説明

sp3混成軌道をもつ炭素、シリコン、及び又はゲルマニウムの表面官能化

本発明は、材料表面に炭素、シリコン、及びゲルマニウムから選択される元素が含まれる該材料上への化合物のグラフティング方法に関する。本グラフティング方法は、a)表面に、少なくとも1個の水素原子を有するsp混成軌道炭素原子、シリコン原子、及び又はゲルマニウム原子が含まれる材料を供給する工程、及びb)工程a)において供給された材料を溶媒中において少なくとも1個の未プロトン化アミン官能基を含む化合物(C)と接触させて該化合物(C)を前記表面上へグラフティングする工程から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が炭素、ケイ素、及び又はゲルマニウムから成る材料の表面上への化合物の強結合を介して化合物をグラフティングすることができる、表面が炭素、ケイ素、及び又はゲルマニウムから成る材料の新規な官能化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料の表面官能化には、とりわけ導体あるいは半導体材料の表面上へ化合物をグラフティングすることによってそれら材料の特性、すなわち化学的及び生化学的感度、環境との相互作用、光感度、電気的及び又は電気化学的交換特性、摩擦学、などを変えることができ、例えば(バイオセンサ、バイオチップス、バイオメディカル)等のバイオエレクトロニクス分野及び分子エレクトロニクス分野においては多数の用途がある。このような観点において、炭素、特にダイヤモンド、シリコン、及び又はゲルマニウムを含有する半導体あるいは金属特性をもつ半導体材料の官能化は重要である。
【0003】
表面が炭素、シリコン、及び又はゲルマニウムから成る材料上へ化合物をグラフティングする種々方法が報告されている。
【0004】
シリコン、及び一般的にシリコンと同様な挙動を取るゲルマニウムは、官能化に関して最もよく研究されている対象元素である(Buriak, Chem. Rev. 102(5), 1271-1308, 2002参照)。表面がシリコンから成る材料の官能化方法のうちでも、シラン化、ヒドロシリル化、電子化学及び再構成シリコン上への求核性分子のグラフティングについては検討が行われている。
【0005】
再構成シリコンは、その表面結晶構造が超真空条件下(一般的には10−10バール)及び高温下(一般的には800K以上)において変性(modified)されたシリコンである。この変性により本来あった酸化物の解離や隣接ダングリングボンドの組み換えへと導かれ、表面上において規則正しい方式でSi=Siタイプの二重結合が形成され、この特定の位置にある再構成シリコンの表面シリコン原子はsp型の軌道構成をとっている。このようにして再構成された表面は真空処理によって容易に水素化される。非結合性あるいは不飽和の二重項をもついずれかのタイプの求核性化合物は、水素化再構成シリコンの表面上での供与結合によって、あるいは求核性置換によって、あるいは環状付加によってグラフティング可能である(Laftwichら、Surface Science Reports 63, 1-71, 2008年参照)。
しかしながら、このグラフティング経路には多数の欠点がある。すなわち、
−水素化再構成シリコンの作製は極めて複雑かつ高価である。
−水素化あるいは非水素化再構成シリコンは不活性雰囲気下でのみ安定である(表面は水及び又は酸素の存在で酸化する)。
−分子のグラフティングを表面の選択された局部に限定できない(表面全体が必然的にグラフティングされるか、あるいはゾーンを局所的にグラフティングできるが、局所限定は基板の形態に帰するものであって、オペレーターの選択によってできるものではない。
−グラフティング工程が長く、数時間に亘る定温静置が必要とされる。
【0006】
さらに、表面がダイヤモンドから成る材料の官能化方法も開発されている。この方法としては特に、
−表面酸化されたダイヤモンドをダイヤモンド表面に存在するカルボニル(C=O)から官能化する方法(Notsuら、Journal of Electroanalytical Chemistry, 493, 31, 2000年)、あるいはダイヤモンド表面に存在する水酸基(C−OH)から官能化する方法(Notsuら、Electrochemical and Solid State Letters 4, H1, 2001年; Delabougliseら、Chemical Communications 2698, 2003年; Mazurら、Langmuir, 21, 8802, 2005年)、及び
−炭素・炭素結合の形成によってダイヤモンドを官能化する方法がある。
【0007】
水素化されたダイヤモンド中におけるUV光の吸収によって前記材料の容積中に電子ホール対が発生し、光によって生成されたホールから生じた過剰の正電荷が材料表面へ移動してアルケン類による求核性攻撃の標的が形成される(Yangら、Nature Materials 1, 253-257, 2002年)。
【0008】
電子化学は代替方法として用いられる。ホウ素で高濃度にドーピングされたダイヤモンドを電極として用い、還元によってラジカルを生成するジアゾニウム塩がダイヤモンドの表面と反応して炭素・炭素結合(Kuoら、Electrochemical and Solid State Letters 2, 288, 1999年、及びDelamarら、Journal of the American Society 114, 5883, 1992年)を生成する。
− 表面水素化ダイヤモンドの官能化方法。
【0009】
ダイヤモンドの表面をハロゲン化(フッ素化、塩素化)することも可能である。そして表面のハロゲンを他の官能基分子と反応させること、例えば表面をアミン化することが可能である(Ohtaniら、Chemistry Letters, 953, 1998年)。
【0010】
半導体表面上へ分子をグラフティングしようとする最新の試みの一つとして、種々用途(例えば有機電子デバイス、あるいはバイオチップスの作製)において利点となる、表面の一部だけへの局所限定方式によるグラフティングの実施がある。
【0011】
電子化学は局所限定方式で分子を付着させるために現在選択されている方法である。例えば、Livacheらは、金に対する「電子スポット処理」による局所限定グラフティングについて報告している(Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 32, 687, 2003年)。しかしながら、この方法では支持材料に金属的性質があることが要求される。すなわち、このことは、高濃度ドーピングされたゲルマニウム、シリコンカーバイド、ダイヤモンド及びシリコンだけ(ダイヤモンドに関しては>3.2020 B.cm-3、シリコンに関しては>1018 B.cm-3)がこれら方法によって官能化可能であることを意味している。したがって、このグラフティング方法はすべてのタイプのゲルマニウム、シリコンカーバイド、シリコン、又はダイヤモンドに一般化できない。
【0012】
文献として、炭素原子がsp混成軌道化されているガラス状あるいはグラファイトタイプの炭素上へアミン官能基を担持する分子を電子化学的にグラフティングする報告もある。より正確には、このような条件下においてアミン官能基が酸化されてラジカルを生成し、次いで該ラジカルがガラス状炭素あるいはグラファイトと反応してこれら分子のグラフティングが可能とされる(Deinhammerら、Langmuir 10, 1306-1313, 1994年)。この方法は速いこと、及び局所限定方式で表面上へ分子のグラフティングが可能なことにおいて利点を有する。しかしながら、アミン官能基の電子化学的活性化には、グラフトされた分子自身の機能(認識、電子伝達、触媒等の機能)の不可逆的崩壊を生ずるほどの極めて高い電位が必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、新規な局所限定方式による材料、特に半導体材料のグラフティング方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的の達成のため、本発明の第一の観点に従って、本発明は、
a)表面が、少なくとも1個の水素原子を有するsp混成軌道化された炭素原子、シリコン原子、及び又はゲルマニウム原子から成る材料を供給する工程と、
b)工程a)において供給された材料を、陽子を加えられていない状態で少なくとも1個のアミン官能基を有する化合物(C)と接触させて該化合物(C)を前記材料上へグラフティングさせる工程から構成されるグラフト結合材料の作製方法を提供する。
【0015】
一実施態様においては、前記方法の工程b)は酸素の存在下で実施される。
【0016】
本発明の発明者らによって行われた検討により、酸素の存在が、概して化合物(C)のグラフティング加工の促進に寄与することが証明された。
【0017】
一実施態様においては、前記方法の工程b)は溶媒中において実施される。かかる溶媒は、溶媒一種でも、数種溶媒の混合物でもよい。一実施態様において、前記工程b)において用いられる溶媒としてプロトン性溶媒を用いることができる。好ましくは、化合物(C)は少なくとも溶媒に部分的に可溶であり、一般的には溶媒(C)は溶媒中において溶解度を高められる状態にある。工程b)が溶媒中で実施される場合、工程b)は、とりわけ材料の表面全体に及ぶ化合物(C)のグラフティングが所望される場合、特に工程a)において供給される材料の前記溶媒中での浸漬コーティングとして構成される。
【0018】
プロトン性溶媒とは、プロトンの形で放出されることが可能な少なくとも1個の水素原子を含んで成る溶媒をいう。プロトン性溶媒は、有利な態様として、水、脱イオン水、蒸留水、好ましくはメタノール及びエタノール等の塩基性水酸化溶媒から選択される。
【0019】
非プロトン性溶媒とは、プロトン性でない、すなわちプロトンを放出できない、あるいはプロトンを受け取れないいずれかの溶媒をいう。非プロトン性溶媒の有利なものとしては、ジメチルスルホキサイド(DMSO)あるいはアセトンが挙げられる。
【0020】
工程b)で用いられる溶媒に、化合物(C)のアミン官能基を非プロトン状態とすることができるpH調整剤を含ませることも可能である。このpH調整剤は好ましくは溶媒に可溶である。例えば、溶媒がDMSOである場合、該溶媒は好ましくは水酸化カリ等のブレンステッド塩基を用いて飽和される。
【0021】
好ましくは、前記工程b)が溶媒中で実施される場合、該溶媒中の化合物(C)の濃度は10nM〜1M、特に100nM〜100mM、さらに限定すれば1mM〜10mMの範囲内である。
【0022】
一実施態様においては、前記方法の工程b)は水の存在下で実施される。
【0023】
好ましい一実施態様においては、前記方法の工程b)は酸素及び水の存在下で実施される。
【0024】
化合物(C)のグラフティングは、反応媒体中に酸素及び水が存在する場合において促進される。
【0025】
本願発明者は、前記工程a)及びb)を実施することによって、少なくとも1個のアミン官能基を有する化合物(C)を、表面が、sp混成軌道状態にあって少なくとも1個の水素原子を有する炭素、シリコンあるいはゲルマニウム(周期表IV族の非金属元素)の少なくとも1種の元素の原子から成る材料の表面上へグラフティングできることを驚きをもって発見した。
【0026】
この方法には、外部からエネルギーを与えることなく(光照射、プラズマ、熱エネルギーなしに)、一定材料の表面上へ少なくとも1個のアミン官能基を有する化合物(C)をグラフティングできる利点がある。
【0027】
本発明方法には、材料表面が水素化されたシリコン、ゲルマニウム、及び又はダイヤモンドから成るどんな材料へも適用できる利点がある。好ましくは、かかる材料の表面は、ダイヤモンド、シリコン、ゲルマニウム、及び又はシリコンカーバイドから成るものである。本発明方法において用いられる材料において、炭素、シリコン、及び又はゲルマニウムは結晶質のものである。用いられるシリコン、ゲルマニウム、炭素、及び又はシリコンカーバイドは単結晶質形態でも多結晶質形態であってもよい。さらに、シリコン、ダイヤモンド、ゲルマニウム、及びシリコンカーバイドは、ドーピングされているか否かに拘わらず、絶縁性、半導電性、あるいは導電性であってもよい。本発明方法は、電子化学的グラフティング法との比較すると、用いられるシリコン、ゲルマニウム、炭素及び又はシリコンカーバイドの導電性とは無関係であることが顕著な利点である。
【0028】
IV族の他の元素(金属元素:錫及び鉛)は本発明方法には適合しない。Sn−HあるいはPb−H等の水素・金属結合は極めて不安定であり、本願方法の実施には明らかに不適合である。
【0029】
工程a)においては、表面が炭素、シリコン及び又はゲルマニウムのうちの少なくとも1種原子から成り、かつ少なくとも1個の水素原子を有する材料が供給される。従ってこの材料の表面には、C−H、Si−H、及び又はGe−H結合によって結合された表面水素原子が含まれている。所望されるグラフティングのタイプに依存するが、炭素、シリコン及び又はゲルマニウムのこれら表面原子の全部あるいは一部は水素原子を担持している。特定の一実施態様においては、ほぼすべての炭素、シリコン及び又はゲルマニウム表面原子が水素化される(典型例としては少なくとも95%は水素化される)。
【0030】
前記工程a)においてその表面上へ供給される材料は、sp混成軌道をもつ炭素原子、シリコン原子、及び又はゲルマニウム原子から成る材料である。すなわち、これら表面原子のそれぞれは4つの隣接原子とσ結合を介して結合され、二重結合あるいは多重結合は有しない。sp混成軌道をもつ炭素は主としてダイヤモンドであるが、シリコンカーバイドの形態をとってもよい。
【0031】
これらsp混成軌道をもつ表面原子のすべてあるいは一部は水素化されている。好ましくは、炭素、シリコン、及び又はゲルマニウム表面原子の少なくとも95%はsp混成軌道状態にある。特定の一実施態様においては、炭素、シリコン及び又はゲルマニウム表面原子のすべてがsp混成軌道に構成され、該材料の表面にはsp混成軌道をもつ炭素、シリコン及びゲルマニウム表面原子は全くない。特に本発明に係る材料は再構成シリコン、ダイヤモンドあるいはゲルマニウム、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、グラファイト、あるいはガラス状炭素を含まず、またこれらの材料でもない。
【0032】
本発明方法の好ましい一実施態様においては、前記材料によって、炭素、シリコン、ゲルマニウム及びこれらの混合物から選択されるいずれかの元素から成る少なくとも1層の表面層が構成される。
【0033】
好ましくは、前記材料によって、ダイヤモンド、シリコン、あるいはシリコンカーバイドから成る少なくとも1層の表面層が構成される。
【0034】
前記材料は、炭素、シリコン、ゲルマニウム、及びこれらの混合物から選択されるいずれかの元素から成るものであってもよい。前記材料は、特にダイヤモンド、シリコンあるいはシリコンカーバイドから成るものであってもよい。
【0035】
本発明方法の一実施態様において、本発明に係る材料は、その表面に合成ダイヤモンド、好ましくは調製されたばかりの、例えば蒸着成長法(CVD)による成長装置から取り出したばかりの合成ダイヤモンドを含んで成る。
【0036】
「合成ダイヤモンド」は天然ダイヤモンドと異なり、人間によって製造されるダイヤモンドである。合成ダイヤモンドは高圧高温(HPHT)成長法、あるいは化学蒸着法(CVD)成長技術を用いて製造可能である。CVD合成プロセスによれば必然的に水素化表面が生成される。他方、HPHTダイヤモンドは、その合成完了時点では必ずしも水素化された状態では得られない。
【0037】
一実施態様においては、工程a)において供給される材料として、表面に、水素化されていない、あるいは完全には水素化されていないsp混成軌道化された炭素原子、シリコン原子、及び又はゲルマニウム原子が含まれる開始材料の水素化工程を経た由来物が用いられる。
【0038】
この実施態様においては、前記材料の表面は当初から水素化されていたのではなく、部分的にのみ水素化されていたものである。この材料表面は、アミン官能基を有する化合物(C)のグラフティングを行う前に、まず水素化される。
【0039】
ここで「水素化」とは、[炭素、ゲルマニウム、またはシリコン]と水素の結合が確立される物理化学的反応をいう。水素化は、当業者に公知のいずれかの方法を用いて実施可能である。これら水素化反応のなかで、特にHプラズマによるダイヤモンド水素化(L. Ley, R. Graupner, J.B. Cui, J. Ristein, Carbon 37, 793, 1999年)、あるいはフッ化水素酸処理を介したシリコンの水素化について述べる。
【0040】
本発明方法の特定の一実施態様において、工程a)において供給される材料は、当初は水素化されていないか、あるいは部分的水素化されていない、表面にダイヤモンド、シリコンあるいはゲルマニウムのいずれかが含まれる開始材料のHプラズマを用いた水素化工程からの由来物である。好ましくは、Hプラズマを用いたダイヤモンドの水素化はマイクロ波プラズマを用いて実施される。この実施態様において、用いられるダイヤモンドは特に高圧高温(HPHT)成長法を用いて得られる非水素化あるいは一部水素化ダイヤモンドであってもよい。
【0041】
たとえ空気中におけるエイジングによって表面炭素・水素官能基の一部損失が生じたとしても、ダイヤモンドの水素化には長時間を要し、一般的には1週間の空気への曝露後において15%程度であることに注意すべきである(Vanhoveら、PSSA, 204(9), 2931-2939, 2007年)。これにより、カルボキシル(COOH)、カルボニル(C=O)、ヒドロキシル(C−OH)、エーテル架橋(C-O-C)等の表面基の発現がもたらされる。この方法は、水素化直後のダイヤモンドとエイジング処理後のダイヤモンドの双方に適用できる利点を有する。
【0042】
本発明方法の別の特定の実施態様においては、工程a)において供給される材料は、当初において水素化されていない、あるいは一部水素化されていないシリコンあるいはゲルマニウムが表面に含まれる開始材料のフッ化水素酸処理による水素化工程からの由来物である。
【0043】
前記シリコンの表面は自然発生的に生じた1層の天然シリカで覆われている。この表面をフッ化水素酸で処理すると、シリカは溶解して水素化されたシリコンが得られる。
【0044】
通常、工程b)は、好ましくはシリコン表面の水素化後できるだけ早く実施される。水素化されたシリコンは効率的に表面不活性化(passivation)されるため、本発明方法を用いる化合物(C)のグラフティングと表面不活性化は競合関係にある。
【0045】
工程b)において、工程a)において供給された材料の水素化された表面と反応可能なアミン官能基をもつ化合物(C)が供給される。本願において「アミン官能基」とは、非結合性電子二重項を含み、かつ1又は2以上の原子、特に1又2以上の炭素原子を含む脂肪族あるいは芳香族基によって置換されたアンモニア構造の窒素原子を含む官能基を意味する。本発明において定義されるアミン官能基には特に、一級(単置換)、二級(2置換)及び三級(3置換)アミン官能基、アミジン及びグアニジン置換基が含まれる。アミン官能基をもつ化合物(C)は、脂肪族化合物(エチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、・・・)、飽和ヘテロ環化合物(ピペリジン、ピペラ ジン、・・・)、芳香族化合物(アニリン等の置換芳香族化合物、あるいはピリジン、プリン、ピリミジン等の不飽和ヘテロ環化合物)であってもよい。上記定義に従って、窒素二重項のないアミド、尿素及びカーバメイト官能基はアミン官能基に当たらない。
【0046】
本発明方法の好ましい一実施態様において、前記アミン官能基は一級あるいは二級アミン官能基であり、好ましくは一級アミンである。前記アミン官能基は、より好ましくは、非結合性二重項への最大アクセス性の観点から一級アミン官能基である。
【0047】
前記少なくとも1個のアミン官能基をもつ化合物(C)には、1又は2以上の同一又は異なるアミン官能基が含まれていてもよい。
【0048】
化合物(C)には任意にアミン官能基以外の有機官能基(カルボキシル、エステル、ヒドロキシル、チオール、アルデヒド、ケトン、エポキシ、カーバメイト、不飽和・・・)が担持され、これら有機官能基を介在して有機官能基を担持する化合物がグラフト結合された材料が得られる。この有機官能基は、特に共有結合、ファンデルワールス結合あるいは水素結合の生成を介しての後官能化(例えばDNAチップに関して別のDNAらせん構造を認識できるDNAらせん構造のグラフティング)の可能性を与えることができ、あるいは所望の官能基性を直接形成することができる。化合物(C)には生物的及び又は化学的実体(例えば金属あるいはカチオン)と錯体形成可能な1又は2以上の官能基が含まれていてもよい。
【0049】
アミン官能基をもつ化合物(C)は、特に、例えばエネルギー移動(電子又は光電子交換、分子吸着、蛍光性、電子移動、・・・)の目的において活性分子となり得る、金属錯体、生物無機錯体(例えば鉄ポルフィリン錯体)、生物有機錯体(例えばフラビン又はユビキノン類)、有機又は無機レドックス化合物、フルオロホア(蛍光体)、発色団、あるいは特にDNA(デオキシリボ核酸)、RNA(リボ核酸)、タンパク質、ペプチド、酵素、抗体、炭化水素から選択される生体分子等の機能性分子である。疎水性脂肪族、不飽和あるいはフッ素化側鎖をもつアミン誘導体、あるいは親水性化合物はアミン官能基の化合物(C)キャリヤーとして利用可能である。
【0050】
上記工程b)の条件下において、添加される化合物(C)は未プロトン化状態にあるアミン官能基のキャリヤー、すなわちアミン官能基がその酸塩形態にないアミン官能基のキャリヤーである。従って、そのアミンの非結合性二重項は役に立つ。しかしながら、存在するこれら化合物(C)の少なくとも一定程度が未プロトン化アミンのキャリヤーであることを条件として、その反応媒体には自然形状のかつプロトン化状態のアミン官能基を担持する化合物(C)が混合物として含まれていてもよい。
【0051】
従って、存在するアミン官能基の少なくとも一部が未プロトン化状態であれば、反応媒体はアルカリ性または中性である。有利な態様として、工程b)は、感受性化合物、特に生体分子のグラフティングを可能とする典型例としてはpH6〜8の中性媒体中で実施される。通常、工程b)は塩基性媒体中において実施される。
【0052】
好ましくは、工程b)の終了時に得られた材料は回収される。この目的のため、工程b)の反応媒体の液相は廃棄され、得られた材料は例えば緩衝液及び又は水を用いて洗滌され、次いでグラフト結合された材料を得るために乾燥される。
【0053】
本発明方法には多数の利点がある。第一に、本方法の工程は温和な条件下で実施可能なため、用いられる少なくとも1個のアミン官能基をもつ化合物(C)を変質させないことが可能である。本発明方法は、実用的にアミン官能基をもつ殆どの化合物、とりわけ市販化合物に対して適用可能である。
【0054】
上記方法を用いた化合物(C)のグラフティングは、例えば通常グラフティングに数時間オーダーの時間を要する光化学的方法あるいはシリル化等の他のグラフティング方法よりも極めて迅速に、概して分オーダーで実施できる利点を有する。
【0055】
上記工程b)の条件下においては、添加される化合物(C)によって未プロトン化状態にある、すなわち未だその酸塩形状(四級アンモニウム)になっていないアミン官能基が担持される。従って、アミンの非結合性二重項は猶存在している。
【0056】
好ましくは、処理は、反応媒体へ添加されたすべてのアミンがプロトン化されないpHにおいて、すなわち塩基性媒体中(pH>8)において実施される。しかしながら、化学的に分解し易い分子(生体分子、金属錯体など)については、添加されたアミンの一部のみが脱プロトン化される、より温和なpH値(中性付近、pH6〜8)を用いることも可能である。
【0057】
好ましくは、工程b)の終了時に得られた材料は回収される。この目的のため、工程b)の反応媒体の液相は除去され、得られた材料は例えば緩衝液又は水を用いて洗滌され、次いでグラフト結合された材料を得るために乾燥あるいは容器に収容され、保管される。
【0058】
本発明方法には多数の利点がある。第一に、反応工程を温和な条件下で実施できるため、用いられる少なくとも1個のアミン官能基を担持する化合物(C)を変質させることがない。本発明方法は、実用的にアミン官能基をもつ殆どの化合物、とりわけ市販化合物に対して適用可能である。
【0059】
上述した方法を用いた化合物のグラフティングには、処理が極めて速い、すなわち概して分オーダーで処理ができる利点がある。このように急速に処理できることは、少量に強蒸発処理を加えて官能化を行うことにより、高付加値を伴う分子の合理的グラフティングを可能とする有利な特長である。
【0060】
本発明方法は、簡便、かつ低コストであり、さらに工程b)において水素化された材料から単一反応工程で化合物(C)のグラフティングが可能である特長を有する。
【0061】
特定の理論にとらわれないことを前提として、本願発明者によって実施された検討により、グラフティングが下記に従って起こることが示唆される。
−少なくとも1個のアミン官能基を有するいずれかの化合物(C)が、工程b)において、それらアミン官能基を介して水素化された炭素/シリコン/ゲルマニウムによって表面上へグラフティングされる。工程b)において接触状態に置かれたアミン官能基を担持する化合物(C)のアミン官能基の窒素は、化合物(C)と表面との結合に役割を果たす原子の一つとなる。この目的のため、工程b)における反応は、化合物(C)のアミン官能基の窒素原子と表面間との結合形成が可能となる条件下において実施される。
−あるいは、前記反応中に窒素原子が取り除かれれば、この窒素のα炭素原子が共有結合の確立を介して材料へグラフト結合される。
【0062】
化合物(C)とその表面間の結合に含まれている原子がどうであれ、化合物(C)と前記材料間には強結合が形成される。それゆえ、発明者によって、表面がグラフティングされた材料を強酸あるいは強塩基条件下へ置いても、超音波処理の有無に拘わらず、これらの結合が通常壊れないことが証明されており、それゆえに、これら形成されている結合が共有結合であることが推定される。形成された結合の化学的安定性は本発明方法のさらなる利点である。
【0063】
好ましくは、工程b)は水性媒質中において実施される。「水性媒質」とは、主として水から成る媒質、好ましくは水溶液をいう。一般的に、水溶性媒質のpHは工程b)において用いられる化合物(C)のアミンのpKと同等かそれよりも高い。これにより、アミンの大部分は該媒質中において未プロトン化状態におかれ、化合物(C)をグラフティングできることが確保可能にされている。水溶液として特に好ましいものはリン酸水溶液及び重炭酸塩水溶液である。乾燥現象を抑えるため、グリセロール(シグマアルドリッチ:登録商標)等の乾燥遅延剤を添加することが可能である。
【0064】
有利な一実施態様に従って上記方法の工程b)が溶媒中において実施される場合、該溶媒は空気中において飽和される。
【0065】
一実施態様においては、工程b)において、前記材料は−0.5〜0.9Vの範囲内のAg/AgClに対する電気化学電位において陽極側に分極化される。前記電位は概してアミン官能基の酸化電位(Ag/AgClに対して1.3Vのオーダーである)よりも低い。この電位は、もし正に荷電されているか(負の印加電位、好ましくはAg/AgClに対して0〜−500mVの範囲内)、あるいは負に荷電されていれば(アミンの酸化電位よりも低い印加電位、好ましくはAg/AgClに対して0〜+900mVの範囲内)、アミン官能基を担持する化合物(C)の強制的移動を可能とする電位である。電位の印加が極めて低濃度な溶液を用いて操作を行うために重要なことを実証できるが、本発明に従って所望のグラフティングを得るためには通常必要とされない。
【0066】
この電位により、少なくともいくつかのケースにおいて、表面の電子受容体としての役割を増強し、及びグラフティングを向上させることが可能である。
【0067】
この実施態様は、金属性材料あるいは高濃度にドーピングされた半導体材料に特に適合している。
【0068】
好ましくは、本発明のグラフティング方法(工程b)は空気中において室温下、大気圧下で実施される。本発明方法には表面へのUV照射は必要とされない。
【0069】
本発明方法の一実施態様においては、前記工程b)は表面の所定部分において実施される。
【0070】
前記方法には、表面の所定部分に対して実施できる利点、すなわち表面上においてミリメートルスケールからナノメートルスケールに亘って局所限定的に化合物(C)のグラフティングを実施できる利点がある。前記局所限定される接触領域は、センチメートルオーダー(典型的には1〜100cmの特徴的サイズ)、ミリメートルオーダー(典型的には1〜100mmの特徴的サイズ)、マイクロメートルオーダー(典型的には1〜1000μm、特に1〜100μmの特徴的サイズ)、あるいはナノメートルオーダー(典型的には1〜1000nm、特に1〜100nmの特徴的サイズ)であってもよい。局所限定的付着が可能なことは、表面の化学的多重化を要求する種々用途への利用、例えば材料表面上に多数の局所限定的領域を形成すること、及びこれらの領域を可能な限り最小なスケールとできることが不可欠なバイオチップあるいはバイオセンサの作製を可能とすることから高度な利点となる。何故なら、このような材料から得られるバイオチップあるいはバイオセンサは、有利に最小化され、同時に存在が判別されるべき化学的実体あるいは生物的実体の多様な検出を可能とするからである。さらに、エレクトロニクス、オプトエレクトロニクス、分子エレクトロニクス、バイオエレクトロニクス用の部品の小型化の実現も求められている。
【0071】
この局所限定処理は、液滴付着(スポット処理、液滴鋳造、インクジェット印刷)、コーティング処理(スタンピング、シルクスクリーン、フレキソ印刷、写真製版、微小接触印刷)、リソグラフィー、あるいはニアフィールド印刷(AFM、ナノファウンティンペン、ディップペンリソグラフィー)あるいはマイクロまたはナノ流体チャネル中における表面官能化など、種々技術手段を用いて実施可能である。
【0072】
下記論文には局所限定グラフティングを行うために利用可能ないくつかの技術手段が示されており、また局所限定の利点及び局所限定官能化が施されたグラフティング処理材料の可能な用途について強調されている。a)E. Descampsら、Adv. Mater., 19(2007年), 1816-1821 (DNAバイオチップ)、b)Y. Roupiozら、Small 5 (2009年), 1493-1497 (ユニーク構造ネットワークの組織化)、c)M. Geisslerら、Adv. Mater. 2004年、16, 1249; A.N. Shipwayら、ChemPhysChem 2000年、1, 18 (多重通信方式の利点と、光通信学、分子エレクトロニクス及びバイオセンサにおける応用)、d)S.H. Hongら、Science 1999年、286, 523 (ディップペンナノリソグラフィー、多重通信方式)、e)K.T. Rodolfaら、Nano Lett. 2006年、6, 252 (ナノファウンティンペン)。
【0073】
発明者の知るところでは、本発明方法は、化合物、特にアミン官能基を有する化合物(C)の、表面にsp混成軌道をもつシリコン、ゲルマニウム及び又は炭素が含まれる材料上へのグラフティングを、特に該材料をドーピングすることを必要とせずに、可能とする最初の方法である。
【0074】
別の実施態様において、工程b)は前記表面の全体に対して、特に上述されたような溶媒中へのディップコーティングによって実施される。
【0075】
本発明の第二の観点によれば、本発明は、上述した方法を用いて得ることが可能なグラフティング材料を対象とする。
【0076】
好ましくは、材料は、材料表面の所定部分へ上述した利点を有する局所限定方式によって、化合物(C)を用いてグラフティングされる。
【0077】
上記方法により得られたグラフト結合された材料の表面は化合物(C)を用いて官能化される。これにより、該表面上に幾分緻密な化合物の単層が得られる。前記単層の緻密性は、工程b)を塩基性pH下において実施することにより(すなわち、pHをアミンのpKaよりも高くすることにより)、及び工程b)における反応時間を増やすことにより高めることが可能である。
【0078】
従って、本発明方法を用いて得られたグラフト結合された材料は、その表面が(グラフティングのために用いられるアミン官能基の他にさらに)官能性基を含む化合物(C)を用いて官能化されている。これらの官能性基によって、エレクトロニクス、オプトエレクトロニクス、分子エレクトロニクス、バイオエレクトロニクス、環境、摩擦学、光電変換工学、及びバイオメディカル分野における用途において、表面へ重要な機能を与えることが可能である。
【0079】
本発明の第三の観点によれば、本発明は上述した方法を用いて得られたグラフト結合された材料の、例えばバイオセンサ、バイオチップ、エレクトロニクス、オプトエレクトロニクス、分子エレクトロニクス、バイオエレクトロニクス、環境、摩擦学、光電変換工学、及びバイオメディカル用部品の作製のための利用を目的とする。
【0080】
分子エレクトロニクス(集積回路、論理回路、データ保存、・・・)、及びバイオエレクトロニクス(バイオチップ、バイオセンサ、医療用電極、・・・)用のデバイスを製造する場合、前記材料を特に下記のように用いることが可能である。
− 前官能化による利用:アミン官能基と、好ましくはアミン官能基以外の有機官能基を担持する化合物(C)を、本発明方法を用いて一定の材料上へグラフティングして、得られた該材料を(バイオ)エレクトロニクスデバイスの作製用の(好ましくは官能性)材料として用いる。あるいは、
− 後官能化による利用:当業者に公知である方法を用いて電子デバイスを製造し、次いで該デバイスを、アミン官能基及び好ましくはアミン官能基以外の有機官能基をもつ化合物(C)を用いたグラフティングにより化学的に変性することによって電子デバイス用途に用いる。この場合、官能化は集積回路/バイオセンサ/バイオチップ上への官能基の局所処理のための最終工程として行われる。かかる用途においては、速いグラフティング、局所限定性、及び温和条件下での処理などの特性が特に利点となる。
【0081】
上記用途のために採用される材料は、典型例としては、材料表面上に炭素、シリコン及び又はゲルマニウム半導体原子が含まれる開始材料から本発明方法を用いて得ることができる材料である。
【0082】
分子電子回路は、1又は2以上の複雑あるいは簡略な電子的機能を再現する電子部品であり、それら電子的機能の少なくとも1つは、しばしば数種の基本電子部品を減じられた容積内に統合させて前記回路の使用を容易にする機能的分子体系によって支配される電子部品である。
【0083】
本発明方法を用いて得られた材料が半導体シリコンから成る場合、該材料はウエハー、すなわちドーピング、エッチング、他材料の付着(エピタキシー、スパッタリング、CVD、・・・)及びフォトリソグラフィー等の技術を用いて微小構造を作製するための基板として用いられる半導体材料から成る極めて薄いディスクとして使用可能である。これは集積回路の作製において決定的な重要性をもつものである。
【0084】
バイオエレクトロニクスデバイスは上記デバイスと同様のデバイスであるが、選択的な生物的機能が一体化されたデバイスである。したがってこのデバイスの無機部分は、生体分子あるいは生体受容体によって特定方位に向けられる生体分子認識現象のための変換部として用いられる。従って、バイオセンサは、生物起源の生体受容体、すなわち酵素、抗体、受容体等と、生物的信号(例えば検出されるべき抗原の抗体に対する固定)を、容易に使用できる信号(電気信号あるいは光信号)へ変換する変換器から作製される。
【0085】
バイオチップは、本発明に従った材料の小表面上に順番に数列に固定されるDNA分子、あるいはいずれか他の分子認識分子(ペプチド、タンパク質、抗体、炭水化物、小配位子、受容体、アプタマー)等の一組の生体受容体のバルク並列化に多少対応している。バイオチップは、生物的事象の複数パラメータによる量的分析、例えば一定組織(肝臓、腸など)の一細胞中、一定時期(胎児、成人など)、及び一定条件(罹患時、健康時など)における遺伝子表現(転写)のレベルの定量を可能とする。
【0086】
特に1又は2以上の他の有機官能基を有する化合物(C)を用いてグラフト結合された材料は、化学的実体あるいは生物的実体と(特に共有結合、水素結合、ファンデルワールス結合、錯形成などを介して)結合可能であり、該材料はさらに化学的実体あるいは生物的実体の検出、さらには定量化まで可能とするため、バイオセンサとしても利用可能である。特に、化合物(C)が特に上記したような生体分子であり、さらに生物的実体と結合可能な1または2以上の他の有機官能基を含む場合はバイオチップとしても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】すべての実施例において用いられた蛍光について示すブロック図である。
【図2】蛍光コントラストと、ダイヤモンド(0.1Mリン酸溶液、pH 11、20%グリセロール)の表面上におけるビオチン−PEO2−アミン(1mM)のグラフティング反応時間(40分、20分、10分、及び1分)との相関性を示した図である(実施例1)。
【図3】蛍光コントラスト(最大コントラストに対する%で表示)とクラッディングされたビオチン/SAPE複合体の認識・変性サイクルとの相関を示した図である。図中、サイクル5及び6に関してはビオチンの再生なし、サイクル1〜4及び7〜20に関してはトリプシンを用いたビオチンの再生あり、但しサイクル17に関してはSAPEによる認識なし(実施例1)。
【図4】10mV/sのスキャン速度で、pH6.2の0.1Mリン酸溶液中において合成ピリドアクリドン(PyAcと表記)を用いて官能化されたダイヤモンド表面の記録ポルタモグラム(PyAcのグラフティング:1mMPyAc0.1Mリン酸溶液及び20%グリセロール、pH11、及びグラフティング時間30分)を示した図である(実施例4)。
【図5】合成ピリドアクリドン(PyAcと表記)を用いて官能化されたダイヤモンド表面のスキャン速度との相関における、酸化及び還元ピークの電流強度の傾向(PyAcのグラフティング:1mMPyAc0.1Mリン酸溶液及び20%グリセロール、pH11、及びグラフティング時間30分)を示した図である(実施例4)。
【図6】通常条件下(0.1Mリン酸緩衝液、pH11、接触時間5分、ビオチン−PE02−アミン濃度15mM)におけるシリコン上へのビオチン−PE02−アミンのグラフティングにおいてSAPEによって検出された蛍光画像の蛍光強度を距離の関数として示した図である(実施例5)。
【図7】部分的脱酸素処理溶液中(0.1Mリン酸緩衝液、pH11、接触時間5分、ビオチン−PE02−アミン濃度15mM)におけるシリコン上へのビオチン−PE02−アミンのグラフティングにおいてSAPEによって検出された蛍光画像の蛍光強度を距離の関数として示した図である(実施例5)。
【図8】ビオチン−PE02−アミンのグラフティングにおいてSAPEによって検出された蛍光画像の蛍光強度を、15組(グラフティング時の溶液pH/グラフティング時間)のそれぞれについて観察したヒストグラムである。
【発明を実施するための手段】
【0088】
本発明について、添付図面及び下記の実施例を用いてさらに説明する。
【実施例】
【0089】
実施例1:ダイヤモンドに対するビオチン−PE02−アミン(一級脂肪族アミン)のグラフティング
水溶液として、0.1Mリン酸溶液(pH11)あるいは0.1M重炭酸緩衝液(pH11)を用いた。pHは、それによってアミンの求核特性が助長され、アミンの脱プロトン化が可能されることからグラフティングにおける重要な要素である。スポットのサイズが小さいことを考慮して、グリセロール(シグマアルドリッチ:登録商標)を前記水溶液へ1〜20容積%となるように加えてチップ作製中に起こる乾燥を防止した。これはグリセロールを加えなかった場合、乾燥が観察されたからである。
【0090】
グラフティング溶液を調製するため、グリセロール15mlを35mlの超純水中に溶解した。リン酸ナトリウム(NaHPO)710mgを50mlの前もって準備した水・グリセロール溶液中に溶解し、3M水酸化ナトリウム(NaOH)を用いてpHを11に調整した。ビオチン−PE02−アミン(Piece:登録商標)を前もって準備した溶液中に溶解した。
【化1】

ビオチン−PEO2−アミン構造
【0091】
次いでグラフティング溶液を容量80μlの注射針に満たし(自動スポット装置説明書のスポット処理の項を参照)、ダイヤモンドへ接触させてその一滴を付着させた(接触時間3秒)。この液滴を約30秒間〜1分間そのまま接触した状態に置いた。次いでリン酸緩衝液を含むリン酸緩衝液生理食塩水(PBS)でダイヤモンドを洗滌し、さらに大量の水で洗浄した。
【0092】
*溶媒の種類による影響
得られたグラフト結合された表面の蛍光画像から、塩基性水溶液を用いることにより最適グラフティング速度が得られるが、他の溶媒(DMSO)の場合、水酸基が加えられれば使用可能であるが、グラフティング収率は低くなることが示された。
【0093】
*グラフティングの特異性
得られたグラフト結合された表面の蛍光画像から、ビオチンでのグラフティングとビオチン−PEO2−アミンでのグラフティングを比較した場合、グラフティングに特異性があることが示された。ビオチンはアミン官能基を欠いていてダイヤモンド表面上へグラフト結合されないが、他方ビオチン−PEO2−アミンはダイヤモンド表面上へグラフト結合される。
【0094】
*グラフティング中における電位の印加
得られたグラフト結合された表面の蛍光画像により、ビオチン−PEO2−アミンを付着させる際に0.8Vの電位を印加することによる得られる効果が示された。この電位は、(一級あるいは二級アミンに関して)アミンの酸化波の脚部に存在する。アミンの酸化は、電位の印加あるいは無印加によって得られるそれぞれの蛍光との関連から、グラフティングの引き金要素となるものではない。
【0095】
*表面の特徴付け
用いられた特徴付け方法は、ビオチン・アビジン対を生体モデルとして用いることが可能な蛍光顕微鏡法である。ビオチン−PEO2−アミンのグラフティング後、蛍光体:SAPE(ストレプタビジン−R−フィコエリスリン)を用いて検出を実施した(図1)。
【0096】
操作方法は以下の通りである。ビオチン−PEO2−アミンのグラフティング後、下記工程に従って実施する。
−グラフティング後、PBS(10mMリン酸緩衝液、0.137M食塩、及び2.7mMKClを含むリン酸緩衝液生理食塩水、pH7.4)を用いて洗浄し、さらに脱イオン水を用いて洗滌する。
−B.S.A(仔牛血清アルブミン、シグマアルドリッチ:登録商標)を10分間付着させる。
−PBSを用いて洗滌する。
−SAPE(Molecular Probes:登録商標)PBS溶液(0.1mg/ml)中で10分間暗条件下で定温静置する。
−PBSを用いて洗滌する。
−蛍光を検出する。
【0097】
BSAを付着させることにより、ダイヤモンドの表面上に位置する最大数に及ぶ非特異的吸着部位を塞ぐことが可能となる。この現象は、大分子、及び特にその輪郭上に位置する多様な官能基を与えるタンパク質等の巨大分子をグラフティングする場合には強まる。この影響はタンパク質、BSAを1mg/mlの濃度で用いることによって克服可能である。この溶液をサンプル上へ10分間付着させると、これによって、ほぼすべての非特異的吸着部位に、かつこれらの部位だけにBSAが吸着され、他方ビオチンで官能化された部位にはBSAタンパク質の吸着領域は形成されなかった。従って、ビオチン−PEO2−アミンの形成前にPBS洗滌によって該吸着領域は除去されたと考えられる。
【0098】
フィコエリスリンは蛍光体を含有するタンパク質である。蛍光体の励起波長域は496〜565nmの範囲内であり、放射波長は578nmである。
【0099】
*過酷な媒質中におけるグラフティングの安定性
ダイヤモンドのサンプル上へビオチン−PEO2−アミンをグラフティングした後、過酷な媒質中におけるグラフティングの安定性に関する追加検討を実施した。
【0100】
サンプルを超音波浴中、中性溶液(リン酸緩衝液、pH7.2)、酸溶液(HSO,pH0.8)、及び塩基性溶液(KOH,pH12.1及び13.7)へそれぞれ15分間ずつ連続して浸漬した。これらの実験は2カ月以上の期間に亘って実施した。
【0101】
各工程において、ダイヤモンド表面上へグラフト結合されたビオチンの存在を蛍光を用いて検出した。
【0102】
最終的に、蛍光コントラストは、時間の関数としても、あるいは異なる型の攻撃要素の関数としても変化しないことが見出された。
【0103】
これらの実験より、ダイヤモンド表面上における分子のグラフティングは、アミンの存在を通して安定であるとの結論が導き出された。
【0104】
*結合・変性反復サイクルを経て評価したグラフティング安定性
グラフティングの安定性について結合・変性の反復サイクルを用いて評価した。図2は蛍光コントラストをグラフティング時間との相関において示した図である。コントラストは、バックグラウンド信号と比較した特定信号(バックグラウンド蛍光よりも小さいスポット蛍光)の正規化を意味する。
【0105】
図2からはグラフティングの効率が理解される。グラフティング時間が短時間(1分)の場合、特定信号はバックグラウンド信号よりも8倍高くなっている(コントラストは8)。前述したように、グラフティング時間により、生物的プローブ(ビオチン)を用いて表面の高密度化を行うことが可能である。このことは、わずかにグラフト結合された表面(酵素、電流測定バイオセンサ)へのアクセスを所望しているか、あるいは官能性分子で飽和された表面へのアクセスを所望しているかによって、時間制御を介して表面の被覆率を変えることができる可能性を示すものであ(実施例4参照)。
【0106】
図3は認識−変性サイクルの全体に亘る相対的傾向(最初のコントラストに対する%で表示)を示した図である。サイクル5及び6に関しては、ダイヤモンド表面上へビオチンを再生するためにトリプシンは使用されていない。サンプルは単にアルコールと水を用いて洗滌され、次いで乾燥されただけである。従って、蛍光の低下は、スペクトル特性において低下した蛍光体による多数部位の閉塞によるものである。
【0107】
サイクル17に関しては、トリプシンによって表面ビオチンが再生されている。しかしながら、表面再生の効力を示し、かつブランクを作るため、表面にSAPEのない状態でカップリング処理を行っており、それゆえに(予測された通り)蛍光はなくなっている。
【0108】
サイクル18により、SAPEを用いた認識後、トリプシンによって、ダイヤモンド表面とビオチンとの間の結合は切られないまま、ビオチンとSAPEのストレプタビジンとの結合は切られることが確認された。
【0109】
安定性に関して(図3)、ビオチンとストレプタビジンの会合定数が極めて高いため、これら分子間の結合は、酵素的にSAPEを分解する(ペプチド鎖を断片化する)タンパク質分解酵素であるトリプシンによって切断される。酵素的分解後、自由になったビオチンは再度SAPEを用いた認識機構に関与することが可能である。観察された蛍光はある程度の変動を示した(他のグラフティング技術を用いても既に観察されており[Yangら、Nature Materials 1, 253-257, 2002年]、蛍光顕微鏡では本質的なことである)。しかしながら、サイクル5及び6に関して蛍光は減少した。これまでSAPEの酵素的分解はなかった。新たな蛍光分子によるあらゆる追加的認識が遮断され、以前認識された蛍光体が分解することによって特定の蛍光が漸進的に減少する。トリプシンを用いた再生により(図3以降のサイクルに対して実施)、再度SAPEへアクセス可能な最大数の有効ビオチンを得ることができ、これらビオチンは後続の検出において使用された。
【0110】
上記の方法により、連続して検出を行う方法を確実に再現することが可能とされた。
【0111】
実施例2:局所限定方式によるダイヤモンドに対するビオチン−PEO2−アミン(一級脂肪族アミン)のグラフティング
*スポッティング
付着物の並列化及び高密度化を可能とする「スポッティング」(Genomic Solution:登録商標)によって局所限定方式グラフティングを実施した。基板へ接触させて直径150μmの液滴を付着させるプログラム可能なスポッティング装置を用いた。付着させる溶液を含有する注射針へ溶液を充填用タンクから毛細管現象下で充填した。基板との接触時間は3秒間であった。
【0112】
*マイクロコンタクト印刷
本技術は表面上へ化合物を付着させてパターンを形成することから構成される。本技術の実施には所望されるパターンから成るPDMS緩衝液(ポリジメチルシロキサン、sylgard 184 (V.W.R.:登録商標)の調製が必要とされ、PDMSは次いで付着される溶液と共に含浸され、軽く乾燥され、前記緩衝液が官能化される領域上へ静置される。
【0113】
得られた蛍光画像より、ナノ結晶質ダイヤモンド上へ200μmのスポットをマイクロコンタクト印刷することによってビオチン−PEO2−アミンをグラフティングすることが可能なことが示された。
【0114】
実施例3:ダイヤモンドに対するパラアミノ安息香酸(一級芳香族アミン)のグラフティング
一級芳香族アミンに関して、パラアミノ安息香酸(APAB、シグマアルドリッチ:登録商標)を用いて実験を実施した。第一段階として、ビオチン−PEO2−アミン(0.1Mリン酸、接触時間15分)と同一条件下でAPAB(1mM)をグラフティングした。
【0115】
次いで、APABの酸基とビオチン−PEO2−アミンのアミン基とのカップリングを行った。この目的のため、まずEDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、シグマアルドリッチ:登録商標)及びスルホ−NHS(シグマアルドリッチ:登録商標)を用いてその活性化エステルを生成し、次いで得られた活性化エステルをビオチン−PEO2−アミンのアミンと結合させた。
【0116】
*ダイヤモンドに対するAPABのグラフティングに用いられる溶液のpHとグラフティング効果の相関
得られた蛍光画像から、前記溶液のpHの増加に伴って蛍光も増加すること、従ってグラフティングの効果も高まっていることが示された。従って、前記溶液のpHが高いほど、グラフティングはより効率化される。
【0117】
この実験によって3つの要素が示され、これら要素は本発明に完全な利点を与えるものである。
1.芳香族アミンのグラフティングが明瞭に示されている。
2.化学的一次品を主に目的とする表面上へ添加して目的とする官能基を即座にグラフティングできる可能性が強調される。
3.種々の化学反応を介して表面に多様なグラフティングを行うことが可能とされている。
【0118】
実施例4:ダイヤモンドに対する合成ピリドアクリドンのグラフティング、及びグラフティングの定量化
表面上へグラフティングされた分子の量を推定するために電子化学的方法が採用された。一級脂肪族アミンを介して、速く、かつ可逆な電子対のキノン・イミンを含むプローブ分子をグラフティングした。この分子はポリアミンアームによって変性された合成ピリドアクリドンであり、以下PyAcと略記する。
【化2】

電子化学的活性分子 PyAc
(グラフティングに用いられるキノン・イミン電子活性基と一級脂肪族アミンが円で囲まれている)
【0119】
従来方法に従ったグラフティングを、1mMPyAcを含む0.1Mリン酸溶液中、pH11において30分間実施した。
【0120】
グラフト結合された表面のサイクリックボルタンメトリー(cyclic voltammetryによる電子化学的特徴付けにより、第一に固定化(電位スキャン速度に伴うピーク電流の変化)の事実に関して、及び第二に(酸化及び還元ピーク下における電荷の積算を介した)単位表面積当たりのグラフト結合された分子量に関して結論を引き出すことが可能とされた。
【0121】
図5には電位スキャン速度vに伴う陽極及び陰極の電流ピークの変化が示されている。電極表面上に固定された制限された量の化学種との関与における時間システムの特徴的傾向が、スキャン速度に直接比例するピーク電流の傾向と共に記録されている。
【0122】
図4には、PyAcを用いて官能化された表面の典型的な記録ボルタモグラムが示されている。酸化ピーク下における、容量電流を除いた(あるいは還元ピーク下における)、電流の積算により、ファラデーの法則を用い、PyAc分子によってグラフティングされた実体当たり2電子が交換される知識に基づいて、単位表面積当たりの固定分子量を推定することが可能である。グラフティング速度は7.10−11mol.cm−2と評価することが可能である。この測定値から、比較的密度の高い単層が得られていることが確認される(この分子サイズに関して、コンパクト層には典型例として10−10〜10−11mol.cm−2の分子が含まれる)。
【0123】
実施例5:シリコンに対するビオチン−PEO2−アミンのグラフティング
シリコン表面の水素化を48%HFを用いて30分間実施し、その後直ぐにビオチン−PEO2−アミンを用いて官能化を行った。
【0124】
実施例1におけるダイヤモンドをシリコンへ代え、実施例1のグラフティング条件を反復してグラフティングを行った(0.1Mリン酸溶液、pH11、接触時間30分)。得られた蛍光画像及び、図6と図7の比較により、グラフティングは有効であること、及びグラフティング操作中の酸素存在によってグラフティングが促進されたことが示された。
【0125】
実施例6:ダイヤモンドに対するビオチン−PEO2−アミンのグラフティングにおけるパラメータの影響
水溶性溶液として0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4,8.4,9.4,10.4,11.4、及びpH11)を用いた。pHはアミンの脱プロトン化を可能としてその求核性を増大させ、グラフティングにおいて主要な役割を果たす。グラフティングは、アミンが少なくとも部分的に非プロトン化状態にある場合にのみ可能である。
【0126】
スポットのサイズが小さいために、当初グリセロールの添加なしでは乾燥が起こったことから、グラフティングされた材料の調製中における乾燥現象を抑制するため、前記水溶性溶液中にグリセロール(シグマアルドリッチ:登録商標)を1〜20容積%の割合で加えた。
【0127】
グラフティング溶液を調製するため、グリセロール15mlを超純水35ml中へ溶解した。リン酸ナトリウム(NaHPO)710mgを前もって調製した水・グリセロール溶液50ml中に溶解し、次いで3M水酸化ナトリウム(NaOH)を用いてpHを上述した数値に調整した。ビオチン−PEO2−アミン(Pierce:登録商標)19mgを前もって調製した溶液中に溶解した。
【0128】
80μl容量の注射針に前記溶液を満たして(自動スポット処理装置の説明書のスポット処理項を参照)、それをダイヤモンドへ接触させて液滴を付着させた(接触時間3秒)。付着させた液滴を、水素化されたダイヤモンドに接触した状態のまま、3つの異なるグラフティング時間、すなわち10、20及び40分間それぞれ保持した。このダイヤモンドを次いでリン酸緩衝液を含むリン酸緩衝液生理食塩水(PBS)で洗浄し、次いで大量の水でさらに洗浄した。
【0129】
*表面の特徴付け
用いた特徴付け方法は、生物的モデルとしてビオチン・アビジン対を用いることができる蛍光顕微鏡法である。ビオチン−PEO2−アミンのグラフティング後、蛍光体、すなわちSAPE(ストレプタビジン−R−フィコエリスリン)を用いて検出を実施した(図1)。
【0130】
操作方法は下記の通りである。すなわち、ビオチン−PEO2−アミンのグラフティング後、以下の工程に従って実施した。
−グラフティング後に、PBS(10mMリン酸緩衝液、0.137MNaCl、及び2.7mMKClを含むリン酸緩衝液生理食塩水、pH7.4)を用いて洗滌し、次いで脱シオン水でさらに洗滌する。
−B.S.A.(仔牛血清アルブミン、シグマアルドリッチ:登録商標)を10分間付着させる。
−PBSで洗浄する。
−0.1mg/ml濃度のSAPE(Molecular Probes:登録商標)PBS溶液の存在下で定温静置する。
−PBSで洗浄する。
−蛍光体によって検出する。
【0131】
BSAを付着させることにより、ダイヤモンドの表面上にある最大数の非特異的吸着部位を塞ぐことが可能である。この現象は、大分子をグラフティングする場合、特に輪郭上に多様な官能基を与えるタンパク質等の巨大分子をグラフティングする場合に増す。この影響はタンパク質であるB.S.Aを濃度1mg/mlで用いることによって克服される。この溶液はサンプル上へ10分間付着される。これによって、ほぼすべての非特異的吸着部位だけにB.S.A.が吸着され、他方ビオチンで官能化された領域では、ビオチン・ストレプタビジン複合体の形成前にPVSによって洗滌されるため、B.S.A.タンパク質吸着領域は形成されない。
【0132】
フィコエリスリンは蛍光体を含むたんぱく質である。該蛍光体の励起波長域は496〜565nmの範囲内であり放射波長は578nmである。
【0133】
図8は、15の試験組(pH/グラフティング時間)のそれぞれについて観察した蛍光強度のヒストグラムである。それぞれのスポットのサイズは250μmであり、スポットは同じダイヤモンド上に網状(3列5行)に配置されており、パラメータについての比較検討が可能とされている。
【0134】
条件に従った蛍光変化の傾向から、1個の同じ基板上のスポット中に内在するデータ(ここでは固定されたビオチンの表面濃度)の多重化が可能なことが明らかに示されている。
【0135】
*グラフティング時間の影響
グラフト結合された表面について得られた蛍光画像は、グラフティング時間と共にグラフティング速度が増加することを示している。図8に示された記録コントラストは、タンパク質蛍光体で表面が飽和されることによって観察される予想プラトーと共にスポットの蛍光の連続的増加を示している。
【0136】
他方、(グラフティングされていない)スポット間のダイヤモンドの表面蛍光は低くかつ一定であり、スポット上へのグラフティングの空間的局在性が示された。
【0137】
*pHの影響
グラフティング時間に拘わらず、得られたグラフト結合された表面の蛍光画像からは同様な傾向が示された。また、pH7.4未満では、(アミンが完全にプロトン化されるため)グラフティングは得られなかった。このpH値より高い場合、たとえ脱プロトン化アミン分画が少なくとも(1%オーダーでも)、グラフティングは全く十分な蛍光コントラストを備えて有効である(図8)。脱プロトン化アミンのモル分画が増加した場合、すなわちpHが高くなった場合には、蛍光コントラストは(グラフティング時間に拘わらず)約10.4の最適pHまで増加する。このpHを超えるとコントラストの僅かな減少が観察される。
【0138】
実施例7:DNAアミンのグラフティング
用いた水溶性溶液は0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)である。このpH値は、グラフティングにおいてアミンの求核性を増強させるアミンの脱プロトン化を可能とする主要な役割を果たす。しかしながら、核塩基ベースで(Zip9: NH2-(CH2)6-TTT-TTG-ACC-ATC-GTG-CGG-GTA-GGT-AGA-CC(SEQ ID NO:1)及びZip6: NH2-(CH2)6-TTT-TTG-ACC-GGT-ATG-CGA-CCT-GGT-ATG-CG(SEQ ID NO:2), Eurogenetec)で表わされる固定されたプローブDNAらせん構造には反応性がずっと劣る芳香族アミンが含まれている。従って、グラフティング時に低いpHを選定することにより、第一に非変性条件下において脆弱な分子の固定の発現を可能とし、及び第二にDNA標的/DNAプローブ認識現象、水素結合の形成に関与する核酸アミンと二重ラセン構造中の選択される塩基とのグラフティングを介したハイブリダイゼーション阻害が防止される。
【0139】
当初グリセロールを添加せずに実施して分かったことである、スポットのサイズが小さいために起こる材料(DNAバイオチップ)のグラフティング作製中における水溶性溶液の乾燥現象を抑制するため、前記水溶性溶液には1〜20容積%の割合でグリセロールが加えられる。
【0140】
2つのグラフティング溶液を調製するため、グリセロール15mlを超純水35ml中に溶解した。リン酸ナトリウム(NaHPO)710mgを事前に調製した水・グリセロール溶液50ml中に溶解し、pHを3M水酸化ナトリウム(NaOH)を用いて7.4に調整した。オリゴヌクレオチド1μmを先に調製した前記2つの溶液中にそれぞれ溶解した。
【0141】
容量80μlの注射針をアミノ化されたDNAプローブ溶液の1つで満たし(自動スポット処理装置の説明書のスポット処理の項を参照)、該注射針をダイヤモンドに接触させて該溶液の一滴を付着させた(接触時間3秒間)。該液滴(直径250μm)は15分間水素化されたダイヤモンドに接触したまま静置した。次いでダイヤモンドを、リン酸緩衝液を含むリン酸緩衝液生理食塩水(PBS)を用いて洗滌し、さらに大量の水を用いて洗滌した。スポット処理用注射針を脱イオン水で洗滌後、さらにリン酸緩衝液で洗滌して乾燥した。二つ目のスポットを2番目のアミノ化されたプローブらせん構造へ200μmの間隔を空けて付着させた。同じグラフティング時間後、ダイヤモンド表面を再度リン酸緩衝液を用いて洗滌した。
【0142】
*表面の特徴付け
用いた特徴付け方法は、ビオチン・アビジン対を用いてハイブリダイゼーションの検出が可能な蛍光顕微鏡法である。2つの隣接はしているが離れている直径200μmのスポット中へオリゴヌクレオチドをそれぞれグラフティングした後、ビオチン化された相補的らせん構造の一方、または他方、あるいは両方の存在下でハイブリダイゼーションを行い、蛍光体SAPE(ストレプタビジン−R−フィコエリスリン)を用いてアビジン・ビオチン結合の介在による検出を実施した(図1)。
【0143】
操作方法は以下の通りである。オリゴヌクレオチド・アミンZIP6及びZIP9のそれぞれのグラフティング後、以下の工程を実施した。
−グラフティング後、PBS(10mMリン酸緩衝液、0.137MNaCl、及び2.7mMKClを含むリン酸緩衝液生理食塩水、pH7.4)を用いて洗滌し、次いでさらに脱イオン水を用いて洗滌する。
−相補的DNA100nmを含むハイブリダイゼーションバッファー(Denhart 1X溶液、シグマアルドリッチ:登録商標)溶液を付着させて42℃で15分間静置する。
−PBSで洗滌する。
−SAPE(Molecular Probes:登録商標)0.1mg/mlPBS溶液の存在下、暗所に15分間静置して定温静置する。
−PBSで洗滌する。
−蛍光を用いて検出する。
【0144】
界面活性剤を含むDenhartハイブリダイゼーション溶液中にBSA(仔牛血清アルブミン)及び鮭精子二重らせん構造DNAが存在することにより、ダイヤモンド表面上にある最大数の非特異的吸着部位が塞がれる。このハイブリダイゼーションバッファーを予め用いることにより、SAPEによる検出に際して表面を塞ぐ必要はもはやなくなる。
【0145】
蛍光接触の測定は下記に従って行われる。
1) ZIP6プローブのビオチン化された相補形を用いたハイブリダイゼーション後に測定する。
2) 次いで、ZIP9のビオチン化された相補形を用いて測定する。及び
3) 最後に、ハイブリダイゼーション溶液中に同時に存在する2つの相補形を用いて測定する。
これら3つの工程を順次実施する。最初の検出後、0.2M水酸化ナトリウムを1分間処理して表面を変性させる。水酸化ナトリウムの作用により水素結合が壊され、二重らせん構造の保持が確保され、かつグラフト結合されたプローブらせん構造だけが離れる表面放出が可能とされる。該表面は次いで大量の水で洗滌され、次いで溶液中の2番目の標的らせん構造を用いて新たな検出を実施する前に緩衝液(PBS)で洗滌される。
【0146】
らせん構造相補形をZIP6プローブへ加えることにより(工程1)、該相補形に関わるZIP6プローブを担持するスポットだけが明るくなる。特異的スポットと非特異的スポット(スボットZIP9)との間において得られた蛍光コントラストは8のオーダーである。このコントラストはハイブリダイゼーションされた領域と非修飾領域との間で計算されたコントラストと同一である。
【0147】
変性及び洗滌の後、前記ZIP9らせん構造に対する標的相補形を(ZIP6相補形の欠如下で)ハイブリダイゼーション溶液中へ注入した(工程2)。ZIP9スポットだけが同様な蛍光コントラストを伴って照らし出された。
【0148】
最後に、変性及び洗滌後、前記2つの標的を前記ハイブリダイゼーション溶液中へ同時に注入した(工程3)。検出時、前記2つのスポットは同様な蛍光コントラストを伴って照らし出された。
【0149】
この実験により、第一にグラフティングの安定性(3つのハイブリダイゼーション・変性サイクルに亘って蛍光ロスが無い)が示され、また第二に同一基板上において生体データを優れた空間的最少識別距離をもって多重化する可能性が示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)表面上に少なくとも1個の水素原子を担持するsp混成軌道炭素原子、シリコン原子及び又はゲルマニウム原子を含む材料を供給する工程、及び
b)工程a)において供給された材料を溶媒中において、少なくとも1個の未プロトン化状態のアミン官能基化合物(C)と接触させて前記材料上へ前記化合物(C)をグラフト結合させる工程、から成るグラフト結合材料の作製方法。
【請求項2】
前記工程b)が酸素の存在下で実施されることを特徴とする請求項1項記載の方法。
【請求項3】
前記工程b)が水の存在下で実施されることを特徴とする請求項1項または2項記載の方法。
【請求項4】
前記材料に、炭素、シリコン、ゲルマニウム、及びそれらの混合物から選択されるいずれかの元素から成る少なくとも1層の表面層が含まれることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記工程a)において供給される材料が、表面に、当初未水素化であるか、あるいは完全には水素化されていないsp混成軌道炭素原子、シリコン原子、及び又はゲルマニウム原子が含まれる開始材料の水素化工程からの由来物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記工程a)において供給される材料が、表面に、当初未水素化であるか、あるいは部分的に水素化されていないダイヤモンド、シリコン、又はゲルマニウムが含まれる開始材料のHプラズマによる水素化工程からの由来物であることを特徴とする請求項5項記載の方法。
【請求項7】
前記工程a)において供給される材料が、表面に、当初未水素化であるか、あるいは部分的に水素化されていないシリコン、又はゲルマニウムが含まれる開始材料のフッ化水素酸処理による水素化工程からの由来物であることを特徴とする請求項5項記載の方法。
【請求項8】
前記材料が、その表面に合成ダイヤモンド、好ましくは例えば蒸着成長法(CVD)の成長装置から出てきた合成されたばかりの合成ダイヤモンドを含む材料であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記アミン官能基が一級または二級アミン、好ましくは一級アミンであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
アミン官能基を担持する化合物(C)が、金属錯体、生物無機錯体、有機または生物有機または有機無機レドックス化合物、蛍光体、発色団、あるいはデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、タンパク質、ペプチド、酵素、抗体、炭水化物等のエネルギー移動体の意味において活性分子となることができる官能性分子であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記化合物(C)のグラフティングが、表面の所定部分上において局所限定方式で実施されることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
請求項11項記載の方法を用いて得ることができるグラフト結合材料。
【請求項13】
バイオセンサ、バイオチップ、エレクトロニクス、オプトエレクトロニクス、分子エレクトロニクス、バイオエレクトロニクス、環境、摩擦学、光電変換工学及び生物医学用の部品を作製するための請求項12項記載のグラフト結合材料の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−531381(P2012−531381A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519037(P2012−519037)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051399
【国際公開番号】WO2011/001123
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(512003744)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE (C.N.R.S)
【出願人】(512003755)ユニベルシテ ヨセフ フーリエ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE JOSEPH FOURIER
【Fターム(参考)】