)生体組織片に接触する表面の少なくとも一部が、前記生体組織片を滑動できるおよび/またはpHに応答して性状が変化する親水性ポリマーで構成された支持体に、生体移植片を接触させるステップ、
(ii)支持体に載置した生体移植片を目的場所に移送するステップ、
(iii)滑動および/または性状変化により、生体組織片を表面から離脱するステップ
を含む、前記方法に関する。
【0046】
本態様の支持体は、その表面の少なくとも一部が親水性ポリマーで構成されている。本態様の好ましい態様において、この親水性ポリマーは湿潤時に潤滑性を有する。その場合、液体中に遊離した生体組織片を支持体に接触する際に、生体組織片が遊離している液体を吸収して膨潤し、支持体表面に均一な薄い液体の膜が形成され、支持体表面が潤滑性を有することとなるが、湿潤の初期段階において、十分に液体の膜が形成されていない段階では、支持体と生体組織片との間に適度な吸着力が生じることとなり、生体組織片を容易に載置または吸着し、目的場所に移送および送達することが可能となる。さらに目的場所に移送した生体組織片を、必要に応じて直接標的部位と接触させる。生体組織片と標的部位が接触することにより、生体組織片と標的部位との間に吸着力が生じることとなる。本発明の器具は、生体組織片を載置した後には、その支持体の表面が十分湿潤して潤滑性を有しているため、本発明の器具を滑動させることにより、本発明の器具を生体組織片から容易に離脱し、生体組織片を標的部位にきれいに移植することが可能となる。そして生体組織片が支持体の表面に付着することなくスライドして滑動するため、生体組織片に何ら物理的な損傷を与えることなく移植することができる。
【0047】
本発明の支持体に用いられる親水性ポリマーは、pHに応答して性状が変化し、支持する生体組織片との付着力が低下してもよい、したがって本発明の方法の一態様としては、
(i)において、親水性ポリマーが、ポリマー状態のpHに応答して性状が変化する親水性多孔質ゲルポリマーであり、
(iii)において、性状変化が、pHに応答してポリマー状態からゲル状態に変化することである。
【0048】
すなわち、
(i)生体組織片に接触する支持体表面の少なくとも一部が、pHに応答して性状が変化する親水性多孔質ゲルポリマーによって構成されている、前記支持体の多孔質ゲルポリマーがポリマー状態で、該支持体を前記生体組織片と接触させるステップ
(ii)支持体に支持された生体組織片を、目的場所に移送するステップ、および
(iii)目的場所において、前記支持体の親水性多孔質ゲルポリマーをポリマー状態からゲル状態に変化させるステップ
を含む。もちろん、支持する生体組織片の離脱を補助するために、ポリマー状態からゲル状態に変化させた後、さらに滑動することも可能である。
【0049】
前記(i)において、多孔質ゲルポリマーはポリマー状態で生体組織片と接触させる。すなわち、液体中に遊離した生体組織片とゲルポリマーを接触させる際に、該液体がゲルポリマーをゲル化させるような液体は用いない。液体は、典型的には生理食塩水、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、PBS、ハンクス平衡塩液、細胞培養液などであるが、これに限定されない。多孔質ゲルポリマーがポリマー状態で生体組織片と接触することにより、キャピラリー効果により、生体組織片が多孔質ゲルポリマーに付着する。したがって、支持体が生体組織片を支持可能となり、移送が容易になる。
【0050】
前記(iii)において、生体組織片を移送した目的場所において、支持体の多孔質ゲルポリマーをポリマー状態からゲル状態に変化させる。かかる変化にはいかなる方法を用いてもよい。前記多孔質ゲルポリマーはpH応答性であるため、例えば、前記多孔質ゲルポリマーをゲル状態に変化させうるpHを有する液体に浸漬する、前記多孔質ゲルポリマーをゲル状態に変化させうるpHを有する液体をゲルポリマーにかけるなどの方法が挙げられるが、これに限定されない。多孔質ゲルポリマーがポリマー状態からゲル状態に変化する際、液体を吸収・膨潤する。その結果、キャピラリー効果によって付着していた生体組織片は、付着力を失い、支持体から容易に脱離する。脱離の際に、これに限定するものではないが、例えば、支持体を滑動させるなどの方法により、脱離を促進させてもよい。
【0051】
本発明の方法において、生体組織片の形状は、いかなる形状であってもよい。しかしながら、支持体との接触面積が生体組織片全体の重量に対して大きいという観点から、シート状であることが好ましい。本発明の一態様において、生体組織片はシート状細胞培養物である。シート状細胞培養物を構成する細胞は、いかなる細胞であってもよい。典型的には、骨格筋芽細胞、線維芽細胞などが挙げられるが、これに限定されない。
【0052】
本発明の方法において特に好ましいのは、骨格筋芽細胞のシート状(膜状)培養物である。骨格筋芽細胞のシート状培養物は、絶対的な物理的強度が低く、そのため皺、破れ、破損などが生じ易いことから、移送、移植といった取扱いが非常に困難である。しかし、本発明の支持体を用いることで、物理的強度を補うことが可能となり、移送、移植などの取扱いを容易に行うことが可能となる。さらに、支持体とシート状骨格筋芽細胞培養物との接触表面の多孔質ゲルポリマーの性状を、pH条件という変化が容易な条件を変化させることによって、支持体から容易に脱離することができるため、非常に簡便に使用可能であり、支持体から脱離する際にも皺、破れ、破損などが生じにくい。したがって、本発明の支持体を用いる大きな利点がある。
【0053】
多孔質ゲルポリマーシートの使用例
多孔質ゲルポリマーシートの使用例を図1に示す。本例において、多孔質ゲルポリマーシートは、pH7.4の条件下で吸水、膨潤するように設計されている。図1に示したように、シート状細胞培養物は、生理食塩水中に遊離している。遊離したシート状細胞培養物にpH応答性の吸水性高分子の多孔シート(多孔質ゲルポリマーシート)を接触させると、キャピラリー効果により、シート状細胞培養物が多孔シートに付着し、シート状細胞培養物を支持したまま移送可能となる。次にこのシート状細胞培養物を支持した多孔シートを、pH7.4のリン酸緩衝液中に浸漬する。すると、前記多孔シートは吸水、膨潤してゲル化し、キャピラリー効果による付着力を失って、シート状細胞培養物は支持体上を滑るようになり、目的の臓器表面に容易に移植可能となる。
【0054】
上記の例においては、多孔シートをリン酸緩衝液中に浸漬することによりゲル化した後にシート状細胞培養物を臓器表面に移植するが、多孔シートに支持されたシート状細胞培養物を目的の臓器表面に貼付した後、臓器付近の体液により、またはリン酸緩衝液を塗布などによって供給することにより、多孔シートをゲル化してもよい。いずれの例においても、シート状細胞培養物を目的の臓器表面に貼付および多孔シートをゲル化した後、滑動によって支持体を脱離させることにより、容易にシート状細胞培養物を目的臓器表面に移植することが可能である。
【0055】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに説明するが、かかる例は、本発明の例示であり、本発明を限定するものではない。
【0056】
実施例1:多孔質ゲルポリマーからなる多孔シート作成
褐色サンプル管に、アクリルアミド(和光純薬製)3.8g、アクリル酸ナトリウム(合成品)2.13g、N,Nメチレンビスアクリルアミド(和光純薬製)0.013gを秤量した。蒸留水19.9gを同じ褐色サンプル管に添加し、褐色サンプル管の内容物をマグネスチックスターラーで溶解した。塩化ナトリウム5.4gを同じサンプル管に加えマグネスチックスターラーでさらに攪拌し、多孔シートの原料であるゲルポリマーのモノマー溶液を調製した。モノマー溶液にポンプを適用して減圧し、さらに真空デシケーター中で5分以上脱気した。
【0057】
過硫酸アンモニウム(和光純薬製)0.2gを試験管に秤量し、全体重量が1.0gになるように蒸留水を添加し溶解させ、20wt%過硫酸アンモニウム重合開始液を調製した。前記調製したモノマー溶液をマグネスチックスターラーで攪拌しながら、テトラメチルエチレンジアミン(東京化成製)0.127mLを添加し、さらに前記重合開始液100μLを添加した。得られた溶液のうち1mlを直径が5cmのポリスチレン製シャーレに展開した。2時間重合反応をさせた後、55℃オーブン内で減圧乾燥した。乾燥重合物を蒸留水中に静置し、未反応モノマー、塩化ナトリウムを除去した。
【0058】
この結果、円板形状のハイドロジェルが得られた。アセトン中でハイドロジェル中の水分を除き、さらに減圧乾燥することで、円形状の乾燥したハイドロジェルの親水性ポリマーからなるシートが得られた。ハイドロジェルのシートを2.5Nの塩酸中に入れ、55℃で46時間加熱後、水洗することでpH応答性のハイドロジェルポリマー多孔シートを得た。得られた平面的なハイドロジェルポリマー多孔シートを曲面的な表面を有する支持体の外表面に貼り付けることにより曲面的な表面を有する支持体を作成した。
【0059】
実施例2:シート状骨格筋芽細胞培養物の移植
(1)シート状骨格筋芽細胞培養物の作製
ミニブタから、麻酔下で骨格筋組織約5gを採取し、採取した筋肉組織を酵素消化して骨格筋芽細胞を回収し、37℃、5%CO条件下で培養を行った。培養した骨格筋芽細胞を回収し、温度応答性培養皿(UpCell:株式会社セルシード)に播種し、シート状骨格筋芽細胞培養物を作製した。
【0060】
(2)移植用治具へのシート状骨格筋芽細胞培養物のセット
シート状骨格筋芽細胞培養物をHBSS(ハンクス平衡塩液)に浸漬し、実施例1で作製した多孔性の親水性ポリマーからなるシートを前記シート状骨格筋芽細胞培養物に接触させて表面に付着させた。シート状骨格筋芽細胞培養物を接触させた移植用治具を引き上げ、移植用治具へシート状骨格筋芽細胞培養物をセット(載置)した(図2)。
【0061】
(3)移植
ミニブタの麻酔導入後、正中部を切開して心臓を露出させた。シート状骨格筋芽細胞培養物が載置された面が下向きになるように移植用治具を胸腔内に差し入れ、心臓表面左室前壁にシート状骨格筋芽細胞培養物を密着させた。移植部付近の体液による親水性ポリマーシートのゲル化を確認した後、移植用治具を手前に引き抜き、移植用治具の潤滑性を利用してシート状骨格筋芽細胞培養物を滑らせる(滑動させる)ことで心臓表面に移植した。シート状骨格筋芽細胞培養物は何ら損傷などなく心臓表面に移植することができた(図3)。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように、本発明の支持体を用いることにより、生体組織片、特に物理的強度が低く、取扱いが困難な生体組織片を、極めて簡便、迅速、かつ確実に取り扱うことが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中に遊離した生体組織片を移送するための支持体であって、該生体組織片に接触する表面の少なくとも一部が、前記生体組織片が滑動できるおよび/またはpHに応答して性状が変化する親水性ポリマーで構成される、前記支持体。
【請求項2】
pHに応答して正常が変化する親水性ポリマーが、pHに応答して吸水性が変化し、それによりゲル状態およびポリマー状態に可逆的に変化することができるゲルポリマーである、請求項2に記載の支持体。
【請求項3】
親水性ポリマーが、多孔質ポリマーである、請求項1または2に記載の支持体。
【請求項4】
接触した生体組織片が、滑動により表面から離脱可能である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の支持体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の支持体を有する、移送用器具。
【請求項6】
生体組織片を回収、移送および送達する方法であって、
(i)生体組織片に接触する表面の少なくとも一部が、前記生体組織片を滑動できるおよび/またはpHに応答して性状が変化する親水性ポリマーで構成された支持体に、生体移植片を接触させるステップ、
(ii)支持体に載置した生体移植片を目的場所に移送するステップ、
(iii)滑動および/または性状変化により、生体組織片を表面から離脱するステップ
を含む、前記方法。
【請求項7】
(i)において、親水性ポリマーが、ポリマー状態のpHに応答して性状が変化する親水性多孔質ゲルポリマーであり、
(iii)において、性状変化が、pHに応答してポリマー状態からゲル状態に変化することである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
生体組織片が、シート状細胞培養物である、請求項6または7に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−40101(P2012−40101A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182465(P2010−182465)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】