説明

コリネバクテリウム属の微生物中で複製可能なDNA、形質転換微生物、シャトルベクタ―およびパントテン酸の製法

【課題】 コリネ型のバクテリアを用いてD−パントテン酸を発酵的に製造するための改善された方法の提供。
【解決手段】 a)特定の塩基配列のpanB−遺伝子(ケトパントエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ)をコードし、b)特定の塩基配列のpanC−遺伝子(パントテネートシンテターゼ)、特にpanBC−オペロンをコードし、かつ場合によりc)特定の塩基配列のilvD−遺伝子(ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ)をコードする群から選択された、ヌクレオチド配列を少なくとも1つ有する、コリネバクテリウム由来の、場合により組み換えられた、コリネバクテリウム属の微生物中で複製可能なDNA、および前記遺伝子が強化されたコリネバクテリウム属の微生物を使用するD−パントテン酸の発酵的製法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】パントテン酸は化粧品、医薬品、栄養食品及び動物飼料中に使用される商業的に重要なビタミンである。
【0002】
【従来の技術】パントテン酸は化学合成又は適当な培養液中での適当な微生物の発酵により生物工学的に製造することができる。微生物による生物工学的製造の利点は、パントテン酸の所望の立体異性体D−形の形成にある。
【0003】バクテリア、例えばEscherichia coli(E.コリ)、Corynebacterium erythrogenes、Brevibacterium ammoniagenes及び酵母、例えばDebaromycescastelliiの多様な種類は、欧州特許出願公開第0493060号明細書に示されたように、グルコース、DL−パントイン酸及びβ−アラニンを含有する培養液中でD−パントテン酸を産生することができる。欧州特許出願公開第0493060号明細書は、さらに、E.コリにおいて、プラスミドpFV3及びpFV5によるパントテン酸−生合成遺伝子の増幅により、D−パントテン酸の生成が改善されることを示している。
【0004】欧州特許出願公開第0590857号明細書は、多様な代謝拮抗物、例えばサリチル酸、α−ケト酪酸、β−ヒドロキシアスパラギン酸等に対して耐性を有し、グルコース及びβ−アラニンを含有する培養液中でD−パントイン酸およびD−パントテン酸を産生するE.コリ株に関する。欧州特許出願公開0590857号明細書中では、さらに、プラスミドpFV31上に含まれる正確には特定されていない、E.コリからのパントテン酸−生合成遺伝子の増幅により、E.コリの株中で、D−パントイン酸およびD−パントテン酸の産生が改善されることを示している。
【0005】WO97/10340中では、さらにE.コリのパントテン酸を形成する突然変異体中で、酵素のアセトヒドロキシ酸−シンターゼIIの活性の向上により、バリン−生合成の酵素、パントテン酸−産生をさらに高めることができることを記載している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、コリネ型のバクテリアを用いてD−パントテン酸を発酵的に製造するための改善された方法のための新規な基礎を見出すことである。
【0007】
【課題を解決するための手段】ビタミンのパントテン酸は、化粧品、医薬品、栄養食品及び動物飼料中に使用される商業的に重要な生成物である。従って、パントテン酸の改善された製造方法を提供するという一般的興味が生じる。
【0008】以後、D−パントテン酸又はパントテン酸又はパントテネートに言及する場合、遊離酸だけでなくD−パントテン酸の塩、例えばカルシウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩又はカリウム塩をも意味するものとする。
【0009】本発明の対象は、a)配列番号1に示した、panB−遺伝子(ケトパントエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ)をコードし、b)配列番号1に示した、panC−遺伝子(パントテネートシンテターゼ)、特にpanBC−オペロンをコードし、かつ場合によりc)配列番号4により示されるilvD−遺伝子(ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ)をコードする群から選択された、前記のヌクレオチド配列を少なくとも1つ有する、コリネバクテリウム由来の、場合により組み換えられた、コリネバクテリウム属の微生物中で複製可能なDNAである。
【0010】更に、本発明の対象は、(i)配列番号1、配列番号4中に示されたヌクレオチド配列、(ii)遺伝学的コードの同義性の範囲内でそれぞれの配列(i)に相当する、配列の少なくとも1つ、または(iii)それぞれ配列(i)または(ii)に相補性の配列とハイブリッド形成する配列の少なくとも1つ、および場合により(iiii)(i)において機能的に中立のセンス突然変異、を有する請求項1記載の複製可能なDNAである。
【0011】同様に、1個以上の複製可能なDNA−片の導入により形質転換した、コリネ型微生物、特にコリネバクテリウム属の微生物を請求している。
【0012】本発明の対象は、D−パントテン酸の製法でもあり、特にこの酸をすでに生産するコリネ型バクテリアの使用下での製法であり、このバクテリアにおいては遺伝子panBおよびpanCは単独または相互に組み合わされて、場合によりilvA−遺伝子中での欠失または遺伝子ilvBN、ilvCまたはilvDの強化と組み合わされて強化され、特に過剰発現される。
【0013】「強化」の概念は、本願明細書において、遺伝子のコピー数を高めるか、強いプロモータを使用するか又は高い比活性を有する相当する酵素をコードする遺伝子を使用することにより、及び場合によりこれらの手法を組み合わせることにより、微生物中で相当するDNAによりコードされる1種以上の酵素の細胞内活性を高めることを意味する。
【0014】本発明の対象である微生物は、グルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、糖蜜、デンプン、セルロースから又はグリセリンとエタノールとから、特にグルコース又はサッカロースからパントテン酸を製造できる。これはコリネ型バクテリアであり、特にコリネバクテリウム属またはアルトロバクター属のものである。コリネバクテリウム属においては特にCorynebacterium glutamicumの種類が挙げられ、これはこの専門分野においてそのアミノ酸を産生する能力が公知である。この種に属する野生型株には、例えば Corynebacterium glutamicum(C.グルタミクム) ATCC13032、Brevibacterium flavum ATCC14067、Corynebacterium melassecola ATCC17965及びこれらから誘導された菌株が挙げられる。
【0015】酵素ケトパントエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼおよびパントテネートシンターゼをコードする、Corynebacterium glutamicumからの、新規に単離されたD−パントテネート生合成遺伝子panBおよびpanC単独または一緒(panBC−オペロン)の強化、特に過剰発現により改善された方法でD−パントテネートが生産されることが判明した。
【0016】更に、酵素ジヒドロキシ酸デヒドラターゼをコードするCorynebacterium glutamicumからの新規バリン生合成遺伝子の強化された発現がD−パントテネートの形成の上昇をもたらすことが確認された。本発明により、この遺伝子の他に、酵素アセトヒドロキシ酸シンテターゼをコードするilvBN遺伝子および酵素イソメロレダクターゼ(Isomeroreduktase)をコードするilvC−遺伝子の強化された発現もCorynebacterium glutamicum中でのD−パントテネート形成を上昇させる。
【0017】強化(過剰発現)の達成のために、例えば相応する遺伝子のコピー数を高めるか、又は構造遺伝子の上流に存在するプロモーター領域及びレギュレーション領域を突然変異させる。同様に、構造遺伝子の上流に組み込まれた発現カセットが作用する。誘導可能なプロモーターにより、付加的に発酵によるパントテネート形成の過程において発現を向上させることができる。m−RNAの寿命を延長させる手段によっても同様に発現を改善できる。さらに酵素タンパク質の分解を阻害することによっても同様に酵素活性が強化される。遺伝子又は遺伝子構造は異なるコピー数を有するプラスミド中に存在するか又は染色体中に組み込まれ、増幅され得る。また、さらに該当する遺伝子の過剰発現は、培地組成の変更及び培養操作の変更により達成することができる。これについての手引は、当業者には特にMartin et al.(Bio/Technology 5,137-146(1987)),Guerrero et al.(Gene 138,35-41(1994)),Tsuthiya and Morinaga(Bio/Technology 6,428-430(1988)),Eikmanns et al.(Gene 102,93-98(1991)),ヨーロッパ特許明細書EPS 0472869,米国特許4601893,Schwarzer und Puehler(Bio/Technology 9,84-87(1991)),Reinscheidet al.(Applied and Environmental Microbiology 60,126-132(1994)),LaBarreet al.(Journal of Bacteriology 175,1001-1007(1993)),特許出願 WO96/15246,Jensen und Hammer(Biotechnology and Bioengineering 58,191-195(1998))またはハンドブック(Manual of Methods for General Bacteriology der American Society for Bacteeriology(Washington D.C.,USA,1981))及び遺伝学及び分子生物学の公知の教書に見ることができる。
【0018】C.グルタミクムからのpanBおよびpanCの単離のために、まずE.コリ中に微生物の遺伝子ライブラリーを作成する。遺伝子ライブラリーの作成は一般に公知の教書及びハンドブックにおいて記載されている。例として、Winnackerの教書:Gene und Klone, Eine Einfuehrung in die Gentechnologie (Verlag Chemie, Weinheim, Deutschland, 1990)又はSambrook et al.の教書:MolecularCloning, A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)が挙げられる。公知の遺伝子ライブラリーは、Kohara et al. (Cell 50, 495-508 (1987))によるλ−ベクター中に作成されたE.コリ K−12株W3110の遺伝子ライブラリーである。Bathe et al. (Molecular and General Genetics, 252:255-265, 1996)はC.グルタミクム ATCC13032の遺伝子ライブラリを記載しており、この遺伝子ライブラリーはコスミドベクターSuperCos I(Wahl et al., 1987, Proceedings of the National Academy of Sciences USA, 84:2160-2164)を用いてE.coli株K−12 NM554(Raleigh et al., 1988, Nucleic Acids Research 16:1563-1575)中で作成された。E.コリ中のC.グルタミクムの遺伝子ライブラリーの製造は、pBR322(Bolivar, Life Sciences, 25, 807-818 (1979))又はpUC9(Vieria et al., 1982, Gene, 19:259-268)のようなプラスミドも使用することができる。宿主として特に制限欠失(restriktionsdefekt)及び組換え欠失(rekombinationsdefekt)であるようなE.コリ株が適している。これについての例は、Grant et al. (Proceedings of the National Academy of Sciences USA, 87 (1990) 4645-4649)に記載された株DH5αmcrである。
【0019】この遺伝子ライブラリーは引き続き指示株中へ形質転換(Hanahan, Journal of Molecular Biology 166, 577-580, 1983)又はエレクトロポレーション(Tauch et. al., 1994, FEMS Microbiological Letters, 123:343-347)によって導入することができる。この指示株は、検出可能な表現型、例えば栄養要求性を生じさせる重要な遺伝子中に突然変異を有することにおいて優れている。この指示株もしくは突然変異体は公共の供給機関または寄託機関から入手可能であるか、または場合により自ら製造することができる。本発明の範囲内で、panC遺伝子中に突然変異を有するE.コリ突然変異体DV39(Vallari and Rock, Journal of Bacteriology 1985, 164:136-142)が特に重要である。パントテン酸要求性E.コリ突然変異体に関する他の例は、panB遺伝子中に突然変異を有し、イール大学のGenetic Stock Center(New Haven、Connecticut、USA 在)から取り寄せることができる菌株SJ2である。更なる例は、本発明において単離されたC.グルタミクム突然変異体R127/7であり、これはジヒドロキシ酸デヒドラターゼをコードするilvD−遺伝子中で欠失している。指示株、例えばpanB−突然変異体SJ2を、重要な遺伝子、例えばpanB−遺伝子を有する組換えプラスミドで形質転換し、該当する遺伝子を発現させることにより、この指示株は相応する特性、例えばパントテン酸−要求性に関して原栄養体となる。
【0020】このように単離された遺伝子もしくはDNA−フラグメントは、例えばSangeret al. (Proceedings of the National of Sciences of the United States ofAmerica USA, 74:5463-5467, 1977)に記載されたように配列決定により特性決定された。
【0021】このようにC.グルタミクムの遺伝子panBおよびpanCをコードする新規のDNA−配列が得られ、この配列は配列番号1として本発明の構成要素である。さらに、本発明のDNA−配列から上記記載の方法を用いて相応する酵素のアミノ酸配列が誘導された。配列番号2中では得られたpanB−遺伝子産物の、すなわちケトパントエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼのアミノ酸配列、および配列番号3中では得られたpanC−遺伝子産物の、すなわちパントテネートシンターゼのアミノ酸配列が示されている。更に、C.グルタミクムのilvD−遺伝子をコードする新規DNA配列が得られ、これは配列番号4として、本発明の構成要素である。配列番号5中には得られたilvD−遺伝子産物の、すなわちジヒドロキシ酸デヒドラターゼのアミノ酸配列が示されている。
【0022】配列番号1および/または配列番号4から遺伝子コードの同義性(Degeneriertheit)により生じた、コードするDNA−配列も同様に本発明の構成要素である。同様に、配列番号1および/または配列番号4とハイブリダイズするDNA−配列も本発明の構成要素である。この専門分野において、さらにタンパク質中での同類アミノ酸置換(konservative Aminosaeureaustausch)、例えばグリシンのアラニンによる置換又はアスパラギン酸のグルタミン酸による置換は「センス突然変異」(sense mutations; Sinnmutationen)として公知であり、このセンス突然変異はタンパク質の活性の根本的な変更を引き起こさない、つまり機能的に中立である。さらに、タンパク質のN−及び/又はC−末端での変更はその機能に本質的に影響を及ぼさないか、それどころか安定化することもできることは公知である。
【0023】これについての情報は、当業者は特にBen-Bassat et al. (Journal of Bacteriology 169:751-757 (1987)), O'Regan et al. (Gene 77:237-251 (1989)), Sahin-Toth et al. (Protein Sciences 3:240-247 (1988)) 及び遺伝学及び分子生物学の公知の教書に見ることができる。同様にして、配列番号2、配列番号3および/または配列番号5から同様な方法で得られたアミノ酸配列も同様に本発明の構成要素である。
【0024】このように特徴付けられた遺伝子は、引き続き個々に又は他のものと組み合わせて適当な微生物中で発現させることができる。遺伝子を発現させるもしくは過剰発現させる公知の方法は、さらに発現シグナルを設置することができるプラスミドベクターを用いて増幅することである。プラスミドベクターとして、相応する微生物中で複製可能なものが挙げられる。C.グルタミクムのためには、例えばベクターpEKEx1(Eikmanns et al.,Gene 102:93-98(1991))またはpZ8−1(ヨーロッパ特許0375889号明細書)またはpEKEx2(Eikmanns et al.Microbiology 140:1817-1828(1994))またはpECM2(Jaeger et al.Journal of Bacteriology 174(16):5462-5465(1992))が挙げられる。この種のプラスミドの例は、菌株DH5αmcr/pEKEx2panBCおよびDH5αmcr/pECM3ilvBNCD中に含有されているpEKEx2panBCおよびpECM3ilvBNCDである。プラスミドpEKEx2panBCは遺伝子panBおよびpanCを有するE.コリ/C.グルタミクムシャトルベクターであり、プラスミドpECM3ilvBNCDはilvD遺伝子の他に、ilvBNおよびilvCを有するE.コリ/C.グルタミクムシャトルベクターである。
【0025】更に、遺伝子panBおよびpanC単独の、一緒のまたは遺伝子ilvBN、ilvCおよびilvDと組み合わせての強化はアミノ酸トレオニンおよびイソロイシンの合成の減少した微生物中で有利に作用する。合成の減少は、相当する生合成酵素またはその活性を弱めるかまたは排除することにより達せられる。この例としては、酵素ホモセリンデヒドロゲナーゼ、ホモセリンキナーゼ、トレオニンシンターゼまたはトレオニンデヒドラターゼを挙げることができる。酵素およびその活性を弱くするか、または排除する可能性は、突然変異誘発法である。
【0026】この方法には、化学試薬、例えばN−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジンまたはUV−照射を突然変異誘発に使用し、引き続きL−トレオニンまたはL−イソロイシンに対する要求性を示す所望の微生物を探す、ランダムな方法が属する。突然変異誘発法および突然変異体探索法は一般に公知であり、特にミラー(Miller:A Short Course in Bacterial Genetics,A Laboratory Manual and Handbook for Escherichia coli and Related Bacteria(Cold Spring HarborLaboratory Press,1992))により、またはハンドブック"Manual of Methods forGeneral Bacteriology", American Society for Bacteriology (Washington D.C., USA, 1981)に記載されている。
【0027】更に、目標を定めた組換えDNA−技術もこれに属する。この方法を用いて、例えばトレオニンデヒドラターゼをコードするilvA−遺伝子を染色体中で欠失させることができる。このための好適な方法はシェーファー等(Schaefer etal.:Gene(1994)145:69-73)またはリンク等(Link et al.:Journal of Bacteriology(1998)179:6228-6237)により記載されている。遺伝子の一部のみを欠失することもできるし、またはトレオニンデヒドラターゼ遺伝子の突然変異フラグメントを交換することもできる。欠失または交換によりトレオニンデヒドラターゼ活性の消失または減少が達せられる(Moeckel et al.,(1994) Molecular Microbiology 13:833-842;Morbach et al.,(1996) Applied Microbiology and Biotechnology 45:612-620)。この種の突然変異体の例は、ilvA−遺伝子中に欠失を有するC.グルタミクム株ATCC13032ΔilvAである。
【0028】本発明により製造された微生物は、連続的に又は不連続的に、バッチ法(Satzkultivierung)又はフィードバッチ法(fed batch; Zulaufverfahren)又は繰り返しフィードバッチ法(repeated fed batch;repetitives Zulaufverfahren)でパントテン酸−産生の目的で培養することができる。公知の培養法に関する概要はChmiel (Bioprozesstechnik 1. Einfuehrung in die Bioverfahrenstechnik (Gustav Fischer Verlag, Stuttgart, 1991))の教書又はStorhas (Bioreaktorenund periphere Einrichtungen (Vieweg Verlag, Braunschweig/Wiesbaden, 1994))の教書に記載されている。
【0029】使用すべき培養基は適当な手法でそれぞれの微生物の要求を満たさなければならない。多様な微生物の培養基の記載は、ハンドブック"Manual of Methods forGeneral Bacteriology", American Society for Bacteriology (Washington D.C., USA, 1981)になされている。炭素源として、糖及び炭水化物、例えばグルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、糖蜜、デンプン及びセルロース、油及び脂肪、例えば大豆油、ヒマワリ油、落花生油及びココナッツ脂肪、脂肪酸、例えばパルミチン酸、ステアリン酸及びリノール酸、アルコール、例えばグリセリン及びエタノール及び有機酸、例えば酢酸が使用される。この材料は単独で又は混合物として使用することができる。窒素源として、有機窒素含有化合物、例えばペプトン、酵母抽出物、肉抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ膨潤水、ダイズ粉及び尿素又は無機化合物、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムが使用される。この窒素源は個々に又は混合物として使用することができる。リン源として、リン酸、リン酸二水素カリウム又はリン酸水素二カリウム又は相応するナトリウム含有塩を使用することができる。この培養基は、さらに成長に必要な金属塩、例えば硫酸マグネシウム又は硫酸鉄を含有しなければならない。最後に、必須の成長物質、例えばアミノ酸及びビタミンを前記の物質に対して付加的に使用することができる。この培養基に更にパントテン酸生産をより上昇するためにパントテン酸の前駆体、例えばアスパルテート、β−アラニン;ケトイソバレレート、ケトパントエート、パントエート及び場合によりこれらの塩を添加することができる。前記の添加物質は培養へ1回のバッチの形で添加するか、又は適当な手法で培養の間に供給することができる。
【0030】培地のpH−コントロールのために、塩基性化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、又は酸性化合物、例えばリン酸又は硫酸が適当な手法で使用される。泡形成を制御するために、消泡剤、例えば脂肪酸ポリグリコールエステルを使用することができる。プラスミドの安定を維持するために、培地に適当な選択作用する物質、例えば抗生物質を添加することができる。好気性条件を維持するために、酸素又は酸素含有ガス混合物、例えば空気を培地中へ導入する。培地の温度は通常20℃〜50℃、有利に25℃〜45℃である。パントテン酸の最大量が生成されるまで培養は継続される。この目的は通常10時間〜160時間の間に達成される。
【0031】生成されたパントテン酸の濃度は、公知の方法(Velisek; Chromatographic Science 60, 515-560 (1992))で測定することができる。パテント酸の微生物学的測定は慣用法で、菌株Lactobacillus plantarum ATCC8014を使用する(米国薬局方1980;AOAC International 1980)。更に、他の試験微生物、例えばPediococcus acidilactici NCIB6990をパントテネート濃度の微生物学的測定のために使用する(Sollberg and Hegna;Methods in Enzymology 62,201-204(1979))。
【0032】次の微生物をブタペスト条約に従ってDeutsche Sammlung fuer Mikrorganismen und Zellkulturen (DSMZ, Braunschweig, Deutschland)に寄託した:E.コリK12株 DH5αmcr/pEKEx2panBCをDSM12456として、E.コリK12株 DH5αmcr/pECM3ilvBNCDをDSM12457として、C.グルタミクムATCC13032ΔilvAをDSM12455として。
【0033】
【実施例】本発明を次に実施例につき詳説する。
【0034】例1C.グルタミクムからのパントテネート生合成の遺伝子panBおよびPanCのクローニングおよび配列決定および発現1. panB−遺伝子およびpanC−遺伝子のクローニングC.グルタミクム ATCC 13032からの染色体DNAを、SchwarzerおよびPuehler (Bio/Technology 9 (1990)84-87)に記載されたように単離し、制限エンドヌクレアーゼSau3Aを用いて切断した。ゲル電気泳動による分離の後、3〜7kbもしくは9〜20kbのサイズ領域のDNAフラグメントを抽出し、次いでベクターpBR322の一本鎖のBamHI切断部位中へ連結させた。この連結配合物を用いてE.コリ株DH5αmcr(Grant et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of AmericaUSA, 87 (1990),4645-4649)を形質転換した(Hanahan, Journal of MolecularBiology 166 (1983) 557-580)。インサートを有するクローンをそのテトラサイクリン感度に基づき、テトラサイクリン10μg/mlを含有するLB−寒天プレート上に接種することにより同定した。合わせたクローンのプラスミド調製(Sambrook et al., Molecular cloning. A laboratory manual (1989) Cold Spring Harbour Laboratory Press)により、9〜20kbのインサートサイズを有するそれぞれ400のプラスミド8グループ、3〜7kbのインサートサイズを有するそれぞれ500のプラスミドを有する9グループを単離した。E.コリのpanB突然変異体SJ2(Cronan et al. 1982, Journal of Bacteriology 149: 916-922)をこの遺伝子ライブラリーでエレクトロポレーション(Wehrmann et al. 1994, Microbiology 140: 3349-3356)により形質転換した。この形質転換配合物を、寒天15g/lを有するCGXII−培地(Keilhauer et al., Journal of Bacteriology (1993) 175: 5595-5603)上で直接平板培養した。パントテネート補足なしで成長できるクローンからプラスミド−DNAを単離した(Sambrook et al., Molecular cloning. A laboratory manual (1989) Cold Spring Harbour Laboratory Press)。8つのプラスミドにおいて、再形質転換により、E.コリ突然変異体SJ2のpanB−欠失を非相同的に相補する能力が確認された。
【0035】この8つのプラスミドを用いて制限地図作成を実施した。調査したプラスミドベクターの1つ(以後pUR1とする)は9.3kbのインサートを有していた(図1)。E.コリのpanC突然変異体DV39(Vallari and Rock 1985, Journal of Bacteriology 164: 136-142)の形質転換は、ベクターpUR1が同様にこの突然変異体のpanC欠失を相補することができることを示した。
【0036】2. panB−遺伝子およびpanC−遺伝子の配列決定pUR1のインサート(図1)の2.2kbのサイズのフラグメントを、 Sanger et al. (Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America USA, (1977) 74:5463-5467,)のジデオキシ−鎖中断−法により配列決定した。このために、まずエキソヌクレアーゼIIIを用いてサブクローンを製造し、これを標準プライマー(Universal and reverse primer, Boehringer Mannheim社, Deutschland)を用いて配列決定した。配列決定物のゲル電気泳動分析を、Amersham Pharmacia Biotech (Uppsala, Schweden)の自動的レーザ−蛍光−シークエンサー装置(A.L.F.)を用いて行った。得られたヌクレオチド配列を、プログラムパケットHUSAR(Release 4.0, EMBL, Cambrige, GB)を用いて分析した。このヌクレオチド配列を配列番号1として記載した。この分析により2つのオープンリードフレームの同定が示された。813bpの長さの第1のオープンリードフレームはpanB−遺伝子として同定され、これは271個のアミノ酸のポリペプチドをコードし、配列番号2として記載されている。第2のオープンリードフレームはpanC−遺伝子として同定され、837個の塩基対を有する。これは279個のアミノ酸のポリペプチドをコードし、配列番号3として記載されている。
【0037】3. panB−遺伝子およびpanC−遺伝子の発現遺伝子panBおよびpanCをC.グルタミクム発現ベクターpEKEx2中でクローニングした(Eikmanns et al.,1994,Microbiology 140:1817-1828(1994))、この中でこれら両方の遺伝子は強力な、IPTGにより誘発可能なtac−プロモータの制御下に存在している。このクローニングを2工程で実施した。最初にPCRによりpanB遺伝子の開始部分を増幅した。このためにはpanBの開始コドンの前に相応するプライマー19bpを用いてSalI−切断位を導入した(プライマー1:5′GATCGTCGACCATCACATCTATACTCATGCCC3′)。第2のプライマーを、panBが内部EcoRI切断位を増幅したフラグメント中に有しているように選択した(プライマー2:5′ACCCGATGTGGCCGACAACC3′)。このPCRをアニーリング温度62℃およびプラスミドpUR1をマトリックスとして用いて、Sambrook et al. (Molecular Cloning: A laboratory Manual, Cold Spring HarborLaboratory Press(1989))に記載されているように実施した。得られた468bpサイズのPCR−生成物を制限エンドヌクレアーゼSalIおよびEcoRIで切断し、同様に処理したベクターpEKEx2中に連結した。連結配合物でE.コリ株DH5αmcrを形質転換した。タイプDH5αmcr/pEKEx2panB′の形質転換体からベクターpEKEx2panB′を単離した。
【0038】このプラスミドpUR1からpanBC−クラスターの第二の半分を有する1761bpサイズのEcoRIフラグメントを制限消化により切り離した。これをpanBのPCR−生成物を含有する、予めEcoRIで線状にされたpEKEx2panB′ベクター中でクローニングした。相応する連結配合物でE.コリ菌株DH5αmcrを形質転換した。タイプDH5αmcr/pEKEx2panBCの形質転換体から、panBC−クラスターがtac−プロモータの制御下にあるベクターpEKEx2panBC(図2)を単離した。
【0039】例2C.グルタミクムからのジヒドロキシ酸デヒドラターゼをコードするilvD−遺伝子のクローニングおよび配列決定1. C.グルタミクムのilvD突然変異体の単離菌株C.グルタミクムR127(Haynes 1989,FEMS Microbiology Letters 61:329-334)をN−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジンで突然変異させた(Sambrook et al. Molecular cloning: A laboratory manual, (1989) ColdSpring Harbor Laboratory Press)。このためには一夜培養したC.グルタミクム培養物5mlにN−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(5mg/mlジメチルホルムアミド)250μlを加え、30℃および200rpmで30分間インキュベートした(Adelberg 1958,Journal of Bacteriology 76:326)。引き続き、細胞を滅菌NaCl溶液(0.9%)で2回洗浄した。寒天15g/lを有する最少培地プレートCGXII上でレプリカ平板法を実施することにより(Keilhauer et al.:Journal of Bacteriology 175:5595-5603)、L−バリン、L−イソロイシンおよびL−ロイシンの添加(それぞれ0.1g/l)においてのみ成長する突然変異体を単離した。
【0040】ジヒドロキシ酸デヒドラターゼの酵素活性を、この突然変異体の粗抽出物中で測定した。このためにはこのクローンをLB−培地60ml中で培養し、指数増殖期に遠心分離した。細胞ペレットを0.05Mリン酸カリウム緩衝液で1回洗浄し、同じ緩衝液中に再懸濁させた。細胞の砕解は10分間の超音波処理(Branson-Sonifier W-250,Branson Sonic Power Co,Danbury,USA)により実施した。引き続き、細胞砕片を13000rpmおよび4℃で30分間遠心分離することにより分離し、上澄みを粗抽出物として、酵素テストに使用した。酵素テストの反応配合物は0.25Mトリス/HCl、pH8 0.2ml、粗抽出物0.05ml、および65mMα,β−ジヒドロキシ−β−メチルバレエート0.15mlを含有する。このテスト配合物を30℃でインキュベーションし、10、20および30分後に試料200μlを採取し、そのケトメチルバレエートの濃度をHPLC−分析により測定した(Hara et al. 1985,Analytica Chimica Acta 172:167-173)。表1が示すように、菌株R127/7はジヒドロキシ酸デヒドラターゼ活性を全く示さず、これに対してイソメロレダクターゼおよびアセトヒドロキシ酸シンターゼ活性がその他の分枝鎖アミノ酸の合成の酵素としてなお存在する。
【0041】表1C.グルタミクム株中の種々の酵素の比活性(μmol/分およびmg蛋白質)
【0042】
【表1】


【0043】2. C.グルタミクムのilvD−遺伝子のクローニングC.グルタミクム R127からの染色体DNAを、SchwarzerおよびPuehler(Bio/Technology 9 (1990)84-87)に記載されたように単離した。これを制限酵素Sau3A(Boehringer Mannheim)を用いて切断し、ショ糖濃度勾配遠心分離(Sambrook et al. Molecular cloning: A laboratory manual, (1989) ColdSpring Harbour Laboratory Press)により分離した。約6〜10kbサイズのフラグメントを有するフラクションをベクターpJC1(Cremer et al.,Molecular and General Genetics 220(1990) 478-480)との連結に使用した。このためにこのベクターpJC1をBamHIで線状にし、脱ホスホリル化した。そのうちの5ngを前記染色体DNAのフラクション20ngと連結し、これで突然変異体R127/7をエレクトロポレーション(Haynes und Britz,FEMS Microbiology Letters 61 (1989) 329-334)により形質転換した。この形質転換体を分枝鎖状アミノ酸の添加なしにCGXII寒天培地上で増殖する能力に関してテストした。試験した5000を越える形質転換体に関して、レプリカ平板法および2日間の30℃でのインキュベーションの後、最少培地プレート上に8個のクローンが増殖した。このクローンからのプラスミド調製をSchwarzer等(Bio/Technology 9 (1990)84-87)に記載されたように実施した。このプラスミド−DNAの制限分析はクローン8個の全て中で同じプラスミド、以降pRVと呼ぶ、を有することを示した。このプラスミドは4.3kbのインサートを有し、再形質転換によりそのilvD−突然変異体R127/7を相補する能力に関してこれを試験した。サブクローニングにより突然変異体R127/7の相補性に関与する領域を2.9kbのScaI/XhoIフラグメントに限定した。
【0044】3. ilvD−遺伝子の配列決定2.9kbのScaI/XhoI−フラグメントの核酸配列をザンガー(Sanger)等のジデオキシ−鎖中断−法により行った(Proceedings of the National ofSciences of the United States of America USA (1977) 74:5463-5467)。この際、オートリード配列決定キットを使用した(Amersham Pharmacia Biotech,Uppsala,Schweden)。ゲル電気泳動分析を、Amersham Pharmacia Biotech (Uppsala, Schweden)の自動的レーザ−蛍光−シークエンサー装置(A.L.F.)を用いて行った。得られたヌクレオチド配列を、プログラムパケットHUSAR(Release4.0, EMBL, Cambrige, GB)を用いて分析した。このヌクレオチド配列を配列番号4として記載した。この分析により塩基対1836個を有する1つのオープンリードフレームが得られ、これはilvD−遺伝子として同定され、612個のアミノ酸のポリペプチドをコードし、配列番号5として記載されている。
【0045】例3C.グルタミクムのilvA欠失突然変異体の作成C.グルタミクムATCC13032のilvA−遺伝子中に欠失を設けることはSchaefer等(Gene 145:69-73(1994))により記載された遺伝子交換のためのシステムで実施した。不活性化ベクターpK19mobsacBΔilvAの作成のためには最初にベクターpBM21(Moeckel et al.1994,Molecular Microbiology 13:833-842)中のEcoRI−フラグメント上に存在するilvA−遺伝子から内部BglII−フラグメント241bpを除去した。このためにはこのベクターをBglIIで切断し、ilvA内部BglII−フラグメントをアガロースゲル電気泳動により分離した後、再連結した。引き続き、ベクターからこの不完全な遺伝子をEcoRI−フラグメントとして単離し、かつEcoRIで線状にしたベクターpK19mobsacB(Schaefer 1994,Gene 145:69-73)に連結した。得られた不活性化ベクターpK19mobsacBΔilvAを形質転換によりE.コリ株S17−1中に導入し(Hanahan 1983,Journal of Molecular Biology 166:557-580)、かつ接合により、C.グルタミクムATCC13032を形質転換する(Schaefer et al.1990,Journal of Bacteriology 172:1663-1666)。C.グルタミクムのカナマイシン耐性クローンが得られ、これには不活性化ベクターがゲノム中に組み込まれて存在する。ベクターの切り出しを選択するために、カナマイシン耐性クローンをサッカロース含有LB−培地((Sambrook et al., Molecular cloning. A laboratory manual (1989) Cold SpringHarbour Laboratory Press)、寒天15g/l、グルコース2%/サッカロース10%を含有する)上で平板培養し、ベクターを第二の再組換え処理により再び失ったクローンを得た(Jaeger et al.1992,Journal of Bacteriology 174:5462-5465)。最少培地プレート(寒天15g/lを有するCGXII培地(Keilhauer et al.,Journal of Bacteriology 175(1993) 5595-5603))上に、L−イソロイシン2mMを添加してまたは添加せずに、もしくはカナマイシン50μg/mlを添加してまたは添加せずに、接種することにより、ベクターの切り出しによりカナマイシンに感受性であり、イソロイシン要求性であり、かつ不完全ilvA遺伝子(ΔilvA−対立遺伝子)がゲノム中に存在するクローン36個を単離した。これらのクローンの1つを菌株ATCC13032ΔilvAと命名し、更に使用する。
【0046】例4C.グルタミクム中での遺伝子ilvBN、ilvCおよびilvDの発現アセトヒドロキシ酸シンターゼの遺伝子(ilvBN)およびイソメロレダクターゼの遺伝子(ilvC)(Cordes et al.1992,Gene 112:113-116およびKeilhauer et al. 1993,Journal of Bacteriology 175 5595-5603)およびジヒドロキシ酸デヒドラターゼの遺伝子(ilvD)(例2)を発現のために、ベクターpECM3中でクローニングした。ベクターpECM3はpECM2の誘導体であり(Jaeger et al.1992,Journal of Bacteriology 174:5462-5465)、これはカナマイシン耐性遺伝子を有する、長さ約1kbpのBamHI/BglIIDNAフラグメントの欠失により生じる。
【0047】ベクターpKK5(Cordes et al.1992,Gene 112:113-116)中には遺伝子ilvBNCがすでにベクターpJC1(Cremer et al.1990,Molecular and General Genetics 220: 478-480)中でクローニングして存在する。これからXbaI−ilvBNC−フラグメント5.7kbを単離し、かつilvD−遺伝子を有するベクターpRVの3.1kb−XbaIフラグメントと一緒にXbaIで線状にしたベクターpECM3中に導入した。ここで、この連結配合物をE.コリ株DH5αmcr中に形質転換した。タイプDH5αmcr/pECM3ilvBNCDの形質転換体から、プラスミドpECM3ilvBNCD(図3)を得た。
【0048】エレクトロポレーション(Haynes 1989,FEMS Microbiology Letters 61: 329-334)およびクロラムフェニコール耐性に対する選択により、プラスミドpECM3ilvBNCDを菌株ATCC13032ΔilvA中に導入し、菌株ATCC13032ΔilvA/pECM3ilvBNCDが得られた。更にエレクトロポレーション(Haynes 1989,FEMS Microbiology Letters 61: 329-334)およびカナマイシン耐性に対する選択により、プラスミドpEKEx2panBCを菌株ATCC13032およびATCC13032ΔilvA中に導入し、菌株ATCC13032/pEKEx2panBCおよび菌株ATCC13032ΔilvA/pEKEx2panBCが得られた。菌株ATCC13032ΔilvA/pECM3ilvBNCD中にエレクトロポレーション(Haynes 1989,FEMS Microbiology Letters 61: 329-334)およびカナマイシンおよびクロラムフェニコールに対する選択により、プラスミドpEKEx2panBCおよびpEKEX2を導入した。このようにして、菌株ATCC13032ΔilvA/pECM3ilvBNCD pEKEX2およびATCC13032ΔilvA/pECM3ilvBNCD pEKEx2panBCが生じた。
【0049】例5C.グルタミクムのパントテン酸要求性panC−突然変異体の作成不活性化ベクターpK18mob(Schaefer et al. 1994 Gene 145:69-73)を用いて、C.グルタミクムR127panC突然変異体を製造した。
【0050】panC−不活性化ベクターの作成のために、最初にC.グルタミクムのpanC−遺伝子の168bpサイズの中央フラグメント(873bpを有する遺伝子のヌクレオチド265−432)を複製連鎖反応(PCR)を用いて増幅した。ここではマトリックスとしては、ベクターpUR1(例6参照)を使用し;プライマーとしてはプライマー1(20塩基)およびプライマー2(20塩基)を使用した:プライマー1 5′GTTCGCACCCGATGTGGAGG3′、プライマー2 5′ATGCACGATCAGGGCGCACC3′。このPCRをSambrook等(Molecular cloning. A laboratory manual (1989) Cold Spring Harbour Laboratory Press)により、アニーリング温度55℃で実施した。得られたフラグメントをベクターpUC18のSmaI切断位に中への中間クローニングした後、EcoRI/SalIフラグメントとして、方向付けて不活性ベクターpK18mob(Schaefer et al.1994,Gene 145:69-73)中に連結した。このようにして得られたベクターpK18mob′panC′をE.コリ−菌株S17−1の形質転換に使用し、引き続き接合によりC.グルタミクムR127中に導入した。カナマイシン耐性に関する選択により、組み込みベクターが相同再組換え処理によりpanC−遺伝子中に組み込まれているC.グルタミクムR127のクローンが得られた。そのように得られた菌株R127panC::pK18mob′panC′はD−パントテネート測定に好適である。
【0051】例6D−パントテネートの定量測定D−パントテネートを定量的に測定するために、その成長が培地のD−パントテネートの濃度に直接依存する、C.グルタミクム突然変異体 R127panC::pK18mob′panC′を作成した(例5参照)。この菌株は、パントテン酸要求性であり、β−アラニンおよびD−パントエートの補足では全く増殖を示さない。
【0052】この指示株を用いてパントテネートを測定するために、CGXII−培地(Keilhauer et al., Journal of Bacteriology (1993) 175: 5595-5603)をテスト培地として使用した。このためには4/3倍に濃縮したCGXII−培地3mlにそれぞれインキュベーション管(Falcon 2057,Becton and Dickinson,New Jersey,USA)中でパントテン酸含有滅菌検量溶液または試料溶液1mlを加え、かつ指示株で接種した。接種体としては指示株のグリセリン培地60μlを使用した。30℃で40時間インキュベーションした後、テスト配合物の細胞密度(OD600)(Novaspec 4049 Spectrophotometer,LKB Biochrom,Cambridge)を測定し、検量線を用いてパントテン酸濃度を調べた。この菌株は濃度25μg/lまでパントテネート濃度への増殖の直線的依存性を示し、光学密度に関しては0.5〜10であった。指示株のグリセリン培養物を製造するためには、この菌株を非補足CGXII−培地上で24時間インキュベーションした(D−パントテネートの完全飢餓)。引き続き、この培養物の1050μlにグリセリン700μlを添加した。−70℃で中間凍結したグリセリン培養物のうちの60μlをD−パントテネートの測定のために、前記のように使用した。対照として、シグマ社(Firma Sigma:Deisenhofen, Deutschland)購入可能なパントテン酸ナトリウムを使用した。
【0053】例7種々のC.グルタミクム株でのD−パントテネートの生産そのパントテネート形成を検査するために、菌株ATCC13032、ATCC13032/pEKEx2panBC、ATCC13032ΔilvAおよびATCC13032ΔilvA/pEKEx2panBCを脳・心臓注入培地(Brain Heart Infusion-Medium:Difco Laboratories,Detroit,USA)60ml中で30℃で14時間予培養した。引き続き、この細胞を0.9%NaCl−溶液(w/v)で2回洗浄し、この懸濁液をそれぞれCgXII−培地60mlで、OD600が0.5を有するように、接種した。この培地はKeilhauer等(Journal ofBacteriology(1993) 175:5595-5603)により記載された培地と同じであるが、付加的にL−イソロイシン2mMを含有する。Keilhauer等により記載された培地CgXIIを表2に記載する。
【0054】表2培地CGXIIの組成
【0055】
【表2】


【0056】菌株ATCC13032/pEKEx2panBCおよび菌株ATCC13032ΔilvA/pEKEx2panBCの培養においては、5時間後に培地に付加的にイソプロピルチオ−β−D−ガラクトシド1mMを添加した。24時間の培養後に、試料を採取し、細胞を遠心分離し、上澄みを滅菌濾紙した。上澄みのパントテネート濃度を例6に記載したパントテネートテストにより測定した。結果を表3中に記載する。
【0057】表3種々のC.グルタミクム株中でのD−パントテネート生産
【0058】
【表3】


【0059】例9β−アラニン添加において、種々のC.グルタミクム株を用いたD−パントテネートの生産パントテネートの生産の定量のために、菌株ATCC13032ΔilvA/pECM3ilvBNCD pEKEx2およびATCC13032ΔilvA/pECM3ilvBNCD pEKEx2panBCをカナマイシン25mg/lおよびクロラムフェニコール3mg/lを含有する脳・心臓注入培地(Difco Laboratories,Detroit,USA)60ml中で30℃で14時間予培養し、0.9%NaCl−溶液(w/v)で2回洗浄し、この懸濁液でそれぞれCgXII−培地60mlを、OD600が0.5を有するように、接種した。この培地はL−ロイシン2mM、カナマイシン25mg/l、クロラムフェニコール3mg/lおよびβ−アラニンを最終濃度20mMで含有する。5時間の培養の後、この培地にそれぞれIPTG(イソプロピルチオ−β−D−ガラクトシド)を最終濃度1mMで添加した。49および74時間の後、試料を採取し、細胞を遠心分離し、かつ上澄みを滅菌濾過した。上澄みのパントテネート濃度を例6に記載されているように測定した。この結果を4表に示す。
【0060】表4種々のC.グルタミクム株中でのD−パントテネートの蓄積
【0061】
【表4】


【0062】配列表(1) 書誌的事項(i) 出願人(A)名称:Degussa Aktiengesellschaft(B)番地:Weissfrauenstr. 9(C)都市:Frankfurt am Main(D)州:Hessen(E)国:Deutschland(F)郵便番号:D-60311(ii) 発明の名称:コリネバクテリウム属の微生物中で複製可能なDNA、形質転換微生物、シャトルベクターおよびパントテン酸の製法(iii) 配列の数:5(iv) コンピュータ記録方式:(A)記録媒体:フロッピーディスク(B)コンピュータ:IBM PC互換(C)オペレーションシステム:PC-DOS/MS-DOS(D)ソフトウェアー:PatentIn Release #1.0, Version #1.30 (EPA)(2) 配列番号1に関する情報:(i) 配列の特徴(A)長さ:2164塩基対(B)配列の型:ヌクレオチド(C)鎖の数:二本鎖(D)トポロジー:直鎖状(ii) 配列の種類:ゲノム−DNA(iii) ハイポセティカル:なし(iv) アンチセンス:なし(vi) 起源(A)生物名:Corynebacterium glutamicum(B)株名:ATCC13032(ix) 配列の特徴:(A)特徴を表す記号:CDS(B)存在位置:351..1163(D)他の情報:/codon_start=351/EC_number=4.1.2.12/product="ケトパントエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ"/gene="panB"(ix) 配列の特徴:(A)特徴を表す記号:CDS(B)存在位置:1166..2002(D)他の情報:/codon_start=1166/EC_number=6.3.2.1/product="パントテネートシンテターゼ"/gene="panC"(xi) 配列番号1:
【0063】
【外1】


【0064】
【外2】


【0065】
【外3】


【0066】(2) 配列番号2に関する情報:(i) 配列の特徴:(A)長さ:271アミノ酸(B)配列の型:アミノ酸(D)トポロジー:直鎖状(ii) 配列の種類:タンパク質(xi) 配列番号2:
【0067】
【外4】


【0068】(2) 配列番号3に関する情報:(i) 配列の特徴:(A)長さ:279アミノ酸(B)配列の型:アミノ酸(D)トポロジー:直鎖状(ii) 配列の種類:タンパク質(xi) 配列番号3:
【0069】
【外5】


【0070】(2) 配列番号4に関する情報:(i) 配列の特徴(A)長さ:2952塩基対(B)配列の型:ヌクレオチド(C)鎖の数:二本鎖(D)トポロジー:直鎖状(ii) 配列の種類:ゲノム−DNA(iii) ハイポセティカル:なし(iv) アンチセンス:なし(vi) 起源(A)生物名:Corynebacterium glutamicum(B)株名:ATCC13032(C)個体/単離体:突然変異体R127(ix) 配列の特徴:(A)特徴を表す記号:CDS(B)存在位置:290..2125(D)他の情報:/codon_start=290/EC_number=4.2.1.9/product="ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ"/gene="ilvD"(xi) 配列番号4:
【0071】
【外6】


【0072】
【外7】


【0073】
【外8】


【0074】(2) 配列番号5に関する情報:(i) 配列の特徴:(A)長さ:612アミノ酸(B)配列の型:アミノ酸(D)トポロジー:直鎖状(ii) 配列の種類:タンパク質(xi) 配列番号5:
【0075】
【外9】


【0076】
【外10】


【図面の簡単な説明】
【図1】pUR1の制限地図作成および配列決定したフラグメントの位置を示す図。
【図2】プラスミドpEKEx2panBCの制限地図を示す図。
【図3】プラスミドpECM3ilvBNCDの制限地図を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】a)配列番号1に示した、panB−遺伝子(ケトパントエートヒドロキシメチルトランスフェラーゼ)をコードし、b)配列番号1に示した、panC−遺伝子(パントテネートシンテターゼ)、特にpanBC−オペロンをコードし、かつ場合によりc)配列番号4により示されるilvD−遺伝子(ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ)をコードする群から選択された、ヌクレオチド配列を少なくとも1つ有する、コリネバクテリウム由来の、場合により組み換えられた、コリネバクテリウム属の微生物中で複製可能なDNA。
【請求項2】(i)配列番号1、配列番号4中に示されたヌクレオチド配列、(ii)遺伝学的コードの同義性の範囲内でそれぞれの配列(i)に相当する、配列の少なくとも1つ、または(iii)それぞれ配列(i)または(ii)に相補性の配列とハイブリッド形成する配列の少なくとも1つ、および場合により(iiii)(i)において機能的に中立のセンス突然変異、を有する、請求項1記載の複製可能なDNA。
【請求項3】 請求項1または2記載の複製可能なDNA1種以上を導入することにより形質転換した微生物、特にコリネバクテリウム属の微生物。
【請求項4】 E.コリDH5αmcr/pECM3ilvBNCDとして、DSM12457という名称で寄託された、図3に示した制限地図を有することを特徴とする、シャトルベクター pECM3ilvBNCD。
【請求項5】 E.コリDH5αmcr/pEKEx2panBCとして、DSM12456という名称で寄託された、図2に示した制限地図を有することを特徴とする、シャトルベクター pEKEx2panBC。
【請求項6】 パントテン酸を製造する方法において、コリネバクテリウム属の微生物中でpanB−遺伝子およびpanC−遺伝子および場合により相応する酵素をコードするその他のヌクレオチド配列を強化し(過剰発現させ)、かつこの微生物を発酵に使用することを特徴とする、パントテン酸の製法。
【請求項7】 付加的にilvD−遺伝子を強化する(過剰発現させる)、請求項6記載の製法。
【請求項8】 付加的に遺伝子ilvBNCDを強化する(過剰発現させる)請求項6または7記載の製法。
【請求項9】 強化を達成するために、微生物中での遺伝子もしくはヌクレオチド配列のコピー数を、該遺伝子もしくはヌクレオチド配列を有するプラスミドベクターで形質転換することにより上昇させる、請求項6または7記載の製法。
【請求項10】 強化を達成するために、構造遺伝子の上流に存在するプロモータ領域及びレギュレーション領域を突然変異させる、請求項6または7記載の製法。
【請求項11】 強化を達成するために、構造遺伝子の上流に発現カセットを組み込む、請求項6または7記載の製法。
【請求項12】 強化の達成のために、上記の配列からマトリックスとして読み取られるmRNAの寿命を延長し、および/または相応する酵素タンパク質の分解を阻害する、請求項6または7記載の製法。
【請求項13】 請求項1記載の遺伝子を、更なる代謝物質−耐性突然変異もしくは代謝拮抗物質−耐性突然変異を有するコリネバクテリウム中で過剰発現させる、請求項6から12までのいずれか1項記載の製法。
【請求項14】 過剰発現を達成するために、培養基および/または発酵操作を変更する、請求項6から12までのいずれか1項記載の製法。
【請求項15】 微生物中のパントテネート−(パントテン酸)−形成を低下させる物質代謝経路の少なくとも1つを遮断する、請求項6から14までのいずれか1項記載の製法。
【請求項16】 該遺伝子の1種以上に付加的に、パントテン酸形成の物質代謝経路のそれ以外の遺伝子を個々に又は一緒に過剰発現する微生物を使用する、請求項6から15までのいずれか1項記載の製法。
【請求項17】 物質代謝経路においてilvA−遺伝子を遮断する、請求項15記載の製法。
【請求項18】 シャトルベクターpECM3ilvBNCDを含有するコリネバクテリウム属の微生物を使用する、請求項6から17までのいずれか1項記載の製法。
【請求項19】 シャトルベクターpEKEx2panBCを含有するコリネバクテリウム属の微生物を使用する、請求項6から17までのいずれか1項記載の製法。
【請求項20】a) 少なくともpanB−遺伝子またはpanC−遺伝子の1つを、有利にはpanBC−遺伝子を、場合によりilvD−遺伝子と組み合わせて強化し(過剰発現させ)、かつb) 培地中又は微生物の細胞中でパントテン酸を富化し、c) パントテン酸を単離する、請求項1から19までのいずれか1項記載のコリネバクテリウム属の微生物の発酵によるパントテン酸の製造方法。
【請求項21】 発酵の間に、アスパルテート、β−アラニン、ケトイソバレレート、ケトパントエート又はパントエートの群から選択されるパントテン酸の前駆体を添加する、請求項19又は20記載の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2000−166580(P2000−166580A)
【公開日】平成12年6月20日(2000.6.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−342509
【出願日】平成11年12月1日(1999.12.1)
【出願人】(599020003)デグサ−ヒュルス アクチェンゲゼルシャフト (2)
【出願人】(599000142)フォルシュングスツェントルム ユーリッヒ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (8)