pVIIIファージディスプレイ
本発明は,pVIIに由来する新規な結合タンパク質を用いて,フィラメント状のファージ上にディスプレイされるペプチドの代替的な足場を提供する。フィラメント状のファージのライブラリーは,結合タンパク質から生成可能である。ファージディスプレイシステムは,ファージミドと,本発明の一部をなすヘルパーファージとを含む。本発明のある側面は,ファージディスプレイシステムを含むキットであり,該システムは,ファージミドと,ヘルパーファージとを含む。該ヘルパーファージは,本発明よる結合タンパク質をコードする核酸を含む。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
タンパク質の同定,特性解析,及び組み換えを組み合わせて行うための手法を利用することは,学術的な研究開発においても工業的な研究開発においても非常に成功を収めている。それに関して,フィラメント状のバクテリオファージといったファージディスプレイ技術は,第1のライブラリープラットフォームとなる方法として確立されてきており,現在のところ,独占的な技術として君臨している。したがって,ファージディスプレイは,基本的なタンパク質や応用的なタンパク質の発見において広く適用されているだけでなく,新規なタンパク質をベースとした診断や治療においても広く適用されており,いずれも,世界的に急速に広まっている化合物の分類である。
【0002】
組み合わせ可能なファージディスプレイ技術の原理は,遺伝子型−表現型の結合に基づいており,この遺伝子型−表現型の結合は,各ビリオンが,そのタンパク膜でカプセル化されたゲノムがエンコードされたタンパク質と完全に同一のタンパク質を,対応するビリオンの表面に,ディスプレイのみを行う傾向にあるという性質によって提供されるものである。ここで,ファージ粒子自体は,様々な生理化学的な条件に対して高い耐性をもっている。したがって,ファージディスプレイは,競合する組み合わせ技術と比較して,多くの選択ゲノムにおいて用途が多いという利点がある。
【0003】
異種のポリペプチドをファージディスプレイすることは,フィラメント状のファージ膜を構成するタンパク質の5種類全てを用いることで達成されている。しかし,pIIIのディスプレイと,pVIIIのある程度のディスプレイとが広範囲な利用として実現されているにすぎない(図1)。
【0004】
異種融合が短鎖のペプチドのみである場合,ファージゲノムをベースとしたベクターを用いた多価のディスプレイシステムが好ましいが,一方で,折り畳まれたドメインを必要とするより長鎖の融合の場合のような,多くの用途では,ファージミドシステムから恩恵を受けることとなる。後者の場合,抗体型pIIIのファージディスプレイは,この技術分野を圧倒的に独占している。しかし,代替的な手法が台頭してきており,その手法は,次世代のタンパク質工学のツールとして展開されることが継続的に求められている。多くの用途においては,二重特異性をもつファージ粒子を作製可能であること(特には,制御可能な手法で作製可能であること)は,複数のコートタンパク質が,同じウイルス粒子に照らして融合ペプチドをディスプレイしたという点で,優れた利点になり得るといえる。また,そのようなシステムは,既に確立されているディスプレイ技術、特にはpIIIディスプレイやpVIIIディスプレイに対して干渉を与えない必要がある。
【0005】
EndemannとModelは,1995年(PMID:7616570)に,少数のコートタンパク質であるpVIIが,原型のファージ内では利用できないこと,さらには,pVIIが,そのN末端と結合した他のタンパク質とともに機能しないことを報告した。そして,この報告では,pVIIがファージディスプレイには利用することができないと結論付けられている。
【0006】
Gaoらは,1999年(PMID:10339535)に,さらには,特許出願としての国際出願公開第0071694号パンフレットにおいて,pVIIに関する,オクタペプチドFLAGタグを用いた異種ペプチドのファージディスプレイだけでなく,pVIIやpIXに関する同時ファージディスプレイについても記述している。ここで,これらのディスプレイは,トポロジーを折り畳む錯体を隠蔽する機能的なヘテロ二量体型のポリペプチド(抗体Fv)を生成するためのものである。これらの著者は,抗体のディスプレイを行うための代替手段を開発することを目的としていた。pVIIやpIXといった結合タンパク質は,ダイシストロニック集合体を使用したファージミドから発現したものであるので,結果として,機能的なファージ粒子は,様々な量で,pVIIやpIXとしった結合タンパク質を必然的に含むこととなる。これは,ヘルパーファージゲノムから提供された野生型のpVIIやpIXといったタンパク質による相補性に起因するものである。pVIIやpIXが,それらのN末端に結合した他のタンパク質と機能しなかったことが,上述したように,既に提唱されており,また,Gaoらによって彼らの成功に関して可能性のある2種類の理由の単独又は双方の組み合わせが与えられている。
【0007】
1つの可能性のある理由は,原核生物のリーダー配列(シグナル配列)が,結合タンパク質にN末端的に添付していたことにあり,そのために,組み換え型タンパク質の標的化がペリプラズムの空間に確保され,それによって,細胞質内での集積が妨げられたことが考えられる。もう1つの可能性のある理由は,組み換え型のタンパク質が,エンデマンとモデルが提唱したようなファージゲノムではなく,ファージミドから発現したことにあり,そのために,ファージミドレスキューを必然的に必要としたヘルパーファージからの野生型のpVIIやpIXが組み換え型のpVIIやpIXといった結合タンパク質を補完しており,その結果,野生型の機能性(官能性),又は組み換え型の変性に起因して損なわれた機能性が妨げられたと考えられる。すなわち,ファージは,野生型のタンパク質と結合タンパク質の混合物で構成されるものである。上述の著者らは,pVII−pIXのディスプレイフォーマットが,異種二量体アレイを組み合わせたディスプレイが特に有用であろうということを述べている。ここで,そのようなアレイは,原因は不明ではあるが,パンニングプロトコルの間に特別な効果的な濃縮をもたらすようになると思われる。著者らは,pVIIをディスプレイ用タンパク質だけとして用いて,又はpVIIディスプレイを他のコートタンパク質(pIXとは異なるタンパク質)でのディスプレイと組み合わせて用いて,二重特異性ディスプレイを実現することを想定していない。
【0008】
Kwasnikowskiらは,scFvのフラグメントをファージゲノム内で直接的に遺伝子VIIに対して遺伝的に安定的に結合させることを記述している(PMID:16277988)。すなわち,結果的に得られるファージが,野生型のタンパク質pVIIを何ら含まず,かつ,pVIIディスプレイが多価であった。著者らは,ファージゲノムフォーマットにおいてpVIIのディスプレイに成功した理由の1つが,結合タンパク質をペリプラズムの空間に導く原核生物のシグナル配列で結合遺伝子を裏付けられたことにあると仮説を立てている。著者らは,上述したシステムの特異性が,pVIIをディスプレイするファージが,改変されていない少数のコートタンパク質として野生型pIIIを産生することにあると論じている。ここで,機能的なpIIIを多重的に複製するためには,宿主細胞の感染を必要としていることが既に報告されていることから,ファージ表面に野生型pIIIが存在することで,選択された抗体の再生が広い多様性をもって促進される可能性がある。つまり,著者らは,二重特異性のディスプレイを予期していないだけでなく,彼らは,ペリプラズムの空間にターゲッティングする原核生物のシグナル配列を必要としないpVIIディスプレイを予期していない。
【0009】
Khalilらは,二重特異性をもつフィラメント状のファージビリオンの特徴を利用した用途について記述している(PMID:17360403)。その特徴とは,外来栄養型のペプチドが完全同一のビリオンの各遠位端でディスプレイされるというものである。彼らは,上述した用途を,pIXディスプレイファージミドを補完する通常のpIIIファージゲノムのベクターを組み合わせて利用することで実現した。その設定では,ファージゲノムのベクターが,ファージミドをレスキューするときのヘルパーファージとして機能していた。つまり,本明細書で説明する手法,すなわち,pVII改変ヘルパーファージゲノムを使用してpIIIディスプレイのファージミドをレスキューすることで,二重特異性のファージミドビリオンを生成する手法,を想起させるものである。しかしながら,両者には,二重特異性ビリオンを得るための手段や,所定のビリオンのビオチン化を得る手段が互いに異なるという点でいくつかの特徴が挙げられ,それた特徴によって,両者は互いに区別されるといえる。
【0010】
第1に,Khalilらの手法では,pIIIファージミドディスプレイを,それらpIII結合を担うファージゲノムベクターのまま組み合わせて使用することができるはずがなく,結果として,ファージミドのレスキューで二重特異性を得ることはできず,また,二重特異性は,pIII結合の双方の機能に有害となる可能性が高いといえる。
【0011】
第2に,筆者ら自身が示しているように,ゲノムのpIX改変は,ファージゲノム内の遺伝子と重複するために,実行可能なストラテラジーの1つとしてみなすことはできないので,彼らは,改変されたヘルパーファージゲノムであって,pIIIファージミド(又はpVIII)レスキューに使用可能であるとともに,そのようにすることで,所定の表現型の特徴を完全同一のビリオンの双方の遠位端に提供可能なヘルパーファージゲノムの生成を予想したり,仮説を立てたりしていない。Khalilらは,改変されたpVIIをファージミドで使用することやファージゲノムディスプレイで使用することについて何ら言及していない。
【0012】
第3に,Khalilらは,単一のファージゲノムを改変するに際して,完全同一のゲノム内で複数のキャプシド遺伝子を同時に改変することで二重特異性をもつビリオンを実現することについて仮説を立てていない。彼らは,単に,市販で入手可能なファージゲノムベクターを使用して標準のpIIIペプチドディスプレイを利用したに過ぎない。
【0013】
第4に,Khalilらは,単に,二重特異性をもつビリオンをディスプレイする短鎖のペプチドを生成したに過ぎず,折り畳まれたドメインを生成したのではなく,また,そのようなディスプレイを,改変されたキャプシドタンパク質の一方又は双方で実現することについては何ら仮説を立てていない。
【0014】
第5に,Khalilらは,pIIIをディスプレイしたペプチドについて位置特異性をもつビオチン化を,インビトロの化学的結合を利用して実現しているが,インビトロやインビボでの酵素反応によっては実現していない。著者らは,アビジンタグ(AviTag:登録商標)といった酵素基板をディスプレイすることで,ディスプレイ部分について酵素介在型のビオチン化を行うことを何ら予想していない。
【0015】
以上のことから,Khalilらは,N末端のシグナル配列を利用しないタイプのディスプレイを何ら示唆していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は,フィラメント状のファージ上にディスプレイされたペプチドに適した代替的な足場を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の側面は,フィラメント状のファージに由来するpVII結合タンパク質であって,当該結合タンパク質がN末端のシグナル配列を含まず,それにより,結合が外来栄養型のペプチドに導かれる,結合タンパク質である。
【0018】
本発明の他の側面は,本発明の結合タンパク質をコードする核酸に関する。
【0019】
本発明のある側面は,本発明の結合タンパク質を含むフィラメント状のファージに関する。
【0020】
本発明の別の側面は,フィラメント状のファージのライブラリーに関する。
【0021】
本発明のある側面は,ファージミドと,ヘルパーファージとを含むファージディスプレイシステムであって,該ヘルパーファージが,本発明のpVII結合タンパク質をコードする核酸を含んでいる,ファージディスプレイシステムに関する。
【0022】
本発明の他の側面は,ファージミドと,ヘルパーファージとを含むファージディスプレイシステムであって,該ファージミドが,本発明のpVII結合タンパク質をコードする核酸を含んでいる,ファージディスプレイシステムに関する。
【0023】
本発明のある側面は,ファージミドと,ヘルパーファージとを含むファージディスプレイシステムを有するキットであって,該ヘルパーファージが,本発明のpVII結合タンパク質をコードする核酸を含んでいる,キットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は,フィラメント状のファージの構造を模式的に示す図である。ビリオンは,5種類の構造的なタンパク質で構成されており,これらのタンパク質は,単一らせん構造をもつDNA分子を被覆(コート)している。野生型(wt:wild type)のファージには,pVIIIの複製が約2700存在するとともに,ビリオンの各端にあるpIII,pVI,pVII,及びpIXからなる4種類のタンパク質の群のうちのいずれかの複製が3〜5前後存在する。ビリオンのサイズは,ゲノムのサイズに依存し,pVIIIコートタンパク質1個当たりヌクレオチドが2.3個前後であり,したがって,粒子の長さは,付着したpVIIIの複製の数で増減することで調整される。なお,pIIIやpVIIIの構造は,X線ファイバー回折法,結晶学,及び核磁気共鳴分析法(NMR)によって既に明らかにされている。少数のコートタンパク質であるpIIIは,互いに異なる3種類のドメインを含んでおり,それらのドメインは,グリシンが豊富な領域で分離されている。それら3種類のドメインは,N1(TolAに結合するドメイン)と,N2(F線毛に結合するドメイン)と,CT(ビリオンと一体的なドメインであって,正常なビリオンアッセンブリーにとって重要なドメイン)である。
【0025】
【図2】図2は,AviTag(登録商標),HIS6−タグ,及びFLAGタグの大腸菌K12コドン最適化を示す図であり,図2(A)は,市販で入手可能なAviTag(登録商標)のDNA配列と,大腸菌K12コドンの利用とを比較したものである。赤いコラムは,提出した配列に対応し,黒いコラムは,参照セットに対応する。図2(B)において,上部の線は,原型のAviTag(登録商標)を示しており,下部の線は,Aの結果に応じて調整した改変後の配列を示している。図2(C)は,コドン最適化後のFLAGペプチドを示す。図2(D)は,コドン最適化後のHIS6ペプチドを示す。
【0026】
【図3】図3は,野生型ヘルパーファージの比較対象となる改変後のヘルパーファージの滴定量を示す図である。
【0027】
【図4】図4は,M13K07のAviTag(登録商標)−pVIIIに関する酵素免疫測定(ELISA)分析結果を示す図である。 ビオニチル化したビリオンを吸収させるために,規格化したファージ調合液をストレプトアビジン(SA)のビーズと混合させ,その後,酵素免疫測定(ELISA)を実施例1で記述するように実施した。
【0028】
【図5】図5は,酵素免疫測定(ELISA)分析結果を示す図であり,M13K07でのpVII結合としてのFLAGタグのアクセシビリティー(可触性)を示している。規格化したファージ調合液を酵素免疫測定(ELISA)試験で使用した。M2とM5のMAbの双方に関しては,M13K07FLAGについてのみ,FLAGタグの明確な検出値が認められる。M5のMAbによるFLAGタグの検出値の方がより強い。
【0029】
【図6】図6は,分析結果を示す図であり,M13K07(配列表ID番号:31)とVCSM13(配列表ID番号32)の双方に対するpVII結合としてのHISタグのアクセシビリティー(可触性)を示している。HIS6でタグ化されたビリオンを吸収させるために,規格化したファージ調合液を,タロン社(Talon)のダイナビーズ(Dynabeads;登録商標)と混合させ,その後,酵素免疫測定(ELISA)を実施例1で記述するように実施した。
【図7】図7(A)では,scTcRのファージミドの滴定量とscFv−pIIIがディスプレイされたファージミドの滴定量をコロニー形成単位cfuampR/mlで示されている。図7(B)では,ヘルパーファージに対するファージミドの比率を,ファージミドの滴定量(cfuampR/ml)をヘルパーファージの滴定量(cfukanR/ml)で割った値で示す比率で示されている。
【図8】図8は,scTCRファージミドAviTag(登録商標)の酵素免疫測定(ELISA)分析結果を示す図であり,ストレプトアビジンで被覆(コート)したダイナビーズ(登録商標)でファージレスキューした後のAviTag(登録商標)の明確なアクセシビリティー(可触性)を示している。
【図9】図9は,酵素免疫測定(ELISA)分析結果を示す図であり,互いに異なる2種類のファージミドにおいて,2種類のアンチFLAG抗体M2及びM5でファージミドビリオンをキャプチャーしたときの,pVII結合としてのFLAGタグのアクセシビリティー(可触性)を示している。図9(A)は,ファージミドpFKPDNscTCR Vαβ4B2A1に関し,図9(B)は,ファージミドpSEX−scFvアンチphOxに関する。規格化したファージ調合液を使用した。
【図10】図10は,酵素免疫測定(ELISA)分析結果を示す図であり,図10(A)は,pVIIAviTag(登録商標)を用いてファージミド由来のビリオン上でディスプレイされたscTCRpIIIの機能性を示しており,図10(B)は,同様にディスプレイされたscFvpIIIの機能性を示している。規格化したファージ調合液を使用した。
【図11】図11は,酵素免疫測定(ELISA)分析結果を示す図であり,図10(A)は,FLAGタグやHIS6タグを用いてファージミド由来のビリオン上でディスプレイされたscTCRの機能性を示しており,図10(B)は,同様にディスプレイされたscFvの機能性を示している。規格化したファージ調合液を使用した。
【図12】図12は,pVIIAviTag(登録商標)を用いた場合及び用いなかった場合におけるゲノムファージfUSE5−scTCRpIIIの滴定量を示す図である。
【図13】図13は,酵素免疫測定(ELISA)分析結果を示す図であり,ストレプトアビジンビーズでファージをキャプチャーした後にアンチM13抗体によって結合したファージを検出した場合におけるゲノムのfUSE5−AviTag(登録商標)ファージ調合液の機能性を示している。規格化したファージ調合液を使用した。
【図14】図14は,酵素免疫測定(ELISA)分析結果を示す図であり,AviTag(登録商標)−pIIIを用いた場合におけるゲノムのファージであるfUSE5上でpIIIがディスプレイされたscTCRの機能性を示している。規格化したファージ調合液を使用した。
【図15】図15は,pIIIディスプレイのファージミドを模式的に示す図であり,図15(A)は,新規なpGALD7に関するものであり,図15(B)は,新規なpGALD7ΔLに関するものである。双方のファージミドのベクターバックボーンは,pSEX81(配列ID番号:29)に基づいたものであり,その配列は,ゲンバンク(GenBank)登録番号Y14584から入手可能であり,その構成に関する詳細は,材料及び方法(Materials and Methods)の項目内に記述されている。双方のファージミドは,それぞれ,NcoI/HindIII部分及びMluI/NotI部分の簡易カセット交換を介して,イン・フレームの外来栄養の配列(E1,E2とも称する)のカセットを提供可能である。それらのカセットは,以下に述べる互いに異なる構造体の中で変化する人工のリンカー配列で接続される。それら構造体とは,略称lacPOで示すlacプロモーターと,略称sdで示すシャイン・ダルガノ配列(Shine−Dalgarno sequence)と,略称pelBで示す細菌性ペクチン酸リアーゼのシグナル配列と,略称TPで示すトリプシンプロテアーゼサイトと,略称tで示すT7転写終結点である。
【図16】図16は,pGALD7ΔL(pVIIΔL),pGALD7(pVII),pSEX81(pIII),及びpSEX81ΔL(pIIIΔL)からディスプレイされたscFVのアンチphOx(配列ID番号26)のファージミドの滴定量を示す図である。これらのファージミドは,いずれも,アンピシリン抵抗マーカーをかくまうものであるから,滴定量は,溶液1ミリリットル当たりのアンピシリン抵抗性コロニー形成単位(cfuampR/ml)として示されている。
【図17】図17は,抗原種(phOx−BSA)に関する酵素免疫測定(ELISA)の結果を示す図であり,シグナル配列(ΔL)を用いた場合と用いなかった場合において,機能性scFvアンチphOx(配列ID番号26)のディスプレイをpVIIとpIIIの間で比較したときを示している。なお,酵素免疫測定(ELISA)を,材料及び方法で説明されているように行うとともに,滴定量に関する滴下量は,pGALD7(pVII)を除く全てのサンプルに対して2×1010cfuampR/mlとし,pGALD7(pVII)については,希釈せずに使用した(これは,1.1×107cfuampR/mlに相当する)。図中アンチM13HRPは,抗原性薬剤及び阻害剤に対してビリオン検出MAbがあいまいな吸着を起こすことに関して負のコントロールを行った場合を示している。
【図18】図18(A)は,pGALD7ΔL(pVIIΔL),pGALD7(pVII),pSEX81(pIII),及びpSEX81ΔL(pIIIΔL)からディスプレイされたscFVのアンチphOxのファージミドの滴定量をcfuampR/mlで示す図である。図18(B)は,ファージミドの滴定量(cfuampR/ml)をヘルパーファージの滴定量(cfukanR/ml)で割った値に相当する比率を示すヘルパーファージに対するファージミドの割合を示す図である。ビリオンの凝縮(packaging)を,材料及び方法で説明する標準のファージミドのレスキューとして行うか(−),又は,図18(A)及び図18(B)の双方においてスーパーインフェクション後に現存するIPTGの最終濃度が0.1mMとなるように行った。
【図19】図19は,抗原種(phOx−BSA)に関する酵素免疫測定(ELISA)の結果を示す図であり,機能性scFvアンチphOxpIIIのディスプレイを,シグナル配列(ΔL)を用いた場合と用いなかった場合,及び,pVII結合発現のためにIPTG誘導(0.1mM)を行った場合と行わなかった場合について比較したときを示している。なお,酵素免疫測定(ELISA)を,材料及び方法で説明されているように行うとともに,滴定量に関する滴下量は,pGALD7ΔL(pVIIΔL)に対して2×1010cfuampR/mlとし,pGALD7(pVII)については,希釈せずに使用した(これは,IPTGを用いた場合で2.0×109cfuampR/mlに相当し,IPTGを用いなかった場合で1.1×107cfuampR/mlに相当する)。図中アンチM13HRPは,抗原性薬剤及び阻害剤に対してビリオン検出MAbがあいまいな吸着を起こすことに関して負のコントロールを行った場合を示している。
【図20】図20は,抗原種に関する酵素免疫測定(ELISA)の結果を示す図であり,図20(A)は,シグナル配列(ΔL)を用いた場合と用いなかった場合における機能性scFvのpVIIディスプレイを比較した場合を示しており,図20(B)は,同様の場合における機能性scFvアンチNIPのpVIIディスプレイを比較した場合を示している。なお,酵素免疫測定(ELISA)を,不純物を除去したものを希釈していない状態で同量用いて,材料及び方法で説明されているように行った。アンチM13HRPは,抗原性薬剤及び阻害剤に対してビリオン検出MAbがあいまいな吸着を起こすことに関して負のコントロールを行った場合を示している。図20(A)では,T細胞受容体4B2A1用の抗体クローン種GB113を,scTCRのVαβ4B2A1に対する,コグネートI−Ed/2315配位子の代理となる代理抗原性薬剤(Losetら,PMID:17925331)として用いた。
【図21】図21(A)は,標準ファージミドレスキューを用いた場合においてpGALD7ΔL及びpGALD7からディスプレイされたscTCRのVαβ4B2A1とscFvアンチNIP(配列ID番号27)のファージミド滴定量を示す図であり,図21(B)は,図21(A)におけるサンプルと同じサンプルのファージミド対ヘルパーファージ比を示す図である。
【図22】図22(A)は,ビリオン凝縮プロトコル測定の終端における各大腸菌培養液の細胞密度をA600nmにおける光学密度(OD)で示す図である。なお,全ての培養液は,A600nmにおける密度がいずれも0.025で始まっており,その後,A600nmが0.1に到達したときにN13K07を用いてMOI5でスーパーインフェクションを行った。そして,培養液の最終的なODを測定する前に,凝縮が30℃でオンとなるようにした。
【発明を実施するための形態】
【0030】
なお,以下に説明する本発明の一態様に係る実施形態及び特徴は,本発明の他の側面に対しても適用可能である。
【0031】
本発明で引用する全ての特許文献及び非特許文献は,参照によってそれらの全てが本明細書に取り入れられる。
【0032】
本明細書では,新たな技術的思想として,フィラメント状のファージビリオンの構造的なコートタンパク質pVIIが,遺伝的に,改変後のビリオンがN末端の配列タグをコードするように変化することを説明する。pVIIに結合されるタグの種類によって,ビリオンには,特異なタグ検出性だけでなく,適応性のある精製手段と固定化手段とがシステムがもつ性質として与えられる。その手法は,既存のpIIIディスプレイシステムやpVIIIディスプレイシステム,さらには,pVIIに関する新規なライブラリー生成を含むシステムに対して,ファージミドベクターのファージゲノム基部が適用できるかどうかに関わらず,直接的に適合可能である。したがって,この新たな技術的思想は,ファージディスプレイ技術の高い多様性に対してさらなる発展をもたらすものである。
【0033】
最初に,今回の報告では,フィラメント状のファージゲノムが,シグナル配列の生存能力や機能性に干渉を与えることがないpVIIのN末端でのペプチド改変を,シグナル配列をかくまうことなく許容するということを説明する。このことは,M13K07(配列ID番号31),VCSM13(配列ID番号32),及びfUSE5(配列ID番号30)のゲノム,ファージミド,並びにファージミドで実証されただけでなく,様々な株の間で表現型の保存性が非常に高い。このことは,あらゆるフィラメント状のファージに対する適用を非常に有望なものとする。
【0034】
選択されたpVII結合の1つは,AviTag(登録商標)の原核生物のコドンを最適化したバージョンであった。そのペプチドは,今までに報告されている基板の中でも最も効率的なBirA基板である。このpVIIペプチドディスプレイをpIIIディスプレイと組み合わせることによって,二重特異性をもつビリオンが生成されることを以下に説明する。このことは,ファージゲノムをベースとしたベクターであるfUSE5(配列ID番号30)で実証されるとともに,改変後のM13K07のヘルパーファージを用いてレスキューしたときのファージミドディスプレイから実証された。この二重特異性という性質を,pVIIIディスプレイと組み合わせて利用することが可能であるということも容易に考えられる。特に,ファージミド由来のビリオンの場合には,内因性のビオチン化レベルが非常に低かった。
【0035】
一方で,ビオチン化レベルが高い方が望ましい場合,それは,それらのビリオンのビオチン化をインビトロで行うことで,また,新規なF陽性の大腸菌であるAVB100FmkII株を使用してビオチン化をインビボで行うことで,容易に達成することが可能である。
【0036】
したがって,今回の技術的思想によって,アビジン−ビオチン技術を,支配的なファージディスプレイプラットフォーム(ファージやファージミド)及びディスプレイシステム(pIIIやpVIII)の双方と組み合わせることが可能となる。そして,そのことにより,ファージ粒子に対するビオチン部位の接続が,pIII結合及び/又はpVIII結合に干渉を与えることなく,コントロールされたサイト特異性のある状態で可能となり,その結果,機能性の保持を確保することができる。このシステムは,利用の有無を選択するだけで,既存のプラットフォームに対してさらなる改変を必要とすることなく直接的に適合することができる。
【0037】
まとめると,ゲノム由来のビリオンやファージミド由来のビリオンの双方は,正常な機能性と生存能力をもつビリオンを産生しつつ,pVIIの改変を許容することができる。
【0038】
pVII結合タンパク質
本発明のある態様では,フィラメント状のファージに由来するpVII結合タンパク質であって,当該結合タンパク質は,外来ペプチドがpVIIのN末端に結合している結合タンパク質が提供される。そのような結合タンパク質は,例えば,ファージディスプレイのコンテキストで利用可能である。
【0039】
外来ペプチドといった場合,タンパク質pIII,pVII,又はpVIIIの一部をもともと持っていないペプチドを意味し,結合タンパク質がもつpIII,pVII,又はpVIIIのアミノ酸部分のN末端に対するリンカーとなるアミノ酸を持つペプチド又は持たないペプチドをいう。好ましい実施態様では,結合タンパク質は,N末端のシグナル配列を含まない。本明細書では,用語「ペプチド」は,短鎖のペプチド,ポリペプチド,タンパク質,及びそれらのフラグメントを含む概念である。
【0040】
用語「pIIIタンパク質」は,配列ID番号2に開示するようなアミノ酸配列を指す。
【0041】
ある実施形態では,pIIIタンパク質は,配列ID番号2の配列に対する相同性が少なくとも80%のアミノ酸配列を含み,例えば,その相同性が80%,相同性が81%,相同性が82%,相相同性が83%,相同性が84%,相同性が85%,相同性が86%,相同性が87%,相同性が88%,相同性が89%,相同性が90%,相同性が91%,相同性が92%,相同性が93%,相同性が94%,相同性が95%,相同性が96%,相同性が97%,相同性が98%,又は,相同性が99%である。
【0042】
用語「pIII結合タンパク質」は,配列ID番号2に開示するようなアミノ酸配列を指す。
【0043】
用語「pIII結合タンパク質」は,外来ペプチドに結合したpVIIIタンパク質又はそのフラグメントをいう。
【0044】
用語「pVIII結合タンパク質」は,配列ID番号3におけるアミノ酸配列を指す。
【0045】
ある実施形態では,pVIIIタンパク質は,配列ID番号3の配列に対する相同性が少なくとも80%のアミノ酸配列を含み,例えば,その相同性が80%,相同性が81%,相同性が82%,相同性が83%,同性が84%,相同性が85%,相同性が86%,相同性が87%,相同性が88%,若しくは,相同性が89%であるか,又は,相同性が90%,相同性が91%,相同性が92%,相同性が93%,相同性が94%,相同性が95%,相同性が96%,相同性が97%,相同性が98%,若しくは,相同性が99%である。
【0046】
用語「pVIIタンパク質」は,配列ID番号1におけるアミノ酸配列を指す。
【0047】
ある実施形態では,pVIIタンパク質は,配列ID番号1の配列に対する相同性が少なくとも80%のアミノ酸配列を含み,例えば,その相同性が80%,相同性が81%,相同性が82%,相同性が83%,同性が84%,相同性が85%,相同性が86%,相同性が87%,相同性が88%,相同性が89%であるか,相同性が90%,相同性が91%,相同性が92%,相同性が93%,相同性が94%,相同性が95%,相同性が96%,相同性が97%,相同性が98%,又は,相同性が99%である。
【0048】
配列の相同性
通常,「相同性」といった場合,遺伝子やタンパク質がそれぞれヌクレオチドレベルやアミノ酸レベルで互いに一致しているときの配列の一致度合いをいう。
【0049】
そして,本明細書では,コンテキストとしての「配列の相同性」は,タンパク質がアミノ酸レベルで互いに一致しているときの一致度合いを示す測定値や,核酸がヌクレオチドレベルで互いに一致しているときの一致度合いを示す測定値をいう。ここで,タンパク質の配列の相同性は,複数の配列が並んでいる場合,各配列において所定位置でのアミノ酸配列を比較することによって決定されてもよい。同様に,核酸の配列の相同性は,複数の配列が並んでいる場合,各配列において所定位置でのヌクレオチド配列を比較することによって決定してもよい。
【0050】
2種類のアミノ酸配列や2種類の核酸配列の相同性を百分率で決定するにあたり,最適な比較を目的として,それらの配列は調整される(例えば,第2のアミノ酸配列や第2の核酸配列を最適に並べることを目的として,第1のアミノ酸配列や第1の核酸配列の配列内に,スペース(gap)を設けてもよい)。そして,アミノ酸の残りの部分やヌクレオチドは,対応するアミノ酸の位置や対応するヌクレオチドの位置で比較される。第1の配列内の位置が,第2の配列内の対応する位置で同じアミノ酸の残りの部分やヌクレオチドによって占有されている場合,その位置で分子が同一であるとされる。2種類の配列の間での相同性を示す百分率は,配列によって共有された位置が一致する数の関数である(すなわち,相同性[%]=(一致する位置の数/位置の総数(例えば,重複する位置の数))×100)。ある実施形態では,2種類の配列は,互いに同じ長さである。
【0051】
配列を手動で調整して,同一のアミノ酸の数を数えてもよい。これに代えて,相同性の百分率を決定するために,数学的なアルゴリズムを用いて2種類の配列を配列させてもよい。そのようなアルゴリズムは,Altschulら(1990年)によるNBLASTプログラムやXBLASTプログラムに組み込まれている。BLAST(ブラスト)のヌクレオチド検索は,NBLASTプログラムを用いて,スコア100,ワード長12で実行可能であり,これにより,本発明による核酸分子と相同のヌクレオチド配列を得ることが可能である。BLASTのタンパク質検索は,XBLASTプログラムを用いて,スコア50,ワード長3で実行可能であり,これにより,本発明によるタンパク質分子と相同のアミノ酸配列を得ることが可能である。比較目的でスペースを入れた配列を得るために,ギャップ化ブラスト(Gapped BLAST)を利用してもよい。それに代えて,サイブラスト(PSI−BLAST)を用いて,分子間の距離関係を検出する反復検索を行ってもよい。NBLASTプログラム,XBLASTプログラム,及びスペース化BLASTプログラムを利用する場合,各プログラムのデフォルトのパラメーターを用いることが可能である。http://www.ncbi.nlm.nih.gov.を参照のこと。これに代えて,例えば,EMBLデータベース内のBLASTプログラム(www.ncbi.nlm.gov/cgi−bin/BLAST)で配列を並べた後に,その配列の相同性を計算してもよい。一般的には,例えば「スコアリングマトリックス」や「ギャップペナルティ」についてはデフォルトの設定をアライメントに使用可能である。本発明のコンテキストでは,BLASTNとサイブラスト(PSI BLAST)のデフォルトの設定が好都合なものとなり得る。
【0052】
2種類の配列間の相同性の百分率は,許容可能なスペースがある場合やない場合において,上述したような技術と同様の技術を用いて決定することも可能である。そして,相同性の百分率を計算する際には,正確に一致するものだけが数えられる。
【0053】
折り畳みタンパク質
本発明の好ましい実施形態では,用語「ペプチド」は,抗体由来のドメインなどの折り畳みタンパク質のみを意味する。当業者は,以下を含む,折り畳みタンパク質が抗体やそのフラグメントであり得ることを認識するものである。Fv,scFv,Fab,単一のドメイン,タンパク質AのZドメイン(Affibody),アンキリンやそのフラグメント,T細胞受容体やそのフラグメント,MHC分類IやIIのフィブロネクチンやそのフラグメント,Avimer,Anticalin,PDZドメイン,IgNARやそのフラグメント,CTLA4やそのフラグメント,ImmE7,Knottin,GFP,及び,その他の遺伝子をコードした生物化学的な蛍光色素分子。
【0054】
原理的には,ディスプレイ可能である限り,任意のものをライブラリー化することが可能である。そのため,整列構造(つまり,折り畳み構造)を持つものに比較して非構造的な配列のみを持つものを区別することだけに関していえば高いレベルで行うことが可能である。
【0055】
別のより好ましい実施形態では,用語「ペプチド」は,2〜50個の間のアミノ酸(aa)の短鎖のペプチドのみを意味する。ある長さでは,短鎖のランダムコイル構造をもつペプチドは,所定の二次的な折り畳み構造又は三次的な折り畳み構造に十分に適した長さであり,そのために,折り畳まれたドメインを定義することとなる。このことは,明らかに,化学的な組成に依存している。したがって,20個のアミノ酸(20aa)からなる一方のペプチドがランダムコイル構造のままである場合,20個のアミノ酸(20aa)からなる他方のペプチドは折り畳まれた状態となり得るものであり,結果として,折り畳みドメインを定義し得るものとなる。
【0056】
別のより好ましい実施形態では,本発明によるpVII結合タンパク質は,配列ID番号1における位置1〜33,位置2〜33,位置3〜33,位置4〜33,及び位置5〜33からなる位置の群から選択された配列を含む。
【0057】
配列ID番号1(MEQVADFDTIYQAMIQISVVLCFALGIIAGGQR)は,フィラメント状のファージの構造的なコートタンパク質pVII(野生型pVII)のアミノ酸配列である。最も好ましくは,そのpVII結合タンパク質は,配列ID番号1における位置1〜33にある。
【0058】
シグナル配列
好ましくは,外来ペプチドは,任意のアミノ酸を介して又は介さずに,結合タンパク質のpVII配列のN末端に対して直接的に結合している。さらに別の好ましい実施形態では,pVII結合タンパク質は,N末端のリーダー(leader)配列を含まない。
【0059】
用語「リーダー配列」は,用語「シグナルペプチド」や用語「シグナル配列」と置換可能に用いられ,グラム陰性菌のペリプラズムの皮膜スペースに対してタンパク質(そのリーダー配列が一部であるタンパク質)をターゲッティングするアミノ酸配列を意味する。リーダー配列の例としては,pelBss,OmpAss,TorAss,malEss,phoAss,lamBss,Blass,及びDspAssや,mglBss,sfmCss,tolBss,及びTorTssがしばしば用いられる。そのようなシグナル配列は,大腸菌の分泌機構に対して,完全なタンパク質をターゲッティングすることが知られている。ここで,大腸菌は,少なくとも,細胞質ゾル(シトソル)からペリプラズムの空間への転座として,SRP依存の転座,SEC依存の転座,TatABC依存の転座,又はYidC依存の転座を含むことが知られている(Baneyxら,PMID:15529165)。したがって,用語「N末端のシグナル配列」は,タンパク質のN末端部分内にあるシグナル配列を意味する。
【0060】
シグナル配列は,大腸菌の分泌機構に対してタンパク質(その一部)をターゲッティングする性質をかくまい,それによって,それを細胞質の区画からペリプラズムの区画へと転座させるものであって,シグナル配列を,アミノ酸の組成の化学的な性質によって定義された符号(signature)やモチーフを用いて,部分的に同定することが可能である。
【0061】
しかし,既存の機能的なシグナル配列の多様性は,まだ現在のところ,それらを同定するにあたり現在の知見を上回るものであり,そのために,ペプチドをコグネートシグナル配列として定義する際の技術の現状は,通常,例えば,神経ネットワークや発見的方法論によってテンプレートとしてデータベース化された知見を用いてデータ検索することにとどまっている。現在のところ,そのようなツールのいくつかは,オープンアクセスチャネル(例えば,SignalP,PROSITE(EMBL−EBI)のPPSEARCH,SecretomeP,TatP)を介して社会全体で利用可能である。
【0062】
その挑戦は,分泌線のタンパク質を分類する場合,シグナル配列モチーフが無いことを同定可能だが,データ検索を用いることで,シグナル配列の特徴を定義したり,問題となっている真核性タンパク質の分泌能力の可能性を取得したりすることが可能といったルールからは外れた細胞質の区画からエクスポートする意味において,さらに高度である。現在のところ,そのようなツールは,原核生物群に関しては,まだ存在しない。
【0063】
したがって,現在利用可能な方法であって,ペプチドをシグナル配列として変更不可的に同定する唯一の方法は,経験的な手段によるものであり,ペプチドの性質を確認して,それが実在するシグナル配列であるかどうかを決定することである。また,そのようなペプチド内で工業技術を,シグナル配列内でのアミノ酸の所定位置が変化しつつも,そのシグナルペプチドとしての機能が,天然の機能性及び変化後の機能性のいずれか(例えば,増大した転送能力)によって保持されるように,なし得ることは明らかである。また,アミノ酸の欠失や付加を行ってもよい。確かに,そのような分析や工業技術は,FfpVIIIシグナル配列,Sec経路をターゲッティングするg8pss,及び,Tat経路をターゲッティングするTorAssを用いてなされてきた。特に,Shenらによる結果は,変化後の変種,pIIIシグナル配列,及び細菌性ペクチン酸リアーゼのシグナル配列を除いては,機能についての工業技術にとって十分に根拠のあるガイドラインとして機能している。
【0064】
シグナル配列の機能性は,さらに,以下の2種類のペプチドに分けることが可能である。
【0065】
1.大腸菌の分泌機構に対するタンパク質(その一部)のターゲッティングを行って,その結果,細胞質の区画からペリプラズムの区画へと転座させ,そして,本プロセスの途中で,特定のプロテアーゼ(例えば,リポタンパク質のシグナルペプチダーゼやリーダーペプチダーゼ)を用いて,残っているタンパク質からタンパク質分解的に分離すること。
【0066】
大腸菌の分泌機構に対するタンパク質(その一部)のターゲッティングを行って,その結果,細胞質の区画からペリプラズムの区画へと転座させ,その後に,タンパク質の一部として転座を保持したままとすること。
【0067】
シグナル配列の非常に多くの部分は,上述した状況1にマッピングされるが,これらのタンパク質を上述した状況2で容易に処理し得ることは明らかである。したがって,現在のところ知られている任意のシグナル配列(例えば,変種pelBssなど)は,もともと,上記状況1に属するものであるが,上記状況2に変えられて,コグネートシグナル配列としてみなされる。
【0068】
また,状況1のシグナル配列を状況2に変化させること,及び,状況2にマッピングするシグナル配列を直接的に選択し,そして転座後にシグナル配列を除去することのいずれかを考えることができる。このことは,宿主に内在するプロテアーゼによって,及び/又は,例えばファージディスプレイの場合においてタンパク質がキャプシドタンパク質に結合するときに実行可能である。そして,シグナル配列の適切な領域や,一部をなすタンパク質,人工的なプロテアーゼのサイトを,所定の裂け目が実現できるように処理することになる。ここでは,2種類の互いに異なるタイプのプロテアーゼの選択サイトを以下のように想定することができる。
【0069】
A. プロテアーゼのサイトは,興味のある抗体や他の足場(例えば,主要な組織適合性錯体分子やT細胞受容体)と結合すると予想されるサイト(例えば,カルボキシペプチダーゼや3Cライノウイルスのプロテアーゼサイト)のみで,興味のあるタンパク質を開裂させない。この手法を利用することで,例えば,上記状況2にマッピングするシグナル配列を用いることによる,興味のあるタンパク質のファージディスプレイを,想定することができるとともに,選択などに先だって,シグナルペプチドを人為的に除去して,キャプシド結合に対する機能性と均一性を得ることができる。
【0070】
B. プロテアーゼのサイトは,処理後のサイト(例えば,トリプシン)に加えて,興味のあるタンパク質を開裂させる。
【0071】
双方の状況は,シグナル配列依存のファージディスプレイとしてみなすことができることとなる。
【0072】
野生型の相補性
これまでは,シグナル配列を用いないときのpVII結合は,ファージ粒子の産生を助長することに関して非機能的であると考えられてきた(Endemanら,1995年;Gaoら,1999年)。そのため,そのN末端に直接的に結合した外来ペプチドを持つpVII結合タンパク質は,ファージゲノム上の第2の遺伝子からのpVIIタンパク質の重量によって,又は,ヘルパーファージからの提供によって補完される必要があった。
【0073】
用語「野生型」とは,野生の型,野生−型,又はwtとも称することとするが,有機的組織体,株,若しくは遺伝子の通常の形態であることや,天然で生じたままの特性のことをいう。野生型とは,天然の個体群において最も一般的な表現型であることをさす。また,野生型とは,野生型という表現型を産生するために必要な遺伝子座の各々における対立遺伝子をさす。野生型のものは,遺伝子型や表現型を参照するときの標準となる。生物学上,野生型は,天然に生じる有機的組織体と,故意に変異させた個体との間の差異に特に関連している。サイト特異性のある突然変異生成は,研究技術の1つであり,これにより,野生型遺伝子の遺伝子配列において特定のヌクレオチドを変異させることが可能となる。本明細書では,野生型のタンパク質を,wt−(タンパク質名)といったように称することとし,例えば,野生型pVIIタンパク質は,wtpVII,wt−pVII,野生型pVIIと称される。
【0074】
本願の発明者らは,上述したようなpVII結合タンパク質が,確かに機能的であり,かつ,必ずしも,野生型pVIIタンパク質で補完される必要がないことを見いだした。
【0075】
したがって,本発明のある態様は,ファージディスプレイにおいて機能的なpVII結合タンパク質であって,野生型pVIIタンパク質での補完が必要ないpVII結合タンパク質に関する。
【0076】
Kwasnikowskiらは,野生型pVIIタンパク質での補完の必要がないpVII結合タンパク質について報告している。しかしながら,KwasnikowskiらのpVII結合タンパク質は,外来ペプチドのN末端端部にシグナルペプチドを含むものであった。そのシグナルペプチドは,N末端pVII結合タンパク質を,ペリプラズム空間内へ向ける必要があるとともに,シトプラズム内でのその蓄積を妨げることが推測された。
【0077】
シグナルペプチドがpVII結合タンパク質のN末端端部に存在しないことで,様々な効果が得られる。シグナルペプチドは,通常はタンパク質分解的に除去される。そして,その処理では,しばしば完全ではないが,それにより,タンパク質の収集(collection)が発現する場合において処理後のタンパク質に互いに異なるN末端端部が生じ,その結果,システム内においてランダムな均一性が生じることとなり,このことは,
処理後のタンパク質内において無用のエラーにつながるリーダーペプチドをかくまったままのタンパク質の機能性に影響を与える可能性がある。このことは,シグナルペプチドが存在しないことで回避される。
【0078】
また,ペプチドのライブラリーがディスプレイされた場合,ペプチドのいくつかは,タンパク質分解を回避したり影響を与えたりする可能性がある。ここで,タンパク質分解は,ディスプレイされたタンパク質の活性,ひいては機能的なライブラリーの多様性に影響を与えるものである。シグナルペプチドを含まないことによる,さらに他の意外な効果としては,ファージの実行可能性や機能性が,シグナルペプチドを使用した場合とは異なり,影響を受けないということがある。Kwasnikowskiらは,リーダー配列(シグナルペプチド)をN末端に含むpVII結合タンパク質を用いた場合のファージに対して滴定量が低かったことを報告している。
【0079】
外来ペプチド
ある実施形態では,外来ペプチドは,所定のターゲットに結合する親和性標識(アフィニティータグ)である。親和性標識は,例えば,所定の抗体と結合し得るものである。親和性標識と所定のターゲットの組み合わせは,当業者にとっては周知である。
【0080】
タンパク質タグは,遺伝子的に,組み換え型タンパク質上へ移植するペプチド配列である。これらのタグは,たいてい,化学的な試薬によって,又は,酵素的な手段(例えば,タンパク質分解やインテインスプライシング)によって,除去可能である。タグは,様々な目的でタンパク質に取り付けられる。
【0081】
親和性標識は,それらの未処理の生物源から親和性技術で精製可能なように,タンパク質に付加される。
【0082】
未処理のN末端FLAGタグの特徴は,そのホルミル基のMet残渣が原形のままでもつことであり,そのために,Ca2+依存の相互作用であってアンチFLAGのMAb M1との相互作用が許容される。そして,M1上にビリオンを結合(つまり固定)することが可能となるとともに,そのカチオンがEDTAなどによってキレート化されていることでのみビリオンが遊離することが可能となり,その結果,非相同の結合を変成させるような過度のpHとならない,非常に緩やかな溶出が進行することとなる。また,このことは,M1を使用することで,システムを,既存の他のFLAG結合(内部的に,処理後のN末端,又はC末端)とともに,M1によって又は単純にカルシウムイオン濃度([Ca2+])を低く維持することによって認められることがない程度の干渉を伴うことなく,利用することが可能となることも意味している。
【0083】
好ましい実施形態では,pVII結合タンパク質の外来ペプチドは,AviTag(登録商標)(配列ID番号4),FLAGタグ(配列ID番号9),HISタグ(配列ID番号12),HATタグ,HAタグ,c−Mycタグ,ストレップタグ(Strep tag),V5タグ,抗体又はそのフラグメント,T細胞受容体又はそのフラグメント,MHC分類I及び分類II,アンキリン,IgNAR又はそのフラグメント,フィブロネクチン又はそのフラグメント,タンパク質AのZドメイン,CTLA4又はそのフラグメント,ImmE7,GFP,及び,その他の遺伝子をコードした生物学的な蛍光色素分子からなる群から選択される。
【0084】
配列ID番号2(MSGLNDIFEAQKIEWHE)は,酵素仲介型のサイト特異性結合であって,ビオチン部位の基質配列への結合を可能にする大腸菌酵素BirA配列の基質配列である。したがって,ファージディスプレイ技術の利点とアビジン−ビオチン技術の利点とを兼ね備えることとなる。pVII上にディスプレイされていないライブラリー内の任意の結合ライブラリーは,例えば,第1に,高い親和性をもつライブラリーの要素を同定するために,ターゲットに対して細分化され,そして,アビジンに結合しているビオチン,又は,ビリオン上のpVII結合も含むアビジン状のマトリクスを用いて,固定される。これに代えて,pVII上にない任意の結合ライブラリーは,例えば,第1に,ランダムに,又は,アビジン上若しくはアビジン状のマトリクス上の所定のアレイ内に固定され,続いて,コントロールされた状態でかつ方向性のある方法で,ビリオン上のpVII結合も含む手段によって,(例えば,SEREX内で)ターゲットのスクリーニングが行われる。同様に,pIII結合ライブラリーやpVII結合ライブラリーの任意の要素は,バルク内で,又は単一種類のクローンとして検出可能である。ここで,その検出に先立って又は検出後に,任意のアビジン又はアビジン同様のレポーター錯体を用いることでターゲットの相互作用が生じる。なお,用語「レポーター」は,本明細書では,例えば,酵素,核酸種,又は,人工の蛍光色素分子若しくは生物的な蛍光色素分子を記述するdescribes。
【0085】
AviTagをアウトラインするのと基本的に同じ論理的根拠であるが一方で不可逆的な固定化に近い後者の結果としては,HIS6は,イミダゾールを用いることで緩やかな溶出を許容することがある。HISタグは,利用可能なIMACマトリクスと適合する。
【0086】
他の好ましい実施形態では,pVII結合タンパク質の外来ペプチドは,ライブラリーの要素である。本発明のコンテキストで利用されるライブラリーは,互いに異なるペプチドの収集を意味する。そのようなペプチドは,折り畳まれたドメインであってもよいし,短鎖のペプチド(例えば,2〜50個のアミノ酸)であってもよい。そのようなライブラリーは,所定のターゲットに対して結合する新規なリガンドを同定するのに利用可能であるので,興味深い。ライブラリーをディスプレイするためにpVIIを用いることは,pIIIやpVIIIを用いてディスプレイされたライブラリーに比較して有利な効果がいくつかある。pVIIディスプレイは,方向性や価数に関しては,pIIIディスプレイと同じ利点をもつが,伝染性や,pIIIディスプレイで生じることが知られている現象に影響を与えることがない。ここで,その現象は,例えば,親和性選択後のレスキューで,システムに対して制御できない無用の不均質をもたらしたものである。また,pVIIディスプレイは,N末端リーダーペプチド(pIIIとpVIIIの双方のディスプレイの前提となるリーダーペプチド)を必要とすることなしに実現可能である。最終的には,pIIIディスプレイ内で主を固定した任意のターゲットは,通常,ターゲット−ファージ結合の分裂(通常は,競合による分裂,又は,pHが高いか若しくは低いときの溶出による分裂)を必要とする。このことは,例えば,高い親和性という大きな障害となる回復として,又は,pIIIディスプレイにおける安定的なバインダーとして知られている。伝染を必要とするpIIIが,変わらずに,かつ,pVIIディスプレイでの代替的な相互作用をファージ−ターゲット間の相互作用の後でも着実に利用可能である場合,固定化後のファージが伝染性の全てを保持しているので,結合分裂(例えば,酸性溶出)の必要性が完全になくなり,その結果,ターゲットに結合する間の感染によってのみ回復がなされることとなる。
【0087】
核酸
本発明の第2の側面は,本発明による結合タンパク質をコードする核酸である。この核酸は,ファージゲノム内又はファージミド内で構成されてもよい。
【0088】
用語「核酸」とは,単量体のヌクレオチドの鎖で構成された高分子を意味する。生物学上では,これらの分子は,遺伝子の情報を運搬したり,細胞内の構造体を形成したりするものである。最も一般的な核酸は,デオキシリボ核酸(DNA)と,リボ核酸(RNA)である。追記すると,用語「核酸」は,人工的な核酸を含むものであり,そのような核酸には,例えば,ペプチド核酸(PNA),及び,モルホリノや,架橋型核酸(LNA:Locked nucleic acid),グリコール核酸(GNA),及び,トレオース核酸(TNA)がある。これらの各々は,天然に生じるDNAやRNAとは,分子のバックボーンに対する変化によって区別される。
【0089】
ファージミド(phagemid又はphasmid)は,フィラメント状のファージFfとプラスミドとのハイブリッドとして開発されたクローニングベクターの1つであり,プラスミドとして繁殖可能なベクターであって,さらに,ウイルス性粒子内で,単一らせん構造をもつDNAとしてパッケージされたベクターを生成するために開発されたものである。プラスミド同様に,ファージミドは,DNAフラグメントをクローンするために利用可能であるとともに,一連の技術(形質転換,電気穿孔法)で,細菌の宿主に取り込まれることが可能である。しかしながら,ファージミドをヘルパーファージとともに含む細菌の宿主(例えば,VCSM13やM13K07)を感染させることは,必然的にウイルス性の要素をもたらすこととなり,単一らせん構造をもつDNAの複製と,ファージミドDNAをファージ粒子にパッケージングすることとを可能にする。
【0090】
フィラメント状のファージ
本発明の第3の側面は,本発明による結合タンパク質を含むフィラメント状のファージである。このフィラメント状のファージは,ファージゲノムを含むものであってもよいし,又はファージミドを含むものであってもよい。
【0091】
ファージは,バクテリオファージとも称されるが,本明細書では,感染用,複製用,及び細菌から隠れるウイルスを意味する。フィラメント状のバクテリオファージ即ちフィラメント状のファージは,単一らせん構造をもつDNAゲノム(ssDNA)をもつファージであって,そのDNAゲノムは,ファージのコートタンパク質でパッケージングされている。隠されたフィラメント状のファージ粒子は,表現型上,フィラメント状の構造をも持つ。
【0092】
本明細書で用いられる用語「フィラメント状のファージ」は,ファージゲノム由来のビリオン及びファージミド由来のビリオンの双方を包含する。
【0093】
ある実施形態では,結合タンパク質はヘルパーファージによって提供されるため,フィラメント状のファージは,結合タンパク質をコードする遺伝子を含まない。
【0094】
用語「ヘルパーファージ」は,例えば,ファージミドとして定義された,分離しかつ無関係の欠陥ウイルスを助けるウイルスをいう。ここで,ファージミドは,それ自身内にファージゲノムでも機能性ウイルスでもないが,ファージゲノム由来の1つか複数の要素を含むプラスミドであり,欠陥ウイルスによって既に占有されている同じ宿主細胞を感染させて,欠陥ウイルスがいなくなるとともに完全なその生物としてファージミドを含むサイクルビリオンを形成することが必要なタンパク質を提供することで繁殖するものである。
【0095】
他の実施形態では,フィラメント状のファージは,本発明による結合タンパク質をコードする核酸を含まない。フィラメント状のファージは,ファージゲノム又はファージミドを含んでもよい。特に好ましくは,ファージが,本発明による結合タンパク質をコードする核酸を含むファージゲノムを含んでいる。
【0096】
さらに他の実施形態では,本発明のフィラメント状のファージが,さらに,野生型pVII及び/又は野生型pVIIタンパク質をコードする遺伝子を含む。すなわち,フィラメント状のファージによってディスプレイされる結合タンパク質の数は,pVII結合タンパク質に対する野生型pVIIの割合を調節することで調整される。そのようなシステムは,野生型pVIIタンパク質がヘルパーファージ(7+7)から又はファージゲノム(77)上の第2の遺伝子から提供されるかどうかに依存する,77システム又は7+7システムであってもよい。
【0097】
さらに他の実施形態では,フィラメント状のファージは,野生型pVII遺伝子及び/又は野生型pVIIタンパク質を含まない。すなわち,フィラメント状のファージは,pVII結合タンパク質のみを含み,野生型pVIIタンパク質を全く含まない。
【0098】
好ましい実施形態では,フィラメント状のファージは,さらに,pIII結合タンパク質又はpVIII結合タンパク質を含む。ライブラリーは,例えば,pIII又はpVIIIでディスプレイされるとともに,pVII結合タンパク質は,親和性精製用に,固定化用に,又は,例えばアビジン若しくはアビジン状のマトリクスを用いる検出のために使用可能である。好ましくは,フィラメント状のファージファージは,pIXタンパク質を野生型の形態でのみ含む。
【0099】
本発明の第4の側面は,本発明によるフィラメント状のファージのライブラリーであり,当該フィラメント状のファージは,pIII,pVII,又はpVIIIへ結合する,外来ペプチド又はタンパク質をディスプレイするものである。
【0100】
ライブラリーは,フィラメント状のファージの1つ又はそれ以上のコートタンパク質の一部として,ペプチドやタンパク質をディスプレイするフィラメント状のファージを収集したものである。そのようなライブラリーは,互いに異なるペプチドやタンパク質をディスプレイするファージを2つ又はそれ以上含むことが可能である。
好ましい実施形態では,ペプチドがpVIIのところと,pIII又はpVIIIのところで同時にディスプレイされる。
【0101】
他の好ましい実施形態では,pVIIでディスプレイされる外来ペプチドが,AviTag(登録商標)(配列ID番号4),FLAGタグ(配列ID番号9),HISタグ(配列ID番号12),HATタグ,HAタグ,c−Mycタグ,ストレップタグ(Strep tag),V5タグ,抗体又はそのフラグメント,T細胞受容体又はそのフラグメント,MHC分類I及び分類II,タンパク質AのZドメイン,CTLA4又はそのフラグメント,ImmE7,GFP,及び,その他の遺伝子をコードした生物学的な蛍光色素分子からなる群から選択される。この実施形態では,pIII又はpVIIIでディスプレイされるペプチドは,pIII又はpVIIIでディスプレイされるペプチドは,好ましくは,ライブラリーの要素である。代替的な実施形態では,ライブラリーの要素は,pVIIでディスプレイされる一方,pIIIやpVIIIは,外来ペプチドをディスプレイする。この場合における外来ペプチドは,AviTag(登録商標)(配列ID番号4),FLAGタグ(配列ID番号9),HISタグ(配列ID番号12),HATタグ,HAタグ,c−Mycタグ,ストレップタグ(Strep tag),V5タグ,抗体又はそのフラグメント,T細胞受容体又はそのフラグメント,MHC分類I及び分類II,アンキリン,IgNAR又はそのフラグメント,フィブロネクチン又はそのフラグメント,タンパク質AのZドメイン,CTLA4又はそのフラグメント,ImmE7,GFP,及び,その他の遺伝子をコードした生物学的な蛍光色素分子からなる群から選択される。
【0102】
ファージディスプレイシステム
本発明の第5の側面は,ファージミドとヘルパーファージとを含むファージディスプレイシステムであって,ヘルパーファージが本発明によるpVII結合タンパク質をコードする核酸を含んでいる。
【0103】
ファージディスプレイシステム,ファージディスプレイ法,ファージディスプレイ技術,又は単にファージディスプレイといった場合,タンパク質−タンパク質間,タンパク質−ペプチド間,及び,タンパク質−DNA間の相互作用であって,それらをコードする遺伝子の情報を持つタンパク質を接続するためのバクテリオファージを利用する相互作用に関する発見や研究を行うための方法をさす。
【0104】
ディスプレイするタンパク質,又は,ディスプレイされるタンパク質とは,リガンドによる検出又は固定を利用可能なファージのコートタンパク質を結合するタンパク質をさす。
【0105】
本発明の第6の側面は,ファージミドとヘルパーファージとを含むファージディスプレイシステムであって,該ファージミドが本発明によるpVII結合タンパク質をコードする核酸を含んでいる。
【0106】
キット
本発明の第7の側面は,ファージミドとヘルパーファージとを含むファージディスプレイシステムを有するキットであって,該ファージミドが本発明によるpVII結合タンパク質をコードする核酸を含んでいる。このキットは,コード領域においてN末端的に複数のクローニングサイトを持つ遺伝子をコードするpVIIを含むファージミドと,ヘルパーファージ(例えば,M13K07,VCSM13,又はその他)とを含む必要がある。このキットは,ファージクローンの感染,発現,固定,選択,及び検出に用いるプロトコルで補完される必要がある。また,このキットは,特定の試験を実行するためのバッファ用及びメディア用の必要なレシピが付属している必要がある。
【0107】
本明細書では,キットは,単一の結合タンパク質や二重特異性を持つ結合タンパク質を,ファージディスプレイのライブラリーとして又は単一のファージ粒子として含むファージ粒子を生成するための試薬を収集することを意味する。キットは,ファージミド,ヘルパーファージ,細菌株,及び,試薬やアッセイを記述するためのレシピを含むプロトコルを含むことが可能である。キットは,研究開発,診察用試薬,及び治療用試薬に利用可能である。
【0108】
本発明の第8の側面は,ファージゲノムをベースとしたファージディスプレイシステムを含むキットであって,該ファージゲノムが,本発明によるpVII結合タンパク質をコードする核酸を含んでいる。
【0109】
このキットは,コード領域においてN末端的に複数のクローニングサイトを持つ遺伝子をコードするファージゲノムベクター(M13K07,VCSM13,fUSE5(配列ID番号30))を含む。このキットは,ファージクローンの感染,発現,固定,選択,及び検出に用いるプロトコルで補完される必要がある。また,このキットは,特定の試験を実行するためのバッファ用及びメディア用の必要なレシピが付属している必要がある。
【0110】
本発明の第9の側面は,pIII結合ファージミドのライブラリーを生成するためのヘルパーファージ,又は,pVII結合としてのタグを持つ単一のpIII結合ファージミドクローンを生成するためのヘルパーファージを含むキットである。このキットは,捕捉目的及び/又は検出目的に適した短鎖のペプチドをコードする挿入配列を持つ遺伝子をコードするpVIIを含むヘルパーファージ(M13K07,VCSM13)を含んでいる。このキットは,ファージクローンの感染,発現,固定,選択,及び検出に用いるプロトコルで補完される必要がある。また,このキットは,特定の試験を実行するためのバッファ用及びメディア用の必要なレシピが付属している必要がある。
【0111】
本発明の第10の側面は,pIIIとpVIIの双方の上で結合タンパク質をディスプレイするためのファージゲノムのライブラリーを生成するためのファージゲノムベクターを含んでいる。そのようなキットは,コード領域の各々においてN末端的に複数のクローニングサイトを持つpIIIとpVIIの双方をコードする遺伝子を持つファージゲノムベクター(Ff)を含む必要がある。代替的には,キットは,捕捉及び/又は検出に適した短鎖のペプチドをコードするpVIIにおいてN末端的に挿入配列を持つとともに,pIIIにおいてN末端的に多重化したクローニングサイトを持つファージゲノムベクターを含んでいる必要がある。このキットは,ファージクローンの感染,発現,固定,選択,及び検出に用いるプロトコルで補完される必要がある。また,このキットは,特定の試験を実行するためのバッファ用及びメディア用の必要なレシピが付属している必要がある。
【0112】
本発明の第11の側面は,以下のステップを含む方法である。
【0113】
a. 二重特異性を持つファージディスプレイライブラリーを提供するステップであって,該ファージが,第1の位置でディスプレイされるペプチドと,第2の位置にある親和性タグとを含む,ステップ
【0114】
b.ターゲットに対して上記ファージディスプレイのライブラリーを選択するステップ
【0115】
c. 上記親和性タグの捕捉群に対して上記ファージディスプレイのライブラリーを固定するステップ
【実施例】
【0116】
以下,本発明を,非限定的な実施例を用いてさらに詳細に説明する。
【0117】
実施例1 pVIIに結合するペプチドを持つ改変後のヘルパーファージ
FLAG−pVII,HIS6−pVII,及びAviTag(登録商標)−pVIIを持つ,改変後のヘルパーファージM13K07(配列ID番号31)とVCSM13(配列ID番号32)は,ファージディスプレイ技術の利用の拡大に適した非常に広い可能性を示すものであるが,結合タンパク質がヘルパーファージの機能性を危うくしないことが非常に重要であり,そのため,ファージの滴定量は,重要な検証パラメーターとなる。さらに,pVIIに結合するペプチドは,後続の検出及び/又は固定に利用しやすいものでなければならない。この実施例では,pVII修飾のヘルパーファージが検出目的及び/又は固定目的用のペプチドの多様性をかくまうことが可能であること,並びに,それらの結合タンパク質がファージの伝染性に影響を与えないという事実が支持される。
【0118】
EndemannとModelによる初期の結果(PMID:7616570)では,フィラメント状のファージ(Ff)のキャプシドタンパク質pVIIが外来結合に耐えられないことを示していた一方,その後,ファージミドをベースとしたペプチド(Gaoら,(PMID:10339535))や,ファージゲノムをベースとしたペプチド(Kwasnikowskiら,(PMID:16277988)),さらには,折り畳まれたドメインディスプレイが,pVIIへのN末端結合を許容することが示されている。いずれの場合でも,原核生物のシグナル配列又はリーダーペプチドを結合の過度のN末端へと付加することによって,結合タンパク質のペリプラズムターゲッティング,ひいては,大腸菌宿主のSEC経路への結合をターゲッティングすることを必要とすることが成功の鍵であるということが強調される。
【0119】
生産的なpVIIディスプレイは,組み換え型pVIIをペリプラズムの区画に運搬することを確保するN末端リーダーペプチドをかくまうファージミド上でコードされたN末端結合のコンテキスト内で既に示されている(Endemanら,1995年;Gaoら,1999年)。
【0120】
しかし,ビリオンに組み込まれる前では,野生型pVIIが,N末端がプリプラズム空間に面するグラム陰性の大腸菌宿主の内膜内で不可欠な膜タンパク質として見いだされることが知られている。また,この膜が結合した,成熟した野生型pVIIがそのアミノ末端のホルミル基を保持する(Simonsら,PMID:6945579)が,細胞質の区画の外側で見いだされる,シグナル配列で方向付けられたタンパク質の非常に多くにおいて,例えば,ペリプラズムのリーダーペプチダーゼによってN末端的に処理されるようには考えられない(Baneyx及びMujacic,PMID:15529165)。明確なシグナル配列状のモチーフがpVIIのORF内で同定されることはないので,その細胞質ゾルからペリプラズムへの転座モードは分かりにくいままであるが,おそらく,4種類の主要な分泌機構,すなわち,SEC経路,SRP経路,Tat経路,及びYidC経路を伴わないということである(Baneyx及びMujacic,PMID:15529165;Samuelsonら,PMID:10949305)。フィラメント状のファージのビリオンの構造を図1に示す。
【0121】
試薬
Sambrookら(Molecular cloning: a laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press))で説明されているように,基本的なメディアやバッファの全てを用意した。アンチM13−HRP抗体,並びに,M2抗体及びM5抗体は,それぞれ,GE Healthcare Bio−Sciences AB(スウェーデン,Uppsala),及びSigma−Aldrich(ノルウェー,オスロ)から購入した。制限酵素(RE)は,DpnIを除いて,New England Biolabs
(米国,MA州,Ipswich)から購入し,DpnIについては,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から入手した。DNAオリゴは,MWG Biotech AG(ドイツ,Ebersberg)から購入した。ダイナビーズMyOne(登録商標)(ストレプトアビジン磁気ビーズ)と,Talon(登録商標)のNi−NTA磁気ビーズは,いずれも,Invitrogen(ノルウェー,オスロ)ら購入した。BSAとTween20は,Sigma−Aldrich
(ノルウェー,オスロ)から購入した。PfuウルトラDNAと,Phusion DNAポリメラーゼは,それぞれ,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)及びSigma−Aldrich(ノルウェー,オスロ)から購入した。水溶性TMBは,Chalbiochemのものであった。
【0122】
細菌株,ファージ
大腸菌株XL1−Blueは,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から購入した。M13K07ヘルパーファージは,GE Healthcare Bio−Sciences AB(スウェーデン,Uppsala)から購入し,また,VCSM13(配列ID番号32)は,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から購入した。
【0123】
AviTag(登録商標)−pVII,HIS6−pVII及びFLAG−pVIIの設計と,インビトロでの突然変異生成
【0124】
AviTag(登録商標)(N−MSGLNDIFEAQKIEWHE−C)の読み取り枠(ORF)を,GCUAサーバー(http://gcua.schoedl.de/seqoverall.html)を用いて,大腸菌K12株内でコドン利用した場合と比較した。原核生物のコドンを最適化したバージョンであるAviTag(登録商標)のペプチド配列(配列ID番号4)を,製造者のプロトコル(Stratagen,米国,CA州,LaJolla)にしたがって,QuikChange(登録商標)によるインビトロでの突然変異生成によって,プライマー対であるBirA−pVII_frwd/BirA−pVII_rev(5’−CCGGCTAAGTAACATGTCCGGCCTGAACGATATCTTTGAAGCGCAGAAAATTGAATGGCATGAAATGGAGCAGGTC−‘3/5’−GACCTGCTCCATTTCATGCCATTCAATTTTCTGCGCTTCAAAGATATCGTTCAGGCCGGACATGTTACTTAGCCGG−3’)(それぞれ,配列ID番号5と配列ID番号6に相当する。)を用いて,pVIIのORFのN末端に取り付けた。上述した方法と同じ方法で,大腸菌K12のコドンを最適化したバージョンであるFLAGタグ(N−DYKDDDDK−C)(配列ID番号9)と,HIS6タグ(N−HHHHHH−C)(配列ID番号12)とを,プライマー対であるFLAG−pVII−frwd/ FLAG−pVII−rev(5’−
CCGGCTAAGTAACATGGACTACAAAGATGACGATGACAAAATGGAGCAGGTCG−3’/5’−CGACCTGCTCCATTTTGTCATCGTCATCTTTGTAGTCCATGTTACTTAGCCGG−3’)(それぞれ,配列ID番号7と配列ID番号8に相当する。)と,HIS6−pVII−frwd/ HIS6−pVII−rev(5’−CCGGCTAAGTAACATGCATCACCATCACCATCACATGGAGCAGGTCG−3’/5’−CGACCTGCTCCATGTGATGGTGATGGTGATGCATGTTACTTAGCCGG−3’)(それぞれ,配列ID番号10と配列ID番号11に相当する。)とをそれぞれ用いて,pVIIのORFのN末端に取り付けた。様々な構造体について,あらゆる場合で,DNAシークエンス(組織内でのABI lab DNA sequencing core facility,Dept. Molecular Biosciences,University of Oslo)によって検証した。無菌のベクターバックグラウンドを確保するために,改変後のpVIIを含むBsrGI/SnaBIのREフラグメントを,標準技術を用いて適合REサイト上でM13K07野生型ゲノム又はVCSM13野生型ゲノムのいずれかに移動させた。電気穿孔法を用いて,DNA構造体を様々な大腸菌宿主に導入した。プライマーの設計は,ClustalWを用いて,M13K07(New England Biolabs sequence)(配列ID番号31)の配列とVCSM13(GenBank登録番号AY598820)(配列ID番号32)の配列の配列アライメントをベースとした。改変後のAviTag(登録商標)配列,HIS6配列,及びFLAG配列の配列を図2に示す。
【0125】
ファージ粒子の調製
基本的には上述したようにして(Scott及びSmith,PMID:1696028),M13K07(配列ID番号31)構造体,VCSM13(配列ID番号32)構造体を用いて形質転換した大腸菌XL1−Blueからファージを展開した。
【0126】
ビオチン化ビリオンによるSAビーズの捕捉
【0127】
1チューブ当たり10μlのストレプトアビジンビーズを,未使用の1.5mlチューブに入れ,PBS(w/v)内で500μlの2%BSAを添加した。同様に,ファージを浮遊物がない状態で250μl,又は適量を,1.5mlチューブに入れ,その後,250μlの2%BSAを追加した。そして,チューブを,回転ホイール上で,1時間の間,室温(RT)で培養した。その後,ダイナル(Dynal)チューブ磁石ラックを用いてビーズを第1に固定することを3回行うことで,ビーズを洗浄した。浮遊物を処理した後,Tween20を0.05%含むPBS(PBST)を0.5ml各チューブに入れた。チューブをラックから取り出して簡単にボルテックスした後,ラックに再度戻した。浮遊物を再度浄化するとともに,2回にわたって洗浄した。チューブをラックから取り外して,250μlの阻害ファージと,250μlのPBSTを各チューブに添加した。その後,チューブを回転ホイール上で1.5時間/室温下で培養した。チューブを上述したようにPBST内で3回にわたって洗浄した。その後,アンチM13 MAb−HRPを含むPBST(PBST:アンチM13 MAb−HRP=1:2000)を0.5mlずつ各チューブに添加して,チューブを回転ホイール上で1時間/室温下で培養した。チューブを上述したようにPBST内で3回にわたって洗浄した。その後,ABTSを0.5mlずつ各チューブに添加して,チューブを30分間作業台上に静置した後,磁石ラックに載置して,100μlの浮遊物をMaxisorpの酵素免疫測定(ELISA)用ストラップ(デンマーク,Roskilde,Nunc)に移動させた。その後,のELISA読み取り機を用いて吸光度をA405nmで測定した。
【0128】
ファージ捕捉用の酵素をリンクした免疫吸収剤による試験(ELISA)
【0129】
M2抗体及びM5抗体を,PBS中2.5μg/mlから5μg/mlまでの濃度で,pH7.4で,かつ4℃で終夜にわたって,MaxiSorp(登録商標)のマイクロタイタープレートウェル(デンマーク,Roskilde,Nunc)に吸収させた。ウェル(well)は,PBS中2%(w/v)のスキムミルク(脱脂粉乳)で,室温下で1時間にわたって阻害された。その後,添加されて,1〜2時間にわたって室温下での反応が許容されるビリオン調合液を,捕捉されるビリオンがアンチM13−HRP(1:5000)で検出されるまで室温下で1時間にわたって行った。各ステップ間で,ウェルをPBSTで3回洗浄した。ウェルは,ABST基質で展開され,30分後に吸光度をA405nmで読み取った。
【0130】
結果
A ヘルパーファージの滴定量
2つのYT各16mlを未使用のXL1−Blue培養液を用いて植菌し,37℃/250rpmで吸光度A405nmが0.4〜0.8となるまで培養した。希釈したファージ調合液各10μlを96ウェルのマイクロタイタープレートに移動させた。190μlのXL1−Blue培養液を,ファージ希釈剤を用いて各ウェルに移動させた。プレートを,50分間/37℃で培養した。BA82/20膜をLB−kan寒天皿の上にかぶせ,1つのサンプル当たり3μlの体積を膜上に滴下して,皿を37℃/ONで培養した。コロニーの数を数えた(図3)。
【0131】
B 挿入したペプチドAviTag(登録商標)の利用可能性及び機能性
【0132】
BirA酵素は,アセチル−CoAカルボキシラーゼであって,あらゆる大腸菌内において見いだされる。ファージのコンテキスト内においてそのような細胞にAviTag(登録商標)を導入した場合,内在するBirAによるターゲットのビオチン化のレベルが低い(〜7%)という結果となることが確かに示されている(Sholleら,PMID:16628754)。N末端のpVII改変が,ビリオンが集合してBirAに対する酵素の基質として機能するという点に関して実際に機能的であるかどうかを試験するために,我々は,結果的に生じるビリオンを,SAでコートした磁気ビーズを用いて未処理の不純物から捕捉可能であるかどうかを試験した。
【0133】
ダイナルストレプトアビジンビーズによるM13K07−AviTag(登録商標)pVIIの捕捉。以下2種類のファージを試験に用いた。宿主と野生型M13K07に由来する,内在BirAを用いてインビボでビオチン化したM13K07−AviTag(登録商標)。その結果は,特定のSAを捕捉する一方で,M13K07(配列ID番号31)が結合しないということを明らかに示すものであった。したがって,AviTag(登録商標)−pVII結合は,野生型ビリオンとしてビリオンに適合するとともに,一方でN末端のAviTag(登録商標)がBirA酵素に到達可能であり,かつ,ビオチン化に適した基質として認められる,という意味で実際に機能的でなければならない(図4)。
【0134】
FLAGタグ
酵素免疫測定(ELISA)試験を実施すると,2種類のアンチFLAG抗体M2及びM5によるファージの捕捉によって,M13K07(配列ID番号31)内でのpVII結合としてFLAGタグの可触性が示される。試験結果には,野生型M13K07,M13K07−His,及びM13K07−AviTag(登録商標)が含まれている(図5)。
【0135】
HISタグ
M13K07−HIS6とVCSM13−HIS6の双方について,ダイナルタロンビーズ(DynalTalon Beads)(IMAC matrix)に対する特定の結合を試験した。
簡単には,Talonビーズは,2%BSAを用いた30分間の回転培養によって阻害された。ビーズを,洗浄した後,ビーズに対してBSAを阻害するファージ浮遊物に一致する250μlの滴下量(これは,2×1010cfukanR/mlに相当する。)を添加し,さらに,ビーズを回転ホイール上で,30分間/室温下で培養した。PBST中のビーズを洗浄した後,アンチM13MAb−HRP(希釈後で1:2000)を各チューブに添加し,チューブをさらに,回転ホイール上で,45分間/室温下で培養した。洗浄後,ABTSを各チューブに添加して,15分間室温下で培養し,その後,磁石ラックに載置した。体積で100μlの各溶液を,MaxisorのELISAストラップに移動させた。TECANのELISA読み取り機を用いて,吸光度をA405nmで測定した。その結果は,HIS6−pVIIを含むビリオンがNi−NTA磁気ビーズに対して選択的に結合することを確実に示している。試験の最適化によって克服可能であるシグナルが低いにも関わらず,コグネートビリオンのNi−NTAマトリクスに対する異なる結合が確かに存在する。この特別なpVII結合の最も魅力的な用途は,例えばスピンコラムと組み合わせたNi−NTA精製に関してそれを引き出すという将来性にあるだけでなく,サイト特異性にあり,それによって,相同性があるとともに方向性のあるNi−NTAマトリクスの固定にある(図6)。
【0136】
実施例2 ファージミドのパッケージング内での改変後のヘルパーファージの機能性
【0137】
本発明では,改変後のヘルパーファージを,pVIIよりも,好ましくはpIIIやpVIIIにおいて,ファージのコートタンパク質上で折り畳まれたドメインをディスプレイするファージミドの機能的なパッキングを行うために使用することが約束される。以下の実施例では,pVIIに結合した互いに異なるペプチドを持つ改変後のヘルパーファージがファージミドの機能的なパッキングを実現可能であること,並びに,それらファージミドが,機能的なpVIIペプチド結合だけでなく,pIIIコートタンパク質に結合した機能的な折り畳みドメインの双方をディスプレイすることが支持される。このようにして,本実施例は,ファージミドを利用することで二重特異性を持つディスプレイにも役立つこととなる。
【0138】
試薬
Sambrookら(Molecular cloning:a laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press))で説明されているように,基本的なメディアやバッファの全てを用意した。アンチM13−HRP抗体,並びに,M2抗体及びM5抗体は,それぞれ,GE Healthcare Bio−Sciences AB(スウェーデン,Uppsala),及びSigma−Aldrich(ノルウェー,オスロ)から購入した。また,F23.2抗体とGB113抗体は,B.Bogen教授(Institute of Immunology,ノルウェー,オスロ)からの親切な贈呈物である。ダイナビーズMyOne(登録商標)(ストレプトアビジン磁気ビーズ)は,Invitrogen(ノルウェー,オスロ)ら購入した。BSAとTween20は,Sigma−Aldrich(ノルウェー,オスロ)から購入した。BSAに接合するハプテン2−フェニルオキサゾール−5−オン(phOx)は,他の文献(Makelaら,PMID:722243)でも説明されているように基本的には購入した。
【0139】
細菌株,ファージ,及びファージミド
大腸菌株XL1−Blueは,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から購入した。M13K07ヘルパーファージは,GE Healthcare Bio−Sciences AB(スウェーデン,Uppsala)から購入した。pSEX81(配列ID番号29),ウシ血清アルブミン(BSA)に結合された2−フェニルオキサゾール−5−オン(phOx)選択性を持つscFvをかくまうファージミドは,Affitech AS(ノルウェー,オスロ)から親切にも提供を受けたものである。pFKPDN−scTCR Vαβ4B2A1(配列ID番号28)は,Losetらの文献(2007年,PMID:17925331)において記述されている。
【0140】
ファージ粒子の調製
M13K07ヘルパーファージとビリオンアッセンブリーを使用することによる大腸菌XL1−Blueからのファージミドレスキューを,Welschofらの文献(PMID:9050877)やKochらの文献(PMID:11126120)に記載されているような滴下滴定によってモニターした。
【0141】
ファージ捕捉用の酵素をリンクした免疫吸収剤による試験(ELISA)
MAb M2,M5,F23.2,GB113,phOx−BSAを,PBS中2.5μg/mlから5μg/mlまでの濃度で,pH7.4で,かつ4℃で終夜にわたって,MaxiSorp(登録商標)のマイクロタイタープレートウェル(デンマーク,Roskilde, Nunc)に吸収させた。ウェル(well)は,PBS中2%(w/v)のスキムミルク(脱脂粉乳)又はPBS中2%(w/v)のBSAで,室温下で1時間にわたって阻害された。その後,添加されて,1〜2時間にわたって室温下での反応が許容されるビリオン調合液を,捕捉されるビリオンがアンチM13−HRP(1:5000)で検出されるまで室温下で1時間にわたって行った。各ステップ間で,ウェルをPBSTで3回洗浄した。ウェルは,ABST基質で展開され,30分後に吸光度をA405nmで読み取った。
【0142】
結果
A ヘルパーファージの滴定量
互いに異なる折り畳みドメインを持つ2種類のファージミドとして,それぞれ,scTCRとscFvをpIII結合としてディスプレイする,pFKPDNscTCR Vαβ4B2A1と,pSEX−scFv anti−phOxとを採用した。双方を,3種類の修飾が施された野生型M13K07ヘルパーファージを用いてパッケージングした。簡略的には,2種類のファージミドクローンの終夜にわたる培養物を,修飾が施された野生型ヘルパーファージで感染させた。培養後,培養物を遠心分離して,細菌のペレットを,YTメディア内でアンピシリンとカナマイシンとを用いて再懸濁させ,さらに,30℃でオンとして培養を行った。大腸菌XL−1Blueをファージ希釈液で感染させて,それぞれ,アンピシリンプレート上及びカナマイシンプレート上に載置し,ファージミド及びヘルパーファージの滴定を行った(図7)。
【0143】
パッケージングされたファージミドの双方は,高い比率を示すことが分かり,このことは,3種類の修飾が施されたM13K07ヘルパーファージフォーマットによって,成功的でかつ機能的なパッケージングを示している。
【0144】
B ファージミドpIIIディスプレイ内におけるヘルパーファージによって提供されたpVIIの機能性
【0145】
pVII−AviTag(登録商標)ディスプレイ:AviTag(登録商標)−pVIIの機能に関して,ビーズ上でのSA捕捉を,基本的には実施例1で説明したのと同様に行った。シグナルは低かったが,ビリオンを含むAviTag(登録商標)−pVIIの特異的な異なる捕捉が確かに確認された(図8)。陽性コントロール(挿入図)と比較すると,AviTag(登録商標)−pVII結合をかくまった場合において,ファージミドビリオンに関するビオチン化のレベルがM13K07ビリオンに関するものよりも低いことが明らかである。しかし,内在するAviTag(登録商標)のファージのコンテキスト内におけるビオチン化は,37℃では,7%までの範囲内に過ぎない(Scolleら,PMID:16628754)。M13K07−AviTag(登録商標)は37℃で確かにパッケージングされるが,ファージミドレスキューは,たったの30℃でなされる。このことは,観測される差異が,温度が低いほど,内在するBirAのsee当たり(per see)の活性が低いことに起因しているということを強く示唆している。したがって,将来的な利用としては,この特徴を引き出すために,ビリオンのビオチン化効率を高くしなければならない。このことは,ビリオンのインビトロでのビオチン化によって都合よく実現することができ,それにより,標準技術を利用してビオチン化を100%に近くするべきである(Scolleら,PMID:16628754)。それに代えて,BirA酵素を過剰に発現させることで,インビボでビオチン化を行うことも可能である。大腸菌の超形質転換によって,ファージミドゲノムベクターやファージゲノムベクターが同一の細胞内に存在するようなことが標準のプラスミドによってビリオンへとパッケージングされて,その結果,遺伝子型−表現型のつながりを失う可能性があることが知られている。このことは,BirAがプラスミドから過剰に発現した場合にあり得るものである。単一のクローンを評価する上では,上記のことは認容可能であるかもしれないが,この手法を連結可能なレパートリーと組み合わせる場合には,パンニング間で回復する表現型の変異株を失うことにつながる可能性があるので認容可能ではない。それに代えて,大腸菌MC1061由来のAVB100の株(Avidity,米国,CO州)で提供可能な染色体の組み換えによって,BirAを過剰に発現させることが可能である。ただし,その株は,プラスミドシステムに不可欠なF線毛構造をコードするFプラスミドが欠損している。しかし,AVB100は,ヘルパーファージの補完の必要がないファージゲノムベクターに直接的に適合可能である。そこで,我々は,AVB100株を,修飾が施されたM13K07ヘルパーファージと組み合わせてファージミドベースの適切なファージディスプレイに採用するために,標準接合によって,AVB100をXL1−Blueとを交配させた(実施例5)。
【0146】
pVII−FLAGディスプレイ
ELISA試験を実施することで,pVII結合としてのFLAGタグの可触性が,2種類の互いに異なるファージミド由来のビリオンについて示された。図9Aは,pFKPDNscTCR Vαβ4B2A1に関するものであり,2種類のアンチFLAG抗体M2とM5によってファージミドビリオンを捕捉することで得られたものである。図9Bは,pSEX−scFvアンチphOxに関して同様にして得られたものである。簡略的に説明すると,抗体を,4℃でオンの状態で,ELISAプレート上でコートした。プレートを洗浄した後,ファージミド調合液をプレート上で2時間にわたって室温下で培養した。プレートを洗浄後,さらに,アンチM13 HRPを組み込んだ抗体で培養した。プレートの洗浄,水溶性ABTSの添加,室温下/30分間での培養を経てシグナルが展開された(図9)。
【0147】
M13K07−FLAGでパッケージングされたファージミド由来のビリオンに関しては反応性にFlAG特異性があるが分かる一方で,他のサンプルの全てにおいては否定的であった。すなわち,パッケージングされたファージミド由来のビリオンは,FLAGタグをpVII結合の機能性としてディスプレイする。
【0148】
A.pIIIファージミドディスプレイの機能性
2種類の互いに異なるファージミド由来のビリオンとしてのpFKPDNscTCR Vαβ4B2A1,及びpSEX−scFvアンチphOxの双方は,AviTag(登録商標)をディスプレイするものであり(図10),FLAGタグをディスプレイするものであり(図11),さらに,HIS6タグをディスプレイするものであり(図11),これらは,それぞれ,scTCR及びscFvとpIIIとの結合の機能的なディスプレイを試験したものである。
【0149】
特定のターゲットによるファージミドビリオンを捕捉することにより,ELISA試験を実施した。ターゲットは,scTCRに結合するMAb GB113と,scFvアンチphOx(配列ID番号26)に対するphOx−BSAである。BSAを阻害物として用いるとともに,野生型M13K07でレスキューされたファージミドをコントロールとして用いた。簡略的に説明すると,ターゲットをELISAプレート上で,4℃オンの状態でコートした。そのプレートを洗浄した後,ファージミド調合液をプレート上で2時間にわたって室温下で培養した。プレートを洗浄し,さらに,アンチM13 HRP組み込み抗体で培養した。シグナルがABTSとともに展開し,室温下/30分間培養し,その後,吸光度をA405nmで測定した(図10及び図11)。
【0150】
結果から分かることは,パッケージングされたファージミドの全てにおいてコグネートAg反応性があるということである。つまり,この分析によって,改変後のヘルパーファージがpIIIディスプレイに影響を与えるものではなく,完全に同一のビリオン上でpVIIタンパク質に所定の表現型を与えるに過ぎない,ということが裏付けられる。
【0151】
実施例3 pIII及びpVII上でのゲノムのファージディスプレイ
本発明は,pVIIタンパク質上でのディスプレイの性質を用いてゲノムのファージベクターの産生を許容するものである。そのようなディスプレイは,ビリオンの伝染性に影響を与えるものではない。さらに,本発明は,二重特異性を持つディスプレイをpVII及びpIII/pVIII上で,又は,3種類全てのコートタンパク質上でいっせいに促進させるものである。以下の実施例は,繁殖,ビリオンアッセンブリー,ビリオン集積,pIIIディスプレイの表現型に関して,構造体が完全に野生型ファージのように振る舞うこと,並びに,pVIIペプチド結合でインビボでのビオチン化が選択的に確実に行われることを示すものである。
【0152】
試薬
Sambrookら(Molecular cloning: a
laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press))で説明されているように,基本的なメディアやバッファの全てを用意した。アンチM13−HRP抗体は,GE Healthcare Bio−Sciences AB(スウェーデン,Uppsala)から購入した。また,F23.2抗体とGB113抗体は,B.Bogen教授(Institute of Immunology,ノルウェー,オスロ)からの親切な贈呈物である。制限酵素(RE)は,DpnIを除いて,New England Biolabs(米国,MA州,Ipswich)から購入し,DpnIについては,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から入手した。DNAオリゴは,MWG Biotech AG(ドイツ,Ebersberg)から購入した。ダイナビーズMyOne(登録商標)(ストレプトアビジン磁気ビーズ)は,Invitrogen(ノルウェー,オスロ)ら購入した。dm5CTPは,Fermentas(カナダ,バーリントン)からのものを用いた。BSAとTween20は,Sigma−Aldrich(ノルウェー,オスロ)から購入した。PfuターボDNAポリメラーゼとPhusionDNAポリメラーゼは,それぞれ,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)及びSigma−Aldrich(ノルウェー,オスロ)から購入した。QIAquick PCRクリーンアップキットは,Qiagen(ドイツ,Qiagen,Hilden)からのものを使用した。
【0153】
細菌株,ファージ,及びファージミド
大腸菌株XL1−Blueは,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から購入した。また,大腸菌株MC1061及びK91Kは,G.P.Smith博士(Division of Biological Sciences, University of Missouri,米国)からの親切な贈呈物である。pSEX81(配列ID番号29),ウシ血清アルブミン(BSA)に結合された2−フェニルオキサゾール−5−オン(phOx)選択性を持つscFvをかくまうファージミドは,Affitech AS(ノルウェー,オスロ)から親切にも提供を受けたものである。fUSE−scTCR Vαβ4B2A1 pIIIディスプレイベクターは,Losetらの文献(2007年,PMID:17925331)において記述されている。
【0154】
AviTag(登録商標)−pVIIの設計と,インビトロでの突然変異生成
AviTag(登録商標)(N−MSGLNDIFEAQKIEWHE−C)の読み取り枠(ORF)を,GCUAサーバー(http://gcua.schoedl.de/seqoverall.html)を用いて,大腸菌K12株内でコドン利用した場合と比較した。原核生物のコドンを最適化したバージョンであるAviTag(登録商標)のペプチド配列を,製造者のプロトコル(Stratagen,米国,CA州,LaJolla)にしたがって,QuikChange(登録商標)によるインビトロでの突然変異生成によって,プライマー対であるBirA−pVII_frwd/BirA−pVII_rev(5’−CCGGCTAAGTAACATGTCCGGCCTGAACGATATCTTTGAAGCGCAGAAAATTGAATGGCATGAAATGGAGCAGGTC−‘3/5’−GACCTGCTCCATTTCATGCCATTCAATTTTCTGCGCTTCAAAGATATCGTTCAGGCCGGACATGTTACTTAGCCGG−3’)(それぞれ,配列ID番号5と配列ID番号6に相当する。)を用いて,pVIIのORFのN末端に取り付けた。無菌のベクターバックグラウンドを確保するために,改変後のpVIIを含むBsrGI/SnaBIのREフラグメントを,標準技術を用いて適合REサイト上で,修飾が施されていないfUSE5−scTCR Vαβ4B2A1ゲノムへとクローン化した。電気穿孔法を用いて,DNA構造体を大腸菌MC1061に導入した。プライマーの設計は,公開されているfUSE5の配列(GenBank登録番号AF218364)(配列ID番号30)をベースとした。
【0155】
新規なゲノムのpVIIディスプレイベクターpGVII及びpGVIIΔLの構造体
【0156】
プライマーの設計とベクターアッセンブリーは,基本的には,SeamLessプロトコル(Stratagene,米国,CA州,LaJolla)で記述されているように実行した。VCSM13ゲノムDNA(配列ID番号32)をテンプレートとして用いるとともに,プライマー対であるVCSM13_F/VCSM13_R(5’−ATCTCTTCCATGGAGCAGGTCGCGGATTTCGACACAATTTATCAGG−3’/5’−ATCTCTTCCATGTTACTTAGCCGGAACGAGGCGCAGAC−3’)(それぞれ,配列ID番号19と配列ID番号20に相当する。)を用いて,SeamLessプロトコル(Stratagene,米国,CA州,LaJolla)で記述されているように,Pfuターボポリメラーゼで完全なゲノムをPCR増幅した。同様に,pSEX81ΔL(実施例4で後述する)と,pSEX(配列ID番号29)は,いずれも,scFvアンチphOx(配列ID番号26)ユニットをかくまうものであるが,これらを,PhusionDNAポリメラーゼ(Sigma,ノルウェー,オスロ)をそれぞれ,プライマー対であるpGALDL_F/pGAL_R(5’−TCTCTTCACATGGCCCAGGTGCAGCTGGTGCAG−3’/5’−ATCTCTTCCCATTCTGATATCTTTGGATCCAGCGGCCGCAC−3’)(それぞれ,配列ID番号22と配列ID番号23に相当する。)及びプライマー対であるpGAL_F/pGAL_R(5’−ATCTCTTCACATGAAATACCTATTGCCTACGGCAGCCGCTGGC−3’/5’−ATCTCTTCCCATTCTGATATCTTTGGATCCAGCGGCCGCAC−3’)(それぞれ,配列ID番号21と配列ID番号23に相当する。)とともに用いながら,標準PCRにおけるテンプレートとして用いて,scFvユニットを増幅させた。PCRに続いて,3種類全てのセグメントを,PCRクリーンアップキット(Qiagen,ドイツ,Qiagen,Hilden)とEarIで温浸したREとを用いて精製した。その後,RE温浸後のゲルゲル精製セグメントを結合して,標準技術を用いてXL1−Blueへと電気穿孔処理した。コロニーを拡大させて,挿入サイズが正しいことを,プライマー対であるpVII_frwd/pVII_rev(5’−AGCAGCTTTGTTACGTTGATTTGG−3’/5’−GCAGCGAAAGACAGCATCG−3’)(それぞれ,配列ID番号24と配列ID番号25に相当する。)を用いながら標準PCRでのPCRスクリーニングによって,検証した。ゲノムのpVIIディスプレイベクターは,pGVII(これは,シグナル配列依存のscFv−pVIIディスプレイを持つ)と,pGVIIΔL(これは,シグナル配列を持たないscFv−pVIIディスプレイを持つ)を示した。これらは,このとき,scFvのORFを,pVIIに対するイン・フレーム型の結合N末端として含み,その開始コドンの位置が,通常の転写や翻訳に重要なpVのORFの上流に対して正しい位置にあることが維持されている。特に,これらファージゲノムベクターのアッセンブリーを,3段階のPCRアッセンブリーであって,外来ORFが,ベクターバックボーンと相補的な5’プライマータグ突出部で増幅されたPCRであるアッセンブリーで容易に構成可能であり,これにより,挿入サイトをカバーするベクターの5’部位と3’部位から増幅された相補的なセグメントとともにSOE(Splicing by Overlapped Extension)を行うPCRでスプライシングが可能となる。ファージゲノムの理想的な部位は,2つの固有なREサイトBsrGI/SnaBIを含むセグメントをカバーしている必要があり,それらサイトは,Ffゲノムの全てにおいて側面にあるpVIIのORFにある。そして,RE温浸後のSOE生成物は,例えば実施例1や実施例3で説明したように,RE温浸後のベクターの相補的なバックボーンに都合よく挿入可能である。利用しやすい他のアッセンブリー手段は,1つのポットでアニール処理して,結合し,さらに側面にあるプライマーで増幅されたPCRを行うことが可能な短鎖の重複オリゴヌクレオチドを全面的に用いて適切な結合ORFの人工的な遺伝子アッセンブリーを生成することである。このストラテジーは,SOE手法におけるものと同一のフラグメントを与えることが可能であるか,又は,ファージゲノムへの挿入が,例えば,Tillett及びNeilanの文献(PMID:10481038)で説明されているような組み換えに基づくことが可能なRE独立となり得る。また,複数の技術の組み合わせも容易に想定できる。
【0157】
ファージ粒子の調製
基本的にはScott及びSmithの文献(PMID:1696028)で説明されているようにして,fUSE5ファージを,大腸菌MC1061から増幅した。ビリオンアッセンブリーを,Scott及びSmithの文献(PMID:1696028)及びKochらの文献(PMID:11126120)に記載されているように滴下滴定によってモニターした。当てはまる場合には,Sambrookらの文献(Molecular cloning:a laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press)で説明されているように,PEG/NaClの滴下によってビリオンの精製と濃縮を行った。
【0158】
ファージ捕捉用の酵素をリンクした免疫吸収剤による試験(ELISA)
F23.2抗体及びGB113抗体を,PBS中2.5μg/mlから5μg/mlまでの濃度で,pH7.4で,かつ4℃で終夜にわたって,MaxiSorp(登録商標)のマイクロタイタープレートウェル(デンマーク,Roskilde,Nunc)に吸収させた。ウェル(well)は,PBS中2%(w/v)のスキムミルク(脱脂粉乳)で,室温下で1時間にわたって阻害された。その後,添加されて,1〜2時間にわたって室温下での反応が許容されるビリオン調合液を,捕捉されるビリオンがアンチM13−HRP(1:5000)で検出されるまで室温下で1時間にわたって行った。各ステップ間で,ウェルをPBSTで3回洗浄した。ウェルは,ABST基質で展開され,30分後に吸光度をA405nmで読み取った。
【0159】
A fUSE5−scTCR−AviTag(登録商標)ゲノムファージの滴定量
【0160】
野生型の,又はpVII改変後のfUSE5−scTCR Vαβ4B2A1バージョンはいずれも,任意の宿主毒性を呈することがない。ビリオン産生やPEG滴下効率に関して,pVII改変後のfUSE5−scTCR Vαβ4B2A1バージョン間には表現型の差異がない。pVII改変後のfUSE5−scTCR Vαβ4B2A1バージョンの双方は,fUSE5システムにふさわしい,理論的な滴下量の最大値に近い値をとる(図12)。
【0161】
B fUSE5−VII−AviTag(登録商標)結合ペプチドの機能性
【0162】
このELISA分析は,ゲノムのファージ調合液の機能性を試験するためのものであり,具体的には,ストレプトアビジンビーズでビリオンを捕捉し,続いて,アンチM13抗体で結合ファージを検出することで試験を行うためのものである。簡略的に説明すると,MyOneストレプトアビジンダイナビーズをBSAで阻害し,洗浄し,(scTCR/pVII−AviTag(登録商標))がある場合と,(scTCR/pVII)pVII−AviTag(登録商標)結合ペプチドがない場合について,滴定標準サンプルのfUSE5を用いて培養した。ビーズを洗浄するとともに,結合ファージをアンチM13−HRP組み込み抗体で検出した。ABTSの添加につれてシグナルが展開し,TECANのELISA読み取り機を用いて吸光度A405nmを測定した。その結果は,pVII−BirAペプチドが可触性であるとともに,ビオチン化されており,そのために,ファージゲノム由来のビリオンに対する固定・検出タグとして機能することを示している(図13)。
【0163】
C fUSE5−scTCR pIII結合の機能性
【0164】
このELISA分析は,ゲノムをコードするAviTag(登録商標)−pVIIがある場合とない場合における,ファージゲノム由来のビリオン調合液のpIII結合の機能性を試験するためのものである。2種類の互いに異なる抗体であって,それぞれ,scTCR Vαβ4B2A1と,MAB GB113及びF23.2を認識する抗体を用いてファージビリオンを捕捉することでELISA試験を実施した。スキムミルクをネガティブコントロールとして使用した。簡略的に説明すると,抗体をELISAプレート上で,オンの状態でかつ4℃でコートした。そのプレートを洗浄するとともに,ファージ滴定用の規定調合液をプレート上で2時間にわたって室温下で培養した。そのプレートを洗浄した後,さらに,アンチM13−HRP組み込み抗体で培養し,その後,100μlのABTSを添加して室温で培養した。20分後に,TECANのELISA読み取り機を用いて吸光度を,OD405nmで測定した。その結果は,2種類のfUSEバージョンの間ではscTCR表現型を区別することができないことを示している。したがって,どのような観点からも,pVII改変は,ファージの表現型には影響を与えるようには思われない(図14)。
【0165】
実施例4 pVII上でのファージミドディスプレイ
【0166】
試薬
Sambrookら(Molecular cloning:a laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press))で説明されているように,基本的なメディアやバッファの全てを用意した。アンチM13−HRP抗体は,GE Healthcare Bio−Sciences AB(スウェーデン,Uppsala)から購入した。GB113抗体は,B.Bogen教授(Institute of Immunology,ノルウェー,オスロ)からの親切な贈呈物である。制限酵素(RE)は,DpnIを除いて,New England Biolabs
(米国,MA州,Ipswich)から購入し,DpnIについては,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から入手した。DNAオリゴは,MWG Biotech AG(ドイツ,Ebersberg)から購入した。ダイナビーズMyOne(登録商標)(ストレプトアビジン磁気ビーズ)と,Talon(登録商標)のNi−NTA磁気ビーズは,いずれも,Invitrogen (ノルウェー,オスロ)ら購入した。BSAとTween20は,Sigma−Aldrich(ノルウェー,オスロ)から購入した。PfuターボDNAは,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から購入した。BSAに組み込まれるハプテン2−フェニルオキサゾール−5−オン(phOx)及び5−ニトロフェンアセチル(NIP)は,他の文献(Makelaら,PMID:722243;Michaelsenら,PMID:2125362)でも説明されているように基本的には調製した。イソプロピル−ベータ−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)は,Fermentas(カナダ,バーリントン)から購入した。
【0167】
細菌株,ファージ,及びファージミド
大腸菌株XL1−Blueは,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から購入した。M13K07ヘルパーファージは,GE Healthcare Bio−Sciences AB(スウェーデン,Uppsala)から購入した。ウシ血清アルブミン(BSA)に結合された2−フェニルオキサゾール−5−オン(phOx)選択性を持つscFvをかくまう,pSEX81(配列ID番号29)ファージミドは,Affitech AS(ノルウェー,オスロ)から親切にも提供を受けたものである。pFKPDN−scTCR Vαβ4B2A1のpIIIディスプレイファージミドは,他の文献(Losetら,2007年,PMID:17925331)において記述されている。scFvアンチNIP(配列ID番号27)(未公開)をかくまう原核生物発現ベクターpSGIは,pHOG21(Kiprianovら,PMID:9005945)に基づいているとともに,pLNOH2及びpLNOK(Norderhaugら,PMID:9202712)に由来する抗体バリアブル遺伝子から社内的に製造されたものである。
【0168】
新規なpVIIディスプレイファージミドベクターpGALD7及びpGALD7ΔLの構造体
ベクターバックボーン用の開始テンプレートとして,上述したpSEX81(配列ID番号29)ファージミドを選択した(GenBank登録番号Y14584)。まず,このベクター内のストレッチ(strech)をコードする原核生物のpelBシグナル配列(N−MKYLLPTAAAGLLLLAAQPAMA−C)(配列ID番号33)を除去するために,QuickChange(登録商標)を利用して,プライマー対であるa41g−frwd/a41g−rev(5’−AGAGGAGAAATTAACCATGGAATACCTATTGCCTACGGC−3’/5−GCCGTAGGCAATAGGTATTCCATGGTTAATTTCTCCTCT−3’)(これらは,それぞれ,配列ID番号13,及び配列ID番号14に相当する。)を用いたインビトロでの突然変異生成で,NcoIのREサイトをN末端の極端に導入し,それにより,pelBのORFの第2コドン内にある第1のヌクレオチドを,AからGに変化させた。突然変異生成に続いて,ベクターをNcoI温浸し,再結合させ,その後,プライマー対であるpHOG_EcoRI_frwd/scTCR_rev(5’−TAGCTCACTCATTAGGCACCC−3’/5’−TTTGGATCCAGCGGCCGC−3’)(これらは,それぞれ,配列ID番号15,及び配列ID番号16に相当する。)を用いて,ベクターの関連部分を回復させる第2のPCRでのテンプレートとして用いた。その後,そのPCRのフラグメントを,標準技術を用いて,EcoRI/HindIIIのREサイト上で,原型のpSEX81(配列ID番号29)に移動させ,DNAシークエンシングで確認した。このステップにより,pelBシグナル配列をコードする部分を完全に除去したが,通常の転写と翻訳に重要であるだけでなく,原形のpSEX81(配列ID番号29)内に見られるNcoI/NotIのREサイトで定義される外来配列の前にたった1つのAla残渣を付加するのに重要なlacPO及びシャイン−ダルガノ配列(SD)のために開始コドンとその関連位置を維持した。その新しい構造体をpSEX81ΔLで示す。第2に,5’端部でREタグ化されたプライマー対であるpVII_EcoRV/ pVII_NheI(5’−ATATGATATCAGAATGGAGCAGGTCGCGGATTTCG−3’/5’−ATATGCTAGCTTATCATCTTTGACCCCCAGCGATTATACC−3’)(これらは,それぞれ,配列ID番号17,及び配列ID番号18に相当する。)を用いて,pVIIをコードする配列をM13K07から増幅した。その後,このPCRのフラグメントを,適合REサイト上で,pSEX81(配列ID番号29)ファージミドとpSEX81ΔLファージミドの双方に移動させ,これにより,双方においてpIIIをコードする領域を交換し,結果として,原型のpSEX81(配列ID番号29)内で,NcoI/NotIを定義するカセットのN末端イン・フレーム型pVII結合がもたらされた。これらの新しい構造体をDNAシークエンシングで確認して,それぞれ,pGALD7及びpGALD7ΔLとした。それぞれ,pFKPDN及びpSG1からのscTCR Vαβ4B2A1及びscFvアンチNIP(配列ID番号27)ユニットを用いて,上述したような様々なファージミド内でscFvアンチphOx(配列ID番号26)ユニットを切り替えるために,標準技術を用いて,NcoI/NotIのREサイトを定義するカセット交換を行った。本明細書で説明するファージミドの全てを,標準技術を用いた電気穿孔法で,大腸菌XL1−Blueに導入した。
【0169】
ファージ粒子の調製
M13K07ヘルパーファージとビリオンアッセンブリーを用いたXL1−Blueの大腸菌ファージミドレスキューを,上述したように滴下滴定でモニターした(Welschofら,PMID:9050877,及びKochら,PMID:11126120)。
【0170】
ファージ捕捉用の酵素をリンクした免疫吸収剤による試験(ELISA)
MAb GB113,phOx−BSA,又はNIP−BSAを,PBS中2.5μg/mlから5μg/mlまでの濃度で,pH7.4で,かつ4℃で終夜にわたって,MaxiSorp(登録商標)のマイクロタイタープレートウェル(デンマーク,Roskilde, Nunc)に吸収させた。ウェル(well)は,PBS中2%(w/v)のスキムミルク(脱脂粉乳)又はPBS中2%(w/v)のBSAで,室温下で1時間にわたって阻害された。その後,添加されて,1〜2時間にわたって室温下での反応が許容されるビリオン調合液を,捕捉されるビリオンがアンチM13−HRP(1:5000)で検出されるまで室温下で1時間にわたって行った。各ステップ間で,ウェルをPBSTで3回洗浄した。ウェルは,ABST基質で展開され,30分後に吸光度をA405nmで読み取った。
【0171】
結果
【0172】
上述したような改変後のヘルパーファージからの結果によって,折り畳まれたドメインのpVIIディスプレイも評価されることとなる。Gaoら及びKwasnikowskiらは,そのようなディスプレイは,シグナル配列を方向付けるペリプライマズムターゲッティングと組み合わせて利用される場合に許容されることを示してきたが,我々は,pGALD7及びpGALD7ΔLとした新規な2種類のファージミドを構築し,それらによって,そのようなシグナル配列を用いた場合も用いない場合でもN末端pVIIディスプレイを可能にする(図15)。
【0173】
初期構造体は,ヒトの抗体のバリアブルセグメントとハプテン共役型(conjucate)phOx−BSAに関する生物種とに基づいたscFvユニットを含んでいた。既に説明したpVII改変後のヘルパーファージに関して,scFvのpVIIディスプレイは,正常なビリオンアッセンブリーに干渉を与えない必要がある。そこで,我々は,これらのscFvアンチphOxのpVIIディスプレイファージミドのパフォーマンスの比較を,標準のファージミドレスキューと材料及び方法で説明したような滴定を利用して,シグナル配列を用いた場合及び用いない場合について行うとともに,標準のpIIIディスプレイについてもシグナル配列を用いた場合及び用いない場合について行った(図18)。
【0174】
滴定結果は,ファージミドを含むビリオンが全ての場合において生成されることを確かに示している。ただし,pVIIΔLファージミドは,標準のpIIIディスプレイに比べて,約30ホールド(fold)分少ない滴下量である一方,シグナル配列を方向付けたpVIIディスプレイでは,総計で105ホールド分の減少が認められた。このシステムにおけるヘルパーファージからpVIIの野生型相補性が認められるように,この結果は,意外なものであるとともに重要なものである。その理由は,シグナル配列を方向付けたpVIIディスプレイ(pVII)がビリオンアッセンブリー処理に深刻な干渉を与えるが,一方で,その効果は,シグナル配列がないpVIIディスプレイ(pVIIΔL)の場合,ほんのわずかである。相対的に,pIIIディスプレイについてシグナル配列を用いた場合と用いない場合とで,滴定量の差異はほんのわずかである。
【0175】
上述したように決定した滴定量に基づくと,phOx−BSA種のELISAにおいて滴定量を規定化した投入量の場合,これらビリオンサンプルに関するscFvディスプレイの機能性は,ファージミド滴定量として希釈されていないものを用いた場合のpGALD7由来のサンプルを除くと,非常に低いと評価された(図17)。
【0176】
上記結果は,機能性scFvは,シグナル配列なしのpVIIバージョンと標準pIIIの双方からディスプレイすることを明らかに示したものであり,一方で,他のサンプルでは否定的であった。シグナル配列を方向付けたpVIIディスプレイが否定的な結果を示したことは,ビリオン投下量が2000ホールド未満であることが原因であると考えられた。ここで,pIIIがSEC経路を介してペリプラズムに輸送されることが知られている。したがって,シグナル配列なしのpIIIバージョンは,ビリオン組み入れの必要条件であるペリプラズムターゲッティングの際にpIII結合不良となる。したがって,このサンプルからのビリオンは,ヘルパーファージ由来のpIII(物理的な表現型−ゲノム型のつながりの損失)のみを含むこととなる。ただし,ファージミドのパッケージング効率は,通常の場合に近く,結果として,通常の滴定量となる(図16から分かる通り)。シグナル配列なしのpVIIバージョンと標準pIIIディスプレイはいずれも,機能性ディスプレイが得られているが,pIIIの場合,抗原結合能力がより強い。このことは,pIIIバージョンの機能性がより高いことを必ずしも反映するものではなく,標準pIIIディスプレイが,親和効果を引き起こすscFvユニットの原子価1のディスプレイから原子価が少ないディスプレイまでの混合状態にあることは十分に論文化されている(Bradbury及びMarks,PMID:15261570)。そのような親和効果は,相互作用という実在する親和性をマスキングしており,優れた発現プロフィールのためにscFvユニットがしばしば好ましいけれども,例えば,ビリオン当たりのユニット数が少ないという意味で発現性が低いFabフォーマットが,親和性選択に対して非常に強いバインダーをもたらすということは,広く論文化されている(de Haardら,PMID:10373423,及びHoogenboom,PMID:16151404)。したがって,pGALD7ΔLからのシグナルが低い方がむしろ原子価1により近いscFvディスプレイを反映し,それにより,多くの用途があるという点で有利である。
【0177】
本明細書で採用されているファージミドの全てにおけるscFv−pVII/pIII発現カセットは,lacプロモーターで制御され,ビリオンのパッケージングは,標準プロトコルをIPTG誘導なしで用いてなされる(Welschofら,PMID:9050877)。したがって,パッケージング中にIPTGを用いて強制的により強い発現を起こすことで,scFvディスプレイを強めることが可能である。また,ファージミドファージディスプレイの重要な特徴は,機能性ディスプレイがヘルパーファージを介したファージミドのレスキューに依存しているという事実にある。したがって,ファージゲノムをベースとしたディスプレイとは対照的に,所定の細胞からビリオンへとパッケージングすることが可能な2種類のssDNAソースがあり,それらは,ファージミド,又はヘルパーファージゲノムである。重要なことは,双方のタイプのビリオンは,完全に同一の宿主細胞内で産生して見だされるので,キャプシドタンパク質の完全に同一のプール(pool)へのアクセスすることになる。したがって,組み合わせ可能なファージディスプレイ技術に対する基礎を形成する,物理的なゲノム型−表現型のつながりを維持することを確保するために,ファージミドに関してファージミドのヘルパーファージに対する比率が最も重要である。新たな実験では,同じファージミド由来のサンプルを上述したように調製するとともに,一方で,パッケージング中に含まれるIPTGを用いた場合と外した場合について比較対象となるビリオンアッセンブリーをも調製する。今回は,滴定中に,ヘルパーファージゲノム上で見られるカナマイシン抵抗力によるヘルパーファージゲノムの滴定量もマッピングする。
【0178】
今回の滴定結果(図18A)は,互いに異なるファージミドを標準条件で比較した場合,ファージミド滴定量に関して,前出のパッケージング(図16)と完全に同一の傾向を示しているが,今回のものは,pGALDΔL(pVIIΔL)及びpGALD(pVII)は,いずれも,滴定量がいくらか高くなっていた。pVIIをIPTG誘導すると,又はpIII発現に応じて,ファージミドの全てにおいて滴定量の減少が見られたが,その効果は,シグナル配列を方向付けたpVIIのpGALD7ファージミドに関するものが最も顕著である。ファージミドのヘルパーファージに対する比率をマッピングして(図18B),互いに異なるファージミドを標準条件下(IPTGの存在なし)で比較すると,全てのサンプルは,シグナル配列を方向付けたpVIIのpGALD7ファージミドを除くファージミドに関しては通常の範囲内の比率を示しており,一方で,シグナル配列を方向付けたpVIIのpGALD7ファージミドでは,表現型−ゲノム型のつながりが完全に喪失していることが示される。IPTG誘導を行った場合,pGALD7ファージミドに関しては,表現型−ゲノム型がカップリングしないことがさらに顕著であり,また,シグナル配列なしのpIII(pIIIΔL)は,上記特徴の程度が小さいこと(比率0.5)を示した。ただし,後者の構造体は,pIIIディスプレイに関して非機能的であるにも関わらず,コントロールとしてのみ含まれていた。
【0179】
そして,図18Aに示したファージミドの滴定量に基づくと,phOx−BSA特定ELISAにおいてpGALD7ΔL及びpGALD7の機能性scFvディスプレイが,規格化された滴定濃度の投下量を使用した場合,図17に示したものと同様であると評価された。
【0180】
上記結果は,機能性scFv−pVIIディスプレイが,シグナル配列なしのpGALD7ΔLとphOx−BSAの反応性がIPTGでpVII結合を強制的に発現させることで顕著に高められた状態で再び実現されたことを確かに示すものであった。この抗原反応性の増大は,ビリオン当たりのpVII結合数の増大だけでなく,see当たりのpVII結合をかくまうビリオンの数の増大をおそらく反映するものである。後者は,標準pIIIディスプレイにおいて,ファージミド含有ビリオンが1〜10%の間にあるときにのみ実際に結合を含むことが知られていること(Bradbury及びMarks,PMID:15261570)に対応すると思われる。一方で,シグナル配列を方向付けたpVIIディスプレイは,機能的なphOx−BSA結合を何ら示していない。図18Bに基づくと,IPTGを希釈していないサンプル内で観測された弱い抗原反応性が,pVII結合を低いレベルでかくまうヘルパーファージ含有ビリオンにあてがわれなければならない。
【0181】
今までのところ,機能性pVIIファージミドをベースとした,scFvアンチphOx(配列ID番号26)ユニットのディスプレイを明らかに示してきた。この構造体は,同じscFvのpIIIディスプレイに匹敵し,ファージミドの滴定量や抗原結合能力においてわずかな減少のみを示すものである。
【0182】
scFvアンチphOx(配列ID番号26)は,ヒトの抗体であるscFvライブラリーに対して選択性があり,大腸菌内の方が十分に発現することが知られている(Marksら,PMID:1748994)。pVIIディスプレイが,より挑戦的な結合パートナーの機能的なディスプレイに対して能力を発揮するかどうかを判断するために,我々は,抗体バリアブル遺伝子としてのネズミのハイブリドーマに基づいて,scFvアンチNIP(配列ID番号27)をサブクローン化するとともに,ネズミのT細胞クローンである4B2A1からのバリアブル遺伝子(Leastら,PMID:17925331)に基づいてscTCRをサブクローン化して,pGALD7ΔL及びpGALD7とした。多くのハイブリドーマバリアブル遺伝子が大腸菌内では又はファージディスプレイ時には十分に発現しないことがよく知られている(Krebberら,PMID:9032408)。また,T細胞受容体が,ファージディスプレイに適合させるのが特に困難であることが証明されている,折り畳みタンパク質に分類されることが知られている(Liら,PMID:15723046,及びLosetら,PMID:17925331)。
【0183】
これらの新しいファージミドからのビリオンは,標準ファージミドレスキューによって調製され,その抗原結合能力に関してELISA試験を行った(図20)。
【0184】
試験結果は,機能的なpVIIディスプレイが,scFvアンチNIP(配列ID番号27)を用いた場合とscTCR Vαβ4B2A1を用いた場合の双方で実現されたことを確実に示していた。また,scFvアンチ−phOx(配列ID番号26)を用いて予め観測したものとは対照的に,今回は,シグナル配列を方向付けたpVIIディスプレイを用いた場合と用いなかった場合に相当するものであった。図20で観測されているシグナルは,試験前にビリオンの滴定量を規格化しなかったので,直接的な比較対象とはならない。シグナル配列を方向付けたpVIIの,scFvアンチ−phOx(配列ID番号26)のディスプレイの完全に非機能的な性質の観点から,上記サンプルを滴定して,ファージミドのヘルパーファージに対する比率を決定した(図21)。
【0185】
ファージミドの滴定量は,シグナル配列なしのpVIIディスプレイ(pGALD7ΔL)が,シグナル配列を方向付けたpVIIディスプレイ(図21A)に比較して,優れたパフォーマンスを示すことを再び示した。このことは,scTCRとscFvアンチNIPの双方で確かに検証されたが,差異は,scFvアンチphOxで観測された滴定量の場合(図6及び図8参照)よりも明らかではなかった。ファージミドのヘルパーファージに対する比率を比較すると,scTCRの場合とscFvアンチNIP(配列ID番号27)の場合(図21B)の双方において,pGALD7ΔLが,ファージミドに関して,比率で,非常に優れたパフォーマンスを再度示していた。scFvアンチ−phOx(配列ID番号26)の場合から分かる,ゲノム型−表現型のつながりの顕著な損失は,scTCRとscFvアンチNIP(配列ID番号27)に関して,これらの比率(図18及び図21B)からは観測されなかった。しかし,pGALD7ΔLは,明らかに優れていた。
【0186】
上記結果を考慮すると,ビリオンのパッケージング中に宿主細胞の増殖に関して,scTCRとscFvアンチNIPの間に大幅に異なる差異があるという知見が顕著であった。
【0187】
図22から明らかであることは,pGALD7ΔL含有培養物が宿主細胞の増殖に関しては効果が小さい一方,pGALD7ΔLファージミドを含むクローンによって示される成長が顕著であるということである。このことは,シグナル配列を方向付けたpVIIディスプレイからの宿主毒性を強く示すものであり,一方で,シグナル配列を除去した後は直ちに,そのような毒性がないか又はほとんどない。
【0188】
実施例5 大腸菌株AVB100FmkIIの構造物
【0189】
試薬,及び細菌株
試薬
Sambrookら(Molecular cloning: a laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press))で説明されているように,基本的なメディアやバッファの全てを用意した。
大腸菌株XL1−Blue及びAVB100(MC1061に基づく)を,それぞれ,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)及びAvidity(米国,CO州,Denver)から購入した。
【0190】
結果
【0191】
Fプラスミド陽性の大腸菌AVB100(chromosomal Str(登録商標))を得るために,以下のように,細胞をXL1−Blue(FプラスミドTet(登録商標))と交配させた。適切な抗生物質で補完した5mlLB培地に,各株の単一コロニーを植菌し,37℃で終夜にわたって,精密な振動を付加した状態で培養した。翌日,未使用の5ml細胞培養を,吸光度A500nmが0.1のときに開始して,37℃で1時間にわたって精密な振動を付加した状態で,対数増殖期の中頃まで成育させ,その後,1mlずつを,混合して,37℃で1時間にわたって静かに培養した。その後,その混合物10μlを,100μg/mlのStrと30μg/mlのTetを含む未使用の5mlLB培地に移し,さらに,37℃で終夜にわたって精密な振動を付加した状態で,培養した。翌日,この細胞物を希釈したものを,100μg/mlのStrと30μg/mlのTetを含む寒天皿上に広げることで,新しいFプラスミド陽性のAVB100株(用語「AVB100FmkII」相当。)を得た。
【0192】
参考文献
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19. Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ. Basic local alignment search tool. J Mol Biol. 1990 Oct 5;215(3):403−10.
【背景技術】
【0001】
タンパク質の同定,特性解析,及び組み換えを組み合わせて行うための手法を利用することは,学術的な研究開発においても工業的な研究開発においても非常に成功を収めている。それに関して,フィラメント状のバクテリオファージといったファージディスプレイ技術は,第1のライブラリープラットフォームとなる方法として確立されてきており,現在のところ,独占的な技術として君臨している。したがって,ファージディスプレイは,基本的なタンパク質や応用的なタンパク質の発見において広く適用されているだけでなく,新規なタンパク質をベースとした診断や治療においても広く適用されており,いずれも,世界的に急速に広まっている化合物の分類である。
【0002】
組み合わせ可能なファージディスプレイ技術の原理は,遺伝子型−表現型の結合に基づいており,この遺伝子型−表現型の結合は,各ビリオンが,そのタンパク膜でカプセル化されたゲノムがエンコードされたタンパク質と完全に同一のタンパク質を,対応するビリオンの表面に,ディスプレイのみを行う傾向にあるという性質によって提供されるものである。ここで,ファージ粒子自体は,様々な生理化学的な条件に対して高い耐性をもっている。したがって,ファージディスプレイは,競合する組み合わせ技術と比較して,多くの選択ゲノムにおいて用途が多いという利点がある。
【0003】
異種のポリペプチドをファージディスプレイすることは,フィラメント状のファージ膜を構成するタンパク質の5種類全てを用いることで達成されている。しかし,pIIIのディスプレイと,pVIIIのある程度のディスプレイとが広範囲な利用として実現されているにすぎない(図1)。
【0004】
異種融合が短鎖のペプチドのみである場合,ファージゲノムをベースとしたベクターを用いた多価のディスプレイシステムが好ましいが,一方で,折り畳まれたドメインを必要とするより長鎖の融合の場合のような,多くの用途では,ファージミドシステムから恩恵を受けることとなる。後者の場合,抗体型pIIIのファージディスプレイは,この技術分野を圧倒的に独占している。しかし,代替的な手法が台頭してきており,その手法は,次世代のタンパク質工学のツールとして展開されることが継続的に求められている。多くの用途においては,二重特異性をもつファージ粒子を作製可能であること(特には,制御可能な手法で作製可能であること)は,複数のコートタンパク質が,同じウイルス粒子に照らして融合ペプチドをディスプレイしたという点で,優れた利点になり得るといえる。また,そのようなシステムは,既に確立されているディスプレイ技術、特にはpIIIディスプレイやpVIIIディスプレイに対して干渉を与えない必要がある。
【0005】
EndemannとModelは,1995年(PMID:7616570)に,少数のコートタンパク質であるpVIIが,原型のファージ内では利用できないこと,さらには,pVIIが,そのN末端と結合した他のタンパク質とともに機能しないことを報告した。そして,この報告では,pVIIがファージディスプレイには利用することができないと結論付けられている。
【0006】
Gaoらは,1999年(PMID:10339535)に,さらには,特許出願としての国際出願公開第0071694号パンフレットにおいて,pVIIに関する,オクタペプチドFLAGタグを用いた異種ペプチドのファージディスプレイだけでなく,pVIIやpIXに関する同時ファージディスプレイについても記述している。ここで,これらのディスプレイは,トポロジーを折り畳む錯体を隠蔽する機能的なヘテロ二量体型のポリペプチド(抗体Fv)を生成するためのものである。これらの著者は,抗体のディスプレイを行うための代替手段を開発することを目的としていた。pVIIやpIXといった結合タンパク質は,ダイシストロニック集合体を使用したファージミドから発現したものであるので,結果として,機能的なファージ粒子は,様々な量で,pVIIやpIXとしった結合タンパク質を必然的に含むこととなる。これは,ヘルパーファージゲノムから提供された野生型のpVIIやpIXといったタンパク質による相補性に起因するものである。pVIIやpIXが,それらのN末端に結合した他のタンパク質と機能しなかったことが,上述したように,既に提唱されており,また,Gaoらによって彼らの成功に関して可能性のある2種類の理由の単独又は双方の組み合わせが与えられている。
【0007】
1つの可能性のある理由は,原核生物のリーダー配列(シグナル配列)が,結合タンパク質にN末端的に添付していたことにあり,そのために,組み換え型タンパク質の標的化がペリプラズムの空間に確保され,それによって,細胞質内での集積が妨げられたことが考えられる。もう1つの可能性のある理由は,組み換え型のタンパク質が,エンデマンとモデルが提唱したようなファージゲノムではなく,ファージミドから発現したことにあり,そのために,ファージミドレスキューを必然的に必要としたヘルパーファージからの野生型のpVIIやpIXが組み換え型のpVIIやpIXといった結合タンパク質を補完しており,その結果,野生型の機能性(官能性),又は組み換え型の変性に起因して損なわれた機能性が妨げられたと考えられる。すなわち,ファージは,野生型のタンパク質と結合タンパク質の混合物で構成されるものである。上述の著者らは,pVII−pIXのディスプレイフォーマットが,異種二量体アレイを組み合わせたディスプレイが特に有用であろうということを述べている。ここで,そのようなアレイは,原因は不明ではあるが,パンニングプロトコルの間に特別な効果的な濃縮をもたらすようになると思われる。著者らは,pVIIをディスプレイ用タンパク質だけとして用いて,又はpVIIディスプレイを他のコートタンパク質(pIXとは異なるタンパク質)でのディスプレイと組み合わせて用いて,二重特異性ディスプレイを実現することを想定していない。
【0008】
Kwasnikowskiらは,scFvのフラグメントをファージゲノム内で直接的に遺伝子VIIに対して遺伝的に安定的に結合させることを記述している(PMID:16277988)。すなわち,結果的に得られるファージが,野生型のタンパク質pVIIを何ら含まず,かつ,pVIIディスプレイが多価であった。著者らは,ファージゲノムフォーマットにおいてpVIIのディスプレイに成功した理由の1つが,結合タンパク質をペリプラズムの空間に導く原核生物のシグナル配列で結合遺伝子を裏付けられたことにあると仮説を立てている。著者らは,上述したシステムの特異性が,pVIIをディスプレイするファージが,改変されていない少数のコートタンパク質として野生型pIIIを産生することにあると論じている。ここで,機能的なpIIIを多重的に複製するためには,宿主細胞の感染を必要としていることが既に報告されていることから,ファージ表面に野生型pIIIが存在することで,選択された抗体の再生が広い多様性をもって促進される可能性がある。つまり,著者らは,二重特異性のディスプレイを予期していないだけでなく,彼らは,ペリプラズムの空間にターゲッティングする原核生物のシグナル配列を必要としないpVIIディスプレイを予期していない。
【0009】
Khalilらは,二重特異性をもつフィラメント状のファージビリオンの特徴を利用した用途について記述している(PMID:17360403)。その特徴とは,外来栄養型のペプチドが完全同一のビリオンの各遠位端でディスプレイされるというものである。彼らは,上述した用途を,pIXディスプレイファージミドを補完する通常のpIIIファージゲノムのベクターを組み合わせて利用することで実現した。その設定では,ファージゲノムのベクターが,ファージミドをレスキューするときのヘルパーファージとして機能していた。つまり,本明細書で説明する手法,すなわち,pVII改変ヘルパーファージゲノムを使用してpIIIディスプレイのファージミドをレスキューすることで,二重特異性のファージミドビリオンを生成する手法,を想起させるものである。しかしながら,両者には,二重特異性ビリオンを得るための手段や,所定のビリオンのビオチン化を得る手段が互いに異なるという点でいくつかの特徴が挙げられ,それた特徴によって,両者は互いに区別されるといえる。
【0010】
第1に,Khalilらの手法では,pIIIファージミドディスプレイを,それらpIII結合を担うファージゲノムベクターのまま組み合わせて使用することができるはずがなく,結果として,ファージミドのレスキューで二重特異性を得ることはできず,また,二重特異性は,pIII結合の双方の機能に有害となる可能性が高いといえる。
【0011】
第2に,筆者ら自身が示しているように,ゲノムのpIX改変は,ファージゲノム内の遺伝子と重複するために,実行可能なストラテラジーの1つとしてみなすことはできないので,彼らは,改変されたヘルパーファージゲノムであって,pIIIファージミド(又はpVIII)レスキューに使用可能であるとともに,そのようにすることで,所定の表現型の特徴を完全同一のビリオンの双方の遠位端に提供可能なヘルパーファージゲノムの生成を予想したり,仮説を立てたりしていない。Khalilらは,改変されたpVIIをファージミドで使用することやファージゲノムディスプレイで使用することについて何ら言及していない。
【0012】
第3に,Khalilらは,単一のファージゲノムを改変するに際して,完全同一のゲノム内で複数のキャプシド遺伝子を同時に改変することで二重特異性をもつビリオンを実現することについて仮説を立てていない。彼らは,単に,市販で入手可能なファージゲノムベクターを使用して標準のpIIIペプチドディスプレイを利用したに過ぎない。
【0013】
第4に,Khalilらは,単に,二重特異性をもつビリオンをディスプレイする短鎖のペプチドを生成したに過ぎず,折り畳まれたドメインを生成したのではなく,また,そのようなディスプレイを,改変されたキャプシドタンパク質の一方又は双方で実現することについては何ら仮説を立てていない。
【0014】
第5に,Khalilらは,pIIIをディスプレイしたペプチドについて位置特異性をもつビオチン化を,インビトロの化学的結合を利用して実現しているが,インビトロやインビボでの酵素反応によっては実現していない。著者らは,アビジンタグ(AviTag:登録商標)といった酵素基板をディスプレイすることで,ディスプレイ部分について酵素介在型のビオチン化を行うことを何ら予想していない。
【0015】
以上のことから,Khalilらは,N末端のシグナル配列を利用しないタイプのディスプレイを何ら示唆していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は,フィラメント状のファージ上にディスプレイされたペプチドに適した代替的な足場を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の側面は,フィラメント状のファージに由来するpVII結合タンパク質であって,当該結合タンパク質がN末端のシグナル配列を含まず,それにより,結合が外来栄養型のペプチドに導かれる,結合タンパク質である。
【0018】
本発明の他の側面は,本発明の結合タンパク質をコードする核酸に関する。
【0019】
本発明のある側面は,本発明の結合タンパク質を含むフィラメント状のファージに関する。
【0020】
本発明の別の側面は,フィラメント状のファージのライブラリーに関する。
【0021】
本発明のある側面は,ファージミドと,ヘルパーファージとを含むファージディスプレイシステムであって,該ヘルパーファージが,本発明のpVII結合タンパク質をコードする核酸を含んでいる,ファージディスプレイシステムに関する。
【0022】
本発明の他の側面は,ファージミドと,ヘルパーファージとを含むファージディスプレイシステムであって,該ファージミドが,本発明のpVII結合タンパク質をコードする核酸を含んでいる,ファージディスプレイシステムに関する。
【0023】
本発明のある側面は,ファージミドと,ヘルパーファージとを含むファージディスプレイシステムを有するキットであって,該ヘルパーファージが,本発明のpVII結合タンパク質をコードする核酸を含んでいる,キットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は,フィラメント状のファージの構造を模式的に示す図である。ビリオンは,5種類の構造的なタンパク質で構成されており,これらのタンパク質は,単一らせん構造をもつDNA分子を被覆(コート)している。野生型(wt:wild type)のファージには,pVIIIの複製が約2700存在するとともに,ビリオンの各端にあるpIII,pVI,pVII,及びpIXからなる4種類のタンパク質の群のうちのいずれかの複製が3〜5前後存在する。ビリオンのサイズは,ゲノムのサイズに依存し,pVIIIコートタンパク質1個当たりヌクレオチドが2.3個前後であり,したがって,粒子の長さは,付着したpVIIIの複製の数で増減することで調整される。なお,pIIIやpVIIIの構造は,X線ファイバー回折法,結晶学,及び核磁気共鳴分析法(NMR)によって既に明らかにされている。少数のコートタンパク質であるpIIIは,互いに異なる3種類のドメインを含んでおり,それらのドメインは,グリシンが豊富な領域で分離されている。それら3種類のドメインは,N1(TolAに結合するドメイン)と,N2(F線毛に結合するドメイン)と,CT(ビリオンと一体的なドメインであって,正常なビリオンアッセンブリーにとって重要なドメイン)である。
【0025】
【図2】図2は,AviTag(登録商標),HIS6−タグ,及びFLAGタグの大腸菌K12コドン最適化を示す図であり,図2(A)は,市販で入手可能なAviTag(登録商標)のDNA配列と,大腸菌K12コドンの利用とを比較したものである。赤いコラムは,提出した配列に対応し,黒いコラムは,参照セットに対応する。図2(B)において,上部の線は,原型のAviTag(登録商標)を示しており,下部の線は,Aの結果に応じて調整した改変後の配列を示している。図2(C)は,コドン最適化後のFLAGペプチドを示す。図2(D)は,コドン最適化後のHIS6ペプチドを示す。
【0026】
【図3】図3は,野生型ヘルパーファージの比較対象となる改変後のヘルパーファージの滴定量を示す図である。
【0027】
【図4】図4は,M13K07のAviTag(登録商標)−pVIIIに関する酵素免疫測定(ELISA)分析結果を示す図である。 ビオニチル化したビリオンを吸収させるために,規格化したファージ調合液をストレプトアビジン(SA)のビーズと混合させ,その後,酵素免疫測定(ELISA)を実施例1で記述するように実施した。
【0028】
【図5】図5は,酵素免疫測定(ELISA)分析結果を示す図であり,M13K07でのpVII結合としてのFLAGタグのアクセシビリティー(可触性)を示している。規格化したファージ調合液を酵素免疫測定(ELISA)試験で使用した。M2とM5のMAbの双方に関しては,M13K07FLAGについてのみ,FLAGタグの明確な検出値が認められる。M5のMAbによるFLAGタグの検出値の方がより強い。
【0029】
【図6】図6は,分析結果を示す図であり,M13K07(配列表ID番号:31)とVCSM13(配列表ID番号32)の双方に対するpVII結合としてのHISタグのアクセシビリティー(可触性)を示している。HIS6でタグ化されたビリオンを吸収させるために,規格化したファージ調合液を,タロン社(Talon)のダイナビーズ(Dynabeads;登録商標)と混合させ,その後,酵素免疫測定(ELISA)を実施例1で記述するように実施した。
【図7】図7(A)では,scTcRのファージミドの滴定量とscFv−pIIIがディスプレイされたファージミドの滴定量をコロニー形成単位cfuampR/mlで示されている。図7(B)では,ヘルパーファージに対するファージミドの比率を,ファージミドの滴定量(cfuampR/ml)をヘルパーファージの滴定量(cfukanR/ml)で割った値で示す比率で示されている。
【図8】図8は,scTCRファージミドAviTag(登録商標)の酵素免疫測定(ELISA)分析結果を示す図であり,ストレプトアビジンで被覆(コート)したダイナビーズ(登録商標)でファージレスキューした後のAviTag(登録商標)の明確なアクセシビリティー(可触性)を示している。
【図9】図9は,酵素免疫測定(ELISA)分析結果を示す図であり,互いに異なる2種類のファージミドにおいて,2種類のアンチFLAG抗体M2及びM5でファージミドビリオンをキャプチャーしたときの,pVII結合としてのFLAGタグのアクセシビリティー(可触性)を示している。図9(A)は,ファージミドpFKPDNscTCR Vαβ4B2A1に関し,図9(B)は,ファージミドpSEX−scFvアンチphOxに関する。規格化したファージ調合液を使用した。
【図10】図10は,酵素免疫測定(ELISA)分析結果を示す図であり,図10(A)は,pVIIAviTag(登録商標)を用いてファージミド由来のビリオン上でディスプレイされたscTCRpIIIの機能性を示しており,図10(B)は,同様にディスプレイされたscFvpIIIの機能性を示している。規格化したファージ調合液を使用した。
【図11】図11は,酵素免疫測定(ELISA)分析結果を示す図であり,図10(A)は,FLAGタグやHIS6タグを用いてファージミド由来のビリオン上でディスプレイされたscTCRの機能性を示しており,図10(B)は,同様にディスプレイされたscFvの機能性を示している。規格化したファージ調合液を使用した。
【図12】図12は,pVIIAviTag(登録商標)を用いた場合及び用いなかった場合におけるゲノムファージfUSE5−scTCRpIIIの滴定量を示す図である。
【図13】図13は,酵素免疫測定(ELISA)分析結果を示す図であり,ストレプトアビジンビーズでファージをキャプチャーした後にアンチM13抗体によって結合したファージを検出した場合におけるゲノムのfUSE5−AviTag(登録商標)ファージ調合液の機能性を示している。規格化したファージ調合液を使用した。
【図14】図14は,酵素免疫測定(ELISA)分析結果を示す図であり,AviTag(登録商標)−pIIIを用いた場合におけるゲノムのファージであるfUSE5上でpIIIがディスプレイされたscTCRの機能性を示している。規格化したファージ調合液を使用した。
【図15】図15は,pIIIディスプレイのファージミドを模式的に示す図であり,図15(A)は,新規なpGALD7に関するものであり,図15(B)は,新規なpGALD7ΔLに関するものである。双方のファージミドのベクターバックボーンは,pSEX81(配列ID番号:29)に基づいたものであり,その配列は,ゲンバンク(GenBank)登録番号Y14584から入手可能であり,その構成に関する詳細は,材料及び方法(Materials and Methods)の項目内に記述されている。双方のファージミドは,それぞれ,NcoI/HindIII部分及びMluI/NotI部分の簡易カセット交換を介して,イン・フレームの外来栄養の配列(E1,E2とも称する)のカセットを提供可能である。それらのカセットは,以下に述べる互いに異なる構造体の中で変化する人工のリンカー配列で接続される。それら構造体とは,略称lacPOで示すlacプロモーターと,略称sdで示すシャイン・ダルガノ配列(Shine−Dalgarno sequence)と,略称pelBで示す細菌性ペクチン酸リアーゼのシグナル配列と,略称TPで示すトリプシンプロテアーゼサイトと,略称tで示すT7転写終結点である。
【図16】図16は,pGALD7ΔL(pVIIΔL),pGALD7(pVII),pSEX81(pIII),及びpSEX81ΔL(pIIIΔL)からディスプレイされたscFVのアンチphOx(配列ID番号26)のファージミドの滴定量を示す図である。これらのファージミドは,いずれも,アンピシリン抵抗マーカーをかくまうものであるから,滴定量は,溶液1ミリリットル当たりのアンピシリン抵抗性コロニー形成単位(cfuampR/ml)として示されている。
【図17】図17は,抗原種(phOx−BSA)に関する酵素免疫測定(ELISA)の結果を示す図であり,シグナル配列(ΔL)を用いた場合と用いなかった場合において,機能性scFvアンチphOx(配列ID番号26)のディスプレイをpVIIとpIIIの間で比較したときを示している。なお,酵素免疫測定(ELISA)を,材料及び方法で説明されているように行うとともに,滴定量に関する滴下量は,pGALD7(pVII)を除く全てのサンプルに対して2×1010cfuampR/mlとし,pGALD7(pVII)については,希釈せずに使用した(これは,1.1×107cfuampR/mlに相当する)。図中アンチM13HRPは,抗原性薬剤及び阻害剤に対してビリオン検出MAbがあいまいな吸着を起こすことに関して負のコントロールを行った場合を示している。
【図18】図18(A)は,pGALD7ΔL(pVIIΔL),pGALD7(pVII),pSEX81(pIII),及びpSEX81ΔL(pIIIΔL)からディスプレイされたscFVのアンチphOxのファージミドの滴定量をcfuampR/mlで示す図である。図18(B)は,ファージミドの滴定量(cfuampR/ml)をヘルパーファージの滴定量(cfukanR/ml)で割った値に相当する比率を示すヘルパーファージに対するファージミドの割合を示す図である。ビリオンの凝縮(packaging)を,材料及び方法で説明する標準のファージミドのレスキューとして行うか(−),又は,図18(A)及び図18(B)の双方においてスーパーインフェクション後に現存するIPTGの最終濃度が0.1mMとなるように行った。
【図19】図19は,抗原種(phOx−BSA)に関する酵素免疫測定(ELISA)の結果を示す図であり,機能性scFvアンチphOxpIIIのディスプレイを,シグナル配列(ΔL)を用いた場合と用いなかった場合,及び,pVII結合発現のためにIPTG誘導(0.1mM)を行った場合と行わなかった場合について比較したときを示している。なお,酵素免疫測定(ELISA)を,材料及び方法で説明されているように行うとともに,滴定量に関する滴下量は,pGALD7ΔL(pVIIΔL)に対して2×1010cfuampR/mlとし,pGALD7(pVII)については,希釈せずに使用した(これは,IPTGを用いた場合で2.0×109cfuampR/mlに相当し,IPTGを用いなかった場合で1.1×107cfuampR/mlに相当する)。図中アンチM13HRPは,抗原性薬剤及び阻害剤に対してビリオン検出MAbがあいまいな吸着を起こすことに関して負のコントロールを行った場合を示している。
【図20】図20は,抗原種に関する酵素免疫測定(ELISA)の結果を示す図であり,図20(A)は,シグナル配列(ΔL)を用いた場合と用いなかった場合における機能性scFvのpVIIディスプレイを比較した場合を示しており,図20(B)は,同様の場合における機能性scFvアンチNIPのpVIIディスプレイを比較した場合を示している。なお,酵素免疫測定(ELISA)を,不純物を除去したものを希釈していない状態で同量用いて,材料及び方法で説明されているように行った。アンチM13HRPは,抗原性薬剤及び阻害剤に対してビリオン検出MAbがあいまいな吸着を起こすことに関して負のコントロールを行った場合を示している。図20(A)では,T細胞受容体4B2A1用の抗体クローン種GB113を,scTCRのVαβ4B2A1に対する,コグネートI−Ed/2315配位子の代理となる代理抗原性薬剤(Losetら,PMID:17925331)として用いた。
【図21】図21(A)は,標準ファージミドレスキューを用いた場合においてpGALD7ΔL及びpGALD7からディスプレイされたscTCRのVαβ4B2A1とscFvアンチNIP(配列ID番号27)のファージミド滴定量を示す図であり,図21(B)は,図21(A)におけるサンプルと同じサンプルのファージミド対ヘルパーファージ比を示す図である。
【図22】図22(A)は,ビリオン凝縮プロトコル測定の終端における各大腸菌培養液の細胞密度をA600nmにおける光学密度(OD)で示す図である。なお,全ての培養液は,A600nmにおける密度がいずれも0.025で始まっており,その後,A600nmが0.1に到達したときにN13K07を用いてMOI5でスーパーインフェクションを行った。そして,培養液の最終的なODを測定する前に,凝縮が30℃でオンとなるようにした。
【発明を実施するための形態】
【0030】
なお,以下に説明する本発明の一態様に係る実施形態及び特徴は,本発明の他の側面に対しても適用可能である。
【0031】
本発明で引用する全ての特許文献及び非特許文献は,参照によってそれらの全てが本明細書に取り入れられる。
【0032】
本明細書では,新たな技術的思想として,フィラメント状のファージビリオンの構造的なコートタンパク質pVIIが,遺伝的に,改変後のビリオンがN末端の配列タグをコードするように変化することを説明する。pVIIに結合されるタグの種類によって,ビリオンには,特異なタグ検出性だけでなく,適応性のある精製手段と固定化手段とがシステムがもつ性質として与えられる。その手法は,既存のpIIIディスプレイシステムやpVIIIディスプレイシステム,さらには,pVIIに関する新規なライブラリー生成を含むシステムに対して,ファージミドベクターのファージゲノム基部が適用できるかどうかに関わらず,直接的に適合可能である。したがって,この新たな技術的思想は,ファージディスプレイ技術の高い多様性に対してさらなる発展をもたらすものである。
【0033】
最初に,今回の報告では,フィラメント状のファージゲノムが,シグナル配列の生存能力や機能性に干渉を与えることがないpVIIのN末端でのペプチド改変を,シグナル配列をかくまうことなく許容するということを説明する。このことは,M13K07(配列ID番号31),VCSM13(配列ID番号32),及びfUSE5(配列ID番号30)のゲノム,ファージミド,並びにファージミドで実証されただけでなく,様々な株の間で表現型の保存性が非常に高い。このことは,あらゆるフィラメント状のファージに対する適用を非常に有望なものとする。
【0034】
選択されたpVII結合の1つは,AviTag(登録商標)の原核生物のコドンを最適化したバージョンであった。そのペプチドは,今までに報告されている基板の中でも最も効率的なBirA基板である。このpVIIペプチドディスプレイをpIIIディスプレイと組み合わせることによって,二重特異性をもつビリオンが生成されることを以下に説明する。このことは,ファージゲノムをベースとしたベクターであるfUSE5(配列ID番号30)で実証されるとともに,改変後のM13K07のヘルパーファージを用いてレスキューしたときのファージミドディスプレイから実証された。この二重特異性という性質を,pVIIIディスプレイと組み合わせて利用することが可能であるということも容易に考えられる。特に,ファージミド由来のビリオンの場合には,内因性のビオチン化レベルが非常に低かった。
【0035】
一方で,ビオチン化レベルが高い方が望ましい場合,それは,それらのビリオンのビオチン化をインビトロで行うことで,また,新規なF陽性の大腸菌であるAVB100FmkII株を使用してビオチン化をインビボで行うことで,容易に達成することが可能である。
【0036】
したがって,今回の技術的思想によって,アビジン−ビオチン技術を,支配的なファージディスプレイプラットフォーム(ファージやファージミド)及びディスプレイシステム(pIIIやpVIII)の双方と組み合わせることが可能となる。そして,そのことにより,ファージ粒子に対するビオチン部位の接続が,pIII結合及び/又はpVIII結合に干渉を与えることなく,コントロールされたサイト特異性のある状態で可能となり,その結果,機能性の保持を確保することができる。このシステムは,利用の有無を選択するだけで,既存のプラットフォームに対してさらなる改変を必要とすることなく直接的に適合することができる。
【0037】
まとめると,ゲノム由来のビリオンやファージミド由来のビリオンの双方は,正常な機能性と生存能力をもつビリオンを産生しつつ,pVIIの改変を許容することができる。
【0038】
pVII結合タンパク質
本発明のある態様では,フィラメント状のファージに由来するpVII結合タンパク質であって,当該結合タンパク質は,外来ペプチドがpVIIのN末端に結合している結合タンパク質が提供される。そのような結合タンパク質は,例えば,ファージディスプレイのコンテキストで利用可能である。
【0039】
外来ペプチドといった場合,タンパク質pIII,pVII,又はpVIIIの一部をもともと持っていないペプチドを意味し,結合タンパク質がもつpIII,pVII,又はpVIIIのアミノ酸部分のN末端に対するリンカーとなるアミノ酸を持つペプチド又は持たないペプチドをいう。好ましい実施態様では,結合タンパク質は,N末端のシグナル配列を含まない。本明細書では,用語「ペプチド」は,短鎖のペプチド,ポリペプチド,タンパク質,及びそれらのフラグメントを含む概念である。
【0040】
用語「pIIIタンパク質」は,配列ID番号2に開示するようなアミノ酸配列を指す。
【0041】
ある実施形態では,pIIIタンパク質は,配列ID番号2の配列に対する相同性が少なくとも80%のアミノ酸配列を含み,例えば,その相同性が80%,相同性が81%,相同性が82%,相相同性が83%,相同性が84%,相同性が85%,相同性が86%,相同性が87%,相同性が88%,相同性が89%,相同性が90%,相同性が91%,相同性が92%,相同性が93%,相同性が94%,相同性が95%,相同性が96%,相同性が97%,相同性が98%,又は,相同性が99%である。
【0042】
用語「pIII結合タンパク質」は,配列ID番号2に開示するようなアミノ酸配列を指す。
【0043】
用語「pIII結合タンパク質」は,外来ペプチドに結合したpVIIIタンパク質又はそのフラグメントをいう。
【0044】
用語「pVIII結合タンパク質」は,配列ID番号3におけるアミノ酸配列を指す。
【0045】
ある実施形態では,pVIIIタンパク質は,配列ID番号3の配列に対する相同性が少なくとも80%のアミノ酸配列を含み,例えば,その相同性が80%,相同性が81%,相同性が82%,相同性が83%,同性が84%,相同性が85%,相同性が86%,相同性が87%,相同性が88%,若しくは,相同性が89%であるか,又は,相同性が90%,相同性が91%,相同性が92%,相同性が93%,相同性が94%,相同性が95%,相同性が96%,相同性が97%,相同性が98%,若しくは,相同性が99%である。
【0046】
用語「pVIIタンパク質」は,配列ID番号1におけるアミノ酸配列を指す。
【0047】
ある実施形態では,pVIIタンパク質は,配列ID番号1の配列に対する相同性が少なくとも80%のアミノ酸配列を含み,例えば,その相同性が80%,相同性が81%,相同性が82%,相同性が83%,同性が84%,相同性が85%,相同性が86%,相同性が87%,相同性が88%,相同性が89%であるか,相同性が90%,相同性が91%,相同性が92%,相同性が93%,相同性が94%,相同性が95%,相同性が96%,相同性が97%,相同性が98%,又は,相同性が99%である。
【0048】
配列の相同性
通常,「相同性」といった場合,遺伝子やタンパク質がそれぞれヌクレオチドレベルやアミノ酸レベルで互いに一致しているときの配列の一致度合いをいう。
【0049】
そして,本明細書では,コンテキストとしての「配列の相同性」は,タンパク質がアミノ酸レベルで互いに一致しているときの一致度合いを示す測定値や,核酸がヌクレオチドレベルで互いに一致しているときの一致度合いを示す測定値をいう。ここで,タンパク質の配列の相同性は,複数の配列が並んでいる場合,各配列において所定位置でのアミノ酸配列を比較することによって決定されてもよい。同様に,核酸の配列の相同性は,複数の配列が並んでいる場合,各配列において所定位置でのヌクレオチド配列を比較することによって決定してもよい。
【0050】
2種類のアミノ酸配列や2種類の核酸配列の相同性を百分率で決定するにあたり,最適な比較を目的として,それらの配列は調整される(例えば,第2のアミノ酸配列や第2の核酸配列を最適に並べることを目的として,第1のアミノ酸配列や第1の核酸配列の配列内に,スペース(gap)を設けてもよい)。そして,アミノ酸の残りの部分やヌクレオチドは,対応するアミノ酸の位置や対応するヌクレオチドの位置で比較される。第1の配列内の位置が,第2の配列内の対応する位置で同じアミノ酸の残りの部分やヌクレオチドによって占有されている場合,その位置で分子が同一であるとされる。2種類の配列の間での相同性を示す百分率は,配列によって共有された位置が一致する数の関数である(すなわち,相同性[%]=(一致する位置の数/位置の総数(例えば,重複する位置の数))×100)。ある実施形態では,2種類の配列は,互いに同じ長さである。
【0051】
配列を手動で調整して,同一のアミノ酸の数を数えてもよい。これに代えて,相同性の百分率を決定するために,数学的なアルゴリズムを用いて2種類の配列を配列させてもよい。そのようなアルゴリズムは,Altschulら(1990年)によるNBLASTプログラムやXBLASTプログラムに組み込まれている。BLAST(ブラスト)のヌクレオチド検索は,NBLASTプログラムを用いて,スコア100,ワード長12で実行可能であり,これにより,本発明による核酸分子と相同のヌクレオチド配列を得ることが可能である。BLASTのタンパク質検索は,XBLASTプログラムを用いて,スコア50,ワード長3で実行可能であり,これにより,本発明によるタンパク質分子と相同のアミノ酸配列を得ることが可能である。比較目的でスペースを入れた配列を得るために,ギャップ化ブラスト(Gapped BLAST)を利用してもよい。それに代えて,サイブラスト(PSI−BLAST)を用いて,分子間の距離関係を検出する反復検索を行ってもよい。NBLASTプログラム,XBLASTプログラム,及びスペース化BLASTプログラムを利用する場合,各プログラムのデフォルトのパラメーターを用いることが可能である。http://www.ncbi.nlm.nih.gov.を参照のこと。これに代えて,例えば,EMBLデータベース内のBLASTプログラム(www.ncbi.nlm.gov/cgi−bin/BLAST)で配列を並べた後に,その配列の相同性を計算してもよい。一般的には,例えば「スコアリングマトリックス」や「ギャップペナルティ」についてはデフォルトの設定をアライメントに使用可能である。本発明のコンテキストでは,BLASTNとサイブラスト(PSI BLAST)のデフォルトの設定が好都合なものとなり得る。
【0052】
2種類の配列間の相同性の百分率は,許容可能なスペースがある場合やない場合において,上述したような技術と同様の技術を用いて決定することも可能である。そして,相同性の百分率を計算する際には,正確に一致するものだけが数えられる。
【0053】
折り畳みタンパク質
本発明の好ましい実施形態では,用語「ペプチド」は,抗体由来のドメインなどの折り畳みタンパク質のみを意味する。当業者は,以下を含む,折り畳みタンパク質が抗体やそのフラグメントであり得ることを認識するものである。Fv,scFv,Fab,単一のドメイン,タンパク質AのZドメイン(Affibody),アンキリンやそのフラグメント,T細胞受容体やそのフラグメント,MHC分類IやIIのフィブロネクチンやそのフラグメント,Avimer,Anticalin,PDZドメイン,IgNARやそのフラグメント,CTLA4やそのフラグメント,ImmE7,Knottin,GFP,及び,その他の遺伝子をコードした生物化学的な蛍光色素分子。
【0054】
原理的には,ディスプレイ可能である限り,任意のものをライブラリー化することが可能である。そのため,整列構造(つまり,折り畳み構造)を持つものに比較して非構造的な配列のみを持つものを区別することだけに関していえば高いレベルで行うことが可能である。
【0055】
別のより好ましい実施形態では,用語「ペプチド」は,2〜50個の間のアミノ酸(aa)の短鎖のペプチドのみを意味する。ある長さでは,短鎖のランダムコイル構造をもつペプチドは,所定の二次的な折り畳み構造又は三次的な折り畳み構造に十分に適した長さであり,そのために,折り畳まれたドメインを定義することとなる。このことは,明らかに,化学的な組成に依存している。したがって,20個のアミノ酸(20aa)からなる一方のペプチドがランダムコイル構造のままである場合,20個のアミノ酸(20aa)からなる他方のペプチドは折り畳まれた状態となり得るものであり,結果として,折り畳みドメインを定義し得るものとなる。
【0056】
別のより好ましい実施形態では,本発明によるpVII結合タンパク質は,配列ID番号1における位置1〜33,位置2〜33,位置3〜33,位置4〜33,及び位置5〜33からなる位置の群から選択された配列を含む。
【0057】
配列ID番号1(MEQVADFDTIYQAMIQISVVLCFALGIIAGGQR)は,フィラメント状のファージの構造的なコートタンパク質pVII(野生型pVII)のアミノ酸配列である。最も好ましくは,そのpVII結合タンパク質は,配列ID番号1における位置1〜33にある。
【0058】
シグナル配列
好ましくは,外来ペプチドは,任意のアミノ酸を介して又は介さずに,結合タンパク質のpVII配列のN末端に対して直接的に結合している。さらに別の好ましい実施形態では,pVII結合タンパク質は,N末端のリーダー(leader)配列を含まない。
【0059】
用語「リーダー配列」は,用語「シグナルペプチド」や用語「シグナル配列」と置換可能に用いられ,グラム陰性菌のペリプラズムの皮膜スペースに対してタンパク質(そのリーダー配列が一部であるタンパク質)をターゲッティングするアミノ酸配列を意味する。リーダー配列の例としては,pelBss,OmpAss,TorAss,malEss,phoAss,lamBss,Blass,及びDspAssや,mglBss,sfmCss,tolBss,及びTorTssがしばしば用いられる。そのようなシグナル配列は,大腸菌の分泌機構に対して,完全なタンパク質をターゲッティングすることが知られている。ここで,大腸菌は,少なくとも,細胞質ゾル(シトソル)からペリプラズムの空間への転座として,SRP依存の転座,SEC依存の転座,TatABC依存の転座,又はYidC依存の転座を含むことが知られている(Baneyxら,PMID:15529165)。したがって,用語「N末端のシグナル配列」は,タンパク質のN末端部分内にあるシグナル配列を意味する。
【0060】
シグナル配列は,大腸菌の分泌機構に対してタンパク質(その一部)をターゲッティングする性質をかくまい,それによって,それを細胞質の区画からペリプラズムの区画へと転座させるものであって,シグナル配列を,アミノ酸の組成の化学的な性質によって定義された符号(signature)やモチーフを用いて,部分的に同定することが可能である。
【0061】
しかし,既存の機能的なシグナル配列の多様性は,まだ現在のところ,それらを同定するにあたり現在の知見を上回るものであり,そのために,ペプチドをコグネートシグナル配列として定義する際の技術の現状は,通常,例えば,神経ネットワークや発見的方法論によってテンプレートとしてデータベース化された知見を用いてデータ検索することにとどまっている。現在のところ,そのようなツールのいくつかは,オープンアクセスチャネル(例えば,SignalP,PROSITE(EMBL−EBI)のPPSEARCH,SecretomeP,TatP)を介して社会全体で利用可能である。
【0062】
その挑戦は,分泌線のタンパク質を分類する場合,シグナル配列モチーフが無いことを同定可能だが,データ検索を用いることで,シグナル配列の特徴を定義したり,問題となっている真核性タンパク質の分泌能力の可能性を取得したりすることが可能といったルールからは外れた細胞質の区画からエクスポートする意味において,さらに高度である。現在のところ,そのようなツールは,原核生物群に関しては,まだ存在しない。
【0063】
したがって,現在利用可能な方法であって,ペプチドをシグナル配列として変更不可的に同定する唯一の方法は,経験的な手段によるものであり,ペプチドの性質を確認して,それが実在するシグナル配列であるかどうかを決定することである。また,そのようなペプチド内で工業技術を,シグナル配列内でのアミノ酸の所定位置が変化しつつも,そのシグナルペプチドとしての機能が,天然の機能性及び変化後の機能性のいずれか(例えば,増大した転送能力)によって保持されるように,なし得ることは明らかである。また,アミノ酸の欠失や付加を行ってもよい。確かに,そのような分析や工業技術は,FfpVIIIシグナル配列,Sec経路をターゲッティングするg8pss,及び,Tat経路をターゲッティングするTorAssを用いてなされてきた。特に,Shenらによる結果は,変化後の変種,pIIIシグナル配列,及び細菌性ペクチン酸リアーゼのシグナル配列を除いては,機能についての工業技術にとって十分に根拠のあるガイドラインとして機能している。
【0064】
シグナル配列の機能性は,さらに,以下の2種類のペプチドに分けることが可能である。
【0065】
1.大腸菌の分泌機構に対するタンパク質(その一部)のターゲッティングを行って,その結果,細胞質の区画からペリプラズムの区画へと転座させ,そして,本プロセスの途中で,特定のプロテアーゼ(例えば,リポタンパク質のシグナルペプチダーゼやリーダーペプチダーゼ)を用いて,残っているタンパク質からタンパク質分解的に分離すること。
【0066】
大腸菌の分泌機構に対するタンパク質(その一部)のターゲッティングを行って,その結果,細胞質の区画からペリプラズムの区画へと転座させ,その後に,タンパク質の一部として転座を保持したままとすること。
【0067】
シグナル配列の非常に多くの部分は,上述した状況1にマッピングされるが,これらのタンパク質を上述した状況2で容易に処理し得ることは明らかである。したがって,現在のところ知られている任意のシグナル配列(例えば,変種pelBssなど)は,もともと,上記状況1に属するものであるが,上記状況2に変えられて,コグネートシグナル配列としてみなされる。
【0068】
また,状況1のシグナル配列を状況2に変化させること,及び,状況2にマッピングするシグナル配列を直接的に選択し,そして転座後にシグナル配列を除去することのいずれかを考えることができる。このことは,宿主に内在するプロテアーゼによって,及び/又は,例えばファージディスプレイの場合においてタンパク質がキャプシドタンパク質に結合するときに実行可能である。そして,シグナル配列の適切な領域や,一部をなすタンパク質,人工的なプロテアーゼのサイトを,所定の裂け目が実現できるように処理することになる。ここでは,2種類の互いに異なるタイプのプロテアーゼの選択サイトを以下のように想定することができる。
【0069】
A. プロテアーゼのサイトは,興味のある抗体や他の足場(例えば,主要な組織適合性錯体分子やT細胞受容体)と結合すると予想されるサイト(例えば,カルボキシペプチダーゼや3Cライノウイルスのプロテアーゼサイト)のみで,興味のあるタンパク質を開裂させない。この手法を利用することで,例えば,上記状況2にマッピングするシグナル配列を用いることによる,興味のあるタンパク質のファージディスプレイを,想定することができるとともに,選択などに先だって,シグナルペプチドを人為的に除去して,キャプシド結合に対する機能性と均一性を得ることができる。
【0070】
B. プロテアーゼのサイトは,処理後のサイト(例えば,トリプシン)に加えて,興味のあるタンパク質を開裂させる。
【0071】
双方の状況は,シグナル配列依存のファージディスプレイとしてみなすことができることとなる。
【0072】
野生型の相補性
これまでは,シグナル配列を用いないときのpVII結合は,ファージ粒子の産生を助長することに関して非機能的であると考えられてきた(Endemanら,1995年;Gaoら,1999年)。そのため,そのN末端に直接的に結合した外来ペプチドを持つpVII結合タンパク質は,ファージゲノム上の第2の遺伝子からのpVIIタンパク質の重量によって,又は,ヘルパーファージからの提供によって補完される必要があった。
【0073】
用語「野生型」とは,野生の型,野生−型,又はwtとも称することとするが,有機的組織体,株,若しくは遺伝子の通常の形態であることや,天然で生じたままの特性のことをいう。野生型とは,天然の個体群において最も一般的な表現型であることをさす。また,野生型とは,野生型という表現型を産生するために必要な遺伝子座の各々における対立遺伝子をさす。野生型のものは,遺伝子型や表現型を参照するときの標準となる。生物学上,野生型は,天然に生じる有機的組織体と,故意に変異させた個体との間の差異に特に関連している。サイト特異性のある突然変異生成は,研究技術の1つであり,これにより,野生型遺伝子の遺伝子配列において特定のヌクレオチドを変異させることが可能となる。本明細書では,野生型のタンパク質を,wt−(タンパク質名)といったように称することとし,例えば,野生型pVIIタンパク質は,wtpVII,wt−pVII,野生型pVIIと称される。
【0074】
本願の発明者らは,上述したようなpVII結合タンパク質が,確かに機能的であり,かつ,必ずしも,野生型pVIIタンパク質で補完される必要がないことを見いだした。
【0075】
したがって,本発明のある態様は,ファージディスプレイにおいて機能的なpVII結合タンパク質であって,野生型pVIIタンパク質での補完が必要ないpVII結合タンパク質に関する。
【0076】
Kwasnikowskiらは,野生型pVIIタンパク質での補完の必要がないpVII結合タンパク質について報告している。しかしながら,KwasnikowskiらのpVII結合タンパク質は,外来ペプチドのN末端端部にシグナルペプチドを含むものであった。そのシグナルペプチドは,N末端pVII結合タンパク質を,ペリプラズム空間内へ向ける必要があるとともに,シトプラズム内でのその蓄積を妨げることが推測された。
【0077】
シグナルペプチドがpVII結合タンパク質のN末端端部に存在しないことで,様々な効果が得られる。シグナルペプチドは,通常はタンパク質分解的に除去される。そして,その処理では,しばしば完全ではないが,それにより,タンパク質の収集(collection)が発現する場合において処理後のタンパク質に互いに異なるN末端端部が生じ,その結果,システム内においてランダムな均一性が生じることとなり,このことは,
処理後のタンパク質内において無用のエラーにつながるリーダーペプチドをかくまったままのタンパク質の機能性に影響を与える可能性がある。このことは,シグナルペプチドが存在しないことで回避される。
【0078】
また,ペプチドのライブラリーがディスプレイされた場合,ペプチドのいくつかは,タンパク質分解を回避したり影響を与えたりする可能性がある。ここで,タンパク質分解は,ディスプレイされたタンパク質の活性,ひいては機能的なライブラリーの多様性に影響を与えるものである。シグナルペプチドを含まないことによる,さらに他の意外な効果としては,ファージの実行可能性や機能性が,シグナルペプチドを使用した場合とは異なり,影響を受けないということがある。Kwasnikowskiらは,リーダー配列(シグナルペプチド)をN末端に含むpVII結合タンパク質を用いた場合のファージに対して滴定量が低かったことを報告している。
【0079】
外来ペプチド
ある実施形態では,外来ペプチドは,所定のターゲットに結合する親和性標識(アフィニティータグ)である。親和性標識は,例えば,所定の抗体と結合し得るものである。親和性標識と所定のターゲットの組み合わせは,当業者にとっては周知である。
【0080】
タンパク質タグは,遺伝子的に,組み換え型タンパク質上へ移植するペプチド配列である。これらのタグは,たいてい,化学的な試薬によって,又は,酵素的な手段(例えば,タンパク質分解やインテインスプライシング)によって,除去可能である。タグは,様々な目的でタンパク質に取り付けられる。
【0081】
親和性標識は,それらの未処理の生物源から親和性技術で精製可能なように,タンパク質に付加される。
【0082】
未処理のN末端FLAGタグの特徴は,そのホルミル基のMet残渣が原形のままでもつことであり,そのために,Ca2+依存の相互作用であってアンチFLAGのMAb M1との相互作用が許容される。そして,M1上にビリオンを結合(つまり固定)することが可能となるとともに,そのカチオンがEDTAなどによってキレート化されていることでのみビリオンが遊離することが可能となり,その結果,非相同の結合を変成させるような過度のpHとならない,非常に緩やかな溶出が進行することとなる。また,このことは,M1を使用することで,システムを,既存の他のFLAG結合(内部的に,処理後のN末端,又はC末端)とともに,M1によって又は単純にカルシウムイオン濃度([Ca2+])を低く維持することによって認められることがない程度の干渉を伴うことなく,利用することが可能となることも意味している。
【0083】
好ましい実施形態では,pVII結合タンパク質の外来ペプチドは,AviTag(登録商標)(配列ID番号4),FLAGタグ(配列ID番号9),HISタグ(配列ID番号12),HATタグ,HAタグ,c−Mycタグ,ストレップタグ(Strep tag),V5タグ,抗体又はそのフラグメント,T細胞受容体又はそのフラグメント,MHC分類I及び分類II,アンキリン,IgNAR又はそのフラグメント,フィブロネクチン又はそのフラグメント,タンパク質AのZドメイン,CTLA4又はそのフラグメント,ImmE7,GFP,及び,その他の遺伝子をコードした生物学的な蛍光色素分子からなる群から選択される。
【0084】
配列ID番号2(MSGLNDIFEAQKIEWHE)は,酵素仲介型のサイト特異性結合であって,ビオチン部位の基質配列への結合を可能にする大腸菌酵素BirA配列の基質配列である。したがって,ファージディスプレイ技術の利点とアビジン−ビオチン技術の利点とを兼ね備えることとなる。pVII上にディスプレイされていないライブラリー内の任意の結合ライブラリーは,例えば,第1に,高い親和性をもつライブラリーの要素を同定するために,ターゲットに対して細分化され,そして,アビジンに結合しているビオチン,又は,ビリオン上のpVII結合も含むアビジン状のマトリクスを用いて,固定される。これに代えて,pVII上にない任意の結合ライブラリーは,例えば,第1に,ランダムに,又は,アビジン上若しくはアビジン状のマトリクス上の所定のアレイ内に固定され,続いて,コントロールされた状態でかつ方向性のある方法で,ビリオン上のpVII結合も含む手段によって,(例えば,SEREX内で)ターゲットのスクリーニングが行われる。同様に,pIII結合ライブラリーやpVII結合ライブラリーの任意の要素は,バルク内で,又は単一種類のクローンとして検出可能である。ここで,その検出に先立って又は検出後に,任意のアビジン又はアビジン同様のレポーター錯体を用いることでターゲットの相互作用が生じる。なお,用語「レポーター」は,本明細書では,例えば,酵素,核酸種,又は,人工の蛍光色素分子若しくは生物的な蛍光色素分子を記述するdescribes。
【0085】
AviTagをアウトラインするのと基本的に同じ論理的根拠であるが一方で不可逆的な固定化に近い後者の結果としては,HIS6は,イミダゾールを用いることで緩やかな溶出を許容することがある。HISタグは,利用可能なIMACマトリクスと適合する。
【0086】
他の好ましい実施形態では,pVII結合タンパク質の外来ペプチドは,ライブラリーの要素である。本発明のコンテキストで利用されるライブラリーは,互いに異なるペプチドの収集を意味する。そのようなペプチドは,折り畳まれたドメインであってもよいし,短鎖のペプチド(例えば,2〜50個のアミノ酸)であってもよい。そのようなライブラリーは,所定のターゲットに対して結合する新規なリガンドを同定するのに利用可能であるので,興味深い。ライブラリーをディスプレイするためにpVIIを用いることは,pIIIやpVIIIを用いてディスプレイされたライブラリーに比較して有利な効果がいくつかある。pVIIディスプレイは,方向性や価数に関しては,pIIIディスプレイと同じ利点をもつが,伝染性や,pIIIディスプレイで生じることが知られている現象に影響を与えることがない。ここで,その現象は,例えば,親和性選択後のレスキューで,システムに対して制御できない無用の不均質をもたらしたものである。また,pVIIディスプレイは,N末端リーダーペプチド(pIIIとpVIIIの双方のディスプレイの前提となるリーダーペプチド)を必要とすることなしに実現可能である。最終的には,pIIIディスプレイ内で主を固定した任意のターゲットは,通常,ターゲット−ファージ結合の分裂(通常は,競合による分裂,又は,pHが高いか若しくは低いときの溶出による分裂)を必要とする。このことは,例えば,高い親和性という大きな障害となる回復として,又は,pIIIディスプレイにおける安定的なバインダーとして知られている。伝染を必要とするpIIIが,変わらずに,かつ,pVIIディスプレイでの代替的な相互作用をファージ−ターゲット間の相互作用の後でも着実に利用可能である場合,固定化後のファージが伝染性の全てを保持しているので,結合分裂(例えば,酸性溶出)の必要性が完全になくなり,その結果,ターゲットに結合する間の感染によってのみ回復がなされることとなる。
【0087】
核酸
本発明の第2の側面は,本発明による結合タンパク質をコードする核酸である。この核酸は,ファージゲノム内又はファージミド内で構成されてもよい。
【0088】
用語「核酸」とは,単量体のヌクレオチドの鎖で構成された高分子を意味する。生物学上では,これらの分子は,遺伝子の情報を運搬したり,細胞内の構造体を形成したりするものである。最も一般的な核酸は,デオキシリボ核酸(DNA)と,リボ核酸(RNA)である。追記すると,用語「核酸」は,人工的な核酸を含むものであり,そのような核酸には,例えば,ペプチド核酸(PNA),及び,モルホリノや,架橋型核酸(LNA:Locked nucleic acid),グリコール核酸(GNA),及び,トレオース核酸(TNA)がある。これらの各々は,天然に生じるDNAやRNAとは,分子のバックボーンに対する変化によって区別される。
【0089】
ファージミド(phagemid又はphasmid)は,フィラメント状のファージFfとプラスミドとのハイブリッドとして開発されたクローニングベクターの1つであり,プラスミドとして繁殖可能なベクターであって,さらに,ウイルス性粒子内で,単一らせん構造をもつDNAとしてパッケージされたベクターを生成するために開発されたものである。プラスミド同様に,ファージミドは,DNAフラグメントをクローンするために利用可能であるとともに,一連の技術(形質転換,電気穿孔法)で,細菌の宿主に取り込まれることが可能である。しかしながら,ファージミドをヘルパーファージとともに含む細菌の宿主(例えば,VCSM13やM13K07)を感染させることは,必然的にウイルス性の要素をもたらすこととなり,単一らせん構造をもつDNAの複製と,ファージミドDNAをファージ粒子にパッケージングすることとを可能にする。
【0090】
フィラメント状のファージ
本発明の第3の側面は,本発明による結合タンパク質を含むフィラメント状のファージである。このフィラメント状のファージは,ファージゲノムを含むものであってもよいし,又はファージミドを含むものであってもよい。
【0091】
ファージは,バクテリオファージとも称されるが,本明細書では,感染用,複製用,及び細菌から隠れるウイルスを意味する。フィラメント状のバクテリオファージ即ちフィラメント状のファージは,単一らせん構造をもつDNAゲノム(ssDNA)をもつファージであって,そのDNAゲノムは,ファージのコートタンパク質でパッケージングされている。隠されたフィラメント状のファージ粒子は,表現型上,フィラメント状の構造をも持つ。
【0092】
本明細書で用いられる用語「フィラメント状のファージ」は,ファージゲノム由来のビリオン及びファージミド由来のビリオンの双方を包含する。
【0093】
ある実施形態では,結合タンパク質はヘルパーファージによって提供されるため,フィラメント状のファージは,結合タンパク質をコードする遺伝子を含まない。
【0094】
用語「ヘルパーファージ」は,例えば,ファージミドとして定義された,分離しかつ無関係の欠陥ウイルスを助けるウイルスをいう。ここで,ファージミドは,それ自身内にファージゲノムでも機能性ウイルスでもないが,ファージゲノム由来の1つか複数の要素を含むプラスミドであり,欠陥ウイルスによって既に占有されている同じ宿主細胞を感染させて,欠陥ウイルスがいなくなるとともに完全なその生物としてファージミドを含むサイクルビリオンを形成することが必要なタンパク質を提供することで繁殖するものである。
【0095】
他の実施形態では,フィラメント状のファージは,本発明による結合タンパク質をコードする核酸を含まない。フィラメント状のファージは,ファージゲノム又はファージミドを含んでもよい。特に好ましくは,ファージが,本発明による結合タンパク質をコードする核酸を含むファージゲノムを含んでいる。
【0096】
さらに他の実施形態では,本発明のフィラメント状のファージが,さらに,野生型pVII及び/又は野生型pVIIタンパク質をコードする遺伝子を含む。すなわち,フィラメント状のファージによってディスプレイされる結合タンパク質の数は,pVII結合タンパク質に対する野生型pVIIの割合を調節することで調整される。そのようなシステムは,野生型pVIIタンパク質がヘルパーファージ(7+7)から又はファージゲノム(77)上の第2の遺伝子から提供されるかどうかに依存する,77システム又は7+7システムであってもよい。
【0097】
さらに他の実施形態では,フィラメント状のファージは,野生型pVII遺伝子及び/又は野生型pVIIタンパク質を含まない。すなわち,フィラメント状のファージは,pVII結合タンパク質のみを含み,野生型pVIIタンパク質を全く含まない。
【0098】
好ましい実施形態では,フィラメント状のファージは,さらに,pIII結合タンパク質又はpVIII結合タンパク質を含む。ライブラリーは,例えば,pIII又はpVIIIでディスプレイされるとともに,pVII結合タンパク質は,親和性精製用に,固定化用に,又は,例えばアビジン若しくはアビジン状のマトリクスを用いる検出のために使用可能である。好ましくは,フィラメント状のファージファージは,pIXタンパク質を野生型の形態でのみ含む。
【0099】
本発明の第4の側面は,本発明によるフィラメント状のファージのライブラリーであり,当該フィラメント状のファージは,pIII,pVII,又はpVIIIへ結合する,外来ペプチド又はタンパク質をディスプレイするものである。
【0100】
ライブラリーは,フィラメント状のファージの1つ又はそれ以上のコートタンパク質の一部として,ペプチドやタンパク質をディスプレイするフィラメント状のファージを収集したものである。そのようなライブラリーは,互いに異なるペプチドやタンパク質をディスプレイするファージを2つ又はそれ以上含むことが可能である。
好ましい実施形態では,ペプチドがpVIIのところと,pIII又はpVIIIのところで同時にディスプレイされる。
【0101】
他の好ましい実施形態では,pVIIでディスプレイされる外来ペプチドが,AviTag(登録商標)(配列ID番号4),FLAGタグ(配列ID番号9),HISタグ(配列ID番号12),HATタグ,HAタグ,c−Mycタグ,ストレップタグ(Strep tag),V5タグ,抗体又はそのフラグメント,T細胞受容体又はそのフラグメント,MHC分類I及び分類II,タンパク質AのZドメイン,CTLA4又はそのフラグメント,ImmE7,GFP,及び,その他の遺伝子をコードした生物学的な蛍光色素分子からなる群から選択される。この実施形態では,pIII又はpVIIIでディスプレイされるペプチドは,pIII又はpVIIIでディスプレイされるペプチドは,好ましくは,ライブラリーの要素である。代替的な実施形態では,ライブラリーの要素は,pVIIでディスプレイされる一方,pIIIやpVIIIは,外来ペプチドをディスプレイする。この場合における外来ペプチドは,AviTag(登録商標)(配列ID番号4),FLAGタグ(配列ID番号9),HISタグ(配列ID番号12),HATタグ,HAタグ,c−Mycタグ,ストレップタグ(Strep tag),V5タグ,抗体又はそのフラグメント,T細胞受容体又はそのフラグメント,MHC分類I及び分類II,アンキリン,IgNAR又はそのフラグメント,フィブロネクチン又はそのフラグメント,タンパク質AのZドメイン,CTLA4又はそのフラグメント,ImmE7,GFP,及び,その他の遺伝子をコードした生物学的な蛍光色素分子からなる群から選択される。
【0102】
ファージディスプレイシステム
本発明の第5の側面は,ファージミドとヘルパーファージとを含むファージディスプレイシステムであって,ヘルパーファージが本発明によるpVII結合タンパク質をコードする核酸を含んでいる。
【0103】
ファージディスプレイシステム,ファージディスプレイ法,ファージディスプレイ技術,又は単にファージディスプレイといった場合,タンパク質−タンパク質間,タンパク質−ペプチド間,及び,タンパク質−DNA間の相互作用であって,それらをコードする遺伝子の情報を持つタンパク質を接続するためのバクテリオファージを利用する相互作用に関する発見や研究を行うための方法をさす。
【0104】
ディスプレイするタンパク質,又は,ディスプレイされるタンパク質とは,リガンドによる検出又は固定を利用可能なファージのコートタンパク質を結合するタンパク質をさす。
【0105】
本発明の第6の側面は,ファージミドとヘルパーファージとを含むファージディスプレイシステムであって,該ファージミドが本発明によるpVII結合タンパク質をコードする核酸を含んでいる。
【0106】
キット
本発明の第7の側面は,ファージミドとヘルパーファージとを含むファージディスプレイシステムを有するキットであって,該ファージミドが本発明によるpVII結合タンパク質をコードする核酸を含んでいる。このキットは,コード領域においてN末端的に複数のクローニングサイトを持つ遺伝子をコードするpVIIを含むファージミドと,ヘルパーファージ(例えば,M13K07,VCSM13,又はその他)とを含む必要がある。このキットは,ファージクローンの感染,発現,固定,選択,及び検出に用いるプロトコルで補完される必要がある。また,このキットは,特定の試験を実行するためのバッファ用及びメディア用の必要なレシピが付属している必要がある。
【0107】
本明細書では,キットは,単一の結合タンパク質や二重特異性を持つ結合タンパク質を,ファージディスプレイのライブラリーとして又は単一のファージ粒子として含むファージ粒子を生成するための試薬を収集することを意味する。キットは,ファージミド,ヘルパーファージ,細菌株,及び,試薬やアッセイを記述するためのレシピを含むプロトコルを含むことが可能である。キットは,研究開発,診察用試薬,及び治療用試薬に利用可能である。
【0108】
本発明の第8の側面は,ファージゲノムをベースとしたファージディスプレイシステムを含むキットであって,該ファージゲノムが,本発明によるpVII結合タンパク質をコードする核酸を含んでいる。
【0109】
このキットは,コード領域においてN末端的に複数のクローニングサイトを持つ遺伝子をコードするファージゲノムベクター(M13K07,VCSM13,fUSE5(配列ID番号30))を含む。このキットは,ファージクローンの感染,発現,固定,選択,及び検出に用いるプロトコルで補完される必要がある。また,このキットは,特定の試験を実行するためのバッファ用及びメディア用の必要なレシピが付属している必要がある。
【0110】
本発明の第9の側面は,pIII結合ファージミドのライブラリーを生成するためのヘルパーファージ,又は,pVII結合としてのタグを持つ単一のpIII結合ファージミドクローンを生成するためのヘルパーファージを含むキットである。このキットは,捕捉目的及び/又は検出目的に適した短鎖のペプチドをコードする挿入配列を持つ遺伝子をコードするpVIIを含むヘルパーファージ(M13K07,VCSM13)を含んでいる。このキットは,ファージクローンの感染,発現,固定,選択,及び検出に用いるプロトコルで補完される必要がある。また,このキットは,特定の試験を実行するためのバッファ用及びメディア用の必要なレシピが付属している必要がある。
【0111】
本発明の第10の側面は,pIIIとpVIIの双方の上で結合タンパク質をディスプレイするためのファージゲノムのライブラリーを生成するためのファージゲノムベクターを含んでいる。そのようなキットは,コード領域の各々においてN末端的に複数のクローニングサイトを持つpIIIとpVIIの双方をコードする遺伝子を持つファージゲノムベクター(Ff)を含む必要がある。代替的には,キットは,捕捉及び/又は検出に適した短鎖のペプチドをコードするpVIIにおいてN末端的に挿入配列を持つとともに,pIIIにおいてN末端的に多重化したクローニングサイトを持つファージゲノムベクターを含んでいる必要がある。このキットは,ファージクローンの感染,発現,固定,選択,及び検出に用いるプロトコルで補完される必要がある。また,このキットは,特定の試験を実行するためのバッファ用及びメディア用の必要なレシピが付属している必要がある。
【0112】
本発明の第11の側面は,以下のステップを含む方法である。
【0113】
a. 二重特異性を持つファージディスプレイライブラリーを提供するステップであって,該ファージが,第1の位置でディスプレイされるペプチドと,第2の位置にある親和性タグとを含む,ステップ
【0114】
b.ターゲットに対して上記ファージディスプレイのライブラリーを選択するステップ
【0115】
c. 上記親和性タグの捕捉群に対して上記ファージディスプレイのライブラリーを固定するステップ
【実施例】
【0116】
以下,本発明を,非限定的な実施例を用いてさらに詳細に説明する。
【0117】
実施例1 pVIIに結合するペプチドを持つ改変後のヘルパーファージ
FLAG−pVII,HIS6−pVII,及びAviTag(登録商標)−pVIIを持つ,改変後のヘルパーファージM13K07(配列ID番号31)とVCSM13(配列ID番号32)は,ファージディスプレイ技術の利用の拡大に適した非常に広い可能性を示すものであるが,結合タンパク質がヘルパーファージの機能性を危うくしないことが非常に重要であり,そのため,ファージの滴定量は,重要な検証パラメーターとなる。さらに,pVIIに結合するペプチドは,後続の検出及び/又は固定に利用しやすいものでなければならない。この実施例では,pVII修飾のヘルパーファージが検出目的及び/又は固定目的用のペプチドの多様性をかくまうことが可能であること,並びに,それらの結合タンパク質がファージの伝染性に影響を与えないという事実が支持される。
【0118】
EndemannとModelによる初期の結果(PMID:7616570)では,フィラメント状のファージ(Ff)のキャプシドタンパク質pVIIが外来結合に耐えられないことを示していた一方,その後,ファージミドをベースとしたペプチド(Gaoら,(PMID:10339535))や,ファージゲノムをベースとしたペプチド(Kwasnikowskiら,(PMID:16277988)),さらには,折り畳まれたドメインディスプレイが,pVIIへのN末端結合を許容することが示されている。いずれの場合でも,原核生物のシグナル配列又はリーダーペプチドを結合の過度のN末端へと付加することによって,結合タンパク質のペリプラズムターゲッティング,ひいては,大腸菌宿主のSEC経路への結合をターゲッティングすることを必要とすることが成功の鍵であるということが強調される。
【0119】
生産的なpVIIディスプレイは,組み換え型pVIIをペリプラズムの区画に運搬することを確保するN末端リーダーペプチドをかくまうファージミド上でコードされたN末端結合のコンテキスト内で既に示されている(Endemanら,1995年;Gaoら,1999年)。
【0120】
しかし,ビリオンに組み込まれる前では,野生型pVIIが,N末端がプリプラズム空間に面するグラム陰性の大腸菌宿主の内膜内で不可欠な膜タンパク質として見いだされることが知られている。また,この膜が結合した,成熟した野生型pVIIがそのアミノ末端のホルミル基を保持する(Simonsら,PMID:6945579)が,細胞質の区画の外側で見いだされる,シグナル配列で方向付けられたタンパク質の非常に多くにおいて,例えば,ペリプラズムのリーダーペプチダーゼによってN末端的に処理されるようには考えられない(Baneyx及びMujacic,PMID:15529165)。明確なシグナル配列状のモチーフがpVIIのORF内で同定されることはないので,その細胞質ゾルからペリプラズムへの転座モードは分かりにくいままであるが,おそらく,4種類の主要な分泌機構,すなわち,SEC経路,SRP経路,Tat経路,及びYidC経路を伴わないということである(Baneyx及びMujacic,PMID:15529165;Samuelsonら,PMID:10949305)。フィラメント状のファージのビリオンの構造を図1に示す。
【0121】
試薬
Sambrookら(Molecular cloning: a laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press))で説明されているように,基本的なメディアやバッファの全てを用意した。アンチM13−HRP抗体,並びに,M2抗体及びM5抗体は,それぞれ,GE Healthcare Bio−Sciences AB(スウェーデン,Uppsala),及びSigma−Aldrich(ノルウェー,オスロ)から購入した。制限酵素(RE)は,DpnIを除いて,New England Biolabs
(米国,MA州,Ipswich)から購入し,DpnIについては,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から入手した。DNAオリゴは,MWG Biotech AG(ドイツ,Ebersberg)から購入した。ダイナビーズMyOne(登録商標)(ストレプトアビジン磁気ビーズ)と,Talon(登録商標)のNi−NTA磁気ビーズは,いずれも,Invitrogen(ノルウェー,オスロ)ら購入した。BSAとTween20は,Sigma−Aldrich
(ノルウェー,オスロ)から購入した。PfuウルトラDNAと,Phusion DNAポリメラーゼは,それぞれ,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)及びSigma−Aldrich(ノルウェー,オスロ)から購入した。水溶性TMBは,Chalbiochemのものであった。
【0122】
細菌株,ファージ
大腸菌株XL1−Blueは,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から購入した。M13K07ヘルパーファージは,GE Healthcare Bio−Sciences AB(スウェーデン,Uppsala)から購入し,また,VCSM13(配列ID番号32)は,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から購入した。
【0123】
AviTag(登録商標)−pVII,HIS6−pVII及びFLAG−pVIIの設計と,インビトロでの突然変異生成
【0124】
AviTag(登録商標)(N−MSGLNDIFEAQKIEWHE−C)の読み取り枠(ORF)を,GCUAサーバー(http://gcua.schoedl.de/seqoverall.html)を用いて,大腸菌K12株内でコドン利用した場合と比較した。原核生物のコドンを最適化したバージョンであるAviTag(登録商標)のペプチド配列(配列ID番号4)を,製造者のプロトコル(Stratagen,米国,CA州,LaJolla)にしたがって,QuikChange(登録商標)によるインビトロでの突然変異生成によって,プライマー対であるBirA−pVII_frwd/BirA−pVII_rev(5’−CCGGCTAAGTAACATGTCCGGCCTGAACGATATCTTTGAAGCGCAGAAAATTGAATGGCATGAAATGGAGCAGGTC−‘3/5’−GACCTGCTCCATTTCATGCCATTCAATTTTCTGCGCTTCAAAGATATCGTTCAGGCCGGACATGTTACTTAGCCGG−3’)(それぞれ,配列ID番号5と配列ID番号6に相当する。)を用いて,pVIIのORFのN末端に取り付けた。上述した方法と同じ方法で,大腸菌K12のコドンを最適化したバージョンであるFLAGタグ(N−DYKDDDDK−C)(配列ID番号9)と,HIS6タグ(N−HHHHHH−C)(配列ID番号12)とを,プライマー対であるFLAG−pVII−frwd/ FLAG−pVII−rev(5’−
CCGGCTAAGTAACATGGACTACAAAGATGACGATGACAAAATGGAGCAGGTCG−3’/5’−CGACCTGCTCCATTTTGTCATCGTCATCTTTGTAGTCCATGTTACTTAGCCGG−3’)(それぞれ,配列ID番号7と配列ID番号8に相当する。)と,HIS6−pVII−frwd/ HIS6−pVII−rev(5’−CCGGCTAAGTAACATGCATCACCATCACCATCACATGGAGCAGGTCG−3’/5’−CGACCTGCTCCATGTGATGGTGATGGTGATGCATGTTACTTAGCCGG−3’)(それぞれ,配列ID番号10と配列ID番号11に相当する。)とをそれぞれ用いて,pVIIのORFのN末端に取り付けた。様々な構造体について,あらゆる場合で,DNAシークエンス(組織内でのABI lab DNA sequencing core facility,Dept. Molecular Biosciences,University of Oslo)によって検証した。無菌のベクターバックグラウンドを確保するために,改変後のpVIIを含むBsrGI/SnaBIのREフラグメントを,標準技術を用いて適合REサイト上でM13K07野生型ゲノム又はVCSM13野生型ゲノムのいずれかに移動させた。電気穿孔法を用いて,DNA構造体を様々な大腸菌宿主に導入した。プライマーの設計は,ClustalWを用いて,M13K07(New England Biolabs sequence)(配列ID番号31)の配列とVCSM13(GenBank登録番号AY598820)(配列ID番号32)の配列の配列アライメントをベースとした。改変後のAviTag(登録商標)配列,HIS6配列,及びFLAG配列の配列を図2に示す。
【0125】
ファージ粒子の調製
基本的には上述したようにして(Scott及びSmith,PMID:1696028),M13K07(配列ID番号31)構造体,VCSM13(配列ID番号32)構造体を用いて形質転換した大腸菌XL1−Blueからファージを展開した。
【0126】
ビオチン化ビリオンによるSAビーズの捕捉
【0127】
1チューブ当たり10μlのストレプトアビジンビーズを,未使用の1.5mlチューブに入れ,PBS(w/v)内で500μlの2%BSAを添加した。同様に,ファージを浮遊物がない状態で250μl,又は適量を,1.5mlチューブに入れ,その後,250μlの2%BSAを追加した。そして,チューブを,回転ホイール上で,1時間の間,室温(RT)で培養した。その後,ダイナル(Dynal)チューブ磁石ラックを用いてビーズを第1に固定することを3回行うことで,ビーズを洗浄した。浮遊物を処理した後,Tween20を0.05%含むPBS(PBST)を0.5ml各チューブに入れた。チューブをラックから取り出して簡単にボルテックスした後,ラックに再度戻した。浮遊物を再度浄化するとともに,2回にわたって洗浄した。チューブをラックから取り外して,250μlの阻害ファージと,250μlのPBSTを各チューブに添加した。その後,チューブを回転ホイール上で1.5時間/室温下で培養した。チューブを上述したようにPBST内で3回にわたって洗浄した。その後,アンチM13 MAb−HRPを含むPBST(PBST:アンチM13 MAb−HRP=1:2000)を0.5mlずつ各チューブに添加して,チューブを回転ホイール上で1時間/室温下で培養した。チューブを上述したようにPBST内で3回にわたって洗浄した。その後,ABTSを0.5mlずつ各チューブに添加して,チューブを30分間作業台上に静置した後,磁石ラックに載置して,100μlの浮遊物をMaxisorpの酵素免疫測定(ELISA)用ストラップ(デンマーク,Roskilde,Nunc)に移動させた。その後,のELISA読み取り機を用いて吸光度をA405nmで測定した。
【0128】
ファージ捕捉用の酵素をリンクした免疫吸収剤による試験(ELISA)
【0129】
M2抗体及びM5抗体を,PBS中2.5μg/mlから5μg/mlまでの濃度で,pH7.4で,かつ4℃で終夜にわたって,MaxiSorp(登録商標)のマイクロタイタープレートウェル(デンマーク,Roskilde,Nunc)に吸収させた。ウェル(well)は,PBS中2%(w/v)のスキムミルク(脱脂粉乳)で,室温下で1時間にわたって阻害された。その後,添加されて,1〜2時間にわたって室温下での反応が許容されるビリオン調合液を,捕捉されるビリオンがアンチM13−HRP(1:5000)で検出されるまで室温下で1時間にわたって行った。各ステップ間で,ウェルをPBSTで3回洗浄した。ウェルは,ABST基質で展開され,30分後に吸光度をA405nmで読み取った。
【0130】
結果
A ヘルパーファージの滴定量
2つのYT各16mlを未使用のXL1−Blue培養液を用いて植菌し,37℃/250rpmで吸光度A405nmが0.4〜0.8となるまで培養した。希釈したファージ調合液各10μlを96ウェルのマイクロタイタープレートに移動させた。190μlのXL1−Blue培養液を,ファージ希釈剤を用いて各ウェルに移動させた。プレートを,50分間/37℃で培養した。BA82/20膜をLB−kan寒天皿の上にかぶせ,1つのサンプル当たり3μlの体積を膜上に滴下して,皿を37℃/ONで培養した。コロニーの数を数えた(図3)。
【0131】
B 挿入したペプチドAviTag(登録商標)の利用可能性及び機能性
【0132】
BirA酵素は,アセチル−CoAカルボキシラーゼであって,あらゆる大腸菌内において見いだされる。ファージのコンテキスト内においてそのような細胞にAviTag(登録商標)を導入した場合,内在するBirAによるターゲットのビオチン化のレベルが低い(〜7%)という結果となることが確かに示されている(Sholleら,PMID:16628754)。N末端のpVII改変が,ビリオンが集合してBirAに対する酵素の基質として機能するという点に関して実際に機能的であるかどうかを試験するために,我々は,結果的に生じるビリオンを,SAでコートした磁気ビーズを用いて未処理の不純物から捕捉可能であるかどうかを試験した。
【0133】
ダイナルストレプトアビジンビーズによるM13K07−AviTag(登録商標)pVIIの捕捉。以下2種類のファージを試験に用いた。宿主と野生型M13K07に由来する,内在BirAを用いてインビボでビオチン化したM13K07−AviTag(登録商標)。その結果は,特定のSAを捕捉する一方で,M13K07(配列ID番号31)が結合しないということを明らかに示すものであった。したがって,AviTag(登録商標)−pVII結合は,野生型ビリオンとしてビリオンに適合するとともに,一方でN末端のAviTag(登録商標)がBirA酵素に到達可能であり,かつ,ビオチン化に適した基質として認められる,という意味で実際に機能的でなければならない(図4)。
【0134】
FLAGタグ
酵素免疫測定(ELISA)試験を実施すると,2種類のアンチFLAG抗体M2及びM5によるファージの捕捉によって,M13K07(配列ID番号31)内でのpVII結合としてFLAGタグの可触性が示される。試験結果には,野生型M13K07,M13K07−His,及びM13K07−AviTag(登録商標)が含まれている(図5)。
【0135】
HISタグ
M13K07−HIS6とVCSM13−HIS6の双方について,ダイナルタロンビーズ(DynalTalon Beads)(IMAC matrix)に対する特定の結合を試験した。
簡単には,Talonビーズは,2%BSAを用いた30分間の回転培養によって阻害された。ビーズを,洗浄した後,ビーズに対してBSAを阻害するファージ浮遊物に一致する250μlの滴下量(これは,2×1010cfukanR/mlに相当する。)を添加し,さらに,ビーズを回転ホイール上で,30分間/室温下で培養した。PBST中のビーズを洗浄した後,アンチM13MAb−HRP(希釈後で1:2000)を各チューブに添加し,チューブをさらに,回転ホイール上で,45分間/室温下で培養した。洗浄後,ABTSを各チューブに添加して,15分間室温下で培養し,その後,磁石ラックに載置した。体積で100μlの各溶液を,MaxisorのELISAストラップに移動させた。TECANのELISA読み取り機を用いて,吸光度をA405nmで測定した。その結果は,HIS6−pVIIを含むビリオンがNi−NTA磁気ビーズに対して選択的に結合することを確実に示している。試験の最適化によって克服可能であるシグナルが低いにも関わらず,コグネートビリオンのNi−NTAマトリクスに対する異なる結合が確かに存在する。この特別なpVII結合の最も魅力的な用途は,例えばスピンコラムと組み合わせたNi−NTA精製に関してそれを引き出すという将来性にあるだけでなく,サイト特異性にあり,それによって,相同性があるとともに方向性のあるNi−NTAマトリクスの固定にある(図6)。
【0136】
実施例2 ファージミドのパッケージング内での改変後のヘルパーファージの機能性
【0137】
本発明では,改変後のヘルパーファージを,pVIIよりも,好ましくはpIIIやpVIIIにおいて,ファージのコートタンパク質上で折り畳まれたドメインをディスプレイするファージミドの機能的なパッキングを行うために使用することが約束される。以下の実施例では,pVIIに結合した互いに異なるペプチドを持つ改変後のヘルパーファージがファージミドの機能的なパッキングを実現可能であること,並びに,それらファージミドが,機能的なpVIIペプチド結合だけでなく,pIIIコートタンパク質に結合した機能的な折り畳みドメインの双方をディスプレイすることが支持される。このようにして,本実施例は,ファージミドを利用することで二重特異性を持つディスプレイにも役立つこととなる。
【0138】
試薬
Sambrookら(Molecular cloning:a laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press))で説明されているように,基本的なメディアやバッファの全てを用意した。アンチM13−HRP抗体,並びに,M2抗体及びM5抗体は,それぞれ,GE Healthcare Bio−Sciences AB(スウェーデン,Uppsala),及びSigma−Aldrich(ノルウェー,オスロ)から購入した。また,F23.2抗体とGB113抗体は,B.Bogen教授(Institute of Immunology,ノルウェー,オスロ)からの親切な贈呈物である。ダイナビーズMyOne(登録商標)(ストレプトアビジン磁気ビーズ)は,Invitrogen(ノルウェー,オスロ)ら購入した。BSAとTween20は,Sigma−Aldrich(ノルウェー,オスロ)から購入した。BSAに接合するハプテン2−フェニルオキサゾール−5−オン(phOx)は,他の文献(Makelaら,PMID:722243)でも説明されているように基本的には購入した。
【0139】
細菌株,ファージ,及びファージミド
大腸菌株XL1−Blueは,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から購入した。M13K07ヘルパーファージは,GE Healthcare Bio−Sciences AB(スウェーデン,Uppsala)から購入した。pSEX81(配列ID番号29),ウシ血清アルブミン(BSA)に結合された2−フェニルオキサゾール−5−オン(phOx)選択性を持つscFvをかくまうファージミドは,Affitech AS(ノルウェー,オスロ)から親切にも提供を受けたものである。pFKPDN−scTCR Vαβ4B2A1(配列ID番号28)は,Losetらの文献(2007年,PMID:17925331)において記述されている。
【0140】
ファージ粒子の調製
M13K07ヘルパーファージとビリオンアッセンブリーを使用することによる大腸菌XL1−Blueからのファージミドレスキューを,Welschofらの文献(PMID:9050877)やKochらの文献(PMID:11126120)に記載されているような滴下滴定によってモニターした。
【0141】
ファージ捕捉用の酵素をリンクした免疫吸収剤による試験(ELISA)
MAb M2,M5,F23.2,GB113,phOx−BSAを,PBS中2.5μg/mlから5μg/mlまでの濃度で,pH7.4で,かつ4℃で終夜にわたって,MaxiSorp(登録商標)のマイクロタイタープレートウェル(デンマーク,Roskilde, Nunc)に吸収させた。ウェル(well)は,PBS中2%(w/v)のスキムミルク(脱脂粉乳)又はPBS中2%(w/v)のBSAで,室温下で1時間にわたって阻害された。その後,添加されて,1〜2時間にわたって室温下での反応が許容されるビリオン調合液を,捕捉されるビリオンがアンチM13−HRP(1:5000)で検出されるまで室温下で1時間にわたって行った。各ステップ間で,ウェルをPBSTで3回洗浄した。ウェルは,ABST基質で展開され,30分後に吸光度をA405nmで読み取った。
【0142】
結果
A ヘルパーファージの滴定量
互いに異なる折り畳みドメインを持つ2種類のファージミドとして,それぞれ,scTCRとscFvをpIII結合としてディスプレイする,pFKPDNscTCR Vαβ4B2A1と,pSEX−scFv anti−phOxとを採用した。双方を,3種類の修飾が施された野生型M13K07ヘルパーファージを用いてパッケージングした。簡略的には,2種類のファージミドクローンの終夜にわたる培養物を,修飾が施された野生型ヘルパーファージで感染させた。培養後,培養物を遠心分離して,細菌のペレットを,YTメディア内でアンピシリンとカナマイシンとを用いて再懸濁させ,さらに,30℃でオンとして培養を行った。大腸菌XL−1Blueをファージ希釈液で感染させて,それぞれ,アンピシリンプレート上及びカナマイシンプレート上に載置し,ファージミド及びヘルパーファージの滴定を行った(図7)。
【0143】
パッケージングされたファージミドの双方は,高い比率を示すことが分かり,このことは,3種類の修飾が施されたM13K07ヘルパーファージフォーマットによって,成功的でかつ機能的なパッケージングを示している。
【0144】
B ファージミドpIIIディスプレイ内におけるヘルパーファージによって提供されたpVIIの機能性
【0145】
pVII−AviTag(登録商標)ディスプレイ:AviTag(登録商標)−pVIIの機能に関して,ビーズ上でのSA捕捉を,基本的には実施例1で説明したのと同様に行った。シグナルは低かったが,ビリオンを含むAviTag(登録商標)−pVIIの特異的な異なる捕捉が確かに確認された(図8)。陽性コントロール(挿入図)と比較すると,AviTag(登録商標)−pVII結合をかくまった場合において,ファージミドビリオンに関するビオチン化のレベルがM13K07ビリオンに関するものよりも低いことが明らかである。しかし,内在するAviTag(登録商標)のファージのコンテキスト内におけるビオチン化は,37℃では,7%までの範囲内に過ぎない(Scolleら,PMID:16628754)。M13K07−AviTag(登録商標)は37℃で確かにパッケージングされるが,ファージミドレスキューは,たったの30℃でなされる。このことは,観測される差異が,温度が低いほど,内在するBirAのsee当たり(per see)の活性が低いことに起因しているということを強く示唆している。したがって,将来的な利用としては,この特徴を引き出すために,ビリオンのビオチン化効率を高くしなければならない。このことは,ビリオンのインビトロでのビオチン化によって都合よく実現することができ,それにより,標準技術を利用してビオチン化を100%に近くするべきである(Scolleら,PMID:16628754)。それに代えて,BirA酵素を過剰に発現させることで,インビボでビオチン化を行うことも可能である。大腸菌の超形質転換によって,ファージミドゲノムベクターやファージゲノムベクターが同一の細胞内に存在するようなことが標準のプラスミドによってビリオンへとパッケージングされて,その結果,遺伝子型−表現型のつながりを失う可能性があることが知られている。このことは,BirAがプラスミドから過剰に発現した場合にあり得るものである。単一のクローンを評価する上では,上記のことは認容可能であるかもしれないが,この手法を連結可能なレパートリーと組み合わせる場合には,パンニング間で回復する表現型の変異株を失うことにつながる可能性があるので認容可能ではない。それに代えて,大腸菌MC1061由来のAVB100の株(Avidity,米国,CO州)で提供可能な染色体の組み換えによって,BirAを過剰に発現させることが可能である。ただし,その株は,プラスミドシステムに不可欠なF線毛構造をコードするFプラスミドが欠損している。しかし,AVB100は,ヘルパーファージの補完の必要がないファージゲノムベクターに直接的に適合可能である。そこで,我々は,AVB100株を,修飾が施されたM13K07ヘルパーファージと組み合わせてファージミドベースの適切なファージディスプレイに採用するために,標準接合によって,AVB100をXL1−Blueとを交配させた(実施例5)。
【0146】
pVII−FLAGディスプレイ
ELISA試験を実施することで,pVII結合としてのFLAGタグの可触性が,2種類の互いに異なるファージミド由来のビリオンについて示された。図9Aは,pFKPDNscTCR Vαβ4B2A1に関するものであり,2種類のアンチFLAG抗体M2とM5によってファージミドビリオンを捕捉することで得られたものである。図9Bは,pSEX−scFvアンチphOxに関して同様にして得られたものである。簡略的に説明すると,抗体を,4℃でオンの状態で,ELISAプレート上でコートした。プレートを洗浄した後,ファージミド調合液をプレート上で2時間にわたって室温下で培養した。プレートを洗浄後,さらに,アンチM13 HRPを組み込んだ抗体で培養した。プレートの洗浄,水溶性ABTSの添加,室温下/30分間での培養を経てシグナルが展開された(図9)。
【0147】
M13K07−FLAGでパッケージングされたファージミド由来のビリオンに関しては反応性にFlAG特異性があるが分かる一方で,他のサンプルの全てにおいては否定的であった。すなわち,パッケージングされたファージミド由来のビリオンは,FLAGタグをpVII結合の機能性としてディスプレイする。
【0148】
A.pIIIファージミドディスプレイの機能性
2種類の互いに異なるファージミド由来のビリオンとしてのpFKPDNscTCR Vαβ4B2A1,及びpSEX−scFvアンチphOxの双方は,AviTag(登録商標)をディスプレイするものであり(図10),FLAGタグをディスプレイするものであり(図11),さらに,HIS6タグをディスプレイするものであり(図11),これらは,それぞれ,scTCR及びscFvとpIIIとの結合の機能的なディスプレイを試験したものである。
【0149】
特定のターゲットによるファージミドビリオンを捕捉することにより,ELISA試験を実施した。ターゲットは,scTCRに結合するMAb GB113と,scFvアンチphOx(配列ID番号26)に対するphOx−BSAである。BSAを阻害物として用いるとともに,野生型M13K07でレスキューされたファージミドをコントロールとして用いた。簡略的に説明すると,ターゲットをELISAプレート上で,4℃オンの状態でコートした。そのプレートを洗浄した後,ファージミド調合液をプレート上で2時間にわたって室温下で培養した。プレートを洗浄し,さらに,アンチM13 HRP組み込み抗体で培養した。シグナルがABTSとともに展開し,室温下/30分間培養し,その後,吸光度をA405nmで測定した(図10及び図11)。
【0150】
結果から分かることは,パッケージングされたファージミドの全てにおいてコグネートAg反応性があるということである。つまり,この分析によって,改変後のヘルパーファージがpIIIディスプレイに影響を与えるものではなく,完全に同一のビリオン上でpVIIタンパク質に所定の表現型を与えるに過ぎない,ということが裏付けられる。
【0151】
実施例3 pIII及びpVII上でのゲノムのファージディスプレイ
本発明は,pVIIタンパク質上でのディスプレイの性質を用いてゲノムのファージベクターの産生を許容するものである。そのようなディスプレイは,ビリオンの伝染性に影響を与えるものではない。さらに,本発明は,二重特異性を持つディスプレイをpVII及びpIII/pVIII上で,又は,3種類全てのコートタンパク質上でいっせいに促進させるものである。以下の実施例は,繁殖,ビリオンアッセンブリー,ビリオン集積,pIIIディスプレイの表現型に関して,構造体が完全に野生型ファージのように振る舞うこと,並びに,pVIIペプチド結合でインビボでのビオチン化が選択的に確実に行われることを示すものである。
【0152】
試薬
Sambrookら(Molecular cloning: a
laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press))で説明されているように,基本的なメディアやバッファの全てを用意した。アンチM13−HRP抗体は,GE Healthcare Bio−Sciences AB(スウェーデン,Uppsala)から購入した。また,F23.2抗体とGB113抗体は,B.Bogen教授(Institute of Immunology,ノルウェー,オスロ)からの親切な贈呈物である。制限酵素(RE)は,DpnIを除いて,New England Biolabs(米国,MA州,Ipswich)から購入し,DpnIについては,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から入手した。DNAオリゴは,MWG Biotech AG(ドイツ,Ebersberg)から購入した。ダイナビーズMyOne(登録商標)(ストレプトアビジン磁気ビーズ)は,Invitrogen(ノルウェー,オスロ)ら購入した。dm5CTPは,Fermentas(カナダ,バーリントン)からのものを用いた。BSAとTween20は,Sigma−Aldrich(ノルウェー,オスロ)から購入した。PfuターボDNAポリメラーゼとPhusionDNAポリメラーゼは,それぞれ,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)及びSigma−Aldrich(ノルウェー,オスロ)から購入した。QIAquick PCRクリーンアップキットは,Qiagen(ドイツ,Qiagen,Hilden)からのものを使用した。
【0153】
細菌株,ファージ,及びファージミド
大腸菌株XL1−Blueは,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から購入した。また,大腸菌株MC1061及びK91Kは,G.P.Smith博士(Division of Biological Sciences, University of Missouri,米国)からの親切な贈呈物である。pSEX81(配列ID番号29),ウシ血清アルブミン(BSA)に結合された2−フェニルオキサゾール−5−オン(phOx)選択性を持つscFvをかくまうファージミドは,Affitech AS(ノルウェー,オスロ)から親切にも提供を受けたものである。fUSE−scTCR Vαβ4B2A1 pIIIディスプレイベクターは,Losetらの文献(2007年,PMID:17925331)において記述されている。
【0154】
AviTag(登録商標)−pVIIの設計と,インビトロでの突然変異生成
AviTag(登録商標)(N−MSGLNDIFEAQKIEWHE−C)の読み取り枠(ORF)を,GCUAサーバー(http://gcua.schoedl.de/seqoverall.html)を用いて,大腸菌K12株内でコドン利用した場合と比較した。原核生物のコドンを最適化したバージョンであるAviTag(登録商標)のペプチド配列を,製造者のプロトコル(Stratagen,米国,CA州,LaJolla)にしたがって,QuikChange(登録商標)によるインビトロでの突然変異生成によって,プライマー対であるBirA−pVII_frwd/BirA−pVII_rev(5’−CCGGCTAAGTAACATGTCCGGCCTGAACGATATCTTTGAAGCGCAGAAAATTGAATGGCATGAAATGGAGCAGGTC−‘3/5’−GACCTGCTCCATTTCATGCCATTCAATTTTCTGCGCTTCAAAGATATCGTTCAGGCCGGACATGTTACTTAGCCGG−3’)(それぞれ,配列ID番号5と配列ID番号6に相当する。)を用いて,pVIIのORFのN末端に取り付けた。無菌のベクターバックグラウンドを確保するために,改変後のpVIIを含むBsrGI/SnaBIのREフラグメントを,標準技術を用いて適合REサイト上で,修飾が施されていないfUSE5−scTCR Vαβ4B2A1ゲノムへとクローン化した。電気穿孔法を用いて,DNA構造体を大腸菌MC1061に導入した。プライマーの設計は,公開されているfUSE5の配列(GenBank登録番号AF218364)(配列ID番号30)をベースとした。
【0155】
新規なゲノムのpVIIディスプレイベクターpGVII及びpGVIIΔLの構造体
【0156】
プライマーの設計とベクターアッセンブリーは,基本的には,SeamLessプロトコル(Stratagene,米国,CA州,LaJolla)で記述されているように実行した。VCSM13ゲノムDNA(配列ID番号32)をテンプレートとして用いるとともに,プライマー対であるVCSM13_F/VCSM13_R(5’−ATCTCTTCCATGGAGCAGGTCGCGGATTTCGACACAATTTATCAGG−3’/5’−ATCTCTTCCATGTTACTTAGCCGGAACGAGGCGCAGAC−3’)(それぞれ,配列ID番号19と配列ID番号20に相当する。)を用いて,SeamLessプロトコル(Stratagene,米国,CA州,LaJolla)で記述されているように,Pfuターボポリメラーゼで完全なゲノムをPCR増幅した。同様に,pSEX81ΔL(実施例4で後述する)と,pSEX(配列ID番号29)は,いずれも,scFvアンチphOx(配列ID番号26)ユニットをかくまうものであるが,これらを,PhusionDNAポリメラーゼ(Sigma,ノルウェー,オスロ)をそれぞれ,プライマー対であるpGALDL_F/pGAL_R(5’−TCTCTTCACATGGCCCAGGTGCAGCTGGTGCAG−3’/5’−ATCTCTTCCCATTCTGATATCTTTGGATCCAGCGGCCGCAC−3’)(それぞれ,配列ID番号22と配列ID番号23に相当する。)及びプライマー対であるpGAL_F/pGAL_R(5’−ATCTCTTCACATGAAATACCTATTGCCTACGGCAGCCGCTGGC−3’/5’−ATCTCTTCCCATTCTGATATCTTTGGATCCAGCGGCCGCAC−3’)(それぞれ,配列ID番号21と配列ID番号23に相当する。)とともに用いながら,標準PCRにおけるテンプレートとして用いて,scFvユニットを増幅させた。PCRに続いて,3種類全てのセグメントを,PCRクリーンアップキット(Qiagen,ドイツ,Qiagen,Hilden)とEarIで温浸したREとを用いて精製した。その後,RE温浸後のゲルゲル精製セグメントを結合して,標準技術を用いてXL1−Blueへと電気穿孔処理した。コロニーを拡大させて,挿入サイズが正しいことを,プライマー対であるpVII_frwd/pVII_rev(5’−AGCAGCTTTGTTACGTTGATTTGG−3’/5’−GCAGCGAAAGACAGCATCG−3’)(それぞれ,配列ID番号24と配列ID番号25に相当する。)を用いながら標準PCRでのPCRスクリーニングによって,検証した。ゲノムのpVIIディスプレイベクターは,pGVII(これは,シグナル配列依存のscFv−pVIIディスプレイを持つ)と,pGVIIΔL(これは,シグナル配列を持たないscFv−pVIIディスプレイを持つ)を示した。これらは,このとき,scFvのORFを,pVIIに対するイン・フレーム型の結合N末端として含み,その開始コドンの位置が,通常の転写や翻訳に重要なpVのORFの上流に対して正しい位置にあることが維持されている。特に,これらファージゲノムベクターのアッセンブリーを,3段階のPCRアッセンブリーであって,外来ORFが,ベクターバックボーンと相補的な5’プライマータグ突出部で増幅されたPCRであるアッセンブリーで容易に構成可能であり,これにより,挿入サイトをカバーするベクターの5’部位と3’部位から増幅された相補的なセグメントとともにSOE(Splicing by Overlapped Extension)を行うPCRでスプライシングが可能となる。ファージゲノムの理想的な部位は,2つの固有なREサイトBsrGI/SnaBIを含むセグメントをカバーしている必要があり,それらサイトは,Ffゲノムの全てにおいて側面にあるpVIIのORFにある。そして,RE温浸後のSOE生成物は,例えば実施例1や実施例3で説明したように,RE温浸後のベクターの相補的なバックボーンに都合よく挿入可能である。利用しやすい他のアッセンブリー手段は,1つのポットでアニール処理して,結合し,さらに側面にあるプライマーで増幅されたPCRを行うことが可能な短鎖の重複オリゴヌクレオチドを全面的に用いて適切な結合ORFの人工的な遺伝子アッセンブリーを生成することである。このストラテジーは,SOE手法におけるものと同一のフラグメントを与えることが可能であるか,又は,ファージゲノムへの挿入が,例えば,Tillett及びNeilanの文献(PMID:10481038)で説明されているような組み換えに基づくことが可能なRE独立となり得る。また,複数の技術の組み合わせも容易に想定できる。
【0157】
ファージ粒子の調製
基本的にはScott及びSmithの文献(PMID:1696028)で説明されているようにして,fUSE5ファージを,大腸菌MC1061から増幅した。ビリオンアッセンブリーを,Scott及びSmithの文献(PMID:1696028)及びKochらの文献(PMID:11126120)に記載されているように滴下滴定によってモニターした。当てはまる場合には,Sambrookらの文献(Molecular cloning:a laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press)で説明されているように,PEG/NaClの滴下によってビリオンの精製と濃縮を行った。
【0158】
ファージ捕捉用の酵素をリンクした免疫吸収剤による試験(ELISA)
F23.2抗体及びGB113抗体を,PBS中2.5μg/mlから5μg/mlまでの濃度で,pH7.4で,かつ4℃で終夜にわたって,MaxiSorp(登録商標)のマイクロタイタープレートウェル(デンマーク,Roskilde,Nunc)に吸収させた。ウェル(well)は,PBS中2%(w/v)のスキムミルク(脱脂粉乳)で,室温下で1時間にわたって阻害された。その後,添加されて,1〜2時間にわたって室温下での反応が許容されるビリオン調合液を,捕捉されるビリオンがアンチM13−HRP(1:5000)で検出されるまで室温下で1時間にわたって行った。各ステップ間で,ウェルをPBSTで3回洗浄した。ウェルは,ABST基質で展開され,30分後に吸光度をA405nmで読み取った。
【0159】
A fUSE5−scTCR−AviTag(登録商標)ゲノムファージの滴定量
【0160】
野生型の,又はpVII改変後のfUSE5−scTCR Vαβ4B2A1バージョンはいずれも,任意の宿主毒性を呈することがない。ビリオン産生やPEG滴下効率に関して,pVII改変後のfUSE5−scTCR Vαβ4B2A1バージョン間には表現型の差異がない。pVII改変後のfUSE5−scTCR Vαβ4B2A1バージョンの双方は,fUSE5システムにふさわしい,理論的な滴下量の最大値に近い値をとる(図12)。
【0161】
B fUSE5−VII−AviTag(登録商標)結合ペプチドの機能性
【0162】
このELISA分析は,ゲノムのファージ調合液の機能性を試験するためのものであり,具体的には,ストレプトアビジンビーズでビリオンを捕捉し,続いて,アンチM13抗体で結合ファージを検出することで試験を行うためのものである。簡略的に説明すると,MyOneストレプトアビジンダイナビーズをBSAで阻害し,洗浄し,(scTCR/pVII−AviTag(登録商標))がある場合と,(scTCR/pVII)pVII−AviTag(登録商標)結合ペプチドがない場合について,滴定標準サンプルのfUSE5を用いて培養した。ビーズを洗浄するとともに,結合ファージをアンチM13−HRP組み込み抗体で検出した。ABTSの添加につれてシグナルが展開し,TECANのELISA読み取り機を用いて吸光度A405nmを測定した。その結果は,pVII−BirAペプチドが可触性であるとともに,ビオチン化されており,そのために,ファージゲノム由来のビリオンに対する固定・検出タグとして機能することを示している(図13)。
【0163】
C fUSE5−scTCR pIII結合の機能性
【0164】
このELISA分析は,ゲノムをコードするAviTag(登録商標)−pVIIがある場合とない場合における,ファージゲノム由来のビリオン調合液のpIII結合の機能性を試験するためのものである。2種類の互いに異なる抗体であって,それぞれ,scTCR Vαβ4B2A1と,MAB GB113及びF23.2を認識する抗体を用いてファージビリオンを捕捉することでELISA試験を実施した。スキムミルクをネガティブコントロールとして使用した。簡略的に説明すると,抗体をELISAプレート上で,オンの状態でかつ4℃でコートした。そのプレートを洗浄するとともに,ファージ滴定用の規定調合液をプレート上で2時間にわたって室温下で培養した。そのプレートを洗浄した後,さらに,アンチM13−HRP組み込み抗体で培養し,その後,100μlのABTSを添加して室温で培養した。20分後に,TECANのELISA読み取り機を用いて吸光度を,OD405nmで測定した。その結果は,2種類のfUSEバージョンの間ではscTCR表現型を区別することができないことを示している。したがって,どのような観点からも,pVII改変は,ファージの表現型には影響を与えるようには思われない(図14)。
【0165】
実施例4 pVII上でのファージミドディスプレイ
【0166】
試薬
Sambrookら(Molecular cloning:a laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press))で説明されているように,基本的なメディアやバッファの全てを用意した。アンチM13−HRP抗体は,GE Healthcare Bio−Sciences AB(スウェーデン,Uppsala)から購入した。GB113抗体は,B.Bogen教授(Institute of Immunology,ノルウェー,オスロ)からの親切な贈呈物である。制限酵素(RE)は,DpnIを除いて,New England Biolabs
(米国,MA州,Ipswich)から購入し,DpnIについては,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から入手した。DNAオリゴは,MWG Biotech AG(ドイツ,Ebersberg)から購入した。ダイナビーズMyOne(登録商標)(ストレプトアビジン磁気ビーズ)と,Talon(登録商標)のNi−NTA磁気ビーズは,いずれも,Invitrogen (ノルウェー,オスロ)ら購入した。BSAとTween20は,Sigma−Aldrich(ノルウェー,オスロ)から購入した。PfuターボDNAは,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から購入した。BSAに組み込まれるハプテン2−フェニルオキサゾール−5−オン(phOx)及び5−ニトロフェンアセチル(NIP)は,他の文献(Makelaら,PMID:722243;Michaelsenら,PMID:2125362)でも説明されているように基本的には調製した。イソプロピル−ベータ−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)は,Fermentas(カナダ,バーリントン)から購入した。
【0167】
細菌株,ファージ,及びファージミド
大腸菌株XL1−Blueは,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)から購入した。M13K07ヘルパーファージは,GE Healthcare Bio−Sciences AB(スウェーデン,Uppsala)から購入した。ウシ血清アルブミン(BSA)に結合された2−フェニルオキサゾール−5−オン(phOx)選択性を持つscFvをかくまう,pSEX81(配列ID番号29)ファージミドは,Affitech AS(ノルウェー,オスロ)から親切にも提供を受けたものである。pFKPDN−scTCR Vαβ4B2A1のpIIIディスプレイファージミドは,他の文献(Losetら,2007年,PMID:17925331)において記述されている。scFvアンチNIP(配列ID番号27)(未公開)をかくまう原核生物発現ベクターpSGIは,pHOG21(Kiprianovら,PMID:9005945)に基づいているとともに,pLNOH2及びpLNOK(Norderhaugら,PMID:9202712)に由来する抗体バリアブル遺伝子から社内的に製造されたものである。
【0168】
新規なpVIIディスプレイファージミドベクターpGALD7及びpGALD7ΔLの構造体
ベクターバックボーン用の開始テンプレートとして,上述したpSEX81(配列ID番号29)ファージミドを選択した(GenBank登録番号Y14584)。まず,このベクター内のストレッチ(strech)をコードする原核生物のpelBシグナル配列(N−MKYLLPTAAAGLLLLAAQPAMA−C)(配列ID番号33)を除去するために,QuickChange(登録商標)を利用して,プライマー対であるa41g−frwd/a41g−rev(5’−AGAGGAGAAATTAACCATGGAATACCTATTGCCTACGGC−3’/5−GCCGTAGGCAATAGGTATTCCATGGTTAATTTCTCCTCT−3’)(これらは,それぞれ,配列ID番号13,及び配列ID番号14に相当する。)を用いたインビトロでの突然変異生成で,NcoIのREサイトをN末端の極端に導入し,それにより,pelBのORFの第2コドン内にある第1のヌクレオチドを,AからGに変化させた。突然変異生成に続いて,ベクターをNcoI温浸し,再結合させ,その後,プライマー対であるpHOG_EcoRI_frwd/scTCR_rev(5’−TAGCTCACTCATTAGGCACCC−3’/5’−TTTGGATCCAGCGGCCGC−3’)(これらは,それぞれ,配列ID番号15,及び配列ID番号16に相当する。)を用いて,ベクターの関連部分を回復させる第2のPCRでのテンプレートとして用いた。その後,そのPCRのフラグメントを,標準技術を用いて,EcoRI/HindIIIのREサイト上で,原型のpSEX81(配列ID番号29)に移動させ,DNAシークエンシングで確認した。このステップにより,pelBシグナル配列をコードする部分を完全に除去したが,通常の転写と翻訳に重要であるだけでなく,原形のpSEX81(配列ID番号29)内に見られるNcoI/NotIのREサイトで定義される外来配列の前にたった1つのAla残渣を付加するのに重要なlacPO及びシャイン−ダルガノ配列(SD)のために開始コドンとその関連位置を維持した。その新しい構造体をpSEX81ΔLで示す。第2に,5’端部でREタグ化されたプライマー対であるpVII_EcoRV/ pVII_NheI(5’−ATATGATATCAGAATGGAGCAGGTCGCGGATTTCG−3’/5’−ATATGCTAGCTTATCATCTTTGACCCCCAGCGATTATACC−3’)(これらは,それぞれ,配列ID番号17,及び配列ID番号18に相当する。)を用いて,pVIIをコードする配列をM13K07から増幅した。その後,このPCRのフラグメントを,適合REサイト上で,pSEX81(配列ID番号29)ファージミドとpSEX81ΔLファージミドの双方に移動させ,これにより,双方においてpIIIをコードする領域を交換し,結果として,原型のpSEX81(配列ID番号29)内で,NcoI/NotIを定義するカセットのN末端イン・フレーム型pVII結合がもたらされた。これらの新しい構造体をDNAシークエンシングで確認して,それぞれ,pGALD7及びpGALD7ΔLとした。それぞれ,pFKPDN及びpSG1からのscTCR Vαβ4B2A1及びscFvアンチNIP(配列ID番号27)ユニットを用いて,上述したような様々なファージミド内でscFvアンチphOx(配列ID番号26)ユニットを切り替えるために,標準技術を用いて,NcoI/NotIのREサイトを定義するカセット交換を行った。本明細書で説明するファージミドの全てを,標準技術を用いた電気穿孔法で,大腸菌XL1−Blueに導入した。
【0169】
ファージ粒子の調製
M13K07ヘルパーファージとビリオンアッセンブリーを用いたXL1−Blueの大腸菌ファージミドレスキューを,上述したように滴下滴定でモニターした(Welschofら,PMID:9050877,及びKochら,PMID:11126120)。
【0170】
ファージ捕捉用の酵素をリンクした免疫吸収剤による試験(ELISA)
MAb GB113,phOx−BSA,又はNIP−BSAを,PBS中2.5μg/mlから5μg/mlまでの濃度で,pH7.4で,かつ4℃で終夜にわたって,MaxiSorp(登録商標)のマイクロタイタープレートウェル(デンマーク,Roskilde, Nunc)に吸収させた。ウェル(well)は,PBS中2%(w/v)のスキムミルク(脱脂粉乳)又はPBS中2%(w/v)のBSAで,室温下で1時間にわたって阻害された。その後,添加されて,1〜2時間にわたって室温下での反応が許容されるビリオン調合液を,捕捉されるビリオンがアンチM13−HRP(1:5000)で検出されるまで室温下で1時間にわたって行った。各ステップ間で,ウェルをPBSTで3回洗浄した。ウェルは,ABST基質で展開され,30分後に吸光度をA405nmで読み取った。
【0171】
結果
【0172】
上述したような改変後のヘルパーファージからの結果によって,折り畳まれたドメインのpVIIディスプレイも評価されることとなる。Gaoら及びKwasnikowskiらは,そのようなディスプレイは,シグナル配列を方向付けるペリプライマズムターゲッティングと組み合わせて利用される場合に許容されることを示してきたが,我々は,pGALD7及びpGALD7ΔLとした新規な2種類のファージミドを構築し,それらによって,そのようなシグナル配列を用いた場合も用いない場合でもN末端pVIIディスプレイを可能にする(図15)。
【0173】
初期構造体は,ヒトの抗体のバリアブルセグメントとハプテン共役型(conjucate)phOx−BSAに関する生物種とに基づいたscFvユニットを含んでいた。既に説明したpVII改変後のヘルパーファージに関して,scFvのpVIIディスプレイは,正常なビリオンアッセンブリーに干渉を与えない必要がある。そこで,我々は,これらのscFvアンチphOxのpVIIディスプレイファージミドのパフォーマンスの比較を,標準のファージミドレスキューと材料及び方法で説明したような滴定を利用して,シグナル配列を用いた場合及び用いない場合について行うとともに,標準のpIIIディスプレイについてもシグナル配列を用いた場合及び用いない場合について行った(図18)。
【0174】
滴定結果は,ファージミドを含むビリオンが全ての場合において生成されることを確かに示している。ただし,pVIIΔLファージミドは,標準のpIIIディスプレイに比べて,約30ホールド(fold)分少ない滴下量である一方,シグナル配列を方向付けたpVIIディスプレイでは,総計で105ホールド分の減少が認められた。このシステムにおけるヘルパーファージからpVIIの野生型相補性が認められるように,この結果は,意外なものであるとともに重要なものである。その理由は,シグナル配列を方向付けたpVIIディスプレイ(pVII)がビリオンアッセンブリー処理に深刻な干渉を与えるが,一方で,その効果は,シグナル配列がないpVIIディスプレイ(pVIIΔL)の場合,ほんのわずかである。相対的に,pIIIディスプレイについてシグナル配列を用いた場合と用いない場合とで,滴定量の差異はほんのわずかである。
【0175】
上述したように決定した滴定量に基づくと,phOx−BSA種のELISAにおいて滴定量を規定化した投入量の場合,これらビリオンサンプルに関するscFvディスプレイの機能性は,ファージミド滴定量として希釈されていないものを用いた場合のpGALD7由来のサンプルを除くと,非常に低いと評価された(図17)。
【0176】
上記結果は,機能性scFvは,シグナル配列なしのpVIIバージョンと標準pIIIの双方からディスプレイすることを明らかに示したものであり,一方で,他のサンプルでは否定的であった。シグナル配列を方向付けたpVIIディスプレイが否定的な結果を示したことは,ビリオン投下量が2000ホールド未満であることが原因であると考えられた。ここで,pIIIがSEC経路を介してペリプラズムに輸送されることが知られている。したがって,シグナル配列なしのpIIIバージョンは,ビリオン組み入れの必要条件であるペリプラズムターゲッティングの際にpIII結合不良となる。したがって,このサンプルからのビリオンは,ヘルパーファージ由来のpIII(物理的な表現型−ゲノム型のつながりの損失)のみを含むこととなる。ただし,ファージミドのパッケージング効率は,通常の場合に近く,結果として,通常の滴定量となる(図16から分かる通り)。シグナル配列なしのpVIIバージョンと標準pIIIディスプレイはいずれも,機能性ディスプレイが得られているが,pIIIの場合,抗原結合能力がより強い。このことは,pIIIバージョンの機能性がより高いことを必ずしも反映するものではなく,標準pIIIディスプレイが,親和効果を引き起こすscFvユニットの原子価1のディスプレイから原子価が少ないディスプレイまでの混合状態にあることは十分に論文化されている(Bradbury及びMarks,PMID:15261570)。そのような親和効果は,相互作用という実在する親和性をマスキングしており,優れた発現プロフィールのためにscFvユニットがしばしば好ましいけれども,例えば,ビリオン当たりのユニット数が少ないという意味で発現性が低いFabフォーマットが,親和性選択に対して非常に強いバインダーをもたらすということは,広く論文化されている(de Haardら,PMID:10373423,及びHoogenboom,PMID:16151404)。したがって,pGALD7ΔLからのシグナルが低い方がむしろ原子価1により近いscFvディスプレイを反映し,それにより,多くの用途があるという点で有利である。
【0177】
本明細書で採用されているファージミドの全てにおけるscFv−pVII/pIII発現カセットは,lacプロモーターで制御され,ビリオンのパッケージングは,標準プロトコルをIPTG誘導なしで用いてなされる(Welschofら,PMID:9050877)。したがって,パッケージング中にIPTGを用いて強制的により強い発現を起こすことで,scFvディスプレイを強めることが可能である。また,ファージミドファージディスプレイの重要な特徴は,機能性ディスプレイがヘルパーファージを介したファージミドのレスキューに依存しているという事実にある。したがって,ファージゲノムをベースとしたディスプレイとは対照的に,所定の細胞からビリオンへとパッケージングすることが可能な2種類のssDNAソースがあり,それらは,ファージミド,又はヘルパーファージゲノムである。重要なことは,双方のタイプのビリオンは,完全に同一の宿主細胞内で産生して見だされるので,キャプシドタンパク質の完全に同一のプール(pool)へのアクセスすることになる。したがって,組み合わせ可能なファージディスプレイ技術に対する基礎を形成する,物理的なゲノム型−表現型のつながりを維持することを確保するために,ファージミドに関してファージミドのヘルパーファージに対する比率が最も重要である。新たな実験では,同じファージミド由来のサンプルを上述したように調製するとともに,一方で,パッケージング中に含まれるIPTGを用いた場合と外した場合について比較対象となるビリオンアッセンブリーをも調製する。今回は,滴定中に,ヘルパーファージゲノム上で見られるカナマイシン抵抗力によるヘルパーファージゲノムの滴定量もマッピングする。
【0178】
今回の滴定結果(図18A)は,互いに異なるファージミドを標準条件で比較した場合,ファージミド滴定量に関して,前出のパッケージング(図16)と完全に同一の傾向を示しているが,今回のものは,pGALDΔL(pVIIΔL)及びpGALD(pVII)は,いずれも,滴定量がいくらか高くなっていた。pVIIをIPTG誘導すると,又はpIII発現に応じて,ファージミドの全てにおいて滴定量の減少が見られたが,その効果は,シグナル配列を方向付けたpVIIのpGALD7ファージミドに関するものが最も顕著である。ファージミドのヘルパーファージに対する比率をマッピングして(図18B),互いに異なるファージミドを標準条件下(IPTGの存在なし)で比較すると,全てのサンプルは,シグナル配列を方向付けたpVIIのpGALD7ファージミドを除くファージミドに関しては通常の範囲内の比率を示しており,一方で,シグナル配列を方向付けたpVIIのpGALD7ファージミドでは,表現型−ゲノム型のつながりが完全に喪失していることが示される。IPTG誘導を行った場合,pGALD7ファージミドに関しては,表現型−ゲノム型がカップリングしないことがさらに顕著であり,また,シグナル配列なしのpIII(pIIIΔL)は,上記特徴の程度が小さいこと(比率0.5)を示した。ただし,後者の構造体は,pIIIディスプレイに関して非機能的であるにも関わらず,コントロールとしてのみ含まれていた。
【0179】
そして,図18Aに示したファージミドの滴定量に基づくと,phOx−BSA特定ELISAにおいてpGALD7ΔL及びpGALD7の機能性scFvディスプレイが,規格化された滴定濃度の投下量を使用した場合,図17に示したものと同様であると評価された。
【0180】
上記結果は,機能性scFv−pVIIディスプレイが,シグナル配列なしのpGALD7ΔLとphOx−BSAの反応性がIPTGでpVII結合を強制的に発現させることで顕著に高められた状態で再び実現されたことを確かに示すものであった。この抗原反応性の増大は,ビリオン当たりのpVII結合数の増大だけでなく,see当たりのpVII結合をかくまうビリオンの数の増大をおそらく反映するものである。後者は,標準pIIIディスプレイにおいて,ファージミド含有ビリオンが1〜10%の間にあるときにのみ実際に結合を含むことが知られていること(Bradbury及びMarks,PMID:15261570)に対応すると思われる。一方で,シグナル配列を方向付けたpVIIディスプレイは,機能的なphOx−BSA結合を何ら示していない。図18Bに基づくと,IPTGを希釈していないサンプル内で観測された弱い抗原反応性が,pVII結合を低いレベルでかくまうヘルパーファージ含有ビリオンにあてがわれなければならない。
【0181】
今までのところ,機能性pVIIファージミドをベースとした,scFvアンチphOx(配列ID番号26)ユニットのディスプレイを明らかに示してきた。この構造体は,同じscFvのpIIIディスプレイに匹敵し,ファージミドの滴定量や抗原結合能力においてわずかな減少のみを示すものである。
【0182】
scFvアンチphOx(配列ID番号26)は,ヒトの抗体であるscFvライブラリーに対して選択性があり,大腸菌内の方が十分に発現することが知られている(Marksら,PMID:1748994)。pVIIディスプレイが,より挑戦的な結合パートナーの機能的なディスプレイに対して能力を発揮するかどうかを判断するために,我々は,抗体バリアブル遺伝子としてのネズミのハイブリドーマに基づいて,scFvアンチNIP(配列ID番号27)をサブクローン化するとともに,ネズミのT細胞クローンである4B2A1からのバリアブル遺伝子(Leastら,PMID:17925331)に基づいてscTCRをサブクローン化して,pGALD7ΔL及びpGALD7とした。多くのハイブリドーマバリアブル遺伝子が大腸菌内では又はファージディスプレイ時には十分に発現しないことがよく知られている(Krebberら,PMID:9032408)。また,T細胞受容体が,ファージディスプレイに適合させるのが特に困難であることが証明されている,折り畳みタンパク質に分類されることが知られている(Liら,PMID:15723046,及びLosetら,PMID:17925331)。
【0183】
これらの新しいファージミドからのビリオンは,標準ファージミドレスキューによって調製され,その抗原結合能力に関してELISA試験を行った(図20)。
【0184】
試験結果は,機能的なpVIIディスプレイが,scFvアンチNIP(配列ID番号27)を用いた場合とscTCR Vαβ4B2A1を用いた場合の双方で実現されたことを確実に示していた。また,scFvアンチ−phOx(配列ID番号26)を用いて予め観測したものとは対照的に,今回は,シグナル配列を方向付けたpVIIディスプレイを用いた場合と用いなかった場合に相当するものであった。図20で観測されているシグナルは,試験前にビリオンの滴定量を規格化しなかったので,直接的な比較対象とはならない。シグナル配列を方向付けたpVIIの,scFvアンチ−phOx(配列ID番号26)のディスプレイの完全に非機能的な性質の観点から,上記サンプルを滴定して,ファージミドのヘルパーファージに対する比率を決定した(図21)。
【0185】
ファージミドの滴定量は,シグナル配列なしのpVIIディスプレイ(pGALD7ΔL)が,シグナル配列を方向付けたpVIIディスプレイ(図21A)に比較して,優れたパフォーマンスを示すことを再び示した。このことは,scTCRとscFvアンチNIPの双方で確かに検証されたが,差異は,scFvアンチphOxで観測された滴定量の場合(図6及び図8参照)よりも明らかではなかった。ファージミドのヘルパーファージに対する比率を比較すると,scTCRの場合とscFvアンチNIP(配列ID番号27)の場合(図21B)の双方において,pGALD7ΔLが,ファージミドに関して,比率で,非常に優れたパフォーマンスを再度示していた。scFvアンチ−phOx(配列ID番号26)の場合から分かる,ゲノム型−表現型のつながりの顕著な損失は,scTCRとscFvアンチNIP(配列ID番号27)に関して,これらの比率(図18及び図21B)からは観測されなかった。しかし,pGALD7ΔLは,明らかに優れていた。
【0186】
上記結果を考慮すると,ビリオンのパッケージング中に宿主細胞の増殖に関して,scTCRとscFvアンチNIPの間に大幅に異なる差異があるという知見が顕著であった。
【0187】
図22から明らかであることは,pGALD7ΔL含有培養物が宿主細胞の増殖に関しては効果が小さい一方,pGALD7ΔLファージミドを含むクローンによって示される成長が顕著であるということである。このことは,シグナル配列を方向付けたpVIIディスプレイからの宿主毒性を強く示すものであり,一方で,シグナル配列を除去した後は直ちに,そのような毒性がないか又はほとんどない。
【0188】
実施例5 大腸菌株AVB100FmkIIの構造物
【0189】
試薬,及び細菌株
試薬
Sambrookら(Molecular cloning: a laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press))で説明されているように,基本的なメディアやバッファの全てを用意した。
大腸菌株XL1−Blue及びAVB100(MC1061に基づく)を,それぞれ,Stratagene(米国,CA州,LaJolla)及びAvidity(米国,CO州,Denver)から購入した。
【0190】
結果
【0191】
Fプラスミド陽性の大腸菌AVB100(chromosomal Str(登録商標))を得るために,以下のように,細胞をXL1−Blue(FプラスミドTet(登録商標))と交配させた。適切な抗生物質で補完した5mlLB培地に,各株の単一コロニーを植菌し,37℃で終夜にわたって,精密な振動を付加した状態で培養した。翌日,未使用の5ml細胞培養を,吸光度A500nmが0.1のときに開始して,37℃で1時間にわたって精密な振動を付加した状態で,対数増殖期の中頃まで成育させ,その後,1mlずつを,混合して,37℃で1時間にわたって静かに培養した。その後,その混合物10μlを,100μg/mlのStrと30μg/mlのTetを含む未使用の5mlLB培地に移し,さらに,37℃で終夜にわたって精密な振動を付加した状態で,培養した。翌日,この細胞物を希釈したものを,100μg/mlのStrと30μg/mlのTetを含む寒天皿上に広げることで,新しいFプラスミド陽性のAVB100株(用語「AVB100FmkII」相当。)を得た。
【0192】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメント状のファージに由来するpVII結合タンパク質であって,
前記結合タンパク質がN末端のシグナル配列を含まない,
pVII結合タンパク質。
【請求項2】
配列ID番号1の配列(MEQVADFDTIYQAMIQISVVLCFALGIIAGGQR)における位置1〜33,位置2〜33,位置3〜33,位置4〜33,及び位置5〜33からなる群から選択された配列を含む,
請求項1に記載のpVII結合タンパク質。
【請求項3】
前記外来ペプチドが,前記pVIIの配列の前記N末端の端部に直接的に結合する,
請求項1又は請求項2に記載のpVII結合タンパク質。
【請求項4】
前記外来ペプチドが,AviTag(登録商標)(配列ID番号4),FLAGタグ(配列ID番号9),HISタグ(配列ID番号12),HATタグ,HAタグ,c−Mycタグ,ストレップタグ,V5タグ,抗体又はそのフラグメント,T細胞受容体又はそのフラグメント,MHC分類I及び分類II,アンキリン,IgNAR又はそのフラグメント,フィブロネクチン又はそのフラグメント,タンパク質AのZドメイン,CTLA4又はそのフラグメント,ImmE7,GFP,及び,その他の遺伝子をコードした生物学的な蛍光色素分子からなる群から選択される,
請求項1〜3のいずれか1項に記載のpVII結合タンパク質。
【請求項5】
前記外来ペプチドがライブラリーの要素である,
請求項1〜4のいずれか1項に記載のpVII結合タンパク質。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の結合タンパク質をコードする核酸。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の結合タンパク質を含むフィラメント状のファージ。
【請求項8】
請求項6に記載の核酸をさらに含む,
請求項7に記載のフィラメント状のファージ。
【請求項9】
野生型pVII及び/又は野生型pVIIタンパク質をコードする遺伝子をさらに含む,
請求項7又は請求項8に記載のフィラメント状のファージ。
【請求項10】
前記ファージが,野生型pVII及び/又は野生型pVIIタンパク質をコードする遺伝子を含まない,
請求項7〜9のいずれか1項に記載のフィラメント状のファージ。
【請求項11】
pIII結合タンパク質又はpVIII結合タンパク質をさらに含む,
請求項7〜10のいずれか1項に記載のフィラメント状のファージ。
【請求項12】
pIII,pVII,又はpVIIIへの結合としての外来ペプチドをディスプレイする,
請求項7〜11のいずれか1項に記載のフィラメント状のファージのライブラリー。
【請求項13】
ペプチドが,pVIIと,pIII及びpVIIIの一方又は双方とで同時にディスプレイされる,
請求項12に記載のライブラリー。
【請求項14】
ファージミドと,ヘルパーファージとを含むファージディスプレイシステムであって,
前記ヘルパーファージが,請求項6に記載の核酸を含む,
ファージディスプレイシステム。
【請求項15】
ファージミドと,ヘルパーファージとを含むファージディスプレイシステムであって,
前記ファージミドが,請求項6に記載の核酸を含む,
ファージディスプレイシステム。
【請求項16】
請求項14及び/又は請求項15に記載のファージディスプレイシステムを含む,キット。
【請求項1】
フィラメント状のファージに由来するpVII結合タンパク質であって,
前記結合タンパク質がN末端のシグナル配列を含まない,
pVII結合タンパク質。
【請求項2】
配列ID番号1の配列(MEQVADFDTIYQAMIQISVVLCFALGIIAGGQR)における位置1〜33,位置2〜33,位置3〜33,位置4〜33,及び位置5〜33からなる群から選択された配列を含む,
請求項1に記載のpVII結合タンパク質。
【請求項3】
前記外来ペプチドが,前記pVIIの配列の前記N末端の端部に直接的に結合する,
請求項1又は請求項2に記載のpVII結合タンパク質。
【請求項4】
前記外来ペプチドが,AviTag(登録商標)(配列ID番号4),FLAGタグ(配列ID番号9),HISタグ(配列ID番号12),HATタグ,HAタグ,c−Mycタグ,ストレップタグ,V5タグ,抗体又はそのフラグメント,T細胞受容体又はそのフラグメント,MHC分類I及び分類II,アンキリン,IgNAR又はそのフラグメント,フィブロネクチン又はそのフラグメント,タンパク質AのZドメイン,CTLA4又はそのフラグメント,ImmE7,GFP,及び,その他の遺伝子をコードした生物学的な蛍光色素分子からなる群から選択される,
請求項1〜3のいずれか1項に記載のpVII結合タンパク質。
【請求項5】
前記外来ペプチドがライブラリーの要素である,
請求項1〜4のいずれか1項に記載のpVII結合タンパク質。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の結合タンパク質をコードする核酸。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の結合タンパク質を含むフィラメント状のファージ。
【請求項8】
請求項6に記載の核酸をさらに含む,
請求項7に記載のフィラメント状のファージ。
【請求項9】
野生型pVII及び/又は野生型pVIIタンパク質をコードする遺伝子をさらに含む,
請求項7又は請求項8に記載のフィラメント状のファージ。
【請求項10】
前記ファージが,野生型pVII及び/又は野生型pVIIタンパク質をコードする遺伝子を含まない,
請求項7〜9のいずれか1項に記載のフィラメント状のファージ。
【請求項11】
pIII結合タンパク質又はpVIII結合タンパク質をさらに含む,
請求項7〜10のいずれか1項に記載のフィラメント状のファージ。
【請求項12】
pIII,pVII,又はpVIIIへの結合としての外来ペプチドをディスプレイする,
請求項7〜11のいずれか1項に記載のフィラメント状のファージのライブラリー。
【請求項13】
ペプチドが,pVIIと,pIII及びpVIIIの一方又は双方とで同時にディスプレイされる,
請求項12に記載のライブラリー。
【請求項14】
ファージミドと,ヘルパーファージとを含むファージディスプレイシステムであって,
前記ヘルパーファージが,請求項6に記載の核酸を含む,
ファージディスプレイシステム。
【請求項15】
ファージミドと,ヘルパーファージとを含むファージディスプレイシステムであって,
前記ファージミドが,請求項6に記載の核酸を含む,
ファージディスプレイシステム。
【請求項16】
請求項14及び/又は請求項15に記載のファージディスプレイシステムを含む,キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図9】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公表番号】特表2010−536359(P2010−536359A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521420(P2010−521420)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【国際出願番号】PCT/EP2008/060908
【国際公開番号】WO2009/024591
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(510041810)
【氏名又は名称原語表記】NEXTERA AS
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【国際出願番号】PCT/EP2008/060908
【国際公開番号】WO2009/024591
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(510041810)
【氏名又は名称原語表記】NEXTERA AS
【Fターム(参考)】
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